(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】鼻腔内送達用乾燥粉末組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/12 20060101AFI20230821BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230821BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K9/12
A61K47/26
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020508051
(86)(22)【出願日】2018-08-19
(86)【国際出願番号】 IL2018050914
(87)【国際公開番号】W WO2019038756
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-24
(32)【優先日】2017-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522289699
【氏名又は名称】ネイサス ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】テムツィン-クレイツ ガリア
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531140(JP,A)
【文献】特表2004-523594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 45/00
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする患者に鼻腔内投与するための乾燥粉末形態の医薬組成物であって、少なくとも1種の活性薬剤の固体粒子と希釈剤の固体粒子とを含み、前記固体希釈剤以外の賦形剤を含まず、平均粒径が10ミクロン~30ミクロンの範囲の前記少なくとも1種の活性薬剤の粒子を少なくとも90%有し、平均粒径が5ミクロン以下の前記少なくとも1種の活性薬剤の粒子を10%未満有
し、
前記希釈剤が、ラクトース一水和物である、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記希釈剤の平均粒径が30~200ミクロンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の活性薬剤が、鎮痛剤、制吐剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、降圧剤、抗片頭痛剤、抗新生物剤、化学療法剤、免疫抑制剤、抗パーキンソン病薬、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、神経遮断薬、β遮断薬、コルチコステロイド、COX-2阻害剤、オピオイド鎮痛剤、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、ペプチド、抗体、化学療法剤、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の活性薬剤が、スマトリプタンコハク酸塩、ゾルミトリプタン塩、ナラトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、ブピバカイン、線維芽細胞成長因子、セファレキシン、リドカイン、クロバザム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ジアゼピン、ロラゼパム、デクスメデトミジン、モノシアロガングリオシド、コカイン、インスリン、グルカゴン、オキシトシン、フェンタニル、スルフェンタニル、ジアモルヒネ、ケタミン、アポモルヒネ、ブプレノルフィン、硫酸モルヒネ、オキシコドン塩酸塩、ブトルファノール、NSAID、パラセタモール、ベンゾジアゼピン、ドーパミン、プラミペキソール、ラサギリン、ロギチン、オンダンセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ナロキソン、ナルトレキソン、アトロピン、アドレナリン、大麻活性化合物、エピネフリン、二硝酸イソソルビド、オビトキシン(obitoxine)、デクスメデトミジン、メトクロルプラミド、L-ドパ、ニコチン、シルデナフィル、ナファレリン、ドブタミン、フェニレフリン、トラマゾリン、キシロメタゾリン、トラマドール、メタコリン、イプラトロピウム、スコポラミン、プロプラノロール、ベラパミル、ヒドララジン、ニトログリセリン、クロフィリウムトシル酸塩、大麻活性化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩、異性体、及び混合物から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記希釈剤の平均粒径が30~200ミクロンである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記希釈剤の平均粒径が50~150ミクロンである、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記希釈剤が、
前記活性薬剤の前記乾燥粉末粒子の凝集を防ぎかつ前記組成物中における当初の粒径及び形状を維持するための、唯一の賦形剤
である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記活性薬剤の前記乾燥粉末粒子が実質的に球形である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
必要とする患者への鼻腔内投与に使用するための請求項1に記載の医薬組成物であって、前記投与が鼻腔の最上部領域を標的とし、それによって前記活性薬剤を前記患者の脳へ、鼻から脳(N2B)送達する、前記医薬組成物。
【請求項10】
必要とする患者への鼻腔内投与に使用するための請求項1に記載の医薬組成物であって、前記投与が鼻腔の最上部領域を標的とし、それによって経粘膜的に全身投与する、前記医薬組成物。
【請求項11】
乾燥粉末形態の請求項1に記載の医薬組成物を製造するための装置であって、
a)少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気中の前記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得ることが可能な噴霧乾燥チャンバ[1]であって、前記溶液が希釈剤を含まない、噴霧乾燥チャンバ[1]と、
b)前記噴霧乾燥チャンバ[1]から前記乾燥粉末粒子及び前記湿潤空気流を受け入れ、渦流分離によって前記湿潤空気から前記粒子を分離し、前記空気を排出し、バッグフィルタを介して前記分離された粒子を受け入れチャンバ[3]に移送することが可能な、サイクロン分離器[2]と、
c)希釈剤が予め充填され、前記サイクロン分離器[2]から前記分離された乾燥粉末粒子を受け入れ、前記粒子を前記希釈剤と共に機械的に撹拌及び均一化して、前記実施形態の乾燥粉末形態の医薬組成物を得るように適合された受け入れチャンバ[3]であって、前記希釈剤が、前記受け入れチャンバ[3]中における撹拌中に前記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に前記粒子と混ざり合い、それによって前記粒子の凝集を防ぎ、前記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な、前記受け入れチャンバ[3]と
を備える、前記装置。
【請求項12】
乾燥粉末形態の請求項1に記載の医薬組成物の製造方法であって、
A.有機溶媒もしくは溶媒混合物中、溶媒-水もしくは水混和性溶媒混合物中、または水中の、少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を調製するステップと、
B.受け入れチャンバ[3]に希釈剤を充填し、前記受け入れチャンバ[3]中の前記希釈剤を連続的に撹拌するステップと、
C.ステップ(A)において調製された前記溶液を加熱空気と共に噴霧乾燥チャンバ[1]に流し、前記噴霧乾燥チャンバ[1]中で前記溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気中の前記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得、且つ前記得られた乾燥粉末粒子と前記湿潤空気流をサイクロン分離器[2]に移送するステップと、
D.前記サイクロン分離器[2]中で渦流分離によって前記湿潤空気から前記粒子を分離し、前記空気を排出し、且つバッグフィルタを介して前記分離された粒子を前記受け入れチャンバ[3]に移送するステップと、
E.ステップ(D)から受け入れた前記粒子を前記受け入れチャンバ[3]中の前記希釈剤と撹拌及び均一化して、前記実施形態の乾燥粉末形態の医薬組成物を得るステップであって、前記希釈剤が、前記受け入れチャンバ[3]中における撹拌中に前記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に前記粒子と混ざり合い、それによって前記粒子の凝集を防ぎ、前記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な、前記ステップと、
F.希釈剤を添加し、ステップ(E)で得られた前記医薬組成物を更なる量の前記希釈剤と更に混合して、前記医薬組成物において所望の活性薬剤対希釈剤比を達成するステップと
を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、少なくとも1種の活性薬剤とラクトースまたはラクトースの機能上の類似体とを含む、特定の粒径の乾燥粉末粒子としての医薬組成物の鼻腔内投与による薬物の送達に関する。本出願は更に、上記医薬組成物の製造方法、より詳細には、少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤の、鼻腔内送達を介する鼻腔の最上部領域への投与による、それを必要とする対象の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
鼻腔内送達は、他の投与経路に対して多くの魅力的な利点、すなわち、その非侵襲性、血流における治療上妥当な濃度への迅速な到達、初回通過代謝がないこと、及び投与の容易さを有する。実施可能な経鼻送達技術は、医薬品開発者が、既に認可された製品を新たな投与経路で送達することによって用いて、革新的な医薬品を生み出すことを可能にする潜在力を有している。
【0003】
薬物の鼻腔内送達は、噴霧器、加圧装置、乾燥粉末噴霧器、及び二方向鼻腔用装置などの数種の装置を利用する。乾燥粉末は、安定性の向上、より大きな用量の投与、及び微生物の増殖が起こらないこと(防腐剤の必要なし)を含む、この剤形を用いることの多くの利点によって鼻腔内薬物送達に使用される。特に、賦形剤を含む送達される組成物の臭気及び味が不快である場合、鼻腔内粉末の投与によって、患者の服薬遵守を向上させる場合がある。薬液と比較して、粉末の投与により、鼻粘膜との接触の時間が長くなる可能性がある。粉末形態は、小分子と、生物製剤、特にペプチド、ホルモン、及び抗体との両方の送達に適する。
【0004】
従来、鼻腔内製剤は、感冒、アレルギー症状、及び/または鼻づまりの緩和のために、抗ヒスタミン薬、うっ血除去薬、ならびにステロイドの局所投与に用いられてきた。最近では、研究者の関心は、2つの特定の領域、すなわち、
(1)鼻腔の奥に位置する鼻甲介組織及びリンパ組織による体循環への迅速な薬物吸収の可能性(これは既に多くの適応症、例えば、片頭痛及び痛みの緩和、骨粗鬆症、ワクチンなどにおいて用いられている)、及び
(2)中枢神経系(CNS)疾患の治療のための、鼻腔最上部の嗅覚領域による中枢神経系(CNS)への「鼻から脳への」(N2B)送達の可能性(血液脳関門(BBB)は、多くの潜在的な薬物による神経疾患の治療を妨げる。それらの神経疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、脊髄損傷、うつ病、及びその他の中枢神経障害がある。血液脳関門は主として脳毛細血管の内皮に関係しており、この内皮を通過することができる分子はほとんどない。)
に集中している。
【0005】
