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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】湿式粉砕及び乾燥炭素質剪断ナノリーフ
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20230821BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20230821BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230821BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230821BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C01B32/19
C01B32/20
C08L101/00
C08K3/04
H01M4/62 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019513421
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017072943
(87)【国際公開番号】W WO2018046773
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】16188344.2
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511089686
【氏名又は名称】イメリス グラファイト アンド カーボン スイッツァランド リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】セルジョ パケコ ベニート
(72)【発明者】
【氏名】ラファエーレ ジラルディー
(72)【発明者】
【氏名】フラビオ モルナギーニ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ チュルシェ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュパール
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0158729(US,A1)
【文献】特表2011-513167(JP,A)
【文献】特表2013-535402(JP,A)
【文献】ZHAO, Weifeng et al.,Preparation of graphene by exfoliation of graphite using wet ball milling,Journal of Materials Chemistry,2010年06月17日,Vol.20,pp.5817-5819
【文献】HUYNH, Ngoc Tien, et al.,Synthesis of highly durable sulfur doped graphite nanoplatelet electrocatalyst by a fast and simple wet ball milling process,Materials Letters,2015年09月03日,Vol.161,pp.399-403
【文献】BORAH, Mumu et al.,Few Layer Graphene Derived from Wet Ball Milling of Expanded Graphite and Few Layer Graphene Based Polymer Composite,Materials Focus,2014年,Vol.3,pp1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08L 101/00
C08K 3/04
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフの凝集体であって、
前記炭素質剪断ナノリーフが
(i)BET SSAが、10~40m/g、又は12~30m/g、又は15~25m/gであること、
によって特徴づけられ、任意選択的に、さらに、
(ii)嵩密度が、0.005~0.04g/cm、又は0.005~0.038g/cm、又は0.006~0.035g/cm、又は0.007~0.030g/cm、又は0.008~0.028g/cmであること、及び/又は、
(iii)粒径分布が5~200μm、又は10~150μmのD90を有すること、及び/又は、
(iv)乾燥PSD D90対見かけの密度比が、5000~52000μm×cm×g-1であること、及び/又は
(v)透過型電子顕微鏡(TEM)によって決定される厚さが、1~30nm、又は2~20nm、又は2~10nmであること、及び/又は
(vi)キシレン密度が2.1~2.3g/cmであること、
によって特徴づけられる、凝集体
【請求項2】
さらに、
i)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含む二酸化マンガンに、1000mΩcm未満、好ましくは800、700、600、500mΩcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
ii)4重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリプロピレンに、1010Ωcm未満、好ましくは10、10、10、又は10Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iii)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)に、20Ωcm未満、好ましくは15、10、8、6、又は5Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iv)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)に、1W/mK超、好ましくは1.1、1.2、又は1.25W/mK超の面貫通熱伝導率を与えること、及び/又は、
v)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)に、35Nの法線力で1500rpmで鋼球を用いて「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合、0.45未満、好ましくは0.40、0.35、又は0.30未満の摩擦係数を与えること、及び/又は、
vi)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)に、法線力を増加させながら1500rpmで鋼球を用いて「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合、少なくとも33N、又は少なくとも34、35、36、若しくは37Nの限界力を与えること、
によって特徴づけられる、請求項1に記載の凝集体
【請求項3】
請求項1又は2に記載の凝集体であって、前凝集体
嵩密度が0.1~0.6g/cm、又は0.1~0.5g/cm、又は0.1~0.4g/cmであること、及び/又は
PSDが50μm~1mm、又は80~800μm、又は100~500μmのD90を有すること、
によって特徴づけられる、凝集体
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の凝集体の製造方法であって:
a)膨張黒鉛粒子を液体と混合して、膨張黒鉛粒子を含む予備分散物を得ることと、
b)工程a)から得られた予備分散物をミリング工程に付すことと、
c)ミリング工程b)から得られた炭素質剪断ナノリーフ粒子を乾燥させることと
含み、
任意選択的に前記方法は、工程a)~c)の前に、非膨張炭素質材料を工程a)及びb)で定義された混合及びミリング工程に付し、次に前記ミリングされた炭素質材料を膨張させることをさらに含む、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記液体が、水、有機溶媒、又はこれらの混合物から選択され、
任意選択的に、
ミリング工程b)に付された前記予備分散物は分散剤をさらに含み、好ましくは前記分散剤は、PEO-PPO-PEOブロックコポリマー、スルホネート、又は非イオン性アルコールポリエトキシレート、アルキルポリエーテル、又はポリエチレングリコールから選択され、及び/又は、
有機増粘剤をさらに含み、好ましくは前記有機増粘剤はカルボキシメチルセルロース及びセルロースエーテルから選択される、
方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法であって、
前記湿式ミリング工程b)が、遊星ミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、又はチップソニケーター中で行われ、及び/又は
工程c)の前に追加の溶媒が添加されて、処理された膨張黒鉛分散物を希釈し、及び/又は
前記乾燥が、オーブン/炉内で熱風に付すこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流体床乾燥、流動床乾燥、及び凍結又は真空乾燥からなる群から選択される乾燥技術によって達成され、及び/又は
前記乾燥工程c)は少なくとも2回行われ、好ましくは前記乾燥工程は少なくとも2種の異なる乾燥技術を含む、
方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)ミリング工程b)に付された分散物中の膨張黒鉛の重量含有量が、0.2~5%又は1%~10%であり、前記分散物が少なくとも1種の分散剤をさらに含み、及び/又は
(ii)工程a)で使用される膨張黒鉛は、以下のパラメーター:
(a)0.003~0.05g/cmの見かけの密度、及び/又は、
(b)20~200m/gのBET SSA、
のいずれか1つによって特徴づけられる、方法。
【請求項8】
工程cから得られる乾燥炭素質剪断ナノリーフを圧縮して、前記凝集体を製造することをさらに含む、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の凝集体を含む組成物であって、前記組成物はさらに他の炭素質材料を含み、任意選択的に前記炭素質材料は、天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの混合物の群から選択されるか、又は、請求項1~3のいずれか1項に記載の凝集体と、ポリマー、NMC、又はMnOとを含む複合材料である、組成物
【請求項10】
i)請求項1~3のいずれか1項に記載の凝集体、又は請求項9に記載の組成物を用いる、電池の負極若しくは正極の製造方法。
【請求項11】
ポリマー、リチウムイオン電池及び1次電池を含む電池及びコンデンサー用の電極材料、又はエンジニアリング材料用の添加剤としての、請求項1~3のいずれか1項に記載の凝集体、又は請求項9に記載の組成物の使用であって、任意選択的に前記エンジニアリング材料は、ブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、燃料電池部品、触媒担体、及び粉末冶金部品から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(開示の分野)
本開示は、炭素質剪断ナノリーフ(carbonaceous sheared nano-leaves)、これらを含む組成物、これらを調製する方法、ならびにポリマーブレンド、セラミック、及び鉱物材料などの複合体における導電性添加剤としての又は固体潤滑剤としてのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛粉末などの炭素質材料は、熱及び電気伝導性ポリマーならびに他の複合材料のための公知の伝導性充填剤(すなわち添加剤)である。
【0003】
ナノグラファイト又はナノ構造グラファイトとしても知られる膨張黒鉛(expanded graphite)又は剥離化黒鉛(exfoliated graphite)は、その優れた熱及び電気伝導特性のために最近関心が高まっている。膨張黒鉛は、ポリマー又はセメント若しくは石膏系材料などの他の材料への熱伝導性に関して、非膨張黒鉛及び他の伝電性充填剤(例えば、窒化ホウ素、炭素繊維、又はカーボンナノチューブ)よりも優れている。例えば、複合材料の熱伝導性を上昇させるために床材に膨張黒鉛を添加することは、当技術分野において一般的に知られており、例えばDE10049230A1に記載されている。
【0004】
しかし、従来の高結晶性の合成及び天然黒鉛とは対照的に、膨張黒鉛をポリマー塊に添加することの欠点は、その作業性及び加工性が困難であること(特にその大きな表面積により引き起こされる)、その耐酸化性が低いこと、及びその低い嵩密度によるほこりっぽさである。例えば、膨張黒鉛のかなり大きな表面積がかなり低い嵩密度と組み合わさると、配合プロセス中の粘度上昇のために、ポリマー(又はそれ自体低い熱伝導性を有する他のマトリックス材料)に添加可能な炭素質材料の量が実質的に制限される。従って炭素質材料の量が増加するにつれて観察される粘度の問題は、所定の黒鉛(及びポリマー)を含有する複合材料において達成可能な熱伝導性について実用上の限界をもたらす。さらに、グラフェンとしても知られている高度に薄片化された炭素質材料は、完全に薄片化されると(すなわち、単層グラフェン)非常に大きな表面積(理論的には>2600m/g(文献、Nanoscale, Vol. 7, Number 11, Pages 4587-5062))を有することができ、従って、所定のグラフェンを含む複合体中の混合物の粘度をさらに上昇させることが知られている。
【0005】
