(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】蓄電池制御装置、蓄電池制御方法及び蓄電池制御システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20230821BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 180
(21)【出願番号】P 2020089872
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】西村 康孝
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】前島 治
【審査官】宮田 繁仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026508(WO,A1)
【文献】特開2020-058101(JP,A)
【文献】特開2019-160077(JP,A)
【文献】特開2020-005399(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004053(WO,A1)
【文献】特開2018-129939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02J 3/00-5/00、13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末において
前記世帯が設定
した、前記小売電気事業者による前記世帯が保有する蓄電池の制御を
許可するか否かを示す条件情報を取得する条件情報取得部と、
前記情報端末において
前記世帯が設定した前記蓄電池の利用に係るポリシに基づいて算出された、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を取得する第1充放電量取得部と、
前記世帯にお
いて余ると予測された電力量である余剰電力量又は
前記世帯において不足すると予測された電力量である必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する第2充放電量算出部と、
前記条件情報
が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可しないことを示すことを条件として前記第1充放電量
を選択し、前記条件情報が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可することを示すことを条件として前記第2充放電量
を選択する選択部と、
前記選択部によって選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させる蓄電池制御部と、
を有する、蓄電池制御装置。
【請求項2】
小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末において前記世帯が設定した、前記小売電気事業者による前記世帯が保有する蓄電池の制御を許可するための前記蓄電池の残量の変動条件を示す条件情報を取得する条件情報取得部と、
前記情報端末において前記世帯が設定した前記蓄電池の利用に係るポリシに基づいて算出された、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を取得する第1充放電量取得部と、
前記世帯において余ると予測された電力量である余剰電力量又は前記世帯において不足すると予測された電力量である必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する第2充放電量算出部と、
前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たさないことを条件として前記第1充放電量を選択し、前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たすことを条件として前記第2充放電量を選択する選択部と、
前記選択部によって選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させる蓄電池制御部と、
を有する、蓄電池制御装置。
【請求項3】
前記選択部が前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらを選択した場合であっても、前記第1充放電量に対応する金額を前記世帯の収益として出力する収益出力部をさらに有する、
請求項1
又は2に記載の蓄電池制御装置。
【請求項4】
前記第2充放電量算出部は、前記余剰電力量が0より大きい場合に、前記蓄電池を充電させるための前記第2充放電量を算出する、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の蓄電池制御装置。
【請求項5】
前記第2充放電量算出部は、前記余剰電力量が0であって、かつ前記必要電力量が0より大きい場合に、前記蓄電池を放電させるための前記第2充放電量を算出する、
請求項
4に記載の蓄電池制御装置。
【請求項6】
前記第2充放電量算出部は、複数の前記世帯における前記余剰電力量及び前記必要電力量の計画値から実績値
の予測値を減算した値であるインバランス量
の予測値が0より大きい場合に、前記蓄電池を充電させるための前記第2充放電量を算出する、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の蓄電池制御装置。
【請求項7】
前記第2充放電量算出部は、前記インバランス量
の予測値が0より小さい場合に、前記蓄電池を放電させるための前記第2充放電量を算出する、
請求項
6に記載の蓄電池制御装置。
【請求項8】
コンピュータが実行する、
小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末において
前記世帯が設定
した、前記小売電気事業者による前記世帯が保有する蓄電池の制御を
許可するか否かを示す条件情報を取得するステップと、
前記情報端末において
前記世帯が設定した前記蓄電池の利用に係るポリシに基づいて算出された、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を取得するステップと、
前記世帯にお
いて余ると予測された電力量である余剰電力量又は
前記世帯において不足すると予測された電力量である必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出するステップと、
前記条件情報
が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可しないことを示すことを条件として前記第1充放電量
を選択し、前記条件情報が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可することを示すことを条件として前記第2充放電量
を選択するステップと、
前記選択するステップにおいて選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させるステップと、
を有する、蓄電池制御方法。
【請求項9】
コンピュータが実行する、
