(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】活性化リグニン組成物の調製方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/14 20060101AFI20230821BHJP
B32B 37/06 20060101ALI20230821BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20230821BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20230821BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20230821BHJP
C08G 8/08 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
B32B37/14 Z
B32B37/06
B32B29/00
B32B5/28 A
B32B27/42 101
C08G8/08
(21)【出願番号】P 2019556264
(86)(22)【出願日】2018-04-16
(86)【国際出願番号】 NL2018050235
(87)【国際公開番号】W WO2018190720
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-04
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】508212602
【氏名又は名称】トレスパ・インターナショナル・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Trespa International B.V.
【住所又は居所原語表記】Wetering 20, 6002 SM Weert, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョバー、アンドリュー シドニー
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ、ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルウィージェン、キム メヒティルダ フェルディナント
(72)【発明者】
【氏名】カゼミ、ソマイエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルタネン、アッテ イラリ
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/144454(WO,A1)
【文献】特表2009-523065(JP,A)
【文献】特表2017-505287(JP,A)
【文献】米国特許第04476193(US,A)
【文献】特開昭55-159965(JP,A)
【文献】特開平02-242997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08H 6/00
C08G 8/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層を調製するステップと、温度上昇および圧力上昇を用いるプレスにて、前記コア層をプレスするステップと、を含み、
前記コア層を調製する前記ステップは、紙に樹脂混合物を含浸させるステップと、
前記樹脂
混合物を含浸させた紙の積み重ねを構築するステップと、を含み、
前記樹脂混合物は、リグニンメチロール化ステップとフェノールメチロール化ステップとによって調製したリグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂を含み、
前記リグニンメチロール化ステップは、
i)遊離活性水素位置を有する液体リグニンを用意するステップと;
ii)前記液体リグニンを60℃~85℃の範囲内の温度に加熱するステップと;
iii)ホルムアルデヒドを前記加熱した液体リグニンに攪拌条件下で添加し、ホルムアルデヒドが、前記
液体リグニンの遊離活性水素位置に対して>1:1の化学量論的過剰率で添加されるステップと;
iv)少なくとも10分の間、iii)に従う混合物の温度を60℃~85℃の範囲内に維持することによって、活性化リグニン組成物を得るステップと、
を含み、
前記フェノールメチロール化ステップは、
v)ステップiv)の前記活性化リグニン組成物を、50℃~90℃の範囲内の温度に加熱する、または加熱しないステップと;
vi)フェノールを前記活性化リグニン組成物に添加するステップと;
vii)ステップvi)の混合物の温度を60℃~90℃の範囲内に調製するステップと;
viii)ホルムアルデヒドをステップviiの混合物に添加するステップと;
ix)ステップviii)の混合物を、少なくとも10分間、50℃~80℃の温度に加熱し、維持することによって、前記リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂を得るステップと;
を含むことを特徴とする高圧積層品の製造方法。
【請求項2】
ステップv)が、50℃~85℃の範囲内で実施される請求項1に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項3】
ステップvii)が、60℃~85℃の範囲内で実施される請求項1~2のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項4】
ステップix)が、60℃~80℃の範囲内で実施される請求項1~3のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項5】
ステップix)が、少なくとも30分間実施される請求項1~4のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項6】
遊離活性水素位置を有する前記液体リグニンのpHが少なくとも6である請求項1~5のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項7】
ステップii)に従う温度が65℃~80℃の範囲内である請求項1~6のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項8】
ステップiv)に従う温度が65℃~80℃の範囲内である請求項1~7のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項9】
ステップiv)に従う時間が15分~4時間の範囲内である請求項1~8のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項10】
ステップiiiに従う前記加熱した液体リグニンへのホルムアルデヒドの添加を時間にわたって連続的に実施するか、または
ホルムアルデヒドを1回以上添加することによって実施する請求項1~9のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項11】
前記リグニンメチロール化ステップおよび
前記フェノールメチロール化ステップによって調製され、前記コア層に使用される紙の含浸のための前記リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂が、使用された乾燥フェノールの重量と乾燥リグニンの重量とが等しい樹脂配合を有するリグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂である請求項1~10のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項12】
ステップv)を65℃~80℃の範囲内の温度で実施する請求項1~11のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項13】
ステップviii)に従うホルムアルデヒドの添加を時間にわたって連続的に実施するか、または2つ以上のホルムアルデヒドの添加量の段階的な添加によって実施する請求項1~12のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項14】
ステップviii)に従うホルムアルデヒドの添加が、20~150分の時間で行われる請求項1~13のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項15】
ステップviii)の間の温度を、60℃~85℃の範囲内に維持する請求項1~14のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項16】
ステップviii)に従って添加されるホルムアルデヒドの量が、ステップvi)に従って添加されるフェノールの量および活性化リグニン中の残留遊離ホルムアルデヒドの量に関係し、ステップviii)にて添加されるホルムアルデヒド量と、活性化リグニン中に残存するホルムアルデヒドの量との組み合わせは、ステップvi)で充填されるフェノールの量と比較した場合に、1.0:0.9~2.0の範囲内のモル比フェノール:ホルムアルデヒドを指す請求項1~15のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項17】
メチロール化のステップix)が、40分~120分の間維持される請求項1~16のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項18】
ステップix)の後に得られる混合物を冷却する請求項1~17のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項19】
前記
樹脂混合物を含浸させた紙が、浸透ベース(saturation base)クラフト紙で製造される請求項1~18のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項20】
前記コア層が、木質繊維から製造されたプリプレグと、前記
樹脂混合物を含浸させた紙との組み合わせを含む請求項1~19のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項21】
前記
樹脂混合物を含浸させた紙が、コア材料の外層として配置される一方で中間にプリプレグを有する請求項20に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項22】
前記プリプレグおよび前記
樹脂混合物を含浸させた紙が、前記
樹脂混合物を含浸させた紙が前記プリプレグの間に位置するように組み合わせられており、さらに、前記
樹脂混合物を含浸させた紙は、コア材料の外層として位置し得る請求項20に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項23】
前記コア層が1つ以上の装飾層と合わせられ、前記装飾層は前記コア層の一面または両面に配置されている請求項1~22のいずれか1項に記載の高圧積層品の製造方法。
