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  • 特許-認知症改善および/または予防剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】認知症改善および/または予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/15 20060101AFI20230821BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K36/15
A61P25/28
A61K9/12
A61K9/72
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019199014
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070656
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月7日ウェブサイトのアドレスhttp://jsdp2019.umin.jpに掲載された第9回日本認知症予防学会学術集会のプログラム・日程表で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月30日ウェブサイトのアドレスhttp://jsdp2019.umin.jpに掲載された第9回日本認知症予防学会学術集会の採択演題一覧:1/6頁で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年8月30日ウェブサイトのアドレスhttp://jsdp2019.umin.jpに掲載された第9回日本認知症予防学会学術集会の採択演題一覧:6/7頁で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月2日に配信されたメールにおいて第9回日本認知症予防学会学術集会の抄録集で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月19日名古屋国際会議場において開催された第9回日本認知症予防学会学術集会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦上 克哉
(72)【発明者】
【氏名】河月 稔
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0083468(KR,A)
【文献】特開2015-117197(JP,A)
【文献】特開2006-131589(JP,A)
【文献】国際公開第2004/103988(WO,A1)
【文献】トドマツから抽出した精油を用いた芳香療法が認知機能に与える影響についての検討,UMIN-CTR臨床試験登録情報,UMIN試験ID:UMIN000027692,2017年,https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000031721
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/15
A61P 25/28
A61K 9/12
A61K 9/72
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トドマツのマイクロ波減圧水蒸気蒸留法による蒸留物を有効成分として含有する認知症改善および/または予防剤。
【請求項2】
経鼻投与されるものである請求項1記載の認知症改善および/または予防剤
【請求項3】
吸入剤、噴霧剤または点鼻剤である請求項1または2記載の認知症改善および/または予防剤。
【請求項4】
医薬組成物である請求項1~のいずれか1項記載の認知症改善および/または予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症改善および/または予防剤に関する。詳細には、本発明は、マツ科モミ属の植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を有効成分として含む認知症改善および/または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は年々患者数が増大している疾病である。現在、我が国には約300万人の認知症患者がいると推定される。認知症の治療としては、抗コリンエステラーゼ阻害薬がアルツハイマー型認知症の治療に用いられているが、対症療法であり、症状の進行を多少抑制するに過ぎない。認知症に対する決定的な治療法を欠くのが現状である。
【0003】
ハーブや樹木の精油成分などの植物抽出物は芳香を有するものが多く、それらの香りを用いて様々な身体機能を改善する手法(芳香療法)が数多く提案されている。香りを用いて認知症高齢者の感情や意識、意欲を向上させ、その行動を改善させる手法が提案されている(特許文献1~3)。しかしながら、香りは人によって好き嫌いが分かれるものである。例えば、ローズマリーカンファーとレモンのブレンドの精油(昼用)と、真性ラベンダーとスイートオレンジのブレンドの精油(夜用)は認知機能の改善効果があることが示されているが、いずれも日本人になじみの薄い香りであり、使用する人によっては好みのにおいではないため継続が困難な場合も見受けられる。よって芳香療法は広く利用されるまでには至っていない。
【0004】
