(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】ヒスタチンおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20230821BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230821BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230821BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230821BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230821BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20230821BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230821BHJP
A61P 39/04 20060101ALI20230821BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
A61K38/16
A61P9/10
A61P17/02
A61P27/02
A61P27/04
A61P29/00
A61P31/04
A61P39/04
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018547257
(86)(22)【出願日】2016-11-29
(86)【国際出願番号】 US2016063906
(87)【国際公開番号】W WO2017095769
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-21
(32)【優先日】2015-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513016884
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ イリノイ
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】アーカル,ヴィナイ
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】冨永 みどり
【審判官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0178010(US,A1)
【文献】特表2015-526386(JP,A)
【文献】特表2004-537290(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2012年,Vol.7, No.12, e51479,pp.1-9
【文献】Advanced Drug Delivery Reviews,2013年,Vol.65,pp.1357-1369
【文献】FASEB J.,2009,Vo.23,No.8,p.2691-2701
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
Pubmed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造
[HTNF
1-L
1-HTNF
2-(L
2)
y]
x(式1)を有する合成ヒスタチンであって:
ここで
i)HTNF
1が、長さが5-20アミノ酸の第1のヒスタチンフラグメントであり;
ii)HTNF
2が、長さが5-20アミノ酸の第2のヒスタチンフラグメントであり;
iii)L
1が、第1のリンカーであり;
iv)L
2が、第2のリンカーであり;
v)x=2または3;および
vi)y=0~2;
ここでHTNF
1およびHTNF
2は、それぞれ独立して同一または異なっており、L
1およびL
2は、それぞれ独立して同一または異なっており、
ここで、(a)リンカーが、外因性リンカーまたは異種分子であり、および、(b)HTNF
1が、HEXXH(配列番号:2)またはHEKRHH(配列番号:27)のアミノ酸配列を有し、各Xが独立して塩基性アミノ酸残基である、長さが5-6アミノ酸残基のペプチドであり、前記合成ヒスタチンのC末端ドメインであるHTNF
2が、SNYLYDN(配列番号:1)のアミノ酸配列を有し、その他のHTNF
2が、HEXXH(配列番号:2)またはHEKRHH(配列番号:27)のアミノ酸配列を有し、各Xが独立して塩基性アミノ酸残基であ
り、
ここでL
1
またはL
2
が、フレキシブルリンカー、リジッドリンカー、in vivo切断可能リンカー、またはそれらの組み合わせであり、
ここでフレキシブルリンカーが、炭化水素リンカー、または(GGGGS)n(配列番号:3)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号:4)もしくはEGKSSGSGSESKST(配列番号:5)、GGGGGGGG(配列番号:6)、GSAGSAAGSGEF(配列番号:7)、(GGSG)n(配列番号:8)、もしくは(GS)n(配列番号:9)であり、ここでnが1、2、3、4または5である、アミノ酸配列を有するペプチドリンカーであり、
ここでリジッドリンカーが、(EAAAK)
n
(配列番号10)、A(EAAAK)
n
A(配列番号11)、またはPAPAP(配列番号:12)であり、ここでnが1、2、3、4または5であり、または(P)
n
(配列番号:13)であり、ここでnが1~10のいずれかである、アミノ酸配列を有するペプチドリンカーであり、
ここでin vivo切断可能リンカーが、VSQTSKLTRAETVFPDV(配列番号:14)、PLGLWA(配列番号:15)、RVLAEA(配列番号:16)、EDVVCCSMSY(配列番号:17)、GGIEGRGS(配列番号:18)、TRHRQPRGWE(配列番号:19)、AGNRVRRSVG(配列番号:20)、RRRRRRRRR(配列番号:21)、GFLG(配列番号:22)またはCRRRRRREAEAC(配列番号:23)のアミノ酸配列を有するペプチドリンカーである、
前記ヒスタチン。
【請求項2】
炭化水素リンカーが、構造-(CH
2)
6-を有する、請求項
1に記載の合成ヒスタチン。
【請求項3】
合成ヒスタチンが線状化または環化されている、請求項1に記載の合成ヒスタチン。
【請求項4】
合成ヒスタチンが、末端システイン残基間のジスルフィド架橋を介して環化されている、請求項
3に記載の合成ヒスタチン。
【請求項5】
合成ヒスタチンがソルターゼまたはブテラーゼで環化されている、請求項3に記載の合成ヒスタチン。
【請求項6】
以下の構造:
(a)GYKRKFHEKHHSHR-(CH
2)
6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:28);
(b)HEKHH-(CH
2)
6-HEKHH-(CH
2)
6-HEKHH-(CH
2)
6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:29);
(c)HEKRHH-(CH
2)
6-HEKRHH-(CH
2)
6-HEKRHH-(CH
2)
6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:30);
(d)HEKRHH-(CH
2)
6-HEKRHH-(CH
2)
6-HEKHH-(CH
2)
6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:31);または
(e)HEKRHH-(CH
2)
6-HEKHH-(CH
2)
6-HEKHH-(CH
2)
6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:32)
を有する、合成ヒスタチン。
【請求項7】
請求項1
または6に記載の1種以上の合成ヒスタチンおよび薬学的に許容される担体または賦形剤を含む組成物。
【請求項8】
組成物が眼投与のために製剤化される、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1
または6に記載の1種以上の合成ヒスタチンを含むキット。
【請求項10】
有効量の請求項1
または6に記載の合成ヒスタチンを含む、対象の眼疾患または状態を治療するための組成物。
【請求項11】
眼疾患または状態が、眼表面炎症性疾患、ドライアイ疾患、眼組織新血管形成、加齢性黄斑変性、糖尿病性網膜症、慢性または急性の重度ぶどう膜炎、網膜色素上皮疾患、眼表面疾患、感染、角膜または結膜の創傷である請求項1
0に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1
