(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】回転検出器の制御装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/244 20060101AFI20230821BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G01D5/244 F
G01D5/20 110Q
(21)【出願番号】P 2022568359
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045684
(87)【国際公開番号】W WO2022124412
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2020205912
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 康平
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-304326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる信号に基づいて回転角を検出する回転検出器の制御装置であって、
所定電圧を持つ複数の励磁信号を出力可能なコントローラと、
前記コントローラから出力された前記複数の励磁信号に基づいて前記交流信号を生成する信号生成部と、
前記コントローラと前記信号生成部との間に介装され、前記複数の励磁信号の前記所定電圧を抵抗器で降圧させて前記信号生成部へと伝達する分圧回路と、
を備え
、
前記コントローラが、同一の前記励磁信号を出力する第一ポートおよび第二ポートを有し、
前記分圧回路が、第一抵抗器が介装されて前記第一ポートから延出する第一導線と、前記第一抵抗器とは異なる抵抗値を持つ第二抵抗器が介装されて前記第二ポートから延出するとともに前記第一導線と合流する第二導線と、前記第一導線および前記第二導線の合流箇所と前記信号生成部とを連結する第三導線とを有する
ことを特徴とする回転検出器の制御装置。
【請求項2】
前記第一抵抗器が、前記第二抵抗器の二倍の抵抗値を持つ
ことを特徴とする、請求項
1記載の回転検出器の制御装置。
【請求項3】
前記第一抵抗器での電圧降下後の電圧が前記所定電圧の三分の一になるように、前記第一抵抗器の抵抗値が設定される
ことを特徴とする、請求項
2記載の回転検出器の制御装置。
【請求項4】
前記回転検出器が、所定振幅の前記交流信号を前記励磁コイルに入力するとともに、前記検出コイルで得られる振幅変調された前記信号に基づいて前記回転角を検出するインダクティブ型レゾルバである
ことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の回転検出器の制御装置。
【請求項5】
前記回転検出器が、振幅変調された前記交流信号を前記励磁コイルに入力するとともに、前記検出コイルで得られる位相変調された前記信号に基づいて前記回転角を検出する変調波型レゾルバであり、
前記励磁信号が、PWM信号である
ことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の回転検出器の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる信号に基づいて回転角を検出する回転検出器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータおよびロータの相対的な回転角を検出するためのセンサ(回転検出器)として、交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる信号に基づいて回転角を検出するものが知られている。このようなセンサにおいて、信号電圧を多段階に変更することで、所望の正弦波への追従性を向上させる技術が提案されている。例えば、複数のスイッチを切り換えて複数のコンデンサの正極,負極を負荷に対して選択的に接続することで、多段階の電圧信号を生成する技術が知られている(特開昭58-112476号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、多数のスイッチおよびコンデンサを用いる必要がある。そのため、回路構造が複雑化しやすく、回転検出器の軽量化や小型化が難しいという課題がある。