(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】二次電池用電極および該電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/02 20060101AFI20230821BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230821BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20230821BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230821BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230821BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20230821BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/04 A
H01M4/139
H01G11/26
H01G11/86
(21)【出願番号】P 2021031945
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-157704(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026525(WO,A1)
【文献】特開2013-008523(JP,A)
【文献】特開2018-137187(JP,A)
【文献】特開2007-328977(JP,A)
【文献】特開2020-061282(JP,A)
【文献】特開2019-046765(JP,A)
【文献】特開2017-212088(JP,A)
【文献】特開2017-100103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
H01G 11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の正負極いずれかの電極であって、
電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、を備えており、
前記電極活物質層の表面が所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有しており、
ここで、前記電極活物質層の断面SEM像において、凸部と比較して凹部において線状クラックが偏在して
おり、
前記凹部において、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分したときに、
前記電極活物質層の断面SEM像において、前記凹部の前記中間層および/または前記下層に、前記線状クラックが偏在している、二次電池用電極。
【請求項2】
前記線状クラックは、
前記電極活物質層の断面SEM像における測定に基づく長さが10μm以上
100μm以下で
ある、請求項
1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記電極活物質層の平均空隙率が少なくとも15%以上である、請求項
1または2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:
電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、
ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していること;
前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;
前記気相を残した状態で成膜された塗膜の表面部に、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を形成する工程;
前記凹凸形状が形成された前記塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する工程;および、
前記電極活物質層をプレスする工程;
を包含し、
ここで、前記プレス工程では、前記電極活物質層の断面SEM像において確認される線状クラックが、凸部と比較して凹部に偏在するようプレスすることを特徴とする、二次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記プレス工程において、前記電極活物質層の断面SEM像における測定に基づ
く長さが10μm以上
100μm以下で
ある前記線状クラックを、凸部と比較して凹部に偏在するようプレスする、請求項
4に記載の電極製造方法。
【請求項6】
前記プレス工程における前記プレスは、前記電極集電体上に形成された前記電極活物質層を、回転する一対のロールの間に通すことによって実施される、請求項
4または
5に記載の電極製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極および該電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。
【0003】
かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極材料を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。あるいは、このような合材スラリーによる成膜に代えて、合材スラリーよりも固形分の割合が比較的高く、溶媒が活物質粒子の表面とバインダ分子の表面に保持されたような状態で粒状集合体が形成されたいわゆる湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)も検討されている。
【0004】
かかる湿潤粉体成膜においては、湿潤粉体(電極材料)を、対向して配置される一対のロール(第1のロールおよび第2のロール)の間に供給し、電極材料を当該一対のロールのうちの一方のロール(転写ロール)に塗膜の状態として付着させ、該付着した電極材料(塗膜)を、対応する正負極いずれかの電極集電体上に転写して当該塗膜から成る電極合材層を成膜する方法が挙げられる。特許文献1には、かかる成膜方法において、第2のロールに好適に転写するためには、第1のロールと第2のロールとで付着性や回転数に差をつけることが開示されている。
【0005】
