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  • 特許-配管用消音器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】配管用消音器
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/033 20060101AFI20230821BHJP
【FI】
F16L55/033
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019092732
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020186788
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 啓介
(72)【発明者】
【氏名】竹下 潔
(72)【発明者】
【氏名】川口 孟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 忠裕
(72)【発明者】
【氏名】小島 博
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 雅人
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-275887(JP,A)
【文献】特開平07-293371(JP,A)
【文献】特開昭58-072795(JP,A)
【文献】特開2000-002393(JP,A)
【文献】特開2011-043086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる配管であって、本体部および前記本体部よりも大径な大径部を含む配管と、
前記大径部と同軸状に前記大径部内に設けられると共に前記大径部の径方向に重ね合わされた少なくとも2つの管状の弾性部材と、を備え、
前記少なくとも2つの管状の弾性部材は、空隙率が互いに異なる弾性部材であり、
前記少なくとも2つの管状の弾性部材のうちの何れかの弾性部材は、前記弾性部材の中に当該弾性部材の軸線方向に延び且つ前記少なくとも2つの弾性部材の何れとも異なる部材である円管状部材が設けられたものである、配管用消音器。
【請求項2】
前記少なくとも2つの弾性部材は3つ以上の弾性部材である、請求項1に記載の配管用消音器。
【請求項3】
前記少なくとも2つの弾性部材のうちの最内層に位置する弾性部材の内側において当該弾性部材に前記径方向に重ね合わされ、前記本体部と連続する壁面を形成する管状の第1薄膜部材をさらに備える、請求項1又は2に記載の配管用消音器。
【請求項4】
前記少なくとも2つの弾性部材のうちの最外層に位置する弾性部材の外側において当該弾性部材に前記径方向に重ね合わされた管状の第2薄膜部材と、
前記少なくとも2つの弾性部材の両端を塞ぐ2つの第3薄膜部材と、をさらに備える、請求項3に記載の配管用消音器。
【請求項5】
前記弾性部材はゴム製である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の配管用消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管に設けられる配管用消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
真水や海水等を送る配管内では、ポンプの動作に起因した脈動や狭路により発生するキャビテーションによって、配管内の流体に圧力変動が生じる。この圧力変動および当該圧力変動により引き起こされる振動は雑音源となるだけでなく、機器の故障や摩耗を引き起こすため、高層ビル、工場又は水中ビークル等の配管で問題となっている。
【0003】
例えば特許文献1には、配管の本体部に当該本体部よりも大径の大径部を設け、その中に微小独立気泡を有する弾性体を設置することで流体の脈動を吸収する脈動フィルタが開示されている。この脈動フィルタでは、脈動又は衝撃に対して弾性体が変形するため、当該脈動や衝撃を吸収することができるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-240201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の弾性体では、低減できる圧力変動や振動の周波数帯に限りがある。そのため、従来の弾性体は、幅広い周波数帯の圧力変動や振動を低減することができない。
【0006】
そこで、本発明は、幅広い周波数帯の圧力変動および振動を低減することができる配管用消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配管用消音器は、流体が流れる配管であって、本体部および前記本体部よりも大径な大径部を含む配管と、前記大径部と同軸状に前記大径部内に設けられると共に前記大径部の径方向に重ね合わされた少なくとも2つの管状の弾性部材と、を備え、前記少なくとも2つの管状の弾性部材は、空隙率が互いに異なる弾性部材であるものである。
【0008】
本発明に従えば、空隙率の比較的高い弾性部材は配管内を流れる流体を伝搬する比較的低い周波数帯の圧力変動や振動を低減し、空隙率の比較的低い弾性部材は配管内を流れる流体を伝搬する比較的高い周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。これにより、幅広い周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。また、このような弾性部材を重ね合わせることで一の弾性部材に伝搬した圧力変動や振動が他の弾性部材に伝搬する際に徐々に減衰されるため、上記圧力変動や振動がより低減される。
【0009】
上記発明において、前記少なくとも2つの弾性部材は3つ以上の弾性部材であってもよい。
【0010】
上記構成に従えば、3つの周波数帯の圧力変動や振動、例えば、低~中周波数帯の圧力変動や振動、中~高周波数帯の圧力変動や振動、および高~極高周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。