また、多数のスイッチを断接操作する際に発生しうるノイズの影響を受けて、電圧波形の形状が乱れることがあり、信号精度が低下するおそれがある。さらに、回路構造が複雑であることから、製造コストが高騰しやすいというデメリットがある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成で信号精度を改善できるようにした回転検出器の制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の回転検出器の制御装置は、交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる信号に基づいて回転角を検出する回転検出器の制御装置であって、所定電圧を持つ複数の励磁信号を出力可能なコントローラと、前記コントローラから出力された前記複数の励磁信号に基づいて前記交流信号を生成する信号生成部と、前記コントローラと前記信号生成部との間に介装され、前記複数の励磁信号の前記所定電圧を抵抗器で降圧させて前記信号生成部へと伝達する分圧回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
開示の回転検出器の制御装置によれば、簡素な構成で信号精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一実施例としての回転検出器の制御装置を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】二つの励磁信号のON/OFF状態と分圧回路の出力電圧との関係を示す表である。
【
図4】(A)は
図2に示す制御装置で生成される励磁信号を示すグラフであり、(B)は比較例としての励磁信号を示すグラフである。
【
図5】(A)は一相の励磁信号に含まれる2次高調波や3次高調波を示すグラフであり、(B)は第一実施例の励磁信号に含まれる2次高調波や3次高調波を示すグラフである。
【
図6】第二実施例としての回転検出器の制御装置を示す模式図である。
【
図7】
図6に示す制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】変形例としての分圧回路の構造を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.第一実施例]
[A.構成]
図1は、第一実施例としての回転検出器の制御装置4を示す模式図である。第一実施例の回転検出器は、変調波型レゾルバである。変調波型レゾルバとは、振幅変調された交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる位相変調された信号に基づいて回転角を検出するレゾルバである。本件では、変調波型レゾルバの具体例として、軸倍角が1Xで二相励磁単相出力型のレゾルバ1を用いて説明する。ただし、軸倍角は1X以外(nX)であってもよいし、本発明の適用対象をレゾルバ1のみに限定する意図もない。本発明は、励磁コイルに交流信号(励磁信号)を入力し、検出コイルに生じた信号を用いて回転位置を検出する回転検出器の全般に適用可能である。
【0010】
本件のレゾルバ1は、励磁信号をPWM(Pulse Width Modulation,パルス幅変調)信号から生成する。PWM信号とは、パルス幅が可変で周期が一定の方形波からなる信号である。PWM信号の周期に対するパルス幅の百分率は、デューティ比と呼ばれる。デューティ比を所望の正弦波の電圧に対応するように変化させ、その信号をフィルタに通すことで、所望の信号波形(例えば正弦波や余弦波)に近似した電圧波形を生成することができる。
【0011】
レゾルバ1には、ロータ2(回転子)とステータ3(固定子)とが設けられ、これらの対向面で励磁コイルと検出コイルとが対向するように配置される。ロータ2は、ステータ3に対して回転可能に軸支される円盤状の部材である。また、ステータ3は、図示しないケーシングに対して固定される円盤状の部材である。
【0012】
図1に示すように、レゾルバ1には正弦励磁コイル11,余弦励磁コイル12,検出コイル13,送信アンテナコイル14,受信アンテナコイル15が含まれる。正弦励磁コイル11,余弦励磁コイル12,受信アンテナコイル15は、ステータ3側に設けられ、検出コイル13,送信アンテナコイル14は、ロータ2側に設けられる。正弦励磁コイル11および余弦励磁コイル12は、ロータ2側の検出コイル13に対して、ロータ角(ステータ3に対するロータ2の回転角)に応じた電圧を誘起させるためのコイルである。これらの励磁コイル11,12の各々には、電気角の位相が互いに90度相違する交流信号が入力される。
