(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】変更ナノサイクリンセルロース材料と配合物及びそれらの製造製品
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20230821BHJP
C08B 3/12 20060101ALI20230821BHJP
C08B 15/08 20060101ALI20230821BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
D21H11/18
C08B3/12
C08B15/08
C08L1/02
(21)【出願番号】P 2018556925
(86)(22)【出願日】2017-05-16
(86)【国際出願番号】 IL2017050550
(87)【国際公開番号】W WO2017199252
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-18
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515166314
【氏名又は名称】イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSTY OF JERUSALEM LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】516224204
【氏名又は名称】メロデア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Melodea Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ベン シャロム,タル
(72)【発明者】
【氏名】ショセヨブ,オデッド
(72)【発明者】
【氏名】ラピドット,シャウル
(72)【発明者】
【氏名】アゼルラフ,クラリテ
(72)【発明者】
【氏名】ネヴォ,ユヴァル
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】久保 克彦
【審判官】稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-11392(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001706(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/168784(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21L 11/18
C08B 3/12
C08B 15/08
C08L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶セルロース(NCC)ベースの固体フィルムまたはコートの少なくとも1つの性質を
改変する方法であって、前記
NCCベースの固体フィルムまたはコートが
、NC
Cを含むか
、NC
Cからなり、前記方法が、
-基体の少なくとも表面領域上に、(a)NCC、(b)添加組成物および(c)
少なくとも1つの架橋剤と、(d)任意の少なくとも1つの触媒とを含む配合物のフィルムまたはコートを形成するステップであって
、前記添加組成物が、
ソルビトール、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリカルボキシレートエーテル、炭水化物、およびホウ砂から選択される少なくとも1つのOHに富む物質と、セルロース系材料、炭水化物、アルコール、酸、および無機塩から選択される少なくとも1つの吸湿性物質とからなり、前記少なくとも1つの-OHに富む物質と
前記少なくとも1つの吸湿性物質と
の比率が
、0.01:1~1:
0.01(w/w)
であるステップと、
-前記フィルムまたはコートが固体フィルムまたはコートを形成するようにするステップと;
を
備え、
前記少なくとも1つの性質が、NCCからなるフィルムまたはコート
に関して改変されており
、前記性質が、化学的、物理的および光学的性質から選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法
において、(a)NCC、(b)添加組成物および(c)
少なくとも1つの架橋剤と、(d)任意の少なくとも1つの触媒とを含む配合物を調製するステップをさらに
備えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、吸水性のNCCフィルムを得る場合に
、前記添加組成物が、少なくとも1つの吸湿性物質からな
ることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、耐水性のNCCフィルムを得る場合に
、前記添加組成物が、少なくとも1つのOHに富む物質からな
ることを特徴とする方法。
【請求項5】
フィルムの酸素透過率(OTR)を改変するための
ものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記架橋剤が、ホモ官能性架橋剤、ヘテロ官能性架橋剤および光反応性架橋剤から選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の方法において、前記架橋剤が、ポリカルボン酸無水物、ポリカルボン酸、クエン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸、アクリル酸モノマー、アクリル酸プレポリマー、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、エポキシド、ポリウレタンプレポリマー、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド、α-ヒドロキシヘキサンジオール、ホルムアミド、アセトアミド、N、N-メチレンジアクリルアミドから選択されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記架橋剤が、ポリカルボン酸であることを特徴とする方法。
【請求項9】
NCCおよびキシログルカンを含むフィルムを得るため
の請求項1に記載の方法であって、前記フィルムが、rtおよび0%相対湿度で測定したときに1~2のOTRを有することを特徴とする方法。
【請求項10】
NCCおよびデンプンを含むフィルムを得るため
の請求項1に記載の方法であって、前記フィルムが、rtおよび0%相対湿度で測定したときに1~5のOTRを有し、かつrtおよび50%相対湿度で測定したときに10より小さいOTRを有することを特徴とする方法。
【請求項11】
BTCAで架橋したNCCを含むフィルムを得るため
の請求項1に記載の方法であって、前記フィルムが、rtおよび0%相対湿度で測定したときに1より小さい、または1~2のOTRを有し、かつrtおよび50%相対湿度で測定したときに約60のOTRを有することを特徴とする方法。
【請求項12】
BTCAおよびPVOHで架橋したNCCを含むフィルムを得るため
の請求項1に記載の方法であって、前記フィルムが、rtおよび0%相対湿度で測定したときに1より小さい、または1~2のOTRを有し、かつrtおよび50%相対湿度で測定したときに1より小さい、または1~2、または0~0.5のOTRを有することを特徴とする方法。
【請求項13】
NCCおよびPVOHを含むフィルムを得るため
の請求項1に記載の方法であって、 前記フィルムが、rtおよび0%相対湿度で測定したとき、か
つ50%相対湿度で測定したときに、30より小さいOTRを有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記添加組成物が、PVOHからな
ることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セルロースは地球上で最も豊富な生体高分子である。セルロースは、伝統的に衣類、建築、家具や製紙に使用されている。
【0002】
本質的にセルロースの最も複雑な形態は、ヘミセルロースおよびペクチンのようなその他の多糖、ならびにリグニン、酵素および構造高分子タンパク質との複合体として表される植物の細胞壁である。独自の構造で配列したポリマー複合体は、細胞が機械的ストレスを受けたときに高い荷重伝達をもたらし、同時に病原体攻撃に対する物理的障壁を提供する。
【0003】
ナノ結晶セルロース(NCC)は、高純度単結晶の形成をもたらすようコントロールされた条件下で得られる。これらの結晶は、隣接する原子の結合力に等しい極めて高い機械的強度を示す。NCCの弾性率は約150GPaと推定され、アラミド繊維(ケブラー)および炭素繊維などの超強力材料と同様、その引張強度は約10GPaと推定される。H2SO4によって生成されるNCCは特に興味深い。加水分解プロセスの間、セルロースナノ粒子は硫酸基でチャージされ、安定な液晶懸濁液を形成する。
【0004】
綿は、その優れた快適性から天然繊維として重要である。セルロース繊維の主な欠点の1つは寸法安定性の欠如である。20世紀初頭、セルロース系織物用の簡単な手入れ仕上げが開発された。セルロースと反応するホルムアルデヒドの効果の発見は、繊維の手入れの性質に対する仕上げ方法:簡易な仕上げ、アイロンし易い又はアイロンや洗濯不要、摩耗耐性、皺耐性、防縮加工、防皺性等を開発する基礎となった。1980年代後半からは繊維産業において、ヒトの健康や環境に悪影響を与えると認識されるホルムアルデヒドを含まない架橋剤が探索されており、その工業的な使用には、安全な取扱を保証するために多額の投資が必要である。
【0005】
カルボン酸は良好なセルロース架橋剤であるが、ポリカルボン酸1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)は高性能を有するポリカルボン酸の1つであることが判明した。
【0006】
次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO4)は、BTCAとの反応を触媒するための最も有効な触媒である。リン酸ナトリウムも触媒として機能するものの、次亜リン酸ナトリウムと同様の機能にはならない。
【0007】
この方法は、綿セルロースを架橋し、綿織物の抗ピリング性、皺回復性、抗菌、撥水および難燃性を改善する織物を提供する。
【0008】
ナノ結晶セルロース(NCC)からなる発泡体の機械的特性を改善または変更するために、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)[6]などの結合分子を介してナノ材料を架橋した。しかしながら、架橋したNCCのフィルムやコーティング材料の製造は成功しなかった。
【0009】
〔先行技術文献〕
1.Welch,C.M.,Taxtile Research Journal,Vol 58,No.8,August 1988,p480.
