(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】疲労亀裂の進展抑制ペースト、進展抑制方法、進展検出ペースト、及び進展検出方法
(51)【国際特許分類】
B23P 6/00 20060101AFI20230821BHJP
B23P 6/04 20060101ALI20230821BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20230821BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20230821BHJP
G01N 21/91 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
B23P6/00 A
B23P6/04
G01N3/32 C
G01N21/88 Z
G01N21/91 Z
(21)【出願番号】P 2019066089
(22)【出願日】2019-03-29
(62)【分割の表示】P 2018044530の分割
【原出願日】2014-09-25
【審査請求日】2019-04-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2013199185
(32)【優先日】2013-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一比古
【合議体】
【審判長】鈴木 貴雄
【審判官】奥隅 隆
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-28462(JP,A)
【文献】特開2011-93041(JP,A)
【文献】特開2010-275707(JP,A)
【文献】特開2013-129057(JP,A)
【文献】高橋一比古,外4名,“アルミナペースト塗布による疲労き裂進展の自動抑制および目視検出”,溶接学会論文集,一般社団法人溶接学会,平成16年4月,第22巻,第4号,p.531-541
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 6/00
B23P 6/04
G01N 21/84-21/958
G01N 3/00- 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、前記進展抑制ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で
負けてつぶれて変形はしないが砕け
て前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、前記粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、前記進展抑制ペーストの前記チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、前記進展抑制ペーストのみかけ粘度η
Pを、せん断速度が0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度が1(1/s)のときに32~197(Pa・s)としたことを特徴とする疲労亀裂の進展抑制ペースト。
【請求項2】
母材の疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、前記進展抑制ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で
負けてつぶれて変形はしないが砕け
て前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、前記粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、前記進展抑制ペーストの前記チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、前記進展抑制ペーストのみかけ粘度η
Pを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする疲労亀裂の進展抑制ペースト。
【請求項3】
前記油のチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の疲労亀裂の進展抑制ペースト。
【請求項4】
前記油のみかけ粘度η
Gを、せん断速度が0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペースト。
【請求項5】
前記油の前記みかけ粘度η
Gを、前記せん断速度が1(1/s)のときに21~197(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.5~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペースト。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストを、前記疲労亀裂の発生が予測される前記母材の部位を特定して塗布することを特徴とする疲労亀裂の進展抑制方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストを、前記疲労亀裂が発生している前記母材の部位に塗布することを特徴とする疲労亀裂の進展抑制方法。
【請求項8】
前記疲労亀裂の開口を増大させる方向の荷重を、前記母材を含む構造物に載荷して前記進展抑制ペーストを塗布することを特徴とする請求項7に記載の疲労亀裂の進展抑制方法。
【請求項9】
前記進展抑制ペーストの塗布する厚さを、前記母材の板厚に応じて比例的に変えたことを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制方法。
【請求項10】
前記進展抑制ペーストの塗布する前記厚さを、前記母材の前記板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、前記板厚が5~200mmの場合には前記母材の前記板厚の1/10以上とし、前記板厚が200mm以上の場合には20mm以上としたことを特徴とする請求項9に記載の疲労亀裂の進展抑制方法。
【請求項11】
母材の疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、前記進展検出ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で
負けてつぶれて変形はしないが砕け
て前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、前記粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、前記進展検出ペーストの前記チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、前記進展検出ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度が1(1/s)のときに32~197(Pa・s)としたことを特徴とする疲労亀裂の進展検出ペースト。
【請求項12】
母材の疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、前記進展検出ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で
負けてつぶれて変形はしないが砕け
て前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、前記粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、前記進展検出ペーストの前記チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、前記進展検出ペーストのみかけ粘度η
Pを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする疲労亀裂の進展検出ペースト。
【請求項13】
前記粒子を、淡色又は透明の前記アルミナを含むセラミックス粒子としたことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の疲労亀裂の進展検出ペースト。
【請求項14】
前記油のチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であることを特徴とする請求項11から請求項13のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペースト。
【請求項15】
前記油のみかけ粘度η
Gを、せん断速度が0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とすることを特徴とする請求項11から請求項14のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペースト。
【請求項16】
前記油の前記みかけ粘度η
Gを、前記せん断速度が1(1/s)のときに21~197(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.5~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする請求項11から請求項15のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペースト。
【請求項17】
請求項11から請求項16のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストを、前記疲労亀裂の発生が予測される前記母材の部位を特定して塗布することを特徴とする疲労亀裂の進展検出方法。
【請求項18】
請求項11から請求項16のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストを、前記疲労亀裂の発生している前記母材の部位に塗布することを特徴とする疲労亀裂の進展検出方法。
【請求項19】
前記疲労亀裂の開口を増大させる方向の荷重を、前記母材を含む構造物に載荷して前記進展検出ペーストを塗布することを特徴とする請求項18に記載の疲労亀裂の進展検出方法。
【請求項20】
前記母材に塗布した前記進展検出ペーストの前記疲労亀裂に対応した表面部分が、前記疲労亀裂の進展に伴い変色することにより、疲労亀裂の進展を判断することを特徴とする請求項17から請求項19のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出方法。
【請求項21】
前記進展検出ペーストの塗布する厚さを、前記母材の板厚に応じて比例的に変えたことを特徴とする請求項17から請求項20のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出方法。
【請求項22】
前記進展検出ペーストの塗布する前記厚さを、前記母材の前記板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、前記板厚が5~200mmの場合には前記母材の前記板厚の1/10以上とし、前記板厚が200mm以上の場合には20mm以上としたことを特徴とする請求項21に記載の疲労亀裂の進展検出方法。
【請求項23】
前記進展検出ペーストを用いて、前記母材の前記疲労亀裂の進展の抑制も行うことを特徴とする請求項17から請求項22のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、圧力容器、車両、航空機又は工作機械等の構造物において、疲労亀裂の発生及び進展が懸念される箇所並びに疲労亀裂の発生及び進展が認められた箇所に対して適用する疲労亀裂の進展抑制ペースト、進展抑制方法、進展検出ペースト、及び進展検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、橋梁等の各種金属製構造物の損傷に占める疲労損傷の割合は高く、維持管理における疲労損傷対策が必須となるが、構造物の老朽化や耐用年数の延長による損傷件数の増大に伴い、より効率的で省力化可能な補修方法や補修ツールが求められている。また、疲労亀裂が生じていなくても、応力集中等により疲労亀裂の発生が懸念される箇所については、発生直後の初期亀裂に対してその進展を抑制したり早期にかつ効果的に検出したりするための方策を予め施しておくことは、構造物のメンテナンスや安全性を考える上で極めて重要である。
