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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20230821BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230821BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230821BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230821BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20230821BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20230821BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/134
H01G11/26
H01G11/30
H01M10/0587
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021064552
(22)【出願日】2021-04-06
(65)【公開番号】P2022160048
(43)【公開日】2022-10-19
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀明
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-145093(JP,A)
【文献】特開2019-091615(JP,A)
【文献】特開2022-081902(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038092(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/074083(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/13-62
H01G 11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯体上に正極活物質層を有する正極と、負極芯体上に負極活物質層を有する負極とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質層は、前記正極活物質層と対向する対向領域と、前記正極活物質層と対向しない非対向領域とを有し、
前記対向領域に含まれる負極活物質の、BET法に基づく比表面積をS1、前記非対向領域に含まれる負極活物質の、BET法に基づく比表面積をS2としたときに、S2<S1の関係を満たし、
前記対向領域の面積をA1、前記非対向領域の面積をA2としたときに、(A1+A2)/A1が、1.025以上1.2以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記比表面積S1と、前記比表面積S2は、S2/S1≦0.7の関係を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質層は、合金系負極活物質を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、シート状の芯体上に正極活物質層および負極活物質層を備えている。非水電解質二次電池の充電時には、電荷担体は負極活物質層に吸蔵される。放電時には、電荷担体は負極活物質層から放出される。非水電解質二次電池は、正極活物質層よりも負極活物質層が幅広になるように構成されている。つまり、負極活物質層には、正極活物質層と対向する領域(以下、対向領域ともいう)と、正極活物質層と対向しない領域(以下、非対向領域ともいう)が形成されている。非水電解質二次電池の充放電によって、非対向領域にも電荷担体が拡散し、固定されうる。このような電荷担体の固定は、非水電解質二次電池の容量劣化につながる。
【0003】
国際公開第2014/038092号には、負極活物質層の、正極活物質層に対向していない領域に、負極活物質と、熱溶融性結着材と、感温性増粘剤とを含んだリチウム二次電池が開示されている。熱溶融性結着材と感温性増粘剤のゲル化温度は、ともに45℃~100℃の範囲内である。かかるリチウム二次電池は、感温性増粘剤を含んでいることによって、高温保存時の容量劣化が抑制されるとされている。また、かかるリチウム二次電池は、さらに密着性に優れる熱溶融性結着材を含んでいることによって、サイクル特性等の電池性能の向上または維持が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/038092号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電荷担体が、負極活物質層の非対向領域に拡散することによる容量劣化は、非水電解質二次電池を高温かつ高SOC(State of Charge)で保存した際に起こりやすい。しかしながら、本発明者の検討によると、かかる容量劣化は、非水電解質二次電池を室温付近の温度で保存した際にも起こりうる。
本発明は、容量劣化が抑制された非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示される非水電解質二次電池は、正極芯体上に正極活物質層を有する正極と、負極芯体上に負極活物質層を有する負極とを備えている。負極活物質層は、正極活物質層と対向する対向領域と、正極活物質層と対向しない非対向領域とを有している。対向領域のBET法に基づく比表面積をS1、非対向領域のBET法に基づく比表面積をS2としたときに、S2<S1の関係を満たす。
かかる構成によれば、容量劣化が抑制された非水電解質二次電池が提供される。
【0007】
非水電解質二次電池の好ましい一態様においては、比表面積S1と、比表面積S2は、S2/S1≦0.7の関係を満たす。かかる構成によれば、容量劣化がより抑制された非水電解質二次電池が提供される。
非水電解質二次電池の好ましい一態様においては、対向部領域の面積をA1、非対向領域の面積をA2としたときに、(A1+A2)/A1が、1.025以上1.2以下である。かかる構成によれば、容量劣化がさらに抑制された非水電解質二次電池が提供される。