または6に記載の合成ヒスタチンの有効量を含む、組織または器官において創傷治癒、抗菌、金属イオンキレート化、抗炎症、抗血管新生、またはマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害活性を提供するための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/260,705号に対する優先権の利益を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって付与された助成金番号5K08EY024339-02の下での政府の支援によってなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ヒスタチン(HTN)は、唾液中およびヒト涙点上皮に見出されたれ小さなヒスチジンに富むカチオン性ペプチドである(Aakalu, et al. (2014) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 55:3115; Ubels, et al. (2012) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 53(11):6738-47; Steele, et al. (2002) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 43:98)。ヒスタチンは、7~38アミノ酸残基の長さの範囲であり、抗菌特性および著しい抗真菌特性を有する一群の抗菌ペプチドを表す。さらに、ヒスタチンは、創傷治癒、金属イオンキレート化、抗炎症効果および血管新生に関与している(Melino, et al. (2014) FEBS J. 281:657-72; Oudhoff, et al. (2008) FASEB J. 22(12):3805-12); Oudhoff, et al. (2009) J. Dent. Res. 88(9):846-50; WO 2007/142381)。構造機能研究により、HTN1およびHTN3の両方において、各々の抗菌および創傷治癒特性に寄与する異なるN末端およびC末端ドメインが同定されている(Melino, et al. (1999) Biochemistry 38:9626-33; Brewer, et al. (1998) Biochem. Cell Biol. 76:247-56; Gusman, et al. (2001) Biochim. Biophys. Acta 1545:86-95)。これに関して、ヒスタチン、ならびにそのフラグメント、多量体およびそれらの組み合わせは、眼表面疾患?(US2013/0310327;2013/0310326;WO2016/060916;WO2016/060917;WO2016/060918;WO2016/060921;US2016/0279194)および創傷(US2013/0288964;US 2011/0178010)を含む様々な状態の処置における使用のために提案されている。
【0004】
ヒスタチンの環状類縁体もまた記載されている。例えば、US6,555,650には、前記アミノ酸ユニットの5~16個の環状部分を生成するジスルフィド架橋を有するHTN5の環状類似体が記載されている。さらに、HTN5の頭-尾部環化は、抗菌効力に影響を及ぼさずにペプチドの両親媒性を増加させることが示されている(Sikorska & Kamysz (2014) J. Pept. Sci. 20:952-7)。さらにヒスタチン-1の環化はモル活性を約1000倍に増強することが示されており(Oudhoff, et al. (2009) FASEB J. 23:3928-35)、創傷閉鎖活性を増加させる(Bolscher, et al. (2011) FASEB J. 25:2650-8)。さらに、強化された効力を有するヒスタチンの環状類縁体は、微生物感染の処置に使用することが示唆されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、以下の一般構造を有する合成ヒスタチンを提供する:
[HTNF1-L1-HTNF2-(L2)y]X(式1)
ここで
i)HTNF1は、長さが5~20アミノ酸の第1のヒスタチンフラグメントであり;
ii)HTNF2は、長さが5~20アミノ酸の第2のヒスタチンフラグメントであり;
iii)L1は第1のリンカーであり;
iv)L2は第2のリンカーであり;
v)x=1~3;および
vi)y=0~2であり;
ここで各HTNF1およびHTNF2は独立して同一または異なっており、各L1およびL2は独立して同一または異なっている。ある態様において、HTNF1またはHTNF2はSNYLYDN(配列番号1)またはHEXXH(配列番号2)のアミノ酸配列を有し、各Xは独立して塩基性アミノ酸残基である。別の態様において、L1またはL2は、フレキシブルリンカー、リジッドリンカー、in vivo切断可能リンカー、またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様において、フレキシブルリンカーは、例えば構造-(CH2)6-を有する炭化水素リンカー、または(GGGGS)n(配列番号:3)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号:4)またはEGKSSGSGSESKST(配列番号:5)、GGGGGGGG(配列番号:6)、GSAGSAAGSGEF(配列番号:7)、(GGSG)n(配列番号:8)または(GS)n(配列番号:9)、ここで式中、nは1~5である。他の態様において、リジッドリンカーは、(EAAAK)n(配列番号:10)、A(EAAAK)nA(配列番号:11)、PAPAP(配列番号:12)または(XP)n(配列番号:13)であり、ここで式中、nは1、2、3、4または5である)のアミノ酸配列を有するペプチドリンカーである。さらに別の態様において、in vivo切断可能リンカーは、VSQTSKLTRAETVFPDV(配列番号:14)、PLGLWA(配列番号:15)、RVLAEA(配列番号:16)、EDVVCCSMSY(配列番号:17)、GGIEGRGS(配列番号18)、TRHRQPRGWE(配列番号19)、AGNRVRRSVG(配列番号20)、RRRRRRRRR(配列番号21)、GFLG(配列番号22)、またはCRRRRRREAEAC(配列番号23)である。さらなる態様において、合成ヒスタチンは、例えば、末端システイン残基の間のジスルフィド架橋を介して、またはソルターゼまたはブチラーゼを用いて、線状または環化される。ある態様において、合成ヒスタチンは以下の構造を有する:
GYKRKFHEKHHSHR(配列番号:24)-L1-YGDYGSNYLYDN(配列番号:25);
HEKHH(配列番号:26)-L1-HEKHH(配列番号:26)-L2-HEKHH(配列番号:26)-L1-YGDYGSNYLYDN(配列番号:25);
HEKRHH(配列番号:27)-L1-HEKRHH(配列番号:27)-L2-HEKRHH(配列番号:27)-L1-YGDYGSNYLYDN(配列番号:25);
HEKRHH(配列番号:27)-L1-HEKRHH(配列番号:27)-L2-HEKHH(配列番号:26)-L1-YGDYGSNYLYDN(配列番号:25);または
HEKRHH(配列番号:27)-L1-HEKHH(配列番号:26)-L2-HEKHH(配列番号:26)-L1-YGDYGSNYLYDN(配列番号:25)、ここで各L1およびL2は、独立して、フレキシブルリンカー、リジッドリンカー、またはin vivo切断可能リンカーである。特定の態様において合成ヒスタチンは以下の構造を有する:
GYKRKFHEKHHSHR-(CH2)6-YGDYGSNYLYDN (配列番号:28)、HEKHH-(CH2)6-HEKHH-(CH2)6-HEKHH-(CH2)6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:29)、HEKRHH-(CH2)6-HEKRHH-(CH2)6-HEKRHH-(CH2)6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:30)、HEKRHH-(CH2)6-HEKRHH-(CH2)6-HEKHH-(CH2)6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:31)、または、HEKRHH-(CH2)6-HEKHH-(CH2)6-HEKHH-(CH2)6-YGDYGSNYLYDN(配列番号:32)。
【0006】
式Iの1種以上の合成ヒスタチンおよび薬学的に許容される担体または賦形剤を含む組成物もまた、眼の疾患または状態を処置するためのキットおよび方法として、または式Iの1種以上の合成ヒスタチンを用いた創傷治癒、抗菌、金属イオンキレート化、抗炎症、抗血管新生、組織または器官におけるマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害活性を提供するために提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、合成ヒスタチン阻害活性のザイモグラフ分析を示す。実験には、pro-MMP2(100ng;「-Ve」);Pro-MMP2のAPMA(1mM;「+Ve」)による活性化;古典的なマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、GM6001(200nM;「Inh」)含有物;および内在性HTN5由来の3つの金属結合ドメインおよび内在性HTN1(「H-1」)由来の創傷治癒ドメインを含む様々な量の合成ヒスタチンを含む。タンパク質ラダーが右側に示されている。
【0008】
【
図2】
図2は、内在性HTN1、内因性HTN2および合成ヒスタチンによる血管新生のVEGF依存性阻害を示す。
【0009】
【
図3】
図3は、0.002%塩化ベンザルコニウム(BAK)、または天然ヒスタチン(HTN5)または合成HTN(SYN HTN)と共にBAKの存在下または非存在下で処理したヒト角膜上皮細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出量を示す。列は細胞の死亡率(平均±SD)を表し、全細胞死は100%である(コントロール)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の詳細な説明
