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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20230818BHJP
   A61K 6/70 20200101ALI20230818BHJP
   A61K 6/71 20200101ALI20230818BHJP
   A61K 6/79 20200101ALI20230818BHJP
   A61K 6/69 20200101ALI20230818BHJP
   A61C 13/23 20060101ALN20230818BHJP
   A61C 13/00 20060101ALN20230818BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/70
A61K6/71
A61K6/79
A61K6/69
A61C13/23
A61C13/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020546432
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 US2019021248
(87)【国際公開番号】W WO2019173656
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】62/640,052
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18163137.5
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マイエル,マキシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,フアイビン
(72)【発明者】
【氏名】ポーレ,スベン
(72)【発明者】
【氏名】スジラット,フロリアン
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152179(JP,A)
【文献】特表2005-514490(JP,A)
【文献】特開2017-145196(JP,A)
【文献】特開2002-275017(JP,A)
【文献】特表2013-513630(JP,A)
【文献】特表2007-520465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジン添加型歯科用合着セメント組成物であって、
(a)重合可能なレジン成分と、
(b)ポリ酸ポリマー成分と、
(c)
(c1)セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛、および
(c2)セメント反応においてポリ酸ポリマーと反応できない不活性な粒子状のフィラー
を含むフィラー成分と、
(d)酸化剤および還元剤を含む、前記重合可能なレジン成分の重合を開始するためのレドックス開始剤系と、
(e)水
を含み、
前記重合可能なレジン成分が、以下の式(I):
【化1】
(式中、
およびR は、同じであるかまたは異なり得、独立して水素原子またはC 1-6 アルキル基またはC 1-6 フルオロアルキル基を表し;
は、同じであるかまたは1超のR が存在する場合は異なり得、独立して水素原子またはC 1-6 アルキル基またはC 1-6 フルオロアルキル基を表し;
は、水素原子またはC 1-6 アルキル基またはC 1-6 フルオロアルキル基を表し;
aは、1~4の整数であり;
bは、0または1~9の整数であり;
cは、0または1~9の整数である)
の化合物を含む、
レジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項2】
前記ポリ酸ポリマー成分が、10~75kDaの平均分子量Mwを有するポリアクリル酸から本質的になる、請求項1に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項3】
前記フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛が、0.01~10μmの範囲の平均粒径を有する、請求項1又は2に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項4】
前記不活性な粒子状(particular)のフィラーが、放射線不透過性フィラーおよびナノフィラーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項5】
光重合開始剤および/または抗菌剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項6】
前記組成物の総重量に基づき、
(a)10~30重量パーセントの重合可能なレジン成分と、
(b)5~20重量パーセントのポリ酸ポリマー成分と、
(c)セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛およびセメント反応においてポリ酸ポリマーと反応できない不活性な粒子状のフィラーを含む35~65重量パーセントのフィラー成分と、
(d)重合可能なレジン成分の重合を開始するための0.5~5重量パーセントの重合開始剤系と、
(e)10~30重量パーセントの水
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項7】
非水系の中性ペーストおよび水系の酸性ペーストからなるペースト/ペースト組成物である、請求項1~6のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項8】
前記中性ペーストが、前記重合可能なレジン成分、前記セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛、記酸化剤または還元剤、および任意選択で不活性な粒子状のフィラーを含み、かつ前記酸性ペーストが、前記ポリ酸ポリマー成分、還元剤または酸化剤、水および任意選択で不活性な粒子状のフィラーを含む、請求項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項9】
前記酸化剤が、ペルオキシドもしくはヒドロペルオキシドであり、および/または前記還元剤が、チオ尿素化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項10】
デュアルバレルシリンジ中にまたは使い捨ての2つのチャンバーユニット中にパッケージされる、請求項1~9のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【請求項11】
アバットメントにインプラント再建物を接着させることにおける使用のための、請求項1
~10のいずれか1項に記載のレジン添加型歯科用合着セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジン添加型歯科用合着セメント組成物、特にレジン添加型歯科用インプラントセメント組成物に関する。さらに本発明は、クラウンおよび義歯などのインプラントにより保持される再建物を合着するため、特にアバットメントにインプラントにより保持される再建物を接着させるための、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物の使用に関する。最終的に本発明は、歯科用セメント組成物を調製するための特有な化合物の使用に関する。
【0002】
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、優れたクラウン保持(crown retention)およびクラウン除去性(crown removability)を同時に提供する。
【背景技術】
【0003】
合着用セメントは、図15に示されるように、調製された歯またはアバットメントに間接的な再建物を付着させるために使用される硬化可能なペーストである。予想される再建物の寿命に応じて、合着用セメントは、根治的(永続用)または暫定的(仮着用)であるとみなされ得る。他の分類は、主な成分(たとえばリン酸亜鉛、酸化亜鉛-オイゲノール、ポリカルボン酸亜鉛、グラスアイオノマー、レジン、レジン添加型グラスアイオノマー)、有用な知識および経験(従来vs現代の合着用セメント)、または主要な状況-反応(酸ベース反応vs重合)に基づき得る。
