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特許7334100製紙用シームフェルト用基布及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】製紙用シームフェルト用基布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20230821BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230821BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20230821BHJP
   D21F 7/10 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D03D1/00 D
D03D11/00 Z
D21F7/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019172379
(22)【出願日】2019-09-23
(65)【公開番号】P2021050425
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝也
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280647(JP,A)
【文献】特開平01-033295(JP,A)
【文献】国際公開第2009/022636(WO,A1)
【文献】特開2007-138347(JP,A)
【文献】特開昭62-250252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ上下2層に配置された経糸及び前記経糸に織り込まれた緯糸を含み、互いに重なるように結合された第1基布及び第2基布を備える製紙用シームフェルト用基布の製造方法であって、
経方向長さが互いに等しい2枚1組の織物を複数組製織する製織ステップであって、各組の2枚の前記織物は、前記緯糸を整経糸とし、前記経糸を打ち込み糸として、前記緯糸に平行に配置された第1製織用芯線及び第2製織用芯線で折り返してループを形成するように前記経糸を打ち込み、各組における2枚の前記織物の前記経糸を同一の前記第1製織用芯線及び前記第2製織用芯線で折り返して製織する製織ステップと、
前記第1製織用芯線及び前記第2製織用芯線を前記織物から取り除くステップと、
各組における一方の前記織物の前記ループを互いに連結して前記経方向に両端部を有する前記第1基布を作成するとともに、各組における他方の前記織物の前記ループを互いに連結して前記経方向に両端部を有する前記第2基布を作成する連結ステップと、
前記第1基布及び前記第2基布を互いに重ね合わせるステップと
を備え、
前記製織ステップは、前記経糸を前記第1製織用芯線において前記第1製織用芯線に直交する面に沿って折り返すことと、前記経糸を前記第2製織用芯線において前記第2製織用芯線に直交する面に対して緯方向に傾斜するように折り返すこととを含み、
前記連結ステップは、前記第1基布及び前記第2基布の前記両端部に前記第1製織用芯線で形成された前記ループを配置するように前記織物を連結することを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
少なくとも1組の前記織物の前記経方向の長さは、少なくとも他の1組の前記織物の前記経方向の長さと異なることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記連結ステップでは、前記第1基布の一方の端部から前記織物同士の連結部までの距離が、前記第2基布の同じ側の端部から前記織物同士の連結部までの距離と異なるように前記織物が連結されることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記重ね合せるステップは、前記第1基布及び前記第2基布を前記両端部の双方又は一方の近傍において互いに連結することを含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
各々の前記織物は、前記経糸及び前記緯糸の素材、構造、太さ及び本数において互いに等しいことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1基布及び前記第2基布の一方の前記経糸は撚り糸によって構成され、前記第1基布及び前記第2基布の他方の前記経糸はモノフィラメントによって構成されたことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