ここで開示される技術の好適な一実施形態として、負極活物質層は、合金系負極活物質を含んでいてもよい。このような非水電解質二次電池においても、容量劣化を抑制する効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る非水電解質二次電池を模式的に示す斜視図である。
図2図1中のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3】封口板に取り付けられた電極体を模式的に示す斜視図である。
図4】正極第2集電体と負極第2集電体が取り付けられた電極体を模式的に示す斜視図である。
図5】一実施形態に係る非水電解質二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
図6】一実施形態に係る非水電解質二次電池の捲回電極体の断面を模式的に示す断面図である。
図7】一実施形態に係る非水電解質二次電池の負極を模式的に示す平面図である。
図8】負極合材スラリーを塗工する際に用いるスロットダイを模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、ここで開示される技術の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。本明細書において数値範囲を示す「X~Y」の表記は、特に言及されない限りにおいて「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
なお、本明細書において「非水電解質二次電池」とは、電解質を介して一対の電極(正極と負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる蓄電デバイス一般をいう。かかる非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池の他に、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。以下では、上述した非水電解質二次電池のうち、捲回電極体を備える扁平角型のリチウムイオン二次電池を対象とした場合の実施形態について説明する。
【0011】
また、本明細書において参照する各図における符号Xは「奥行方向」を示し、符号Yは「幅方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。また、奥行方向XにおけるFは「前」を示し、Rrは「後」を示す。幅方向YにおけるLは「左」を示し、Rは「右」を示す。そして、高さ方向ZにおけるUは「上」を示し、「D」は下を示す。但し、これらの方向は説明の便宜上の定めたものであり、ここに開示される二次電池を使用する際の設置形態を限定することを意図したものではない。
【0012】
<非水電解質二次電池の構造>
図1は、本実施形態に係る非水電解質二次電池100を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
【0013】
図2に示すように、本実施形態に係る非水電解質二次電池100は、捲回電極体40と、捲回電極体40を収容する電池ケース50を備えている。以下、かかる非水電解質二次電池100の具体的な構成について説明する。
<電池ケース>
電池ケース50は、捲回電極体40を収容する筐体である。図示は省略するが、電池ケース50の内部には非水電解液も収容されている。図1に示すように、本実施形態における電池ケース50は、扁平かつ有底の直方体形状(角形)の外形を有する。なお、電池ケース50には、従来公知の材料を特に制限なく使用できる。例えば、電池ケース50は、金属製であるとよい。かかる電池ケース50の材料の一例として、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等が挙げられる。
【0014】
図1および図2に示すように、電池ケース50は、外装体52と、封口板54とを備えている。外装体52は、上面に開口52hを有する扁平な有底角型の容器である。外装体52は、平面略矩形の底壁52aと、底壁52aの長辺から高さ方向Zの上方に延びる一対の長側壁52bと、底壁52aの短辺から高さ方向Zの上方に延びる一対の短側壁52cとを備えている。一方、封口板54は、外装体52の開口52hを塞ぐ、平面略矩形の板状部材である。そして、封口板54の外周縁部は、外装体52の開口52hの外周縁部と接合(例えば溶接)されている。これによって、内部が気密に密閉された電池ケース50が作製される。また、封口板54には、注液孔55とガス排出弁57が設けられている。注液孔55は、密閉後の電池ケース50の内部に非水電解液を注液するために設けられた貫通孔である。なお、注液孔55は、非水電解液の注液後に封止部材56によって封止される。また、ガス排出弁57は、電池ケース50内で大量のガスが発生した際に破断(開口)し、当該ガスを排出するように設計された薄肉部である。
【0015】
<電解液>
上述の通り、電池ケース50の内部には、捲回電極体40の他に、電解液(図示省略)も収容されている。電解液には、従来公知の非水電解質二次電池において使用されているものを特に制限なく使用できる。例えば、電解液には、非水系溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液を使用できる。この非水系溶媒の一例として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。支持塩の一例として、LiPF等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。
【0016】
<電極端子>
また、封口板54の幅方向Yの一方(図1図2中の左側)の端部には、正極端子60が取り付けられている。かかる正極端子60は、電池ケース50の外側において、板状の正極外部導電部材62と接続されている。一方、封口板54の幅方向Yの他方(図1図2中の右側)の端部には、負極端子65が取り付けられている。かかる負極端子65には、板状の負極外部導電部材67が取り付けられている。これらの外部導電部材(正極外部導電部材62および負極外部導電部材67)は、外部接続部材(バスバー等)を介して、他の非水電解質二次電池や外部機器と接続される。なお、外部導電部材は、導電性に優れた金属(アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等)で構成されていることが好ましい。
【0017】
<電極集電体>
