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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】製紙用経緯2層織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/10 20060101AFI20230821BHJP
【FI】
D21F1/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019168797
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046621
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】六川 勇
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-220891(JP,A)
【文献】特開2006-152462(JP,A)
【文献】特開2006-152498(JP,A)
【文献】特開2007-119957(JP,A)
【文献】特開2010-126862(JP,A)
【文献】特開2015-017340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0137720(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙面側に配置された上緯糸と、走行面側に配置された下緯糸と、前記上緯糸に織り込まれるとともに部分的に前記下緯糸に織り込まれた上経自接結糸と、前記下緯糸に織り込まれるとともに部分的に前記上緯糸に織り込まれた下経自接結糸とを備える製紙用経緯2層織物であって、
前記上経自接結糸及び前記下経自接結糸は、互いに隣り合うように1本ずつ交互に配置され、
前記製紙面側の層は、前記上経自接結糸が前記上緯糸を織り込む上織り込み部と、前記下経自接結糸が前記上緯糸を織り込む上接結部とを含み、
前記走行面側の層は、前記下経自接結糸が前記下緯糸を織り込む下織り込み部と、前記上経自接結糸が前記下緯糸を織り込む下接結部とを含み、
完全組織において、前記上接結部は各々の前記下経自接結糸に対して2以上の所定数設けられ、前記下接結部は各々の前記上経自接結糸に対して前記所定数設けられ、
任意の前記上経自接結糸は、前記下接結部の一部において、緯方向の一方に隣接する前記下経自接結糸の前記上接結部に隣接し、かつ、緯方向の他方に隣接する前記下経自接結糸の前記下織り込み部と同じ前記下緯糸を織り込み、前記下接結部の残部において、緯方向の前記一方に隣接する前記下経自接結糸の前記下織り込み部と同じ前記下緯糸を織り込み、かつ、緯方向の前記他方に隣接する前記下経自接結糸の前記上接結部に隣接することを特徴とする製紙用経緯2層織物。
【請求項2】
前記所定数が2であることを特徴とする請求項1に記載の製紙用経緯2層織物。
【請求項3】
前記完全組織が、32本の前記上緯糸、16本の前記下緯糸、8本の前記上経自接結糸及び8本の前記下経自接結糸によって構成され、
前記上経自接結糸は、前記下接結部において1本の前記下緯糸を織り込み、
前記下経自接結糸は、前記上接結部において1本の前記上緯糸を織り込むことを特徴とする請求項2に記載の製紙用経緯2層織物。
【請求項4】
前記上織り込み部は、平織りによって構成されることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の製紙用経緯2層織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙用経緯2層織物、特に抄紙機のワイヤーパート等でワイヤーとして使用される製紙用経緯2層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機のワイヤーパートにおいて使用される抄紙用ワイヤーは、製造される紙の品質向上や、製造速度の高速化による生産効率向上の要請に応えるため、皺なく蛇行せずに安定して走行する走行性、原料液から水をより多く除去する脱水性や通気性、表面の凹凸が転写して紙に残ることを抑制する表面性(紙面性)、目詰まりや粘着成分の付着を抑制する防汚性、摩耗に耐える耐摩耗等が求められている。