それぞれ上下2層に配置された経糸及び前記経糸に織り込まれた緯糸を含み、互いに重なるように結合された第1基布及び第2基布を備える製紙用シームフェルト用基布であって、
前記第1基布及び前記第2基布は、それぞれ、経方向に互いに連結された互いに同一の数の織物を含み、
前記第1基布に配置された前記織物の各々は、前記第2基布に配置された前記織物の何れかと組をなし、組をなす2枚の前記織物の前記経方向の長さは互いに等しく、
前記織物は、前記経糸が前記織物の厚さ方向に整合するように折り返されて形成された正規ループを前記経方向の一方の端部に有し、前記経糸が前記厚さ方向に対して緯方向にずれるように折り返されて形成された馬鹿耳ループを前記経方向の他方の端部に有し、
前記第1基布及び前記第2基布は、両端部に前記正規ループが配置されていることを特徴とする製紙用シームフェルト用基布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、上下2層に配置された経糸を含む基布を2枚重ねて形成された製紙用シームフェルト用基布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトは、抄紙機やパルプマシン等における湿紙から水分を機械的に搾るプレスパートで、湿紙の運搬及び搾水のために使用される。
【0003】
フェルトを抄紙機に取り付ける際の作業性を向上させるため、フェルトの走行経路、いわゆるフェルトランに有端のフェルトを引き込んだ上でその両端部を互いに連結して無端とする、いわゆるシームフェルトが広く普及している。この種のシームフェルトでは、基布を構成する経糸の折り返しにより経方向の両端部に形成されたループを互いのループ孔が整合するように交互に配置し、ループ孔に芯線を通して両端部を連結する構成が一般的である。
【0004】
上下2層に配置された経糸を含む第1基布と同様の構造の第2基布とを互いに重ねた基布が、このようなシームフェルト用の基布として使用されることがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、製織方法の1つとして袋製織方法が挙げられる。この方法では、製品の緯糸を整経糸とし、製品の経糸を打ち込み糸として、整経糸を織り込みながら1周させた打ち込み糸を1本の製織用芯線(耳糸)で折り返し、整経糸を織り込みながら打ち込み糸を反対周りに1周させた後その製織用芯線で反対側から折り返すことを繰り返す製織方法である(例えば、特許文献2参照)。この方法では、製織用芯線での折り返しの一方では上下の打ち込み糸が互いに上下に整合し、他方では上下の打ち込み糸が互いに緯方向にずれるように打ち込み糸を折り返すことにより、1本の打ち込み糸から上下2列の複数の経糸が形成される。このため、製織用芯線に一側の折り返しで形成されたループは緯方向に直交する面に沿っているが、他側の折り返しで形成されたループはその面に対して緯方向に傾斜する(いわゆる、「馬鹿耳ループ」となる)。馬鹿耳ループのこの傾斜によって、ループの連結が難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-69776号公報
【文献】特開平1-33295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような製紙用シームフェルト用基布では、第1基布と第2基布との丈(経方向の長さ)を揃える必要がある。特に丈が長くなるほど、丈を揃えて第1及び第2基布を製作することは難しい。
【0008】
第1及び第2基布の丈を揃えて、第1基布及び第2基布を製造する方法として、袋製織方法で両側耳にシームループを形成して、第1基布及び第2基布を製織する方法がある。すなわち、製品の緯糸を整経糸とし、製品の経糸を打ち込み糸として、互いに平行に配置された2本の製織用芯線(耳糸)で経糸を折り返して基布を作成する。第1基布及び第2基布の経糸が互いに同一の製織用芯線で折り返すことによって、第1及び第2基布の丈が揃う。
【0009】
しかし、この方法では、織機の幅までの丈の基布しか製作できないという問題があった。また、この方法では、一方の製織用芯線の近傍では上下の経糸が互いに上下に整合し、他方の製織用芯線の近傍では上下の経糸が互いに緯方向にずれるように経糸を折り返すことにより、1本の打ち込み糸から上下2列の複数の経糸が形成される。このため、一方の製織用芯線で形成されたループは緯方向に直交する面に沿っているが、他方の製織用芯線で形成されたループはその面に対して緯方向に傾斜した馬鹿耳ループとなる。この傾斜のため、両ループを互いに連結することが難しくなる。この問題を解決するために、馬鹿耳ループの近傍に上下経緯糸がそれぞれ存在するようなラミネート形状にすることで、後工程の熱セットにより馬鹿耳ループを緯方向に直交させることが考えられた。しかし、この方法で緯方向に直交するように矯正された馬鹿耳ループは時間が経過すると、元に戻るという問題があった。すなわち、フェルトの製造工場から出荷する時に馬鹿耳ループが緯方向に直交していても、抄紙機等に取り付ける際には馬鹿耳ループが傾斜した状態に戻っており、ループの連結が難しかった。