欧州特許第0981659B号明細書は、従来の膨張の後に、薄片化フレーク黒鉛粒子を離層するための空気粉砕(air milling)工程を含む、層状フレーク黒鉛から膨張黒鉛を製造するための方法を記載する。空気粉砕された剥離化(exfoliated)フレーク黒鉛製品は、少なくとも18m/gの比表面積(specific surface area)、30ミクロンの平均粒径、及び少なくとも20ml/gの嵩容積を有する。
【0006】
米国特許出願公開第2002/0054995A1号明細書は、アスペクト比が少なくとも1,500:1、比表面積が典型的には5~20m/g、平均サイズが典型的には10~40μm、及び平均厚さが100nm未満(典型的には5~20nm)の小板の形態のグラファイトナノ構造体を記載している。ナノ小板は、天然又は合成黒鉛粒子を高圧フレーキングミル中で湿式粉砕(wet milling)することによって調製される。米国特許出願公開第2002/0054995A1号明細書は、黒鉛ナノ構造が、剥離化黒鉛では得ることができない独特の幾何学的構造を有すると述べている。
【0007】
米国特許出願公開第2014/0339075A1号明細書は、充填剤として伝導性粒子を含有する組成物を開示しており、これは実質的に単層グラフェンを含まない剥離化黒鉛であり得るか、又は単層グラフェンと、黒鉛を単層グラフェンに部分的に変換するのに使用されるプロセスの副産物との混合物であり得る。使用可能な剥離化黒鉛の例には、粉砕黒鉛、膨張黒鉛、及び黒鉛ナノ小板が含まれる。本出願に記載されている非剥離化黒鉛は少なくとも10m/gの表面積を有するが、黒鉛ナノ小板は100m/gをはるかに超える比表面積を有する。
【0008】
国際公開第2012/020099A1号には、一緒に圧縮された粉砕膨張黒鉛粒子を含む黒鉛凝集体が記載されており、前記凝集体は、約100μm~約10mmの範囲のサイズ、約0.08~約1.0g/cmの範囲のタップ密度、及び典型的には15~50m/gの比表面積を有する粒子の形態である。この凝集粒子は、その後にミリング(エアミルなど)によって粉砕された膨張黒鉛から調製され、次に圧縮されて、ポリマーに配合されたときに溶解する「柔らかい(soft)」凝集体を形成する。
【0009】
欧州特許出願第3050846A1号明細書は、グラフェン材料と高分子量化合物とからなるグラフェン複合粉末を開示している。この高分子量化合物はグラフェン材料の表面に均一に被覆されている。グラフェン複合粉末形態の見かけの密度は、0.02g/cm以上である。
【0010】
米国特許出願公開第2015/0210551A1号明細書は、層間挿入された黒鉛の熱プラズマ膨張を含むプロセスによって製造された、約60~約600m/gのBET表面積を有する黒鉛ナノ小板が開示し、ここで、黒鉛ナノ粒子の95%超は、約0.34nm~約50nmの厚さ、及び約500nm~約50ミクロンの長さ及び幅を有する。
【0011】
国際公開第2015/193268A1号は、層間剥離された黒鉛のフレークを膨張させること、及びこれを分散媒体中で採取して分散物を形成し、これを、高剪断ホモジナイザー中での高圧均質化により行われる剥離とサイズ縮小処理に付すことを含む、グラフェンナノ小板の製造方法に関する。グラフェンの分散物はナノ小板の形で得られ、その少なくとも90%は50~50,000nmの横方向サイズ(x、y)及び0.34~50nmの厚さ(z)を有する。
【0012】
米国特許出願公開第2008/258359A1号明細書には、層状黒鉛材料を剥離させて、100nm未満の厚さを有する分離されたナノスケールの小板を製造する方法が記載されている。この方法は、(a)層状黒鉛の層間空間に存在する膨張性種を含有する層状黒鉛を含む黒鉛層間剥離化合物を準備する工程と、(b)著しい酸化レベル化を招くことなく、層状黒鉛を少なくとも部分的に剥離するのに十分な時間、黒鉛層間剥離化合物を650℃より低い剥離温度に暴露する工程と、(c)少なくとも部分的に剥離した黒鉛を機械的剪断処理に付して、分離した小板を製造する工程と、を含む。
【0013】
米国特許第8,222,190号B2明細書には、(a)潤滑液と、(b)前記液中に分散されたナノグラフェン小板(NGP(nano graphene platelets))とを含む潤滑剤組成物が記載され、ここで、ナノグラフェン小板は、前記液体と前記グラフェン小板とを合わせた総重量に基づいて、0.001重量%~60重量%の割合を有する。
【0014】
米国特許出願公開第2014/335985A1号明細書は、チェーンと滑り接触するように係合するための滑り接触部を含むチェーン伝動装置に使用するための滑り要素に関し、前記滑り接触部は、マトリックスポリマーを含むプラスチック材料と、その中に分散された最大250nmの厚さを有する小板状粒子を含む黒鉛小板状粒子とからなる。
【0015】
Lubricants 2016, 4, 20 において、Gilardiは、PSの摩擦係数、耐摩耗性、及びPV限界に対する種々の黒鉛含有ポリスチレン(PS)複合材料の効果を、トライボロジー試験(「ボールオンスリープレート(ball-on-three-plates)」試験)により調べた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、特に導電性添加剤として使用した場合に、代替炭素質材料を含む複合材料に優れた電気特性、熱特性、及び/又は機械的特性を与えることに関して、改善された特性を示す代替炭素質材料を提供することは有利であろう。また、例えばポリマー、電池、及びコンデンサー電極の充填剤として、自動車のボディパネル、ブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、粉末冶金、燃料電池部品、触媒担体、潤滑油及びグリース、又は防食コーティングなどの導電性及び/又は熱伝導性ポリマー複合材料としての、これらの炭素質材料のさらなる用途及び使用を提供することも有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要約)
従って、第1の態様において本開示は、粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフであって、約40m/g未満、約10~約40m/g、又は約12~約30m/gのBET SSA、及び約0.005~約0.04g/cm、又は約0.006~約0.035g/cm、又は約0.07~約0.030g/cmの嵩密度によって特徴づけられ得る炭素質剪断ナノリーフに関する。
【0018】
第2の態様において本開示は、本開示の炭素質剪断ナノリーフ粒子を製造するための方法であって、
(a)膨張黒鉛粒子を液体と混合して、膨張黒鉛粒子を含む予備分散物を得る工程と、
(b)工程(a)から得られた予備分散物をミリング工程に付す工程と、
(c)ミリング工程(b)から得られた炭素質剪断ナノリーフ粒子を乾燥する工程と、を含む方法に関する。
【0019】
従って、上記方法によって得られる粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフは、本開示のさらなる態様を表す。
【0020】
本開示の第4の態様は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子を、任意選択的に他の炭素質材料、例えば天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)又は多層(MWCNT)カーボンナノチューブなどのカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、又はこれらの混合物などと共に含む組成物に関する。
【0021】
第5の態様において本開示は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む分散物を提供する。
【0022】
本開示の第6の態様は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子を、その熱伝導性又は導電性が単独では十分ではない、ポリマー、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、二酸化マンガン(MnO)、石膏又は他のマトリックス材料と共に含む複合材料に関する。別の関連する態様は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフを含む、電池(リチウムイオン電池及び1次電池を含む)及びコンデンサー用の電極材料、電池(リチウムイオン電池及び1次電池を含む)、電池(リチウムイオン電池及び1次電池を含む)を含む車両、又はエンジニアリング材料(例えば、ブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、燃料電池部品、触媒担体、及び粉末冶金部品)に関する。
【0023】
本開示のさらなる態様は、本明細書に記載される粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフを含む分散物に関する。そのような分散物は、典型的には水又は水/アルコール混合液(任意選択的に添加剤又は結合剤と混合したもの)などの適切な溶媒中の炭素質剪断ナノリーフの液体/固体分散物である。
【0024】
本開示のさらに別の態様は、ポリマー、電極、機能性材料、車体パネル、又はブレーキパッド用の添加剤としての炭素質剪断ナノリーフ材料の使用に関する。
【0025】
最後に、本開示のさらなる態様は、例えば電気材料、自動車エンジン及び金属部品におけるドライフィルム潤滑剤材料用の潤滑剤としての、又は複合材料の摩擦及び/又は摩耗を低減するための添加剤として、本明細書に記載される炭素質剪断ナノリーフ材料を含む粉砕膨張黒鉛の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本開示による様々な炭素質剪断ナノリーフ材料及び比較炭素質材料についての、BET比表面積と見かけの(嵩)密度との比を示す。
図2】本開示による様々な炭素質剪断ナノリーフ材料及び比較炭素質材料についての、乾燥D90値対見かけの(嵩)密度比に対するBET比表面積をプロットする。
図3a】未粉砕膨張黒鉛(3a)、空気粉砕膨張黒鉛(3b)、高圧粉砕及び噴霧乾燥膨張黒鉛のSEM写真を示す。
図3b】未粉砕膨張黒鉛(3a)、空気粉砕膨張黒鉛(3b)、高圧粉砕及び噴霧乾燥膨張黒鉛のSEM写真を示す。
図3c】未粉砕膨張黒鉛(3a)、空気粉砕膨張黒鉛(3b)、高圧粉砕及び噴霧乾燥膨張黒鉛のSEM写真を示す。
図3d】未粉砕膨張黒鉛(3a)、空気粉砕膨張黒鉛(3b)、高圧粉砕及び噴霧乾燥膨張黒鉛のSEM写真を示す。
図4】20重量%の炭素質剪断ナノリーフを添加剤として含むポリスチレン(PS)複合材料(試料11、12、及び13)と20%のいくつかの比較炭素質黒鉛材料を含むPS複合ポリマーの熱伝導性を示す。
図5】20重量%の炭素質剪断ナノリーフを添加剤として含む異なるPS複合ポリマー(丸で囲んだ試料11、12、及び13)と20重量%の他の炭素質材料を含むPS複合ポリマー(図4に示すものと同じ材料)について、観察された面貫通熱伝導性に対する限界力(本明細書では、「ボールオンスリープレート(ball-on-three-plates)」試験において摩擦係数が0.3を超える場合の法線力として定義される)をプロットする。
図6】20重量%の炭素質剪断ナノリーフを添加剤として含む異なるPS複合ポリマー(試料11、12、及び13)と20重量%の他の炭素質材料を含むPS複合ポリマー(C-Therm002、C-Therm301)について、乾燥条件下で500rpmの固定回転速度でポリスチレン(PS)プレート上のPA6.6ボールについての法線力の関数として摩擦係数をプロットする。
図7】20重量%の炭素質剪断ナノリーフを添加剤として含む異なるPS複合ポリマー(試料11、12、及び13)と20重量%の他の炭素質材料を含むPS複合ポリマー(C-Therm002、C-Therm301)について、乾燥条件下で1500rpmの固定回転速度で、ポリスチレン(PS)プレート上の鋼球についての法線力の関数として摩擦係数をプロットする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(詳細な説明)
粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ
本発明者らは、驚くべきことに、慎重に制御された条件下で膨張(剥離)黒鉛を湿式粉砕することは、比較的小さい表面積及び比較的小さい嵩密度を有する炭素質剪断ナノリーフとして記載できる炭素質材料、すなわち膨張黒鉛粒子から湿式粉砕プロセスによりc軸に沿ってナノ層を剪断除去することによって得られる薄い板状の幾何学的形状を有する炭素粒子をもたらすことを見出した。
【0028】
このような炭素質剪断ナノリーフ粒子は特に、電極の成分として(例えば、リチウムイオン電池又は1次電池用に)又は潤滑剤として使用されるとき、特に添加剤がポリマーに配合されるときに、従来の膨張黒鉛又は市販の剥離化黒鉛及び/又はグラフェンと比較して、改善された取扱い及び材料特性を示す。すなわちこれらの剪断ナノリーフは、これらを含む複合材料に優れた導電性及び熱伝導性を提供し、特に、ポリマー又は他のマトリックス材料中の導電性添加剤として使用されるときに、加工性の問題(例えば、配合中の高粘度による)を引き起こすことなく、適度に高い装填レベルを可能にする。しかし、これらの優れた電気的及び熱的特性のために、多くの場合、当該分野で公知の多くの膨張黒鉛又は市販の剥離化黒鉛及び/又はグラフェン材料と比較して、同じ導電性及び/又は熱伝導性を達成するために、より低含有量の炭素質材料が必要である。
【0029】
さらに、炭素質剪断ナノリーフならびに他の粉砕された膨張黒鉛材料は、複合材料中の固体潤滑剤添加剤として又は様々な工業用途におけるドライフィルム潤滑剤として有利に使用して、例えばエンジン又はボールベアリングなどの他の機械システムにおける可動性機械部品における摩擦及び摩耗を低減することができることが見いだされた。
