(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】OBP促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9794 20170101AFI20230818BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230818BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20230818BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230818BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230818BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230818BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61Q19/00
A61Q17/00
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
A61K8/9789
(21)【出願番号】P 2022106314
(22)【出願日】2022-06-30
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021120800
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】中西 忍
(72)【発明者】
【氏名】飯島 彩未
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-319157(JP,A)
【文献】特開2001-261543(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112107526(CN,A)
【文献】特開2002-370998(JP,A)
【文献】特開2015-042970(JP,A)
【文献】特表2020-520371(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0055904(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113041192(CN,A)
【文献】皮膚に存在する嗅覚受容体に関する新知見を確認,FANCL,2021年06月16日,https://www.fancl.jp/laboratory/pdf/20210616_hihunisonzisurukyuukaijuyoutai.pdf,<研究背景・目的>,<本研究成果による製品開発>
【文献】A Synthetic Sandalwood Odorant Induces Wound-Healing Processes in Human Keratinocytes via the Olfactory Receptor OR2AT4,JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY,2014年,Vol.134, Issue 11,pp.2823-2832
【文献】Association between the rs2590498 polymorphism of Odorant Binding Protein (OBPIIa) gene and olfactory performance in healthy subjects,Behavioural Brain Research,2019年,Vol.372,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
G01N33/00-33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Science Direct
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
百合エキスを有効成分として含有することを特徴とする、OBP(odorant binding protein)発現促進剤。
【請求項2】
百合エキスが百合花エキスである、請求項1に記載のOBP発現促進剤。
【請求項3】
表皮細胞および/またはケラチノサイトにおけるOBPの発現を促進するために用いられる、請求項1または2に記載のOBP発現促進剤。
【請求項4】
OBP活性が低下した皮膚におけるOBPの発現を促進するために用いられる、請求項1または2に記載のOBP発現促進剤。
【請求項5】
皮膚の保湿機能および/またはバリア機能を向上させるために用いられる、請求項1または2に記載のOBP発現促進剤。
【請求項6】
有害物質による皮膚へのダメージを低減させるために用いられる、請求項1または2に記載のOBP発現促進剤。
【請求項7】
有害物質が、アルデヒド、脂肪酸、ならびに大気汚染物質から成る群より選択される、請求項6に記載のOBP発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OBP(odorant binding protein)の発現促進剤およびOBPの発現を促進または抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在までにヒト等の動物に有害な物質が数多く同定されている。しかしながら、有害か否かといった同定がされておらず、身体にダメージを与えるか否かといった影響が不明な物質も存在する。このような物質の一例として、目には見えない小分子や、揮発した物質や、蒸気等に物質を含む場合が考えられる。このような物質は、仮に接触していてもその自覚がなく、気づかずに慢性的に暴露し続けてしまい、徐々にダメージを受けてしまう可能性もある。