【0013】
検出コイル13(検出コイル)は、ロータ2およびステータ3の対向面において、正弦励磁コイル11,余弦励磁コイル12に対してロータ2の軸方向に対向する位置に配置されるコイルである。検出コイル13には、正弦励磁コイル11および余弦励磁コイル12を励磁することで発生した磁束の鎖交によって電圧が誘起される。検出コイル13に生じた誘起電圧や励磁電流(交流信号)は、送信アンテナコイル14に作用する。送信アンテナコイル14は、検出コイル13に生じた交流信号をステータ3側へと返送するための巻線(コイル)であり、その両端が検出コイル13の両端に接続されて閉回路を形成している。また、受信アンテナコイル15は、送信アンテナコイル14に対してロータ2の軸方向に対向する位置に配置されるコイルである。受信アンテナコイル15に伝達された交流信号は、制御装置4に入力される。
【0014】
制御装置4は、ロータ2のステータ3に対する回転角を演算して出力するものであり、RDC(Resolver Digital Converter,レゾルバデジタルコンバータ)回路とも呼ばれる。
図2に示すように、制御装置4には、コントローラ5と信号生成部6と計測部7とが内蔵される。コントローラ5は、例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)やPLD(Programmable Logic Device)などの集積回路であり、PWM信号を出力する機能と位相変調された信号に基づいて回転角を検出する機能とを併せ持つ。このコントローラ5は、所定電圧(パルス電圧)を持つ複数のPWM信号を出力可能とされる。
【0015】
コントローラ5には、PWM信号を出力する第一ポート31,第二ポート32,第三ポート33,第四ポート34が設けられる。第一ポート31および第二ポート32は、正弦波の電圧に対応するようにデューティ比が変化する同一のPWM信号を出力する。また、第三ポート33および第四ポート34は、上記の正弦波と直交する余弦波の電圧に対応するようにデューティ比が変化する同一のPWM信号を出力する。
【0016】
信号生成部6は、コントローラ5から出力された複数のPWM信号に基づいて、励磁コイル11,12に入力される交流信号を生成するものである。この信号生成部6には、正弦波状の交流信号を生成するためのフィルタ35と、余弦波状の交流信号を生成するためのフィルタ36とが設けられる。フィルタ35は、第一ポート31および第二ポート32から入力されるPWM信号に基づいて正弦波状の変調波を生成する。ここで生成された変調波は、アンプ37を介して増幅された後に、正弦励磁コイル11に伝達される。同様に、フィルタ36は、第三ポート33および第四ポート34から入力されるPWM信号に基づいて余弦波状の変調波を生成する。ここで生成された変調波は、アンプ38を介して増幅された後に、余弦励磁コイル12に伝達される。
【0017】
コントローラ5と信号生成部6との間には、正弦側分圧回路50と余弦側分圧回路60とが介装される。これらの分圧回路50,60は、コントローラ5から出力された複数のPWM信号の所定電圧を抵抗器で降圧させてから信号生成部6へと伝達するための回路である。正弦側分圧回路50は、第一ポート31および第二ポート32とフィルタ35との間に介装され、余弦側分圧回路60は、第三ポート33および第四ポート34とフィルタ36との間に介装される。
【0018】
図2に示すように、正弦側分圧回路50には、第一導線53と第二導線54と第三導線55とが設けられる。第一導線53は第一ポート31から延出する導線であり、第二導線54は第二ポート32から延出して第一導線53と合流する導線である。第三導線55は、第一導線53および第二導線54の合流箇所と信号生成部6のフィルタ35とを連結する導線である。このように、正弦側分圧回路50は、二系統のPWM信号が伝達される回路を中途で合流させた回路構造を持つ。
【0019】
