(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】線形材料保護部材
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20230821BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20230821BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20230821BHJP
H01B 12/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
H02G3/04 075
H01F5/00 F
H01F6/06 110
H01B12/02
(21)【出願番号】P 2022113102
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2023-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521496098
【氏名又は名称】株式会社Helical Fusion
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤順一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-100840(JP,A)
【文献】特開2019-013138(JP,A)
【文献】特表2003-533955(JP,A)
【文献】特開2000-161447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
H01F 5/00
H01F 6/06
H01B 12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線形材料の周囲を囲むように保持するための複数のブロックと、
前記複数のブロックに係合される第1ワイヤと、
を有する線形材料保護部材であって、
前記線形材料は、積層された複数の超電導テープ線材を含む超電導線材であり、
前記複数のブロックのそれぞれは、
前記線形材料を保持する保持空間と、
前記保持空間を覆っている天井部と、
前記保持空間を介して前記天井部の反対側に位置している底部と、
前記天井部および前記底部のそれぞれと連なる側壁部と、
を含み、
前記天井部、前記底部、および前記側壁部のいずれか1か所には、第1方向に延び、かつ、前記第1ワイヤを係合可能な第1溝が形成され、
前記複数のブロックは、前記第1溝に係合された第1ワイヤを介して互いに連結され、
前記保持空間を介して前記側壁部の反対側には、前記保持空間に連通する第1開口部が形成され、
前記第1開口部は、前記複数のブロックが連結されたとき、前記第1方向に沿って前記複数のブロックに跨るように延びた開口が形成されるようになっている、線形材料保護部材。
【請求項2】
請求項
1において、
前記線形材料保護部材は、前記第1ワイヤと、前記複数のブロックに係合される第2ワイヤと、前記複数のブロックに係合される第3ワイヤと、を有し、
前記第1ワイヤ、前記第2ワイヤ、および前記第3ワイヤのそれぞれは、前記線形材料に沿って前記複数のブロックに係合されている、線形材料保護部材。
【請求項3】
請求項
1において、
前記天井部は、前記天井部の上面が前記第1方向に延びる溝形状になるように形成されたストッパを備え、
前記底部は、前記複数のブロックを積層した場合に、前記天井部の前記ストッパの間の溝に収容される形状に成形されている、線形材料保護部材。
【請求項4】
請求項
3において、
前記線形材料保護部材の厚さ方向において、複数の前記線形材料保護部材が積層され、
前記複数の超電導テープ線材の積層体は、前記保持空間に含侵された封止材により封止されている、線形材料保護部材。
【請求項5】
請求項
3において、
前記線形材料保護部材は、前記底部から露出するボールベアリングをさらに有し、
前記天井部には、前記複数のブロックを積層した場合に、ボールベアリングの前記底部からの露出部分をガイドすることが可能なガイド溝が形成されている、線形材料保護部材。
【請求項6】
請求項
5において、
前記底部は、前記ボールベアリングが収容されたボール収容部を備えた第1部材と、
前記第1部材とは分離可能に形成され、前記第1部材上に配置された第2部材と、
を有し、
前記第1部材の前記ボール収容部は前記第2部材により覆われている、線形材料保護部材。
【請求項7】
請求項
1において、
前記線形材料は、
積層された前記複数の超電導テープ線材と、
前記複数の超電導テープ線材の積層体の隣に配置された冷却管と、
前記複数の超電導テープ線材の積層体および前記冷却管を束ねるように巻き付けられた金属帯と、を含む超電導線材である、線形材料保護部材。
【請求項8】
請求項
7において、
前記線形材料保護部材の複数のブロックのそれぞれは、
互いに分離可能な複数の部材を備え、
前記複数の部材は、
前記底部の一部分および前記側壁部を構成する第1部材と、
前記第1部材上に配置された第2部材と、
前記天井部を構成する第3部材と、
前記第1ワイヤと、
を含み、
前記第1部材は、前記第3部材の前記第1溝内に挿入され、前記側壁部の延在方向に突出した第1突出部を有し、
前記第3部材は、前記第1溝に形成され、前記第1ワイヤに向かって突出した第2突出部を有し、
前記第1ワイヤは、前記第1溝内に挿入され、前記第2突出部と前記第1突出部との間に挟まれた屈曲部を有し、
