(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】劣化診断装置および劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20230821BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
B60L3/00 B
B60L3/00 N
B61L3/12 Z
(21)【出願番号】P 2022518527
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018214
(87)【国際公開番号】W WO2021220447
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼田 正行
(72)【発明者】
【氏名】新井 修
(72)【発明者】
【氏名】今堀 修
(72)【発明者】
【氏名】林 光博
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-178230(JP,A)
【文献】特開2013-153611(JP,A)
【文献】特開2010-013041(JP,A)
【文献】特開平10-095337(JP,A)
【文献】特開2018-131160(JP,A)
【文献】特開昭55-117401(JP,A)
【文献】特開2016-002931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B61L 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上に設置された構造物から受信した信号を用いて列車の運行の制御に使用する前記列車において前記信号を受信したときに測定された受信レベルを取得し、前記受信レベルと判定閾値とを用いて
、前記受信レベルが前記判定閾値以下になる期間が前記列車の速度に応じて変動する規定された期間継続するか否かによって、地上設備または前記列車の車上設備の劣化の予兆を検知する判定部と、
前記判定閾値を記憶する記憶部と、
を備えることを特徴とする劣化診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、複数の閉塞区間で前記受信レベルが前記判定閾値以下になった場合、前記車上設備の劣化の予兆を検知したと判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の劣化診断装置。
【請求項3】
前記判定部は、特定の閉塞区間で前記受信レベルが前記判定閾値以下になった場合、前記特定の閉塞区間の地上設備の劣化の予兆を検知したと判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の劣化診断装置。
【請求項4】
前記判定部は、連続して、前記受信レベルと判定閾値とを比較する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の劣化診断装置。
【請求項5】
前記判定部は、規定されたタイミングから規定された期間において、前記受信レベルと判定閾値とを比較する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の劣化診断装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記構造物から信号が送信されているか否かを判定するための最小動作レベル閾値を記憶し、
前記判定部は、前記受信レベルと前記最小動作レベル閾値とを比較し、前記受信レベルが前記最小動作レベル閾値以下になる期間が規定された期間以上になった場合、前記受信レベルが前記最小動作レベル閾値以下になる期間が規定された期間以上になったことを示すアラームを出力する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の劣化診断装置。
【請求項7】
前記記憶部は、前記判定閾値として複数の判定閾値を記憶し、
前記判定部は、前記受信レベルと前記複数の判定閾値とを比較し、各判定閾値に基づくアラームを出力する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の劣化診断装置。
【請求項8】
判定部が、地上に設置された構造物から受信した信号を用いて列車の運行の制御に使用する前記列車において前記信号を受信したときに測定された受信レベルを取得する第1のステップと、
前記判定部が、前記受信レベルと判定閾値とを用いて
、前記受信レベルが前記判定閾値以下になる期間が前記列車の速度に応じて変動する規定された期間継続するか否かによって、地上設備または前記列車の車上設備の劣化の予兆を検知する第2のステップと、
を含むことを特徴とする劣化診断方法。
【請求項9】
前記第2のステップにおいて、前記判定部は、複数の閉塞区間で前記受信レベルが前記判定閾値以下になった場合、前記車上設備の劣化の予兆を検知したと判定する、