第一導線53には第一抵抗器51が介装され、第二導線54には第二抵抗器52が介装される。第一抵抗器51および第二抵抗器52の抵抗値は、少なくとも互いに相違する大きさに設定される。例えば第一抵抗器51は、第二抵抗器52と同抵抗の抵抗器を直列に二個接続してなり、第一抵抗器51の抵抗値が第二抵抗器52の抵抗値の二倍に設定されている。第一実施例では、第一抵抗器51での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の一になるように第一抵抗器51の抵抗値が設定される。また、第二抵抗器52の抵抗値は、第一抵抗器51の抵抗値の半分に設定される。換言すれば、第二抵抗器52での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の二になるように、その抵抗値が設定される。これにより、第二抵抗器52での電圧降下後の電圧は所定電圧の三分の二となる。
【0020】
図3は、第一ポート31および第二ポート32からのPWM信号の出力状態と第三導線55を介してフィルタ35に伝達されるPWM信号の電圧(出力電圧)との関係を示す表である。ここでは、PWM信号の所定電圧が3.3Vであるものとする。第一ポート31および第二ポート32の両方がPWM信号を出力していない状態では、フィルタ35に伝達される出力電圧が0Vとなる。また、第一ポート31のみがPWM信号を出力している状態では、フィルタ35に伝達される出力電圧が1.1Vとなる。
【0021】
一方、第二ポート32のみがPWM信号を出力している状態では、フィルタ35に伝達される出力電圧が2.2Vとなる。さらに、第一ポート31および第二ポート32の両方がPWM信号を出力している状態では、フィルタ35に伝達される出力電圧が3.3V(所定電圧)となる。このように、PWM信号の出力状態を切り換えることで、フィルタ35に伝達されるPWM信号の電圧が多段階に変更される。
【0022】
同様に、余弦側分圧回路60には、第一導線63と第二導線64と第三導線65とが設けられる。第一導線63は第三ポート33から延出する導線であり、第二導線64は第四ポート34から延出して第一導線63と合流する導線である。第三導線65は、第一導線63および第二導線64の合流箇所とフィルタ36とを連結する導線である。また、第一導線63には第一抵抗器61が介装され、第二導線64には第二抵抗器62が介装される。
【0023】
第一抵抗器61および第二抵抗器62の抵抗値は、少なくとも互いに相違する大きさに設定され、好ましくは第一抵抗器61の抵抗値が第二抵抗器62の抵抗値の二倍に設定される。第一実施例では、正弦側分圧回路50と同様に、第一抵抗器61での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の一になるように第一抵抗器61の抵抗値が設定される。また、第二抵抗器62の抵抗値は、第一抵抗器61の抵抗値の半分に設定される。換言すれば、第二抵抗器62での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の二になるように、その抵抗値が設定される。
【0024】
計測部7には、検波回路41と位相検出回路42とが設けられる。検波回路41は、受信アンテナコイル15から入力される位相変調された交流信号を検波して、信号波を抽出する回路である。ここで抽出された信号波は、位相検出回路42に伝達される。位相検出回路42では、正弦励磁コイル11に伝達された変調波を基準として、検波回路41で抽出された信号波の位相ずれの大きさが把握され、その情報がコントローラ5に伝達される。この情報を受けて、コントローラ5はステータ3に対するロータ2の回転角を算出する。
【0025】
[B.作用]
上記の通り、励磁コイルに所定の信号波形の信号を入力し、検出コイルで所定の変調した信号を出力する回転検出器の場合には、入力信号の精度により検出結果が影響を受けるため、高い信号精度が求められる。一方、PWM信号に含まれるパルスの電圧値(PWM信号の振幅に相当するもの)が一定である場合、パルス幅の時間的な分解能の制約から、デューティ比が0%や100%の近傍にある状態において電圧波形の形状が所望の正弦波に追従しにくくなり、信号精度が低下することがある。
【0026】
そこで、パルスの電圧値を多段階に変更することで、所望の正弦波への追従性を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、複数のスイッチを切り換えて複数のコンデンサの正極,負極を負荷に対して選択的に接続することで、多段階の電圧信号を生成することが記載されている。しかしながら、特許文献1のような構成を実現するためには、多数のスイッチおよびコンデンサを用いる必要がある。そのため、回路構造が複雑化しやすく、回転検出器の軽量化や小型化が難しいという課題がある。また、多数のスイッチを断接操作する際に発生しうるノイズの影響を受けて、電圧波形の形状が乱れることがあり、信号精度が低下するおそれがある。さらに、回路構造が複雑であることから、製造コストが高騰しやすいというデメリットがある。