【0030】
本文脈において「ナノ」という用語は、結晶学的c方向の厚さが1μm未満、典型的にははるかに薄い、例えば500nm未満、又は200nm未満、さらには100nm未満などの炭素質小板を指す。その薄片状で高度に異方性、すなわち非常に薄い小板、及び低い見かけの密度のために、炭素質剪断ナノリーフ粒子(本明細書では「炭素質剪断ナノリーフ」及び「粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ」とも呼ぶ)は、標的用途において一定の利点をもたらすことが分かった(比較的小さい)比表面積と低い見かけの(すなわち嵩)密度との最適化された比を有する「少数層グラフェン」又は「黒鉛ナノ小板」と見なすことができる。
【0031】
すなわち第1の態様において本開示は、粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ黒鉛であって、前記炭素質剪断ナノリーフ黒鉛は、BET SSAが約40m/g未満、又は約10~約40m/g、又は約12~約30m/g、又は約15~約25m/gであり、嵩(すなわちスコット)密度が約0.005~約0.04g/cm、又は約0.005~約0.038g/cm、又は約0.006~約0.035g/cm、又は約0.08~約0.030g/cm3-であり、又は上記の2つのパラメーターBET SSAと嵩密度の任意の可能な組み合わせであることを特徴とする、粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ黒鉛に関する。
【0032】
いくつかの実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、一般に約5~約200μm、又は約10~約150μmの範囲のD90を有する粒径分布(particle size distribution)をさらに特徴とする。ある場合にはD90値は、約15~約125μm、又は20μm~約100μmの範囲であり得る。これらのPSD値は、1次粒子すなわち非凝集粒子に関連することが理解されるであろう。以下に詳細に記載されるような本開示の別の可能な実施態様を表す凝集した炭素質ナノリーフにおいて、PSD値は当然異なり、そして典型的にははるかに大きい。しかし、脱凝集すると、1次粒子は上記の範囲のD90を有するPSDを有するであろう。同じことが嵩密度についても当てはまり、これは典型的には凝集により増加する。しかしPSDと同様に、脱凝集した1次粒子の嵩密度は上記の範囲内に入るであろう。
【0033】
代替的に又は追加的に、炭素質剪断ナノリーフは、乾燥PSD D90対見かけの密度比が約5000~52000μm×cm/g、又は約5500~45000、又は約6000~40000μm×cm/gによって特徴づけられ得る。
【0034】
本開示の炭素質剪断ナノリーフの特定の実施態様は、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって決定される厚さ(すなわち、c軸に沿ったシートのスタックの高さ)が、一般に約1~約30nm、又は約2~20nm、又は2~10nmの範囲であることによってさらに特徴づけられ得る。ある場合には、炭素質剪断ナノリーフ微粒子の厚さは、約3~8nmの範囲である。
【0035】
いくつかの実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、キシレン密度が約2.0~約2.3g/cm、又は約2.1~約2.3g/cmの範囲であることによってさらに特徴づけられ得る。
【0036】
代替的に又は追加的に、いくつかの実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、L値が約100nm未満、好ましくは約80、70、60、又は50nm未満であり、及び/又はラマンI/I比が約0.5未満、好ましくは約0.4、0.3、又は0.2未満であることによってさらに定義され得る。
【0037】
本開示の炭素質剪断ナノリーフはまた、これらが規定の装填レベルで前記ナノリーフを含む複合材料に伝える特定の物理化学的特性によって特徴づけられ得る。従って、特定の実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、代替的に又は追加的に、以下のパラメーターのうちの任意の1つによって特徴づけられ得る:
i)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含む二酸化マンガンへ、一般に約1000mΩcm未満、又は約900、800、700、600、500、若しくは400mΩcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
ii)4重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリプロピレンへ、約1010Ωcm未満、好ましくは約10、10、106、10、又は10Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iii)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)へ、約20Ωcm未満、好ましくは約15、10、8、6、5、4、又は3Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iv)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)へ、約1W/mK超、好ましくは約1.05、1.10、1.15、1.20、1.25W/mK超の面貫通熱伝導率を与えること、及び/又は、
v)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)へ、35Nの法線力で1500rpmで鋼球を用いた「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合に、0.45未満、好ましくは約0.40、0.35、又は0.30未満の摩擦係数を与えること、及び/又は、
(vi)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)へ、法線力を増加させながら1500rpmで鋼球を用いた「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合に、少なくとも33N、又は少なくとも34、35、36、若しくは37Nの限界力を与えること。
【0038】
特定の実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、膨張黒鉛粒子を液体の存在下で粉砕し(すなわち湿式粉砕)、続いて所望のBET SSA、嵩密度、及び任意選択的に上記で定義された他の任意のパラメーターを達成するような条件下で分散物を乾燥させることによって得ることができる。
【0039】
すでに簡単に述べたように、BET SSA、PSD、又は嵩密度などの特定のパラメーターは、本質的に非凝集形態の炭素質剪断ナノリーフに関する。
【0040】
しかし、本開示による炭素質剪断ナノリーフが凝集し得る(例えば、湿式のミリング工程の後及び1次粒子の乾燥の後)こともまた想定される。当業者は、本開示による凝集炭素質剪断ナノリーフは、これらの凝集のために、1次炭素質剪断ナノリーフとは異なる特性パラメーター、すなわち本質的に非凝集形態を有し得ることを理解するであろう。
【0041】
すなわち本開示の別の態様において、炭素質剪断ナノリーフは凝集形態で存在してもよい。そのような凝集体は、典型的には0.08g/cm超、又は0.1g/cm超の嵩密度を特徴とし得る。この態様のいくつかの実施態様において、凝集形態の炭素質剪断ナノリーフは、約0.1~約0.6g/cm、又は約0.1~約0.5g/cm、又は約0.1~約0.4g/cmの範囲の嵩密度を有し得る。代替的に又は追加的に、凝集した炭素質剪断ナノリーフは、典型的には約50μm~約1mm、又は約80~800μm、又は約100~約500μmの範囲のD90を有するPSDを特徴とし得る。
【0042】
凝集したナノリーフは、典型的には「柔らかい」凝集体であり、すなわちこれらは、配合中にポリマーに添加された場合、これらの標的用途において1次粒子に「溶解」する。
【0043】
いずれにしても、そのような「柔らかい」凝集体の脱凝集は、非凝集粒子に関して本明細書で上述したような物理化学的パラメーターを示す1次炭素質剪断ナノリーフ粒子をもたらすことが理解されるであろう。
【0044】
粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフの製造方法
簡単に上述したように、本開示による炭素質剪断ナノリーフは、本明細書でより詳細に説明されるように、膨張(すなわち剥離)黒鉛の湿式粉砕プロセスによって調製することができる。
【0045】
特に、液体の存在下での粉砕、すなわち粉砕すべき黒鉛粒子が懸濁液として存在する場合の粉砕は比較的非侵襲的な処理であり、得られるナノリーフ材料の比表面積(BET SSA(specific surface area))又は嵩密度を増大させないか又は著しくは増大させない。さらに、湿式粉砕した膨張黒鉛粉末の見かけの(嵩)密度は、維持されるか又は出発材料と比較していくらか増加するかのいずれかである。粉砕されていない膨張黒鉛は、非常に低い嵩密度を有するうねうねした(「虫状」)構造を有する。
【0046】
図1は、比較材料と比較した、様々な炭素質剪断ナノリーフ試料の嵩密度及び比表面積を示しており、本開示によるナノリーフがいずれも、出願人の知る限り、当該分野において記載されていない比較的狭い範囲内にあることを示している。そのような炭素質剪断ナノリーフは、出発材料のようなもの又は湿式粉砕及び乾燥工程に使用される機器に応じて、湿式のミリング工程及びその後の乾燥工程のパラメーターを調整することによって得ることができる。従って本明細書で定義される炭素質剪断ナノリーフを得るための適切な方法は、以下により詳細に提示される。
【0047】
従って本開示の別の態様は、本明細書で定義される炭素質剪断ナノリーフ粒子を製造するための方法に関し、この方法は:
a)膨張黒鉛粒子を液体と混合して、膨張黒鉛粒子を含む予備分散物を得る工程と、
b)工程a)からの予備分散物をミリング工程に付す工程と、
c)前記ミリング工程b)から回収された炭素質剪断ナノリーフ粒子を乾燥させる工程と、を含む。
【0048】
この態様の特定の実施態様において、炭素質剪断ナノリーフ粒子を製造するための方法は、上述の工程a)~c)の前に、非膨張炭素質材料を、任意選択的に上記の工程a)及びb)に従って混合及びミリング工程に付し、続いて前記予備粉砕された炭素質材料を膨張させることをさらに含む。言い換えれば、膨張黒鉛の湿式粉砕は、ある場合には、黒鉛を膨張させる(剥離する)前に予備混合工程及びミリング工程が先行してもよい。必要ならば、予備混合及び粉砕も数回実施することができる。さらにある場合には、膨張黒鉛を上記の混合及び湿式のミリング工程a)及びb)に付す前に、粉砕した(すなわち細かく砕いた)炭素質材料を膨張させる工程を複数回繰り返すこともできる。
【0049】
黒鉛がほぼ全ての液体に不溶であることを考えると、一般に予備分散物を調製するために使用される液体に制限はない。しかし、液体の粘度は、粉砕される黒鉛粒子の均質な分散物の形成を防止又は妨げるため、液体の粘度が高すぎてはならないことは明らかである。従って多くの実施態様において、工程a)(及び工程b))で使用される液体は、水、有機溶媒、又はこれらの混合物から選択される。有機溶剤が使用される場合、この溶媒が環境に有害であってはならない。従ってエタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、又はアセトンなどのエステル、又はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの他の無毒/無害な有機溶媒が好ましい。水との混合物として使用される場合、二相(又は三相)系の形成を防ぐために、有機溶媒は水混和性であるべきである。
【0050】
溶媒の量、従って分散物の固形物濃度は、原則として実際には制限されないが、得られる分散物の粘度上昇が観察されるため、固形分含量は特定の値を超えてはならないことは理解されるであろう(これは次に湿式粉砕プロセスの動力学を変化させる)。従って、粉砕されるべき膨張黒鉛の含有量は、典型的には約0.2重量%~約20重量%の範囲であり得るが、界面活性剤/湿潤剤及び/又は分散剤が分散物に添加されない限り、固形分含量は5重量%又は3重量%さえ超えないことが好ましい。従っていくつかの実施態様において、その重量含有量は約0.2%~約5%、又は約0.5%~3%であり、別の実施態様において、界面活性剤及び/又は分散剤が分散物に添加される場合、粉砕されるべき膨張黒鉛の重量含有量は、約1%~10%、又は約2%~8%、又は約3%~6%である。適切な分散剤/界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、Pluronic PE 6800(BASF AG)などのPEO-PPO-PEOブロックコポリマー、Morwet EFW(AkzoNobel)などのスルホネートなどのイオン性分散剤、又はEmuldac AS 25(Sasol)などのアルコールポリエトキシレートなどの非イオン性分散剤、Tergitol15-S-9(Dow Chemical)などのアルキルポリエーテル、ポリエチレングリコール、又は顔料分散物の分野の当業者に知られている他の任意の分散剤が挙げられる。分散剤/界面活性剤は、分散物の約0.01重量%~約10重量%、好ましくは分散物の約0.1重量%~約5.0重量%、最も好ましくは分散物の約0.25重量%~約1.0重量%を占める。