ことを特徴とする請求項
8に記載の劣化診断方法。
【請求項10】
前記第2のステップにおいて、前記判定部は、特定の閉塞区間で前記受信レベルが前記判定閾値以下になった場合、前記特定の閉塞区間の地上設備の劣化の予兆を検知したと判定する、
ことを特徴とする請求項
8に記載の劣化診断方法。
【請求項11】
前記第2のステップにおいて、前記判定部は、連続して、前記受信レベルと判定閾値とを比較する、
ことを特徴とする請求項
8から
10のいずれか1つに記載の劣化診断方法。
【請求項12】
前記第2のステップにおいて、前記判定部は、規定されたタイミングから規定された期間において、前記受信レベルと判定閾値とを比較する、
ことを特徴とする請求項
8から
10のいずれか1つに記載の劣化診断方法。
【請求項13】
前記第2のステップにおいて、前記判定部は、前記受信レベルと前記構造物から信号が送信されているか否かを判定するための最小動作レベル閾値とを比較し、前記受信レベルが前記最小動作レベル閾値以下になる期間が規定された期間以上になった場合、前記受信レベルが前記最小動作レベル閾値以下になる期間が規定された期間以上になったことを示すアラームを出力する、
ことを特徴とする請求項
8から
12のいずれか1つに記載の劣化診断方法。
【請求項14】
前記第2のステップにおいて、前記判定部は、前記受信レベルと複数の判定閾値とを比較し、各判定閾値に基づくアラームを出力する、
ことを特徴とする請求項
8から
13のいずれか1つに記載の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、列車の運行に使用される設備の劣化を診断する劣化診断装置、車上装置、劣化診断システムおよび劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ATC(Automatic Train Control)車上装置を搭載した列車は、レールに流れるATC信号を受信し、ATC信号で示される速度であって、先行列車との間隔などに応じた速度に従って走行する制御を行っている。このような技術が特許文献1において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、ATC車上装置を搭載した列車は、列車に搭載されるATC信号の受電器、ATC信号を送信する地上側の地上装置などの設備の劣化によって異常が発生した場合、ATC信号を受信できなくなる。ATC信号を受信できなくなった列車は、先行列車との間隔などに応じた速度の制御ができないため、運行を停止してしまう、という問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、列車の運行に使用される信号を列車が受信できなくなる予兆を検知可能な劣化診断装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の劣化診断装置は、地上に設置された構造物から受信した信号を用いて列車の運行の制御に使用する列車において信号を受信したときに測定された受信レベルを取得し、受信レベルと判定閾値とを用いて、受信レベルが判定閾値以下になる期間が列車の速度に応じて変動する規定された期間継続するか否かによって、地上設備または列車の車上設備の劣化の予兆を検知する判定部と、判定閾値を記憶する記憶部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、劣化診断装置は、列車の運行に使用される信号を列車が受信できなくなる予兆を検知できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る劣化診断システムの構成例を示す図
【
図2】実施の形態1に係る劣化診断システムにおいて列車の車上設備が劣化の予兆を示す状態になった場合の受信レベルの変化の推移を示す図
【
図3】実施の形態1に係る劣化診断システムにおいて地上設備が劣化の予兆を示す状態になった場合の受信レベルの変化の推移を示す図
【
図4】実施の形態1に係る車上装置の動作を示すフローチャート
【
図5】実施の形態1に係る劣化診断装置の動作を示すフローチャート
【
図6】実施の形態1に係る劣化診断装置の判定部における判定処理のイメージを示す図
【
図7】実施の形態1に係る劣化診断装置が地上設備の劣化の予兆を検知した場合の受信レベルの例を示す図
【
図8】実施の形態1に係る劣化診断装置が列車の車上設備の劣化の予兆を検知した場合の受信レベルの例を示す図
【
図9】実施の形態1に係る劣化診断装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで構成する場合の例を示す図
【
図10】実施の形態1に係る劣化診断装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の例を示す図
【
図11】実施の形態2に係る劣化診断装置の判定部における判定処理のイメージを示す図
