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特許7333979浮遊粒子の捕集方法および浮遊粒子の連続測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】浮遊粒子の捕集方法および浮遊粒子の連続測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20230821BHJP
   G01N 15/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G01N1/02 B
G01N1/02 G
G01N15/02 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022113552
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591081321
【氏名又は名称】紀本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】紀本 岳志
(72)【発明者】
【氏名】秋田 凌佑
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-180609(JP,A)
【文献】特開2008-261712(JP,A)
【文献】特開2009-031227(JP,A)
【文献】特開2001-343319(JP,A)
【文献】特開2013-061254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の浮遊粒子を、バーチャルインパクタで分級して、粒径の大きい粗大浮遊粒子を含む空気と粒径の小さい微細浮遊粒子を含む空気と分け、
粗大浮遊粒子を含む空気を吸引して、粗大浮遊粒子をフィルタに捕集するとともに、
前記バーチャルインパクタから流出する微細浮遊粒子を含む空気を、微細浮遊粒子を捕集する捕集部への流れと、微細浮遊粒子を捕集せずにバイパスさせるバイパス流と、に分配し、吸引して、粗大浮遊粒子の捕集位置とは異なる位置で微細浮遊粒子をフィルタに捕集する、ことを特徴とする浮遊粒子の捕集方法。
【請求項2】
浮遊粒子を含む空気を吸引して、吸引された空気中の浮遊粒子を、粒径の大きい粗大浮遊粒子を含む空気と、粒径の小さい微細浮遊粒子を含む空気とに分級するバーチャルインパクタと、
前記バーチャルインパクタに接続して設けられ、前記バーチャルインパクタから流出する微細浮遊粒子を含む空気の一部を吸引して微細浮遊粒子の捕集部への流れに分配する吸引手段と、微細浮遊粒子を含む空気の残部を吸引して微細浮遊粒子を捕集しないバイパス流として排気部にバイパスさせるバイパス手段と、
テープ状フィルタを備え、該テープ状フィルタの異なる位置を介して、前記バーチャルインパクタによって分級された、粗大浮遊粒子を含む空気と微細浮遊粒子を含む空気とを吸引して、粗大浮遊粒子と微細浮遊粒子とをテープ状フィルタの異なる位置に格別に連続的に捕集する捕集手段と、
捕集手段によってテープ状フィルタの異なる位置に捕集された浮遊粒子を、それぞれ連続して検出する検出手段と、
検出手段の出力と、吸引大気流量の積算値から空気中の粗大粒子と、空気中の微細浮遊粒子とを、演算して記録する演算記録手段とを含むことを特徴とする浮遊粒子の連続測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境大気や屋内空気中の浮遊粒子の捕集方法および浮遊粒子の連続測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境大気中や屋内空気中に浮遊する粒子は、呼吸器に重大な危害を及ぼす恐れがあるため、環境大気の環境基準や労働衛生環境基準が、国際機関(WHO)などや各国で、それぞれ定められている。また、そのための測定法として、粒径の大きい沈降性粒子(粒径10μm以上)の粒子を除いて捕集することが推奨されている。
【0003】
このことから、日本では、粒径10μmを超える粒子を10μmで100%除いて捕集したもの(10μmで100%カット)を浮遊粒子状物質(SPM)と呼んでおり、諸外国では、粒径10μm以上を10μmで50%除いたものをPM10(10μmで50%カット)と呼んでいる。
【0004】
