(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】口腔内崩壊錠
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4985 20060101AFI20230821BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230821BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230821BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230821BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230821BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230821BHJP
A61P 15/10 20060101ALI20230821BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20230821BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230821BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K31/4985
A61K47/02
A61K9/20
A61K47/32
A61K47/26
A61P9/12
A61P15/10
A61P11/00
A61P13/08
A61P43/00 111
A61P13/02
(21)【出願番号】P 2020506662
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010719
(87)【国際公開番号】W WO2019177132
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018048726
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中村 文胤
(72)【発明者】
【氏名】服部 直人
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196360(JP,A)
【文献】特開2017-137255(JP,A)
【文献】特表2016-539934(JP,A)
【文献】特開2014-162769(JP,A)
【文献】特開2002-212104(JP,A)
【文献】特開2000-007583(JP,A)
【文献】特開2006-306754(JP,A)
【文献】Journal of Pharmaceutical Investigation,2015年,Vol.45,pp.481-491
【文献】Int. J. Res. Dev. Pharm. L. Sci.,2017年,Vol.6(3),pp.2631-2640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4985
A61K 47/00
A61K 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化合物(I)と、崩壊剤と、
金属酸化物とを含む、口腔内崩壊錠
であって、
【化1】
前記金属酸化物は黄色三二酸化鉄または三二酸化鉄であり、
前記金属酸化物の含有量は製剤総重量の0.05~3重量%であり、
直接打錠製剤である、
前記口腔内崩壊錠。
【請求項2】
前記
金属酸化物が黄色三二酸化鉄である、請求項
1に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
前記崩壊剤がクロスポビドンである、請求項1
又は2に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項4】
前記クロスポビドンの含有量が、製剤総重量の3~10重量%である、請求項
3に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項5】
さらにD-マンニトールを含有する、請求項1~
4のいずれかに記載の口腔内崩壊錠。
【請求項6】
前記D-マンニトールの含有量が、製剤総重量の50~95重量%である、請求項
5に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項7】
化合物(I)及び崩壊剤を含有する口腔内崩壊錠の光安定性を向上させる方法であって、
【化2】
化合物(I)及び崩壊剤に加えて、金属酸化物として黄色三二酸化鉄または三二酸化鉄を配合した混合物を直接打錠して口腔内崩壊錠を調製する工程を有することを特徴とする、
前記方法。
【請求項8】
前記口腔内崩壊錠は、さらにD-マンニトールを含有するものである、請求項7に記載する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(6R,l2aR)-6-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-メチル-2,3,6,7,12,l2a-ヘキサヒドロピラジノ[1’,2’:1,6]ピリド[3,4-b]インドール-1,4-ジオンと呼ばれる化合物(以下、化合物(I)と称する)を含む口腔内崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物(I)は、優れたホスホジエステラーゼ5阻害活性を有し、日本国内においては、勃起不全(非特許文献1)、肺動脈性肺高血圧症(非特許文献2)、および前立腺肥大による排尿障害(非特許文献3)の治療に用いられている。また、化合物(I)は普通錠として処方されている。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】シアリス(登録商標)錠 添付文書 2017年 第9版
