(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】複信方式の無線通信におけるハウリングキャンセル方式及び無線通信機
(51)【国際特許分類】
H04R 3/02 20060101AFI20230821BHJP
H04B 3/23 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
H04R3/02
H04B3/23
(21)【出願番号】P 2022097516
(22)【出願日】2022-06-16
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000234937
【氏名又は名称】八重洲無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089956
【氏名又は名称】永井 利和
(72)【発明者】
【氏名】飯束 嘉庸
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-323084(JP,A)
【文献】特開2010-273316(JP,A)
【文献】特開平08-335977(JP,A)
【文献】特開平05-014476(JP,A)
【文献】米国特許第06282176(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/02
H04B 3/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複信方式で同時通話を行う各々の無線通信機が、
マイクロホンの出力信号を増幅するマイク側アンプと変調送信部との間に設けられたマイク側減衰器と、
受信復調部とスピーカへの入力信号を増幅するスピーカ側アンプとの間に設けられたスピーカ側減衰器と、
前記マイク側アンプから前記マイク側減衰器へ出力される第1の信号と前記スピーカ側
減衰器から前記スピーカ側アンプへ出力される第2の信号とが入力され、前記第2の信号に基づいて作成した疑似エコー信号を前記第1の信号から差し引いて得られる第3の信号を出力するエコーキャンセラと、
前記エコーキャンセラが出力する前記第3の信号に基づいて、前記マイクロホンに対する音声入力の有無を判定する音声入力判定手段と、
前記音声入力判定手段の判定結果に基づいて、前記マイク側減衰器と前記スピーカ側減衰器の各減衰量を制御設定する制御手段と
を備え、
前記制御手段が、前記スピーカから音波を最大出力させた場合の音量の内、前記マイクロホンへ回り込む音響エコーに係る音量の計測値に、前記マイクロホンの出力信号を増幅するマイク側アンプの利得、前記スピーカへの入力信号を増幅するスピーカ側アンプの利得及びハウリングマージンを考慮したものを実効音量として、前記音声入力判定手段が音声入力有りと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に設定し、前記音声入力判定手段が音声入力無しと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に設定するようにしたことを特徴とする複信方式の無線通信におけるハウリングキャンセル方式。
【請求項2】
複信方式で同時通話を行う無線通信機であって、
マイクロホンの出力信号を増幅するマイク側アンプと変調送信部との間に設けられたマイク側減衰器と、
受信復調部とスピーカへの入力信号を増幅するスピーカ側アンプとの間に設けられたスピーカ側減衰器と、
前記マイク側アンプから前記マイク側減衰器へ出力される第1の信号と前記スピーカ側
減衰器から前記スピーカ側アンプへ出力される第2の信号とが入力され、前記第2の信号に基づいて作成した疑似エコー信号を前記第1の信号から差し引いて得られる第3の信号を出力するエコーキャンセラと、
前記エコーキャンセラが出力する前記第3の信号に基づいて、前記マイクロホンに対する音声入力の有無を判定する音声入力判定手段と、
前記スピーカから音波を最大出力させた場合の音量の内、前記マイクロホンへ回り込む音響エコーに係る音量の計測値に、前記マイク側アンプの利得、前記スピーカ側アンプの利得及びハウリングマージンを考慮したものを実効音量として、前記音声入力判定手段が音声入力有りと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に設定し、前記音声入力判定手段が音声入力無しと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に設定する制御手段と
を具備したことを特徴とする無線通信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機同士の複信方式の同時通話において、各無線通信機でハウリングが発生することを防止するための方式及び同方式に使用される無線通信機に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機が複信で同時通話を行う場合、スピーカからマイクロホンに音声が回り込むことによってハウリングが発生することが多く、オーディオ・アクセサリーやヘッドセットが用いられることが多い。