前記第1ワイヤを前記第1方向に引っ張ることにより、前記第1部材と前記第3部材とが固定されている、線形材料保護部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線形材料を保持する線形材料保護部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-102298号公報(特許文献1)には、積層された状態で結束された複数の超電導テープ線材が、フレキシブルチューブに挿入された超伝導体が記載されている。また、特許文献1には、超伝導体をコイル形状に成形した後、積層された超電導テープ線材を樹脂または金属であるモールド部材によりモールドする成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電線や配管のような線形材料の用途として、例えば、構造物に巻き付けて利用するなど、線形材料を変形させて利用する用途がある。このような用途で線形材料を利用する場合、巻き付ける際の外力あるいは巻き付けた後に印加される力に起因して、線形材料自身が損傷することを防止する必要がある。一方、構造物に巻き付けるためには、線形材料が変形可能である必要がある。そこで、線形材料を保護する保護部材として、線形材料の損傷を防止しつつ、かつ、変形可能な構造を備えた保護部材について検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態である線形材料保護部材は、線形材料の周囲を囲むように保持するための複数のブロックと、前記複数のブロックに係合される第1ワイヤと、を有している。前記複数のブロックのそれぞれは、前記線形材料を保持する保持空間と、前記保持空間を覆っている天井部と、前記保持空間を介して前記天井部の反対側に位置している底部と、前記天井部および前記底部のそれぞれと連なる側壁部と、を含んでいる。前記天井部、前記底部、および前記側壁部のいずれか1か所には、第1方向に延び、かつ、前記第1ワイヤを係合可能な第1溝が形成されている。前記複数のブロックは、前記第1溝に係合された第1ワイヤを介して互いに連結されている。前記保持空間を介して前記側壁部の反対側には、前記保持空間に連通する第1開口部が形成されている。前記第1開口部は、前記複数のブロックが連結されたとき、前記第1方向に沿って前記複数のブロックに跨るように延びた開口が形成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の代表的な実施の形態によれば、線形材料の損傷を防ぎ、かつ、変形可能な線形材料保護部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施の形態である保護部材に保持される線形材料の構造例を示す説明図である。
【
図2】
図1に示す超電導線材を一実施の形態である保護部材で保持した状態を示す説明図である。
【
図4】
図2に示す超電導線材および保護部材をコイルの芯材に巻き付けた状態を示す拡大図である。
【
図6】
図5に示すコイルに対する変形例を示す断面図である。
【
図7】
図3に示す保護部材の側面図であって、超電導線材を挿入可能な開口部の反対側の側壁部側から視た側面図である。
【
図8】
図6に示す超電導線材の巻き付け構造に対する変形例を示す断面図である。
【
図9】
図1に示す超電導線材に対する変形例を示す説明図である。
【
図10】
図9に示す超電導線材を本実施の形態に係る保護部材で保持した状態を示す説明図である。
【
図12】
図11に示す保護部材および超電導線材の組み立て分解図である。
【
図13】
図11に示す天井部の部材と側壁部の部材とがワイヤを介して固定されている状態を示す断面図である。
【
図14】
図11に示す超電導線材および保護部材が、コイルの芯材に巻き付けられた状態の一例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明者は、炉内に高温、高密度のプラズマを閉じ込めることにより核融合反応させる核融合炉の研究開発を行っている。この一環として、炉内にプラズマを閉じ込めるための磁場を発生させるコイルの材料として、高温超電導テープ線材を用いることを検討している。以下で説明する技術は、高温超電導体の他、電線や配管等、種々の線形材料の保護部材として利用可能な技術であるが、以下では、高温超電導体を保護する保護部材に適用した場合の実施態様を取り上げて説明する。また、以下の説明において、超電導体が超電導状態から常電導状態に変化することを「クエンチ」と呼ぶ場合がある。
【0009】
<超電導線材>
本願では、77K以上で超伝導性を示す超電導体を高温超伝導体と呼ぶ。以下では、単に「超伝導体」、「超伝導体層」「超電導テープ線材」、あるいは「超電導線材」と記載するが、いずれも高温超電導体を含む材料である。超電導テープ線材(詳しくは高温超電導テープ線材)とは、厚さが百マイクロメートル程度の金属製のテープ上に、超伝導体層(詳しくは高温超電導体層)を形成したテープ材料である。超電導テープ線材を例えばコイルとして用いる場合、複数の超電導テープ線材を積層し、これらを束ねたものを超伝導線材(詳しくは高温超電導線材)とし、超電導線材をコイル形状に成形したものを超電導コイル(詳しくは高温超電導コイル)とする。また、例えば、核融合炉や高エネルギー粒子加速器に用いられるコイルのように強力な磁場を発生させる必要がある場合には、複数の超電導線材を積層するように巻き付けた積層型コイルとする場合がある。
【0010】
超電導線材は、例えば積層された超電導テープ線材を束ねるフレキシブルチューブを備えている。フレキシブルチューブは、例えば積層された超電導テープ線材に金属帯を巻き付けることにより形成されている。また、上記した特許文献1に記載されるように、超電導線材を成形した後、樹脂または低融点金属から成るモールド部材により積層された超電導テープ線材をモールドした場合、単体の超電導テープ線材と比較すると、強度を向上させることができる。
【0011】
ただし、本願発明者の検討によれば、超電導線材を複雑な形状に成形する場合には、超電導線材に印加される外力や超電導線材に生じる応力が大きいので、さらに強度を向上させる必要がある。例えばヘリカル型の核融合炉に用いられるコイルの場合、超電導線材を捩じるようにコイル形状に巻き付けるので、巻き付ける作業中に強い力が印加され易く、超電導線材に生じる応力が大きくなる。また、超電導線材をコイル形状に成形した後に超電導線材に強い外力が印加される場合がある。例えば、超電導コイルに大電流を流した場合、コイル周辺に生じる磁界に起因して超電導線材にローレンツ力などの強い外力が印加される場合がある。したがって、超電導線材の損傷を防止することができる保護部材が必要である。
【0012】
一方、超電導線材の損傷を防止するため、例えば金属製のパイプ内に超電導線材を収容した場合、超電導線材を保護することは可能であるが、曲げ成形などの加工が困難になる。
【0013】
以下で説明する技術は、上記したように種々の用途に適用可能であるが、超電導コイルなどの成形体に用いられる超電導線材を保護する保護部材に適用すると特に有効な技術である。また、以下では、複数の超電導線材を積層する場合に特に有効な技術についても説明する。
【0014】
図1は、一実施の形態である保護部材に保持される線形材料の構造例を示す説明図である。
