(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】サーメット及び/又はセラミックス製の多色の物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 37/22 20060101AFI20230821BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G04B37/22 V
G04B37/22 E
G04B19/06 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022042220
(22)【出願日】2022-03-17
【審査請求日】2022-03-17
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マリリーヌ・ランベール オベルソン
(72)【発明者】
【氏名】アルノー・アクティス-ダッタ
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ・ベスッティ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ネトゥシル
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114758(JP,A)
【文献】特開2015-72270(JP,A)
【文献】特開2014-12615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
C04B 35/00-35/84
B28B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮してレリーフ装飾があるサーメット及び/又はセラミックス製の多色の物品を製造する方法(8)であって、
少なくとも第1の材料(2)と第2の材料(3)を用意し、ここで、前記第1の材料(2)が前記第2の材料(3)とは色が異なり、前記第1の材料(2)及び前記第2の材料(3)がセラミックス又はサーメットである、ステップと、
第1の圧縮道具(5)を含み、選択的に第2の圧縮道具(6)を含む、少なくとも1つの圧縮道具を用意するステップと、
前記第1の圧縮道具(5)内にて前記第1の材料(2)を充填し圧縮するステップと、
前記第1の圧縮道具(5)内又は前記第2の圧縮道具(6)内にて前記第1の材料(2)に前記第2の材料(3)を充填し圧縮して、前駆体(7)を得るステップと、
前記前駆体(7)を焼結してブランク(9)を形成するステップと、
レーザーアブレーションによって、前記前駆体(7)又は前記ブランク(9)における前記第2の材料(3)に対して機械加工をして、レリーフ装飾(8)を作成し、ここで、前記第2の材料(3)に対して、レーザーアブレーションによって、少なくとも前記第1の材料(2)まで空欠部を形成し、前記第1の材料(2)を露出し、前記第1の材料(2)上に設けられる前記第2の材料(3)のレリーフ装飾(8)を得る、機械加工ステップと、及び
前記ブランク(9)を仕上げて前記物品を得るステップとを行う
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
さらに、前記前駆体(7)又は前記ブランク(9)の寸法構成を形成するように別の機械加工を行う別の機械加工ステップを行い、
前記別の機械加工ステップは、前記レーザーアブレーションによる機械加工ステップの前又は後に行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも第3の材料を用意し、
前記第3の材料は、前記第2の材料(3)とも前記第1の材料(2)とも色が異なり、
前記第3の材料は、セラミックス又はサーメットであり、
前記第3の材料を前記第2の材料(3)上にて圧縮し、レーザーアブレーションによって、前記第3の材料に対して少なくとも前記第2の材料(3)まで空欠部を形成し、これによって、前記第2の材料(3)及び/又は前記第1の材料(2)上に設けられる前記第3の材料によって作られた前記レリーフ装飾(8)を得る
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザーアブレーションは、パルスレーザーを用いて行う
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
レリーフ装飾(8)があるセラミックス及び/又はサーメット製の多色の物品であって、
前記レリーフ装飾(8)は、前記物品の他の部分とは異なる色を有し、