【0010】
このような問題に鑑み、本発明は、丈を長くすることができ、かつシームループの連結が容易な製紙用シームフェルト用基布及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、それぞれ上下2層に配置された経糸(10)及び前記経糸に織り込まれた緯糸(9)を含み、互いに重なるように結合された第1基布(4)及び第2基布(5)を備える製紙用シームフェルト用基布(2)の製造方法であって、経方向長さが互いに等しい2枚1組の織物(8)を複数組製織する製織ステップであって、各組の2枚の前記織物は、前記緯糸を整経糸とし、前記経糸を打ち込み糸として、前記緯糸に平行に配置された第1製織用芯線及び第2製織用芯線で折り返してループ(13,14)を形成するように前記経糸を打ち込み、各組における2枚の前記織物の前記経糸を同一の前記第1製織用芯線及び前記第2製織用芯線で折り返して製織する製織ステップと、前記第1製織用芯線及び前記第2製織用芯線を前記織物から取り除くステップと、各組における一方の前記織物の前記ループを互いに連結して前記経方向に両端部を有する前記第1基布を作成するとともに、各組における他方の前記織物の前記ループを互いに連結して前記経方向に両端部を有する前記第2基布を作成する連結ステップと、前記第1基布及び前記第2基布を互いに重ね合わせるステップとを備え、前記製織ステップは、前記経糸を前記第1製織用芯線において前記第1製織用芯線に直交する面に沿って折り返すことと、前記経糸を前記第2製織用芯線において前記第2製織用芯線に直交する面に対して緯方向に傾斜するように折り返すこととを含み、前記連結ステップは、前記第1基布及び前記第2基布の前記両端部に前記第1製織用芯線で形成された前記ループ(13)を配置するように前記織物を連結することを含むことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、2枚1組で織物を製織するため各組の織物の丈(経方向長さ)が揃い、織物を連結させた第1基布及び第2基布の丈も揃う。また、第1基布及び第2基布の両端部には、緯方向に直交する面に沿ったループが配置されるため、両端部を容易に連結することができる。また、複数の織物を連結して第1基布及び第2基布が作成されるため、織機の幅に制限されずに第1基布及び第2基布の丈を設定することができる。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、少なくとも1組の前記織物の前記経方向の長さは、少なくとも他の1組の前記織物の前記経方向の長さと異なることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、経方向の長さの異なる織物を連結することにより、第1基布及び第2基布の丈を所望の値に設定し易くなる。
【0015】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記連結ステップでは、前記第1基布の一方の端部から前記織物同士の連結部までの距離が、前記第2基布の同じ側の端部から前記織物同士の連結部までの距離と異なるように前記織物が連結されることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、フェルト(1)において、段差が生じる織物同士の連結部が互いに重ならないため、製造される紙に付くマークを抑制できる。
【0017】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記重ね合せるステップは、前記第1基布及び前記第2基布を前記両端部の双方又は一方の近傍において互いに連結することを含むことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、バット層(3)のニードリング中やフェルトの使用中に、第1基布及び第2基布が互いに大きくずれることが防止される。