ヒスタチンは、眼内への局所適用および浸透に必要な両親媒性であり、EGF非依存性機序による創傷治癒を促進するため、眼科治療剤の開発のための魅力的な分子である。さらに、ヒスタチンは、増殖なしに創傷治癒を促進し、MMP2/MMP9および血管新生を阻害し、感染を防ぎ、抗炎症性である。角膜創傷は、特に、炎症性瘢痕および血管新生性の血管侵襲のために視力喪失を引き起こす可能性がある。ヒスタチンを創傷治癒および抗血管新生剤として利用することは、眼表面疾患治療に広く関与している。今や外因性リンカーによって分離されたヒスタチンの機能的ドメインの組み合わせが、ヒト眼疾患の処置に使用するために調整された融合ペプチドを提供することが見出された。特に、1つ以上の創傷治癒ドメインを有するかまたは有さず、かつ環化を伴うか、または伴わない1つ以上の亜鉛結合ドメインから構成されるペプチドは、様々なアッセイおよび用途におけるヒスタチンの機能および有効性を操作するように設計され得る。
【0011】
したがって、本発明は、合成ヒスタチンおよび抗菌、創傷治癒、金属イオンキレート化、抗炎症、抗癌、抗血管新生および/または特に、眼の疾患または状態の処置におけるマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害用途におけるかかるペプチドおよび/または内在性ヒスタチンの使用を特に提供する。さらに、眼表面疾患、眼の血管新生およびドライアイ疾患における使用を含めた内在性ヒスタチンペプチドの新規使用が提供される。
本発明の合成ヒスタチンは、以下の一般構造を有する:
[HTNF1-L1-HTNF2-(L2)y]X(式1)
ここで
i)HTNF1は、長さが約5~約20アミノ酸の第1のヒスタチンフラグメントであり;
ii)HTNF2は、長さが約5~約20アミノ酸の第2のヒスタチンフラグメントであり;
iii)L1は第1のリンカーであり;
iv)L2は第2のリンカーであり;
v)x=1~3;および
vi)y=0~2であり;
ここで各HTNF1およびHTNF2は独立して同一または異なっており、各L1およびL2は独立して同一または異なっている。
【0012】
用語「約」は、±1~2だけ異なる量を包含する。用語「約」によって修飾されているかどうかにかかわらず、請求項はその量と同等のものを含む。
存在する場合、全ての範囲は包括的かつ組み合わせ可能である。例えば、「1~5」の範囲が記載されている場合、その範囲は、「1~4」、「1~3」、「1-2」、「1~2&4~5」、「1~3&5」などを含むと解釈されるべきである。
【0013】
「ヒスタチンフラグメント」または「HTNF」は、天然のヒスタチンのフラグメントを指す。「ヒスタチンフラグメント」または「HTNF」は、約5~約20アミノ酸残基の長さであり、天然のヒスタチンの金属結合ドメイン、創傷治癒ドメインまたは抗菌ドメインを含む。特定の態様において、ヒスタチンフラグメントは、長さが5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸残基である。他の態様において、ヒスタチンフラグメントは、長さが5~20アミノ酸残基、6~14アミノ酸残基、または12~14アミノ酸残基の範囲である。
【0014】
いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、2つのHTNF、すなわちx=1およびy=0から構成される。他の態様において、合成ヒスタチンは、4個のHTNF、すなわちx=2およびy=1からなる。さらなる態様において、合成ヒスタチンは、6個のHTNF、すなわちx=3およびy=2からなる。例えば、8、10、12、14、16またはそれ以上のHTNFを含むより大きい合成ヒスタチン分子、および例えば、3、5、7、9、11、13、15またはそれ以上のHTNFを含む合成ヒスタチン分子もまた、本発明の範囲に含まれる。しかしながら、合成ペプチドの長さは20~50アミノ酸残基の範囲であることが望ましい。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「内在性ヒスタチン」、「ネイティブヒスタチン」または「天然ヒスタチン」は、当初は唾液中で同定され、その静真菌効果に基づいて特徴付けられた7-44アミノ酸残基、ヒスチジンリッチペプチドをいう。例えば、Melino、et al(2014)FEBS J. 281:657-682およびそこに引用されている参考文献を参照。代表的な天然ヒスタチンには、表1に列挙されるペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【表1】
【0016】
本明細書で使用される「金属結合ドメイン」という用語は、金属と結合する、または金属と複合体を形成する天然のヒスタチンのアミノ酸モチーフを指す。HTNの構造的および機能的特徴付けは、2つの金属結合モチーフの存在を明らかにした:第3の位置に1つのヒスチジン残基を有するアミノ末端Cu(II)/Ni(II)結合(ATCUN)モチーフ(NH2-X2X2H、ここでX1はAspまたはGluであり、X2はAla、Thr、MetまたはSerである)(Grogan, et al. (2001) FEBS Lett. 491:76-80; Melino, et al. (2006) Biochemistry 45:15373-83; Melino, et al.(1999)Biochemistry 38:9626-33; Gusman, et al.(2001) Biochim. Biophys. Acta 1545:86-95);およびZn(II)結合モチーフHEXXH(配列番号2)、式中、XはLys、ArgまたはHisなどの塩基性アミノ酸残基を示す。したがって、いくつかの態様において、合成ヒスタチンには、配列DSH、ESH、DAH、EAH、DTH、ETH、DMHまたはEMHを有するアミノ末端金属結合ドメインが含まれる。別の態様において、合成ヒスタチンは、配列HEKKH(配列番号:45)HEKRH(配列番号:46)、HEKHH(配列番号:26)、HERKH(配列番号:47)、HERRH(配列番号:48)、HERHH(配列番号:49)、HEHKH(配列番号:50)、HEHRH(配列番号:51)またはHEHHH(配列番号:52)を有する1つ以上の金属結合ドメインを含む。HTNF1またはHTNF2は、上記の金属結合ドメインの特定の配列を含むことができ、または金属結合ドメインのC末端および/またはN末端上の1~6個のさらなる天然のヒスタチンアミノ酸残基を含むことができる。実例として、金属結合ドメインを有するHTNFは、配列GYKRKFHEKHHSHR(配列番号:24)またはHEKRHH(配列番号:27)を有することができる。
【0017】
いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、1つの金属結合ドメインを含み、すなわち、HTNF1またはHTNF2のいずれかが金属結合ドメインである。他の態様において、合成ヒスタチンは2つの金属結合ドメインを含む。さらなる態様において、合成ヒスタチンは、3つの金属結合ドメインを含む。ある態様において、金属結合ドメインは配列DHXを有し、ここでXはSerである。他の態様において、金属結合ドメインは、配列HEXXH(配列番号:2)を有し、各Xは塩基性アミノ酸残基である。当業者には容易に理解されるように、合成ヒスタチンに1つ以上の金属結合ドメインを含めることにより、合成ヒスタチンに対する金属イオンキレート化、抗炎症、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害および/または抗血管新生活性を付与する。その抗血管新生活性の観点から、かかる合成および/または内在性ヒスタチンは、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、癌および慢性または急性の重度ブドウ膜炎の処置に有用であろう。その金属イオンキレート活性の観点から、かかる合成および/または内在性ヒスタチンは、感染性角膜炎、眼内ブドウ膜炎、眼内炎、炎症性角膜炎、ドライアイ疾患および眼表面または眼内疾患などの炎症性および感染性疾患におけるマトリックスメタロプロテイナーゼおよび他の金属依存性酵素によって媒介される組織破壊を阻害するのにも有用である。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「創傷治癒ドメイン」は、創傷治癒を促進または促進する天然ヒスタチンのアミノ酸モチーフをいう。HTN1およびHTN3は、in vitroで創傷閉鎖活性を示すがHTN5は放出しないことが報告されている(Oudhoff, et al. (2008) FASEB J. 22:3805-3812)。HTN1およびHTN3のN末端22アミノ酸残基からなるHTN5の不活性は、HTN1およびHTN3のC末端残基が創傷閉鎖活性の原因であることを示している。したがって、本発明の目的のために、天然ヒスタチンの創傷治癒ドメインは配列SNYLYDN(配列番号:1)を含む。HTNF1またはHTNF2は、上記の創傷治癒ドメインの特異的配列を含むことができ、または創傷治癒ドメインのC末端および/またはN末端上の1~6個のさらなる天然ヒスタチンアミノ酸残基を含むことができる。実例として、創傷治癒ドメインを有するHTNFは、配列GYKRKFHEKHHSHR(配列番号:24)を有することができる。
【0019】
いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、1つの創傷治癒ドメインを含み、すなわち、HTNF1またはHTNF2は創傷治癒ドメインである。他の態様において、合成ヒスタチンは、2つの創傷治癒ドメインを含む。さらなる態様において、合成ヒスタチンは、3つの創傷治癒ドメインを含む。当業者には容易に理解されるように、合成ヒスタチンに1つ以上の創傷治癒ドメインを含めることにより、上皮細胞遊走および増殖活性が合成ヒスタチンに付与される。したがって、このような合成ヒスタチンは、創傷治癒ならびに網膜色素上皮治癒、乾燥加齢黄斑変性、眼表面疾患および眼表面炎症性障害症、角膜および眼内、網膜または脈絡膜を含む眼血管新生、ドライアイ疾患の処置に有用である。
【0020】
本明細書で使用される用語「抗菌ドメイン」は、細菌および/または真菌細胞に対して細胞増殖抑制活性または殺細胞活性を示す天然ヒスタチンのアミノ酸モチーフを指す。HTNの特徴付けは、正の正味電荷およびHTNのアミノ末端部分が抗菌活性を媒介することを示す。特に、HTN3のアミノ酸配列RKFHEKHHSHRGYR(配列番号:53)は、殺真菌活性を示すことが示されている(Oppenheim, et al. (2012) PLoS ONE 7(12):e51479)。同様に、P-113としても知られている配列AKRHHGYKRKFH(配列番号:54)は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対して殺菌活性を示す(Jang, et al. (2008) Antimicrob. Agents Chemother. 5292):497-504)。HTNF1またはHTNF2は、上記の抗菌ドメインの特定の配列を含むことができ、または創傷治癒ドメインのC末端および/またはN末端上の1~6個のさらなる天然ヒスタチンアミノ酸残基を含むことができる。
【0021】
いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、1つの抗菌ドメインを含み、すなわち、HTNF1またはHTNF2は、抗菌ドメインである。他の態様において、合成ヒスタチンは2つの抗菌ドメインを含む。さらなる態様において、合成ヒスタチンは、3つの抗菌ドメインを含む。ある態様において、抗菌ドメインは、配列RKFHEKHHSHRGYR(配列番号:53)を有する。他の態様において、抗菌ドメインは配列AKRHHGYKRKFH(配列番号:54)を有する。当業者には容易に理解されるように、合成ヒスタチンに1つ以上の抗菌ドメインを含めることにより、合成ヒスタチンに抗真菌活性および/または抗菌活性を付与する。したがって、かかる合成ヒスタチンは、カンジダ眼感染などの微生物感染の処置、ならびに外科的移植に伴う感染の予防に有用である。
【0022】
本発明の合成ヒスタチンの個々のヒスタチンフラグメントの各々、すなわちHTNF
1およびHTNF
2は、同じであっても異なっていてもよい。いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、少なくとも1つの金属結合ドメインおよび少なくとも1つの創傷治癒ドメインからなる。したがって、xが1であり、yが0である式Iの態様において、HTNF
1は金属結合ドメインであり、HTNF
2は創傷治癒ドメインである。xが2でyが1である式Iの態様において、各HTNF
1は金属結合ドメインであり、各HTNF
2は創傷治癒ドメインである。xが2でyが1である他の態様において、各HTNF
1は金属結合ドメインであり、1つのHTNF
2は金属結合ドメインであり、1つのHTNF
2は創傷治癒ドメインである。さらなる態様において、HTNF
1およびHTNF
2は、同じまたは異なる天然ヒスタチン(すなわち、HTNF
1-HTNF
2)から個々に誘導される。例えば、合成ヒスタチンは、HTN5由来の1つ以上の金属結合ドメインおよびHTN1由来の創傷治癒ドメインから構成され得る。あるいは、合成ヒスタチンは、HTN1由来の1つ以上の金属結合ドメインおよびHTN1由来の創傷治癒ドメインから構成され得る。金属結合ドメインと創傷治癒ドメインとの組み合わせを含む合成ヒスタチンの例を表2に示す。
【表2】
【0023】
本明細書で使用する「リンカー」または「スペーサー」という用語は、2つ以上のHTNFを連接、連結または接合するために使用される異種分子を指す。「異種分子」という用語は、通常は天然にはヒスタチンには見られないか、または典型的にはHTNFアミノ酸配列間に配置されていない分子を指す。本明細書中で使用される場合、用語「連結された」、「接合された」または「連接された」は、一般に、自然界に存在しない分子を産生するための2つの連続したまたは隣接するアミノ酸配列間の機能的連結をいう。一般に、連結されたアミノ酸配列は、隣接しているかまたは互いに隣接しており、連結されたときにそれぞれの操作性および機能を保持する。リンカーは、合成ヒスタチンの所望の発現、活性および/または立体配座を可能にする望ましい柔軟性を提供することができる。
【0024】
いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、2つのHTNFおよび1つのリンカー、すなわちx=1およびy=0から構成される。他の態様において、合成ヒスタチンは、4つのHTNFおよび3つのリンカー、すなわちx=2およびy=1である。いくつかの態様において、合成ヒスタチンは6個のHTNFと5個のリンカー、すなわちx=3とy=2から構成される。しかしながら、より多くのHTNFが組み合わされるとき、追加のリンカーを使用し得ると考えられる。
【0025】
式Iの合成ヒスタチンにおける使用のリンカーは、フレキシブル、リジッド、in vivo切断可能、またはそれらの組み合わせであり得る。さらに、リンカーは、アミノ酸残基(すなわち、ペプチドリンカー)から構成され得るか、または炭化水素の鎖(すなわち、炭化水素リンカー)から構成され得る。ペプチドリンカーは、関心のある1つ以上のHTNFを連結するための任意の適切な長さであり得、好ましくは、連結するHTNFの一方または両方の適切なフォールディングおよび/または機能および/または活性を可能にするように設計される。従って、リンカーペプチドは、3個より多くない、5個より多くない、10個より多くない、15より多くない、20個より多くない、25個より多くない、30個より多くない、35個より多くない、40個より多くない、45個より多くない、50個より多くない、55個より多くない、または60個より多くないアミノ酸を含む。いくつかの態様において、リンカーペプチドは、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも18個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも35個、少なくとも40個、少なくとも45個、または少なくとも50個のアミノ酸を含む。
いくつかの態様において、リンカーは、少なくとも10個および60個より多くないアミノ酸、少なくとも10個および55個より多くない、少なくとも10個および50個より多くないアミノ酸、少なくとも10個および45個より多くないアミノ酸、少なくとも10個および40個より多くないアミノ酸、少なくとも10個および35個より多くないアミノ酸、少なくとも10個および30個より多くないアミノ酸、少なくとも10および25個より多くないアミノ酸、少なくとも10および20個より多くないアミノ酸、または、少なくとも10および15個より多くないアミノ酸を含む。
【0026】
「フレキシブル」リンカーは、溶液中に固定構造(二次または三次構造)を有さない炭化水素またはペプチドリンカーをいう。したがって、かかるフレキシブルリンカーは、自由に様々な立体配座を採用することができる。本明細書で使用されるフレキシブルリンカーには、炭化水素リンカーおよび小さい非極性(例えばGly)および/または極性(例えばSerまたはThr)アミノ酸残基からなるペプチドリンカーが含まれる。単純なアミノ酸、例えば単純な側鎖を有するアミノ酸(例えば、H、CH3またはCH2OH)は、これらのアミノ酸上の分枝側鎖の欠如が、ポリペプチド組成物内でリンカー内でより大きな柔軟性を提供するので、ペプチドリンカーにおける使用に有利である。フレキシブルリンカーは、柔軟性を維持するために、ThrおよびAlaなどのさらなるアミノ酸、ならびに溶解性を改善するためのLysおよびGluなどの極性アミノ酸を含有してもよい。アミノ酸は、機能が残存するリンカー(例えば、発現および/または活性ポリペプチド(単数または複数)を生じる)と一致する任意の様式で交互/反復することができる。Drug Deliv。Rev. 65(10):1357-1369; US 2012/0232021; US 2014/0079701; WO 1999/045132; WO 1994/012520およびWO 2001/1053480。
【0027】
他の態様において、フレキシブルリンカーは炭化水素リンカーである。 HTNFを連結する炭化水素は、合成ヒスタチンが所望の立体配座を達成できるように、十分な長さおよびフレキシブルを有しなければならない。特定の態様において、炭化水素は、1つ以上のメチレン(-CH2-)基から構成される。特定の態様において、炭化水素は、3~25個のメチレン基、すなわち-(CH2)n-を含み、nは3~25である。特定の態様において、炭化水素リンカーは、 -(CH2)6-構造を有する。グリコールリンカーなどの追加の炭素系リンカーも、本発明の合成ヒスタチンに使用することができる。
【0028】
