(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】証券決済装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/04 20120101AFI20230821BHJP
【FI】
G06Q40/04
(21)【出願番号】P 2019144836
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】598049322
【氏名又は名称】株式会社三菱UFJ銀行
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 博資
(72)【発明者】
【氏名】有賀 千恵
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-086360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0240616(US,A1)
【文献】前田 秀紀,日本版債券レポ市場の現状と課題,[online],2015年07月31日,1-31ページ,[検索日:2023年5月19日], <URL:https://web.archive.org/web/20150731014639/https://www.yu-cho-f.jp/research/old/research/kinyu/kikan-repo/nihonbansaiken.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顧客の証券口座及び資金口座を管理する顧客口座管理部と、
自行の資産を管理する資産管理部と、
顧客からのレポ取引の取引要求に対して、
前記レポ取引に対する相手側顧客が検出されなかった場合、前記レポ取引を前記自行の資産による対自行取引によって前記レポ取引を約定する取引処理部と、
を有する証券決済装置。
【請求項2】
前記取引処理部は、前記資産管理部によって管理される資金を前記顧客の資金口座に移し、前記顧客の証券口座の証券を前記資産管理部に移すことによって前記対自行取引を実行する、請求項1記載の証券決済装置。
【請求項3】
前記取引処理部は、前記レポ取引に対する相手側顧客があるか判断し、前記相手側顧客が検出された場合、前記レポ取引を顧客間取引によって約定し、前記相手側顧客が検出されなかった場合、前記レポ取引を前記対自行取引によって約定する、請求項1又は2記載の証券決済装置。
【請求項4】
前記取引処理部は、証券提供側顧客の証券口座の証券を資金提供側顧客の証券口座に移し、資金提供側顧客の資金口座の資金を証券提供側顧客の資金口座に移すことによって前記顧客間取引を実行する、請求項3記載の証券決済装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金融技術(フィンテック)に関し、より詳細には証券決済技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金融機関等から業務受託し、資金及び債券(例えば、国債など)の決済サービスを提供するクリアリングバンクが金融機関等によって利用されている。このようなクリアリングバンクによるクリアリングサービスの1つとして、トライパーティレポがある。トライパーティレポとは、クリアリングバンク内に資金・証券口座を有する顧客に対して、顧客間のレポ取引の約定に基づく担保選定、決済、担保管理等の事務を包括的に提供するサービスである。レポ取引とは、債券と資金を相手方と交換し、一定期間後に返還する取引であり、例えば、現先取引、現担レポなどがある。
【0003】
例えば、
図1に示されるように、クリアリングバンクは、顧客金融機関A,Bとトライパーティ契約を締結し、顧客金融機関A,Bの間のレポ取引を実施する。顧客金融機関Aが資金提供側としてレポ取引を所望し、顧客金融機関Bが資金調達側としてレポ取引を所望していた場合、クリアリングバンクは、顧客金融機関の保有証券、担保受入・差入条件などの取引条件に基づき担保証券を選定し、選定した担保証券を資金調達側の証券口座から資金提供側の証券口座に移し、資金提供側の資金口座から資金調達側の資金口座に資金を移す。そして約定期間の経過後、クリアリングハウスは、担保証券を資金提供側の証券口座から資金調達側の証券口座に戻し、資金調達側の資金口座から資金提供側の資金口座に約定された返還額に相当する資金を移す。
【0004】