【0004】
合着用セメントの主な機能は、再建物-歯/アバットメントの界面にある間隙を充填し、かつ再建物を所定の場所に機械的および/または化学的に固定することにより、咀嚼の間に再建物が移動しないようにすることである。特に、歯科用合着セメント組成物は、アバットメントにクラウンまたは部分的な義歯などの歯科用の補綴物を結合するために使用される。
【0005】
アバットメントに再建物を接続するための専用のセメントは、「インプラントセメント」と呼ばれ、代替的な取付け方法、すなわちスクリューでの保持および歯の構造に接着するための専用の従来のセメントと競合する。
【0006】
スクリューのゆるみまたは破壊、不十分な取付けの周縁部、歯肉下のセメント、解決できないインプラント周囲炎、不十分な咬合、または不満足な美観を含むいくつかの要因のため、超硬合着用再建物を回収する必要性が生じ得る。
【0007】
特に、インプラントにより保有される再建物の使用期間の間に、インプラントとアバットメントとの間を保持するスクリューは、緩むかまたはさらには破損する可能性がある。よって、スクリューへのアクセスおよびスクリューの再固定または交換が必要となり得る。使用されるセメントに応じて、これは冗長的であり得、再建物の破壊をもたらし得る。よって、専用のインプラントセメントは、所定の場所に再建物を保つには十分に「強い」が、その取り外しを可能にするためには十分に「弱い」必要がある。
【0008】
さらに、超硬合着用再建物を取り外す必要性は、インプラント周辺の環境の固有の生物学的な性質の認識の観点およびインプラント周囲炎の観点から、さらにいっそう差し迫っている。
【0009】
インプラント周囲炎は、インプラントの設置からわずか5~10年後に発症する、インプラント周辺の有意な進行性の骨の消失の症候群を説明する。処置しないままにした場合、十分な量の骨が変性し、インプラントの機能停止/再処置は避けられない。
【0010】
この疾患の重症度、再処置の費用および患者レベルで20%超の平均有症率のため、インプラント周囲炎は、インプラント歯科学の焦点である。
【0011】
この疾患の既知のリスク因子の中でも特に、インプラント周辺組織の中の合着用セメントの残留物は、一般に容認され、医原性の要因と思われている。インプラント周囲炎の発症に及ぼすそれらの全体的な影響は、たとえば顎あたりに設置されるインプラントの数または患者の歯周の全体的な健康状態よりも低いとみなされているが、歯科医は、この話題に対して敏感であり、場合によってはセメントを完全に回避する。
【0012】
セメントの残留物は、再建物の取付け後の過剰な押し出しおよび/または不十分な清掃により起こり得る。これらは、物理的な刺激、外来物-身体の反応、および/または有害な細菌株の蓄積をもたらし得る。結果として起こる炎症は、軟組織を冒し(粘膜炎)その後、未処置のままである場合は硬組織を冒す(インプラント周囲炎)。この一連のイベントは、歯周組織と比較して密閉が弱いインプラント周辺組織により促進され、外部の物質(たとえば過剰なセメント)をより侵入させる傾向をもたらし得る。多くの場合、この物質は、特にインプラント-アバットメントの界面が歯肉下に設置される場合、検出および除去することが困難である。
【0013】
除去の理由に応じて、場合により、この問題は、解決でき、補綴物(prosthesis)が、スクリューにより保持される根治的または暫定的な補綴物として再利用され得る。このような場合、ポーセレンの完全性を維持することが望ましい。
【0014】
超硬クラウンまたは固定した部分的な義歯の取り外しは、補綴専門医にとって煩雑な手法である。ぎくしゃくした除去力を用いるクラウン除去器具は、歯肉/歯周組織、または根底にある歯の構造に損傷を与える場合がある。これらの状況では、多くの場合、無傷のままクラウンを取り外そうという試みよりはむしろクラウンを切開することが必要とされる。
【0015】
よって、歯科用合着セメント組成物は、通常の使用の間にアバットメントに人口歯を安全に取付けつつ、力を適用することにより超硬補綴物の除去を可能にするように適合されるべきである。
【0016】
自己硬化型酸化亜鉛オイゲノールベースの仮着用セメントを含む仮着用歯科用合着セメント組成物が、従来技術から知られている。たとえばTemp-Bond(商標)(Kerr Corp.)は、仮着用のクラウン、ブリッジ、またはスプリントに適応しており、永続用再建物を固める試験に適応している。クラウン除去性は優れているが、この硬化セメントの機械的な性質は劣っており、そのため永続用のセメントとしての使用が除外されている(図9参照)。
【0017】
インプラントにより保持される再建物を合着するための非オイゲノールの半永続用のセメントもまた知られている。たとえば、Premier(登録商標)Implant Cement(Premier(登録商標) Dental Products Company)は、ペルオキシド重合開始剤により自己硬化する、シリカが充填されたトリエチレングリコールジメタクリラートレジンを含む非オイゲノールの仮着用セメントである。クラウンの保持を含む機械的な性質は認容可能であるが、クラウンの除去は、いったんこの組成物が硬化されるとクラウンの破壊なしにはほとんど不可能である(図9参照)。
【0018】
また、永続用の歯科用合着セメント組成物もまた従来技術から知られており、レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)組成物または自己接着性レジンセメント(self-adhesive resin cement:SARC)組成物であり得る。たとえば、RelyX Luting Plus(登録商標)(3M ESPE)は、高レベルの機械的な性質を提供するレジン添加型グラスアイオノマーセメント組成物であるが、クラウンを破壊することなくクラウンの取り外しを達成することは非常に困難である。特に、クラウン除去試験において6回超の試みが必要とされ、これは補綴物を除去する際の患者への認容不能な負担を意味する。さらに、Calibra(登録商標)Universal(DENTSPLY Sirona)は、非常に高いレベルの機械的な性質を提供する普遍的な自己接着性レジンセメントである。クラウン除去性は、仮着用セメントのPremier(登録商標)Implant Cementの場合よりもわずかに容易であるが、患者の処置中にクラウンの破壊を回避できない(図9参照)。
【0019】
欧州特許公開公報第2764859号は、酸性ポリマーと、4-(メタ)アクリルオキシアルキルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリルオキシアルキルトリメリット酸、およびそれらの組み合わせから選択される酸性の重合可能なモノマーと、非酸性の重合可能なモノマーと、フルオロアルミノ(fluoroalumino)ケイ酸塩ガラスフィラーと、水と、少なくとも1つの重合開始剤系とを含む歯科用レジン添加型グラスアイオノマー組成物を開示する。この歯科用レジン添加型グラスアイオノマー組成物は、歯の構造に対して顕著に増強された接着性の性質を提供する。
【0020】
欧州特許公開公報第2236122号は、α,β-不飽和性のカルボン酸、塩基性のガラス組成物、放射性の重合可能なモノマー、水、少なくとも1つの重合開始剤;および任意選択で従来の添加剤の少なくとも1つのポリマーを含む、ポリマーで修飾されたグラスアイオノマーセメントを開示する。
【発明の概要】
【0021】
本発明の課題は、
患者の処置中のセメントの滴下を回避するための最適な流量の特徴;
特にアバットメント-再建物の周辺の下での、再建物の容易な密閉;
確実な清掃手法を可能にする過剰なセメントの簡便な清掃;
残留するセメントの検出可能性を可能にする高い放射線不透過性;
チタンのアバットメントの腐食を回避するためのチタンとの適合性;
長期間のセメント結合の兆候を可能にするための理想的な機械的強度;
セメントの細菌のコロニー形成を回避するための抗菌性の性質
使用される際の高い水分耐性;および
再建物の容易な除去を可能にするための容易な取り外し/回収性
