(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】肝臓機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230818BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20230818BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20230818BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20230818BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230818BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20230818BHJP
A23K 20/111 20160101ALI20230818BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20230818BHJP
【FI】
A23L33/105 ZNA
A23L33/12
A61K31/05
A61K36/899
A61P1/16
A23K10/30
A23K20/111
A23K20/158
(21)【出願番号】P 2021520792
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019742
(87)【国際公開番号】W WO2020235546
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2019095658
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227489
【氏名又は名称】日東富士製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】平賀 由水香
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸二郎
(72)【発明者】
【氏名】倉科 瑛衣
(72)【発明者】
【氏名】高柳 雅義
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康人
(72)【発明者】
【氏名】大島 秀男
(72)【発明者】
【氏名】小泉 武嗣
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/193962(WO,A1)
【文献】特開2014-139166(JP,A)
【文献】Sci. Rep.,2017年,7:43679,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 31/00-31/80
A61P 1/16
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のレゾルシノール性脂質を有効成分とし、肝炎の症状を改善するために用いられる、肝臓機能改善用組成物。
【請求項2】
前記レゾルシノール性脂質は、アルキルレゾルシノールである、請求項1記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項3】
前記レゾルシノール性脂質は、イネ科植物由来である、請求項1又は2記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項4】
前記レゾルシノール性脂質は、小麦及び/又はライ麦の糟糠類及び/又は全穀粒由来である、請求項1~3のいずれか1項に記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項5】
レゾルシノール性脂質を含有する植物の溶媒抽出物からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項6】
前記溶媒がエタノール及び/又はヘキサンである、請求項5記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項7】
非アルコール性肝炎の症状を改善するために用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項8】
非アルコール性肝炎による肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するために用いられる、請求項
7記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項9】
飲食品、食品添加物、医薬品、サプリメント、又は動物飼料として提供される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の肝臓機能改善用組成物。
【請求項10】
肝炎の症状を改善するために用いられる、肝臓機能改善用組成物の調製のための植物由来のレゾルシノール性
脂質の使用。
【請求項11】
前記レゾルシノール性脂質は、アルキルレゾルシノールである、請求項
10記載の使用。
【請求項12】
前記レゾルシノール性脂質は、イネ科植物由来である、請求項
10又は
11記載の使用。
【請求項13】
前記レゾルシノール性脂質は、小麦及び/又はライ麦の糟糠類及び/又は全穀粒由来である、請求項
10~
12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記肝臓機能改善用組成物は、レゾルシノール性脂質を含有する植物の溶媒抽出物からなる、請求項
10~