【請求項24】
前記1つ以上の装飾層は
、熱硬化性樹脂を浸透させた1つまたは複数の装飾紙に基づいている請求項23に記載の高圧積層品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化リグニン組成物特にメチロール官能基含有活性化リグニン組成物の調製方法に関する。さらに、本発明は、そのように活性化したリグニン組成物をリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製方法にてさらに処理する方法にも関する。そのようなリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂は、従来の合成フェノールホルムアルデヒド樹脂と置き換えて、積層品の製造に使用できる。
【背景技術】
【0002】
積層品は、圧縮され、結合した半完成材料(含浸紙またはプリプレグ)の多数の層から構成される製品である。一般に、積層品製品は、典型的には、約55~80wt.%の木質に由来する材料(例えば繊維または紙)と、約20~45wt.%の熱硬化性樹脂とを含有する。積層した半完成材料の圧縮した積み重ねの結合は、熱硬化性樹脂の縮合(または重合反応)によってもたらされ、通常、加熱、および望ましい程度の最終硬化を受けるそのような手段によって引き起こされる。これは、不連続または連続的な処理プロセスによって達成できる。一般的な不連続方法は、積層した半完成材料の積み重ねをプレスの段内に設置し、その後、加圧圧縮のプログラムを施し、熱を加え、積層品製品を生じる多段プレスを使用する。そのような積層品の一般の製品定義は「高圧積層品」または「HPL」である。連続的な方法は、例えば、半完成材料を継続的に多数の供給物からのプレスに供給し、その後、それらを圧縮し、加熱して、積層品製品を形成する連続プレスを使用する。そのような積層品の一般の製品定義は、「連続圧力積層品」または「連続プレス積層品」であり、両方とも「CPL」と略し得る。製品基準または標準EN438は、HPLまたはCPLと呼ばれる積層品の一般の定義を有するが、この文書に記載されている積層品の定義はいくらか広い。
【0003】
装飾積層品は、一般に、片面または両面に装飾層があるコア層またはコア層の積み重ねから構成される。このタイプの積層品は、建設業での屋内または屋外用途にて採用され、それらの厚さに依存して、金属被覆パネルまたは自立したユニットとして使用される。
【0004】
本出願人によって製造される装飾的な高圧のコンパクトな積層品は、屋外用途で既知である。そのような積層品は、熱硬化性樹脂を含浸した木質ベースの繊維(紙および/または木質)の層と、片面または両面に、装飾的なカラーまたはデザインを有する表面層と、からなる。透明トップコートを、表面層に追加でき、硬化して、天候および光からの保護の性質を増大させることができる。これらの構成要素を、熱および高い特定の圧力の印加と同時に結合して、密度が増加し、装飾表面と一体となった均質な非多孔質材料を得る。これらの積層品は、とりわけ、米国特許第4,801,495号明細書、米国4,789,604号明細書、米国特許出願公開2013/0078437号明細書に開示されている。本願は、外観のコンパクトな積層品のみに限られず、本願の範囲は、薄いまたはコンパクトな内部積層品も含む。
【0005】
フェノール樹脂の環境観点が議論されている。リグニンは、例えば木材から抽出できる天然のポリマーである。リグニンは天然の生体高分子であることから、合成材料の代わりに樹脂の成分としてそれを使用することは、より環境に優しい樹脂組成物を達成する一方法である。リグニンは芳香族ポリマーであり、木質の主要な構成要素であり、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂の製造中のフェノールに適した置換基として広く研究されている。これらは、合板、配向性ストランドボードおよび繊維板などの構造的な木材製品の製造中に使用される。そのような接着剤の合成中に、リグニンは、フェノールを部分的に置換するものであり、塩基性または酸性触媒の存在下でホルムアルデヒドと反応して、ノボラック(酸性触媒を利用する場合)、またはレゾール(塩基性触媒を利用する場合)と呼ばれる高架橋芳香族樹脂を形成する。リグニンで置換できるフェノールの量は、とりわけ、リグニンのより低い反応性によって決定される。
【0006】
国際公開第2016/157141号は、活性化リグニン組成物の製造方法に関し、該方法は、i)アルカリ性リグニンなどのリグニンを用意するステップと、ii)水などの1つ以上の水性または水溶性分散剤を添加するステップと、iii)NaOHなどのアルカリ金属塩基を添加するステップと、iv)任意選択的に、フェノールなどの1つ以上の置換および/または非置換ヒドロキシベンゼン化合物を添加するステップと、v)好ましくは高せん断処理を用いて前記成分に高いせん断および流れを施すことによって、前記成分を混合するのと同時にリグニンの粒径を小さくし、それによって、前記組成物を提供するステップと、を含む。
【0007】
国際公開第2015/123781号は、架橋性樹脂の調製方法に関し、該方法は、(i)フェノール化合物並びにフェノール化合物の芳香族環の炭素原子と5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)のホルミル基の炭素との間の共有結合の形成を促進する触媒の存在下で、ヘキソースをHMFへ転換して、樹脂を形成するステップを含み、フェノール化合物は非置換フェノール、カルダノールおよびこれらの組み合わせから選択され、特に、フェノール化合物は、リグノセルロース系バイオマスから得られる。バイオマス熱分解油、液化バイオマス、リグニン、解重合リグニン、フェノール化解重合リグニン、および液化リグニンの1つ以上である。
【0008】
国際公開第2013/144454号は、リグニンの反応性の増加方法に関し、該方法は、a)30~70℃の温度での加熱下で、アルカリ金属の水酸化物を含むアルカリとリグニンとを含む水性分散体を形成するステップと、b)アルキル化リグニンの製造のためにステップa)で形成した分散体を50~95℃の温度で加熱するステップと、を含み、ステップb)を15分~24時間実施し、該方法は、ステップa)の前に、フェノール類から選択される化合物とリグニンとを反応させるステップi)を含む。この国際公開第2013/144454号は、炭素鎖のリグニンへの共有結合を示す「アルキル化リグニン」を使用する。開示内容によれば、それは、炭化水素鎖をリグニンに共有結合させるアルキル化反応ではなく、アルカリ中に溶解したリグニンを意味する。国際公開第2013/144454号の1つの実施形態は、ホルムアルデヒドとリグニンとの反応によって得られるメチロール化リグニン(国際公開第2013/144454号で「ヒドロキシメチル化リグニン」と称される)を提供することにあり、該メチロール化リグニンは、その後、フェノールと、さらなるホルムアルデヒドと、さらなる水酸化ナトリウムの添加によってバインダーを製造するのに使用される。
【0009】
国際公開第2015/079107号は、リグニンの処理方法に関し、該方法は、a)フェノール類から選択される化合物と、アルカリ金属の水酸化物を含むアルカリとを含有する水性組成物に、組成物の温度を40~85℃に維持しながらリグニンを溶解させるステップと、b)組成物の温度が100℃を超えないことを条件として、6~14のpH値に組成物のpHを維持しながら、ステップa)の組成物の温度より高い温度で組成物を加熱するステップと、を含む。この公報によれば、さらなるアルカリがステップb)の組成物に添加され、したがって、ステップa)およびステップb)の組成物にアルカリが添加される。この公報には、フェノールとアルカリと水との組成物にリグニンを溶解させることは、リグニンを組成物に溶解するのに必要な時間に影響を及ぼすことが述べられている。
【0010】
国際公開第2016/207493号は、アルカリ性リグニン含有供給物から熱処理によってリグニンを回収する方法に関し、該方法は、200~250℃の温度で供給物を0.5~10時間保持することによって、脱メチル化および脱メトキシ化促進剤を添加することなく行われる熱処理で、供給物中のリグニンを活性化させるのと同時に沈殿させるステップを含み、アルカリ性リグニン含有供給物は、アルカリパルプ化法、例えばクラフト黒液から得られる。活性化および沈殿の後、リグニン材料は、酸性洗浄によって精製される。
【0011】
国際公開第2017/006215号は、リグニンの反応性の増加方法、前記リグニンを含む樹脂組成物および前記樹脂組成物の使用に関する。該方法は、混合物のアルカリ溶液の濃度が5~50質量%である、リグニンとアルカリ溶液とを含む混合物を用意するステップと、前記混合物を少なくとも1日間貯蔵してリグニンの反応性を増加させ、貯蔵を室温、すなわち20~30℃の温度で行うステップと、を含む。混合物は、リグニンを10~80質量%含む。
【0012】
ドイツ国特許第4331656号は、メチロール修飾リグニンを45~85質量%と、レゾールを5~25質量%と、ジ-またはポリイソシアネートを10~30質量%と、を含み、メチロール基修飾リグニンおよびレゾールが水溶液中にあり、促進剤としてエステル、例えばトリアセチンを1~15質量%さらに含むバインダー混合物に関する。
【0013】
国際公開第2007/124400号は、軟化温度が低いまたは熱硬化システムの反応性が増加した修飾した再生可能な芳香族材料の製造方法に関し、該方法は、再生可能な芳香族材料を、化学-熱-力学(CTM)機械的せん断下で、最大約100~220℃の温度、約0.5~10atmの圧力で、再生可能な芳香族材料の軟化点を下げる添加剤、または再生可能な芳香族材料の反応性を促進する添加剤の存在下で処理して、軟化温度が低いか、または反応性が増加した、修飾した再生可能な芳香族材料を製造することを含み、再生可能な芳香族材料は、リグニン、タンニンまたはカルダノールまたはそれらの組み合わせである。
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、積層品(HPLおよびCPLを含む)用途では、樹脂バインダー組成物がクラフト紙または木質繊維に含浸でき、パネルプレス中に十分に流れる必要があることを見出した。先行技術に記載のリグニンフェノールホルムアルデヒド(LPF)バインダーにおいて、リグニンはフェノールホルムアルデヒドと共縮合するか、または単純に後で添加される。この態様は、一般に、望ましい用途にとって粘性が高すぎるバインダーを生じる。
【0015】
さらに、アルカリの存在下でフェノールがフェノールイオンを形成できることが知られている。これは共鳴を受け、3つの構造を形成し、したがって、2つのオルト位およびパラ位に活性水素を生じさせる。これらのいずれもホルムアルデヒドと反応でき、メチロール基を形成できる。このメチロール化反応は、フェノール樹脂の製造における第1の反応ステップとして特定できる。そのようにして形成されたメチロール化フェノールは、ホルムアルデヒドのさらに2つの分子と反応でき、ジメチロール化フェノールおよびトリメチロール化フェノールを形成でき、これらのメチロール化フェノール種はそれら自体と反応でき、より大きいオリゴマー単位を縮合反応によって形成できる。メチロール化および縮合反応は同時に発生し得る。