【0027】
これに対して、第一実施例に係る上記の制御装置4では、信号生成部6のフィルタ35,36に伝達されるPWM信号の電圧が多段階に変更される。例えば、PWM信号の電圧が一定であるような従来制御では、
図4(B)に示すようなPWM信号の波形となり、波の高さが同一の方形波を連ねた形状となる。一方、パルス幅の時間的な分解能の制約から、フィルタ35,36を通過した後の電圧波形の形状がきれいな正弦波や余弦波になりにくく、信号精度が低下することがある。これに対して、上記の制御装置4では電圧の分解能が向上し、
図4(A)に示すように、電圧値が多段階に変化するPWM信号の波形となる。これにより、フィルタ35,36を通過した後の電圧波形の形状が所望の正弦波や余弦波に追従しやすくなり、信号精度が改善される。
【0028】
図5(A)は、PWM信号の電圧が一定であるような従来制御において、そのPWM信号の波形をDFT(Discrete Fourier Transformation)解析した結果を示すグラフである。横軸は周波数(次数成分)を表し、縦軸は振幅を表す。ω
mは所望の正弦波や余弦波の周波数(フィルタ35,36を通過した後の電圧波形の周波数)であり、ω
cはPWM信号の周波数である。また、2ω
cはPWM信号の2次高調波に対応する周波数であり、3ω
cはPWM信号の3次高調波に対応する周波数である。
【0029】
図5(A)に示すように、PWM信号の波形には、2次高調波や3次高調波といった高次の高調波成分が含まれる。これらの高調波成分は、信号生成部6のフィルタ35,36で除去されるものの、その除去効率はフィルタ35,36の性能に依存することになる。これに対して上記の制御装置4では、
図5(B)に示すように、2次高調波や3次高調波が減少する。このように、フィルタ35,36に入力される前の信号特性が改善されるため、フィルタ35,36を通過した後の電圧波形の形状が所望の正弦波や余弦波に追従しやすくなり、信号精度が改善される。また、PWM信号の信号特性自体が改善されるため、フィルタ35,36に過度な性能を要求する必要がなくなる。
【0030】
[C.効果]
(1)第一実施例の回転検出器の制御装置4には、コントローラ5と信号生成部6との間に介装された分圧回路50,60が設けられる。分圧回路50,60は、複数のPWM信号の所定電圧を抵抗器で降圧させて信号生成部6へと伝達するように機能する。これにより、電圧値が多段階に変化するPWM信号を容易に生成することができる。したがって、簡素な構成でフィルタ35,36を通過した後の電圧波形をきれいな正弦波や余弦波にすることができ、信号生成部6から出力される励磁信号の信号精度を改善することができる。また、PWM信号の高調波成分を減少させることができ、信号精度をさらに改善することができる。
【0031】
(2)上記のコントローラ5には、
図2に示すように、同一のPWM信号を出力する第一ポート31および第二ポート32が設けられる。また、正弦側分圧回路50に関して、第一ポート31から延出する第一導線53には第一抵抗器51が介装され、第二ポート32から延出する第二導線54には第二抵抗器52が介装される。これらの導線53,54は合流するように形成され、その合流箇所と信号生成部6との間は第三導線55によって連結される。このような構造により、二種類のPWM信号の電圧が切り換えられ、あるいは合成される(電圧値が加算される)回路を容易に形成することができる。したがって、適切な正弦波に近似した電圧波形を信号生成部6で生成することができ、簡素な構成で信号精度を改善できる。
【0032】
余弦側分圧回路60についても同様である。第三ポート33から延出する第一導線63には第一抵抗器61が介装され、第四ポート34から延出する第二導線64には第二抵抗器62が介装される。これらの導線63,64は合流するように形成され、その合流箇所と信号生成部6との間は第三導線65によって連結される。このような構造により、適切な余弦波に近似した電圧波形を信号生成部6で生成することができ、簡素な構成で信号精度を改善できる。
【0033】