【0003】
このような有害物質から生体を防御する方法として、動物には、涙や鼻水などの体液により排出する機構がある。例えば、鼻は、有害な物質を臭いで感知するセンサーであるとともに、鼻腔内の粘膜を覆う鼻水により有害物質を捕捉する防御機能を有する。鼻水には、OBP(odorant binding protein)と呼ばれるタンパク質物質が含まれており、OBPが有害物質を捕捉することにより、外部からの有害物質が体内へ侵入することを防いでいる可能性が示唆されている。更にOBPは涙、前立腺、乳腺等にも含まれることが報告されている(非特許文献1~3)。
【0004】
皮膚では、防御機構として、角層のバリア機能等により大きな分子等は皮膚内部への侵入が阻止される。一方、OBPが捕捉するような小分子等は角化細胞を通過してしまう可能性が考えられる。このような分子がどのようにして皮膚から防御できるのかについての詳細な解明はあまり進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-286423号公報
【文献】特開平11-286428号公報
【文献】特開2012-32287号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】FEBS Journal 273(2006): 5131-5142
【文献】Free Radical Research(2014)48(7): 814-822
【文献】Biochemical Journal (2001) 356(1): 129-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の一つは、OBP(odorant binding protein)の発現を促進する物質を提供することである。また、本発明はOBPの発現を促進または抑制する物質のスクリーニング方法を提供することも目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くことに、本発明者らはセイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスといった物質がOBPの発現を促進することを見出した。かかる所見に基づき本発明者らは鋭意検討を重ね、OBP発現促進剤に係る本発明を為すに至った。
【0009】
本願は下記の発明を包含する:
(1)百合エキス、セイヨウバラエキス、および桜の花エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有することを特徴とする、OBP(odorant binding protein)発現促進剤。
(2)表皮細胞および/またはケラチノサイトにおけるOBPの発現を促進するために用いられる、項目1に記載のOBP発現促進剤。
(3)OBP活性が低下した皮膚におけるOBPの発現を促進するために用いられる、項目1または2に記載のOBP発現促進剤。
(4)皮膚の保湿機能および/またはバリア機能を向上させるために用いられる、項目1~3のいずれか1項に記載のOBP発現促進剤。
(5)有害物質による皮膚へのダメージを低減させるために用いられる、項目1~4のいずれか1項に記載のOBP発現促進剤。
(6)有害物質が、アルデヒド、脂肪酸、ならびに大気汚染物質から成る群より選択される、項目5に記載のOBP発現促進剤。
(7)百合エキス、セイヨウバラエキス、および桜の花エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有するOBP発現促進剤を適用することを含む、美容方法または非治療的方法。
(8)OBPの発現の促進における百合エキス、セイヨウバラエキス、および桜の花エキスから成る群より選択される物質の使用。
(9)百合エキス、セイヨウバラエキス、および桜の花エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有するOBP発現促進剤を含有する皮膚外用剤。
(10)百合エキス、セイヨウバラエキス、および桜の花エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有する皮膚有害物質抑制剤。
(11)OBPの発現を促進または抑制する物質のスクリーニング方法であって、細胞と該物質を接触させる工程、該細胞におけるOBP発現量を測定する工程、該物質の有無によるOBP発現量の変化を決定する工程を含む方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、OBPの発現促進剤が提供される。このOBP発現促進剤は、例えば、OBP活性が低下した皮膚(表皮細胞および/またはケラチノサイト)におけるOBPの発現を促進するために用いることができ、有害物質による皮膚へのダメージを低減させ、皮膚の保湿機能および/またはバリア機能を向上させるために用いられうる。また、本発明に係るスクリーニング方法によって、OBP発現促進剤として有用な物質を同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ケラチノサイトおよび3D皮膚モデルでOBP(OBP2AおよびOBP2B)の転写が観察されることを示すグラフである。
【
図2】
図2は、OBP2A/OBP2Bをノックダウンしたケラチノサイトの生存率に対してt-2-ノネナールが与える影響を示すグラフである。
【
図3】
図3は、OBP2A/OBP2Bをノックダウンしたケラチノサイトの生存率に対してオレイン酸が与える影響を示すグラフである。
【
図4】
図4は、OBP2A/OBP2Bをノックダウンしたケラチノサイトの生存率に対してパルミトレイン酸が与える影響を示すグラフである。