2.Welch,C.M.and B.A.K.Andrews,Taxtile Chemist and Colorist,Vol.21,No.2,February 1989,p13.
3.Yang,C.Q,Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,10.1002/pola.1993.080310514,April,1993.
4.Lee,E.U.I.S.O.,&Kim,H.J.E,.Durable Press Finish of Cotton/Polyester Fabrics with 1,2,3,4-Butanetetracarboxylic Acid and Sodium Propionate,(September 2000),654-661,2001.
5.Yang,C.Q.,Wei,W.,&Lickfield,G.C.,Mechanical Part I:Effects of Acid Strength of Durable Press Finished Cotton Fabrics Degradation and Crosslinking of Cellulose by Polycarboxylic Acids crosslinking,865-870,1998.
6.WO2012/032514
【発明の概要】
【0010】
本明細書において、本発明者は、主にその表面の少なくとも一部が変更された、NCCのフィルムやコートで被覆され改善されたNCC系材料および製品を得ることを目的とし、ナノ結晶セルロース(NCC)フィルムまたはそれを含むかそれらから成るコーティングにおける少なくとも1つの化学的、機械的または光学的な性質を調節、減衰または調整する方法を提供する。
【0011】
本明細書で提示された方法は、例えばポリカーボネート、ガラス、ポリプロピレン等の様々な基体用コーティングの製造や、厚い複合材料とは実質的に異なる薄いNCCフィルムの製造において開発され適用されている。
【0012】
以下に示すように、提案した方法によって、NCCの1または複数の性質の調節、減衰または調整は、変更反応されていないNCCとは相違するNCC系材料である1または複数の物質とNCCとの反応を含むものであり、および/または、NCCを処方または合成して配合物、組成物または混合物を作成することによって、変更された性質を有する製品を提供することに関与している。本発明のNCCの配合物や組成物と同様に、本発明のNCC系材料の性質は、表面上に材料や配合物を塗布したとき、固体フィルムまたは固体コーティングの変更が達成できるよう調整されている。特定の用途では、NCCを、少なくとも1つの他の物質、例えば添加剤と混合することによって、NCCフィルムまたはNCCコーティングを変更することが可能となり、NCCと共にNCCの存在下において変更された性質を有するフィルムまたはコーティングを形成することができる。他の用途では、NCCと、少なくとも1つの他の物質、例えば添加剤を化学反応させることによって、その性質を改善することができる。この添加剤とNCCとの化学的相互作用を経ることによってNCC系材料の特性を改善することができる。
【0013】
本明細書に開示された方法は、NCCの特定の性質を調節、減衰または調整するために使用され、NCCまたはNCC系材料から作製されたフィルムやコーティングに、本質的にNCCから成るフィルムが示すことのない少なくとも1つの性質を与えることもできる。
【0014】
本発明によれば、この方法は、NCCフィルムの任意の1つの機械的、化学的または物理的性質の調節、減衰または調整およびそれらの何れか1つの光学的性質のさらなる調節、減衰または調整を提供する。本発明の発明者らは高耐水性を示す固体フィルム、コーティングまたは層の加工方法/条件を同定したことから、低湿度および極湿度条件下で酸素障壁フィルムとして利用可能であり、それと同時にこれらの方法/条件によって、吸水性を示す固体フィルム、コーティングまたは層の製造が可能となる。これらの方法および条件によって、水との反応性が高耐水から高吸収まで変化するNCCフィルムの製造を可能にする。
【0015】
この方法は、以下のスキーム1に示されるように本明細書に開示される本発明の核心であり、少なくとも1つの-OHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質とからなる添加組成物を用いてそれぞれ0:1~1:0(w/w)の比でNCCを調製することを含み、任意には、少なくとも1つの触媒および少なくとも1つの架橋剤存在下で行われる。この配合物は、基体の表面領域上に塗布されたときに、添加組成物の性質および組成に応じて、すなわち少なくとも1つの-OHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質との比率に応じて、耐水性または吸水性のフィルム、もしくは、部分的に吸水性のフィルムを提供する。
【0016】
【0017】
従って第1態様では、例えば、固体フィルムまたはコートを形成する前に、NCCを含むまたはNCCからなる固体フィルムまたはコートの少なくとも1つの性質を改質する方法が提供され、この方法は、
-基体の少なくとも表面領域上に、NCC、添加組成物および任意の少なくとも1つの触媒および少なくとも1つの架橋剤を含む配合物のフィルムまたはコートを形成するステップであって;添加組成物は少なくとも1つの-OHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質とが0:1~1:0(w/w)の比率から構成されており、フィルムまたはコートが固体フィルムまたはコートを形成するようにする、ステップと;
この性質が、NCCからなるフィルムまたはコートと比較して改質されており;この性質は、化学的、物理的および光学的性質から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、この方法は、NCC、添加組成物および任意の少なくとも1つの触媒および少なくとも1つの架橋剤を得るステップまたは調製するステップをさらに提供する。添加組成物は、0:1~1:0(w/w)の比率の少なくとも1つのOHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質から成る。
【0019】
あるいは、本発明の方法は、少なくともその領域内の基体(物質)の表面の性質を改質する手段を提供し、それによって、少なくとも1つの領域内の物質の構造状態への影響や相状態を変更することなく表面性質を誘導または変化させることができる。
【0020】
本発明はさらに本発明の方法で使用する配合物を提供し、この配合物は、NCC、添加組成物、および任意の少なくとも1つの触媒および少なくとも1つの架橋剤を含む。添加組成物は、0:1~1:0(w/w)の比率で少なくとも1つのOHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質を含む。いくつかの実施形態では、添加組成物は、選択された比率で少なくとも1つのOHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質を可溶化するために選択された、少なくとも1つの溶媒または液体キャリアを含む。