他の態様において、リンカーはリジッドリンカーである。「リジッド」リンカーは、溶液中で比較的よく規定された立体配座を採用する分子を指す。したがって、リジッドリンカーは、溶液中に特定の二次および/または三次構造を有するものである。リジッドリンカーは、典型的には、二次または三次構造をリンカーに付与するのに十分な大きさである。このようなリンカーには、芳香族分子(例えば、US6,096,875またはUS5,948,648を参照)、プロリンが豊富なペプチドリンカー、またはフレキシビリティーのない、らせん構造を有するペプチドリンカーが含まれる。リジッドリンカーは、例えば、Chen、et al.(2013)Adv. Drug Deliv.Rev.65(10):1357-1369;US 2010/0158823およびUS 2009/10221477に記載されている。
【0029】
他の態様において、リンカーは、in vivoで切断可能なリンカーである。 in vivoで切断可能なリンカーは、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)によって認識されるプロテアーゼ認識配列を有する2つのシステイン残基またはリンカーの間に形成される切断可能なジスルフィド結合を含み得る。
【0030】
合成ヒスタチンに使用するのに適したペプチドリンカーの例を表3に示す。
【表3】
【0031】
本発明の合成ヒスタチンの個々のリンカーの各々、すなわちL1およびL2は、同じであっても異なっていてもよい。いくつかの態様において、合成ヒスタチンは、少なくとも1つのフレキシブルリンカーを含む。いくつかの態様において、少なくとも1つのフレキシブルリンカーは、炭化水素リンカーである。他の態様において、少なくとも1つのフレキシブルリンカーがペプチドリンカーである。特定の態様において、合成ヒスタチンの各リンカー、すなわちL1およびL2は、炭化水素リンカーである。特定の態様において、合成ヒスタチンの各リンカー、すなわちL1およびL2は、構造-(CH2)6-を有する。
【0032】
フレキシブルリンカーを有する金属結合ドメインおよび創傷治癒ドメインの組み合わせを含む合成ヒスタチンの例を表4に示す。
【表4】
【0033】
本明細書に記載の合成ヒスタチンは、一般に、融合ポリペプチドまたはキメラポリペプチドと呼ばれる。このような分子は、組換えタンパク質の発現、化学合成、またはそれらの組み合わせを含む常套の方法によって合成することができる。いくつかの態様において、本発明の合成ヒスタチンは、組換えDNA技術を用いて組換えにより合成される。したがって、本発明は、本発明の合成ヒスタチンをコードするポリヌクレオチドを提供する。関連する側面において、本発明は、本発明の合成ヒスタチンをコードするポリヌクレオチドを保有するベクター、特に発現ベクターを提供する。特定の態様において、ベクターは、真核細胞または原核細胞における所望の合成ヒスタチンの組換え合成を促進する複製、転写および/または翻訳調節配列を提供する。したがって、本発明はまた、合成ヒスタチンの組換え発現のための宿主細胞、および宿主細胞によって産生された合成ヒスタチンの収穫および精製方法を提供する。組換えペプチドの製造および精製は、当業者にとって日常的な慣行であり、任意の適切な方法論を使用することができる。
【0034】
別の態様において、合成ヒスタチンは、当該分野で公知の化学合成技術のいずれか、例えば、市販の自動ペプチド合成機を用いた固相合成技術によって合成される。例えばStewart & Young (1984) Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., Pierce Chemical Co.; Tarn, et al. (1983) J. Am. Chem. Soc. 105:6442-55; Merrifield (1986) Science 232:341-347; and Barany et al. (1987) Int. J. Peptide Protein Res. 30:705-739参照.
【0035】
合成ヒスタチンは、限定されないが、ゲル濾過およびアフィニティー精製を含む当技術分野で公知の任意の適切な方法によって単離および/または精製することができる。いくつかの態様において、合成ヒスタチンの単離を容易にするためにタグ、例えばエピトープタグで合成ヒスタチンが製造される。一態様において、合成ヒスタチンは、少なくとも1%純粋、例えば少なくとも5%純粋、少なくとも10%純粋、少なくとも20%純粋、少なくとも40%純粋、少なくとも60%純粋、少なくとも80%純粋であり、少なくとも90%純粋である。単離および/または精製された後、合成ヒスタチンの特性は、当業者に公知の技術によって容易に確認することができる。
【0036】
本明細書に開示されるHTN断片はヒト配列に由来するが、HTN断片のオルソログまたはアレル変異体も使用することができる。「オルソログ」という用語は、同じ活性を示す別の種(例えば、Macaca fascicularis、Trachypithecus cristatus、Chlorocebus aethiops、Nomascus leucogenys、またはGorilla gorilla)中の同じタンパク質を指す。これに対して、「対立遺伝子変異体」は、集団内の多型に起因する変更されたアミノ酸配列を有し得る同じ種における同じタンパク質をいう。特定の態様において、HTN断片のオルソログまたは対立遺伝子変異体は、本明細書に開示されるHTN断片に対して配列の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であるが、100%には満たない。
【0037】
本明細書中に記載される合成ヒスタチンの誘導体および類似体は全て考慮され、置換、付加および/または欠失/短縮によって、または機能的に等価な分子を生じる化学修飾を導入することによって、それらのアミノ酸配列を修飾することによって行うことができる。任意のポリペプチドの配列中の特定のアミノ酸が、ポリペプチドの活性に有害な影響を与えることなく他のアミノ酸に置換され得ることは、当業者に理解されるであろう。
【0038】
特定の態様において、本発明の合成ヒスタチンは、リン酸化、グリコシル化、ヒドロキシル化、スルホン化、アミド化、アセチル化、カルボキシル化、パルミチル化、PEG化、非加水分解性結合の導入およびジスルフィド形成を含む。修飾は、合成ヒスタチンの安定性および/または活性を改善し得る。
【0039】
例えば、C末端は、アミド化、ペプチドアルコールおよびアルデヒド付加、エステルの付加、またはp-ニトロアニリンおよびチオエステルの付加により修飾され得る。N末端および側鎖は、PEG化、アセチル化、ホルミル化、脂肪酸の付加、ベンゾイルの付加、ブロモアセチルの付加、ピログルタミルの付加、スクシニル化、テトラブトキシカルボニルの付加および3-メルカプトプロピルのアシル化(例えば、リポペプチド)、ビオチン化、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、マレイミド基、キレート化部分、発色団または発蛍光団の導入が挙げられる。
【0040】
一態様において、合成ヒスタチンは脂肪酸にコンジュゲートされ、例えば、合成ヒスタチンはミリストイル化される。例えば、脂肪酸を合成ヒスタチンのN末端に結合させることができる。このような脂肪酸には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などが含まれる。さらに、合成ヒスタチン中のシステインはパルミトイル化されていてもよい。一態様において、合成ヒスタチンは、N末端アミノ酸でミリスチル化、ステアリル化またはパルミトイル化されている。
【0041】
翻訳後修飾に加えて、または代替として、合成ヒスタチンは、キャリアペプチドなどの別のペプチドにコンジュゲートまたは連結することができる。担体ペプチドは、細胞浸透を促進することができ、アンテナペディアペプチド、ペネトラチンペプチド、TAT、トランスポータンまたはポリアルギニンなどのペプチドを含むことができる。一態様において、ペプチドは、アンテナペディアペプチドRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号:55)にコンジュゲートまたは連結される。
【0042】
本発明の合成ヒスタチンは環化されていてもよい。本明細書で使用される用語「環化された」または「環状」は、環状構造を形成するためにアミノ酸残基の間に少なくとも1つの架橋基(例えば、アミド、チオエーテル、チオエステル、ジスルフィド、尿素、カルバメート、炭化水素またはスルホンアミド)を組み込む線状ペプチドの類似体を示す。架橋基は、アミノ酸残基または末端アミノ酸残基の側鎖に存在し、それによって側鎖環化(例えば、ラクタム架橋、チオエステル)、頭-尾環化、または炭化水素-ステープルペプチドを提供することができる。
【0043】
特定の態様において、環状合成ヒスタチンは、2つの末端システイン残基間にジスルフィド架橋を有する。環化合成ヒスタチンを調製するための代表的なアミノ酸配列を表5に示す。
【表5】
【0044】
他の態様において、環状合成ヒスタチンは、ソルターゼによる環化によって線状ペプチドから調製される。「ソルターゼによる環化」または「ソルターゼによる環状化」とは、酵素ソルターゼを用いて線状ペプチドを環化する方法をいう。 ソルターゼに基づく環化は、大きな環状ペプチドを製造するための当該技術分野において公知である。Bolscher, et al. (2011) FASEB J. 25(8):2650-2658, and references cited therein参照.