特に、特定小電力無線局や簡易無線局に係る携帯型無線通信機の場合には、小さな本体筐体内にスピーカとマイクロホンを内蔵させており、音声出力孔と収音孔の距離が小さくなるためにハウリングが不可避的に発生してしまう。
【0003】
従来から、ハウリングの発生に関しては、前記複信方式の無線通信に限らず、カラオケボックスやホールなどのようにマイクロホンとスピーカが同一空間にある場合に、マイクロホン→アンプ(増幅)→スピーカ→マイクロホンという正帰還ループが構成されたことによる発振現象(中~高周波の不快音)として周知であるが、無線通信機による複信方式の同時通話では、双方の無線通信機のマイクロホンアンプ(以下、「MIC側アンプ」という)とスピーカアンプ(以下、「SP側アンプ」という)のゲインが絡み、且つスピーカとマイクロホンが近接した配置条件となるため、その対策が難しいものとなる。
【0004】
無線通信機において多用されるハウリング対策としては、スピーカからマイクロホンへの音声の回り込みは所謂音響エコーを生じさせていることに外ならず、
図6に示すようにエコーキャンセラを用いる方法がある。
同図におけるエコーキャンセラ101は、無線送受信部102からSP側アンプ103に供給される受信復調信号を入力として音響エコー信号に模した信号(擬似エコー信号)を作成し、スピーカ104から出力された音声の一部がマイクロホン105に回り込んで、MIC側アンプ106で増幅された音響エコー信号から前記擬似エコー信号を差し引くことで、ハウリングの原因となる音響エコーを消去するものである。
【0005】
そして、このように無線通信機にエコーキャンセラに相当するハウリングキャンセル回路を組み込んだ提案は、下記特許文献1及び2に見受けられるように古くからなされており、またエコーキャンセラ自体に関しても下記特許文献3及び4等多数の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭56-6546号公報
【文献】特開平08-274689号公報
【文献】特開昭62-116025号公報
【文献】特開平01-158860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エコーキャンセラは、適応フィルタ、エコーサプレッサ及びボイススイッチからなり、適応フィルタはスピーカからマイクロホンに回り込む音響エコーを予測して除去する機能を果たし、エコーサプレッサは適応フィルタで除去できなかった音響エコーを抑制し、またボイススイッチは適切に音量を制御するようになっている。
しかしながら、適応フィルタで完全に音響エコーを取り除くことが不可能であるためにエコーサプレッサを設けているが、エコーサプレッサによる音響エコーの減衰量には限界があり、ハウリングを防止するためにボイススイッチでの音量制御を行わざるを得ない場合が多く、スピーカから大音量を出力させることができないという問題がある。
また、エコーキャンセラを用いると音声信号に歪が生じて聴き取りづらくなるという傾向がある。
【0008】
そこで、本発明は、エコーキャンセラを音声の送信信号系に介在させる本来の用法ではなく、その機能を利用して自局への音声入力の有無判定のために用い、その判定結果に基づいて音声の入出力信号に対する減衰量を制御する構成を無線通信機に適用し、もって、複信方式での同時通話においてきわめて有効なハウリングキャンセル方式を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、複信方式で同時通話を行う各々の無線通信機が、マイクロホンの出力信号を増幅するマイク側アンプと変調送信部との間に設けられたマイク側減衰器と、受信復調部とスピーカへの入力信号を増幅するスピーカ側アンプとの間に設けられたスピーカ側減衰器と、前記マイク側アンプから前記マイク側減衰器へ出力される第1の信号と前記スピーカ側減衰器から前記スピーカ側アンプへ出力される第2の信号とが入力され、前記第2の信号に基づいて作成した疑似エコー信号を前記第1の信号から差し引いて得られる第3の信号を出力するエコーキャンセラと、前記エコーキャンセラが出力する前記第3の信号に基づいて、前記マイクロホンに対する音声入力の有無を判定する音声入力判定手段と、前記音声入力判定手段の判定結果に基づいて、前記マイク側減衰器と前記スピーカ側減衰器の各減衰量を制御設定する制御手段とを備え、前記制御手段が、前記スピーカから音波を最大出力させた場合の音量の内、前記マイクロホンへ回り込む音響エコーに係る音量の計測値に、前記マイクロホンの出力信号を増幅するマイク側アンプの利得、前記スピーカへの入力信号を増幅するスピーカ側アンプの利得及びハウリングマージンを考慮したものを実効音量として、前記音声入力判定手段が音声入力有りと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に設定し、前記音声入力判定手段が音声入力無しと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に設定するようにしたことを特徴とする複信方式の無線通信におけるハウリングキャンセル方式に係る。