【0019】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、各々の前記織物は、前記経糸及び前記緯糸の素材、構造、太さ及び本数において互いに等しいことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第1基布と第2基布との間において、経糸及び緯糸の構成を互いに同一とすることで、織物の製織が容易となり、また、各組の2枚の織物は第1基布用のものと第2基布用のものとに区別されないため、織物の連結を間違うリスクが減る。
【0021】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成に代えて、前記第1基布及び第2基布の一方の前記経糸は撚り糸によって構成され、前記第1基布及び前記第2基布の他方の前記経糸はモノフィラメントによって構成されたことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、製紙用機械に取り付けられたときに、経糸が撚り糸の基布層が外側に配置された場合は、基布のマークが軽減し、内側に配置された場合は、バットとの絡みが良くなり、ライフアップが可能になる。
【0023】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、それぞれ上下2層に配置された経糸(10)及び前記経糸に織り込まれた緯糸(9)を含み、互いに重なるように結合された第1基布(4)及び第2基布(5)を備える製紙用シームフェルト用基布であって、前記第1基布及び前記第2基布は、それぞれ、経方向に互いに連結された互いに同一の数の織物(8)を含み、前記第1基布に配置された前記織物の各々は、前記第2基布に配置された前記織物の何れかと組をなし、組をなす2枚の前記織物の前記経方向の長さは互いに等しく、前記織物は、前記経糸が前記織物の厚さ方向に整合するように折り返されて形成された正規ループ(13)を前記経方向の一方の端部に有し、前記経糸が前記厚さ方向に対して緯方向にずれるように折り返されて形成された馬鹿耳ループ(14)を前記経方向の他方の端部に有し、前記第1基布及び前記第2基布は、両端部に前記正規ループが配置されていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、複数の織物を連結することにより、織機の幅に制限されずに第1基布及び第2基布の丈(経方向長さ)を設定できる。また、第1基布及び第2基布の両端部のループが正規ループであるため両端部を容易に連結することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、丈を長くすることができ、かつシームループの連結が容易な製紙用シームフェルト用基布及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る製紙用シームフェルトの斜視図
図2】実施形態に係る製紙用シームフェルト用基布の製造方法を示す説明図
図3】実施形態に係る製紙用シームフェルト用基布の製造方法を示す説明図
図4】実施形態に係る製紙用シームフェルト用基布の製造方法を示す説明図
図5】実施形態に係る製紙用シームフェルトの使用方法を示す説明図
図6】実施形態に係る製紙用シームフェルトの使用方法を示す説明図
図7】第1変形例に係る製紙用シームフェルト用基布を示す説明図
図8】第2変形例に係る製紙用シームフェルト用基布を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0028】
図1は実施形態に係る製紙用シームフェルト(以下、単に「フェルト」と記す)1を示す。フェルト1は、製紙用シームフェルト用基布(以下、単に「基布」と記す)2と、短繊維からなるバット層3とをニードリングによって一体化して形成される。フェルト1は丈方向(機械方向)に無端状とされて抄紙機に取り付けられ、外側が湿紙を載置する製紙面側となり、内側が走行面側となる。
【0029】
基布2は、製紙面側に配置された第1基布4と、第1基布4に結合されて走行面側に配置された第2基布5とを備える。第1基布4及び第2基布5は、丈方向の両端部にシームループ6を有する。第1基布4が外側、第2基布5が内側になるように、フェルトランにフェルト1を引き込んだ上で、第1基布4の両端部のシームループ6同士、第2基布5の両端部のシームループ6同士を互いに整合するように交互に配置し、シームループ6内に芯線7を通すことにより、両端部が連結されてフェルト1が無端状になる(図6参照)。
【0030】