を提供する、歯科用合着セメント組成物を提供することである。
【0022】
本発明の課題は、特許請求の範囲により解決された。よって本発明は、レジン添加型歯科用合着セメント組成物であって、
(a)重合可能なレジン成分と、
(b)ポリ酸ポリマー成分と、
(c)
(c1)セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛、および
(c2)セメント反応においてポリ酸ポリマーと反応できない不活性な粒子状のフィラー
を含むフィラー成分と、
(d)酸化剤および還元剤を含む、重合可能なレジン成分の重合を開始するためのレドックス開始剤系と、
(e)水
を含む、レジン添加型歯科用合着セメント組成物
を提供する。
【0023】
さらに本発明は、アバットメントにインプラント再建物を接着させるのに使用するための、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物を提供する
【0024】
さらに本発明は、歯科用セメント組成物を調製するための、以下の式(I):
【化1】
(式中、
およびRは、同じであるかまたは異なってよく、独立して水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
は、同じであるかまたは1超のRが存在する場合は異なってよく、独立して、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
は、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
aは、1~4の整数であり;
bは、0または1~9の整数であり;
cは、0または1~9の整数である)
の化合物の使用を提供する。
【0025】
本発明は、RMGIおよび酸化亜鉛ポリカルボキシレートの組み合わせに基づきレジンセメントの製剤の柔軟性と酸化亜鉛セメントの性質を組み合わせる組成物を提供する。
【0026】
本発明は、再建物を所定の場所に保存することに関しては従来の仮着用インプラントセメントより強いが、再建物に対し損傷を与えることなく容易な取り外しを可能にするために従来の永続用のインプラントセメントよりはるかに弱い、歯科用合着セメント組成物を提供することが可能であるという認識に基づく。
【0027】
本発明は、特定の二重硬化機構(基本的に重合可能なレジン成分およびグラスアイオノマーの成分が、それぞれ共有結合の形成および酸ベースの反応に基づき別々のネットワークを形成する)を使用する。同時に、これらのネットワークを、不活性な粒子状のフィラーで充填することにより、歯科用合着用セメントの粘着および接着が低減される。結果として、静的な機械的な力に対する耐性および動的な力に対する不安定性の驚くべき組み合わせが得られる。
【0028】
成分(a)および(d)は、共有結合性レジンネットワーク(A)の形成のための基礎として作用する。成分(b)および(c1)は、イオン性のグラスアイオノマーネットワーク(B)の基礎として作用する。成分(c2)は、フィラー(c)として作用し、それは本発明に係る硬化したレジン添加型歯科用合着セメント組成物において共有結合性のレジンネットワークおよびグラスアイオノマーのネットワークを置き換えることにより機械的な性質を調製し得る。よって、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、共有結合性ネットワーク(A)、イオン性ネットワーク(B)(ネットワーク(A)および(B)は相互貫通し得る)、ならびに不活性なフィラー(C)の組み合わせとして、概念化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、Ankylos Regular/X, A0アバットメント上に適合した模造クラウンの概略図を示す。
図2図2は、HMAEまたはHEMAベースのレジン混合物のCA-測定の結果を示す。特に図に示すように、HMAEに基づくレジン混合物は、HEMAに基づくレジン混合物よりも疎水性である。さらにこれらは、表4、#1-5および6cに係る同種の滑らかなセメントペーストを得るために十分に親水性である。
図3図3~6は、全体的なセメント製剤(表1、2、および4参照)の変化による保持力(金属またはジルコニアに対する)および取り外しできる性質の発展を示す。特に、図3は、Ex-1~5に関する結果のCRを示している(チタンのアバットメントに対するステンレス鋼の模造クラウン)。
図4図3~6は、全体的なセメント製剤(表1、2、および4参照)の変化による保持力(金属またはジルコニアに対する)および取り外しできる性質の発展を示す。図4は、Ex-1~5に関する結果のCRBを示している(チタンのアバットメントに対するステンレス鋼の模造クラウン)。
図5図3~6は、全体的なセメント製剤(表1、2、および4参照)の変化による保持力(金属またはジルコニアに対する)および取り外しできる性質の発展を示す。図5は、Ex-1~5に関する結果のCRを示している(チタンのアバットメントに対するジルコニアの模造クラウン)。
図6図3~6は、全体的なセメント製剤(表1、2、および4参照)の変化による保持力(金属またはジルコニアに対する)および取り外しできる性質の発展を示す図5は、Ex-1~5に関する結果のCRを示している(チタンのアバットメントに対するジルコニアの模造クラウン)。図6は、Ex-1~5に関する結果のCRBを示している(チタンのアバットメントに対するジルコニアの模造クラウン)。
図7図7および8は、全体的なセメント製剤(表1、2、および4参照)の変化に係る曲げ強さおよび圧縮強度の発展を示す。特に図7は、Ex-1~5に関する結果のFSを示す。
図8図7および8は、全体的なセメント製剤(表1、2、および4参照)の変化に係る曲げ強さおよび圧縮強度の発展を示す。図8は、Ex-1~5に関する結果のCSを示す。
図9図9~14は、物理的な性質に関する本発明のEx-3に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物と市販の合着用セメントの間の比較を示す。図9は、クラウン保持およびクラウン除去性の比較を示している。本発明による高いクラウン保持および低いクラウン除去性の間の大きな差異は、ジェネリックな組成物の中で固有である。
図10図9~14は、物理的な性質に関する本発明のEx-3に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物と市販の合着用セメントの間の比較を示す。図10は、曲げ強さ(FS)の比較を示す。図11は、曲げ弾性率(FM)の比較を示す。図12は、圧縮強度(CS)の比較を示す。図13は、放射線不透過性(RO)の比較を示す。図14は、作業時間(wt)および設定時間(st)を含む硬化指標の比較を示す。
図11図9~14は、物理的な性質に関する本発明のEx-3に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物と市販の合着用セメントの間の比較を示す。図11は、曲げ弾性率(FM)の比較を示す。
図12図9~14は、物理的な性質に関する本発明のEx-3に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物と市販の合着用セメントの間の比較を示す。図12は、圧縮強度(CS)の比較を示す。
図13図9~14は、物理的な性質に関する本発明のEx-3に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物と市販の合着用セメントの間の比較を示す。図13は、放射線不透過性(RO)の比較を示す。
図14図9~14は、物理的な性質に関する本発明のEx-3に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物と市販の合着用セメントの間の比較を示す。図14は、作業時間(wt)および設定時間(st)を含む硬化指標の比較を示す。
図15図15は、インプラントセメントによるアバットメントへの人口装具の接続に関与する部品の概略的な表示および相互作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