小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末において前記世帯が設定した、前記小売電気事業者による前記世帯が保有する蓄電池の制御を許可するための前記蓄電池の残量の変動条件を示す条件情報を取得するステップと、
前記情報端末において前記世帯が設定した前記蓄電池の利用に係るポリシに基づいて算出された、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を取得するステップと、
前記世帯において余ると予測された電力量である余剰電力量又は前記世帯において不足すると予測された電力量である必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出するステップと、
前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たさないことを条件として前記第1充放電量を選択し、前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たすことを条件として前記第2充放電量を選択するステップと、
前記選択するステップにおいて選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させるステップと、
を有する、蓄電池制御方法。
【請求項10】
小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末と、前記世帯が保有する蓄電池を制御するための蓄電池制御装置と、を含み、
前記情報端末は、
前記世帯から、前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を
許可するか否かを示す条件情報の入力を受け付ける入力受付部と、
前記世帯が設定した前記蓄電池の利用に係るポリシに基づいて前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を算出する第1充放電量算出部と、
前記第1充放電量及び前記条件情報を前記蓄電池制御装置に送信する送信部と、
を有し、
前記蓄電池制御装置は、
前記情報端末から前記条件情報を取得する条件情報取得部と、
前記情報端末から前記第1充放電量を取得する第1充放電量取得部と、
前記世帯にお
いて余ると予測された電力量である余剰電力量又は
前記世帯において不足すると予測された電力量である必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する第2充放電量算出部と、
前記条件情報
が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可しないことを示すことを条件として前記第1充放電量
を選択し、前記条件情報が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可することを示すことを条件として前記第2充放電量
を選択する選択部と、
前記選択部によって選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させる蓄電池制御部と、
を有する、蓄電池制御システム。
【請求項11】
小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末と、前記世帯が保有する蓄電池を制御するための蓄電池制御装置と、を含み、
前記情報端末は、
前記世帯から、前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可するための前記蓄電池の残量の変動条件を示す条件情報の入力を受け付ける入力受付部と、
前記世帯が設定した前記蓄電池の利用に係るポリシに基づいて前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を算出する第1充放電量算出部と、
前記第1充放電量及び前記条件情報を前記蓄電池制御装置に送信する送信部と、
を有し、
前記蓄電池制御装置は、
前記情報端末から前記条件情報を取得する条件情報取得部と、
前記情報端末から前記第1充放電量を取得する第1充放電量取得部と、
前記世帯において余ると予測された電力量である余剰電力量又は前記世帯において不足すると予測された電力量である必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する第2充放電量算出部と、
前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たさないことを条件として前記第1充放電量を選択し、前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たすことを条件として前記第2充放電量を選択する選択部と、
前記選択部によって選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させる蓄電池制御部と、
を有する、蓄電池制御システム。
【請求項12】
前記第1充放電量算出部は、前記世帯における電力の宅内消費量と、前記世帯が保有する太陽光発電設備の発電量と、世帯間で行われた電力売買の約定量とに基づいて、前記第1充放電量を算出する、
請求項10
又は11に記載の蓄電池制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の充電及び放電を制御するための蓄電池制御装置、蓄電池制御方法及び蓄電池制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
小売電気事業者が複数の世帯(需要家ともいう)に設置された蓄電池を集中的に制御するVPP(Virtual Power Plant)と呼ばれるサービスが知られている(特許文献1)。小売電気事業者は、例えば、市場価格の安い時間帯に各世帯の蓄電池を充電させるように制御するとともに、市場価格の高い時間に各世帯の蓄電池を放電させるように制御することによって、電力調達コストを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の世帯は、それぞれ電力融通市場を通じて電力を売買して利益を高めることや、非常用に蓄電池に積極的に充電すること等、蓄電池の制御に関して重視する点が異なる。しかしながら、世帯は、VPPを利用して小売電気事業者による蓄電池の制御を受けると、世帯自身の希望に応じて蓄電池を制御することができなくなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、小売電気事業者が世帯の希望を反映しながら世帯に設置された蓄電池を制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の蓄電池制御装置は、小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末において設定された、前記小売電気事業者による前記世帯が保有する蓄電池の制御を受ける条件を示す条件情報を取得する条件情報取得部と、前記情報端末において決定された、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を取得する第1充放電量取得部と、前記世帯における余剰電力量又は必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する第2充放電量算出部と、前記条件情報に基づいて、前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方を選択する選択部と、前記選択部によって選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させる蓄電池制御部と、を有する。
