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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】虚血を治療するためのヘパリン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/727 20060101AFI20230821BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230821BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K31/727
A61K47/36
A61K47/42
A61K45/00
A61K38/22
A61K31/352
A61K31/4365
A61K9/08
A61P9/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020534812
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 US2018049466
(87)【国際公開番号】W WO2019050893
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】62/554,101
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513088261
【氏名又は名称】エクセル メッド、エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】510229072
【氏名又は名称】ナショナル チェン クン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ホァン,リン,エル.エイチ.
【審査官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-536909(JP,A)
【文献】国際公開第2012/162555(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2014/0315805(US,A1)
【文献】特表2013-539761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/727
A61K 47/36
A61K 47/42
A61K 45/00
A61K 38/22
A61K 31/352
A61K 31/4365
A61K 9/08
A61P 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血組織を治療するための医薬組成物であって、コア成分及びマトリックス成分を含み、前記コア成分はヘパリン又はその誘導体を含み、前記マトリックス成分はヒアルロナン又はその誘導体を含み、10mPa・sよりも大きい粘度を有し、
前記ヒアルロナン又はその誘導体は4kDa~5000kDaの平均分子量を有し、
前記粘度の測定条件は25℃、20rpmであり、
前記ヘパリンの誘導体は、分画ヘパリン、ヘパリン類似物質、エノキサパリン、ダルテパリン又はチンザパリンから成る群から選択され、
前記ヒアルロナンの誘導体は、ヒアルロナンエステル、アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロナン、ヒアルロナンアミド生成物、架橋ヒアルロン酸、ヒアルロン酸のコハク酸ヘミエステル又はその重金属塩、ヒアルロン酸の部分エステル又は全エステル、硫酸化ヒアルロン酸、N-硫酸化ヒアルロン酸、及びアミン又はジアミン修飾ヒアルロン酸から成る群から選択され、
前記ヘパリン又はその誘導体の用量は、0.1mU/g体重~6U/g体重である、
医薬組成物。
【請求項2】
前記粘度は10~10000mPa・sである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ヒアルロナン又はその誘導体は100kDa~5000kDaの平均分子量を有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒアルロナン又はその誘導体は700kDa~2000kDaの平均分子量を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ヒアルロナン又はその誘導体を1mg/ml~100mg/ml含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ヒアルロナン又はその誘導体の平均分子量は700~2000kDaであり、前記ヒアルロナン又はその誘導体の濃度は3~10mg/mlである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ヒアルロナン又はその誘導体の平均分子量は1560kDaであり、前記ヒアルロナン又はその誘導体の濃度は5mg/mlである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記マトリックス成分は、コラーゲン、細胞外マトリックス因子、タンパク質又は多糖を更に含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