用語「重合」および「重合可能な」は、大きな分子、すなわち高分子またはポリマーを形成するために、多数の、モノマーなどの小さな分子の共有結合により組み合せることまたは組み合わせるための能力に関連する。モノマーは、直鎖状の高分子のみを形成するように組み合わせられてもよく、または架橋されたポリマーと一般に称される、3次元の高分子を形成するように組み合わせられてもよい。たとえば、単官能性モノマーは直鎖状のポリマーを形成し、少なくとも2つの官能基を有するモノマーは、ポリマーネットワークとしても知られる架橋されたポリマーを形成する。重合可能なモノマーのより高い変換速度の場合、多官能性モノマーの量が低減され得るかまたは浸出の問題が軽減され得る。
【0031】
この説明では、特段他の記載がない限り、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を表す。アルキル基は、たとえば、直鎖状または分枝鎖状のC1-16アルキル基、特にC1-4アルキル基を表す。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、およびオクチルが挙げられる。フルオロアルキル基は、たとえば、全フッ素置換され得るかまたは(2x)フッ素原子を含み得る直鎖状または分枝鎖状のフッ化C1-4アルキル基を表す(ここでxは、フルオロアルキル基の炭素数である)。シクロアルキル基は、C3-6シクロアルキル基、たとえばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルを表す。アリール基は、C6-14アリール基、たとえばフェニル、ナフチルを表す。
【0032】
本発明は、レジン添加型歯科用合着セメント組成物を提供する。好ましくは、レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、レジン添加型歯科用インプラントセメント組成物である。好ましくは、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、光重合開始剤および/または抗菌剤をさらに含む。
【0033】
好ましくは、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、少なくとも140N、より好ましくは少なくとも150Nの、本発明の記述にしたがい測定される硬化した場合のクラウンの保持を有する。さらに、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、本発明の記述にしたがい測定される際に平均して好ましくは最大5回の試み、より好ましくは最大3回、さらにより好ましくは最大2回の試みでのクラウン除去性を有する。
【0034】
好ましくは、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、少なくとも45MPa、より好ましくは少なくとも50MPaの硬化した際の圧縮強度を有する。
【0035】
好ましくは、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、少なくとも10、より好ましくは少なくとも12MPaの、硬化した際の曲げ強さを有する。
【0036】
よって、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物の共有結合性のネットワーク(A)、イオン性のネットワーク(B)、および不活性なフィラー(C)は、0.5~1.5:1.0:0.05~1.5で存在し得る。特に好ましい実施形態では、硬化した組成物の総重量に基づき、(A)は、20~30重量%、より好ましくは22~28重量%の比率で存在し、(B)は、35~45重量%、より好ましくは37~43重量%の比率で存在し、(C)は、30~40重量%、より好ましくは32~38重量%の量で存在する。
【0037】
重合可能なレジン成分(a)
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、重合可能なレジン成分を含む。
【0038】
好ましい実施形態では、重合可能なレジン成分は、以下の式(I):
【化2】
(式中、
およびRは、同じであるかまたは異なり得、独立して水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
は、同じであるかまたは1超のRが存在する場合は異なり得、独立して、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
は、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
aは、1~4の整数であり;
bは、0または1~9の整数であり;
cは、0または1~9の整数である)
の化合物を含む。
【0039】
式(I)では、RおよびRは、同じであるかまたは異なり得る、1超のRが式(I)の化合物に存在する場合、1超のRは同じであるかまたは異なり得る。1超のRが式(I)の化合物に存在する場合、1超のRは同じであるかまたは異なり得る。各場合で、RおよびRは、独立して、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表す。好ましくは、RおよびRは、水素原子、メチル基、またはエチル基である。
【0040】
式(I)において、1つ以上かつ最大cのRが存在し得る。1超のRが存在する場合、1超のRは同じであるかまたは異なり得る。Rは、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表す。好ましくは、Rは、水素原子またはメチル基を表す。
【0041】
式(I)において、Rは、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表す。好ましくは、Rは、水素原子またはC1-4アルキル基を表す。
【0042】
式(I)において、aは、1~4の整数である。好ましくは、aは、1または2である。
【0043】
式(I)において、bは、0または1~9の整数である。好ましくは、bは、0、1、2、または3である。
【0044】
式(I)において、cは、0または1~9の整数である。好ましくは、cは、0、1、2、3、4、5、または6である。
【0045】
より好ましくは、重合可能なレジン成分は、以下の式(II):
【化3】
(II)
(式中、
およびRは、同じであるかまたは異なり得、独立して水素原子、C1-4アルキル基、またはC1-4フルオロアルキル基を表し;
aは、1~4の整数であり;
cは、0または1~9の整数である)
の化合物を含む。
【0046】
好ましくは、RおよびRは、水素原子である。さらに、aは、好ましくは、1、2、または3である。さらに、cは、好ましくは1、2、または3である。
【0047】
式(I)の最も好ましい化合物は、以下の式の2-[2-ヒドロキシエトキシ)-メチル]アクリル酸エチルエステル(HMAE)(エチル 2-[4-ヒドロキシ-2-オキサブチル]アクリラート)である。
【化4】
【0048】
HMAEは、欧州特許公開公報第1601679号の実施例1の手法により調製され得る。
【0049】
式(I)の化合物、特にHMAEは、ジェネリックな組成物においてHEMAおよびビス-GMAに取って代わることができ、それにより、変色の問題および生体適合性の問題を回避する。さらに、式(I)の化合物、特にHMAEは、ジェネリックなレジン添加型歯科用合着セメント組成物が調製される際にペーストの分散を促進する。また、式(I)の化合物、特にHMAEは、ジェネリックな組成物においてHEMAに取って代わり使用される際に、圧縮強度および曲げ強さの増大を提供することが見出された。最終的に、式(I)の化合物、特にHMAEは、本発明に係る組成物で使用される場合に高いクラウン保持および容易なクラウン除去性を同時に提供することが見出された。
【0050】
あるいはまたはさらに、重合可能なレジン成分は、以下の式(III):
【化5】

(式中、
Rは、直鎖または分枝状のC2-18アルキル基またはアルケニル基を表し、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基で置換されてよく、式中、C2-18アルキル基またはアルケニル基の主鎖の1~8個の炭素原子が、独立して互いに、酸素原子および硫黄原子から選択されるヘテロ原子により置き換えられてよく、
