(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】植物栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20230821BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
(21)【出願番号】P 2023017260
(22)【出願日】2023-02-08
【審査請求日】2023-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003838
【氏名又は名称】株式会社マキシム
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】東 展男
(72)【発明者】
【氏名】井口 英雄
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094247(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104692543(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の種苗または植物に液体肥料を水道水または井戸水に溶かした養液を供給するための管と、
上記管の外周面の少なくとも一箇所に巻回されたコイルと、
上記コイルに100Hz~10kHzの周波数領域
の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すための交流電流供給装置と、
を有し、
上記管に上記養液を流しながら上記交流電流供給装置により上記コイルに上記交流電流を流す植物栽培システム。
【請求項2】
上記少なくとも一部の周波数領域は4.5kHz~8kHzである請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項3】
上記交流電流は上記少なくとも一部の周波数領域内で1秒間に複数回、周波数の増減を反復する請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項4】
上記交流電流は方形波である請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項5】
上記植物の種苗または植物を水耕栽培するための栽培槽を有し、
上記栽培槽に上記養液を上記管を通して循環または散布する請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項6】
上記植物の種苗または植物を土壌栽培し、
上記植物の種苗または植物に上記養液を上記管を通して散布する請求項1記載の植物栽培システム。
【請求項7】
上記植物は野菜または果実である請求項1~6のいずれか一項記載の植物栽培システム。
【請求項8】
上記野菜はねぎ、小松菜またはレタスであり、上記果実はいちごである請求項7記載の植物栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は植物栽培システムに関し、野菜や果物などの各種の植物の水耕栽培や土壌栽培に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食料危機等を背景として、簡単に植物を栽培できる水耕栽培が注目されている。水耕栽培は、土を使わず液体肥料を水に溶かした養液を種苗に散布あるいは栽培槽に循環させて栽培する方法である。水耕栽培は、外気に触れることなく植物を育てることで害虫が寄りつかず農薬に依存しないでよいことや、土壌栽培と比較して生育速度が速い、天候に左右されず一定の収穫量が見込める、肥料の調整が楽で品質の安定が見込める等の種々のメリットを有する。これらのメリットにより、近年、オフィスをはじめ、日光の当たらない工場等でも水耕栽培が盛んに行われるようになっており、農業とは異なる異業種業界からの参入も増えているのが現状である。
【0003】
従来より、植物の水耕栽培に用いられるシステムあるいはプラントとして種々のものが知られている(例えば、特許文献1、2、3、非特許文献1参照)。
【0004】
なお、液体を流す管にソレノイド型のコイルを巻回し、このコイルにほぼ700~3000Hzの範囲の周波数領域で連続的に周波数の変化を反復する交流電流を流すことにより、管の内壁へのスケール生成防止や管の内壁に付着したスケールの除去を図るスケール生成および/またはスケール付着防止用液体処理装置が知られている(特許文献4)。また、水道管にソレノイド型のコイルを巻回し、このコイルに3.6~7.5kHzの範囲の周波数領域で連続的に周波数の変化を反復する交流電流を流すことにより水道管内壁へのスケール生成防止や水道管の内壁に付着したスケールの除去を図る水道水用水処理装置が知られており、既に実用化されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-211915号公報
【文献】特開2015-216872号公報
【文献】特開2022-188483号公報
【文献】米国特許第5074998号明細書
