(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】塩化ビニル製潅水ヘッダ
(51)【国際特許分類】
F16L 41/02 20060101AFI20230821BHJP
F16L 47/32 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
F16L41/02
F16L47/32
(21)【出願番号】P 2022202876
(22)【出願日】2022-12-20
【審査請求日】2022-12-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522493997
【氏名又は名称】株式会社スガマタ
(74)【代理人】
【識別番号】100160657
【氏名又は名称】上吉原 宏
(72)【発明者】
【氏名】小野澤 康
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-083337(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第111316807(CN,A)
【文献】特開2000-028071(JP,A)
【文献】実開昭54-177346(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第102069044(CN,A)
【文献】特開平09-196273(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0407132(KR,Y1)
【文献】中国実用新案第205005636(CN,U)
【文献】特開2005-160358(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106613752(CN,A)
【文献】中国実用新案第207054326(CN,U)
【文献】実開昭56-026548(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0276998(US,A1)
【文献】米国特許第05474102(US,A)
【文献】登録実用新案第3025627(JP,U)
【文献】特開2015-117769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 41/02
F16L 47/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水道管(10)から水(W)の供給先を複数に分岐させる塩化ビニル製(20)の潅水ヘッダ(1)であって、
前記水道管(10)と
塩化ビニル製の主給水管(40)と、
前記水道管(10)と前記主給水管(40)を接続するための塩化ビニル製の継手部材(30)と、
前記継手部材(30)から前記主給水管(40)の間に配置される塩化ビニル製の配管部材(50)と、
前記主給水管(40)の後端部に備えられる塩化ビニル製のエンドキャップ(60)と、
前記主給水管(40)に複数備えられる塩化ビニル製の分岐管(90)に装着されるホースジョイントニップル(70)又はホースジョイント(71)と、
から成り、
前記分岐管(90)が前記主給水管(40)の長手方向に、対向方向に向かい合うように複数配置され、前記分岐管(90)が90度曲がっていることから、対向方向に向かい合う全ての前記分岐管(90)の流路方向を同一の方向へ揃え、
前記主給水管(40)と前記分岐管(90)の結合部(80)が溶着により一体化されていることを特徴とする塩化ビニル製の潅水ヘッダ(1)。
【請求項2】
前記継手部材(30)に開閉コック(31)が設けられていることを特徴とする塩化ビニル製の潅水ヘッダ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潅水ヘッダに関し、詳しくは、塩ビ製の主給水管に複数備えられる分岐管との結合部が溶着により一体化されている潅水ヘッダの技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野菜の健全な生育には、植物の地上部、地下部と取り巻くさまざまな環境要因が、植物にとって好適な状態であることが必要である。それらは、光や気温、湿度、二酸化炭素濃度などさまざまな要因があるが、その中でも植物が必要とする水には、重要な役割がある。水は植物体の多くをしめ、植物体内では光合成の原料となり、根から吸収された無機要素や、葉で合成された同化産物などの移動を助けており、また、葉の気孔から水分を蒸発(蒸散)させて、葉の温度の調節もしている。但し、蒸散はよく晴れた日中に植物体の一時的萎凋(しおれ)を引き起こし、土壌が乾燥し水分が補給されなければ永久萎凋となり、脱水によって枯死に至ることとなる。枯死にならないためにも、土壌内に安定して水を供給することはとても重要である。