【0045】
ブテラーゼ環化も、ヒスタチンを環化するために使用されてきた。トリペプチドAsn-His-ValモチーフをC末端に付加することにより、合成ヒスタチンをソルターゼAよりもはるかに速く環化させるための基質がブテラーゼに提供される。Nguyen, et al. (2016) Nat. Protocols 11:1977-88; Tam, et al. (June 2015) Peptides 2015: Proc. 24th Am. Pept. Symp., Orlando, FL, pg. 27参照。
【0046】
当業者は、本発明の合成ヒスタチンが疾患の処置に有益であることを認識するであろう。したがって、投与を容易にするために、本発明は、また1つ以上の内在性および/または合成ヒスタチンおよび薬学的に許容される担体または賦形剤を含有する組成物を提供する。本明細書で提供される医薬組成物は、経口、静脈内、腹腔内、大脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、病巣内または局所投与用に製剤化することができる。適切な医薬組成物は、例えば、意図される投与経路、送達形態、および所望の投与量に依存して、当業者によって決定され得る。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(第19版、1995)参照。
【0047】
内在性および/または合成ヒスタチン(単数または複数)は、錠剤、カプセル剤、軟質ゼラチンカプセル剤、エリキシル剤または注射用製剤などの従来の全身投与剤形に組み込むことができる。投与形態はまた、必要な生理学的に許容される担体材料、賦形剤、潤滑剤、緩衝剤、界面活性剤、抗菌剤、増量剤(マンニトールなど)、抗酸化剤(アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム)などを含み得る。
【0048】
許容される製剤材料は、好ましくは、使用される投与量および濃度でレシピエントに対して非毒性である。医薬組成物は、例えば、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解速度または放出速度、組成物の吸着または浸透などを修飾、維持または保存するための製剤材料を含有し得る。適切な製剤材料には、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなど);抗菌剤;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウム);緩衝剤(例えば、ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩または他の有機酸);増量剤(例えば、マンニトールまたはグリシン);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、β-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなど);フィラー; 単糖類、二糖類、および他の炭水化物(例えば、グルコース、マンノースまたはデキストリン);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);着色剤、香味剤および希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);低分子量ポリペプチド;塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);保存剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素);溶媒(グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);懸濁剤;界面活性剤または湿潤剤(例えば、PLURONICS、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20およびポリソルベート80などのポリソルベート、TRITON、トリメタミン、レシチン、コレステロール、またはチロキサパールなど);安定性増強剤(ショ糖またはソルビトールなど); 等張化剤(アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトールまたはソルビトールなど);輸送ビヒクル;希釈剤;賦形剤および/または医薬アジュバントを含むが、これに限定されない。例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, Idを参照。
【0049】
医薬組成物中の第1の担体または賦形剤は、性質上、水性でも非水性でもよい。例えば、適切な担体または賦形剤は、注射用水、生理食塩水または人工脳脊髄液であってもよく、場合によっては非経口投与のための組成物に一般的な他の材料を補充してもよい。中性緩衝生理食塩水または血清アルブミンと混合した生理食塩水は、さらなる例示的な賦形剤である。医薬組成物は、約pH7.0~8.5のトリス緩衝液、または約pH4.0~5.5の酢酸緩衝液を含むことができ、ソルビトールまたは適切な代替物をさらに含み得る。本発明の医薬組成物は、所望の純度を有する選択された組成物を、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態の任意の製剤(emington's Pharmaceutical Sciences, Id.)と混合することによって保存用に調製することができる。さらに、本発明の内在性または合成ヒスタチンは、スクロースなどの適切な賦形剤を用いて凍結乾燥物として製剤化することができる。
【0050】
本発明の医薬組成物の投与経路には、経口経路;注射による静脈内、腹腔内、大脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、または病巣内経路;または持続放出系または移植装置の経由を含む。医薬組成物は、ボーラス注射によって、または連続的注入によって、または移植デバイスによって投与され得る。医薬組成物はまた、合成ヒスタチン(単数または複数)が、吸収またはカプセル化された膜、スポンジまたは他の適切な材料の移植を介して局所的に投与することもできる。移植デバイスが使用される場合、デバイスは、任意の適切な組織または器官に移植されてもよく、内在性または合成ヒスタチン(単数または複数)の送達は、拡散、徐放ボーラス、または連続投与によるものであってもよい。
【0051】
非経口投与が企図される場合、本発明で使用するための組成物は、薬学的に許容されるビヒクル中に本発明の内在性または合成ヒスタチン(単数または複数)を含有するパイロジェンフリーの非経口的に許容される水溶液の形態であってもよい。非経口注射のための特に適切なビヒクルは、内因性または合成ヒスタチン(単数または複数)が滅菌された等張溶液として製剤化され、適切に保存される滅菌蒸留水である。製剤は、注射可能なマイクロスフェア、生体腐食性粒子、高分子化合物(例えば、ポリ乳酸またはポリグリコール酸)、ビーズまたはリポソームなどの薬剤による合成ヒスタチン(単数または複数)の製剤を含むことができ、 次いで合成ヒスタチン(単数または複数)をデポー注射により送達することができる。特に、ヒアルロン酸を含む製剤は、循環における持続期間を促進する効果を有する。
【0052】
組成物はまた、吸入のために製剤化されてもよい。これらの態様において、本発明の内在性または合成ヒスタチン(単数または複数)は、吸入用の乾燥粉末として製剤化されるか、または吸入溶液は、噴霧などのエアロゾル送達のための噴射剤とともに製剤化され得る。肺投与は、例えばWO 1994/020069にさらに記載されている。
【0053】
本発明の医薬組成物は、経口などの消化管を通して送達することができる。かかる薬学的に許容される組成物の調製は、当該技術分野の範囲内である。この様式で投与される本発明の内在性または合成のヒスタチン(単数または複数)は、錠剤およびカプセルなどの固体剤形の調合において慣用的に使用される担体を用いて、または用いずに製剤化することができる。カプセルは、バイオアベイラビリティが最大化され、全身の分解が最小限に抑えられるときに、胃腸管の時点で製剤の活性部分を放出するように設計されてもよい。内在性または合成のヒスタチン(単数または複数)の吸収を促進するために、さらなる薬剤を含めることができる。また希釈剤、香味料、低融点ワックス、植物油、滑沢剤、懸濁化剤、錠剤崩壊剤、および結合剤を使用することもできる。
