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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/062 20060101AFI20230821BHJP
   C03C 3/076 20060101ALI20230821BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C03C3/062
C03C3/076
G02B1/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020061795
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2020172428
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019076028
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】荻野 道子
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/016566(WO,A1)
【文献】特開2012-006788(JP,A)
【文献】特開2014-131948(JP,A)
【文献】特開2009-179522(JP,A)
【文献】特開2014-125408(JP,A)
【文献】特開2017-154963(JP,A)
【文献】特開2019-104671(JP,A)
【文献】特開2013-028532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO2成分 33.02~50.0%、
Nb25成分 34.48~45.0%、
TiO2成分 2.0~5.61%、
ZrO2成分 1.0~15.0%、
Rn2O成分の質量和 5.0~29.0
を含有し、
屈折率(n)が1.67以上1.90以下、アッベ数が23.0以上38.0以下であり、
屈折率(n)及びアッベ数(ν)の関係式 n<-0.0125ν+2.175を満たし、
アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の関係式 θg,F<-0.00257ν+0.6800を満たすことを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
質量比TiO2/Nb25の値が0.10~0.156の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
λ70値が420nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の光学ガラスからなるリヒートプレス用光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n-n)/(n-n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3、部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)。
【0006】
近年、光学設計におけるニーズにより、部分分散比(θg,F)の小さい光学材料として25以上40以下のアッベ数(ν)を有するガラスが用いられることが多い。
アッベ数が25~40の領域の異常分散性ガラスとしては、以下の文献が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-028532号公報
【文献】特開2017-154963号公報特許文献1のガラスは高屈折率と低い部分分散比とを両立しているものの、リヒートプレス時に失透が生じやすいという問題点があった。特許文献2のガラスは、屈折率に対するアッベ数の値が高く、光学設計上はさらに低アッベ数(高分散側)のガラスが求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にありながら、リヒートプレス成形性が良好な光学ガラスを得ることにある。
【0009】
より具体的には、屈折率(n)及びアッベ数(ν)の関係式 n<-0.0125ν+2.150を満たし、かつアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の関係式 θg,F<-0.003ν+0.6740を満たし、かつリヒートプレス成形性が良好な光学ガラスを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分、TiO成分及びNb成分を含有するガラスにおいて、TiO成分及びNb成分の含有率の関係を調整することにより、高屈折率高分散と低い部分分散比、並びに良好なリヒートプレス特性を両立し得る光学ガラスを製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)質量%で、
SiO成分 20.0~50.0%、
Nb成分 10.0~45.0%
TiO成分 2.0~20.0%、
ZrO成分 1.0~15.0%
RnO成分 5.0~30.0%
を含有し、
屈折率(n)が1.67以上1.90以下、アッベ数が23.0以上38.0以下であり、
屈折率(n)及びアッベ数(ν)の関係式 n<-0.0125ν+2.175を満たし、
アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の関係式 θg,F<-0.00257ν+0.6800を満たすことを特徴とする光学ガラス。
【0012】
(2)質量比TiO/Nbの値が0.10~1.00の範囲であることを特徴とする、(1)に記載の光学ガラス。
【0013】
(3)λ70値が420nm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0014】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の光学ガラスからなるリヒートプレス用光学ガラス。
【0015】
本発明によれば、屈折率(n)、アッベ数(ν)、及び低い部分分散比(θg,F)を有し、且つリヒートプレス成形性が良好な光学ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0017】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、安定なガラス形成を促し、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)を低減する必須成分である。
特に、SiO成分の含有量を20.0%以上にすることで、部分分散比を大幅に高めることなく、耐失透性に優れたガラスを得られる。また、失透や着色を低減できる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは20.0%以上、より好ましくは25.0%以上、さらに好ましくは30.0%以上を下限とする。
他方で、SiO成分の含有量を50.0%以下にすることで、屈折率が低下し難くなることで所望の高屈折率を得易くでき、且つ、部分分散比の上昇を抑えられる。また、これによりガラス原料の熔解性の低下を抑えられる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは50.0%以下、より好ましくは48.0%以下、最も好ましくは46.0%以下を上限とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0019】
Nb成分は、屈折率を高め、アッベ数及び部分分散比を低くできる必須成分である。
特に、Nb成分の含有量を10.0%以上にすることで、目的の光学恒数まで屈折率を高くして本発明の範囲の成分内で調整することで異常分散性を小さくすることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、さらに好ましくは15.0%以上を下限とする。
他方で、Nb成分の含有量を45.0%%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくし、ガラスの材料コストを低減できる。
さらに、ガラスの失透を低減させることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは45.0%以下、より好ましくは43.0%以下、最も好ましくは41.0%以下を上限とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0020】
TiO成分は、屈折率を高め、アッベ数を低くする任意成分である。従って、TiO成分は、好ましくは2.0%以上、最も好ましくは3.0%以上を下限とすることが好ましい。
一方で、TiO成分は、多量に含有すると部分分散比が大きくなる。また、TiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減でき、内部透過率を高められる。また、これにより部分分散比が上昇しにくくなる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは19.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下を上限とする。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0021】
本発明の光学ガラスは、所定の高屈折率高分散特性を有するだけでなく、部分分散比が所定の範囲内であるという特徴を有する。
すなわち、屈折率(n)及びアッベ数(ν)の関係式 n<-0.0125ν+2.175を満たし、且つアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の関係式 θg,F<-0.00257ν+0.6800を満たすことを要求される。本発明者は、上記特性を満たすために、TiO及びNbの質量比が所定の範囲内であることが有効であることを見出した。具体的には、質量比TiO/Nbの値が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.11以上、最も好ましくは0.12以上を下限とし、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.95以下、最も好ましくは0.90以下を上限とする。
【0022】
ZrO成分は、1.0%以上含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高め、部分分散比を低くできる任意成分である。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、最も好ましくは3.0%以上を下限としてもよい。