【0021】
本発明により利用される添加組成物中における、少なくとも1つのOHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質との相対量を特徴付ける0:1~1:0(w/w)の比率は、2つの成分のそれぞれの量的範囲を示している。「0:1」の比率は、少なくとも1つのOHに富む物質の量がゼロであり、少なくとも1つの吸湿性物質が100%存在する添加組成物を指す。同様に、比率「1:0」は、少なくとも1つのOHに富む物質のみ(100%)であり少なくとも1つの吸湿性物質はゼロである添加組成物を指す。2つの成分の比率は1:1、すなわち、等しい量で存在してもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、添加組成物は、それらの比率が0.00001:1、0.0001:1、0.001:1、0.01:1、0.1:1、1:1、1:0.1、1:0.01、1:0.001、1:0.0001、1:0.00001(少なくとも1つのOHに富む物質:少なくとも1つの吸湿性物質)であるように、2つの成分のそれぞれの量を含むことができる。
【0023】
この配合物は、配合成分を可溶化、分散、もしくは懸濁することのできる少なくとも1つの溶媒または液体キャリアを含み得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの溶媒または液体キャリアは、エタノールのようなアルコール、DMSO、酢酸エチルおよび水から選択される。あるいは、少なくとも1つの溶媒または液体キャリアは、電解質が豊富な液状媒体であってもよい。いくつかの実施形態では、溶媒または液体キャリアは水である。いくつかの実施形態では、溶媒または液体キャリアは、電解質が豊富な液状媒体である。
【0024】
本発明の配合物の意図する目的に応じて、添加組成物を調整することができる。いくつかの実施形態では、吸水フィルムまたは保水フィルムが望ましい場合には、本発明の配合物は、NCCおよび少なくとも1つの吸湿性物質を含むことができる。このような実施形態では、本発明の配合物は、NCC、および、0:1~0.1:1から選択される比率で少なくとも1つのOHに富む物質と少なくとも1つの吸湿性物質とからなる添加組成物を含むことができる。言い換えれば、このような実施形態では、少なくとも1つのOHに富む物質の存在が必要とされず、従って、本質的にNCCおよび吸湿性物質のみの存在が必要となる。このような実施形態では、少なくとも1つのOHに富む物質の量は、少なくとも1つの吸湿性物質の量に対して0~0.1%まで変化することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、吸湿性のNCCフィルムを提供する配合物は、NCC、少なくとも1つの吸湿性物質および溶媒または液体キャリアを含み得る。配合物は、少なくとも1つのOHに富む物質を含まなくてもよい。
【0026】
最小吸湿性のフィルムもしくは完全耐水性のフィルムを得るために、少なくとも1つの吸湿性材料の量を最小またはゼロに減らしてもよいし、少なくとも1つのOHに富む物質の相対量を増加させてもよい。従って、いくつかの実施形態では、配合物は、少なくとも1つのOHに富む物質と少なくとも1つの吸湿物質が等量で存在する添加組成物を含むことができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、添加組成物は、実質的に少なくとも1つのOHに富む物質のみを含み、実質的に吸湿性物質を含まない。このような実施形態では、本明細書に開示されるように、耐水性フィルムまたはコートは表面領域上にこのような配合物のフィルムまたはコートを形成することによって得ることができる。従って、耐水性フィルムを提供する配合物は、NCCと、任意にNCCに架橋した少なくとも1つのOHに富む物質を含むことができる。NCCにOHに富む物質を架橋させる際には、少なくとも1つの触媒および/または少なくとも1つの架橋剤を利用することができる。そのような架橋は、OHに富む物質とNCCとの間、およびOHに富む分子間の反応から生じる。
【0028】
耐水性を変更するため、本発明の配合物に、少なくとも1つの吸湿性物質を少量もしくは所定量添加することができる。
【0029】
本発明の方法を利用することにより、NCCフィルムの既存および既知の性質を変更、減衰または調整することができる。言い換えると、NCCフィルムの何れかの測定可能な性質を変化させて、未変更のNCCフィルムで測定した性質と比較してその性質を改善することができる。改善した性質の全ては、本発明に従って変更されていないNCCフィルムと比較したものであり、改善した性質は、NCCフィルムの実体のない少なくとも1つの性質の減少または提供や、NCCフィルムの実質的な1または複数の性質の強化または提供によって、NCCフィルムに新しい性質を与えることとなる。従って、本発明のNCCフィルムは、高品質のNCCフィルムであり、通常のNCCフィルムと比較して少なくとも1つの性質向上を示す。変更され増強された性質は、とりわけ、透明性、酸素透過率(OTR)、折りたたみ時の機械的安定性、水中または高湿度条件下での吸湿性、疎水性、分解または膨潤に対する耐性などから選択することができる。例えば、本発明のNCCフィルムは、既存の技術に従って製造されたNCCフィルムのみかNCCフィルムからなるフィルムと比較してはるかに優れた透明性を示す。この高い透明性は、基体またはコーティングが形成される表面の透明性には実質的な影響を与えずにコーティングを改善できる能力だけでなく、それらの透明性に影響を与えずに基体表面領域の機械的、物理的または化学的特徴を変更する能力にも関与している。
【0030】
また、架橋したNCCフィルムは水中では破れないが、非架橋のフィルムは破れてしまう。それらは非架橋のNCCフィルムよりも少ない水を吸収する。少なくとも1つの吸湿性物質を含む非架橋のNCCフィルムは、より多くの水分を吸収して破れてしまう。一方で、少なくとも1つの吸湿性物質を含む架橋したフィルムは、破れずに吸水して保水する。
【0031】
本発明のフィルムは、長距離ネマチック秩序を有する均一な複屈折を表している。例えばNCCとBTCAとを反応させることによってNCCで誘発されるこの非常にユニークなアラインメントは、過去に達成されていない。架橋したNCCフィルムはネマチックであったが、当該技術分野のNCCフィルムの秩序はキラルネマチックであった。
【0032】
当該技術分野で知られているように、NCCは、細長い結晶棒状ナノ粒子である。
【0033】
いくつかの実施形態では、セルロースナノ材料は、少なくとも50%の結晶化度を有することを特徴とする。さらなる実施形態では、セルロースナノ材料は単結晶である。
【0034】
