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特許7334119皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20230821BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230821BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20230821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230821BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230821BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230821BHJP
   A61K 8/99 20170101ALN20230821BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20230821BHJP
【FI】
A61K35/74 G
A61K38/02
A61K47/18
A61P17/02
A61K33/34
A61K33/30
A61P43/00 121
A61K9/08
A61Q19/00
C12N1/20 E ZNA
A61K8/99
A61K31/7088
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019554772
(86)(22)【出願日】2018-04-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2018058929
(87)【国際公開番号】W WO2018185324
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】1753012
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【微生物の受託番号】CNCM  CNCM I-4290
(73)【特許権者】
【識別番号】500166231
【氏名又は名称】ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO-COSMETIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー、カステス-リッツィ
(72)【発明者】
【氏名】マリー、フロランス、ガリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ、エルナンデス-ピジョン
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503211(JP,A)
【文献】Improvement of atopic dermatitis skin symptoms by Vitreoscilla filiformis bacterial extract,Eur. J. Dermatol.,2006年,Vol. 16, No. 4,p. 380-384
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/12
A61P 17/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
工程b)において得られる液相に基本バッファーが加えられ、かつ好ましくは1~6℃の温度で、得られた緩衝液相が場合により1~7時間接触して静置することを特徴とする、請求項1に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項3】
基本バッファーがトリスバッファー、アルギニンバッファーもしくはその混合物から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項4】
固液分離の工程b)の後、工程c)より前に、液相又は緩衝液相を濾過により清澄化する工程b’)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項5】
濾過がカットオフ0.2μmで行われることを特徴とする、請求項4に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項6】
生体分子が、前記細菌から分泌されるペプチド、タンパク質、及び二次代謝物からなることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項7】
皮膚損傷が、擦過傷、火傷、日焼け、かき傷、切り傷、すり傷、縫合からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項8】
皮膚損傷が、外傷、手術、皮膚科学的処置、又は美容医療的処置の後に生じるものであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項9】
皮膚損傷の処置が治療及び皮膚修復の改善からなることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項10】
銅塩及び/又は亜鉛塩と組み合わせることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトーム。
【請求項11】
皮膚損傷の処置に使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載の細菌セクレトームと、局所投与に適する皮膚科学的な賦形剤とを含む、皮膚科学的組成物。
【請求項12】
銅塩及び/又は亜鉛塩と、局所投与に適する皮膚科学的な賦形剤と、請求項1~のいずれか一項に定義された細菌セクレトームとを含む、皮膚科学的組成物。
【請求項13】