薬剤の鼻腔内投与には、とりわけ、血流への直接的な経路であること、肝臓における初回通過代謝の回避、より高い生物学的利用能、非侵襲的操作の容易性及び利便性、ならびに中枢神経系に近接していることを含む多くの利点がある。更に、脳への薬物の直接的な送達により、全身的薬物送達を用いる場合よりも治療-毒性比(therapeutic-toxic ratio)が良好となる可能性がある。
【0006】
臭気及び化学物質の感知に関与する鼻腔内の嗅覚領域は、脳と外部環境との間を独自に且つ直接的に接続する。多くの研究が、血液脳関門を通過しないかまたはほとんど通過しないが、鼻腔内送達される、好ましくは鼻腔の奥に位置する鼻甲介組織及びリンパ組織に直接送達されると、CNSに迅速に送達される薬物を報告した。鼻粘膜下間質腔と嗅神経周囲腔との間に自由なコミュニケーションが存在し、嗅神経周囲腔は嗅神経を取り囲むくも膜下伸展(subarachnoid extension)と連続している。嗅上皮はいくつかの薬物を代謝することができる。嗅覚神経経路は、脳内への細胞内(神経内)経路と細胞外(神経外)経路の両方を含む。活性物質は、嗅球及び/または三叉神経領域に到達した後、拡散によって他の脳領域に入ることができ、これは動脈の拍動によって促進される場合もある。更に、鼻腔内に投与された薬物は、それが全身の血液循環中に浸透した後、一部がCNS中に入る場合もある。
【0007】
ドーパミン及びピコリン酸などの親水性薬物は、ほとんど嗅覚経路を介して輸送することができる。親油性薬物の場合は、血液脳関門(BBB)を通過することができるため、全身経路が嗅覚経路よりも好適である。Sinagh et al.は、固体脂質ナノ粒子中に充填したアルプラゾラムが、血液脳関門を迂回し、鼻腔内経路を介してウサギの脳に迅速に移動することを明らかにした(Alok Pratap Singh,Shailendra K.Saraf,Shubhini A.Saraf.SLN approach for nose-to-brain delivery of alprazolam,Drug delivery and Translational Research,2012,vol.2,Issue 6,pp 498-507)。輸送の速度及び程度の向上は、用量及び投与頻度の低減に役立ち、それによって外来患者の服薬遵守が改善する場合がある。別の研究では、オキシトシンの鼻腔内投与は、人間の対象における信頼感を高めることができることが確認された(Kosfeld M,Heinrichs M,Zak PJ,Fishbacher U,Fehr E:OxyContin increases trust in humans.Nature,2005,vol.435,pp 637-676)。
【0008】
更に、ますます増加する動物及び人間の対象の両方に関する研究により、鼻腔内薬物送達を用いてBBBを迂回することにより、小分子のみならず高分子の生物製剤をCNSに移動させることができることが示された。Benedict et al.は、鼻腔内経路によるインスリン投与が健常な成人の記憶及び気分を向上させる場合があることを示した(Benedict C,Hallshmid M,Schultes B,Born J,Kern W;Intranasal insulin to improve memory function in humans.Neuroendocrinology,2007,vol.86,ppl36-142)。Freiherr et al.(Freiherr J et al.,Intranasal Insulin as a Treatment for Alzheimer’s Disease:A Review of Basic Research and Clinical Evidence,CNS Drugs 2013,vol.27,pp 505-514)及びReger et al.(Reger MA,Watson GS,Frey WH 2nd et al.,Effect of intranasal insulin on cognition in memory impaired older adults:modulation by APOE genotype.Neurobiol.Aging,2006,vol.27,pp 451-458)は、インスリンまたはグルコースの血中濃度を変えることなく、AD患者の記憶も改善される可能性があることを実証した。Jin et al.は、線維芽細胞成長因子2またはヘパリン結合性上皮成長因子のいずれかの鼻腔内投与が、神経新生促進治療薬としての可能性があることを報告した(Kunlin Jin MD,David A.Greenberg et al.,Cerebral neurogenesis is induced by intranasal administration of growth factors;Ann.Neurol.2003,vol.53,pp 405-409)。全ての上述の薬学的に活性な物質は噴霧剤として鼻腔に投与された。
【0009】
特に嗅覚領域への鼻腔内送達は潜在的にCNSへの薬剤の送達経路を提供するが、従来の経鼻送達装置を用いて嗅覚領域へ到達させることは困難である。嗅覚領域は鼻腔の最上部に位置し、ここを流れるのは吸入された空気の10%未満である。従来の鼻用噴霧器は薬物の大部分を鼻腔の下部領域に沈着させ、嗅覚領域に到達する薬物は極わずかである。嗅覚領域への噴霧送達のための改善された装置が米国特許出願第20070119451号に記載される。この装置は、ノーズピースと、該ノーズピース内に、格納された状態と伸長した状態との間で動くように、摺動可能に配置された長尺の管状部材とを備える。上記管状部材は、送達される物質を収納するリザーバと流れに関して連通している。使用中に、上記管状部材は本装置から延伸し、上記物質を嗅覚領域へと導く。しかしながら、この引用文献は固体乾燥粉末の送達を開示していない。類似の装置が、US20030178440、US6,866,039、US6,945,953、及びUS20050028813に開示される。
【0010】
米国特許第9,556,260号は、プールされたヒト免疫グロブリンGの鼻腔内投与によるCNS障害の治療方法及び上記治療用の組成物を記載する。上記特許に示されるように、鼻腔内投与によりBBBを通過する必要性が回避され、方向性のある、完全なIgGの送達が可能になる。これにより治療の効率がより高くなり、所望の効果を達成するために投与されるべき必要なIgGの投与量が低減される。プールされたヒトIgGは提供されたヒト血漿から単離されるが、プールされたIgGは限られた資源である。したがって、上記技術が可能になった場合、IgGの有効な用量の低減により、治療の可能性が効果的に向上することとなる。更に、IgGの鼻腔内投与によって、静脈内投与により生じる全身曝露がほぼ排除され、当該治療の全体としての安全性プロファイルが改善される。また、透過性増強剤の非存在下でIgGを脳に鼻腔内投与することも有益となる。一部の透過性増強剤は、それら自体に神経刺激作用がある。
【0011】
米国特許出願第20140073562号は、好ましくは神経学的疾病及び障害の治療において、好ましくはオキシトシン、オキシトシンの非ペプチドアゴニスト、及びオキシトシンのアンタゴニストを、好ましくは液体、懸濁液もしくは溶液、または粉末の1種として含む物質を、対象の鼻気道、好ましくは鼻気道の後部領域、好ましくは嗅球及び三叉神経を含む鼻気道の上後部領域に送達する経鼻送達装置ならびに方法に関する。
【0012】
US8,875,704は、特に、頭痛、例えば群発頭痛及び片頭痛、及び神経障害性疼痛の治療のために、粉末物質、特にスマトリプタンなどのトリプタンを対象の鼻腔の後部領域に送達する送達装置ならびに方法を記載する。WO2016133863は、低血糖の治療、特に重度の低血糖の治療に有用な、グルカゴンまたはグルカゴン類似体を含む経鼻投与用の経鼻粉末製剤を提供する。Sherr et al.は、その治験において、経粘膜的にグルカゴンを送達するグルカゴン経鼻粉末が、1型糖尿病の成人及び青少年の筋肉内グルカゴンに対する有望な代替手段である可能性があることを実証した(Jennifer L.Sherr et al,Glucagon Nasal Powder:A Promising Alternative to Intramuscular Glucagon in Youth with Type 1 Diabetes,Diabetes Care 2016;vol.39,pp 555-562)。しかしながら、Sherr et al.はグルカゴンを鼻から脳へ送達することができることについて言及していなかった。
【0013】
US6,462,090、US20080292713、US20150010633、US20160354288、及び他の類似の刊行物は、肺送達用の治療薬の乾燥粉末吸入剤(DPI)を記載する。US20150010633は、肺送達専用に有用なオンダンセトロンのエアロゾル製剤の製造を開示する。これは、活性薬物であるオンダンセトロンが、吸入により投与される場合、生理学的作用を示すためには肺の深部に浸透する必要があるためである。しかしながら、上記の刊行物のいずれもが、鼻腔内投与による脳への治療薬の送達を教示またはこれに言及していない。したがって、(主として脳への直接的な投与という意味で)CNSを特異的に標的とし、上記活性薬剤の全身的な分布を低減し、投与に必要な治療有効用量を低減する、公知の及び新規な活性薬剤による中枢神経系(CNS)障害の治療方法に対するニーズは満たされていない。
【発明の概要】
【0014】
概要
本出願は、鼻腔内投与用の、少なくとも1種の活性薬剤の固体粒子と希釈剤の固体粒子とを含む乾燥粉末形態の医薬組成物であって、上記固体希釈剤以外の賦形剤を実質的に含まず、平均粒径が10~30ミクロンの上記少なくとも1種の活性薬剤の粒子の含有量が少なくとも90%であり、平均粒径が5ミクロン以下の上記少なくとも1種の活性薬剤の粒子の含有量が10%未満である、上記医薬組成物の実施形態を記述する。上記希釈剤の粒子の平均粒径は30~200ミクロンである。
【0015】
本出願の上記実施形態の医薬組成物は、鎮痛剤、制吐剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、降圧剤、抗片頭痛剤、抗新生物剤、化学療法剤、免疫抑制剤、抗パーキンソン病薬、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、神経遮断薬、β遮断薬、コルチコステロイド、COX-2阻害剤、オピオイド鎮痛剤、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、ペプチド、抗体、化学療法剤、及びそれらの混合物から選択される、少なくとも1種の鼻腔内送達用の親水性活性薬剤を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記親水性活性薬剤は、スマトリプタンコハク酸塩、ゾルミトリプタン塩、ナラトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、ブピバカイン、線維芽細胞成長因子、セファレキシン、リドカイン、クロバザム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ジアゼピン、ロラゼパム、デクスメデトミジン、モノシアロガングリオシド、コカイン、インスリン、グルカゴン、オキシトシン、フェンタニル、スルフェンタニル、ジアモルヒネ、ケタミン、アポモルヒネ、ブプレノルフィン、硫酸モルヒネ、オキシコドン塩酸塩、ブトルファノール、NSAID、パラセタモール、ベンゾジアゼピン、ドーパミン、プラミペキソール、ラサギリン、ロギチン、オンダンセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ナロキソン及びナルトレキソン、アトロピン、エピネフリン、二硝酸イソソルビド、オビトキシン(obitoxine)、デクスメデトミジン、メトクロルプラミド、L-ドパ、ニコチン、シルデナフィル、ナファレリン、ドブタミン、フェニレフリン、トラマゾリン、キシロメタゾリン、トラマドール、メタコリン、イプラトロピウム、スコポラミン、プロプラノロール、ベラパミル、ヒドララジン、ニトログリセリン、クロフィリウムトシル酸塩、大麻活性化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩、異性体、及び混合物から選択されてもよい。
【0017】
他の実施形態において、本医薬組成物は、ラクトース一水和物、ラクトース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、またはそれらの混合物から選択される許容される希釈剤を含有する。
【0018】
本実施形態の医薬組成物は改変された噴霧乾燥方法によって製造される。上記実施形態の乾燥粉末形態の本医薬組成物の製造装置は、以下の構成要素、すなわち、