【0054】
これらの組成物はまた、防腐剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントを含有してもよい。微生物作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含めることによって確実にすることができる。また、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが望ましい場合もある。注射用医薬形態の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を含めることによってもたらされ得る。
【0055】
特定の態様において、内在性または合成のヒスタチン(単数または複数)は、眼の表面および内部の両方の眼疾患または状態を処置するために製剤化される。特定の態様において、本発明の内在性または合成のヒスタチン(単数または複数)によって製剤化され、滴下形態、局所ゲル形態;(例えば、LACRISERT(登録商標)、ヒドロキシプロピルセルロース眼科用インサートに類似)、眼の前房への注射によって;脈管形成の阻害、破壊的MMP活性の阻害、または上皮創傷治癒の促進のために眼の後房への注入;外科用デバイス(眼内レンズ、緑内障装置、角質プロテーゼ、涙管挿管、涙管バイパス管)のコーティング;コンタクトレンズのコーティング;またはマイクロビーズ、ナノビーズまたは他の同様の構築物のコーティングによって、眼に投与することができる。
【0056】
当業者に理解されるように、本明細書に記載の組成物は、有害な副作用を最小限に抑えるように製剤化することができる。本明細書に記載の組成物は、長期間の使用のみに適していることができる。NSAIDS、グルココルチコイド、免疫抑制剤または抗血管形成剤と併用した補助療法として有用である;および/またはこれらの薬剤のいずれかまたは全ての間の回転を含むプログラムにおいて有用であり、それにより、いずれかの薬剤に対する長期間の曝露(したがって、結果として生じる副作用)を減少させる。
【0057】
本発明はまた、1種以上の内在性または合成ヒスタチン、またはそれを含有する医薬組成物、および任意に1種以上のNSAIDS、グルココルチコイド、免疫抑制剤または抗血管新生剤を含むキットを提供する。キットは、典型的には、適切な容器(例えば、箔、プラスチック、または厚紙パッケージ)内に提供される。特定の態様において、キットは、本明細書に記載されるように、1つ以上の薬学的賦形剤または担体、医薬添加剤などを含み得る。他の態様において、キットは、例えば目盛付きカップ、注射器、針、洗浄助剤、眼内レンズ、緑内障装置、眼窩インプラント、人工器官、涙管挿管、涙管バイパスチューブ、コンタクトレンズ等が挙げられる。特定の態様において、キットは、適切な投与のための適切な投与および/または調製のための説明書を含み得る。
【0058】
本発明はまた、ヒスタチンの抗菌、創傷治癒、金属イオンキレート化、抗炎症、抗癌、抗血管新生、およびマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害への適用を考慮して、ヒスタチンが利益を提供する疾患または状態を有する被験体を処置する方法を提供する。このような方法によれば、対象は、本発明の合成ヒスタチンおよび/または内因性ヒスタチンの1種以上を、疾患または状態を処置するのに有効な量で投与する。本明細書で使用される「被験体」は、ヒトならびに非ヒト動物、特に本明細書に記載の疾患または状態の1つ以上を患っているかまたは発症しやすいヒトを含むことを意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」または「治療上有効な量」は、本発明の内在性または合成のヒスタチンまたは内因性または合成のヒスタチンを含有する医薬組成物の量を指し、「有効量」または「治療有効量」を構成するペプチドの量は、疾患の重篤度、処置される患者の状態、体重または年齢、投薬頻度、または経路当業者は日常的に決定することができる。臨床医は、最適な治療効果を得るために投与量または投与経路を力価測定することができる。典型的な投薬量は、上記の因子に依存して、約0.1μg/kg~約100mg/kg以上の範囲である。特定の態様において、用量は、0.1μg/kg~約100mg/kg、または1μg/kg~約100mg/kg、または5μg/kg~約100mg/kgの範囲であり得る。
【0060】
疾患または状態を有する対象を「処置すること」は、以下のうちの1つ以上を達成することを意味する:(a)疾患または状態の重篤度を低減すること;(b)疾患または状態の発症を阻止する;(c)疾患または状態の悪化を抑制すること;(d)疾患または状態を以前に有していた患者における疾患または状態の再発を制限または防止すること;(e)疾患または状態の退行を引き起こすこと;(f)疾患または状態の症状を改善または排除すること;および/または(g)生存率を改善すること。このように、本発明の処置方法は、治療的投与および予防的投与の両方を包含する。
【0061】
本発明によれば、内因性または合成のヒスタチンは、限定されるものではないが、狼瘡、慢性関節リウマチ、角膜炎症(例えば、ムーレン(Mooren’s)または炎症性および感染性潰瘍)、壊死性強膜炎、サルコイドーシスまたはウェゲナー病などの眼表面炎症性障害;加齢性黄斑変性(湿潤または乾燥);糖尿病性網膜症;慢性または急性の重度ブドウ膜炎;網膜色素上皮疾患、例えば、網膜色素変性症および非遺伝性網膜変性などの遺伝性障害;アトピー性またはアレルギー性結膜炎または湿疹性疾患;炎症によって媒介される眼表面疾患;例えば、ドライアイ疾患、移植片対宿主病、スティーブンス・ジョンソン症候群、アトピー性またはアレルギー性結膜炎または湿疹性疾患などの慢性アトピー性疾患;真菌および細菌感染;角結膜創傷、特に神経栄養性/糖尿病性神経障害に関連する創傷を含む眼の疾患または状態の処置において特に有用である。内在性または合成のヒスタチン投与の結果として、角膜および強膜の損傷および融解が減少し、内在性または環境性炎症性因子、例えばLPS(ヒスタチンによって結合される)の活性が低下する。
【0062】
眼の疾患または状態の処置に加えて、内在性または合成のヒスタチンは、関心のある他の組織または器官の創傷治癒を促進する、および/または抗菌、金属イオンキレート化、抗炎症、抗血管新生および/またはマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害活性を提供するように調整することができる。一態様において、層状組織、神経組織、結合組織、血管組織、筋肉組織、骨格組織、または血液成分が処置される。別の態様において、皮膚、肝臓、肺、腎臓、心臓、または腸などの器官が処置される。かかる組織および器官の内在性または合成のヒスタチンによる処置は、アテローム性動脈硬化症および動脈硬化症、変形性関節症および他の変性関節疾患、視神経萎縮症、筋ジストロフィー、関連する退行性プロセスなどの創傷、感染、炎症および/炎症性腸疾患、多発性硬化症、歯周病、乾癬、I型糖尿病、および虚血再灌流傷害の処置に有用である。
【0063】
以下の非限定的な実施例は、本発明をさらに説明するために提供される。
実施例1:ヒスタチンの合成および精製
【0064】