【
図12】実施の形態3に係る劣化診断装置の判定部における判定処理のイメージを示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態に係る劣化診断装置、車上装置、劣化診断システムおよび劣化診断方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る劣化診断システム100の構成例を示す図である。劣化診断システム100は、車上装置10と、データ管理装置20と、劣化診断装置30と、を備える。列車15は、地上に設置された地上子40、レール50などから受信した信号を用いて、列車15の運行の制御に使用する。列車15は、複数の車両から構成されていてもよいし、
図1に示すように1つの車両からなる単行であってもよい。列車15は、車上装置10と、車上子13と、受電器14と、を備える。車上子13は、地上に設置された地上子40から、地上子40の位置情報などの情報を含む信号を受信する。車上子13は、地上子40との間で信号を送受信してもよい。受電器14は、地上に設置されたレール50から、列車15に対する制限速度を示す速度情報などの情報を含む信号を受信する。列車15は、車上装置10がATC車上装置の機能を有していてもよいし、車上装置10とは別に図示しないATC車上装置を備えていてもよい。
【0011】
車上装置10は、測定部11と、車両情報管理装置12と、を備える。測定部11は、列車15において、車上子13が地上子40から受信した信号、および受電器14がレール50から受信した信号から、列車15の運行の制御に必要な情報を抽出する。列車15の運行の制御に必要な情報とは、前述のように、地上子40の位置情報、列車15に対する制限速度を示す速度情報などである。また、測定部11は、列車15において、車上子13が地上子40からの信号を受信したときの受信レベルを測定し、受電器14がレール50からの信号を受信したときの受信レベルを測定する。受信レベルは、例えば、電界強度、SNR(Signal to Noise Ratio)などである。以降では、受信レベルが電界強度である場合を例にして説明する。
【0012】
車両情報管理装置12は、列車15の位置を管理する。車両情報管理装置12は、例えば、車上子13が地上子40から受信した信号に含まれる情報である地上子40の位置情報で示される位置に、図示しない速度発電機などから得られる列車15の速度の情報および走行時間の情報から算出される走行距離を加算することで、列車15の位置を算出することができる。車両情報管理装置12は、GPS(Global Positioning System)などを用いて列車15の位置を管理してもよい。車両情報管理装置12は、例えば、TIMS(Train Integrated Management System)などの装置である。車両情報管理装置12は、測定部11で測定された受信レベルおよび列車15の位置の情報を、無線通信によって、データ管理装置20を介して劣化診断装置30に送信する。
【0013】
データ管理装置20は、列車15に搭載された車上装置10の車両情報管理装置12から送信された受信レベルおよび列車15の位置の情報を、無線通信によって受信する。データ管理装置20は、受信した受信レベルおよび列車15の位置の情報を、劣化診断装置30に出力する。
【0014】
劣化診断装置30は、判定部31と、記憶部32と、を備える。判定部31は、データ管理装置20を介して車上装置10から、列車15において信号を受信したときに測定された受信レベルを取得する。判定部31は、受信レベルと、地上設備または列車15の車上設備の劣化の予兆を検知するための判定閾値とを用いて、地上設備または列車15の車上設備の劣化の予兆を検知する。地上設備とは、地上子40、レール50、地上子40およびレール50から送信される信号を生成する図示しない通信装置などの地上装置である。列車15の車上設備とは、車上子13、受電器14などである。地上設備または列車15の車上設備が劣化した場合、地上設備または列車15の車上設備が異常になり、列車15が信号を受信できなくなる状態になる。本実施の形態において、判定部31は、地上設備または列車15の車上設備が劣化に至っていないが、劣化に至る前の状態を劣化の予兆として検知する。具体的には、判定部31は、受信レベルと判定閾値とを比較する。判定部31は、受信レベルが判定閾値以下になった場合、地上設備または列車15の車上設備の劣化の予兆を検知したと判定する。判定部31の詳細な動作については後述する。
【0015】
記憶部32は、判定閾値を記憶している。また、記憶部32は、地上子40またはレール50から信号が送信されているか否かを判定するための最小動作レベル閾値を記憶している。例えば、劣化診断システム100を使用するユーザは、判定閾値および最小動作レベル閾値を予め記憶部32に記憶させておくこととする。なお、判定閾値は、適宜変更するようにしてもよい。
【0016】