【文献】実用新案登録第3224220号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】[令和4年12月26日検索]、インターネット〈URL:https://eco-guerrilla.jp〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の水耕栽培システムでは、必ずしも十分な生育速度が得られず、収穫までに長時間を要する等の問題があり、改善の余地があった。一方、土壌栽培でも、同様であった。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、水耕栽培あるいは土壌栽培において、簡単な手法で植物を極めて速い生育速度で栽培することができる植物栽培システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題の解決を図る技術の開発を目的として長年に亘り鋭意検討を行った結果、特許文献5記載の水道水用水処理装置で使用されているコイルと同様なコイルを水耕栽培システムまたは土壌栽培システムに養液を供給するための管に巻回し、この管に養液を流しながらコイルに特許文献5記載の交流電流供給装置と同様な装置を用いて交流電流を流し、管から養液を種苗に供給することにより、極めて速い生育速度で植物を水耕栽培または土壌栽培することができるという新たな効果が得られることを見出し、さらにこの知見に基づいて検討を重ねてこの発明を案出するに至った。本発明者らの知る限り、このような効果が得られることはこれまで報告されていない。このような効果が得られる理由については現在解明中であるが、次のような理由が考えられる。すなわち、管に流す養液に対して上記のような処理を行うことにより、管の内壁に養液中の液体肥料の一部を餌にして成長するアオコ等のスライムが管の内壁から剥がれ、スライムの再度の形成も防止される結果、管から種苗に供給される養液により種苗に十分な栄養が与えられ、種苗の生育が促進される。また、上記のような処理を行うことにより、水道水または井戸水に溶かす液体肥料の溶解力を大きくすることができ、その結果、種苗の生育が促進される。さらに、上記のような処理を行うことにより、水道水または井戸水に溶かす液体肥料の分散性の向上および小粒子化を図ることができ、液体肥料が根に良く吸収されるようになり、その結果、種苗の生育が促進される。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
植物の種苗または植物に液体肥料を水道水または井戸水に溶かした養液を供給するための管と、
上記管の外周面の少なくとも一箇所に巻回されたコイルと、
上記コイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すための交流電流供給装置と、
を有し、
上記管に上記養液を流しながら上記交流電流供給装置により上記コイルに上記交流電流を流す植物栽培システムである。
【0011】
典型的には、上記の少なくとも一部の周波数領域は4.5kHz~8kHzの周波数領域に含まれ、例えば、4.5kHz~8kHzの周波数領域である。交流電流の周波数の増減は、典型的には直線的に行うが、これに限定されるものではなく、非直線的に行ってもよい。交流電流は、典型的には、上記の少なくとも一部の周波数領域内で1秒間に複数回、周波数の増減を反復する。交流電流は、例えば、100Hzから10kHzまで周波数をスイープする。交流電流の波形は、特に限定されず、必要に応じて選択されるが、典型的には、方形波が用いられる。交流電流の電流値は必要に応じて選択されるが、一般的には1mA~600mA、典型的には10mA~500mAである。コイルは、管の外周面の少なくとも一箇所に巻回されれば足りるが、複数箇所に巻回されてもよい。コイルの巻き数は管の口径(直径)等に応じて適宜選択されるが、コイルに交流電流を流すことにより発生する磁場の強さがある程度大きい方がより優れた効果が得られる傾向があるため、コイルの巻き数は一般的には10以上20以下に選ばれる。
【0012】
この植物栽培システムは、水耕栽培では、植物の種苗または植物を水耕栽培するための栽培槽を有し、この栽培槽に養液を管を通して循環または散布する。土壌栽培では、植物の種苗または植物に養液を管を通して散布する。
【0013】
この植物栽培システムにより栽培する植物は、水耕栽培あるいは土壌栽培することができる限り、基本的にはどのようなものであってもよいが、一般的には野菜または果実である。具体例を挙げると、野菜はねぎ、小松菜、レタス等、果実はいちご等である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、植物の種苗または植物に養液を供給するための管に養液を流しながらコイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すことにより、簡単な手法で植物を極めて高い生育速度で栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の第1の実施の形態による水耕栽培システムを示す略線図である。
【
図2】この発明の第1の実施の形態による水耕栽培システムにおいて配管に巻回されたコイルおよびこのコイルに交流電流を流すための交流電流供給装置を示す略線図である。
【