【0016】
リグニンが、フェノール性OH基および遊離オルト位を有する芳香族単位(それらの一部はフェノールに類似する)からなることから、上記の反応にフェノール置換基として参加できると長い間考えられていた。しかしながら、これらの活性部位は比較的まれ(リグニン巨大分子の分子量によって反応性部位が分けられる観点から)であるか、または立体障害となり得る。その結果として、リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂の成功は、いくらか限定されている。実際に、フェノール、ホルムアルデヒドおよびリグニンの混合物が共に反応する場合、ホルムアルデヒドがフェノールと優先的に反応すると考えられる。さらに、メチロール化がホルムアルデヒドとの反応性を増加し、それ故に、メチロール化およびジメチロール化フェノールが、より高い反応速度を有する。これは、不運にも、反応速度の観点からリグニンが取り残されるようにするものであり、したがって、最終3Dポリマーネットワークにどれだけ十分に組み込まれるのか疑わしい。
【0017】
本発明の目的は、活性化リグニン組成物の調製方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、上述したメチロール化反応が縮合反応より好まれるリグニンに基づく方法を提供することにある。
【0019】
本発明の別の目的は、フェノールホルムアルデヒド反応種および結果としてのオリゴマーとの反応に対する官能性が向上した活性化リグニン組成物を提供することにある。
【0020】
本発明の別の目的は、活性化リグニン組成物に基づくリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製方法を提供することにある。
【0021】
本発明の別の目的は、積層品の製造に使用できるリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂を提供することにある。
【0022】
本発明は、したがって、活性化リグニン組成物の調製方法に関する。該方法は、
i)遊離活性水素位置を有する液体リグニンを用意するステップと;
ii)前記液体リグニンを60℃~85℃の範囲内の温度に加熱するステップと;
iii)>1:1の化学量論的過剰率でホルムアルデヒドを前記加熱した液体リグニンに攪拌条件下で添加するステップと;
iv)少なくとも10分間、iii)に従う混合物の温度を60℃~85℃の範囲内に維持するステップと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】pHを変動させたリグニン活性化を示すグラフである。
【
図2】温度を変動させたリグニン活性化を示すグラフである
【
図3】クラフトリグニンとリグニンスルホン酸ナトリウムとの間でリグニン活性化を比較したグラフである。
【
図4】PSS標準に対する実施例4および16の分子量分布を示すグラフである。
【
図5】クラフトリグニンに対するホルムアルデヒドの異なる充填量でのリグニン活性化を示すグラフである。
【
図6】実施例20、21および22の分子量分布を示すグラフである。
【
図7】120分の活性化後の粘度に対する活性化時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、上記で特定した本発明の目的の1つ以上が、該方法の上述したステップi)~iv)によって達成できることを見出した。本発明によれば、遊離活性水素位置を有する液体リグニンは、アルカリ条件下で、縮合反応よりメチロール化反応が好まれる温度でホルムアルデヒドと反応する。さらに、ホルムアルデヒドの添加後、混合物を、メチロール化反応にとって好都合であるが、縮合反応にとってはそうではない温度で、ある期間維持する。これは、フェノール-ホルムアルデヒド反応種および結果としてのオリゴマーとの反応に対する官能性が向上した活性化リグニンを生じる。メチロール化反応および縮合反応については、本明細書において後述する。「>1:1の化学量論的過剰率」は、リグニンの遊離活性水素位置に対するものとして読むべきである。
【0025】
本発明は、具体的には、リグニンをメチロール化するのに添加するホルムアルデヒドが、活性水素(これらの単位が、リグニン巨大分子内で縮合した状態でないことを条件として、p-ヒドロキシフェニル単位ごとに2つ、グアヤシル単位ごとに1つ存在する)に対して化学量論的に過剰である(これはNMRによって決定できる)という点で、国際公開第2013/144454号とは異なる。したがって、このアプローチは、他の反応性フェノール樹脂種に対するリグニンのメチロール化または官能化を最大にする。さらに、本方法の条件は、これらの基の同士の、または共重合したフェノール-ホルムアルデヒド樹脂のものとの縮合反応による大きな損失なしで、メチロール官能化の高い収量をもたらすように独自に最適化されている。メチロール化および縮合反応は本発明によって特定の方法のステップに分けられる。これは、国際公開第2013/144454号にて行われておらず、示唆されていない。
【0026】
本発明は、具体的には、プレスされて積層品を形成できる紙の工業的な含浸に適用可能である。また、プレスされて「プリプレグ」板(他の要素と同様に組み合わせることができ、プレスされて積層品を形成できる)を形成できる木質繊維の含浸に適用できる。
【0027】
ステップi)における液体リグニンは、市販されたクラフトリグニンから調製できる。しかしながら、いずれのリグニンも、原則として、リグニンを含有する均質な液体を生じるように使用でき、本発明における活性化ステップに適している。したがって、リグニンは、硬材、軟材または一年生植物(例えば草または作物残渣)、またはそれらのブレンドから供給できる。リグニンは、天然のリグニン、またはバイオマスの残部から分離されたものであり得、例えばクラフトリグニン、オルガノソルブリグニン、リグノスルホネートリグニン、熱分解油から抽出されるリグニン、またはそのようなリグニンのブレンドであり得る。リグニンは、バイオマスからの分離に使用されるプロセスおよび/または望ましい化学的な修飾によって天然の状態から修飾し得る。
【0028】
リグニンの化学的な官能性を、例えば、天然由来のリグニンの官能基および結合(例えば脂肪族OH、芳香族OH、カルボン酸、β-O-4など)の分布の変化によって、バイオマス分離プロセスによってもたらされる新しい化学的な官能基の導入(例えばリグノスルホネートリグニンのスルホン酸基)によって、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドの形態(例えばパラホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサン)ではない試薬または触媒を用いてもたらされるリグニンのさらな化学的な修飾反応によって、変化させることができる。さらに、ホルムアルデヒドおよびその様々な形態による修飾が本発明の範囲内であることから、グリオキサール、グルタルアルデヒド、ブチルアルデヒド等のようなジアルデヒドによる修飾も同様に本発明の範囲内であることになる。「リグニンのさらなる化学的な修飾」は、ホルムアルデヒドでない試薬または触媒による反応を指し、エステル化、スルホン化およびエポキシ化が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明者らは、均質な液体の調製に使用されるリグニンのタイプに関係なく、リグニンが、ホルムアルデヒドによる反応を受けてメチロール基を形成できるリグニン巨大分子上に活性水素を有さなければならないことを見出した。これらの活性水素は、典型的にはリグニン構造内の芳香族環上にある。重要な活性水素は、グアヤシル(G)およびp-ヒドロキシフェニル(H)単位に位置するもの、特にG5、H3およびH5活性水素である。他の位置G2、G6、H2およびH6は、メチロール化できるが、これは非常に好ましくなく、もし見られる場合、マイナーな構成要素として生じるのみである。
【0030】
活性化リグニン組成物の調製の本方法の実施形態では、遊離活性水素位置を有する液体リグニンのpH範囲は、少なくとも6、好ましくはpH6~13の範囲内、より好ましくは8~12の範囲内、さらにより好ましくは9~11の範囲内である。本発明者らは、pH6未満では、リグニン上の活性水素とホルムアルデヒドとが反応してメチロール基をリグニン上に形成する(すなわちリグニン-CH2OH)のが遅すぎることを見出した。また、さらにより低いpHでは(およびリグニンが低いpHでも依然として可溶であるリグニンであると仮定して)、別の望ましくない反応が起こり得る。すなわち、これはホルムアルデヒドによる酸性縮合反応である。ホルムアルデヒドが活性水素位置を攻撃し、酸性条件であることから、メチレンカルボカチオン(すなわちリグニン=CH2
+)が形成される。これは高い反応性があり、別のリグニン活性水素位置へのメチレンの架橋、すなわち縮合反応を直ちに形成する。本発明者らは、非常に高いpHにおいて、望ましいメチロール基の形成反応が非常に良好であるが、前記メチロール基の縮合も補助することも見出した。その結果として、より後の、樹脂縮合、ライン含浸およびパネルプレスの段階で、硬化プロフィールの制御がより困難となる。また、それは、不必要な塩を製品に導入し、水に浸漬させた場合に浸透圧を生じさせて、積層品に水が入りやすくなり、膨張を生じる。
【0031】
活性化リグニン組成物の調製の本方法によれば、ステップii)に従う温度は、60℃~85℃の範囲内、好ましくは65℃~80℃の範囲内である。これらの温度範囲は、縮合反応よりメチロール化反応を最適化するものである。その結果として、液体リグニンは、ホルムアルデヒドの添加前に、この最適な温度範囲に調節する必要がある。温度範囲が高すぎる場合、ホルムアルデヒドが添加される間に縮合が生じる。60℃未満の温度では、反応がほんの少ししかない。
【0032】
活性化リグニン組成物の調製の本方法によれば、ステップiv)に従う温度は60℃~85℃の範囲内、好ましくは65℃~80℃の範囲内である。これらの温度範囲は、縮合反応よりメチロール化反応を最適化するものである。
【0033】
活性化リグニン組成物の調製の本方法の実施形態でのステップiv)に従う時間は、15分~4時間の範囲内、好ましくは30分~2時間の範囲内である。本発明者らは、10分未満の反応時間が十分な活性化を生じる可能性が低い一方で、4時間を超えると商業的に実用的でないことを見出した。
【0034】
活性化リグニン組成物の調製の本方法の実施形態では、加熱した液体リグニンへのホルムアルデヒドの添加は連続的に実施する。本発明者らは、そのような添加計画が、反応のコントロールを改善することを見出した。さらに、それは、縮合が重要になる温度範囲への過熱を避けるのを助ける。別の実施形態では、ホルムアルデヒドは1回以上の充填で添加できる。
【0035】