【0007】
前記蓄電池制御装置は、前記選択部が前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらを選択した場合であっても、前記第1充放電量に対応する金額を前記世帯の収益として出力する収益出力部をさらに有してもよい。
【0008】
前記条件情報取得部は、前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可するか否かを示す前記条件情報を取得し、前記選択部は、前記条件情報が前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可することを示すことを条件として、前記第2充放電量を選択してもよい。
【0009】
前記条件情報取得部は、前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を許可するための前記蓄電池の残量の変動条件を示す前記条件情報を取得し、前記選択部は、前記第2充放電量が適用された場合の前記蓄電池の残量が前記変動条件を満たすことを条件として、前記第2充放電量を選択してもよい。
【0010】
前記第2充放電量算出部は、前記余剰電力量が0より大きい場合に、前記蓄電池を充電させるための前記第2充放電量を算出してもよい。
【0011】
前記第2充放電量算出部は、前記余剰電力量が0であって、かつ前記必要電力量が0より大きい場合に、前記蓄電池を放電させるための前記第2充放電量を算出してもよい。
【0012】
前記第2充放電量算出部は、複数の前記世帯における前記余剰電力量及び前記必要電力量の計画値から実績値を減算した値であるインバランス量が0より大きい場合に、前記蓄電池を充電させるための前記第2充放電量を算出してもよい。
【0013】
前記第2充放電量算出部は、前記インバランス量が0より小さい場合に、前記蓄電池を放電させるための前記第2充放電量を算出してもよい。
【0014】
本発明の第2の態様の蓄電池制御方法は、コンピュータが実行する、小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末において設定された、前記小売電気事業者による前記世帯が保有する蓄電池の制御を受ける条件を示す条件情報を取得するステップと、前記情報端末において決定された、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を取得するステップと、前記世帯における余剰電力量又は必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出するステップと、前記条件情報に基づいて、前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方を選択するステップと、前記選択するステップにおいて選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させるステップと、を有する。
【0015】
本発明の第3の態様の蓄電池制御システムは、小売電気事業者が管理する世帯が利用する情報端末と、前記世帯が保有する蓄電池を制御するための蓄電池制御装置と、を含み、前記情報端末は、前記小売電気事業者による前記蓄電池の制御を受ける条件を示す条件情報の入力を受け付ける入力受付部と、前記蓄電池を充電又は放電させるための第1充放電量を算出する第1充放電量算出部と、前記第1充放電量及び前記条件情報を前記蓄電池制御装置に送信する送信部と、を有し、前記蓄電池制御装置は、前記情報端末から前記条件情報を取得する条件情報取得部と、前記情報端末から前記第1充放電量を取得する第1充放電量取得部と、前記世帯における余剰電力量又は必要電力量と、前記蓄電池の充電状態とに基づいて、前記蓄電池を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する第2充放電量算出部と、前記条件情報に基づいて、前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方を選択する選択部と、前記選択部によって選択された前記第1充放電量又は前記第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を前記蓄電池に充電又は放電させる蓄電池制御部と、を有する。
【0016】
前記第1充放電量算出部は、前記世帯における電力の宅内消費量と、前記世帯が保有する太陽光発電設備の発電量と、世帯間で行われた電力売買の約定量とに基づいて、前記第1充放電量を算出してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小売電気事業者が世帯の希望を反映しながら世帯に設置された蓄電池を制御できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】蓄電池制御システムの概要について説明するための図である。
【
図3】蓄電池制御システムが電力売買を支援する方法を説明するための模式図である。
【
図4】蓄電池制御システムが蓄電池の充電又は放電を制御する方法を説明するための模式図である。
【
図5】蓄電池制御装置による蓄電池の例示的な制御内容の表を示す図である。
【
図6】蓄電池制御装置が実行する蓄電池制御方法のフローチャートを示す図である。
【
図7】蓄電池制御装置が実行する蓄電池制御方法が含む蓄電池制御決定処理のフローチャートを示す図である。
【
図8】変形例に係る蓄電池制御装置が実行する蓄電池制御方法が含む蓄電池制御決定処理のフローチャートを示す図である。
【
図9】変形例に係る蓄電池制御装置による蓄電池の例示的な制御内容の表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[蓄電池制御システムSの概要]
図1は、本実施形態に係る蓄電池制御システムSの概要について説明するための図である。蓄電池制御システムSは、蓄電池3を制御する蓄電池制御装置1と、各世帯に設置されている情報端末2と、各世帯に設置されている蓄電池3とを含む。
【0020】
図1には、電力の買い手としての買電世帯、電力の売り手としての売電世帯、小売電気事業者、及び送配電事業者が示されている。小売電気事業者は、世帯間で電力を売買する市場(電力融通市場)を管理する事業者であり、電力売買の約定結果に従って各世帯へ電力を供給するとともに、各世帯から電力を調達する。また、小売電気事業者は、発電設備を有する発電事業者であってもよい。買電世帯と売電世帯との間の電力融通だけでは、時間帯や天気等によって、電力が不足したり、電力が余ったりする。そのため、小売電気事業者は、送配電事業者を介して外部(例えば、電力取引所)から不足した電力を調達し、送配電事業者を介して外部に余った電力を供給する。
【0021】
買電世帯及び売電世帯は、それぞれ小売電気事業者の顧客であるユーザ(需要家)である。売電世帯は、電力融通市場を介して売電し、買電世帯は、電力融通市場を介して買電する。なお、買電世帯及び売電世帯は各世帯が買電及び売電のどちらを行うかを区別するための呼称であり、各世帯は買い手及び売り手のどちらにもなり得る。各世帯は、一日の中の時間帯によって、買電世帯と売電世帯との間で切り替わり得る。また、蓄電池制御システムSは、蓄電池3を保有しているが電力融通市場に参加しない世帯を含んでもよい。