図3A】この発明の第1の実施の形態による水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置によりコイルに流す交流電流の波形の一例を示す略線図である。
【
図3B】この発明の第1の実施の形態による水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置によりコイルに流す交流電流の周波数スペクトルの一例を示す略線図である。
【
図3C】この発明の第1の実施の形態による水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置によりコイルに流す交流電流の周波数スペクトルの実測例を示す略線図である。
【
図4】この発明の第2の実施の形態による水耕栽培システムを示す略線図である。
【
図5】この発明の第3の実施の形態による水耕栽培システムを示す略線図である。
【
図6】この発明の第4の実施の形態による土壌栽培システムを示す略線図である。
【
図7】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例1において養液供給用の配管にコイルが巻回された様子を示す図面代用写真である。
【
図8】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例1において養液供給用の配管に巻回されたコイルに接続された交流電流供給装置本体を示す図面代用写真である。
【
図9】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例1において生育した長ねぎの様子を比較例の長ねぎの様子とともに示す図面代用写真である。
【
図10】
図9の左側の部分に示す栽培レーンの長ねぎを拡大して示す図面代用写真である。
【
図11】
図9の右側の部分に示す栽培レーンの長ねぎを拡大して示す図面代用写真である。
【
図13】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例2において生育した長ねぎの様子を比較例の長ねぎの様子とともに示す図面代用写真である。
【
図14】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例2において生育した長ねぎの様子を比較例の長ねぎの様子とともに示す図面代用写真である。
【
図15】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例2において生育した長ねぎの様子を比較例の長ねぎの様子とともに示す図面代用写真である。
【
図16】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて長ねぎの水耕栽培を行った実施例2において生育した長ねぎの根の様子を比較例の長ねぎの根の様子とともに示す図面代用写真である。
【
図17】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いて小松菜の水耕栽培を行った実施例3において生育した小松菜の様子を示す図面代用写真である。
【
図18】
図17に示す水耕栽培システムにおいて一つの定植パネルを養液の液面から斜めに持ち上げた状態を示す図面代用写真である。
【
図19】第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムにおいて養液の処理を行わずに小松菜の水耕栽培を行った比較例において生育した小松菜の様子を示す図面代用写真である。
【
図20】
図19に示す水耕栽培システムにおいて一つの定植パネルを養液の液面から斜めに持ち上げた状態を示す図面代用写真である。
【
図21】第3の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムを用いてレタスの水耕栽培を行った実施例4において生育したレタスの様子を示す図面代用写真である。
【
図22】第3の実施の形態による水耕栽培システムと同様な構成を有する水耕栽培システムにおいて養液の処理を行わずにレタスの水耕栽培を行った比較例において生育したレタスの様子を示す図面代用写真である。
【
図23】第4の実施の形態による土壌栽培システムと同様な構成を有する土壌栽培システムを用いていちごの土壌栽培を行った実施例5において生育したいちごの様子を比較例のいちごの様子とともに示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という)について説明する。
【0017】
〈第1の実施の形態〉
[水耕栽培システム]
図1は第1の実施の形態による水耕栽培システムを示す。
図1に示すように、この水耕栽培システムは、栽培槽10と、水道水または井戸水に液体肥料を溶かした養液21を収容する養液槽20と、養液槽20に収容された養液21を栽培槽10に供給するための配管30と、配管30の途中の外周面に巻回されたソレノイド型のコイルC
1 、C
2 と、コイルC
1 、C
2 に交流電流を流すための交流電流供給装置40とを有する。水耕栽培に際しては、太陽光またはLED照明による人工光が用いられる。
【0018】