100μlあたり0.00001U~20Uの前記ヘパリン又はその誘導体を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記コア成分は、血栓溶解剤又は血管新生化合物を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
血栓溶解剤又は血管新生化合物は、チクロピジン、ワルファリン、組織プラスミノーゲン活性化因子、エミナーゼ、レタバーゼ、ストレプターゼ、テネクテプラーゼ、アボキナーゼ、キンライティック、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、アニソイル化精製ストレプトキナーゼ活性化因子複合体(APSAC)、フィブリン、プラスミン及び血管内皮増殖因子(VEGF)から成る群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記虚血組織に直接投与されるが静脈内投与されない、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記虚血組織は、潰瘍であるか、又は対象の心臓若しくは肢にある、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記虚血組織は筋肉である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記虚血組織は糖尿病患者の虚血組織である、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2017年9月5日に提出された米国仮出願第62/554,101号に対して優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
虚血では、器官又は組織の血液量が減少する。虚血は、全身性貧血の局所的徴候、又は局所的な血液循環障害の結果である可能性がある。虚血には、以下の種類がある。1)圧迫性虚血は、例えば腫瘍、きつい包帯、及び滲出物から動脈血管に圧力がかかった結果、血管の内腔が狭くなったり閉塞したりすることによって生じる可能性がある。臨床的には、長期にわたる横臥から形成される痔核や潰瘍は、側部の血管の圧迫による虚血によって引き起こされる組織壊死の例であり、筋肉の損傷につながる可能性がある。2)動脈血栓症や塞栓症による閉塞性虚血は、血管閉塞を引き起こす可能性があり、その結果、例えば四肢や心臓への血液供給が遮断されてしまう。3)外側肢虚血は、大量の血液が腹部器官に急速に流入することによって引き起こされ、結果として他の器官や組織の虚血が生じる可能性がある。
【0003】
下肢の末梢動脈疾患の患者は、ほとんどが60歳以上であり、患者の約半分は糖尿病に罹患している。現在、虚血下肢に対して血管新生治療法が売り出されている。例えば、AutoloGelシステムは、患者の自家の高濃度多血小板血漿(PRP)を抽出し、創傷治癒を促進する増殖因子とサイトカインを加えてゼラチン状物質を形成することによって調製される、創傷包帯である。しかしながら、このような治療法は慢性創傷の治療のみに使用され、根本的な虚血を治療することはできない。血管閉塞を解消するには、バイパス移植、血管拡張、及び血管ステント留置等の他の治療法が必要である。
【0004】
虚血下肢に関する多くの研究では、血管新生を刺激するVEGFやFGF等、血管新生シグナル伝達に関連するサイトカインや組換え増殖因子等の血管新生治療法が、活発に開発されている。血小板由来増殖因子(PDGF)は、発達中又は成体の組織における間葉細胞の増殖、遊走及び分化を刺激することが分かっており、患者の骨髄からの内皮由来細胞の放出を促進して、血管増殖を達成するために使用される。また、血管新生シグナル伝達に間接的に関連する物質によってヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を刺激して、血管新生を刺激することもできる。組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)とHUVECを用いた治療は、骨髄から血管に遊走する内皮前駆細胞の数を増やして、血管内皮の若返りを促進して治療効果を達成するために行われる。
【0005】
上記の血管新生の直接的な促進に加えて、研究により、ヘパリンを乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)ナノ粒子で処理することにより、治療上の血管新生を達成することができることが分かっている。その役割は、薬物の遅延放出によって血管新生関連増殖因子の発現を刺激することである。ヘパリン(未分画ヘパリンとしても知られる)、分画ヘパリン(低分子量ヘパリンとしても知られる)及びその低分子量誘導体(例えばエノキサパリン、ダルテパリン、及びチンザパリン)は、深部静脈血栓症と肺塞栓の予防に有効である。それらは通常、静脈内又は皮下に投与される。
【0006】
