(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】眼疾患治療用の組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20230821BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230821BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230821BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230821BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230821BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20230821BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20230821BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K9/06
A61P27/02
A61P31/04
A61K45/00
A61K31/4709
A61K31/55
A61K31/7036
(21)【出願番号】P 2021565092
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 US2020030691
(87)【国際公開番号】W WO2020227002
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-05-01
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517211687
【氏名又は名称】アイゲート ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】マン、ブレンダ ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒ-キョン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0341842(US,A1)
【文献】国際公開第2019/057035(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/046834(WO,A1)
【文献】Proceedings of The National Conference On Undergraduate Research (NCUR) 2016,2016年,p.1065-1071
【文献】ADVANCES IN WOUND CARE,2014年,Vol.3(11),pp.708-716
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/36
A61K 31/00
A61K 9/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール化ヒアルロン酸であって、前記チオール化ヒアルロン酸は、約3~約8mg/mlの濃度であり、かつ、共有結合的に架橋されており、前記チオール化ヒアルロン酸のチオール修飾は約0.05~約0.15μmolチオール/mgである、前記チオール化ヒアルロン酸を含むずり減粘性ハイドロゲルと、
約1~約10mg/mlの濃度の抗生物質と
を含み、点眼液の形態である、眼の組成物。
【請求項2】
前記チオール化ヒアルロン酸は、約3、4、5、6、7、又は8mg/mlの濃度である、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項3】
前記抗生物質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mg/mlの濃度である、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項4】
前記抗生物質は、約1mg/ml以上の水への溶解度を有する、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項5】
前記抗生物質は、フルオロキノロンである、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項6】
前記抗生物質は、モキシフロキサシンであるか、又はモキシフロキサシンの塩である、請求項5に記載の眼の組成物。
【請求項7】
前記抗生物質は、モキシフロキサシン塩酸塩である、請求項6に記載の眼の組成物。
【請求項8】
前記抗生物質は、ベシフロキサシンの塩である、請求項5に記載の眼の組成物。
【請求項9】
前記抗生物質は、ベシフロキサシン炭酸塩である、請求項8に記載の眼の組成物。
【請求項10】
前記抗生物質は、アミノグリコシドである、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項11】
前記抗生物質は、トブラマイシンである、請求項10に記載の眼の組成物。
【請求項12】
前記チオール化ヒアルロン酸は、チオール化カルボキシメチルヒアルロン酸である、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項13】
前記ハイドロゲルは、ジスルフィド架橋されている、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項14】
前記ハイドロゲルは、ジスルフィド架橋されている、請求項12に記載の眼の組成物。
【請求項15】
チオール化ヒアルロン酸であって、前記チオール化ヒアルロン酸は、約3~約8mg/mlの濃度であり、かつ、ジスルフィド架橋されており、前記チオール化ヒアルロン酸のチオール修飾は、約0.05~約0.15μmolチオール/mgである、前記チオール化ヒアルロン酸を含むずり減粘性ハイドロゲルと、
約1~約10mg/mlの濃度の抗生物質と
を含み、
点眼の際に、前記ずり減粘性ハイドロゲルは、約30分~約2時間の間、患者の眼に存在し、
点眼液の形態である、眼の組成物。
