(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】風力発電装置
(51)【国際特許分類】
F03D 9/45 20160101AFI20230818BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
F03D9/45
F03D1/06 A
(21)【出願番号】P 2019130431
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】若林 正憲
(72)【発明者】
【氏名】武藤 香穂
(72)【発明者】
【氏名】金子 研一
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0152454(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0117368(US,A1)
【文献】特表2011-524491(JP,A)
【文献】特開2003-166462(JP,A)
【文献】特開2014-145262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に対して斜め下向きに配設された風車と、
前記風車を支持するタワー
であって、基台上に固定された鉛直方向に延びる基部と、該基部から斜め方向に屈曲または湾曲させられていて前記風車を備えた支持部と、前記基部に対する前記支持部の角度を調整可能な軸部と、を備えているタワーと、
前記基台上であって前記タワーの近傍に設けられたウェイトと、
前記軸部よりも上方の位置において、前記ウェイトと前記支持部との間に設けられていて、伸縮することによって前記支持部の傾斜角を調整可能な傾斜角調整部材と、
前記風車の回転に基づいて発電する発電機と、
を備えたことを特徴とする風力発電装置。
【請求項2】
前記基部は、前記風車が傾き過ぎるのを防止するストッパーを備える、請求項1に記載された風力発電装置。
【請求項3】
前記ストッパーは、前記軸部を中心とした前記支持部の一方側の回動を規制する第一ストッパーと、
前記軸部を中心とした前記支持部の他方側の回動を規制する第二ストッパーと、
を備える、請求項2に記載された風力発電装置。
【請求項4】
前記タワーはビルの屋上に設置されている請求項1から3のいずれか1項に記載された風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば洋上や地上、ビルの屋上等に設置されていて効率的に風力発電を行う風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生エネルギーによる発電装置が見直されている。例えば自然の風は、地上付近では弱く、上空へいくほど強くなる勾配流となっている。建物の高さがほぼ同じような市街地や住宅地では低層建物に風がさえぎられて風が弱い。一方、上空の風は強く建物の上を通り過ぎて行く。
図6に示すように、高層建物等のビルBのエリアでは、上空の強い風がビルBの一方の壁面に衝突して屋上を乗り越えて他方の壁面に降下して流れる強い風W1が発生する。また、ビルBの周囲で行き場の無くなった風がビルBの谷間を局所的に集中して吹き抜ける強風W2や、ビルBの壁面に沿って上下方向に旋回して流れる強風W3等が発生している。これらの風は、市街地や住宅地等のエリアよりも強い風或いは乱れた風となって吹き抜けており、これらをビル風という。ビル風のうち、ビルBの壁面から上昇して屋上を通り過ぎる最も強い風W1を風力発電に利用する風力発電装置が施工されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載された風力発電装置では、ビルの屋上に複数の小型の風車と発電機が間隔をおいて風向きに対向して直線状に配列されたものが提案されている。この風力発電装置は、屋上に設けた連結杆に立てた支柱に発電機を直結させた複数の風車を直立させ、複数の風車は羽根枚数をそれぞれ異ならせている。この風力発電装置では小型の風車でも風力を有効利用して発電量を増加させることができ、風切り音を種々の周波数に分散することで騒音を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、屋上を吹き抜けるビル風はビルBの側面に当接した後にビルBの角部を乗り越えて屋上を流れており、屋上では上向きの放物線を描いて流れる。これに対し、特許文献1に記載された風力発電装置では、屋上の平坦な表層面に複数の風車を垂直に且つ一列に配列しているため、上向きの放物線を描くビル風が風車に斜めに当たり風力発電に十分有効利用することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、屋上等を吹き抜ける強風を有効利用してより効率的な風力発電を達成できる風力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による風力発電装置は、鉛直方向に対して斜め下向きに配設された風車と、風車を支持するタワーと、風車の回転に基づいて発電する発電機と、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、ビル風等の風が斜め上向きや上向きの放物線状に吹き付ける場合、斜め下向きの風車によって略垂直に風を受けて効率よく回転させて発電することができる。