【0022】
蓄電池制御装置1は、例えば小売電気事業者により管理されるコンピュータである。蓄電池制御装置1は、情報端末2において設定された制御条件と、各世帯に設置された蓄電池3に関する情報とに基づいて、蓄電池3の充電及び放電を制御するための蓄電池制御情報を送信する。また、蓄電池制御装置1は、買電世帯及び売電世帯による入札に基づいて、電力の売買を約定させる。
【0023】
情報端末2は、ユーザが利用するコンピュータである。情報端末2は、電力売買及び蓄電池3の制御に関する情報の入力を受け付けるキーボード等の操作部と、電力売買及び蓄電池3の制御に関する情報を表示する液晶ディスプレイ等の表示部と有する。蓄電池3は、太陽光発電(以下、PVという)によって発電された電力、又は買電によって供給された電力を蓄電する。また、蓄電池3は、各世帯において自家消費される電力、又は売電される電力を放電する。
【0024】
[蓄電池制御システムSの構成]
図2は、蓄電池制御システムSの構成を示す図である。
図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図2に示したもの以外のデータの流れがあってよい。
図2において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、
図2に示すブロックは単一の装置内に実装されてよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
【0025】
蓄電池制御装置1は、通信部11と、記憶部12と、制御部13とを有する。情報端末2は、通信部21と、記憶部22と、制御部23とを有する。蓄電池制御装置1及び情報端末2は、
図2に示す具体的な構成に限定されない。蓄電池制御装置1及び情報端末2は、それぞれ2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されてもよい。
【0026】
通信部11、21は、ネットワークを介してデータを送受信するための通信インターフェースであり、例えばLAN(Local Area Network)コントローラを有する。通信部11、21は、外部から情報を受信し、受信した情報を制御部13に通知する。また、通信部11、21は、制御部13、23が出力した情報を、外部に送信する。
【0027】
記憶部12、22は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスクドライブ等の記憶媒体である。記憶部12、22は、制御部13、23が実行するプログラムを記憶している。
【0028】
蓄電池制御装置1の制御部13は、約定部131と、条件情報取得部132と、第1充放電量取得部133と、第2充放電量算出部134と、選択部135と、蓄電池制御部136と、収益出力部137とを有する。制御部13は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することにより、約定部131、条件情報取得部132、第1充放電量取得部133、第2充放電量算出部134、選択部135、蓄電池制御部136及び収益出力部137として機能する。
【0029】
約定部131は、複数の情報端末2から電力売買の入札価格及び入札量を取得し、世帯間の電力の売買を約定させ、約定結果を情報端末2に送信する。条件情報取得部132は、情報端末2において設定された、小売電気事業者による蓄電池3の制御を受ける制御条件を示す条件情報を取得する。制御条件は、例えば、小売電気事業者による制御を許可するか否かの設定、又は小売電気事業者による制御を許可するための変動条件を示す。
【0030】
第1充放電量取得部133は、情報端末2において決定された、蓄電池3を充電又は放電させるための第1充放電量を取得する。第2充放電量算出部134は、世帯におけるPVの発電量と、世帯における電力の宅内消費量と、蓄電池3の充電状態(例えば、蓄電池3の容量、残量及び空き容量)とに基づいて、蓄電池3を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する。
【0031】
選択部135は、条件情報に基づいて、第1充放電量又は第2充放電量のうちどちらか一方を選択する。すなわち、選択部135は、ユーザが予め設定した制御条件に従って、情報端末2で決定された第1充放電量、又は蓄電池制御装置1が決定した第2充放電量のうちどちらか一方を選択する。蓄電池制御部136は、選択部135によって選択された第1充放電量又は第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を蓄電池3に充電又は放電させるための蓄電池制御情報を、蓄電池3に送信する。収益出力部137は、小売電気事業者及び各世帯の収益を示す収益情報を出力する。
【0032】
情報端末2の制御部23は、入力受付部231と、入札部232と、第1充放電量算出部233と、送信部234とを有する。制御部23は、例えばCPU等のプロセッサであり、記憶部22に記憶されたプログラムを実行することにより、入力受付部231、入札部232、第1充放電量算出部233及び送信部234として機能する。
【0033】
入力受付部231は、電力売買の入札に関する入札条件の入力と、小売電気事業者による蓄電池3の制御を受ける制御条件示す条件情報の入力とを受け付ける。入札部232は、入札条件に従って決定した入札価格及び入札量を蓄電池制御装置1に送信し、約定結果を蓄電池制御装置1から受信する。
【0034】
第1充放電量算出部233は、世帯における電力の宅内消費量、PVの発電量、及び電力売買の約定量に基づいて、蓄電池3を充電又は放電させるための第1充放電量を算出する。送信部234は、入力受付部231が受け付けた条件情報と、第1充放電量算出部233が算出した第1充放電量等を含む蓄電池情報を蓄電池制御装置1に送信する。
【0035】
[蓄電池制御システムSが実行する処理の詳細]
以下、蓄電池制御システムSが実行する処理について詳細に説明する。まず各世帯の情報端末2は、蓄電池3の充放電量を決定する前に、電力融通市場を介して電力売買のための処理を実行する。電力融通市場に参加していない世帯の情報端末2は、電力売買の処理を行わない。
【0036】
図3は、蓄電池制御システムSが電力売買を支援する方法を説明するための模式図である。一般的に、買い手が必要とする電力量と、売り手が売りたい電力量は一致しない。したがって、多くのケースでは電力の需要と供給が一致しないため、蓄電池制御システムSは、買い手と売り手とをマッチングする。なお、本明細書においては、買い手が希望する買電価格を希望買電価格といい、売り手が希望する売電価格を希望売電価格という。買い手が希望する買電の電力量を希望買電量といい、売り手が希望する売電の電力量を希望売電量という。以下では、希望買電価格及び希望売電価格を総称して入札価格といい、希望買電量及び希望売電量を総称して入札量という。
【0037】
情報端末2において、入力受付部231は、蓄電池3の利用に関する蓄電池利用ポリシの設定をユーザから受け付ける。蓄電池利用ポリシは、例えば、「利益重視」、「バックアップ重視」等である。
【0038】