【0011】
上記発明において、配管用消音器は、前記少なくとも2つの弾性部材のうちの最内層に位置する弾性部材の内側において当該弾性部材に前記径方向に重ね合わされ、前記本体部と連続する壁面を形成する管状の第1薄膜部材をさらに備えてもよい。
【0012】
上記構成に従えば、各弾性部材が流体に直接触れることにより当該弾性部材が劣化すること、および弾性部材内のガスが空隙を介して透過して配管内に入り込むことを防ぐことができる。これにより、長期間における圧力変動や振動によって弾性体内のガスが配管内に漏れ出す恐れがある従来の弾性体と比べ、本発明の配管用消音器は長期間の使用に好適である。
【0013】
上記発明において、配管用消音器は、前記少なくとも2つの弾性部材のうちの最外層に位置する弾性部材の外側において当該弾性部材に前記径方向に重ね合わされた管状の第2薄膜部材と、前記少なくとも2つの弾性部材の両端を塞ぐ2つの第3薄膜部材と、をさらに備えてもよい。
【0014】
上記構成に従えば、各弾性部材が劣化することを抑制又は防止することができる。
【0015】
上記発明において、前記弾性部材はゴム製であってもよい。
【0016】
上記構成に従えば、弾性部材に空隙を設け易くなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、幅広い周波数帯の圧力変動および振動を低減することができる配管用消音器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る配管用消音器の構成を示す断面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】配管に図1の配管用消音器を設けた場合および設けない場合における圧力変動レベルを示すグラフである。
図4】配管に図1の配管用消音器を設けた場合および設けない場合における振動レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る配管用消音器について図面を参照して説明する。以下に説明する配管用消音器は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0020】
図1に本実施形態に係る配管用消音器の断面構成を示す。図1に示すように、配管用消音器1は、流体が流れる配管であって、本体部2および当該本体部2よりも大径な大径部7を含む配管20と、大径部7と同軸状に当該大径部7内に設けられると共に大径部7の径方向に重ね合わされた3つの円管状の弾性部材10(図2参照)とを備えている。流体は、例えば真水、海水又は油等である。
【0021】
本実施形態では、上記3つの弾性部材10は、図2に示すように、第1空隙率を有する第1弾性部材10aと、第1空隙率よりも低い第2空隙率を有する第2弾性部材10bと、第2空隙率よりも低い第3空隙率を有する第3弾性部材10cとを含む。第1弾性部材10aが最内層であり、第2弾性部材10bが中間層であり、第3弾性部材10cが最外層である。第1弾性部材10a、第2弾性部材10bおよび第3弾性部材10cは、空隙率が互いに異なるものである。第1弾性部材10aと第2弾性部材10bとの空隙率の差の最小値は例えば10%であり、第2弾性部材10bと第3弾性部材10cとの空隙率の差の最小値は例えば10%である。
【0022】
配管用消音器1は、管状の第1薄膜部材4と、管状の第2薄膜部材5と、2つの第3薄膜部材6とをさらに備えている。第1薄膜部材4は、最内層に位置する第1弾性部材10aの内側において当該第1弾性部材10aに径方向に重ね合わされ、本体部2の内周壁と連続する壁面を形成している。第2薄膜部材5は、最外層に位置する第3弾性部材10cの外側において当該第3弾性部材10cに径方向に重ね合わされた状態で設けられている。また、2つの第3薄膜部材6は、第1乃至第3弾性部材10a,10b,10cの両端を塞ぐようにそれぞれ設けられている。第1薄膜部材4、第2薄膜部材5および第3薄膜部材6は、ゴム製であり、例えばクロロプレンゴム(CR)で形成される。
【0023】
第1弾性部材10a、第2弾性部材10bおよび第3弾性部材10cは、ゴム製であり、例えば天然ゴムで形成される。第1弾性部材10aの肉厚部分の中には、当該第1弾性部材10aの軸線方向に沿って複数の円管状部材3aが放射状に設けられている。これにより、第1弾性部材10aの中に空隙asが形成されている。
【0024】
また、第2弾性部材内10bの肉厚部分の中には、当該第2弾性部材10bの軸線方向に沿って複数の円管状部材3bが放射状に設けられている。これにより、第2弾性部材10bの中に空隙asが形成されている。さらに、第3弾性部材内10cの肉厚部分の中には、当該第3弾性部材10cの軸線方向に沿って複数の円柱状部材3cが放射状に設けられている。これらの円管状部材3a,3bおよび円柱状部材3cは、ゴム製であり、例えば天然ゴムで形成される。
【0025】
第1弾性部材10aは第1空隙率を有し、第2弾性部材10bは第1空隙率よりも低い第2空隙率を有し、第3弾性部材10cは第2空隙率よりも低い第3空隙率を有している。空隙率とは、各弾性部材(円管状部材又は円柱状部材を含む)の横断面積に含まれる空隙asの横断面積の割合(%)である。したがって、第3弾性部材10cの第3空隙率は0%となる。
【0026】
第1弾性部材10aは、配管20内を流れる流体を伝搬する主に低周波数~中周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。また、第2弾性部材10bは、流体を伝搬する主に中周波数~高周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。さらに、第3弾性部材10cは、流体を伝搬する主に高周波数~極高周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。
【0027】