図1に示すように、本実施の形態の線形材料は、積層された複数の超電導テープ線材11と、複数の超電導テープ線材11の積層体に巻き付けられた金属帯12と、を含む超電導線材10である。
図1では、32枚の超電導テープ線材11が積層された状態を例示しているが、超電導テープ線材の積層数は、
図1に示す例には限定されず、コイルのサイズやコイルに流す電流値の仕様に応じて決定することができる。例えば、本実施の形態に対する変形例として、超電導テープ線材11の積層体の積層数が、31枚以下の場合もあるし、33枚以上の場合もある。
【0015】
超電導テープ線材11は、数十μm程度の金属製のテープ上に超伝導体層(詳しくは高温超電導体層)が形成されたテープ線材である。
図1に示す例では、超電導テープ線材11の厚さは0.1mm程度、超電導テープ線材11の幅は4mm程度である。超電導テープ線材11の厚さおよび幅は一例であり、種々の変形例が適用可能である。複数の超電導テープ線材11のそれぞれは、互いに接着されず、相互にずれることが可能な状態で積層されている。これにより、複数の超電導テープ線材11の積層体である超電導線材10は、例えばコイル形状等に成形することが可能となる。なお、図示は省略するが、
図1に対する変形例として、複数の超電導テープ線材11の積層体を、図示しないワイヤ等を用いて結束する場合がある。この場合、積層体のハンドリング性は向上する。一方、金属帯12からなるチューブ内での複数の超電導テープ線材11の移動の自由度を向上させる観点からは、本実施の形態のように複数の超電導テープ線材11の積層体が結束されていないことが好ましい。
【0016】
複数の超電導テープ線材11の積層体は、チューブ状に成型された金属帯12内に挿入されている。
図1に示す例では、金属帯12の厚さは、例えば100μm~数百μm程度であり、幅は、3~5mm程度である。また、後述する
図3に示す断面視において、金属帯12は、円筒形を成すように成形されている。以下、金属帯12により構成される構造物をチューブと呼ぶ場合がある。チューブの外径は、例えば6mm、内径は例えば5.2mmである。チューブは金属製の筒体であるが、この程度の厚さであれば、チューブをコイル形状に成形することが可能である。金属帯12は、複数の超電導テープ線材11の積層体が散乱しないように束ねる結束部材として機能する。ただし、複数の超電導テープ線材11のそれぞれは、金属帯12により形成されたチューブ内で、ある程度は自由に動くことができる。
【0017】
また、
図1に示す例では、積層体の周囲を囲む金属帯12の形状は、スプリング形状になっており、隣り合う金属帯12の間に隙間が設けられている。後述するように、超電導線材10をコイル形状に成形した後、モールド部材(後述する
図6に示す封止材41)により複数の超電導テープ線材11の積層体をモールドする場合には、モールド部材を金属帯12のチューブ内に導入する開口部が必要である。
図1に示すように隣り合う金属帯12の間に隙間が設けられている場合、この隙間からモールド部材を導入し、複数の超電導テープ線材11の積層体をモールドすることができる。
【0018】
ただし、
図1に対する変形例として、金属帯12の一部分が重なるように巻き付けられている場合もある。この場合、複数の超電導テープ線材11の積層体をモールドする場合には、金属帯12から成るチューブの一か所または複数個所にモールド部材を導入するための開口部を設けることが好ましい。
【0019】
図1に示す超電導線材10をコイルの芯材に直接的に巻き付けて、コイル形状に成形する方法もある。ところが、本願発明者の検討によれば、超電導線材10をコイルの芯材に直接的に巻き付ける場合、巻き付け作業中に超電導線材10が損傷する場合があることが判った。また、コイルの芯材に複数層で超電導線材10を巻き付ける場合、積層された超電導線材10の位置がずれる場合があることが判った。
【0020】
そこで、本願発明者は、超電導線材10を保護するための保護部材について検討を行った。保護部材に要求される機能は、以下の通りである。第1に超電導線材10を(例えばコイル形状に)成形する際に、保護部材自身が変形可能である必要がある。第2に、超電導線材10を(例えばコイル形状に)成形する際に、超電導線材10の損傷を防止できる構造である必要がある。また、超電導線材10を複数層で巻き付ける場合には、積層された超電導線材10の位置ずれを防止可能であることが好ましい。また、超電導線材10を保護部材に取り付ける場合には、超電導線材10の取り付けが簡単であることが好ましい。また、超電導線材10には大電流が流れる。この時、超電導線材10の周囲に生じる電磁力の影響により、保護部材の構成部品が損傷し難い構造であることが好ましい。
【0021】
<保護部材>
図2は、
図1に示す超電導線材を本実施の形態に係る保護部材で保持した状態を示す説明図である。
図3は、
図2に示すA-A線に沿った断面図である。以下では、
図2に示すように、超電導線材10の延在方向をX方向、平面視において、X方向に交差する方向(
図2に示す例ではX方向に直交する方向)をY方向、X方向およびY方向を含むX-Y平面の法線方向(厚さ方向と呼ぶ場合もある)をZ方向として説明する。
【0022】
図2に示すように本実施の形態の保護部材100は、線形材料である超電導線材10の周囲を囲むように保持するための複数のブロック20と、複数のブロック20に係合されるワイヤ30とを有している。
図2に示す例では、保護部材100は、3本のワイヤ30を有している。ワイヤ30は金属から成る。ワイヤ30を構成する金属材料として、例えば、所謂ステンレス鋼(例えばSUS304等)、チタン(Ti)、あるいはチタン合金などを例示することができる。ワイヤ30の線径は、例えば1.5mm程度である。
【0023】
本実施の形態の保護部材100は、複数のブロック20に分割可能であり、ワイヤ30を介して複数のブロック20が連結された構造を成す。このため、超電導線材10を保持した状態の保護部材100(言い換えれば保護部材付き線形材料)を例えばコイルの芯材に巻き付ける際に、必要に応じて複数のブロック20の境界に隙間を生じさせることができる。これにより、保護部材100を変形させて芯材などの構造物に巻き付けることが可能となる。言い換えれば、複数のブロック20は、脊椎のように変形可能な構造になっている。
【0024】