【請求項16】
前記チオール化ヒアルロン酸は、3、4、5、6、7、又は8mg/mlの濃度である、請求項15に記載の眼の組成物。
【請求項17】
前記抗生物質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mg/mlの濃度である、請求項15に記載の眼の組成物。
【請求項18】
前記チオール化ヒアルロン酸は、約6.5~約8.0mg/mlの濃度である、請求項15に記載の眼の組成物。
【請求項19】
前記抗生物質は、フルオロキノロンである、請求項15に記載の眼の組成物。
【請求項20】
前記抗生物質は、モキシフロキサシンの塩である、請求項19に記載の眼の組成物。
【請求項21】
前記抗生物質は、モキシフロキサシン塩酸塩である、請求項20に記載の眼の組成物。
【請求項22】
前記チオール化ヒアルロン酸は、チオール化カルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA-S)である、請求項15に記載の眼の組成物。
【請求項23】
点眼の際に、眼の表面と少なくとも30分間及び最大2時間接触し続ける、請求項22に記載の眼の組成物。
【請求項24】
前記CMHA-Sは、約7~約8mg/mlの濃度である、請求項22に記載の眼の組成物。
【請求項25】
前記チオール化ヒアルロン酸は約7~約8mg/mlの濃度である、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項26】
前記チオール化ヒアルロン酸は、チオール化カルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA-S)であり、前記ハイドロゲルは、2.5Hzの剪断速度において測定された場合に、0.9~3.6Pa.sの粘度を有する、請求項1に記載の眼の組成物。
【請求項27】
前記ハイドロゲルは、2.5Hzの剪断速度において測定された場合に、0.9~3.6Pa.sの粘度を有する、請求項22に記載の眼の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗生物質を有する眼疾患治療用の組成物および方法に関連する。特に、本開示は、目との接触時間が長く、創傷治癒を妨げない、ぼやけない、抗生物質含有ハイドロゲル組成物に関連する。
【背景技術】
【0002】
局所眼病用の抗生物質は、目に創傷があるときはいつでも予防的に一般的に処方される。これらの抗生物質は、任意の細菌感染を予防および治療の両方に役立つが、創傷の閉鎖を補助しない。反対に、そのような抗生物質は、創傷治癒プロセスを妨げる/阻害することによって創傷の閉鎖を遅らせ得る。一般に、そのような局所眼病用の抗生物質は、点眼液、懸濁液、乳濁液、ゲル、軟膏など、様々な任意の製剤で製剤される。残念なことに、点眼液、懸濁液、および乳濁液は、涙のターンオーバーおよび重力などの要因によって目から急速に除去されるので、数分以上目と接触した状態を保てない。現在使用されているゲルおよび軟膏は、わずかに長い接触時間を有するが、残念なことに患者の視野を妨げるぼやけ(blurring)を伴うことが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、目との延長した接触時間を有し、かつ創傷治癒をも妨げない抗生物質を用いた眼疾患治療用のぼやけない組成物および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、目の中の細菌感染の改善した予防/治療を提供する一方で、同時に目の表面との接触時間を増加した抗生物質の特性を有し、かつ対象にクリアな視野を提供する(すなわち、対象の視野をぼやけさせない)抗生物質(例えば、抗生物質含有ハイドロゲル)を含有するように製剤され得るハイドロゲルを提供する。加えて、本明細書に開示される抗生物質含有ハイドロゲルはまた、創傷治癒プロセスにおいて補助する能力を有する。ハイドロゲルは、ずり減粘性であり、共有結合的に架橋された修飾ヒアルロン酸または非修飾ヒアルロン酸を含む。
【0005】
一態様において、本開示は、ずり減粘性ハイドロゲルおよび抗生物質を含む眼の組成物を提供する。一実施形態において、ずり減粘性ハイドロゲルは、約3~約10mg/mlの濃度であり得るヒアルロン酸を含み得る。本開示の範囲内では、ヒアルロン酸は、約3、4、5、6、7、8、9、または10mg/ml、または、例えば、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、または4.0mg/mlなど任意の中間値であり得ることも企図される。一実施形態において、ヒアルロン酸は、共有結合的に架橋され得る。一実施形態において、抗生物質は、約1~約10mg/mlの濃度であり得る。抗生物質は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10mg/mlであり得るか、または、例えば、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、または4.0mg/mlなどの任意の中間値であり得ることが本開示の範囲内でまた企図される。
【0006】
一実施形態において、ヒアルロン酸は修飾ヒアルロン酸であるか、または非修飾ヒアルロン酸である。
一実施形態において、抗生物質は約1mg/ml以上の水への溶解度を有する。
【0007】
一実施形態において、抗生物質は、フルオロキノロンである。
一実施形態において、抗生物質は、モキシフロキサシンであるかまたはモキシフロキサシンの塩である。
【0008】
一実施形態において、抗生物質は、モキシフロキサシン塩酸塩である。
一実施形態において、抗生物質は、ベシフロキサシンの塩である。
一実施形態において、抗生物質は、ベシフロキサシン塩酸塩である。
【0009】
一実施形態において、抗生物質は、アミノグリコシドである。
一実施形態において、抗生物質は、トブラマイシンである。
一実施形態において、修飾ヒアルロン酸は、チオール化ヒアルロン酸である。
【0010】
一実施形態において、修飾ヒアルロン酸は、チオール化カルボキシメチルヒアルロン酸である。
一実施形態において、ハイドロゲルはジスルフィド架橋され得る。
【0011】