糖尿病によって引き起こされる高血糖症の生理的状態により、内皮増殖因子の分泌が減少し、重度の血管疾患の場合、切断に至るおそれがある。現在の治療法の大部分は血管新生因子を含み、臨床使用又は医学的有効性において多くの困難に直面している。今日では、虚血組織を再生するための効果的な治療法はまだないが、切断から四肢を救う治療法はある。したがって、ほとんどの患者に適した虚血組織用の治療組成物の開発は、解決すべき重要な問題である。
【発明の概要】
【0007】
一態様において、本明細書には、虚血組織を治療するための医薬組成物が記載される。医薬組成物は、コア成分及びマトリックス成分を含み、コア成分はヘパリン又はその誘導体を含み、マトリックス成分はヒアルロナン又はその誘導体を含み、医薬組成物は10mPa・sよりも大きい粘度を有する。一部の実施形態では、粘度は10~10000mPa・sである。一部の実施形態では、粘度は、平均分子量700~2000kDaであるヒアルロナンの3~10mg/mlの粘度の範囲内にある。一部の実施形態では、粘度は、平均分子量1560kDaであるヒアルロナンの5mg/mlの粘度と同じである。
【0008】
一部の実施形態では、ヒアルロナンは、100kDa~5000kDa(例えば700kDa~2000kDa)の平均分子量を有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、ヒアルロナンを1mg/ml~100mg/ml含む。ヒアルロナンの平均分子量は700~2000kDaであってよく、ヒアルロナンの濃度は3~10mg/mlであってよい。一部の実施形態では、ヒアルロナンの平均分子量は1560kDaであり、ヒアルロナンの濃度は5mg/mlである。
【0009】
医薬組成物中のヘパリン又はその誘導体は、未分画ヘパリン(UFH)、分画ヘパリン(低分子量ヘパリン)、ヘパリン類似物質、エノキサパリン、ダルテパリン又はチンザパリンから成る群から選択することができる。一部の実施形態では、医薬組成物は、100μlあたり0.00001U~20Uのヘパリン又はその誘導体を含む。
【0010】
一部の実施形態では、マトリックス成分は、コラーゲン、細胞外マトリックス因子、タンパク質又は多糖を更に含む。
【0011】
一部の実施形態では、コア成分は、血栓溶解剤又は血管新生化合物を更に含む。血栓溶解剤又は血管新生化合物は、チクロピジン、ワルファリン、組織プラスミノーゲン活性化因子、エミナーゼ、レタバーゼ、ストレプターゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、テネクテプラーゼ、アボキナーゼ、キンライティック、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、アニソイル化精製ストレプトキナーゼ活性化因子複合体(APSAC)、フィブリン、プラスミン及び血管内皮増殖因子(VEGF)から成る群から選択することができる。
【0012】
別の態様において、本明細書では、対象における虚血組織を治療する方法が提供される。本方法は、本明細書に記載の医薬組成物を、医薬組成物が静脈内投与されないという条件で、対象における虚血組織に直接投与することを含む。一部の実施形態では、医薬組成物は筋肉内投与される。虚血組織は、潰瘍であるか、又は対象の心臓若しくは肢にあってよい。
【0013】
一部の実施形態では、虚血組織は、潰瘍であるか、又は対象の心臓若しくは肢にある。虚血組織は筋肉であってよい。一部の実施形態では、対象は糖尿病に罹患している。
【0014】
1つ以上の実施形態の詳細が、添付の図面及び以下の説明に記載される。実施形態の他の特徴、目的及び利点は、説明及び図面並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】糖尿病マウスと非糖尿病マウスの虚血組織の再生力を比較する一連の棒グラフである。(A)下肢の身体スコア;及び(B)下肢の血流。
図2】ヒアルロナンを含む医薬組成物で処置された下肢虚血の糖尿病マウスの外観スコアを示す棒グラフである。
図3】ヒアルロナン及びヘパリンを含む医薬組成物で処置された下肢虚血の糖尿病マウスの外観スコアを示す棒グラフである。
図4】ヒアルロナン及びヘパリンを含む医薬組成物の複数回投与で処置された下肢虚血の糖尿病マウスの外観スコアを示す棒グラフである。
図5】ヒアルロナン及びヘパリンを含む医薬組成物で処置された下肢虚血の糖尿病マウスにおける(A)新血管新生(neovascularization)と(B)歩行機能を示す一連の棒グラフである。
図6】(A)バッファー溶液、(B)ヘパリン及びヒアルロナンを含む医薬組成物、及び(C)(B)の組成物の粘度の3分の1の粘度をもつ、ヘパリン及びヒアルロナンを含む医薬組成物で処置された、ブタの虚血心臓の断面を示す一連の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
予期せぬことに、特定の粘度を有するヒアルロナンとヘパリンとを含む医薬組成物が虚血組織の治療に有効であることが発見された。
【0017】
医薬組成物
【0018】
