(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】エセフォンを含むメタンガス発生抑制用肥料組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C05G 3/00 20200101AFI20230821BHJP
C05D 3/00 20060101ALI20230821BHJP
C05D 9/00 20060101ALI20230821BHJP
C09K 17/40 20060101ALI20230821BHJP
C09K 17/46 20060101ALI20230821BHJP
C09K 17/50 20060101ALI20230821BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C05G3/00 A
C05D3/00
C05D9/00
C09K17/40 H
C09K17/46 H
C09K17/50 H
A01G7/00 602Z
(21)【出願番号】P 2022528678
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 KR2020010898
(87)【国際公開番号】W WO2021221235
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】10-2020-0052168
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516172857
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピル・ジュ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ギル・ウォン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ビュン・ユン・ハ
(72)【発明者】
【氏名】ソンレ・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ジヨン・リム
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101273721(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106431754(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B
C05C
C05D
C05F
C05G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エセフォン(ethephon)を有効成分として含
む肥料組成物
を農作物栽培土壌に処理してメタンガス発生を低減させる方法。
【請求項2】
前記肥料組成物は、生分解性高分子(biodegradable polymer);及び石膏、石灰、ケイ酸質肥料、ベントナイト及びゼオライトからなる群から選択されるいずれか1つ;をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の
方法。
【請求項3】
前記生分解性高分子は、セルロース(cellulose)誘導体、腐植(humus)浸出液、アミノ酸醗酵副産液(condensed molasses solubles)及びアクリル(acryl)系高分子からなる群から選択されたいずれか1つであることを特徴とする請求項2に記載の
方法。
【請求項4】
前記肥料組成物を田植え前に、水田土壌に1~50トン/haで処理することを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エセフォンを含むメタンガス発生抑制用肥料組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
水田において有機物が嫌気分解される過程でメタン生成菌によってメタン(CH4)が多量生成されている。メタン分子は、二酸化炭素に比べて温暖化誘発効果(global warming potential, GWP)が21~28倍ほど高いために、メタン排出量を減縮するということは、地球温暖化緩和のために非常に効果的な戦略にもなる。IPCC(気候変化に関する政府間協議体)報告によれば、世界的に水田で稲を栽培する過程中に平均1.30kg/ha/dayのメタンが排出されており、韓国の水田では、それよりもはるかに多くの平均2.32kg/ha/dayのメタンが排出されており、積極的にメタン放出量を減縮するための努力が要求されている。
【0003】