いくつかの実施形態では、様々な由来のセルロースから粒子として(例えば、フィブリル、または他の場合には結晶性物質として)製造されるセルロースナノ材料は、少なくとも約100nmの長さになるように選択される。他の実施形態では、せいぜい約1,000ミクロンの長さである。他の実施形態では、ナノ粒子は、約100nm~1,000ミクロン、約100nm~900ミクロン、約100nm~600ミクロン、または約100nm~500ミクロンの長さである。
【0035】
いくつかの実施形態では、NCCナノ粒子は、約100nm~1,000nm、約100nm~900nm、約100nm~800nm、約100nm~600nm、100nm~500nm、約100nm~400nm、約100nm~300nm、または約100nm~200nmの長さである。
【0036】
セルロースナノ材料の厚さは、約5nm~50nmの間で変動し得る。
【0037】
セルロースナノ材料のフィブリルは、10以上のアスペクト比(長さ対直径の比)を有するように選択することができる。いくつかの実施形態では、アスペクト比は20~200である。
【0038】
NCCはナノフィブリル化セルロース(NFC)ではない。
【0039】
いくつかの実施形態では、NCCは、約100nm~400nmの長さであり、約5nm~30nmの厚さであるように選択される。
【0040】
NCCは、国際公開第2012/014213号に開示されている方法、または本明細書で参照として援用される任意の米国または非米国国内出願を含む、当該技術分野で公知の方法に従って調製され得る。
【0041】
吸水および保水を必要とするアプリケーションに対して、NCCフィルムの高吸水性の性質を調整するために、NCCは少なくとも1つの吸湿性物質で作成される。「吸湿性物質」は、吸水し保水する材料またはそのような材料の組み合わせの中から選択される。これらの物質は、セルロース系材料、炭水化物、エタノール等特定のアルコール、硫酸等の酸、および塩化物塩等の無機塩から選択することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの吸湿性物質は、塩化物塩(例えば、CaCl2、LiCl、NaCl等)、シリカ(ナノサイズのシリカではなく、ミクロンサイズのヒュームドシリカ)、(ナノ粒子形態ではない)アルミナ、マグネシア、マグネシウムーケイ素化合物(例えばセピオライト)、吸水性ポリマー(例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、ポリ(スルホアクリレート)等)、セルロースカルボキシレート(例えば、カルボキシメチルセルロース)、酸化セルロース等の吸湿性塩から選択することができる。
【0042】
NCCと共に、少なくとも1つの可塑剤または着色剤や界面活性剤等の少なくとも1つの他の添加剤等も処方することによって、最終的なフィルムまたはコートに、1または複数の変更した新しい性質を与えることができる。
【0043】
添加組成物は、耐水性を高めるために、少なくとも1つのOHに富む物質、すなわち3つ以上のOH基を有する少なくとも1つの有機化合物を含んでもよく、OH基はアルコール基またはカルボン酸基であってもよい。いくつかの実施形態では、OHに富む物質は、NCCと共に混合または配合される。他の実施形態では、OHに富む物質をNCCと反応させて架橋したNCC材料を得る。グリセロール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリカルボキシレートエーテル、炭水化物、ホウ砂等、OHに富む物質存在下でのNCCの架橋は、NCC粒子が相互に結合し例えば共有結合を介してさらにOHに富む物質に結合するネットワークの形成をもたらす。架橋した製品では、OHに富む物質はNCCに結合するだけでなく、材料の他の分子にも結合し、それによって、架橋した材料から形成されたフィルムまたはコーティングの性質を改善し、フィルムまたはコートと水との相互作用をさらに調整および改善することができる。NCCとOHに富んだ物質との架橋ネットワークは、主に湿潤および高湿潤状態でより良好な酸素障壁性を示し、変更されていない非架橋フィルムはこの場合には機能しなくなる。
【0044】
理論に縛られることはないが、OHに富む物質とNCCとの間の結合は、共有結合、水素結合および/またはファンデルワールス結合の形態であってもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、耐水性NCCは、NCCを架橋剤と、NCCと架橋できる任意のさらに少なくとも1つのOHに富む物質または他の何れかの添加剤の存在下で反応させることによって形成される。本発明によれば、NCCの架橋は、ホモ官能性架橋剤、ヘテロ官能性架橋剤および光反応性架橋剤から選択される架橋剤によって達成された。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ホモ官能性架橋剤、すなわち同一の反応性基を有するものの中から選択される。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ヘテロ官能性架橋剤、すなわち2つ以上の異なる反応基を有するものであり、異なる官能基を連結するために使用されるものから選択される。いくつかの実施形態において、架橋剤は、光反応性架橋剤またはフリーラジカル形成剤から選択される。
【0046】
このような架橋剤の非限定的な例には、ポリカルボン酸無水物、ポリカルボン酸、クエン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸、(フリーラジカル反応による)アクリル酸モノマー、(フリーラジカル反応による)アクリル酸プレポリマー、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、エポキシド(例えば、ジグリシジルエーテル)、ポリウレタンプレポリマー、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド、α-ヒドロキシヘキサンジオール、ホルムアミド、アセトアミド、N、N-メチレンジアクリルアミド等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
いくつかの実施形態では、ポリカルボン酸を架橋剤として使用した。ポリカルボン酸は、炭素鎖と2つ以上のカルボン酸(-COOH)基から構成された有機物質であり、炭素鎖に直接結合(結合)してもよく、炭素鎖からのペンダントであってもよい。いくつかの実施形態において、ポリカルボン酸は、ジ、トリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ、ヘプタ、オクタまたはそれ以上のカルボン酸から選択される。
【0048】
いくつかの実施形態において、ポリカルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸またはテトラカルボン酸である。
【0049】
いくつかの実施形態では、ポリカルボン酸はテトラカルボン酸である。
【0050】
いくつかの実施形態では、テトラカルボン酸はBTCAである。
【0051】