地上子40は、地上子40が設置された位置を示す位置情報を含む信号を送信する。地上子40は、位置情報に代えて、地上子40を特定可能な識別情報を含む信号を送信してもよい。レール50は、列車15の走行方向の前方を走行する先行列車との間隔などに応じた、列車15に対する制限速度を示す速度情報を含む信号を送信する。地上子40およびレール50は、地上に設置された構造物である。
【0017】
つづいて、劣化診断システム100において、劣化診断装置30が、地上設備または列車15の車上設備の劣化の予兆を検知する動作について説明する。ここでは、一例として、列車15がレール50から信号を受信する場合について説明する。なお、列車15が地上子40から信号を受信する場合も同様の動作となる。
【0018】
一般的に、列車15を運行するシステムは、列車15が走行する区間を複数の閉塞区間に分割している。各閉塞区間のレール50は、列車15の走行方向の前方を走行する先行列車との間隔などに応じた速度であって、列車15に対する制限速度を示す速度情報を含む信号を送信する。レール50は、閉塞区間の単位で、各閉塞区間での速度情報を含む信号を送信することになる。レール50から送信される信号は、列車15が走行するレール50から閉塞区間毎に出力される。すなわち、列車15を運行するシステムは、地上設備として、閉塞区間毎に異なる信号を送信可能な設備を備えている。そのため、劣化診断装置30は、
図2および
図3に示すように、全ての閉塞区間において受信レベルが低下したのか、または特定の閉塞区間において受信レベルが低下したのかによって、地上設備または列車15の車上設備の劣化の予兆を検知することができる。
【0019】
図2は、実施の形態1に係る劣化診断システム100において列車15の車上設備が劣化の予兆を示す状態になった場合の受信レベルの変化の推移を示す図である。
図2(a)から
図2(c)において、横軸は列車15の走行位置を示し、縦軸は列車15での信号の受信レベルを示す。複数の列車15が運行されている場合において、特定のZ編成の列車15に着目する。
図2(a)に示すように、Z編成の列車15は、営業開始時において良好な受信レベルである。一般的に、機器類は、経年変化によって性能が低下する。Z編成の列車15においても、受電器14などの受信性能が経年変化によって劣化することが予想される。
図2(b)に示すように、Z編成の列車15は、営業開始からT1年後、全ての閉塞区間において営業開始時よりも受信レベルが低下する。
図2(c)に示すように、Z編成の列車15は、営業開始からT2年後、全ての閉塞区間においてさらに受信レベルが低下する。なお、T2>T1とする。
【0020】
このように、劣化診断装置30は、複数の閉塞区間において受信レベルが低下している場合、Z編成の列車15が備える車上設備、例えば受電器14が劣化の予兆を示していると判定することができる。具体的には、劣化診断装置30の判定部31は、複数の閉塞区間において受信レベルが低下し、受信レベルが判定閾値以下になった場合、Z編成の列車15が備える車上設備の劣化の予兆を検知したと判定する。
【0021】
図3は、実施の形態1に係る劣化診断システム100において地上設備が劣化の予兆を示す状態になった場合の受信レベルの変化の推移を示す図である。
図3(a)から
図3(c)において、横軸は列車15の走行位置を示し、縦軸は列車15での信号の受信レベルを示す。複数の列車15が運行されている場合において、A編成の列車15からZ編成の列車15の複数の列車15に着目する。
図3(a)に示すように、A~Z編成の列車15は、営業開始時において良好な受信レベルである。一般的に、機器類は、経年変化によって性能が低下する。地上設備においても、レール50から信号を送信する図示しない通信装置の送信性能が経年変化によって劣化することが予想される。
図3(b)に示すように、A~Z編成の列車15は、営業開始からT1年後、特定の閉塞区間において営業開始時よりも受信レベルが低下する。
図3(c)に示すように、A~Z編成の列車15は、営業開始からT2年後、特定の閉塞区間においてさらに受信レベルが低下する。なお、T2>T1とする。
【0022】
このように、劣化診断装置30は、A~Z編成の列車15において特定の閉塞区間で受信レベルが低下している場合、A~Z編成の全ての列車15が備える車上設備の劣化の予兆を検知し、かつ特定の閉塞区間だけ受信レベルが低下する可能性は低いと判定する。劣化診断装置30は、A~Z編成に向けてレール50から信号を送信する特定の閉塞区間の地上設備、例えば通信装置が劣化の予兆を示していると判定することができる。具体的には、劣化診断装置30の判定部31は、特定の閉塞区間において受信レベルが低下し、受信レベルが判定閾値以下になった場合、特定の閉塞区間の地上設備の劣化の予兆を検知したと判定する。
【0023】
なお、
図2および