a)希釈剤を含まない、少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気中の上記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得ることが可能な噴霧乾燥チャンバと、
b)上記噴霧乾燥チャンバから上記乾燥粉末粒子及び上記湿潤空気流を受け入れ、渦流分離によって上記湿潤空気から上記粒子を分離し、上記空気を排出し、バッグフィルタを介して上記分離された粒子を受け入れチャンバに移送することが可能なサイクロン分離器と、
c)希釈剤が予め充填され、上記サイクロン分離器から上記分離された乾燥粉末粒子を受け入れ、上記粒子を上記希釈剤と共に撹拌及び均一化して、上記実施形態の乾燥粉末形態の医薬組成物を得るように適合された上記受け入れチャンバであって、上記希釈剤が、撹拌中に上記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に上記粒子と混ざり合い、それによって上記粒子の凝集を防ぎ、上記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な上記受け入れチャンバと
を備える。
【0019】
上記噴霧乾燥チャンバは、上記活性薬剤溶液の液滴を生成させ、該液滴及び粉末の粒径を制御し、熱伝達及び溶媒の揮発速度を最大化するために用いられるノズルを備える。上記液滴の径は、用いる特定のノズルに応じて、20~180μmの範囲であってよい。本実施形態において、噴霧される上記活性薬剤の溶液は如何なる希釈剤も含まない。上記ノズルは、上記活性薬剤の溶液を加熱空気流中に噴霧するように設計され、それによって上記噴霧乾燥チャンバ中で上記加熱空気流と上記噴霧された溶液とが完全に混合され且つ均一に分布し、上記チャンバ全体で、上記混合物から実質的に完全に、液体が蒸発し、上記活性薬剤の固体粒子が乾燥する。
【0020】
実験室規模においては、上記受け入れチャンバを回転させることに加えて、磁気撹拌機及び適当な大きさの磁気撹拌子を用いることによって撹拌及び均一化することができる。工業規模においては、適当な大きさ及び形態の機械的撹拌機を用いるか、または上記受け入れチャンバ全体を揺り動かす、回転させる、及び振動させることによって、撹拌及び均一化することができる。従来の噴霧乾燥装置は、活性薬剤の乾燥粉末粒子を集取する空の受け入れチャンバを備える。この受け入れ器は、継続的なプロセスを確保するために時々空にされる。対照的に、本出願は、上記乾燥粉末粒子の凝集を防止し、該粒子の当初の粒径及び形状を維持するための、連続的に撹拌される希釈剤を予め充填した受け入れチャンバを開示する。
【0021】
本実施形態の医薬組成物は、上記活性薬剤の乾燥粉末粒子に、その噴霧乾燥後に添加された希釈剤を含有する。これに対して、文献に記載される種々の医薬組成物及び吸入用粉末の製造に一般的に利用されるプロセスにおいては、粒子凝集の防止ならびに粉末の脱凝集及び解凝集を目的として界面活性剤及び脂質物質が用いられる。吸入用乾燥粉末製剤の製造に、当該活性薬剤の粒子よりも大きな粒子を有する、ラクトースまたはラクトースの機能上の類似体などの固体希釈剤を用いることは、文献において一切言及されていない。
【0022】
更なる実施形態において、本出願の医薬組成物の製造方法は、以下のステップ、すなわち、
A.有機溶媒もしくは溶媒混合物中、溶媒-水もしくは水混和性溶媒混合物中、または水中の少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を調製するステップと、
B.上記受け入れチャンバに希釈剤を充填し、上記受け入れチャンバ中の上記希釈剤を連続的に撹拌するステップと、
C.ステップ(A)において調製された上記溶液を加熱空気またはガスと共に上記噴霧乾燥チャンバに流し、上記噴霧乾燥チャンバ中で上記溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気またはガス中の上記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得、且つ上記得られた乾燥粉末粒子と上記湿潤空気またはガス流を上記サイクロン分離器に移送するステップと、
D.上記サイクロン分離器中で渦流分離によって上記湿潤空気またはガスから上記粒子を分離し、上記空気またはガスを排出し、且つバッグフィルタを介して上記分離された粒子を上記受け入れチャンバに移送するステップと、
E.ステップ(D)から受け入れた上記粒子を上記受け入れチャンバ中の上記希釈剤と撹拌及び均一化して、乾燥粉末形態の本実施形態の医薬組成物を得るステップであって、上記希釈剤が、上記受け入れチャンバ中における撹拌中に上記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に上記粒子と混ざり合い、それによって上記粒子の凝集を防ぎ、上記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な上記ステップと、
F.(E)で得られた上記医薬組成物を更なる量の上記希釈剤と更に混合して、上記医薬組成物において所望の活性薬剤対希釈剤比を達成するステップと
を含む。
【0023】
他の実施形態において、上記活性薬剤の上記透明且つ均一な溶液は、遊離塩基としてのまたは塩としての上記活性薬剤を、有機溶媒、2種以上の有機溶媒の混合物、または水に溶解することによって得られる。特定の実施形態において、上記活性薬剤を含む本医薬組成物は、1種もしくは複数種の薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、またはそれらの混合物を更に含んでいてもよい。いくつかの他の実施形態において、本医薬組成物は、粉末、単純な粉末混合物、粉末ミクロスフェア、被覆された粉末ミクロスフェア、リポソーム分散液、及びそれらの組み合わせの形態で製造されてもよい。
【0024】
したがって、本実施形態の医薬組成物は、少なくとも1種の活性薬剤と、ラクトース、ラクトース一水和物、セルロース及び誘導体、デンプン及び誘導体、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、またはそれらの混合物からなる群より選択される希釈剤を含んでいてもよい。いくつかの特定の実施形態において、上記組成物は上記希釈剤以外の如何なる賦形剤も含んでいなくてよい。
【0025】
乾燥粉末形態の鼻腔内吸入用の活性薬剤は通常粉砕技法により製造される。その結果、上記活性薬剤の粒径分布は広く、上記活性薬剤の形状は非球形で且つ不均一である。但し、5ミクロン(μm)未満の上記活性薬剤粒子は避ける必要がある。5ミクロン未満の上記粒子は、鼻への噴霧装置を用いた鼻への噴霧により、または吸入装置を用いた吸入により肺粘膜に到達する場合がある。これは安全性の観点から鼻腔内投与にとって全く許容されない。したがって、5μmよりも大きな狭い粒径分布を有する球形粒子の製造、及び鼻への噴霧装置及び吸入装置において上記粒子を用いることは、鼻腔内投与にとって有益である。尚も更なる実施形態において、本出願は、希釈剤を含まない、少なくとも1種の活性薬剤の溶液を噴霧乾燥し、得られた上記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を、上記噴霧乾燥装置の上記受け入れチャンバ中の撹拌下の希釈剤と混合することによる、狭い粒径分布を有する球形の乾燥粉末粒子を得るプロセスを提供する。いくつかの実施形態において、本実施形態の医薬組成物は、鼻腔内または経口投与固体剤形で投与されてもよい。
【0026】
本発明の鼻腔内組成物の脳及び血漿に対する明確な優位性が、イン・ビボでの実験において示される。
【0027】
[本発明1001]
必要とする患者に鼻腔内投与するための乾燥粉末形態の医薬組成物であって、少なくとも1種の活性薬剤の固体粒子と希釈剤の固体粒子とを含み、前記固体希釈剤以外の賦形剤を含まず、平均粒径が10ミクロン~30ミクロンの範囲の前記少なくとも1種の活性薬剤の粒子を少なくとも90%有し、平均粒径が5ミクロン以下の前記少なくとも1種の活性薬剤の粒子を10%未満有する、前記医薬組成物。
[本発明1002]
前記希釈剤の平均粒径が30~200ミクロンである、本発明1001の医薬組成物。
[本発明1003]
前記少なくとも1種の活性薬剤が、鎮痛剤、制吐剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、降圧剤、抗片頭痛剤、抗新生物剤、化学療法剤、免疫抑制剤、抗パーキンソン病薬、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、神経遮断薬、β遮断薬、コルチコステロイド、COX-2阻害剤、オピオイド鎮痛剤、プロテアーゼ阻害剤、ホルモン、ペプチド、抗体、化学療法剤、及びそれらの混合物から選択される、本発明1001の医薬組成物。
[本発明1004]
前記少なくとも1種の活性薬剤が、スマトリプタンコハク酸塩、ゾルミトリプタン塩、ナラトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、ブピバカイン、線維芽細胞成長因子、セファレキシン、リドカイン、クロバザム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ジアゼピン、ロラゼパム、デクスメデトミジン、モノシアロガングリオシド、コカイン、インスリン、グルカゴン、オキシトシン、フェンタニル、スルフェンタニル、ジアモルヒネ、ケタミン、アポモルヒネ、ブプレノルフィン、硫酸モルヒネ、オキシコドン塩酸塩、ブトルファノール、NSAID、パラセタモール、ベンゾジアゼピン、ドーパミン、プラミペキソール、ラサギリン、ロギチン、オンダンセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ナロキソン、ナルトレキソン、アトロピン、アドレナリン、大麻活性化合物、エピネフリン、二硝酸イソソルビド、オビトキシン(obitoxine)、デクスメデトミジン、メトクロルプラミド、L-ドパ、ニコチン、シルデナフィル、ナファレリン、ドブタミン、フェニレフリン、トラマゾリン、キシロメタゾリン、トラマドール、メタコリン、イプラトロピウム、スコポラミン、プロプラノロール、ベラパミル、ヒドララジン、ニトログリセリン、クロフィリウムトシル酸塩、大麻活性化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩、異性体、及び混合物から選択される、本発明1003の医薬組成物。
[本発明1005]
前記希釈剤が、ラクトース一水和物、ラクトース、またはラクトースの機能上の類似体から選択される、本発明1001の医薬組成物。
[本発明1006]
前記希釈剤の平均粒径が30~200ミクロンである、本発明1005の医薬組成物。
[本発明1007]
前記希釈剤の平均粒径が50~150ミクロンである、本発明1006の医薬組成物。
[本発明1008]
前記ラクトースの機能上の類似体が、セルロース及び誘導体、デンプン及び誘導体、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、またはそれらの混合物から選択される、本発明1005の医薬組成物。
[本発明1009]
前記ラクトースの機能上の類似体の平均粒径が50~150ミクロンである、本発明1008の医薬組成物。
[本発明1010]
前記希釈剤が、
前記活性薬剤の前記乾燥粉末粒子の凝集を防ぎかつ前記組成物中における当初の粒径及び形状を維持するための、唯一の賦形剤
である、本発明1001の医薬組成物。
[本発明1011]
前記活性薬剤の前記乾燥粉末粒子が実質的に球形である、本発明1001の医薬組成物。
[本発明1012]
必要とする患者への鼻腔内投与に使用するための本発明1001の医薬組成物であって、前記投与が鼻腔の最上部領域を標的とし、それによって前記活性薬剤を前記患者の脳へ、鼻から脳(N2B)送達する、前記医薬組成物。
[本発明1013]
必要とする患者への鼻腔内投与に使用するための本発明1001の医薬組成物であって、前記投与が鼻腔の最上部領域を標的とし、それによって経粘膜的に全身投与する、前記医薬組成物。
[本発明1014]
乾燥粉末形態の本発明1001の医薬組成物を製造するための装置であって、
a)少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気中の前記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得ることが可能な噴霧乾燥チャンバ[1]であって、前記溶液が希釈剤を含まない、噴霧乾燥チャンバ[1]と、