【0010】
この発明によれば、複信方式の同時通話において、一方の無線通信機(A)に音声入力があるが、他方の無線通信機(B)に音声入力がない状態では、無線通信機(A)の音声は、無線通信機(A)のマイク側減衰器と無線通信機(B)のスピーカ側減衰器で減衰を受けることなく、無線通信機(B)のスピーカからの受信再生音は減衰を受けない音量で出力される一方、無線通信機(B)及び無線通信機(A)で音声の回り込みがあるとしても、無線通信機(B)のマイク側減衰器と無線通信機(A)のスピーカ側減衰器の減衰量が回り込み音響エコーに係る実効音量に対応するデシベル(dB)値に設定されており、音声はそれら減衰量の加算分だけ減衰されるためにハウリングは発生しない。
また、双方の無線通信機で同時に音声入力がある状態では、双方の無線通信機での入力音声はそれぞれ自局のマイク側減衰器では減衰されないが、相手局のスピーカ側減衰器で回り込み音響エコーに係る実効音量に対応した減衰量分だけ減衰されるため、相手局での受信再生音はその減衰量分だけ小さい音量になる結果、この場合にもハウリングは発生しない。
【0011】
第2の発明は、複信方式で同時通話を行う無線通信機であって、マイクロホンの出力信号を増幅するマイク側アンプと変調送信部との間に設けられたマイク側減衰器と、受信復調部とスピーカへの入力信号を増幅するスピーカ側アンプとの間に設けられたスピーカ側減衰器と、前記マイク側アンプから前記マイク側減衰器へ出力される第1の信号と前記スピーカ側減衰器から前記スピーカ側アンプへ出力される第2の信号とが入力され、前記第2の信号に基づいて作成した疑似エコー信号を前記第1の信号から差し引いて得られる第3の信号を出力するエコーキャンセラと、前記エコーキャンセラが出力する前記第3の信号に基づいて、前記マイクロホンに対する音声入力の有無を判定する音声入力判定手段と、前記スピーカから音波を最大出力させた場合の音量の内、前記マイクロホンへ回り込む音響エコーに係る音量の計測値に、前記マイク側アンプの利得、前記スピーカ側アンプの利得及びハウリングマージンを考慮したものを実効音量として、前記音声入力判定手段が音声入力有りと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に設定し、前記音声入力判定手段が音声入力無しと判定している場合には、前記マイク側減衰器による減衰量を前記実効音量に対応するデシベル(dB)値に、前記スピーカ側減衰器による減衰量を0デシベル(dB)に設定する制御手段とを具備したことを特徴とする無線通信機に係り、前記第1の発明の複信方式の無線通信におけるハウリングキャンセル方式に適用される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複信方式の無線通信におけるハウリングキャンセル方式によれば、受信再生音を大音量にしてもハウリングが発生しない複信通信が可能になる。
また、この発明ではエコーキャンセラを音声送信信号系に挿入しておらず、音声入力の有無を判定するための信号作成のために用いているだけであるため、受信再生音に歪が生じることはない。
音声入力判定の遅延による受信音声の頭切れの傾向についても、音量が小さくなるが充分に聴こえるため、通話上での違和感は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る無線通信機のブロック図である。
【
図2】実施形態に係る無線通信機における制御部によるMIC側減衰器とSP側減衰器の制御手順を示すフローチャートである。
【
図3】実施形態に係る無線通信機A及びBの複信通信時におけるスピーカからマイクロホンへの音声の回り込みを考慮した音声信号の周回伝送路を示す概略図(無線通信機Aにのみ音声入力がある場合)である。
【
図4】実施形態に係る無線通信機A及びBの複信通信時におけるスピーカからマイクロホンへの音声の回り込みを考慮した音声信号の周回伝送路を示す概略図(無線通信機Bにのみ音声入力がある場合)である。
【
図5】実施形態に係る無線通信機A及びBの複信通信時におけるスピーカからマイクロホンへの音声の回り込みを考慮した音声信号の周回伝送路を示す概略図(無線通信機A及びBに音声入力がある場合)である。
【
図6】従来技術であるエコーキャンセラを用いたハウリング対策が施されている無線通信機のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る複信方式の無線通信におけるハウリングキャンセル方式及び無線通信機の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は実施形態に係る無線通信機のブロック図であり、11はアンテナ、12は変調送信部と受信復調部を含む無線送受信部、13はマイクロホン、14はMIC側アンプ、15はMIC側減衰器、16はSP側減衰器、17はSP側アンプ、18はスピーカ、19はエコーキャンセラ、20は音声入力判定部、21は制御部を示す。