水田においてメタン排出量を抑制するために、栽培学的には、間断灌漑(intermittent irrigation)または中干し(midseason drainage)のような水管理方法、未腐熟有機物よりは、堆肥とバイオ炭のような安定した有機物の施用方法、低メタン生成機能を有する稲品種選択、施肥管理方法などが開発されて活用されているが、水管理方法は、排水したとき、降雨のような気象環境によって大きく影響され、一定の減縮効果を期待し難い限界性がある。また、堆肥とバイオ炭のような安定した有機物を投入しても、有機物を投入していないときに比べて、メタン排出量が大きく増大し、稲品種の選択は、生産性と味などによって決定されうるので、メタン生成の少ない品種を選択して広範囲に適用するには限界がある。その他にも、電子受容体(electron acceptor)として酸化鉄(Fe3+)、酸化マンガン(Mn4+)、硫酸イオン(SO4
2-)、窒酸イオン(NO3
-)を含有している土壌改良剤や肥料などを投入してメタン排出量を抑制しようとする努力をしている。
【0004】
また、メタン生成菌によって有機物が分解されてメタンを生成する生化学的反応メカニズムを用いてメタン生成菌の活性を特異的に抑制することができる技術が開発されている。メタン生成菌活性抑制剤として、2-BES(bromoethanesulfonate),2-CES(chloroethanesulfonate),2-MES(mercaptoethanesulfonate)などが開発されており、そのような物質は、メタン生成菌によってメタンが生成される過程で作られるメチル補酵素M(Methyl Coenzyme M)の前駆物質である補酵素M(Coenzyme M)の化学的構造類似体であって、土壌や反芻動物の飼料に混合すれば、メタン生成量を減らすことができると知られている。しかし、補酵素Mの構造類似体は、製造コストが高く、メタン排出量減縮効果が少なく、現場では広く活用されていない。
【0005】
一方、韓国登録特許第0829438号には、「土壌でメタンガスの発生を低減するためのケイ酸質肥料組成物、及びそれを用いて土壌におけるメタンガス発生を低減する方法」が開示されているが、本発明のエセフォンを含むメタンガス発生抑制用肥料組成物及びその用途については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような要求によって導出されたものであって、本発明者は、水田で放出されるメタンを減少させるメタン生成菌活性抑制剤と知られた補酵素M(coenzyme M)の構造類似体としてエセフォン(ethephone)を選抜し、エセフォンが土壌の高いpH条件で容易に加水分解されてエチレン(ethylene)ガス状に損失される点を補うために、エセフォン分解の遅延のための生分解性高分子を選抜するために、多様な生分解性高分子とエセフォンを混合・加工してエセフォン製剤のエセフォン持続時間を測定した結果、多様な生分解性高分子のうち、酢酸セルロースが、エセフォンを約75日間持続させることで、稲栽培時にメタン生成を最も効果的に抑制することができる最適の生分解性高分子物質であることを確認した。また、前記選発されたエセフォン、酢酸セルロース及び石膏の混合物を使用して肥料を製造し、前記製造された肥料を田植え前に、淡水状態の水田に処理した結果、エセフォンが含有された肥料が処理された水田から排出されるメタンの排出量が、エセフォンを含まない肥料が処理された水田から排出されるメタンの排出量に比べて、顕著に減少したことを確認することにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明は、エセフォン(ethephon)を有効成分として含むメタンガス発生抑制用肥料組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記肥料組成物を農作物栽培土壌に処理してメタンガス発生を低減させる方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、エセフォンを有効成分として含むメタンガス発生抑制用土壌改良剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肥料組成物は、土壌の高いpH条件で容易に加水分解されて損失されるエセフォンの安定性を増加させるためにセルロース誘導体を混合して製造されたものであって、作物の生育及び収穫量には影響を与えず、農作物栽培土壌から排出されるメタンの排出量を効率よく減少させうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ジャポニカ(japonica)及びインディカ(indica)イネ(Oryza sativa)の栽培過程でメタン排出量(CH
4 emission rate ;左側縦軸)及び土壌の酸素濃度を間接的に示す酸化還元電位(soil redox, Eh value ;右側縦軸)を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の目的を達成するために本発明は、エセフォン(ethephon)を有効成分として含むメタンガス発生抑制用肥料組成物を提供する。
【0014】