【文献】アドシルカ(登録商標)錠 添付文書 2017年 第5版
【文献】ザルティア(登録商標)錠 添付文書 2016年 第3版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小児や高齢の患者は、疾患、加齢、唾液分泌量の低下などが原因で普通錠を嚥下する機能が低下していることが多いため、服用が困難である。このため、化合物(I)を含む錠剤として、口腔内崩壊錠(OD錠)が望まれている。口腔内崩壊錠は水なしで服用されても口腔内で速やかに崩壊するため、小児や高齢者も口腔内崩壊錠を服用しやすい。また、口腔内崩壊錠は服用時に水を必要としないため、頻尿の患者や排尿が困難な患者のQuality Of Life(QOL)を向上させることができる。
【0005】
現在使用されている化合物(I)を含む普通錠は、フィルムコート層で被覆されている。しかしながら、フィルムコート層が製剤全体に被覆されている場合、口腔内での速崩性を得るためには、コーティングに用いる成分や方法が制限されるため、速崩性を得るのは困難である。
【0006】
そこで、化合物(I)を含む口腔内崩壊錠を提供すべく種々処方検討を行ったところ、現在使用されている普通錠、および化合物(I)自体は光に対して安定であるにもかかわらず、口腔内崩壊錠の場合には、処方によって製剤が変色することが明らかとなった。
【0007】
本発明は、化合物(I)を含み、フィルムコートによらず光安定性を向上できる口腔内崩壊錠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、化合物(I)と酸化鉄とを配合することにより、口腔内崩壊錠の光安定性を向上できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明の口腔内崩壊錠は、化合物(I)と、崩壊剤と、酸化鉄とを含む。
【0010】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、前記酸化鉄は黄色三二酸化鉄または三二酸化鉄であることが好ましい。
【0011】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、前記酸化鉄は黄色三二酸化鉄であることがより好ましい。
【0012】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、前記酸化鉄の含有量が製剤総重量の0.01~3重量%であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、前記崩壊剤がクロスポビドンであることが好ましい。
【0014】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、前記クロスポビドンの含有量が、製剤総重量の3~10重量%であることが好ましい。
【0015】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、さらにD-マンニトールを含むことが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記構成の口腔内崩壊錠において、前記D-マンニトールの含有量が、製剤総重量の50~95重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、化合物(I)を含む口腔内崩壊錠の光安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳しく説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は実施形態にのみ限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0019】
本明細書において「口腔内崩壊錠」とは、水を摂取することなく口腔内で迅速に崩壊して服用が可能な錠剤を意味する。口腔内崩壊錠の崩壊時間は90秒以内であり、45秒以内が好ましく、30秒以内がより好ましい。なお、崩壊時間は第17改正日本薬局方に記載の崩壊試験法に従って測定される値である。
【0020】
本発明の一実施形態の口腔内崩壊錠は、医薬有効成分である化合物(I)と、崩壊剤と、酸化鉄とを含む。口腔内崩壊錠の平面形状は特に制限されず、例えば、円形、楕円形、涙型、カプレット型、ドーナツ型等でもよい。また、公知の方法により口腔内崩壊錠に徐放性や腸溶性を付与し、化合物(I)の溶出性を制御してもよい。さらに口腔内崩壊錠の風味の改善等のため、口腔内崩壊錠は矯味剤および香料を含んでもよい。
【0021】
<1.化合物(I)>
化合物(I)は、(6R,l2aR)-6-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-メチル-2,3,6,7,12,l2a-ヘキサヒドロピラジノ[1’,2’:1,6]ピリド[3,4-b]インドール-1,4-ジオンと命名される化合物である。口腔内崩壊錠における化合物(I)の含有量としては、使用時に化合物(I)の有効量を患者に投与できるような含有量であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、口腔内崩壊錠100重量%に対して、0.5~20重量%が好ましく、0.75~15重量%がより好ましく、1~12重量%がさらに好ましい。
【0022】
<2.崩壊剤>
崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン等を挙げることができる。なお、崩壊剤としてはクロスポビドンが好ましく、クロスポビドンの含有量が口腔内崩壊錠の総重量(製剤総重量)の3~10重量%であるとより好ましい。含有量が3%より多いと、崩壊時間がより速くなって崩壊性が向上する。一方、含有量が10重量%よりも少ないと錠剤の形状変化を防止できるので、錠剤の外観安定性を維持することができる。