したがって、本明細書には、虚血組織を治療するための医薬組成物が記載される。医薬組成物は、コア成分及びマトリックス成分を含み、コア成分はヘパリンを含み、マトリックス成分はヒアルロナン又はその誘導体を含む。医薬組成物は、10mPa・sよりも大きい粘度を有する。粘度を測定するために選択されるパラメーター(例えばスピンドルや回転速度)に応じて、組成物の粘度は、10~10000mPa・sの範囲にあってよい(例えば10~100、50~150、100~200、150~250、250~500、500~1000、1000~1500、1500~2000、2000~2500、2500~3000、3000~3500、3500~5000、5000~6000、6000~7000、7000~8000、8000~9000又は9000~10000)。
【0019】
医薬組成物の粘度は、平均分子量700~2000kDa(例えば700、800、900、1000、1500、1600、1700、1800、1900又は2000)のヒアルロナンの3~10mg/ml(例えば3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10mg/ml)の粘度の範囲内に収まることができる。以下の表2~5を参照されたい。一部の実施形態では、組成物の粘度は、平均分子量1560kDaであるヒアルロナンの5mg/mlの粘度と同じである。例えば、下記のデータは、2000kDaヒアルロナン4mg/mlと、1,560kDaヒアルロナン5mg/mlと、700kDaヒアルロナン6.5mg/mlは、粘度がほぼ同じであることを示している。
【0020】
医薬組成物中のヒアルロナンの分子量は、4kDa~5000kDaの範囲であってよい(例えば4~20、20~100、100~500、500~1000、1000~2000、2000~2500、2500~5000、5、10、50、100、200、300、400、500、750、1000、1500、1800、2000、2500、3000、3500、4000、4500又は5000kDa)。医薬組成物中のヒアルロナンの濃度は、1~100mg/mlであってよい(例えば1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg/ml)。特に、医薬組成物中のヒアルロナンの濃度は、平均分子量700~2000kDaのヒアルロナンを用いる場合、3~10mg/mlであってよい(例えば3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10mg/ml)。当業者であれば、所望の粘度を有する組成物を達成するために、分子量と濃度の適切な組合せを選択することができるであろう。また、当業者であれば、当該分野で既知の方法と市販の機器を使用して、組成物の粘度を決定することができるであろう。
【0021】
医薬組成物中のヘパリンは、ヘパリン又はその誘導体であってよい。ヘパリンは、未分画ヘパリン(UFH)、分画ヘパリン(低分子量ヘパリン)、ヘパリン類似物質、エノキサパリン、ダルテパリン及びチンザパリンから成る群から選択することができる。一部の実施形態では、医薬組成物は、100μLあたり0.00001U~20U(例えば0.0001~10、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20U)の濃度でヘパリンを含む。ヘパリンの1単位(U)(「ハウエル単位」)は、純粋ヘパリンの0.002mgにほぼ相当し、これは、猫の血液流体1mlを0℃で24時間保存するのに必要とされる量である。
【0022】
コア成分は、更に、VEGF、チクロピジン、ワルファリン、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、エミナーゼ(アニストレプラーゼ)、レタバーゼ(レテプラーゼ)、ストレプターゼ(ストレプトキナーゼ、カビキナーゼ)、アクチバーゼ、テネクテプラーゼ(TNKase)、アボキナーゼ、キンライティック(ロキナーゼ)、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ活性化因子複合体(APSAC)、フィブリン及びプラスミンから成る群から選択される血栓溶解剤又は血管新生化合物を含むことができる。医薬組成物は、1つ以上の血栓溶解剤又は血管新生化合物を含むことができる。医薬組成物は、推奨される臨床用量と同じかそれよりも少ない用量で血栓溶解剤及び血管新生化合物を含むことができる。
【0023】
「ヒアルロナン(hyaluronan)」という用語は、N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸の反復二糖単位を含む、天然に存在するアニオン性の非硫酸化グリコサミノグリカンと、その誘導体を指す。天然に存在するヒアルロナン(ヒアルロン酸(hyaluronic acid)又はヒアルロン酸塩(hyaluronate)としても知られる)は、従来の方法により、その自然源、例えば連鎖球菌のカプセル、雄鶏のとさか、軟骨、滑膜関節液、臍帯、皮膚組織及び目の硝子体液から分離することができる。例えば、Guillermo Lago他、Carbohydrate Polymers 62(4):321-326、2005年;及びIchika Amagai他、Fisheries Science 75(3):805-810、2009年を参照されたい。或いは、Genzyme Corporation、Lifecore Biomedical、LLC、及びHyaluron Contract Manufacturing等の商業ベンダーから購入することもできる。