皮膚損傷の処置に使用するための、請求項12に記載の皮膚科学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は皮膚損傷の処置、さらに特には傷の治癒の分野における細菌セクレトーム(secretome)の新しい使用に関する。この発明は、また、有効成分として細菌セクレトームを含む美容又は皮膚科学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
傷の治癒は、通常の組織修復における多くの局所的で体系的な因子の相互作用が関与する複雑かつ動的な生物学的処理である。治癒は次の3つの相互依存の段階(止血及び炎症、増殖、組織修復)により進行する(General principles of wound healing. Witte MB, Barbul A. Surg Clin North Am. 1997 June; 77(3):509-28)。増殖には3つの明確に観察可能な工程(肉芽形成、収縮、上皮再形成)が関与する。
【0003】
肉芽形成の間、修復過程に関与する細胞は増殖し、創傷床に向かって遊走することが観察される。例えば、マクロファージ、線維芽細胞、内皮細胞がそこで見られる。マクロファージは着実に走化性因子と増殖因子を放出する。線維芽細胞は創底で細胞増殖に必要な新しい細胞外マトリクスを構築する。この足場は細胞遊走を支援する。最後に、内皮細胞が毛細血管を新生する血管芽細胞形成を引き起こす。それによって、血流を回復し、傷口における細胞の代謝活性に必須な酸素及び栄養素の供給を確保する。
【0004】
創面収縮が、傷口の大きさが減少するメカニズムである。そして、線維芽細胞がこの収縮において主要な役割を担っている。
【0005】
上皮再形成は、外界に対して効果的なバリアを形成するために傷口を覆っている表皮の再生からなり、色素沈着をすることができ、その感覚及び免疫機能を回復することができる。そのようにして、細胞外の角化細胞の遊走や増殖過程に関与している。しかし、また、この新しい上皮の分化にも関与しており、表皮と真皮を接続している基底膜の回復にも関与している。傷の中心への基底細胞の遊走により傷の端の2カ所を会合することができた場合、細胞の有糸分裂の波が生じ、遊走によってそのままとなっている空間を埋め、3次元的に再生して上皮組織に細胞を提供する。
【0006】
角化細胞、線維芽細胞、内皮細胞の増殖工程は、活性物質の修復活動を示す機能的な現象の一つであるとみなすことができる。増大した線維芽細胞の増殖は深い傷(真皮まで到達する)の治療に関与し、一方で、増大した角化細胞の増殖は上皮再形成に関与する。
【0007】
治癒欠陥、あるいは不十分な治癒が、厚い傷、又はケロイドのような醜く、そしてたいていは永続的な目に見える跡の原因になった時、治癒はまた美容上の問題を引き起こす。
【0008】
全ての美容で皮膚の外科的な処置は、病理的及び非医学的な外傷の創傷(かき傷、切り傷、擦り傷、火傷)と同様に、傷をそのままにする。形成外科の主要技術の一つは傷の構築を制御することである。
【0009】
圧力は、例えば、長年の間、火傷の傷に対して使用されており、最近では、傷に直接に置かれたシリコンシートと組み合わされている。
【0010】
損傷した皮膚の治癒を促進するため、及び傷の美容の外観の改善のための新規組成物を提案することへのニーズは依然として存する。
【0011】
初めて、そして驚くべきことに、出願人は、地下水から単離された菌株(あるいは細菌)LMB64に由来する細菌セクレトームに組織再生及び皮膚損傷の治癒に対する有益な効果があることを示した。
【0012】
この細菌は、出願人の特許出願WO2012/085182により開示されている。さらに特には、その細菌の抗炎症活性について開示されている。さらに具体的には、S0、E0、ES0と名付けられた抽出物が開示され、例示され、それぞれ、当該抽出物はバイオマスから分離した培養上澄み液からなり、溶解細胞のバイオマスで、塩基性のpHで数時間の培養条件で培養した後の上澄み液である。抽出物E0、ES0の薬理活性のみが試験され、これらの抽出物E0及びES0は、TLR2/TLR4/TLR5の活性化、PARsのアンタゴニストと同様に、サイトカインの誘導とランゲルハンス細胞の成熟化をすることができ(E0)、抗菌ペプチドの誘導をすることができる(ES0)ことが示された。これらの結果は、これらの抽出物の、掻痒症、乾癬、湿疹あるいはアトピー性皮膚炎等の炎症性疾患への処置における使用を提案している。
【0013】
全ての予想に反して、出願人は、ここで、上述の抽出物ES0及びE0と同じ成分でなく、主に、当該細菌LMB64により培養上澄み液に分泌され、外在化された生体分子からなるセクレトームが、驚くべき治癒効果を有することを示した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】セクレトームタンパク質のSDS-PAGEゲル。レーン1:(M、分子量マーカー、Sea Blue)。レーン2~5:(Sec、アルギニンバッファー添加前セクレトーム)-それぞれ10μl、15μl、20μl及び30μlのロード量。レーン6~9:(Sec+Arg、アルギニンバッファー添加後セクレトーム)-それぞれ10μl、15μl、20μl及び30μlのロード量。
図2】対照細胞との比較における、様々な産物で処置されたヒト正常線維芽細胞の増殖刺激(%)(平均値±標準誤差)(n=3、ドナープール)
図3】対照細胞との比較における、様々な化合物で処置されたHaCaT角化細胞の走化刺激(%)(平均値±標準誤差)(n=2)
図4】対照修復クリームとの比較における、様々な産物で48時間処置された後のブタ耳組織片における傷の上皮再形成(平均値±標準誤差)(n=10、個別ドナー)
【発明の具体的説明】
【0015】
第一の実施態様(1)によると、本発明は、配列番号1又は配列番号1と少なくとも80%の同一性を有する配列を含む16S rRNAを含み、皮膚損傷の処置に使用するための、ベータプロテオバクテリア鋼(class Betaproteobacteria)、サブファミリー ナイセリア科(subfamily Neisseriaceae)に属する非病原性のグラム陰性細菌の細菌セクレトームに関する。
【0016】
前記セクレトームは以下の工程を含む方法により得られるか、得られる可能性が高い:
a)前記細菌をその生育に適切な培地及び条件下で培養し、
b)固液分離し、かつ液相を回収し、