本明細書で述べるように、本発明による配合物は、「任意に少なくとも1つの触媒および少なくとも1つの架橋剤を含む」。言い換えれば、配合物は、NCCに加えて添加組成物および溶媒または液体キャリアを含み、少なくとも1つの触媒および/または少なくとも1つの架橋剤をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、配合物は、少なくとも1つの触媒をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、配合物は、少なくとも1つの架橋剤をさらに含んでもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、架橋は、任意のポリマー物質である少なくとも1つのOHに富む物質の存在下で行われる。いくつかの実施形態では、OHに富む物質はPVOHである。いくつかの実施形態では、OHに富む物質は、少なくとも1つの炭水化物である。いくつかの実施形態では、OHに富む物質は、グリセロール、ソルビトール、キシログルカンまたはデンプンである。いくつかの実施形態では、ポリオールはホウ砂であってもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、架橋剤は、少なくとも1つの触媒の存在下でNCCと反応させる。少なくとも1つの触媒は、NCC官能基、主にヒドロキシル基と、架橋剤上の官能基および/またはOHに富む物質上の官能基との反応を触媒可能であるように選択される。
【0054】
少なくとも1つの触媒は、過塩素酸、H2SO4、H3PO4、HCl、パラトルエンスルホン酸、N,N-ジメチルピリジンおよび次亜リン酸ナトリウム(SHP)から選択することができる。
【0055】
いくつかの用途では、(触媒としてNaH2PO4(SHP)と任意に組み合わせて)BTCAを使用してNCCを架橋し、その性質を減衰させた。架橋システムとNCCとの組み合わせは、例えば機械的性質、耐水性および難燃性における予想外の向上等の予想外の高性能を伴う製品をもたらすため、複合材料、接着剤、コーティング、フィルムおよび織物を含む様々な製品の製造に有用である。同様に、NCC/BTCA/SHPを使用して、綿またはその他の何れかの繊維等のセルロース繊維を有意に強化できる。
【0056】
いくつかの実施形態では架橋したNCCのフィルムが提供されており、このフィルムでは、NCCナノ粒子は少なくとも1つのOHに富む物質を介して互いに結合している。いくつかの実施形態では、OHに富む物質は、例えばBTCA等のポリカルボン酸である。いくつかの実施形態では、架橋剤はBTCAとは異なるものである。
【0057】
本発明はさらに、固体材料の製造における本発明による架橋したNCCの使用を提供する。
【0058】
いくつかの実施形態において、架橋したNCC系固体製品は、フィルム、コーティングおよび繊維から選択される。この製品はNCCの合成物ではない。
【0059】
いくつかの実施形態では、製品は架橋したNCCフィルムであり、これは基体と結合していても、していなくてもよい。いくつかの実施形態では、フィルムは、架橋したNCCを含むか、またはそれからなるものであり、NCCナノ粒子がポリカルボキシ基を介して互いに結合している。
【0060】
いくつかの実施形態では、フィルムは、10~1000μmの厚さを有するスタンドアロン型フィルムである。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明のフィルムまたはコーティングでのNCC粒子の密度は、約1.5~1.6g/cm3である。
【0062】
いくつかの実施形態では、架橋したフィルムは、フィルムの厚さに応じて80%より高い透明度を有する。
【0063】
いくつかの実施形態では、フィルムはスタンドアロン型フィルムである。いくつかの実施形態では、フィルムは基体の表面領域上のコートである。基体の表面は、基体材料と同じ材料であってもよく、または(基体が異なる材料のフィルムまたは層で被覆される場合には)異なる材料であってもよい。表面と基体との化学的組成の違いにもかかわらず、表面は基体最上部の露出した材料部分の領域とみなされる。架橋したNCCのフィルムは、金属材料(金属または金属を含む材料)、酸化物、ガラス、シリコン系材料、セラミック材料、ポリマー材料(例えば、ポリカーボネート、BOPP、PET)、ハイブリッド材料、生体模倣物質、バイオマテリアル、誘電性結晶またはアモルファス物質、酸化物、繊維(例えば、綿、ガラス繊維)、紙、列挙された材料のいくつかの組み合わせ(例えば、金属PET、積層プラスチック層およびパルプを含有する板紙)等を含む何れの材料上に形成されてもよい。いくつかの実施形態では、吸水性または耐水性のいずれかである本発明のNCCフィルムは、NCCからなる予め形成されたフィルム上に形成される。
【0064】
いくつかの実施形態において、架橋NCCは、セルロース材料上に形成される。いくつかの実施形態では、セルロース材料は繊維材料である。いくつかの実施形態では、繊維は例えば織物業または糸の製造において利用される何れかの綿繊維であり、少なくとも1つの綿繊維を含むか少なくとも1つの綿繊維からなる綿繊維である。
【0065】
従って本発明は、少なくとも1つの架橋したNCCを含むフィルムをさらに企図するものであり、フィルムは、本明細書で選択されるように、少なくとも1つの表面領域上に形成される。
【0066】
本発明のフィルムの安定性および特異性(すなわち吸水性または耐水性)は、所定の期間で変動する湿度下で、本発明のフィルムまたはコートを通過する酸素ガス量を測定することにより試験し判断した。様々なフィルムの酸素透過率(OTR)を以下の表1に要約する:
【0067】
【0068】
表1:各種フィルムのOTRの比較。*すべてのサンプルは、30μmコロナで処理したBOPPフィルム上にコーティングされている。酸素透過率(OTR)は、ASTM:D3985およびF1927_50で実施し、プラスチックフィルムおよびシートを通過する酸素ガス透過率に関する標準試験方法を、電離層センサーを用いて実施した。デバイスはMOCON、OXTRAN2/21および1/50モデルを用いた。
【0069】
表1に示すように、BOPPフィルム上のNCCコーティングは、国際公開2017/046798号にすでに示されているように、相対湿度0%においてOTRを、>1500cc/(m2*day*atm)から~1cc/(m2*day*atm)まで減少させた。デンプンおよびキシログルカンのような炭水化物の添加剤と共にNCCを配合すること、またポリカルボン酸を用いてNCCを架橋することは、相対湿度0%でOTR値を有意に変化させなかった。しかしながら、PVOHを添加剤として使用するとコーティングされたBOPPのOTR値が減少し、NCCおよびPVOHを架橋した配合物はOTR値をさらに低下させた。
【0070】
比較的高い相対湿度レベル(50%)では、OTR値の差がより有意であった。NCCコーティングは、非常に高いOTR(>300cc/(m2*day*atm))を示した。架橋したNCCはOTR値を一桁改善し、デンプンおよびPVOH等の添加剤を使用することにより、障壁能力がさらに一桁改善された。NCCおよびPVOHの架橋した配合物は、50%RHで0.35cc/(m2*day*atm)の非常に低いOTR値を示した。