特許文献2では、第2のロールの表面剛性を相対的に大きくし、第1のロールの表面剛性を相対的に小さくすることによって、電極活物質層の集電体側の粒子間空隙が少なく、表面側の粒子間空隙が多い構造を有する電極の製造方法を開示している。また、第1のロール表面に凹凸を有するロールを用いてイオン拡散性を向上させ得る電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-77560号公報
【文献】特開2016-81871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果によれば、従来の方法で製造される電極では、粒子間空隙が多いためイオン拡散性が向上するものの、エネルギー密度が十分でないことを見出した。また、成膜と凹凸形成とを同時に行うと、成膜が不十分な状態で塗膜表面を凹凸加工することになるため、イオン拡散性に最適な凹凸を形成することができず、その結果、イオン拡散性の向上が十分ではないことを見出した。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高エネルギー密度化とイオン拡散性が両立された電極を提供することある。また、他の目的は、かかる電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、二次電池用電極が提供される。ここに開示される二次電池用電極は、二次電池の正負極いずれかの電極であって、電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、を備えており、前記電極活物質層の表面が所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有している。ここで、前記電極活物質層の断面SEM像において、凸部と比較して凹部において線状クラックが偏在している。
かかる構成によれば、線状クラック周辺の電極活物質にLiイオンが好適に導入される。また、線状クラックが偏在する凹部と近接する凸部は、高エネルギー密度を維持した状態であっても、十分にLiイオンが供給される状態である。これにより、高エネルギー密度化とイオン拡散性が両立された電極を実現することができる。
【0010】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記電極活物質層の前記凹部において、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分したときに、前記電極活物質層の断面SEM像において、前記凹部の前記中間層および/または前記下層に、前記線状クラックが偏在している。
かかる構成によれば、電極活物質層の集電体付近において線状クラックが偏在しているため、集電体付近の電極活物質にもLiイオンが好適に導入される。これにより、電極活物質層全体を効率よく電気化学反応に寄与させることができる。
【0011】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記線状クラックは、少なくとも長さが10μm以上であり、かつ、最大厚みが1μm以上である。また、別の好適な一態様では、前記電極活物質層の平均空隙率が少なくとも15%以上である。
かかる構成によれば、高エネルギー密度化とイオン拡散性がより好適に両立された電極を実現することができる。
【0012】
上記他の目的を実現するべく、電極の製造方法が提供される。ここに開示される二次電池用電極の製造方法は、正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していること;前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;前記気相を残した状態で成膜された塗膜の表面部に、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を形成する工程;前記凹凸形状が形成された前記塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する工程;および、前記電極活物質層をプレスする工程;を包含し、ここで、前記プレス工程では、前記電極活物質層の断面SEM像において確認される線状クラックが、凸部と比較して凹部に偏在するようプレスすることを特徴とする。
気相を残した状態で成膜した後、乾燥工程前の塗膜(電極)表面に凹凸を形成することにより、所望する凹凸形状を局所的な電極密度の偏りを生じさせることなく形成することができる。かかる凹凸形状が付与された電極を所定のプレス圧でプレスすることにより、凸部は電極密度を向上させ、凹部はクラックを生じさせることでイオン拡散性を向上させることができる。かかる構成によれば、上述した特性を備える好適な電極を製造することができる。
【0013】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、プレス工程において、前記電極活物質層の断面SEM像における測定に基づいて、少なくとも長さが10μm以上であり、かつ、最大厚みが1μm以上である前記線状クラックを、凸部と比較して凹部に偏在するようプレスする。また、別の好適な一態様では、前記プレス工程における前記プレスは、前記電極集電体上に形成された前記電極活物質層を、回転する一対のロールの間に通すことによって実施される。
かかる構成によれば、電極活物質層の凹部に適度なクラックが形成されることでイオン拡散性が向上した電極を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る電極の模式部分断面図である。
【
図2】一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
【
図3】一実施形態に係るロール成膜部を備える電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
【
図5】一実施形態に係る電極合材層のプレス工程を模式的に示す図であり、(A)は乾燥工程後の状態を示し、(B)はプレス工程の状態を示し、(C)はプレス工程後の状態を示す。
【
図6】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
【
図7】一実施形態に係る正極活物質層(プレス後)を示す断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される電極および電極製造方法の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される電極および電極製造方法は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A,Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0016】