また、1980年代から米国で行われた大規模疫学調査の結果から、PM10の中でも粒径2.5μm以下(2.5μmで50%カット)の粒子が心筋梗塞などの引き金になるとの報告から、世界的にPM2.5の環境基準が定められた。日本では、これを微小粒子状物質と呼んで基準が定められている。このことから、PM10やSPMに合わせて、PM2.5の測定が求められている。
【0005】
一方、労働安全衛生基準でも空気中の浮遊粒子状物質に対する基準が定められている。粒径4μm以下(4μmで50%カット)の粒子は、肺胞まで達する恐れのある「吸入性粉じん」として、PM10と共に測定が求められている。
【0006】
また、呼吸器疾患における医学的な研究分野(例えばAerosol Science Technology and Applications, 2014.に総説が載っている)では、「吸入性粉じん」として粒径4μm以下ではなく、粒径5μm以下を「吸入性粉じん」としている。
【0007】
一般に、5μm以下の粒子は、体内深くまで到達し一部が沈着するものが多く、健康影響が大きいと考えられる。中でも、粒径1μmを超え5μm未満の粒子は咽喉、気管部で吸着されることが多く、一部は肺まで到達し吸着する。一方、粒径1μm以下の粒子は、酸素や窒素ガスと似た挙動を示し、いったん肺にまで到達するが、そのほとんどが再び呼気と共に吐出される。
【0008】
このように、空気中のエアロゾル(煙霧質)の分散相の粒子は、粒径によって体内沈着の仕方や成分は異なるため、それを分析するために、粒径1μmを超える粒子と粒径1μm以下の粒子を分けて捕集し、その重量を連続的に測定することができるサンプリング方法や装置の開発が望まれている。
【0009】
粒子の分級には、例えば特許文献1および2のように、バーチャルインパクタを用いた技術が知られているが、粒径1μmを超える浮遊粒子は、大気中に存在する量が少なく、分析手法に応じた量を捕集するには、大量の大気をサンプリングする必要があるため、これらの技術だけでは、上記の目的を達成するには十分ではない。
【0010】
同じサンプル空気中に含まれる粒子を、それぞれ別のスポットで分けて捕集しようとすると、粒径1μm以下の方が濃度が高いため、粒径1μm以下の粒子が過剰に捕集され、粒径1μmを超える粒径の浮遊粒子が分析手法に応じた量まで捕集できないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-142722号公報
【文献】特開2019-20372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、同じサンプル空気中に含まれる粒径1μmを超える粒径の粗大浮遊粒子と粒径1μm以下の微細浮遊粒子とを、それぞれ別のスポットで分けて捕集し、その分析手法に応じた量まで採取することができ、それぞれの粒子の捕集した質量を連続的に測定することができる浮遊粒子の捕集方法および浮遊粒子の連続測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、空気中の浮遊粒子を、バーチャルインパクタで分級して、粒径の大きい粗大浮遊粒子を含む空気と粒径の小さい微細浮遊粒子を含む空気と分け、
粗大浮遊粒子を含む空気を吸引して、粗大浮遊粒子をフィルタに捕集するとともに、
前記バーチャルインパクタから流出する微細浮遊粒子を含む空気を、微細浮遊粒子を捕集する捕集部への流れと、微細浮遊粒子を捕集せずにバイパスさせるバイパス流と、に分配し、吸引して、粗大浮遊粒子の捕集位置とは異なる位置で微細浮遊粒子をフィルタに捕集する、ことを特徴とする浮遊粒子の捕集方法である。
【0014】
また、本発明は、浮遊粒子を含む空気を吸引して、吸引された空気中の浮遊粒子を、粒径の大きい粗大浮遊粒子を含む空気と、粒径の小さい微細浮遊粒子を含む空気とに分級するバーチャルインパクタと、
前記バーチャルインパクタに接続して設けられ、前記バーチャルインパクタから流出する微細浮遊粒子を含む空気の一部を吸引して微細浮遊粒子の捕集部への流れに分配する吸引手段と、微細浮遊粒子を含む空気の残部を吸引して微細浮遊粒子を捕集しないバイパス流として排気部にバイパスさせるバイパス手段と、
テープ状フィルタを備え、該テープ状フィルタの異なる位置を介して、前記バーチャルインパクタによって分級された、粗大浮遊粒子を含む空気と微細浮遊粒子を含む空気とを吸引して、粗大浮遊粒子と微細浮遊粒子とをテープ状フィルタの異なる位置に格別に連続的に捕集する捕集手段と、