トライパーティレポによると、担保選定、決済、担保管理等の全てをクリアリングバンクが担うため、顧客の事務負担が少なく、また、保管振替機構などの証券決済機関を利用することなくクリアリングバンク内で決済が完了するため、証券決済期間の時間帯制約を受けない。また、クリアリングバンクで債券残高を把握することができるため、余剰債券を有効活用した資金調達スキームを提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、要求されるレポ取引の条件が必ずしも顧客金融機関の間で合致するとは限らず、合致するレポ取引要求がない場合、顧客間取引は実施できない。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明の課題は、レポ取引の可用性を向上させる証券決済技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、顧客の証券口座及び資金口座を管理する顧客口座管理部と、自行の資産を管理する資産管理部と、顧客からのレポ取引の取引要求に対して、前記レポ取引に対する相手側顧客が検出されなかった場合、前記レポ取引を前記自行の資産による対自行取引によって前記レポ取引を約定する取引処理部と、を有する証券決済装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、対自行取引を導入することによってレポ取引の成立機会が拡大し、顧客金融機関のレポ取引の可用性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の一実施例によるレポ取引約定処理を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施例による証券決済装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施例による証券決済装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施例による担保選定処理を示す図である。
【
図6】本発明の一実施例による証券決済処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
以下の実施例では、顧客金融機関等に証券決済サービスを提供する証券決済装置が開示される。
【0013】
後述される実施例を概略すると、証券決済装置100は、他の銀行、証券会社、信託銀行などの顧客に証券決済サービスを提供する銀行(自行)によって運営され、顧客端末200を介し各顧客と通信接続される。
図2に示されるように、顧客端末200Bから資金調達のためのレポ取引要求を受信すると、証券決済装置100は、資金提供を所望している他の顧客を探し、受信したレポ取引要求に合致した顧客を見つけた場合、顧客200Aと200Bとの間の顧客間取引によってレポ取引を実施する。他方、受信したレポ取引要求に合致した顧客を見つけることができなかった場合、証券決済装置100は、自行の資金による対自行取引によって当該レポ取引を実施する。
【0014】
これにより、レポ取引による資金調達を所望する顧客の取引成立機会が拡大し、例えば、緊急性の高い資金調達をサポートすることが可能になる。
【0015】
ここで、証券決済装置100は、例えば、
図3に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、証券決済装置100は、バスBを介し相互接続されるドライブ装置101、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU(Central Processing Unit)104、インタフェース装置105及び通信装置106を有する。
【0016】
証券決済装置100における後述される各種機能及び処理を実現するプログラムを含む各種コンピュータプログラムは、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などの記録媒体107によって提供されてもよい。プログラムを記憶した記録媒体107がドライブ装置101にセットされると、プログラムが記録媒体107からドライブ装置101を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体107により行う必要はなく、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータなどを格納する。メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムやデータを読み出して格納する。プロセッサとして機能するCPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムやプログラムを実行するのに必要なパラメータなどの各種データに従って、後述されるような証券決済装置100の各種機能及び処理を実行する。インタフェース装置105は、ネットワーク又は外部装置に接続するための通信インタフェースとして用いられる。通信装置106は、外部装置と通信するための各種通信処理を実行する。