本明細書において、「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される非水電解液二次電池をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。
【0017】
電極10は、
図1に示されるように、電極集電体12と、該集電体12上に形成された電極活物質層14と、を備える。ここに開示される電極10は、電極活物質層14の表面に所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有しており、該活物質層14の凸部24と比較して凹部22において、線状クラック28が偏在していることを特徴とする。
【0018】
電極集電体12は、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体12が正極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。電極集電体12が負極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。電極集電体12の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0019】
電極活物質層14を形成する電極材料は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含有している。
固形分の主成分である電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO4等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
【0020】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
【0021】
電極材料は、固形分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質、例えば、導電材や増粘剤等を含有していてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。電極材料は、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
なお、本明細書において、「固形分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形分が占める割合のことをいう。
【0022】
電極活物質層14の平均膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上250μm以下)であってよい。
【0023】
ここで、
図1を参照しながら、本発明における上層、中間層および下層について説明する。電極活物質層14の凹部22を均等に上層、中間層および下層の3つの層に区分する。下層とは、電極活物質層14と電極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層14の厚さの概ね33%内部の位置までをいう。同様にして中間層とは、電極活物質層14の厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層14の厚さの概ね33%~66%の位置、上層とは電極活物質層14の厚さの概ね66%~100%の位置までをいう。
【0024】
ここで開示される電極10(電極活物質層14)は、表面に所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状が形成されている。本明細書において「パターン」とは特定の形状(模様)のことをいう。「ピッチ」とは、凹部22と凸部24とが繰り返される最小単位のことをいい、
図1においては「ピッチ」は図中の符号26で示される。ピッチは、特に限定されるものではないが、例えば、250μm以上5mm以下であることが好ましく、750μm以上4mm以下であることがより好ましく、1mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。凹凸形状の高低差(すなわち、最大山高さと最大谷深さ)は、例えば、10~100μm(例えば、20~80μm)程度である。
【0025】
ここで開示される電極10(電極活物質層14)は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得する断面SEM像において、線状クラック28を観察できることを特徴とする。本明細書において、「線状クラック」とは、少なくとも10μm以上の長さであって、最大線厚みが1μm以上である比較的大きな空隙のことをいう。
より好適には、線状クラック28の長さは10μm以上100μm以下であってよく、20μm以上90μm以下であってよい。また、最大厚みは、1μm以上20μm以下であってよく、5μm以上15μm以下であってよい。
【0026】
かかる線状クラック28は、電極活物質層14の凸部24と比較して、凹部22に偏在している。すなわち、電極活物質層14の断面SEM像において、凹部22では凸部24よりも多くの線状クラック28を確認することができる。したがって、凹部22の電極密度は相対的に低くなっており、凸部24の電極密度は相対的に高くなっている。かかる電極密度が低い領域においては、Liイオンの挿入/脱離が促進され、電極密度が高い領域においては、導電パスが向上する。また、線状クラック28を有することで、線状クラック28の周辺の電極活物質に好適にLiイオンが挿入され得る。このような相対的に電極密度が低い領域と高い領域とが、所定のパターンで繰り返され、かつ、線状クラックを有することによって、電極活物質層14全体を電気化学反応に寄与させることができる。
【0027】
ここに開示される電極10は、上述した線状クラック28が、電極活物質層において、凹部22の中間層および/または下層に偏在していることを特徴とする。したがって、電極活物質層14の凹部22の中間層および下層の電極密度は、相対的に低くなっている。電極活物質層14の電極集電体12側に線状クラック28が偏在することにより、集電体12側のLiイオンの挿入/脱離がより促進され、イオン拡散性をさらに向上させることができる。
【0028】