は、水素原子またはメチル基を表す)
の重合可能な化合物を含み得る。
【0051】
式(III)の重合可能な化合物は、好ましくは23℃で最大10Pa・sの低い動的粘度を有する。よって、本化合物の処理、たとえば、式(III)の重合可能な化合物を含む歯科用組成物の取り扱いは、優れている。さらに式(III)の重合可能な化合物は、好ましくは約50~75kj/molである重合エンタルピー-ΔRの観点から高い反応性を有する。最終的に、式(III)の重合可能な化合物は、優れた加水分解安定性を有する。式(III)の重合可能な化合物は、粘度の高い歯科用組成物の動的粘度を低減するための反応性希釈剤として使用され得る。
【0052】
式(III)において、式(III)のRの定義における用語「三級アミノ基」は、同じであるかまたは異なり得かつ独立してC1-4アルキル基、好ましくはメチル基から選択される2つの基で置換されるアミノ基を意味する。
【0053】
Rは、以下の式(IV):
【化6】
であることが好ましい。
【0054】
式(IV)において、Xは、水素原子、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、またはカルボキシル基であり、Zは、酸素原子または硫黄原子であり、1超のZが存在する場合、Zは、同じであるかまたは異なり得る。Rは、水素原子、またはヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基である。1超のRが存在する場合、これら基は同じであるかまたは異なり得る。Rは、水素原子、またはヒドロキシル基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、三級アミノ基、およびカルボキシル基から選択される基である。1超のR基が存在する場合、これら基は同じであるかまたは異なり得る。
【0055】
式(IV)において、dは0または1であり、eは、2~18の整数であり、fは、2~16の整数であり、gは、0~8の整数であり、hは、1~3の整数である。
【0056】
式(IV)の「d」が1である場合、Rは、式(III)のN-アリル(メタ)アクリルアミド基の窒素原子に結合される単一のアリル部分-[HC-CH=CH]-を含む。式(IV)の「d」が0である場合、Rはアリル部分を含まない。
【0057】
好ましくは、式(IV)において、dは0または1であり、bは、2~12の整数であり、eは、2~8の整数であり、fは0~8の整数であり、gは1または2である。より好ましくは、式(II)において、dは0または1であり、eは2~9の整数であり、fは2~4の整数であり、gは0~2および5~8の整数であり、hは、1または2である。最も好ましくは、式(II)において、dは、0または1であり、eは2~6の整数であり、fは2であり、gは0または5~8の整数であり、hは1である。
【0058】
好ましくは、式(III)の重合可能な化合物は、以下の構造式(V)または(VI)から選択される。
【化7】
【0059】
式(V)および(VI)において、Rは、水素原子またはメチル基、好ましくは水素原子を表し、Xは、水素原子、ヒドロキシル基、三級アミノ基、またはカルボキシル基であり、nは5~18の整数であり、mは2~15の整数である。
【0060】
好ましくは、式(V)の化合物において、nは6~12であり、式(VI)の化合物において、nは2~8である。
【0061】
式(VI)の化合物が好ましく、それはこれらが隣接した部分-CH-N-アリルの水素原子にC-H酸性度を提供する二重結合を含むためである。理論により拘束されるものではないが、(メタ)アクリル基の重合可能なC-C二重結合と組み合わせたこのC-H酸性度は、特に好適な式(VI)の化合物の重合エンタルピーおよび粘度を提供すると考えられている。さらに、上述のC-H酸性度により、式(VI)の化合物は、好適な重合の最大比率および望ましい曲げ強さなどの機械的な特徴を提供し得る。
【0062】
特に好ましい式(III)の化合物は、以下の構造式を有する。
【化8】
【0063】
上記に示される特に好ましい式(III)の重合可能な化合物のうち、アクリロイル合物が最も好ましい。
【0064】
式(III)の化合物は、Porel et al., Journal of the American Chemical Society, 2014, 136, pages 13162 to 13165に開示される方法またはEP 16 204 000.0に記載の方法を使用することにより、調製され得る。
【0065】
重合可能なレジン成分に適したさらなる化合物は、硬度、接着、および設定時間(set time)などの性質の変更を提供するための、α,β不飽和性モノマーである。このようなα,β不飽和性モノマーは、アクリラートおよびメタクリラート、たとえばメチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルアクリラート、エチルメタクリラート、プロピルアクリラート、プロピルメタクリラート、イソプロピルアクリラート、イソプロピルメタクリラート、2-ヒドロキシエチルアクリラート、2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ヒドロキシプロピルアクリラート、ヒドロキシプロピルメタクリラート、テトラヒドロフルフリルアクリラート、テトラヒドロフルフリルメタクリラート、グリシジルアクリラート、グリシジルメタクリラート、2-プロペン酸 2-メチル 1,1’-[(1-メチルエチリデン)ビス[4,1-フェニレンオキシ(2-ヒドロキシ-3,1-プロパンジイル)]]エステル(ビスフェノールA グリセロラート ジメタクリラート(dimethacrylat)(「ビス-GMA」、CAS-No.1565-94-2)とも称される)、グリセロールモノ-およびジアクリラート、グリセロールモノ-およびジメタクリラート、エチレングリコールジアクリラート、エチレングリコールジメタクリラート、ポリエチレングリコールジアクリラート(ここで反復するエチレンオキシド単位の数は、2~30で変動する)、ポリエチレングリコールジメタクリラート(ここで反復するエチレンオキシド単位の数は、2~30で変動する)、特にトリエチレングリコールジメタクリラート(「TEGDMA」)、ネオペンチルグリコールジアクリラート、ネオペンチルグリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラート、ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールのモノ-、ジ-、トリ-、およびテトラ-アクリラートおよびメタクリラート、1,3-ブタンジオールジアクリラート、1,3-ブタンジオールジメタクリラート、1,4-ブタンジオールジアクリラート、1,4-ブタンジオールジメタクリラート、1,6-ヘキサンジオールジアクリラート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリラート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサンエチレンジカルバマート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバマート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-メチル-2-メタ-クリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバマート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバマート、メチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバマート、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’ビス(4-アクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ-フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリラート]プロパン、および2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパンであり得、これらが言及され得る。重合可能な成分の他の適切な例は、イソプロペニルオキサゾリン、ビニルアズラクトン、ビニルピロリドン、スチレン、ジビニルベンゼン、ウレタンアクリラートまたはメタクリラート、エポキシアクリラートまたはメタクリラート、およびポリオールアクリラートまたはメタクリラートである。α,β-不飽和性モノマーの混合物は、必要に応じて追加され得る。