【0003】
植物が自ら養分を作り出す活動の光合成にも「水」は必要である。ただし、根から吸い上げる水のうち、光合成で使われる水の量はほんの一部でしかなく、光合成で分解されて酸素になる水の200倍以上の量の水が蒸散によって失われる。植物が乾燥状態におかれると、蒸散を抑えるために気孔が閉鎖され、気孔が閉じれば、当然二酸化炭素を取り込めずに光合成速度は低下してしまう。従って、植物における「水」の役割は大変大きく、土壌内を適湿に保つことで、植物にストレスをかけない安定した生育の実現を図るため、適切な水やりが必要となる。
【0004】
ここで、ハウス栽培など、雨の降り込まない施設内での栽培をする際、また露地栽培でも、暑い夏など長いこと雨が降らずに土壌が乾燥してしまう時に、人工的に作物に水を与えることを潅水という。潅水は、一般的には潅水ホースを地中に埋め込んだり、地表で根元に置いて農地に水を与えるもので、係る潅水ホースは、針で孔をあけたものから、レーザーでごく小さな孔をあけたもの、片面に孔があいているものと両面にあいているもの。さらに孔の間隔も細かく、いくつもの種類に分かれており、このホースを伝って、水を土壌にいきわたらせるというものである。やわらかい霧状の水をまく噴霧タイプ、じわじわと水を浸透させる点滴タイプ、マルチタイプのものなどいくつもタイプがあり、さらにそれぞれホースの厚み、つまり耐えられる水圧も変わり、農地や作物など、用途に合わせて選ぶ必要がある。そして、この潅水ホースを、何本も間隔を空けて細長く直線状に土を盛り上げた畝ごとに配置するために、水道管から供給される水を分岐させる潅水ヘッダが用いられる。
【0005】
潅水ホースは長く使用していると目詰まりを起こし、一年くらいを目安に定期的に交換するものであるため、潅水ヘッダと潅水ホースとの接続は容易なものとすることが望ましく、また、頻繁な脱着作業に耐える強度が必用である。そのため、従来の潅水ヘッダは金属製とし、主給水管と分岐管との接続箇所は溶接等により強固に結合されていた。ステンレス鋼ではない炭素鋼や低合金鋼の場合は、係る溶接部には溶接により凝固組織、焼入組織、焼きならし組織、焼きなまし組織など、素材とは異なる金属組織が生成しこれらの組織は、わずかに耐食性(腐食電位)が異なるため、溶接部では、これらの異種組織部が接合していることから、組織間で電位差が生じて腐食(異種金属間腐食、ガルバニック腐食)を起こすため、均一組織の母材部よりも溶接部が錆びやすくなる。なお、主給水管の係る結合部にバーリング加工を施して分岐管を螺設するというものもあるが、加工負担増加に伴うコストの問題や、締め込んだときの角度合わせが難しく、水漏れの原因ともなり得ることから好適とはいえないものであった。ステンレスの場合だとTig溶接等で結合することができるが、材料並びに加工費が高いという問題が残る。そこで、錆びや腐食の問題と生ずることなく、低コストで丈夫な潅水ヘッダはできないものかとの課題を解決するために、既に水道管の素材として用いられている塩化ビニルに着目し、これを潅水ヘッダに利用するという着想の下、本発明を完成させたものである。
【0006】
ここで、潅水ヘッダではその素材をどうするかによって特徴が大きく異なるものであるため検討すると、例えば鉄、鉛、銅、ステンレスなどの金属の中から選択する場合、金属でも最も加工性に優れ、強度的にも十分な鉄を例とると、鉄は簡単に破損することはなく、地震の際のリスクも低いという長所があるが、他方で鉄はサビやすいという大きな欠点を有しており、酸化しやすく錆の発生による目詰まりは潅水ヘッダでは問題となる。この点についてステンレスは丈夫で高い強度を有しつつ、錆を発生させないという鉄にはない長所を有している。しかし、材料費、加工費が高くなってしまう等々の課題を残すものといえ、それぞれに一長一短がある。
【0007】