【0051】
本方法は、主に本明細書に記載の炭素質出発材料(すなわち、典型的には膨張黒鉛)を含有する分散物を処理することができる任意のミルで実施することができる。湿式のミリング工程b)で使用できるミルの種類の適切な例としては、特に限定されるものではないが、遊星ミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、又はチップソニケーター(tip sonicator)が挙げられる。
【0052】
例えば、膨張黒鉛予備分散物は、粉砕媒体として例えばセラミックボールを使用して、再循環モードで遊星ミルに連続的に又はバッチ式で供給することができ、処理された分散物は特定の時間後に又はいくつかのパスの後に採取することができる。遊星ミルは典型的にはビーズと処理される炭素質材料とを含む4つの小さなドラムを含む。これらは、4つの小さいドラムを収容する大きいドラムと反対方向に回転する。回転速度は典型的には500~1000rpmで変化し、そしてボールの直径は典型的には1~10mmで変化することができる。
【0053】
湿式のミリング工程b)にビーズミルを使用する場合、膨張黒鉛予備分散物は、例えば粉砕媒体としてセラミックビーズを使用して、再循環モードでビーズミルに連続的に又はバッチ式で供給することができ、処理された分散物は次に、特定の時間の後又はいくつかのパスの後に採取することができる。ビーズミルでは、ピンベースのローターステーターは、典型的には500~1500rpmで変化する速度で回転してビーズで充填され、ビーズの直径は典型的には0.1~3mmで変化することができる。
【0054】
湿式のミリング工程b)に高圧ホモジナイザーを使用する場合、膨張黒鉛予備分散物は、連続的に又はバッチ式で、典型的には再循環モードで分散物を均質化するための高圧を生成するために異なる弁及び衝撃リングを使用して、高圧ホモジナイザーに供給することができ、処理された分散物は次に、特定の時間の後又はいくつかのパスの後に採取することができる。典型的には、弁及び衝撃リングを流れと組み合わせると、ホモジナイザー内部に50~2000バールの圧力を生じさせることができる。
【0055】
湿式のミリング工程b)にチップソニケーターを使用する場合、膨張黒鉛予備分散物は、連続的に又はバッチ式でチップソニケーターに供給され、これは、分散物に浸漬された金属チップを再循環モードで急速に振動させて、高い局所圧力及び空洞形成を生じさせ、次に特定の時間の後又はいくつかのパスの後に、処理された分散物を採取する。
【0056】
いくつかの実施態様において、湿式のミリング工程b)は、得られた材料の所望のパラメーターが達成されるまで、複数回(すなわち粉砕された材料を取り出し、それを別のラウンドの粉砕にかけること)行ってもよい。複数回実施する場合、複数の湿式のミリング工程に異なる種類のミルを使用することも可能である。あるいは、複数の工程が全て同じ種類のミルで行われる。従って複数のミリング工程は、遊星ミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、チップソニケーター、又はこれらの組み合わせで実施することができる。
【0057】
いくつかの実施態様において、加工された膨張黒鉛分散物を希釈するために、乾燥工程の前に追加の液体を添加してもよい。 適切な液体は、再度、上記の適切な液体のリストから選択することができる。 好ましくは追加の液体は、水、有機溶媒、又はこれらの混合物から選択される。
【0058】
工程c)に関して、乾燥は、任意の適切な乾燥装置を使用する任意の適切な乾燥技術によって達成される。典型的には乾燥の最初の工程(又は代替的に、ミリング工程b)の最後の工程)は、例えば濾過又は遠心分離によって分散物から固体材料を採取することであり、これは実際の乾燥が行われる前に液体の大部分を除去する。いくつかの実施態様において乾燥工程c)は、オーブン又は炉内で熱風/ガスにさらすこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流体床乾燥、流動床乾燥、及び真空乾燥から選択される乾燥技術によって行われる。
【0059】
例えば分散物は、直接又は任意に適切なフィルター(例えば、<100μmの金属製又は石英製フィルター)を通して分散物を濾過した後に、典型的には120~230℃のエアオーブンに導入され、これらの条件下で維持することができるか、又は350℃で例えば3時間乾燥することができる。界面活性剤が存在する場合、任意選択的に炭素質剪断ナノリーフは、界面活性剤を除去/破壊するために高温で、例えばマッフル炉中で575℃で3時間乾燥してもよい。
【0060】
あるいは、乾燥は真空乾燥によって行うこともでき、ここで、処理された膨張黒鉛分散物は、直接又は任意に適切なフィルター(例えば100μm未満の金属製又は石英製フィルター)を通して濾過した後に、連続的に又はバッチ式で密閉真空乾燥オーブンに導入される。真空乾燥オーブンでは、典型的には100℃未満の温度で任意に異なる攪拌機を使用して高真空を作り出して粒状材料を動かすことによって、溶媒が蒸発される。乾燥された粉末は、真空を破った後に乾燥室から直接採取される。
【0061】
乾燥は、例えば噴霧乾燥機で達成することもでき、ここで、処理された膨張黒鉛分散物は連続的に又はバッチ式で噴霧乾燥機に導入され、この噴霧乾燥機は、小さいノズルを使用して高温ガス流を使用して分散物を小滴に急速に粉砕する。乾燥粉末は典型的にはサイクロン又はフィルターに採取される。例示的な入口ガス温度は150~350℃の範囲であり、一方出口温度は典型的には60~120℃の範囲である。
【0062】
乾燥はまた、フラッシュ又は流体床乾燥によっても達成することができ、ここで、処理された膨張黒鉛分散物は連続的に又はバッチ式でフラッシュ乾燥機に導入され、このフラッシュ乾燥機は、湿った材料を異なるローターを使用して急速に小粒子に分散させ、これは次に高温ガス流を用いて乾燥される。乾燥粉末は典型的にはサイクロン又はフィルターに採取される。例示的な入口ガス温度は150~300℃の範囲であり、一方出口温度は典型的には100~150℃の範囲である。
【0063】
あるいは、処理された膨張黒鉛分散物は連続的に又はバッチ式で流動床反応器/乾燥機に導入することができ、この流動床反応器/乾燥機は、熱風の注入と小さな媒体ビーズの動きとを組み合わせることによって分散物を急速に霧化する。乾燥粉末は典型的にはサイクロン又はフィルターに採取される。例示的な入口ガス温度は150~300℃の範囲であり、一方出口温度は典型的には100~150℃の範囲である。
【0064】
乾燥はまた、処理された膨張黒鉛分散物が連続的に又はバッチ式で密閉凍結乾燥機に導入される凍結乾燥によって達成することもでき、ここで、溶媒(典型的には水又は水/アルコール混合物)の凍結と高真空の適用との組合せは凍結溶媒を昇華させる。全ての溶媒が除去された後、そして真空が解除された後に、乾燥した材料が採取される。
【0065】
乾燥工程は、任意選択的に複数回実施されてもよい。複数回実施される場合、乾燥技術の異なる組み合わせを使用することができる。複数の乾燥工程は、例えば、湿式粉砕されたナノリーフをオーブン/炉内で熱風(又は窒素若しくはアルゴンなどの不活性ガス流)に付すことにより、噴霧乾燥、フラッシュ又は流体床乾燥、流動床乾燥、真空乾燥、又はこれらの任意の組み合わせにより、実施することができる。
【0066】
いくつかの実施態様において、乾燥工程は少なくとも2回行われ、ここで、好ましくは乾燥工程はオーブン/炉内で熱風に付すこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流体床乾燥、流動床乾燥、真空乾燥からなる群から選択される少なくとも2種の異なる乾燥技術を含む。
【0067】
以下の実施例の項に示されるように、例えばミリング及び乾燥方法の以下の非限定的な組み合わせを使用することによって、良好な結果が達成されている:
遊星ミル粉砕と噴霧乾燥の組合せ、
超音波処理と噴霧乾燥の組合せ、
超音波処理と噴霧乾燥及び空気炉乾燥の組合せ、
高圧均質化と噴霧乾燥の組合せ
高圧均質化と噴霧乾燥及び空気炉乾燥の組合せ、
高圧均質化と真空乾燥の組合せ、
高圧均質化と凍結乾燥の組合せ、
高圧均質化と流動床乾燥の組み合わせ、
ビーズミル粉砕と噴霧乾燥の組み合わせ、
ビーズミル粉砕と空気炉乾燥の組合せ、
ビーズミル粉砕と噴霧乾燥及び空気炉乾燥の組み合わせ、又は
ビーズミル粉砕とフラッシュ乾燥の組み合わせ。
【0068】
一般に、本開示による方法に使用される出発材料は膨張(すなわち剥離)黒鉛であり、これは本明細書に記載の湿式粉砕プロセスの前に、未粉砕であるか又は予備粉砕されていてもよい。典型的には膨張黒鉛は、約0.003~0.050g/cmの見かけ(嵩又はスコット)密度及び約20~約200m/gのBET SSAを示す。
【0069】
上記で説明したように、得られた炭素質剪断ナノリーフは次に凝集させて、典型的には非凝集1次粒子と比較して増大した嵩密度を有する「柔らかい」凝集体を製造することができる。従っていくつかの実施態様において、炭素質剪断ナノリーフ粒子を製造するための方法は、乾燥工程cから得られた炭素質剪断ナノリーフを凝集体に変換する圧縮工程をさらに含むことができる。一般に、そのような凝集には任意の圧縮方法を使用することができる。適切な圧縮/凝集方法は、例えば国際公開第2012/020099A1号として公開された国際出願に開示されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
特定の実施態様において、圧縮工程(すなわち、凝集)は、ローラー圧縮機を使用する方法によって達成することができる。例えば適切な装置は、Alexanderwerk AG, Remscheid, Germany製のローラー圧縮機PP150である。好ましくは、粉砕された膨張黒鉛粒子は、スクリューの助けを借りて2つの逆回転ロールに供給されて予備凝集体が得られ、次に微細凝集工程により予備凝集体は篩に通され、これは所望の凝集体サイズを規定することを助ける。代替実施態様において凝集は、例えばDE-OS-3432780A1号に記載されているフラットダイペレット製造機を使用する方法によって達成される。この方法では、タップ密度は、ロール間のギャップ、ダイとダイのサイズ、及び回転ナイフの速度によって調整される。好ましくは、粉砕した膨張黒鉛粒子はパングラインダーロール(pan grinder roll)によりダイを通してプレスされ、次に予備凝集黒鉛粒子は回転ナイフなどの適当な手段で所望のサイズに切断される。さらに別の代替方法の実施態様において、凝集はピンミキサーペレット製造機又は回転ドラムペレット製造機を使用する方法により達成される(図18参照)。いくつかの特許、例えば米国特許第3,894,882号、米国特許第5,030,433号、及び欧州特許第0223963B1号は、異なる種類の粉末の凝集のためのこれらのペレット製造システムを記載している。これらの変法では、タップ密度は、供給速度、含水量、添加剤の選択及び濃度、ならびにピンシャフト又はドラム回転速度によってそれぞれ調整される。本方法のさらに他の代替実施態様において、凝集は流動床法、噴霧乾燥法、又は流動床噴霧乾燥法によって達成される。
【0071】
本開示の別の態様は、本明細書で定義される粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフに関し、これは、上記及び添付の特許請求の範囲に記載の方法によって得ることができる。
【0072】
炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物
さらなる態様において本開示は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を提供する。
【0073】
この態様のいくつかの実施態様において、本組成物は、本明細書で定義される炭素質剪断ナノリーフ粒子の混合物を含むことができ、ここで粒子は互いに異なり、例えば異なるプロセスにより又は異なる出発材料を用いて製造される(それでもなお、本明細書に記載される制限を満たす)。別の実施態様において組成物は、さらに又は代替的に、他の未改質(例えば天然又は合成黒鉛)又は改質炭素質の、例えば黒鉛粒子又は非黒鉛粒子を含んでもよい。従って、本開示による炭素質剪断ナノリーフ粒子を他の炭素質又は非炭素質材料と様々な比率(例えば、1:99~99:1(重量%))で含む組成物もまた、本開示によって企図される。特定の実施態様において、天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、並びにこれらの混合物などの炭素質材料は、本明細書に記載の形成物の製造の種々の段階で炭素質剪断ナノリーフ粒子に添加することができる。別の実施態様において、組成物はさらに結合剤を含んでもよい。
【0074】
炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む分散物
さらに別の態様において本開示はまた、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む分散物を含む。
【0075】
いくつかの実施態様において、分散物中の炭素質剪断ナノリーフの重量含有量は10重量%以下、例えば0.1重量%~10重量%、又は1重量%~8重量%、又は2重量%~6重量%である。分散物はまた他の炭素質材料、例えば天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの混合物をさらに含んでもよい。
【0076】
分散物は典型的には液体/固体分散物である。炭素質材料は典型的には本質的にいかなる溶媒にも不溶性であるため、溶媒の選択は重要ではない。分散に適した溶媒には、特に限定されるものではないが、水、水/アルコール混合物、水/分散剤混合物、水/増粘剤混合物、水/結合剤混合物、水/追加の添加剤混合物、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0077】