図2図6は、基布2の製造方法を示す。まず、図2に示すように、丈が互いに等しい2枚1組の織物8を複数組製織する。図2では2組の織物8を示しているが、3組以上製織してもよい。織物8は、緯糸9を整経糸、経糸10を打ち込み糸として製織される。緯糸9は、製造されたフェルト1において幅方向(機械直交方向)に沿って延在する糸であり、経糸10は、製造されたフェルト1において丈方向に沿って延在する糸である。織機の幅方向の両端部には、第1製織用芯線11及び第2製織用芯線12が、緯糸9と平行に配置されている。経糸10が取り付けられたシャットル(図示せず)が、第1製織用芯線11及び第2製織用芯線12で折り返されながら整経糸である緯糸9に織り込まれることにより織物8が製織される。この時、同一の組における一方の織物8を織るためのシャットルと、他方の織物8を織るためのシャットルとは、互いに同一の第1製織用芯線11及び第2製織用芯線12で折り返されるとともに、互いに異なる緯糸9を織り込む。
【0031】
織物8は、経糸10が上下2層からなる経2重織組織をなす。第1製織用芯線11においては、経糸10は第1製織用芯線11に直交する面に沿って折り返される。このため、第1製織用芯線11で形成されるループは、緯方向に直交する面に沿って延在する正規ループ13となる。換言すると、正規ループ13では、折り返しの前後の部分が上下(織物8の厚さ方向)に整合している。一方、第2製織用芯線12においては、経糸10は、折り返し前の部分よりも折り返し後の部分が緯方向にずれるように折り返される。これは、打ち込み糸を1周させる毎に緯方向にずらして行くことによって、1本の打ち込み糸から互いに平行な複数の経糸10を生じさせるためである。このため、第2製織用芯線12で形成されるループは、組織変わり部であって、緯方向に直交する面に対して緯方向に傾斜した馬鹿耳ループ14となる。
【0032】
織物8が製織されたら、第1製織用芯線11及び第2製織用芯線12を取り除いて、各組の織物8を互いに分離する(図3)。なお、図3図8では、緯糸9の図示を省略している。
【0033】
次に、図4に示すように、織物8を連結して第1基布4及び第2基布5を作成する。ここで、第1基布4は、各組の一方の織物8を連結することによって作成され、第2基布5は、各組の他方の織物8を連結することによって作成される。また、織物8の連結は、馬鹿耳ループ14同士を互いに整合するように交互に配置し、交互に配置された馬鹿耳ループ14内に芯線7を通すことによってなされる。馬鹿耳ループ14同士で連結されるため、第1基布4及び第2基布5の両端部であるシームループ6は正規ループ13となる。なお、3枚以上の織物8を連結して第1基布4及び第2基布5を作成する場合は、第1基布4及び第2基布5のシームループ6が正規ループ13となるようにすれば、織物8同士の連結は、馬鹿耳ループ14同士の連結、正規ループ13及び馬鹿耳ループ14の連結、並びに正規ループ13同士の連結の何れでもよい。なお、織物8同士を連結する前に、馬鹿耳ループ14が緯方向に直交する面に沿って延在するように馬鹿耳ループ14に対して熱処理を行うことが好ましく、このように処理することにより、馬鹿耳ループ14の連結が容易になる。
【0034】
次に、第1基布4と第2基布5とを互いに重ね合わせる。この時、第1基布4のシームループ6と第2基布5のシームループ6との経方向のずれは、0mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。第1基布4及び第2基布5の一方の端部又は両端部の近傍をミシン等により互いに固定し、第1基布4及び第2基布5が互いにずれないようにすることにより基布2が完成する。基布2に対して短繊維からなるバット層3をニードリングによって一体化することによりフェルト1が製造される。なお、図5及び図6ではバット層3の図示を省略している。
【0035】
このように製造されたフェルト1は、図5に示すように、両端部が対向するように抄紙機のフェルトランに引き込まれて、図6に示すように、第1基布4の両端部のシームループ6同士、第2基布5の両端部のシームループ6同士が互いに整合するように互いに配置され、シームループ6内に芯線7が通されることにより、無端状になる。
【0036】
第1基布4における経糸10及び緯糸9の素材、形状、太さ及び本数は、第2基布5におけるものと同一である。なお、経糸10については、太さを略同一とすれば、第1基布4と第2基布5とで形状を変えてもよい。例えば、第1基布4及び第2基布5の一方の経糸10を3本片撚り糸とし、第1基布4及び第2基布5の他方の経糸10をモノフィラメントとし、これらの番手又はデニールを略同一のものとしてもよい。芯線7、緯糸9及び経糸10の素材として、ナイロン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂を使用できる。
【0037】
基布2の作用効果について説明する。