これに対し、樹脂製(HIVP)とすることが考えられる。樹脂一般の特徴である水密性や、耐腐食性などが高く、水道管として既に使用されている塩ビ管やポリエチレン管であれば軽量で耐腐食性も高いからである。更に、加工しやすいという点も大きな特徴で、長さの調整などが容易であるため、製作に手間がかからない。但し、単に樹脂製といっても種々の種類があり、それぞれにデメリットもあるため、樹脂素材の選択には十分な検討が必用である。例えば、ポリエチレンは、熱や振動に強いため、様々な用途で利用できるが、日光によって穴が空く可能性があることが難点である。穴が空いたら、当然ながら付け替えを行わなければならなくなる。
【0008】
潅水システムを利用して、ビニールハウス栽培や露地栽培を大規模に行う場合には、システムもそれなりに大規模になり、近年では、IT技術の発達により、潅水時間を事前に設定しておき、スマートフォン(登録商標)等の携帯端末を利用して、どこにいても遠隔で潅水できるようなシステムも構築されている。しかしながら、係るシステムの導入には大きな費用負担をしなければならず、農場の規模によってはコスト面で大きな問題を抱えてしまう。
【0009】
また、潅水ヘッダによって分岐される潅水ホースなど、多様な潅水部材との接続を僅かなスペースで容易にできることにより、狭いハウス内において、例えばマルチシート回収装置等の出し入れや設置の邪魔とならないコンパクトな潅水ヘッダであることが望まれている。
【0010】
また、潅水装置は、他の農業設備同様、長期間使用するためにはメンテナンスが必要でるが、潅水装置などは初期投資が比較的高く、複数台導入すると投資回収するには数年かかる場合もある。そこで、ローコストで製造・設置可能な潅水ヘッダが望まれている。
【0011】
このような要求にこたえるべく、従来からも、種々の技術提案がなされている。例えば、発明の名称を「配管構造および配管構造の施工方法」とする技術が開示されている(特許文献1参照)。具体的には、「プレハブ加工配管を安定した品質でかつ容易に施工することができる配管構造および配管構造の施工方法を提供する。」ことを課題とし、解決手段として「管材と継手とが予め接続されてから敷設対象領域に敷設されるプレハブ加工配管の配管構造において、敷設対象領域に形成されたスリーブを貫通可能なスリーブ貫通管材7を有し、スリーブの貫通方向の一方側に配置される第1プレハブ加工配管と、スリーブ貫通管材と接続可能な接続管材を有し、スリーブの貫通方向の他方側に配置される第2プレハブ加工配管と、スリーブ貫通管材と接続管材とを接続する接続部材と、を有する。」というものである。しかしながら、特許文献1に記載の発明は、管材同士の接合部にスリーブ貫通管材、3 方向分岐継手、又はファスナクリップを用いて接合する点に技術的特徴を有するものであって、本発明のような主給水管と分岐管の接続部を溶着によって強度を確保するものではない。
【0012】
また、発明の名称を「継手及び分期間付き継手、及びそれを用いた配管システム方法及び配管施工方法」とする技術が開示されている(特許文献2参照)。具体的には、解決課題を「建物の配管のプレハブ化工法に用いる分岐管およびそれを用いた配管方法であって、分岐部の位置決めがし易く、接合が容易で、床の連通孔も小径でよく、施工に広いスペースを取る必要がなく、配管が損傷したり変形することなく施工ができる、分岐管とこれを用いた配管方法を提供する。」とするもので、解決手段を「配管のプレハブ化工法に用いる分岐管付き継手である。分岐管付き継手は、各々中心軸が同一である上接合部と下接合部、および胴部をもつ継手部本体と、該継手部本体の胴部に枝管を接合する分岐部と、前記上接合部、下接合部のいずれか一方に一定長さの主管が接合された主管部とにより構成され、該主管が接合された接続部の他方の接続部が電気融着接合部であることを特徴としている。」というものである。しかしながら、特許文献2に記載の発明は、各配管端部を挿入して接合する接合部を電気融着接合部とする点で、本発明に係る主給水管と分岐管の接合手段が共通するが、主管と接合された接合部の他方の接合部が電気融着接合部であることを特徴とするものであり、分岐管と主管とを一体にするものではない点で本発明とは相違している。
【0013】