栽培槽10には養液槽20から配管30を通じて養液21が供給され、栽培槽10に供給された養液21は配管31を通じて養液槽20の上部の空間に戻されるようになっている。こうすることで、養液21は配管30、31を通って栽培槽10を循環し、栽培槽10に常時、一定量の養液21が保たれる。栽培槽10内の養液21上には発泡スチロール等からなる定植パネル11が設置されている。定植パネル11には、水耕栽培を行う植物の苗12を挿入固定し、根12aを養液21に漬けるための孔が多数設けられている。これらの孔の配置は必要に応じて選択されるが、一般的には碁盤の目状に配置される。これらの穴の間隔は苗12の種類や大きさ等に応じて適宜決められる。栽培槽10の平面形状は特に限定されず、必要に応じて選択されるが、一般的には長方形である。栽培槽10の底には養液21を抜くための配管32が設けられ、その途中にドレンバルブ51が設けられている。栽培槽10は地面または建物の床面に設置された架台61~63の上に載せられている。
【0019】
養液槽20は、それぞれ互いに異なる液体肥料22a、23aを入れたボトル22、23を備えている。
図1においては、二つのボトル22、23が示されているが、ボトルの数は使用する液体肥料の種類に応じて適宜選択される。ボトル22の下部には養液槽20に液体肥料22aを供給するための配管33が設けられ、その途中にバルブ52が設けられている。同様に、ボトル23の下部には養液槽20に液体肥料23aを供給するための配管34が設けられ、その途中にバルブ53が設けられている。養液槽20はさらに、養液21のpHを調整するためのpH調整液24aを入れたタンク24を備えている。タンク24には養液槽20にpH調整液24aを供給するための配管35が設けられ、その途中にバルブ54が設けられている。養液槽20は、モーター70で軸71を回転させることによりこの軸71の先端に設けられた攪拌翼72を回転させることにより養液21を攪拌することができるようになっている。養液槽20は、地面または建物の床面に設置されている。養液槽20の下部側面には養液21を抜くための配管36が設けられ、その途中にドレンバルブ55が設けられている。図示は省略するが、養液槽20には、養液21の上方から水道水または井戸水を供給するための配管が設けられている。図示は省略するが、養液槽20内の養液21のpHおよび導電率を測定するためのセンサーが設けられている。養液21を栽培槽10に供給するための配管30の途中にはポンプ73が設けられている。
【0020】
交流電流供給装置40は、配管30の外周面に巻回されたコイルC
1 、C
2 とケーブルCにより接続されている。コイルC
1 、C
2 はケーブルCをらせん状に巻くことにより形成されている。交流電流供給装置40にはAC100Vを供給するための電源ケーブル41が設けられている。配管30の外周面に巻回されたコイルC
1 、C
2 の詳細を
図2に示す。
図2に示すように、この場合、コイルC
1 とコイルC
2 との間には配管30に平行にケーブルCが設けられており、これらのコイルC
1 、C
2 の配管30の外周面上の巻き付け方向は互いに同一である。コイルC
1 、C
2 に流す交流電流は、100Hzから10kHzまで周波数をスイープし、波形は方形波である。この場合、100Hz~10kHzの周波数領域の一部の周波数領域(f
1 ~f
2 の周波数領域とする)で1秒間に複数回、典型的には2~5回(例えば3.5回)直線的に周波数を増減し、これを反復する。f
1 ~f
2 の周波数領域は、典型的には4.5kHz~8kHzである。
図3Aにこの交流電流の波形の一例を模式的に示す。
図3Aに示すように、f
1 ~f
2 の周波数領域では、100Hzからf
1 までの周波数領域およびf
2 から10kHzまでの周波数領域に比べて最大電流値を高くしている。f
1 ~f
2 の周波数領域の最大電流値は、100Hzからf
1 までの周波数領域およびf
2 から10kHzまでの周波数領域の最大電流値に比べて例えば2~3倍大きくするが、これに限定されるものではない。こうしてコイルC
1 、C
2 に交流電流を流したときの周波数スペクトルの一例を
図3Bに模式的に示す。
図3Bに示すように、コイルC
1 、C
2 に流れる交流電流は、f
1 ~f
2 の周波数領域で最大電流値がほぼ同一である。
図3Cに実測の周波数スペクトルの一例を示す。f
1 ~f
2 の周波数領域は4.5kHz~8kHzである。この周波数スペクトルの縦軸は、コイルC
1 、C
2 が巻回された配管30の側面に音圧測定用のピックアップを取り付け、コイルC
1 、C
2 に交流電流が流れることにより発生する電磁騒音を測定した時の音圧を示し、交流電流の最大電流値に対応するものである。
【0021】
[水耕栽培システムの使用方法]
水耕栽培を行う苗12を栽培槽10内の定植パネル11の穴に挿入固定し、根12aを養液21に漬ける。苗12の種類に応じてボトル22、23等から養液槽20に液体肥料22a、23a等を供給する。モーター70で軸71を回転させることにより攪拌翼72を回転させることにより養液21を十分に攪拌する。ポンプ73により配管30、31を通して栽培槽10に養液21を循環させる。交流電流供給装置40の電源ケーブル41をAC100Vのコンセントに差し込み、交流電流供給装置40のスイッチをオンとする。そして、配管30に養液21を流しながらコイルC1 、C2 に交流電流を流すことで養液21の処理を行い、栽培槽10に供給する。一方、栽培槽10には太陽光またはLED照明による人工光が当たるようにする。こうして苗12の育成を行う。