b)前記噴霧乾燥チャンバ[1]から前記乾燥粉末粒子及び前記湿潤空気流を受け入れ、渦流分離によって前記湿潤空気から前記粒子を分離し、前記空気を排出し、バッグフィルタを介して前記分離された粒子を受け入れチャンバ[3]に移送することが可能な、サイクロン分離器[2]と、
c)希釈剤が予め充填され、前記サイクロン分離器[2]から前記分離された乾燥粉末粒子を受け入れ、前記粒子を前記希釈剤と共に機械的に撹拌及び均一化して、前記実施形態の乾燥粉末形態の医薬組成物を得るように適合された受け入れチャンバ[3]であって、前記希釈剤が、前記受け入れチャンバ[3]中における撹拌中に前記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に前記粒子と混ざり合い、それによって前記粒子の凝集を防ぎ、前記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な、前記受け入れチャンバ[3]と
を備える、前記装置。
[本発明1015]
乾燥粉末形態の本発明1001の医薬組成物の製造方法であって、
A.有機溶媒もしくは溶媒混合物中、溶媒-水もしくは水混和性溶媒混合物中、または水中の、少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を調製するステップと、
B.受け入れチャンバ[3]に希釈剤を充填し、前記受け入れチャンバ[3]中の前記希釈剤を連続的に撹拌するステップと、
C.ステップ(A)において調製された前記溶液を加熱空気と共に噴霧乾燥チャンバ[1]に流し、前記噴霧乾燥チャンバ[1]中で前記溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気中の前記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得、且つ前記得られた乾燥粉末粒子と前記湿潤空気流をサイクロン分離器[2]に移送するステップと、
D.前記サイクロン分離器[2]中で渦流分離によって前記湿潤空気から前記粒子を分離し、前記空気を排出し、且つバッグフィルタを介して前記分離された粒子を前記受け入れチャンバ[3]に移送するステップと、
E.ステップ(D)から受け入れた前記粒子を前記受け入れチャンバ[3]中の前記希釈剤と撹拌及び均一化して、前記実施形態の乾燥粉末形態の医薬組成物を得るステップであって、前記希釈剤が、前記受け入れチャンバ[3]中における撹拌中に前記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に前記粒子と混ざり合い、それによって前記粒子の凝集を防ぎ、前記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な、前記ステップと、
F.希釈剤を添加し、ステップ(E)で得られた前記医薬組成物を更なる量の前記希釈剤と更に混合して、前記医薬組成物において所望の活性薬剤対希釈剤比を達成するステップと
を含む、前記製造方法。
種々の実施形態によって種々の利点が可能になる場合があり、種々の実施形態を種々の用途との関連で用いる場合がある。1または複数の実施形態の詳細を添付の図面及び以下の説明に記載する。記載する技法の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面から、及び特許請求の範囲から明らかとなろう。
【0028】
開示する実施形態は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明からより完全に理解及び認識されよう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】受け入れチャンバが空の(希釈剤または脱凝集剤が予め充填されていない)場合の、スマトリプタンコハク酸塩凝集粉末の走査電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図2】粒子エンジニアリング及び凝集の防止に好適な、本実施形態の改造された噴霧乾燥装置の概略図である。
【
図3】鼻腔内送達製剤用の乾燥粉末のラクトース一水和物(「C」及び「O」元素を含む大きな立方体粒子すなわちトマホーク型粒子)及びスマトリプタンコハク酸塩粒子(「S」元素も含む小さな球形粒子)のSEM像である。
【
図4】鼻腔内送達製剤用の乾燥粉末のラクトース一水和物(「C」及び「O」元素を含む大きな立方体粒子すなわちトマホーク型粒子)及びスマトリプタンコハク酸塩粒子(「S」元素も含む小さな球形粒子)のSEM像である。
【
図5】本実施形態の医薬組成物(実施例3を参照)の粒径分布を示す図である。粒子の2つの集団、すなわち、5~25ミクロン(μm)の範囲の活性薬剤(API)及び50~200ミクロンの範囲のラクトース(D(10)=11.6μm、D(50)=95.4μm、D(90)=155μm)が明確に見られる。
【
図6】本実施形態の医薬組成物(実施例3を参照)中のAPIの粒径分布を示す図である。平均粒径は12μmである。
【
図7】鼻腔内投与用の本実施形態の乾燥粉末組成物中のラクトース一水和物(大きな多面体)及びアルプラゾラムの混合物のSEM像(100倍)である。
【
図8a】経鼻投与製剤用の本実施形態の乾燥粉末組成物のラクトース一水和物(大きな多面体)及びアルプラゾラム(小さな多面体)のSEM像(1200倍)である。
【
図8b】上記大きな多面体のX線元素分析を示す図であり、上記大きな多面体が「C」及び「O」原子を含有するラクトース一水和物の粒子であることが確認される。
【
図8c】上記小さな多面体のX線元素分析を示す図であり、上記小さな多面体が「C」、「O」、及び「Cl」原子を含有するアルプラゾラムの粒子であることが確認される。
【
図9】鼻腔内投与用の本実施形態の乾燥粉末組成物中のラクトース一水和物(大きな多面体)とオキシコドン塩酸塩(小さな非凝集球体)との混合物のSEM像(600倍)である。
【
図10】本実施形態の医薬組成物(実施例14を参照)の粒径分布を示す図である。粒子の2つの集団、すなわち、3~30μmの範囲のオキシコドン塩酸塩及び50~200μmの範囲のラクトースが明確に見られる。D(10)=57.4μm、D(50)=97.3μm、D(90)=151μm。
【
図11】鼻腔内投与用の本乾燥粉末組成物のラクトース一水和物(大きな多面体)(粒子1)及びインスリン-塩化ナトリウム(小さな球体)(粒子2、3、4、及び5)のSEM像(2400倍)である。
【
図12】インスリン分子の「C」、「O」、及び「S」原子と塩化ナトリウム塩の「Na」及び「Cl」原子を含有する粒子2のX線元素分析を示す図である。
【
図13】本実施形態の医薬組成物(実施例19を参照)の粒径分布を示す図である。粒子の2つの集団、すなわち、5~35μmの範囲のインスリン-塩化ナトリウム及び50~200μmの範囲のラクトースが明確に見られる。D(10)=57.4μm、D(50)=97.3μm、D(90)=151μm。
【
図14】10mg/kgの用量で12頭のSDラットに強制経口投与(「経口」と表示)及び鼻腔内粉末(「鼻腔内」と表示)を投与した後のラットの血漿におけるオキシコドン薬物動態プロファイルを示す図である。
【
図15】10mg/kgの用量で12頭のSDラットに強制経口投与(「経口」と表示)及び鼻腔内粉末(「鼻腔内」と表示)を投与した後のラットの脳におけるオキシコドン薬物動態プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
以下の説明においては、本出願の種々の態様を説明する。説明することを目的として、本出願を完全に理解することができるように、特定の構成及び詳細を記載する。しかしながら、本出願は、本明細書に示す特定の詳細がなくとも実施することができることも当業者には明らかであろう。更に、本出願を不明瞭なものとしないために、周知の特徴を省略または簡略化する場合がある。
【0031】
本明細書において用いる用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。特許請求の範囲において用いる用語「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」は、その後に列挙される成分及びステップに限定されると解釈されるべきではなく、他の成分またはステップを排除するものではない。上記用語は、言及する特徴、整数、ステップ、及び/または成分の存在を言及するそのものとして特定するものと解釈する必要があり、1または複数の他の特徴、整数、ステップ、もしくは成分、またはそれらの群の存在及び/または追加を排除するものではない。したがって、表現「AとBとを含む組成物」の範囲は、成分AとBのみからなる組成物に限定されるべきものではない。また、表現「ステップXとZとを含む方法」の範囲は、これらのステップのみから構成される方法に限定されるべきものではない。
【0032】
明記がない限り、本明細書では、用語「約」は、当技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均値の2標準偏差内であると理解される。一実施形態において、用語「約」は、「約」が付されている数字の記載された数値の10%以内、好ましくは記載された数値の5%以内を意味する。例えば、用語「約」は、記載される値の10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内、0.1%以内、0.05%以内、または0.01%以内とすぐに理解することができる。他の実施形態において、用語「約」は、例えば用いられる実験技法に応じて、変動のより大きな許容範囲を意味する場合がある。当業者であれば上記指定される値の変動は理解し、該変動は本発明の文脈の範囲内である。例として、「約1~約5」の数値範囲は、明示的に列挙された約1~約5の値を含むだけでなく、表示された範囲内の個々の値及び下位範囲も含むと解釈されるべきものである。したがって、この数値範囲には、2、3、及び4などの個々の値ならびに下位範囲、例えば1~3、2~4、及び3~5、のみならず、1、2、3、4、5、または6が個々に含まれる。これと同一の原理が、最小値または最大値として1つの数値のみを挙げる範囲に対しても適用される。文脈から別段であることが明確でない限り、本明細書に示される全ての数値は、用語「約」によって修飾される。「実質的に」、「一般に」、「~まで」などの他の類似の用語は、語または値が絶対的ではないものとなるように当該の語または値を修飾すると解釈されるべきものである。かかる用語は、状況及び該用語が修飾する語によって、該用語が当業者によって理解されるように定義されることとなる。これには、少なくとも、値の測定に用いられる所与の実験、技法、または機器の予想される実験誤差、技術的誤差、及び機器誤差の程度が含まれる。
【0033】
本明細書では、用語「及び/または」は、1または複数の関連する列挙される事項の任意の組み合わせを包含する。別段の定義がなされない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。一般的に使用される辞書において定義される用語などの用語は、本明細書及び関連技術の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書において明示的にそのように定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきものではないことが更に理解されよう。簡潔に及び/または明確にする目的で、周知の機能または構造は詳細に説明しない場合がある。
【0034】
ある構成要素が、別の構成要素の「上にある」、別の構成要素に「取り付けられている」、「接続されている」、「結合されている」、「接触している」などと言及される場合、上記構成要素は、直接上記他の構成要素の上にある、他の構成要素に取り付けられている、接続されている、結合されている、もしくは接触していてもよく、または介在する構成要素が存在してもよい。対照的に、ある構成要素が、例えば、別の構成要素の「直接上にある」、別の構成要素に「直接取り付けられている」、「直接接続されている」、「直接結合されている」、または「直接接触している」場合、介在する構成要素は存在しない。また、当業者であれば、別の機構に「隣接して」配置される構造または機構への言及は、上記隣接する機構と重複するまたは該隣接する機構の基礎をなす部分を有していてもよいことも理解しよう。
【0035】
用語「活性薬剤」、「薬学的に活性な薬剤」、「活性物質(active)」、「API」、「活性医薬成分」、「活性物質(active substance」、「活性分子」、「活性化合物」、または「薬物」は同義で用いられる。