一方、各種構造物の疲労亀裂の検査は、現状、その殆どが目視検査に依っているが、実構造物における検査環境は想像以上に厳しく、スペースや時間が限られることはもとより、電源や照明設備を期待できない場合も多いため、溶接部等の複雑形状部分に生じた疲労亀裂を現場で発見し、その寸法を把握することは容易でない。
【0003】
本出願人は、母材の硬度以上の硬度を有する粒子と粘性を有する油とが混合されたペーストを準備し、母材の所望の個所にペーストを塗布することで、母材に生じた疲労亀裂の内部に流入した粒子がくさびとして作用し、疲労亀裂の進展を抑制するとともに、亀裂面の母材を強く圧迫して研削することにより生じた黒色の母材粉が、ペーストの表面に移動して生じた色彩の変化によって、比較的初期の段階においても目視により容易に疲労亀裂を検出することができる疲労亀裂の検出方法及び進展抑制方法等を既に提案している(特許文献1)。
また、本出願人は、流動性を有する疲労亀裂検出・進展抑制剤を金属製基材の表面上に塗布し、さらにこの疲労亀裂検出・進展抑制剤層の表面に薄膜被覆を形成することのできるプライマー樹脂組成物を塗布し薄膜被覆を形成させることにより多層被膜を形成することで、施工後も安定して機能を果たし、かつ視認性の向上した疲労亀裂検出・進展抑制方法を既に提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3808846号公報
【文献】特許第5257882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人が既に提案している疲労亀裂検出・進展抑制方法に用いるペースト(疲労亀裂検出・進展抑制剤)を、実際の各種構造物に用いる場合には、母材の鉛直面に塗布してもタレを生じることなく形状や均質性を保持するだけの高粘度が要求される反面、疲労亀裂の発生や進展に対しては、十分な流動性を有する低粘度が要求される。
【0006】
そこで本発明は、疲労亀裂の無いせん断速度が極小の箇所では高粘度であり、疲労亀裂の発生、伝播や疲労亀裂の開閉挙動に伴いせん断速度が上がった箇所では低粘度となる疲労亀裂の進展抑制ペースト、及び進展検出ペーストを提供するとともに、疲労亀裂の進展抑制方法、及び進展検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展抑制ペーストにおいては、母材の疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、進展抑制ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で負けてつぶれて変形はしないが砕けて前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、進展抑制ペーストのチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、進展抑制ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度が1(1/s)のときに32~197(Pa・s)としたことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることで、疲労亀裂が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂内に粒子が進入しやすくなり、疲労亀裂に進入した粒子が疲労亀裂の開閉口の動作による母材からの圧縮力によって砕け、砕けた粒子がより小粒径の細かい粒子となって疲労亀裂の深部に進入し、くさび効果によって疲労亀裂進展を抑制できる。また、粒子と混合する流体として、チクソトロピック性を有した油を用いることで、粒子の混合比率にかかわらず、チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることが可能となる。
【0008】
請求項2記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展抑制ペーストにおいては、母材の疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、進展抑制ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で負けてつぶれて変形はしないが砕けて前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、進展抑制ペーストのチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、進展抑制ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることで、疲労亀裂が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂内に粒子が進入しやすくなり、疲労亀裂に進入した粒子が疲労亀裂の開閉口の動作による母材からの圧縮力によって砕け、砕けた粒子がより小粒径の細かい粒子となって疲労亀裂の深部に進入し、くさび効果によって疲労亀裂進展を抑制できる。また、進展抑制ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)とすることで、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。また、粒子と混合する流体として、チクソトロピック性を有した油を用いることで、粒子の混合比率にかかわらず、チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることが可能となる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストにおいて、油のチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であることを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることができ、疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストとして適したものにできる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストにおいて、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とすることを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることができ、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストにおいて、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が1(1/s)のときに21~197(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.5~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることができ、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0012】
請求項6記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展抑制方法においては、請求項1から請求項5のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストを、疲労亀裂の発生が予測される母材の部位を特定して塗布することを特徴とする。請求項6に記載の本発明によれば、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できるため、あらかじめ疲労亀裂発生が予測される部位に塗布しておくことができ、疲労亀裂が発生した場合には、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0013】
請求項7記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展抑制方法においては、請求項1から請求項5のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制ペーストを、疲労亀裂が発生している母材の部位に塗布することを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、疲労亀裂が発生した部位に塗布することで、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の疲労亀裂の進展抑制方法において、疲労亀裂の開口を増大させる方向の荷重を、母材を含む構造物に載荷して進展抑制ペーストを塗布することを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、繰り返し荷重に伴う疲労亀裂の開閉口によるポンプ作用や毛細管現象によってペーストが疲労亀裂内に徐々に流入していくのを待つことなく、疲労亀裂が大きく開口した状態で塗布することで、相当量の粒子が疲労亀裂内に流入するため、進展抑制効果の発現を早めることができる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、請求項6から請求項8のいずれかに記載の疲労亀裂の進展抑制方法において、進展抑制ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚に応じて比例的に変えたことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、母材に発生した疲労亀裂内に進入する進展抑制ペーストの量を適正なものとすることができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、請求項9に記載の疲労亀裂の進展抑制方法において、進展抑制ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、板厚が5~200mmの場合には母材の板厚の1/10以上とし、板厚が200mm以上の場合には20mm以上としたことを特徴とする。請求項10に記載の本発明によれば、母材に発生した疲労亀裂の最先端部近傍まで進展抑制ペーストを十分に行き渡らせることができる。
【0017】
請求項11記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展検出ペーストにおいては、母材の疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、進展検出ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で負けてつぶれて変形はしないが砕けて前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、進展検出ペーストのチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、進展検出ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度が1(1/s)のときに32~197(Pa・s)としたことを特徴とする。請求項11に記載の本発明によれば、チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることで、疲労亀裂が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂内で発生する黒色物質によって疲労亀裂を検出できる。また、粒子と混合する流体として、チクソトロピック性を有した油を用いることで、粒子の混合比率にかかわらず、チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることが可能となる。
【0018】