他方で、ZrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、失透を低減でき、且つ、より均質なガラスを得易くできる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、より好ましくは10.0%以下を上限とする。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0023】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)は、含有量の和(質量和)が、5.0%以上含有する場合に、ガラスの安定性を向上することができる必須成分である。従って、RnO成分の和は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは7.0%以上、より好ましくは10.0%以上を下限とする。
他方で、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、30.0%以下とすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。従って、好ましくは30.0%以下、より好ましくは29.0%以下、さらに好ましくは28.0%以下を上限とする。
【0024】
LiO成分は、0%超含有する場合に、部分分散比を低くできる任意成分である。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上を下限としてもよい。
他方で、LiO成分の含有量を10.0%以下にすることで、且つ過剰な含有による失透を低減でき、リヒートプレスの失透性も低減できる。
従って、LiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、最も好ましくは7.0%以下を上限とする。
LiO成分は、原料としてLiCO、LiNO等を用いることができる。
【0025】
NaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められ、着色を低減し、熱膨張係数を大きくし、且つ相対屈折率の温度係数を小さくする任意成分である。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上を下限とする。
他方で、NaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。
従って、NaO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは14.0%以下、さらに好ましくは13.0%以下を上限とする。
NaO成分は、原料としてNaCO、NaNO等を用いることができる。
【0026】
O成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められ、着色を低減する任意成分である。
他方で、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、部分分散比の上昇を抑えられ、屈折率の上昇を抑え、失透を低減できる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下を上限とする。
O成分は、原料としてKCO、KNO等を用いることができる。
【0027】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)はガラスの安定性を向上することができる任意成分である。
他方で、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、10.0%以下とすることで、部分分散比の上昇を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。従って、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0028】
MgO成分はガラスの安定性を向上することができる任意成分である。
他方で、MgO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑制しつつ、失透を低減できる。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
MgO成分は、原料としてMgO、MgCO、MgF等を用いることができる。
【0029】
CaO成分は、ガラスの安定性を向上することができる任意成分である。他方で、CaO成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比の上昇を抑えられる。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満を上限とする。
CaO成分は、原料としてCaCO、CaF等を用いることができる。
【0030】
SrO成分は、ガラスの安定性を向上することができる任意成分である。
他方で、SrO成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比の上昇を抑えられる。従って、SrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
SrO成分は、原料としてSr(NO、SrF等を用いることができる。
【0031】
BaO成分は、屈折率を高められることができる任意成分である。
他方で、BaO成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比の上昇を抑えられ、且つリヒートプレス時の失透を低減できる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
BaO成分は、原料としてBaCO、Ba(NO等を用いることができる。
【0032】
成分は、安定なガラス形成を促し、また液相温度を下げることができ、耐失透性を高められ、且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。B成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ部分分散比の上昇を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは5.0%以下を上限とする。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0033】
ZnO成分は、安価であり且つ高分散側へ調整することができる任意成分である。ZnO成分の含有量を10.0%以下にすることで、失透や着色を低減することができる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは5.0%以下を上限とする。
【0034】
La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、少なくともいずれかを含有することで、屈折率を高め、且つ部分分散比を小さくできる任意成分である。
特に、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、失透を低減でき、且つ着色を低減できる。従って、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分のそれぞれの含有量は、好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下を上限とする。
La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、原料としてLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Y、YF、Gd、GdF、Yb等を用いることができる。
【0035】
Ta成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、アッベ数及び部分分散比を下げ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。Ta成分の含有量を10.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa成分の使用量が減り、且つガラスがより低温で熔解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減できる。また、これによりTa成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。特に、ガラスの材料コストを低減させる観点では、Ta成分を含有しなくてもよい。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0036】
WO成分は、屈折率を高めてアッベ数を低くし且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比を上昇し難くでき、且つ、ガラスの着色を低減して内部透過率を高められる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0037】
成分は、ガラスの安定性を高められる任意成分である。P成分の含有量を10.0%以下にすることで、P成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、P成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0038】
GeO成分は、屈折率を高め、且つ失透を低減できる任意成分である。GeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、高価なGeO成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減できる。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0039】
Al成分及びGa成分は、屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
他方で、Al成分及びGa成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、Al成分やGa成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、Al成分及びGa成分のそれぞれの含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