【0036】
別段の定義がなされない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。一般的に使用される辞書において定義される用語などの用語は、本明細書及び関連技術の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書において明示的にそのように定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきものではないことが、更に理解されよう。簡潔に及び/または明確にする目的で、周知の機能または構造は詳細に説明しない場合がある。
【0037】
一実施形態において、鼻腔内(鼻から脳への)N2B投与のための乾燥粉末の形態の医薬組成物を必要とする患者への上記医薬組成物は、少なくとも1種の活性薬剤の固体粒子と希釈剤の固体粒子とを含み、上記固体希釈剤以外の賦形剤を実質的に含まず、平均粒径が10~30ミクロンの上記少なくとも1種の活性薬剤の粒子の含有量が少なくとも90%であり、平均粒径が5ミクロン以下の上記少なくとも1種の活性薬剤の粒子の含有量が10%未満である。上記希釈剤の粒子の平均粒径は30~200ミクロンである。
【0038】
本実施形態の組成物は、ラクトース一水和物またはラクトースの機能上の類似体などの上記固体希釈剤以外の如何なる賦形剤も本質的に含まない。別の実施形態において、組成物の上部鼻粘膜(鼻腔の奥に位置する鼻甲介組織及びリンパ組織)を介した経粘膜全身送達による鼻腔内投与用の乾燥粉末の形態の医薬組成物は、平均粒径が10~30ミクロンの範囲の活性薬剤を含み、少なくとも90%の上記活性薬剤の粒子の平均粒径は5ミクロン以上且つ30ミクロン以下である。上記希釈剤の粒子の平均粒径は30~200ミクロンの範囲である。上記のように、上記希釈剤は、少なくとも1種の活性薬剤を含有する乾燥粉末粒子の凝集を防止するためにも使用される。
【0039】
一見すると、粒径がより大きいと、上記活性薬剤のN2B生物学的利用能が相対的により低くなると思われる。しかし、これは、本発明における上記活性物質のより大きな粒子の吸収が、上記活性物質の鼻粘膜上での滞留時間が長いことに起因してより良好になることにより相殺される。したがって、この特定の粒径範囲の乾燥粉末組成物の投与によって二重の利点、すなわち、一方で、上記活性薬剤の吸収がより良好であること、他方で、相対的に大きな粒子の鼻腔の上部への直接的な送達を用いるこの投与様式には、肺への送達に起因する全身的な影響が実質的にないことが得られる。更なる実施形態において、鼻腔内N2B投与用の本医薬組成物は、粒径が約10ミクロン~約30ミクロンの範囲である活性薬剤を含み、90%を超える上記活性薬剤の粒子が5ミクロンを超え、該活性薬剤は鼻腔の上部に送達される。尚も更なる実施形態において、本組成物は、平均粒径が10~30ミクロンの範囲の活性薬剤であって、少なくとも90%のその粒子の平均粒径が5ミクロン以上且つ30ミクロン以下である上記活性薬剤と、粒径が30~200ミクロンの範囲である希釈剤とを含み、上記組成物は、鼻から脳への(N2B)送達、もしくは全身送達、またはそれらの両方のいずれかによって投与されてもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、本出願の鼻腔内送達方法は、鼻粘膜、嗅覚領域、三叉神経、及び辺縁系の他の構造へ乾燥粉末を送達する。別の実施形態において、本医薬組成物は、上記活性薬剤を鼻腔の上部領域に送達するために用いられる。この上部領域とは、血液脳関門を迂回し、脳脊髄液(CSF)及び脳への輸送を可能にする唯一の領域を意味する。
【0041】
本実施形態の組成物は、加圧装置、乾燥粉末噴霧器、または二方向鼻用装置などの当技術分野で公知の鼻用装置のいずれか1つによって送達することができる。単回投与装置のみならず、複数回投与装置を用いてもよい。
【0042】
いくつかの実施形態において、EMA及びFDAの指針(EMA Guideline:Guideline on the Pharmaceutical Quality of Inhalation and Nasal Products(June 2006);FDA Guidance for Industry(Chemistry,Manufacturing & Controls Documentation):Metered-Dose Inhaler(MDI) & Dry Powder Inhaler(DPI)Drug Products(October 1998))の要件である商業的可能性を有する鼻腔内粉末製剤の望ましい特性は、本実施形態の組成物の固有の特徴である。鼻腔内投与用装置による初期の及び保存した製剤の均一な用量送達性を実施例22に例示する。投与量の測定値のいずれも、ラベル表示の75~125%の範囲外ではなかった。
【0043】
本出願は、望ましくない肺への投与を排除するための、5ミクロン未満の小粒子の含有量が5%未満の鼻腔内送達用の乾燥粉末形態の医薬組成物の製造装置及び製造方法を提供する。
図2は、乾燥粉末形態の本実施形態の医薬組成物の製造装置を示す概略図であり、上記装置は以下の構成要素、すなわち、
a)希釈剤を含まない、少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を噴霧乾燥して、湿潤空気中の上記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得ることが可能な噴霧乾燥チャンバ[1]と、
b)上記噴霧乾燥チャンバ[1]から上記乾燥粉末粒子及び上記湿潤空気流を受け入れ、渦流分離によって上記湿潤空気から上記粒子を分離し、上記空気を排出し、バッグフィルタを介して上記分離された粒子を受け入れチャンバ[3]に移送することが可能なサイクロン分離器[2]と、
c)希釈剤が予め充填され、サイクロン分離器[2]から上記分離された乾燥粉末粒子を受け入れ、上記粒子を上記希釈剤と共に機械的に撹拌及び均一化して、上記実施形態の乾燥粉末形態の医薬組成物を得るように適合された受け入れチャンバ[3](または「受け入れ器」)であって、上記希釈剤が、上記受け入れチャンバ[3]中における撹拌中に上記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に上記粒子と混ざり合い、それによって上記粒子の凝集を防ぎ、上記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な上記受け入れチャンバ[3](または「受け入れ器」)と
を備える。
【0044】
上記噴霧乾燥チャンバは、上記活性薬剤溶液の液滴を生成させ、該液滴及び粉末の粒径を制御し、熱伝達及び溶媒の揮発速度を最大化するために用いられるノズルを備える。したがって、本実施形態の噴霧乾燥装置は、上記活性薬剤を含む上記液体溶液の流れを受け入れ、上記ノズルを通してこれを窒素または空気などの加熱ガス流中に噴霧し、溶媒を蒸気として除去する。液体分が液滴から急速に離脱し、乾燥粉末が生成する。液滴径は、用いる特定のノズルに応じて、20~180μmの範囲であってよい。本実施形態において、上記噴霧される上記活性薬剤の溶液は如何なる希釈剤も含まない。
【0045】
上記ノズルは、上記活性薬剤の溶液を加熱空気流中に噴霧するように設計され、それによって上記噴霧乾燥チャンバ中で上記加熱空気流と噴霧された溶液とが完全に混合され且つ均一に分布し、上記チャンバ全体で、上記混合物から実質的に完全に、液体が蒸発し、上記活性薬剤の固体粒子が乾燥する。特定の実施形態において、上記噴霧乾燥チャンバは、10~30μmの範囲のAPI粒子径を制御する適当な開口部を有する二流体ノズルを備える。上記流体の一方は如何なる希釈剤も含まない活性薬剤溶液であり、他方の流体は乾燥用のガスまたは空気である。
【0046】
実験室規模においては、上記受け入れチャンバを回転させることに加えて、磁気撹拌機及び適当な大きさの磁気撹拌子を用いることによって撹拌及び均一化することができる。工業規模においては、適当な大きさ及び形態の機械的撹拌機を用いるか、または上記受け入れチャンバ全体を揺り動かす、回転させる、及び振動させることによって、撹拌及び均一化することができる。従来の噴霧乾燥装置は、活性薬剤の乾燥粉末粒子を集取する空の受け入れチャンバを備える。この受け入れ器は、継続的なプロセスを確保するために時々空にされる。対照的に、本出願は、上記乾燥粉末粒子の凝集を防止し、該粒子の当初の粒径及び形状を維持するための、連続的に撹拌される希釈剤を予め充填した受け入れチャンバを開示する。
【0047】
乾燥粉末形態の本実施形態の医薬組成物の上記製造方法は、如何なる希釈剤または賦形剤も含まない、少なくとも1種の活性薬剤の溶液を加熱空気で迅速に乾燥する噴霧乾燥プロセスに基づき、それによって、上記活性薬剤の乾燥粉末を生成させる。この方法
は、以下のステップ、すなわち、
A.有機溶媒もしくは溶媒混合物中、溶媒-水もしくは水混和性溶媒混合物中、または水中の少なくとも1種の活性薬剤の透明且つ均一な溶液を調製するステップと、
B.上記受け入れチャンバに希釈剤を充填し、上記受け入れチャンバ中の上記希釈剤を連続的に撹拌するステップと、
C.ステップ(A)において調製された上記溶液を加熱ガスと共に上記噴霧乾燥チャンバに流し、上記噴霧乾燥チャンバ中で上記溶液を噴霧乾燥して、湿潤ガス中の上記少なくとも1種の活性薬剤の乾燥粉末粒子を得、且つ上記得られた乾燥粉末粒子と上記湿潤ガス流を上記サイクロン分離器に移送するステップと、
D.上記サイクロン分離器中で渦流分離によって上記湿潤ガスから上記粒子を分離し、上記ガスを排出し、且つバッグフィルタを介して上記分離された粒子を上記受け入れチャンバに移送するステップと、
E.ステップ(D)から受け入れた上記粒子を上記受け入れチャンバ中の上記希釈剤と撹拌及び均一化して、乾燥粉末形態の本実施形態の医薬組成物を得るステップであって、上記希釈剤が、上記受け入れチャンバ中における撹拌中に上記粒子と衝突し、イン・サイチュで連続的に上記粒子と混ざり合い、それによって上記粒子の凝集を防ぎ、上記粒子の当初の粒径及び形状を維持することが可能な上記ステップと、
F.希釈剤を添加し、ステップ(E)で得られた上記医薬組成物を更なる量の上記希釈剤と更に混合して、上記医薬組成物において所望の活性薬剤対希釈剤比を達成するステップと
を含む。
【0048】
上記噴霧乾燥プロセス中で使用されるガスは通常空気である。但し、上記溶媒が可燃性、例えばエタノール、であるか、生成物が酸素感受性である場合は、空気に代えて窒素または任意の他の適宜の不活性ガスを用いてもよい。
【0049】
特定の実施形態において、上記活性薬剤の上記透明且つ均一な溶液は、遊離塩基としてのまたは塩としての活性薬剤を、有機溶媒、2種以上の有機溶媒の混合物、または水に溶解することによって得られる。本実施形態の方法における上記ガスの出口温度は、一般に約75℃以下、好ましくは約70℃以下、より好ましくは約59℃以下、更により好ましくは約52℃以下、または約50℃である。上記ガスの入口温度は、一般に約75℃以上、好ましくは約80℃以上、より好ましくは約90℃以上、更により好ましくは約100℃以上、更により好ましくは約110℃以上、または約120℃である。上記プロセスで得られる揮発性生成物は有機溶媒及び/または水である。水の体積は、揮発分の体積の50%以上である必要がある。特定の実施形態において、乾燥粉末形態の本医薬組成物の本製造方法においては、第3種有機溶媒が用いられる。乾燥後の残留溶媒含有量は0.5%未満である。
【0050】
本実施形態の組成物の薬物(活性薬剤)含有量は、片側の鼻孔への単回用量として、治療効果を得るために必要な薬物の総用量を与えるように調整することができる。活性物質の量を2倍にするために、薬物投与をもう片方の鼻孔において繰り返してもよい。本実施形態の組成物の保存時の安定性を加速した周囲条件下で測定した。
【0051】
本実施形態の組成物の鼻腔内送達に用いられる装置は、初期の組成物及び保存した組成物の適当なプルームの形状及び噴霧パターンを与えるように設計してもよい。いくつかの実施形態において、これらの組成物は、メジアン径が10~20ミクロンの狭い粒径分布を有していてもよい。
【0052】
鼻腔内送達用の、本実施形態の乾燥粉末の形状及び粒子モルホロジーを、電子顕微鏡を用いて特性決定した。ここで、粒子の多面体形状を示す
図8a~8c及び実施例13(後述の実験項中)を参照する。
図3、4、9、及び11は球形粒子を示し、その鼻道のより深い領域に到達することに関する寄与はより顕著である可能性がある。
【0053】
