(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】ホログラム導光板、ヘッドマウントディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/32 20060101AFI20230818BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
G02B5/32
G02B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2019138527
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 友人
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 健
(72)【発明者】
【氏名】永沢 充
(72)【発明者】
【氏名】山川 大路
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-514048(JP,A)
【文献】特開2009-276713(JP,A)
【文献】特開2006-003872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0357090(US,A1)
【文献】特開2006-030275(JP,A)
【文献】特開平08-297457(JP,A)
【文献】特開平05-333208(JP,A)
【文献】特開昭62-032485(JP,A)
【文献】特開平06-067594(JP,A)
【文献】国際公開第2017/223167(WO,A1)
【文献】特開2000-250034(JP,A)
【文献】特表平08-507879(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0149791(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107272210(CN,A)
【文献】国際公開第17/223167(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/32
G02B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像光を眼に導光するホログラム導光板であって、
屈折率変調により前記映像光の進行方向を変換するホログラム層、
前記ホログラム層の外側に配備されたガラス層、
前記ガラス層の外側に配備され前記ホログラム層を保護する保護層、
前記ガラス層と前記保護層との間に配置された中間層、
を備え、
前記ホログラム導光板は、前記映像光が前記ホログラム導光板に対して入射する入力領域と、前記映像光が前記ホログラム導光板から出射する出力領域とを有しており、
前記ホログラム層と前記ガラス層は、前記映像光が伝搬する伝搬層を形成しており、
前記中間層は、前記映像光が前記入力領域に対して入射してから前記出力領域より出射するまでの区間では、前記伝搬層においてのみ前記映像光を伝搬させることにより、前記区間において前記映像光が
前記伝搬層から出ないようにするとともに前記保護層に対して漏れ出ないようにする
ことを特徴とするホログラム導光板。
【請求項2】
前記中間層は、屈折率が前記ガラス層よりも低いことにより、前記映像光を前記ガラス層と前記中間層との間の境界面において全反射させる
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項3】
前記境界面において前記映像光が全反射する臨界角をθ
Cとし、
前記境界面において反射された前記映像光の進行方向と、前記境界面との間の角度をθ
Fとしたとき、
前記中間層の屈折率は、θ
F<90-θ
C(度)を満たすように構成されている
ことを特徴とする請求項2記載のホログラム導光板。
【請求項4】
前記保護層は、前記映像光に対する透過率が紫外線に対する透過率よりも高い紫外線遮断層を備える
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項5】
前記保護層は、水蒸気を遮断する水蒸気遮断層を備える
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項6】
前記ホログラム導光板はさらに、前記ガラス層の側面かつ前記ホログラム層の側面の位置に配置され、水蒸気を吸収する、乾燥領域を備える