捕集手段によってテープ状フィルタの異なる位置に捕集された浮遊粒子を、それぞれ連続して検出する検出手段と、
検出手段の出力と、吸引大気流量の積算値から空気中の粗大粒子と、空気中の微細浮遊粒子とを、演算して記録する演算記録手段とを含むことを特徴とする浮遊粒子の連続測定装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、空気中において、粒径および濃度が異なる2種類の浮遊粒子を、同時に吸引するだけで、必要量の異なる2種類の粒子を、異なる別の位置に捕集し、それぞれの量を効率よく測定することができる。
【0016】
本発明によれば、2種類の浮遊粒子の大気中の粒径や濃度の差に応じて、バイパスさせる空気量を調整することで、同時に吸引するだけで、それぞれの量を効率よく測定することができるので、空気中の物質の測定方法として適応性が高いという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の一形態である浮遊粒子の測定装置に備えられるバーチャルインパクタ1の構成を模式的に示す断面図である。
図2図1のバーチャルインパクタ1を備える浮遊粒子の測定装置の構成を示す系統図である。
図3】フィルタ9の捕集位置3,3’;4,4’を示す平面図である。
図4図2に示す本実施形態の浮遊粒子の測定装置を用い、β線吸収方式により屋内空気中の浮遊粒子の濃度を7日間連続測定した結果の一例を示すグラフである。
図5図2に示す本実施形態の浮遊粒子の測定装置に、5μmで分級する分級器52と1μmで分級するバーチャルインパクタ1を用い、β線吸収方式により屋内空気中の浮遊粒子の捕集量を7日間連続測定した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。各図において、実質的に対応する部分には同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0019】
図1は、本発明の実施の一形態のバーチャルインパクタ1の構成を示す断面図であり、図2図1のバーチャルインパクタ1を備える浮遊粒子の測定装置の構成を示す系統図である。本実施形態の浮遊粒子の捕集方法は、まず、試料空気を採取口53から取り入れ、分級器(インパクタやサイクロン)52を用いて、粒径5μm以上の粒子を取り除く。粒径5μm未満の浮遊粒子を含む試料空気をバーチャルインパクタ1で分級して、粒径1μmを超える粗大浮遊粒子(粒径1μmを超え5μm未満、Coarse Particle;以下「CP」と略記する場合がある。)を含む空気と、粒径1μm以下の微細浮遊粒子(Fine Particle;以下「FP」と略記する場合がある。)を含む空気とに分け、粗大浮遊粒子を含む空気を吸引して粗大浮遊粒子をフィルタ9に捕集するとともに、微細浮遊粒子を含む空気の大部分をバイパス手段2によりフィルタ9の同一位置に捕集せずにバイパスさせながら吸引するとともに、フィルタ9の粗大浮遊粒子の捕集位置とは異なる位置に微細浮遊粒子を捕集することを含む。
【0020】
また、バーチャルインパクタ1のカット特性を粒径2.5μmとし、その上流の分級器52のカット特性を10μmとすれば、粗大浮遊粒子を粒径2.5μmを超え10μm未満(PM10-2.5)として、微細浮遊粒子を粒径2.5μm以下の粒子(PM2.5)として捕集することも可能である。したがって、カット特性の範囲が粒径1μmを超え10μm未満の分級器52、カット特性の範囲が粒径0.1μmを超え8μm以下のバーチャルインパクタ1を製作することで、粒子の粒径を変更して捕集することが可能である。本発明では、バーチャルインパクタ1のカット特性を基準にして、それよりも大きい粒子を粗大浮遊粒子と記載し、それよりも小さい粒子を微細浮遊粒子と記載している。
【0021】
本発明に係る実施形態において、バーチャルインパクタ1は、ノズル部40と、集気部41と、導気部42とを含んで構成され、ノズル部40は、内径D0を有する円形の噴出口43を規定する円筒部44と、円筒部44に連なる縮管部45とを有する。導気部42は、内径D2の第1排出口46と、内径D3の第2排出口47とを有し、第2排出口47は、円筒状の直管から成る捕集部51によって規定される。