【0071】
NCCとOHに富む物質との配合物の改善したOTR値とは対照的に、ヒュームドシリカのような吸湿性物質を使用すると、フィルムの吸水率に寄与する観察値であるOTR値が有意に増加し、その障壁性質が大きく妨げられた。
【0072】
NCCを吸湿性物質とともに配合して自立型フィルムを形成させた場合には、同じ性質を示す。このフィルムは、NCCの自立型フィルムと比較して、著しく高い吸水性を有していた。架橋を促進する架橋剤がなければ、水分子が浸透してNCC粒子間に存在する水素結合を妨害するため、フィルムは速やかに変形し、軟化し最終的に溶解してしまう。しかしながら、架橋したフィルムは水中で安定したままであり溶解しなかった。
【0073】
従って本発明は、以下のようにして形成された配合物およびそれから形成される固体フィルムを提供する。
1.配合物はNCCおよびキシログルカンを含む。
2.配合物はNCCおよびデンプンを含む。
3.配合物は、NCCおよび本明細書中で選択されるような少なくとも1つの架橋剤を含み、いくつかの実施形態では架橋剤はBTCAである。
4.配合物は、NCCおよび本明細書中で選択されるような少なくとも1つの架橋剤を含み、いくつかの実施形態では架橋剤はBTCAおよびPVOHである。
5.配合物はNCCおよびPVOHを含む。
6.配合物はNCCおよびヒュームドシリカを含む。
7.固体フィルムはNCCおよびキシログルカンを含む。
8.固体フィルムはNCCおよびデンプンを含む。
9.固体フィルムは、BTCAで架橋したNCCを含む。
10.固体フィルムは、架橋したNCCを含み、いくつかの実施形態では、BTCAおよびPVOHで架橋したNCCを含む。
11.固体フィルムは、NCCおよびPVOHを含む。
12.固体フィルムは、NCCおよびヒュームドシリカを含む。
13.固体フィルムは、NCCおよびキシログルカンを含み、rt(23℃)および0%の相対湿度で測定したときOTRが1~2である。
14.固体フィルムはNCCおよびデンプンを含み、rtおよび0%相対湿度で測定したときのOTRが1~5であり、rtおよび50%相対湿度で測定したときOTRが10以下である。
15.固体フィルムはBTCAで架橋したNCCを含み、rtおよび0%相対湿度で測定したときのOTRが1より小さい、もしくは1~2であり、rtおよび50%相対湿度で測定したときのOTRが約60である。
16.固体フィルムは架橋したNCCを含み、いくつかの実施形態ではBTCAおよびPVOHで架橋され、rtおよび0%相対湿度で測定したときのOTRが1より小さい、もしくは1~2であり、rtおよび50%相対湿度で測定したときのOTRが1より小さいか、1~2または0~0.5である。
17.固体フィルムは、NCCおよびPVOHを含み、rtおよび0%相対湿度で測定したとき、かつ50%相対湿度で測定したときのOTRが30より小さい。
18.固体フィルムは、NCCおよびヒュームドシリカを含む。
【0074】
上記すべてのフィルムおいて、OTRは、ASTM:D3985およびF1927_50で実施し、プラスチックフィルムおよびシートを通過する酸素ガス透過率に関する標準試験方法を、電離層センサーを用いて実施した。デバイスはMOCON、OXTRAN2/21および1/50モデルを用いた。
【0075】
これらの結果は、OTR試験によって測定されたように、NCCの固体フィルムの性質の変更方法を支持するものであり、それによって表面の性質のさらなる変更が可能となる。本明細書に開示されるようなフィルムを表面領域上に形成することによって、表面の性質を調整または変更することができる。この性質は、物質との親和性、湿潤性、接着性、吸着性、吸収性、不溶性、吸湿性、結合性、抵抗性及び凝集性の減少もしくは調整のうち何れか1または複数であり得る。このように表面領域は、表面の性質が変更または制御された何れかの製品のものであり得る。このような製品は、医学、工学、光学等で使用される製品であってもよい。この製品は、インプラント、バイオセンサー、バイオメディカルデバイス、コンタクトレンズ、ガラス、プラスチックもしくは紙から選択することができる。
【0076】
本発明は、(連続糸形態の)材料コアを含む繊維と、このコアを被覆するフィルムとをさらに提供し、このフィルムは少なくとも1つの架橋したNCCを含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態では、コアは、綿繊維またはビスコース等の変更したセルロースを含む何れかのセルロース系繊維である。
【0077】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの架橋したNCCを含む本発明のフィルムは、例えばセルロースの基体または何れかの他の材料の基体上に提供され、架橋したNCCは、基体またはその何れかの部分と化学的に結合していてもよい。いくつかの実施形態では、基体が綿基体または綿繊維であり、その表面上に形成された架橋したNCCは、共有結合、水素結合、イオン結合または何れかその他の結合相互作用から選択される化学結合を介して結合される。
【0078】
本発明は架橋したNCCを製造する方法をさらに提供し、この方法は、NCCを少なくとも1つのOHに富む物質または少なくとも1つの架橋剤で処理することを含み、本願明細書に記載されるように、これはNCCとOHに富む物質および/または架橋剤との結合を可能にする条件下で行われる。
【0079】
いくつかの実施形態において、本方法は、少なくとも1つの触媒の存在下で実施される。
【0080】
いくつかの実施形態では、触媒は酸である。いくつかの実施形態では、触媒は塩基である。他の実施形態では、触媒はSHPである。
【0081】
いくつかの実施形態では、本発明の配合物を調製する方法は少なくとも1つの加熱するステップを含む。この方法は、調製した配合物の性質と構造、および最終的に形成したフィルムに依存して、室温(室温25~30℃)または室温より高い温度で実施される。いくつかの実施形態では、この方法は、30℃以上、35℃以上、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上、70℃以上、75℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、105℃以上、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、155℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、195℃以上、200℃以上、205℃以上、210℃以上、215℃以上、220℃以上、225℃以上、230℃以上、235℃以上または240℃以上で実行される。
【0082】
いくつかの実施形態において、この方法は、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、100℃、105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃、160℃、165℃、170℃、175℃、180℃、185℃、190℃、195℃、200℃、205℃、210℃、215℃、220℃、225℃、230℃、235℃または240℃で実行される。