また、発明の名称を「樹脂管穿孔方法及び先行装置」とする技術が開示されている(特許文献3参照)。具体的には、「切削時の発熱や樹脂の軟化を抑えて切削屑が回転切削刃の刃部に絡みつくという事態の生じにくい樹脂管の穿孔方法及び樹脂管の穿孔装置を提供する。切削後に管路に切削屑が残りにくい樹脂管の穿孔方法及び樹脂管の穿孔装置を提供する。」ことを課題とし、その解決手段に、「仕切弁の管状部の一端側の管口部に、樹脂管の管壁の穿孔予定箇所を取り囲む状態で管路分岐用管部材を連結する。管状部の他端側の管口部に穿孔装置本体を取り付ける。穿孔装置本体の回転切削刃を、管状部と管部材とによって形成される管路を通して穿孔予定箇所に対し出退可能とする。仕切り弁を開状態に保ったまま、管部材の水通路を経て穿孔予定箇所に水を供給しながら、穿孔装置本体の回転切削刃で樹脂管の管壁を穿孔する。切削屑を回転掘削刃の胴部内に回収する。」というものである。しかしながら、特許文献3に記載の発明は、切削時の発熱や樹脂の軟化を抑えて切削屑が回転切削刃の刃部に絡みつくという事態の生じにくい樹脂管の穿孔方法及び樹脂管の穿孔装置を提供することを目的とするもので、主給水管と分岐管との結合手段の前段階として利用できるが、本発明に係る主給水管と分岐管の溶着手段とは解決しようとする課題が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2018-80463号
【文献】特開2006-105389号
【文献】特開2001-82662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、耐用年数の長期化を図るとともに、交換やメンテナンスを容易とし、低コストで丈夫な潅水ヘッダの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、水道管から水の供給先を複数に分岐させる塩化ビニル製の潅水ヘッダであって、前記水道管と接続するための塩化ビニル製の継手部材と、塩化ビニル製の主給水管と、前記継手部材から前記主給水管の間に配置される塩化ビニル製の配管部材と、前記主給水管の後端部に備えられる塩化ビニル製のエンドキャップと、前記主給水管に複数備えられる塩化ビニル製の分岐管に装着されるホースジョイントニップル又はホースジョイントと、
から成り、前記主給水管と前記分岐管の結合部が溶着により一体化されている構成を採用する。
【0017】
また、本発明は、前記継手部材に開閉コックが設けられている構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダによれば、従来の金属製の潅水ヘッダと比較して低コストで製造できるという優れた効果を発揮する。
【0019】
本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダによれば、水道水に含まれる塩素の影響を受けることによる錆や腐食を発生しないという優れた効果を発揮する。
【0020】
本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダによれば、小型で軽量であり、容易に設置ができ、ビニールハウス等の狭い所でもスペースを取らずに容易に設置ができるという優れた効果を発揮する。
【0021】
また、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダによれば、主給水管と分岐管との結合に溶着手段により一体化をしているため、水漏れの心配が無く、高い強度が得られるという優れた効果を発揮する。
【0022】
また、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダにおいて、開閉コックを設ける構成を採用した場合には、全ての分岐管への給水の開閉操作を行うことができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダにおける基本構成を説明する基本構成説明斜視図である。
【
図2】本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダにおける別の実施例の構成を示す実施例構成説明図である。
【
図3】本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダにおける別の分岐管配置構成例を示す実施例構成説明図である。
【
図4】本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダの使用状態を示す使用状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、水道管から水の供給先を複数に分岐させる塩化ビニル製の潅水ヘッダであって、前記水道管と接続するための塩化ビニル製の継手部材と、塩化ビニル製の主給水管と、前記継手部材から前記主給水管の間に配置される塩化ビニル製の配管部材と、前記主給水管の後端部に備えられる塩化ビニル製のエンドキャップと、前記主給水管に複数備えられる塩化ビニル製の分岐管に装着されるホースジョイントニップル又はホースジョイントと、