請求項12記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展検出ペーストにおいては、母材の疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストであって、前記母材の材料が鉄、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、セラミックス、樹脂、又は繊維強化樹脂のいずれかであり、進展検出ペーストが、前記疲労亀裂の開閉口の動作に伴う前記母材からの圧縮力によって前記疲労亀裂内で負けてつぶれて変形はしないが砕けて前記疲労亀裂の深部に進入し得る粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有したペーストであり、粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維のうちの1種以上を含む粒径を10~20μmに分級した粒子であり、進展検出ペーストのチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であり、進展検出ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする。請求項12に記載の本発明によれば、チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることで、疲労亀裂が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂内で発生する黒色物質によって疲労亀裂を検出できる。また、進展検出ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)とすることで、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂内で発生する黒色物質によって疲労亀裂を検出できる。また、粒子と混合する流体として、チクソトロピック性を有した油を用いることで、粒子の混合比率にかかわらず、チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることが可能となる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、請求項11又は請求項12に記載の疲労亀裂の進展検出ペーストにおいて、粒子を、淡色又は透明のアルミナを含むセラミックス粒子としたことを特徴とする。請求項13に記載の本発明によれば、黒色物質とのコントラストによって目視による検出が容易となる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、請求項11から請求項13のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストにおいて、油のチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.6~1.2であることを特徴とする。請求項14に記載の本発明によれば、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることができ、疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストとして適したものにできる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、請求項11から請求項14のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストにおいて、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とすることを特徴とする。請求項15に記載の本発明によれば、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることができ、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
【0022】
請求項16記載の本発明は、請求項11から請求項15のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストにおいて、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が1(1/s)のときに21~197(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.5~4.7(Pa・s)としたことを特徴とする。請求項16に記載の本発明によれば、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることができ、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂に進入した粒子によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂を検出できる。
【0023】
請求項17記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展検出方法においては、請求項11から請求項16のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストを、疲労亀裂の発生が予測される母材の部位を特定して塗布することを特徴とする。請求項17に記載の本発明によれば、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できるため、あらかじめ疲労亀裂発生が予測される部位に塗布しておくことができ、疲労亀裂が発生した場合には、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂を検出できる。
【0024】
請求項18記載の本発明に対応した疲労亀裂の進展検出方法においては、請求項11から請求項16のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出ペーストを、疲労亀裂の発生している母材の部位に塗布することを特徴とする。請求項18に記載の本発明によれば、疲労亀裂が発生した部位に塗布することで、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂を検出できる。
【0025】
請求項19記載の本発明は、請求項18に記載の疲労亀裂の進展検出方法において、疲労亀裂の開口を増大させる方向の荷重を、母材を含む構造物に載荷して進展検出ペーストを塗布することを特徴とする。請求項19に記載の本発明によれば、繰り返し荷重に伴う疲労亀裂の開閉口によるポンプ作用や毛細管現象によってペーストが疲労亀裂内に徐々に流入していくのを待つことなく、疲労亀裂が大きく開口した状態で塗布することで、相当量の粒子が疲労亀裂内に流入するため、疲労亀裂に進入した粒子の亀裂面研削作用による黒色物質の発生を早め、疲労亀裂を早期にかつ効果的に検出できる。
【0026】
請求項20記載の本発明は、請求項17から請求項19のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出方法において、母材に塗布した進展検出ペーストの疲労亀裂に対応した表面部分が、疲労亀裂の進展に伴い変色することにより、疲労亀裂の進展を判断することを特徴とする。請求項20に記載の本発明によれば、目視による疲労亀裂検出を容易に行うことができる。
【0027】
請求項21記載の本発明は、請求項17から請求項20のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出方法において、進展検出ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚に応じて比例的に変えたことを特徴とする。請求項21に記載の本発明によれば、母材に発生した疲労亀裂内に進入する進展検出ペーストの量を適正なものとすることができる。
【0028】
請求項22記載の本発明は、請求項21に記載の疲労亀裂の進展検出方法において、進展検出ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、板厚が5~200mmの場合には母材の板厚の1/10以上とし、板厚が200mm以上の場合には20mm以上としたことを特徴とする。請求項22に記載の本発明によれば、母材に発生した疲労亀裂の最先端部近傍まで進展検出ペーストを十分に行き渡らせることができる。
【0029】
請求項23記載の本発明は、請求項17から請求項22のいずれかに記載の疲労亀裂の進展検出方法において、進展検出ペーストを用いて、母材の疲労亀裂の進展の抑制も行うことを特徴とする。請求項23に記載の本発明によれば、疲労亀裂進展の検出だけでなく、くさび効果による疲労亀裂進展の抑制も行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の疲労亀裂の進展抑制ペーストによれば、粒子と油とを混合した鉛直面に塗布しても自重で垂れることのないチクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることで、疲労亀裂が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂内に粒子が進入しやすくなり、疲労亀裂に進入した粒子が疲労亀裂の開閉口の動作による母材からの圧縮力によって砕け、砕けた粒子がより小粒径の細かい粒子となって疲労亀裂の深部に進入し、くさび効果によって疲労亀裂進展を抑制できる。また、粒子と混合する流体として、チクソトロピック性を有した油を用いることで、粒子の混合比率にかかわらず、チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることが可能となる。また、進展抑制ペーストのチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIを、0.6~1.2とすることで、疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストとして適している。また、進展抑制ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度が1(1/s)のときに32~197(Pa・s)とすることで、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。また、粒子を、粒径を10~20μmに分級することで、疲労亀裂内への進入効果及び進入した粒子によるくさび効果が高く、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。また、粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維の1種以上を含むことで、母材との関係で、これらの材料を単独又は混合して用いることができる。
【0031】
また、進展抑制ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)とすることで、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0032】
また、油のチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIを、0.6~1.2とした場合には、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることができ、疲労亀裂の進展を抑制する進展抑制ペーストとして適したものにできる。
【0033】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とする場合には、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることができ、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
【0034】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が1(1/s)のときに21~197(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.5~4.7(Pa・s)とした場合には、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとすることができ、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0035】
本発明の疲労亀裂の進展抑制方法によれば、疲労亀裂の発生が予測される母材の部位を特定して塗布することで、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できるため、あらかじめ疲労亀裂発生が予測される部位に塗布しておくことができ、疲労亀裂が発生した場合には、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0036】