ワイヤ30は、保護部材100に収容された超電導線材10を例えばコイルの芯材に巻き付ける際に、引っ張られる力により超電導線材10が損傷することを抑制するための補強部材として機能する。このため、ワイヤ30は、超電導線材の延在方向と同じ方向(
図2の場合、X方向)に延びるように配置されている。ワイヤ30は、少なくとも1本あればよいが、
図2に示すように複数のワイヤ30を備えている場合には、超電導線材10の補強強度が増加する点で好ましい。
【0025】
複数のブロック20のそれぞれは、
図3に示すように、超電導線材10を保持する保持空間21と、保持空間21を覆っている天井部22と、保持空間21を介して天井部22の反対側に位置している底部23と、天井部22および底部23のそれぞれと連なる側壁部24と、を含んでいる。本実施の形態の例では、天井部22、底部23、および側壁部24のそれぞれは、一体物として形成されている。ただし、変形例として後述するように、天井部22、底部23、および側壁部24のうちの一部が分解可能な複数の部分により構成されている場合がある。天井部22、底部23、および側壁部24のそれぞれは、金属材料から成る。天井部22、底部23、および側壁部24を構成する金属材料として、例えばチタン(Ti)、あるいはチタン合金などを例示することができる。特に、超電導線材10のように大電流が流れる線形材料の保護部材の場合、非磁性材料であることが好ましい。材料の硬さ、加工性、および非磁性などの特性を考慮すると、上記したチタン合金の他、ステンレス鋼(例えばSUS304等)を用いて天井部22、底部23、および側壁部24を形成することもできる。
【0026】
天井部22、底部23、および側壁部24のうち、少なくともいずれか1か所には、ワイヤ30を係合させるための溝が形成されている。
図3に示す例では、3本のワイヤ30が係合されているので、3本のワイヤ30のそれぞれを係合させるための溝が形成されている。詳しくは、天井部22と側壁部24との境界には、ワイヤ31を係合可能な溝31Tが形成されている。底部23と側壁部24との境界には、ワイヤ32を係合可能な溝32Tが形成されている。さらに、Y方向において、溝32Tの反対側には、ワイヤ33を係合可能な溝33Tが形成されている。溝33Tは底部23に形成されている。
図2に示すように、複数のブロック20は、溝に係合されたワイヤ31、ワイヤ32、およびワイヤ33を介して互いに連結されている。また、
図3に示す溝31T、溝32T、および溝33Tのそれぞれは、ワイヤ30の延在方向と同様にX方向に延びている。
【0027】
超電導線材10は、保護部材100に保持された状態のままコイルの芯材に巻き付けられる。この作業の時、超電導線材10は複数のワイヤ30により補強されているので、作業時の外力に起因する超電導線材10の損傷を防止または抑制することができる。
【0028】
また、
図3に示すように、保持空間21を介して側壁部24の反対側には、保持空間21に連通する開口部25が形成されている。
図2に示すように、開口部25は、複数のブロック20が連結されたとき、X方向に沿って複数のブロック20に跨るように延びた開口が形成されるようになっている。このため、超電導線材10は、開口部25から保持空間21に挿入することが可能である。言い換えれば、複数のブロック20のそれぞれは、開口部25から超電導線材10を保持空間21(
図3参照)に挿入することが可能な構造になっている。
【0029】
開口部25が設けられていない場合、貫通孔として形成された保持空間21に超電導線材10を挿入する方向も考えられる。ただしこの場合、超電導線材10への保護部材100の取り付け作業が煩雑であり、挿入作業中に超電導線材10が損傷するリスクも増大する。一方、本実施の形態によれば、開口部25が設けられているので、超電導線材10を簡単に保持空間21内に配置することが可能である。この結果、超電導線材10を保持空間21に配置する作業中における超電導線材10の損傷を抑制できる。
【0030】
また、詳細は後述するが、超電導線材10を超電導コイルとして利用する場合、超電導線材10には大電流が流れる。この場合、超電導線材10の周囲に電磁力が生じる場合がある。本実施の形態の保護部材100の場合、
図3に示すように断面視において、天井部22と、底部23と、側壁部24とから成るアーチ型の形状を成す。このため、
図3に示すY方向に作用する外力に対して高い強度を備えている。
【0031】
<コイルへの適用>
次に、本実施の形態の超電導線材10の利用方法の一例として、超電導コイルに適用した実施態様を取り上げて説明する。
図4は、
図2に示す超電導線材および保護部材をコイルの芯材に巻き付けた状態を示す拡大図である。
図5は、
図4のB-B線に沿った断面図である。
【0032】
図2および
図3に示す超電導線材10をコイル用の電線として用いる場合には、
図4に例示するように、保護部材100により保護された超電導線材10を芯材40に巻き付けてコイル形状に成形する。芯材40は、例えば平面視において円形を成す部材であって、超電導線材10は、芯材40の側面に円弧形状を成すように巻き付けられる。芯材40の半径は、例えば5~20cm程度である。この時、保護部材100は、複数のブロック20により構成されているので、芯材40の外周に沿って巻き付けることが可能である。このため、超電導線材10は、保護部材100に保持されたまま芯材40に巻き付けられる。
【0033】
このように保護部材100で超電導線材10を保護したまま芯材40に巻き付ける作業を行う場合、巻き付け作業中の超電導線材10の損傷を抑制できる。例えば、芯材40の外周に沿って巻き付けるためには超電導線材10または保護部材100を引っ張って張力を付与しながら巻き付ける必要がある。超電導線材10を引っ張って巻き付ける場合には、超電導線材10が損傷するリスクがあるが、本実施の形態の場合には、ワイヤ30を引っ張って張力を付与することができる。ワイヤ30は、複数のブロック20のそれぞれに係合されているので、ワイヤ30を引っ張れば、複数のブロック20に保持されている超電導線材10の形状を芯材40の外周に沿った円弧形状とすることができる。すなわち、本実施の形態によれば、超電導線材10を引っ張ることなく超電導線材10を芯材40に巻き付けることができるので、巻き付け作業中の超電導線材10の損傷を防止または抑制できる。
【0034】
本実施の形態のように、コイルの芯材40の外周に沿って保護部材100を巻き付ける観点からは、複数のブロック20のそれぞれの長さは極端に長すぎないことが好ましい。本実施の形態の場合、