経鼻送達用の乾燥粉末形態の本実施形態の医薬組成物の、本実施形態の製造プロセスは、圧倒的に球形の粒子の集団を生成する。稀に、本活性薬剤が多面体形状の結晶粒子または球形/多面体の混合物を形成する場合がある。
【0054】
鼻腔内粉末製剤を開発する多くの以前の試みにおいて、満足のいく安全性及び忍容性プロファイルを含む1またはいくつかの所望の特性が満たされなかった。本実施形態の組成物は、これらの所望の特性の一部または全てを有するように設計されている。これらの組成物は2種の必須成分、すなわち、
(a)親水性または親油性活性薬剤であってよい上記活性薬剤であって、上記親水性活性成分は嗅粘膜を介して脳に送達することができ、上記親油性活性薬剤は鼻粘膜を介して全身循環に送達され、その後肝臓を迂回して脳に送達することができる、上記活性薬剤と、
(b)上記活性薬剤粒子の凝集を防止し、該粒子の当初の粒径及び形状を維持するためにも用いられるラクトース一水和物またはラクトース一水和物の機能上の類似体と
を有する。
【0055】
本実施形態の活性薬剤は、一般的な感冒治療薬、抗中毒薬、抗感染症薬、鎮痛剤、麻酔薬、食欲不振薬、抗関節炎剤、抗アレルギー剤、抗喘息薬、抗けいれん薬、抗うつ剤、抗糖尿病薬、抗うつ剤、抗利尿剤、制吐剤、抗ヒスタミン剤、降圧剤、抗炎症剤、抗片頭痛薬、抗乗り物酔い薬、制吐剤、抗新生物剤、抗肥満薬、抗骨粗鬆症、抗パーキンソン病薬、鎮痒薬、抗精神病薬、解熱剤、抗コリン薬、ベンゾジアゼピン拮抗薬、骨刺激剤、中枢神経系刺激剤、ホルモン、催眠薬、免疫抑制剤、プロスタグランジン、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド及びその他の高分子、精神刺激剤、鼻炎の治療に用いる化合物、性的機能不全の治療に用いる化合物、鎮静剤、既知または疑われるオピオイド過剰摂取の治療に用いる化合物、精神安定剤及びビタミン、プロバイオティクス、天然成分、サイトカイン、ホルモン、凝固因子、ワクチン、モノクローナル抗体、アミノ酸などのペプチドまたはタンパク質治療薬、またはそれらの組み合わせから選択される親水性または親油性の、化学的または生化学的な固体治療物質である。
【0056】
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、スマトリプタンコハク酸塩、ゾルミトリプタン塩、ナラトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、ブピバカイン、線維芽細胞成長因子、セファレキシン、リドカイン、クロバザム、ミダゾラム、アルプラゾラム、ジアゼピン、ロラゼパム、デクスメデトミジン、モノシアロガングリオシド、コカイン、インスリン、グルカゴン、オキシトシン、フェンタニル、スルフェンタニル、ジアモルヒネ、ケタミン、アポモルヒネ、ブプレノルフィン、硫酸モルヒネ、オキシコドン塩酸塩、ブトルファノール、NSAID、パラセタモール、ベンゾジアゼピン、ドーパミン、プラミペキソール、ラサギリン、ロギチン、オンダンセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ナロキソン、ナルトレキソン、アトロピン、アドレナリン、大麻活性化合物、エピネフリン、二硝酸イソソルビド、オビトキシン(obitoxine)、デクスメデトミジン、メトクロルプラミド、L-ドパ、ニコチン、シルデナフィル、ナファレリン、ドブタミン、フェニレフリン、トラマゾリン、キシロメタゾリン、トラマドール、メタコリン、イプラトロピウム、スコポラミン、プロプラノロール、ベラパミル、ヒドララジン、ニトログリセリン、クロフィリウムトシル酸塩、大麻活性化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩、異性体、及び混合物から選択される。
【0057】
特定の実施形態において、経鼻送達用の上記活性薬剤の乾燥粉末は、平均粒径が10ミクロン~30ミクロンの粒子の含有量が少なくとも90%であり、平均粒径が5ミクロン以下の粒子の含有量が10%未満である。上記粒径は、レーザー回折法を用いて測定される。上記活性薬剤粒子は、球形、楕円体形、多面体形、立方体形、板状形、または針状形であってよい。好ましい粒子形状は球形及び楕円体形である。これらの形状によって、上記活性薬剤の最良の空力特性が与えられる。上記薬物粒子の形状及びモルホロジーは電子顕微鏡を用いて測定される。
【0058】
本実施形態の固体希釈剤は、ラクトース一水和物またはラクトース一水和物の機能上の類似体、例えば、ラクトース、セルロース及び誘導体、デンプン及び誘導体、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、またはそれらの混合物から選択される。好ましい固体希釈剤はラクトース一水和物である。
【0059】
ラクトースは、α-ラクトース一水和物、無水β-ラクトース、または非晶性ラクトースの形態で存在してもよい。α-ラクトース一水和物は、一般的に使用されるDPI(乾燥粉末吸入剤)の賦形剤であり、肺送達経路におけるDPIの薬局方賦形剤である。本実施形態のラクトース一水和物は、0.6~0.8g/mlの嵩密度と、一部トマホーク型の結晶を有し、粒径分布は以下の通り、すなわち、D10 30~60μm、D50 70~110μm、及びD90 110~150μmである。
【0060】
Jagdeep Shur et al,‘‘From single excipients to dual excipient platform in dry powder inhaler products’’,International Journal of Pharmaceutics(2016),514,pages 374-383によれば、単一賦形剤プラットフォーム(SEP)が、多くの商用DPI製品において用いられる最も一般的な賦形剤戦略であった。認可されたSEP DPI製品の大部分は、周知の「担体」手法に基づいて開発されてきた。SEP系DPI製品における単一の賦形剤の役割または機能は、慣例で「分散剤」、「充填剤」、「希釈剤」、または「担体」として説明されてきた。「担体」の記述は現在、学術界、産業界、規制界で非常に一般的であるため、2014年に米国薬局方の呼吸器の節に導入された(概説の1059章)。かかる「担体」賦形剤(多くの場合小粒径のもの)も、「凝集」製剤と呼ばれるものに用いられる。これは、本実施形態の大粒径(50~200ミクロン)のラクトースまたはラクトースの機能上の類似体とは対照をなす。したがって、通常のDPIとは異なり、本実施形態の賦形剤(ラクトースまたはラクトースの機能上の類似体など)の粒子径はかなり大きく(50~200ミクロン)、本実施形態の賦形剤は、多機能性ではあるが、主として、活性薬剤の大幅に小さな粒子の凝集の防止、該粒子の解凝集、及び本組成物の均一化を目的として希釈剤及び担体として使用される。したがって、本実施形態の賦形剤は、本出願全体を通して「希釈剤」と呼ばれる。
【0061】
本実施形態のラクトース一水和物固体希釈剤が、上記噴霧乾燥された活性薬剤と上記希釈剤とが上記噴霧乾燥装置の受け入れチャンバ中においてイン・サイチュで混合される場合に、上記活性薬剤粒子の凝集(aggregation)または凝集(agglomeration)の防止に、または鼻腔内投与用の本乾燥粉末組成物の製造における脱凝集剤または解凝集剤として役立つことができるということは、驚くべき且つ予想外の知見である。実際、平均径50~200μmのラクトース一水和物の大きな粒子が、平均径10~30μmの小さな上記活性薬剤粒子の凝集を防止することができることは、予測不能且つ驚くべきことである。したがって、上記ラクトース一水和物粒子は、鼻道に入ること、及び発動後に嚥下されることはない。
【0062】
したがって、本実施形態の組成物は、少なくとも1種の活性薬剤とラクトースまたはラクトースの機能上の類似体などの希釈剤とを含み、界面活性、脂質物質、溶媒、または噴射剤などの他の賦形剤を実質的に含まない。ほとんどのDPI製剤は、希釈剤としてのラクトース一水和物に依存している。しかしながら、ラクトースは、メイラード反応においてラクトースの還元糖機能と相互作用する活性化合物を含む組成物には使用できない。ラクトースに代えて固体希釈剤として使用することができ、特にラクトース不耐症を患う患者のための代替手段として、一部の組成物においてラクトースを置き換えることができる、本実施形態のラクトースの機能上の類似体は、セルロース及び誘導体、デンプン及び誘導体、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、またはそれらの混合物から選択される。これらの希釈剤の粒子径も50~200μmの範囲である。
【0063】
本実施形態の医薬組成物は、1種もしくは複数種の薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、またはそれらの両方を更に含んでいてもよい。本実施形態の医薬組成物は、粉末、単純な粉末混合物、粉末ミクロスフェア、被覆された粉末ミクロスフェア、リポソーム分散液、またはそれらの組み合わせの形態で製造されてもよい。
【0064】
従来の噴霧乾燥プロセスは、プロセスの開始時に空の受け入れチャンバを使用する。かかる受け入れチャンバに噴霧乾燥された生成物の粉末が充填され、該チャンバは継続的なプロセスを確保するために時々空にされる。しかしながら、本実施形態においては、上記受け入れチャンバには、活上記性薬剤粒子の凝集の防止または解凝集を目的として、連続的に撹拌される希釈剤が予め充填される。経鼻送達用の乾燥粉末の標準的な製造方法は、通常、上記固体粒子の脱凝集及び解凝集を目的として、ならびに該粒子の凝集の防止を目的として、界面活性剤及び脂質物質を使用する。驚くべきことに且つ予想外に、50~100μmの粒径範囲の、ラクトースまたはラクトースの機能上の類似体などの希釈剤のかなり粗大な粒子が、10~30μmの粒径範囲の上記活性薬剤粒子の凝集を防止することが見出された。更なる実施形態において、上記活性薬剤乾燥粉末の脱凝集及び解凝集方法ならびに該固体粒子の凝集の防止方法は、本実施形態の噴霧乾燥装置の受け入れチャンバ中で、上記薬剤乾燥粉末を希釈剤、好ましくはラクトース一水和物とイン・サイチュで機械的に混合することを含む。
【0065】
鼻吸入用の乾燥粉末形態の上記活性薬剤は、通常、広い粒径分布及び非球形の且つ不均一な形状の粒子を生じるジェットミリングまたは湿式粉砕技法によって製造される。更に、上記ジェットミリングまたは湿式粉砕法においては、5μm未満の粒子が生成する。これらの5μm未満の粗大な吸入用粒子は、鼻への噴霧(鼻への噴霧装置を用いた)または吸入(吸入装置を用いた)によって容易に肺に到達し、肺に小さな傷及び瘢痕を生じさせる場合があり、これが起こるたびに、非常に少量の不可逆的な損傷を引き起こす。即座の影響は知覚されないが、これによって、一定の期間にわたって、肺容量の大幅な低下、及び他の多くの健康上の問題を生じる可能性がある。したがって、鼻腔内投与用には、2~10μmの範囲、特には5μm未満の乾燥粉末粒子の生成は、あらゆる手段によって回避されるべきである。本出願は、鼻への噴霧または吸入器での使用に安全な、狭い粒径分布(10~30μm)の球形状を有する本実施形態の活性薬剤粒子の製造方法を開示することにより、この問題に対する解決策も提供する。
【0066】
いくつかの実施形態において、経鼻送達による活性薬剤の投与様式であって、上記活性薬剤の粒径が10μmを超え、粒径分布の範囲が狭く、上記粒子が実質的に球形または楕円体形であり、この活性薬剤を含む組成物が鼻への噴霧装置を用いた噴霧または吸入装置を用いた吸入により投与される、上記投与様式が提供される。
【0067】
上述のように、本実施形態の製造方法は、2つの主要なステップ、すなわち、上記活性物質の透明且つ均一な溶液を乾燥、より好ましくは噴霧乾燥することと、次いで、得られた乾燥粉末をラクトースまたはラクトースの機能上の類似体などの上記固体希釈剤と混合し、それによって、活性薬剤及び固体希釈剤からなる乾燥粉末の形態の本実施形態の組成物であり、10~30μmの範囲の粒径及び球形の上記薬物粒子を有する上記組成物を得ることとによって特徴付けられる。これは、粒子径が5μm未満の複合活性薬剤粒子を生じる、特許文献US6,462,090、US20080292713、US20150010633、及びUS20160354288に記載される噴霧乾燥プロセスと対照をなす。本実施形態のプロセスにおける噴霧乾燥ステップでは、10μmより大きな活性薬剤粒子が生じる。次いで、この粒子は、該粒子の成長及びその凝集を防止するために、ラクトースなどの上記固体希釈剤とイン・サイチュで混合される。
【0068】
鎮痛剤、オピオイド、またはトリプタンなどの上記活性化合物を含有する、鼻腔内投与用の本実施形態の組成物は、迅速且つ効率的な疼痛緩和のために用いることができる。