図3は、封口板54に取り付けられた電極体40を模式的に示す斜視図である。図4は、正極第2集電体72と負極第2集電体77が取り付けられた電極体40を模式的に示す斜視図である。本実施形態に係る非水電解質二次電池100では、電池ケース50内に複数個(3個)の捲回電極体40が収容されている。詳しい構造は後述するが、各々の捲回電極体40には、正極タブ群42と負極タブ群44とが設けられている。これらの電極タブ群(正極タブ群42と負極タブ群44)は、電極集電体(正極集電体70と負極集電体75)が接合された状態で折り曲げられている。
【0018】
具体的には、図2に示すように、複数の捲回電極体40の各々の正極タブ群42は、正極集電体70を介して正極端子60と接続されている。この正極集電体70は、電池ケース50の内部に収容されている。この正極集電体70は、封口板54の内側面に沿って幅方向Yに延びる板状の導電部材である正極第1集電体71と、高さ方向Zに沿って延びる板状の導電部材である複数の正極第2集電体72とを備えている。そして、正極端子60の下端部60cは、封口板54の端子挿通孔58を通って電池ケース50の内部に挿入され、正極第1集電体71と接続されている。一方で、図3および図4に示すように、この二次電池100では、複数の捲回電極体40に対応した数の正極第2集電体72が設けられている。それぞれの正極第2集電体72は、捲回電極体40の正極タブ群42に接続される(図3参照)。そして、捲回電極体40の正極タブ群42は、正極第2集電体72と捲回電極体40の一方の側面とが対向するように折り曲げられる(図3参照)。これによって、正極第2集電体72の上端部と正極第1集電体71とが電気的に接続される。
【0019】
一方、図2に示すように、複数の捲回電極体40の各々の負極タブ群44は、負極集電体75を介して負極端子65と接続される。かかる負極側の接続構造は、上述した正極側の接続構造と略同一である。具体的には、負極集電体75は、封口板54の内側面に沿って幅方向Yに延びる板状の導電部材である負極第1集電体76と、高さ方向Zに沿って延びる板状の導電部材である複数の負極第2集電体77とを備えている。そして、負極端子65の下端部65cは、端子挿通孔59を通って電池ケース50の内部に挿入され、負極第1集電体76と接続される。一方、複数の負極第2集電体77の各々は、捲回電極体40の負極タブ群44と接続される(図3参照)。そして、負極タブ群44は、負極第2集電体77と捲回電極体40の他方の側面とが対向するように折り曲げられる(図3参照)。これによって、負極第2集電体77の上端部と負極第1集電体76とが電気的に接続される。また、電極集電体(正極集電体70および負極集電体75)にも、導電性に優れた金属(アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等)を好適に使用できる。
【0020】
<絶縁部材>
また、この非水電解質二次電池100では、捲回電極体40と電池ケース50との導通を防止するために、種々の絶縁部材が取り付けられている。具体的には、正極外部導電部材62(負極外部導電部材67)と封口板54の外側面との間には、外部絶縁部材92が介在している(図1参照)。これによって、正極外部導電部材62や負極外部導電部材67が封口板54と導通することを防止できる。また、図2に示すように、封口板54の端子挿通孔58、59の各々にはガスケット90が装着されている。これによって、端子挿通孔58、59に挿通された正極端子60(又は負極端子65)が封口板54と導通することを防止できる。また、正極第1集電体71(又は負極第1集電体76)と封口板54の内側面との間には、内部絶縁部材94が配置されている。この内部絶縁部材94は、正極第1集電体71(又は負極第1集電体76)と封口板54の内側面との間に介在する板状のベース部94aを備えている。これによって、正極第1集電体71や負極第1集電体76が封口板54と導通することを防止できる。さらに、内部絶縁部材94は、封口板54の内側面から捲回電極体40に向かって突出する突出部94bを備えている。これによって、高さ方向Zにおける捲回電極体40の移動を規制し、捲回電極体40と封口板54が直接接触することを防止できる。加えて、複数の捲回電極体40は、絶縁性の樹脂シートからなる図示しない電極体ホルダに覆われた状態で電池ケース50の内部に収容される。これによって、捲回電極体40と外装体52が直接接触することを防止できる。なお、上述した各々の絶縁部材の材料は、所定の絶縁性を有していれば特に限定されない。一例として、ポリオレフィン系樹脂(例、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE))、フッ素系樹脂(例、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))等の合成樹脂材料を使用できる。
【0021】
<捲回電極体>
図5は、本実施形態に係る非水電解質二次電池100の捲回電極体40の構成を示す模式図である。図5に示すように、本実施形態に係る非水電解質二次電池100において使用される電極体40は、セパレータ30を介して正極板10と負極板20とが捲回された扁平形状の捲回電極体40である。なお、この非水電解質二次電池100では、捲回電極体40の捲回軸WLと非水電解質二次電池100の幅方向Yとが略一致するように、電池ケース50内に捲回電極体40が収容される(図2参照)。すなわち、以下の説明における「捲回軸方向」は、図中の幅方向Yと略同一の方向である。
【0022】
<正極板>
図5に示すように、正極板10は、長尺な帯状の部材である。正極板10は、帯状の金属箔である正極芯体12と、正極芯体12の表面に付与された正極活物質層14とを備えている。なお、電池性能の観点から、正極活物質層14は、正極芯体12の両面に付与されていることが好ましい。また、この正極板10では、捲回軸方向(幅方向Y)の一方の端辺から外側(図5中の左側)に向かって正極タブ12tが突出している。そして、この正極タブ12tは、長尺な帯状の正極板10の長手方向において所定の間隔を空けて複数形成されている。この正極タブ12tは、正極活物質層14が付与されておらず、正極芯体12が露出した領域である。また、この正極板10の正極タブ12t側の端辺に隣接した領域には、正極板10の長手方向に沿って延びる保護層16が形成されている。
【0023】
正極板10を構成する各部材には、一般的な非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)で使用され得る従来公知の材料を特に制限なく使用できる。例えば、正極芯体12には、所定の導電性を有した金属材料を好ましく使用できる。かかる正極芯体12は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等から構成されていることが好ましい。