図2に示す複数のブロック20のそれぞれのサイズは、同じであり、例えばX方向の長さ20Lは、30mmである。また例えば、ブロック20のY方向の幅20Wは、12.5mmである。ブロック20の長さ20Lや幅20Wには種々の変形例が適用可能であるが、巻き付け作業の容易さを考慮すると、長さ20Lは50mm以下が好ましく、30mm以下が特に好ましい。
【0035】
また、
図5に示すように、互いに隣り合うように配列された複数の超電導線材10のそれぞれに同時に大電流を流した場合、複数の超電導線材10の配列の中心に近い程強い電磁力が生じる。
図5に示す例の場合、3個の超電導線材10のうち、中央の超電導線材に近づく程、Y方向に強い電磁力が生じる。
図3を用いて説明したように、本実施の形態の保護部材100の場合、開口部25が設けられていることにより、断面視においてアーチ型の形状を成す。この場合、
図5に示すY方向に作用する外力に対して高い強度を備えている。したがって、本実施の形態によれば、Y方向に強い電磁力が生じた場合でも、電磁力による保護部材100の損傷を防止または抑制することができる。
【0036】
<変形例1>
図6は、
図5に示すコイルに対する変形例を示す断面図である。
図7は、
図3に示す保護部材の側面図であって、超電導線材を挿入可能な開口部の反対側の側壁部側から視た側面図である。
図6に示す変形例は、保持空間21(
図3参照)に含侵された封止材41により超電導線材10の積層された複数の超電導テープ線材11(
図3参照)の積層体が封止されている点で
図5に示す例と相違する。封止材41としては、例えば樹脂材料、あるいは金属材料を用いることができる。封止材41は、例えば、超電導線材10および保護部材100を、コイル形状に成形した後で充填される。これにより、超電導線材10を芯材40に巻き付ける作業は、保護部材100が曲がりやすい状態で実施し、コイル形状に成形した後で保護部材100を補強することができる。保持空間21内に封止材41を充填することにより、巻き付け作業の後、超電導線材10の位置ずれを防止することができる。
【0037】
封止材41として用いる材料は、例えば樹脂材料、あるいは金属材料を用いることができる。封止材41として樹脂材料を用いる場合、封止材41の充填性が向上する。一方、封止材41として金属材料を用いる場合、保護部材100の補強効果が向上する。
【0038】
本実施の形態の場合、封止材41は、導電性を備えた金属材料である。封止材41として金属などの導電性材料を利用することが以下の点で好ましい。多数の超電導線材10をコイルとして利用する場合、多数の超電導線材10の内の一部がクエンチする場合も考えられる。この時、複数の超電導線材10のそれぞれが、封止材41として用いられた導電性材料を介して電気的に接続されている場合、常電導状態に変化した一部の超電導線材10から、超電導状態を維持している超電導線材10へ電流を移流させることができる。この結果、コイル全体としての性能低下を抑制することができる。
【0039】
複数の超電導線材10が封止材41を介して電気的に接続されるためには、超電導線材10を囲む保護部材100の一部に、開口部が設けられていることが好ましい。本実施の形態の場合、
図7に示すように、側壁部24には、保持空間21に連通する開口部24Hが形成されている。
図6に示す封止材41は、
図7に示す開口部24H内にも充填されている。このため、
図6に示す複数の保護部材100のそれぞれは、開口部24H(
図7参照)内に充填された封止材41を介して連結されている。これにより、上記したように複数の超電導線材10のうちの一部がクエンチした場合でもコイルとしての性能低下を抑制することができる。
【0040】
封止材41として金属材料を用いる場合、封止材41の充填特性を考慮して保護部材100を構成する材料と比較して融点が低い低融点金属を用いることが好ましい。一般的に、高温超電導テープ線材に用いられる高温超電導材料は、200℃以上に加熱されると、劣化して超電導特性を失う。このため、融点が200℃未満である低融点金属を封止材41として利用することにより、充填作業中に超電導テープ線材11が劣化することを防止できる。低融点金属としては、融点約80℃のUアロイ78や、ハンダなどを例示することができる。封止材41として上記のような低融点金属を用いた場合、封止材41内でのボイドの発生を抑制し、かつ、保護部材100の強度を向上させることができる。
【0041】
なお、封止材41により封止するタイミングは、コイル形状に成形した後が好ましい。コイル形状に成形する前に封止材41を含侵させた場合、保護部材100の成形性が低下するからである。
【0042】
<変形例2>
図8は、
図6に示す超電導線材の巻き付け構造に対する変形例を示す断面図である。
図8に示す変形例の場合、保護部材100が複数層に積層されている点で
図6に示す例と相違する。核融合炉や高エネルギー粒子加速器の超伝導マグネットなど、強力な磁場が必要な用途では、
図8に示すように、超電導線材10を複数層に積層して利用される場合がある。複数の超電導線材10を積層する場合には、積層される超電導線材10の位置ずれが生じやすい。
図8に示す例では、複数の保護部材100は、保護部材100の厚さ方向(Z方向)に積層されている。詳しくは、第1の保護部材100の天井部22(
図3参照)と第2の保護部材100の底部23(
図3参照)とが接するように、複数層(
図8では3層)の保護部材100が積層されている。本実施の形態の場合、保護部材100がY方向の位置ずれを抑制できる構造を備えているので、保護部材に保持された複数の超電導線材10の位置ずれを抑制することができる。
【0043】
図2および
図3に示すように、天井部22(
図3参照)は、天井部22の上面がX方向(
図2参照)に延びる溝形状(
図3に示す溝部27)になるように形成されたストッパ26を備えている。底部23(
図3参照)は、複数のブロック20を積層した場合に、天井部22のストッパ26の間の溝に収容される形状に成形されている。
図3に示す例では、底部23の両側面はテーパ形状になっている。言い換えれば、底部23は、
図3に示すY-Z平面に沿った断面視において、底面側の部分が台形になっている。複数のブロック20を積層する場合、底部23の台形の部分が天井部22の溝部27内に収容される。
【0044】
図示は省略するが、
図8に対する変形例として、保持空間21(