13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記溶媒がエタノール及び/又はヘキサンである、請求項
14記載の使用。
【請求項16】
前記肝臓機能改善用組成物は、非アルコール性肝炎の症状を改善するために用いられる、請求項
10~
15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記肝臓機能改善用組成物は、非アルコール性肝炎による肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するために用いられる、請求項
16記載の使用。
【請求項18】
前記肝臓機能改善用組成物は、飲食品、食品添加物、医薬品、サプリメント、又は動物飼料として提供される、請求項
10~
17のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来成分を利用した肝臓機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レゾルシノール性脂質は、レゾルシノール(1,3-ジヒドロキシベンゼン)の芳香環の2位、4位、5位、及び/又は6位にアルキル基を有してなる親油性物質である。天然には、イネ科植物の種子、特にその外皮(ふすま)、イチョウ葉、カシューナッツ殻油等に多く含まれている。近年では、このレゾルシノール性脂質について、例えば、口腔用抗菌、免疫抑制、抗糖尿病、抗炎症、腸内フローラ調整、抗コレステロール、抗肥満、睡眠改善、老化抑制、概日リズム調整など、ヒトに対する様々な機能性の報告がある(例えば、特許文献1~10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2613474号公報
【文献】特開2013-091612号公報
【文献】特許2014-139166号公報
【文献】特許2015-020993号公報
【文献】特許2015-218130号公報
【文献】特許2015-231986号公報
【文献】特許2016-132641号公報
【文献】特許2016-153387号公報
【文献】特許第5926616号公報
【文献】特許第5951448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、植物由来のレゾルシノール性油脂に肝機能を改善する効果の報告はない。
【0005】
本発明の目的は、植物由来のレゾルシノール性油脂を利用して、例えば、非アルコール性肝炎の症状の改善に有用な、肝臓機能改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、第1の観点では、植物由来のレゾルシノール性脂質を有効成分とする肝臓機能改善用組成物を提供するものである。
【0007】
本発明による肝臓機能改善用組成物においては、前記レゾルシノール性脂質は、アルキルレゾルシノールであることが好ましい。
【0008】
また、その組成物においては、前記レゾルシノール性脂質は、イネ科植物由来であることが好ましい。
【0009】
また、その組成物においては、前記レゾルシノール性脂質は、小麦及び/又はライ麦の糟糠類及び/又は全穀粒由来であることが好ましい。
【0010】
また、その組成物においては、該肝臓機能改善用組成物は、レゾルシノール性脂質を含有する植物の溶媒抽出物からなることが好ましい。
【0011】
また、その組成物においては、該肝臓機能改善用組成物がレゾルシノール性脂質を含有する植物の溶媒抽出物からなるものである場合には、前記溶媒がエタノール及び/又はヘキサンであることが好ましい。
【0012】
また、その組成物においては、該肝臓機能改善用組成物は、肝炎の症状を改善するために用いられるものであることが好ましい。
【0013】
また、その組成物においては、該肝臓機能改善用組成物は、非アルコール性肝炎の症状を改善するために用いられるものであることが好ましい。
【0014】
また、その組成物においては、該肝臓機能改善用組成物は、非アルコール性肝炎による肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するために用いられるものであることが好ましい。
【0015】
また、その組成物においては、該肝臓機能改善用組成物は、飲食品、食品添加物、医薬品、サプリメント、又は動物飼料として提供されるものであることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、第2の観点では、肝臓機能改善用組成物の調製のための植物由来のレゾルシノール性油脂の使用を提供するものである。
【0017】
本発明による植物由来のレゾルシノール性油脂の使用においては、該レゾルシノール性脂質は、アルキルレゾルシノールであることが好ましい。
【0018】
また、その使用においては、前記レゾルシノール性脂質は、イネ科植物由来であることが好ましい。
【0019】
また、その使用においては、前記レゾルシノール性脂質は、小麦及び/又はライ麦の糟糠類及び/又は全穀粒由来であることが好ましい。
【0020】
また、その使用においては、前記肝臓機能改善用組成物は、レゾルシノール性脂質を含有する植物の溶媒抽出物からなることが好ましい。
【0021】
また、その使用においては、前記肝臓機能改善用組成物がレゾルシノール性脂質を含有する植物の溶媒抽出物からなるものである場合には、前記溶媒がエタノール及び/又はヘキサンであることが好ましい。
【0022】
また、その使用においては、前記肝臓機能改善用組成物は、肝炎の症状を改善するために用いられるものであることが好ましい。
【0023】
また、その使用においては、前記肝臓機能改善用組成物は、非アルコール性肝炎の症状を改善するために用いられるものであることが好ましい。