現在、以下のような問題もある。林業の担い手不足等の原因により、山林の手入れが行き届かず、その荒廃が大きな問題となっている。山林の手入れは、主に間伐と枝打ちであるが、間伐や枝打ちで落とされた枝葉の有効資源化が必要とされている。かかる状況下において、山林を構成する樹木には、芳香を有し、身体機能改善効果のある成分が多く含まれていることは注目に値する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-302572号公報
【文献】特開2010-285362号公報
【文献】特開2015-61827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
認知症の芳香療法を、広く、継続的に行われるものにする必要がある。さらにそのような香りの原料となる樹木を伐採および枝打ちすることによって山林の荒廃を食い止めることも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を用いることにより、認知症を改善および/または予防できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する:
(1)マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を有効成分として含有する認知症改善および/または予防剤。
(2)マツ科モミ属に属する植物がトドマツである(1)記載の剤。
(3)蒸留物がマイクロ波減圧水蒸気蒸留法にて得られたものである(1)または(2)記載の剤。
(4)吸入剤、噴霧剤または点鼻剤である(1)~(3)のいずれか記載の剤。
(5)医薬組成物である(1)~(4)のいずれか記載の剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便かつ安全に、しかも広く継続的に、芳香療法により認知症を改善および/または予防することができ、樹木の有効資源化をはかることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、100%トドマツ精油使用群のTDAS解析結果を示すグラフである。
図2図2、30%トドマツ精油使用群のTDAS解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1の態様において、マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を有効成分として含有する認知症改善および/または予防剤(以下、「本発明の剤」と称することがある)を提供する。
【0012】
マツ科モミ属(Abies属)に属する植物は広く知られている。その例として、ヨーロッパモミ、シチリアモミ、ギリシアモミ、コーカサスモミ、アルジェリアモミ、フラセリーモミ、バルサムモミ、ミヤマバルサム、シベリアモミ、トドマツ、チョウセンシラベ、シラビソ、アメリカオオモミ、コロラドモミ、ニイタカトドマツ、ウラジロモミ、モミ、チョウセンモミ、ウツクシモミ、オオシラビソ、ウンナンシラベ、ノーブルモミ、カクバモミ、シラベなどが挙げられるが、これらに限定されない。マツ科モミ属に属する植物の香りは多くの人に好まれるので、本発明の剤は広く、継続して用いられ得る。本発明において、マツ科モミ属の植物としてはトドマツ(Abies sachalinensis)が好ましい。トドマツは北海道、サハリン、千島に分布している。
【0013】
トドマツの精油は、鼻症状改善(特許第6290618号公報)、アレルゲン低減(特許第6124340号公報)、有害酸化物除去(特許第5804561号公報)、抗炎症(特開2016-94354号公報)、鎮痛(特開2017-178874号公報)などの作用を有することが報告されている。しかしトドマツの圧搾液、抽出物または蒸留物が認知症改善および/または予防剤として使用可能であることはこれまで報告されていない。
【0014】
マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物は、植物全体または一部から得ることができる。植物の一部は、植物のいずれの部位であってもよく、葉、枝、幹、樹皮、花、果実、種子、根茎などが例示されるがこれらに限定されない。圧搾、抽出または蒸留工程の前に、植物を適切なサイズに切断、粉砕等してもよい。圧搾液、抽出物または蒸留物は公知の方法により得ることができる。圧搾液は公知の圧搾機を用いて得ることができる。抽出物は溶媒を用いて得ることができる。抽出溶媒も公知であり、水、メタノール、エタノール、ブタノール、グリセリン、ヘキサン、ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、およびこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されない。抽出装置も公知である。蒸留物も公知の方法にて得ることができる。蒸留方法としては、常圧蒸留、減圧蒸留、熱水蒸留、水蒸気蒸留などが挙げられるが、これらに限定されない。蒸留装置も公知である。本発明において好ましい蒸留物は減圧蒸留法により得られた油性画分であり、より好ましくは、マイクロ波減圧水蒸気蒸留法により得られた油性画分である。マイクロ波減圧水蒸気蒸留法の詳細については、例えば特許第5804561号公報に記載の方法があげられる。蒸留にあたっては、蒸留槽内の圧力を、5ないし95キロパスカル、好ましくは、15ないし60キロパスカル、さらに好ましくは20ないし40キロパスカル程度として行なえば良く、その際の蒸気温度は40℃から100℃になる。圧力が5キロパスカル以下では原料中の揮散性成分の蒸気圧上昇が抑制され、また、水蒸気蒸留的要素より、各成分の沸点による減圧蒸留的要素が主となり、沸点の低いものから順に流出してしまうため、水よりも沸点の高い成分の抽出が効率的に行われないという点で好ましくない。