図3では、受信レベルが所々で低下しているが、これは、閉塞区間の境界を示している。レール50には、閉塞区間の境界において、信号が流れない領域が存在する。すなわち、閉塞区間の境界は、無信号状態になる。このように、閉塞区間の境界では、車上設備および地上設備が劣化の予兆を示していなくても、列車15において、信号の受信レベルが低下する。そのため、劣化診断装置30は、列車15が閉塞区間の境界を走行中に列車15で測定された受信レベルについては、車上設備または地上設備の劣化の予兆の判定に使用しないようにする。
【0024】
まず、劣化診断システム100が備える車上装置10の動作について説明する。
図4は、実施の形態1に係る車上装置10の動作を示すフローチャートである。車上装置10において、測定部11は、レール50から送信された信号を受電器14で受信したときの受信レベルを測定する(ステップS11)。測定部11は、測定した受信レベルの情報を車両情報管理装置12に出力する。車両情報管理装置12は、測定部11で測定された受信レベルおよび列車15の位置の情報を、データ管理装置20を介して劣化診断装置30に送信する(ステップS12)。
【0025】
車上装置10は、受信レベル60と最小動作レベル閾値61とを比較する。受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下、かつ規定された第1の期間継続した場合(ステップS13:Yes)、車上装置10は、非常ブレーキの動作を指示する(ステップS14)。第1の期間は、列車15の車上設備および地上設備が劣化の予兆を示していない良好な状態において、閉塞区間の境界で受信レベル60が瞬間的に低下する期間よりも長い期間とする。受信レベル60が最小動作レベル閾値61より大きい場合、または受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になったが規定された第1の期間継続しなかった場合(ステップS13:No)、車上装置10は、動作を終了する。なお、上記では、車上装置10がATC車上装置の機能を有する場合を例に説明しているが、車上装置10とは別に列車15が図示しないATC車上装置を備える場合には、ATC車上装置がステップS13およびステップS14の動作を行うようにしてもよい。車上装置10は、
図4に示す動作を定期的に繰り返し実施する。
【0026】
つぎに、劣化診断システム100が備える劣化診断装置30の動作について説明する。
図5は、実施の形態1に係る劣化診断装置30の動作を示すフローチャートである。劣化診断装置30において、判定部31は、データ管理装置20を介して車上装置10から、受信レベルおよび列車15の位置の情報を取得する(ステップS21)。判定部31は、以降で説明するように、受信レベルと、最小動作レベル閾値および判定閾値との比較を行う。
図6は、実施の形態1に係る劣化診断装置30の判定部31における判定処理のイメージを示す図である。
図6において、横軸は○駅から△駅への列車15の走行位置を示している。また、
図6において、左側の縦軸は受信レベル60の大きさを示し、右側の縦軸は列車15の速度Vを示している。
図6において、左側の縦軸は、最小動作レベル閾値61、および判定閾値62の大きさも示している。なお、
図6では、受信レベル60の大きさを、レール50に流れる電流に換算した値で表しているが、
図2および
図3と同様、電圧値で表してもよい。
【0027】
前述のようにレール50は閉塞区間の境界で信号が流れないため、判定部31は、閉塞区間の境界で判定を行わないようにする。ここで、判定部31は、受信レベル60と、最小動作レベル閾値61および判定閾値62との比較について、連続して行ってもよいし、閉塞区間の境界を外して、すなわち規定されたタイミングから規定された期間において行ってもよい。判定部31は、受信レベル60と最小動作レベル閾値61および判定閾値62との比較を連続して行う場合、閉塞区間の境界で瞬間的に低下した受信レベル60については判定の対象にしないようにする。判定部31は、受信レベル60と最小動作レベル閾値61および判定閾値62との比較を規定されたタイミングから規定された期間において行う場合、例えば、列車15が各閉塞区間の中心を走行するタイミングから規定された期間に走行する際に測定された受信レベル60を判定の対象とする。規定された期間は、列車15の速度Vに応じて変動してもよい。
【0028】
判定部31は、受信レベル60の変動の時間的推移について、データ管理装置20を介して車上装置10から受信レベル60の情報を取得するタイミングで認識することが可能である。また、判定部31は、データ管理装置20を介して車上装置10から列車15の速度Vの情報も取得し、
図6に示す列車15のある走行位置の範囲を速度Vで除算することで、当該走行位置までの距離を列車15が走行するために要した期間を算出することができる。判定部31は、
図6に示すある範囲の走行位置までの距離を列車15が走行するために要した期間を算出することで、当該走行位置までの距離の範囲における受信レベル60の変動の時間的推移を認識することが可能である。
【0029】