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項7】
前記ホログラム層は、外部光を通過させるとともに、前記ホログラム導光板から反射されたモニタ光を通過させる、モニタ領域を有する
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項8】
前記ホログラム導光板はさらに、前記保護層と前記中間層との間に凸レンズを備え、
前記凸レンズは、前記中間層と接する側の面が平坦であり、前記中間層の反対側の面が凸面である
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項9】
前記ホログラム導光板はさらに、水蒸気を遮断する水蒸気遮断層を備え、
前記水蒸気遮断層は、突出部を備え、
前記水蒸気遮断層は、前記ホログラム層の側面と前記ガラス層の側面を覆い、かつ前記突出部の頂面が前記ホログラム層の側面と接する位置に配置されることにより、前記ホログラム層を水蒸気から保護する
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項10】
前記中間層は、熱硬化型の樹脂によって形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項11】
前記紫外線遮断層は、少なくともSiO
2を含む多層膜によって形成されている
ことを特徴とする請求項4記載のホログラム導光板。
【請求項12】
前記水蒸気遮断層は、ポリ塩化ビニリデンを含むフィルムによって形成されている
ことを特徴とする請求項5記載のホログラム導光板。
【請求項13】
前記中間層の屈折率は、1.42以下である
ことを特徴とする請求項1記載のホログラム導光板。
【請求項14】
ユーザの頭部に装着するヘッドマウントディスプレイであって、
映像光を眼に導光するホログラム導光板を備え、
前記ホログラム導光板は、
屈折率変調により前記映像光の進行方向を変換するホログラム層、
前記ホログラム層の外側に配備されたガラス層、
前記ガラス層の外側に配備され前記ホログラム層を保護する保護層、
前記ガラス層と前記保護層との間に配置された中間層、
を備え、
前記ホログラム導光板は、前記映像光が前記ホログラム導光板に対して入射する入力領域と、前記映像光が前記ホログラム導光板から出射する出力領域とを有しており、
前記ホログラム層と前記ガラス層は、前記映像光が伝搬する伝搬層を形成しており、
前記中間層は、前記映像光が前記入力領域に対して入射してから前記出力領域より出射するまでの区間では、前記伝搬層においてのみ前記映像光を伝搬させることにより、前記区間において前記映像光が
前記伝搬層から出ないようにするとともに前記保護層に対して漏れ出ないようにし、
前記ヘッドマウントディスプレイはさらに、
前記ホログラム導光板に向かって前記映像光を導く導光プリズム、
外部光を前記導光プリズムに向かって通過させるとともに、前記導光プリズムから反射されたモニタ光を通過させる、モニタ開口、
を備える
ことを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項15】
前記導光プリズムと前記ガラス層は直接密着している
ことを特徴とする請求項14記載のヘッドマウントディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼に映像を伝達するホログラム導光板と、それを用いたヘッドマウントディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウエアラブルデバイスとしてのヘッドマウントディスプレイは、視界の一部にインターネット上のネットワーク情報が常に得られる点で様々なアプリケーションの展開が期待されている。ヘッドマウントディスプレイの視界部分において映像光を伝達する部材は、導光板などと呼ばれる。
【0003】
視界の一部に常に映像を表示するため、映像を伝達する導光板には極めて高い透明性が求められる。従来導光板としては、プリズムを用いた導光板、溝構造で回折を用いる導光板、反射ミラーアレイを用いた導光板、屈折率変調により回折を用いるホログラム導光板など多様な方式が提案されているが、特にホログラム導光板は、通常のメガネ同等の透明性が得られる技術として有望である。ホログラフィック導光板として特許文献1などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屈折率変調を実現するホログラム材料は、水蒸気や紫外線によって劣化することが知られているが、特許文献1が記載しているホログラム導光板は、水蒸気や紫外線による劣化防止については考慮されていない。そこでこれらに対してホログラム材料を保護するための保護層を設けることが考えられる。