【0024】
また、その使用においては、前記肝臓機能改善用組成物は、非アルコール性肝炎による肝臓の中性脂肪蓄積を抑制するために用いられるものであることが好ましい。
【0025】
また、その使用においては、前記肝臓機能改善用組成物は、飲食品、食品添加物、医薬品、サプリメント、又は動物飼料として提供されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、植物由来のレゾルシノール性油脂を利用して、例えば、非アルコール性肝炎の症状の改善に有用な、肝臓機能改善用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】試験例2において各群の体重増加量の試験期間中の推移を調べた結果を示す図表である。
【
図2】試験例2において各群の飼料摂餌量の試験期間中の推移を調べた結果を示す図表である。
【
図3】試験例3において各群のAST値の試験期間中の推移を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。また、対照群(C群)に対する統計的有意差をDunnett の多重比較検定法で求め、図中「*」は危険率p<0.05で有意差があることを示す。
【
図4】試験例3において各群のALT値の試験期間中の推移を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。また、対照群(C群)に対する統計的有意差をDunnett の多重比較検定法で求め、図中「*」は危険率p<0.05で有意差があることを示す。
【
図5】試験例4において各群の肝臓組織における中性脂肪量を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。
【
図6】試験例5において各群の肝臓組織をHE染色により調べた結果を示す図表である。
【
図7】試験例6において各群の肝臓組織中のPPARγ遺伝子の発現量を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。
【
図8A】試験例7において各群の肝臓組織中のPGC-1α遺伝子の発現量を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。また、対照群(C群)に対する統計的有意差をDunnett の多重比較検定法で求め、図中「*」は危険率p<0.05で有意差があることを示す。
【
図8B】試験例7において各群の肝臓組織中のPPARα遺伝子の発現量を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。また、対照群(C群)に対する統計的有意差をDunnett の多重比較検定法で求め、図中「*」は危険率p<0.05で有意差があることを示す。
【
図8C】試験例7において各群の肝臓組織中のアジポネクチン遺伝子の発現量を調べた結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。また、対照群(C群)に対する統計的有意差をDunnett の多重比較検定法で求め、図中「*」は危険率p<0.05で有意差があることを示す。
【
図9】試験例8において各群の肝臓組織の細胞内ミトコンドリア数についてゲノムDNA量に対するミトコンドリアDNA量の量比により評価した結果を示す図表である。結果は、各群(n=5~6)における平均値とその標準偏差で表した。また、対照群(C群)に対する統計的有意差をDunnett の多重比較検定法で求め、図中「*」は危険率p<0.05で有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明においては、肝臓機能改善用組成物の有効成分として、植物由来のレゾルシノール性脂質を用いる。
【0029】
上述したとおり、レゾルシノール性脂質は、レゾルシノール(1,3-ジヒドロキシベンゼン)の芳香環の2位、4位、5位、及び/又は6位にアルキル基を有してなる親油性物質である。天然には、ウルシ科、イチョウ科、ヤマモガシ科、ヤブコウジ科、サクラソウ科、ニクズク科、アヤメ科、サトイモ科、マメ科、イネ科等に属する植物、キク科のヨモギなどに多くみられる。これらの植物のなかでも、小麦、ライ麦等のイネ科植物には、その可食部(種子)にレゾルシノール性脂質が比較的豊富に含まれているため、本発明に用いるレゾルシノール性脂質の原料体として好適に用いられ得る。例えば、小麦、ライ麦等の可食部(種子)の糟糠類や全穀粒中には、下記式(I)に示すアルキルレゾルシノール化合物が0.015~0.3質量%程度含まれている。なお、小麦やライ麦を原料とする味噌等発酵物なども、本発明に用いるレゾルシノール性脂質の好ましい原料体として例示し得る。
【0030】
本発明に用いるレゾルシノール性脂質としては、典型的には、下記式(I)で表されるアルキルレゾルシノール化合物が挙げられる。
【0031】
【0032】
式(I)中、R1は、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基を表す。R1で表されるアルキル基の炭素数は、制限されるものではないが、好ましくは1~27、より好ましくは3~27、更に好ましくは5~27である。
【0033】
式(I)中、好ましくは、R1は、飽和又は不飽和の直鎖アルキル基であり、より好ましくは飽和直鎖アルキル基である。R1で表される飽和直鎖アルキル基の例としては、メチル、n-プロピル、n-ペンチル、n-ヘプチル、n-ノニル、n-ウンデシル、n-トリデシル、n-ペンタデシル、n-ヘプタデシル、n-ノナデシル、n-ヘンイコシル、n-トリコシルなどが挙げられる。
【0034】