図5の説明に戻る。判定部31は、記憶部32から判定閾値62を読み出し、受信レベル60と判定閾値62とを比較する。受信レベル60が判定閾値62以下、かつ規定された第2の期間継続した場合(ステップS22:Yes)、判定部31は、特定の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になっているのか、または複数の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になっているのか判定する。第2の期間は、列車15の車上設備および地上設備が劣化の予兆を示していない良好な状態において、閉塞区間の境界で受信レベル60が瞬間的に低下する期間よりも長い期間とする。第2の期間は、列車15の速度Vに応じて変動してもよい。
【0030】
特定の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になっている場合(ステップS23:Yes)、判定部31は、列車15を運行するシステムにおいて、地上設備の劣化の予兆を検知したことを示すアラームを出力する(ステップS24)。判定部31は、アラームとして、例えば、劣化診断装置30が備える図示しない表示部に地上設備の劣化の予兆を検知したことを表示する。判定部31は、アラームとして、劣化診断装置30が備える図示しないLED(Light Emitting Diode)、スピーカーなどを用いて地上設備の劣化の予兆を検知したことをユーザに認識させてもよい。以降の説明で判定部31がアラームを出力する場合も同様とする。複数の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になっている場合(ステップS23:No)、判定部31は、列車15を運行するシステムにおいて、列車15の車上設備の劣化の予兆を検知したことを示すアラームを出力する(ステップS25)。これにより、アラームを確認したユーザは、地上設備、または列車15の車上設備のいずれかが劣化の予兆を示していることを認識し、設備の点検、修理、交換などの処置を行うことができる。
【0031】
受信レベル60が判定閾値62より大きい場合、または受信レベル60が判定閾値62以下になったが規定された第2の期間継続しなかった場合(ステップS22:No)、判定部31は、動作を終了する。判定部31は、
図5に示す動作を、連続して、または規定されたタイミングから規定された期間において、繰り返し実施する。
【0032】
図7は、実施の形態1に係る劣化診断装置30が地上設備の劣化の予兆を検知した場合の受信レベル60の例を示す図である。劣化診断装置30の判定部31は、
図7に示すように特定の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になっている場合、特定の閉塞区間の地上設備の劣化の予兆を検知したと判定する。
図8は、実施の形態1に係る劣化診断装置30が列車15の車上設備の劣化の予兆を検知した場合の受信レベル60の例を示す図である。劣化診断装置30の判定部31は、
図8に示すように、複数の閉塞区間、すなわち全体的に受信レベル60が判定閾値62以下になっている場合、列車15の車上設備の劣化の予兆を検知したと判定する。
【0033】
なお、本実施の形態では、劣化診断装置30が、列車15の外部の地上側に設置されている場合について説明したが、これに限定されない。劣化診断システム100において、劣化診断装置30は、列車15に搭載されていてもよい。この場合、劣化診断システム100は、データ管理装置20を削除し、車上装置10の車両情報管理装置12と劣化診断装置30とが直接通信を行うようにしてもよい。列車15に搭載された場合でも、劣化診断装置30は、地上に設置されていた場合と同様の精度で、列車15の車上設備の劣化の予兆を検知することができる。また、列車15に搭載された場合でも、劣化診断装置30は、地上に設置されていた場合と比較して精度が低下するが、複数回判定を行うことで、地上設備の劣化の予兆を検知することができる。
【0034】
つづいて、劣化診断装置30のハードウェア構成について説明する。劣化診断装置30において、記憶部32はメモリである。判定部31は処理回路により実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用のハードウェアであってもよい。
【0035】
図9は、実施の形態1に係る劣化診断装置30が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで構成する場合の例を示す図である。処理回路がプロセッサ91およびメモリ92で構成される場合、劣化診断装置30の処理回路の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路では、メモリ92に記憶されたプログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路は、劣化診断装置30の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を備える。また、これらのプログラムは、劣化診断装置30の手順および方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0036】