【0083】
いくつかの実施形態において、この方法は、30℃~40℃、45℃~55℃、60℃~70℃、75℃~85℃、90℃~100℃、105℃~115℃、120℃~130℃、135℃~145℃、150℃~160℃、165℃~175℃、180℃~190℃、195℃~205℃、210℃~220℃、225℃~235℃または240℃~250℃で実行される。
【0084】
いくつかの実施形態では、この方法は30~180℃の温度で実施される。
【0085】
表面領域上に形成されたフィルムまたはコートは、当技術分野で知られている任意の適用方法によってそこに適用することができる。いくつかの実施形態では、NCCおよび添加組成物、および任意の少なくとも1つの触媒は、表面領域に適用され得る配合物、分散液または懸濁液へと作成することができる。適用の態様やフィルムが形成される方法に応じて、配合物、分散液または懸濁液が含有され使用されてもよい。いくつかの実施形態において、配合物、分散液または懸濁液は、コーティングすべき基体へ導入される媒体として一緒に混合されてもよい。いくつかの他の実施形態では、配合物、分散液または懸濁液は、配合物、分散液または懸濁液を表面上に噴霧することができる条件下で含まれていてもよい。さらなる実施形態では、配合物、分散液または懸濁液は、湿潤、はけ塗り、浸漬、ロールコーティング、R2R、S2S、工業紙コーティングまたはプラスチックコーティング装置、または当技術分野で固体表面上にフィルムを形成する既知の何れの他の方法によって表面領域に適用されてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態において、配合物または分散液または懸濁液は、
図7に示され本明細書に例示されるような表面領域に噴霧されてもよい。噴霧のために、配合物または分散液または懸濁液は、噴霧キャニスターに含まれ、その液体内容物の含量を送達するように適合された噴霧可能な配合物に形成され得る。スプレーキャニスターまたはボトルは、ボトルの底部からサイフォンチューブに流体を引き込み、ノズルを通して押し出す容積式ポンプを使用することができる。ノズルは、エアロゾルまたはミストのような流体を表面領域上に送ってフィルムを形成するように適合または設計されてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態では、スプレーボトルは、ユーザの努力もしくは圧力下でその内容物を分配することができる。いくつかの実施形態では、NCCおよび添加剤の配合物は、ボトル内の圧力を増加させ、ボトル流体内容物をより容易にスプレーするための推進ガスをさらに含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、NCCの配合物で塗布される基体は、(例えば、浸漬によって)選択された配合物に入れられ、基体との相互作用を可能にしてその表面にコーティングを提供する。いくつかの実施形態では、基体を溶液から除去し、基体の表面上に形成されたコートまたはフィルムを乾燥させることができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、フィルムは前処理された基体の表面上に形成され、表面とNCCフィルムとの結合を誘発するか、可能にするかまたは促進する。前処理は、当該技術分野で既知の何れかの方法によって達成されることができ、これに限定されないが、溶剤または化学的洗浄または物理的洗浄、エッチング、加熱、プラズマ処理、UVオゾン処理、コロナ放電、レーザーまたはマイクロ波照射、フラッシュランプ(キセノン)無電解メッキ、保護層またはプライマー層によるコーティング、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、触媒存在下にて室温で実施される。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、触媒の存在下にて室温より高い温度で実施される。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、触媒の非存在下にて室温で実施される。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、触媒の非存在下にて室温より高い温度で実施される。
【0091】
いくつかの実施形態では、ポリカルボン酸はBTCAであり、触媒はSHPである。いくつかの実施形態では、ポリカルボン酸はBTCAであり、触媒はSHPであり、基体は平坦な基板である。いくつかの実施形態では、有機ポリカルボン酸はBTCAであり、触媒はSHPであり、基体は綿繊維である。いくつかの実施形態では、ポリカルボン酸はBTCAであり、触媒はSHPであり、方法は室温または室温より高い温度で実施される。
【0092】
上記のように、BTCA/SHPは、セルロースの織物業において架橋剤として一般的に使用されている。にもかかわらずBTCAが繊維を害することが示された。Weiら[5]は、BTCAを用いた綿繊維の架橋処理が機械的強度を著しく低下させることを報告しており、この主な欠点は酸分解によるものであった。NCCとBTCAとの架橋処理の組み合わせは、この問題点に対する解決策を提供するだけでなく、綿繊維の機械的性質を著しく改善する。
【0093】
NCC/BTCA/SHPは、高品質のNCCフィルムの製造にも使用された。これまでに得られた結果から、架橋したフィルムは、通常のNCCフィルム(
図1)と比較して機械的性質の予期しない向上を示しており、非架橋フィルムよりも透明である(
図2)。
【0094】
フィルム中のNCCのアラインメントは、サンプルのアラインメント方向を比較できる画像処理モジュールと一体型の偏光光学顕微鏡法(POM)を用いて検討された。
図3は、処理された複屈折像を示している。
図3Aで提示されたNCCフィルムは複屈折性であり、NCCフィルムの特徴である典型的な断片化マルチドメイン秩序を示している。対照的に、架橋したNCCフィルム(
図3B)は均一な複屈折が見られ、偏光顕微鏡法の画像処理技術によって長距離ネマチック秩序として読み取られる。さらに、NCCフィルムはキラルネマチック(すなわち、POM画像に見られるフィンガープリント)であったが、架橋したフィルムの秩序はネマチックであった。NCCのキラルネマチック秩序は(右巻きの)スクリュー状の形状/表面の特徴に起因すると仮定すると、おそらくBTCAは形状効果を不明瞭にする。おそらく架橋処理は、NCC/BTCA/SHPフィルムで観察された長距離の単方向性アラインメントの原因である可能性がある。BTCA/SHPの架橋は懸濁液およびフィルム中の粒子配列を移動させ構造を固定し、それが液晶相にある場合には、架橋したNCCフィルムの透明性および機械的性質に影響を与えそれらを著しく向上させるような、予期せぬ均一な長距離秩序を生成する。
【0095】