【0008】
また、タワーは、鉛直方向に延びる基部と、該基部から斜め方向に屈曲または湾曲させられていて風車を備えた支持部と、を備えていることが好ましい。
風車に吹き付ける風の方向に応じてタワーの基部に対する支持部の屈曲や湾曲による傾きを設定することができる。
【0009】
また、タワーの近傍に設けられたウェイトと、該ウェイト及びタワーの支持部の間に設けられていて該支持部の傾斜角を調整可能な傾斜角調整部材と、を更に備えていることが好ましい。
発電用の風は季節によってその向きが変化するため季節に応じて、或いは風の特性に応じて、傾斜角調整部材によってタワーの傾きを調整して正面から風車で風を受けて発電することができる。
【0010】
また、タワーはビルの屋上に設置されていてもよい。
ビルの屋上でビルの角部近傍に風力発電装置を設置することで、上向きの放物線を描いて吹き抜けるビル風を直角に風車で受け止めて回転させて効率的に発電することができる。
【0011】
なお、タワーを支持する基台が設けられ、基台は上面が傾斜面を有していてもよい。
この場合、タワーが屈曲していなくても上向きの風を風車で受け止めて回転させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による風力発電装置は、風車を斜め下向きに配設したため、下側から上方に吹き抜ける強風を正面に受けて風車を回転させることができるため、効率的に風力発電を行えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第一実施形態による風力発電装置の概略斜視図である。
【
図3】第二実施形態による風力発電装置の側面図である。
【
図4】タワーの基部に支持部のストッパーを設けた変形例の要部拡大図である。
【
図6】ビルに対するビル風の種類を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による風力発電装置について添付図面により説明する。
図1及び
図2は本発明の第一実施形態による風力発電装置1を示すものである。
図1に示す風力発電装置1は、ビルBの屋上2に設置されている。この風力発電装置1は、
図2に示すように、ビルBの屋上2に設置された基台3と、基台3の表面に設置されたタワー4と、タワー4の先端頂部に設置された風車5とを備えている。
この風力発電装置1はビルBの一方の側壁7と屋上2との角部8に近い位置に設置され、図に示す例では3基の風力発電装置1が角部8に沿って並列に設置されている。
【0015】
基台3は例えば鋼板で平坦な板状に形成されている。基台3の表面に設置されたタワー4は例えば鋼製であり、先細の略円錐台形状等に形成されていてその長手方向中間部で先端側が角部8側に屈曲されている。タワー4は「く」の字に屈曲され、基台3に固定された基部4aに対して長手方向中間の屈曲部4bで支持部4cがビルBの角部8側に傾斜している。
鉛直方向に起立する基部4aの延長線に対する支持部4cの傾斜角θは任意に設定できるが、一例をいえば約30°から約45°の間に設定されている。タワー4の屈曲部4bでの傾斜角θは、ビルBの角部8に対するタワー4の設置距離、タワー4の高さ、屈曲部4bの高さ等によって適宜設定できる。なお、タワー4は屈曲に代えて略円弧状に湾曲して形成されていてもよい。
【0016】
タワー4の先端部に設置された風車5は複数、例えば3枚の羽根10が所定角度間隔で配設されている。風車5はタワー4が屈曲されているためにビルBの角部8に臨む近接位置にあり、好ましくは屋上2の上面に位置している。風車5はタワー4の支持部4cに略直角に設置されている。
そのため、ビルBに吹き付けるビル風WBが側壁7に衝突して上方に流れて屋上2を通り抜ける際、角部8を乗り越えた付近で風車5に略直角に対面し、羽根10を効率的に回転させる。風車5の発電機(図示せず) はタワー4内に設置されているが、別個に屋上2等に設置されていてもよい。
【0017】
本第一実施形態による風力発電装置1は上述の構成を有しており、次に作用を説明する。上空を流れる強い風はビル風WBとなってビルBの側壁7に吹き付けた後に角部8から屋上2を上向きの放物線状に乗り越える。ビル風WBの向きは年間を通してほぼ一定であるため、予め一定期間風の向きを観測することで、タワー4及び風車5の傾斜角θを適切に設定できる。なお、タワー4の傾斜角と風車5の傾斜角は同一でも異なっていてもよい。
また、ビル風WBは、屋上2の角部8を乗り越えた付近で、風力発電装置1の傾斜配置された風車5に直角に吹き付けて各羽根10を効率的に回転させる。風車5の回転によって発電機で発電し、ビルB内の照明やその他の電力消費等に消費される。或いは、他の施設や電力会社等に供給される。