入札部232は、世帯における過去の発電量及び宅内消費量の履歴や、当日の天気予報に基づいて、世帯が保有するPVの発電量及び世帯における宅内消費量を予測する。入札部232は、PVの発電量及び宅内消費量を予測するために、既知の方法を用いてよい。
【0039】
入札部232は、予測した発電量及び宅内消費量と、入力受付部231が受け付けた蓄電池利用ポリシとに基づいて、入札価格及び入札量を決定する。入札部232は、例えば、蓄電池利用ポリシが「利益重視」の場合に余剰電力を売電し、「バックアップ重視」の場合に余剰電力を蓄電池3に充電するように、入札価格及び入札量を決定する。入札部232は、入札価格及び入札量を決定するために、既知の方法を用いてよい。また、入札部232は、入力受付部231がユーザから受け付けた入札価格及び入札量の値を用いてもよい。
【0040】
そして入札部232は、決定した入札価格及び入札量を示す入札情報を、蓄電池制御装置1に送信する。なお、入札部232は、例えば、30分を1コマとした1日48コマについてそれぞれ当該コマよりも前の時刻に入札を行う。
【0041】
多数の買い手と多数の売り手が存在する場合、希望売電価格と、当該希望売電価格よりも高い希望買電価格との組合せが存在し得る。このような場合、蓄電池制御システムSは、希望売電価格よりも高い価格を売り手に対する約定価格(以下、売電約定価格という)として決定し、希望買電価格よりも低い価格を買い手に対する約定価格(以下、買電約定価格という)として決定することで、売り手及び買い手に経済的利益を提供することができる。本明細書においては、売電約定価格及び買電約定価格を総称して約定価格という。
【0042】
蓄電池制御装置1において、約定部131は、複数の情報端末2から入札価格及び入札量を示す入札情報を取得する。約定部131は、取得した入札価格及び入札量に基づいて、複数の買い手及び複数の売り手に対する約定価格及び約定量を決定し、決定した約定価格及び約定量を示す約定情報を、記憶部12に記憶させるとともに、複数の情報端末2に送信する。約定部131は、入札価格及び入札量に基づいて約定価格及び約定量を決定するために、既知の方法を用いてよい。
【0043】
次に蓄電池制御装置1は、情報端末2において設定された制御条件と、各世帯に設置された蓄電池3に関する情報とに基づいて、各世帯の蓄電池3の充電又は放電を制御する。
図4は、蓄電池制御システムSが蓄電池3の充電又は放電を制御する方法を説明するための模式図である。
【0044】
情報端末2において、入力受付部231は、小売電気事業者による蓄電池3の制御を受ける制御条件を示す条件情報の設定を受け付ける。制御条件は、例えば、小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可するか否かを示す。また、制御条件は、小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可するための蓄電池3の残量の変動条件(例えば、残量が増加すること又は減少すること)を示してもよい。送信部234は、入力受付部231が受け付けた制御条件を示す条件情報を、蓄電池制御装置1に送信する。
【0045】
第1充放電量算出部233は、蓄電池3を充電又は放電させるための第1充放電量を算出する。第1充放電量算出部233は、例えば入札部232が予測した発電量及び宅内消費量と、蓄電池制御装置1から受信した約定情報が示す電力売買の約定量とに基づいて、第1充放電量を算出する。第1充放電量は、例えば、発電量から宅内消費量及び約定量(売電量を正、買電量を負とする)を減算した値である。第1充放電量は、充電の場合に正の値をとり、放電の場合に負の値をとるように定義される。
【0046】
第1充放電量は、情報端末2において設定された蓄電池利用ポリシが反映された値である。一方、後述のように、蓄電池制御装置1が第1充放電量とは異なる第2充放電量を用いて蓄電池3を制御する場合がある。したがって、第1充放電量は、蓄電池3の実状態を必ずしも表しておらず、蓄電池3の仮想状態を表している。第1充放電量算出部233は、蓄電池3が第1充放電量(仮想充放電量ともいう)で充電又は放電されたものとして算出した蓄電池3の残量を、第1残量(仮想残量ともいう)として管理する。
【0047】
送信部234は、第1充放電量算出部233が算出した第1充放電量及び第1残量と、世帯における電力の宅内消費量と、世帯が保有するPVの発電量と、蓄電池3の充電状態(例えば、蓄電池3の容量、残量及び空き容量)とを含む蓄電池情報を、蓄電池制御装置1に送信する。
【0048】
蓄電池制御装置1において、条件情報取得部132は、情報端末2から、情報端末2において設定された制御条件を示す条件情報を取得する。第1充放電量取得部133は、情報端末2から、情報端末2において決定された第1充放電量(仮想充放電量)、第1残量(仮想残量)、PVの発電量、蓄電池3の充電状態を含む蓄電池情報を取得する。第1充放電量取得部133は、発電量から宅内消費量を減算した値を余剰電力量として算出し、宅内消費量から発電量を減算して第1充放電量を加算した値を必要電力量として算出する。
【0049】
第2充放電量算出部134は、世帯における余剰電力量又は必要電力量と、蓄電池3の充電状態とに基づいて、蓄電池3を充電又は放電させるための第2充放電量を算出する。すなわち、第2充放電量算出部134は、情報端末2において設定された蓄電池利用ポリシを用いずに第2充放電量を算出する。第2充放電量は、充電の場合に正の値をとり、放電の場合に負の値をとるように定義される。
【0050】
第2充放電量算出部134が、コマi、世帯jにおける第1充放電量VCE(i,j)に対応する第2充放電量CE(i,j)を算出する方法を以下に説明する。第2充放電量算出部134は、余剰電力量が0より大きい場合に、以下の式(1)を用いて第2充放電量CE(i,j)を算出する。この場合に、第2充放電量CE(i,j)は、正の値をとるため、蓄電池に充電させることを表す。定格出力は、単位時間(ここでは1コマ30分)あたりに蓄電池3が充電又は放電可能な電力の量である。
CE(i,j)=min(余剰電力量,定格出力,空き容量) (1)
【0051】
第2充放電量算出部134は、余剰電力量が0以下であり、かつ必要電力量が0より大きく、かつ蓄電池3の残量が0より大きい場合に、以下の式(2)を用いて第2充放電量CE(i,j)を算出する。この場合に、第2充放電量CE(i,j)は、負の値をとるため、蓄電池に充電させることを表す。
CE(i,j)=(-1)×min(余剰電力量,定格出力,残量) (2)
【0052】
第2充放電量算出部134は、以上の条件を満たさない場合に、以下の式(3)を用いて第2充放電量CE(i,j)を算出する。この場合に、第2充放電量CE(i,j)は、第1充放電量VCE(i,j)に一致する。
CE(i,j)=VCE(i,j) (3)
【0053】
選択部135は、条件情報取得部132が取得した条件情報に基づいて、第1充放電量取得部133が取得した第1充放電量と、第2充放電量算出部134が算出した第2充放電量とのうちどちらか一方を選択する。選択部135は、例えば、条件情報が小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可することを示すことを条件として、第2充放電量を選択し、条件情報が小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可しないことを示すことを条件として、第1充放電量を選択する。