図3参照)に封止材41が含侵されていない場合がある。ただし、Z方向に保護部材100を積層する場合、Z方向に外力が印可される場合がある。このためZ方向に印加される外力に対する強度を向上させる観点からは、
図8に示すように複数の保護部材100のそれぞれは、封止材41により封止されていることが好ましい。
【0045】
<変形例3>
図9は、
図1に示す超電導線材に対する変形例を示す説明図である。
図10は、
図9に示す超電導線材を本実施の形態に係る保護部材で保持した状態を示す説明図である。
図11は、
図10に示すC-C線に沿った断面図である。
図12は、
図11に示す保護部材および超電導線材の組み立て分解図である。
図1~
図8では、単純化した構造の超電導線材10およびその保護部材100について説明した。本変形例では、超電導テープ線材11のサイズを大きくし、かつ積層枚数を増やした場合の実施態様について説明する。なお、以下で説明する超電導線材10Aおよび保護部材101(
図10参照)は、複数の点で
図2に示す超電導線材10および保護部材100と異なっている。なお、個別に図示することは省略するが、以下で説明する複数の相違点のうちの一部を
図2に示す超電導線材10および保護部材100の構造と組み合わせて適用する場合がある。
【0046】
本変形例の超電導線材10Aは、
図1に示す超電導線材10と比較してサイズが大きい点で超電導線材10と相違する。例えば、
図9に示す例の場合、超電導テープ線材11の厚さは0.15mm程度、超電導テープ線材11の幅は10mm程度である。複数の超電導テープ線材11のそれぞれは、互いに接着されず、相互にずれることが可能な状態で積層されている。この点は
図1に示す超電導線材10と同様である。
図9に示す例では、超電導テープ線材11の積層体は、103枚の超電導テープ線材11の積層体である。また、
図9に示す例では、金属帯12の厚さは、例えば1mm程度である。金属帯12により構成されたチューブの外径は、例えば20mm、内径は例えば19mmである。
【0047】
このように、超電導線材10Aの金属帯12から成るチューブの外形(線径)は、
図1に示す超電導線材10の金属帯12から成るチューブの外形(線径)よりも太い。このように、超電導線材10を大型化した場合、複数の超電導テープ線材11の積層体の近くでこれを冷却できる機構を備えていることが好ましい。そこで、本変形例の場合、超電導線材10Aは、複数の超電導テープ線材11の積層体の隣に、冷却管50が配置されている点で
図1に示す超電導線材10と相違する。
【0048】
冷却管50は、冷媒の流路となる管であり、複数の超電導テープ線材11の積層体に沿って配置されている。冷却管50には、例えば20K(ケルビン)程度の温度の液体水素またはガスヘリウムが冷媒として流される。冷却管50の外径は、例えば8mm、内径は例えば7mmである。つまり、冷却管50の肉厚は1mmである。この程度の厚さであれば、冷却管50が金属製の配管だったとしても、超電導線材10の形状に倣って変形させることができる。なお、冷却管50の可撓性を向上させる観点から、蛇腹状の配管を用いる場合もある。本変形例のように、超電導テープ線材11の積層体の隣に冷却管50が配置されていることにより、超電導テープ線材11の冷却効率を向上させることができる。
【0049】
また、超電導線材10Aは、複数の超電導テープ線材11の積層体の隣にワイヤ34およびワイヤ35が配置されている点で
図1に示す超電導線材10と相違する。ワイヤ34およびワイヤ35のそれぞれも、超電導テープ線材11の積層体に沿って配置されている。また、ワイヤ34およびワイヤ35の線径は、例えば3mm程度である。ワイヤ34およびワイヤ35を設けることにより、超電導テープ線材11の積層体および冷却管50の過剰な変形を抑制できる。また、ワイヤ34およびワイヤ35のそれぞれは、
図2および
図3を用いて説明した3本のワイヤ30と同様に、保護部材101(
図10参照)に収容された超電導線材10Aを例えばコイルの芯材に巻き付ける際に、引っ張られる力により超電導線材10Aが損傷することを抑制するための補強部材として機能する。
【0050】
複数の超電導テープ線材11の積層体、ワイヤ34、ワイヤ35、および冷却管50のそれぞれは、チューブ状に成型された金属帯12内に挿入されている。
図11に示すように、チューブ内には冷却管50および2本のワイヤ(ワイヤ34およびワイヤ35)が配置されているので、複数の超電導テープ線材11の積層体の形状は、積層体の一方の側面がチューブの内壁に沿った断面形状になっている。上記したように、複数の超電導テープ線材11のそれぞれは、互いに接着されず、相互にずれることが可能な状態で積層されているので、特に予め成形する事なく、
図11に示すような形状に変形させることが可能である。
【0051】
次に、
図10および
図11に示す本変形例の保護部材101は、下記の点で
図2および
図3に示す保護部材100と相違する。なお、保護部材101の説明において、
図2および
図3に示す保護部材100と同様の構造を備えた部分に関しては重複する説明を省略する。
【0052】
まず、本変形例の場合、上記したように超電導線材10Aの線径が太いので、保護部材101の幅を太くする必要がある。例えば、
図10に示す例では、ブロック20のY方向の幅20Wは、25mmである。また、ブロック20のX方向の長さ20Lは、例えば30mmである。長さ20Lの値は、幅20Wの値と比較して巻き付け作業の容易さに与える影響が大きい。このため、サイズを大きくした保護部材101の場合でも複数のブロック20のそれぞれのX方向の長さ20Lの値は、50mm以下が好ましく、30mm以下が特に好ましい。
【0053】
また、
図12に示すように、保護部材101は。底部23の底面側に露出するボールベアリング60を有している点で、
図3に示す保護部材100と相違する。保護部材101の底部23には、ボールベアリング60を回転自在な状態で保持可能なボール収容部23Hが形成されている。一方、天井部21には、複数のブロック20を積層した場合(例えば後述する
図14参照)に、ガイド溝28が形成されている。ガイド溝28は、
図11に示すX方向に延在している。
図12に示すブロック20を複数個積層した場合、ボールベアリング60のボールベアリング60の底部23からの露出部分がガイド溝28に収容される。つまり、ガイド溝28が、
図12に示すブロック20を複数個積層した時に上層のブロック20のボールベアリング60の位置をガイドすることが可能な溝である。