【0006】
ホログラム導光板は、映像光を内部に閉じ込めて伝搬させる。したがって、映像光が伝搬する過程においては、映像光を伝搬層内部に閉じ込める必要がある。しかし水蒸気や紫外線を遮断する保護層をホログラム導光板の外側に設けると、映像光が伝搬する過程においてその保護層にも伝搬し、ユーザの眼に映像光が届いた時点においては映像がぼやけてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、透明性の高いホログラム導光板を紫外線と水蒸気から保護することにより、例えば屋外で使用するヘッドマウントディスプレイにおいてもホログラム導光板の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るホログラム導光板は、ホログラム層を保護する保護層を備えるとともに、ガラス層と前記保護層との間に配置された中間層を備え、前記ガラス層と前記ホログラム層は、映像光を伝搬する伝搬層を形成する。前記中間層は、前記映像光の入力領域から前記映像光の出力領域までの区間では、前記伝搬層においてのみ前記映像光を伝搬させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るホログラム導光板によれば、透明性の高いホログラム導光板を実現しつつホログラム層を水蒸気や紫外線から保護することにより、屋外でも長時間使用できるヘッドマウントディスプレイを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係るホログラム導光板1の概略図である。
【
図2】ホログラム導光板1に対してフレームを取り付けた様子を示す概略図である。
【
図4】ヘッドマウントディスプレイ62の構造を示す概略図である。
【
図5】ヘッドマウントディスプレイ62を作製するプロセスを説明するフローチャートである。
【
図6】ユーザ61がヘッドマウントディスプレイ62を装着した様子を示すイメージ図である。
【
図7】ヘッドマウントディスプレイ62のシステムブロック図である。
【
図8】ホログラム導光板1の変形例の構成を示す側断面図である。
【
図9】ホログラム導光板1を眼鏡と一体化した構成例である。
【
図10】水蒸気遮断層10をホログラム導光板1の側面に配備したホログラム導光板1の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係るホログラム導光板1の概略図である。ホログラム導光板1は、入力領域2、出力領域3、モニタ領域4を備えている。入力領域2は、映像光が入力される領域である。出力領域3は、映像光が出力される領域である。モニタ領域4は、ホログラム導光板1の平行度を外部光によってモニタするために用いる領域である。
【0012】
図1右図は、ホログラム導光板1の断面15の構造を示す。ホログラム導光板1は、ホログラム層6、ガラス層7と8、中間層9、水蒸気遮断層10、紫外線遮断層11、表面強化層12、乾燥領域13によって構成されている。
【0013】
ホログラム層6の片面側にガラス層7が配置され、他面側にガラス層8が配置されている。本実施形態1においては、ガラス層7は映像光が入力される側に配置されている層であり、ガラス層8はユーザ61(後述の
図6を参照)から見て外側に配備される側の層であるものとする。
【0014】
ホログラム層6は、屈折率変調により映像光を眼に伝送させる機能を有している。ホログラム層6はホログラム材料(フォトポリマー)で形成されており、モノマーやオリゴマーが405nm付近の干渉光の照射により光重合反応し、高分子ポリマーへ構造変化することにより、干渉光に一致した屈折率変調を実現できる。屈折率変調を実現するために指定の分布の干渉光を照射することを、通常光記録と呼ぶ。換言すると光記録とは、ホログラム層6内部における光の干渉状態を固定することである。入力領域2と出力領域3は、所定の干渉光により光記録された領域である。モニタ領域4は、光記録されていない領域であり、外部光を変調しない。
【0015】