【0054】
また、選択部135は、例えば、条件情報が小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可するための蓄電池3の残量の変動条件(すなわち、残量が増加すること又は減少すること)を示す場合に、第2充放電量が適用された場合の蓄電池3の残量が当該変動条件を満たすことを条件として、第2充放電量を選択し、第2充放電量が適用された場合の蓄電池3の残量が当該変動条件を満たさないことを条件として、第1充放電量を選択する。
【0055】
蓄電池制御部136は、選択部135によって選択された第1充放電量又は第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を蓄電池3に充電又は放電させるための蓄電池制御情報を、蓄電池3に送信する。蓄電池制御部136は、例えば、蓄電池制御情報を情報端末2に送信し、情報端末2は、蓄電池制御情報に従って蓄電池3を制御する。また、蓄電池制御部136は、蓄電池制御情報を蓄電池3に直接送信することによって蓄電池3を制御してもよい。
【0056】
このように、蓄電池制御装置1は、情報端末2において世帯が設定した制御条件に従って、情報端末2が決定した第1充放電量と、蓄電池制御装置1が決定した第2充放電量とのどちらか一方に対応する量の電力を蓄電池3に充電又は放電させる。これにより、蓄電池制御装置1は、世帯に設置された蓄電池を制御する際に、世帯の希望を反映することができる。
【0057】
収益出力部137は、小売電気事業者及び各世帯の電力の取引を集計し、小売電気事業者及び各世帯の収益を示す収益情報を出力する。収益出力部137は、例えば、収益情報を、記憶部12に記憶させるとともに、収益情報に基づいて各世帯に対する料金の徴収又は支払いをする入出金システムに送信する。
【0058】
ここで収益出力部137は、選択部135が第1充放電量又は第2充放電量のうちどちらを選択した場合であっても、第1充放電量に対応する金額(すなわち、蓄電池3の仮想状態に対応する金額)を世帯の収益として出力する。これにより、蓄電池制御装置1は、蓄電池3の実際の制御内容によらず、世帯が設定した蓄電池利用ポリシに基づいた収益を世帯に提供することによって、世帯が世帯自身の希望に沿って蓄電池3を制御している感覚を提供することができる。
【0059】
[蓄電池制御の具体例]
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、蓄電池制御装置1による蓄電池3の例示的な制御内容の表を示す図である。
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、コマ18(9:00~9:30)からコマ20(10:00~10:30)の状況を表している。
【0060】
図5(a)は、蓄電池制御装置1が蓄電池3の制御内容を決定する前の状態を表している。
図5(a)は、約定部131が決定した約定価格、第1充放電量取得部133が取得した蓄電池情報が含む第1充放電量(仮想充放電量)、第1残量(仮想残量)、PVの発電量、宅内消費量、蓄電池3の残量、及び発電量から宅内消費量を減算した余剰電力量を表している。
【0061】
コマ18において、余剰電力量2kWhが0より大きいため、第2充放電量算出部134は、上述の式(1)を用いて第2充放電量を算出する。蓄電池3の定格出力を一般的な2kW/30分とし、蓄電池の容量を一般的な7kWhとすると、第2充放電量CE=min(2,2,7-3)=2kWhと算出する。
【0062】
ここでは情報端末2において小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可することを示す制御条件が設定されているため、選択部135は、第2充放電量である2kWhを実状態の充放電量として選択する。なお、情報端末2において小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可しないことを示す制御条件が設定されている場合には、選択部135は、第1充放電量である0kWhを実状態の充放電量として選択する。
【0063】
コマ19において、余剰電力量が0kWhであり、かつ必要電力量2kWhが0kWhより大きく、かつ蓄電池3の残量5kWhが0kWhより大きいため、第2充放電量算出部134は、上述の式(2)を用いて第2充放電量を算出する。蓄電池3の定格出力を一般的な2kW/30分とし、蓄電池の容量を一般的な7kWhとすると、第2充放電量CE=(-1)×min(2,2,7-5)=-2kWhと算出する。
【0064】
ここでは情報端末2において小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可することを示す制御条件が設定されているため、選択部135は、第2充放電量である-2kWhを実状態の充放電量として選択する。なお、情報端末2において小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可しないことを示す制御条件が設定されている場合には、選択部135は、第1充放電量である0kWhを実状態の充放電量として選択する。
【0065】
図5(b)は、コマ18及びコマ19について蓄電池制御装置1が蓄電池3の制御内容を決定した後の状態を表している。コマ20については、コマ19について決定された蓄電池3の制御内容が適用された場合の蓄電池3の第1残量(仮想残量)のみが表されている。このように、情報端末2が決定した蓄電池3の仮想状態と、蓄電池制御装置1が決定した蓄電池3の実状態とは必ずしも一致しない状態となる。
【0066】
図5(c)は、世帯が設定した蓄電池利用制御ポリシによる蓄電池3の制御をする場合と、小売電気事業者による蓄電池3の制御をする場合における、小売電気事業者と外部(送配電事業者)との収支を表している。
図5(c)は、それぞれの場合における、電力系統から小売電気事業者が管理する世帯に流れる合計電力量(順潮流量)と、世帯から電力系統に流れる合計電力量(逆潮流量)とを表している。
【0067】
世帯が設定した蓄電池利用ポリシによる蓄電池制御の場合、コマ18においては、世帯から他の世帯へ電力融通により2kWhの売電をしている。このような場合には、世帯から電力系統へ逆潮流が行われるため、逆潮流量は2kWhとなる。コマ19においては、世帯の必要電力量が順潮流するため、順潮流量が2kWhとなる。
【0068】
一方、小売電気事業者による蓄電池制御の場合、世帯の蓄電池3が充放電するように制御されるため、順潮流量及び逆潮流量はそれぞれ減少する。コマ18においては、余剰電力量が蓄電池3に充電され、世帯から電力系統へ逆潮流が行われなくなるため、逆潮流量は0Whとなる。コマ19においては、蓄電池3が放電することによって世帯の必要電力量が賄われるため、順潮流量が0kWhとなる。
【0069】
小売電気事業者が外部(送配電事業者)から電力を調達する際には、小売電気事業者は送配電事業者へ託送料を支払う必要がある。託送料は、順潮流量と託送単価(例えば、8円/kWh)の積である。コマ18及びコマ19において、世帯の蓄電池利用ポリシによる制御の場合に託送料は2kWh×8円/kWh=16円となるのに対して、小売電気事業者による蓄電池制御の場合に託送料は0kWh×8円/kWh=0円となり、託送料を16円低減できる。このように、蓄電池制御装置1は、託送料を低減するように蓄電池3を制御することによって、小売電気事業者の利益を向上させることができる。