【0024】
また、正極活物質層14は、正極活物質を含む層である。正極活物質は、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出できる粒子状の材料である。高性能の正極板10を安定的に作製するという観点から、正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物が好適である。上記リチウム遷移金属複合酸化物の中でも、遷移金属として、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)からなる群の少なくとも一種を含むリチウム遷移金属複合酸化物は特に好適である。具体例としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(NCM)、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物(NCA)、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。また、Ni、CoおよびMnを含まないリチウム遷移金属複合酸化物の好適例として、リチウムリン酸鉄系複合酸化物(LFP)等が挙げられる。なお、本明細書における「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、主要構成元素(Li、Ni、Co、Mn、O)の他に、添加的な元素を含む酸化物を包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。詳しい説明は省略するが、このことは「~系複合酸化物」と記載した他のリチウム遷移金属複合酸化物についても同様である。また、正極活物質層14は、正極活物質以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤の一例として、導電材、バインダ等が挙げられる。導電材の具体例としては、アセチレンブラック(AB)等の炭素材料が挙げられる。バインダの具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の樹脂バインダが挙げられる。なお、正極活物質層14の固形分全体を100質量%としたときの正極活物質の含有量は、概ね80質量%以上であり、典型的には90質量%以上である。
【0025】
一方、保護層16は、正極活物質層14よりも電気伝導性が低くなるように構成された層である。かかる保護層16を正極板10の端辺に隣接した領域に設けることによって、セパレータ30が破損した際に、正極芯体12と負極活物質層24とが直接接触することによる内部短絡を防止できる。例えば、保護層16として、絶縁性のセラミック粒子を含む層を形成すると好ましい。かかるセラミック粒子としては、アルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO2)等の無機酸化物や、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物や、マイカ、タルク、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン等の粘土鉱物や、ガラス繊維などが挙げられる。絶縁性や耐熱性を考慮すると、上述の中でも、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、シリカおよびチタニアが好適である。また、保護層16は、上記セラミック粒子を正極芯体12の表面に定着させるためのバインダを含有していてもよい。かかるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の樹脂バインダが挙げられる。なお、保護層は、正極板の必須の構成要素ではない。すなわち、ここに開示される二次電池では、保護層が形成されていない正極板を使用することもできる。
【0026】
<負極板>
図5に示すように、負極板20は、長尺な帯状の部材である。かかる負極板20は、帯状の金属箔である負極芯体22と、負極芯体22の表面に付与された負極活物質層24とを備えている。なお、電池性能の観点から、負極活物質層24は、負極芯体22の両面に付与されていることが好ましい。さらに、この負極板20には、捲回軸方向(幅方向Y)の一方の端辺から外側(図5中の右側)に向かって突出する負極タブ22tが設けられている。この負極タブ22tは、負極板20の長手方向において所定の間隔を空けて複数設けられている。この負極タブ22tは、負極活物質層24が付与されておらず、負極芯体22が露出した領域である。
【0027】
負極板20を構成する各部材には、一般的な非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)で使用され得る従来公知の材料を特に制限なく使用できる。例えば、負極芯体22には、所定の導電性を有した金属材料を好ましく使用できる。かかる負極芯体22は、例えば、銅や銅合金等から構成されていることが好ましい。
【0028】
負極活物質層24は、負極活物質を含む層である。負極活物質には、上述した正極活物質との関係において電荷担体を可逆的に吸蔵・放出できれば特に限定されず、従来の一般的な非水電解質二次電池で使用され得る材料を特に制限なく使用できる。かかる負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質を使用できる。炭素系負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶質炭素等を使用し得る。また、黒鉛の表面が非晶質炭素で被覆された非晶質炭素被覆黒鉛などを使用することもできる。
【0029】
また、負極活物質層24は、炭素系負極活物質以外の負極活物質を含んでいてもよい。例えば、負極活物質層24は、合金系負極活物質を含んでいてもよい。本明細書において、合金系負極活物質とは、電荷担体(リチウムイオン二次電池においては、リチウム)との合金の形成を伴って、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出する負極活物質のことをいう。合金系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)系負極活物質やスズ(Sn)系負極活物質などが挙げられる。