本明細書に記載の分散物は、一般に所望量の炭素質剪断ナノリーフを(任意選択的に上記の他の添加剤と一緒に)溶媒中に懸濁させることによって調製することができる。あるいは分散物は、本明細書に記載される炭素質剪断ナノリーブを調製するための方法によって調製され得るが、最終工程(すなわち溶媒の除去及びその後の乾燥)は省略される。従って、第2の変更態様において、膨張黒鉛前駆体材料を溶媒中に懸濁し、次に本明細書の他の箇所でより詳細に説明されるように粉砕することができる。粉砕(そして分散物中の炭素質剪断ナノリーフの生成)後、及びさらなる添加剤の任意の添加の後に、分散物はそのまま貯蔵されるか、又は、電極材料などの調製におけるような下流の用途に使用することができる。
【0078】
炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む用途及び2次製品
本発明のさらに別の態様は、電池及びコンデンサーの電極、自動車のボディパネル、ブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、粉末冶金、燃料電池部品、触媒担体、潤滑油及びグリース、又は防食コーティングなどの導電性及び/又は熱伝導性ポリマー複合材料用の、ポリマー用充填剤としての、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物の使用に関する。
【0079】
本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を含む2次製品は、本発明のさらなる態様を表す。
【0080】
例えば、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を含む複合材料は、本開示の別の態様を表す。
【0081】
いくつかの実施態様において、複合体は、ポリマー材料、セラミック材料、鉱物材料、ワックス、又は建築材料を含むマトリックス材料を含む。具体的実施態様において、これらの複合体は熱伝導性及び/又は導電性材料を調製するために使用し得る。例示的な材料は、例えばNMC、MnO、LED照明材料、ソーラーパネル、電子機器(熱放散を補助する)、又は地熱ホース、伝導性ポリマーが熱交換体として機能する床暖房、一般に熱交換器(例えば、自動車用途)、塩(例えば相変化材料又は低融点塩)に基づく蓄熱システム、熱伝導性セラミック、ブレーキパッド用摩擦材料、セメント、石膏、又は粘土(例えば建設用れんが)、サーモスタット、黒鉛バイポーラプレート、又はカーボンブラシを含む。炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む伝導性ポリマーに使用するのに適したポリマー材料には、例えば、ポリオレフィン(例えばLDPE、LLDPE、VLDPE、HDPEなどのポリエチレン、ホモポリマー(PPH)又はコポリマーなどのポリプロピレン、PVC、又はPS)、ポリアミド(例えばPA6、PA6,6;PA12;PA6,10;PA11、芳香族ポリアミド)、ポリエステル(例えばPET、PBT、PC)、アクリル又はアセテート(例えばABS、SAN、PMMA、EVA)、ポリイミド、チオ/エーテルポリマー(例えばPPO、PPS、PES、PEEK)、エラストマー(天然又は合成ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばTPE、TPO)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂又はエポキシ樹脂)、これらのコポリマー、又は前述の材料のいずれかの混合物が挙げられる。
【0082】
炭素質剪断ナノリーフ粒子の装填比は、一般に熱伝導性についての所望の目標値及び複合ポリマーの機械的安定性に関する要件に応じて広く変動し得る。いくつかの実施態様において、約3~約5%(w/w)の添加で既に良好な結果が達成されているが、他の用途では、添加される炭素質剪断ナノリーフ粒子の重量比はもう少し高くてもよく、例えば約10、約15、約20、約25、又は約30%(w/w)でもよい。しかし別の実施態様において、伝導性ポリマーが、さらに約30%を超える炭素質剪断ナノリーフ粒子を含むこと、例えば約40%、約50%、約60%、さらには約70%(w/w)を含むことを排除しない。カーボンブラシ又はバイポーラプレートなどの伝導性ポリマー複合体のいくつかの実施態様においては、複合材料への約80%(w/w)又は約90%(w/w)の炭素質剪断ナノリーフ粒子の装填さえも含まれ得る。
【0083】
いずれにせよ、ポリマーの導電性もまた望まれる場合、最終ポリマー中の炭素質剪断ナノリーフ粒子の濃度は、いわゆるパーコレーション閾値を超えるように調整されるべきであり、閾値を超えるとポリマーの抵抗率は典型的には指数関数的に低下する。一方、複合材料のメルトフローインデックスは、典型的にはポリマー中の黒鉛含有量の増加と共に減少する(すなわち粘度が増加する)ことを考慮すべきである。従って、複合ポリマーブレンド中の黒鉛含有量はまた、成形工程において許容される最大粘度にも依存する。しかしメルトフローインデックスは、ポリマーの種類の選択にも依存し得る。
【0084】
この態様の別の実施態様は、本開示のこの態様のさらなる実施態様である炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む、リチウムイオン電池を含む電池用の負極材料に関する。さらに別の関連する実施態様は、炭素質剪断ナノリーフ粒子、又は負極の活性物質として本明細書に記載の前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を含む、リチウムイオン電池を含む電池の負極に関する。例えば、結合剤と、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物とを用いて、例えばリチウムイオン電池に用いられる負極を製造することができるであろう。
【0085】
別の実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、リチウムイオン電池又は1次電池を含む電池の負極及び/又は正極中の不活性添加剤(例えば導電性添加剤)として使用することができる。本明細書で使用される1次電池は、非充電式電池、例えば亜鉛-炭素電池、アルカリ電池、又は1次リチウム電池を指す。1つの実施態様において炭素質剪断ナノリーフは、ケイ素活性物質含有リチウムイオン電池に使用することができる。例えば、剪断されたナノリーフは、黒鉛-ケイ素負極中の炭素粉末マトリックスの一部として含まれてもよい。
【0086】
さらに別の実施態様において本開示は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を含む、エネルギー貯蔵装置又はカーボンブラシに関する。
【0087】
リチウムイオン電池又は1次電池を含む電池を含む電気車両、ハイブリッド電気車両、又はプラグインハイブリッド電気車両は、本開示のこの態様の別の実施態様であり、ここで前記電池は、本明細書に記載の前記炭素質剪断ナノリーフ粒子、又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を、電池の負極における活性物質として、又は電池の正極における導電性添加剤として含む。
【0088】
本開示のさらに別の実施態様は、例えば粒子上の炭素系のコーティングに関し、ここで前記コーティングは、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を含む。
【0089】
本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子又は前記炭素質剪断ナノリーフ粒子を含む組成物を含む分散物は、本開示のこの態様のさらに別の実施態様である。このような分散物は典型的には液体/固体分散物であり、すなわちこれらは「溶媒」も含む。適切な溶媒は、いくつかの実施態様において、水、水/アルコール混合物、水/分散剤混合物、水/増粘剤混合物、水/結合剤、水/追加の添加剤、若しくはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、又はこれらの混合物を含み得る。
【0090】
このような分散物中の分散剤/湿潤剤は、Pluronic PE 6800(BASF AG)などのPEO-PPO-PEOブロックコポリマー、Morwet EFW(AkzoNobel)などのスルホネートのようなイオン性分散剤、又はEmuldac AS 25(Sasol)などのアルコールポリエトキシレート、Tergitol 15-S-9(Dow Chemical)などのアルキルポリエーテル、ポリエチレングリコール、又は顔料分散物の分野の当業者に知られている他の任意の分散剤などの非イオン性分散剤から選択されることが好ましい。分散剤/界面活性剤は、典型的には分散物の約0.01重量%~約10重量%、好ましくは分散物の約0.1重量%~約5.0重量%、最も好ましくは約0.25重量%~約1.0重量%を占める。
【0091】
レオロジー改質剤、増粘剤は、好ましくはOptixan 40又はXanthan Gum(例えば、ADM Ingredients Ltd.から入手可能)などの多糖類である。代替のレオロジー改質剤は、Bentone EW(Elementis Specialties)などのフィロケイ酸塩のような無機増粘剤、又はカルボキシメチルセルロース又はMethocel K 15M(Dow-Wolf)などのセルロースエーテルのような、又はAcrysol DR 72(Dow Chemicals)などのポリアクリレートのような、又はDSX 1514(Cognis)などのポリウレタンのような他の有機増粘剤、又は顔料分散物の分野で知られている任意の他の増粘剤である。レオロジー改質剤は、典型的には、分散物の約0.01重量%~約25重量%、好ましくは分散物の約0.1重量%~約5重量%、最も好ましくは分散物の約0.25重量%~約1.0重量%を占める。
【0092】
結合剤は、好ましくはケイ酸塩又はVinavil 2428(Vinavil)などのポリ酢酸ビニル、又はSancure 825(Lubrizol)などのポリウレタンである。結合剤は典型的には、分散物の約0.01重量%~約30重量%、好ましくは0.1重量%~15重量%、最も好ましくは分散物の約1重量%~約10重量%を占める。含まれてもよい追加の添加剤は、アンモニアなどのpH調整剤、又はAMP-90(Dow Chemical)などのアミン、又は当技術分野において公知の任意の他のpH調整剤である。他の可能な添加剤は、Tego Foamex K3(Tego)などの鉱油、又はTego Foamex 822(Tego)などのケイ素系の消泡剤、又は当技術分野において公知の同等の消泡剤である。保存期間を改善するために、防腐剤/殺生物剤を分散物に含めることもできる。
【0093】
潤滑剤としての粉砕膨張黒鉛の使用
本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ粒子は、ドライフィルム潤滑剤として又は自己潤滑性ポリマー中の添加剤として、潤滑剤としても使用できることが発見された。さらに、国際公開第2012/020099A1号に記載されている粉砕膨張黒鉛凝集体を含む他の粉砕膨張黒鉛粒子は、その潤滑効果に関して優れた特性を示すことが見出された。
【0094】
このために、(自己潤滑性)添加剤として本明細書に記載される一定量(典型的には20重量%)の炭素質剪断ナノリーフを含む様々なポリマー複合材料を用いて、トライボロジー試験を実施した。本発明者らは、前記複合材料が増強されたトライボロジー特性を示し、高い法線力で低い摩擦係数をもたらすことを見出した(実施例3及び図3~7を参照)。
【0095】
従って本発明の別の態様は、添加剤として前記粉砕膨張黒鉛を含み、又はエンジン若しくは他の機械システムにおいて機械部品を動かすための乾式固体潤滑剤として使用されるときの、ポリマー複合材料の
(i)圧力速度(PV)限界を上昇させるための、
(ii)耐摩耗性を向上させるための、及び/又は
(iii)摩擦係数を下げるための、
粉砕膨張黒鉛の使用に関する。
【0096】
従って電気的材料、自動車エンジン、又は金属部品のための乾式潤滑剤としての粉砕膨張黒鉛の使用は、本開示のこの態様の別の実施態様を表す。
【0097】
この態様のいくつかの実施態様において、粉砕膨張黒鉛は、一緒に圧縮された粉砕膨張黒鉛粒子を含む黒鉛凝集体であり、任意選択的に前記凝集体は粒子の形態であり、約100μm~約10mm、好ましくは約200μm~約4mmのサイズを有し、好ましくは国際公開第2012/020099A1号に定義されている黒鉛凝集体は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。具体的実施態様において前記黒鉛凝集体は、タップ密度が約0.08~約1.0g/cm、好ましくは約0.08~約0.6g/cm、より好ましくは約0.12~約0.3g/cmの範囲であることをさらに特徴とし得る。
【0098】
別の実施態様において、粉砕膨張黒鉛は、本明細書に記載の炭素質剪断ナノリーフ材料である。あるいは粉砕膨張黒鉛はまた、上述の2つの変種の混合物であり得る。
【0099】
測定方法
本明細書で特定される百分率(%)値は、特に別の指定がなければ、重量による。
【0100】
BET比表面積
この方法は、77Kでp/p0=0.04~0.26の範囲の液体窒素の吸収等温線の記録に基づく。Brunauer, Emmet and Teller (Adsorption of Gases in Multimolecular Layers, J. Am. Chem. Soc., 1938, 60, 309-319)により提唱された方法に従って、単層容量を決定することができる。窒素分子の断面積、試料の単層容量、及び重量に基づいて、比表面積を計算することができる。