一態様において、本開示は、ずり減粘性ハイドロゲルおよび抗生物質を含む眼の組成物を提供する。一実施形態において、ずり減粘性ハイドロゲルはチオール化ヒアルロン酸を含み得、チオール化ヒアルロン酸は約3~約10mg/mlの濃度で存在し得る。チオール化ヒアルロン酸は約3、4、5、6、7、8、9、または10mg/mlであり得るか、または、例えば、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、または4.0mg/mlなど、任意の中間値であり得ることも本開示の範囲内で企図される。一実施形態において、ヒアルロン酸は、ジスルフィド架橋され得る。一実施形態において、抗生物質は約1~約10mg/mlの濃度であり得る。抗生物質は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10mg/mlであり得るか、または、例えば、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、または4.0mg/mlなど、任意の中間値であり得ることも本開示の範囲内で企図される。
【0012】
一実施形態において、チオール化ヒアルロン酸は、約0.05~約1.0μmolチオール/mgのチオール修飾を有する。チオール化ヒアルロン酸は、約0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、または1.0μmolチオール/mgのチオール修飾、または、例えば、約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、または0.1μmolチオール/mgなど任意の中間値のチオール修飾を有することも本開示の範囲内で企図される。
【0013】
一実施形態において、チオール修飾は、約0.05~約0.2μmolチオール/mgであり、チオール化ヒアルロン酸は、約6.5~約8.5mg/mlの濃度である。チオール修飾は、約0.05、0.05、0.1、0.15、または0.2molチオール/mgであるか、または、例えば、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、または0.15molチオール/mgなど任意の中間値であることがまた、本開示の範囲内で企図される。ヒアルロン酸は、約6.5、7.0、7.5、8.0、または8.5mg/mlの濃度であるか、または、例えば、約6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、または7.0mg/mlなど任意の中間値の濃度であることがまた、本開示の範囲内で企図される。
【0014】
一実施形態において、抗生物質は、フルオロキノロンである。
一実施形態において、抗生物質は、モキシフロキサシンの塩である。
一実施形態において、抗生物質は、モキシフロキサシン塩酸塩である。
【0015】
定義
文脈に特に記載されなければ、または文脈から明らかでなければ、本明細書に使用されるとき、用語「約」は、例えば、平均の2標準偏差以内など、当技術分野における通常の許容範囲内であると理解される。「約」は、記載されている値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%内として理解され得る。ある実施形態において、用語「おおよそ」または「約」は、特に明記されなければ、または文脈から明らかでなければ、記載された参照値のいずれかの方向(より大きいまたは小さい)で25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%以下の範囲内にある値の範囲を指す(そのような数値が可能な値の100%を超える場合を除く)。特に文脈から明らかでなければ、本明細書に提供されるすべての数値は、用語「約」によって修飾されている。
【0016】
「対照」または「参照」は、比較の基準を意味する。一態様において、本明細書に使用されるとき、「対照と比較して変化した」サンブルまたは対象は、正常サンプル、未処理サンプル、または対照サンプルと統計的に異なるレベルを有すると理解される。対照サンプルは、例えば、培養中の細胞、1つ以上の実験動物、または1人以上のヒト対象を含む。対照サンプルを選択し、試験する方法は、当業者の能力の範囲内である。例えば、正の結果を構成する平均からの標準偏差の数など統計的有意性の決定は、当業者の能力の範囲内である。
【0017】
特に明記されていなければ、または文脈から明らかでなければ、本明細書に使用されるとき、用語「または」は包括的であると理解される。特に明記されていなければ、または文脈から明らかでなければ、本明細書に使用されるとき、用語「a」、「an」、および「the」は、単数形または複数形であると理解される。
【0018】
本明細書に使用されるとき、用語「ずり減粘性(shear-thinning)」は、剪断速度が増加するにつれて粘度が減少する状態を指し、それによってずり減粘挙動を示す。
【0019】
本明細書に使用されるとき、用語「対象」は、ヒトおよび哺乳類(例えば、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌおよびウマ)を含む。多くの実施形態において、対象は哺乳類、特に霊長類、とりわけヒトである。いくつかの実施形態において、対象は、畜牛、ヒツジ、ヤギ、乳牛、ブタなどの家畜;ニワトリ、アヒル、ガチョウ、七面鳥などの家禽;および飼いならされた動物、特に犬や猫などのペットである。いくつかの実施形態において、(例えば、特に研究の文脈において)対象動物は、例えば、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター)、ウサギ、霊長類、または近交系ブタなどの豚であり得る。
【0020】
本明細書に使用されるとき、用語「治療」、「治療すること」、「治療する」などは、所望の薬理学的および/または生理学的効果(例えば、細菌感染の軽減または排除)を得ることを指す。効果は、疾患または感染またはそれらの症候を完全にまたは部分的に予防する観点から予防的であり得るか、および/または疾患または感染および/または疾患または感染に起因する悪影響の部分的な治癒の観点から治療的であり得る。「治療」は、本明細書に使用されるとき、哺乳類において、特にヒトにおいて疾患または症状または感染(例えば、眼の感染)の任意の治療をカバーし、以下を含む:疾患または感染にかかりやすい可能性があるが、未だそれを有すると診断されていない対象において、疾患または感染が発生することを予防すること;疾患または感染を阻害すること(例えば、その発症を阻止する、疾患または感染を和らげる、細菌感染を軽減または排除するなど)。