Si系負極活物質の例としては、ケイ素(Si)、SiO(0.05<x<1.95)で表される酸化ケイ素、リチウムシリケート(LiSi)、SiC(0<x<1)で表される炭化ケイ素、SiN(0<x<4/3)で表される窒化ケイ素等が挙げられる。また、SiとSi以外の元素とからなる合金を用いることができる。Si以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
Sn系負極活物質の例としては、スズ(Sn)、スズ酸化物、スズ窒化物、スズ含有合金等、およびこれらの固溶体等が挙げられる。また、これらに含有されるスズ原子の一部が1種または2種以上の元素で置換されていてもよい。スズ酸化物としては、SnO(0<x<2)で表される酸化スズ、二酸化スズ(SnO)等が挙げられる。スズ含有合金としては、Ni-Sn合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金、Cu-Sn合金、Ti-Sn合金等が挙げられる。これ以外にも、SnSiO、NiSn、MgSn等が例示される。なお、負極活物質層24は、本発明の効果を損なわない範囲内で上述した以外の負極活物質を含んでいてもよい。
【0030】
Si系負極活物質やSn系負極活物質などの合金系負極活物質は、エネルギー密度が高いという利点を有している一方で、炭素系負極活物質と比較して充放電に伴う膨張収縮の度合いが大きい。また、合金系負極活物質は、炭素系負極活物質と比較して電位が高いという特徴を有している。
合金系負極活物質は、炭素系負極活物質と混合して使用され得る。合金系負極活物質の混合量は、負極活物質の固形分全体を100質量%としたときに、概ね30質量%以下であり、20質量%以下であってもよく、例えば、10質量%以下であってもよい。合金系負極活物質の混合量は、概ね0.1質量%以上であり、例えば、1質量%以上であってもよい。
【0031】
また、負極活物質層24は、負極活物質以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤の一例として、バインダ、増粘剤等が挙げられる。バインダの具体例として、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系のバインダが挙げられる。また、増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。なお、負極活物質層24の固形分全体を100質量%としたときの負極活物質の含有量は、概ね70質量%以上であり、典型的には80質量%以上である。なお、負極活物質は、負極活物質層24の90質量%以上を占めていてもよいし、95質量%以上を占めていてもよい。
【0032】
図6は、本実施形態に係る非水電解質二次電池100の捲回電極体40の断面を模式的に示す断面図である。図7は、本実施形態に係る非水電解質二次電池100の負極20を模式的に示す平面図である。なお、図6では、正極芯体12および負極芯体22の片面に形成された正極活物質層14および負極活物質層24が図示されている。また、図6では、保護層の図示は省略されている。
図6に示すように、捲回電極体40は、負極活物質層24が正極活物質層14よりも面積および幅が大きくなるように構成されている。換言すると、負極活物質層24は、幅方向Yにおいて両端が正極活物質層14に対してはみ出している。つまり、負極活物質層24は、正極活物質層14と対向する対向領域24aと、正極活物質層14と対向しない非対向領域24bとを有している。非対向領域24bは、対向領域24aの幅方向Yの両端に沿って形成されている。
【0033】
本実施形態に係る非水電解質二次電池100において、負極活物質層24の対向領域24aと非対向領域24bとは、目付量(すなわち、単位面積当たりの負極活物質層の重量)は同程度であるが、異なる比表面積を有している。対向領域24aのBET法に基づく比表面積をS1、非対向領域24bのBET法に基づく比表面積をS2としたときに、S1はS2よりも大きい。つまり、S1とS2は、S2<S1の関係を満たす。また、S1とS2は、S2/S1≦0.7の関係を満たしていることが好ましく、例えば、S2/S1≦0.5の関係を満たしていてもよい。また、S1とS2は、S2/S1≦0.3、の関係を満たしていてもよい。S1とS2は、0.1≦S2/S1の関係を満たしていてもよい。
なお、本明細書において、「比表面積」とは、例えば吸着質として窒素(N)ガスを用いたガス吸着法(定容量吸着法)によって測定されたガス吸着量に基づき、BET法(例えばBET一点法)により解析されて算出された表面積をいう。
【0034】
負極活物質層24の比表面積S1,S2は、上記の関係を満たす限りにおいて特に制限されないが、例えば、0.5m/g以上であり、0.8m/g以上であってもよく、1.0m/g以上であってもよい。また、負極活物質層24の比表面積S1,S2は、例えば、5.0m/g以下であり、4.0m/g以下であってもよく、3.2m/g以下であってもよい。
【0035】
比表面積S1,S2は、例えば、対向領域24aおよび非対向領域24bに使用される負極活物質の粒径を調整することによって、上記の関係を満たすように調整することができる。粒径は、例えば、レーザ回折散乱法によって得られる体積基準の粒度分布における累積50%粒子径(D50)(以下、平均粒子径(D50)ともいう。)によって評価することができる。負極活物質の平均粒子径(D50)は、負極活物質層24の比表面積S1,S2が上述の関係を満たす限りにおいて、特に制限されないが、例えば、0.5μm以上であり、1μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。また、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、30μm以下であり、20μm以下であってもよく、15μm以下であってもよい。
【0036】
なお、負極活物質層24の対向領域24aと非対向領域24bの面積比や寸法関係等は特に制限されない。上述したように、負極活物質層24は、正極活物質層14よりも面積および幅が大きくなるように構成されている。図7に示すように、対向領域24aの面積をA1、非対向領域24bの面積の合計をA2としたときに、(A1+A2)/A1は、1よりも大きい。また、(A1+A2)/A1は、1.025以上であることが好ましく、例えば、1.05以上であってもよい。(A1+A2)/A1は、1.2以下であることが好ましく、1.15以下であってもよい。負極板20の長手方向において、対向領域24aと非対向領域24bとの長さが同程度である場合、上記の面積比(A1+A2)/A1は、対向領域24aと非対向領域24bの幅から算出することができる。つまり、(A1+A2)は、対向領域24aの幅をw1、と非対向領域24bの幅の合計をw2としたときに、(w1+w2)/w1と同程度とみなすことができる。