【0066】
あるいはまたはさらに、重合可能なレジン成分は、N,N’-(2E)-ブト-2-エン-1,4-ジアリルビス-[(N-プロプ-2-エン-1)アミド(BAABE)、N’-ジエチル-1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BADEP)、1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BAP)、1,3-ビスアクリルアミド-2-エチル-プロパン(BAPEN)、もしくはN,N-ジ(アリルアクリルアミド)プロパン、または欧州特許公開公報第3231411号、同第2705827号、国際特許公開公報第2014040729号、および欧州特許出願番号第15 178 515号に開示される重合可能な化合物を含み得る。
【0067】
好ましくは、レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、組成物の総重量に基づき、10~30重量パーセント、より好ましくは15~25重量パーセントの重合可能なレジン成分を含む。
【0068】
好ましくは、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、HEMAまたはビス-GMAを含まない。
【0069】
ポリ酸ポリマー成分(b)
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、ポリ酸ポリマー成分を含む。用語「ポリ酸ポリマー成分」と共に使用される場合の「ポリ酸(polyacidic)」は、ポリマーが、反応性の粒子状のガラスとのセメント反応に関与し得る、複数の酸性基、好ましくはカルボン酸基を有することを意味する。カルボン酸基は、好ましくは骨格に存在し、アクリル酸、メタクリル酸、およびイタコン酸に由来する。ポリ酸ポリマー成分は、欧州特許公開公報第3231412号に記載される通りであり得る。
【0070】
好ましくは、ポリ酸ポリマー成分は、10~75kDaの平均分子量を有するポリアクリル酸から本質的になる。
【0071】
好ましくは、レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、組成物の総重量に基づき、5~20重量パーセント、好ましくは8~18重量パーセントのポリ酸ポリマー成分を含む。
【0072】
フィラー成分(c)
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、フィラー成分を含む。
【0073】
フィラー成分は、セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛を含む。フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、熱融解プロセスによりZnOを含む金属酸化物の固体の混合物をガラスへと変換し、次に製粉することにより得ることができ、このガラスは、セメント反応において酸性基を含むポリマーと反応できる。ガラスは、粒子状の形態である。さらに、フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、たとえばシラン処理(silanation)または酸処理により表面修飾され得る。いずれかの従来のフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛が、本発明の目的のために使用され得る。
【0074】
好ましい実施形態では、セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、リン、およびフッ素を必須の元素として含み、これにより、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、およびリンは、大部分は酸化物として本組成物に含まれる。特に、反応性の粒子状のガラスは、
a.10~35重量%のシリカ
b.10~35重量%のアルミナ
c.3~30重量%の酸化亜鉛
d.4~30重量%のP
e.3~25重量%のフッ化物
を含み得る。
【0075】
シリカ(SiOとして計算)は、好ましくは、10~35重量%の量でガラス組成物に含まれる。より好ましい実施形態では、シリカは、20~25重量%の量で含まれる。アルミナ(Alとして計算)は、好ましくは、10~35重量%の量で含まれる。より好ましい実施形態では、アルミナは、20~25重量%の量で含まれる。シリカおよびアルミナの間の重量比は、好ましくは1.2~0.8の範囲、より好ましくは1.15~1.0の範囲である。
【0076】
酸化亜鉛(ZnOとして計算)は、好ましくは、3~30重量%の量で本発明により使用されるガラス組成物に含まれる。より好ましい実施形態では、酸化亜鉛は、13~18重量%の量で含まれる。
【0077】
5酸化リン(Pとして計算)は、好ましくは、4~30重量%の量で本発明により使用されるガラス組成物に含まれる。好ましい実施形態では、5酸化リンは、14~18重量%の量で含まれる。
【0078】
フッ化物は、好ましくは、3~25重量%の量で本発明に係るガラス組成物に含まれる。好ましい実施形態では、フッ化物は、4~7重量%の量で含まれる。
【0079】
好ましい必須の元素の他に、本発明の粒子状のガラス組成物は、18~21重量%の酸化カルシウム+酸化ストロンチウムをさらに含み得る。
【0080】
粒子状のガラス組成物は好ましくは、本質的にいずれのアルカリ性の金属酸化物も含まない。特に、ガラス組成物は、最大2重量%、好ましくは最大1.5重量%のアルカリ性の金属酸化物、MO(式中MはLi、Na、またはKである)を含む。好ましい実施形態では、粒子状のガラスにおけるNaOの含有量は、1重量%未満である。
【0081】
フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、通常、たとえば電子顕微鏡により、またはMALVERN Mastersizer SもしくはMALVERN Mastersizer 2000装置により具現化される従来のレーザー回析粒径測定法(laser diffraction particle sizing method)を使用することにより測定される際に、0.1~10μm、好ましくは1~8μmの平均粒径を有する。
【0082】
フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、単峰性または多峰性(たとえば二峰性)の粒径部分布を有し得、ここで多峰性の反応性の粒子状のガラスは、異なる平均粒径を有する2つ以上の粒子状のフラクションの混合物を表す。
【0083】
フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、修飾されたポリ酸および/または重合可能な(メタ)アクリラートレジンの存在下で反応性の粒子状のガラスを塊にすることにより入手可能な、塊状の反応性の粒子状のガラスであり得る。塊状の反応性の粒子状のガラスの粒径は、製粉などの適切な大きさを低減するプロセスにより調節され得る。
【0084】
フィラーを含む粒子状の酸化亜鉛は、あるいはまたはさらに、表面修飾剤により表面修飾され得る。好ましくは、表面修飾剤はシランである。
【0085】
フィラー成分は、セメント反応においてポリ酸ポリマーと反応できない、不活性な粒子状のフィラーをさらに含む。
【0086】