適度な線状クラック28が形成されている場合には、上述したようにLiイオンの挿入/脱離が促進し、イオン拡散性を向上させ得る。かかる点を考慮すると、電極活物質層14の平均空隙率は、少なくとも15%以上(例えば20%以上)であってよい。一方で、電極活物質層14に過剰な線状クラック28が形成され、空隙率が高くなりすぎる場合には、エネルギー密度の低下につながり、二次電池の電池性能を低下させ得る。したがって、電極活物質層14の平均空隙率は、35%以下(例えば30%以下)であってよい。
なお、本明細書において、「平均空隙率(気相率)」は、例えば、電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察により算出することができる。該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出することができる。これを、電極活物質層の空隙率とする。断面SEM像を複数取得し(例えば5枚以上)、かかる空隙率の平均値をここでの「平均空隙率(気相率)」とする。なお、「平均空隙率(気相率)」には、凹凸形成の過程において形成された凹部(すなわちマクロな空隙)は、含まない。
【0029】
<電極の製造方法>
図2に示すようにここに開示される電極の製造方法は、大まかに言って、以下の5つの工程:(1)湿潤粉体(電極材料)を用意する工程(S1);(2)湿潤粉体からなる塗膜を成膜する工程(S2);(3)塗膜に凹凸を形成する工程(S3);(4)凹凸形成後の塗膜を乾燥する工程(S4);(5)乾燥後の塗膜(電極活物質層)をプレスする工程(S5);を包含しており、プレス工程S5において電極活物質層の凹部にクラックが偏在するようにプレスされる点において特徴づけられている。したがって、その他の工程は特に限定されず、従来この種の製造方法と同様の構成でよい。以下、各工程について説明する。
【0030】
図3は、本実施形態に係るロール成膜部を備えた電極製造装置の概略構成を模式的に示した説明図である。
図3に示される電極製造装置100は、典型的には、図示しない供給室から搬送されてきたシート状電極集電体12を長手方向に沿って搬送しながら、電極集電体12の表面上に電極材料30からなる塗膜32を成膜する成膜部120と、該塗膜32の表面に凹凸形状を形成する塗膜加工部130と、表面に凹凸形状を有する塗膜32を適切に乾燥させて電極活物質層14を形成する乾燥部140と、乾燥後の電極活物質層14の凹部22に線状クラック28が偏在するようにプレスするプレス部150とを備える。これらは、予め定められた搬送経路に沿って、順に配置されている。
【0031】
<用意工程>
電極材料30は、上述した電極活物質、溶媒、バインダ樹脂、その他の添加物等の材料を従来公知の混合装置を用いて、混合することによって用意することができる。かかる混合装置としては、例えば、プラネタリーミキサー、ボールミル、ロールミル、ニーダ、ホモジナイザー等が挙げられる。
【0032】
電極材料30は、ペースト、スラリー、および造粒体の形態をとり得るが、造粒体、特に溶媒を少量含む湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)が、ここに開示される電極製造装置100において、電極活物質層14を電極集電体12上に成膜するという目的に適している。なお、本明細書において、湿潤粉体の形態的な分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている4つの分類を採用しており、ここで開示される湿潤粉体は明瞭に規定されている。具体的には、以下のとおりである。
湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
ここで「ペンジュラー状態」は、
図4の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0033】
また、「ファニキュラー状態」は、
図4の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0034】
「キャピラリー状態」は、
図4の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。
「スラリー状態」は、
図4の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
従来から湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば
図4(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
【0035】
これに対して、ここで開示される湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子1が、(1)上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)を形成している湿潤粉体である。好ましくは、気相を制御することによって、(2)電子顕微鏡観察において該凝集粒子の外表面の全体にわたって前記溶媒からなる層が認められないことを一つの形態的特徴として有する。
以下、ここで開示される上記(1)および(2)の要件を具備する湿潤粉体を「気相制御湿潤粉体」という。
なお、ここに開示される気相制御湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子が上記(1)および(2)の要件を具備することが好ましい。
【0036】
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を製造することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
好ましくは、ここで開示される好適な気相制御湿潤粉体として、電子顕微鏡観察で認められる三相の状態がペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)であって、さらに、得られた湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0037】