また、95キロパスカル以上では、原料の温度が高くなるため、エネルギーロスが大きく、原料の酸化も促進されてしまうという点で好ましくない。また、蒸留時間は、0.2ないし8時間程度、好ましくは、0.4ないし6時間程度とすれば良い。0.2時間以下では植物中の未抽出成分が多く残存してしまい、8時間以上では原料が乾固に近い状態となってしまうため、抽出効率が低下するという点で好ましくない。
更に、蒸留槽内に導入する気体としては、空気でもかまわないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽の0.001ないし0.1容量倍程度とすれば良い。マイクロ波減圧水蒸気蒸留法を用いると、変性の少ない精油を得ることができるとともに濃縮、精製等の手間をかけなくても、さわやかな香気を有し、香りの嗜好性が高いため認知症の芳香療法を、広く、継続的に利用できるため好ましい。
【0015】
マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物は溶媒にて希釈されてもよい。溶媒としては、エタノール、グリセリン、エチレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールあるいはホホバオイル、大豆油、菜種油、オリーブオイルなどの植物油、あるいはこれらの溶媒の混合物が挙げられるが、前記のものに限定されない。マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物は公知の方法にて濃縮されてもよい。また、本発明の剤を、界面活性剤を用いて水等の水性溶媒にて希釈してもよい。
【0016】
溶媒中のマツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物の量は、剤形、対象の身体的状態、認知症の程度などを考慮して適宜選択、決定することができる。例えば、溶媒中のマツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物の量は、約0.01重量%~約99重量%であってもよい。
【0017】
マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物をそのまま、その希釈物、またはその濃縮物を本発明の剤として用いてもよい。
【0018】
認知症は、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。認知症の症状は、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などの高次脳機能の低下、ならびに幻覚、妄想、徘徊、異食症、睡眠障害、抑うつ、不安、焦燥、暴言、暴力、性的羞恥心の低下などを含む。認知症にはアルツハイマー病、レビー小体病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病に伴う認知症、ハンチントン病、進行性核上性麻痺などの変性性認知症、脳血管障害による血管性認知症、およびクロイツフェルト・ヤコブ病やHIVなどの感染症に関連した認知症などが含まれる。
【0019】
本明細書において、認知症の改善は、認知症の1つ以上の症状を改善することだけでなく、認知症の1つ以上の症状の進行を遅延させることも含む。
【0020】
本発明の剤を、認知症にかかっていない対象における認知症の予防に用いてもよい。本明細書において、認知症の予防は、認知症にかかっていない対象が認知症にかからないようにすること、認知症にかかる時期を遅らせること、あるいは認知症にかかった場合にその症状を軽くすることを包含する。
【0021】
したがって、本発明の剤は、認知症にかかっている対象および認知症にかかっていない対象のいずれに適用してもよい。
【0022】
本発明の剤は、有効成分として、マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物のみを含んでいてもよく、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、クラリセージ、カモミール、ジャスミン、ペパーミント、オレンジ、レモン、レモングラス、グレープフルーツ、ベルガモット、ローズマリー、ラベンダー、サイプレス、サンダルウッド、パチュリ、フランキンセンス、ローズウッド、ペッパー、ベンゾイン、ミルラ、マジュラム、シナモン、ティートリー、カンファー、ユーカリ、ヒノキ、スギ、ヒバなどの果実、ハーブおよび樹木の抽出物や精油、シトラール、リナロール、1,8-シネオール、ペリルアルコール、ペリラ酸、リモネン、ヌートカトンなどのような感情、意識、意欲および認知機能に影響すると言われている成分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の剤の使用態様としては、飲食物、化粧品、入浴剤、香水、芳香剤、医薬部外品、医薬組成物などが挙げられるが、これらに限定されない。飲食物の例としては、サプリメント、ハーブティー、清涼飲料水、チューインガムなどが挙げられるが、これらに限定されない。化粧品の形態は特に限定されないが、ローション、クリーム、ゲル、パスタなどが例示される。化粧品には、化粧水、シャンプー、石けん、ボディーソープ、ボディークリーム、スキンパウダー、歯磨き剤などが包含される。入浴剤は、粉末、顆粒、濃縮液などの形態であってもよい。香水の形態も特に限定されず、瓶等の容器に入った香水、スプレー可能な瓶等の容器に入った香水、あるいは精油を含浸させた木片、綿、フェルト、ティッシュペーパー、不織布等を入れたペンダント等であってもよい。芳香剤の形態も特に限定されず、例えば、室内芳香用スプレー、木片、綿、フェルト、ティッシュペーパー、不織布等を装着した精油成分入りの瓶、アロマセラピー用アロマオイル(例えばランプ用)などであってもよい。本発明の剤を嗅覚に適用することが好ましいことから、本発明の剤は、吸入剤、噴霧剤または点鼻剤であってもよい。