ガラス層7と8は、ホログラム層6の外側に配備されている透明板である。ガラス層としては、例えばショット社のBK7などのようにコストメリットが高い材料を用いるとよい。ガラス層として透明光学樹脂を用いてもよいが、ホログラム層6において屈折率変調を実施するためには、405nm付近(光記録のために用いる波長)の透明度が高い材料を選択するとよい。例えば、日本ゼオン社のZeonexや、三井化学社のAPELなどを用いることができる。映像光のサイズを示すFOV(Field Of View)を大きくする場合は、FOVに合わせて屈折率の高い材料を用いるとよい。
【0016】
映像光は、ガラス層7と8の内部を伝搬する。したがって、不要な変調がされないように、ガラス層7と8の内部における異方正が極めて小さいものをガラス層の材料として用いるとよい。また、ガラス層7と8のそれぞれ外側の面(中間層9と接する面)は、互いに対して極めて高い平行度を維持することが望ましい。数秒以下の平行度を実現するのは困難であるので、モニタ領域4を介して外部光によってガラス層の角度をモニタできるようにすることが望ましい。特に透明光学樹脂を用いる場合は、歪みがないかモニタするために、モニタ領域4を広く取るとよい。また、検査時の戻り光の光量を記憶しておくことにより、ホログラム層6の劣化状態をモニタするためにモニタ領域4を利用することもできる。光量の減衰量が劣化を示す指標となる。
【0017】
水蒸気遮断層10は、外部からホログラム層6に水蒸気が進行することを遮断する機能を有している。水蒸気遮断層10としては透明樹脂が望ましく、ポリ塩化ビニリデンを用いるとよい。
【0018】
紫外線遮断層11は、可視光(430~650nm)に対しては透明だが、ホログラム層6を破壊する紫外線(~430nm)が外部から進行することを遮断する機能を有している。例えば、SiO2とTiO2の多層膜を形成することにより、紫外線遮断層11を実現できる。紫外線遮断層11としては、少なくとも可視光(すなわち映像光)に対する透過率が紫外線に対する透過率よりも高い材料を用いるとよい。
【0019】
表面強化層12は、透明であり、ホログラム導光板1の表面の傷を防止する機能を有している。例えばシリコーン系ハードコートを用いて表面強化層12を構成することにより、高い透明性と硬度を両立することができる。
【0020】
水蒸気遮断層10、紫外線遮断層11、表面強化層12は、ホログラム層6を保護する保護層としての役割を有する。保護層(すなわち水蒸気遮断層10、紫外線遮断層11、表面強化層12の3層構造)は、ホログラム導光板1の両面に形成されている。保護層を形成するこれら3つの層は、ホログラム導光板1の内部から外部に向かってこの順に配置されている。
【0021】
中間層9は、ガラス層7と保護層との間に配置されるとともに、ガラス層8と保護層との間に配置されている。中間層9は、映像光が保護層にはみ出すのを防止する機能を有している。この機能は、ガラス層7と8の屈折率より中間層9の屈折率を小さく設定することによって実現できる。また中間層9は、ガラス層7、8と保護層を密着させる機能を併せ持たせてもよい。中間層9としては例えば、熱硬化性の透明シリコーン樹脂を用いるとよい。透明シリコーン樹脂は、その配合を調整することによって屈折率を調整できるメリットがある。もちろん中間層9は空気層としても構わない。
【0022】
中間層9と保護層は、ガラス層7/ホログラム層6/ガラス層8の積層体よりもやや表面積が大きくなるように形成されている。この中間層9と保護層の余剰部分をホログラム導光板1の端部において閉じ合わせることにより、ガラス層7/ホログラム層6/ガラス層8の積層体とホログラム導光板1端部との間の内部空間が形成される。この内部空間を乾燥領域13と呼ぶ。乾燥領域13は中間層9の一部であり、水分を吸収する役割を有する。水分が残留しないように十分乾燥させるため、乾燥領域13に対してシリカゲルなどの吸湿性の高い材料を添加することが望ましい。その他の水蒸気を吸収する材料を用いてもよい。
【0023】
図2は、ホログラム導光板1に対してフレームを取り付けた様子を示す概略図である。ホログラム導光板1の周りにはフレーム20と21を取り付ける。フレーム20と21は、(a)保護層をユーザに見えないようにする外観を良くする機能、(b)入射光が側面からはみ出す不要光を除去する機能、(c)入射光が反対面に進行することを遮断する機能、(d)ホログラム導光板1を保持する機能、を有している。したがってフレーム20と21は、透明でない材料を用いて形成し、ホログラム導光板1の側面を覆う形状にする。フレーム21は、入力領域2の反対側を覆う形状をしている。フレーム20と21は、一般的な熱可塑性樹脂の成形によって製造すると安価に実現できる。
【0024】