【0021】
用語「薬学的に許容される塩、エステル、アミド、およびプロドラッグ」は、本明細書に使用されるとき、本開示の化合物のそれらのカルボン酸塩、アミノ酸付加塩、エステル、アミド、およびプロドラッグを指し、それらは、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激の、アレルギー反応などを伴わずに患者の組織と接触して使用するのに適切であり、合理的な利益/リスク比相応のものであり、および意図された使用に有効であり、ならびに、可能であれば、本開示の化合物の両性イオン形態である。
【0022】
用語「塩」は、比較的毒性のない、本開示の化合物の無機および有機酸付加塩を指す。これらの塩は、化合物の最終的な分離および精製中に、または、遊離塩基形態の精製された化合物を適切な有機酸または無機酸と別々に反応させ、したがって形成された塩を単離することによって、その場で調製され得る。代表的な塩は、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、メシル酸ナフチル酸塩(naphthylate mesylate)、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩およびラウリルスルホン酸塩などを含む。これらは、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、ならびに無毒のアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどに基づくカチオンを含み得る(例えば、参照によって援用される、S.M.Bargeら、「Pharmaceutical Salts,」J.Pharm.Sci.、1977、66:1-19を参照されたい。)。様々な抗生物質と互換性があることが知られている塩が本開示の範囲内で具体的に企図される。
【0023】
範囲は、本明細書では、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、として表し得る。そのような範囲が表されるとき、別の態様は、ある特定の値から、および/または、他の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表されるとき、先行詞「約」を使用することにより、特定の値が別の態様を形成することが理解される。各範囲のエンドポイントは、他のエンドポイントに関して、および他のエンドポイントとは独立して、重要であることがさらに理解される。本明細書には多くの値が開示され、各値は、値自体に加えて、その特定の値について「約」としても本明細書に開示されていることがまた理解される。本出願全体で、データは多くの様々な形式で提供され、このデータは任意の組み合わせのデータポイントのエンドポイントおよび開始点および範囲を表すことも理解される。例えば、特定のデータポイント「10」および特定のデータポイント「15」が開示される場合、10~15の間だけではなく、10~15より大きい、以上、より少ない、以下、およびに等しいことが開示されることが理解される。2つの特定の単位間の各単位も開示されることがまた理解される。例えば、10および15が開示される場合、11、12、13、および14もまた開示される。これに関して、本明細書で提供される範囲は、範囲内の全ての値の省略表現であると理解される。例えば、1~50の範囲は、任意の数、数の組み合わせ、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50、および、例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、および1.9などの、前述整数間にある、すべての10進値から構成されるグループからのサブ範囲を含むと理解される。サブ範囲に関しては、その範囲のいずれかのエンドポイントから広がる「入れ子型サブ範囲」が具体的に企図される。例えば、1~50という一例示的な範囲の入れ子型サブ範囲は、ある方向において1~10、1~20、1~30、および1~40を含み得、または、他方の方向において50~40、50~30、50~20、および50~10を含み得る。
【0024】
本明細書に記載される薬剤の「治療上有効量」は、症状の治療に治療上の利益を提供するために、または症状に関連する1つ以上の症候を遅らせるか、または最小化するために十分な量である(例えば、対象の目の中の細菌感染を軽減または排除するのに十分な量)。薬剤の治療上有効量は、症状の治療において治療上の利益を提供する、単独または他の療法と組み合わせた治療剤の量を意味する。用語「治療上有効量」は、全体的な療法を改善し、症候、兆候、または症状の原因の軽減または回避し、および/または別の治療剤の治療効果を高める量を包含し得る。
【0025】
適用可能であるか、または具体的に否認されていない場合、本明細書に記載の実施形態のいずれか1つは、本開示の様々な態様の下でその実施形態が記載されていたとしても、任意の他の1つ以上の実施形態と組み合わせることができることが企図される。
【0026】
本開示の他の特徴および利点は、それらの好ましい実施形態の以下の説明から、および特許請求の範囲から明らかであろう。別段の定義がなければ、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および材料は、本開示の実施または試験に使用することができるが、適切な方法および材料は以下に記載される。ここに引用されるすべての公開された外国特許および特許出願は、参照によって援用される。ここに引用される他のすべての公開された参考文献、文書、原稿、および科学文献は、参照によって援用される。加えて、材料、方法および実施例は、例示のみであり、限定することを意図したものではない。
【0027】
これらの特徴および他の特徴は、以下の詳細な説明によって開示され、および/または包含される。