式(I)中、R1で表される不飽和直鎖アルキル基の不飽和結合の位置や数は、特に制限されるものではない。その不飽和直鎖アルキル基の例としては、上述した飽和直鎖アルキル基の炭素鎖上の任意の位置に不飽和結合を有するアルキル基が挙げられる。
【0035】
式(I)中、R1で表される飽和又は不飽和の分岐鎖アルキル基の分岐の位置や数、もしくは不飽和結合の位置や数は、特に制限されるものではない。
【0036】
上記式(I)化合物の好ましい例としては、以下が挙げられる。
【0037】
5-ペンチルレゾルシノール[オリベトール、又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンチルベンゼン(C5:0)]
5-ヘプチルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプチルベンゼン(C7:0)]
5-ノニルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノニルベンゼン(C9:0)]
5-ウンデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ウンデシルベンゼン(C11:0)]
5-トリデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリデシルベンゼン(C13:0)]
5-ペンタデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)]
5-ヘプタデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)]
5-ノナデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0)]
5-ヘンイコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)]
5-トリコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0)]
5-ペンタコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)]
5-ヘプタコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタコシルベンゼン(C27:0)]
【0038】
本発明に用いる植物由来のレゾルシノール性脂質は、例えば、市販品を入手して用いてもよく、あるいは植物から常法により抽出して用いてもよい。例えば、上記式(I)化合物の市販品は、ReseaChem GmbH、SIGMA-ALDRICHなどから購入することができる。
【0039】
植物からの抽出方法としては、上記原料体を、常圧又は加圧下で室温又は加温した抽出溶媒中に必要に応じて撹拌しながら浸漬させる方法や還流抽出法などが挙げられる。上記原料体は、抽出溶媒に添加される前に、必要に応じて切断、粉砕、圧搾、乾燥、もしくはそれらの組み合わせにかけられてもよい。
【0040】
抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどの低級アルコール、もしくは1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールなどの室温で液体であるアルコール類;ジエチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類;酢酸ブチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類;ヘキサン;ならびにクロロホルム、などの有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の溶媒のうち、操作性や環境に対する影響などの点から、室温で液体であるアルコール類、例えば、炭素原子数1~4の低級アルコールを用いるのが好ましく、残留溶媒による安全性の観点からはエタノールを用いるのがより好ましい。
【0041】
抽出溶媒としては、更に、有機溶媒に水性成分が含まれている含水有機溶媒も包含され得る。抽出効率を高く保持する観点からは、その含水有機溶媒中の水性成分の含有量は、通常50体積%以下、好ましくは30体積%以下、より好ましくは20体積%以下であるのが望ましい。含水有機溶媒としては、好ましくは上記のような室温で液体であるアルコール類に水性成分が含まれている含水アルコール、より好ましくは含水エタノールが挙げられる。
【0042】
抽出のための温度、時間等の条件は、使用する抽出溶媒の種類や抽出条件などによって適宜設定することができるが、抽出温度は2~100℃、抽出時間は30分~60時間程度とするのが好ましい。抽出溶媒の量は、原料体100質量部に対し、好ましくは200~2000質量部程度にすればよい。また、抽出処理の後には、抽出液と残渣を含む混合物は、必要に応じて濾過又は遠心分離などに供し、残渣である固形成分を除去してもよい。更に、除去した固形成分を再度、抽出溶媒を用いた抽出操作に供することもでき、この操作を何回か繰り返してもよい。得られた抽出物は、液体クロマトグラフィー等にかけて、更に精製されたレゾルシノール性脂質を含んで成る抽出物を調製してもよい。このように精製する場合には、その精製度は、任意の形態中に、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂の含有量として、例えば、典型的に1質量%以上の範囲であり得、より典型的には5質量%以上の範囲であり得、更により典型的には10質量%以上の範囲であり得る。また、例えば、典型的に100質量%以下の範囲であり得、より典型的には90質量%以下の範囲であり得、更により典型的には80質量%以下の範囲であり得る。得られた抽出物は、そのまま、もしくは必要に応じて、更に濃縮、凍結乾燥、熱風乾燥、粉砕、粉末化、分級、希釈、加水混合などの処理を施した後、本発明に用いることができる。