【0022】
集気部41は、円錐台状の集気管部48と、集気管部48に同軸に連なる円筒状の直管部49とを有する。集気管部48は、噴出口43と同一の軸線を成し、軸線方向に間隔Sをあけて離間して位置する内径D1の流入口50を有する。ノズル部40に供給された試料空気は、縮管部45によって流速を上昇させながら円筒部44に流入し、噴出口43から噴出された試料空気の一部は、集気部41に流入し、主流は導気部42へ流入する。導気部42へ流入した試料空気は、その一部が第2排出口47から流路L2に流入し、残部は第1排出口46から流路L3に流入する。
【0023】
図3は、フィルタの捕集位置を示す平面図である。バーチャルインパクタ1は、一定流量の空気を吸引し、吸引した空気中の粒子径1μmを超える粗大浮遊粒子は慣性の力によって粒子径1μm以下の微小浮遊粒子と分級され、Q0の空気に含まれるほとんどの粗大浮遊粒子が集気部41に入り、その下のフィルタ9の参照符3の位置に捕集される。一方で、微細浮遊粒子を含む空気は、流線に沿って流れ、Q0のうちQ2分の空気中の微細浮遊粒子が捕集部51に入り、その下のフィルタ9の参照符4の位置に捕集される。残りのQ3の空気中の微細浮遊粒子は、フィルタ9に捕集されることなくバイパスから排出される。Q0は、バーチャルインパクタ1内の圧力G3と圧力センサG4(大気圧を測定している)との差圧から計算された流量によって確認し、Q1およびQ2はそれぞれ流量センサMFM1、流量センサMFM2によって計測される。
【0024】
バーチャルインパクタ1の各部位の寸法および空気の流れQ0~Q3等を一例として述べると、D0=φ4mm、D1=φ5mm、D2=φ12.7mm、D3=φ12mm、S=5mm、空気の流れQ0~Q3に対応する空気の体積流量をQv0~Qv3とすると、Qv0=125L/min、Qv1=20L/min、Qv2=15L/min、Qv3=90L/min、D1/D0=1.25、S/D0=1.25、Qv1/Qv0=0.16である。
【0025】
体積流量Qv0になるように流量調整バルブPV3および流量調整バルブPV4によって調整され、体積流量Qv1になるように流量調整バルブPV1によって調整され、体積流量Qv2になるように流量調整バルブPV2で調整される。
【0026】
導入された大気は、ノズル部40を通り、外管部(主流)と集気部41(二次流)とに配分される。本実施形態においては、主流は、外管部の排出口に接続されて設けられるバイパス手段2に導かれ、さらにバイパスされるバイパス流と微細浮遊粒子を捕集する捕集部51への流れとに分配されて、前記テープ状のフッ素系メンブランフィルタ(Membrane Filter)(以下、「フィルタ」と略記する場合がある。)9の第2の位置で微細浮遊粒子を捕集する。
【0027】
通常、従来のバーチャルインパクタを使った装置で、フィルタに捕集することを行わないバイパス手段2がなければ、主流が二次流に対して大きな流量となるので、そのままでも主流に含まれる微細浮遊粒子のろ過量が増えて、粗大浮遊粒子のろ過よりも多い。
【0028】
そのため、粗大浮遊粒子の成分を確認するために必要な量がろ過できないうちに、微細浮遊粒子の捕集部のろ紙が目詰まりすることが生じて、同時に適量を捕集することができない。特に、大気中の濃度が低い粗大浮遊粒子を捕集するために、通常よりも大量の大気を導入する場合には、微細浮遊粒子の捕集量が過大となるという問題がある。
【0029】
本実施形態の同時捕集方法によれば、バイパス手段2によりバイパスさせるバイパス流により、微細浮遊粒子の大部分をろ過することなく、微細浮遊粒子の捕集量を、適量となるように調整することができる。
【0030】
また、本実施形態においては、バーチャルインパクタ1に導入される空気量と、前記バイパス流の量とを、それぞれの吸引ポンプP1,P2,P3と各流路に設けた流量調整バルブPV1~PV4を用いて調節することにより、さらに細かい捕集量の調整が可能である。
【0031】
本実施形態において、本装置に吸引された試料空気は、バーチャルインパクタ1によって微細浮遊粒子を含む空気と、粗大浮遊粒子とを含む空気とに分級され、CPのみを含む空気は、バーチャルインパクタ1のノズル部40から集気部41(二次流)を通って、テープ状のフッ素系メンブランフィルタ9の第1の位置3で濾過され、流路L1を通って外部へ排気される。
【0032】