【
図5】
図5は、OBPがt-2-ノネナールを捕捉する様子を示したシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】
図6は、OBPがオレイン酸を捕捉する様子を示したシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図7は、OBPがパルミトレイン酸を捕捉する様子を示したシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図8は、植物エキスがOBPの転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図9】
図9は、桜の花エキスがフィラグリンの転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図10】
図10は、桜の花エキスがカリクレイン10の転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図11】
図11は、桜の花エキスがカスパーゼ14の転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図12】
図12は、百合エキスがフィラグリンの転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図13】
図13は、百合エキスがカリクレイン10の転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図14】
図14は、百合エキスがカスパーゼ14の転写量を増大させることを示すグラフである。
【
図15】
図15は、桜の花エキスと百合エキスがTEWLを改善することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[オドラント結合タンパク質]
OBP(odorant binding protein;オドラント結合タンパク質)は、多くの動物や昆虫に存在することが知られており、その構造は種によって様々であるものの、3つのジスルフィド結合により結合された6つのシステインが保存されたαヘリックス構造を有する10~30kDaのタンパク質である。脊椎動物では、OBPはリポカリンファミリーの一部であり、逆平行βシートで構成されるβバレルモチーフを有する。ヒトはOBP2A、OBP2B、LCN1の3種類のOBPを有する。OBP2Aは鼻水等に存在し、脂肪酸やアルデヒドに高い親和性を有する。OBP2Bは、前立腺や乳腺に存在し、LCN1は涙に存在する。
【0013】
OBPの機能は十分に確立されていないが、哺乳類の鼻粘膜における4-ヒドロキシ-2-ノネナールに対するスカベンジャーとして機能すること(非特許文献1)、ウシOBP単量体型の過剰発現により、大腸菌を化学物質による酸化ストレスから保護すること(非特許文献2)、ヒト涙リポカリンは、細胞培養系において、有害物資である可能性を有する脂質過酸化生成物の酸化ストレス誘発性スカベンジャーとして機能すること(非特許文献3)等が報告されていることから、外部有害物質から保護する役割を有する可能性が示唆されている。
【0014】
本発明者らは、これまでの研究を通して、OBPが皮膚にも存在することを発見した。分子量の大きな有害物質は角層等により皮膚内部への侵入を防ぐことができるが、分子量が小さいと角層を貫通して皮膚内部へ侵入してしまう恐れがある。皮膚に存在するOBPは、このような小分子から防御する役割を果たしていると考えられる。
【0015】
[OBP(odorant binding protein)発現促進剤]
本発明の一つの側面は、OBP(odorant binding protein)発現促進剤に関する。いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有することができる。OBPの発現促進とは、OBPの転写産物の量、及び/又はタンパク質の量を増加させることを指す。
【0016】
OBP発現促進剤の有効成分として用いられうる物質は、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスからなる群より選択される植物エキスでありうる。いくつかの実施態様においては、複数種の植物エキスを組み合わせて配合してもよい。
【0017】
発明において用いられる「植物エキス」は、使用部位として、全草、葉、花部、茎、根、子実等を用いることができる。なお、花部を使用する場合は、開花時期及び大きさ等は特に限定されるものではなく、花弁、又は萼、又はそれらの全部を含むものが使用され得る。これらの植物エキスは、当業者に公知の方法により、植物原料から抽出することができる。植物エキスは、例えば、溶媒を用いた抽出法、粉砕や圧搾工程を含む方法など、当業者に公知の任意の方法を用いて取得することができる。
【0018】
植物の抽出部位を、必要ならば予め水洗して異物を除いた後、そのまま又は乾燥した上、必要に応じて細切又は粉砕し、抽出溶媒と接触させて抽出を行う。抽出は、浸漬法等の常法に従って抽出溶媒と接触させることで行うことが可能であるが、超臨界抽出法や水蒸気蒸留法を用いてもよい。
【0019】
抽出溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール類;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、トリオクタン酸グリセリル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、イソプロピル、エーテル等のエーテル類;n-ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の炭化水素系溶媒等が挙げられ、それらは単独で若しくは二種以上混合して用いることができる。