【0003】
ワイヤーとして経緯2層織物を使用すると、製紙面側織物層は表面性を重視した構造とし、走行面側織物層は耐摩耗性を重視した構造とすることにより、両特性を併せ持つワイヤーとなる。製紙面側織物層と走行面側織物層とは接結糸によって接合される。織物の組織を形成する糸と接結糸とを兼ねる糸を自接結糸という。
【0004】
主として上緯糸(製紙面側緯糸)に織り込まれ、接結部において下緯糸(走行面側緯糸)に織り込まれる上経自接結糸と、主として下緯糸に織り込まれ、接結部において上緯糸に織り込まれる下経自接結糸とが設けられる場合がある。この場合、通常、耐摩耗性を高めるため下緯糸を他の糸よりも太くしている。このような織物では、太い下緯糸を2本の経糸で支えるように、上経自接結糸とこれに隣接する下経自接結糸又は下経糸が同一の下緯糸を織り込むように配置される。このため、走行面側でこの2本の経糸が互いに密着し、他の隣接する下経自接結糸又は下経糸との間に経方向の全体に渡って隙間が生じる。織物に運搬される紙料はこの隙間で脱水されるため、製造される紙に経筋状のマークが生じる。
【0005】
このような問題を解消する様々な製紙用経緯2層織物が提案されている。例えば、特許文献1には、「下層面側層は、経糸が連続する4本の下層面側緯糸の上を通り、次に1本の下層面側緯糸の下を通り、次に2本の下層面側緯糸の上を通った後、1本の下層面側緯糸の下を通る組織を、下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置する繰返しにより構成され、隣り合う2本の下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで下層面側緯糸が下層面側表面に下層面側経糸6本分の緯糸ロングクリンプを形成すると同時に下層面側経糸が隣り合う左右の下層面側経糸と交互に隣接しながらジグザグ配置されていることを特徴とする工業用二層織物」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-057217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の手段により経筋状のマークが生じることが抑制されて紙面性が向上するが、更なる紙面性の向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、製紙面側に配置された上緯糸(2)と、走行面側に配置された下緯糸(3)と、前記上緯糸(2)に織り込まれるとともに部分的に前記下緯糸(3)に織り込まれた上経自接結糸(4)と、前記下緯糸(3)に織り込まれるとともに部分的に前記上緯糸(2)に織り込まれた下経自接結糸(5)とを備える製紙用経緯2層織物(1)であって、前記上経自接結糸(4)及び前記下経自接結糸(5)は、互いに隣り合うように1本ずつ交互に配置され、前記製紙面側層(6)は、前記上経自接結糸(4)が前記上緯糸(2)を織り込む上織り込み部(8)と、前記下経自接結糸(5)が前記上緯糸(2)を織り込む上接結部(9)とを含み、前記走行面側層(7)は、前記下経自接結糸(5)が前記下緯糸(3)を織り込む下織り込み部(10)と、前記上経自接結糸(4)が前記下緯糸(3)を織り込む下接結部(11)とを含み、完全組織において、前記上接結部(9)は各々の前記下経自接結糸(5)に対して2以上の所定数設けられ、前記下接結部(11)は各々の前記上経自接結糸(4)に対して前記所定数設けられ、任意の前記上経自接結糸(例えばNo.9´、以下、本段落の括弧内に記す経糸No.及び緯糸No.は、「任意の前記上経自接結糸」をNo.9´の上経自接結糸とした場合の番号である)は、前記下接結部(11)の一部(No.32の下緯糸(3)を織り込む部分)において、緯方向の一方に隣接する前記下経自接結糸(No.8´)の前記上接結部(No.31の上緯糸(2)を織り込む部分)に隣接し、かつ、緯方向の他方に隣接する前記下経自接結糸(No.10´)の前記下織り込み部(10)と同じ前記下緯糸(No.32)を織り込み、前記下接結部(11)の残部(No.8の下緯糸(3)を織り込む部分)において、緯方向の前記一方に隣接する前記下経自接結糸(No.8´)の前記下織り込み部(10)と同じ前記下緯糸(No.8)を織り込み、かつ、緯方向の前記他方に隣接する前記下経自接結糸(No.10´)の前記上接結部(No.7の上緯糸(2)を織り込む部分)に隣接することを特徴とする。