図3は、中間層9の機能を説明する図である。入力領域2から入力した映像光は、出力領域3から出力されるまで、ガラス層7、ガラス層8、ホログラム層6の内部を反射しながら伝搬される。
【0025】
図3は、ガラス層8と中間層9との間の境界における光の振る舞いを図示している。ガラス層8に対して中間層9の屈折率が低いので、映像光33はガラス層8と中間層9の境界において全反射する。一般的に保護層は、内部歪みが大きいので、映像光が保護層を伝搬すると、映像光がランダムに変調され映像が劣化する。中間層9は、映像光を反射することにより映像光が保護層へ伝搬しないようにし、これにより映像の劣化を防止する役割を有する。
【0026】
ガラス層8の屈折率をN1とし、中間層9の屈折率をN2とする。この場合、ガラス層8と中間層9との間の境界において映像光が全反射する臨界角θC(映像光と法線31との間の角度)は、下記式1で表される。
【0027】
N1・SinθC=N2 (1)
【0028】
また、映像光のサイズに相当するFOVを表す角度(ガラス層8と中間層9との間の境界面に対して反射光が形成する角度)をθFとすると、θFは、下記式2を満たす必要がある。式2の単位は「度(degree)」である。
【0029】
θF<90-θC (2)
【0030】
例えば、ガラス層8がBK7であった場合、可視光領域において屈折率N1は1.52程度である。θFを20°にしたい場合、式1と式2からN2=1.42、θC=70°と求められる。映像のサイズを大きくする(すなわちθFを大きくする)場合は、上記の関係にしたがって屈折率N2を1.42以下に小さくすればよい。また屈折率N1が高い材料を選択するとθFを大きくしやすい。以上のように、屈折率N1とN2を調整することにより、所望の映像光のサイズを実現することが可能となる。
【0031】
図4は、ヘッドマウントディスプレイ62の構造を示す概略図である。ヘッドマウントディスプレイ62は、少なくともホログラム導光板1、フレーム20と21、光学エンジン41を備える。
【0032】
光学エンジン41が生成した映像光(矢印)は、ホログラム導光板1の入力領域2から入力され、出力領域3からユーザの眼に出力される。入力領域2から出力領域3までの区間においては、映像光は
図3で説明したようにガラス層と中間層9との間の境界面において全反射する。したがってガラス層7/ホログラム層6/ガラス層8は、映像光をホログラム導光板1の内部において伝搬する伝搬層として動作する。
【0033】
光学エンジン41は、映像光源42、結像レンズ43、導光プリズム44、モニタ開口45を備える。
【0034】
映像光源42は、映像光を生成する光学デバイスである。映像光源42としては、例えばOLED(Organic Light Emitting Diode)やマイクロLEDなど近年開発されているデバイスを用いるとよい。もちろん、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)、透過型液晶、DMD(Digital Micromirror Device)などを照明光学系と組み合わせて用いることもできる。OLEDやマイクロLEDを用いると光学エンジン41を小型化できるメリットがある。
【0035】
結像レンズ43は、映像光源42が生成した映像光を所望のFOVの範囲でユーザの眼に伝送するレンズ機能を有している。ヘッドマウントディスプレイにおいては、虚像となるように結像レンズ43を設計するが、これは一般的な技術であるため、設計の詳細説明は割愛する。
【0036】
導光プリズム44は、映像光をホログラム導光板1に導光する機能を有する光学素子である。
図4においては、ホログラム導光板1に対して直角に映像光を入射させているが、傾けて入射させてもよい。この場合、例えば光軸を傾ける詳細な設計により入力領域2を屈折率変調しなくともよい条件が存在するので、入力領域2を記録する必要がなくなる利点がある。
【0037】
導光プリズム44は、ホログラム導光板1に対して平行な面を持つプリズム構造とすることが望ましい。モニタ開口45から外部光によって導光プリズム44の角度をモニタするとともに、このモニタした角度の平行度をモニタ領域4によって検査することにより、映像光が所定の角度でホログラム導光板1に対して入力されているか否かを精緻に確認できる効果が得られる。
【0038】
図5は、ヘッドマウントディスプレイ62を作製するプロセスを説明するフローチャートである。以下
図5の各ステップについて説明する。
【0039】