【0020】
混合溶媒を用いる場合の混合比は、例えば水とエチルアルコールとの混合溶媒であれば、容量比(以下同じ)で1:1~25:1の範囲;水とグリセリンとの混合溶媒であれば1:1~15:1の範囲;あるいは、水と1,3-プロパンジオール若しくは1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒であれば、1:1~15:1の範囲とすることが好ましい。
【0021】
抽出物の調製を行う場合、pHは特に限定されないが、一般にはpH3~9の範囲とすることが好ましい。必要であれば、前記抽出溶媒に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性調整剤、又はクエン酸、塩酸、リン酸、硫酸等の酸性調整剤を配合し、所望のpHとなるように調整してもよい。
【0022】
抽出温度や、抽出時間等の抽出条件は、用いる溶媒の種類やpHによっても異なり、限定されないが、例えば、水もしくは1,3-ブチレングリコール、又は水と1,3-ブチレングリコールとの混液を溶媒とする場合であれば、抽出温度は0℃~90℃の範囲であればよく、又抽出時間は0.5時間~7日間であればよい。
【0023】
抽出処理に先立って、又は抽出処理と並行して、必要に応じて抽出部位に加水分解処理を施してもよい。これによって、当該抽出物の皮膚刺激性、有効性又は保存安定性等を改善して抽出物をより有効に利用できる可能性がある。
【0024】
また、市販の植物エキスを使用してもよい。
【0025】
いくつかの実施態様においては、本開示のOBP発現促進剤を例えば、化粧料、医薬部外品、医薬品、機能性食品等の組成物に配合しうる。化粧料に配合する場合、限定されないものの、日焼け止め、化粧水、美容液、乳液、美容クリーム、アフターケアローション等、皮膚に適用される任意の化粧料に配合することができる。このような組成物を、例えばOBP活性が低下した対象に投与することにより皮膚有害物質によるダメージを予防・改善することができる。
【0026】
本発明にかかるOBP発現促進剤は、その効果を損なわない範囲で、化粧品や医薬品等に用いられる任意配合成分を、必要に応じて適宜配合することができる。前記任意配合成分としては、例えば、油分、界面活性剤、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、pH調整剤、中和剤などが挙げられる。他の成分として、例えば抗炎症成分、美白成分などが含まれていてもよい。
【0027】
OBP発現促進剤中に含めるエキスの配合量は、当業者であれば適宜設定することができる。
【0028】
いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は皮膚組織、特に表皮細胞および/またはケラチノサイトにおけるOBPの発現を促進するために用いられうる。
【0029】
本開示に係るOBP発現促進剤は肌に適用することで、表皮細胞および/またはケラチノサイトにおけるOBPの発現促進を図るための美容方法に利用できる。かかる美容方法における本開示に係る皮膚外用剤の用法、用量は特に限定されるものではなく、剤型や処置する皮膚の状態により適宜決定されるが、典型的には、1日当たり数回、例えば1回~5回、適量、例えば1平方cm2当たり0.1mlから1ml、肌に直接すり込むか、又その適量をガーゼなどに染み込ませてから肌に貼付することができる。
【0030】
いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は、OBP活性が低下した皮膚におけるOBPの発現を促進するために用いられうる。OBP活性が低下する原因としては、例えば、老化、疲労等が挙げられる。
【0031】
例えば、老化、疲労等によりOBP活性が低下した場合、有害物質がOBPにより十分に捕捉出来ずに皮膚内部に侵入してしまう可能性が増加する。本発明は、皮膚有害物質が、OBP活性の低下した皮膚に対しダメージを与えることを予防するという点でも有用である。ここで、本明細書においてOBP活性の低下とは、OBPの量、発現量、及び/又は機能が低減することを指し、例えば、OBP遺伝子の発現量及び/又はOBPタンパク質量が、活性が低下していない状態に比べて、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば、Dunnettの検定等)をもって低減していること、あるいは、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%低減することを指すことがある。当業者であれば、公知の方法を用いて、OBP活性の低下を評価することができる。
【0032】
いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は、皮膚の保湿機能および/またはバリア機能を向上させるために用いられうる。
【0033】
表皮を構成する四層のうち、最外層に位置する角層は、皮膚のもっとも外側にあり外界からの異物の侵入を防ぐバリア機能や体内からの水分の蒸散を抑制する保湿機能を有する。角層のバリア機能や保湿機能が低下すると、肌荒れ、乾燥肌などのさまざまなトラブルを引き起こす。皮膚のバリア機能が失われると、皮膚の水分が失われ、また外部からの異物の侵入が生じ、敏感肌や乾燥肌、肌荒れをはじめ、皮膚炎及びアレルギーなどの原因となる。皮膚のバリア機能の指標としては、例えば、経表皮水分蒸発量(TEWL)や色素等の指標物質を用いた皮膚に対する浸透度などが挙げられる。皮膚のTEWLは、Vapometerなどの装置を用いて測定することができる。
【0034】