ここで、上接結部(9)と下接結部(11)とが互いに「隣接」するとは、製紙面側層の組織を上接結部(9)が補完し、走行面側の組織を下接結部(11)が補完するように、互いに隣り合う上経自接結糸(4)及び下経自接結糸(5)において、下経自接結糸(5)に織り込んでいる上緯糸(2)に最も近接する下緯糸(3)が、上経自接結糸(4)が織り込んでいる下緯糸(3)であることを意味する。
【0009】
この構成によれば、上経自接結糸は、緯方向の一方に隣接する下経自接結糸と同じ下緯糸を織り込む部分と、緯方向の他方に隣接する下経自接結糸と同じ下緯糸を織り込む部分とを有するため、下緯糸から緯方向の一方に向けて力を受ける部分と他方に向けて力を受ける部分とを有する。このため、上経自接結糸及び下経自接結糸の緯方向の配置が均質化するため、紙面性が向上する。また、適度な筋曲がりが生じるため、織物の丈が長くても走行が安定する。
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記所定数が2であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、比較的簡易な構成で製紙用経緯2層織物を作成できる。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記完全組織が、32本の前記上緯糸(2)、16本の前記下緯糸(3)、8本の前記上経自接結糸(4)及び8本の前記下経自接結糸(5)によって構成され、前記上経自接結糸(4)は、前記下接結部(11)において1本の前記下緯糸(3)を織り込み、前記下経自接結糸(5)は、前記上接結部(9)において1本の前記上緯糸(2)を織り込むことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、更に簡易な構成で製紙用経緯2層織物を作成できる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記上織り込み部(8)は、平織りによって構成されることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、上織り込み部が平織りであることによって紙面性が向上する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紙面性の向上した製紙用経緯2層織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る製紙用経緯2層織物を製紙面側から見た説明図
図2】実施形態に係る製紙用経緯2層織物の経方向断面(緯方向に直交する断面)を示す図
図3】実施形態に係る製紙用経緯2層織物の製紙面側の写真
図4】比較例に係る製紙用経緯2層織物の経方向断面(緯方向に直交する断面)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1図3は、実施形態に係る製紙用経緯2層織物(以下、単に「織物」と記す)1を示す。織物1は、抄紙機のワイヤーパート(ウェットパート)において、紙料(液)から湿紙を形成するためのワイヤーとして使用される。織物1は、抄紙機のロールに掛けられ、ロールの回転に応じて走行する。織物1の紙料及び湿紙と接触する面を製紙面、製紙面と相反する側の面を走行面という。以下の説明において、製紙面側を上、走行面側を下と記す。
【0019】
織物1は、製紙面側に配置された上緯糸2と、走行面側に配置された下緯糸3と、上緯糸2に織り込まれるとともに部分的に下緯糸3に織り込まれた上経自接結糸4と、下緯糸3に織り込まれるとともに部分的に上緯糸2に織り込まれた下経自接結糸5とを備える。織物1の組織は、完全組織を基礎としてその繰り返しによって構成されるが、その完全組織は、32本の上緯糸2、16本の下緯糸3、8本の上経自接結糸4及び8本の下経自接結糸5によって構成される。図1及び図2において、No.3m-2及び3mの緯糸が上緯糸2であり、No.3m-1の緯糸が下緯糸3である(mは1~16の整数)。また、No.2n-1´の経糸が上経自接結糸4であり、経糸No.2n´の経糸が下経自接結糸5である(nは1~8の整数)。