本発明の肥料組成物において、前記肥料組成物は、生分解性高分子(biodegradable polymer);及び石膏、石灰、ケイ酸質肥料、ベントナイト及びゼオライトからなる群から選択されるいずれか1つ;をさらに含む。前記生分解性高分子は、セルロース(cellulose)誘導体、腐植(humus)浸出液、アミノ酸醗酵副産液(condensed molasses solubles)及びアクリル(acryl)系高分子からなる群から選択されるいずれか1つであり、望ましくは、セルロース誘導体であるが、それに制限されない。
【0015】
本発明の肥料組成物において、前記セルロース誘導体は、酢酸セルロース(Cellulose acetate, CA)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sodium carboxylmethyl cellulose, CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxylethyl cellulose, HEC)及びメチルセルロース(Methyl cellulose, MC)からなる群から選択されるいずれか1つであり、望ましくは、酢酸セルロースであるが、それに制限されない。
【0016】
本発明の肥料組成物において、前記腐植浸出液は、泥炭などから酸とアルカリ処理を通じて腐植(humus;フミン酸、フルボ酸など)を抽出した溶液であり、前記アミノ酸醗酵副産液は、調味料などの製造過程で生成される高粘性の廃液でもあり、前記アクリル系高分子は、炭素数1~18からなるアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、シクロアルキルアクリレート、シクロアルキルエタクリレート、アルコキシアルキルアクリレート、アルコキシアルキルメタクリレートエステル、炭素数2~8のヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレートエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びトリフルオロエチルメタクリレートなどの反応性不飽和アクリレート単量体またはアクリル酸、メタクリル酸、ビニルベンゾ酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸などのカルボキシ基を含有した単量体を含むものでもあるが、それらに制限されない。
【0017】
本発明の肥料組成物において、前記エセフォン、セルロース誘導体及び石膏を混合した混合物を水田に処理する場合、水田から排出されるメタンの排出量を効果的に抑制することができる。本発明の一具現例において、前記エセフォン、セルロース誘導体及び石膏の混合物は、混合物の総重量に対して、エセフォン0.05~5重量%、石膏90~98重量%及びセルロース誘導体1~10重量%からなるものでもあり、望ましくは、エセフォン0.4~1重量%、石膏94~98重量%及びセルロース誘導体1.5~5重量%からなるものであり、さらに望ましくは、エセフォン0.5重量%、石膏96.5重量%及びセルロース誘導体3重量%からなるものでもあるが、それに制限されない。
【0018】
本発明の肥料組成物において、前記エセフォン、酢酸セルロース及び石膏の混合物が混合物の総重量に対して、エセフォン0.5重量%、石膏96.5重量%及び酢酸セルロース3重量%からなる場合、水田土壌の淡水条件でもエセフォンが容易には加水分解されない特徴があり、水田から排出されるメタンの排出量を、約98%まで抑制することができる。
【0019】
本発明の肥料組成物において、前記エセフォンは、土壌内のメタン生成菌(methanogens)のメタン生成酵素であるMe-CoM reductase(Methyl coenzyme M reductase)の活性を抑制すると知られた補酵素M(coenzyme M)と化学的に構造が類似した構造類似体であって、水田土壌に存在するメタン生成菌でメタン生成を抑制して土壌から排出されるメタン排出量を低減させる役割を行う。また、前記酢酸セルロースは、土壌の高いpHによって加水分解されてエチレンガスとして容易に放出されることを抑制し、エセフォンの持続効果を増加させる役割を行い、前記石膏は、エセフォン及び酢酸セルロースの混合物が作物栽培のための肥料または土壌改良剤として使用可能なように適当な形状または形態に作るために使用したものである。
【0020】
用語「肥料」は、植物が正常に生育するのに必要な元素の1つあるいはそれ以上を供給する全ての物質を意味し、有機肥料(分解される植物/動物物質からなる)、及び無機肥料(化学物質及び無機物質からなる)などに区分されうる。
【0021】
本発明の肥料組成物は、農業的に許容可能な担体をさらに含み、前記許容可能な担体は、充填剤(fillers)、溶媒、賦形剤、界面活性剤(surfactants)、懸濁液剤(suspending agents)、スプレッダー(spreaders)、粘着剤(adhesives)、消泡剤、分散剤、湿潤剤、ドリフト減少剤(drift reducitng agents)、助剤(auxiliaries)、補強剤(adjuvants)またはその混合物を含み、本発明によるメタンガス発生抑制効果に否定的な影響を与えない限り、含まれる成分の種類に特に制限されない。