以下の詳細な説明は、説明される特定の実施形態のみに本開示を限定することを意図せず、例として与えられ、添付の図面と併せて最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ハイドロゲル(「OBG」)単独(黒い四角)または抗生物質(1mg/ml)を取り込まれたもの(赤、青、緑の丸)の剪断速度の関数として粘度を示すグラフ。
【
図2A】経時的な中透析チャンバ(MWCO、50kDa)内でのハイドロゲル(「OBG」)内またはPBS内のモキシフロキサシンの2つの形態の放出を示すグラフ。
図2Aは、経時的な中透析チャンバ内でのハイドロゲル(青い丸)またはPBS(緑の丸)からのモキシフロキサシン-HCl放出を示すグラフ。
【
図2B】経時的な中透析チャンバ(MWCO、50kDa)内でのハイドロゲル(「OBG」)内またはPBS内のモキシフロキサシンの2つの形態の放出を示すグラフ。経時的な中透析チャンバ内でのハイドロゲル(青い丸)またはPBS(緑の丸)からのモキシフロキサシン-FB放出を示すグラフ。ハイドロゲルは、約7.5mg/mlのCMHA-S濃度を有する。
【
図3】経時的な中透析チャンバ(MWCO、50kDa)内でのハイドロゲル(「OBG」)(青い丸)またはPBS(緑の丸)からのモキシフロキサシン-HCl放出のグラフ。ハイドロゲルは、約4.0mg/mlのCMHA-S濃度を有する。
【
図4A】経時的な小透析チャンバ(MWCO、50kDa)内でのハイドロゲル(「OBG」)(青いひし形)またはPBS(緑の丸)からの2つの異なる抗生物質の放出のグラフ。経時的な小透析チャンバ内でのハイドロゲル(青いひし形)またはPBS(緑の丸)からのベシフロキサシン-HCl放出のグラフ。
【
図4B】経時的な小透析チャンバ(MWCO、50kDa)内でのハイドロゲル(「OBG」)(青いひし形)またはPBS(緑の丸)からの2つの異なる抗生物質の放出のグラフ。経時的な小透析チャンバ内でのハイドロゲル(「OBG」)またはPBSからのモキシフロキサシン-FB放出のグラフ。ハイドロゲルは、約7.5mg/mlのCMHA-S濃度を有する。
【
図5】細菌の2つの菌株に対する阻止域(ZOI)研究の結果を示すプレート。Aは、グラム陽性菌株、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対するZOI研究の結果を示すプレートを示す図。Bは、グラム陰性菌株、緑膿菌(P.aeruginosa)に対するZOI研究の結果を示すプレートを示す図。各プレートでは、PBS+医薬品のサンプルが左半分にあり、ハイドロゲル(「OBG」)+医薬品のサンプルが右半分にある。
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図6A】両方とも5mg/mlの、ハイドロゲル(「OBG」)+Moxi-HCl(青い丸)またはMoxi-HCl(赤い丸)の溶液(「Vigamox」)のウサギへの単回局所適用後の経時的な目の異なる組織におけるモキシフロキサシン濃度のグラフ。房水中の濃度を示す図。N=10;エラーバーは標準偏差を表す。
【
図6B】両方とも5mg/mlの、ハイドロゲル(「OBG」)+Moxi-HCl(青い丸)またはMoxi-HCl(赤い丸)の溶液(「Vigamox」)のウサギへの単回局所適用後の経時的な目の異なる組織におけるモキシフロキサシン濃度のグラフ。角膜中の濃度を示す図。N=10;エラーバーは標準偏差を表す。
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図6C】両方とも5mg/mlの、ハイドロゲル(「OBG」)+Moxi-HCl(青い丸)またはMoxi-HCl(赤い丸)の溶液(「Vigamox」)のウサギへの単回局所適用後の経時的な目の異なる組織におけるモキシフロキサシン濃度のグラフ。結膜中の濃度を示す図。N=10;エラーバーは標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、少なくとも部分的には、ハイドロゲルが目の中の細菌感染の改善した予防/治療を提供する一方で、同時に対象がクリアな視野を有することを可能にする方法で(例えば、対象の視野をぼやけさせない)増加した目の表面との接触時間を有する抗生物質(例えば、抗生物質含有ハイドロゲル)を含有するように製剤され得るという発明に基づいている。本開示は、一例示的実施形態において、点眼液として製剤される抗生物質含有ハイドロゲルを提供する。有利には、抗生物質含有ハイドロゲルは、目の表面との延長した接触時間を有しながらもぼやけないように製剤され、それは細菌感染の予防的回避または治療に関して有益な効果を提供する。また、本明細書に開示される抗生物質含有ハイドロゲルは、対象の目における創傷治癒のプロセスを遅らせたり、または防いだりしない。その上、本明細書に開示される抗生物質含有ハイドロゲルはまた、創傷治癒プロセスにおいて補助する能力を有する。ハイドロゲルは、ずり減粘性であり、共有結合的に架橋された修飾ヒアルロン酸または非修飾ヒアルロン酸を含む。一態様において、抗生物質は、少なくとも約1mg/ml以上の水への溶解度を有する。別の態様において、抗生物質は、フルオロキノロンである。本明細書の技術は、高表面上の改善された滞留時間、ぼやけない眼病用の製剤、および創傷治癒の阻害を低減するための能力を含む、従来技術に対する多くの利点を提供する。
【0030】
本開示の化合物
抗生物質を取り込むハイドロゲルの形態の眼の組成物が提供される。ハイドロゲルは、共有結合的に架橋されたヒアルロン酸であり、ヒアルロン酸は、修飾されても修飾されなくてもよい。非修飾ヒアルロン酸は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジビニルスルホン、およびジヒドラジドを使用する架橋を含む様々な方法によって共有結合的に架橋され得る。ヒアルロン酸は、分子の電荷を変更するように、分子の生物学的活性を変更するように、または架橋目的のために使用され得る基を含むように修飾され得る。特に有用なのは、チオール化ヒアルロン酸またはチオール化カルボキシメチルヒアルロン酸である。修飾ヒアルロン酸は、架橋のための外部分子と、または外部架橋分子なしに架橋され得る。チオール化HAまたはCMHAを架橋するために、アクリレート、メタクリレート、ハロアセテート、ハロアセトアミド、またはマレイミドなどチオール反応性部位を有する分子は外部架橋分子として使用され得、その例は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ビスブロモアセテートを含む。外部架橋分子なしの架橋のため、特に、チオール化HAまたはチオール化CMHAは、酸化プロセスを介してジスルフィド架橋され得る。そのようなジスルフィド架橋は、次亜塩素酸ナトリウムまたはペルオキシドなどの酸化剤を使用することで補助され得る。