【0101】
レーザー回折による粒径分布(湿式PSD)
コヒーレント光ビーム内の粒子の存在は回折を引き起こす。回折パターンの大きさは粒径に比例する。低出力レーザーからの平行ビームは、水中に懸濁された試料を含むセルを照らす。セルを出るビームは光学系によって集束される。次にシステムの焦点面における光エネルギーの分布が分析される。光検出器によって与えられた電気信号は、計算機によって粒径分布に変換される。少量の黒鉛試料が数滴の湿潤剤及び少量の水と混合される。試料は記載した方法で調製され、分散を改善するために超音波を使用する水で満たされた装置の貯蔵容器に導入された後に測定される。実施例4に記載の「NMP分散物X」及び「NMP分散物Y」をそのまま測定した。
参考文献:-ISO13320-1/-ISO14887
【0102】
レーザー回折による粒径分布(乾式PSD)
粒径分布は、RODOS/L乾式分散装置及びVIBRI/L投与システムを備えたSympatec HELOS BRレーザー回折装置を使用して測定される。少量の試料を投与システムに載せ、3バールの圧縮空気を使って、通常はD90で75μm超の材料にはレンズR5を使って、光ビームを通過させる。
参考文献:ISO13320-1
【0103】
音響法による粒径分布(超音波減衰分光法)
粒径分布は、音響分光計DT-1202(Dispersion Technology, Inc.)を使用して測定した。「NMP分散物X」及び「NMP分散物Y」は、溶解ディスクを用いて水で固形分約0.2重量%に希釈した後に測定した。カーボンブラックC-NERGY(商標)SUPER C45の場合、水分散物を作成するために以下の手順を使用した:0.89gの湿潤剤及び1.50gの消泡剤を、溶解ディスクを使用して300.00gの水に溶解し、次に6.00gのカーボンブラックを溶液に加えて混合した。
【0104】
キシレン密度
分析は、DIN51901に定義されている液体排除の原理に基づいている。約2.5g(正確度0.1mg)の粉末を25mlの比重計中で秤量する。キシレンを真空下(15トール)で添加する。常圧下で数時間の滞留時間の後、比重計を調整し秤量する。密度は質量と体積の比率である。質量は試料の重量で与えられ、体積は、試料粉末有り及び無しの場合のキシレン充填比重計の重量の差から計算される。
参考文献:DIN51901
【0105】
スコット密度(見かけの密度又は嵩密度)
スコット密度は、ASTM B329-98(2003)に従って、乾燥炭素粉末をスコット体積計に通過させることによって決定される。粉末を1インチの容器(16.39cmに相当する)に採取し、0.1mgの正確度で秤量する。重量と体積の比はスコット密度に対応する。3回測定して平均値を計算する必要がある。黒鉛の嵩密度は、目盛り付きガラスシリンダー中の250mlの試料の重量から計算される。
参考文献:ASTMB329-98(2003)
【0106】
結晶子サイズL
結晶子サイズLは、[002]X線回折プロファイルの分析及び最大半値におけるピークプロファイルの幅の測定によって決定される。ピークの広がりは、Scherrer (P. Scherrer, Gottinger Nachrichten 1918, 2, 98) によって提唱されているように、結晶サイズによって影響を受けるはずである。しかしその広がりはまた、X線吸収、ローレンツ偏光、及び原子散乱係数などの他の要因によっても影響される。内部シリコン標準物質を使用し、そして補正関数をシェラー(Scherrer)の式に適用することによって、これらの効果を考慮に入れるためにいくつかの方法が提案されてきた。本開示のために、Iwashita (N. Iwashita, C. Rae Park, H. Fujimoto, M. Shiraishi and M. Inagaki, Carbon 2004, 42, 701-714) によって提唱された方法が使用された。試料調製は、上記のc/2測定の場合と同じであった。
【0107】
結晶サイズL
結晶サイズLは、以下の式を用いてラマン測定値から計算される:
[オングストローム(Å)]=Cx(I/I
ここで、定数Cは、514.5nmと632.8nmの波長を持つレーザーに対してそれぞれ44[Å]と58[Å]の値を有する。
【0108】
黒鉛/MnO2混合物の電気抵抗率
TURBULAミキサーを使用して、98%の電解二酸化マンガン(DELTA EMD TA)と2%の黒鉛材料との混合物を調製する。長方形の試料(10cm×1cm×1cm)を3t/cmでプレスする。試料を25℃及び相対湿度65%で2時間コンディショニングする。電気抵抗率は、4点測定を用いてmΩcmで測定される。
【0109】
ポリプロピレンの電気抵抗率
35.08gのPP HP501Lを1.46gの黒鉛材料(すなわち、4重量%のカーボンナノリーフ、又は示された重量%に比例する割合を用いる)と、密閉式ミキサー中で190℃で5分間100rpmを用いて混合し、圧縮成形によってプレートを調製する。
【0110】
ポリスチレンの熱伝導性試験
熱伝導性試験は、直径25.4mm、厚さ4mmのディスク上でLaserflash(NETZSCH LFA447)を使用して、室温で面貫通方向で実施した。ポリスチレン(EMPERA 124N)を黒鉛と密閉式ミキサー内で220℃、100rpmで5分間混合し、圧縮成形によってプレートを調製した。
【0111】
フェノール樹脂の導電率/熱伝導性
フェノール樹脂中の複合体は以下の手順に従って調製された:
・混合:80重量%の黒鉛粉末を20重量%のフェノール樹脂粉末(SUPRAPLAST 101)と乾式混合する、
・圧縮:混合粉末を異なる圧力4t/cmで長方形の金型中でプレスする、
・硬化:プレスした試料を次の熱処理に従ってオーブン内で硬化させる:25~80℃(120分)、80~135℃(660分)、135~180℃(270分)、180℃で120分、冷却。
電気抵抗率は、4点測定でmΩcmで測定される。熱伝導性試験は、Laserflash(NETZSCH LFA447)を用いて室温で面内方向に行った。
【0112】
4.5kN/cm での粉体抵抗率(98重量%NMC中2重量%カーボンナノリーフ)
高剪断エネルギー実験室用ミキサーを使用して、0.2gの炭素質剪断ナノリーフ粒子及び9.8gの市販のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)粉末をアセトン中に分散させ、粉末成分の充分な均質化を確実にした。試料を80℃で一晩乾燥することによりアセトンを除去した。2gの各乾燥粉末混合物を、絶縁性ダイ(内径11.3mmのガラス繊維強化ポリマー製のリングで、追加の機械的支持のために鋼製のより大きいリングに挿入した)内で、真鍮製の2つの帯電ピストン(直径1.13cmm)の間で圧縮した。加えた力は実験中に制御され、ダイ内のピストンの相対位置(すなわち粉末試料の高さ)は長さゲージを用いて測定した。既知の定電流で試料を横切る電圧降下を、電極としてピストンを使用して4.5kN/cmの圧力で、その場で測定した(2点抵抗測定)。試料抵抗は、ピストンと試料間の接触抵抗が無視できると仮定して、オームの法則を使用して計算した(計算した抵抗は完全に試料に起因していた)。試料の抵抗率は、金型の公称内径(1.13cm)及び測定された試料の高さを用いて計算し、Ω・cmで表した。実験中にポリマーリングは、試料の横方向の膨張(横方向の歪み)の結果として弾性変形した。ポリマーリングの弾性変形は、4.5kNcm-2以下の圧力ではほとんど無視できる程度であり、比較のために無視することができる。
参考文献:
Probst、Carbon 40(2002)201-205
Grivei、KGK Kautschuk Gummi Kunststoffe 56、Jahrgang、Nr.9/2003
Spahr、Journal of Power Sources 196 (2011) 3404-3413
【0113】
LiB正極(カソード)の密度と電気抵抗
他の箇所(実施例4、「NMP分散物X」及び「NMP分散物Y」)に記載されているように、予めNMP中に分散された0.350gの炭素導電性添加剤、すなわちカーボンブラックC-NERGY(商標)SUPER C65又は炭素質剪断ナノリーフ粒子、0.665gのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及び33.95gのリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)粉末を、11000rpmで数分間ローターステーター分散機を用いて、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させた(炭素導電性添加剤粒子を脱凝集させ、これらを分散物中に均一に分布させるために高剪断力を加えた)。スラリーに添加する前に、PVDF結合剤をNMP(12重量%)に溶解した。「NMP分散物X」及び「NMP分散物Y」に含まれるPVP分散剤は結合剤としての役割を果たすと考えられ、従って結合剤の総量(PVDF+PVP)がスラリー(炭素、結合剤、及びNMC)の固形分の2重量%に相当するようにPVDFの量を計算した。スラリーをドクターブレード法(湿潤厚さ:200μm、乾燥後の装填量:20~27mg・cm-)によってアルミニウム箔上に被覆した。被覆箔を真空中120℃で一晩乾燥した。
【0114】
コーティングの抵抗は、105mAの電流を流した2つの平らな金属表面を用いて電極試料(直径:10mm)に20kNの力をかけながら、2点設定で測定し、電圧降下を測定した。試料の重量と寸法(長さゲージを使用して2つの金属表面間の距離を測定することにより加えられた力で測定される幾何学的面積及び厚さ)を用いて、重量、抵抗、及び厚さへのアルミニウム箔基材の寄与を考慮して計算した(これらは、同じ直径を有する被覆されていないアルミニウム電極試料を用いて同じ設定及び条件を用いて測定され、被覆された電極試料を用いて測定された対応する値から差し引かれる)。
【0115】
トライボロジー試験
トライボロジー試験は、トライボロジーセル(T-PTD 200)を備えたMCR 302レオメーター(AntonPaar, Graz, Austria)で行った。この設定は、ボールを保持するシャフトと、3つの小さなプレートを配置できるインセットとからなるボールオンスリープレート(ball-on-three-plates)の原理に基づく。本明細書で報告された実験では、3つのプレートは密閉式ミキサー及び圧縮成形によって製造された炭素質材料充填ポリスチレン(PS)試験片であり、トライボロジー実験には未硬化鋼(1.4401)及びポリアミド(PA6.6)ボールを使用した。
【0116】
限界力(すなわち、摩擦係数が0.3を超える法線力として定義される圧力速度(PV)限界)を決定するために、1500rpm(0.705m/sに対応する)の一定回転速度及び増加する法線力(10分にわたって1Nから50Nまで)で試験を実施した。
【0117】
レオロジー測定
レオロジー試験は、コーンプレート構成を備えたMCR 302レオメーター(Anton Paar, Graz, Austria)を用いて行った。「NMP分散物X」及び「NMP分散物Y」はそのまま測定した(実施例4に記載)。比較カーボンブラックの場合、以下の一般的な手順を用いてNMP中の分散物を調製した:ディゾルバーディスクを用いて0.14gの分散剤(PVP)を48.50gのNMPにゆっくり溶解させ、次に1.36gのカーボンブラックを分散剤溶液に添加し、2500rpmで25分間混合した。
【0118】
固形分
固形分は、ハロゲン水分計(HB43、Mettler Toledo)を用いて130℃で測定した。
【0119】
番号付きの実施態様
本開示は、以下の番号付けされた実施態様によってさらに説明され得るが、これらに限定されるものではない:
1.炭素質剪断ナノリーフが以下によって特徴づけられる、粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ:
(i)BET SSAが、約40m/g未満、又は約10~約40m/g、又は約12~約30m/g、又は約15~約25m/gであり、及び、
(ii)嵩密度が、約0.005~約0.04g/cm、又は約0.005~約0.038g/cm、又は約0.006~約0.035g/cm、又は約0.07~約0.030g/cm、又は約0.008~約0.028g/cmである。
2.さらに以下によって特徴づけられる、実施態様1に記載の炭素質剪断ナノリーフ:
(i)粒径分布が約10~約150μmのD90であり、及び/又は、
(ii)乾燥PSD D90対見かけの密度比が、約5000~52000μm×cm×g-1である。
3.透過型電子顕微鏡法(TEM)によって決定される厚さが、約1~約30nm、又は約2~20nm、又は2~10nmであることによってさらに特徴づけられる、実施態様1又は実施態様2に記載の炭素質剪断ナノリーフ。
4.キシレン密度が約2.1~2.3g/cmであることによってさらに特徴づけられる、実施態様1~3のいずれか1つに記載の炭素質剪断ナノリーフ。
5.さらに以下によって特徴づけられる、実施態様1~4のいずれか1つに記載の炭素質剪断ナノリーフ:
i)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含む二酸化マンガンへ、約1000mΩcm未満、好ましくは約800、700、600、500mΩcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