から成り、前記主給水管と前記分岐管の結合部が溶着により一体化されていることを最大の特徴とするものである。以下、図面に基づいて説明する。但し、係る図面に記載された形状や構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の創作として発揮する効果の得られる範囲内で変更可能である。
【0025】
図1は、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダ1における基本構成を説明する基本構成説明図である。係る
図1では垂直に立ち上がっている水道管に対して主給水管40が折り返されて平行に配置され、6つの分岐管3つずつ同方向に向かう構成例を示すもので、係る図に基づいて、以下、各構成部材を説明する。
【0026】
水道管10は、植物の育成に欠くことのできない水Wを供給する水管である。水道も重要な給水設備の1つであり、水道法の規定に基づく水道施設の技術的基準を定める省令では、配水管から給水管に分岐する箇所においての水圧の範囲は0.15Mpa以上~0.74Mpa以内となっている。係る水圧を利用して潅水ヘッダから潅水ホース100を介して潅水する。また、水道から取水する場合は、まとまった水量を確保するために、1度貯水タンクに溜めてから潅水ポンプで送水する方法もある。なお、家庭からの需要が多い朝や夕方は、一時的に水圧が下がることがあり、大きめの貯水タンクに溜めるなどして対応することが必要となる場合もある。水道管が太い主管であれば問題なく大丈夫であるが、枝にあたる支管だと水圧が足りないことがあるため、どこから取水することになるか注意が必用である。
【0027】
塩化ビニル製20とは、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダ1における基本構成部材の素材であって、「塩化ビニル製」という用語は、「塩化ビニル樹脂」または「ポリ塩化ビニル」を含む総称であり、更に、略称で「塩ビ」と称されるもので、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合させたプラスチックの一種である。英語ではPVC(Poly Vinyl Cloride)と表記する。また、軟質PVCはソフトビニールやソフビとも呼ばれている。
塩ビは、ポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)・ポリスチレン(PS)と同じく、五大汎用樹脂に分類される材料であり、性能はあまり高くないものの、安価で生産量が多い特徴がある。また、製造過程において可塑剤の添加量を調整することで、硬質・軟質の製品が得られるのも特徴である。なお、塩ビは安価かつ大量に生産されているエチレンと塩素を原料としており、石油を原料とする他の樹脂製品と比べて省資源で製造できるというメリットを有するものである。
【0028】
ポリ塩化ビニルと塩化ビニルの違い
モノマーである塩化ビニル(クロロエチレン)を、繰り返し結合したものをポリ塩化ビニルと呼ばれ、ポリ塩化ビニルの「ポリ」という言葉は、ポリマー(重合体)からきたもので、「たくさん」という意味がある。しかし、一般的に呼ばれている「塩ビ」は、塩化ビニルではなく、ポリ塩化ビニルを指しているケースが多い。本発明に係る「塩化ビニル製20」には前述の通り、ポリ塩化ビニル(塩ビ)と塩化ビニルの双方を含むものである。
【0029】
軟質PVCと硬質PVCについて
塩ビには「軟質PVC」と「硬質PVC」の2種類があり、軟質PVCは柔らかい素材で、多少厚みがあるものでも手で曲げられるほどの柔軟性がある。一方、硬質PVCは硬くて強度に優れている。これらの違いは硬さだけでなく、物性や機械的性質にも違いがあり、一例を挙げると、比重は軟質PVCで1.16~1.35、硬質PVCで1.30~1.58と値が異なる。引張強さにおいても軟質PVCは6.9~25MPa、硬質PVCは34~62MPaと大きく違いがある。係る強度等の相違から本発明に係る塩化ビニル製20には硬質PVCを用いることが望ましい。
【0030】
PVCの重合度(分子量)について