【0020】
上緯糸2と下緯糸3との本数の比は2:1である。また、下緯糸3は上緯糸2よりも太い。上経自接結糸4と下経自接結糸5とは、互いに隣り合うように1本ずつ交互に配置される。上経自接結糸4と下経自接結糸5とは、互いに同じ太さであることが好ましい。
【0021】
織物1は、製紙面側層6及び走行面側層7の2つの層を含む。製紙面側層6は、上経自接結糸4が上緯糸2を織り込む上織り込み部8と、下経自接結糸5が上緯糸2を織り込む上接結部9とを含む。走行面側層7は、下経自接結糸5が下緯糸3を織り込む下織り込み部10と、上経自接結糸4が下緯糸3を織り込む下接結部11とを含む。ここで、上経自接結糸4又は下経自接結糸5が上緯糸2を織り込むとは、上経自接結糸4又は下経自接結糸5がその前後で上緯糸2の下を通っている部分で1又は連続する複数の上緯糸2の上を通ることを意味し、上経自接結糸4又は下経自接結糸5が下緯糸3を織り込むとは、上経自接結糸4又は下経自接結糸5がその前後で下緯糸3の上を通っている部分で1又は連続する複数の下緯糸3の下を通ることを意味する。
【0022】
上経自接結糸4は、上織り込み部8では平織りで上緯糸2に織り込まれ、この区間では下緯糸3に織り込まれていない。また、上経自接結糸4は、下接結部11では1本の下緯糸3に織り込まれ、この区間では上緯糸2に織り込まれていない。具体的には、上経自接結糸4は、7本の下緯糸3の上で上緯糸2に平織りで織り込まれた後、1本の下緯糸3を織り込むパターンを繰り返している。例えば、No.9´の上経自接結糸4に着目すると、平織りが続いていればNo.9´の上経自接結糸4が織り込むはずのNo.7及び31の上緯糸2を織りこまず、その斜め下方に配置されたNo.8及び32の下緯糸3を織り込んでいる。No.2n+1´の上経自接結糸4(No.17´はNo.1´とみなす)は、No.2n-1´の上経自接結糸4に比べて、3本の下緯糸3の分だけ緯糸No.が大きい方(図1の下方、図2の右方)にずれた位置で下緯糸3を織り込んでいる。
【0023】
完全組織において、下経自接結糸5は、2箇所で1本の上緯糸2を織り込み、2箇所で1本の下緯糸3を織り込んでおり、その他の部分は上緯糸2と下緯糸3との間を通っている。例えば、No.10´の下経自接結糸5は、No.7及び42の上緯糸2を織り込み、No.17及び32の下緯糸3を織り込んでいる。
【0024】
1本の上経自接結糸4とその両隣の下経自接結糸5との関係について説明する。例えば、No.9´の上経自接結糸4は、緯方向の一方においてNo.8´の下経自接結糸5と隣接し、緯方向の他方においてNo.10´の下経自接結糸5と隣接している。No.9´の上経自接結糸4は、No.32の下緯糸3を織り込んでいる下接結部11において、No.8´の下経自接結糸5におけるNo.31の上緯糸2を織り込んでいる上接結部9に隣接し、かつ、No.10´の下経自接結糸5の一方の下織り込み部10と同じNo.32の下緯糸3を織り込んでいる。また、No.9´の上経自接結糸4は、No.8の下緯糸3を織り込んでいる下接結部11において、No.8´の下経自接結糸5の一方の下織り込み部10と同じNo.8の下緯糸3を織り込み、かつ、No.10´の下経自接結糸5におけるNo.7の上緯糸2を織り込んでいる上接結部9に隣接する。
【0025】
このような関係が任意の上経自接結糸4について成り立つ。すなわち、No.2n-1´の上経自接結糸4は、下接結部11の一方において、緯方向の一方に隣接するNo.2n-2´の下経自接結糸5の一方の上接結部9に隣接し、かつ、緯方向の他方に隣接するNo.2n´の下経自接結糸5の一方の下織り込み部10と同じ下緯糸3を織り込み、下接結部11の他方において、No.2n-2´の下経自接結糸5の一方の下織り込み部10と同じ下緯糸3を織り込み、かつ、No.2n´の下経自接結糸5の一方の上接結部9に隣接する(経糸No.0´の経糸は隣接する他の完全組織のNo.16´の下経自接結糸5である)。