NCC粒子の大きな表面積とNCC特有の性質は、この新規で環境に適した無害な架橋方法と組み合わせて、セルロース繊維全体の性質よりも優れた架橋レベルをもたらし、セルロース系材料および複合材料の機械的性質および安定性を改善して幅広い産業用途に使用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】
図1は、架橋および非架橋のNCCフィルムの引張試験を示している。
【
図2】
図2A-Bは、非架橋のNCCフィルム(
図2A)の透明性の低下を示すとともに、架橋したNCCフィルムの優れた透明性(
図2B)を示す。
【
図3】
図3A-Bは、偏光光学顕微鏡画像で実施されたLC PolScope
TMの複屈折解析の結果を示している。
図3A:NCCフィルムは、マルチドメイン配向を示している。
図3B:NCC/BTCA/SHPフィルムは、単方向の長距離秩序を示している。
【
図4】
図4A-Bは、屈曲(
図4A)とそれに続く解放(
図4B)下における、架橋したNCCフィルムの機械的安定性を示している。
【
図5】
図5は、架橋及び非架橋の綿繊維の引張試験の結果を示している。
【
図6】
図6A-Dは、処理および未処理の綿繊維サンプルのインストロンの引張試験の結果を示す。
図6A:靭性、
図6B:機械係数(automatic modulus)、
図6C:引張強度(tensile strength at yield)、
図6D:引張歪(tensile strain at yield)。靭性は応力-ひずみ曲線の下の領域であり、引張強度および引張歪は繊維が破断前に耐えることができる最大応力および歪である。データ点は、3-8本の綿繊維を測定した平均値であり、エラーバーは、スチューデントのt検定を用いて計算された。
【
図7】
図7は、本発明による配合物を適用する例示的な方法を示している。
【
図8】
図8は、架橋および非架橋のCNC/PVOHフィルムの引張試験の結果を示している。非架橋のフィルムは高い係数と引張強度を示しているが、伸びは小さい。PVOHフィルムは、低い係数と引張強度を示しているが、引張歪は高い。架橋したNCC/PVOHフィルムは高い係数と引張歪を示しており、PVOHフィルム(98.3mJ/m
3)およびNCC/PVOH非架橋フィルム(90.9mJ/m
3)よりも高い靭性(110mJ/m
3)をもたらしている。
【発明を実施するための形態】
【0097】
材料と方法
材料:H2Oのポリエチレンイミン溶液(50%(w/v)、Sigma-Aldrich)、ポリビニルアルコール(PVOH)(Mowiol-Mw=30,000-195,000g/mol、Sigma-Aldrich)、Sepiolite(Sigma)。
【0098】
サンプル調整:
方法:
コーティング実験はスプレーコーティングによって行われたが、他のNCC適用方法(例えばワイプ、ディッピング、スポンジ吸収、注入、スプラッシュ)も可能である。NCC配合物を、クリーンなガラススライドまたは他の基体上に、室温においてハンドスプレーまたはエアブラシで噴霧した。スプレーとスライドガラスとの間の距離は約10-20cmであった。
【0099】
表面処理:
NCCコーティングの薄く均質な層を実現するためには、表面処理が必要とされる場合がある。NCCへの良好な湿潤および接着を示した基体に関しては、表面処理は必要なかった。
【0100】
表面処理は多様である。特定の目的では、この処理は、ポリエチレンイミン(PEI)の層またはPEIや別の正荷電高分子電解質を含有する市販のプライマー層の適用を含む。
【0101】
室温で1-2分間乾燥させ蒸留水で洗浄した後、垂直方向に配向したポリカーボネートスライドに対して、(1または複数の湿潤剤を含み得る)DW中の0.2%w/vのPEIまたは市販のプライマーを同時に噴霧した。最後に、スライドを室温または熱風で乾燥させた。
【0102】
架橋したNCCのフィルムの調整:
10mMの1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)粉末(Sigma)および5mMの次亜リン酸ナトリウム水和物(Sigma)をNCC懸濁液(2.5重量%)に溶解した。懸濁液を穏やかに混合し、15mlのNCC/BTCA/SHP懸濁液をSigmacote(登録商標)処理したガラス基板上にキャストした。一定重量になるまでNCC/BTCA/SHP懸濁液を周囲条件下で48時間乾燥させた。
【0103】
1.架橋NCC/PVOHコーティングフィルムの調整
10mMの1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)粉末(Sigma)および5mMの次亜リン酸ナトリウム水和物(Sigma)をNCC懸濁液(2重量%)に溶解した。PVOH懸濁液(20%)をNCC懸濁液に添加して、必要な比を達成した(例えば、CNC:PVOHが1:1重量)。プローブソニケーターを用いて配合物を超音波処理し、コロナ処理したBOPPフィルム上にロッド塗布装置を用いて配合物を塗布した。コーティングを室温で乾燥させて、薄く乾燥した架橋NCC/PVOHコーティングを得た。
【0104】
2.吸湿性架橋NCCフィルムの調製
10mMの1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)粉末(Sigma)および5mMの次亜リン酸ナトリウム一水和物(Sigma)をNCC懸濁液(2.5重量%)に溶解した。ヒュームドシリカ(NCCの5重量%)を懸濁液に添加した。懸濁液を穏やかに混合し、懸濁液15mlをSigmacote(登録商標)処理したガラス基体上にキャストした。一定重量になるまで懸濁液を周囲条件下で48時間乾燥させた。
【0105】
3.吸湿性架橋NCCコーティングフィルムの調製
10mMの1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)粉末(Sigma)および5mMの次亜リン酸ナトリウム水和物(Sigma)をNCC懸濁液(2重量%)に溶解した。ヒュームドシリカ(NCCの5重量%)を懸濁液に添加した。この懸濁液を混合し、コロナ処理したBOPPフィルム上にロッド塗布装置を用いて塗布した。コーティングを室温で乾燥させて、薄く乾燥した吸湿性架橋NCCコーティングを得た。
【0106】
4.吸湿性NCCコーティングフィルムの調製
Sepiolite(NCC の5重量%、Sigma)をNCC懸濁液(2重量%)に添加した。この懸濁液を混合し、PEIで表面処理し垂直方向に配向したポリカーボネートスライド上に噴霧することによって懸濁液を適用した。コーティングを室温で乾燥させて、ポリカーボネート上に薄く、乾燥した吸湿性NCCコーティングを得た。
【0107】
5.綿繊維強化処理
未処理の綿繊維を10Mmの1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)粉末(Sigma)および5mMの次亜リン酸ナトリウム水和物(Sigma)を含有するNCC懸濁液(2.5重量%)中において、室温で12時間インキュベートした。次のステップでは、綿繊維を熱処理(170℃、3分間)した後、DWで洗浄した。