c)液相中の前記細菌により分泌された生体分子を含む前記セクレトームを得る。
【0017】
本発明の第二の実施態様によると、本発明による皮膚損傷の処置に使用するための細菌セクレトームは、工程b)において得られる液相に基本バッファー(緩衝液)が加えられ、かつ好ましくは1~6℃の温度で、得られた緩衝液相が場合により1~7時間接触して静置することを特徴とする。
【0018】
細菌LMB64は、ベータプロテオバクテリア鋼、サブファミリー ナイセリア科、及びおそらく未だ規定されていない新規の属に属することにより定義され、特徴付けられている。16S リボソームRNA(rRNA)をコードする遺伝子配列の解析により、この細菌を95%の配列類似性を共有するChromobacterium属、Paludimonas属、Lutelia属及びGlubenkiana属に近付けることを可能にした。
【0019】
この非病原性細菌はグラム陰性であり、地下水から単離された。
【0020】
さらに特には、細菌LMB64は約2.3μm(±0.3)の長さ及び約1.0μm(±0.1)の幅を持った桿菌である。この細菌の特徴は極鞭毛が存在することである。
【0021】
16S rRNAをコードしている遺伝子はほとんど完全に配列決定されている(1487bp、配列番号1に相当する)。細菌LMB64は10948bpの環状プラスミドを有する。このプラスミドは完全に配列決定されており、その配列は配列番号2に表される。
【0022】
他の実施態様によれば、本発明のセクレトームが由来されている細菌は、配列番号2又は配列番号2と少なくとも80%の同一性を有する、有利には、配列番号2と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、一層有利には少なくとも97%、更に一層好ましくは少なくとも98%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのプラスミドを含む。
【0023】
加えて、セクレトームが由来されている細菌はベータプロテオバクテリア鋼、サブファミリー ナイセリア科の非病原性のグラム陰性菌で16S rRNAを含み、配列番号1、又は、配列番号1と少なくとも80%、有利には少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%の同一性を有する配列を含み、かつ配列番号2、又は、配列番号2と少なくとも80%の同一性を有する、有利には、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、一層有利には少なくとも97%、更に一層好ましくは少なくとも98%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのプラスミドを含む。
【0024】
例として、そのような細菌は菌株LMB64と表され、出願人の名前で2010年4月8日、番号I-4290でパリのパスツール研究所にあるCollection Nationale de Cultures de Microorganismes (CNCM)に寄託されている。
【0025】
この遺伝子型の情報を、この細菌の硫黄を含まない培地での生育及び非糸状性の性質に関する特徴を組み合わせることにより、当業者であれば、本発明のセクレトームを得ることを可能にする別の細菌を見出す/同定することに困難性はない。そのような別の細菌の同定は、当然わずかに遺伝子型に異なるが、セクレトームに関する本発明の全ての表現型の基準を保持しており、選定研究の後で実施することが可能であり、決して克服できないものではなく、そしてこれは、当業者の一般的な知識と組み合わせて、本発明に含まれる情報及び出願WO2012/085182号に含まれる情報に基づくものである。
【0026】
本発明の文脈において、2つの核酸の間の「割合 同一性」とは、最良アラインメント(最適アラインメント)後に得られた2つの配列を比較した際の同一なヌクレオチドの割合を示しており、この割合とは純粋に統計的なものであって、2つの配列の間の違いは、ランダムに、全長にわたって、割り振られている。2つの核酸配列の比較は通常それらの配列を最適な手法で並べた後でこれらの配列を比較し、行われるが、一方で、当該比較は区分ごと、あるいは「比較窓(comparison window)」ごとに行われてもよい。比較のための配列の最適な整列は、手動によるものに加えて、SmithとWatermanの局地的相同性アルゴリズム(1981) [Ad. App. Math. 2:482]、NeedlemanとWunschの局地的相同性アルゴリズム(1970) [J. Mol. Biol. 48:443]、PearsonとLipmanの類似検索法(1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444]、もしくは、これらのアルゴリズムを用いたコンピューターソフトウェア(GAP, BESTFIT, FASTA and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI, or the BLAST N or BLAST P comparison software)により実行することができる。
【0027】
2つの核酸配列の割合同一性は、最適な手法によりこれら2つの整理された配列を比較することで決定されるが、一方で、比較された核酸配列は、これら2つの配列最適な整理のための参照配列に関連する追加もしくは削除を含んでいてもよい。割合同一性は、2つの配列におけるヌクレオチドの同一性のための位置の数を決定することで計算される。比較窓における同じ位置の数を全位置の数で割り、得られた値に100を掛けることで2つの配列の間の割合同一性を得る。
【0028】
例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/b12.htmlにおいて利用可能なBLASTプログラム「BLAST2配列」(Tatusova et al., “Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences,”FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)は、デフォルトパラメータ(特に、例えば、プログラムにより提案される“BLOSUM62”マトリクスが選択されたマトリクスであって、ギャップ開始ペナルティが5、ギャップ伸張ペナルティが2のパラメータ)とともに使用されるかもしれない。比較する2つの配列の割合同一性はプログラムにより直接的に計算される。“ALIGN”もしくは“Megalign”のような他のソフトウェア(DNASTAR)を使用することもまた可能である。