【0054】
このように、ガイド溝28およびボールベアリング60を設けることにより、複数個のブロック20を積層させて芯材40に巻き付ける作業における作業効率を向上させることができる。
【0055】
本変形例の場合、ボールベアリング60を設けるため、底部23が分解可能な構造になっている。すなわち、底部23は、ボールベアリング60が収容されたボール収容部23Hを備えた部材101Aと、部材101Aとは分離可能に形成され、部材101A上に配置された部材101Bと、を有している。
図12に示すように、部材101Aは、底部23(
図11参照)を構成する部分と、側壁部24(
図11参照)を構成する部分とを備えた部品である。
図12に示す断面視において、部材101AはL字型の形状を成す部品である。部材101Bは、超電導線材10Aと対向する上面と、上面の反対側に位置し、部材101Aと対向する下面とを備えている。部材101Aと部材101Bとは特に接着固定させる必要はなく、部材101A上に部材101Bが配置されている。部材101Aのボール収容部23Hは、部材101Bにより覆われている。言い換えれば、部材101Bはボール収容部23Hを覆うカバー部材として機能する。
【0056】
保護部材101の組み立て工程では、まず部材101Aのボール収容部23H内にボールベアリング60を挿入した後、ボール収容部23Hを含む部材101Aの上面を覆うように部材101Bを配置する。これにより、ボールベアリング60は、回転自在な状態でボール収容部23Hに収容される。
【0057】
また、
図12に示すように本変形例の保護部材101が備える複数のブロック20のそれぞれは、互いに分離可能な複数の部材を備えている。詳しくは、複数の部材は、底部23(
図11参照)の一部分および側壁部24(
図11参照)を構成する部材101Aと、部材101A上に配置された部材101Bと、天井部22を構成する部材101Cと、ワイヤ36と、を含んでいる。
【0058】
このように、部材101A、部材101B、および部材101Cのそれぞれが分離可能に形成されている場合、超電導線材10Aを挿入する作業が簡単である。特に、本変形例の超電導線材10Aの場合、複数の超電導テープ線材11の積層体の他、冷却管50および2本のワイヤ30を含んでいる。このように、複雑な構造の超電導線材10Aを保護する場合、保持空間21(
図11参照)の周囲の部材101A、部材101B、および部材101Cのそれぞれが分離可能に形成されていることが特に好ましい。
【0059】
図13は、
図11に示す天井部の部材と側壁部の部材とがワイヤを介して固定されている状態を示す断面図である。本変形例の場合、部材101A、部材101B、および部材101Cのそれぞれが分離可能に形成されているので、超電導線材10Aを保持空間21(
図11参照)内に保持した後、部材101A、部材101B、および部材101Cのそれぞれ固定する必要がある。まず、部材101Bは、部材101A上に載置することにより、部材101Aに係合して固定される構造になっている。また、部材101Aの側壁部に該当する部分と、部材101Cとはワイヤ36を介して固定される。
【0060】
詳しくは、
図13に示すように、部材101Aは、部材101Cの溝36T内に挿入され、側壁部24(
図11参照)の延在方向(
図11のZ方向)に突出した突出部CP1を有している。部材101Cは、溝36Tに形成され、ワイヤ36に向かって突出した突出部CP2を有している。ワイヤ36は、溝36T内に挿入され、突出部CP2と突出部CP1との間に挟まれた屈曲部36Bを有している。
【0061】
図13に矢印を付して模式的に示すように、ワイヤ36をX方向に引っ張るように力F1を印加すると、屈曲部36Bが直線的に伸びるように力F2が発生する。部材101Cの突出部CP2は、この力F2によりワイヤ36の屈曲部36Bに押し込まれる。部材101Aの突出部CP1は、部材101Cとワイヤ36の屈曲部36Bとの間に挟まれている。このため、力F2が部材101Cの突出部CP2に印加されると、部材101Aの突出部CP1は、部材101Cにより力F2でワイヤ36に近づく方向に押し込まれる。この結果、突出部CP1は、部材101Cとワイヤ36の屈曲部36Bに挟まれて固定される。
【0062】
上記したように、ワイヤ36をX方向に引っ張る力F1により部材101Aと部材101Cとが固定される構造の場合、超電導線材10A(
図10参照)および保護部材101を何かに巻き付ける場合に特に有利である。例えば、後述する
図14に例示するように、芯材40に巻き付ける作業においてワイヤ36を引っ張って巻き付け作業を行えば、巻き付けるために引っ張る力により、自動的に部材101Cと部材101Aとが固定される。
【0063】
次に、
図9~
図12に示す変形例の超電導線材10Aを超電導コイルに適用した場合の例について説明する。
図14は、
図11に示す超電導線材および保護部材が、コイルの芯材に巻き付けられた状態の一例を示す拡大断面図である。
図14に示す断面は、
図8に対応する断面になっている。なお、図示は省略するが、
図14に対する変形例として、複数の超電導線材10Aを積層せず、
図5や
図6に示す例のように、1層で巻きるける場合もある。ただし、本変形例のように大型の超電導線材10Aを適用する場合には、大電流を流す用途が多いので、
図14に示すように積層して用いられる場合が多い。
【0064】
図14に示すように、超電導線材10Aをコイル用の電線として用いる場合には、保護部材101により保護された超電導線材10Aを芯材40に巻き付けてコイル形状に成形する。芯材40は、既に説明した芯材と同様である。
【0065】
上記した保護部材100の場合と同様に、本変形例の場合、保護部材101の天井部22の上面がX方向(
図10参照)に延びる溝形状(
図12に示す溝部27)になるように形成されたストッパ26を備えている。底部23(
図12参照)は、複数のブロック20を積層した場合に、天井部22のストッパ26の間の溝に収容される形状に成形されている。
図12に示す例では、底部23の両側面はテーパ形状になっている。言い換えれば、底部23は、
図3に示すY-Z平面に沿った断面視において、底面側の部分が台形になっている。複数のブロック20を積層する場合、底部23の台形の部分が天井部22の溝部27内に収容される。このため、複数の超電導線材10Aを積層する巻き付け作業におけるY方向の位置ずれを抑制することができる。保護部材101が回転自在に保持されたボールベアリング60(