まず、ホログラム層6とガラス層7、8によって構成されたホログラム基板を準備する(S501)。次にガラス層7と8の平行度(両層の外側の表面が互いに対して平行配置されているか否か)をモニタ領域4によってチェックし、所望の平行度になっているか確認する(S502)。
【0040】
次にホログラム層6の入力領域2と出力領域3を所望の屈折率分布になるように記録する(S503)。このとき、紫外線遮断層11が存在すると、ホログラム層6に405nm付近の干渉光が照射できなくなるので、紫外線遮断層11は、記録後に形成させる必要がある。
【0041】
次にホログラム層6が今後あやまって記録されなくなるように、ホログラム層6全体を405nm付近の光線で完全に記録する(S504:ポストキュア)。
【0042】
次に中間層9を含む保護層を形成させる(S505)。ホログラム層6は、ポストキュア後に紫外線や水蒸気に曝されると劣化するので、保護層はこれを防止するためのものである。
【0043】
次にフレーム20と21を搭載し(S506)、再度ガラス層7と8の平行度をチェックする(S507)。製造過程において、ホログラム層6が不要に収縮するなどによって平行度が劣化する可能性があるので、S507において平行度を再チェックすることとした。平行度チェックはS502と同様にモニタ領域4を介して実施することができる。平行度が劣化している場合は、不良品として除く。
【0044】
次に光学エンジン41を搭載し(S508)、モニタ開口45とモニタ領域4それぞれにおいて、平行度が保たれているか確認する(S509)。最後にフレームに光学エンジン41とホログラム導光板1を搭載することにより(S510)、ヘッドマウントディスプレイ62が完成する。
【0045】
図6は、ユーザ61がヘッドマウントディスプレイ62を装着した様子を示すイメージ図である。ユーザ61がヘッドマウントディスプレイ62を眼鏡のように装着すると、ホログラム導光板1の出力領域3から出力される映像光により空間に映像64が見える。ヘッドマウントディスプレイ62はカメラ63を搭載しており、外部の状況をカメラ63でモニタし、映像処理によって適切な映像をユーザに提供できる。
【0046】
図7は、ヘッドマウントディスプレイ62のシステムブロック図である。ヘッドマウントディスプレイ62は、コントローラ71、カメラ63、ホログラム導光板1、光学エンジン41を備える。ホログラム導光板1は、ホログラム層6、ガラス層7と8、中間層9、紫外線遮断層11、水蒸気遮断層10、表面強化層12、フレーム20と21を備える。
【0047】
ヘッドマウントディスプレイ62を装着したユーザ61が所定のアクションを実施すると、コントローラ71はカメラ63を動作させ、画像解析処理によりユーザに提供する情報を決定する。コントローラ71は、光学エンジン41を動作させ、映像光を生成し、ホログラム導光板1を介してユーザ61に情報を提供する。ホログラム導光板1は、ホログラム層6に外部から紫外光と水蒸気が進行しないように紫外線遮断層11と水蒸気遮断層10を具備している。映像光が内面反射でホログラム導光板1の内部が伝搬できるようにガラス層7と8の外側にガラス層7と8より屈折率の低い中間層9が具備されている。
【0048】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係るホログラム導光板1は、ガラス層(7または8)と保護層との間に中間層9を備え、入力領域2と出力領域3との間の区間においては、中間層9とガラス層(7または8)との間の境界面において映像光が全反射する。これにより映像光は、同区間においては、ホログラム層6とガラス層(7または8)のみを伝搬する。したがって映像光がユーザ61の眼に届く前に保護層へ漏れ出て映像品質が劣化するのを防ぐことができる。
【0049】
本実施形態1に係るホログラム導光板1は、保護層によってホログラム層6を紫外線から保護することにより、ホログラム導光板1の透明度を高くすることができる。紫外線が透明度の高い部分を透過し得るとしても、保護層によってホログラム層6が保護されているので、不要な記録などがされるおそれはないからである。その上で、中間層9によって映像光が保護層へ漏れ出るのを防ぐことができるので、映像品質が劣化するおそれも少ない。したがって映像品質を維持しつつ、屋外でも長時間使用できるヘッドマウントディスプレイを実現できる。
【0050】