天然に存在するヒアルロナンの誘導体としては、ヒアルロナンエステル、アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロナン、ヒアルロナンアミド生成物、架橋ヒアルロン酸、ヒアルロン酸のコハク酸ヘミエステル又はその重金属塩、ヒアルロン酸の部分エステル又は全エステル、硫酸化ヒアルロン酸、N-硫酸化ヒアルロン酸、及びアミン又はジアミン修飾ヒアルロン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。それらは、その官能基(例えばカルボン酸基、ヒドロキシル基、還元末端基、N-アセチル基)の1つ以上を化学的に修飾することによって得ることができる。カルボキシル基は、エステル化、又はカルボジイミド及びビスヒドラジド(bishydrazide)によって媒介される反応を介して、修飾することができる。ヒドロキシル基の修飾としては、硫酸化、エステル化、イソ尿素カップリング、臭化シアン活性化、及び過ヨウ素酸酸化等が挙げられるが、これらに限定されない。還元末端基は、還元的アミノ化によって修飾することができる。還元末端基はまた、リン脂質、色素(例えばフルオロフォア又は発色団)又は親和性マトリックスの調製に適した薬剤に連結することもできる。天然に存在するヒアルロナンの誘導体は、架橋剤(例えば、ビスエポキシド、ジビニルスルホン、ビスカルボジイミド、小型のホモ二官能性リンカー、ホルムアルデヒド、シクロヘキシルイソシアニド及びリジンエチルエステル、金属カチオン、ヒドラジド、又はそれらの混合物)を用いた架橋結合により、又は内部エステル化、光架橋若しくは表面プラズマ処理を介して、得ることもできる。ヒアルロナン溶液を作るために、ヒアルロナンをリン酸緩衝液(例えばpH7±1で≦0.05M)及び/又はNaCl(例えば≦0.9%)に溶解することができる。
【0024】
組成物の粘度が所望の範囲内に留まる限り、マトリックス成分は1つ以上の他のマトリックス分子を含むことができる。マトリックス分子としては、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロナン、フィブロネクチン、エラスチン、テナシン、ラミニン、ビトロネクチン、ポリペプチド、ヘパラン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヘパリン、キチン、キトサン、アルギン酸塩、アガロース、寒天、セルロース、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、グリコーゲン及びそれらの誘導体が挙げられる。更に、マトリックス成分は、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、ポリグルタミン酸、合成ポリマー(例えばアクリレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体)又は架橋剤(例えばゲニピン、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド又はエポキシド)を含むことができる。
【0025】
治療方法
【0026】
虚血組織を治療するために、有効量の医薬組成物を患者に投与することができる。医薬組成物は、虚血組織(例えば筋肉)に直接、又はその近くに、投与(例えば注射又は塗布)することができる。硬さがゼラチン状又は粘性である組成物は、静脈内投与されない。
【0027】
組成物は、適切な治療期間(例えば1~4週間、1~12ヶ月、又は1~3年)にわたり、必要な頻度で(例えば1日1~5回、週1~5回、月1~5回)、対象に投与されてよい。組成物は、虚血又は虚血性損傷が生じた後、できるだけ早く(例えば0~48時間又は1~7日以内に)投与されることが好ましい。
【0028】
投与される医薬組成物の量は、治療化合物、例えばヘパリン、血栓溶解剤又は血管新生化合物の有効量を提供するのに十分でなければならない。ヘパリンの有効量は、体重1グラムあたり100μlで0.00001U~20Uであってよい(例えば0.0001~10、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20U)。血栓溶解剤又は血管新生化合物の有効量は、血栓溶解剤の有効性に応じて、対象の体重1グラムあたり、例えば0.00001~10μgであってよい(例えば0.00001~0.001、0.001~0.005、0.005~0.01、0.05~0.1、0.1~0.5、0.5~1、0.00001、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10μg)。
【0029】
「治療」とは、障害、障害の症状、障害に続発する疾患状態、又は障害になりやすい傾向を治療し、緩和し、軽減し、治し、発症を遅らせ、予防し、又は改善することを目的とした、障害を患っている対象又は障害を発症するリスクのある対象への医薬組成物の投与を指す。「有効量」とは、治療対象において医学的に望ましい結果をもたらすことのできる組成物の量を指す。治療法は、単独で実施することができ、又は、他の薬物又は療法と併用して実施することができる。治療される対象は、ヒト又は実験動物若しくは家畜であってよい。
【0030】