【0037】
<セパレータ>
図5に示すように、本実施形態における捲回電極体40は、2枚のセパレータ30を備えている。各々のセパレータ30は、電荷担体が通過し得る微細な貫通孔が複数形成された絶縁シートである。このセパレータ30を正極板10と負極板20との間に介在させることによって、正極板10と負極板20との接触を防止すると共に、正極板10と負極板20との間で電荷担体(例えばリチウムイオン)を移動させることができる。
【0038】
セパレータ30としては、従来公知の二次電池のセパレータにおいて用いられるものを特に制限なく使用できる。セパレータ30としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなる樹脂製の多孔性シートを使用することができる。セパレータ30は、樹脂製の多孔性シートからなる基材部と、基材部の少なくとも一方の表面上に設けられ、無機フィラーを含む耐熱層(Heat Resistance Layer:HRL)と、を有していてもよい。無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、チタニア等を使用し得る。
【0039】
ところで、本発明者の検討によると、比表面積の小さな負極活物質を使用することによって、非水電解質二次電池の容量劣化は抑制されうる。しかしながら、その場合、非水電解質二次電池の内部抵抗も増加しうる。
本発明者は、比表面積の小さな負極活物質を使用することによって容量劣化が抑制される理由を、次のように考えている。比表面積の小さな負極活物質を使用すると、高SOCで非水電解質二次電池を保存した際に負極活物質の表面で起こる、負極活物質と電解液の副反応が減少する。さらに、非対向領域に電荷担体(リチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン)が拡散するための面積が小さくなるため、電荷担体の移動速度が低下し、対向領域から非対向領域への電荷担体の拡散が抑制されると考えている。その結果、容量劣化が抑制されうる。また、本発明者は、比表面積の小さな負極活物質使用すると非水電解質二次電池の内部抵抗が増加する理由について、比表面積が小さくなるほど、それに伴い反応面積が減少するためであると考えている。
【0040】
この実施形態では、負極活物質層24において、対向領域24aの比表面積S1と、非対向領域24bの比表面積をS2が、S2<S1の関係を満たす。かかる構成によって、容量劣化が抑制され、かつ、内部抵抗の増加が抑えられた非水電解質二次電池100が提供される。また、比表面積S1と、比表面積S2は、S2/S1≦0.7の関係を満たすときに、上述の効果がより好適に発揮される。
【0041】
比表面積S1を比表面積S2よりも大きくすることで容量維持率が向上する理由について、本発明者は、対向領域24aから非対向領域24bへの電荷担体(リチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン)の拡散が抑制されるためであると考えている。すなわち、対向領域24aの比表面積S1よりも非対向領域24bの比表面積S2が小さいと、非対向領域24bに電荷担体が拡散するための面積が相対的に小さくなる。それによって電荷担体の移動速度が低下し、非対向領域24bへの電荷担体の拡散が抑制されると考えている。また、負極活物質層24の大部分を占める対向領域24aの比表面積S1が大きいため、内部抵抗の増加が抑えられうる。
【0042】
この実施形態では、対向領域24aの面積A1に対する、対向領域24aと非対向領域24bの面積の合計A1+A2、すなわち、(A1+A2)/A1が、1.025以上1.2以下である。面積比(A1+A2)/A1がこのような範囲にあることによって、容量維持率を向上させる効果がより好適に発揮される。
【0043】
また、対向領域24aから非対向領域24bへの電荷担体の拡散は、高SOC状態における領域間の電位差により促進される。負極活物質として、Si系負極活物質やSn系負極活物質等の電位の高い合金系活物質を用いた場合に、対向領域24aから非対向領域24bへの電荷担体(リチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン)の拡散はより顕著に起こりうる。そのため、合金系活物質を含んだ負極活物質層を有する非水電解質二次電池についても、ここに開示される技術が好ましく適用される。
【0044】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
<評価用非水電解質二次電池の作製>
<実施例1>
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(LNCMO)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、LNCMO:AB:PVdF=100:1:1の質量比でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合し、正極合材スラリーを調整した。
この正極合材スラリーをアルミニウム箔上に塗工し、乾燥した後、プレス処理により所定の厚みに圧縮し、正極板を作製した。
【0046】
BET法に基づく比表面積が3.5m/gである黒鉛を用意した。負極活物質としてのこの黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=100:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、第1の負極合材スラリーを調整した。
比表面積が2.8m/gである黒鉛を用意した。負極活物質としてのこの黒鉛(C)を用いた以外は第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、第2の負極合材スラリーを調整した。
【0047】