上述した湿潤粉体は、撹拌造粒機(プラネタリーミキサー等のミキサー)を用いて各材料を混合することによって、湿潤粉体(即ち凝集粒子の集合物)を製造することができる。具体的に例えば、撹拌造粒機の混合容器内に固形分である電極活物質と種々の添加物(バインダ樹脂、増粘材、導電材、等)を投入し、モータを駆動させて混合羽根を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~30秒間程度、回転させることによって固形物の混合体を製造する。そして、固形分が55%以上、より好ましくは60%以上(例えば65~90%)になるように計量された少量の溶媒を混合容器内に添加し、混合羽根を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~30秒間程度さらに回転させる。これによって、混合容器内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。得られる造粒体の粒径は、例えば、50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0038】
また、上述した気相制御湿潤粉体は、凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15%程度、3~8%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。かかる気相制御湿潤粉体は、上述した湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。すなわち、上述した湿潤粉体よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料としての湿潤粉体を製造することができる。また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
【0039】
<成膜工程>
ここに開示される製造方法においては、電極材料30の気相(空隙)を残した状態で塗膜32を成膜する。電極材料30からなる塗膜32の成膜は、例えば、
図3に模式的に示すような成膜部120において行うことができる。成膜部120は、第1の回転ロール121(以下「供給ロール121」という。)と、第2の回転ロール122(以下「転写ロール122」という。)とからなる一対の回転ロール121、122を備えている。供給ロール121の外周面と転写ロール122の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール121、122は、
図3の矢印に示すように逆方向に回転することができる。また、供給ロール121と転写ロール122とは、電極集電体12上に成膜する塗膜32の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。すなわち、供給ロール121と転写ロール122との間には、所定の幅(厚さ)のギャップG1があり、かかるギャップG1のサイズにより、転写ロール122の表面に付着させる電極材料30からなる塗膜32の厚さを制御することができる。また、かかるギャップG1のサイズを調整することにより、供給ロール121と転写ロール122との間を通過する電極材料30を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、電極材料30(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持した状態で成膜することができる。
【0040】
また、電極材料30が気相制御湿潤粉体から構成される場合には、かかる成膜工程S2を行うことにより、気相制御湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜を形成することができる。すなわち、気相制御湿潤粉体を構成する凝集粒子の過剰な潰れが防止され、連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。
【0041】
供給ロール121および転写ロール122の幅方向の両端部には、図示しない隔壁が設けられていてもよい。隔壁は、電極材料30を供給ロール121および転写ロール122上に保持すると共に、2つの隔壁の間の距離によって、電極集電体12上に成膜される塗膜32の幅を規定することができる。この2つの隔壁の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料30が供給される。
本実施形態に係る成膜装置では、転写ロール122に対向する位置に第3の回転ロールとしてバックアップロール123が配置されている。バックアップロール123は、電極集電体12を転写ロール122まで搬送する役割を果たす。転写ロール122とバックアップロール123は、
図3の矢印に示すように、逆方向に回転する。また、転写ロール122とバックアップロール123との間には、所定の幅(厚さ)のギャップG2があり、かかるギャップG2のサイズにより、電極集電体12上に成膜する塗膜32の厚さを制御することができる。
【0042】
供給ロール121、転写ロール122、バックアップロール123は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール121、転写ロール122およびバックアップロール123の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、電極材料30を転写ロール122に沿って搬送し、転写ロール122の外周面からバックアップロール123により搬送されてきた電極集電体12の表面上に当該電極材料30を塗膜32として転写することができる。
なお、
図3では一例として、供給ロール121、転写ロール122、バックアップロール123の配置を示しているが、それぞれのロールの配置は、これに限られるものではない。
【0043】
供給ロール121、転写ロール122およびバックアップロール123のサイズは特に制限はなく、従来の成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら3種のロール121,122,123の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜32を形成する幅についても従来の成膜装置と同様でよく、塗膜32を形成する対象の電極集電体12の幅によって適宜決定することができる。
【0044】
供給ロール121、転写ロール122およびバックアップロール123の外周面の材質は、従来公知の成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。電極材料30と直接する供給ロール121および転写ロール122の外周面の材質は、金属異物の発生を防ぐために、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化クロム、窒化アルミ、チタニア、酸化クロムなどのセラミックスであることがより好ましい。
【0045】