【0022】
この第1の実施の形態による水耕栽培システムによれば、配管30に巻回されたコイルC1 、C2 に交流電流供給装置40により所定の交流電流を流すことで養液21の処理を行い、こうして処理を行った養液21を用いて水耕栽培を行っていることにより、従来より用いられている一般的な水耕栽培システムに比べて、苗12の生育速度を大幅に速くすることができ、収穫までに要する時間の大幅な短縮を図ることができる。また、この水耕栽培システムは、従来より用いられている一般的な水耕栽培システムの養液供給用の配管30にコイルC1 、C2 を巻回し、コイルC1 、C2 に交流電流供給装置40を接続するだけで足りるため、簡単に構築することができる。
【0023】
〈第2の実施の形態〉
[水耕栽培システム]
図4は第2の実施の形態による水耕栽培システムを示す。
図4に示すように、この水耕栽培システムは、配管30を栽培槽10の上方まで延ばし、配管30に設けられた穴から栽培槽10に養液21を散布することが第1の実施の形態による水耕栽培システムと異なり、その他のことは第1の実施の形態による水耕栽培システムと同様である。
【0024】
[水耕栽培システムの使用方法]
この水耕栽培システムの使用方法は、栽培槽10の上方まで延ばされた配管30の穴から栽培槽10に養液21を散布することを除いて、第1の実施の形態による水耕栽培プラントの使用方法と同様である。
【0025】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0026】
〈第3の実施の形態〉
[水耕栽培システム]
図5は第3の実施の形態による水耕栽培システムを示す。
図5に示すように、この水耕栽培システムは、透明プラスチック等からなる透明な箱状の栽培室80を有し、栽培室80の底に定植パネル11が設置される。定植パネル11に水耕栽培を行う苗12が固定される。養液21は、第1の実施の形態と同様に定植パネル11の下部を循環させ、あるいは、第2の実施の形態と同様に定植パネル11の上方から散布する。その他のことは第1の実施の形態と同様である。図示は省略するが、栽培室80の天井には栽培用のLED照明が設置されている。
【0027】
[水耕栽培システムの使用方法]
この水耕栽培システムの使用方法では、LED照明で照明を行いながら、養液21を定植パネル11の下部を循環させ、あるいは、定植パネル11の上方から散布することにより水耕栽培を行う。
【0028】
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0029】
〈第4の実施の形態〉
[土壌栽培システム]
図6は第4の実施の形態による土壌栽培システムを示す。
図6に示すように、この土壌栽培システムにおいては、土壌栽培を行う畑に苗12を植え付け、第2の実施の形態と同様にして、畑の上方に延びた配管30に設けられた穴から養液21を散布する。養液槽20、コイルC
1 、C
2 および交流電流供給装置40については第1の実施の形態と同様である。
【0030】
[土壌栽培システムの使用方法]
この土壌栽培システムの使用方法は、土壌栽培を行う畑に苗12を植え付けることを除いて、第2の実施の形態と同様である。
【0031】
この第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0032】
実施例について説明する。
(実施例1)
10000坪以上の敷地に水耕栽培用大屋根ハウスを設置し、その内部に第1の実施の形態と同様な構成の水耕栽培システムを構築し、長ねぎの水耕栽培を行った。ハウス内には交流電流供給装置40を用いないことだけが異なる水耕栽培システムも併設した。栽培槽10は細長い長方形の平面形状を有する。栽培槽10に設置された発砲スチロール製の定植パネル11には幅方向および長さ方向にそれぞれ約15cm間隔で穴が開けられている。それぞれの穴に長ねぎの苗を固定し、水耕栽培を行った。配管30に相当する部位にコイルC
1 、C
2 を巻回し、ケーブルCにより交流電流供給装置40を接続した様子を
図7および
図8に示す。交流電流供給装置40としては、市販されている株式会社マキシム製ドールマンショック型番DK-IIを用いた。配管30としては口径5cmの塩化ビニル管を用いた。コイルC
1 、C
2 の巻き数はそれぞれ16回、単位長さ当たりの巻き数は概ね3回/cm、コイルC
1 、C
2 に流す交流電流の波形は
図3Aに示すものであり、f
1 ~f
2 の周波数領域は4.5kHz~8kHzである。この交流電流の周波数スペクトルは
図3Cに示す通りである。f
1 ~f
2 の周波数領域における最大電流値は約400mAである。
【0033】
図9の左側に、この水耕栽培システムを用いて交流電流供給装置40により養液21の処理を行って水耕栽培を行った栽培レーン(処理側と表示)の長ねぎの生育の様子を示し、栽培を開始してから10日後の様子を示す。比較のために、
図9の右側に、この水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置40により養液21の処理を行わないことだけが異なる条件で水耕栽培を行った栽培レーン(未処理側と表示)の長ねぎの生育の様子も示す。