【0029】
本発明の細菌には、配列番号2、又は、配列番号2と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%、98%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのプラスミドを有するLMB64細菌が含まれる。当該LMB64細菌の他の特徴については、以下の例に詳述されている。
【0030】
さらに細菌LMB64は、出願人の名前で2010年4月8日、番号I-4290でパリのパスツール研究所にあるCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM)に寄託されている。
【0031】
他の実施態様によれば、本発明はまた、基本バッファーがトリスバッファー、アルギニンバッファーもしくはその混合物から選択されることを特徴とする、皮膚損傷の処置に使用するための、本発明の第二の実施態様による、細菌セクレトームに関する。
【0032】
他の実施態様において、本発明は、固液分離の工程b)の後、工程c)より前に、液相又は緩衝液相を濾過により清澄化する工程b’)を含むことを特徴とする、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0033】
他の実施態様において、本発明は、濾過がカットオフ0.2μmで行われることを特徴とし、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0034】
他の実施態様によれば、本発明は、生体分子が、前記細菌から分泌されるペプチド、タンパク質、及び二次代謝物からなることを特徴とする、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0035】
本発明の他の実施態様はまた、細菌が、配列番号2、又は、配列番号2と少なくとも80%の同一性を有する配列を含む少なくとも1つのプラスミドを含むことに特徴とし、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームを提供することである。
【0036】
他の実施態様によれば、本発明は、細菌が、2010年4月8日にI-4920の番号でCNCMに寄託された細菌であることを特徴とし、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0037】
一般的に、用語「セクレトーム」は細胞、組織、もしくは個体により培養培地に分泌され、排泄され、この培地において可溶化している全ての生体分子を説明するために使用される。本願においては、セクレトームは細菌LMB64により分泌され、外在化された全ての生体分子のことを示し、修飾や劣化は伴わず、細菌が溶解したものでもないと理解しなければならない。特に、これらの生体分子は、バクテリアにより培養培地に分泌され、外在化されるタンパク質、ペプチド、及び二次代謝物から主になる。
【0038】
細菌は二分裂により増殖する。すなわち、それぞれの細菌は成長し、細胞壁により形成された分割隔壁により分離された2つの娘細胞に分割する。分割の間、DNA及び他の器官は複製される。合成と分解の様々な酵素的な体系が細胞分裂に関与する。
【0039】
細菌の生育は細菌の全ての器官の順序立てた増加である。これは細菌数の増加という結果をもたらす。生育の間、一方では、培養培地からの栄養素の枯渇があり、一方では、細菌により、代謝副産物と同様に、培養培地へ放出し、外在化され、この培地で可溶化した、生体分子の充実がある。
【0040】
「培養培地」もしくは「培地」という表現は、少なくとも細菌の成長及び増殖に必要な栄養素からなるあらゆる培地のことを示すと理解されなければならない。細菌は、液体、固体、半流動体の培地において成長してもよい。好ましくは、培養培地は、セクレトーを含む培養上澄み液の回収が可能な液体培地である。
【0041】
適切な培地は、細菌の成長と増殖を促進する栄養素を含む。一般的に、適切な培養培地は、水、炭素源、窒素源、塩を含む。実例として、特に例示的な培養培地を以下の例に記載する。
【0042】
「二次代謝物」という表現は、本発明の細菌、特に細菌LMB64が培養培地に、生産し、分泌し、外在化した小さな分子であることを示すと理解されなければならない。実例として、そのような二次代謝物は、バクテリオシン、非リボソームペプチド、シデロフォア、リポペプチド、もしくはポリケチドのような可溶化分子、もしくは、テルペン、ピラジン、インドール、もしくはスルフィド誘導体のような分子であってもよい。セクレトームに存在するタンパク質は10~100kDaの大きさであり、優先的には18~98kDaであり、好ましくは大部分のタンパク質の大きさが約38kDaである。
【0043】
実際には、本発明の細菌のセクレトームは、例として特に細菌LMB64であるが、細菌(以下に開示するもの等)の成長、改変及び増殖を可能にする培養培地における培養により、本発明のセクレトームを構成する分泌された生体分子を含む培養上澄み液を単純に回収することにより、得ることができる。具体的には、これらの生体分子が細菌により分泌され、外在化され、培地中で可溶化されるという事実があるため、前記細菌を処置する工程を実行する必要がない(機械的、あるいは化学的な、全体的、あるいは部分的な細胞溶解の誘導、もしくはタンパク質、もしくは細胞壁、細胞膜、もしくはペリプラズムの成分の放出)。培養上澄み液(これ以降、セクレトーム)の成分は、あらゆる液体/固体分離手段により不溶な固体細胞成分より回収できる。さらに特に、結果として、当業者の技術により、主に細菌の全細胞及び、表面タンパク質及び/もしくはペリプラズムに局在するタンパク質を含む固体分画から可溶化している生体分子を含む液体分画を単離することが可能である。