本発明の疲労亀裂の進展抑制方法によれば、疲労亀裂が発生している母材の部位に塗布することで、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって疲労亀裂進展を抑制できる。
【0037】
また、疲労亀裂の開口を増大させる方向の荷重を、母材を含む構造物に載荷して進展抑制ペーストを塗布する場合には、繰り返し荷重に伴う疲労亀裂の開閉口によるポンプ作用や毛細管現象によってペーストが疲労亀裂内に徐々に流入していくのを待つことなく、疲労亀裂が大きく開口した状態で塗布することで、相当量の粒子が疲労亀裂内に流入するため、進展抑制効果の発現を早めることができる。
【0038】
また、進展抑制ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚に応じて比例的に変えた場合には、母材に発生した疲労亀裂内に進入する進展抑制ペーストの量を適正なものとすることができる。
【0039】
また、進展抑制ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、板厚が5~200mmの場合には母材の板厚の1/10以上とし、板厚が200mm以上の場合には20mm以上とした場合には、母材に発生した疲労亀裂の最先端部近傍まで進展抑制ペーストを十分に行き渡らせることができる。
【0040】
本発明の疲労亀裂の進展検出ペーストによれば、チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることで、疲労亀裂が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂内で発生する黒色物質によって疲労亀裂を検出できる。また、粒子と混合する流体として、チクソトロピック性を有した油を用いることで、粒子の混合比率にかかわらず、チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることが可能となる。また、進展検出ペーストのチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIを、0.6~1.2とすることで、疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストとして適している。また、進展検出ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度が1(1/s)のときに32~197(Pa・s)とすることで、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。また、粒子を、粒径を10~20μmに分級することで、疲労亀裂内への粒子の進入効果及び進入した粒子による亀裂面の研削効果が高く、疲労亀裂内で発生する黒色物質によって疲労亀裂を検出できる。また、粒子が、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、窒化アルミニウム、イットリア、酸化チタン、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維の1種以上を含むことで、母材との関係で、これらの材料を単独又は混合して用いることができる。
【0041】
また、進展検出ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度が10(1/s)のときに5.1~31(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.8~4.7(Pa・s)とすることで、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂内で発生する黒色物質によって疲労亀裂を検出できる。
【0042】
また、粒子を、淡色又は透明のアルミナを含むセラミックス粒子とした場合には、黒色物質とのコントラストによって目視による検出が容易となる。
【0043】
また、油のチクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIを、0.6~1.2とした場合には、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることができ、疲労亀裂の進展を検出する進展検出ペーストとして適したものにできる。
【0044】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とする場合には、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることができ、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
【0045】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度が1(1/s)のときに21~197(Pa・s)、せん断速度が100(1/s)のときに0.5~4.7(Pa・s)とした場合には、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展検出ペーストとすることができ、疲労亀裂の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂に進入した粒子によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂を検出できる。
【0046】
本発明の疲労亀裂の疲労亀裂の進展検出方法によれば、進展検出ペーストを疲労亀裂の発生が予測される母材の部位を特定して塗布することで、疲労亀裂の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できるため、あらかじめ疲労亀裂発生が予測される部位に塗布しておくことができ、疲労亀裂が発生した場合には、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂を検出できる。
【0047】
本発明の疲労亀裂の疲労亀裂の進展検出方法によれば、疲労亀裂の発生している母材の部位に塗布することで、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂内に粒子が進入し、疲労亀裂に進入した粒子によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂を検出できる。
【0048】
また、疲労亀裂の開口を増大させる方向の荷重を、母材を含む構造物に載荷して進展検出ペーストを塗布する場合には、繰り返し荷重に伴う疲労亀裂の開閉口によるポンプ作用や毛細管現象によってペーストが疲労亀裂内に徐々に流入していくのを待つことなく、疲労亀裂が大きく開口した状態で塗布することで、相当量の粒子が疲労亀裂内に流入するため、疲労亀裂に進入した粒子による黒色物質の発生を早め、疲労亀裂を早期にかつ効果的に検出できる。
【0049】
また、母材に塗布した進展検出ペーストの疲労亀裂に対応した表面部分が、疲労亀裂の進展に伴い変色することにより疲労亀裂の進展を判断する場合には、目視による疲労亀裂検出を容易に行うことができる。
【0050】
また、進展検出ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚に応じて比例的に変えた場合には、母材に発生した疲労亀裂内に進入する進展検出ペーストの量を適正なものとすることができる。
【0051】
また、進展検出ペーストの塗布する厚さを、母材の板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、板厚が5~200mmの場合には母材の板厚の1/10以上とし、板厚が200mm以上の場合には20mm以上とした場合には、母材に発生した疲労亀裂の最先端部近傍まで進展検出ペーストを十分に行き渡らせることができる。
【0052】
また、進展検出ペーストを用いて、母材の疲労亀裂の進展の抑制も行う場合には、疲労亀裂進展の検出だけでなく、くさび効果による疲労亀裂進展の抑制も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明の実施形態による高チクソトロピック性を有するペーストの作用原理を示す説明図
【
図2】本発明の実施形態による高チクソトロピック性を有するペーストの各実施例におけるアルミナの粒径、油の構成、アルミナペーストの相対的な粘度を示す表
【
図3】実施例3の中粘度アルミナペーストについて粘度測定を行った結果を示す特性図
【
図4】実施例1におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度とスピンドルの回転速度の関係を示す特性図
【
図5】実施例2におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度とスピンドルの回転速度の関係を示す特性図
【
図6】実施例3におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度とスピンドルの回転速度の関係を示す特性図
【
図7】実施例4におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度とスピンドルの回転速度の関係を示す特性図
【
図8】実施例1から実施例4におけるアルミナペーストのみかけ粘度とスピンドルの回転速度の関係を示す特性図
【
図9】実施例3におけるペースト粘度の0.4倍~2.5倍におけるせん断速度別のペーストのみかけ粘度と油(流体)のみかけ粘度を示す表
【
図10】同粘度範囲におけるアルミナペーストのみかけ粘度とせん断速度の関係を示す特性図
【
図11】実施例3におけるペースト粘度の0.25倍~4倍におけるせん断速度別のペーストのみかけ粘度と油(流体)のみかけ粘度を示す表
【
図12】同粘度範囲におけるアルミナペーストのみかけ粘度とせん断速度の関係を示す特性図
【
図13】実施例3におけるペースト粘度の0.167倍~6倍におけるせん断速度別のペーストのみかけ粘度と油(流体)のみかけ粘度を示す表
【
図14】同粘度範囲におけるアルミナペーストのみかけ粘度とせん断速度の関係を示す特性図
【
図15】疲労亀裂進展試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図
【
図16】実施例1~実施例4と比較例1、2についての試験結果を示す表
【
図17】実施例1における疲労亀裂進展試験中のアルミナペーストの変化を示す写真
【
図18】実施例2における疲労亀裂進展試験中のアルミナペーストの変化を示す写真
【
図19】実施例3における疲労亀裂進展試験中のアルミナペーストの変化を示す写真
【
図20】実施例4における疲労亀裂進展試験中のアルミナペーストの変化を示す写真
【
図21】本発明の疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法の一実施形態を示す説明図
【
図22】本発明の疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法に高比重の粒子を用いたペーストを適用した状態を示す模式図
【
図23】本発明の疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法の他の実施形態を示す説明図
【
図24】本発明の疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法で用いるペーストの塗布厚の規定を示す図
【
図25】ペーストの塗布厚さを変えて行った疲労亀裂進展試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図
【
図26】実施例5における疲労亀裂進展試験に用いた試験片のボルト・ナット締結及びペースト塗布仕様を示す図
【
図27】実施例6及び7における疲労亀裂進展試験に用いた試験片のボルト・ナット締結及びペースト塗布仕様を示す図
【
図28】比較例3における疲労亀裂進展試験に用いた試験片のボルト・ナット締結仕様を示す図
【
図29】実施例5~実施例7と比較例3についての試験結果を示す表
【
図30】実施例5~7の疲労試験終了後にアセトンにより超音波洗浄した破面を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は本発明の実施形態による高チクソトロピック性を有するペーストの作用原理を示す説明図である。
図1(a)は、母材1としての金属素地の鉛直面に、母材1の硬度以上の硬度を有する粒子又は母材1の剛性以上の剛性を有する粒子と流体とを混合した高チクソトロピック性を有するペースト2を塗布した状態を示している。疲労亀裂3が発生していない状態では、せん断速度がゼロなのでペースト2は高粘度であり、タレを生じることなく形状や均質性を保持している。