【0043】
後述の実施例に示されるように、植物由来のレゾルシノール性脂質には、肝臓機能改善の作用効果がある。本発明は、このレゾルシノール性脂質の属性に基づいて、肝臓機能改善用組成物を提供するものである。なお「肝機能」とは、例えば、非アルコール性肝炎、アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎等の肝炎の症状の改善が挙げられる。また、肝炎以外にも、非アルコール性肝疾患、脂肪肝、肝硬変等の肝疾患の症状の改善が挙げられる。ただし、本発明による肝臓機能改善用組成物の適用は、これらの症状に限られるものではなく、広く肝機能を改善する目的に用いられ得る。症状が改善したかどうかは、例えば、肝臓機能の一般的な指標である血漿中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値やアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値を測定することなどにより、評価することができる。
【0044】
本発明による肝臓機能改善用組成物の投与量は、適用する個体の種、症状、年齢、性別などに応じて適宜変更され得る。ヒトを対象とする場合の投与量は、通常、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂を、成人1人1日当たり0.01~10gであり得る。当該1日投与量は、1回で投与されてもよいが、数回に分けて投与されてもよい。また、経口的に投与されることが、より好ましい。なお、適用対象はヒトに限られず、例えば、犬、猫等の動物用に適用することも可能である。
【0045】
本発明による肝臓機能改善用組成物の形態は、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂を摂取し得る形態であればよく、特に制限はない。例えば、当該形態としては、固形、半固形又は液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態等であり得る。また、例えば、健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品等の飲食品、そのための食品添加物、医薬品、サプリメント、家畜、競走馬、鑑賞動物、ペット等のための動物飼料等の形態であってもよい。すなわち、各形態の一部として、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂を含有せしめることによって、摂取し易い形態となすことができる。一方、本発明による肝臓機能改善用組成物は、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂から実質的に構成されていてもよい。よって、例えば、任意の形態中に、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂の含有量として、例えば、典型的に0.1質量%以上の範囲であり得、より典型的には0.5質量%以上の範囲であり得、更により典型的には1.0質量%以上の範囲であり得る。また、例えば、典型的に100質量%以下の範囲であり得、より典型的には90質量%以下の範囲であり得、更により典型的には80質量%以下の範囲であり得る。
【0046】
典型的な医薬品の形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられる。上記液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、上記錠剤および顆粒剤は周知の方法でその表面をコーティングされていてもよい。また上記注射剤は、必要に応じて溶解補助剤を含む、上記の植物由来のレゾルシノール性油脂の滅菌蒸留水又は滅菌生理食塩水の溶液又は懸濁液であり得る。
【0047】
上記医薬品の形態においては、必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、例えば賦形剤、安定化剤、その他の添加剤等を含有していてもよく、あるいは、更に他の薬効成分、例えば各種ビタミン類、ミネラル類、生薬等を含有していてもよい。
【0048】
典型的な飲食品の形態としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、ミネラルウォーター等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、クリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、菓子(例えばビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等が挙げられる。
【0049】
上記飲食品の形態においては、必要に応じて食品に許容される他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(たとえば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を含有していてもよく、あるいは、更に他の薬効成分、例えば各種ビタミン類、ミネラル類、生薬等を含有していてもよい。
【0050】
典型的な食品添加物の形態としては、上記に例示されるような飲食品に配合可能な組成や形態であればよい。
【0051】
典型的な動物飼料の形態としては、動物用である以外は、上記に例示されるよう飲食品の組成や形態にほぼ準じた組成や形態となすことが可能である。