(3)上記の分圧回路50,60では、第一抵抗器51,61の抵抗値が第二抵抗器52,62の抵抗値の二倍に設定される。これにより、第二導線54を通過するPWM信号の電圧降下と比較して、第一導線53を通過するPWM信号の電圧降下を二倍にすることができ、電圧値を大きく相違させることができる。また、第一ポート31のみがPWM信号を出力している状態と比較して、第二ポート32のみがPWM信号を出力している状態の電圧値を二倍にすることができる。
【0034】
例えば、
図3に示すように、第一ポート31のみがPWM信号を出力している状態では、フィルタ35に伝達される出力電圧が1.1Vとなり、第二ポート32のみがPWM信号を出力している状態では、フィルタ35に伝達される出力電圧が2.2Vとなる。このように、電圧が等間隔で二段階に変化するようなPWM信号の中間電位を容易に生成することができ、信号精度をさらに改善することができる。
【0035】
(4)上記の分圧回路50,60では、第一抵抗器51,61での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の一になるように、第一抵抗器51,61の抵抗値が設定される。また、第二抵抗器52,62での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の二になるように、第二抵抗器52,62の抵抗値が設定される。これにより、電圧が等間隔で三段階に変化するようなPWM信号の中間電位を容易に生成することができ、信号精度をさらに改善することができる。
【0036】
[2.第二実施例]
図6は、第二実施例としての回転検出器の制御装置94を示す模式図であり、
図7は、制御装置94の構成を示すブロック図である。第二実施例の回転検出器は、インダクティブ型レゾルバ(インダクティブセンサ)である。インダクティブ型レゾルバとは、所定振幅の交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる振幅変調された信号に基づいて回転角を検出するレゾルバである。本件では、インダクティブ型レゾルバの具体例として、軸倍角が1Xで単相励磁二相出力型のレゾルバ91を用いて説明する。ただし、軸倍角は1X以外(nX)であってもよい。
【0037】
レゾルバ91は、ロータ92(回転子)とステータ93(固定子)と制御装置94とを備える。ロータ92は、ステータ93に対して回転可能に軸支される円盤状の部材である。ステータ93は、図示しないケーシングに対して固定される円盤状の部材である。ステータ93には、励磁コイル95や検出コイル97,98が設けられる。一方、ロータ92にはコイルが設けられず、導体96が設けられる。
【0038】
導体96は、ロータ92およびステータ93の相対角度に応じて、励磁コイル95で生じた磁場の影響を受ける面積が変化する形状に形成される。具体的には、円盤を周方向に多分割するとともに、その多分割された円盤片を周方向に沿って交互に削除したような形状(一つ飛ばしで円盤片を取り除くことによって、残った円盤片も一つ飛ばしで配置される形状)に形成される。なお、このような円盤の典型的な分割数は2の累乗(例えば二分割,四分割,八分割等)である。各導体96の形状は、「塗りつぶし状」でなくてもよく、例えば「外周のみを囲った閉じた環形状」であってもよい。
【0039】
制御装置94は、ロータ92のステータ93に対する回転角を演算して出力するものである。制御装置94には、励磁コイル95に供給される交流信号を生成する信号生成回路と、検出コイル97,98から返送される信号に基づき、回転角に対応する角度情報を出力する信号処理回路とが内蔵される。信号生成回路で生成された交流信号は、励磁コイル95に伝達され、ステータ93に所定の磁場が形成される。これを受けて、ロータ92の導体96の内部には渦電流が流れ、ステータ93の磁場を打ち消す磁場(反磁界)が生成され、磁場を遮蔽する。そしてロータ92の導体96の位置は回転角に応じて変化する。そのため、ステータ93側の検出コイル97,98には、回転角に応じて振幅変調された信号が返送される。この信号は信号処理回路へと入力される。
【0040】
励磁コイル95は、軸方向の磁界を生じさせるコイルである。ステータ93と軸方向に対向するロータ92側の導体96は励磁コイル95の磁界を受け、内部に渦電流を生じて励磁コイル95の磁界を打ち消す反磁界を生じる。このため導体96は励磁コイル95の磁界の一部を遮蔽する。励磁コイル95に入力される交流信号の振幅は、制御装置94の指示により変更可能とされる。ここで、励磁コイル95に入力される交流信号の電圧値を「sinωct」と表現する。ωctは交流信号の角速度である。