図3に示す一例では、成膜部120において転写ロールが1つのみ設けられているが、成膜部120の形態はこれに限られたものではない。例えば、転写ロールが連続的に複数備えられており、それぞれのプレス圧やギャップが異なるように設けられてもよい。
【0046】
<凹凸形成工程>
塗膜32に対する凹凸形成は、例えば、
図3に示すような凹凸転写ロール132とバックアップロール134とを用いて行うことができる。ここに開示される電極の製造方法においては、空隙(気相)を残した状態で成膜された塗膜32に対して凹凸形成工程S3を実施する。かかる塗膜32の平均空隙率(気相率)は、少なくとも1%以上であることが好ましく、例えば1%以上55%以下、典型的には5%以上55%以下であってよい。気相を残した状態で凹凸を形成することにより、展延性が向上しているため、従来よりも小さい荷重で塗膜32に対して所望する凹凸形状を付与することができる。また、凹凸を形成するために荷重がかけられたとしても、塗膜32の表面部において局所的な密度の上昇(緻密化)することなく凹凸形状を形成することができる。
なお、乾燥前の塗膜の平均空隙率は、上述した手順と同様にして求めることができる。
【0047】
凹凸転写ロール132は、塗膜32の表面に所定のパターンを一定のピッチで形成するための凹部および凸部を有している。バックアップロール134は、搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ搬送方向に送り出すためのロールである。凹凸転写ロール132とバックアップロール134とは対向する位置に配置されている。凹凸転写ロール132とバックアップロール134との間隙に、電極集電体12上の塗膜32を通すことにより、凹凸転写ロール132の凹凸部が塗膜32の表面に転写されることによって、塗膜32の表面に所望する形状を形成することができる。凹凸転写ロール132の凹部と凸部のピッチは、250μm以上5mm以下(例えば、1mm以上3mm以下)に設定することができる。凹凸転写ロール132の凹凸パターンの高低差は、特に限定されるものではないが、例えば、10~100μm(例えば、20~80μm)程度である。また、凹部22の幅が50μm以上となるような凹凸転写ロール132を用いることが好ましい。
【0048】
凹凸転写ロール132の線圧は、所望する形状の凹部深さ等により異なり得るため特に限定されないが、概ね15N/cm~75N/cm、例えば25N/cm~65N/cm程度に設定することができる。なお、塗膜32に対して凹凸を加工する方法は、凹凸転写ロールを用いた凹凸転写以外の手法によっても行うことができる。例えば、所望する凹凸形状を有する平板圧延機を用いて、押圧することによって塗膜32の表面部に凹凸形状を形成してもよい。その場合のプレス圧は例えば、1MPa~100MPa、例えば5MPa~80MPa程度に設定することができる。
【0049】
塗膜32は、気相を残した状態であることにより、乾燥工程S4前に凹凸形状を形成しても、所望するパターンを形成し、該パターンを維持することができる。また、より好適には、塗膜32は、気相制御湿潤粉体から構成されていることが好ましい。気相制御湿潤粉体は、上述したように、連通孔を維持した状態で成膜されているため、所望するパターンの形成および該パターンの維持をさらに好適に実施することができる。
【0050】
図3に示した一例では、凹凸転写ロール132およびバックアップロール134は一対のみ設けられているが、これに限られず、搬送方向に沿って複数の凹凸転写ロールを配置し、それぞれのプレス圧が異なるように設けてもよい。また、塗膜32の気相(空隙)の状態を調整するために、凹凸転写ロール132よりも搬送方向上流側に塗膜32を膜厚方向に押圧して圧縮するプレスロールを設けてもよい。
【0051】
<乾燥工程>
図3に示すように、本実施形態に係る電極製造装置100の塗膜加工部130よりも搬送方向の下流側には、乾燥部140として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室142が配置され、塗膜加工部130から搬送されてきた塗膜32を乾燥して、電極集電体12の表面上に電極活物質層14を形成する。乾燥の方法については、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥等の手法が挙げられる。なお、乾燥工程S4は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥工程と同様でよく、特に本教示を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0052】
<プレス工程>
乾燥工程S4の後、プレス部150において電極活物質層14の目付量や電極密度を調整することを目的として、プレス工程S5を実施する。かかるプレス工程は、ロール圧延機や平板圧延機を用いて、従来公知の方法に従って行うことができる。所望する線状クラック28を好適に生じさせることができるため、ここに開示される電極製造方法においては、ロール圧延機を用いたロールプレスであることが好ましい。
図5は、乾燥工程S4の後に実施されるプレス工程の過程について模式的に示す図である。
図5の(A)は乾燥工程後の状態を示し、(B)はプレス工程の状態を示し、(C)はプレス工程後の状態を示す。以下、
図5を参照しながら、本実施形態に係るプレス工程S5について説明する。
【0053】
ここで実施されるプレスは、電極10の凸部24と比較して、凹部22に所定の線状クラック28が偏在するように実施される。一般的に、乾燥工程S4により塗膜32から溶媒(液相)が蒸発(揮発)した電極活物質層14は、乾燥工程S4前の塗膜32と比較して硬度が高くなり、展延性が低くなる傾向にある。したがって、
図5に示すようなプレス装置152Aおよび152Bによって所定のプレス圧を負荷することにより、線状クラック28を適宜発生させることができる。
【0054】
図5の(A)に示すように、乾燥工程S4後の塗膜32(電極活物質層14)には、凹凸形状が付与されている。プレス工程S5においては、かかる凹凸形状を有する電極活物質層14に対してプレス装置152A、152Bを用いてプレスを行う。このとき、電極活物質層14の凸部24と凹部22を比較すると、電極材料30の量が多い凸部24の電極密度のほうが必然的に高くなる。すなわち、凹凸形状を形成しておくことで、電極活物質層14の電極密度を所定のパターンでコントロールすることができる。
【0055】
ここで、電極活物質層14は、