【0044】
実例として、液体/固体分離は、例えば、遠心分離、沈降、限外濾過、デカンテーション、脱水から選択される技術により行うことができる。
【0045】
好ましくは、液体/固体分離は、固体相、つまり細胞及び細胞断片を含むペレットと液相、つまり可溶化分子、すなわちセクレトームを含む上澄み液を分離するために、細胞培養液を遠心分離することにより行われる。
【0046】
上澄み液、つまり液相はそのまま使用されることができ、もしくは存在する可能性がある細胞断片を除去し、殺菌するために単純な濾過を行った後で使用されることができる。それは、また、例えば濾過によって濃縮されることが想定される。セクレトームを構成するタンパク質は、また、硫酸アンモニウムを使った沈殿より回収することができる。
【0047】
上記で示された通り、本発明の細菌セクレトームを調整する工程は、工程b)において得られる液相に基本バッファーが加えられ、かつ、特に低い温度、好ましくは1~6℃の温度で、得られた緩衝液相が、場合により、そのようなバッファーと1~7時間接触して静置することを特徴とする。
【0048】
基本バッファーの上澄み液への添加は溶解性及び/又は溶解中のタンパク質及びペプチドの安定性を改善する。
【0049】
好ましくは、この基本バッファーはトリスバッファー、もしくはアルギニンバッファー、もしくはトリス-アルギニン混合物である。好ましくは、それはトリス-アルギニンバッファーである。
【0050】
得られた緩衝液相に添加する基本バッファー、優先的にトリス-アルギニンの量は、そのようにして得られる基本バッファーを加えた液相のアルギニン濃度が100~500mM及び/又はトリス濃度が10~90mMである。
【0051】
バッファーを加えた液相のpHは8~12になるだろう、そして好ましくは9~11である。
【0052】
基本バッファー(トリス、アルギニン、トリス-アルギニン)の使用は溶液中のタンパク質の安定化を可能にし、長期の保存にわたるそれらの凝集を避けることができる。
【0053】
本発明の細菌、特に菌株LMB64、を培養するための好ましい方法は、3つの工程を含むことができる。
・第一の接種は、この前培養に適切なミネラル、タンパク質、及び糖質を含む適切な培地が入った三角フラスコの中で調製することができる。
・その後、バッチ方式で、第一の培地(もしくは相当する培地)と類似、もしくは同一の第二の培地で予備発酵培養が調製される。
・最後に、高い細胞濃度を得るため、流加培養(fed-batch mode)で、第二の培地と類似、もしくは同一の培地で発酵する。
【0054】
遠心分離工程は細胞及び細胞断片の除去及び培養上澄み液の回収を可能にする。
【0055】
バッファーを添加した上澄み液、もしくはバッファーを添加した液相は濾過によりその後に清澄化することができる。
【0056】
上記に示した通り、固液分離の工程b)は、液相もしくはバッファー加えた液相を濾過により清澄化する工程b’)、例えば、工程c)の前、濾過により行われる。
【0057】
濾過は、液相、もしくは該当すれば、バッファーを添加した液相の清澄を可能にする適切な手段により実行してもよい。そのような濾過による清澄化は、固液分離工程の間に除去されなかった浮遊粒子を除去し、クリアーなセクレトームの製造に向けられる。
【0058】
濾過は、限外濾過や透析濾過の方法のようなあらゆる濾過により実行されることができる。
【0059】
有利には、濾過は、カットオフ0.4μm、好ましくはカットオフ0.2μmフィルター、もしくはカートリッジフィルターを通した濾過により行うことができる。この場合において、細菌セクレトームは0.2μm、もしくはより小さい大きさの分泌されたペプチド、タンパク質、及び二次代謝物であることに特徴付けられる。
【0060】
好ましくは、非帯電性フィルター、もしくはプレフィルターを、全部もしくは一部の活性が原因である生体分子の吸収を避けるために、使用することができる。
【0061】
培地及び様々な工程の正確な性質は、実施例においてより詳細に開示されるであろう。本詳細な説明に関する当業者にとって自明である、どのような処理、培地及び工程の順番の変更も本特許出願の範囲内であるとみなさなければならないと、理解されるべきである。
【0062】
上記で述べたように、本発明はまた、他の実施態様において、皮膚損傷が、擦過傷(abrasions)、火傷(burns)、日焼け(sunburns)、かき傷(scratches)、切り傷(cuts)、すり傷(scrapes)、縫合(stitches)からなる群から選択されることが特徴付けられる、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0063】
本発明はまた、皮膚損傷の処置に使用するための、治療障害の緩和に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0064】
本発明はまた、他の実施態様において、皮膚損傷が、外傷、手術、皮膚科学的処置、美容医療的処置の後に生じるものであることを特徴とする、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0065】
有利には、本発明はまた、他の実施態様において、細菌セクレトームが銅塩及び/又は亜鉛塩と組み合わせることを特徴とする、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0066】
他の実施態様において、本発明はまた、皮膚損傷の処置が治療及び皮膚修復の改善からなることを特徴とする、皮膚損傷の処置に使用するための、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームに関する。
【0067】
本発明はさらに、他の実施態様において、上記の実施態様のいずれか1つに規定された有効な量の細菌セクレトームと、美容的に許容可能な賦形剤とを含み、局所投与のために適切に形成された組成物の有効な量の投与からなる、皮膚治癒障害の緩和のための美容的処置の方法に関する。
【0068】
有利には、本発明はまた、上記の実施態様のいずれか1つによる、細菌セクレトームが銅塩及び/又は亜鉛塩を含む塩であることを特徴とする、治癒障害の処置のための細菌セクレトームに関する。