ii)4重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリプロピレンへ、約1010Ωcm未満、好ましくは約10、10、10、又は10Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iii)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)へ、約20Ωcm未満、好ましくは約15、10、8、6、又は5Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iv)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)へ、約1W/mK超、好ましくは約1.1、1.2、又は1.25W/mK超の面貫通熱伝導率を与えること、及び/又は、
v)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)へ、35Nの法線力で1500rpmで鋼球を用いて「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合、0.45未満、好ましくは約0.40、0.35、又は0.30未満の摩擦係数を与えること、及び/又は、
vi)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)へ、法線力を増加させながら1500rpmで鋼球を用いて「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合、少なくとも33N、又は少なくとも34、35、36、若しくは37Nの限界力を与えること。
6.膨張黒鉛粒子を液体の存在下で粉砕(湿式粉砕)し、次に分散物を乾燥することによって得ることができる、実施態様1~5のいずれか1つに記載の炭素質剪断ナノリーフ。
7.前記炭素質剪断ナノリーフが凝集している、実施態様1~6のいずれか1つに記載の炭素質剪断ナノリーフであって、好ましくは前記凝集したナノリーフは、嵩密度が約0.1~約0.6g/cm、又は約0.1~約0.5g/cm、又は約0.1~約0.4g/cmであり、及び/又はPSDが約50μm~約1mm、又は約80~800μm、又は約100~約500μmのD90であることによって特徴づけられる、上記炭素質剪断ナノリーフ。
8.以下の工程を含む、実施態様1~7のいずれか1項で定義される粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフの製造方法:
a)膨張黒鉛粒子を液体と混合して、膨張黒鉛粒子を含む予備分散物を得る工程と、
b)工程a)から得られた予備分散物をミリング工程に付す工程と、
c)ミリング工程b)から得られた炭素質剪断ナノリーフ粒子を乾燥させる工程。
9.実施態様8に記載の方法であって、工程a)~c)の前に、非膨張炭素質材料を、工程a)及びb)で定義された混合及びミリング工程に付し、次に前記粉砕した炭素質材料を膨張させることをさらに含む、上記方法。
10.前記液体が、水、有機溶媒、又はこれらの混合物から選択される、実施態様8又は実施態様9に記載の方法。
11.ミリング工程b)に付される予備分散物が分散剤をさらに含み、任意選択的に前記分散剤は、PEO-PPO-PEOブロックコポリマー、スルホネート、又は非イオン性アルコールポリエトキシレート、アルキルポリエーテル、又はポリエチレングリコールから選択される、実施態様8~10のいずれか1つに記載の方法。
12.前記湿式ミリング工程b)が、遊星ミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、又はチップソニケーター中で行われる、実施態様8~11のいずれか1つに記載の方法。
13.処理された膨張黒鉛分散物を希釈するために、工程c)の前に追加の溶媒が添加される、実施態様8~12のいずれか1つに記載の方法。
14.前記乾燥が、オーブン/炉内で熱風に付すこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流体床乾燥、流動床乾燥、及び凍結又は真空乾燥からなる群から選択される乾燥技術によって達成される、実施態様8~13のいずれか1つに記載の方法。
15.前記乾燥工程c)は少なくとも2回行われ、好ましくは前記乾燥工程は少なくとも2種の異なる乾燥技術を含む、実施態様8~14のいずれか1つに記載の方法。
16.ミリング工程b)に付される分散物中の膨張黒鉛の重量含有量が約0.2~5%である、実施態様8~15のいずれか1つに記載の方法。
17.ミリング工程b)に付される分散物中の膨張黒鉛の重量含有量が約1%~10%であり、さらに分散物は少なくとも1種の分散剤も含む、実施態様8~15のいずれか1つに記載の方法。
18.工程a)で使用される膨張黒鉛は、以下のパラメーター:
i)約0.003~約0.05g/cmの見かけの密度、及び/又は、
ii)約20~約200m/gのBET SSA、
のいずれか1つを特徴とする、実施態様8~17のいずれか1つに記載の方法。
19.工程cから得られる乾燥炭素質剪断ナノリーフを圧縮して、凝集炭素質剪断ナノリーフを製造することをさらに含む、実施態様8~18のいずれか1つに記載の方法。
20.実施態様8~19のいずれか1つで定義される方法により得られる、実施態様1~7のいずれか1つで定義される粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ。
21.任意選択的に他の炭素質材料と一緒の実施態様1~7又は20のいずれか1つに記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフを含む組成物であって、任意選択的に前記炭素質材料は、天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの混合物の群から選択される、上記組成物。
22.実施態様1~7又は20のいずれか1つに記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフを含む分散物であって、任意選択的に
i)前記分散物中の炭素質剪断ナノリーフの重量含有量が10重量%以下であり、及び/又は、
ii)前記分散物が、天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの混合物の群から選択される別の炭素質材料をさらに含み、
iii)前記分散物が液体/固体分散物であり、前記溶媒が水、水/アルコール混合物、水/分散剤混合物、水/増粘剤混合物、水/結合剤、水/追加の添加剤、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及びこれらの混合物から成る群から選択される、上記分散物。
23.実施態様1~7又は20のいずれか1つに記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ、又は実施態様21の組成物と、ポリマー、NMC、又はMnOと、を含む複合材料。
24.i)実施形態1~7又は20のいずれか1つによる粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ、又は実施形態21の組成物を含むか、又は
ii)実施形態22の分散物を用いて調製される、
負極、又は正極、リチウムイオン電池若しくは1次電池を含む電池、又はブレーキパッド。
25.ポリマー、リチウムイオン電池及び1次電池を含む電池及びコンデンサー用の電極材料、リチウムイオン電池を含む電池、リチウムイオン電池を含む電池を含む車両、又はエンジニアリング材料用の添加剤としての、実施態様1~7又は20のいずれか1つに記載の炭素質黒鉛材料、又は実施態様21の組成物、又は実施態様22の分散物の使用であって、任意選択的に前記エンジニアリング材料は、ブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、燃料電池部品、触媒担体、及び粉末冶金部品から選択される、上記使用。
26.前記粉砕膨張黒鉛を添加剤として含むポリマー複合材料の、
(i)圧力速度(PV)限界を上げるための、
(ii)耐摩耗性を改善するための、及び/又は
(iii)摩擦係数を低下させるための、
粉砕膨張黒鉛の使用。
27.電気材料、又はブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、燃料電池部品、触媒担体、及び粉末冶金部品などのエンジニアリング材料用の乾式潤滑剤としての、粉砕膨張黒鉛の使用。
28.実施態様26又は実施態様27に記載の潤滑剤としての粉砕膨張黒鉛の使用であって、前記粉砕膨張黒鉛が
i)一緒に圧縮された粉砕膨張黒鉛粒子を含む黒鉛凝集体であって、好ましくは約100μm~約10mm、好ましくは約200μm~約4mmの範囲のサイズを有する粒状である前記凝集体であるか、
ii)実施態様1~7又は20のいずれか1つで定義される粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフであるか、又は
iii)i)とii)の混合物である、上記使用。
【0120】
本開示の様々な態様を一般的な用語で説明してきたが、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく多くの修正及び小さな変更が可能であることが当業者には明らかであろう。本開示は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに説明される。
【実施例
【0121】
様々な炭素質ナノリーフ材料の製造と特性評価
【0122】
実施例1 一般的な手順
水/有機溶媒中に0.003~0.050g/cmの見かけの密度及び20~200m/gのBETを有する膨張黒鉛粉末の予備分散物を、任意選択的に界面活性剤添加剤と一緒に、固形分濃度0.5~3重量%で調製した。
【0123】
次に、得られた膨張黒鉛予備分散物を本明細書で上述したようにミルに連続的に通過させた(各試料にどのタイプのミルを使用したかに関する詳細については下記の表1を参照されたい)。所定回数のミル通過後、処理された分散物を採取し、次にオーブン/炉中での空気乾燥、噴霧乾燥、フラッシュ若しくは流体床乾燥、流動床乾燥、凍結若しくは真空乾燥のいずれかにより乾燥した。
【0124】
場合によっては、最初の乾燥工程の後に、以下の表1に明記され、かつ以下の特定の実施例に従って、第2の乾燥技術を使用した。
【0125】
具体例1
60gの膨張黒鉛を1500gの水及び1500gのイソプロパノールと混合し、5mmのZrOボールを用いて5回パスで遊星ボールミル中で連続的に粉砕する。得られた分散物を固形分約0.7重量%に希釈した後に、出口温度として80℃を使用して噴霧乾燥し、試料1を採取した。
【0126】
具体例2
8gの膨張黒鉛を3000gの水及び8gのTergitol 15-S-9と混合し、チップソニケーターを使用して超音波ミル装置内で1時間連続的に粉砕する。得られた分散物を具体例1で説明したように噴霧乾燥し、さらに空気オーブン中350℃で1時間乾燥した後、試料2を採取した。
【0127】
具体例3
60gの膨張黒鉛を2400gの水及び600gのイソプロパノールと混合し、チップソニケーターを使用して超音波ミル装置内で45分間連続的に粉砕する。得られた分散物を具体例1で説明したように噴霧乾燥し、試料3を採取した。
【0128】
具体例4
60gの膨張黒鉛を2400gの水及び600gのイソプロパノールと混合し、高圧ホモジナイザー中で100、300、600、及び1000バールで3回パスで連続的に粉砕する。得られた分散物を、固形分約1重量%に希釈した後に、具体例1で説明したように噴霧乾燥し、試料4、5、6、及び7をそれぞれ採取した。次に試料4を空気炉内で575℃で3時間乾燥し、試料11を採取した。
【0129】
具体例5
60gの膨張黒鉛を2700gの水及び300gのイソプロパノールと混合し、高圧ホモジナイザー中で100バールで1回パスで連続的に粉砕する。得られた分散物を真空乾燥、凍結乾燥、又は流動床乾燥機(出口温度130℃)で乾燥して、それぞれ試料8、9、及び10を採取した。
【0130】
具体例6
93gの膨張黒鉛を2400gの水及び600gのイソプロパノールと混合し、2mmのセラミックパールを用いてパールミル装置中で7回パスで連続的に粉砕する。得られた分散物を、固形分約1重量%に希釈した後に、具体例1で説明したように噴霧乾燥し、試料12を採取した。次に試料12を空気炉内で575℃で3時間又は空気オーブン内で230℃で3時間乾燥し、試料13及び14をそれぞれ採取した。
【0131】
具体例7
93gの膨張黒鉛を2400gの水及び600gのイソプロパノールと混合し、2mmのセラミックパールを用いてパールミル装置中で7回パスで連続的に粉砕する。得られた分散物を100μmの金属製フィルターを用いて濾過し、120℃の空気オーブン内で3時間乾燥し、試料16を採取した。次に、これを空気炉内で575℃で3時間さらに乾燥させ、試料15を採取した。
【0132】
具体例8
93gの膨張黒鉛を1500gの水及び1500gのイソプロパノールと混合し、0.8mmのセラミックパールを用いてパールミル装置中で5回パスで連続的に粉砕する。得られた分散物を100μmの金属製フィルターを用いて濾過し、120℃の空気オーブン内で3時間乾燥し、試料17を採取した。
【0133】
具体例9
60gの膨張黒鉛を2700gの水及び300gのイソプロパノールと混合し、2mmのセラミックパールを用いてパールミル装置中で7回パスで連続的に粉砕する。得られた分散物を流体床乾燥装置(出口温度145℃)で乾燥して試料18を採取した。
【0134】
次に、得られた炭素質ナノリーフを、粒径分布PSD(湿潤及び乾燥)、BET SSA、及び見かけの(すなわち嵩)密度に関して特性評価した。上記で概説した一般的手順に従って製造された材料の特性を以下の表1に要約する。
【0135】
【表1】
【0136】
実施例2 炭素質剪断ナノリーフを含む複合材料の導電性/熱伝導性
実施例1に記載された手順に従って製造された試料を、次にMnO、NMC、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びフェノール樹脂などの様々なマトリックス材料に添加し、得られた炭素質剪断ナノリーフ材料を含む複合材料を、上記の方法欄に詳述されている方法に従って、導電性又は熱伝導性に関して試験した。これらの実験の結果は以下の表2に要約する。