図5の(B)および(C)に示されるように、プレスによって、厚さ方向(Z方向)に圧縮されると同時に、集電体12の長手方向(X方向)にも伸長する。特にプレス装置152としてロール圧延機を用いた場合には、長手方向(X方向)に引き伸ばされる力がよりはたらく。このとき、凸部24よりも相対的に薄い凹部22では、長手方向(X方向)に引き伸ばされる力によって造粒体が破断し、線状クラック28が生じやすい状態であり得る。特に、電極集電体12との界面付近では、該集電体12と電極活物質層14との展延性の違いから線状クラック28が生じやすい状態である。すなわち、塗膜32の表面に所定の凹凸形状を有する状態で乾燥工程S5を実施することにより、凹部22の中間層および/または下層に線状クラック28を偏在させることができる。
【0056】
かかる線状クラック28の長さや最大線厚みは、プレス装置152A、152Bのプレス圧等を適宜変更することによって調整することができる。プレス圧は、特に限定されるものではないが例えば、線圧1ton/cm以上(例えば1ton/cm~5ton/cm)に設定されることが好ましい。かかるプレス圧でプレスすることによって、好適な線状クラック28を凹部22に偏在させることでき、イオン拡散性が向上した電極10を製造することができる。
こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0057】
例えば、本実施形態に係るシート状電極を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池200の一例を
図6に示している。
図6に示すリチウムイオン二次電池200は、密閉可能な箱型電池ケース50に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解質(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース50には、外部接続用の正極端子52および負極端子54と、電池ケース50の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁56とが設けられている。また、電池ケース50には、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子52と正極集電板52aは、電気的に接続されている。負極端子54と負極集電板54aは、電気的に接続されている。電池ケース50の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0058】
捲回電極体80は、典型的には長尺シート状の正極(以下、正極シート60という。)と、長尺シート状の負極(以下、負極シート70という。)とが長尺シート状のセパレータ90を介して重ね合わせられ長手方向に捲回された形態を有する。正極シート60は、正極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極活物質層64が形成された構成を有する。負極シート70は、負極集電体72の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極活物質層74が形成された構成を有する。正極集電体62の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出した部分(即ち、正極集電体露出部66)が設けられている。負極集電体72の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出した部分(即ち、負極集電体露出部76)が設けられている。正極集電体露出部66と負極集電体露出部76には、それぞれ正極集電板52aおよび負極集電板54aが接合されている。
【0059】
正極(正極シート60)および負極(負極シート70)は、上述した製造方法により得られる正極および負極が用いられる。なお、本構成例においては、正極および負極は、集電体12(正極集電体62および負極集電体72)の両面に電極活物質層14(正極活物質層64および負極活物質層74)が形成されている。
【0060】
セパレータ90としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ90は、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
【0061】
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に制限することなく用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等の非水溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定するものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0062】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池200は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池200は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0063】
以下、ここで開示されるペンジュラー状態またはファニキュラー状態の気相制御湿潤粉
体を電極合材として用いた場合の実施例を説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0064】
<実施例1>
正極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(正極材料)を用いてアルミ箔上に正極活物質層を形成した。
本試験例では、正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、バインダ樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材とてアセチレンブラック、非水溶媒としてNMPを用いた。
【0065】
まず、90質量部の上記正極活物質、2質量部のPVDFおよび8質量部のアセチレンブラックからなる固形分を、混合羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリミキサーまたはハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、混合羽根を有する撹拌造粒機内で混合羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90重量%となるように溶媒であるNMPを添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化を行い、次いで4500rpmの回転速度で2秒間撹拌し微細化を行った。これにより本実施例に係る湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(正極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意したアルミ箔からなる正極集電体の表面に塗膜を転写した。