【0055】
図1(b)は、疲労亀裂3が発生して母材1の表面で開閉口を始めた疲労亀裂発生初期状態を示している。疲労亀裂3近傍のペースト2のせん断速度が上がることで、疲労亀裂3近傍の低粘度となったペースト4は、疲労亀裂3内に進入しやすくなる。
【0056】
図1(c)は、疲労亀裂3の開閉口が盛んに行われた後の状態を示している。疲労亀裂3の開閉口の動きの影響を受ける範囲でペースト2のせん断速度が上がって粘度が低下し、低粘度のペースト4が疲労亀裂3内に流入し、また疲労亀裂3内の黒色物質が低粘度のペースト4表面に流出しやすくなる。疲労亀裂3内に流入した低粘度のペースト4中に存在する、母材1の硬度以上の硬度を有する粒子又は母材1の剛性以上の剛性を有する粒子は、疲労亀裂3内で、くさびとしての機能を有することで疲労亀裂3の閉動作を妨げるため、疲労亀裂3に次サイクルの引っ張り荷重が作用しても、疲労亀裂3の変位が小さく抑えられ(くさび効果)、疲労亀裂3の進展が抑制される。また、引っ張り荷重が除荷されると、疲労亀裂3面と粒子との間に強い反発力が作用して、疲労亀裂3面の母材1が研削され、この研削された母材粉は顕著な黒色を呈し、疲労亀裂開閉口に伴うポンプ効果により疲労亀裂3内から滲み出て発色する。
一方、疲労亀裂3からある程度離れた所にあるペースト2は高粘度のままなので、ペースト2全体としてはタレを生じることなく形状は保持される。
【0057】
このように、母材1の硬度以上の硬度を有する粒子又は母材1の剛性以上の剛性を有する粒子と流体とを混合した高チクソトロピック性を有したペーストとすることで、疲労亀裂3が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材1表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂3が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂3内に粒子が進入しやすくなり、疲労亀裂3内に進入した粒子のくさび効果によって疲労亀裂3の進展を抑制できる。
従って、高チクソトロピック性を有したペーストを、母材1の疲労亀裂3の進展を抑制する進展抑制ペーストとして用いることができる。母材1の硬度以上の硬度を有する粒子又は母材1の剛性以上の剛性を有する粒子を用いることにより、疲労亀裂3が発生して開閉口を始め母材1により粒子が荷重を受けても、粒子の硬度や剛性が母材1の硬度や剛性に比べて優っているため、くさび効果を有効に発揮することが可能となる。
【0058】
また、母材1の硬度以上の硬度を有する粒子又は母材1の剛性以上の剛性を有する粒子と流体とを混合した高チクソトロピック性を有したペーストとすることで、疲労亀裂3が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材1表面において形状や均質性を保持し、疲労亀裂3が発生して開閉口を始めると疲労亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで疲労亀裂3内に粒子が進入し、疲労亀裂3内でくさびとしての機能を発現した粒子が疲労亀裂3面を強く圧迫して研削することにより疲労亀裂3内で発生する黒色物質が、粘度が低下して流動性を増したペースト4と共にペースト表面まで輸送されて黒く発色することによって疲労亀裂3を目視検出できる。
従って、高チクソトロピック性を有したペーストを、母材1の疲労亀裂3の進展を検出する進展検出ペーストとして用いることができる。
なお、均質性とはペースト中における粒子の分布や粒径の分布が均質であること等を言っており、高粘度の油が粒子をしっかりと保持したり、油だけが粒子を残してタレ落ちたり、粒径分布が偏在して来ることのないこと等を指している。
【実施例】
【0059】
図2は本発明の実施形態による高チクソトロピック性を有するペーストの各実施例におけるアルミナの粒径、油の構成、アルミナペーストの相対的な粘度を示す表である。
微細粒としては、粒径をメッシュサイズ10μm及び20μmの2種類のふるいを用いて平均粒径15.2μmに揃えたアルミナ粒子(見掛密度1.2g/cm
3)を用いた。これを適量の白色シリコーングリース、又は白色シリコーングリースと透明シリコーンオイルの混合物と十分に撹拌混合し、鉛直面でもタレを生じない程度のペースト状に調整した。
【0060】
図3は実施例3の中粘度アルミナペーストについて粘度測定を行った結果を示す特性図である。
図3では、みかけ粘度η
Pとせん断速度Dの関係を示している。
粘度測定には、レオメーター(Reologica lnstruments社製VAR-50、C25-4°スピンドル)を用いた。
図3において、白丸はペースト試料を-40℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を、黒丸はペースト試料を80℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を示している。また、破線細線は白丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線、実線細線は黒丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線を示している。
図3に示す通り、-40℃と80℃での保存温度の違いによる影響は殆ど認められなかった。元々シリコーングリースの粘度の温度依存性は非常に小さいので、本実施例によるアルミナペーストは、低温・高温の環境下においても疲労亀裂3の進展の抑制及び目視検出の機能発現が期待できる。
【0061】
一方、アルミナペーストのみかけ粘度ηPはせん断速度(ずり速度)Dに大きく依存しており、プロット点はすべて両対数座標上で右下がり(傾き約-0.8)の直線上にほぼ位置している。アルミナペーストは、このように低せん断速度域では相対的に高粘度、高せん断速度域では相対的に低粘度となる特性(広義のチクソトロピック特性(揺変性)、擬塑性)を有するため、鉛直面等にそのまま塗布しても自重で垂れることなく塗布時の形状を保ち続け、施工性及び形状安定性に優れている。一方、アルミナペーストは、母材1に疲労亀裂3が生じてその開閉口挙動の影響で疲労亀裂3近傍のペーストのせん断速度Dが上がると局所的に粘度が下がって流動性が増し、疲労亀裂進展抑制機能及び目視検出機能を発現しやすくなる。
【0062】
本発明におけるチクソトロピック特性を示すチクソトロピー指数TIは以下のように定義している。
TI=-[
図3(両対数座標で表したみかけ粘度η
P-せん断速度Dの関係)における回帰直線の傾き]
ただし、油の場合はη
Pを油のみかけ粘度η
Gに置き換えるものとする。
なお、日本工業規格 JISZ3284-1994ソルダペーストの5.2節では、粘度-ずり速度(せん断速度)曲線からチクソトロピー指数TIを求める方法が示されており、この方法では特定の2点を通る直線の傾きで定義されている。本発明におけるチクソトロピー指数TIは、このJISで定める方法と考え方は同じであるが、特定の2点を通る直線の傾きで定義するものではない。
また、油として対象とする一般的なシリコーングリースやシリコーンオイル、又はそれらの混合物等のチクソトロピー指数TIは大きいものから小さいものまで様々であり、進展抑制ペースト用あるいは進展検出ペースト用としては、絞り込んで使用する必要がある。
【0063】
図4は実施例1におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度(η
P、η
G)とスピンドルの回転速度N
Rの関係を示す特性図である。
最も低粘度である実施例1について、アルミナペーストのみかけ粘度η
Pと、原料に用いた油(
図2参照)の粘度η
Gを、B型回転式粘度計(Fungilab社製Viscolead one、R7スピンドル使用)により常温で測定した結果である。
スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度Dが上昇するにつれてアルミナペーストのみかけ粘度η
P及び油のみかけ粘度η
Gは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは両者とも-0.82となり、高チクソトロピック特性を示している。各回転速度におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pと油のみかけ粘度η
Gの比を見ると約1.25であった。
【0064】
図5は実施例2におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度(η
P、η
G)とスピンドルの回転速度N
Rの関係を示す特性図である。
低粘度である実施例2について、アルミナペーストのみかけ粘度η
Pと、原料に用いた油(
図2参照)の粘度η
Gを、同じくB型回転式粘度計(同上)により常温で測定した結果である。
スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度Dが上昇するにつれてアルミナペーストのみかけ粘度η
P及び油のみかけ粘度η
Gは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは両者とも-0.86となり、高チクソトロピック特性を示している。各回転速度におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pと油のみかけ粘度η
Gの比を見ると約1.32であった。
【0065】
図6は実施例3におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度(η
P、η
G)とスピンドルの回転速度N
Rの関係を示す特性図である。
中粘度である実施例3について、アルミナペーストのみかけ粘度η
Pと、原料に用いた油(
図2参照)の粘度η
Gを、同じくB型回転式粘度計(同上)により常温で測定した結果である。
スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度Dが上昇するにつれてアルミナペーストのみかけ粘度η
P及び油のみかけ粘度η
Gは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きはそれぞれ-0.87及び-0.88となり、高チクソトロピック特性を示している。各回転速度におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pと油のみかけ粘度η
Gの比を見ると約1.65であった。
【0066】
図7は実施例4におけるアルミナペースト及び油のみかけ粘度(η
P、η
G)とスピンドルの回転速度N
Rの関係を示す特性図である。
最も高粘度である実施例4について、アルミナペーストのみかけ粘度η
Pと、原料に用いた油(
図2参照)の粘度η
Gを、同じくB型回転式粘度計(同上)により常温で測定した結果である。
スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度Dが上昇するにつれてアルミナペーストと油のみかけ粘度(η
P、η
G)は低下しており、油のデータに対して両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは-0.87となり、高チクソトロピック特性を示している。実施例4では、油(高粘度シリコーングリース)が高粘度のためアルミナ粒子混合によるみかけ粘度の変化は殆どなく、アルミナペーストのデータは油のデータとほぼ重なっている。
【0067】
図8は実施例1から実施例4におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pとスピンドルの回転速度N
Rの関係を示す特性図である。
図8では、アルミナペーストの粘度η
PをB型回転式粘度計(同上)により常温で測定した結果をまとめて示している。
実施例1~4に共通して、スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度Dが上昇するにつれてアルミナペーストのみかけ粘度η
Pは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは-0.87~-0.82であり、高チクソトロピック特性を示している。また、各回転速度におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pを比較すると、実施例3のみかけ粘度η
Pを1とした場合、最も高粘度の実施例4で約2.4倍、最も低粘度の実施例1で約0.4倍であった。
【0068】
図9は実施例3におけるペースト粘度の0.4倍~2.5倍におけるせん断速度D別のペーストのみかけ粘度η