【0024】
本発明の剤の嗅覚への適用を、例えば、本発明の剤を充填したマイクロカプセルを装着したカーペット、クロス、タオル、ハンカチ、ティッシュペーパー、マスク等を用いて行ってもよい。あるいは、本発明の剤をマスク等に直接染み込ませてもよい。
【0025】
本発明の剤を公知の揮散装置、噴霧装置、霧化装置を用いて揮散または霧化させて、対象に吸引させることにより、本発明の剤の嗅覚への適用を行ってもよい。かかる装置としては、ネブライザー、電動式ディフューザー、ポンプ式スプレー、あるいは超音波振動子などが挙げられるが、これらに限定されない。また、鼻用のスポイトを用いて本発明の剤を適用してもよい。
【0026】
本発明の剤が医薬組成物である場合、剤形としては、散剤、顆粒、錠剤、カプセル、トローチ、ローション、ゲル、外用剤、吸入剤、噴霧剤、点鼻剤、ドリンク剤などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の剤を嗅覚に適用することが好ましい。すなわち本発明の剤を経鼻投与することが好ましい。経鼻投与のための剤形としては、吸入剤、噴霧剤および点鼻剤などが挙げられるがこれらに限定されない。各種剤形の製造方法は公知である。また、上述のごとく、経鼻投与のための器具、装置も公知である。
【0027】
本発明の剤の投与量は、アレルギー、喘息、肝障害、腎障害などの副作用を引き起こさない量であればよい。本発明の剤の投与量は、医師が、患者の認知症の症状および身体的状態を見ながら決定することができる。患者の症状は、TDAS(Touch Panel-type Dementia Assessment Scale)などの公知の方法にて確認することができる。本発明の剤の好ましい投与量は、認知症を予防しうる量、あるいは認知症の1つ以上の症状を改善しうる量、あるいは認知症の1つ以上の症状の進行を遅延させうる量である。例えば、トドマツ精油を綿に含浸させてペンダント等に入れて対象が吸入する場合、綿に含浸させるドトマツ精油量は、成人の場合、1日あたり約0.5ml~約5ml、好ましくは約1ml~約3ml、より好ましくは約1.2ml~約2mlである。1日あたり1回~数回に分けて吸入を行ってもよい。数回とは2回~9回のいずれかを意味する。各回の吸入時間は、例えば10分、30分、1時間、2時間などであってもよい。ペンダントのかわりにディフューザーのような他の手段を用いてもよい。
【0028】
本明細書の用語は、特に断らない限り、医学、薬学、化学、生物学、植物学、農学、林学などの分野において通常に理解されている意味に解される。
【実施例1】
【0029】
(1)本発明の剤の製造方法
釧路産のトドマツの枝葉を圧搾式粉砕機で粉砕し、粉砕物をマイクロ波減圧水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入し、蒸留槽内の圧力を、約10KPaの減圧条件下に保持し、(蒸気温度は約60℃)1時間マイクロ波照射して蒸留し、その油性画分として精油を得た。
【0030】
上記のようにして得られたトドマツ精油を「100%トドマツ」と称し、100%トドマツをホホバオイルで希釈して濃度30%としたものを「30%トドマツ」と称する。
【0031】
(2)本発明の剤の認知症改善効果
(a)試験方法
100%トドマツおよび30%トドマツを用いて、実験を行った。対象は、認知機能障害を認める高齢者17名(アルツハイマー型認知症:7名、軽度認知障害:10名)であった。対象者に対して、午前中はペンダントを用い、午後はディフューザーを用いて芳香療法を行った。午前中(12時までに)、アロマペンダントに100%トドマツまたは30%トドマツ0.8mlを含浸させた綿を入れ、対象者に2時間使用させた。2時間後にペンダントを外し、トドマツ精油を含浸させた綿が入ったまま放置した。午後(20時以降に)、ペンダント内の綿をタイマー式ディフューザーに移し、ディフューザーを室内に設置して、対象者に2時間使用させた。2時間後、ディフューザー内のカートリッジを捨てた。翌日の試験では新しい綿を使用した。介入時間は4週間とし、介入開始前、介入終了時、介入終了4週間後の計3回検査を行った。検査内容は、1)TDASによる認知機能検査、2)においスティックを用いた嗅覚検査、3)肝機能や腎機能を評価するための血液検査、4)生活に関するアンケートであった。試験デザインは、並行群間比較、ランダム化、二重盲検、用量対照とした。
【0032】
(b)試験結果
100%トドマツ使用群のTDAS解析結果を図1に、30%トドマツ使用群のTDAS解析結果を図2に示す。100%トドマツ使用群では77.8%の人が認知機能の改善を示し(TDASが平均2.7点改善)、30%トドマツ使用群では57.1%の人が認知機能の改善を示した(TDASが平均1.7点改善)。100%トドマツ使用群のほうが認知機能の改善率が高かったことより、濃度の違いによる差があることが示唆され、トドマツ精油を使用した芳香療法が認知機能改善に作用したと考えられた。また、トドマツ精油を用いた芳香療法による嗅覚刺激が、他の経路を介さずダイレクトに脳へのシグナル伝達を増強している可能性が考えられた。一方、嗅覚検査、血液検査および生活に関するアンケートの結果には変動が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、認知症治療のための医薬品や認知症の研究の分野、芳香剤、化粧品、食品等の分野、ならびに林業等の分野において利用可能である。
図1
図2