図11参照)およびガイド溝28(
図11参照)を備えていることにより、複数の超電導線材10Aを積層する巻き付け作業を容易に行うことが可能である。
【0066】
また、
図5を用いて説明したように、互いに隣り合うように配列された複数の超電導線材10のそれぞれに同時に大電流を流した場合、
図5に示すY方向に強い電磁力が生じる。また、
図14に示すように、複数個の超電導線材10Aを積層し、かつ、複数列で配列した場合、配列の中心C1(
図14に示す例の場合、左から第2列目と第3列目の間であり、かつ、下方から第2段目の位置)に近い程強い電磁力が印加される。
【0067】
本変形例のように、複数の超電導線材10Aのそれぞれが冷却管50を含んでいる場合、複数の超電導線材10Aのそれぞれは、複数の超電導線材10Aの配列の中心C1に近い位置に複数の超電導テープ線材11の積層体が位置するように配置されていることが好ましい。これにより、冷却管50は、超電導線材10の配列の中心C1から遠くに配置されるので、強い電磁力により冷却管50が損傷することを抑制できる。また、
図11に示す保護部材101は、
図3に示す保護部材100の場合と同様に、保持空間21を介して側壁部24の反対側には開口部25が設けられている。このため、
図11に示す断面視において保護部材101は、天井部22と、底部23と、側壁部24とから成るアーチ型の形状を成す。超電導テープ線材11の積層体に大電流が流れることにより生じる電磁力は、金属帯12および封止材41を介して隣り合う保護部材101に伝達されるが、アーチ形状の断面を備えた保護部材101の保持空間21(
図11参照)内に配置された冷却管50には隣の保護部材101から伝搬された力が印加され難い。このように、本変形例の場合、冷却管50のレイアウトを工夫することにより、冷却管50自身に電磁力が印加されることを抑制し、保護部材101の構造を工夫することにより冷却管50に外力が印加されることを抑制している。この結果、超電導線材10A内に配置された冷却管50の損傷を抑制できる。
【0068】
また、
図14に示す例では、
図6および
図8を用いて説明した例と同様に、保持空間21(
図11参照)に含侵された封止材41により複数の超電導テープ線材11(
図11参照)の積層体が封止されている。封止材41に係る説明は、既に
図6をおよび
図8を用いてした例と同様なので、重複する説明は省略する。
【0069】
複数の超電導線材10が封止材41を介して電気的に接続されるためには、超電導線材10を囲む保護部材101の一部に、開口部が設けられていることが好ましい。本変形例の場合、
図7を用いて説明したように、側壁部24には、保持空間21に連通する開口部24Hが形成されている。この他、本変形例の場合、
図13に示すように、天井部22には保持空間21に連通する開口部22Hが形成されている。複数の保護部材101のそれぞれは、開口部24H(
図7参照)内および開口部22H内に充填された封止材41を介して連結されている。これにより、上記したように複数の超電導線材10Aのうちの一部がクエンチした場合でもコイルとしての性能低下を抑制することができる。
【0070】
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しな
い範囲で種々変更可能である。例えば、上記の通り、線形材料保護部材の例として、超電導線材を保護する部材を取り上げて具体的に説明したが、保護部材100や101の構造を他の線形材料用の保護部材として利用することができる。例えば、液体や気体の流路としての配管、あるいは電線などを保護するための保護部材として用いる例を例示することができる。
【0071】
また例えば、超電導線材10、保護部材100、超電導線材10A、および保護部材101の構成部品のそれぞれについて、具体的な寸法を例示して説明したが、各数値は上記した説明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。また、
図3および
図11では、それぞれ3本のワイヤ30が補強部材として設けられている例について説明した。ただし、ワイヤ30の本数は、3本には限定されず、2本以下(ただし、少なくとも1本は必要)、あるいは4本以上の場合がある。
【0072】
また例えば、上記では、種々の変形例について説明したが、実施態様の一部分を他の実施態様と組み合わせて適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、例えば、核融合炉、プラズマ発生装置、加速器、超伝導送電、電力蓄積、超伝導モータ、液体輸送配管など、様々な装置に用いられる線形材料の保護部材に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10,10A 超電導線材
11 超電導テープ線材
12 金属帯
20 ブロック
20W 幅
21 保持空間
22 天井部
22H,24H 開口部
23 底部
23H ボール収容部
24 側壁部
25 開口部
26 ストッパ
27 溝部
28 ガイド溝
30,31,32,33,34,35,36 ワイヤ
31T,32T,33T,36T 溝
36B 屈曲部
40 芯材
41 封止材
50 冷却管
60 ボールベアリング
100,101 保護部材
101A,101B,101C 部材
CP1,CP2 突出部
F1,F2 力
【要約】
【課題】線形材料の損傷を防ぎ、かつ、変形可能な線形材料保護部材を提供する。
【解決手段】保護部材100は、超電導線材10の周囲を囲むように保持する複数のブロック20と、複数のブロック20に係合されるワイヤ31と、を有している。複数のブロック20のそれぞれは、超電導線材10を保持する保持空間21と、保持空間21を覆っている天井部22と、保持空間21を介して天井部22の反対側に位置している底部23と、天井部22および底部23のそれぞれと連なる側壁部24と、を含んでいる。天井部22、底部23、および側壁部24のいずれか1か所には、ワイヤ31の延在方向に延び、かつ、ワイヤ31を係合可能な溝31Tが形成されている。複数のブロック20は、溝31Tに係合されたワイヤ31を介して互いに連結されている。側壁部24の反対側には、保持空間21に連通する開口部25が形成されている。開口部25は、ワイヤ31の延在方向に沿って複数のブロック20に跨るように延びている。
【選択図】
図3