【0069】
要約すると、いくつかの実施形態において、医薬組成物であって、上記固体希釈剤が唯一の賦形剤であり、上記固体希釈剤が上記組成物中での活性薬剤の凝集を防止するために用いられる、上記医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態において、上記活性薬剤の乾燥粉末粒子が実質的に球状の形態である医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態において、治療有効用量の本実施形態の医薬組成物は、それを必要とする患者に鼻腔内投与することができ、上記投与は、鼻腔の最上部領域を標的とし、それによって上記活性薬剤の上記患者の脳への鼻から脳への(N2B)送達、または経粘膜全身投与に繋がる。いくつかの実施形態において、上記投与によって、少なくとも1種の活性薬剤の全治療有効用量が片方の鼻孔に送達される治療方法が提供される。いくつかの実施形態において、治療有効用量の少なくとも1種の活性薬剤が1日1回投与される治療方法が提供される。いくつかの実施形態において、少なくとも1種の活性薬剤の治療有効用量が、非N2B送達様式を用いる類似の鼻腔内組成物の治療有効用量よりも低い治療方法が提供される。
【0070】
イン・ビボでの実験において、経口溶液剤と比較して、脳及び血漿に対する本発明の鼻腔内組成物の有意に改善された薬物動態プロファイル及び優れた効果が示されている(実施例24及び
図14~15を参照のこと)。本発明の鼻腔内粉末組成物では、経口溶液剤と比較して、血漿中の作用がより早く発現されること及び薬物濃度がより高いことが実証された。加えて、本発明の鼻腔内粉末組成物では、経口溶液剤と比較して、脳における作用がより早く発現されること及びより高い薬物濃度が持続することが実証された。
【実施例】
【0071】
以下の実施例は、本発明の特定の特徴を例証するが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。以下の実施例においては、文中で他の単位を用いることが具体的に言及される場合を除いて、用語「比」は重量/重量比を指す。
【0072】
材料
スマトリプタンコハク酸塩(SMS製)、ラクトース一水和物(Meggle Pharma製)、硫酸モルヒネ及びオキシコドン塩酸塩(Noramco製)、ナロキソン塩酸塩(Cilag製)、アセトアミノフェン(Greenville Plant製)、カンナビジオール(THC Pharm製)、アルプラゾラム(Centaur製)、ドーパミン塩酸塩及びインスリン(Sigma-Aldrich製)、プラミペキソール二塩酸塩(LGM Pharma製)、オンダンセトロン塩酸塩(Teva製)、エタノール及びアセトン(BioLab製)。
【0073】
方法
噴霧乾燥プロセスを、Buchi Labortechnik AGのMini Spray Dryer B-290を使用して実施した。磁気撹拌機(Fried Electric)を受け入れ器(受け入れチャンバ)の下に置き、適当な大きさの磁気撹拌子を上記受け入れ器に入れ、希釈剤を添加した。少なくとも1種の活性化合物を選択された溶媒または溶媒の混合物に溶解することにより、少なくとも1種の活性薬剤を含有する液体原料を調製した。HPLC及びDionex HPLC装置を用いて定量化を行った。Everhart-Thornley検出器を備えたFEI Quanta-200走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、噴霧乾燥粉末の画像を得た。20kVの加速電圧を印加して、250倍~10,000倍の倍率とした。更に、X線元素分析検出器(Link ISIS,Oxford Instruments,GB)を用いて、薬物及び粒子の同定を行い、DPI全体にわたるそれらの分布を測定した。粒径は、光回折法に基づき、Malvern Mastersizer 3000シリーズを用いて測定した。
【0074】
組成物中のオキシコドンアッセイは、Chromeleonソフトウェアを備えたDionex HPLC -PDA装置を用いて実施した。カラム:Agilent、ZORBAX SB-CN4.6×250mm、5μ。移動相:50mMのリン酸二水素カリウム緩衝液(pH3.0):アセトニトリル(40:60%、v/v)。流速:1.0mL/分。カラム温度:25℃。注入量:10μL。
【0075】
ラットの血漿及び脳中のオキシコドンのバイオアッセイならびに組成物中のオキシコドンアッセイは、Chromeleonソフトウェアを備えたDionex HPLC-PDA装置を用いて実施した。検出器:210nmでのUV。オキシコドンの保持時間(RT):約2.6分。希釈剤:水、標準試料及び試料の最終濃度は約4μg/mL。カラム:Agilent、ZORBAX SB-CN 4.6×250mm、5μ。勾配:移動相A:50mMのリン酸二水素カリウム緩衝液(pH3.0):アセトニトリル(45:10%、v/v)、移動相B:アセトニトリル。流速:1.0mL/分。カラム温度:25℃。注入量:50μL。検出:210nmでのUV。PDA 200~400nm。検量線:0.1μg/mL~4μg/mL、ラット血漿でスパイクすることにより調製。定量限界:0.05μg/mL。内部標準:アルプラゾラム。
【0076】
ラット血漿中のオキシコドンHClの処理
ISでスパイクした100μlの血漿(血清)を600μLのアセトニトリルと混合してタンパク質を沈殿させ、14000rpmで10分間遠心分離した。上清を窒素下で乾燥し、100μLのリン酸二水素カリウム緩衝液(pH3.0)で再構成した。
【0077】
ラットの脳内のオキシコドンHClの処理
個々の脳組織のそれぞれを予め秤量し、0.1Mの過塩素酸によって処理し、且つ均質化した。次いでISでスパイクし、1400μLのアセトニトリルと混合した。14000rpmで10分間遠心分離した後、上層を再度遠心分離した。上清を窒素下、40℃で乾燥し、100μLのリン酸二水素カリウム緩衝液(pH3.0)で再構成した。
【0078】
実施例1:ラクトースを含まないスマトリプタンコハク酸塩溶液の噴霧乾燥
本実施例は比較のみを目的とする参照例である。300rpmでの撹拌下で、スマトリプタンコハク酸塩(12.0g)を100mlの脱イオン(DI)水に溶解した。得られた透明且つ均一な溶液を、105℃の入口空気温度及び62℃の出口温度でBuchi Mini-Spray Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによって乾燥粉末を得た。SEM像(
図1を参照のこと)は、得られた粉末が高度に凝集していることを示した。上記画像上には500ミクロン(μm)に及ぶ大きな凝集体が明確に見られる。
【0079】
実施例2:市販のBuchi Labortechnik AGの噴霧乾燥機の改造
図2は本実施形態の改造された噴霧乾燥機を示す概略図である。Buchi Labortechnik AGのMini Spray-Dryer B-290を、
1.ガラス製受け入れ器に磁気撹拌子を入れ、上記噴霧乾燥器の連続的に回転するガラス製受け入れ器の下に磁気撹拌機を配置することと、
2.活性薬剤のみを含有する(希釈剤を含まない)溶液を、上記活性薬剤の10~30μmの乾燥粉末粒子を調製するのに適した微細な液滴に噴霧するために好適な、二流体噴霧ノズルを選択すること
とによって改造した。上記流体の一方は上記活性物質の透明且つ均一な溶液であり、2番目の流体は乾燥用のガスである。
【0080】
実施例3:ラクトース一水和物を含むスマトリプタンコハク酸塩組成物
300rpmでの撹拌下で、スマトリプタンコハク酸塩(2.3g)をアセトン(12g)とエタノール(12g)の混合物に溶解した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。上記活性物質(スマトリプタンコハク酸塩)の上記透明且つ均一な溶液を、60℃の入口空気温度及び55℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによって上記活性物質の乾燥粉末を得、これを更に、上記受け入れ器中でラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して撹拌を維持した。得られたスマトリプタン/ラクトース組成物中の活性薬剤としてのスマトリプタンの実測重量は15.4%であった。次いで、上記組成物を、必要な10%の活性薬剤(スマトリプタン)濃度に到達させるために、更なる量のラクトースと混合した。
【0081】
実施例4:スマトリプタンコハク酸塩組成物のSEM撮像
X線元素分析検出器と結合させた高解像度SEM撮像によって、製剤の個々の粒子のそれぞれをその化学的内容により識別する、他にはない機会が得られる。この技法を用いると、硫黄(S)原子を含有するスマトリプタンコハク酸塩の粒子は、炭素(C)及び酸素(O)原子を含有する(硫黄を含まない)ラクトース粒子と区別することができる。
図3及び4は、5μm~20μmの範囲の狭い粒径分布の小さな球形のAPI粒子を示し、これらの粒子は50μm~200μmの範囲の大きなラクトース多面体粒子間に分散している。
図3は100μmのスケールバーを伴う高解像度の像及び粒子の元素分析を示す。
図4は50μmのスケールバーを伴う高解像度の像を示す。
【0082】
実施例5:スマトリプタンコハク酸塩組成物の粒径分析
実施例3において調製したスマトリプタンコハク酸塩組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した(
図5及び6を参照のこと)。スマトリプタンコハク酸塩組成物について以下の粒径分布、すなわち、D(10)=7μm、D(50)=79μm、及びD(90)=179μmが得られた(
図5を参照のこと)。これらの図には粒子の2つの集団が明確に見られる。5~25μmの粒子はスマトリプタンコハク酸塩であり、50~200μmの粒子はラクトース一水和物である。5μm未満の径の粒子の量は約1%である。スマトリプタンコハク酸塩単独の粒径分布は0~40μmの範囲とで推定され(
図6を参照のこと)、以下の結果、すなわち、D(10)=5.2μm、D(50)=11.2μm、D(90)=20.1μm、及びD(99)=27.1μmが得られた。
【0083】
実施例6:ラクトース一水和物を含むアセトアミノフェン(パラセタモール)組成物
300rpmでの撹拌下で、アセトアミノフェン(パラセタモール)(2.3g)を65gのエタノールに溶解した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。上記薬物の上記透明且つ均一な溶液を、105℃の入口空気温度及び56℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによってパラセタモールの乾燥粉末を得、これを更にラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して撹拌を維持した。上記組成物中のパラセタモールの濃度は23%w/wであることが判明した。
【0084】
実施例7:パラセタモール組成物のSEM撮像
このSEM像(ここでは表示せず)では、2~30μmの狭い粒径分布のパラセタモールの小さな球形粒子が、50μm~200μmの範囲のラクトースの大きな多面体粒子の間に分散していることが示される。
【0085】
実施例8:パラセタモール組成物の粒径分析
実施例6で調製したパラセタモール組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した。以下の粒径分布、すなわち、D(10)=11.6μm、D(50)=95.4μm、及びD(90)=155μmが得られた。粒子の2つの別個の集団が明確に見られた。2~30μmの粒子はパラセタモールであり、50~200μmの粒子はラクトース一水和物である。5μm未満の径の粒子の割合は約7%w/wであった。
【0086】
実施例9:ラクトース一水和物を含む硫酸モルヒネ組成物
300rpmでの撹拌下で、硫酸モルヒネ(2.3g)を18.9gのエタノールと13.9gの水の混合物に溶解した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。上記活性薬剤の上記透明且つ均一な溶液を、110℃の入口空気温度及び86℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによって硫酸モルヒネの乾燥粉末を得、これを更に、上記受け入れ器中でラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して撹拌を維持した。上記組成物中の硫酸モルヒネの濃度は約32%w/wであり、モルヒネ塩基の濃度は約28%w/wであった。