不活性な粒子状のフィラーは、本組成物の外観を変えるため、本組成物の粘度を制御するため、機械的な強度を調節するため、たとえば放射線不透過性を提供するために、含まれ得る。非反応性のフィラーは、非毒性であり、口腔での使用に適切であるべきである。フィラーは、無機物質の形態であり得る。これはまた、重合可能なポリマーに不溶性である架橋した有機物質であり得、任意選択で無機性のフィラーで充填される。
【0087】
たとえば、適切な不活性な粒子状の無機性のフィラーは、石英、窒化物、たとえば窒化ケイ素、コロイド状シリカ、サブミクロンのシリカ、たとえば焼成シリカ、コロイド状ジルコニア、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、金属フッ化物、たとえばフッ化イッテルビウム、または1つ以上の金属もしくは金属合金を含む金属の粉末から選択され得る。
【0088】
好ましい不活性な粒子状の無機性フィラーは、AEROSIL(登録商標)OX 50(Evonic Industries)である。
【0089】
適切な不活性な有機性フィラーの例としては、充填されているかまたは充填されていない粒子状のPMMA、ポリカーボネート、またはポリエポキシドが挙げられる。好ましくは、非反応性有機性フィラー粒子の表面は、フィラーとマトリックスとの間の結合を高めるためにカップリング剤で処理される。適切なカップリング剤としては、シラン化合物、たとえばγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、およびγ-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0090】
不活性な粒子状のフィラーは、単峰性または多峰性(たとえば二峰性)の粒径分布を有し得、ここで粒子状のフィラーは、好ましくは、0.001~100μm、好ましくは5nm~60μmの平均粒径を有する。
【0091】
不活性な粒子状のフィラーのBETによる表面積[m2/g]は、10~300m2/g、より好ましくは20~50m2/gであり得る。
【0092】
粒径は、たとえば電子顕微鏡により、またはMALVERN Mastersizer SもしくはMALVERN Mastersizer 3000装置により具現化される従来のレーザー回析粒径測定法を使用することにより測定され得る。粒子状のフィラーは、異なる平均粒径を有する2つ以上の粒子状のフラクションの混合物を表す多峰性、粒子状の非反応性フィラーであり得る。粒子状の反応性フィラーはまた、異なる化学組成物である粒子の混合物であり得る。粒子状の非反応性フィラーは、表面修飾剤により表面修飾され得る。
【0093】
さらに、不活性な特定のフィラーは好ましくは、放射線不透過性フィラーおよびナノフィラーを含む。
【0094】
好ましい実施形態では、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、組成物の総重量に基づき、35~65重量パーセント、より好ましくは40~60重量パーセントの、セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛、およびセメント反応においてポリ酸ポリマーと反応できない不活性な粒子状のフィラーを含むフィラー成分を含む。
【0095】
レドックス開始剤系(d)
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、酸化剤および還元剤を含む、重合可能なレジン成分の重合を開始するためのレドックス開始剤系を含む。
【0096】
本発明に係る歯科用組成物は、レドックス重合開始剤系を含む。開始剤系は、光重合開始剤をさらに含み得る。
【0097】
還元剤および酸化剤の量は、望ましい度合いの重合を提供するために十分であるべきである。好ましくは、本発明の混合されているが設定されていないセメントは、混合されているが設定されていないセメント成分の総重量(水を含む)に基づき、約0.01~約10%、より好ましくは約0.2~約5%、最も好ましくは約0.3~約3%の還元剤および酸化剤を含む。還元剤または酸化還元剤は、米国特許第5,154,762号に記載されるようにマイクロカプセル化され得る。これは、全般的に、セメント部分の貯蔵性を高め、必要に応じて、還元剤および酸化剤の両方をまとめてパッケージングすることを可能にする。水溶性および非水溶性のカプセル化材が使用され得る。適切なカプセル化の物質としては、セルロースの物質が挙げられ、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロースが好ましい。他のカプセル化材としては、ポリスチレン、他のビニルモノマーおよびポリメチルメタクリラートとポリスチレンのコポリマー、他のエチレン性不飽和モノマーとメチルメタクリラートのコポリマーが挙げられる。好ましいカプセル化材は、エチルセルロースおよびセルロースアセテートブチレートである。カプセル化材およびカプセル化の条件の選択を変えることにより、硬化の開始を、数秒~数分の範囲の時間で開始するように調節できる。アクチベーターに対するカプセル化材の量の比は全般的に、0.5~約10、好ましくは約2~約6の範囲である。
【0098】
適切な酸化剤(開始剤)としては、ペルオキシド、たとえばベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド(CHP)、およびtert-ブチルヒドロペルオキシド、塩化第二鉄、ヒドロキシルアミン(還元剤の選択に依存)、過ホウ酸およびその塩、ならびに過マンガン酸および過硫酸のアニオンの塩が挙げられる。好ましい酸化剤は、ペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、および過酸化水素である。
【0099】
適切な還元剤(アクチベーター)としては、アスコルビン酸、チオ尿素化合物、たとえばベンジルチオ尿素、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存)、シュウ酸、チオ尿素、および亜ジチオン酸または亜硫酸のアニオンの塩が挙げられる。好ましい還元剤としては、ベンゾイルチオ尿素などのチオ尿素化合物が挙げられる。
【0100】
好ましい実施形態では、酸化剤はペルオキシドまたはヒドロペルオキシドであり、および/または還元剤はチオ尿素化合物である。
【0101】
好ましい実施形態では、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、組成物の総重量に基づき、0.5~5重量パーセント、より好ましくは0.7~4重量パーセントの、重合可能なレジン成分の重合を開始するための重合開始剤系を含む。
【0102】
水成分(e)
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、水を含む。好ましい実施形態では、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、組成物の総重量に基づき、10~30重量パーセント、より好ましくは15~25重量パーセントの水を含む。
【0103】
好ましい実施形態では、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、組成物の総重量に基づき、
(a)10~30重量パーセントの重合可能なレジン成分と、
(b)5~20重量パーセントのポリ酸ポリマー成分と、
(c)35~65重量パーセントの、セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛、およびセメント反応においてポリ酸ポリマーと反応できない不活性な粒子状のフィラーを含むフィラー成分と、
(d)0.5~5重量パーセントの、重合可能なレジン成分の重合を開始するための重合開始剤系と、
(e)10~30重量パーセントの水
を含む。
【0104】