【0017】
しかしながら、証券決済装置100は、上述したハードウェア構成に限定されるものでなく、他の何れか適切なハードウェア構成により実現されてもよい。
【0018】
まず、
図4を参照して、本発明の一実施例による証券決済装置100を説明する。例えば、証券決済装置100は他の銀行、証券会社、信託銀行などの顧客金融機関に証券決済サービスを提供する銀行(自行)のコンピュータシステム内に配置され、顧客端末200とのやりとりを介して証券決済サービスを提供する。
【0019】
図4は、本発明の一実施例による証券決済装置100の機能構成を示すブロック図である。
図4に示されるように、証券決済装置100は、顧客口座管理部110、資産管理部120及び取引処理部130を有する。
【0020】
顧客口座管理部110は、顧客の証券口座及び資金口座を管理する。例えば、顧客口座管理部110は、顧客金融機関の証券口座において、当該顧客金融機関が預けている債券などの有価証券の銘柄名、額面、時価総額、残存期間、売買履歴などを示す証券取引情報を管理し、顧客金融機関の資金口座において、当該顧客金融機関の決済用の資金の残高、入出金履歴などの資金情報を管理する。
【0021】
資産管理部120は、自行の資産を管理する。例えば、資産管理部120は、レポ取引用の自行の運用資金、有価証券などの資産を示す資産情報を管理する。
【0022】
取引処理部130は、顧客からのレポ取引(例えば、現先取引、現担レポなど)の取引要求に対して、自行の資産による対自行取引によってレポ取引を約定する。具体的には、ある顧客金融機関からレポ取引要求を受信すると、取引処理部130は、当該レポ取引に対する相手側の顧客金融機関があるか判断し、相手側の顧客金融機関が検出された場合、レポ取引を顧客間取引によって約定する。
【0023】
例えば、当該レポ取引が100億円を資金調達するための要求であった場合、取引処理部130は、資金提供側の顧客金融機関があるか検索する。例えば、これは、取引処理部130が各顧客金融機関に資金調達側からの100億円のレポ取引要求があったことを通知し、何れかの顧客金融機関から当該レポ取引要求に応じる旨の通知を受信できたか否によって判断されてもよい。
【0024】
そして、取引処理部130は、資金提供側の顧客金融機関から取得した担保受入条件と、資金調達側の顧客金融機関から取得した担保差入条件とに基づき、担保として供される証券の担保選定を実行する。例えば、担保受入条件は、1)担保債券の額面の大きいものから受け入れる、2)残存期間の長いものから受け入れる、3)最低額面が1億円以上である、4)最低残存期間が1年以上である、5)銘柄Cは受入不可である、などであってもよく、また、担保差入条件は、1)銘柄Eは差入不可である、などであってもよい。また、複数の条件が設定されている場合、各条件の優先順位を設定してもよい。ここでは、担保受入条件の1)及び2)がそれぞれ優先順位1,2に設定されている。
【0025】
例えば、資金提供側の顧客金融機関が、証券口座において
図5(a)に示されるような債券を保有している場合、取引処理部130は、担保受入条件及び担保差入条件に基づき、
図5(b)に示される銘柄A,D,F,Gを担保債券として選定する。そして、取引処理部130は、設定条件の優先順位を考慮して、
図5(c)に示されるような担保債券の優先順位を決定する。図示されたリストでは、銘柄G→銘柄D→銘柄A→銘柄Fの優先順位となる。取引処理部130は、この優先順位付けされたリストに基づき、現在の市場価格に基づく各銘柄の時価総額が100億円の資金調達額に相当するように、銘柄G,D,Aを担保債券として選定する。
【0026】
このようにして担保債券を選定すると、取引処理部130は、選定した担保債券を資金調達側の顧客金融機関の証券口座から資金提供側の顧客金融機関の証券口座に移し、100億円の資金を資金提供側の顧客金融機関の資金口座から資金調達側の顧客金融機関の資金口座に移す。当該レポ取引で定められた期日が到来すると、取引処理部130は、反対の取引を実行する。すなわち、取引処理部130は、移した担保債券を資金提供側の顧客金融機関の証券口座から資金調達側の顧客金融機関の証券口座に戻し、当該レポ取引で定められた返還額を資金調達側の顧客金融機関の資金口座から資金提供側の顧客金融機関の資金口座に移す。
【0027】