ここで、プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などであってもよい。また、メモリ92には、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0037】
図10は、実施の形態1に係る劣化診断装置30が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の例を示す図である。処理回路が専用のハードウェアで構成される場合、
図10に示す処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。劣化診断装置30の各機能を機能別に処理回路93で実現してもよいし、各機能をまとめて処理回路93で実現してもよい。
【0038】
なお、劣化診断装置30の各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0039】
車上装置10のハードウェア構成も同様である。車上装置10において、測定部11は、信号を受信可能なインタフェースである。車両情報管理装置12は処理回路により実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用のハードウェアであってもよい。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態によれば、劣化診断システム100において、劣化診断装置30は、データ管理装置20を介して、車上装置10から列車15で信号を受信したときに測定された受信レベル60の情報を取得し、受信レベル60と判定閾値62とを用いて、地上設備または列車15の車上設備の劣化の予兆を検知する。具体的には、劣化診断装置30は、複数の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になった場合、車上設備の劣化の予兆を検知したと判定し、特定の閉塞区間で受信レベル60が判定閾値62以下になった場合、特定の閉塞区間の地上設備の劣化の予兆を検知したと判定する。劣化診断装置30は、列車15の運行に使用される信号を列車15が受信できなくなる予兆を検知することができる。これにより、ユーザは、地上設備、または列車15の車上設備のいずれかが劣化の予兆を示していることを認識し、設備の点検、修理、交換などの処置を行うことができる。この結果、列車15を運行するシステムは、地上設備、または列車15の車上設備が列車15の運行中に劣化して列車15が信号を受信できなくなり、列車15の運行が停止するような事態を回避することができる。
【0041】
実施の形態2.
実施の形態1では、劣化診断装置30の判定部31は、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が第1の期間以下の場合、閉塞区間の境界での無信号状態を考慮して、最小動作レベル閾値61以下になっていないものとみなしていた。実施の形態2では、劣化診断装置30の判定部31が、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が第1の期間よりも短い第3の期間以上の場合、アラームを出力する。
【0042】
実施の形態2において、劣化診断システム100の構成は、
図1に示す実施の形態1のときの構成と同様である。
図11は、実施の形態2に係る劣化診断装置30の判定部31における判定処理のイメージを示す図である。
図11において、横軸は時間を示し、縦軸は受信レベル60を示す。劣化診断装置30の判定部31は、
図11に示すように、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が第1の期間63より短くても、規定された第3の期間64よりも長い場合、アラームを出力する。第3の期間64は、例えば、地上設備および列車15の車上設備がともに営業開始時の状態のときに閉塞区間の境界で受信レベル60が低下する期間に対して余裕を持たせた期間とする。
【0043】
判定部31は、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が第3の期間64よりも長くなった場合、地上設備、または列車15の車上設備のいずれかの劣化の予兆を検知する可能性があると推定してアラームを出力する。また、判定部31は、複数の列車15について、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が第3の期間64よりも長くなった場合、地上設備の劣化の予兆を検知する可能性があると推定してアラームを出力することができる。すなわち、判定部31は、受信レベル60と最小動作レベル閾値61とを比較し、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が規定された期間である第3の期間64以上になった場合、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が規定された期間である第3の期間64以上になったことを示すアラームを出力する。これにより、アラームを確認したユーザは、地上設備、または列車15の車上設備のいずれかが劣化の予兆を示す可能性があることを認識し、メンテナンスなどを行うことができる。