図8は、第1および第2の負極合材スラリーを塗工する際に用いたスロットダイ200を模式的に示す模式図である。スロットダイ200には、上部スリット201と、下部スリット202とが設けられている。スロットダイ200は、上部スリット201と下部スリット202から異なるスラリーが同時に塗工できるように構成されている。上部スリット201のスリット幅を、対向領域24aに対応する幅w1に設定した。下部スリット202の対向領域24aに対応する部分をマスキングした。対向領域24aの幅方向両端に沿って非対向領域24bが形成される部分に、合計で幅w2のスラリーを塗工できるようにスリット幅を設定した。ここでは、スリット201のスリット幅w1と、スリット202のスリット幅w2を、対向領域24aの面積A1に対する、対向領域24aと非対向領域24bの面積(A1+A2)、すなわち(A1+A2)/A1が1.1になるようにスリット幅を設定した。上部スリット201から第1の負極合材スラリーを、下部スリット202から第2の負極合材スラリーを負極芯体22としての銅箔上に同時に塗工した。銅箔に塗工された第1および第2の負極合材スラリーを乾燥し、プレス処理により所定の厚みに圧縮し、対向領域と、非対向領域が形成された負極板を作製した。なお、第1および第2の負極合材スラリーの目付量が実質的に同じになるように塗工を行った。
【0048】
対向領域から、所定量の負極活物質層を切り出し、比表面積S1を測定した。非対向領域から、所定量の負極活物質層を切り出し、比表面積S2を測定した。比表面積は、窒素ガス吸着等温線からBET法により解析した値を採用した。比表面積S1は3.2m/g、比表面積S2は2.6m/gであった。
【0049】
正極板および負極板を所定の寸法に切り出した。ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層構造のセパレータを用意した。正極板と負極板とをセパレータを介して互いに絶縁させた状態で、一方の端部からは正極板のアルミニウム箔が、他方の端部からは負極板の銅箔が露出するように積層した。積層した正極板、負極板およびセパレータを、渦巻き状に捲回し、扁平上に圧縮し、成形し、電極体を作製した。正極板のアルミニウム箔と、正極外部導電部材としてのアルミニウム板とを溶接した。負極板の銅箔と、負極外部導電部材としての銅板とを溶接した。ラミネートフィルム製の外装体に、正極導電部材と負極導電部材を外装体の外部に露出させた状態で電極体を収容した。
【0050】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:EMC=1:3の体積比で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用意した。この電解液を注液し、ラミネートフィルムを封止することで、実施例1の非水電解質二次電池を作製した。
【0051】
<比較例1>
実施例1の第1の負極合材スラリーを用いて対向領域24aおよび非対向領域24bを形成した以外は実施例1と同様にして、比較例1の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1,S2はともに3.2m/gであった。
<比較例2>
比表面積が2.4m/gである黒鉛を用意した。負極活物質としてのこの黒鉛(C)を用いた以外は実施例1の第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、負極合材スラリーを調整した。この負極合材スラリーを用いて対向領域24aおよび非対向領域24bを形成した以外は実施例1と同様にして、比較例2の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1,S2はともに2.2m/gであった。
<比較例3>
比表面積が1.2m/gである黒鉛を用意した。負極活物質としてのこの黒鉛(C)を用いた以外は実施例1の第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、負極合材スラリーを調整した。この負極合材スラリーを用いて対向領域24aおよび非対向領域24bを形成した以外は実施例1と同様にして、比較例3の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1,S2はともに1.1m/gであった。
【0052】
<実施例2>
比表面積が2.4m/gである黒鉛を用意した。負極活物質としてのこの黒鉛(C)を用いた以外は実施例1の第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、第2の負極合材スラリーを調整した。この第2の負極合材スラリーを用いて非対向領域24bを形成した以外は実施例1と同様にして、実施例2の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1は3.2m/g、比表面積S2は2.2m/gであった。
<実施例3>
比表面積が1.2m/gである黒鉛を用意した。負極活物質としてのこの黒鉛(C)を用いた以外は実施例1の第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、第2の負極合材スラリーを調整した。この第2の負極合材スラリーを用いて非対向領域24bを形成した以外は実施例1と同様にして、実施例3の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1は3.2m/g、比表面積S2は1.1m/gであった。
【0053】
<実施例4>
(w1+w2)/w1が1.025になるように、下部スリット202の幅を調整した。それ以外は、実施例3と同様にして、実施例3の非水電解質二次電池を作製した。
<実施例5>
(w1+w2)/w1が1.2になるように、下部スリット202の幅を調整した。それ以外は、実施例3と同様にして、実施例3の非水電解質二次電池を作製した。
<実施例6>
(w1+w2)/w1が1.3になるように、下部スリット202の幅を調整した。それ以外は、実施例3と同様にして、実施例3の評価用非水電解質二次電池を作製した。
なお、実施例4~6において、いずれも比表面積S1は3.2m/g、比表面積S2は1.1m/gであった。
【0054】
<比較例4>
黒鉛と酸化ケイ素(SiO)がC:SiO=95:5の質量比で混合された、比表面積が3.4m/gである負極活物質を用意した。この負極活物質を用いた以外は、実施例1の第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、負極合材スラリーを調整した。この負極合材スラリーを用いて対向領域24aおよび非対向領域24bを形成した以外は比較例1と同様にして、比較例4の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1,S2はともに3.1m/gであった。
<比較例5>