【0069】
従って、本発明はさらに、他の実施態様において、上記の実施態様のいずれか1つに規定された、皮膚治癒障害の美容的処置の緩和のための、細菌セクレトームの使用に関する。特定の態様によれば、本発明のセクレトームは銅塩及び/又は亜鉛塩を組み合わせて使用される。
【0070】
他の実施態様において、本発明は上記の実施態様のいずれか1つに規定された細菌セクレトームを含み、局所投与に適した皮膚科学的な賦形剤を含む皮膚科学的組成物に関する。有利な実施態様において、皮膚科学的組成物は、さらに亜鉛塩及び/又は銅塩を含む。
【0071】
他の実施態様において、本発明はさらに皮膚損傷の処置に使用される、上記の実施態様のいずれか1つによる皮膚科学的組成物に関する。有利な実施態様において、皮膚科学的組成物はさらに亜鉛塩及び/又は銅塩を含む。
【0072】
他の実施態様において、本発明は上記の実施態様のいずれか1つに規定された細菌セクレトーム及び局所投与に適した美容的な賦形剤を含む美容組成物に関する。美容的組成物はさらに亜鉛塩及び/又は銅塩を含む。
【0073】
最後に、他の実施態様において、本発明は上記の実施態様による、皮膚治療障害の美容的処置の緩和のための、美容的組成物の使用に関する。
【0074】
一つの実施態様によれば、本発明は、上記の実施態様のいずれか1つに規定された、線維芽細胞増殖促進のための、局所使用のための、細菌セクレトームに関する。
【0075】
一つの実施態様によれば、本発明は、上記の実施態様のいずれか1つに規定された、角化細胞増殖もしくは/又は走化促進のための、局所使用のための、細菌セクレトームに関する。
【0076】
一つの実施態様によれば、本発明は、上記の実施態様のいずれか1つに規定された、皮膚損傷処置のための、局所使用のための、細菌セクレトームに関する。
【0077】
一つの実施態様によれば、本発明は、上記の実施態様のいずれか1つに規定された、皮膚の治療及び回復の改善のための、局所使用のための、細菌セクレトームに関する。
【0078】
本発明はまた、皮膚を完全かつ高品質に修復するために、有効成分として上記の実施態様のいずれか1つで規定されるセクレトームを含む、皮膚の修復を促進するための組成物に関する。さらに有利には、さらにこの組成物は亜鉛塩及び/又は銅塩を含むことができる。
【0079】
好ましくは、本発明による組成物中のセクレトームの濃度は0.05~10%である。さらに好ましくは、それは0.1~5%である。
【0080】
本発明の組成物はさらに、局所投与のための組成物を得るために、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、水結合剤、展着剤、安定剤、染料、香料、防腐剤等の、当業者に知られている1つもしくはそれ以上の従来からの皮膚科学的及び/又は美容的に適合する賦形剤を含むことができる。
【0081】
本発明において、「皮膚科学的にあるいは美容的に許容可能な」という表現は、一般的に、安全、無毒性で、生物学的にあるいはその他の意味においても有害でなく、皮膚科学的あるいは美容的の使用に許容可能で、特に、皮膚科学的あるいは皮膚化粧的使用で、特に、局所投与による、皮膚科学的あるいは美容的組成物の調整に使用可能であることを意味することを示している。
【0082】
本発明による組成物は、有利には、局所投与のためのもの、特に皮膚に対するものである。
【0083】
本発明の組成物は、エマルション、分散、あるいは水性あるいは油性ローションの形態で調製されることができる。
【0084】
他の実施態様において、本発明の皮膚科学的もしくは美容的組成物は少なくとも1つの別の有効成分を含む。さらに特には、少なくとも1つの保湿の有効成分を含む。
【0085】
この他の有効成分は、そのようにして特に、以下からなる群から選択されてもよい:
・よく知られた治療もしくは修復成分:パンテノール、マデカソサイド、アラントイン、アロエベラ、はちみつ;
・抗感染成分:銅-亜鉛-型微量元素、はちみつ;
・保湿及び栄養成分:グリセリン、シアバター、天然ワックス、ヒアルロン酸、脂肪酸;
・無痛化剤:アラントイン、ビサボロール、パンテノール、エノキソロン;
・UVフィルター。
【0086】
好ましくは、第二の有効成分は銅-亜鉛-型微量元素である。従って、この好ましい実施態様において、本発明の組成物はそのようにしてセクレトーム及び銅-亜鉛-型微量元素を含むだろう。
【0087】
述べたように、セクレトームからなる本発明の皮膚科学的もしくは美容的組成物は銅-亜鉛-型微量元素を含んでいてもよい。好ましくは、銅塩は硫酸銅である。有利には、亜鉛塩は酸化亜鉛及び硫酸亜鉛から選択されるだろう。
【0088】
本発明の組成物における硫酸銅の量は、組成物に対して、0.05~0.5wt%の間で変更されてもよく、好ましくは、組成物に対して、0.1~0.25wt%、さらに好ましくは、組成物に対して、約0.2wt%である。
【0089】
本発明の組成物における硫酸亜鉛の量は、組成物に対して、0.05~0.5wt%の間で変更されてもよく、好ましくは、組成物に対して、0.1~0.4wt%、さらに好ましくは、組成物に対して、0.1~0.2wt%である。
【0090】
本発明の組成物における酸化亜鉛の量は、組成物に対して、0.5~10wt%の間で変更されてもよく、好ましくは、組成物に対して、1~5wt%、さらに好ましくは、組成物に対して、約2~4wt%である。
【0091】
本発明の一つの実施態様は、さらに治癒成分、抗感染成分、保湿成分、無痛化成分及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの他の有効成分を含むことにより特徴付けられる、上記の実施態様のいずれか一つによる組成物を構想する。特に他の実施態様によれば、少なくとも1つの他の有効成分が、保湿成分、治療成分、無痛化成分及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、保湿成分である。そのような有効成分は、好ましくは、皮膚科学的組成物において使用される。
【0092】
本発明はまた、好ましくは局所の、有効成分として本発明のセクレトームを含む組成物の有効量を投与することを含む、皮膚損傷の処置及び治療のための方法に関する。