図10は
図9の左側の栽培レーンを拡大した写真、
図11は
図9の右側の栽培レーンを拡大した写真を示す。
図10より、交流電流供給装置40により養液21の処理を行って水耕栽培を行った栽培レーンでは長ねぎの高さはネットの高さ(約30cm)の2倍以上の60cm以上であり、そろそろ出荷可能な生育状態であった。一方、交流電流供給装置40により養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った栽培レーンでは長ねぎの高さは平均して25~30cm程度に過ぎず、出荷までにはまだ相当の時間が必要であった。
図12は
図9の左側の栽培レーンの一部を拡大した写真である。
図12から明らかなように、交流電流供給装置40により養液21の処理を行って水耕栽培を行った長ねぎの茎は太く、株自体が、養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った長ねぎに比べてはるかに大きい。
【0034】
(実施例2)
敷地に水耕栽培用大屋根ハウスを設置し、その内部に第1の実施の形態と同様な構成の水耕栽培システムを構築し、長ねぎの水耕栽培を行った。ハウス内には交流電流供給装置40を用いないことだけが異なる水耕栽培システムも併設した。栽培槽10は細長い長方形の平面形状を有する。栽培槽10に設置された発砲スチロール製の定植パネルに幅方向および長さ方向にそれぞれ約15cm間隔で穴を開け、それぞれの穴に長ねぎの苗を固定し、水耕栽培を行った。配管30に相当する部位にコイルC1 、C2 を巻回し、ケーブルCにより交流電流供給装置40を接続した。交流電流供給装置40としては、実施例1と同じものを用いた。配管30の材質および口径、コイルC1 、C2 の巻き数および単位長さ当たりの巻き数、コイルC1 、C2 に流す交流電流は実施例1と同じである。
【0035】
図13の左側および
図14の右側に、この水耕栽培システムを用いて交流電流供給装置40により養液21の処理を行って水耕栽培を行った栽培レーンの長ねぎの生育の様子を示し、栽培を開始してから33日経過後の様子を示す。比較のために、
図13の右側および
図14の左側に、この水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置40により養液21の処理を行わないことだけが異なる条件で水耕栽培を行った栽培レーンの長ねぎの生育の様子も示す。
図13および
図14より、養液21の処理を行って水耕栽培を行った栽培レーンでは養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った栽培レーンに比べて長ねぎの高さは10~15cm程度高かった。一例として、
図15および
図16に、養液21の処理を行って水耕栽培を行った長ねぎと養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った長ねぎとを並べて撮影した写真を示す。
図15より、養液21の処理を行って水耕栽培を行った長ねぎは養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った長ねぎに比べて約11cm長かった。また、
図16より、根の張り方も、養液21の処理を行って水耕栽培を行った長ねぎは養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った長ねぎに比べてはるかに深く広かった。
【0036】
(実施例3)
敷地に水耕栽培用大屋根ハウスを設置し、その内部に第1の実施の形態と同様な構成の水耕栽培システムを構築し、小松菜の水耕栽培を行った。ハウス内には交流電流供給装置を用いないことだけが異なる水耕栽培システムも併設した。栽培槽10は細長い長方形の平面形状を有する。栽培槽10に設置された発砲スチロール製の定植パネルには幅方向および長さ方向にそれぞれ約15cm間隔で穴を開け、それぞれの穴に小松菜の苗を固定し、水耕栽培を行った。配管30に相当する部位にコイルC1 、C2 を巻回し、ケーブルCにより交流電流供給装置40を接続した。交流電流供給装置40としては、実施例1と同じものを用いた。配管30の材質および口径、コイルC1 、C2 の巻き数および単位長さ当たりの巻き数、コイルC1 、C2 に流す交流電流は実施例1と同じである。
【0037】
図17および
図18に、この水耕栽培システムを用いて交流電流供給装置40により養液21の処理を行って水耕栽培を行った栽培レーンの小松菜の生育の様子を示し、栽培を開始してから6日目の様子を示す。ここで、
図17は水耕栽培を行った小松菜の栽培レーン全景を示し、
図18は定植パネルを養液の液面から斜めに傾け、小松菜の根の生育の様子を示したものである。比較のために、
図19および
図20に、この水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置40により養液21の処理を行わないことだけが異なる条件で水耕栽培を行った小松菜の生育の様子も示す。ここで、
図19は水耕栽培を行った小松菜の栽培レーン全景を示し、
図20は定植パネルを養液の液面から斜めに傾け、小松菜の根の生育の様子を示したものである。
図17および
図18と