【0022】
本発明の肥料組成物は、一般の剤型機を以って適当なサイズの顆粒、粉末またはペレットなどの多様な形態に剤型化されうるが、それに制限されない。前記剤型化された本発明の肥料組成物は、そのまま使用されるか、または室温で風乾するか、凍結乾燥または高温乾燥方法で乾燥させて使用することができる。
【0023】
本発明の肥料組成物は、前記肥料組成物単独または他の農業用製剤、例えば、植物栄養剤と共に配合するか、順次に使用されうる。前記植物栄養剤としては、通常使用される植物栄養供給用肥料を使用することができる。また、前記肥料として、有機質肥料、複合肥料、窒素肥料、リン酸肥料、カルシウム肥料、石灰肥料、ケイ酸質肥料、硫酸肥料、マグネシウム肥料、微量元素肥料、糞尿肥料などが用いられうる。この際、前記農業用製剤の特定の例は、当業界の通常の知識を有する者には自明なものである。
【0024】
本発明はまた、前記肥料組成物を農作物栽培土壌に処理してメタンガス発生を低減させる方法を提供する。
【0025】
本発明の一具現例による方法において、望ましくは、前記肥料組成物を農作物栽培土壌に直接処理し、さらに望ましくは、前記肥料組成物を、田植え前の淡水状態の水田土壌に1~50トン/haで処理し、土壌から排出されるメタンの発生を低減させうるが、それに制限されない。
【0026】
本発明の肥料組成物は、水田に水を張った状態で田植えする前、土壌に直接処理し、水田土壌の淡水条件でも、エセフォンが容易に加水分解されず、メタンガス発生の低減効果の優秀な特徴がある。
【0027】
本発明はまた、エセフォンを有効成分として含むメタンガス発生抑制用土壌改良剤を提供する。
【0028】
本発明の前記土壌改良剤は、生分解性高分子(biodegradable polymer);及び石膏、石灰、ケイ酸質肥料、ベントナイト及びゼオライトからなる群から選択されるいずれか1つ;をさらに含んでもよい。前記生分解性高分子は、前述した通りである。
【0029】
本発明の土壌改良剤において、前記エセフォン、セルロース誘導体及び石膏を混合した混合物を水田に処理する場合、水田から排出されるメタンの排出量を効果的に抑制し、前記エセフォン、セルロース誘導体、及び石膏の混合物は、前述した通りである。
【0030】
用語「土壌改良剤(soil conditioner)」は、土壌の物理化学的性質を植物生育に適当に改善して生産性を高めるために使用される物質を意味し、前記土壌改良剤は、本発明のエセフォン、生分解性高分子及び石膏の混合物を既存の化学肥料、ベントナイト(bentonite)、ゼオライト(zeolite)、バーミキュライト(vermiculite)、アンモニウム、石灰塩、稲わら、大麦わら、野草からなる群から選択される1種以上と混合して使用されうるが、それに制限されない。
【0031】
以下、本発明の実施例によって詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明の例示に過ぎず、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
製造例1.肥料の製造
1-1.メタン排出量抑制のための補酵素Mの構造類似体選抜
メタン生成菌の細胞内反応(intercellular reaction)過程で生成される補酵素M(coenzyme M、以下、Co-M)がメタン生成菌のメタン生成活性を特異的に抑制することができる抑制剤と知られている。これにより、本発明では、Co-Mの構造類似体としてエセフォン(ethephone)を選抜した。具体的に、Co-Mの構造類似体と知られたCES(2-chloroethane sulfonate), BES(2-bromoethane sulfonate), MES(2-mercaptoethane sulfonate)と本発明においてCo-M構造類似体から選発されたエセフォン(ethephon, IUPAC name: 2-chloroethyl phosphonic acid)を淡水条件の土壌に同一濃度(20mg/kg)で処理して50日間培養しつつ、ヘッドスペース(headspace)内のメタン濃度と土壌内のメタン生成菌の活性とを測定した。
【0033】
まず、ヘッドスペース内のメタン濃度を測定してメタン排出量を分析した結果、対照区(試料無処理土壌)に比べて、CES、BESまたはエセフォン処理区においてメタン排出量がそれぞれ約48%、56%、56%ほど減少したことを確認した。また、メタン生成菌の活性を示すmcrA(methyl coenzyme-M reductase) gene copy numberを分析した結果、対照区に比べて、CES、BESまたは、エセフォン処理区においてメタン生成菌の活性度がそれぞれ約39%、45%、55%ほど減少したことを確認した(表1及び表2)。
【0034】