以下の具体的な例は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる形であれ、本開示の残りの部分を限定するものではない。更なる詳述がなくても、当業者であれば、本明細書の説明に基づいて、本開示を最大限に利用できると考えられる。本明細書に引用される全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0031】
例1:糖尿病性下肢虚血マウスモデル
【0032】
実施された以下の全ての実験は、国立成功大学(NCKU)の動物実験委員会(IACUC)によって事前に承認された。C57BL/6雄マウスを、NCKU実験動物センター又はBioLASCO Taiwan Co.,Ltd.から入手した。実験が行われる前にマウスを環境に適応させるために、NCKUバイオテクノロジー研究所の動物施設に少なくとも1週間収容した。
【0033】
この実験動物モデルは、下肢虚血の治療法を研究するために確立された。高齢の特徴と治癒の遅い創傷を伴う糖尿病組織を呈するように、6~8ヶ月以上のマウスを50mg/kg体重のストレプトゾトシン(STZ)溶液で処置し、I型糖尿病を誘発した。マウスの血糖値が低いと結果に干渉することがあるので、血糖値が400mg/dl~550mg/dlの範囲内であるマウスを実験に使用し、また、致命的な高血糖値を回避するために、マウスに微量のインスリンが適用される場合があった。自己再生の新血管新生の可能性を回避するために、マウスの下肢の大腿動脈とその末梢血管を切断した。このモデルは、治療によるものではない血管再生の可能性を排除し、これにより、試験薬物の血管新生能力をより正確に評価することが可能となった。
【0034】
下肢虚血を誘発するために、剃毛した糖尿病マウスを、毎分ガス1リットルあたり1~3%のイソフルランを含む換気ガスを用いるガス麻酔ボックスに入れた。マウスが意識を失った後、手術台に移動し、ガス麻酔下で維持した。通気性テープを用いて四肢を固定した後、37℃の加熱パッドでマウスの体温を一定に保持した。マウスの下腹部と下肢を消毒した後、左足首の小開口から大腿まで肢の皮膚を切開した。マウスのふくらはぎの筋肉の背側にある2本の外側血管の両端を外科縫合糸で結び、血管を除去して背側の血管の血流を遮断した。次に、腹側大腿動脈の側枝と主血管を遮断した。足首付近の動脈とその周辺の血管の端を外科縫合糸で結んで、大腿動脈と末梢血流が確実に完全に遮断されるようにした。
【0035】
血管を切断した後、虚血に対する治療効果について試験する医薬組成物を、組織に直接塗布するか、又は腓腹筋に8箇所注射し、外科的開口部を縫合した。マウスに1mg/kg体重のケトロラック鎮痛剤とリドカイン-HCl局所麻酔剤を皮下注射し、また、痛みを和らげ水分補給を行うために1mlの生理食塩水を投与した。必要なときはいつでも、体力を維持するためにグルコース溶液を投与した。
【表1】
【0036】
術後0、1、2、3、4、5、6、7、14、21、及び28日目に、マウスの下肢の見かけの外観と血流を、それぞれ表1に示すスコアシステムとレーザードップラー流量計を用いて評価した。関心領域(ROI)は、大腿から末端の爪までの面積を用いて、レーザードップラー流量計から取得した。次に、ROIを、手術後の左下肢の血流信号対未処置の右下肢の血流信号の比として計算し、手術前に取得された血流信号に基づいて、比を百分率で正規化した。
【0037】
例2:非糖尿病組織の再生力
【0038】
非糖尿病マウスと糖尿病マウスの再生力を比較するために、両群のマウスに上記の下肢虚血の手術を実施した。両群の肢外観スコアと血流情報を時間とともに記録した。図1(A)及び図1(B)を参照されたい。両者が重度の虚血手術を受けた場合、マウスでの糖尿病の誘発により、非糖尿病マウスよりも肢の回復が悪化した。また、結果から、非糖尿病群の方が糖尿病群よりも下肢の血流の回復が良好であり得ることも示された。医薬組成物の有効性をスクリーニングし保証するために、糖尿病マウスを以下の実験で使用したが、その結果は特許請求の範囲の応用分野の制限に使用されるべきではない。
【0039】
例3:ヒアルロナン粘度試験
【0040】
様々な分子量をもつヒアルロナンを異なる濃度で含む組成物を製造した。
【0041】
医薬組成物の粘度を、DV2TRV Viscometer(ブルックフィールド、米国)を使用してマニュアルに従って試験した。粘度に応じて適切なスピンドル(CPE40又はCPE52)を選択した。試験の前に、機械をキャリブレーションし、25℃、20rpmで1分間動作するように設定した。各サンプル500μlを粘性ピペットでサンプルプレートに移し、実行ボタンを押してサンプルの粘度の測定を開始した。
【0042】
1,560kDa、700kDa及び2,000kDaの平均分子量をもつヒアルロナン5mg/mlの粘度を測定し、結果を表2に示す。平均分子量1,560kDaのヒアルロナン5mg/mlの粘度を参照として使用し、表3及び表4に示すように、平均分子量700kDaと2,000kDaのヒアルロナンの様々な濃度の粘度を測定した。次に、参照粘度の粘度に近い粘度の平均分子量700kDaと2,000kDaのヒアルロナンの濃度を計算し、それぞれ6.5mg/mlと4mg/mlに調整した。
【0043】