一般に、無線通信機には操作部や表示部及び全体を制御するシステム制御部があるが、本発明の説明においては重要ではないため割愛されている。
【0015】
本発明の無線通信機の送信信号系は、マイクロホン13から出力される音声信号をMIC側アンプ14で増幅した後、MIC側減衰器15を通じて無線送受信部12へ出力し、無線送受信部12において音声信号で搬送波を変調して電力増幅することでアンテナ11から無線送信する。
一方、同無線通信機の受信信号系は、音声信号で搬送波を変調した信号をアンテナ11で受信して復調し、その復調された音声信号はSP側減衰器16を通じてSP側アンプ17へ出力され、SP側アンプ17で増幅された音声信号でスピーカ18を駆動して音声出力させる。
【0016】
ところで、この実施形態の無線通信機の特徴的構成及び機能として、MIC側アンプ14からMIC側減衰器15へ出力される信号とSP側減衰器16からSP側アンプ17へ出力される信号とがエコーキャンセラ19へ入力され、またエコーキャンセラ19からの出力信号が音声入力判定部20へ入力されており、音声入力判定部20が出力する判定信号に基づいて制御部21がMIC側減衰器15とPS側減衰器16の各減衰量を制御するようになっている。
【0017】
ここに、エコーキャンセラ19は、SP側減衰器16からSP側アンプ17へ出力される信号に基づいて音響エコーに相当する疑似エコー信号を作成し、MIC側アンプ14からMIC側減衰器15へ出力される信号からその疑似エコー信号を差し引くことで、マイクロホン13に入力されたユーザの音声信号だけを出力する機能を備えており、音声入力判定部20では、エコーキャンセラ19から受けた出力信号を整流して直流電圧に変換し、その直流電圧が予め設定されている閾値以上か否かでマイクロホン13にユーザの音声が入力されているか否かを示す判定信号を出力する。
【0018】
そして、制御部21では、音声入力判定部20の判定信号に基づいて、
図2に示すようなMIC側減衰器15とSP側減衰器16の各減衰量の制御を実行する。
すなわち、音声入力判定部20が音声入力有りの判定信号を出力している状態では、MIC側減衰器15を0dB、SP側減衰器16をXdBに設定制御し(S1,S2)、逆に音声入力判定部20が音声入力無しの判定信号を出力している状態では、MIC側減衰器15をXdB、SP側減衰器16を0dBに設定制御する(S3,S4)。
【0019】
ただし、XdBの減衰量については、スピーカ18から音波を最大出力させた状態での音量の内、マイクロホン13へ回り込む音響エコーに係る音量(dB)を計測しておき、その計測音量(dB)に対してマイク側アンプ14の利得(dB)、スピーカ側アンプ17の利得(dB)及びハウリングマージン(dB)を加算した実行音量(dB)として与えられる。
【0020】
次に、以上の実施形態に係る2台の無線通信機AとBが複信方式での通話を行う場合におけるハウリングキャンセル方式を、スピーカからマイクロホンへの音声の回り込みを考慮した音声信号の周回伝送路の概略図(
図3から
図5)を参照しながら説明する。
ただし、
図3から
図5において、音声信号の伝送路上の各機能要素はそれらの符号の数字部分が
図1のブロック図に示される各機能要素の符号と対応しており、符号の数字部分に付されている“a”と“b”は無線通信機AとBに係るものであることを示している。また、以下の説明において、
図3から
図5に示されていないエコーキャンセラ19、音声入力判定部20及び制御部21が記載される場合にも同様とする。
なお、各図の中央に符号22で示してあるものは、無線通信機AとBの無線送受信部12a,12bと空中線伝送路に相当する。
【0021】
図3は、複信方式での通話を行っている無線通信機AとBの内の無線通信機A側だけにユーザの音声が入力されている状態を示す。
この場合には、無線通信機A側の音声入力判定部20aは音声入力ありの判定信号を出力するため、制御部21aはMIC側減衰器15aを0dBに、SP側減衰器16aをXdBに設定制御する。
一方、無線通信機B側の音声入力判定部20bは音声入力なしの判定信号を出力するため、制御部21bはMIC側減衰器15bをXdBに、SP側減衰器16bを0dBに設定制御する。
【0022】
その場合、無線通信機Aにおけるユーザの入力音声信号は、マイクロホン13a→MIC側アンプ14a→MIC側減衰器15a(0dB)→(無線送受信部12a,12bと空中線伝送路)→SP側減衰器16b(0dB)→SP側アンプ17b→スピーカ18bの経路を通じて無線通信機Bで再生出力されるが、MIC側減衰器15aとSP側減衰器16bでは減衰を受けないため、スピーカ18bからは最大音量で再生出力させることができる。