前記物品は、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法によって得られ、
前記レリーフ装飾(8)は、前記物品の残りと一体的であり、材料において均質的な色を有する
ことを特徴とする物品。
【請求項6】
前記物品は、外側部品又はムーブメントの携行型時計用コンポーネントである
ことを特徴とする請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記外側部品又はムーブメントの携行型時計用コンポーネントは、ケースミドル部、ケース裏部、ベゼル、ベゼルインサート、押し部品、リュウズ、ブレスレットリンク、バックル、表盤、針、表盤インデックス、振動錘、及びプレートからなる群から選択される
ことを特徴とする
請求項6に記載の物品。
【請求項8】
少なくともインデックスと数字によって形成されるレリーフ装飾(8)があるベゼル(1)である
ことを特徴とする請求項7に記載の物品。
【請求項9】
アクロニムによって形成されるレリーフ装飾(8)があるリュウズである
ことを特徴とする請求項7に記載の物品。
【請求項10】
前記装飾(8)は、ホワイトジルコニアによって作られており、残りの部分は、ブラックジルコニアによって作られている
ことを特徴とする請求項6~9のいずれか一項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス及び/又はサーメットの多重圧縮によって得られる物品に関する。本発明は、特に、ベゼルのような携行型時計(例、腕時計、懐中時計)用コンポーネントであって、この携行型時計用コンポーネントの装飾を形成する色を含む異なる色のセラミックス及び/又はサーメット材料を圧縮することによって製造されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス又はサーメット製の携行型時計用コンポーネントは、一般的には、材料を注入又は圧縮し、その後に焼結する方法によって得られる。このようなコンポーネントに、ベゼルのインデックスや数字のような装飾が施されていて、このような装飾がコンポーネントの他の部分とは異なる色となっていることがよくある。装飾の各要素は、一般的には、焼結によって得られるブランクにはんだ付け又は接着することによって付加される。このようなブランクと装飾要素の機械的アセンブリーは、実装が高コストであったり、複雑であったりする。
【0003】
この機械的アセンブリーの代替形態の1つが欧州特許文献EP2746243に記載されており、これは、前駆体の一部を含浸させ、その後に、顔料として作用する金属を含む溶液とともにその前駆体を焼結することを伴う。しかし、この方法には、色を有する部分の材料において均質的な色を得ることが難しいという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、異なる色の複数の種類の材料を圧縮し、その後に機械加工して1つの色の装飾を形成するような新しい方法を提供することによって、前記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明は、レーザーアブレーションステップを行って、1つの色の装飾を作成する製造方法に関する。
【0006】
具体的には、本発明は、圧縮してレリーフ装飾があるサーメット及び/又はセラミックス製の多色の物品を製造する方法に関し、この方法は、
少なくとも第1の材料と第2の材料を用意し、ここで、前記第1の材料が第2の材料とは色が異なり、前記第1の材料及び前記第2の材料がセラミックス又はサーメットである、ステップと、
第1の圧縮道具を含み、存在する場合に第2の圧縮道具を含む、少なくとも1つの圧縮道具を用意するステップと、
前記第1の圧縮道具内にて前記第1の材料を充填し圧縮するステップと、
前記第1の圧縮道具内又は前記第2の圧縮道具内にて第1の材料に第2の材料を充填し圧縮して、前駆体を得るステップと、
前記前駆体を焼結してブランクを形成するステップと、
レーザーアブレーションによって、前記前駆体又は前記ブランクにおける前記第2の材料に対して機械加工をして、レリーフ装飾を作成し、ここで、前記第2の材料に対して、レーザーアブレーションによって、少なくとも前記第1の材料まで空欠部を形成し、前記第1の材料を露出し、前記第1の材料上に設けられる前記第2の材料のレリーフ装飾を得る、機械加工ステップと、及び
前記ブランクを仕上げて前記物品を得るステップとを行う。
【0007】
好ましいことに、この方法は、さらに、焼結ステップの前及び/又は後に別の機械加工ステップを行い、これによって、前駆体及び/又はブランクの寸法構成をそれぞれ定める。
【0008】