他方、相手側の顧客金融機関が検出されなかった場合、取引処理部130は、レポ取引を対自行取引によって約定する。例えば、取引処理部130が各顧客金融機関に資金調達側からの100億円のレポ取引要求があったことを通知したが、何れの顧客金融機関からも当該レポ取引要求に応じる旨の通知を受信できなかった場合、取引処理部130は、相手側となる顧客金融機関がないと判断してもよい。
【0028】
あるいは、何れかの顧客金融機関から当該レポ取引要求に応じる旨の通知を受信できたが、資金提供側及び資金調達側の双方の担保受入条件及び担保差入条件を充足する担保債券を選定できなかった場合、取引処理部130は、相手側となる顧客金融機関がないと判断してもよい。
【0029】
このとき、資金調達額を引き下げることによって担保債券を選定でき、引き下げられた取引額によってレポ取引を実行できる場合、取引処理部130は、資金調達額の引き下げを資金調達側の顧客金融機関に提示してもよい。これにより、資金調達側の顧客金融機関は、所望する一部の資金調達を行うことができ、所望する資金額の残りの部分については、別のレポ取引要求によって資金調達を図ることができる。
【0030】
また、担保選定の障害となっている担保受入条件及び/又は担保差入条件を資金提供側及び/又は資金調達側の顧客金融機関の顧客端末200に提示し、条件の変更を再考するよう促してもよい。また、取引処理部130は、金利の引き上げ等のレポ取引の取引条件の再考を顧客端末200を介し資金調達側の顧客金融機関に促してもよい。
【0031】
相手側の顧客金融機関が検出されなかった場合、取引処理部130は、要求されたレポ取引を自行の資産を利用した対自行取引によって約定する。具体的には、取引処理部130は、上述した顧客間取引における担保選定と同様に、資金調達側の顧客金融機関の証券口座から予め定められた自行の担保受入条件及び当該顧客金融機関の担保差入条件に基づき担保債券を選定し、選定した債券を資金調達側の顧客金融機関の証券口座から資産管理部120により管理されている自行の証券勘定に移し、調達資金を資産管理部120により管理されている自行の資金勘定から資金調達側の顧客金融機関の資金口座に移す。当該レポ取引で定められた期日が到来すると、取引処理部130は、移した担保債券を自行の証券勘定から資金調達側の顧客金融機関の証券口座に戻し、当該レポ取引で定められた返還額を資金調達側の顧客金融機関の資金口座から自行の資金勘定に移す。
【0032】
なお、資金調達側の顧客金融機関が所望する資金額の資金調達が当該顧客金融機関の証券口座で管理されている債券で賄えない場合、取引処理部130は、当該顧客金融機関が調達可能な最大資金額を顧客端末200を介し当該顧客金融機関に通知してもよい。あるいは、取引処理部130は、顧客端末200を介し担保差入条件の変更を促すようにしてもよい。あるいは、取引処理部130は、顧客端末200を介し更なる債券の証券口座への預入を促すようにしてもよい。
【0033】
次に、
図6を参照して、本発明の一実施例による証券決済処理を説明する。当該証券決済処理は、上述した証券決済装置100によって実現され、特に証券決済装置100のプロセッサがプログラムを実行することによって実現されうる。
図6は、本発明の一実施例による証券決済処理を示すフローチャートである。
【0034】
図6に示されるように、ステップS101において、証券決済装置100は、顧客金融機関からレポ取引要求を受信する。例えば、当該レポ取引要求は、調達希望の資金額、期間、金利等の取引条件を含んでもよい。
【0035】
ステップS102において、証券決済装置100は、相手側の顧客金融機関があるか判断する。具体的には、レポ取引要求を受信すると、証券決済装置100は、要求元の顧客金融機関以外の顧客金融機関に顧客端末200を介しレポ取引要求を受信したことを通知し、当該レポ取引の相手側になることを所望する顧客金融機関からの応答を待機する。
【0036】
何れかの顧客金融機関から応答があった場合(S102:YES)、証券決済装置100は、ステップS103において、担保選定を実行し、当該レポ取引を顧客間取引により約定する。他方、何れの顧客金融機関から応答がなかった場合、あるいは、応答はあったが担保受入条件及び担保差入条件を充足する担保債券が選定できなかった場合(S102:NO)、証券決済装置100は、ステップS104において、当該レポ取引を対自行取引によって約定する。
【0037】
なお、上述した実施例では、資金調達側から発信されたレポ取引要求に着目したが、本発明はこれに限定されず、例えば、資金提供側から発信されたレポ取引要求に適用されてもよい。
【0038】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
100 証券決済装置
110 顧客口座管理部
120 資産管理部
130 取引処理部
200 顧客端末