OBPの発現を促進することで、皮膚有害物質が皮膚に対しダメージを与えることを防ぐことにより、皮膚の保湿機能および/またはバリア機能の向上が達成されうる。
【0035】
いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は、有害物質による皮膚へのダメージを低減させるために用いられうる。
【0036】
皮膚ダメージは、有害物質による皮膚状態の悪化を指し、例えば、ヒトを含む動物の皮膚の菲薄化、毛穴の目立ち、毛穴すり鉢状部の拡大、キメの乱れ、及び/又は不全角化などが挙げられる。しかしながら、皮膚ダメージは、皮膚有害物質の種類によって異なるため、限定されない。
【0037】
有害物質は、例えば、アルデヒド、脂肪酸、大気汚染物質などでありうる。アルデヒドは、例えば、n-ヘキサナール、n-ヘプタナール、n-ノナナール、n-デカナール、ウンデカナール、n-ドデカナール、ベンズアルデヒド、α-メチル-3,4-(メチレンジオキシ)-ヒドロシンナムアルデヒド、または2-メチル-3-(4-tert-ブチルフェニル)-プロパナールでありうるが、これらに限定はされない。脂肪酸は、例えば、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、12-ブロモドデカン酸(BrC12-Ac)、または15-ブロモペンタデカン酸(BrC15-Ac)でありうるが、これらに限定はされない。大気汚染物質は、例えば、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、光化学オキシダント(Ox)、粒子状物質(PM)、浮遊粒子状物質(SPM)、または微小粒子状物質(PM2.5)でありうるが、これらに限定はされない。有害物質の例は、本明細書の他の部分にも記述されている。
【0038】
[美容方法および非治療的方法]
本発明の一つの側面は、OBP発現促進剤を適用することを含む、美容方法または非治療的方法に関する。いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有することができる。かかる方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療に用いられる方法ではない。適用の対象は例えば哺乳動物、特にヒトである。適用部位は例えば、顔、首、頭皮、腕、脚などの皮膚でありうる。適用は、手や塗布具等によってする塗布など、任意の様式で行うことができる。適用の回数、頻度、量等は、所望の効果等に応じて適宜設定される。
【0039】
[使用]
本発明の一つの側面は、OBPの発現の促進におけるセイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質の使用に関する。別の観点から言えば、本発明の一つの側面は、OBPの発現の促進に使用するための、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質に関する。本明細書に開示のデータは、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質がOBPの発現促進に有用であることを実証している。よって、上記の植物エキスを用いて、OBPの発現促進に使用するための組成物を調製することができる。すなわち、本発明の一つの態様は、OBPの発現を促進するための組成物(例えば、皮膚外用剤)の製造におけるセイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質の使用にも関する。
【0040】
[皮膚外用剤]
本発明の一つの側面は、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有するOBP発現促進剤を含有する皮膚外用剤に関する。
【0041】
いくつかの実施態様において、OBP発現促進剤は、皮膚に直接適用することができる皮膚外用剤として配合されうる。かかる皮膚外用剤には、植物エキスに加えて、化粧品や医薬品等に用いられる任意配合成分を、必要に応じて適宜配合することができる。また、皮膚外用剤は、外用固形剤、外用散剤、外用液剤、リニメント剤、スプレー剤、外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、テープ剤、パップ剤等、任意の形態で調製されうる。
【0042】
本開示に係る皮膚外用剤の剤型は特に限定されるものではなく、例えば、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、軟膏、ゲル、エアゾール等の任意の剤型をとることができる。また、使用形態も特に限定されるものではなく、例えば、化粧水、乳液、クリーム、エッセンス、ゼリー、ジェル、軟膏、パック、マスク、ファンデーション等の任意の形態をとることができる。
【0043】
[皮膚有害物質抑制剤]
本発明の一つの側面は、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、および百合エキスから成る群より選択される物質を有効成分として含有する皮膚有害物質抑制剤に関する。
【0044】
本願発明において、皮膚有害物質は、皮膚に対しダメージを与えるが、OBP2A及びOBP2BなどのOBPにより活性が抑制される物質を指す。OBPにより活性が抑制されるとは、OBPが存在する場合、存在しない場合と比べて皮膚有害物質の量、発現量、及び/又は皮膚有害作用が、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば、Dunnettの検定等)をもって低減していること、あるいは、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%低減することを指すことがある。例えば、OBPノックダウン皮膚細胞を用いると、非ノックダウン皮膚細胞を用いた場合と比べて細胞の生存率が低い場合、そのような物質を皮膚有害物質として検出できる。