本発明者らは、加熱した液体リグニンに添加されるホルムアルデヒドの量が、混合物が含有する乾燥リグニンの質量、より具体的には、前記リグニンを含有する活性水素部位のモルに基づいて、リグニンと反応させるのに適した範囲内であることを見出した。本方法では、反応速度を補助し、任意選択的に、フェノール添加前に特定の量のホルムアルデヒドを予め添加するように、ホルムアルデヒドが化学量論的過剰、すなわち>1:1で添加される。「>1:1の化学量論的過剰率」は、リグニンの遊離活性水素位置に対するものを意味する。
【0036】
本発明に従う処理ステップは、活性化リグニンを生じさせる。本発明者らは、それがわずかに分子量を増加させるに過ぎないが、実際に、相当量のホルムアルデヒドを消費することを見出した。2D NMRの調査は、G5、H3およびH5シグナルの顕著な減少、および-CH2OH(すなわちリグニンとホルムアルデヒドとの反応からのメチロール官能性)に関連した強いシグナルの出現を示した。本発明者らは、本方法のステップに従って得られる活性化液体リグニンが、フェノールホルムアルデヒドオリゴマーと一緒に3Dポリマーネットワーク内へ反応するように十分に官能化されていることを見出した。
【0037】
また、本発明は、リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製方法に関する。該方法は、
a)本明細書に開示されている本方法に従って得られる活性化リグニン組成物を用意するステップと;
b)任意選択的に、ステップa)の前記活性化リグニン組成物を50℃~90℃の範囲内の温度、好ましくは50℃~85℃の範囲内の温度に加熱するステップと;
c)フェノールを前記活性化リグニン組成物に添加するステップと;
d)ステップc)の混合物の温度を60℃~90℃の範囲内、好ましくは60℃~85℃の範囲内に調整するステップと;
e)ホルムアルデヒドをステップd)の前記混合物に添加するステップと;
を含む。
【0038】
このリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製方法のねらいは、含浸性が良好であり、遊離モノマーが少ない、すなわち遊離ホルムアルデヒドおよび遊離フェノールが少ない低分子量リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂を製造できるようにすることにある。そのため、リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製には、1つ以上追加の方法のステップ、とりわけ、例えばメチロール化ステップ、縮合ステップ、希釈ステップおよび添加剤の添加が必要である。また、本発明は、活性化リグニン組成物の調製方法を1つの設備で実施し得、樹脂合成のために別の設備へ輸送される状況に関することに留意されたい。したがって、活性化リグニン組成物の調製方法およびリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製方法は、異なる場所で、および/または異なる企業によって実施し得る。
【0039】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法の可能性がある実施形態において、ステップc)は、凝固点が純フェノールより低いフェノール溶液を使用するということになる。したがって、ステップb)の温度範囲の下限は、実際の目的に従って低くすることができるか、またはなくすことができる。これは、ステップa)の活性化リグニンが貯蔵から、または輸送により、場合に有用であり得、より低い温度であり得る。
【0040】
加熱ステップは任意選択的である。これは、リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法は、本活性化リグニン組成物とフェノールとを混合し、混合物の温度を、60℃~90℃の範囲内、好ましくは温度の上限が85℃であるように調整することによって実施し得ることを意味する。したがって、開始材料は室温であり得る。別の実施形態によれば、本活性化リグニン組成物を50℃~90℃の範囲内の温度、好ましくは温度の上限85℃に加熱し、フェノールを加熱した活性化リグニン組成物に添加する。混合の後、混合物の温度を、60℃~90℃の範囲内、好ましくは温度の上限が85℃であるように調整する。
【0041】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法の実施形態では、ステップb)およびd)を65~80℃の範囲内の温度で実施する。
【0042】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法の別の実施形態では、ステップe)に従うホルムアルデヒドの添加を連続的に実施する。ホルムアルデヒドを、1回または数回の添加量でも充填できるが、温度コントロールのために連続的に添加することが好まれる。さらに、連続的な添加によって可能となる良好な温度コントロールによって、フェノールホルムアルデヒド縮合反応よりフェノールホルムアルデヒドメチロール化反応が好まれる温度範囲にバッチを維持することが可能であり、したがって、樹脂成分の分子量分布を低く保つのに役立つ。
【0043】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法の実施形態では、ステップe)に従うホルムアルデヒドの添加は、20~150分、好ましくは30分~90分の時間で行われる。
【0044】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法の実施形態では、ステップe)の間の温度を、60℃~90℃の範囲内、好ましくは65~80℃、さらにより好ましくは温度の上限85℃に維持する。本発明者らは、この温度範囲が縮合反応ではなくメチロール化反応を好むことを見出した。
【0045】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の中間体の調製の本方法の実施形態では、ステップe)に従って添加されるホルムアルデヒドの量は、ステップc)に従って添加されるフェノールの量および活性化リグニン中の残留遊離ホルムアルデヒドの量に関係している。
【0046】
ステップe)にて添加されるホルムアルデヒド量と、活性化リグニン中に残存するホルムアルデヒドの量と組み合わせは、ステップc)で充填されるフェノールの量と比較した場合に、1.0:0.9~2.0の範囲内の、好ましくは1.0:1.0~1.5の範囲内のモル比P:Fを与えるべきである。
【0047】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製の本方法の実施形態では、追加のステップf)が任意選択的に実施され、前記ステップf)はステップe)の後に実施される。したがって、ステップe)の後に得られる材料は、ステップf)、すなわち、本発明に従ってメチロール化と特定できるステップf)においてさらに処理される。メチロール化ステップは、ステップe)の混合物を、50~80℃の範囲内、より好ましくは60~80℃の範囲内、最も好ましくは65℃~80℃の範囲内の温度に、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも30分間、加熱し、維持するステップを含む。本発明者らは、一実施形態に従って、いくらかの縮合が、最終リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂を生じるメチロール化ステップの高い温度範囲内で起き得ることを見出した。そのようにして得られる生成物を、必要な場合、溶媒および1つ以上の添加剤で希釈できる。メチロール化段階(バッチ温度が50℃~80℃、好ましくは60℃~80℃に保持される)の利点は、メチロール化反応が縮合反応より好まれ、これによって、後の縮合の所与の程度について、遊離ホルムアルデヒドが少なくなり、遊離フェノールが少なくなることである。メチロール化段階の時間の長さは、樹脂の特定の要件の対象になり得る。本発明者らは、メチロール化段階が少なくとも10分、好ましくは少なくとも30分、より好ましくは40分~120分、さらにより好ましくは40分~70分であるべきであることを見出した。
【0048】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製の本方法の別の実施形態では、追加のステップg)が任意選択的に実施され、前記ステップg)はステップe)の後に実施される。したがって、ステップe)の後に得られる材料が、ステップg)で、すなわち、本発明に従って、縮合と特定できるステップg)でさらに処理される。この縮合段階は、80℃超、好ましくは85~95℃の範囲内の温度であるべきである。ステップe)の後にステップg)が続く状況では、メチロール化ステップf)を実施せず、すなわちステップd)の混合物へのホルムアルデヒドの添加ステップの後に直接縮合が続く。そのようにして得られた生成物を、必要な場合、溶媒および1つ以上の添加剤で希釈できる。
【0049】
リグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂の調製の本方法の別の実施形態では、ステップe)の後にステップf)が続き、ステップf)の後にステップg)が続く。これは、ステップd)の混合物へのホルムアルデヒドの添加ステップの後にメチロール化が続き、メチロール化の後に縮合が続くことを意味する。メチロール化および縮合の両方についての上述した温度範囲が同様にここでも適用される。これは、メチロール化ステップを実施する50℃~80℃、好ましくは60℃~80℃、最も好ましくは65℃~80℃の範囲内の温度で、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも30分間、より好ましくは40分~120分間、さらにより好ましくは40分~70分間実施し;縮合ステップを、80℃超、好ましくは85℃~95℃の範囲内の温度で実施することを意味する。そのようにして得られたリグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂生成物を、必要な場合、溶媒および1つ以上の添加剤で希釈できる。
【0050】
縮合段階[ステップg)]は、樹脂を、ポリマーとしての分子量にさらに発達させる(ポリマーとして樹脂が分類されるようにする)か、または必要な遊離モノマー濃度の仕様に達するようにする。
【0051】
溶媒、および任意選択的に追加の水も用いての希釈は、樹脂の粘度、および表面張力も低下させることができる。これは、紙へ樹脂がより良好に含浸できるようにし、紙の樹脂取り込みが、紙の毛管現象力によって主に駆動される。
【0052】
引火点および可燃性の観点から、樹脂の希釈に使用される溶媒は、バッチに安全に添加されるべきである。さらに、樹脂のメチロール化および縮合反応は、これ以上進展すべきではなく、したがって、溶媒添加後の溶媒とバッチとの混合およびバッチの均質化のためのバッチ温度は、好ましくは50℃未満、より好ましくは20℃~50℃の温度範囲内である。おそらく冷却コイルなどの他の手段に加えての望ましい樹脂合成ステップ後のバッチの冷却手段として、溶媒充填を使用し得る。