【0031】
修飾HAが修飾を介して架橋されるとき(例えば、チオール化HAのジスルフィド架橋)、修飾のレベルはハイドロゲルの架橋の量を制御するように調節され得、より高レベルの修飾はより多い架橋につながる。本開示のハイドロゲルを製剤するために特に有用なのは、チオール化HAまたはチオール化CMHAであり、チオール修飾は、約0.05~約1.0molチオール/mgのHAまたはCMHAである。この範囲内の修飾レベルは、所望のずり減粘性プロファイルおよび粘度を有する架橋ハイドロゲルを形成するために特に適切である。
【0032】
チオール化CMHAを使用して作られた、約3~約10mg/mlの範囲の濃度を有するずり減粘性ハイドロゲルは、目の表面に配置されるとき、少なくとも30分間かつ最大約2時間、目の表面と接触し続ける。
【0033】
併用治療
本明細書に開示される抗生物質含有ハイドロゲル組成物および方法は、特定の細菌感染(例えば、眼の細菌感染)を治療するために、抗生物質併用療法の投与の指示に使用され得る。本開示の組成物、例えば、単剤として選択および/または投与される抗生物質との治療の有効性を高めるために、または、別の療法(第2療法)の保護を増強するために、これらの組成物(例えば、抗生物質含有ハイドロゲル組成物内に1つより多い抗生物質を含む)を併用すること、および互いに方法を組み合わせること、または疾患および病理的症状、例えば、抗生物質感染の治療、寛解または予防に有効な他の薬剤および方法と組み合わせることが望ましい場合がある。
【0034】
対象への本開示の組成物の投与は、本明細書に記載される投与のための一般的なプロトコルに従うことができ、特定の二次療法を投与するための一般的なプロトコルもまた、治療の毒性がある場合はそれを考慮して、従うことができる。必要に応じて治療サイクルを繰り返すことが期待される。
【0035】
医薬組成物
本明細書に開示される抗生物質含有ハイドロゲル組成物内に取り込まれ得る抗生物質は、眼の症状に臨床的に関連するものであり、かつ、アミノグリコシド、ペニシリン、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライド、およびそれらの組み合わせを含み得る。本開示において特に有用なのは、少なくとも約1mg/mlの水への溶解度を有する抗生物質である。したがって水への溶解度を増加させるフルオロキノロンの塩、例えば、モキシフロキサシン塩酸塩およびベシフロキサシン塩酸塩などは、特に適切である。使用され得る一例示的なアミノグリコシドは、トブラマイシンである。抗生物質は、約1~10mg/mlの濃度で取り込まれ得、ハイドロゲルの架橋前、架橋中、架橋後に取り込まれ得る。ハイドロゲル中の抗生物質の濃度は、抗生物質の水への溶解度と同じ次数であり得るか、またはさらに高い、抗生物質の水への溶解度の約10倍までの濃度であり得る。
【0036】
治療方法
抗生物質の局所適用は、眼の感染に関連する様々な症状を治療または予防するために使用され得る。例えば、眼瞼炎、眼瞼結膜炎、マイボーム腺炎、急性または慢性麦粒腫、霰粒腫、涙嚢炎、涙腺炎、および酒さ性座蒼を含むまぶたの症状;結膜炎、新生児眼炎、およびトラコーマを含む結膜の症状;角膜潰瘍、表在性および間質性角膜炎、角結膜炎、異物、および術後感染を含む角膜の症状;および眼内炎、感染性ブドウ膜炎、および術後感染を含む前房およびブドウ膜の症状は、抗生物質の局所適用によって治療できるいくつかの組織および症状である。感染の予防は、手術前の術前治療、および他の疑いのある感染症状または接触を含む。
【0037】
予防状況の例には、眼瞼形成術、霰粒腫の除去、瞼板縫合、涙管および涙液排水系の処置、および瞼および涙器を含む他の手術処置;翼状片(ptyregia)、瞼裂斑および腫瘍の除去を含む結膜手術、結膜移植、切り傷、火傷および擦過傷などの外傷性病変、および結膜被覆術;異物の除去、角膜切開術、および角膜移植を含む角膜手術;光屈折率処置を含む屈折手術;ブレブの濾過を含む緑内障手術;前房の穿刺;虹彩切除術;白内障手術;網膜手術;および外眼筋を含む処置などの外科的処置の前の治療が含まれる。新生児眼炎の予防も含まれる。
【0038】
より一般的には、抗生物質は、以下の生物のうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない、様々な細菌または寄生虫によって引き起こされる眼の感染を治療または予防するために使用できる:黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌を含むブドウ球菌;肺炎レンサ球菌および化膿レンサ球菌、および、C群、F群、およびG群溶血性レンサ球菌およびビリダンスレンサ球菌群を含むレンサ球菌;生物型III Aegyptiusを含むインフルエンザ菌;軟性下疳菌;モラクセラ・カタラーリス;淋菌および髄膜炎菌を含むナイセリア(Neisseria);クラミジア・トラコマチス、オウム病クラミジア、およびクラミジア・ニューモニエを含むクラミジア;結核菌およびマイコバクテリウムアビウム細胞内複合体ならびにM.マリヌム、M.フォーチュイタム、およびM.ケロネーを含む非定型的マイコバクテリウムを含むマイコバクテリウム;百日咳菌;カンピロバクター・ジェジュニ;レジオネラ・ニューモフィラ;バクテロイデス・ビビウス;ウェルシュ菌;ペプトストレプトコッカス種;ボレリア・ブルグドルフェリ;マイコプラズマ・ニューモニエ;梅毒トレポネーマ;ウレアプラズマ・ウレアリチカム;トキソプラズマ;マラリア;およびノゼマ。
【0039】
開示された医薬品送達システムに含有される薬剤は、抗生物質含有ハイドロゲル組成物から、医薬品自体および物理的形態、医薬品負荷の程度、およびそのシステムのpHなどの要因に依存する速度で放出され得る。