【0052】
典型的なサプリメントの形態としては、上記した形態のうちの経口用組成物である。例えば、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ等の形態となすことが可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<調製例1> ~アルキルレゾルシノールの調製~
ライ麦ふすま(約9.4kg)を減圧乾燥し(80℃、16時間)、乾燥した原料に対し5倍量の99%エタノールを添加し、加温下に撹拌抽出した(60℃、1時間)。その後、固液分離して濾液Aを得、その残渣には等倍量の99%エタノールを添加し、更にリンス後に固液分離して濾液Bを得た。得られた濾液Aと濾液Bを合わせ、減圧濃縮して、ライ麦ふすまエタノール抽出物516gを得た。
【0055】
ライ麦ふすまエタノール抽出物463gに、精製水5.8Lと99%エタノール5.8Lを添加し、60℃の水浴上で1時間撹拌した後、α-シクロデキストリン696gを添加して更に1時間撹拌、混合した。これを噴霧乾燥して、スプレードライ品649gを得、更に、粒度調整(10メッシュパス)して、ライ麦ふすまエタノール抽出物乾燥品639gを得た。
【0056】
上記乾燥品をヘキサン2Lで溶解し、シリカ順相クロマトグラフィーにより精製を行った。カラムは、山善社製ハイフラッシュカラム シリカ 5L カタログ番:W007(カラム内径×カラム長:60×180mm、充填剤量:250g)を用いた。クロマト条件は、流速70mL/min、検出波長280nm、移動相(ヘキサン/酢酸エチル:90/10(v/v)を9分間→80/20(v/v)を15分間→60/40(v/v)を16分間のステップグラジエント)とし、溶出時間30分~40分の間の溶出液を分取した。分取物は減圧乾燥し、乾固物50gを得た。
【0057】
<試験例1> ~高速液体クロマトグラフィーによる分析~
調製例1で得られた乾固物中のアルキルレゾルシノール量を高速液体クロマトグラフィーによる分析法で定量した。なお、以下、アルキルレゾルシノールのことを「ARs」又は「AR」という場合がある。
【0058】
具体的には、分析カラムとしては、GL science社 Inertsil ODS4を使用し、分析条件としては、流速1mL/min、検出波長275nm、カラム温度40℃、移動相(89v/v%メタノール→(5分間)→92v/v%メタノール→(25分間)→100%メタノールのグラディエント)で実施した。アルキルレゾルシノールの標準品としては、市販のオリベトール(炭素数5の直鎖状のアルキル鎖を有するAR:シグマ・アルドリッチ)を用いた。オリベトールとはアルキル鎖長の異なる各ARの定量については、予め溶出位置は特定しておき、実測されたピーク面積について、それぞれの分子量をオリベトールの分子量で除した値を係数として、その係数で乗じることにより、換算した。
【0059】
その結果、調製例1で得られた乾固物は、その50g中に6.8gのARsが含有していることが確認された。
【0060】
<試験例2> ~肝炎モデルマウスによる動物試験~
非アルコール性脂肪肝炎モデルマウス(日本チャールス・リバー社製、C57BL/6NASHマウス雄)を6週齢の時点で搬入後、2日間の馴化期間を経て、1ケージあたり6匹飼育した。マウスの飼育は、12時間間隔の明暗サイクル(明期:午前8時-午後20時)で維持された恒温・恒湿室で行い、馴化期間後、下記に示す各試験群に応じた飼料を自由摂取させた。
【0061】
・対照群(C群):被検物質を配合しない対照飼料
・レスベラトロール摂取群(R群):レスベラトロール(東京化成工業株式会社)を0.4質量%配合した飼料
・ARs高摂取群(AH群):ARsを0.9質量%配合した飼料
・ARs低摂取群(AL群):ARsを0.3質量%配合した飼料
【0062】
試験期間中、体重の測定を1日に1回行った。また、採血は1週間に1回行い、マウス尾静脈より採血して血漿を得た。血漿は測定に使用するまで-80℃で保存した。また、試験最終日には体重を測定した後、ジエチルエーテルによる麻酔下で採血し、屠殺後すぐに肝臓を摘出し、秤量後、ドライアイスで凍結して、半分に分けてから1.5mLチューブにそれぞれ入れ、-80℃で保存した。
【0063】
【0064】
図1に示されるように、試験期間中、対照群(C群)では体重増加がほとんどみられなかった。本試験例で使用したマウスは、6週齢であり成長期のマウスであるため通常であれば体重が増加するが、肝炎モデルマウスであるため栄養の代謝異常をきたし、体重増加が抑制されたものと考えられた。これに対して、ARs低摂取群(AL群)及びARs高摂取群(AH群)では、体重の増加が確認された。これはARs摂取により肝炎が抑制されて、その結果栄養の代謝異常も改善したためと考えられた。一方、肝臓等の臓器への脂肪蓄積を抑制する効果があることが知られているレスベラトロールの摂取群(R群)では、肝炎モデルマウスにおける体重の増加抑制を改善できなかった。これは、ARsによる作用効果は、単に一般的な脂肪代謝改善の結果としての作用効果ではなく、肝炎の症状に対してして特有の作用効果であるからと考えられた。
【0065】
一方、
図2には、各群の飼料摂餌量の試験期間中の推移を示す。
図2に示されるように、いずれの群も摂餌量に大きな違いはみられなかった。
【0066】
<試験例3> ~血漿中のAST値及びALT値の測定~
肝臓機能の一般的な指標である血漿中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値を測定した。測定は、トランスアミナーゼCII-テストワコー(富士フィルム和光純薬社製)を用いて、同社説明書に従い実施した。
【0067】