【0045】
OBPノックダウン皮膚細胞とは、例えば、OBP2A及びOBP2Bの一方又は両方の遺伝子にノックダウン処置が施され、OBP発現が損なわれた又は低減した角化細胞等の皮膚細胞を指る。ノックダウン処置は、例えば、Sci Rep. 2018 Oct23;8(1):15610.等に記載されるような任意の公知技術を用いることができる。非ノックダウン皮膚細胞とは、上記ノックダウン細胞ではノックダウンされているOBP遺伝子について、ノックダウン処置が施されておらず、OBP発現が正常である皮膚細胞を指す。ノックダウン処置によりOBP発現が損なわれた又は低減したとは、ノックダウン処置を施した細胞のOBP遺伝子の発現量及び/又はOBPタンパク質量が、非ノックダウン細胞に比べて、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば、Dunnettの検定等)をもって低減していること、あるいは、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%低減することを指すことがある。
【0046】
有害物質としては、限定されないものの、上述の有害物質に加えて、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオン酸、ノルマル吉草酸、ノルマル酪酸、イソ吉草酸、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、イソブタノール、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ノネナールといったアルデヒド等の悪臭物質、アリルメルカプタン、ジメチルトリスルフィド等のストレス臭物質、オレイン酸、パルミトレイン酸等の不飽和脂肪酸等の脂肪酸といったOBPに対する親和性の高い物質や、例えば、Biochemistry. 2002 Jun11;41(23):7241-52.等に記載のOBPのリガンドであることが公知である物質が挙げられうる。
【0047】
本発明者らは、オレイン酸、パルミトレイン酸、及びノネナールを皮膚有害物質として同定している。オレイン酸やパルミトレイン酸は、毛穴の広がりや、毛穴すり鉢状部の拡大、キメの乱れ、不全角化を引き起こすことが報告されている(J Invest Dermatol. 2005 May;124(5): 1008-13., Br J Dermatol. 2009Jan;160(1):69-74.)。ノネナール(2-ノネナール)は、本明細書ではトランス体(t-2-ノネナール)を指し、加齢臭や皮膚黄色化に関係することが報告されている(特許文献1~3)が、本発明者らは、ノネナールが皮膚菲薄化をはじめとする皮膚有害作用を奏することを見出している(実施例参照)。
【0048】
[スクリーニング方法]
本発明の一つの側面は、OBPの発現を促進または抑制する物質のスクリーニング方法に関する。いくつかの実施態様において、本発明に係るスクリーニング方法は、細胞と物質を接触させる工程、細胞におけるOBP発現量を測定する工程、物質の有無によるOBP発現量の変化を決定する工程を含みうる。
【0049】
細胞は例えば、表皮細胞またはケラチノサイトでありうる。細胞と試験物質との接触は、例えば、細胞の培養培地に試験物質を添加することにより行ってもよい。OBP発現量の測定は、当業者に公知の任意の方法により行うことができる。例えば、OBPのmRNA量をRT-PCRなどによって定量することができ、あるいは、OBPのタンパク質量をELISAやウェスタンブロットにより定量化してもよい。物質の有無によるOBP発現量の変化が観察された場合、発現量が増加した場合には、試験物質がOBPの発現を促進すると評価され、発現が低下した場合には、試験物質がOBPの発現を抑制すると評価される。
【0050】
OBPの発現を促進または抑制する物質は、例えば、化合物ライブラリーや微生物・動植物等の抽出物のライブラリーに含まれる物質、例えば、植物エキス、低分子化合物、高分子ポリマー、タンパク質、ペプチド、抗体、酵素、核酸、糖鎖、脂質などの任意の物質、およびそれらを含む組成物でありうる。植物エキス組成物としては、一例として、アロエエキス、イチョウエキス、ウーロン茶エキス、ウコンエキス、ウコン根茎エキス、ウスバサイシン根茎/根エキス、エーデルワイスエキス、オリーブ葉エキス、加水分解シルク末、カワラヨモギエキス、カワラヨモギ花エキス、カンゾウエキス、キイチゴエキス、クチナシエキス、クワエキス、ゲンチアナ根エキス、ゲンノショウコエキス、チャエキス、コーヒーエキス、ゴマエキス、コメヌカエキス、ゴレンシ葉エキス、サイシンエキス、サクラ葉エキス、シロキクラゲ多糖体、スターフルーツ葉エキス、セイヨウノコギリソウエキス、セージエキス、セージ葉エキス、センキュウエキス、トウモロコシエキス、ドクダミエキス、トマトエキス、パセリエキス、ブドウ種子エキス、ベニバナエキス、ボタンエキス、マグワ根皮エキス、マドンナリリー根エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ユリエキス、ルイボスエキス、ローズマリーエキスなどが挙げられる。
【0051】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば本発明の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。
【実施例】
【0052】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0053】
実施例1:皮膚におけるOBPの発現