本発明は、さらに、前記製造方法によって得られるセラミックス及び/又はサーメット製の物品に関する。この本発明に係る物品は、色、一般的には美的外観、が異なる少なくとも2種類の別個の材料を含む。本発明によると、この装飾がある物品は、装飾と物品の残りの部分の間に不連続性がなく一体的に作られる。これは、はんだ付けや接着剤によって装飾要素を物品に付加することによって装飾される物品とは対照的である。本発明によると、この装飾は、物品の他の部分とは異なる色を有し、各色の材料において色が均質的である。
【0009】
添付の図面を参照しながら例として示している好ましい実施形態についての下記説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明確になる。なお、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】2つの異なる道具内にて2種類の別個の材料を圧縮するときに行われる複数のステップを概略的に示している。
【
図2】単一の道具内における2種類の別個の材料を圧縮するときに行われる複数のステップについての変異形態を概略的に示している。
【
図3】二元の材料の圧縮と焼結によって得られたブランクについての斜視図を示している。
【
図4】本発明に係る製造方法によって得られた装飾されたベゼルについての斜視図を示している。
【
図5】本発明に係る製造方法によって得られた別の装飾されたベゼルを上から見た図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、圧縮することによってサーメット又はセラミックスである少なくとも2種類の別個の材料によって作られた物品を製造する方法に関する。「別個の材料」という用語は、美的外観、特に色、が異なる材料を意味する。これによって、化学組成が異なることになる。当該材料は、ベース材料が同じであるが色が変わるように異なる顔料を用いたのものであることができ、また、異なるベース材料のものであることもできる。例として、当該材料は、ベース材料が酸化ジルコニウムで同じであり、一方は黒色の材料を得るように黒色の顔料を含み、他方は白色を得るようにアルミナを含むものであることができる。一般的には、前記セラミックスは、窒化物、炭化物及び/又は酸化物であることができる。同様に、サーメットは、炭化物、窒化物及び/又は酸化物を含むセラミックス相と、及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金及び銀のような貴重な元素などから選択される金属性バインダーの相を含むことができる。
【0012】
本発明に係る物品は、時計、宝飾品、ブレスレットのような構成要素のような装飾物品であることができる。携行型時計製造の分野において、この物品は、ケースミドル部、ケース裏部、ベゼル、ベゼルインサート、押し部品、リュウズ、ブレスレットリンク、バックル、表盤、針、表盤インデックスのような外側部品であることができる。また、この物品は、振動錘やプレートのようなムーブメントのコンポーネントであることもできる。例として、この物品は、
図4及び5に示しているように、異なる色、例えば黒と白、の2種類のセラミックスによって作られたベゼル1であり、一方の色は、背景を形成し、他方の色は、装飾8を形成するものである。例として、この装飾8は、携行型時計のリュウズ上にあるアクロニム(頭字語)であることができる。
【0013】
この物品は、異なる材料を圧縮して前駆体を形成し、その前駆体を焼結することによって作られる。2種類の別個の材料を含む物品の製造方法を以下に説明するが、この物品は、3、4などの数の種類の別個の材料を含む物品であることができる。同様に、異なる色の装飾があることができる場合に、同じ色の装飾がある物品であることができる。
【0014】
当該製造方法は、
図1~5に示している以下のステップを行う。
- 少なくとも第1の材料2と第2の材料3を用意し、ここで、前記第1の材料が、その色、したがってその化学組成、によって前記第2の材料と異なり、前記第1及び第2の材料がセラミックス又はサーメットである、ステップ
したがって、前記第1及び第2の材料は、両方ともセラミックスであるか、両方ともサーメットであるか、又は一方の材料がセラミックスであり他方がサーメットであることができる。
- 第1の圧縮道具5と、存在する場合に第2の圧縮道具6を含む少なくとも1つの圧縮道具を用意するステップ(
図1a、1e及び2a)
- 第1の圧縮道具5内に第1の材料2を充填し圧縮するステップ(
図1b、1c、2b及び2c)
- 第1の圧縮道具5(
図2d及び2e)内又は第2の圧縮道具(