Pと油(流体)のみかけ粘度η
Gを示す表、
図10は同粘度範囲におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pとせん断速度Dの関係を示す特性図である。
なお、『接着剤と接着技術』CMCテクニカルライブラリー272、永田宏二監修(p.313の
図7)には、塗料のせん断速度履歴が記載されており、タレ及び沈降安定性に関して考慮すべきせん断速度の範囲は大凡0.01~1(1/s)、塗料の搬送・塗装に関して考慮すべきせん断速度の範囲は大凡10~100(1/s)であるとされている。
これを参考にすると、せん断速度D=0.01~1(1/s)の範囲が、垂直面等でもタレを生じずに塗布時の形状を保持、均質に分散した微細粒を保持、水分(雨水、揺水)等のマイルドな環境要因からペースト内部を保護できる機能を発揮し、疲労亀裂3の無い箇所に塗布されたペーストに相当する。
また、せん断速度D=10~100(1/s)の範囲が、疲労亀裂3内に進入して微細粒を疲労亀裂3先端近傍まで輸送、疲労亀裂3面で生じた黒色物質をペースト外表面まで輸送できる機能を発揮し、疲労亀裂3の近傍及び疲労亀裂3内のペーストに相当する。
【0069】
このことから、疲労亀裂3の無い箇所におけるせん断速度D(1/s)は、D<0.1とD=1とし、疲労亀裂3の近傍及び内部のせん断速度D(1/s)は、D=10とD=100とした。
油粘度の下限値は、最低粘度の実施例1でアルミナペーストのみかけ粘度ηPと油のみかけ粘度ηGの比が約1.25であったことから、ペースト粘度下限値/1.5とした。また、油粘度の上限値は、最高粘度の実施例4で等しかったことから、ペースト粘度上限値とした。
【0070】
図10において、白丸はペースト試料を-40℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を、黒丸はペースト試料を80℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を示している。また、破線細線は白丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線、実線細線は黒丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線を示している。また「×2.5」で示す実線太線は、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)、「×0.4」で示す破線太線は、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)を示している。
【0071】
TIの上限値であるTI(max)は、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)におけるせん断速度D=1(1/s)と、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
また、TIの下限値であるTI(min)は、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)におけるせん断速度D=0.1(1/s)と、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
【0072】
図9で規定するペーストと油の粘度範囲によれば、
図10に示すTI(max)とTI(min)の直線の傾きで示すように、本規定範囲におけるペーストのチクソトロピー指数TIは、0.5~1.2である。
また、
図4~
図6で示すように、ペーストと油のチクソトロピー指数TIはほぼ同一であるため、本規定範囲における油のチクソトロピー指数TIについても、0.5~1.2である。
【0073】
以上のように、ペーストの高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.5~1.2であれば、進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、最も適している。
また、油の高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.5~1.2であれば、進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、最も適している。
【0074】
また、ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに210(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに32~205(Pa・s)とすることで、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる効果が最も高い。
また、ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度Dが10(1/s)のときに5.1~32(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.8~4.9(Pa・s)とすることで、疲労亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂3内に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制できる効果が最も高い。また、疲労亀裂3内で発生する黒色物質によって疲労亀裂3を検出できる効果が最も高い。
【0075】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに140(Pa・s)以上とすることで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、最も適しており、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度Dが1(1/s)のときに21~205(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.5~4.9(Pa・s)とすることで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、最も適しており、疲労亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂3に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制でき、疲労亀裂3内で発生する黒色物質によって疲労亀裂3を検出できる。
また、流体を、高チクソトロピック性を有した油としたことで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペースト及び亀裂検出ペーストとすることができる。
【0076】
図11は実施例3におけるペースト粘度の0.25倍~4倍におけるせん断速度D別のペーストのみかけ粘度η
Pと油(流体)のみかけ粘度η
Gを示す表、
図12は同粘度範囲におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pとせん断速度Dの関係を示す特性図である。
図9で示す場合と同様に、疲労亀裂3の無い箇所におけるせん断速度D(1/s)は、D<0.1とD=1とし、疲労亀裂3の近傍及び内部のせん断速度D(1/s)は、D=10とD=100とした。
また、
図9で示す場合と同様に、油粘度の下限値は、最低粘度の実施例1でアルミナペーストのみかけ粘度η
Pと油のみかけ粘度η
Gの比が約1.25であったことから、ペースト粘度下限値/1.5とした。また、油粘度の上限値は、最高粘度の実施例4で等しかったことから、ペースト粘度上限値とした。
【0077】
図12において、白丸はペースト試料を-40℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を、黒丸はペースト試料を80℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を示している。また、破線細線は白丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線、実線細線は黒丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線を示している。また「×4」で示す実線太線は、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)、「×0.25」で示す破線太線は、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)を示している。
【0078】
TIの上限値であるTI(max)は、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)におけるせん断速度D=1(1/s)と、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
また、TIの下限値であるTI(min)は、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)におけるせん断速度D=0.1(1/s)と、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
【0079】
図11で規定するペーストと油の粘度範囲によれば、
図12に示すTI(max)とTI(min)の直線の傾きで示すように、本規定範囲におけるペーストのチクソトロピー指数TIは、0.4~1.4である。
また、
図4~
図6で示すように、ペーストと油のチクソトロピー指数TIはほぼ同一であるため、本規定範囲における油のチクソトロピー指数TIについても、0.4~1.4である。
【0080】
以上のように、ペーストの高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.4~1.4であれば、進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、より適している。
また、油の高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.4~1.4であれば、進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、より適している。
【0081】
また、ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに130(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに20~330(Pa・s)とすることで、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる効果が高い。
また、ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度Dが10(1/s)のときに3.1~51(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.49~7.9(Pa・s)とすることで、疲労亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂3内に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制できる効果が高い。また、疲労亀裂3内で発生する黒色物質によって疲労亀裂3を検出できる効果が最も高い。
【0082】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに88(Pa・s)以上とすることで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、より適しており、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度Dが1(1/s)のときに13~330(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.33~7.9(Pa・s)とすることで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして、より適しており、疲労亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂3に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制でき、疲労亀裂3内で発生する黒色物質によって疲労亀裂3を検出できる。