【0023】
<3.酸化鉄>
酸化鉄としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。酸化鉄の例としては、例えば、三二酸化鉄(Fe2O3)、黄色三二酸化鉄(Fe2O3・H20)、および黒酸化鉄(Fe3O4)等を挙げることができ、黄色三二酸化鉄、または三二酸化鉄が好ましく、黄色三二酸化鉄がより好ましい。
【0024】
三二酸化鉄は赤色から赤褐色、または暗赤紫色の粉末であり、黄色三二酸化鉄は黄色から帯褐黄色の粉末であり、黒酸化鉄は黒色の粉末であり、これらは水にほとんど溶けない。
【0025】
黄色三二酸化鉄に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、癸巳化成株式会社の商品名:黄色三二酸化鉄等を挙げることができる。三二酸化鉄に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、癸巳化成株式会社の商品名:三二酸化鉄等を挙げることができる。黒酸化鉄に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、癸巳化成株式会社の商品名:黒酸化鉄等を挙げることができる。
【0026】
なお、口腔内崩壊錠において、各種の酸化鉄をそれぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
口腔内崩壊錠における酸化鉄の含有量は、口腔内崩壊錠100重量%に対して、0.01~3重量%が好ましく、0.05~1重量%がより好ましく、0.05~0.5重量%がさらに好ましい。含有量が0.01%よりも少ないと、口腔内崩壊錠の変色や類縁物質の生成を抑制できず、十分な光安定性を維持できない恐れがある。含有量が3重量%よりも多いと錠剤製造の打錠時において、スティッキングやキャッピングなどの打錠障害を起こす恐れがある。
【0028】
口腔内崩壊錠は化合物(I)、崩壊剤、および酸化鉄に加えて、本発明の効果を阻害しない限り、製剤学的に許容される医薬品添加剤を含んでもよい。医薬品添加剤として、例えば賦形剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、矯味剤、および香料等が挙げられる。口腔内崩壊錠には医薬品添加剤を適宜・適量配合することができ、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
賦形剤としては、D-マンニトール、D-ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、イソマルト、白糖、ブドウ糖、麦芽糖、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、小麦デンプン、デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、リン酸カルシウム、乳糖、炭酸カルシウム、結晶セルロース等を挙げることができる。賦形剤としてはD-マンニトールが好ましく、D-マンニトールの含有量が口腔内崩壊錠の総重量(製剤総重量)の50~95重量%であるとより好ましい。
【0030】
結合剤としては、例えば、ゼラチン、プルラン、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、アラビアゴム、デキストリン、ポリビニルアルコール、アルファー化デンプン等を挙げることができる。
【0031】
流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0032】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ワックス類、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、またはマクロゴール等を挙げることができる。
【0033】
矯味剤としては、例えば、果糖、キシリトール、ブドウ糖、DL-リンゴ酸、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0034】
香料としては、例えば、L-メントール、ペパーミント等を挙げることができる。
【0035】
<4.口腔内崩壊錠の製造方法>
公知の方法により上記構成の口腔内崩壊錠を製造することができるが、例えば以下の方法によっても製造することができる。
【0036】
粉末状の化合物(I)と、崩壊剤と、酸化鉄と、賦形剤等とを撹拌造粒機、流動層造粒機、混合機、粉砕機等を用いて混合または造粒する。これにより、粉末状または顆粒状の混合物が形成される。
なお、混合または造粒において、酸化鉄と、賦形剤とを混合または造粒した後、崩壊剤と化合物(I)を添加してもよいし、あるいは、化合物(I)と酸化鉄を混合または造粒した後、崩壊剤と賦形剤とを添加してもよい。
次に、打錠機を用いて混合物を圧縮成形する。これにより、口腔内崩壊錠が形成される。なお、混合物を圧縮成形する際に混合物に滑沢剤および流動化剤等を加えてもよい。これにより、圧縮成形時に口腔内崩壊錠の割れ等の損傷を防止することができる。
【0037】
<5.口腔内崩壊錠の包装形態>
このようにして得られる口腔内崩壊錠は、収納部材に収納する。収納部材としては、瓶、袋、PTPシート(Press Through Pack sheet)等を挙げることができるが、これにより本発明が限定されるのものではない。
【0038】
収納部材は透明、半透明、不透明であってもよい。収納部材内の口腔内崩壊錠の視認性の観点から、収納部材は透明であることが望ましい。口腔内崩壊錠は、上記の通り酸化鉄を含むため、収納部材が透明であっても、口腔内崩壊錠の光安定性を向上させることができる。