【0066】
かかる塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロール(線圧約40N/cm)で凹凸形状を付与した。かかる凹凸形状を有する塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、ロール圧延機のプレス圧を約1ton/cmに設定してプレスした。これにより、電極活物質層の凹部の中間層および下層に線状クラックを偏在させた電極を得た。
【0067】
上記得られた実施例1の電極活物質層(すなわち乾燥後の塗膜)の状態をSEMで観察した。結果を
図7に示す。
【0068】
<比較例1>
実施例1と同様にして電極材料を混合し、別途用意したアルミ箔からなる正極集電体の表面に塗膜を転写した。かかる塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロール(線圧約40N/cm)で凹凸形状を付与した。かかる凹凸形状を有する塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、ロール圧延機のプレス圧を約0.8t/cmに設定してプレスした。これにより、電極集電体上に気相制御湿潤粉体からなる電極活物質層が形成された電極(正極)を得た。なお、比較例1の電極は、凹部に線状クラックが偏在していない電極である。
【0069】
上記得られた実施例1および比較例1の平均空隙率を算出した。平均空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、断面画像を観察することにより算出した。該断面画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行った。これにより、固相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出した。これを、乾燥後の塗膜(電極活物質層)の空隙率とする。断面SEM像を5枚取得し、かかる空隙率の平均値をここでの「平均空隙率(気相率)」とした。
【0070】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した実施例1および各比較例1の電極を用いて、評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
実施例1および比較例1の負極としては、スラリー状態の電極材料からなる負極を用意した。
また、セパレータシートとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを2枚用意した。
【0071】
作製した実施例1および比較例1の正極と、負極と、用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートのそれぞれに電極端子を溶接により取り付けて、これを、注入口を有する電池ケースに収容した。
かかる注入口から非水電解液を注入し、該注入口を封口蓋により気密に封止した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。以上のようにして、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0072】
<活性化処理>
25℃の環境下で、各評価用リチウムイオン二次電池の活性化処理(初回充電)を行った。活性化処理は、定電流-定電圧方式とし、1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行うことで満充電状態にした。その後、1/3Cの電流値で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0073】
<初期抵抗測定>
活性化処理後の各評価用リチウムイオン二次電池をSOC(State of charge)60%に調整した後、25℃の温度環境下に置いた。1Cの電流値で10秒間放電し、電圧降下量(ΔV)を求めた。かかる電圧降下量ΔVを放電電流値(1C)で除して、電池抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。なお、かかる初期抵抗が小さくなるにつれて出力特性が良好であると評価することができる。
【0074】
図7に示すように、実施例1の電極においては、電極活物質層の凸部と比較して、凹部の中間層および下層にクラックが偏在していることが確認できた。また、実施例1の平均空隙率は28%、比較例1の平均空隙率は25%で、全体の平均空隙率は実施例1のほうが高くなっていることも確認できた。初期抵抗は、比較例1の初期抵抗を1としたときに、実施例1の初期抵抗は0.95であった。
すなわち、電極活物質層の表面が所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有しており、該電極活物質層の断面SEM像において、凸部と比較して凹部において線状クラックが偏在している電極は、電極全体の平均空隙率は高くなっているものの、凸部が高エネルギー密度化されており、かつ、凹部に線状クラックが偏在することによってイオン拡散性が向上しているため、初期抵抗の低減を実現することができる。したがって、かかる電極を用いた二次電池の出力特性を向上させることができる。
【0075】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 電極
12 電極集電体
14 電極活物質層
22 凹部
24 凸部
26 ピッチ
28 線状クラック
30 電極材料
32 塗膜
50 電池ケース
60 正極シート
62 正極集電体
64 正極活物質層
66 正極集電体露出部
70 負極シート
72 負極集電体
74 負極活物質層
76 負極集電体露出部
80 捲回電極体
90 セパレータ
100 電極製造装置
120 成膜部
130 塗膜加工部
132 凹凸転写ロール
134 バックアップロール
140 乾燥部
150 プレス部
152A プレス装置
152B プレス装置
200 リチウムイオン二次電池