また、流体を、高チクソトロピック性を有した油としたことで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペースト及び亀裂検出ペーストとすることができる。
【0083】
図13は実施例3におけるペースト粘度の0.167倍~6倍におけるせん断速度別のペーストのみかけ粘度η
Pと油(流体)のみかけ粘度η
Gを示す表、
図14は同粘度範囲におけるアルミナペーストのみかけ粘度η
Pとせん断速度Dの関係を示す特性図である。
図9で示す場合と同様に、疲労亀裂3の無い箇所におけるせん断速度D(1/s)は、D<0.1とD=1とし、疲労亀裂3の近傍及び内部のせん断速度D(1/s)は、D=10とD=100とした。
また、
図9で示す場合と同様に、油粘度の下限値は、最低粘度の実施例1でアルミナペーストのみかけ粘度η
Pと油のみかけ粘度η
Gの比が約1.25であったことから、ペースト粘度下限値/1.5とした。また、油粘度の上限値は、最高粘度の実施例4で等しかったことから、ペースト粘度上限値とした。
【0084】
図14において、白丸はペースト試料を-40℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を、黒丸はペースト試料を80℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して行った測定値を示している。また、破線細線は白丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線、実線細線は黒丸によるプロットの最小二乗法による回帰直線を示している。また「×6」で示す実線太線は、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)、「×0.167」で示す破線太線は、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)を示している。
【0085】
TIの上限値であるTI(max)は、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)におけるせん断速度D=1(1/s)と、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
また、TIの下限値であるTI(min)は、ペースト粘度下限値による直線(Lower limit)におけるせん断速度D=0.1(1/s)と、ペースト粘度上限値による直線(Upper limit)におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
【0086】
図13で規定するペーストと油の粘度範囲によれば、
図14に示すTI(max)とTI(min)の直線の傾きで示すように、本規定範囲におけるペーストのチクソトロピー指数TIは、0.3~1.6である。
また、
図4~
図6で示すように、ペーストと油のチクソトロピー指数TIはほぼ同一であるため、本規定範囲における油のチクソトロピー指数TIについても、0.3~1.6である。
【0087】
以上のように、ペーストの高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.3~1.6であれば、進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして適している。
また、油の高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.3~1.6であれば、進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして適している。
【0088】
また、ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに88(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに13~490(Pa・s)とすることで、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
また、ペーストのみかけ粘度ηPを、せん断速度Dが10(1/s)のときに2.1~76(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.33~12(Pa・s)とすることで、疲労亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂3内に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制できる。また、疲労亀裂3内で発生する黒色物質によって疲労亀裂3を検出できる。
【0089】
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに58(Pa・s)以上とすることで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして適しており、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できる。
また、油のみかけ粘度ηGを、せん断速度Dが1(1/s)のときに9.1~490(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.22~12(Pa・s)とすることで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとして、また進展検出ペーストとして適しており、疲労亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粒子の流動性を高めて、疲労亀裂3内に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制でき、疲労亀裂3内で発生する黒色物質によって疲労亀裂3を検出できる。
また、流体を、高チクソトロピック性を有した油としたことで、粒子の混合比率にかかわらず、高チクソトロピック性を有した進展抑制ペースト及び亀裂検出ペーストとすることができる。
【0090】
図15は疲労亀裂進展試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図である。試験片には、JIS SM490A鋼製の板厚5mmの平板試験片中央部に、長さ10mm×幅0.3mmの切欠きを加工したものを用いた。
実施例1~実施例4は、
図2に示すペーストを
図15に示す試験片に塗布して試験を行ったものである。ペーストは、プラスチック板の簡易アプリケータを用いて、ペースト厚さが約0.7mmとなるように試験片の切欠き周辺に塗布した。
比較例1、2は、ペーストを塗布せず、金属素地のままの試験片で試験を行ったものである。
試験機には、電気-油圧サーボ式疲労試験機(島津製作所製、動的容量10tonf)を用い、試験条件は、公称応力レンジΔσ
n=104MPa、応力比R=0(完全片振り)、荷重周波数4.2Hzとした。なお、ペーストを鉛直面に塗布し、タレの有無も調べた。
【0091】
(試験結果)
図16は、実施例1~実施例4と比較例1、2についての試験結果を示す表である。また、
図17から
図20は実施例1~実施例4における疲労亀裂進展試験中のアルミナペーストの変化を示す写真である。
比較例1、2では、破断寿命N
f=448,020回、及び523,368回となり、平均では485,694回となった。
【0092】
実施例1では、破断寿命N
f=1,111,910回に延伸し、比較例1、2の平均に対して約2.3倍となった。
図17に示すように、進展した疲労亀裂3に沿って黒く線上に発色した。健全部に塗布されたペーストから少量の油垂れが認められた。
【0093】
実施例2では、破断寿命N
f=1,023,670回に延伸し、比較例1、2の平均に対して約2.1倍となった。
図18に示すように、進展した疲労亀裂3に沿って黒く線上に発色した。健全部に塗布されたペーストのタレはまったく見られず、ペーストの塗布時にできた凹み模様も完全に保持されていた。
【0094】
実施例3では、破断寿命N
f>1,536,000回に延伸し、比較例1、2の平均の約3.2倍以上となった。
図19に示すように、進展した疲労亀裂3に沿って黒く線上に発色した。健全部に塗布されたペーストのタレはまったく見られず、ペーストの塗布時にできた凹み模様も完全に保持されていた。
【0095】
実施例4では、破断寿命N
f=772,811回に延伸し、比較例1、2の平均の約1.6倍となり、進展抑制効果は小さめとなった。
図20に示すように、切欠き左側では進展した疲労亀裂3に沿って黒く線上に発色しているが、切欠き右側に進展した疲労亀裂3に沿っては発色していないことから、検出効果は必ずしも完全であるとは言えなかった。健全部に塗布されたペーストのタレはまったく無かった。
【0096】
図21は疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法の一実施形態を示す説明図である。
図21では、例えば橋梁のような一対の支承1aで支えられた構造物1に荷重5(重量物)を載荷して疲労亀裂3を開口させた状態でペースト2を塗布するイメージを示している。
【0097】
図21に示すように、疲労亀裂3が発生した部位にペースト2を塗布することで、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂3内にペースト2中の粒子が進入し、疲労亀裂3内に進入した粒子のくさび効果によって疲労亀裂3の進展を抑制できる。
【0098】
また、疲労亀裂3が発生した部位にペースト2を塗布することで、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂3内に粒子が進入し、疲労亀裂3内に進入した粒子による疲労亀裂3面の研削作用によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂3を目視検出できる。
また、疲労亀裂3の開口を増大させる方向の荷重5を、母材1を含む構造物1に載荷してペースト2を塗布することで、繰り返し荷重に伴う疲労亀裂3の開閉口によるポンプ作用や毛細管現象によってペースト2が疲労亀裂3内に徐々に流入していくのを待つことなく、疲労亀裂3が大きく開口した状態で塗布することで、相当量の粒子が疲労亀裂3内に流入するため、進展抑制効果の発現を早めることができる。また、疲労亀裂3が大きく開口した状態で塗布することで、相当量の粒子が疲労亀裂3内に流入するため、疲労亀裂3に進入した粒子による黒色物質の発生を早め、疲労亀裂3を早期にかつ効果的に検出できる。勿論、荷重5を載荷しないで、疲労亀裂3の発生が予測される母材1の部位を特定して塗布することもできる。また、荷重5を載荷するに当たり、時間的に荷重5を変え疲労亀裂3の開閉口をさせながら塗布することも可能である。
【0099】
なお、疲労亀裂の進展抑制ペースト又は疲労亀裂の進展検出ペーストに用いる粒子は、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、白金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、窒化アルミニウム、イットリア、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、酸化チタン、銅、銅合金、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維の1種以上を含むことが好ましく、母材1の硬度又は剛性との関係で、母材1の硬度以上の硬度を有する材料、又は母材1の剛性以上の剛性を有する材料を単独又は混合して用いることができる。
また、母材1の硬度以上の硬度を有する粒子と母材1の剛性以上の剛性を有する粒子を適宜、混合して用いることもできる。進展抑制ペーストとしては、硬度と剛性の双方の特性を備えているものが望ましいが、閉じようとする疲労亀裂3面の母材1の剛性に負けて変形しないように剛性重視のものであってもよい。また、進展抑制ペーストの対象となる母材1の材料は、疲労亀裂3の生じる材料であればあらゆるものに適用が可能である。例えば、金属材料としての鉄、鋼以外にもアルミニウム合金やチタン合金等各種の金属材料が対象となり得る。また、セラミックスや樹脂、繊維強化樹脂等の金属材料以外の材料であってもよい。
【0100】