【0040】
本発明において使用される抗生物質は、市販であるか、または公知の反応技術によって当業者が容易に得られる。抗生物質は、当技術分野で知られている従来の方法により、選択された剤形の他の成分と組み合わせることができる。
【0041】
抗生物質含有ハイドロゲル組成物は、ヒトまたは非ヒト動物の目に局所適用され、非ヒト動物は、乳牛、ヒツジ、ウマ、ブタ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、および他の動物を含む。本組成物は、限定することなしに、目の前部、上まぶたの下、下まぶたの上、および、盲管の中に局所適用できる。適用は、目の感染症の治療として、または手術前などの予防として行うことができる。
【0042】
キット
一般に、本発明の抗生物質含有ハイドロゲル組成物は、目の患部または感受性領域への組成物の分配および/または適用を容易にするためにパッケージされた本発明の抗生物質または組成物を含有するキットとして提供され得る。パッケージまたはディスペンサは、ドロッパ、ボトル、チューブ、スプレィボトル、または他のディスペンサおよび使用説明書を含み得る。
【0043】
キットは、医学的に許容される条件を使用して製造され、かつ、無菌性、純度、および薬学的に許容される調合剤を有する成分を含有する。
使用説明書は一般に、意図された治療のための投薬量、投薬スケジュール、および投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、複数用量パッケージ)またはサブ単位用量であり得る。本開示のキットで提供される使用説明書は、通常、ラベルまたは添付文書(例えば、キットに含まれる紙シート)に書かれた使用説明書であるが、機械で読み取り可能な使用説明書(例えば、磁気または光学記憶ディスクで記憶される使用説明書)もまた許容できる。
【0044】
ラベルまたは添付文書は、組成物が例えば、対象の或るクラス細菌感染の治療のために使用されることを示す。使用説明書は、本明細書に記載される任意の方法を実施するために提供され得る。
【0045】
この開示のキットは適切なパッケージに入っている。適切なパッケージは、限定するものではないが、ドロッパ、バイアル、ボトル、瓶、可撓性パッケージ(例えば、密閉されたMylarバッグまたはプラスチック袋)などを含む。コンテナは、第2の薬学的に有効な薬剤をさらに含み得る。
【0046】
キットは、任意選択的に緩衝液など追加の成分および解釈情報を提供し得る。通常、キットは、コンテナおよびコンテナ上またはコンテナに関連付けられたラベルまたは添付文書を含む。
【0047】
ここで本開示の例示的実施形態を詳細に参照する。本開示は例示的実施形態と併せて説明されるが、本開示をそれらの実施形態に限定することを意図するものではないことが理解される。反対に、それは、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の技術的思想および範囲内に含まれ得る代替物、修正物、および均等物をカバーすることを意図している。
【0048】
実施例
本開示は、以下の例によってさらに説明され、それは、限定として解釈されるべきではない。本出願全体で引用されるすべての参考文献、公開された特許、および特許出願の内容は、参照により本明細書に援用される。本開示は、開示された構造、材料、組成物および方法の変形で実施することができ、そのような変形は、本開示の範囲内と見なされることを当業者は認識するであろう。
【0049】
実施例1:ハイドロゲル形成
Lawyerら[1]、およびWendlingら[2]に記載されるように、0.1、0.2、0.4、または0.7μmolチオール/mgのチオール修飾でチオール修飾カルボキシメチルHA(CMHA-S)を合成した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4)中にCMHA-Sを溶解させることによって、ハイドロゲルを作成した。次亜塩素酸ナトリウムの添加による連続混合下、CMHA-Sをジスルフィド架橋した。直径25mmのステンレス鋼形状の平行板形態レオメータを使用してレオロジー試験を行った。ハイドロゲルのサンプル(5~6ml)を35mmペトリ皿に入れ、形状を5mmのギャップに下げた。粘度およびずり減粘性を決定するために、剪断速度を0.1~10Hzで変化させた。剪断速度が増加すると粘度が減少することは、ずり減粘挙動を示す。表1は、4つのハイドロゲル製剤のCMHA-Sのチオール修飾と、CMHA-Sの濃度と、ハイドロゲルの生じる(2.5Hzにおける)粘度とを提供する。全ての4つの製剤は、ずり減粘挙動を示した。
【0050】
【0051】
実施例2:抗生物質含有ハイドロゲル
約0.1μmolチオール/mgのチオール修飾および約7.5mg/mlのCMHA-S濃度を有し、1、5、または10mg/mlの抗生物質濃度を有する、実施例1のように作成されたハイドロゲルに抗生物質を混合した。使用した抗生物質は、モキシフロキサシン(遊離塩基;Moxi-FB)、モキシフロキサシン塩酸塩(Moxi-HCl)、ベシフロキサシン塩酸塩(Besi-HCl)、またはトブラマイシン(Tobra)であった。これらの抗生物質の水への溶解度は、それぞれ、約1、20、1、および>50mg/mlであった。架橋ハイドロゲルに粉末として抗生物質を添加し、その混合物を激しく撹拌または振盪し、全体に抗生物質を取り込んだ。抗生物質はハイドロゲルに溶解したか、または全体に分散した。
【0052】
実施例3:抗生物質含有ハイドロゲルの物性
取り込まれた抗生物質と、またはなしに、実施例2に記載されたハイドロゲルで粘度、pH、および屈折率(RI)を測定した。この実施例において、Moxi-HCl、Moxi-FB、またはトブラマイシン(1mg/ml)をハイドロゲル中に混合した。実施例1に記載されるように粘度を決定した。RIを屈折計で測定し、pHをpHメータで測定した。
【0053】
ハイドロゲル+抗生物質の3つ全ての製剤では、ずり減粘挙動および粘度は、医薬品なしのハイドロゲルと有意差はなかった(