図1g及び1h)内にある第1の材料2上に第2の材料3を充填し圧縮して前駆体7(
図1i及び2f)を得るステップ
- 前駆体7を焼結してブランク9を形成するステップ(
図3)
- レーザーアブレーションによって、前駆体7又はブランク9上における少なくとも第2の材料3に対して機械加工して、前駆体7又はブランク9の第1の材料2上に設けられる装飾8を作成し、ここで、第2の材料3に 第1の材料2まで空欠部が形成され、第1の材料2を露出し、前記第2の材料3には装飾8のみが残る、ステップ
- ブランク9を仕上げて物品1を形成するステップ
【0015】
前記レーザーアブレーション加工ステップは、焼結前に、すなわち、前駆体に対して、行うことができ、又は焼結後に、すなわち、ブランクに対して、行うことができる。
【0016】
2つよりも大きい数の種類の異なる色の材料が存在する場合、複数の種類の材料に空欠部を形成して、複数の色の装飾を描くことができる。このように、前記第1及び第2の材料の色とは異なる色の少なくとも第3のサーメット又はセラミックス材料を用意する。この第3の材料は、同じ圧縮道具又は別の圧縮道具内にて第2の材料上にて圧縮される。そして、前駆体が焼結される。この第3の材料の装飾は、この材料を少なくとも第2の材料まで削って第2の材料の上に設けられる装飾を形成することによるレーザー彫刻によって作成される。また、第3の材料に対して第1の材料まで空欠部を形成して、第1の材料上に設けられる装飾を作ることができる。また、ある部分においては第2の材料まで、別の部分においては第1の材料まで、第3の材料に対して食う欠部を形成して、ある部分においては第1の材料上に、別の部分においては第2の材料上に設けられるような装飾を作ることができる。
【0017】
レーザーアブレーションは、好ましくは、ピコ秒、ナノ秒又はフェムト秒レーザーのようなパルスレーザーを用いて行われる。
【0018】
また、この方法は、前駆体及び/又はブランクの寸法構成を判断するように意図された、第2の機械加工ステップとも呼ばれる別の機械加工ステップを行うことができる。好ましくは、これは材料が硬すぎにならないように焼結前に前駆体に対して行われる。本発明は、この機械加工ステップが、部分的に焼結前に、また、部分的に焼結後に、行われることを排除するものではない。この別の機械加工ステップの前又は後に、装飾を得るためのレーザー彫刻を行うこともできる。
【0019】
この方法は、有機バインダー(パラフィン、ポリエチレンなど)のシステムとともに材料が注入されている場合に、存在する場合に、焼結ステップの前に脱バインダーステップを行うことができる。
【0020】
最後に、この製造方法は、研磨、サテン仕上げ、マット処理のような仕上げステップを行う。
【0021】
図1の変異形態によると、第1の材料2は、第1の圧縮道具5内にて圧縮され、圧縮された材料は、第2の圧縮道具6内に導入される前にその第1の圧縮道具5から取り出される。次に、第2の材料3は、第2の圧縮道具6内において第1の材料2上にて圧縮される。好ましいことに、この第2の圧縮道具の寸法構成は、第1の圧縮道具の寸法構成よりもわずかに大きい。これは、第2の圧縮道具へと移す際に圧力が解放されたときに、第1の材料の体積が大きくなるためである。2種類の圧縮された材料を含む前駆体7は、最終的に、第2の道具から取り出されて、焼結、レーザーアブレーション、第2の機械加工ステップ、及び仕上げステップを行う。
【0022】
図2の変異形態において、2種類の材料2、3が同じ圧縮道具5内にて圧縮される。
【0023】
図示している例において、プレスとして説明することもできる圧縮道具5、6は、ベゼルを作るためのリング状の形を有する型を備える固定部分5aを含む。なお、材料の圧縮を確実にする可動部分については図示していない。
【0024】
図3は、第1の材料2と、その上に重なり合っている第2の材料3との二元の圧縮及び焼結によって得られるブランク9を示している。
【0025】
焼結の前又は後に、そして行う場合に第2の機械加工の前又は後に、レーザーアブレーションによって、第2の材料3に対して少なくとも第1の材料2まで空欠部が形成され、
図4及び5に示しているように、ベゼル1によって形成される基材とは異なる色の装飾8を形成する。
【0026】
典型的には、
図4及び5におけるベゼル1は、ホワイトジルコニア及びブラックジルコニアを圧縮し、酸化性雰囲気下で1400℃の温度で48時間焼結することによって得られる。
【符号の説明】
【0027】
1 物品、携行型時計用コンポーネント、又はベゼル
2 第1の材料
3 第2の材料
5 第1の圧縮道具
5a 型の固定部分
6 第2の圧縮道具
6a 型の固定部分
7 前駆体
8 装飾
9 ブランク