【0053】
希釈相において、溶媒を1回の充填で添加できる。充填される溶媒の量は、樹脂の合計質量に対して、2wt.%~15wt.%、好ましくは4wt.%~12wt.%、より好ましくは6wt.%~10wt.%である。
【0054】
粘度範囲は、好ましくは3mPa.s~50mPa.s、より好ましくは5mPa.s~30mPa.s、さらにより好ましくは5mPa.s~20mPa.sである。
【0055】
一実施形態では、溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、より高級のアルコールおよびそれらの異性体などの、アルコール基(すなわちR-OH)を有する分子が挙げられる。さらに、モノエチレングリコールなどのジオール、グリセロールなどのトリオール、またはジエチレングリコールなどのグリコールエーテルを使用し得る。例えばメタノールを使用する場合、樹脂バッチに40℃未満の温度で充填すべきである。任意選択的に、溶媒の引火点が十分に高いか、または設備が危険に安全に対処する場合、液体リグニン調製ステップ、リグニン活性化ステップ、または樹脂合成ステップで溶媒を添加できる。
【0056】
一実施形態では、添加剤または添加剤混合物を、例えば上述した溶媒による希釈の後に樹脂に添加できるか、または含浸直前に樹脂バッチに添加できる。添加剤添加の可能性のある狙いは、紙の良好な湿潤性を確実にする、すなわち樹脂が紙へ良好に含浸できるようにすることにある。代替として、それは、含浸ラインでの発泡の問題に役立ち得る。また、添加剤は、流動性を改変し、最終硬化およびプレスで樹脂を可塑化するように機能し得る。
【0057】
一実施形態では、添加剤または添加剤混合物の添加中の樹脂温度は、好ましくは20℃~50℃、より好ましくは25℃~35℃の範囲内の温度である。
【0058】
一実施形態では、添加剤または添加剤混合物が1回の充填で添加される。充填される添加剤または添加剤混合物の量は、樹脂に対して0.0wt.%~5wt.%、好ましくは0.5wt.%~4wt%、より好ましくは1.5wt.%~2.5wt.%である。
【0059】
前述したように、紙の樹脂取り込みは、紙の毛管現象力によって主に起動される。添加剤または添加剤混合物は、液体と固体との間の表面張力(または界面張力)を低下させ、それによって、樹脂の紙への良好な移動を促す。
【0060】
本発明にしたがって得られる樹脂混合物は、含浸紙の含浸に使用される。この紙の坪量は、好ましくは100g/m2~250g/m2、より好ましくは128g/m2~215g/m2である。含浸紙の平均水分率は、2.5~5wt%の範囲内である。
【0061】
本発明は、含浸紙の含浸に使用される上記樹脂混合物の使用にさらに関する。いわゆる半完成材料が、積層したパッケージに構成され、プレス操作で使用されて積層品を形成する。プレス操作は、温度を上昇させ、圧力を上昇させることで実施される。一実施形態では、プレス操作の前後に、積層したパッケージの少なくとも一面上に装飾層が設けられる。
【0062】
また、本発明は、CPL(「連続圧力積層品」または代替として「連続プレス積層品」)の生産に適している。過去では、CPLラインは、20~50barの範囲内の圧力で行われていたが、現代のCPLラインは、70~80barの範囲内の圧力に達することができる。それ故に、「圧力」の観点から、HPL(高圧積層品)プレスとも典型的には称される多段プレスと差異がない。また、本発明は、CPLの製造のための二重ベルトプレス(DBP)も包含する。CPLは、典型的には、樹脂含浸台紙を用いて加熱および高圧下で融合される樹脂含浸装飾紙を有する。積層品の性質は、標準HPLと類似し、典型的な厚さの範囲は0.4mm~1mmである。柔軟なCPLは、柔軟な熱硬化性樹脂で含浸した装飾紙であり、樹脂含浸台紙を用いて加熱および高圧下で融合される。個別の構成要素、すなわちコア層および装飾層を一緒に結合するステップの間に、加熱(例えば≧120℃)および高い特定の圧力(>7MPa)を同時に印加することによって、密度が増加し、一体の装飾表面を有する均質な非多孔質パネルが得られる。
【0063】
良好な最終製品、すなわちHPLまたはCPLを得るために、均質かつ十分な樹脂の紙への浸透が好ましい。したがって、紙の物理的性質の変化が必要とされ得る。また、添加剤を使用して、紙への樹脂浸透を増大させることができる。すべての紙が、本発明に従って得られる樹脂による含浸のために使用し得る。HPLおよびCPL用途には、浸透ベース(saturation base)クラフト紙が好ましくは使用される。
【0064】
固定されたプレス、場合により多段プレスが、本樹脂混合物を含浸させた含浸紙をプレスし、積層品生成物に適切に硬化するのに使用される。別の実施形態では、連続プレスがそのようなプレス操作に使用される。
【0065】
そのようにして得られた積層品の厚さは、好ましくは0.2mm~50mmであり、特に0.5mm~25mmである。
【0066】
本発明に従って得られる積層品は、屋内並びに屋外で使用し得る。建築領域の用途は、ビルディングの金属被覆、例えば内壁、外壁、天井およびファサードに関する。屋内用途は、家具、カウンターおよびテーブルトップ、貯蔵コンパートメント(ロッカーなど)および様々な他の製品の製造に関する。家具の例としては、テーブルトップ、実験テーブル、キッチンワークトップ、ナイトテーブル、ホットプレート、カウンター、ベンチ、椅子、またはスツール、並びにコーヒーテーブル、ダイニングテーブル、カクテルテーブル、会議テーブル、サイドテーブル、ピクニックテーブル、または屋外テーブルなどのテーブルがある。
【0067】
本発明を以下の実施例で添付の図面と共にさらに説明するが、これらの実施例および図面は本発明の範囲を何ら制限するものではない。本発明のそれぞれの態様の好ましい特徴は、他の態様のそれぞれに準用される。本発明の実施形態を、添付の図面と共に実施形態の例を用いてより詳細に説明しているが、本発明を例示するに過ぎず、その範囲を限定するものではない。
【0068】
また、本発明は、コア層を調製するステップと、温度を上昇させ、圧力を上昇させたプレスにて前記コア層をプレスするステップとを含み、上述した本発明に従う方法によって得られるリグニン-フェノールホルムアルデヒド樹脂を含む樹脂混合物が、前記コア層の含浸に使用される積層品の製造方法に関する。
【0069】
積層品の製造の本方法の実施形態では、コア層は、木質繊維から製造される1つ以上のプリプレグを含む。
【0070】
積層品の製造の本方法の実施形態では、コア層は樹脂含浸紙の積み重ねを含み、前記紙は、好ましくは浸透ベースクラフト紙で製造される。
【0071】
積層品の製造の本方法の実施形態では、コア層は、プリプレグと含浸紙との組み合わせを含み、前記プリプレグは、好ましくは木質繊維から製造され、含浸紙は、好ましくは浸透ベースクラフト紙で製造される。
【0072】
一実施形態では、含浸紙は、コア材料の外層として配置される一方で中間にプリプレグを有する。
【0073】
別の実施形態では、プリプレグおよび含浸紙が、好ましくは前記含浸紙が前記プリプレグの間に位置するように組み合わせられており、前記含浸紙は、任意選択的にコア材料の外層として位置している。
【0074】
別の実施形態では、コア層が1つ以上の装飾層と合わせられ、前記装飾層はコア層の一面または両面に配置されている。
【0075】
別の実施形態では、1つ以上の装飾層は、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂のような熱硬化性樹脂を用いて飽和した装飾紙に基づいている。
【0076】
別の実施形態では、1つ以上の装飾層が、UV硬化系またはEB硬化系を用いて硬化したアクリル樹脂でコーティングされている。
【実施例】
【0077】
粘度測定方法
実施例では、Brookfield LVTを粘度測定に使用した。試料の温度を20℃に調整して、それらの粘度を適切なスピンドルおよびrpm設定を用いて測定した。
【0078】
pH決定方法
試料を20℃に調整し、それらのpHを、較正したpH電極/メーターを挿入することで測定した。
【0079】
遊離ホルムアルデヒド決定方法(HPLC)
試料を50ml容量フラスコに正確に量りとり(200mg)、メタノールで満たした。溶解させ、均質溶液を形成した後、2mlを第2の50ml容量フラスコにピペットでとった。その後、これの約半分に蒸留水を充填し、次いで、2mlのDNPH(2,4-ジニトロフェノールヒドラジン)溶液を添加した。その後、より多くの蒸留水で満たすようにそれに充填し、均質化した。DNPHは、ホルムアルデヒドと反応して、発色する誘導体を形成する。少量(約4ml)を取り、HPLCカラムへのインジェクションの準備前に0.2μmフィルターに通過させた。(NB:最初の2mlほどの濾液は廃棄し、残余を試料バイアルに入れ、HPLCカルーセルへ充填した)。
【0080】
HPLCは、waters Nova-Pak C18,4μm 3.9x20mmプレカラム、およびwaters Nova-Pak C18,4μm 4.6x150mmメインカラムを使用した。溶離液はアイソクラチックで、70%メタノール:30%水性ギ酸ナトリウム緩衝液pH4.5であった。水性緩衝液は、2.5LのHPLC等級の水中の4.3gの水酸化ナトリウムと4.75mlのギ酸からなる。メタノールおよびpH4.5水性緩衝液の両方を、溶離液として使用する前に脱気した。試料を流した後、クロマトグラムを評価し、試料の遊離ホルムアルデヒドを計算した。試料ごとに2回決定を行う。ホルムアルデヒドおよびDNPHを有する標準も調製し、較正目的で流したことに留意されたい。
【0081】
遊離フェノール決定方法
試料50ml容量フラスコに正確に量りとり(200mg)、メタノールで満たした。溶解させ、均質溶液を形成したら、少量(約4ml)を取り、HPLCカラムへのインジェクションの準備前に0.2μmフィルターに通過させた。(NB:最初の2mlほどの濾液は廃棄し、残余を試料バイアルに入れ、HPLCカルーセルへ充填した)。HPLCは、waters Nova-Pak C18,4μm 3.9x20mmプレカラム、およびwaters Nova-Pak C18,4μm 4.6x150mmメインカラムを使用した。溶出プログラムは表1に記載の通りである。
表1:遊離フェノール決定の溶出プログラム
【表1】
【0082】
水性緩衝液は、2.5LのHPLC等級の水中の4.3gの水酸化ナトリウムと4.75mlのギ酸からなる。メタノールおよびpH4.5水性緩衝液の両方を、溶離液として使用する前に脱気した。試料を流した後、クロマトグラムを評価し、試料の遊離フェノールを計算した。試料ごとに2回決定を行う。フェノールを有する標準も調製し、較正目的で流したことに留意されたい。
【0083】
SEC分析方法
SEC測定を、プレカラムを有するPSS MCX 1000および100000Aカラムを用いて、0.1M NaOH溶離液で実施した。試料を0.1MNaOH溶液で希釈し、測定前に濾過した(0.45μm)。モル質量分布を、ポリスチレンスルホネート標準を用いて計算した。280nmでの光ダイオードアレイセットを検出器として使用した。