【0026】
ここで、上接結部9と下接結部11とが互いに「隣接する」とは、互いに隣り合う上経自接結糸4及び下経自接結糸5において、下経自接結糸5が織り込んでいる上緯糸2に最も近接する下緯糸3が、上経自接結糸4が織り込んでいる下緯糸3であることを意味する。この時、製紙面側層6の組織を上接結部9が補完し、走行面側層7の組織を下接結部11が補完している。図1及び図3において二点鎖線で囲った部分は、このような補完関係となっている部分のいくつかを示す。
【0027】
上記の1本の上経自接結糸4とその両隣の下経自接結糸5との関係を、1本の下経自接結糸5とその両隣の上経自接結糸4との関係に置き換えて説明する。例えば、No.10´の下経自接結糸5は、緯方向の一方においてNo.9´の上経自接結糸4と隣接し、緯方向の他方においてNo.11´の上経自接結糸4と隣接している。No.10´の下経自接結糸5は、No.7の上緯糸2を織り込んでいる上接結部9において、No.9´の上経自接結糸4におけるNo.8の下緯糸3を織り込んでいる下接結部11に隣接し、かつ、No.42の上緯糸2を織り込んでいる上接結部9において、No.11´の上経自接結糸4におけるNo.41の下緯糸3を織り込んでいる下接結部11に隣接する。また、No.10´の下経自接結糸5は、No.9´の上経自接結糸4における一方の下接結部11と同じNo.32の下緯糸3を織り込み、No.11´の上経自接結糸4における一方の下接結部11と同じNo.17の下緯糸3を織り込んでいる。
【0028】
このような関係が任意の下経自接結糸5について成り立つ。すなわちNo.2n´の下経自接結糸5は、一方の上接結部9において、No.2n-1´の上経自接結糸4の下接結部11の一方に隣接し、かつ、他方の上接結部9において、No.2n+1´の上経自接結糸4の下接結部11の一方に隣接する。また、No.2n´の下経自接結糸5は、No.2n-1´の上経自接結糸4における一方の下接結部11と同じ下緯糸3を織り込み、No.2n+1´の上経自接結糸4における一方の下接結部11と同じ下緯糸3を織り込んでいる(経糸No.17´の経糸は隣接する他の完全組織のNo.1´の上経自接結糸4である)。
【0029】
上緯糸2、下緯糸3、上経自接結糸4及び下経自接結糸5の形態は特に限定されないが、モノフィラメントの単糸及び撚糸を用いることができ、特に単糸を用いることが好ましい。更に、各糸は捲縮加工や嵩高加工等を施した加工糸でもよく、非加工糸であってもよい。これらの中では非加工糸が好ましい。
【0030】
上緯糸2、下緯糸3、上経自接結糸4及び下経自接結糸5を構成する材料は特に限定されないが、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等であってよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上緯糸2、下緯糸3、上経自接結糸4及び下経自接結糸5は、互いに同一材料から構成されても、異なる材料から構成されてもよい。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーが含有されていてもよい。
【0031】
次に、図1図3に示す織物1の作用効果を、図4に示す比較例に係る織物1aと比較して説明する。
【0032】
比較例に係る織物1aの完全組織は、20本の上緯糸2a、10本の下緯糸3a、2本の上経自接結糸4a及び2本の下経自接結糸5aによって構成される。互いに隣接するNo.1´の上経自接結糸4aとNo.2´の下経自接結糸5aとが互いに組織を補完しており、互いに隣接するNo.3´の上経自接結糸4aとNo.4´の下経自接結糸5aとが互いに組織を補完している。また、互いに隣接するNo.2´の下経自接結糸5aとNo.3´の上経自接結糸4aとがNo.20の下緯糸3aを織り込んでおり、互いに隣接するNo.4´の下経自接結糸5aとNo.1´の上経自接結糸4aとがNo.5の下緯糸3aを織り込んでいる。
【0033】