以下の表5に示すように、測定パラメーターを変更すると、同じ濃度と分子量範囲のヒアルロナンの粘度が変化することが分かった。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0044】
例4:虚血組織の治療に対するヒアルロナン単独又はヘパリン単独の有効性
【0045】
糖尿病マウスの虚血下肢に、筋肉内注射によりヒアルロナンを適用した。図2に示すように、ヒアルロナン単独では2週間でわずかな効果しかなかったが、糖尿病マウスが下肢に重度の虚血を患っていた場合、効果は有意ではなかった。3日目又は5日目に2回目の注射を行った場合、複数回投与には、対照群(虚血部位にのみリン酸緩衝生理食塩水を投与した)よりも優れた治療効果はなかった。図2を参照されたい。
【0046】
ヘパリンは、血栓症を防ぐために静脈内注射に使用される。ヘパリンを、マウスの下肢の虚血部位に注射することにより、単独で試験した。マウスの下肢の周囲に組織出血が常に見られ、又は、マウスの虚血下肢において回復効果は観察されなかった(データの図示なし)。
【0047】
例5:ヒアルロナン及びヘパリンを含む医薬組成物
【0048】
それぞれヘパリンのコア成分とヒアルロナンマトリックス成分とを含む医薬組成物を調製し、虚血に対する治療効果を試験した。ヘパリン成分は、未分画ヘパリン(UFH)、分画ヘパリン(低分子量ヘパリン)、ヘパリン類似物質、エノキサパリン、ダルテパリン及びチンザパリンのうちの1つであった。ヒアルロナンマトリックス成分の平均分子量は、4~5000kDaであった。例3に記載されるように、様々な分子量のヒアルロナンは、様々な濃度で異なる粘度を示した。更に、ヘパリン、特にUFHとヘパリン類似物質は、ゼラチン状の材料であり、一定の粘度ももたらした。
【0049】
ヒトに使用できるヘパリン薬の最大有効量及び最小有効量を、体重に応じてマウスの用量に変換した。上記の例1に記載の下肢虚血手術後、糖尿病マウスの複数の部位に医薬組成物を注射した。手術後に緩衝液のみで処置した糖尿病マウスを対照として用いた。上記の例1に記載したように、術後0、1、2、3、4、5、6、7、14、21、及び28日目に外観スコアを記録し、術後7、14、21、及び28日目に血流信号を測定した。
【0050】
一例では、平均2500kDaのヒアルロナン3.5mg/mlと0.1Uの低分子量ヘパリンにより、虚血肢の切断を防ぐことができた。別の例では、平均700kDaのヒアルロナン6.5mg/mlと0.05Uのヘパリン類似物質により、虚血肢の切断を防ぐことができた。
【0051】
例6:ヒアルロナン及びヘパリンを含む医薬組成物の有効性
【0052】
それぞれ緩衝リン酸生理食塩水に低分子量ヘパリンのコア成分と平均分子量1,560kDaのヒアルロナン5mg/mlとを含む医薬組成物を調製し、下肢虚血に対する治療効果を調査した。例1に記載の下肢虚血手術の後、糖尿病マウスの虚血筋肉の8箇所に医薬組成物を投与した。術後にリン酸緩衝生理食塩水のみで処置した糖尿病マウスを対照として用いた。上記の例1に記載したように、術後0、1、2、3、4、5、6、7、14、21、及び28日目に外観スコアを記録し、術後7、14、21、及び28日目に血流信号を測定した。外観スコアを図3に示す。
【0053】
処置マウスには、それぞれ、6U、8U、10U、14U又は16Uの低分子量ヘパリンと平均分子量1,560kDaのヒアルロナン500μgとを含む医薬組成物100μlを注射した(すなわち、それぞれDIB6、DIB8、DIB10、DIB14、及びDIB16)。図3に示すように、DIB6群(6Uの低分子量ヘパリンとヒアルロナン)は、糖尿病マウスの虚血下肢の回復や壊疽からの保護に有意な治療効果を示した。体重(BW)あたりの用量に換算すると、DIB6群、DIB8群、及びDIB16群には、それぞれ0.20±0.01U/g BW、0.26±0.01U/g BW、及び0.51±0.01U/g BWのヘパリンが投与された。
【0054】
例7:ヒアルロナン及びヘパリンを含む医薬組成物の複数回投与の有効性
【0055】
術後、糖尿病マウスに、2U、4U、6U、8U、10U、12U、14U又は16Uの低分子量ヘパリンと平均分子量1,560kDaのヒアルロナン500μgとを含む医薬組成物100μlをそれぞれ注射した(すなわち、それぞれDIB2、DIB4、DIB6、DIB8、DIB10、DIB12、DIB14、及びDIB16)。言い換えると、DIB2群、DIB4群、DIB6群、DIB8群、及びDIB16群には、それぞれ医薬組成物中で0.05~0.08U/g BW、0.12~0.15U/g BW、0.20±0.01U/g BW、0.26±0.01U/g BW、及び0.51±0.01U/g BWのヘパリンが投与された。
【0056】
調査は、術後3日目に損傷筋肉の複数箇所に2回目の注射を行ったことを除いて、実施例6に記載のように実施した。下肢の外観スコアを図4に示す。結果から、6U以下のヘパリンをヒアルロナンと組み合せることによって虚血に対する治療効果が得られることと、複数回投与によって治療の有効性が有意に向上し得ることが示された。
【0057】
例8:治療効果をもつ医薬組成物中のヘパリンの最適用量
【0058】