【0044】
判定部31は、複数の列車15について、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が規定された期間である第3の期間64以上になった場合、地上設備が劣化の予兆を示す可能性があることを示すアラームを出力してもよい。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態によれば、劣化診断システム100において、劣化診断装置30は、受信レベル60と最小動作レベル閾値61とを比較し、受信レベル60が最小動作レベル閾値61以下になる期間が規定された期間である第3の期間64以上になった場合にアラームを出力する。これにより、劣化診断装置30は、ユーザに対して、事前に、劣化の予兆を検知する可能性のある地上設備、または列車15の車上設備を示すことができる。
【0046】
なお、劣化診断装置30の判定部31は、受信レベル60が判定閾値62以下になる期間が第2の期間より短くても、規定された第4の期間よりも長い場合、アラームを出力してもよい。具体的には、判定部31は、
図5に示すフローチャートの動作において、ステップS22:Noの場合、さらに、受信レベル60が判定閾値62以下、かつ規定された第4の期間継続したか否かを確認する。受信レベル60が判定閾値62以下、かつ規定された第4の期間継続した場合、判定部31は、ステップS23からステップS25までの動作と同様の動作を行う。これにより、判定部31は、ユーザに対して、事前に、劣化の予兆を検知する可能性のある地上設備、または列車15の車上設備を示すことができる。
【0047】
実施の形態3.
実施の形態1では、劣化診断装置30の判定部31は、受信レベル60と1つの判定閾値62とを比較していた。実施の形態3では、劣化診断装置30の判定部31が、受信レベル60と複数の判定閾値とを比較する。
【0048】
実施の形態3において、劣化診断システム100の構成は、
図1に示す実施の形態1のときの構成と同様である。
図12は、実施の形態3に係る劣化診断装置30の判定部31における判定処理のイメージを示す図である。
図12は、実施の形態1の判定処理のイメージを示す
図6から
図8に対して、判定閾値62を第1の判定閾値65とし、さらに第2の判定閾値66を追加したものである。劣化診断装置30の判定部31は、受信レベル60が第1の判定閾値65より大きくても、受信レベル60が第2の判定閾値66以下の場合、特定の閉塞区間の地上設備が劣化に至る傾向にあることを示すアラームを出力する。これにより、アラームを確認したユーザは、特定の閉塞区間の地上設備について、他の閉塞区間の地上設備よりも重点的にメンテナンスなどを行うことができる。
【0049】
なお、
図12の例では、判定閾値が2つの場合について説明したが、これに限定されない。判定閾値については、3つ以上あってもよい。このように、劣化診断装置30において、記憶部32は、判定閾値として複数の判定閾値を記憶する。判定部31は、受信レベル60と複数の判定閾値とを比較し、各判定閾値に基づくアラームを出力する。
【0050】
また、本実施の形態では、特定の閉塞区間の地上設備が劣化に至る傾向にあることを示す場合を例にして説明したが、これに限定されない。劣化診断装置30の判定部31は、複数の閉塞区間で受信レベル60が第2の判定閾値66以下になった場合、列車15の車上設備が劣化に至る傾向にあるとして、アラームを出力することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態によれば、劣化診断システム100において、劣化診断装置30は、受信レベル60と複数の判定閾値とを比較し、各判定閾値に基づくアラームを出力することとした。これにより、劣化診断装置30は、ユーザに対して、現在の受信レベル60の状態に応じたアラームを出力することができる。
【0052】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 車上装置、11 測定部、12 車両情報管理装置、13 車上子、14 受電器、15 列車、20 データ管理装置、30 劣化診断装置、31 判定部、32 記憶部、40 地上子、50 レール、60 受信レベル、61 最小動作レベル閾値、62 判定閾値、63 第1の期間、64 第3の期間、65 第1の判定閾値、66 第2の判定閾値、100 劣化診断システム。