比較的小さな分子であるモノマーが、繰り返し結合したものをポリマーと呼ぶが、この繰り返し結合した度合いのことを「重合度」と呼び、重合度を変えることでさまざまな用途に活用できるものである。
【0031】
ここで、主な塩化ビニル製20の長所と短所について説明する。
塩化ビニル製20の長所
・耐薬品性:薬品に対しての耐性が強い。
・耐酸性、耐アルカリ性:酸やアルカリに強い。
・耐水性:水を通さない。
・電気絶縁性:電気を通しにくい。
・難燃性:酸素指数が45~49と高く、自己消火性樹脂に分類される。
・耐久性:通常の使用環境下での経年劣化が少ない。
・着色やプリント加工性:着色や柄のプリントが可能。
・価格が安価:他の材質に比べて価格が安価。重量も重たくないので、運送費や管理費なども抑えられる。
塩化ビニル製20の短所(耐熱温度と融点)
・耐熱性:塩ビの耐熱温度は60~80℃、融点は85~210℃程度と、耐熱性に乏しい。
・耐衝撃性:他の五大汎用樹脂と比べて耐衝撃性に乏しい。特に低温環境だと衝撃値が低下する。
【0032】
水Wは、水道管10によって供給される水道水のことである。日本の水道水は厳しい衛生基準をクリアしており、植物を枯らすほどの薬品は含まれておらず、水質に不安を感じる必要はないものといえる。そして、係る水道水から供給される新鮮な水Wは、植物の成長を促す作用があるものである。なお、係る水Wは水道水に限定されるものではなく雨水も含まれる。
【0033】
継手部材30は、水道管10と主給水管40とを連結して接続するための部材である。
【0034】
主給水管40は、水道管10から供給される水Wを分岐管90へと導く水管である。
【0035】
配管部材50は、水道管が垂直に構成される場合に流路の方向を変更するために用いられる部材である。
図1に示した基本構成では水道管10と主給水管40とが平行となるようにL字型のエルボを二つ組み合わせてコの字状に折り返す構成を示しているが、これとは異なり、
図2、
図3で示すように水平に主給水管40を配置する構成ではエルボは一つで足りる。なお、特に図面には示していないがジョイント継ぎ手等が内設される。またこれらの塩化ビニル製20を用いた部材である配管部材50等の接合部は塩ビ管用の接着剤を用いればよく、係る接着剤は有機溶剤に基材(塩ビ樹脂)等を溶解したもので、日本水道協会規格 JWWA S101「水道用硬質塩化ビニル管の接着剤」に準拠した専用接着剤を使用する。
【0036】
エンドキャップ60は、主給水管40の流路を遮閉するものである。主給水管40において分岐管90を過ぎた後固定用フレームF等に金具等で固定するための固定部を確保するため、分岐管90から距離をおいた位置に配置される。
【0037】
ホースジョイントニップル70は、ホースとホースジョイント71とを繋ぐ部材である。
【0038】
ホースジョイント71は、ホースジョイントニップル70を分岐管90に取り付ける為に設けられる部材である。係るホースジョイント71の構成にはワンタッチのカップリング式やねじ込み式のジョイント式等がある。
【0039】
結合部80は、主給水管40と分岐管90の結合部であり、従来であれば接着またはねじ込み式に結合されていたものである。本発明に係る塩化ビニル製の潅水ヘッダ1においては溶着手段により主給水管40と分岐管90が一体化される部分である。係る溶着手段にはヒートガンと溶接棒を使って溶着する塩ビ用の専用装置を用いることが考えられる。これは塩ビ用の溶接に最適な温度と風圧に調整されているもので、結合部を溶かしながら母材と同素材の溶接棒で肉盛り供給して両方の融解により結合させるものである。従来の金属製潅水ヘッダでは、鉄を溶接で結合させると、溶接部分の酸化により耐久性が問題となり、軽量化やメンテナンス等の観点から薄肉のステンレス鋼管へ素材を変更した場合には主給水管40と分岐管90の結合が難しくなり、バーリング加工によるフランジ部を成形したり、Tig溶接によるステンレスの溶接では溶接者の技能レベルによって結合強度等に差が生じるなど、螺着や溶接等の結合手段において薄肉化に伴う問題が生じている。なお、射出成形により主給水管40と分岐管90が一体化した樹脂製の潅水ヘッダが販売されているが、これだと金型代が高額となり、低コスト化を図るという本発明の課題を解決することができない。
【0040】
分岐管90は、主給水管40から供給される水Wを分岐させるための管であって、
図1から