本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物はまた、US-A 4,089,830、US-A 4,209,434、US-A 4,317,681、およびUS-A 4,374,936に記載のようにセメントを調節する場合、作業時間および設定時間をそれぞれ調節するために、酒石酸などの遅延剤または修正剤を含み得る。全般的に、作業時間の増大は、設定時間の増大ももたらす。「作業時間(working time)」は、イオノマーおよび修飾された粒子状の反応性フィラーが水の存在下で組み合わせられる際の設定反応の開始と、意図する歯科用または医療用のアプリケーションのために系にさらなる物理的な作業を行うこと、たとえば系をへらで伸ばす(spatulate)または系を再形成すること、がもはや実用的ではない時点まで設定反応が進行する時間との間の時間である。「設定時間」は、再建物での設定反応の開始から、再建物の表面で行われるその後の臨床上または外科的な手法を可能にするために十分な硬化が行われた時間までを測定した時間である。
【0105】
設定反応において、粒子状の反応性のガラスは、塩基のように作用し、酸性のイオノマーと反応して、結合マトリックスとして作用する金属のポリ塩を形成する(Prosser, J. Chem. Tech. Biotechnol. 29 : 69-87(1979))。さらに、重合可能な基の存在により、さらなる架橋が起こる。これにより、セメントの中の結合は、イオン塩の架橋だけでなく、共有結合および錯体結合にも依存する。よって設定反応は、水の存在下で自動的に進む化学的な硬化系を特徴とする。このセメントは数分以内にゲル様状態に向かい、強度を発達させるように迅速に硬化する。
【0106】
歯科用組成物は、マルチパック(multi-pack)、好ましくは2つのパックの組成物である。本組成物は、ペースト/ペーストの系、粉末/液体の系、または液体/ペーストの系であり得る。本組成物は、これら成分の未成熟な硬化を回避するように設計される。この目的のため、反応性無機性のフィラー成分およびいずれかの酸性基を含む成分は、未成熟なセメント反応を回避するように製剤化されなければならない。第1の実施形態では、反応性無機性ガラスは、第1のパックに含まれ、いずれかの酸性基を含む成分は、第2のパックに含まれる。第1のパックは、粉末またはペーストであり得る。第2のパックは、液体またはペーストであり得る。第2の実施形態では、第1のパックは、反応性無機性フィラーおよびポリアクリル酸などの固体のポリ酸ポリマーを含む粉末であり、第2のパックは、ペーストまたは液体であり、さらなる酸性基を含む成分を含む。
【0107】
液体に対する粉末の比は、混合されたイオノマーセメント系の作業可能性に影響を与える。20:1よりも高い重量比は、不十分な作業可能性を呈する傾向があり、1;1未満の比は、不十分な機械的性質、たとえば強度を呈する傾向があり、よって好ましくない。好ましい比は、約1:3~約6:1であり、好ましくは約1:1~4:1の次数である。
【0108】
好ましい実施形態では、本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物は、非水系の中性ペーストおよび水系の酸性ペーストからなるペースト/ペースト組成物である。好ましくは、中性ペーストは、重合可能なレジン成分、セメント反応においてポリ酸ポリマー成分と反応するのに適したフィラーを含む粒子状の酸化亜鉛、酸化剤または還元剤、ならびに任意選択で不活性な粒子状のフィラーを含み、酸性ペーストは、ポリ酸ポリマー成分、還元剤または酸化剤、水、および任意選択で不活性な粒子状のフィラーを含む。
【0109】
レジン添加型歯科用合着セメント組成物は、好ましくは、デュアルバレルシリンジまたは使い捨ての2つのチャンバーユニットにパッケージされる。
【0110】
また本発明は、アバットメントにインプラント再建物を接着させるのに使用するための本発明に係るレジン添加型歯科用合着セメント組成物の使用を提供する。
【0111】
また本発明は、歯科用セメント組成物を調製するための、以下の式(I):
【化9】
(式中、
およびRは、同じであるかまたは異なり得、独立して水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し、
は、同じであるかまたは1超のRが存在する場合は異なり得、独立して、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
は、水素原子またはC1-6アルキル基またはC1-6フルオロアルキル基を表し;
aは、1~4の整数であり;
bは、0または1~9の整数であり;
cは、0または1~9の整数である)
の化合物の使用を提供する。
【0112】
好ましくは、歯科用セメント組成物は、合着用セメント、より好ましくはインプラントセメントである。好ましくは、インプラントセメントは、HEMAまたはビス-GMAを含まない。
【0113】
実施例
略語
AHPMA-3-(アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリラート
BADEP-1,3-ビス(アクリルアミド)-N,N’-ジエチル-プロパン
CA-接触角
CR-クラウン保持
CRB-クラウン除去性
CS-圧縮強度
FS-曲げ強さ
FM-曲げ弾性率
HEMA-2-ヒドロキシエチルメタクリラート
HMAE-2-[2-ヒドロキシエトキシ)-メチル]アクリル酸-エチルエステル
PAA-ポリ(アクリル酸)(Mw=30kDa)
PEM-360-ポリ(エチレングリコール)メタクリラート(Mn=360g/mol)
反応性亜鉛 フィラーA-亜鉛ガラス、エッチング済み
反応性亜鉛 フィラーB-亜鉛ガラス、ZnOおよびMgOと混合
UDMA-2-プロペン酸,2-メチル,7,7,9(または7,9,9)-トリメチル-4,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジイルエステル
【0114】
方法
圧縮強度(CS)
圧縮強度は、ISO 9917-1に従い測定した。
【0115】
接触角(CA)
接触角(前進)の測定は、DataPhysics製のOCA 15EC装置で行った。
【0116】
クラウン保持(CR)
Ankylosのストックアバットメント(Ankylos Regular /X, GH 3.0, A0)を、Ankylosのストックインプラント(Ankylos C/X, φ3.5mm,長さ14mm)の上に最大15Ncmの力で取り付けた。このスクリューチャネルを、Aquasil Soft Putty(Dentsply Sirona)を使用して閉鎖した後に、アバットメントを、アセトンを使用して脱脂した。ステンレス鋼または酸化ジルコニウム(Cercon base, DeguDent)由来の模造クラウン(図1参照、アバットメントまでの全体のギャップ:80μm)を、試験する合着用セメントで充填し、アバットメントの上に押圧した。次に、このアセンブリを、10分間2.5kgで垂直軸に沿って充填した。この間、過剰なセメントを除去した。このアセンブリを、37℃で24時間、100%のrel.H.(相対湿度)で保存した後に、線形の保持を、Zwick/Roell製の物質試験装置(最初の充填 1N、試験速度 0.5mm/分)を使用して測定した。各試験を、少なくとも5回反復した。
【0117】
クラウン除去性(CRB)
サンプル調製をCRの測定と同一に行った。しかしながら、模造クラウンの取り外し用の物質試験装置を使用する代わりに、市販のクラウン除去器具(S-U-Crown-Butler, Schuler-Dental)を、3の設定3で使用した。各試験を、少なくとも5回反復した。
【0118】
曲げ強さ/曲げ弾性率(FS/FM)
曲げ強さ/弾性率を、ISO 9917-2に従い測定した。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
酸性ペーストおよび中性ペーストの製剤
表1~3により記載される量の成分を、遮光性のプラスチック容器に入れ、その中に穴の付いた蓋で閉鎖した。その後、各容器をSpeedMixer DAC 600-2 VAC-P(Hauschild)に入れ、2500rpmで2分間にて2回および1000rpm/100mbarで1分間にて1回混合した。蓋の穴を遮光性のセロハンテープで閉鎖し、容器をさらに使用するまで室温で保存した。
【0123】
合着用セメントの調製
ダブルバレルシリンジ(MixPac, 1:1/V:V,スタティックミキサー:ML 2.5-12-S)を使用して、酸性-中性のペーストを、表4にしたがい混合した
【0124】
結果
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15