【0084】
2D HSQC NMR方法
試料を凍結乾燥し、その後、D2O(90mg/ml)に溶解した。2D(1H-13C)HSQCNMR測定を、二重共鳴およびQCI凍結探針を備えるBruker Avance III 600MHzを用いて実施した。リグニン活性化中のメチロール化(-CH2OH)の程度を評価するために、シグナル強度を、リグニンメトキシ(MeO-)基からのシグナルに対して正規化した。
【0085】
実施例4~10(クラフトリグニン活性化:pHによる相違)
大気条件下での還流のために構成された3000mlガラス反応器を使用した。該反応器は、電動機と、攪拌速度400rpmに設定したアンカー攪拌器とを有していた。さらに反応器は二重壁のものであり、そのため、再循環するサーモスタット制御油浴によって加熱がもたらされる。また、反応器は、冷水が通過できる冷却コイルも有していた。この配置によって、実験の温度の良好なコントロールを可能にした。
【0086】
この反応器に材料を添加した。具体的に、クラフトリグニン活性化実施例4~10について、材料および量を表2および表3に記載する。
【0087】
表2に示すデータは、本ステップi)、すなわち遊離活性水素位置を有する液体リグニンを用意するステップのための原料とみなされるものであることに留意されたい。
表2:液体リグニンの調製
【表2】
表3:リグニン活性化
【表3】
【0088】
以下の手順を実施例4~10で使用した。反応器に、(A)脱塩水[1]および(B)KOH47%[1]を充填した。その後、温度を75℃に調整し、(C)クラフトリグニン粉末を充填した。これを1時間にわたって、75℃で溶解させた。次いで、100gの試料をとって量り、氷浴中で20℃に冷却した。実施例それぞれに目標pHがあり、これらを表2に示す。試料のpHを測定し、必要な場合、攪拌下でKOH47%を滴下することによって、pHを調整する。これに必要なKOH47%の量は、材料(D)KOH47%[2]および(E)脱塩水[2]についての量を計算するのに注目され、用いられる。調整した試料を反応器に戻し、その後、材料(D)および(E)を充填する。混合物を75℃でさらに1時間撹拌する。
【0089】
(D)および(E)の量の計算は以下の通りであることに留意されたい。
(D)KOH47%[2]=(試料のpH調整のためのKOH47%)/(試料)*((水[1])+(KOH[1])+(クラフトリグニン)-(試料))
(E)水[2]=2000-((水[1])+(KOH[1])+(クラフトリグニン)+(KOH[2]))
【0090】
その後、実験例の温度を75℃に調整した。次いで、(F)ホルマリン55%を反応器に充填し、タイマーを開始する。ホルマリン充填が、96.3%の液体リグニン調製物および3.7%のホルマリン55%に基づくことに留意されたい。温度を4時間維持し、さらなる特性評価および分析のために、試料を10分、30分、60分、120分、および240分の時点で取った。これらの解析およびそれらの結果を以下に記載する。
【0091】
実施例11~15(クラフトリグニン活性化:温度の相違)
実施例11~15は、実施例4の実験手順に従うが、第2ステップ-リグニン活性化での保持温度が異なる。
【0092】
ステップ1-液体リグニン調製を、実施例4のように実施するが、目標pHを10とした。その後、温度を、表4にて特定したものに調整し、保持した「液体リグニン試料」を取る。次いで、ホルマリン充填(F)を計算し、反応器に追加した。かさねて、これは96.3%の液体リグニン調製および3.7%のホルマリン55%に基づく。充填したら、タイマーを開始し、特定温度を維持し、10分、30分、60分、120分、および240分の時点で試料を取った。試料をさらに特徴付け、分析した。これらの解析およびそれらの結果を以下に記載する。
表4:実施例11~15でのリグニン活性化温度
【表4】
【0093】
実施例16および17(リグノスルホネート活性化)
実施例16の実験手順は、実施例4のものと同様であるが、クラフトリグニンをリグノスルホン酸ナトリウムに置き換えた。実施例17は実施例16の繰り返しであるが、KOHを添加しなかった。したがって、実施例17では、pHがより低かった。両方とも、同じ反応器および実験ステップを先の実施例のように使用した。使用した材料を、表5および表6に具体的に記載する。
表5:ステップ1原料-液体リグニン調製
【表5】
表6:ステップ2原料-リグニン活性化
【表6】
【0094】
以下の手順を実施例16では使用した。反応器に、(A)脱塩水[1]を充填する。その後、温度を75℃に調整し、(C)リグノスルホン酸ナトリウム粉末を充填した。75℃で1時間にわたって、これを溶解させた。次いで、100gの試料を取り、量り、氷浴中で20℃に冷却した。試料のpHを測定し、その後、攪拌下でKOH47%を滴下することによって調整した。これに必要なKOH47%の量は、材料(D)KOH47%[2]および(E)脱塩水[2]での量を計算するのに注目され、使用された。調整した試料を反応器に戻し、次いで、材料(D)および(E)を充填した。その後、混合物を75℃でさらに1時間撹拌した。
【0095】
次に、75℃で、(F)ホルマリン55%を反応器に充填し、タイマーを開始する。ホルマリン充填が、96.3%のステップ1の液体リグニン調製物および3.7%のホルマリン55%に基づくことに留意されたい。温度を4時間維持し、試料を10分、30分、60分、120分、および240分の時点で取った。試料をさらに特徴付け、分析した。これらの解析およびそれらの結果を以下に記載する。
【0096】
実施例17では、KOHを添加しなかった。リグノスルホン酸ナトリウムが水溶性であることから、その天然のpHが実験で採用され、8.4であった。
【0097】
実施例18(クラフトリグニン活性化:ホルマリンの相違)
先の実施例において、ホルマリン添加は、9gの乾燥リグニンに対して1gのホルムアルデヒド(100%)に基づく。実施例18では、より低いホルムアルデヒドの添加量、すなわち、12gの乾燥リグニンに対して1gのホルムアルデヒド(100%)を使用した。他の点については、実施例4と同様である。使用した材料の重量については、表7および8を参照されたい。
表7:ステップ1原料-液体リグニン調製
【表7】
表8:ステップ2原料-リグニン活性化
【表8】
【0098】
再び、試料を10分、30分、60分、120分および240分の時点で取った。試料をさらに特徴付け、分析した。これらの解析およびそれらの結果を以下に記載する。
【0099】
実施例20(リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂:リグニン活性化なし、フェノールメチロール化ステップなし)
3000ml反応器に、脱塩水を1207.68g、KOH47%を76.00g、および消泡剤を4.00g充填した。反応器は大気での還流のために構成され、攪拌器は400rpmに設定された。その後、バッチを75℃に調整した。75℃に達したら、クラフトリグニン粉末565.32gを反応器に充填し、75℃で1時間にわたって溶解させた。次いで、溶解の質およびpH(目標=10)を調べるために、100gの試料を取り、20℃に冷却した。必要な場合、試料のpHを調整し、これからバッチの残りの調製に必要なKOHの量を計算したことに留意されたい。この実験では、さらに調整する必要はなく、試料を単純にバッチに戻した。
【0100】
その後、2つ目の脱塩水147gを反応器に充填し、温度を再び75℃に調整した。その後、バッチをさらに1時間保持した後、92.34gの試料、「液体リグニン残留試料」を取った。これは、1907.66gの液体リグニンが反応器中に残留していることを意味していた。リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂の例は、50:50のリグニン:フェノールの含量、および9gのリグニンごとに1gのホルムアルデヒドを有することが意図される。さらに、フェノールは、さらなるホルムアルデヒドを架橋のために要し、具体的には、この例でのモル比F/P=0.9である。
【0101】
必要な計算の実施後、362.46gのフェノール100%を反応器に充填した後、62.86gのホルムアルデヒド55%を充填した。その後、バッチを90℃に(発熱およびオイルジャケット加熱により)加熱して縮合反応を引き起こした。90℃に到達後、試料を、定期的な時間間隔、すなわち10分ごとに、合計縮合時間が80分に達するまで取った。その後、バッチを冷却し、反応器から出した。
【0102】
実施例21(リグニン活性化ありだが、フェノールメチロール化ステップがない)
3000ml反応器に、脱塩水を1207.68g、KOH47%を76.00g、および消泡剤を4.00g充填した。反応器は、大気の還流のために構成され、攪拌器は400rpmに設定された。その後、バッチを75℃に調整した。75℃に達したら、クラフトリグニン粉末565.32gを反応器に充填し、75℃で1時間にわたって溶解させた。次に、100gの試料を取り、20℃に冷却した。溶解の質およびpH(目標=10)を調べるために、必要な場合には試料pHを調整し、これからバッチの残りの調製に必要なKOHの量を計算することに留意されたい。この実験では、さらに調整する必要はなく、試料を単純にバッチに戻した。
【0103】
その後、2つ目の脱塩水147gを反応器に充填し、温度を再び75℃に調整した。その後、バッチをさらに1時間保持した後、123.93gの試料、「液体リグニン残留試料」と取った。これは、1876.07gの液体リグニンが反応器中に残留していることを意味していた。リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂の例は、50:50のリグニン:フェノール含量、および9gのリグニンごとに1gのホルムアルデヒドを有することが意図される。さらに、フェノールは、さらなるホルムアルデヒドを架橋のために要し、具体的には、この例でのモル比F/P=0.9である。
【0104】
必要な計算の実施後、72.01gのホルムアルデヒド55%を反応器に充填した(これは9gのリグニンごとの1gのCH2Oに等しい)。その後、バッチを75℃で1時間保持した。これがリグニン活性化ステップであった。
【0105】
リグニン活性化の後、356.46gのフェノール100%を反応器に充填した。次いで、ホルムアルデヒド55%(モル比F/P=0.9に留意されたい)186.50gの反応器への2回目の充填を行った。その後、バッチを90℃に(発熱およびオイルジャケット加熱により)加熱して、縮合反応を引き起こした。試料を、90℃に到達後定期的な時間間隔(10分ごと)で、合計縮合時間が80分に達するまでで取った。その後、バッチを冷却し、反応器から出した。
【0106】
実施例22(リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂:リグニン活性化ステップおよびフェノールメチロール化ステップ)
3000ml反応器に、脱塩水を1207.68g、KOH47%を76.00g、および消泡剤を4.00g充填した。反応器は、大気の還流のために構成され、攪拌器は400rpmに設定された。その後、バッチを75℃に調整した。