FPを含む空気は、バーチャルインパクタ1から主流として排出されて導気部42に導かれ、吸引ポンプP3による流路L3を介した吸引および吸引ポンプP2による流路L2を介した吸引により、フィルタ9に捕集されずにバイパスされるバイパス流と微細浮遊粒子をフィルタ9に捕集する捕集部51への流れに分配される。
【0033】
バイパス手段2は、バーチャルインパクタ1の外管部の排出口に接続されて、前記バイパスされる空気を吸引ポンプP3により吸引するもので、その形状は、円筒形のものが挙げられ、一端は前記のとおり、バーチャルインパクタ1の外管部の排出口に接続され、他端は流路L3を介して、吸引ポンプP3に通じている。
【0034】
このとき、バイパス流と捕集部51への流れとは、吸引ポンプP2と吸引ポンプP3との吸引量を調整することにより、FP捕集量が所望の値となるようにバランスさせることが重要である。すなわち、大気中のFP量が非常に多いときには、吸引ポンプP2よりも吸引ポンプP3の吸引量が多くなるように調整することによって、バイパスされるFPを含む空気量が増加して、捕集部51への流れが減り、捕集されるFP量を少なくすることができる。
【0035】
微細浮遊粒子を捕集する捕集部51への流れは、吸引ポンプP1に吸引されて、テープ状のフッ素系メンブランフィルタ9の第2の位置4によって濾過され、流路L2を通って外部へ排気される。
【0036】
バイパス流は、吸引ポンプP3により吸引されて、バイパス手段2および流路L3を通って外部に排気される。
【0037】
本装置では、空気の流れQ1について、吸引ポンプP1の吸引量を流量センサMFM1を用いて測定し、流路L1に設けた流量調整バルブPV1、圧力センサG1を用いて、流路L1を通過する空気の量を調整することによって、フィルタ9の第1の位置3に捕集するCPの量を、所望の単位時間あたりの所望の捕集量とすることができる。
【0038】
同時に、空気の流れQ2について、吸引ポンプP2の吸引量を流量センサMFM2を用いて測定し、流路L2に設けた流量調整バルブPV2、圧力センサG2を用いて、流路L2を通過する空気の量を調整することによって、フィルタ9の第2の位置4に捕集するFPの量を、所望の単位時間あたりの所望の捕集量とすることができる。さらに、空気の流れQ0については、圧力センサG3および圧力センサG4を用いて差圧を算出し、バーチャルインパクタ1の特性からQ0を求め、Q3(Q3=Q0-Q1-Q2)を計算する。Q3は吸引ポンプP3の吸引量を流路L3に設けた流量調整バルブPV3,PV4を用いて流路L3を通過するバイパス流の流量の調整を行う。
【0039】
たとえば、試料空気Q0の流量を毎分125L(リットル)でバーチャルインパクタ1に導入する場合を例とすると、バーチャルインパクタ1からCPを含む二次流の空気Q1が毎分20Lであり、バーチャルインパクタ1からのFPを含む主流のうち、バイパス流Q3が毎分90L、FPを捕集する捕集部51への流れQ2が毎分15Lとなる。
【0040】
連続してフィルタ9の第1および第2の位置3,4に空気を透過させていると、第1および第2の位置3,4上に捕集された浮遊粒子の量が次第に増え、粒子でフィルタ9が詰って吸引できなくなるので、一定時間毎、あるいはFP、CPの捕集量がある一定量を超えたときにテープ送り機構7によってフィルタ9が一定の長さCだけ矢符8方向に送られ、次の捕集が開始される。
【0041】
フィルタ9は、テープ状であり供給ロール6に巻かれた状態で供給され、図示しない複数のガイドローラによって、第1の位置3および第2の位置4に供給され、図示しない複数のガイドローラおよび上下2個のローラから成るテープ送り機構7を経て、巻取ローラ5に巻取られる。テープ送り機構7は、一定時間が経過あるいはFP、CPの捕集量がある一定量を超えたときに、フィルタ9を一定の長さCだけ矢符8方向に送る。これによって、フィルタ9の位置3’が新しい位置3に、位置4’が新しい位置4に移動する。
【0042】
かくして、フィルタ9の第1および第2の位置3,4に捕集されたCPおよびFPは、公知の測定手段、たとえば、β線吸収方式や光反射方式、と組み合わせることにより、その量を測定することができる。
【0043】
捕集されたCPおよびFPを、β線吸収方式や光反射方式を組み合わせて測定する場合の例を説明する。
【0044】