【0068】
図3に示されるように、対照群(C群)においては0週から4週目までAST値が増加し、肝炎の進行が確認された。これに対して、ARs低摂取群(AL群)及びARs高摂取群(AH群)においては、共にAST値の増加が抑制されていた。抑制の程度は高摂取群のほうが低摂取群に比べ顕著であった。一方、レスベラトロールの摂取群(R群)では、ほぼ対照群(C群)と同程度の水準で推移した。
【0069】
【0070】
図4に示されるように、対照群(C群)においては0週から4週目までALT値が増加し、肝炎の進行が確認された。これに対して、ARs低摂取群(AL群)及びARs高摂取群(AH群)においては、共にALT値の増加が抑制されていた。抑制の程度は高摂取群(AH群)の方が低摂取群(AL群)に比べ顕著であった。一方、レスベラトロールの摂取群(R群)では、ほぼ対照群(C群)と同程度の水準で推移した。
【0071】
以上の
図3及び
図4の結果に示されたとおり、ARsには、摂取量依存的に肝炎を抑制する効果があることが明らかとなった。その作用効果は、一般に肝臓等の臓器への脂肪蓄積を抑制することが知られたレスベラトロールでは奏しない、肝炎の症状に対する特有の作用効果であった。
【0072】
<試験例4> ~肝臓組織における中性脂肪量の測定~
凍結肝臓組織50mgをチューブに入れ、これに、クロロホルムとメタノールをそれぞれ2:1の液量割合で含む混液1mLを添加した。ホモジナイザーでペースト状になるまで粉砕し、全混合物を室温で15-20分間シェーカーを用いて撹拌した。ホモジネートを15000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清に生理用食塩水0.5mLを添加し、数秒間混合した。混合物を2000rpmで1分間遠心分離し、上部相を除去する操作を2回繰り返した。下部クロロホルム相を減圧乾燥し、乾固物をエタノールで100μLずつ懸濁し、エタノールに45μLずつ添加して混合した。これをサンプルとして、中性脂肪量を測定した。
【0073】
測定には、トリグリセライド E-テストワコー(富士フイルム和光純薬社製)を用い、同社説明書に従い実施した。結果を
図5に示す。
【0074】
図5に示されるように、対照群(C群)においては中性脂肪量が130mg/gと明確な脂肪肝の数値を示した。これに対して、ARs低摂取群(AL群)及びARs高摂取群(AH群)においては、共に60mg/g以下と半減していた。これらの数値は正常な中性脂肪量の範囲に収まっていた。一方、肝臓等の臓器への脂肪蓄積を抑制する効果があることが知られているレスベラトロールの摂取群(R群)では、肝炎モデルマウスにおける肝臓組織中の中性脂肪量は是正できなかった。よって、アルキルレゾルシノール摂取による作用効果は、単に一般的な脂肪代謝改善の結果としての作用効果ではなく、肝炎の症状に対して特有の作用効果であると考えられた。
【0075】
<試験例5> ~肝臓組織の病理評価~
凍結肝臓組織をパラフィン包埋し、スライスした。作製した切片について、常法により、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。各群の肝臓組織のHE染色の結果を
図6に示す。
【0076】
図6に示されるように、対照群(C群)の肝臓組織においては脂肪滴由来の空包が確認されその大きさ、数ともに多く、明確な脂肪肝像を示していた。これに対して、ARs低摂取群(AL群)及びARs高摂取群(AH群)においては、ともに空包の数も大きさも抑制されていた。一方、レスベラトロールの摂取群(R群)では効果がほとんどみられなかった。よって、試験例4の結果と同様に、アルキルレゾルシノール摂取によって肝臓組織中の中性脂肪量が是正される作用効果は、単に一般的な脂肪代謝改善の結果としての作用効果ではなく、肝炎の症状に対してして特有の作用効果であると考えられた。
【0077】
<試験例6> ~肝臓組織中のPPARγ遺伝子発現量の測定~
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(Peroxisome Proliferators-Activated Receptorγ)(PPARγ)は核内受容体スーパーファミリーに属するタンパク質で脂質代謝に重要な働きを示すことが知られている。このPPARγのリガンドであるピオグリタゾン(糖尿病薬として応用されている)は、非アルコール性肝炎治療薬としても有効である。このことから、PPARγの機能増強が、非アルコール性肝炎治療約の有用な標的であると考えられた。そこで本試験例では、肝臓組織中のPPARγ遺伝子の発現量を調べた。具体的には、以下のようにして定量PCRにより測定した。
【0078】
肝臓組織からのTotal RNAの調製は「NucleoSpin(登録商標) RNA IIキット(タカラバイオ株式会社製)」を用いて、同社説明書に従い実施した。Total RNAからのcDNA合成は「Protoscript (登録商標)II First strand cDNA Synthesis Kit (NEW ENGLAND BioLabs 社製)」を用いて、同社説明書に従い実施した。
【0079】
作製したcDNAを用いた定量PCRは「MyGo Mini Real Time PCR 装置(フナコシ社製)」を用い、Luna universal LPCR Mix(NEW ENGLAND BioLabs 社製)を用いて、同社説明書に従い実施した。プライマーは下記配列を使用した。
【0080】
(PPARγ用)
フォワード:5’-TGTCGGTTTCAGAAGTGCCTTG-3’(配列番号1)
リバース:5’-TTCAGCTGGTCGATATCACTGGAG-3’ (配列番号2)
(βアクチン用)