黒鉛と酸化ケイ素(SiO)がC:SiO=95:5の質量比で混合された、比表面積が1.1m/gである負極活物質を用意した。この負極活物質を用いた以外は、実施例1の第1の負極合材スラリーと同様の材料および比率で混合し、負極合材スラリーを調整した。この負極合材スラリーを用いて対向領域24aおよび非対向領域24bを形成した以外は比較例4と同様にして、比較例5の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1,S2はともに1.0m/gであった。
<実施例7>
第1の負極合材スラリーとして比較例4の負極合材スラリーを用い、第2の負極合材スラリーとして比較例5の負極合材スラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の非水電解質二次電池を作製した。なお、比表面積S1は3.1m/g、比表面積S2は1.0m/gであった。
【0055】
<非水電解質二次電池の評価>
<IV抵抗>
各非水電解質リチウム二次電池を、SOC50%に調整した。これを25℃の温度環境下に1時間置いた。その後、5Cの電流値で10秒間放電を行った。放電直前の開放電圧(OCV)をV0、10秒放電時点での電圧をV1としたときに、(V0-V1)/5Cの電流値によりIV抵抗を求めた。比較例1のリチウム二次電池の初期抵抗を100とした場合のその他の非水電解質二次電池のIV抵抗の比を算出した。結果を表1に示す。なお、表1の「面積比」は、対向領域の面積A1に対する、対向領域と非対向領域の面積(A1+A2)、すなわち(A1+A2)/A1を意味する。
【0056】
【表1】
【0057】
<容量維持率>
<初期容量の測定>
各非水電解質二次電池を、25℃の環境下においた。これを1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流-定電圧充電し、1/3Cの電流値で2.5Vまで定電流放電した。このときの放電容量を測定し、これを初期容量とした。
【0058】
<25℃保存後の容量維持率の測定>
25℃の環境下において、各非水電解質二次電池を1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流-定電圧充電した後、25℃の環境下で20日間保存した。その後、上記と同じ方法で各非水電解質二次電池の充電および放電を行い、放電容量を測定した。このときの放電容量を、25℃保存後の電池容量として求めた。(25℃保存後の電池容量/初期容量)×100より、25℃保存後の容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0059】
<60℃保存後の容量維持率の測定>
25℃の環境下において、各非水電解質二次電池を1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流-定電圧充電した後、60℃の環境下で20日間保存した。その後、25℃の環境下で4時間放置した。その後、上記と同じ方法で各非水電解質二次電池の充電および放電を行い、放電容量を測定した。このときの放電容量を、60℃保存後の電池容量として求めた。(60℃保存後の電池容量/初期容量)×100より、60℃保存後の容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0060】
比較例1~3の結果より、負極活物質層の比表面積が小さいほど、容量維持率が高いことがわかる。しかしながら、負極活物質層の比表面積が小さいほど、IV抵抗も高いことがわかる。
比較例1と、実施例1~3の結果より、負極活物質層の対向領域の比表面積が同じであっても、非対向領域の比表面積を小さくすることで、容量維持率を向上させ、かつ、IV抵抗の増加を抑制されることがわかった。これは、保存時の対向領域から非対向領域へのリチウムイオンの拡散が抑制されたことによると推測される。また、正極活物質層と対向し、負極活物質層の面積の大部分を占める対向領域の比表面積が同じであるため、IV抵抗の増加が抑制されていると推測される。さらに、比表面積S2/比表面積S1が0.7以下となったところで容量維持率の向上の効果が小さくなっていることがわかる。比表面積S2/比表面積S1を0.7以下とすることで、リチウムイオンの拡散が効果的に抑制されていると推測される。
【0061】
実施例3~6の結果より、対向領域の面積に対する、対向領域と非対向領域の面積の合計の比(表1の面積比)を変化させても、容量維持率の向上およびIV抵抗増加の抑制の効果が得られていることがわかる。ただし、面積比が大きくなるほど、容量維持率の向上の効果が小さくなっている。面積比が1.025~1.2の範囲であるときに、上述の効果がより好適に発揮されることがわかる。
【0062】
比較例1と比較例4の結果、および、比較例3と比較例5の結果より、負極活物質として黒鉛と酸化ケイ素の混合材料を用いた場合、黒鉛を用いた場合と比較して、容量維持率が低いことがわかる。これは、負極活物質が合金系負極活物質である酸化ケイ素を含むことによって、対向領域と非対向領域の電位差が拡大し、非対向領域へのリチウムイオンの拡散がより多く起こったためであると推測される。
また、比較例4と比較例5の結果より、負極活物質として黒鉛を用いた場合と同様、負極活物質層の比表面積が小さいほど、容量維持率は高いが、IV抵抗も高いことがわかる。
比較例4と実施例7の結果より、負極活物質層が合金系負極活物質である酸化ケイ素を含んでいる場合も、対向領域の比表面積S1を非対向領域の比表面積がS2よりも大きくすることで、IV抵抗の増加を抑制しながらも、容量維持率を向上させることがわかった。
【0063】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される技術には上記の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0064】
10 正極板(正極)
12 正極芯体
12t 正極タブ
14 正極活物質層
16 保護層
20 負極板(負極)
22 負極芯体
22t 負極タブ
24 負極活物質層
24a 対向領域
24b 非対向領域
30 セパレータ
40 捲回電極体(電極体)
42 正極タブ群
44 負極タブ群
50 電池ケース
60 正極端子
65 負極端子
70 正極集電体
75 負極集電体
100 非水電解質二次電池
200 スロットダイ
201 上部スリット
202 下部スリット

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8