それぞれ低分子量ヘパリン及びヒアルロナンを含む様々な医薬組成物を、表6(ヘパリン用量はU/g体重(BW)として示されている)に示すように調製した。虚血手術後の糖尿病マウスの虚血筋肉の複数箇所に組成物を投与し、例6に記載されるように観察した。
【表6】
【0059】
外観スコアを上記の表6に示す。結果から、6U/g BW以下のヘパリンのヒアルロナンとの併用には治療効果があり、マウスによって多少の違いが見られる場合があるものの、有効用量は0.1mU/g BW~6U/g BWの範囲であり得ることが示された。
【0060】
例9:異なるタイプのヘパリン、1つ以上の血栓溶解剤/血管新生剤及びヒアルロナンを含む医薬組成物
【0061】
異なるタイプのヘパリン、血栓溶解剤/血管新生剤及びヒアルロナンの組合せを含む様々な医薬組成物を、表7に示すように調製した。虚血手術後の糖尿病マウスの虚血筋肉の複数箇所に組成物を投与し、例6に記載されるように観察した。
【0062】
外観スコアを表7に示す。結果から、医薬組成物のコア成分が様々なタイプのヘパリンと様々な血栓溶解剤/血管新生剤を含むことができ、ヘパリンの有効量が0.00001~20U/g BWの範囲であり得ることが示された。更に、医薬組成物は、平均(mean又はaverage)分子量が4~5000kDa(例えば50kDa~2500kDa)の範囲であるヒアルロナンを含むことができた。
【表7】
【0063】
個体によって多少の変動が生じる可能性はあるが、ヒアルロナンとコア成分の組合せ効果は、組織出血を引き起こさずに治療効果を持続させるために、粘性のあるヒアルロナンとコア成分の相互作用を部分的に用いて、有効成分の放出を制御する。
【0064】
例10:医薬組成物で処置されたマウスの機能評価
【0065】
実施例6~9に記載の実験においてポジティブな結果が観察されたので、医薬組成物の治療効果を理解するために、虚血手術後28日目の下肢の生理学的機能を調べた。画像解析により、DIB処置群では明らかに新血管新生が発生したことが示された(データの図示なし)。組織構造の種々の染色から、医薬組成物の局所適用により、新血管新生の有効性が増大しただけではなく、損傷組織が壊疽から保護されたことが観察された。
【0066】
図5(A)に、術後35日目のDIB処置群と正常マウスの新血管新生の定量的比較を示す。結果から、虚血組織の再生に時間がかかることが実証され、また、組織の再生と同時に、密度と血管径の観点から血管の増殖が観察された。もっと時間があれば、新血管の密度と寸法が正常に近付く可能性は十分にあった。
【0067】
神経機能の再生を更に理解するために、手術後35日目に各マウスをプラットフォームに置き、歩行分析を実施した。結果を図5(B)に示す。DIB処置群の2本の肢の間の底幅は、正常対照群の底幅と差がないことが観察された。DIB群の歩幅は、対照群の歩幅と比較して有意に増大したが、正常マウスの歩幅とはかけ離れていた。図5(B)を参照されたい。損傷肢の歩行機能が回復するのに時間がかかったので、結果から、DIB群のマウスの下肢が手術後に萎縮し始めたために、マウスの歩行が完全に正常に戻っていないことが示されたが、対照群よりもはるかに有意に良好であった。
【0068】
例11:梗塞後の虚血心臓組織の再生に対する医薬組成物の治療効果
【0069】
上記の実験上の経験から、心臓梗塞実験用に、ヘパリン10U/mlと平均分子量1500kDaのヒアルロナン5mg/mlとを含む医薬組成物を調製した。アロキサン注射により、12~18ヶ月齢のLanyuブタの糖尿病症状を誘発した。糖尿病ブタの再生能力は、正常対照のそれよりも有意に低かった。ブタの心臓の冠動脈に対して心筋手術を実施し、左前下行枝(LAD)の上部対角枝D2の血管を結紮した。虚血手術後、虚血心筋の30~40箇所に、上記のように調製したゼラチン状医薬組成物を筋肉内注射によって投与した。心機能と血管反応を観察するために、それぞれ心エコー法と血管造影法を用いた。超音波検査は毎週実施した。
【0070】
図6は、結紮下端の先端側の断面を示す。結紮の冠動脈の隣の心筋を、線維症面積の比較のために拡大した(スケールバー=1cm)。術後28日目に、結紮の結び目が心臓にまだ存在しているが、医薬組成物による治療により、心筋に線維化組織が観察されないという顕著な結果がもたらされたことが観察された。一方、偽対照群と、リン酸緩衝生理食塩水で希釈することによって医薬組成物の粘度を好ましい医薬組成物の1/3に意図的に低下させた他の実験群の両方では、線維化組織は明らかであった。更に、その後の組織染色のために、屠殺後に心臓を収集した。これらの結果からも、特定の範囲の粘度が最適であることが示唆される。
【0071】
他の実施形態
【0072】
本明細書に開示される全ての特徴は、任意の組合せで組み合せることができる。本明細書に開示される各特徴は、同じ、均等の、又は同様の目的を果たす代替の特徴によって置換することができる。よって、別段に明記されない限り、開示される各特徴は、包括的な一連の均等又は同様の特徴の例にすぎない。
【0073】
上記の説明から、当業者であれば、記載された実施形態の本質的な特徴を容易に確認することができ、その主旨及び範囲から逸脱することなく、実施形態の様々な変更及び修正を行って、様々な使用及び条件に適合させることができる。よって、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6(A)】
図6(B)】
図6(C)】