【0107】
75℃に達したら、クラフトリグニン粉末565.32gを反応器に充填し、75℃で1時間にわたって溶解させた。次いで、溶解の質およびpH(目標=10)を調べるために、100gの試料を取り、20℃に冷却した。必要な場合、試料pHを調整し、これからバッチの残りの調製に必要なKOHの量を計算したことに留意されたい。この実験では、さらに調整する必要はなく、試料を単純にバッチに戻した。
【0108】
その後、2つ目の脱塩水147gを反応器に充填し、温度を再び75℃に調整した。その後、バッチをさらに1時間保持した後、100.00gの試料、「液体リグニン残留試料」を取った。これは、1900.00gの液体リグニンが反応器中に残留していることを意味していた。リグニンフェノールホルムアルデヒド樹脂の例は、50:50のリグニン:フェノール含量、および9gのリグニンごとに1gのホルムアルデヒドを有することが意図される。さらに、フェノールは、さらなるホルムアルデヒドを架橋のために要し、具体的には、この例でのモル比F/P=0.9である。必要な計算の実施後、72.93gのホルムアルデヒド55%を反応器に充填した(これは9gのリグニンごとの1gのCH2Oに等しい)。その後、バッチを75℃で1時間保持する。これはリグニン活性化ステップである。
【0109】
リグニン活性化の後、361.01gのフェノール100%を反応器に充填し、温度を75℃に戻した。次いで、ホルムアルデヒド55%(モル比F/P=0.9に留意されたい)188.88gの2回目の反応器への充填を行ったが、75℃のバッチ温度を維持しながら60分にわたって添加できるように蠕動ポンプによって行った。ホルムアルデヒドを添加したら、バッチを75℃でさらに60分保持した。これがメチロール化ステップであった。
【0110】
メチロール化ステップの後、バッチをサンプリングし(すなわち「メチロール化ステップの終わり」)、その後、90℃に加熱し、縮合ステップのために保持した。縮合の開始時にバッチをサンプリングし、その後、再び10分ごとに、合計縮合時間80分が経過するまでサンプリングした。次いで、バッチを冷却し、反応器から出した。
【0111】
実施例23および24-HPLコンパクトパネル6mmの製造
本特許に記載の原理および処理および前述の実施例によって得られた証拠に基づいて、リグニンホルムアルデヒド樹脂(LPF)処方を、記載した「リグニン活性化ステップ」および「フェノールメチロール化ステップ」の両方を用いて開発した。処方は、クラフトリグニンとフェノールとを質量で等量含んでいた(すなわち、フェノールの50%をリグニンに置換した)。アルカリ水酸化物を触媒として使用した。このLPF樹脂が実施例23である。
【0112】
「リグニン活性化ステップ」および「フェノールメチロール化」ステップなしで、同じ処方を繰り返した。実際には、すべての成分を充填し、バッチを縮合相に取った。これが実施例24である。
【0113】
実施例23および24は、実施例22(10分縮合)および実施例20(30分縮合)とそれぞれ類似しているが、処方の詳細が独自である。したがって、それらは、類似の遊離フェノールおよび遊離ホルムアルデヒドを有していた。
【0114】
実施例23および24を使用して、含浸ライン設備を用いてクラフト紙を含浸させ、比較できる公称目標坪量および揮発物を得た。その後、これらの含浸紙を使用して、実験プレスおよび発明者らの通常の独自プレスサイクルを用いて、6mm厚さのHPLコンパクトパネルを製造した。
【0115】
下記表9に、実施例4~18、20~22の概略を示す。
表9-実験例および採取した試料の概略
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【0116】
これとは別に、液体リグニンのpHは、目標pHと完全に一致すべきである。しかしながら、アルカリの量が少量試料の調製、その後のスケールアップおよび追加の時間保持に基づき、それによってリグニン巨大分子がさらに「開く」ことができることから、いくらかの許容差が許される。さらに、特許の進歩性が損なうことなく依然として例証され得る。
【0117】
表10:実施例4および16で採取された試料の分子量分布パラメータ
【表10】
【0118】
表11:実施例20(30分縮合)、実施例21(40分縮合)および実施例22(10分縮合)から採取された試料の分子量分布パラメータ
【表11】
【0119】
表12:実施例4および16の2D HSQC NMR分析の概要
【表12】
【0120】
表13:実施例23(活性化およびメチロール化ステップによるLPF樹脂)および実施例24(縮合ステップのみによるLPF樹脂),6mmのHPLコンパクトパネル試験
【表13】
【0121】
実施例4~10-リグニン活性化ステップおよびpHの相違
前述のセクションおよび表9を参照すると、実施例4~10(水酸化カリウム濃度が変動し、それに伴うpHパラメータの変動以外は試料のリグニン活性化処方および手順は同じである)では、ホルムアルデヒド濃度が活性化ステップの保持時間によって低下し、この低下率がバッチのアルカリ性がどの程度のものか(すなわちpHがどれだけ高いか)に関係していることが分かった。
【0122】
表9からの結果を要約し、遊離ホルムアルデヒド(%)対活性化時間(分)のチャートをプロットすることによって、反応速度のpH条件への依存性がより明らかに見られる。
図1はこれを示す。
【0123】
クラフトリグニンでは、pHが高いほど、ホルムアルデヒドとの反応がより速くなり、その結果として時間と共に濃度が低下することが理解できる。具体的に、pH6で、それ故に、論理的にこれより低いpHで、いずれの反応もほとんど起こらないことが注目される。pHが上昇すると、反応速度が向上し、反応速度の変化がpH8~12、特にpH9~11の領域で最も感受性があるように見える。pHをさらに12から13へ上昇させると、増加率はあまり大きくない。
【0124】
含浸樹脂について、pHが高いと、リグニン活性化のみならずメチロール化およびフェノールおよびホルムアルデヒドとの縮合反応でも反応速度が速くなり得ることから、アルカリ(例えば水酸化カリウム)の添加量がより高い例はあまり好ましくない。縮合の程度を制御するのがより困難であり、樹脂を過度に縮合するリスクがより大きい。そのような過度に縮合した樹脂では、分子量がより大きいことにより、クラフト紙に含浸させるのがより困難である。さらに、たとえ紙がうまく含浸されても、その活性はおそらく望ましいものより高く、それによって、含浸ラインの乾燥する部分の樹脂硬化が過度に進む。これは、樹脂の流れを不良とし、HPLパネルプレスを不良とする。さらに、過剰量のアルカリ(例えば水酸化カリウム)によって、積層品内の塩量が過剰になり得、耐水性試験に失敗する、例えば沸騰水の浸漬中に膨張する可能性がある。
【0125】
実施例4、および11~15-リグニン活性化ステップおよびリグニン活性化温度の相違
再び、前述のセクションおよび表9を参照すると、実施例4、および11~15(試料リグニン活性化処方および手順が、リグニン活性化温度が変動している以外は同じである)では、ホルムアルデヒド濃度が活性化ステップの保持時間と共に低下し、この低下率が、温度がどれだけ高いかに関係していることが分かる。
【0126】
表9からの結果を要約し、遊離ホルムアルデヒド(%)対活性化時間(分)のチャートをプロットすることによって、温度への反応速度の依存性がより明らかに見られる。
図2はこれを示す。
【0127】
クラフトリグニンでは、温度が高いほど、ホルムアルデヒドによる反応が速く、その結果として時間と共に濃度が低下することが理解できる。温度が低いと、メチロール化反応に対する制御が得られるが、60℃未満では、おそらく遅すぎて、多くの商業用樹脂の製造にとって好ましくない。より高い温度では、縮合反応が大きくなり始める。表9から粘度の結果を見ると、85℃の後で顕著に増加し、これは、縮合反応により、鎖重合および分子量が増大したことを示す。さらに、これを例証するために、120分の活性化後の実施例4、11~15の粘度を、下記表14に複製した。それらを、データ点を通じての多項式フィッティングを用いてグラフとしてプロットした。これは
図7で見ることができる。
表14:活性化温度(℃)対120分活性化後の粘度(cP)
【表14】
【0128】
既に大きいリグニン分子の重合によって、紙への含浸が困難となる。樹脂は孔または紙の繊維の間に浸透できないか、またはプレス中に適切に流れない。
【0129】
したがって、メチロール化に好都合であるが、縮合重合に好都合でない温度で、すなわち60℃~85℃、さらにより好ましくは65℃~80℃でリグニン活性化を実施することが好ましい。
【0130】
実施例16および17-リグノスルホン酸ナトリウムの活性化、およびその実施例4との比較
再び、前述のセクションおよび表9を参照すると、実施例16および17では、商業用リグノスルホン酸ナトリウムも試験したことが分かる。リグノスルホン酸ナトリウムは本質的に水溶性であり、その可溶化にアルカリを必要としない。したがって、実施例17では、水酸化カリウムを添加しなかった。これは、試験その最も低いpH条件、pH=8.4で試験するものである。実施例16ではそのpHを?10に調整したので、実施例4と比較できる。
【0131】
表9は、実施例4、16および17から採取した試料の結果を示す。
図3は、例示するホルムアルデヒド濃度のそれらの変化を図示する。
【0132】
実施例16および17の両方において、粘度のいずれの変化もほとんどなかったが、ホルムアルデヒド濃度の低下がいくらかあった。これは、~10のpHでより顕著であった。それは、リグニン活性化が他のリグニン原料で発生し得、クラフトリグニンだけで発生し得るものではないことを示す。
【0133】
実施例4および16からの「液体リグニン」、「60分活性化」および「120分活性化」の試料でもSEC分析を実施した。結果は表10で見ることができる。リグニン活性化中に分子量がある程度は増加するが、多くはなく、これは、よりリグニン巨大分子のより多くの官能化(すなわちメチロール基の導入)と解釈され、それは、リグニンの重合よりもむしろ流体力学的容積の変化に関連している。それは、6個の試料の分子量分布がプロットされている
図4でより明らかに見られる。
【0134】
また、クラフトリグニンが、リグノスルホン酸ナトリウムよりどれだけ低い分子量分布を有することも見られる。
【0135】
SEC分析に加えて、実施例4および16からの試料「液体リグニン」、「60分の活性化」および「120分の活性化」を2D HSQC NMRによって調べた。
【0136】
得られたスペクトルについて特に興味深いことは、メチロール基(-CH2OH)および芳香族活性水素について見られたことである。表12は、定性的に最も重要な結果を示す。これらのスペクトルから、リグニンの望ましいメチロール化が活性水素を有する部位で実際に発生することが確認された。
【0137】
メチロール基(-CH
2OH)についてのシグナルは、2つの液体リグニン(すなわちクラフト[実施例4]およびリグノスルホン酸ナトリウム[実施例16])のスペクトルにはない。ホルムアルデヒドの添加後(9g乾燥リグニンに対する1gCH