比較例に係る織物1aでは、同じ下緯糸3aを織り込む互いに隣り合う経糸が、No.2´の下経自接結糸5a及びNo.3´の上経自接結糸4aの組み合わせと、No.4´の下経自接結糸5a及びNo.1´の上経自接結糸4aの組み合わせとである。各組み合わせにおいて、同じ下緯糸3aを織り込む部分で、屈曲した下緯糸3aから互いに近接する方向に力を受ける。このため、同じ下緯糸3aを織りこんで互いに隣接する上経自接結糸4a及び下経自接結糸5aは密着し、No.1´の上経自接結糸4aとNo.2´の下経自接結糸5aと隙間、及びNo.3´の上経自接結糸4aとNo.4´の下経自接結糸5aとの隙間が広くなる。織物1aに運搬される紙料はこの隙間から脱水されるため、製造される紙に経筋状のマークが生じやすい。
【0034】
一方、実施形態に係る織物1では、任意の上経自接結糸4は、緯方向の一方に隣接する下経自接結糸5とともに同じ下緯糸3を織り込む部分と、緯方向の他方に隣接する下経自接結糸5とともに同じ下緯糸3を織り込む部分とを含む。すなわち、上経自接結糸4は、同じ下緯糸3を織り込んでいる部分で、それぞれ、その下緯糸3からその下緯糸3を織り込んでいる下経自接結糸5に向かう力を受ける。このため、上経自接結糸4において、全体が緯方向の何れかに寄るのではなく、緯方向の一方に寄る部分と緯方向の他方に寄る部分とが生じる。従って、上経自接結糸4及び下経自接結糸5の緯方向の配置も均質化され、生じる隙間が分散する。従って、脱水箇所が分散して、紙面性が向上する。
【0035】
また、実施形態に係る織物1では、上緯糸2と上経自接結糸4とによって形成される製紙面側層6の組織は、一部ではその上経自接結糸4に対して緯方向の一方に隣接する下経自接結糸5によって補完され、残部ではその上経自接結糸4に対して緯方向の他方に隣接する下経自接結糸5によって補完される。このように1本の上経自接結糸4とその両隣の下経自接結糸5とが、1本の上経糸のように製紙面側層6の組織を構成する。同様に、下緯糸3と下経自接結糸5とによって形成される走行面側層7の組織は、一部ではその下経自接結糸5に対して緯方向の一方に隣接する上経自接結糸4によって補完され、残部ではその下経自接結糸5に対して緯方向の他方に隣接する上経自接結糸4に補完される。このように1本の下経自接結糸5とその両隣の上経自接結糸4とが、1本の下経糸のように走行面側層7の組織を構成する。このように、全ての経糸が自接結糸であることにより織物1の全体で組織が補完されるため、織物1の表面が均一になり、紙面性が向上する。
【0036】
比較例に係る織物1aでは、上経自接結糸4aと下経自接結糸5aとが2つ1組となるため、筋曲がりしないことによって偏摩耗が抑制されるという利点がある。しかし、丈の長いワイヤーが筋曲がりしないと、走行中に緯方向の一方に偏るおそれがある。実施形態に係る織物1では、上経自接結糸4と組をなす下経自接結糸5が左右交互に入れ替わるため、適度な筋曲がりが生じることによって走行が安定する。
【0037】
完全組織が、32本の上緯糸2、16本の下緯糸3、8本の上経自接結糸4及び8本の下経自接結糸5によって構成されることによって、比較的簡易な構成で織物1を製造できる。また、完全組織において、各々の上経自接結糸4及び下経自接結糸5に対して、下接結部11及び上接結部9の数を2つとすることによって、比較的簡易な構成で織物1を製造できる。
【0038】
上織り込み部8を平織りとすることによって、紙面性が向上する。また、紙料及び湿紙を支持する上緯糸2を細くし、抄紙機のロールから力を受ける下緯糸3を太くすることにより、紙面性と耐摩耗性が両立する。
【0039】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。完全組織における上接結部9及び下接結部11の数は、互いに同数であれば3以上としてもよい。製紙面側層6の組織は平織り以外の組織(例えば、3/1崩織や2/2斜織)でもよく、走行面側層7の組織の下緯糸3を織り込む間隔を変更してもよい。上経自接結糸4及び下経自接結糸5は、2本以上の連続する上緯糸2及び下緯糸3を織りこんでもよい。
【符号の説明】
【0040】
1:製紙用経緯2層織物
2:上緯糸
3:下緯糸
4:上経自接結糸
5:下経自接結糸
6:製紙面側層
7:走行面側層
8:上織り込み部
9:上接結部
10:下織り込み部
11:下接結部
図1
図2
図3
図4