【0093】
本発明によれば、組成物は、特に、長引く損傷を有する皮膚の治療のためのものである。
【0094】
皮膚損傷は、侵襲的か非侵襲的か、治療もしくは美容目的のためかどうかによらず、外傷、あるいは医療上、あるいは外科的な処置の後に表れてもよい。
【0095】
侵襲的な医療上もしくは外科的な処置は次のものを含む:例えば、縫合を伴うあるいは伴わない外科的な処置(切除、表層切除)、凍結療法、レーザー治療、適度なもしくは強力な化学剥離、縫合、非外科的美容療法、掻爬術。
【0096】
外傷後の、例えば、皮膚への強くない外部の損傷の後の皮膚損傷は、例えば、切り傷、かり傷、すり傷及び表面上の火傷、日焼けを含む。
【0097】
皮膚の回復を促進し、長期間(皮膚が完全に修復するまで)の使用に適している治癒製品が必要となる表面的な非侵襲的な医療上の処置は、例えば、強くない化学剥離、レーザー脱毛、及び表在血管(酒さ)治療が含まれる。
【0098】
本発明の皮膚及び粘膜損傷の治療には、特に、切り傷、縫合、擦過傷、すり傷、かき傷、外科的もしくは美容皮膚処置後の傷跡、表面的な火傷、日焼けの治療が含まれる。
【0099】
本発明はさらに、治癒及び皮膚再生を改善する、特に、治癒障害を緩和する本発明の美容的組成物の使用に関する。
【実施例
【0100】
本発明は、下記の例に基づき更に理解されるものであるが、それらの例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0101】
例1:細菌LMB64の培養
非限定の例示として、好ましい培養培地は塩化アンモニウム、硫酸マグネシウム、酵母エキスを含む。出願WO2012/085182号より生じるように、とりわけ、他の類似の培地は使用されるかもしれず、そのようにして、本詳細な説明に不可欠な要素を形成するとみなさなければならないこともまた、明記されるべきである。当業者によるいかなる改変もまた、本発明の開示の一部であるとみなさなければならない。
【0102】
1つの例示的な培養工程を以下に開示する。ここで、この例は単なる説明目的のためのものであって、決して限定とみなされてはならないことは想起されるべきである。
【0103】
菌株LMB64は3つの手順で生育される。つまり、最初の接種、バッチ方式での前培養(もしくは、前発酵)、流加培養方式(グルコース添加)での培養である。
【0104】
接種:1000mLの無菌培地を含む三角フラスコに接種するために、WCB LMB64のチューブが使用される。それから、三角フラスコは恒温振とう機に置かれ、振とうされる。ブロスの細胞濃度が十分になったとき、培養は中止する。それから、前発酵に移されるまで細胞は冷却される。
【0105】
前培養:それから、前発酵槽は約16Lの培地で満たされ、完全に殺菌される。
【0106】
2つのサテライトフラスコ(satellite flasks)は、前発酵槽及びその追加ブロックの殺菌後に、前発酵槽に接続される。
・無菌の50%グルコース溶液を含むフラスコ。この溶液(グルコース前培養バッチ)は、最初のグルコース濃度である20g/Lを達成するため、すぐに培養培地に移される。
・上記の接種工程で開示された接種液を含む三角フラスコは、前発酵槽において接種される。
【0107】
前培養は開始され、それから自動的に抑制される。例として、以下のパラメータが言及されてもよい:気温、振とう速度、圧力、空気流量、もしくはPO
【0108】
細胞の生育は620nmの光学密度を測定することにより観察される。前培養は、十分な濃度に達したとき、冷却することで中止する。
・培養:それから、発酵槽はpH7.0に調整された127Lの培地で満たされ、それから完全に殺菌される。3つのサテライトフラスコが使用される。
・無菌のグルコース溶液が含まれるフラスコ。この溶液は最初のグルコース濃度である20g/Lを達成するため、すぐに培養溶媒に移される。
・アンチフォームのフラスコ。このアンチフォームは、槽中のフォームの水位を調整するために、培養中、自動的に加えられるだろう。
・流加回分のグルコースのフラスコ。この溶液は細胞の生育を促進するため、培養中、加えられるだろう。
【0109】
培養は開始され、それから自動的に抑制される。例として、以下のパラメータについてまた言及されるかもしれない:気温、振とう速度、圧力、空気流量、もしくはPOである。
【0110】
培地中に最初に存在するグルコースの枯渇(POが上昇する)後、流加回分のグルコース溶液の添加が引き起こされ、そのようにして、高濃度の細胞生育を可能にしている。発酵は全グルコースの消費後に中止される。この工程において、発酵は自動的に冷却されなければならない。培養の間中、細胞の生育は620nmの光学密度を測定することにより観察される。培養の終了時に得られる乾燥バイオマス(g/L)の量は、重量法を用いて決定される。
【0111】
例2:セクレトームの抽出
好ましい実施態様の説明として、以下の例により示されるが、本発明を限定するものとみなしてはならない。
【0112】
セクレトームは、一般的に、細菌の細胞、表面タンパク質、ペリプラズムに局在するタンパク質を除去するために、培養工程の後の成果物の遠心分離を行った後で得られる。この遠心分離工程の後に、トリス-アルギニン基本バッファーの上澄み液の添加が続く。上澄み液の濾過の最終工程もまた可能である。当業者によるいかなる改変もまた、本発明の開示の一部であるとみなさなければならない。
【0113】
遠心分離:発酵槽から遠心分離機までの移送ラインは滅菌されている。発酵は、それから、続く遠心分離機による遠心と分離されていなければならない。遠心分離は、150L/h(±30L/h)で、10900±1000rpmの回転速度で実施される。上澄み液は、使い捨て小袋を備えたコンテナに集められる。上澄み液の重量ははかり台の上で測定される。
【0114】
アルギニンの添加:トリスアルギニン抽出バッファーは滅菌され、それから培養上澄み液を含む使い捨て小袋に移される。必要な接触時間は、1~7時間である。使い捨て小袋に添加後のトリス-アルギニンの目標濃度は、L-アルギニンが約0.3Mであり、トリスが約20mMである。
【0115】
抽出バッファー添加後の総量は約240Lである。
【0116】