配管20内を流れる流体により生じた種々の周波数帯の圧力変動や振動は、第1乃至第3弾性部材10a,10b,10cを伝搬する際に徐々に減衰される。これによって、圧力変動や振動がより低減される。また、上記圧力変動により引き起こされる配管の振動が低減されると共に、当該振動が流体に伝搬することに起因して生じる圧力変動も低減されるようになっている。具体的には、図3から上記の圧力変動が配管用消音器1により幅広い周波数帯(数Hz以上の周波数帯)で低減されていることが分かり、図4から上記の振動が配管用消音器1により幅広い周波数帯(数Hz以上の周波数帯)で低減されていることが分かる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の配管用消音器1によれば、空隙率の比較的高い第1弾性部材10aは配管20内を流れる流体を伝搬する比較的低い周波数帯の圧力変動や振動を低減し、空隙率が中間レベルの第2弾性部材10bは配管20内を流れる流体を伝搬する比較的低い周波数帯の圧力変動や振動を低減し、空隙率の比較的低い第3弾性部材10cは配管20内を流れる流体を伝搬する比較的高い周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。これにより、幅広い周波数帯の圧力変動や振動を低減することができる。また、このような第1乃至第3弾性部材10a,10b,10cを重ね合わせることで一の弾性部材に伝搬した圧力変動や振動が他の弾性部材に伝搬する際に徐々に減衰されるため、上記圧力変動や振動がより低減される。以上のような配管用消音器1は、特に、潜航深度に応じて配管内圧力が幅広く変動し得る水中ビークル等に有用である。
【0029】
また、本実施形態では、配管20内の使用圧力が変動した場合、比較的高い第1空隙率の第1弾性部材10aおよび第2空隙率の第2弾性部材10bは比較的大きく変形し、比較的低い第3空隙率の第3弾性部材10cは比較的小さく変形する。このため、配管20内の圧力が変動した際に各弾性部材の相互間で変形を吸収して抑制することができる。このため、大きく変形した弾性部材で配管内部が塞がれるようなことが起こることを防ぐことができる。
【0030】
また、本実施形態では、最内層に位置する第1弾性部材10aの内側において当該第1弾性部材10aに径方向に重ね合わされた第1薄膜部材4を設けることで、各弾性部材が流体に直接触れることにより当該弾性部材が劣化すること、および弾性部材内のガスが空隙asを介して透過して配管20内に入り込むことを防ぐことができる。これにより、長期間における圧力変動や振動によって弾性体内のガスが配管内に漏れ出す恐れがある従来の弾性体と比べ、配管用消音器1は長期間の使用に好適である。
【0031】
さらに、本実施形態では、最外層に位置する第3弾性部材10cの外側において当該第3弾性部材10cに径方向に重ね合わされた管状の第2薄膜部材5と、第1乃至第3弾性部材10a,10b,10cの両端を塞ぐ2つの第3薄膜部材6を設けることで、各弾性部材が劣化することを抑制又は防止することができる。
【0032】
以上のような効果を奏し得る配管用消音器1は、例えば高層マンション等の建築における上下水道配管の圧力変動や振動の低減、水中ビークル等における配管の圧力変動や振動の低減、および工場内の配管の圧力変動や振動の低減を図るために有効に用いることができる。特に、水中ビークルなどでは潜航深度により使用圧力が大きく変動するため、当該水中ビークルに設けられた配管内の流体の使用圧力の変化および圧力変動の吸収を実現するために本配管用消音器1は有用となる。
【0033】
(変形例)
上述の実施形態の他にも、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で次のような種々の変形も可能である。
【0034】
上記実施形態では、第1弾性部材10aに同一形状の複数の円管状部材3aを設け、第2弾性部材10bに同一形状の複数の円管状部材3bを設けることで空隙asを形成するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば同一形状の複数の角管状部材を設けることで空隙を作るようにしてもよいし、異なる形状の管状部材を設けることで、例えば球状や台形状等の空隙を作るようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、配管20の大径部7の内側から、第1弾性部材10a、第2弾性部材10bおよび第3弾性部材10cの順で積層するように構成したが、各弾性部材の積層順序はこれに限定されるものではない。例えば、配管20の大径部7の内側から、第2弾性部材10b、第3弾性部材10cおよび第1弾性部材10aの順で積層してもよいし、第3弾性部材10c、第1弾性部材10aおよび第2弾性部材10bの順などで積層してもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、円柱状部材3cを用いたが、これに限定されるものではなく、当該円柱状部材3cの代わりに、円管状部材3a,3bと同様の円管状部材を採用することで、第3弾性部材10cの第3空隙率を、0%を超える値に設定してもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、第1弾性部材10aおよび第2弾性部材10bに円管状部材3a,3bを設けることで第1弾性部材10a内および第2弾性部材10b内に空隙asを形成するように構成したが、これに限定されるものではなく、第1弾性部材10a内および第2弾性部材10b内に直接空隙を形成してもよい。
【0038】
さらに、上記実施形態では、第1弾性部材10a、第2弾性部材10bおよび第3弾性部材10cをゴム製したが、これに限定されるものではなく、粘弾性体等の他の部材で形成してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 配管用消音器
2 配管の本体部
3a,3b 円管状部材
3c 円柱状部材
4 第1薄膜部材
5 第2薄膜部材
6 第3薄膜部材
7 配管の大径部
10 弾性部材
10a 第1弾性部材
10b 第2弾性部材
10c 第3弾性部材
20 配管
as 空隙
図1
図2
図3
図4