フォワード:5’-TGACAGGATGCAGAAGGAGA-3’ (配列番号3)
リバース:5’-GCTGGAAGGTGGACAGTGAG-3’ (配列番号4)
【0081】
PCR反応は下記条件で実施した。
(95℃ 30秒→95℃ 5秒→60℃ 30秒)×40サイクル→95℃60秒
【0082】
肝臓組織中のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)遺伝子発現量について、対照群(C群)を100%としたときの各群の相対値を比較した。結果を
図7に示す。
【0083】
図7に示されるように、ARs高摂取群(AH)における肝臓組織中において対照群(C群)に比べ3.5倍程度PPARγ遺伝子発現量が増加していた。よって、アルキルレゾルシノールによる肝機能改善効果には、PPARγ遺伝子に対する発現増強の作用効果が関与していることが示唆された。
【0084】
<試験例7> ~肝臓組織中の各種遺伝子発現量の測定~
脂質代謝に重要な働きを示すことが知られている、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体コアクチベータ1α(Peroxisome Proliferators-Activated Receptor γ Coactivator-1α)(PGC-1α)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(Peroxisome Proliferators-Activated Receptor PPARα)、アジポネクチン(Adiponectin)の各種遺伝子について、肝臓組織中の遺伝子発現量を調べた。測定は、試験例6と同様にして定量PCRにより行った。そのためのプライマーは下記配列を使用した。
【0085】
(PGC-1α用)
フォワード:5’-AAGTGTGGAACTCTCTGGAACTG-3’(配列番号5)
リバース:5’-GGGTTATCTTGGTTGGCTTTATG-3’ (配列番号6)
(PPARα用)
フォワード:5’-AAGTGCCTGTCTGTCGGGATG-3’(配列番号7)
リバース:5’-CCAGAGATTTGAGGTCTGCAGTTTC-3’ (配列番号8)
(アジポネクチン用)
フォワード:5’-GTCAGTGGATCTGACGACACCAA-3’(配列番号9)
リバース:5’-ATGCCTGCCATCCAACCTG-3’ (配列番号10)
(βアクチン用)
フォワード:5’-TGACAGGATGCAGAAGGAGA-3’ (配列番号3)
リバース:5’-GCTGGAAGGTGGACAGTGAG-3’ (配列番号4)
【0086】
PCR反応は下記条件で実施した。
(95℃ 30秒→95℃ 5秒→60℃ 30秒)×40サイクル→95℃60秒
【0087】
肝臓組織中の遺伝子発現量について、対照群(C群)を100%としたときの各群の相対値を比較した。結果を
図8A~
図8Cに示す。
【0088】
図8A~
図8Cに示されるように、PGC-1α、PPARα、アジポネクチンの各遺伝子の肝臓組織中の発現量は、ARs摂取群で顕著に増加していた。特にPGC-1αやアジポネクチンの遺伝子発現量は、陽性対照のレスベラトロールの摂取群(R群)と比較しても、よりいっそう増加していた(
図8A、C)。よって、アルキルレゾルシノールによる肝機能改善効果には、これら遺伝子に対する発現増強の作用効果が関与していることが示唆された。
【0089】
<試験例8> ~肝臓組織の細胞内ミトコンドリア数の評価~
試験例7においてアルキルレゾルシノール摂取群で遺伝子発現量が増加していることが確認されたPGC-1αは、その遺伝子発現増強によって、ミトコンドリア数の上昇、酸化的リン酸化の促進、TCAサイクルの活性化、β酸化による脂質燃焼促進、糖新生、ケトン体合成促進などがもたらされることが知られている。
【0090】
本試験例では、肝臓組織の細胞内ミトコンドリア数について調べた。具体的には、以下のようにして行った定量PCRにより測定したゲノムDNA量に対するミトコンドリアDNA量の量比を比較することで、肝臓組織の細胞内ミトコンドリア数について評価した。
【0091】
肝臓組織からのDNA抽出は「NucleoSpin(登録商標)Tissueキット(タカラバイオ株式会社製)」を用いて、同社説明書に従い実施した。各DNAコピー数の定量は「Mouse Feeder Cell Quantification Kit(タカラバイオ株式会社製)」を用い、同社説明書に従い実施した。プライマーは下記配列を使用した。
【0092】
(ミトコンドリアDNA用)
フォワード:5’-AACCCCGCTCTACCTCACC-3’(配列番号11)
リバース:5’-GTAGCCCATTTCTTCCCATTT-3’ (配列番号12)
(ゲノムDNA用)
フォワード:5’-CGCGGTTCTATTTTGTTGGT-3’ (配列番号13)
リバース:5’-AGTCGGCATCGTTTATGGTC-3’ (配列番号14)
【0093】
PCR反応は下記条件で実施した。
(95℃ 30秒→95℃ 5秒→60℃ 30秒)×40サイクル→95℃60秒
【0094】
測定したゲノムDNA量に対するミトコンドリアDNA量の量比について、対照群(C群)を100%としたときの各群の相対値を比較した。結果を
図9に示す。
【0095】
図9に示されるように、レスベラトロールの摂取群(R群)では、対照群(C群)に比較して、細胞内ミトコンドリア数に変化はみられなかった。これに対して、ARs低摂取群(AL群)及びARs高摂取群(AH群)では、細胞内ミトコンドリア数が増加していた。よって、アルキルレゾルシノール摂取による肝機能改善効果には、肝臓組織細胞内のミトコンドリア数増加の作用効果が関与していることが示唆された。
【配列表】