【0018】
上述したように本第一実施形態による風力発電装置1によれば、ビルBに吹き付けるビル風WBは一方の角部8から屋上2に乗り上げる際に、最も強い風が風車5に直角に吹き付けるため効率的に風車5を回転させることができる。
しかも、風力発電装置1のタワー4はビルBの屋上2の角部8側に寄った位置で角部8側に屈曲されているため、上向きの放物線状をなすビル風は風車5に垂直に吹き付けることができて効率的に風車5を回転させる。
【0019】
以上、本発明の第一実施形態による風力発電装置1について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の他の実施形態や変形例等について説明するが、上述の実施形態と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0020】
次に本発明の第二実施形態による風力発電装置1Aについて
図3及び
図4により説明する。
ビル風WBの向きや風量は季節により変動するため、季節が変わった場合にタワー4及び風車5の位置を固定したままではビル風WBを十分に受け止めて有効利用できない。本実施形態ではこのようなビル風WBの変動に対処できるようにしたものである。
図3に示す風力発電装置1Aにおいて、タワー4は基台3に固定された基部4aと風車5を備えた支持部4cとの間に屈曲部4bが配設され、この屈曲部4bには基部4aに対して支持部4cの角度を微小角度だけ調整可能な軸部12が設置されている。また、タワー4の基部4aの背面側近傍で基台3上にウェイト13を配設した。
【0021】
ウェイト13とタワー4の支持部4cとの間には油圧ジャッキ14が連結されている。油圧ジャッキ14は例えばウェイト13に油圧シリンダ14aが固定され、油圧シリンダ14a内から進退可能に設けられたロッド14bの先端がタワー4の支持部4cに連結されている。或いは、これとは逆に、タワー4の支持部4cに油圧シリンダ14aを固定し、ウェイト13にロッド14bを連結させてもよい。なお、油圧ジャッキ14の伸縮時に、油圧ジャッキ14の伸縮に応じて油圧シリンダ14a及びロッド14bが回転することを許容する。
【0022】
季節の変化に応じて、ビルBの角部8から屋上に向けて流れるビル風WBの方向の変化を予め計測しておく。そして、季節が変化した場合、油圧ジャッキ14を作動させてロッド14bを進退させてタワー4の支持部4cの傾斜角θを増減調整する。これにより、タワー4の支持部4cに設けられた風車5の傾斜角θも微調整でき、季節の変化に関わらずビル風WBが風車5に直角に当たるように調整する。なお、屋上2には油圧ジャッキ14の油圧を制御する装置(図示せず)が別途設置されていてもよい。
【0023】
なお、タワー4の支持部4cには風車5が重量や油圧ジャッキ14等で傾きすぎないようにストッパーを設けてもよい。例えば
図4において、タワー4の基部4aには軸部12を中心とした支持部4cの一方側の回動を規制する第一ストッパー16aと他方側の回動を規制する第二ストッパー16bとを備えている。これにより、風車5はその傾斜角θが増大する方向の規制と縮小する方向の規制とを行うことができる。風車5の傾斜角θの回動範囲は、季節の切り換えに応じたビル風WBの風向きの変化に応じて適宜設定できる。
また、油圧ジャッキ14に代えてエアジャッキや機械式ジャッキ等を用いてもよい。また、モータ等を用いてタワー4の支持部4cの傾斜角θを調整してもよく、これらは傾斜角調整部材に含まれる。
【0024】
本第二実施形態による風力発電装置1Aによれば、季節の変化による風向きの変化等に応じて油圧ジャッキ14によって風車5を支持するタワー4の傾斜角θを調整することができるので、より一層、ビル風WBを効率的に有効利用できる。
【0025】
図5は第一実施形態による風力発電装置1の変形例による風力発電装置1Bを示すものである。
図5において、屋上2には上面3aが傾斜面となる基台3が固定されている。この上面3aには屈曲しない直線状のタワー4が設置され、タワー4の支持部には風車5が設置されている。
本変形例では、鉛直線に対するタワー4及び風車5の傾斜角θが所定の大きさとなるように、基台3の上面3aの傾斜角θを適宜設定できる。
【0026】
また、風力発電装置1、1A、1Bでは3基を屋上2に設置したが、風力発電装置1、1A、1Bの数は更に多くても少なくても構わない。風車5の寸法も小型でも大型でも構わない。
なお、上述した各実施形態では、ビル風WBを受けて発電するビルBの屋上2に設置された風力発電装置1、1A、1Bについて説明したが、本発明による風力発電装置1、1A、1Bの設置位置はビルBの屋上2に限定されない。例えば、高台や丘陵地、山上、洋上等でも設置でき、上向きの風に対して下向きに傾斜配置された風車5によって有効に風力発電を行える。
【符号の説明】
【0027】
1、1A、1B 風力発電装置
2 屋上
3 基台
4 タワー
4a 基部
4b 屈曲部
4c 支持部
5 風車
7 側壁
8 角部
12 軸部
13 ウェイト
14 油圧ジャッキ
B ビル
WB ビル風