図19および
図20とを比較すると、養液21の処理を行って水耕栽培を行った栽培レーンでは養液21の処理を行わずに水耕栽培を行った栽培レーンに比べて小松菜の生育は明らかに良いことが分かる。養液21の処理を行って水耕栽培を行った場合はアオコの発生もなかった。
【0038】
(実施例4)
建物の室内に第3の実施の形態と同様な構成を有する小型の水耕栽培システムを設置し、LED照明を用いて照明を行いながらレタスの水耕栽培を行った。栽培室80の定植パネル11への養液の供給は定植パネル11の上方から養液21を一回、散布することにより行った。栽培室80としては幅60cm、奥行き30cm、高さ36cmの透明アクリル樹脂製の直方体形状のものを用いた。栽培室10の底に設置された発砲スチロール製の定植パネルは幅方向および長さ方向にそれぞれ約15cm間隔で穴を開け、それぞれの穴にレタスの苗を固定し、水耕栽培を行った。配管30に相当する部位にコイルC1 、C2 を巻回し、ケーブルCにより交流電流供給装置40を接続した。交流電流供給装置40としては、実施例1と同じものを用いた。配管30の材質および口径、コイルC1 、C2 の巻き数および単位長さ当たりの巻き数、コイルC1 、C2 に流す交流電流は実施例1と同じである。
【0039】
図21に、この水耕栽培システムを用いて交流電流供給装置40により養液21の処理を行って水耕栽培を行ったレタスの生育の様子を示し、栽培を開始してから6日目の様子を示す。比較のために、
図22に、この水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置40により養液21の処理を行わないことだけが異なる条件で水耕栽培を行ったレタスの生育の様子も示す。
図21と
図22とを比較すると、養液21の処理を行って水耕栽培を行ったレタスは養液21の処理を行わずに水耕栽培を行ったレタスに比べて明らかに生育が良いことが分かる。また、養液21の処理を行って水耕栽培を行ったレタスは葉に弾力があるのに全体的に柔らかく、株自体も相対的に大きく、成長が速く、商品価値が高いものであった。一方、養液21の処理を行わずに水耕栽培を行ったレタスは株の大きさにばらつきがあり、葉が固く、商品価値が低いものであった。
【0040】
(実施例5)
敷地に土壌栽培用大屋根ハウスを設置し、その内部に第4の実施の形態と同様な構成の土壌栽培システムを構築し、いちごの土壌栽培を行った。ハウス内には交流電流供給装置を用いないことだけが異なる土壌栽培システムも併設した。地面から1mの高さに細長いプランターを設置し、プランター内部の土壌にいちごの苗を30cm間隔で植えた。養液21はプランターの上方に延びた配管の穴から散布した。配管30に相当する部位にコイルC1 、C2 を巻回し、ケーブルCにより交流電流供給装置40を接続した。交流電流供給装置40としては、実施例1と同じものを用いた。配管30の材質および口径、コイルC1 、C2 の巻き数および単位長さ当たりの巻き数、コイルC1 、C2 に流す交流電流は実施例1と同じである。
【0041】
図23の左側の部分に、この水耕栽培システムを用いて交流電流供給装置40により養液21の処理を行って土壌栽培を行った栽培レーンのいちごの生育の様子を示し、栽培を開始してから6日目の様子を示す。比較のために、
図23の右側の部分に、この水耕栽培システムにおいて交流電流供給装置40により養液21の処理を行わないことだけが異なる条件で土壌栽培を行った栽培レーンのいちごの生育の様子も示す。
図23より、養液21の処理を行って土壌栽培を行った栽培レーンでは養液21の処理を行わずに土壌栽培を行った栽培レーンに比べていちごの生育が明らかに良いことが分かる。
【0042】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0043】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構成、形状、材料、方法などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構成、形状、材料、方法などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10…栽培槽、11…定植パネル、20…養液槽、21…養液、30~36…配管、40…交流電流供給装置、80…栽培室、C…ケーブル、C1 、C2 …コイル
【要約】
【課題】水耕栽培あるいは土壌栽培において、簡単な手法で植物を極めて速い生育速度で栽培することができる植物栽培システムを提供する。
【解決手段】この植物栽培システムは、植物の種苗または植物に液体肥料を水道水または井戸水に溶かした養液21を供給するための管30と、管30の外周面の少なくとも一箇所に巻回されたコイルC
1 、C
2 と、コイルC
1 、C
2 に100Hz~10kHzの周波数領域に含まれる周波数の交流電流を流すための交流電流供給装置40とを有する。管30に養液21を流しながら交流電流供給装置40によりコイルC
1 、C
2 に交流電流を流す。交流電流は100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域、例えば4.5kHz~8kHzで連続的に周波数の増減を反復する。
【選択図】
図1