角化細胞ヒト表皮細胞はHumedia-KG2(クラボウ)培地にて37℃で培養することにより調製した。三次元表皮モデルの構築では、DPBSに50倍希釈したCellStart(Invitrogen LifeTechnologies)液でコーティングしたセルカルチャーインサート(φ12mm,多孔膜の平均孔径:0.4μm)にCnTPrime培地(CELLnTEC)溶液に希釈したヒト表皮細胞(2.2×105個/500μl)を播種し、CnTPrime培地(CELLnTEC)溶液1mlをインサート下に加えて37℃で3日間培養した。その後、インサート上の培地をビタミンC(50μg/ml)が加えられたCnT-PR-3D培地(CELLnTEC)で500μl、インサート下の培地を1mlに置換し、37℃で1日間培養した。1日後、インサート上の培地を吸い取り、インサート下の培地をビタミンC(50μg/ml)が加えられたCnT-PR-3D培地(CELLnTEC)500μlに置換し、37℃で1日間培養した。この作業を8日間行うことで三次元表皮モデルを構築した。
【0054】
上記方法で調製し、Humedia-KG2(クラボウ)培地にCaを1.8mMを加えた条件下で0、24、又は48時間分化させた表皮細胞、並びに7日又は14日間分化させた三次元表皮モデルからISOGEN(ニッポンジーン)を用いてRNAを抽出し、SuperScript IV VILO MasterMix(Thermo FisherScientific)を用いてcDNAを作成し、SYBRTM Green PCR MasterMix(Thermo FisherScientific)を用いたqPCRによってOBPの発現を解析した。
【0055】
結果を
図1に示す。
図1より、培養角化細胞および三次元表皮モデルのいずれにおいてOBP2A,OBP2B等のOBPの転写が確認され、皮膚にOBPが存在することがわかった。
【0056】
実施例2:OBPのノックダウンが細胞の生存率に及ぼす影響の分析
10μMのOBP2AとOBP2BのsiRNAをLipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(Thermo FisherScientific)とOpti-MEM I Reduced SerumMedia(Thermo FisherScientific)の混合溶液に加え、それを上記方法で培養した表皮細胞に添加し24時間培養することでOBP2A及びOBP2Bのダブルノックダウン細胞を作製した。対照細胞は、前述のノックダウン処理を行わない以外は同じ条件で培養し24時間分化させた。
【0057】
上記のように培養および分化させたダブルノックダウン細胞および対照細胞を用いて、Human odorant binding protein 2A ELISA Kit(MYBioSource)、Human odorant binding protein 2B ELISA Kit(MYBioSource)を用いたELISAによりOBPタンパク量を測定したところ、47%のOBP2Aおよび60%のOBP2Bのタンパク量が減少していたことが確認された。
【0058】
皮膚有害物質の例としてノネナール等のアルデヒド類、オレイン酸やパルミトレイン酸等の脂肪酸等を含む複数種の試料を作成した。
【0059】
【0060】
上記のようにして分化および培養を行った対照細胞およびダブルノックダウン細胞を用いて、皮膚有害物質による影響を評価した。対照細胞のみの系、対照細胞に有害物質を添加した系、ダブルノックダウン細胞に有害物質を添加した系それぞれについて添加から24時間後に、上記の方法で細胞生存率を測定した。有害物質は、それぞれ、ノネナールが25μMの濃度、オレイン酸が100μMの濃度、パルミトレイン酸が50μMの濃度となるように添加した。
【0061】
結果を
図2~4に示す。
図2より、scRNA細胞にノネナールを添加すると生存率が有意に減少したが、OBPノックダウン細胞ではノネナールを添加するとその細胞生存率が更に大きく減少したことが観察された。これらの結果より、ノネナールが皮膚有害物質として作用し、細胞の生存率を低下させることが示された。また、
図5と6についても、同様の方法で、オレイン酸およびパルミトレイン酸が皮膚有害物質として作用し、細胞の生存率が低下することが示された。
【0062】
実施例3:OBPによる皮膚有害物質の捕捉についての解析
Autodock(4.2.6)、Pymol(2.2.0)を用いたシミュレーションによりOBPおよび3種の物質(ノネナール、オレイン酸、パルミトレイン酸)の構造解析を行った。結果を
図5~7に示す。
図5~7は、これらの物質がいずれもOBPの結合ポケットに捕捉されることを示している。
【0063】
実施例4:植物エキスによるOBP発現促進の評価
いくつかの植物エキス、すなわち、セイヨウバラエキス、桜の花エキス、百合エキスについて、OBPの転写を促進する効果を細胞で調べた。
【0064】
セイヨウバラエキスとしては、セイヨウバラの花から抽出されたエキス(ROSA CENTIFOLIA FLOWER EXTRACT、BUTYLENE GLYCOL、WATER)を丸善製薬株式会社より購入して使用した(商品名:バラ抽出液BG)。
【0065】
桜の花エキスとしては、サトザクラ(Prunus lannesiana Wils. cv. Sekiyama (Rosaceae))の花から水抽出により得られた濾液に1,3-ブチレングリコールを加えたエキスをオリザ油化株式会社から購入して使用した(商品名:コスメハーベスト(登録商標)サクラ)。この製品は、サトザクラ(Prunus lannesiana Wils. cv. Sekiyama (Rosaceae))の花にエタノールを加え、香気成分、油分を除去した後、精製水を加えろ過し、得られた濾液に1,3-ブチレングリコールを加え、濾過して製品としたものである。