Al成分及びGa成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)等を用いることができる。
【0040】
Bi成分は、屈折率を高めてアッベ数を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比を上昇し難くでき、且つ、ガラスの着色を低減して内部透過率を高めることができる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
Bi成分は、原料としてBi等を用いることができる。
【0041】
TeO成分は、屈折率を高め、部分分散比を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。TeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して内部透過率を高めることができる。また、高価なTeO成分の使用を低減することで、より材料コストの安いガラスを得られる。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0042】
SnO成分は、熔解したガラスを清澄(脱泡)でき、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。SnO成分の含有量を1.0%以下にすることで、溶融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くすることができる。また、SnO成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、溶解設備の長寿命化を図ることができる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下を上限とする。
SnO成分は、原料としてSnO、SnO、SnF、SnF等を用いることができる。
【0043】
Sb成分は、ガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。Sb成分は、ガラス全質量に対する含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下を上限とする。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSbO等を用いることができる。
【0044】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0045】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0046】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0047】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0048】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0049】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000~1400℃の温度範囲で2~5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、950~1250℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0050】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高い屈折率と所定の範囲のアッベ数を有する。
本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.67以上、より好ましくは1.69以上、さらに好ましくは1.70以上を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは1.90以下、より好ましくは1.85以下、より好ましくは1.83以下を上限とする。
【0051】
本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは23.0以上、より好ましくは25.0以上、さらに好ましくは27.0以上を下限とする。他方で、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは38.0以下、より好ましくは35.0以下、さらに好ましくは33.0以下を上限とする。
【0052】
このような屈折率及びアッベ数を有する本発明の光学ガラスは光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
【0053】
ここで、本発明の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、n<-0.0125ν+2.175の関係を満たすことが好ましい。本発明で特定される組成のガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)がこの関係を満たすものであっても、安定なガラスを得られる。
従って、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、n<-0.0125ν+2.175の関係を満たすことが好ましく、n<-0.0125ν+2.160の関係を満たすことがより好ましく、n<-0.0125ν+2.150の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0054】
本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。
より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、θg,F<-0.00257ν+0.6800の関係を満たすことが好ましい。
従って、本発明の光学ガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(ν)が、θg,F<-0.00257ν+0.6800の関係を満たすことが好ましく、θg,F<-0.00257ν+0.6790の関係を満たすことがより好ましく、θg,F<-0.00257ν+0.6780の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0055】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く
、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分
光透過率70%を示す波長(λ70)は、好ましくは420nm以下、より好ましくは410以下nm、さらに好ましくは405nm以下を上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0056】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製できる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりできる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0057】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例
【0058】
本発明の実施例(No.1~No.12)及び比較例Aの組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、透過率λ70の結果を表1~表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0059】
実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石製坩堝(ガラスの溶融性によっては白金坩堝、アルミナ坩堝を用いても構わない)に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100~1400℃の温度範囲で0.5~5時間熔解した後、白金坩堝に移して攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000~1200℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0060】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(n)アッベ数(νd)、JISB 7071-2:2018に従って測定した。また部分分散比(θg,F)はCライン(波長 656.27nm)における屈折率(nC)、Fライン(波長 486.13nm)における屈折率(nF)、gライン(波長 435.835nm)における屈折率(ng)を測定し、θg,F=(ng-nF)/(nF-nC)による式にて算出した。
また、透過率(λ70)はJOJIS02-2003に従って測定した。

【0061】
【表1】
【0062】
【表2】


【0063】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.67以上であるとともに、1.90以下であり所望の範囲内であった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が25以上であるとともに33以下であり所望の範囲内であった。
【0064】
これらの表のとおり、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)の関係式 n<-0.0125ν+2.175を満たし、かつ、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の関係式 θg,F<-0.00257ν+0.6800を満たしていた。
【0065】
表に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれも70%透過率波長(λ70)が420nm以下であった。
【0066】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、ガラスブロックを形成し、このガラスブロックに対してリヒートプレスを行ったところ、プレス時の失透は起こらなかった。
【0067】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。