【0087】
実施例10:硫酸モルヒネ組成物の粒径分析
実施例9において調製した硫酸モルヒネ組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した。以下の粒度分布、すなわち、D(10)=7.1μm、D(50)=70.7μm、及びD(90)=156μmが得られた。5μm未満の径の粒子の量は約6.6%w/wであった。
【0088】
実施例11:ラクトース一水和物を含むアルプラゾラム組成物
300rpmでの撹拌下で、アルプラゾラム(2.3g)を32.5gのエタノールに溶解した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。上記活性薬剤の上記透明且つ均一な溶液を、110℃の入口空気温度及び86℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによってアルプラゾラムの乾燥粉末を得、これを更に、上記受け入れ器中でラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して撹拌を維持した。上記組成物中のアルプラゾラムの濃度は約33%w/wであった。
【0089】
実施例12:アルプラゾラム組成物の粒径分析
実施例11において調製したアルプラゾラム組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した。以下の粒度分布、すなわち、D(10)=11.7μm、D(50)=88.0μm、及びD(90)=187μmが得られた。5μm未満の径の粒子の量は約0.6%w/wであった。
【0090】
実施例13:アルプラゾラム組成物のSEM撮像
図7は、5~40μmの狭い粒径分布のアルプラゾラムの小さな多面体粒子を示し、該粒子は50μm~200μmの範囲のラクトースの大きな多面体粒子の間に分散している。
図8は、得られたアルプラゾラム多面体粒子のX線分析を示し、この図において、C原子とO原子を含有する大きな粒子のみが必然的にラクトースであり、Cl原子を更に含有する小さな粒子が必然的にアルプラゾラムである。
【0091】
実施例14:ラクトース一水和物を含むオキシコドン塩酸塩組成物
300rpmでの撹拌下で、オキシコドン塩酸塩(2.3g)を9.9gのエタノールに溶解した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。上記活性薬剤の上記透明且つ均一な溶液を、90℃の入口空気温度及び56℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによって上記活性薬剤の乾燥粉末を得、これを更に、上記受け入れ器中でラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して受け入れ器中での撹拌を維持した。上記組成物中のオキシコドン塩酸塩の濃度は約41%w/wであり、オキシコドン塩基の濃度は約37%w/wであった。
【0092】
実施例15:オキシコドン塩酸塩組成物のSEM撮像
図9は、3~30μmの狭い粒径分布のオキシコドン塩酸塩の小さな球形粒子を示し、該粒子が50μm~200μmの範囲のラクトースの大きな多面体粒子の間に分散している。
【0093】
実施例16:オキシコドン塩酸塩組成物の粒径分析
実施例14において調製したオキシコドン塩酸塩組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した(
図10を参照のこと)。以下の粒度分布、すなわち、D(10)=7.7μm、D(50)=64.4μm、及びD(90)=141μmが得られた。5μm未満の径の粒子の量は約3%w/wであった。
【0094】
実施例17:ラクトース一水和物を含むドーパミン塩酸塩組成物
300rpmでの撹拌下で、ドーパミン塩酸塩(2.3g)を7.0gのエタノール、7.0gのアセトン、及び9.0gの水の混合物に溶解した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。得られた上記活性薬剤の透明且つ均一な溶液を、95℃の入口空気温度及び65℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによってドーパミン塩酸塩の乾燥粉末を得、これを更に、上記受け入れ器中でラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して受け入れ器中での撹拌を維持した。上記組成物中のドーパミン塩酸塩の濃度は約37%w/wであり、ドーパミン塩基の濃度は約26%w/wであった。
【0095】
実施例18:ドーパミン塩酸塩組成物の粒径分析
実施例17において調製したドーパミン塩酸塩組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した。以下の粒度分布、すなわち、D(10)=8.0μm、D(50)=74.9μm、及びD(90)=147μmが得られた。5μ未満の径の粒子の量は約3.5%w/wであった。
【0096】
実施例19:ラクトース一水和物を含むインスリン組成物
300rpmでの撹拌下で、500IUのインスリンを含有する5mlのインスリン生理食塩水(塩化ナトリウム)溶液を7mlの水と混合した。適当な大きさの磁気撹拌子を受け入れ器に入れ、ここにラクトース一水和物(2.3g)を添加した。撹拌速度を150rpmに設定した。得られたインスリンの透明且つ均一な溶液を、90℃の入口空気温度及び56℃の出口温度でBuchi Mini Spray-Dryerを用いて噴霧乾燥し、それによってインスリンの乾燥粉末を得、これを更に、上記受け入れ器中でラクトース一水和物とイン・サイチュで混合した。プロセス全体を通して受け入れ器中での撹拌を維持した。
【0097】
実施例20:インスリン組成物のSEM撮像
図11は、径が100μmを超える大きなラクトース多面体粒子の表面上に存在する径が5~7μmのインスリン-塩化ナトリウムの小さな球形粒子を示す。
図12に示す元素分析により、これらの粒子が塩化ナトリウム及び硫黄を含むことが確認され、このことは、これらの粒子がインスリンであることを明確に示す。
【0098】
実施例21:インスリン組成物の粒径分析
実施例19において調製したインスリン組成物を、Malvernレーザー回折装置を用いた粒径分析に供した。以下の粒度分布、すなわち、D(10)=57.4μm、D(50)=97.3μm、及びD(90)=151μmが得られた(
図13を参照のこと)。5μm未満の径の粒子の量は約0.3%w/wであった。
【0099】
実施例22:鼻腔内薬物送達
Aptar Unit-Dose Powder使い捨て装置に、実施例1において調製したスマトリプタンコハク酸塩組成物を充填した。これらの装置をメーカーの指針に従って組み立てた。それぞれの装置に1mgのスマトリプタンコハク酸塩を含む10mgの粉末が入っていた(ラベル表示として100mg/g)。10台の装置に充填し、作動させ、各装置の作動時に送達された粉末を集取して秤量した。10台の装置から送達された粉末用量の重量(mg)を以下の表1に示す。メーカーのプロトコルに従ってHPLC装置で測定した、10台の装置のそれぞれからの送達用量(mg/g)の均一性も表1に示す。更に、表1には、40℃及びRH75%で6ヶ月間(表には「6M」と表示)保存した2台の装置のデータが含まれる。
(表1)送達用量及び送達用量の均一性
【0100】
実施例23:プルームの形状及び噴霧パターン
Aptar Unit-Dose Powder(UDP)使い捨て装置から作動する上記組成物のプルーム形状及び噴霧パターンの評価を、FDAのCMCガイダンス(Nasal Spray and Inhalation Solution,Suspension,and Spray Drug Products - Chemistry,Manufacturing,and Controls Documentation,July 2002)を用いて実施した。新たに調製したかまたは保存したかのいずれかの各組成物を3回の繰り返し実験により、プルームの角度(°)、6cmの点におけるプルームの幅、プルームの長さ(cm)及び持続時間(ms)について試験した。2つの噴霧パターン(3及び6cm)の結果を記録し、最小直径(cm)、最大直径(cm)、面積、及び楕円率に関する詳細を示した。適当な高解像度の視覚化手法を用いた。
【0101】
実施例24:ラットにおけるオキシコドンの単回鼻腔内または経口投与後のPK評価
この試験の目的は、PBS緩衝液中のオキシコドン塩酸塩の経口溶液と、実施例14に記載の本発明のオキシコドン組成物の鼻腔内(IN)粉末の単回投与後のオキシコドンの薬物動態プロファイルを測定することであった。投与は、10mg/kg(ラット当り2mg)で、強制経口投与によって、または改造した鼻腔内Aptar装置によって、それぞれの投与経路について12頭のSD雄ラットに行った。
【0102】
試験の変数及び評価項目は以下のように測定した。
1)罹患率及び死亡率 - 毎日。
2)体重 - 新環境順応中及び被検薬剤の投与前に測定した。
3)臨床徴候の観察 - 投与後に動物の毒性徴候を観察した。
4)採血 - 血液をベースライン(投与の24時間前)、投与後5、15、40、60、90、120、240、及び420分に採取した(各投与経路について出血時点毎に3頭のラット)。
5)15、60、120、及び420分の時点での出血の後に脳を摘出した(各投与経路について出血時点毎に3頭のラット)。
【0103】
Tmax、Cmax、及びAUCt(ゼロから一定の時間tまでの濃度-時間曲線下面積であり、血漿薬物レベルに言及する場合、身体の薬物曝露の指標として用いられ、全身循環に入る薬物の量に密接に依存するパラメータ)。
【0104】
脳のPKパラメータを同様の方法で測定し、均質化した脳組織のmlの薬物濃度として報告した。これらの試料のオキシコドン含有量をHPLC-UV法によって分析した。得られた経口及び鼻腔内製品の血漿薬物動態パラメータを表2及び
図14に示す。
(表2)ラットの血漿中でのオキシコドン薬物動態パラメータ
【0105】
表2及び
図14から見てとれるように、鼻腔内投与においては、C
max値はほぼ3倍高く、AUS値は1.5倍に増加する。60分に対する5分のT
maxの比較値は、オキシコドンの鼻腔内投与後には作用の発現が極めて速いことを示している。経鼻粘膜吸収が非常に速いことは、血漿オキシコドン濃度の即時の増加が鼻腔内粉末のみの投与後に観察されることから、この増加によって証明される。初期の増加の後に、胃腸での吸収を示す60分の第2のピークが続き、これは鼻腔内及び経口オキシコドン製剤の両方で見られる。
【0106】
上記鼻腔内製剤はより迅速に効果を発現することが報告されており(Mohammad Obaidi et al.,Improved Pharmacokinetics of Sumatriptan with Breath PoweredTM Nasal Delivery of Sumatriptan Powder,Headache,2013,vol.53,pp 1323-1333、Fuseau E et al.,Clinical pharmacokinetics of intranasal sumatriptan,Clin.Pharmacokinet.,2002,vol.41(11),pp 801-811)、これは血中濃度の迅速な上昇に起因することから、本結果は、オキシコドン鼻腔内粉末も急速に疼痛緩和作用を発現することを示唆する。
【0107】
得られた経口及び鼻腔内製品の脳薬物動態パラメータを表3及び
図15に示す。
(表3)ラットの脳におけるオキシコドン薬物動態パラメータ
【0108】
表3及び
図15から見てとれるように、鼻腔内投与においては、C
max値は12倍高く、AUS値は11.5倍に増加する。120分に対する420分のT
maxの値は、鼻腔内投与後のオキシコドンの持続作用を示している。但し、15分後の薬物の濃度は、鼻腔内及び経口経路でそれぞれ2.94μg/ml及び0.23μg/mlであることが判った。これは、脳内のオキシコドン濃度の即時且つ大幅な増加が、専ら鼻腔内経路を介した脳への直接的な薬物送達の結果であるという明確な証拠である。胃腸での吸収後の120分の脳におけるオキシコドンのピークは、経口オキシコドン製剤に一般的である。
【0109】
本出願において実証されたオキシコドンの迅速な発現及び長期にわたる作用は、患者の手術後の疼痛管理における重要なブレークスルーである。経口製剤及び鼻腔内製剤の両方の忍容性が高かった。毒性の徴候または異常な影響は観察されなかった。