【0066】
百合エキスとしては、マイクロ波抽出によるChinese White Lily(百合)のエキス(Glycerin、Butylene Glycol、Water、Lilium Candidum Flower Extract)をCRODA社から購入して使用した(商品名:Phytofleur(商標) Lily NP)。
【0067】
ヒト表皮細胞をHumedia-KG2(クラボウ)培地にてフルコンフルエンスになるまで37℃で培養した後、各植物エキスを培地に添加した。対照には溶媒であるHumedia-KG2培地を同量添加した。添加後24時間37℃で培養し、添加後の細胞からトータルRNAを抽出し、それを逆転写によりcDNAを作成した後、OBP遺伝子に対して定量PCRを行った。結果を
図8に示す。値は対照を1とした際の相対値を示している。統計分析は、コントロール対各植物エキスでの両側t検定により行った。
【0068】
結果として、これらの植物エキスが、対照(control)に比べ、OBP遺伝子の転写を高めることが明らかになった。よって、これらの植物エキスは、OBP発現促進剤として使用することができる。
【0069】
実施例5:桜の花エキスによる皮膚のバリア機能の改善
皮膚バリア機能のマーカー遺伝子として公知の遺伝子に対して、桜の花エキスが与える効果を調べた。マーカー遺伝子としては、フィラグリン(例えば、「Filaggrin and Skin Barrier Function」doi: 10.1159/000441539を参照)、カリクレイン10(例えば、「Epidermal Barriers」doi: 10.1101/cshperspect.a018218を参照)、カスパーゼ14(例えば、「Phospho-ΔNp63α regulates AQP3, ALOX12B, CASP14 and CLDN1 expression through transcription and microRNA modulation」doi: 10.1016/j.febslet.2013.09.023を参照)を選択した。
【0070】
ヒト表皮細胞をHumedia-KG2(クラボウ)培地にてフルコンフルエンスになるまで37℃で培養した後、桜の花エキスBG30を培地に添加した。対照には溶媒であるHumedia-KG2培地を同量添加した。添加後24時間37℃で培養し、添加後の細胞からトータルRNAを抽出し、それを逆転写によりcDNAを作成した後、各遺伝子(フィラグリン、カリクレイン10、カスパーゼ14)に対して定量PCRを行った。結果を
図9~11に示す。値は対照を1とした際の相対値を示している。統計分析は、両側t検定により行った。
【0071】
結果は、桜の花エキスがこれらの遺伝子の転写を促進し、皮膚のバリア機能を向上させることを示している。よって、桜の花エキスを含むOBP発現促進剤は、皮膚のバリア機能を向上させるために使用されうる。また、桜の花エキスは、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として使用されうる。
【0072】
実施例6:百合エキスによる皮膚のバリア機能の改善
桜の花エキスに代えて百合エキスを用いて、実施例5と同様な実験を行った。結果を
図12~14に示す。値は対照を1とした際の相対値を示している。
【0073】
結果は、百合エキスがフィラグリン、カリクレイン10、およびカスパーゼ14の転写を促進し、皮膚のバリア機能を向上させることを示している。よって、百合エキスを含むOBP発現促進剤は、皮膚のバリア機能を向上させるために使用されうる。また、百合エキスは、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として使用されうる。
【0074】
実施例7:桜の花エキスおよび百合エキスによる経表皮水分蒸発量(TEWL)の改善
皮膚のバリア機能は、経皮水分蒸散の抑制により評価することができ、経表皮水分蒸散量(TEWL)が小さいほどバリア機能に優れるとみなすことができる。
【0075】
DPBSに50倍希釈したCellStart(Invitrogen Life Technologies)液でコーティングしたセルカルチャーインサートにCnT Prime培地溶液に希釈したヒト表皮細胞細胞を播種し,CnT Prime培地溶液をインサート下に加えて37℃で3日間培養した。その後、インサート上の培地をビタミンCが加えられたCnT-PR-3D培地に置換し、37℃で1日間培養した。1日後、インサート上の培地を吸い取り、インサート下の培地をビタミンCが加えられたCnT-PR-3D培地に置換し、37℃で1日間培養した。この作業を8日間行うことで3D皮膚モデルを構築した。皮膚モデル完成の3日前に桜の花エキスまたは百合エキスを添加し、そして対照には溶媒であるエタノールを同量添加し、3日間37℃で培養した。培養後の3D皮膚モデルの重量を経時で測定することでTEWLを測定した。
【0076】
結果は、桜の花エキスおよび百合エキスが経表皮水分蒸散量(TEWL)を有意に低下させることを示している。この結果も、桜の花エキスや百合エキスなどのOBP発現促進剤が、皮膚のバリア機能を向上させるために使用されうることを示している。
【0077】
以上の実験において、いくつかの植物エキスがOBPの発現を促進することが実証された。よって、本発明によれば、上記の物質を含むOBPの発現促進剤が提供される。このOBP発現促進剤は、例えば、OBP活性が低下した皮膚(表皮細胞および/またはケラチノサイト)におけるOBPの発現を促進するために用いることができ、有害物質による皮膚へのダメージを低減させ、皮膚の保湿機能および/またはバリア機能を向上させるために用いられうる。また、本発明に係るスクリーニング方法によって、OBP発現促進剤として有用な物質を同定することができる。