疲労亀裂の進展検出ペーストでは、粒子として、淡色又は透明のアルミナを含むセラミックス粒子とすることが好ましい。淡色又は透明の粒子とすることで、黒色物質とのコントラストによって目視による検出が容易となる。なお、透明には半透明を含み、黒色物質と実質的に目視で識別できるものを、本実施例では淡色又は透明としている。
また、進展検出ペーストの対象とする母材1は、発色の関係から基本的には金属材料が適している。硬度の低い金属材料の場合、用いる粒子はセラミックス粒子以外の粒子であってもよい。また、進展検出ペーストの検出対象とする母材1は、研削作用によって発色される材料であれば、金属以外の材料にも適用し得る。
粒子は、メッシュサイズ20μmのふるいを通る粒径とすることで、疲労亀裂3内への進入効果や疲労亀裂3内でのくさび効果が高く、疲労亀裂3内に進入した粒子によって疲労亀裂3の進展を抑制できる。
なお、対象とする疲労亀裂3の開口寸法よりも大きい粒径の粒子を含んでいてもよい。
疲労亀裂3の開口寸法は、見かけ上の先端開口寸法だけでは議論できない部分がある。
実際の疲労亀裂3の破面は複雑に入り組んでおり、立体的な開口寸法を考慮すると先端開口寸法よりも大きい場合もあり得る。また、母材1の内部の開口の方が寸法的に大きくなっている場合もあり得る。更に、実際使用する粒子自体も球形や立方体のような対称的な形状ではなく、一般的には複雑な形をしていることが多い。
このため、例えば見かけ上の疲労亀裂3の開口寸法よりも実態としての疲労亀裂の立体的開口寸法が大きい場合、対象とする疲労亀裂3の開口寸法よりも大きい粒径の粒子を含んでいると、くさび効果を増すことができる。
すなわち、複雑な形状をした粒子の一部が疲労亀裂3の開口に食い込むことでも疲労亀裂3の進展を抑制でき、開閉口の動作による母材1からの圧縮力によって疲労亀裂3内で粒子が砕けること、ならびに砕けた粒子がより小粒径の細かい粒子となって疲労亀裂3の深部に進入することでも疲労亀裂3の進展を抑制できる。
【0101】
本実施形態では、疲労亀裂3が発生した部位にペースト2を塗布する方法を説明したが、ペースト2を、疲労亀裂3の発生が予測される母材1の部位を特定して塗布することもできる。本実施例によるペースト2は、疲労亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、粒子を均質に保持できるため、あらかじめ疲労亀裂3の発生が予測される部位に塗布しておくことができ、疲労亀裂3が発生した場合には、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂3内に粒子が進入し、疲労亀裂3に進入した粒子のくさび効果によって疲労亀裂3の進展を抑制できる。また、あらかじめ疲労亀裂3の発生が予測される部位に塗布しておくことで、疲労亀裂3が発生した場合には、疲労亀裂口近傍でのせん断速度上昇によって粘度が低下して流動性が増すため、疲労亀裂3内に粒子が進入し、疲労亀裂3内に進入した粒子による疲労亀裂3面の研削作用によって黒色物質を発生させ、疲労亀裂3を目視検出できる。
【0102】
また、母材に対して母材との相対的な方向がほぼ一定の重力加速度あるいはみかけの加速度が作用し、疲労亀裂がほぼその方向に進展する場合、疲労亀裂の進展抑制ペースト又は疲労亀裂の進展検出ペーストには、高比重の粒子を用いたペーストを適用することが好ましい。
図22は疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法に高比重の粒子を用いたペーストを適用した状態を示す模式図である。
母材1中を重力加速度あるいはみかけの加速度の方向に進展する疲労亀裂3の開閉口により、あらかじめ母材1に塗布しておいたペースト2のうち、疲労亀裂3の開閉口の影響を受ける範囲にあるペースト4のせん断速度が上がり粘度が低下して流動性を増す。また、ペースト4中に分散した粒子6の比重が相対的に大きいと、重力加速度あるいはみかけの加速度の影響により粒子6には加速度方向の相対的に大きな力が作用して、疲労亀裂3の亀裂先端部近傍7に粒子6が集まりやすくなる。このように、粒子6が亀裂先端部近傍7に集まると、疲労亀裂3の自由な閉口を阻害するくさび効果が高まり、亀裂進展抑制機能や亀裂検出機能を発現しやすくなる。
ここで、みかけの加速度とは、母材1に加速度aが作用した時に、母材1を基準とした系で粒子6に作用する、aと大きさが等しく反対向きの加速度-aのことである。回転する母材1にペースト2を塗布した場合に粒子6に作用する遠心加速度などはその代表例である。
また、相対的に比重の大きい粒子6としては、炭化タングステン(WC、比重15~16)、超硬合金(WC-Co、比重14)、白金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)があり、これらの内の1種以上を含んで用いることができる。なお、参考値として、アルミナの比重は約3.9、本発明の実施例で使用したペーストに用いたアルミナ粉の嵩比重は約1.2である。
また、疲労亀裂3の進展方向は、重力加速度あるいはみかけの加速度の方向と完全に一致している必要はなく、重力加速度あるいはみかけの加速度の方向を疲労亀裂3の進展方向のベクトル成分として含んでいればよい。
なお、疲労亀裂3の進展方向、重力加速度あるいはみかけの加速度の方向、ベクトル成分の大きさ等の異なる用途に応じて適宜、適したチクソトロピー指数の油や粒子6の比重は選ぶことができる。
【0103】
図23は疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法の他の実施形態を示す説明図である。
図23では、例えば圧力容器や航空機胴体のような構造物1に、荷重5として内圧を付与して疲労亀裂3を開口させた状態でペースト2を塗布するイメージを示している。
この内圧を付与すること、また内圧を時間的に変動させることも荷重5を載荷する定義のうちに入る。
【0104】
図21~
図23を用いて進展抑制方法及び進展検出方法の実施形態を示したが、荷重5を載荷しない場合も含めて、母材1の疲労亀裂3の開口寸法の寸法予測値又は実寸法に応じて、粒子の粒径分布が異なるペースト2を塗布することが好ましい。粒子の粒径分布が異なるペースト2を塗布することで、疲労亀裂3内への粒子の進入効果や進入した粒子のくさび効果を高めて、疲労亀裂3の進展抑制を早めたり強めたりすることができる。また、粒子の粒径分布が異なるペースト2を塗布することで、疲労亀裂3内への粒子の進入効果や進入した粒子の疲労亀裂3面の研削作用を高めて、疲労亀裂3内に進入した粒子による黒色物質の発生を早めたり強めたりすることで、疲労亀裂3を早期にかつ効果的に目視検出できる。
また、ペースト2における粒子と流体を選択することにより、疲労亀裂3の進展検出を行うとともに母材1の疲労亀裂3の進展の抑制も行うことができる。
【0105】
本実施形態における疲労亀裂の進展検出方法では、母材1に塗布した進展検出ペーストの疲労亀裂3に対応した表面部分が、疲労亀裂3の進展に伴い変色することにより、疲労亀裂3の進展を判断することができ、目視による疲労亀裂3の検出を容易に行うことができる。
【0106】
また、ペースト2の塗布する厚さは、母材1の板厚に応じて変えることが好ましい。
図24は疲労亀裂の進展抑制方法及び進展検出方法で用いたペーストの塗布厚の規定を示す図である。
ペースト2の塗布する厚さを、母材1の板厚に応じて変えることによって、母材1に発生した疲労亀裂3内に進入するペースト4の量を適正なものとすることができる。
具体的には、
図24に示すように、母材1に塗布するペースト2の塗布する厚さは、母材1の板厚が5mm以下の場合には0.5mm以上とし、板厚が5~200mmの場合には母材1の板厚の1/10以上とし、板厚が200mm以上の場合には20mm以上とする。ペースト2の塗布厚さが小さいと、疲労亀裂3の開閉口により粘度が低下し流動性を増して疲労亀裂3内に流入するペースト4の供給量が不足し、疲労亀裂3の亀裂先端近傍部7までペースト4が十分に行き渡らず、疲労亀裂3の進展抑制作用又は検出作用が制限される場合があるが、ペースト2の塗布厚さの下限を母材1の板厚ごとに規定することによって、母材1に発生した疲労亀裂3内の亀裂先端近傍部7まで進展抑制ペースト又は進展検出ペーストを十分に行き渡らせることができる。
【0107】
また、ペースト2を進展検出ペーストとして用いる場合は、ペースト2の塗布厚さを、母材1の板厚が5mm以下の場合には0.5~2mmとし、板厚が5~50mmの場合には母材1の板厚の1/10~4/10とし、板厚が50~200mmの場合には母材1の板厚の1/10~20mmとし、板厚が200mm以上の場合には20mmとすることがより好ましい。ペースト2の塗布厚さが大きすぎると、疲労亀裂3の亀裂口から黒色物質が流出してもそれがペースト4の外表面に達して視認されるまでに時間がかかり過ぎるか、あるいは外側のペースト4に覆われて外表面まで達せず視認できない場合があるが、塗布厚さの下限に加えて上限も規定することによって、ペースト4の量を適正なものとし、疲労亀裂3の亀裂口から流出した黒色物質を確実に視認することができる。
【0108】
図25はペーストの塗布厚さを変えて行った疲労亀裂進展試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図である。試験片には、JIS_SM490A鋼製の板厚10mmの平板試験片中央部に、Φ12mmの貫通ボルト穴を開け、穴の両端に長さ2mm×幅0.3mmの切欠きを加工したものを用いた。
実施例5は、
図26に示すように、平板試験片のボルト穴に実施例3のアルミナペーストを塗布し、ボルト・ナットを締結して試験を行ったものである。また、実施例6及び7は、
図27に示すように、平板試験片のボルト穴に実施例3のアルミナペーストを塗布し、ボルト・ナットを締結した後、疲労亀裂3の進展が予想される母材1の表裏面にもアルミナペーストを塗布して試験を行ったものである。なお、実施例6においては、プラスチック板の簡易アプリケータを用いて、ペースト厚さが約0.7mm(母材1の板厚の7%)となるように塗布し、実施例7においては、プラスチック板の簡易アプリケータを用いて、ペースト厚さが約1.4mm(母材1の板厚の14%)となるように塗布した。
比較例3は、
図28に示すように、アルミナペーストを塗布せず、平板試験片のボルト穴にボルト・ナットを締結して試験を行ったものである。
試験機には、電気-油圧サーボ式疲労試験機(島津製作所製、動的容量10tonf)を用い、試験条件は、ボルト穴及び切欠きの無い断面における公称応力レンジΔσ
n=78MPa、応力比R=0(完全片振り)、荷重周波数4.2Hzとした。
【0109】
(試験結果)
図29は実施例5~7と比較例3についての試験結果を示す表である。また、
図30は実施例5~7の疲労試験終了後にアセトンにより超音波洗浄した破面を示す写真であり、
図30(a)は実施例5の破面を、
図30(b)は実施例6の破面を、
図30(c)は実施例7の破面をそれぞれ示す。
比較例3では、破断寿命N
f=721,812回となった。
【0110】
実施例5では、破断寿命Nf=1,345,990回に延伸し、比較例3に対して約1.9倍となった。また、進展した疲労亀裂3により明瞭に黒発色した。
【0111】
実施例6では、破断寿命Nf=1,297,000回に延伸し、比較例3に対して約1.8倍となった。また、進展した疲労亀裂3により明瞭に黒発色した。
【0112】
実施例7では、破断寿命N
f=2,012,260回に延伸し、比較例3に対して約2.8倍、実施例5に対して約1.8倍となり、母材1の表裏面にアルミナペーストを塗布した効果が認められた。また、進展した疲労亀裂3により明瞭に黒発色した。
さらに、
図30に示すように、疲労亀裂3内にペースト4が流入し粒子6がくさびとして作用した部分では、研削された母材1の黒色微粉末や粉砕された粒子6の砕片が亀裂面に圧着し、周囲の母材1のままの明灰色の破面とは明らかに異なる黒っぽい暗色の破面を呈しているが、疲労亀裂3の亀裂先端近傍部7が通過する板厚中央付近を見ると、実施例5及び6に比べ、実施例7では暗色の破面の範囲が左右により広がっており、母材1の表裏面に厚さ1.4mmで塗布したペースト4が疲労亀裂3内に流入し、亀裂先端近傍部7が通過する板厚中央付近まで十分に供給されていたことがわかる。従って、板厚10mmの母材1に対し、実施例6のペースト塗布厚さ0.7mmではやや不十分で、実施例7のペースト塗布厚さ1.4mm(規定:1/10t以上)なら十分であるということができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、圧力容器、車両、航空機又は工作機械等の構造物において、疲労亀裂の発生及び進展が懸念される箇所並びに疲労亀裂の発生及び進展が認められた箇所に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 母材
2 ペースト
3 疲労亀裂
4 低粘度のペースト
5 荷重
6 粒子
7 亀裂先端近傍部