一方、無線通信機Bでのスピーカ18bからマイクロホン13bへの音波の回り込みに係る音響エコー信号については、マイクロホン13b→MIC側アンプ14b→MIC側減衰器15b(XdB)→(無線送受信部12a,12bと空中線伝送路)→SP側減衰器16a(XdB)→SP側アンプ17a→スピーカ18aの経路を通じて無線通信機Aで再生出力されることになるが、MIC側減衰器15bとSP側減衰器16aを合わせて2*XdB分の大きな減衰を受けるため、無線通信機Aでハウリングが発生することはなく、当然に無線通信機Bでのハウリングの発生はない。
【0023】
図4は、複信方式での通話を行っている無線通信機AとBの内の無線通信機B側だけにユーザの音声が入力されている状態を示す。
この場合は、
図3と比較すれば明らかなように、ユーザの音声入力について無線通信機AとBが
図3の場合と逆の関係になっているだけであり、無線通信機Aでの制御部21aによるMIC側減衰器15aとSP側減衰器16aの設定制御及び無線通信機Bでの制御部21bによるMIC側減衰器15bとSP側減衰器16bの設定制御が逆になっている。
したがって、無線通信機Bにおいてユーザのマイクロホン13bに対する入力音声信号は、MIC側減衰器15bとSP側減衰器16aで減衰を受けないために、無線通信機Aのスピーカ18aからは最大音量で再生出力させることができる一方、無線通信機Bでのスピーカ18bからマイクロホン13bへの音波の回り込みに係る音響エコー信号については、MIC側減衰器15aとSP側減衰器16bを合わせて2*XdB分の大きな減衰を受けるため、無線通信機Bでハウリングが発生することはなく、当然に無線通信機Aでのハウリングの発生はない。
【0024】
図5は、複信方式での通話を行っている無線通信機AとBの双方においてユーザの音声が入力されている状態を示す。
この場合には、無線通信機AとBの各音声入力判定部20a,20bが音声入力ありの判定信号を出力するため、制御部21a,21bはそれぞれ各MIC側減衰器15a,15bを0dBに、各SP側減衰器16a,16bをXdBに設定制御する。
したがって、無線通信機Aにおけるユーザの入力音声信号は、マイクロホン13a→MIC側アンプ14a→MIC側減衰器15a(0dB)→(無線送受信部12a,12bと空中線伝送路)→SP側減衰器16b(XdB)→SP側アンプ17b→スピーカ18bの経路を通じて無線通信機Bで再生出力され、無線通信機Bにおけるユーザの入力音声信号は、マイクロホン13b→MIC側アンプ14b→MIC側減衰器15b(0dB)→(無線送受信部12a,12bと空中線伝送路)→SP側減衰器16a(XdB)→SP側アンプ17a→スピーカ18aの経路を通じて無線通信機Aで再生出力される。
その場合、双方の無線通信機AとBでの入力音声信号は自局のMIC側減衰器15a,15bでは減衰されないが、相手局のSP側減衰器16b,16aでXdBだけ減衰され、相手局での再生音声はその減衰量分だけ小さい音量になるため、ハウリングは発生しない。
ただし、再生音声のXdB分の音量減衰量は、一般的な携帯型無線通信機で計測して25%~30%程度の音量の低下になるだけで、実用上支障をきたすような低下量ではない。
【0025】
そして、
図1及び
図3から
図5に示されるように、この実施形態の無線通信機AとBはエコーキャンセラ19a,19bを直接的なハウリングキャンセルのために用いておらず、送信信号系にエコーキャンセラが挿入されないため、再生音質の劣化を招かないという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、複信方式での通話を行う無線通信機に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
11…アンテナ、12,12a,12b…無線送受信部、13,13a,13b…マイクロホン、14,14a,14b…MIC側アンプ、15,15a,15b…MIC側減衰器、16,16a,16b…SP側減衰器、17,17a,17b…SP側アンプ、18,18a,18b…スピーカ、19,19a,19b…エコーキャンセラ、20,20a,20b…音声入力判定部、21,21a,21b…制御部、22…無線送受信部12a,12b及び空中線伝送路、101…エコーキャンセラ、102…無線送受信部、103…SP側アンプ、104…スピーカ、105…マイクロホン、106…MIC側アンプ。
【要約】
【課題】無線通信機の複信通話では送信信号系にエコーキャンセラを挿入してハウリングの発生を防止するが、エコーの完全除去はできないために大音量再生ができず、また音に歪が生じる。
【解決手段】無線通信機の送信/受信の各信号系にそれぞれMIC側減衰器15とSP側減衰器16を設け、各信号系の信号を用いてエコーキャンセラ19と音声入力判定部20により自局への音声入力の有無を判定し、制御部21が、音声入力有りではMIC側減衰器15とSP側減衰器16の減衰量をそれぞれ0dBとXdBに、音声入力無しでは逆の減衰量に制御する。減衰量XdBは、最大音量出力状態でのスピーカ18からマイクロホン13への音波の回り込み量に相当する。複信において、単局だけの音声入力時には大音量での通信が可能で、両局の音声入力時にはXdBだけ減衰した音量となるが、いずれもハウリングは有効に防止できる。
【選択図】
図1