【0070】
電力売買による世帯の収支については、収益出力部137は、蓄電池利用ポリシによる蓄電池制御の場合と小売電気事業者による蓄電池制御の場合のどちらであっても、すなわち選択部135が第1充放電量又は第2充放電量のうちどちらを選択した場合であっても、蓄電池利用ポリシによる蓄電池制御の場合の金額、すなわち第1充放電量に対応する金額を世帯の収益として出力する。これにより、蓄電池制御装置1は、世帯に対して世帯自身の蓄電池利用ポリシに基づいて蓄電池3を制御した場合に得られる収益を提供できる。
【0071】
また、電力融通では電力売買による利益以外に、太陽光発電の再生可能エネルギーの価値や、売買相手可視化の価値がある。収益出力部137は、世帯の蓄電池利用ポリシによる蓄電池制御の場合の電力融通の約定結果から、電力売買による利益と同様に、再生可能エネルギーである電力の売買量や売買相手を世帯に提示することによって、追加の価値の世帯への提供できるようにしてもよい。
【0072】
[蓄電池制御方法の説明]
図6は、蓄電池制御装置1が実行する蓄電池制御方法のフローチャートを示す図である。
図6は、情報端末2において第1充放電量が決定された後に開始される。蓄電池制御装置1において、条件情報取得部132は、情報端末2から、情報端末2において設定された制御条件を示す条件情報を取得する(S11)。
【0073】
第1充放電量取得部133は、情報端末2から、情報端末2において決定された第1充放電量(仮想充放電量)、第1残量(仮想残量)、PVの発電量、蓄電池3の充電状態(例えば、蓄電池3の容量、残量及び空き容量)を含む蓄電池情報を取得する(S12)。第1充放電量取得部133は、発電量から宅内消費量を減算した値を余剰電力量として算出し、宅内消費量から発電量を減算して第1充放電量を加算した値を必要電力量として算出する。
【0074】
蓄電池制御装置1は、条件情報取得部132が取得した条件情報と、第1充放電量取得部133が取得した蓄電池情報とに基づいて、蓄電池3に対する制御内容を決定する蓄電池制御決定処理を実行する(S100)。蓄電池制御決定処理の詳細については
図7を用いて後述する。
【0075】
蓄電池制御部136は、蓄電池制御決定処理において決定された第1充放電量又は第2充放電量のうちどちらか一方に対応する量の電力を蓄電池3に充電又は放電させるための蓄電池制御情報を、蓄電池3に送信する(S13)。収益出力部137は、小売電気事業者及び各世帯の電力の取引を集計し、小売電気事業者及び各世帯の収益を示す収益情報を出力する(S14)。
【0076】
図7は、蓄電池制御装置1が実行する蓄電池制御方法が含む蓄電池制御決定処理S100のフローチャートを示す図である。蓄電池制御装置1は、複数の世帯それぞれの複数のコマそれぞれについて以下の処理を繰り返し実行する。
【0077】
蓄電池制御装置1において、第2充放電量算出部134は、余剰電力量が0より大きい場合に(S101のYES)、上述の式(1)を用いて第2充放電量を算出する(S102)。この場合に、第2充放電量算出部134は、式(1)により、蓄電池3に充電させるための正の値の第2充放電量を算出する。
【0078】
第2充放電量算出部134は、余剰電力量が0以下である場合であって(S101のNO)、必要電力量が0より大きく、かつ蓄電池3の残量が0より大きい場合に(S103のYES)、上述の式(2)を用いて第2充放電量を算出する(S104)。この場合に、第2充放電量算出部134は、式(2)により、蓄電池3に放電させるための負の値の第2充放電量を算出する。第2充放電量算出部134は、以上の条件を満たさない場合に(S103のNO)、上述の式(3)を用いて第2充放電量を算出する(S105)。
【0079】
選択部135は、条件情報が小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可することを示す場合に(S106のYES)、第2充放電量を選択する(S107)。選択部135は、条件情報が小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可することを示さない場合に(S106のNO)、条件情報が示す変動条件について以下のように判定する。
【0080】
選択部135は、変動条件が、蓄電池3の残量が増加することを示す場合であって(S108のYES)、蓄電池3の残量が増加する場合に(S109のYES)、第2充放電量を選択する(S107)。一方、選択部135は、蓄電池3の残量が増加しない場合に(S109のNO)、蓄電池3の残量を補正した上で第1充放電量を選択する(S110)。ステップS110において、選択部135は、例えば、(仮想残量+第1充放電量-残量)の式によって算出した値を第1充放電量として用いることによって、仮想状態の仮想残量と、実状態の残量と合わせるように補正する。
【0081】
選択部135は、変動条件が、蓄電池3の残量が増加することを示さず(S108のNO)、蓄電池3の残量が減少することを示す場合であって(S111のYES)、蓄電池3の残量が減少する場合に(S112のYES)、第2充放電量を選択する(S107)。一方、選択部135は、蓄電池3の残量が減少しない場合に(S112のNO)、蓄電池3の残量を補正した上で第1充放電量を選択する(S110)。
【0082】
選択部135は、変動条件が、蓄電池3の残量が増加することを示さず(S108のNO)、蓄電池3の残量が減少することを示さない場合に(S111のNO)、第1充放電量を選択する(S113)。
【0083】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る蓄電池制御システムSによれば、蓄電池制御装置1は、情報端末2において世帯が設定した制御条件に従って、情報端末2が決定した第1充放電量と、蓄電池制御装置1が決定した第2充放電量とのどちらか一方に対応する量の電力を蓄電池3に充電又は放電させる。これにより、蓄電池制御装置1は、世帯に設置された蓄電池を制御する際に、世帯の希望を反映することができる。このとき、蓄電池制御装置1は、託送料を低減するように第2充放電量を決定することによって、小売電気事業者の利益を向上させることができる。
【0084】
[変形例]
上述の実施形態では、蓄電池制御装置1は、小売電気事業者が送配電事業者へ支払う託送料を低減するように蓄電池3を制御していた。本変形例では、蓄電池制御装置1は、小売電気事業者が送配電事業者へ支払うインバランス精算コストを低減するように蓄電池3を制御する。
【0085】
まずインバランス精算コストについて説明する。売り手と買い手との間の電力融通だけでは、時間帯や天気等によって、電力が不足したり、電力が余ったりする。そのため、売り手及び買い手を管理する小売電気事業者は、送配電事業者を介して外部(例えば、電力取引所)から不足した電力を調達し、送配電事業者を介して外部に余った電力を供給する。送配電事業者は、国内の電力系統の安定性のため、電力の需要と供給を常時一致させる必要がある。そのため、小売電気事業者は、送配電事業者に対して、実際に電力の需給が発生する時刻の前に、需給量(すなわち、日時ごとの電力の供給量及び調達量)の計画値を提出する。
【0086】