2O)、75℃、pH10で1時間保持した後、メチロール基(-CH
2OH)シグナルが、両方のリグニンタイプ(すなわちクラフト[実施例4]およびリグノスルホン酸ナトリウム[実施例16])で見られる。さらに、75℃、pH10でさらに保持することによって、両方のリグニンタイプで、メチロール基シグナルが強化されたことが観察された。このメチロール基シグナルが、リグノスルホネート(実施例16)より、クラフトリグニン(実施例4)の方がより強く見られたことに注目すべきであり、これは、75℃、pH10での、HPLC分析によってなされたホルムアルデヒドの消費に関する観察と合っており、
図3によって示されているように、リグノスルホネート試料がホルムアルデヒドと反応するのよりも、クラフトリグニン試料は、ホルムアルデヒドとより容易に反応した。
【0138】
前述したように、2D NMR HSQCスペクトルにおいて、芳香族リグニン上の活性水素の領域があることに注目した。これらは、グアヤシル単位(G)およびp-ヒドロキシフェニル単位(H)と関連しており、特に、
- 活性水素H2およびH6
- 活性水素G6
- 活性水素G5、H3およびH5
- 活性水素G2
と関連し得る領域があった。
【0139】
液体リグニン試料(「クラフト」および「リグノスルホネート」の両方)では、H2およびH6と関連したシグナルは、G2およびG6からのシグナルよりはるかに少なかった。グアヤシル単位(G)は、試験したリグニンタイプの両方で、p-ヒドロキシフェニル単位(H)より豊富であると言えた。領域G5、H3およびH5のシグナルが、G5から主に来ていたことは論理的に従う。
【0140】
活性化リグニン試料(「クラフト」および「リグノスルホネート」の両方)では、G5、H3およびH5のシグナルの非常に強い低下が見られた。このシグナルの低下は、60分活性化後より120分活性化後にわずかに多く、リグノスルホネートの例よりクラフトリグニンの例においてより顕著だった。
【0141】
要約すると、
- 2D NMRで見られたリグニンメチロールシグナルは、リグニン活性化ステップで消費したホルムアルデヒドの量に比例する。
- リグニンメチロールシグナルは、G5、H3およびH5シグナル領域と反比例し、これは、メチロール化が主にこれらの位置で行われることを示唆する。
- 「リグニン活性化」ステップは、リグニンのメチロール化であり、実際にはリグニンの官能化であり、分子量はわずかに増加するのみである。
- それが、2つの異なるリグニンタイプでメチロール化されたリグニン活性水素であることから、活性水素を有するいずれの液体リグニンも使用でき、したがって、リグニンフェノールホルムアルデヒド(LPF)樹脂合成での使用のために適切に活性化し得ることは当業者にとって当然のことである。
【0142】
実施例18およびその実施例4との比較-リグニン活性化:12gのリグニンに対する1gのCH2O対9gのリグニンに対する1gのCH2O
「ステップ2-リグニン活性化」についての議論を構築すると、ホルムアルデヒド:リグニンの化学量論は、混合物が含有する乾燥リグニンの質量、より具体的には、前記リグニンを含有する活性水素部位のモルに基づき得る。反応速度を助け、任意選択的に、フェノールの添加前にホルムアルデヒドを特定の量予め添加するために、ホルムアルデヒドが、リグニンの遊離活性水素位置に対して化学量論的過剰、すなわち>1:1で添加される。
【0143】
実施例18は、ホルムアルデヒドが活性水素との1:1の化学量論モル比で添加された例である。
【0144】
実施例20、21および22-リグニンホルムアルデヒド樹脂(LPF)
実施例20、21および22は、添加される原料、および樹脂縮合段階(90℃)の観点から比較できるものであった。これらの実施例の間での違いは下記の通りである:
- 実施例20-リグニン活性化ステップがなく、フェノールメチロール化ステップがない。すなわち、液体リグニン+フェノール+ホルムアルデヒドであり、縮合温度に発熱させた。
- 実施例21-リグニン活性化ステップ(1時間75℃)があるが、フェノールメチロール化ステップがない。
- 実施例22-リグニン活性化ステップ(1時間75℃)があり、フェノールメチロール化ステップ(1時間連続的なホルマリン添加の後、1時間保持し、すべて75℃である)がある。
【0145】
それぞれの樹脂では、液体リグニンの試料を縮合段階中に10分間隔で取った。さらに、実施例22では、フェノールメチロール化段階の終わりに試料を取った。これらの試料の分析結果は表9で見られ、測定したパラメータは、pH、粘度、遊離ホルムアルデヒド%(titrinoおよびHPLC)、および遊離フェノール%である。
【0146】
類似の遊離フェノール%を有していた3つの実施例のそれぞれから、残りのものの結果までの1つの試料(すなわち、特定の遊離フェノールへの縮合)を見出すために、これらの結果を検討した。特定の遊離フェノール%含量に対する「正規化」によって、これらの試料に対してSEC分析を行うことが可能であり、樹脂の分子量分布に対する3つの異なる処理経路を比較することができる。
【0147】
選択した試料は下記の通りであった。
- 実施例20(30分縮合)遊離フェノール5.68%
- 実施例21(40分縮合)遊離フェノール5.68%
- 実施例22(10分縮合)遊離フェノール5.70%
【0148】
表11には、これらの試料に対するSEC分析からの計算結果;Mn、MwおよびPDが含まれている。それらはかなり類似していたが、実施例20が、最も低いMn、Mwおよび多分散を有する一方で、実施例22が最も高いMn、Mwおよび多分散を有することが理解できる。最初に、これは、リグニン活性化ステップおよびフェノールメチロール化ステップを有する実施例がHPL/CPL積層品用途について最も悪い挙動を有するであろうことを示唆していると思われる。
【0149】
しかしながら、グラフの分子量分布の精密調査は、本発明およびHPL/CPL積層品用途の前記使用を実際には支持する特徴を明らかにしている。
図6は、SEC分析から得られたこれらの分子量分布、および以下の解釈および理由付けのための4つの重要な領域を図示する。
【0150】
ブロック矢印「1」は、低い分子量のフェノールホルムアルデヒド樹脂種の領域を示す。しかしながら、この領域では、実施例22(リグニン活性化およびフェノールメチロール化ステップを有する)が、最も低い分子量種が優位の非対称のピークを有する一方で、実施例20が、より高い分子量のPF種へシフトを示すより幅広く、より対称のピークを有することが理解できる。
【0151】
さらに、ブロック矢印「2」では、中間の分子量PF種を示す領域が見られる。これは、リグニンに帰属する領域上の方ではあるが、より差別化されている。それは、実施例22が実施例20より少ない中間の分子量PF種を有することを示す。したがって、フェノールホルムアルデヒド樹脂種について、実施例20は実施例21よりMwが高く、実施例22より高いと言える。
【0152】
ブロック矢印「3」は、クラフトリグニンの領域を示す。ここで、実施例22は、リグニン成分が、実施例20からのものと比較して、より高いMwへのシフトを有することを示す。これを実施例4(「液体リグニン」、「活性化リグニン60分」および「活性化リグニン120分」)からの結果と比較すると、それらは非常に似ているように見える。実施例20のリグニンは、ホルムアルデヒドと反応する時間を有しておらず、それ故に活性化されていなかった。リグニンが充填剤のみであることから、樹脂はうまく機能しない。活性化ステップによって、クラフトリグニンがメチロール化され、わずかにMwが増加する。これは、実施例21で見られ、リグニン活性化がフェノールメチロール化ステップ中でも続いて発生することから、実施例22でさらにより多く見られる。リグニンが反応性成分であることから、この樹脂ははるかによく応用がきく。
【0153】
ブロック矢印「4」は、リグニン由来の最も高いMw種の領域を示す。明らかに、ブロック矢印「3」のように、リグニン活性化は、官能化により、場合によりリグニンメチロール基と小さいPF樹脂種との反応によって、より高い分子量へのシフトを生じさせ、リグニン巨大分子上の反応性部位の集団を生じさせている。
【0154】
実施例23および24-HPLコンパクトパネル6mmの製造
前述のセクションおよび表13を参照すると、実施例23および24では、試験した6mmのコンパクトなHPL積層品について合格または不合格が明らかにあることが分かる。
【0155】
積層品をEN-438に準拠して試験した。これは数種の試験を含み、その最も要求の厳しい試験の1つが、「沸騰水への浸漬に対する耐性」である。これは、不合格が架橋および硬化の欠如、プレスでの紙の間の樹脂の流れの不良、および紙の含浸不良を示し得ることから、積層品に対するよい試験である。
【0156】
表13で見られるように、実施例23(リグニン活性化およびフェノールメチロール化ステップを有するLPF)はこの試験に良好に合格したが、実施例24(リグニン活性化またはフェノールメチロール化ステップがないLPF)は不合格であった。さらに、実施例23は、より高い温度での寸法安定性、曲げ強度、曲げ弾性率および密度などのEN-438のすべての要件を満たした。
【0157】
要約すると、リグニン活性化およびフェノールメチロール化ステップによって明確な利点が見られ、等量のフェノールおよびリグニン(すなわち50%フェノール置換)を有するリグニンフェノールホルムアルデヒド(LPF)樹脂を用いて、紙を含浸し、EN438に準拠した6mm厚さコンパクトなHPLパネルを製造できることを本発明者らは見出した。
【0158】
メチロール化によってリグニンを活性化しないことで、他のフェノール樹脂反応性種に対する反応性が不十分であり、そのような樹脂で製造されるパネルがEN-438に不合格となることは、実験から明らかである。この状況において、リグニンは、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂へのエクステンダーまたは充填剤としてより作用する。リグニンの活性水素部位がメチロール基で十分に官能化され、樹脂加熱中のより高い温度縮合反応により失われていない場合、フェノール樹脂反応性種に対する最大のリグニンの反応性が得られる。これは、ホルムアルデヒドに対するリグニン活性水素の化学量論比において、ホルムアルデヒドが過剰(すなわちリグニン活性水素:ホルムアルデヒド=1:>1)であることによってのみ達成される。十分にメチロール化されたリグニンは、その後、残りのフェノール樹脂種とより良好に反応し、最終プレスの間に積層品内に不溶融性ポリマーと形成し、これは、沸騰水試験に対する耐性によって明らかである。この過剰な化学量論比の使用によるリグニンの最適なメチロール化によって、樹脂処方内のリグニンを最大限に使用しつつ、EN-438 Normの要件を依然として満たすことも可能となる。
【0159】
上記のものを、主にメチロール化されており、低分子量であるフェノール樹脂種と組み合わせた場合、積層品製造の高温/高圧プレスプロセス(HPLまたはCPL)の間の反応性であるように、含浸中の紙/木質繊維の浸透が最大化される。