これにより、エセフォンが土壌内のメタン生成菌の活性を抑制してメタン排出量を効率よく低減させうるCo-Mの構造類似体として使用されうるということが分かった。
【0035】
【0036】
【0037】
1-2.エセフォンの安定化のための生分解性高分子選抜
稲は、開花期に最も多くのメタンが排出され、その後、急減する特徴を有しているので(
図1)、稲栽培過程でメタン排出を効果的に減らすためには、田植え期から開花期まで(約70~80日)の間、メタン生成菌の活性を効果的に抑制することが重要である。また、還元状態の水田土壌pHが7以上である場合、エセフォンが容易に加水分解されてエチレンガス形態に損失されてしまうので、エセフォンが土壌中に滞留する期間を、稲田植え期から開花期までに調節せねばならない。これにより、本発明者は、エセフォンの加水分解を遅延させ、土壌でメタン排出を効果的に抑制するために、エセフォンの安定化を増加させうる生分解性高分子物質である酢酸セルロースを選抜した。
【0038】
具体的に、生分解性高分子物質として、セルロース誘導体である酢酸セルロース(Cellulose acetate, CA)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sodium carboxylmethyl cellulose, CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(Hydroxylethyl cellulose, HEC)及びメチルセルロース(Methyl cellulose, MC)とアミノ酸醗酵副産液(CMS)をまず選抜した後、エセフォンが溶解された水またはアセトン100mlにセルロース誘導体またはアミノ酸醗酵副産液をそれぞれ2gずつ入れて溶解させ、石膏10gを混合して乾燥した後、粒子サイズが2mm以下になるように粉砕して粉末形態の肥料を製造した。エセフォンは、水溶性であり、かつアセトンにもよく溶解される特徴を有しているが、酢酸セルロースは、アセトンで最もよく溶解されるので、酢酸セルロース実験群でのみ溶媒としてアセトンを使用し、アセトンは、揮発性が強く、エセフォン、酢酸セルロース及び石膏を混合して乾燥する過程で完全に蒸発されるので、乾燥状態の肥料の製造が可能である。そして、前記製造された肥料10gを水500mlに入れ、ヘッドスペース内のエチレン濃度変化を測定して水溶液内のエセフォンの持続時間を評価した。
【0039】
その結果、対照区(生分解性高分子無処理)では、約2日でエセフォンが全量分解されたが、一方、生分解性高分子処理区では、対照区に比べて、エセフォンの持続期間が顕著に増加し、特に酢酸セルロース(CA)処理区では、エセフォンが75日まで持続することを確認した(表3)。
【0040】
すなわち、稲栽培過程で主に田植え期から開花期までの期間(約70~80)の間、メタンが多量排出されるので、約75日間エセフォンの分解を遅延させうる酢酸セルロースが水田土壌においてメタン排出量を最も効果的に抑制することができる最適の生分解性高分子物質であることが分かった。
【0041】
【0042】
1-3.エセフォン、酢酸セルロース及び石膏を用いた肥料の製造
下記表4に示された配合比率によってエセフォンが濃度別に溶解されたアセトンに酢酸セルロースを添加して溶解させ、石膏を混合した後、アセトンが揮発するまで混合物を乾燥した後、粒子サイズが2mm以下になるように粉砕することで、土壌内でエセフォンの分解を遅延させ、メタン排出量を低減させうる肥料を製造した。前記アセトンは、揮発性が強く、エセフォン、酢酸セルロース及び石膏を混合して乾燥する過程で蒸発されるので、混合物の量によって最小限の量を使用した。そして、エセフォン処理量2kg/ha、6kg/ha及び10kg/haは、土壌内にエセフォンを1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg(ppm)処理することを意味する。
【0043】
実施例1.本発明の肥料を用いたメタン排出量低減効果の確認
エセフォン、酢酸セルロース及び石膏を多様な配合比率で配合して製造された肥料組成物を田植え前に、水田土壌に2トン/haの量で処理した後、稲栽培過程でメタン排出量、メタン排出抑制効果及び稲の数量特性を分析した。
【0044】
その結果、エセフォンが混合されていない肥料(石膏1940kg及びCA60kg混合)処理区では、総74.2kg CH4/haのメタンが排出されたが、一方、エセフォンがそれぞれ2kg、6kgまたは10kgが混合された肥料処理区では、それぞれ36.9 kg CH4/ha 、15.9 kg CH4/ha 、1.4 kg CH4/haのメタンが排出されており、特にエセフォン10kgが混合された肥料の場合、メタン排出抑制率が約98.1%であって、メタン排出抑制効果が非常に優れるということを確認した(表4)。
【0045】
また、エセフォン処理量に関係なく、稲の数量にそれほど差がないということを確認し、これを通じて、本発明の肥料が稲の生育及び数量に影響を与えずとも、メタン排出量を効率よく減少させうるということが分かった。
【0046】