【0038】
組をなす2枚の織物8は、互いに同一の第1製織用芯線11及び第2製織用芯線12で折り返されるため、丈を揃えることができる。各組において2枚の織物8の丈が揃っており、各組の一方の織物8が第1基布4に使用され、各組の他方の織物8が第2基布5に使用されるため、第1基布4と第2基布5との丈が互いに揃う。また、複数の織物8を連結させて第1基布4及び第2基布5が作成されるため、織機の幅に制限されずに長い丈の基布2を製造することができる。
【0039】
フェルト1は、製造後ある程度の時間が経過してから抄紙機に取り付けられることが多い。第1基布4及び第2基布5の両端部に設けられたシームループ6は、恒常的に緯方向に直交する面に沿って延在する正規ループ13であるため、シームループ6を容易に連結できる。また、連結し難いように緯方向に傾斜している馬鹿耳ループ14は、基布2の製造過程で連結されるため、熱処理を行って一時的に緯方向に直交する面に沿うように矯正することによって、容易に連結できる。
【0040】
第1基布4及び第2基布5を互いに固定することにより、バット層3のニードリング中やフェルト1の使用中に、第1基布4及び第2基布5が互いに大きくずれることが防止できる。
【0041】
第1基布4のシームループ6と第2基布5のシームループ6とが経方向にわずかにずれるように配置することにより、第1基布4の連結部と第2基布5の連結部との位置が互いに経方向にずれる。連結部はその前後の部分(連結部に対して経方向に隣接する部分)に対して段差が生じやすく、この段差が製造される紙にマークをつける原因となる。第1基布4と第2基布5との連結部が互いにずれることにより、段差が小さくなり、マークを低減することができる。
【0042】
第1基布4と第2基布5との間において、経糸10及び緯糸9の構造、太さ及び本数を互いに同一とすることで、織物8の製織が容易となり、また、各組の2枚の織物8は第1基布4用のものと第2基布5用のものに区別されないため、織物8の連結を間違うリスクが減る。
【0043】
また、製紙面側(外側)に配置される第1基布4の経糸10に撚り糸を使用し、走行面側(内側)に配置される第2基布5の経糸10にモノフィラメントを使用した場合は、基布2が製造される紙につけるマークが軽減する。また、製紙面側に配置される第1基布4の経糸10にモノフィラメントを使用し、走行面側に配置される第2基布5の経糸10に撚り糸を使用した場合は、基布2とバット層3との絡みが良くなり、ライフアップが可能になる。
【0044】
図7及び図8を参照して、上記実施形態の第1変形例及び第2変形例について説明する。上記実施形態では、全ての組の織物8が互いに等しい丈を有するが、第1変形例及び第2変形例では、各組毎に織物8の丈が異なる。このように構成することにより、基布2の丈の長さの調整が容易となる。
【0045】
また、図7に示す第1変形例では、第1基布4及び第2基布5を互いに重ねたとき、同じ組で製織された織物8が互いに略全体に渡って重なるように配置される。一方、図8に示す第2変形例では、互いに別の組で製織された織物8が互いに重なるように配置される。具体的には、第1基布4では、図の左方に短い丈の織物8が配置されて、図の右方に長い丈の織物8が配置されており、第2基布5では、図の左方に長い丈の織物8が配置されて、図の右方に短い丈の織物8が配置されている。織物8の連結部はその前後の部分に対して段差が生じやすく、第1基布4と第2基布5とで織物8の連結部が重なると、段差が大きくなり、製造される紙にマークが付きやすくなる。図1図6に示す実施形態や、図7に示す第1変形例においても、バット層3をニードリングする際に自然と織物8の連結部は互いにずれて重ならなくなる。しかし、織物8の連結部を互いに大きく離間させたい場合や、織物8の連結部が互いに重ならないことを確実にしたい場合は、第2変形例のように丈の異なる織物8が重なるように、第1基布4及び第2基布5における織物8を配置するとよい。
【0046】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、フェルト1は、抄紙機ではなく、パルプマシン等の他の製紙用機械で使用されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:製紙用シームフェルト
2:製紙用シームフェルト基布
3:バット層
4:第1基布
5:第2基布
6:シームループ
7:芯線
8:織物
9:緯糸
10:経糸
11:第1製織用芯線
12:第2製織用芯線
13:正規ループ
14:馬鹿耳ループ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8