【0039】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
5.77gの化合物(I)と、246.0gのD-マンニトール(グラニュトール(登録商標)、フロイント産業株式会社製)と、30gの結晶セルロース(セオラス(登録商標)PH-101、旭化成ケミカルズ株式会社製)と、15gのクロスポビドン(コリドンCL-F、BASFジャパン株式会社製)と、0.2gの黄色三二酸化鉄(癸巳化成株式会社製)とを高速攪拌式混合造粒機を用いて5分間混合し、混合物を得た。得られた混合物と3gのステアリン酸マグネシウム(太平化学産業株式会社製)とをボーレコンテナミキサーを用いて20分間混合し、錠剤の素材を得た。得られた素材に、ロータリー打錠機で206MPaの打錠圧を加え、1錠あたり130mgとなるように打錠して、錠径7mmの錠剤を複数得た。得られた錠剤を実施例1の口腔内崩壊錠として使用した。
【実施例2】
【0041】
実施例2の口腔内崩壊錠では、黄色三二酸化鉄の重量を0.7g、D-マンニトールの重量を245.5gとした。その他は実施例1と同様に調製した。
【実施例3】
【0042】
実施例3の口腔内崩壊錠では、黄色三二酸化鉄に替えて0.7gの三二酸化鉄(癸巳化成株式会社製)を用いた。その他は実施例2と同様に調製した。
【0043】
[比較例1]
実施例1の口腔内崩壊錠に対して黄色三二酸化鉄を省き、比較例1とした。また、D-マンニトールの重量を246.2gとした。その他は実施例1と同様に調製した。
【0044】
[比較例2]
実施例3の口腔内崩壊錠に対して、三二酸化鉄に替えて0.7gの酸化チタン(タイペーク(登録商標)A-100、石原産業株式会社製)を用いて、比較例2とした。その他は実施例3と同様に調製した。
【0045】
なお、以下の説明において、実施例1~3および比較例1、2の錠剤を総称して「試験錠剤」という場合がある。
【0046】
実施例1~3の口腔内崩壊錠および比較例1、2について、光による影響を調べる試験を実施した。まず、光安定性試験器(LST-2010型、東京理化器械株式会社製)内に静置した実施例1~3の口腔内崩壊錠、および比較例1、2に対して白色光(昼光)および近紫外光を照射した。白色光の光源としてD65ランプを用い、近紫外光の光源として近紫外蛍光ランプを用いた。この時、白色光の総照度を120万ルクス・時間とし、近紫外照射エネルギーを200W・h/m2以上とした。光照射後に、実施例1~3および比較例1、2について、変色の度合い、および試験錠剤における後述の類縁物質の量を評価した。
【0047】
実施例1~3および比較例1、2の変色の度合いを色差△Eに基づいて評価した。色差計(SE6000型、日本電色工業社製)を用いて、国際照明委員会(CIE)のL*a*b*色空間表示系におけるL*値、a*値、及びb*値を測定した。なお、L*a*b*色空間表示系は日本工業規格(JIS Z 8781-4)にも規定されている。
【0048】
光照射前および光照射後における実施例1~3および比較例1、2のL*値、a*値、b*値に基づいて、下記の式(1)によって光照射前後の実施例1~3および比較例1、2の色差ΔEをそれぞれ算出した。式(1)において、L1、L0はそれぞれ光照射後および光照射前における試験錠剤のL*値を示し、a1、a0はそれぞれ光照射後および光照射前における試験錠剤のa*値を示し、b1、b0はそれぞれ光照射後および光照射前における試験錠剤のb*値を示す。実施例1~3および比較例1、2において各々5個の試験錠剤について色差ΔEを算出した。色差ΔEが大きいほど試験錠剤の変色の度合いが大きいと判断した。
【0049】
ΔE={(L1-L0)2+(a1-a0)2+(b1-b0)2}1/2・・・(1)
【0050】
(類縁物質の量の測定)
実施例1~3および比較例1、2の各々20個の試験錠剤を50%アセトニトリル・水混液で溶解し、ろ過した液を試料溶液とした。この時、試料溶液における化合物(I)の濃度を0.25mg/mLにした。試料溶液を高速液体クロマトグラフ法により分析し、試験錠剤における化合物(I)のピーク面積と、試験錠剤における化合物(I)のピークに対する相対保持時間0.34のピーク面積とを測定した。試験錠剤における化合物(I)のピークに対する相対保持時間が0.34である物質を試験錠剤におけるの類縁物質と規定する。そして、試験錠剤における化合物(I)のピーク面積に対する類縁物質のピーク面積の割合を百分率で算出し、「類縁物質の量」(単位:%)とした。
【0051】
【0052】
表1は、実施例1~3の口腔内崩壊錠および比較例1、2の色差ΔEおよび類縁物質の量を示す。なお、表中の色差ΔEは5個の試験錠剤の平均値を示す。黄色三二酸化鉄を含む実施例1、2、および三二酸化鉄を含む実施例3の口腔内崩壊錠では比較例1、2よりも色差ΔEおよび類縁物質の量が小さかった。これにより、化合物(I)に黄色三二酸化鉄または三二酸化鉄を配合することによって初めて、口腔内崩壊錠の変色と類縁物質の生成を抑制でき、口腔内崩壊錠の光安定性を向上できることが判明した。
【0053】
なお、実施例1~3および比較例1、2の崩壊時間を第17改正日本薬局方に記載の崩壊試験法に従って測定したところ、いずれも30秒以内であった。
【0054】
口腔内崩壊錠が酸化鉄を含むことによって口腔内崩壊錠の光安定性が向上する詳細なメカニズムは現状では不明であるが、酸化鉄が黄色光の波長(570~590nm)よりも短い波長の光を吸収することによって口腔内崩壊錠の光安定性を向上させると推定される。
【0055】
本発明の一実施形態の口腔内崩壊錠は、光遮断剤を含むフィルムコーティングにより光安定性を確保しているのではないため、錠剤の種類に限らず、化合物(I)を含有する種々の形態の固形製剤に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、化合物(I)を含む口腔内崩壊錠に利用することができる。