図1および表2)。ハイドロゲル+Moxi-HClまたはMoxi-FBのpHは、ハイドロゲル単独のpHと同様であったが、トブラマイシンの添加はpHの増加をもたらした(表2)。pHは、眼病の症状に所望される約6~8のpHを達成するように、必要に応じて、医薬品の取り込み前または取り込み後にpHを調整できる。ハイドロゲル単独と比較して、ハイドロゲル+抗生物質の3つの混合物全てでRIが変化せず、脱イオン水のRIと同様であった(1.3326)。
【0054】
【0055】
実施例4:ハイドロゲルからの抗生物質の放出
実施例3に記載される、Moxi-HClまたはMoxi-FBが取り込まれたハイドロゲル(1mg/ml)について、ハイドロゲルからの医薬品の放出を24時間以上監視し、PBSの溶液からの医薬品の放出と比較した。この評価のために、ハイドロゲル+医薬品またはPBS+医薬品の0.5mlサンプルを中透析チャンバに入れ、チャンバを100mlのPBSを含有するビーカーに入れた。UV分光法を使用して様々な時点で透析チャンバ内の医薬品の残量を監視した。PBSと比較して、ハイドロゲルは、医薬品放出をわずかに遅くしただけであり、透析は、4~8時間以内に完了した(
図2Aおよび2B)。
【0056】
1mg/mlでMoxi-HClが取り込まれた実施例1からのハイドロゲル#4を除いて、医薬品放出研究を同じ方法で行った。上記のように放出を監視した。より高い濃度のCMHA-Sを有するハイドロゲルと同様に、ハイドロゲルからの医薬品放出は、PBSからよりもわずかに遅かったが、ここでは、放出は4時間以内に完了した(
図3)。
【0057】
抗生物質としてMoxi-FBおよびBesi-HClを用いて、7.5mg/mlのCMHA-S、および10mg/mlで取り込まれた抗生物質を含むハイドロゲルで別の医薬品放出研究を行った。この研究のために、サンプルを透析チャンバに入れ、その後透析チャンバを10mlのPBSを含有するチューブに入れた。各時点で透析チャンバを新たなチューブに移し、透析液を(透析チャンバ内の物質ではなく)UV吸収によって医薬品の放出量を(残りの量ではなく)計算した。この実験構成において、ハイドロゲルからの医薬品放出はPBSからよりも遅かった(
図4Aおよび4B)。Moxi-FBと比較してBesi-HClは乏しい水溶解度であるにもかかわらず、Besi-HClは、ハイドロゲルからなお放出された。
【0058】
実施例5:ハイドロゲルからの抗生物質の有効性
ハイドロゲルにおける医薬品の有効性を確かめるために、阻止域(zone of inhibition、ZOI)研究を行った。Moxi-HClを1mg/mlでPBS中またはハイドロゲル中(CMHA-S濃度7.5mg/ml)に溶解し、実施例4のように放出のために中透析チャンバ内に入れた。透析液のサンプルを0、1、2、4、および8時間に回収した。濾紙ディスクを各サンプルに浸し、細菌を接種したプレートに置き、ZOIをPBS群とハイドロゲル群との間で比較した。グラム陽性菌、黄色ブドウ球菌、およびグラム陰性菌、緑膿菌に対するZOI結果を
図5A、5B、および表3に示す。PBS+医薬品と比較して、ハイドロゲル+医薬品からのサンプルで、ZOIは同様かまたはより大きく、同様の量の医薬品が放出され、ハイドロゲルへの取り込みおよびハイドロゲルからの放出後も有効であり続けたことが示された。
【0059】
【0060】
実施例6:ウサギにおける抗生物質含有ハイドロゲル
ニュージーランドホワイト種(NZW)ウサギにおける市販の製剤(同じく5mg/mlのMoxi-HCl、溶液中)と比較した、ハイドロゲル+Moxi-HCl(5mg/ml)の局所投与後のモキシフロキサシンの目の分布を評価した。両眼への単回局所眼科投与を介して、ハイドロゲル+MoxiまたはVigamoxの2つの試験物のうちの1つで、30羽のメスNZWウサギを処理した。両方の試験物を0.15mg/目のモキシフロキサシンの用量で投与した。試験物投与による健康への悪影響は観察されなかった。各群からの5羽の動物を投与後0.5、1、および2時間で安楽死させ、房水、角膜および眼球結膜を回収した。LC-MS/MSモキシフロキサシンによって組織を分析した。
【0061】
ハイドロゲル+Moxi(群1)またはVigamox(群2)の形態で0.15mg/目のモキシフロキサシンの投与後、房水および角膜におけるモキシフロキサシン濃度は、同等であった(
図6Aおよび6B)。しかしながら、群2では0.5時間で、群1では1時間でモキシフロキサシンレベルが最も高かった。結膜において、群2と比較して群1では、0.5時間および1時間でモキシフロキサシンの濃度がより高かった(
図6C)。これらのパターンは、ハイドロゲルからの放出後の眼組織へのモキシフロキサシンの迅速な利用可能性を示唆し、医薬品の溶液と比較して、医薬品送達にハイドロゲルを使用したとき、医薬品濃度は類似またはわずかに高かった。
【0062】
この研究により、ハイドロゲル+抗生物質の組み合わされた製剤は、ハイドロゲルでの眼の表面(欠損または潰瘍など)の治療および抗生物質での感染の予防両方に使用され得ることが示された。抗生物質に一般に使用される治療スケジュールは、適切な抗生物質投与量を送達するために変更する必要はないであろう。
【0063】
参照による援用
本明細書で引用または参照されるすべての文書、および本明細書で引用される文書で引用または参照されるすべての文書は、本明細書で言及される任意の製品または本明細書で参照により援用される任意の文書内の製造業者の指示、説明、製品仕様、および製品シートとともに、本明細書に参照によって援用され、および本開示の実施に用いられ得る。
【0064】
均等物
本明細書に記載の詳細な例および実施形態は、例示のみを目的として例として与えられ、本開示に限定されるとは決してみなされないことが理解される。その観点からの様々な修正または変更は、当業者に提案され得、本出願の技術的思想および範囲内に含まれ、添付の特許請求の範囲内であるとみなされる。本開示のシステム、方法、およびプロセスに関連する追加の有利な特徴および機能は、添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。また、当業者は、本明細書に記載の本開示の特定の実施形態に対する多くの均等物を、認識できるであろう、すなわちルーチン的な実験にすぎない実験を使用して確認できるであろう。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。