図4では、6つに分岐させている例を示したが係る数についてはこれに限定するものではなく水圧や水量との関係で適宜選択すればよい。また、かかる分岐管は特にホースジョイント71とホースジョイントニップル70との脱着の際に接続のために押し込んだりする関係から強固に固定されなくてはならない。また、脱着を繰り返すことによる疲労破壊も考慮して取り付けなくてはならない。
【0041】
潅水ホース100は、針で孔をあけたものから、レーザーでごく小さな孔をあけたもの、片面に孔があいているものと両面にあいているもの。さらに孔の間隔も細かく、いくつもの種類に分かれており、この潅水ホース100を伝って、水Wを土壌にいきわたらせるというものである。やわらかい霧状の水Wをまく噴霧タイプ、じわじわと水Wを浸透させる点滴タイプ、マルチタイプのものなどいくつもタイプがあり、さらにそれぞれ潅水ホース100の厚み、つまり耐えられる水圧も変わり、農地や作物など、用途に合わせて選ぶ必要がある。そして、この潅水ホース100を、何本も間隔を空けて細長く直線状に土を盛り上げた畝ごとに配置するために、水道管から供給される水Wを分岐させて、植物Sへ水Wを供給するために用いられるものである。
【0042】
図2は、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダにおける別の実施例の構成を示す実施例構成説明図であり、垂直に立ち上がる水道管10に対して水平方向となるように90度曲げられて主給水管40が配置され、6つの分岐管90が3つずつ同方向となる下向きに配置されるとともに、水道管10と主給水管40とを連結して接続するための継手部材30に開閉コック31が備えられる構成を示すものである。
図2(a)は正面図、
図2(b)は平面図をそれぞれ示している。
【0043】
開閉コック31は、主給水管40への水の供給を開放並びに遮断する所謂元栓である。図面に示したのはあくまでも例示であって、係る形式のコックに限定されるものではない。なお、バルブ等に置き換えても良い。
【0044】
図3は、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダにおける別の分岐管配置構成例を示す実施例構成説明図である。
図3(a)は正面図、
図3(b)は平面図をそれぞれ示している。
図3では、水平に配置される主給水管40の長手方向に一列で六つの分岐管90が同一方向に向かって直線的に配置される構成例を示している。このように配置する例では一方向に全ての分岐管90が整列するため、奥行きが少なくスリム化が図れる。
【0045】
図4は、本発明に係る塩化ビニル製潅水ヘッダ1の使用状態を示す使用状態説明図である。
図4に示すように主給水管40から左右三本ずつ振り分けられた潅水ホース100により三つの畝に植栽される植物Sに対して、水Wを潅水している状態を示している。このように配置する例では二つの方向に分けて分岐管90が配置されるため主給水管40の長さを短くしコンパクトにまとめることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るに塩化ビニル製潅水ヘッダよれば、特にイチゴなどのハウス栽培等における水やりの負担の軽減が図れるとともに、低コストで耐用年数の長い潅水ヘッダを提供できることから特に農業の分野における産業上利用可能性は高いと思慮されるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 塩化ビニル製の潅水ヘッダ
10 水道管
20 塩化ビニル製
30 継手部材
31 開閉コック
40 主給水管
50 配管部材
60 エンドキャップ
70 ホースジョイントニップル
71 ホースジョイント
80 結合部
90 分岐管
100 潅水ホース
W 水
【要約】
【課題】
本発明は、耐用年数の長期化を図るとともに、交換やメンテナンスを容易とし、低コストで丈夫な潅水ヘッダの提供を課題とするものである。
【解決手段】
本発明は、水道管から水の供給先を複数に分岐させる塩化ビニル製の潅水ヘッダであって、前記水道管と接続するための塩化ビニル製の継手部材と、塩化ビニル製の主給水管と、前記継手部材から前記主給水管の間に配置される塩化ビニル製の配管部材と、前記主給水管の後端部に備えられる塩化ビニル製のエンドキャップと、前記主給水管に複数備えられる塩化ビニル製の分岐管に装着されるホースジョイントニップル又はホースジョイントと、から成り、前記主給水管と前記分岐管の結合部が溶着により一体化されている構成を採用した。
【選択図】
図1