本実施形態1に係るホログラム導光板1は、モニタ領域4に対して入力した外部光がホログラム導光板1から反射されたときこれを監視することにより、ガラス層7と8の平行度を監視することができる。さらにモニタ開口45を介して導光プリズム44のホログラム導光板1に対する設置角度を監視することができる。これらを併用することにより、映像品質を精度よく監視することができる。
【0051】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、ホログラム導光板1の変形例について説明する。本実施形態2においては、実施形態1と同じ構成要素については同じ符号を付して説明を省略する場合がある。したがって以下では主に実施形態1との差異点を説明する。
【0052】
図8は、ホログラム導光板1の変形例の構成を示す側断面図である。
図1で説明したホログラム導光板1の構成と比較すると、
図8の構成はガラス層7側に保護層が無い点が異なる。さらに、ガラス層7は小溝81を備え、フレーム21は小突起84を備える。フレーム20と21にはネジ85を取り付けられるようにしておく。小溝81と小突起84を位置合わせした上でネジ85を締めることにより、ガラス層7と中間層9を圧着し、これによりガラス層7と中間層9の間から水蒸気が進行しないようにした。
【0053】
図8の構成によれば、屋外に居るユーザ61がヘッドマウントディスプレイ62を装着したとき、紫外光がホログラム層6に到達しないので、ユーザ61側のホログラム層6を紫外線から保護する必要はない。したがってユーザ61側の保護層を省略することができるので、コスト的に有利となる。
【0054】
図9は、ホログラム導光板1を眼鏡と一体化した構成例である。
図9に示すホログラム導光板1は、
図1の構成に加えてレンズ91を備える。これにより、視力の弱いユーザの通常視界を確保するため、眼鏡とホログラム導光板1が一体化されている。これにより、眼鏡とヘッドマウントディスプレイ62を共通にすることができる。
【0055】
眼鏡レンズは、通常メニスカス構造であるが、ホログラム導光板1と眼鏡レンズを一体化するためには、映像光が乱れないように、ユーザ61側の面をフラットにする必要がある。したがってレンズ91は、凸構造を有する。レンズ91と中間層9が接する面は平坦であり、反対面は凸面である。レンズ91は、ガラス層8より高い屈折率を有するので、中間層9をガラス層8とレンズ91との間に設けることにより、映像光がレンズ91に進行しないようにできる。保護層は、一般的な眼鏡と同じ技術で、レンズ91の外側に設ければよい。
【0056】
図10は、水蒸気遮断層10をホログラム導光板1の側面に配備したホログラム導光板1の構成例である。この場合、ホログラム層6の一部に水蒸気遮断層10がめり込むようにすることにより、確実に水蒸気がホログラム層6に到達しないように工夫する必要がある。例えば水蒸気遮断層10をホログラム導光板1の側面に配置するとともに、水蒸気遮断層10の一部を突出させ、突出部の頂面(最も突出した面)とホログラム層6の側面が接するように、水蒸気遮断層10を構成することができる。これによりホログラム層6を水蒸気から確実に遮断することができる。
【0057】
さらに
図10の構成においては、保護層をガラス層8側だけに配備しているので、
図8のホログラム導光板1と同様にコストのメリットがある。もちろん両側に保護層を設けることが望ましい。
【0058】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0059】
以上の実施形態において、導光プリズム44とホログラム導光板1のガラス層7または8は、直接密着させてもよい。直接密着するとは、導光プリズム44とガラス層7または8との間に別の材料層が介在していないことである。これにより導光プリズム44とガラス層7または8との間に空気層などが介在しないこととなるので、映像光が不本意に屈折して映像品質を劣化するなどの不利益を回避することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:ホログラム導光板
2:入力領域
3:出力領域
4:モニタ領域
6:ホログラム層
7:ガラス層(入力側)
8:ガラス層
9:中間層
10:水蒸気遮断層
11:紫外線遮断層
12:表面強化層
13:乾燥領域
15:断面
20:フレーム(入力側)
21:フレーム
31:法線
32:光線
33:映像光
41:光学エンジン
42:映像光源
43:結像レンズ
44:導光プリズム
45:モニタ開口
61:ユーザ
62:ヘッドマウントディスプレイ
63:カメラ
64:映像
71:コントローラ
81:小溝
84:小突起
85:ネジ
91:レンズ