フィルタ9の第1の位置3および第2の位置4には、第1β線源10および第2β線源11からβ線が照射され、透過したβ線量が連続的にそれぞれ第1β線検出器12、第2β線検出器13で検出される。検出結果は、第1プリアンプ21および第2プリアンプ22を通して演算処理部(Central Processing Unit;CPU)28に入力される。
【0045】
またフィルタ9の第1の位置3には、光源24から光ファイバ25を介して一定強さの白色光が照射され、その反射光が光ファイバ26を介して光検出器23に導かれ、この光検出器23によって1分毎に連続的に検出され、検出結果が第3プリアンプ27を介して演算処理部28に入力される。
【0046】
連続してフィルタ9の第1および第2の位置3,4に空気を透過させていると、第1の位置3および第2の位置4上に捕集された浮遊粒子の量が次第に増え、第1の位置3および第2の位置4が詰まって吸引力が低下するので、一定時間毎、たとえば1時間毎に、テープ送り機構7によってフィルタ9が一定の長さCだけ矢符8方向に送られ、次の測定が開始される。
【0047】
フィルタ9の浮遊粒子を捕集する第1の位置3および第2の位置4の領域は、たとえば直径11mmの円形である。
【0048】
フィルタ9は、テープ状であり供給ロール6に巻かれた状態から巻き出され、図示しない複数のガイドローラによって、第1の位置3および第2の位置4に供給され、図示しない複数のガイドローラおよび上下2個のローラから成るテープ送り機構7を経て、巻取ローラ5に巻取られる。テープ送り機構7は、一定時間経過したとき、あるいはFP,CPの捕集量がある一定量を超えたとき、フィルタ9を一定の長さCだけ矢符8方向に送りだすように構成される。これによって、新しいフィルタ9の位置3が新たな位置3’に、位置4が新たな位置4’に移動する。
【0049】
第1および第2β線検出器ならびに光検出器の検出結果と、フィルタ9上の浮遊粒子の量との関係は、式(1)で計算される。
【0050】
j=Ij-1exp(-μχ) …(1)
【0051】
ここにIjは、ある瞬間に浮遊粒子を捕集したフィルタを透過したβ線量またはフィルタ9で反射された光量であり、Ij-1はその1分前の同じ量である。またIは、浮遊粒子を捕集する前の新しいフィルタを透過したβ線量または同フィルタで反射された光量であり、μは比例定数であり、χはフィルタ9の単位面積当たりの捕集浮遊粒子の質量(μg/cm)である。μはβ線源10,11および光源に固有の値であり、標準物質によって予めcm/μgの単位で求められる。式(1)を変形して、式(2)を得る。
【0052】
χ=-1/μln(Ij/Ij-1) …(2)
【0053】
式(2)からIjとIj-1との比を求めることによって、たとえば1分間に捕集されたフィルタ9の単位面積当たりの浮遊粒子の量が計算でき、これに第1の位置3の面積(これは第2の位置4の面積に等しく、直径が11mmの場合、約0.95cmとなる)を掛ければ、1分前に捕集された浮遊粒子の質量(μg/min)が計算できる。
【0054】
Q1よりフィルタ3に捕集された粒子の質量:M(Q1)μg、
Q2よりフィルタ4に捕集された粒子の質量:M(Q2)μgとする。
ここで、試料空気の質量濃度を、
CPの質量濃度:[CP]μg/m
FPの質量濃度:[FP]μg/m
また、一定時間、捕集した時の、Q0~Q3に対応した積算流量を、Qt0~Qt3(m)として記載する。
【0055】
ここで、バーチャルインパクタ1の特性として、
1.CPは全てバーチャルインパクタ1のQ1(粗大粒子側)だけを通過し、フィルタ9に捕集される。
2.FPはバーチャルインパクタ1のQ2(微細粒子側)とともにQ1(粗大粒子側)にも通過し、フィルタ9に捕集される粒子質量(個数)は流量の分流比に応じたものとなる。
【0056】
M(Q2)=[FP]×Qt2 …(3)
M(Q1)=[CP]×Qt0+[FP]×Qt1 …(4)
【0057】
式(3)及び式(4)より、質量濃度は、
【0058】
[FP]=M(Q2)/(Qt2) …(5)
[CP]={M(Q1)-M(Q2)×(Qt1/Qt2)}/Qt0 …(6)
であらわされる。
【実施例1】
【0059】