線状ペプチドは、製造業者の手順に従って、12チャンネルマルチプレックスペプチド合成機(Protein Technologies, Tucson, AZ)を用いてWang樹脂(AnaSpec, Fremont, CA)上の9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学による段階的固相法を用いて合成した。ペプチド合成は、ペプチドのC末端から開始した。樹脂のFmoc基を、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)中の20%ピペリジン(5分、×2)で除去した後、アミノ酸(Fmoc保護、2当量0.2M)をDMF中(30分、×3)の0.2Mの2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3,-テトラメチルロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU1.9当量)および0.4Mの4-メチルンモルフォリン(NMM、4当量)の存在下で添加する前に樹脂をDMFで洗浄した(30分、6×)。過剰の試薬をDMFで洗い流した(30秒、6回)。最後のアミノ酸が添加されるまで、このプロセスを繰り返した。完了後、DMF中の20%ピペリジン(5分、×2)でN末端のFmocを除去した後、樹脂をDMF(30秒、6×)で洗浄した。樹脂からのペプチドの分離および側鎖保護基の除去は、樹脂をトリフルオロ酢酸(TFA):チオアニソール:水:フェノール:1,2-エタンジチオ(82.5:5:5:5:2.5v/vの)のカクテルと共に2時間インキュベートすることによって行った。反応混合物を濾過し、続いてTFA(2×)で樹脂化した。反応混合物を濾過し、続いてTFA(2×)で樹脂を洗浄した。氷冷エチルエーテルを加えてペプチドを沈殿させ、ペレットを氷冷エチルエーテルで2回洗浄した。次いで、粗ペプチドを水中の50%アセトニトリルに溶解し、凍結乾燥した。
【0065】
粗ペプチドを、BIOCAD SPRINT HPLCシステム(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使用して、分取KINETEX逆相C18カラム、150×21.1mm(Applied Biosystems, Foster City, CA)で精製した。溶媒A(脱イオン水中0.1%TFA)および溶媒B(アセトニトリル中0.1%TFA)を用いて30mL/分の流速を使用した。試料注入前にカラムを5%溶媒Bで平衡化した。溶出は、60分で5%溶媒Bから100%溶媒Bまでの直線勾配で行った。カラム流出液の吸光度を214nmでモニターし、ピーク画分をプールし、凍結乾燥した。純粋なペプチド画分を、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)またはエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI MS)によって同定し、凍結乾燥した。
実施例2:マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害
【0066】
HTN5由来の3つの金属結合ドメインおよび1つの創傷治癒ドメイン(すなわち、配列番号:29)を含有する合成ヒスタチンのザイモグラフィー分析を、従来の方法を用いて行った。例えば、Thomadaki, et al. (2013) Oral Dis. 19(8):781-8。この分析は、合成ヒスタチンがMMP2活性を用量依存的に阻害することを実証した。
図1を参照されたい。
例3:創傷治癒活性
【0067】
HTN5由来の3つの金属結合ドメインおよび1つの創傷治癒ドメイン(すなわち、配列番号:29)を含む合成ヒスタチンの存在下での細胞移動を測定するために、従来のインビトロスクラッチアッセイを使用した。ヒト角膜上皮細胞の単層で「スクラッチ」を作製し、時間経過顕微鏡法を使用して、スクラッチを閉鎖するための細胞移動の間の最初および一定の間隔で画像を捕捉した。この分析の結果は、創傷閉鎖までの時間の短縮によって証明されるように、創傷治癒の顕著な増強を示した(表6)。
【表6】
実施例4:抗血管形成活性
【0068】
チューブ形成アッセイを、天然のHTN1およびHTN2と比較した合成ヒスタチンの抗血管形成能力を評価するために使用した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を一晩インキュベートするために希釈したMATRIGELに懸濁し、次いでVEGF(10ng/mL)(Goodwin (2007) Microvasc. Res. 74:172-83)単独または、HTN1、HTN2または合成ヒスタチン(50μM)と組み合わせたVEGF(10ng/mL)を含む培地交換に供した。細胞をVEGFのみで処理した場合、毛細管様構造が明らかであったが、合成ヒスタチンで処理した細胞は、かかる構造を形成しなかった(
図2)。
実施例5:遺伝子発現の変化
【0069】
ドライアイ疾患の病態生理学的分析は、ドライアイ疾患の発症に関与する重要な因子がTh17/IL-17、I-CAM、IL-8、TNFα/IL-1/IL-6/NFκB、IL-10、MMP9(および他のマトリックスメタロプロテイナーゼ)およびTLR4/HSP(Stevenson, et al. (2012) Arch. Ophthalmol. 130(1):90-100)を含む炎症経路を伴うことを示している。加えて、エフリンAは、眼球表面の糖レベル/糖尿病性および神経障害性潰瘍に関連して、上皮肥大、貧弱な創傷治癒および角膜疾患の発症に関与することが報告されている。従って、合成ヒスタチンの適用がヒト角膜上皮における遺伝子発現に対してどのような効果を有するかが決定された。炎症性経路に関して、この分析は、Th17/IL-17経路における44個の遺伝子のうち7個が、合成ヒスタチン処理に応答して遺伝子発現に有意な変化を示したことを示した。Th17/IL-17経路は、ドライアイ疾患における中心的かつ重要な経路である(Stevensonら(2012)Arch Ophthalmol。130(1):90-100)。
【0070】
さらに、I-CAM遺伝子発現の333%の減少およびIL-8のレベルの400%の減少が観察された。さらに、TLR4/HSP経路におけるIL-10経路の62遺伝子のうち6遺伝子が影響を受け、54遺伝子のうち5遺伝子が有意に影響を受けた。さらに、TNFα/IL-1/IL-6/NFKB経路のいくつかのメンバーの発現は有意に減少し、MMP活性に関連する遺伝子の発現は減少した。これらの遺伝子発現変化は、ドライアイ疾患および眼の炎症性疾患に強く関連する炎症性遺伝子の発現の減少を示す。角膜上皮の移動、経路の発見、細胞の広がりおよび創傷の閉鎖の改善と一致して、合成ヒスタチン処理に応答してエフリンAのレベルの260%の減少が観察された。
実施例6:ドライアイ疾患の処置
【0071】
ヒスタチンはヒスチジンが豊富なタンパク質ファミリーであり、主に唾液中に見られる。本明細書に記載の合成ヒスタチンに加えて、これらの内在性タンパク質は(表1参照)、多数の異なる送達手段(例えば、局所、全身、注射、輸送物質に担持)によって多数の治療用途を有し得る。かかる用途には、眼球表面創傷治癒の増強、眼球表面または眼内炎症および血管新生の予防、ならびにドライアイ疾患(炎症性またはその他)の予防または処置が含まれ得る。
【0072】
ドライアイは、涙および眼表面の多因子性障害であり、不快感、視覚障害および涙液膜不安定の症状をもたらし、眼表面に損傷を与える可能性がある。これは、涙液膜の浸透圧の増加および眼表面の炎症を伴う(Lemp(1995)CLAO J. 21:221-2)。より詳細な定義については、“The definition and classification of dry eye disease: report of the Definition and Classification Subcommittee of the International Dry Eye WorkShop” (2007) Ocul. Surf. 5(2):75-9を参照のこと。ドライアイ疾患および炎症性眼疾患の1つの特に有用なモデルは、眼球表面および角膜細胞に対する細胞死、炎症および損傷を誘発するために塩化ベンザルコニウム(BAK)を使用することである(Tressler, et al. (2011) Ocul. Surf. 9:140-58; Paimela, et al. (2012) Mol. Vis. 18:1189-1196)。簡潔には、ヒト角膜上皮細胞を標準条件下で培養した。0.002%BAKの存在下または非存在下で、細胞を天然のHTN5(50μM)または合成ヒスタチン(10μM)で処理した。曝露後の細胞膜の透過性は、細胞から放出される乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)酵素の量を測定することによって決定した。 細胞の最大LDH放出は、細胞を溶解し、続いて培地からLDHを測定することによって決定した。
図3に示すように、局所HTN5および合成ヒスタチンは、細胞死の統計的に有意な減少をもたらした。したがって、内在性および合成のヒスタチンは、損傷、炎症および細胞死から細胞を保護するために使用することができ、したがってドライアイ疾患の処置に使用される。
【配列表】