濾過:2つの濾過工程は、上澄み液を清澄にするため、及び清澄で無菌なセクレトームを作製するために、オンラインで実行される。濾過は、濾過/分配システムにより管理される。使い捨て深層濾過カートリッジは、そのフィルターケース内に設置されている。全ての濾過された生成物は、無菌で、使い捨て小袋が備えられたコンテナに回収される。濾過された生成物の入った小袋ははかり台で測量され、それから、分配まで、+5℃で保管される。
【0117】
セクレトームタンパク質のゲル電気泳動(図1を参照)
Bis-TrisSDS-PAGEゲル(4~12%)、変性及び還元条件下で、アルギニンバッファー前及び後の培養上澄み液の様々な量のロード量(それぞれ10、15、20、30μl)のクマシーブルーによる検出。いずれの場合においても、14~100kDaの間で、約38kDaの主要なバンドを含む、様々なタンパク質のバンドが観察された。
【0118】
例3:ヒト正常線維芽細胞の増殖に対するセクレトームの効果
使用した技術は、37℃での、S期の細胞のDNAへの、ヌクレオチドである、チミジンアナログである5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)の取り込みである。この技術は、細胞周期における増殖細胞(SもしくはDNA合成期)の進行状態の特徴を持つ細胞の定量化を可能にする。
【0119】
線維芽細胞は96ウェルプレートに播種され、それから、試験されるための化合物、ポジティブコントロールとしてのEGF、0.4、0.6、1%のセクレトームの存在下で、72時間培養される。BrdUの取り込みは最後の24時間で実行され、BrdU ELISAキット(item no.11647229001,Roche Diagnostics)を使用して、定量化される。
【0120】
対照の割合は次の式により計算される:
【数1】
【0121】
統計解析はスチューデントのt検定を用いて実行される。この研究は3つのドナーのプールにより実行された。
【0122】
ポジティブコントロールであるEGFは、線維芽細胞の増殖を強く、顕著に、3つのドナーのプールにより、再現可能な方法で刺激した(95%刺激)。このことが、実験の正当性を立証している。この結果は、0.4%、0.6%及び1%で試験されたセクレトームが顕著にヒト線維芽細胞の増殖を刺激したことを示している。以下の表1は、試験された化合物の存在下で72時間培養後のヒト正常線維芽細胞によるBrdUの取り込み(ELISAによる)(平均値±標準誤差)を要約している(n=3 ドナープール)。結果は図2に示されている。
【0123】
【表1】
【0124】
例4:HaCaT角化細胞の走化に対するセクレトームの効果
本研究は、Oris Cell Migration Assay(Platypus Technologies)を用いて、メーカーにより推奨されている基本的な試験法で行った。主に、HaCaT(ヒト角化細胞)細胞は96ウェルプレートに播種されている。Oris(商標)ストッパーを取り外し、評価される化合物が培養培地に添加される。細胞走化が可能なように24時間、培養が続く。ストッパーにより区切られた区域における細胞の可視可を可能にするため、細胞侵襲性蛍光トレーサー、カルセインが、それから、添加される。
【0125】
細胞の走化は、ウェルの写真撮影及び走化表面区域をmmで定量化することにより評価する。
【0126】
対照の割合は次の式により計算される:
【数2】
【0127】
研究は、6回の技術的反復により実行され、n=2の個別の試験において実行された。
【0128】
ポジティブコントロールであるTGF-b及びウシ胎児血清(FCS)は、細胞の走化を強く、顕著に、再現可能な方法で刺激した(それぞれ51%及び176%の刺激)。このことが、実験の正当性を立証している。この結果は、0.4%、0.6%及び1%で試験されたセクレトームが顕著にHaCaT角化細胞の走化を刺激したことを示している。以下の表2は、様々な化合物の存在下で24時間培養後のHaCaT細胞による走化を要約する(n=2)。結果は図3に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
例5:生体外治癒モデルにおける傷口を塞ぐことに対するセクレトームの効果
ブタ耳の皮膚移植片は生存条件で維持される。丸い3ミリの傷が作製されている中心において、6ミリメートルの生検が実行される。傷は全体の上皮及び上方の真皮を損傷する。評価のための生成物は局所的に適用される。48時間後、生検は凍結され、部分ごとにヘマトキシリン・エオジン染色が実行される。上皮再形成の速度論は以下の工程によって評価される。
1)J.Brandnerにより開発された試験法(Pollok et al., 2010, J Cell Mol Med)により、0~3まで規定した評点を帰属。傷の端から上皮再形成の区域の範囲のμmでの正確な測定。有意性のために、スチューデントのt検定を適用する。
2)組織保存の質を評価するために、傷の端における形態学的な外見もまた評価される。
【0131】
適用される生成物の調整:同時に試験される対照修復クリーム(Cicalfate(商標)cream)と同じ基剤に0.4、0.6及び1wt%のセクレトームを添加する。上皮再形成はこの対照クリームとの比較により評価する。
【0132】
結果は、セクレトームの傷の上皮再形成の進行に対する線量効果を示した。1%のセクレトームを含む処方は、対照修復クリームと比較して、傷口を塞ぐことを著しく促進する(p=0.043)。さらに、組織の形態学的な分析は、セクレトームを含む組成物の優れた耐久力を示した。結果を図4に示す。
【0133】
例示的な組成物:水中油型エマルション
例2によるセクレトーム: 0.1-5%
グリセリン: 1-30%
ヘキシレングリコール: 0.1-7%
セテアリルグリコシド: 0.1-1%
セテアリルアルコール: 0.9-4%
ステアリン酸: 0.5-4%
ステアリン酸グリセリル: 0.1-4%
植物油: 0.1-10%
水: 適量100%
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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