【0137】
【表2】
【0138】
実施例3 炭素質剪断ナノリーフを含む複合材料のトライボロジー試験の一般的手順
実施例1に記載の手順に従って製造した試料を、次にポリスチレン(20重量%)に加え、圧縮成形した。20重量%の選択された炭素質剪断ナノリーフ材料を含む3枚のPS複合体プレートを用いて、方法欄に詳細に記載されるようなトライボロジー試験を、一定の回転速度、例えば500rpm(0.235m/sに相当)又は1500rpm(0.705m/sに相当)、及び増加する法線力(10分で1N~50Nまで)で、未硬化鋼又はポリアミド(PA6.6)ボールを用いて行った。結果をそれぞれ図6及び7に示す。
【0139】
実施例4 N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の炭素質剪断ナノリーフを含む分散物の調製及び特性評価
分散物を調製するための一般的な手順:
【0140】
A)「NMP分散物X」
1.19gの分散剤(ポリビニルピロリドン、PVP)を283.50gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)にゆっくり溶解させ、次に11.86gの膨張黒鉛を分散剤溶液と混合した。得られた分散物を少量の追加のNMPで希釈し、高圧ホモジナイザー中で700バールで10分間連続的に粉砕し(約6回のパスに対応する)、次に採取した。
【0141】
B)「NMP分散物Y」
1.19gの分散剤(PVP)を283.50gのNMPにゆっくり溶解させ、次に11.86gの膨張黒鉛を分散剤溶液と混合した。得られた分散物を少量の追加のNMPで希釈し、高圧ホモジナイザー中で300バールで5分間連続的に粉砕し(約3回のパスに相当する)、次に採取した。
【0142】
採取された材料を、次にこれらの粒径分布ならびにレオロジーパラメーター(粘度)に関して特性評価し、そして市販の炭素質材料と比較した。レオロジー試験は、コーンプレート構成を備えたMCR 302レオメーター(AntonPaar, Graz, Austria)で行った。「NMP分散物X」及び「NMP分散物Y」はそのまま測定した。カーボンブラックC-NERGY(商標)SUPER C65及びENSACO(登録商標)350の場合、NMP分散物を製造するために以下の手順を用いた:0.14gの分散剤(PVP)を48.50gのNMPにディゾルバーディスクを用いてゆっくり溶解し、次に1.36gカーボンブラックを分散剤溶液に加え、2500rpmで25分間混合した。結果を以下の表3に要約する。
【0143】
【表3】
【0144】
LiB正極(カソード)の密度と電気抵抗率
NMP中の炭素導電性添加剤、PVP、PVDF、及びNMCを含むスラリー(「測定方法」欄で上述したように調製した)をドクターブレード法によってアルミニウム箔上にコーティングした(湿潤厚さ:200μm、装填量:20~27mg・cm-2)。被覆箔を真空中120℃で一夜乾燥した。
【0145】
コーティングの抵抗を、上記の「材料及び方法」欄に記載されているように2点構成を使用して測定した。結果を以下の表4に要約する。
【0146】
【表4】
本開示には、以下に例示する実施形態も開示される。
[実施形態1]
粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフであって、前記炭素質剪断ナノリーフが、
(i)BET SSAが、約40m /g未満、又は約10~約40m /g、又は約12~約30m /g、又は約15~約25m /gであること、及び、
(ii)嵩密度が、約0.005~約0.04g/cm 、又は約0.005~約0.038g/cm 、又は約0.006~約0.035g/cm 、又は約0.07~約0.030g/cm 、又は約0.008~約0.028g/cm であること、
によって特徴づけられ、任意選択的に、さらに、
(iii)粒径分布が約10~約150μmのD 90 を有すること、及び/又は、
(iv)乾燥PSD D 90 対見かけの密度比が、約5000~52000μm×cm ×g -1 であること、及び/又は
(v)透過型電子顕微鏡(TEM)によって決定される厚さが、約1~約30nm、又は約2~20nm、又は2~10nmであること、及び/又は
(vi)キシレン密度が約2.1~2.3g/cm であること、
によって特徴づけられる、粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ。
[実施形態2]
さらに、
i)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含む二酸化マンガンに、約1000mΩcm未満、好ましくは約800、700、600、500mΩcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
ii)4重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリプロピレンに、約10 10 Ωcm未満、好ましくは約10 、10 、10 、又は10 Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iii)2重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)に、約20Ωcm未満、好ましくは約15、10、8、6、又は5Ωcm未満の電気抵抗率を与えること、及び/又は、
iv)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)に、約1W/mK超、好ましくは約1.1、1.2、又は1.25W/mK超の面貫通熱伝導率を与えること、及び/又は、
v)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)に、35Nの法線力で1500rpmで鋼球を用いて「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合、0.45未満、好ましくは約0.40、0.35、又は0.30未満の摩擦係数を与えること、及び/又は、
vi)20重量%の前記炭素質剪断ナノリーフを含むポリスチレン(PS)に、法線力を増加させながら1500rpmで鋼球を用いて「ボールオンスリープレート」試験で測定した場合、少なくとも33N、又は少なくとも34、35、36、若しくは37Nの限界力を与えること、
によって特徴づけられる、実施形態1に記載の炭素質剪断ナノリーフ。
[実施形態3]
膨張黒鉛粒子を液体の存在下でミリング(湿式粉砕)し、次に分散物を乾燥することによって得ることができる、実施形態1又は2に記載の炭素質剪断ナノリーフ。
[実施形態4]
実施形態1~3のいずれか1項に記載の炭素質剪断ナノリーフであって、前記炭素質剪断ナノリーフは凝集しており、好ましくは前記凝集したナノリーフは、
嵩密度が約0.1~約0.6g/cm 、又は約0.1~約0.5g/cm 、又は約0.1~約0.4g/cm であること、及び/又は
PSDが約50μm~約1mm、又は約80~800μm、又は約100~約500μmのD 90 を有すること、
によって特徴づけられる、炭素質剪断ナノリーフ。
[実施形態5]
実施形態1~4のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフの製造方法であって:
a)膨張黒鉛粒子を液体と混合して、膨張黒鉛粒子を含む予備分散物を得ることと、
b)工程a)から得られた予備分散物をミリング工程に付すことと、
c)ミリング工程b)から得られた炭素質剪断ナノリーフ粒子を乾燥させることと、
を含み、
任意選択的に前記方法は、工程a)~c)の前に、非膨張炭素質材料を工程a)及びb)で定義された混合及びミリング工程に付し、次に前記ミリングされた炭素質材料を膨張させることをさらに含む、方法。
[実施形態6]
実施形態5に記載の方法であって、前記液体が、水、有機溶媒、又はこれらの混合物から選択され、
任意選択的に、ミリング工程b)に付された前記予備分散物は分散剤をさらに含み、好ましくは前記分散剤は、PEO-PPO-PEOブロックコポリマー、スルホネート、又は非イオン性アルコールポリエトキシレート、アルキルポリエーテル、又はポリエチレングリコールから選択される、方法。
[実施形態7]
実施形態5又は6に記載の方法であって、
前記湿式ミリング工程b)が、遊星ミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、又はチップソニケーター中で行われ、及び/又は
工程c)の前に追加の溶媒が添加されて、処理された膨張黒鉛分散物を希釈し、及び/又は
前記乾燥が、オーブン/炉内で熱風に付すこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流体床乾燥、流動床乾燥、及び凍結又は真空乾燥からなる群から選択される乾燥技術によって達成され、及び/又は
前記乾燥工程c)は少なくとも2回行われ、好ましくは前記乾燥工程は少なくとも2種の異なる乾燥技術を含む、方法。
[実施形態8]
実施形態5~7のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)ミリング工程b)に付された分散物中の膨張黒鉛の重量含有量が、約0.2~5%又は約1%~10%であり、前記分散物が少なくとも1種の分散剤をさらに含み、及び/又は
(ii)工程a)で使用される膨張黒鉛は、以下のパラメーター:
(a)約0.003~約0.05g/cm の見かけの密度、及び/又は、
(b)約20~約200m /gのBET SSA、
のいずれか1つによって特徴づけられる、方法。
[実施形態9]
工程cから得られる乾燥炭素質剪断ナノリーフを圧縮して、凝集炭素質剪断ナノリーフを製造することをさらに含む、実施形態5~8のいずれか1項に記載の方法。
[実施形態10]
実施形態8~9のいずれか1項に記載の方法により得られる、実施形態1~4のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ。
[実施形態11]
実施形態1~4又は10のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフを含む組成物であって、任意選択的に他の炭素質材料を伴い、任意選択的に前記炭素質材料は、天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの混合物の群から選択されるか、又は、実施形態1~4又は10のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフと、ポリマー、NMC、又はMnO とを含む複合材料である、組成物。
[実施形態12]
実施形態1~4又は10のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフを含む分散物であって、任意選択的に、
i)前記分散物中の炭素質剪断ナノリーフの重量含有量が10重量%以下であり、及び/又は、
ii)前記分散物が、天然黒鉛、1次又は2次合成黒鉛、膨張黒鉛、コークス、カーボンブラック、単層(SWCNT)及び多層(MWCNT)カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びこれらの混合物の群から選択される別の炭素質材料をさらに含み、
iii)前記分散物が液体/固体分散物であり、溶媒が水、水/アルコール混合物、水/分散剤混合物、水/増粘剤混合物、水/結合剤、水/追加の添加剤、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及びこれらの混合物から成る群から選択される、
分散物。
[実施形態13]
i)実施形態1~4若しくは10のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフ、又は実施形態11に記載の組成物を含むか、又は
ii)実施形態12に記載の分散物を用いて調製される、
負極若しくは正極、リチウムイオン電池及び1次電池を含む電池、又はブレーキパッド。
[実施形態14]
ポリマー、リチウムイオン電池及び1次電池を含む電池及びコンデンサー用の電極材料、リチウムイオン電池及び1次電池を含む電池、リチウムイオン電池又は1次電池を含む電池を含む車両、又はエンジニアリング材料用の添加剤としての、実施形態1~4又は10のいずれか1項に記載の炭素質黒鉛材料、実施形態11に記載の組成物、又は実施形態12に記載の分散物の使用であって、任意選択的に前記エンジニアリング材料は、ブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、燃料電池部品、触媒担体、及び粉末冶金部品から選択される、使用。
[実施形態15]
粉砕膨張黒鉛の使用であって、前記粉砕膨張黒鉛を添加剤として含むポリマー複合材料の、
(i)圧力速度(PV)限界を上げるための、
(ii)耐摩耗性を改善するための、及び/又は
(iii)摩擦係数を低下させるための、
使用。
[実施形態16]
電気材料又はブレーキパッド、クラッチ、カーボンブラシ、燃料電池部品、触媒担体、及び粉末冶金部品などのエンジニアリング材料用の乾式潤滑剤としての、粉砕膨張黒鉛の使用であって、
任意選択的に、前記粉砕膨張黒鉛が
i)一緒に圧縮された粉砕膨張黒鉛粒子を含む黒鉛凝集体であって、好ましくは前記凝集体は、約100μm~約10mm、好ましくは約200μm~約4mmの範囲のサイズを有する粒状であるか、
ii)実施形態1~4又は10のいずれか1項に記載の粒子の形態の炭素質剪断ナノリーフであるか、又は
iii)i)とii)の混合物である、
使用。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
図5
図6
図7