小売電気事業者は、電力の需給量の計画値から実績値を減算した値であるインバランス量と、日時ごとの電力の価値に対応するインバランス単価とに応じて、送配電事業者との間でインバランス精算コストを授受する。そこで、蓄電池制御装置1は、インバランス量を小さくするように蓄電池3を制御することによって、インバランス精算コストを低減し、小売電気事業者の利益を向上させる。以下、託送料を低減する場合の処理に対するインバランス精算コストを低減する場合の処理の相違点について主に説明する。
【0087】
図8は、本変形例に係る蓄電池制御装置1が実行する蓄電池制御方法が含む蓄電池制御決定処理S100のフローチャートを示す図である。蓄電池制御装置1は、複数の世帯それぞれの複数のコマそれぞれについて以下の処理を繰り返し実行する。
【0088】
蓄電池制御装置1において、第2充放電量算出部134は、コマよりも前の所定のタイミング(例えば、コマが属する日の前日12時)において、既知の方法によって電力の需給量の計画値を予め予測し、送配電事業者に提出している。第2充放電量算出部134は、計画値を提出した後の所定の時刻(例えば、コマの1時間前)に、インバランス量を算出する(S114)。
【0089】
インバランス量を算出するために、第2充放電量算出部134は、世帯における過去の発電量及び宅内消費量の履歴や、当日の天気予報に基づいて、世帯が保有するPVの発電量及び世帯における宅内消費量を予測する。第2充放電量算出部134は、予測した宅内消費量、発電量等に基づいて、電力の需給量の実績値を予測する。第2充放電量算出部134は、コマごとに、電力の需給量の計画値から実績値を減算した値を、インバランス量として算出する。第2充放電量算出部134は、ここに示した具体的な方法に限定されず、既知の方法でインバランス量を算出することができる。
【0090】
第2充放電量算出部134は、インバランス量が0より大きい場合に(S115のYES)、上述の式(1)を用いて第2充放電量を算出する(S102)。この場合に、第2充放電量算出部134は、式(1)により、蓄電池3に充電させるための正の値の第2充放電量を算出する。
【0091】
第2充放電量算出部134は、インバランス量が0より小さい場合(S115のNO、S116のYES)、上述の式(2)を用いて第2充放電量を算出する(S104)。この場合に、第2充放電量算出部134は、式(2)により、蓄電池3に放電させるための負の値の第2充放電量を算出する。第2充放電量算出部134は、以上の条件を満たさない場合に(S116のNO)、上述の式(3)を用いて第2充放電量を算出する(S105)。
【0092】
選択部135は、
図7に示したステップS106~ステップS113を実行することによって、第1充放電量又は第2充放電量のどちらか一方を選択する。さらに第2充放電量算出部134は、選択部135が選択した第1充放電量又は第2充放電量のどちらか一方を用いて算出したインバランス量を、補正後インバランス量として算出する(S117)。このようにインバランス量を低減するように算出した補正後インバランス量に基づいてインバランス精算コストが決定されるため、蓄電池制御装置1は、小売電気事業者の利益を向上させることができる。
【0093】
図9(a)、
図9(b)及び
図9(c)は、本変形例に係る蓄電池制御装置1による蓄電池3の例示的な制御内容の表を示す図である。
図9(a)、
図9(b)及び
図9(c)は、コマ18(9:00~9:30)からコマ20(10:00~10:30)の状況を表している。
図9(a)、
図9(b)及び
図9(c)は、電力融通市場に参加しない世帯の例を表している。
【0094】
図9(a)は、蓄電池制御装置1が蓄電池3の制御内容を決定する前の状態を表している。
図9(a)は、第1充放電量取得部133が取得した蓄電池情報が含む第1充放電量(仮想充放電量)、第1残量(仮想残量)、PVの発電量、宅内消費量、蓄電池3の残量、及び発電量から宅内消費量を減算した余剰電力量を表している。
【0095】
小売電気事業者は、コマ19よりもコマ18で逆潮流させた方がインバランス精算コストを低減できることを事前に把握している。そのため、第2充放電量算出部134は、コマ18において第2充放電量を0kWhにして余剰電力量を逆潮流させ、コマ19において第2充放電量を2kWhにして余剰電力量を蓄電池3に充電させるように、第2充放電量を算出する。
【0096】
ここでは情報端末2において小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可することを示す制御条件が設定されているため、選択部135は、コマ18において第2充放電量である0kWhを、コマ19において第2充放電量である2kWhを、実状態の充放電量として選択する。なお、情報端末2において小売電気事業者による蓄電池3の制御を許可しないことを示す制御条件が設定されている場合には、選択部135は、コマ18、コマ19それぞれにおいて第1充放電量を実状態の充放電量として選択する。
【0097】
図9(b)は、コマ18及びコマ19について蓄電池制御装置1が蓄電池3の制御内容を決定した後の状態を表している。コマ20については、コマ19について決定された蓄電池3の制御内容が適用された場合の蓄電池3の第1残量(仮想残量)のみが表されている。
【0098】
図9(c)は、世帯が設定した蓄電池利用制御ポリシによる蓄電池3の制御をする場合と、小売電気事業者による蓄電池3の制御をする場合における、小売電気事業者と外部(送配電事業者)との収支を表している。
図9(c)は、それぞれの場合における、電力系統から小売電気事業者が管理する世帯に流れる合計電力量(順潮流量)と、世帯から電力系統に流れる合計電力量(逆潮流量)とを表している。また、
図9(c)は、各コマについて予測されたインバランス量を表している。
【0099】
世帯が設定した蓄電池利用ポリシによる蓄電池制御の場合、コマ18において逆潮流が行われず、コマ19において2kWhの逆潮流が行われる。このとき、コマ18では-3kWhの不足インバランスが予測され、コマ19では2kWhの余剰インバランスが予測されている。一方、小売電気事業者による蓄電池制御の場合、コマ18において2kWhの逆潮流が行われ、コマ19において逆潮流が行われない。これにより、コマ18では-1kWhの不足インバランスとなり、コマ19ではインバランスが無くなるため、全体としてインバランス量が低減される。このように、蓄電池制御装置1は、インバランス精算コストを低減するように蓄電池3を制御することによって、小売電気事業者の利益を向上させることができる。
【0100】
本変形例に係る蓄電池制御システムSにおいても、蓄電池制御装置1は、情報端末2において世帯が設定した制御条件に従って、情報端末2が決定した第1充放電量と、蓄電池制御装置1が決定した第2充放電量とのどちらか一方に対応する量の電力を蓄電池3に充電又は放電させる。これにより、蓄電池制御装置1は、世帯に設置された蓄電池を制御する際に、世帯の希望を反映することができる。このとき、蓄電池制御装置1は、インバランス精算コストを低減するように第2充放電量を決定することによって、小売電気事業者の利益を向上させることができる。
【0101】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0102】
S 蓄電池制御システム
1 蓄電池制御装置
13 制御部
132 条件情報取得部
133 第1充放電量取得部
134 第2充放電量算出部
135 選択部
136 蓄電池制御部
137 収益出力部
2 情報端末
23 制御部
231 入力受付部
233 第1充放電量算出部
234 送信部
3 蓄電池