図4は、図2に示す本実施形態の浮遊粒子の測定装置に、5μmで分級する分級器52と1μmで分級するバーチャルインパクタ1を用い、β線吸収方式により屋内空気中の浮遊粒子の濃度を7日間連続測定した結果の一例を示すグラフであり、図5は、図2に示す本実施形態の浮遊粒子の測定装置に、5μmで分級する分級器52と1μmで分級するバーチャルインパクタ1を用い、β線吸収方式により屋内空気中の浮遊粒子の捕集量を7日間連続測定した結果の一例を示すグラフである。図4において、縦軸は浮遊粒子濃度(μg/m)を示し、横軸は時間(日)を示す。また図5において、縦軸は1時間あたりの浮遊粒子捕集量(μg)を示し、横軸は時刻(日)を示す。図4より、屋内空気中では粗大浮遊粒子(粒径1μmを超え5μm未満)の濃度は1~3μg/m程度であり、低いことが分かる。一方、図5で示されるように、粗大浮遊粒子(粒径1μmを超え5μm未満)の1時間あたりの捕集量は10~20μgとより多く捕集できていることが分かる。
【0060】
さらに、2022年4月20日AM1:00~AM11:00の10時間について注目すると、この期間の粗大浮遊粒子の平均濃度が2.1μg/mであったのに対して、微細浮遊粒子18.0μg/mであった。また、1時間に1回、フィルタとしてのテープ移動を行っており、この間の平均捕集量は、粗大浮遊粒子16.0μg、微細浮遊粒子16.1μgであった。もし仮に、この期間同じ空気を、本発明を使わずに、従来法のバーチャルインパクタを使った装置で1時間に一回のテープ移動で、1時間に約1mの採取量で採取すれば、粗大浮遊粒子の平均捕集量は2.1μgにしかならない。従来法で、例えば10時間に1回のテープ移動を行い、採取時間を長くして粗大浮遊粒子を捕集しようとすれば、時間分解能が悪くなるだけでなく、積算捕集量が粗大浮遊粒子21μg、微細浮遊粒子180μgとなり、粗大浮遊粒子は十分な捕集量になるけれども、微細浮遊粒子の捕集量が過大となり、フィルタが粒子で目詰まりを起こしてしまい捕集できなくなってしまうことが予想される。従来法では通常、80~100μgの浮遊粒子をフィルタに捕集すると目詰まりを起こして、捕集できなくなってしまう。また、β線吸収方式の検出限界をフィルタ捕集量として表現すると例えば1~2μgであり、粗大浮遊粒子の平均濃度が2.1μg/mなので、前記従来法のように1時間に一回のテープ移動ならば平均捕集量が2.1μgとなり、この期間は検出限界付近で誤差の大きい測定になってしまう。これに対して、本発明での平均フィルタ捕集量は16.0μgなので、精度の良い測定が可能であった。
【0061】
このように、本発明の効果により、試料空気の粗大浮遊粒子が低濃度であっても、効率的に濃縮することができ、フィルタへの捕集量を多くすることができるとともに、高感度に測定できたことが分る。
【符号の説明】
【0062】
1 バーチャルインパクタ
2 バイパス手段
3 浮遊粒子を捕集する第1の位置
4 浮遊粒子を捕集する第2の位置
5 テープ巻取ローラ
6 テープ供給ロール
7 テープ送り機構
8 矢符
9 テープ状メンブランフィルタ
10 第1β線源
11 第2β線源
12 第1β線検出器
13 第2β線検出器
14 β線の流れ
21 第1プリアンプ
22 第2プリアンプ
23 光検出器
24 光源
26 光ファイバ
27 第3プリアンプ
28 演算処理部
40 ノズル部
41 集気部
42 導気部
43 噴出口
44 円筒部
45 縮管部
46 第1排出口
47 第2排出口
48 集気管部
49 直管部
50 流入孔
51 捕集部
52 分級器
53 採取口
G1 圧力センサ
G2 圧力センサ
G3 圧力センサ
G4 圧力センサ
L1 流路
L2 流路
L3 流路
P1 吸引ポンプ
P2 吸引ポンプ
P3 吸引ポンプ
MFM1 流量センサ
MFM2 流量センサ
PV1 流量調整バルブ
PV2 流量調整バルブ
PV3 流量調整バルブ
PV4 流量調整バルブ
【要約】
【課題】
同じサンプル空気中に含まれる粒径や濃度が異なる2種類の粒子やエアロゾルを分けて必要量を捕集する方法および測定装置を提供する。
【解決手段】
浮遊粒子の捕集方法は、空気中の浮遊粒子を、バーチャルインパクタ1で分級して、粒径の大きい粗大浮遊粒子を含む空気と粒径の小さい微細浮遊粒子を含む空気とに分け、粗大浮遊粒子を含む空気を吸引して、粗大浮遊粒子を捕集するとともに、微細浮遊粒子を含む空気をバイパスさせながら吸引して、粗大浮遊粒子の捕集位置とは異なる位置で微細浮遊粒子を捕集する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5