【0041】
検出コイル97,98は、励磁コイル95の磁界を検出する。軸方向に対向するロータ2側の導体96はロータ92の回転に伴って周方向に移動するため、導体96が励磁コイル95の磁界を遮蔽する部分はロータ角に応じて変化する。したがって、検出コイル97,98が検出する磁界もロータ角に応じて変化する。
【0042】
検出コイル97,98には、正弦検出コイル97と余弦検出コイル98とが含まれる。正弦検出コイル97はロータ角の正弦を検出し、余弦検出コイル98はロータ角の余弦を検出する。ロータ角をθとおけば、正弦検出コイル97から出力される交流信号の電圧値は「sinθ・sinωct」と表現できる。また、余弦検出コイル98から出力される交流信号の電圧値は「cosθ・sinωct」と表現できる。このように、ロータ角の変化に応じて検出コイル97,98の各々で得られる変調波の振幅が変化する。したがって、これらの振幅に基づいてロータ角を特定できる。検出コイル97,98の各々で検出された信号は、制御装置94に入力される。
【0043】
第一実施例の制御装置4と同様に、制御装置94には、コントローラ5と信号生成部6と計測部7とが内蔵される。コントローラ5は、例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)やPLD(Programmable Logic Device)などの集積回路であり、励磁信号を出力する機能と振幅変調された信号に基づいて回転角を検出する機能とを併せ持つ。このコントローラ5は、所定電圧(パルス電圧)を持つ複数の励磁信号を出力可能とされ、励磁信号を出力する第一ポート31および第二ポート32を有する。
【0044】
信号生成部6は、コントローラ5から出力された複数の励磁信号に基づいて、励磁コイル95に入力される交流信号を生成するものである。ここで生成された交流信号は、アンプ37を介して増幅された後に、励磁コイル95に伝達される。
コントローラ5と信号生成部6との間には、分圧回路50′が介装される。分圧回路50′は、コントローラ5から出力された複数の励磁信号の所定電圧を抵抗器で降圧させてから信号生成部6へと伝達するための回路である。
【0045】
図7に示すように、分圧回路50′には、第一導線53と第二導線54と第三導線55とが設けられる。第一導線53は第一ポート31から延出する導線であり、第二導線54は第二ポート32から延出して第一導線53と合流する導線である。第三導線55は、第一導線53および第二導線54の合流箇所と信号生成部6のフィルタ35とを連結する導線である。このように、正弦側分圧回路50は、二系統のPWM信号が伝達される回路を中途で合流させた回路構造を持つ。
【0046】
第一導線53には第一抵抗器51が介装され、第二導線54には第二抵抗器52が介装される。第一抵抗器51および第二抵抗器52の抵抗値は、少なくとも互いに相違する大きさに設定される。例えば第一抵抗器51は、第二抵抗器52と同抵抗の抵抗器を直列に二個接続してなり、第一抵抗器51の抵抗値が第二抵抗器52の抵抗値の二倍に設定されている。第二実施例では、第一抵抗器51での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の一になるように第一抵抗器51の抵抗値が設定される。また、第二抵抗器52の抵抗値は、第一抵抗器51の抵抗値の半分に設定される。換言すれば、第二抵抗器52での電圧降下後の電圧が所定電圧の三分の二になるように、その抵抗値が設定される。これにより、第二抵抗器52での電圧降下後の電圧は所定電圧の三分の二となる。
【0047】
計測部7には、検波回路43,44と振幅検出回路45,46とが設けられる。検波回路43,44は、検出コイル97,98から入力される振幅変調された交流信号を検波して、信号波を抽出する回路である。ここで抽出された信号波は、振幅検出回路45,46に伝達される。振幅検出回路45,46では、励磁コイル95に伝達された変調波を基準として、振幅検出回路45,46で抽出された信号波の振幅の大きさが把握され、その情報がコントローラ5に伝達される。この情報を受けて、コントローラ5はステータ3に対するロータ2の回転角を算出する。
【0048】
上記の通り、第二実施例の回転検出器の制御装置94には、コントローラ5と信号生成部6との間に介装された分圧回路50′が設けられる。分圧回路50′は、複数の励磁信号の所定電圧を抵抗器で降圧させて信号生成部6へと伝達するように機能する。これにより、励磁信号の高調波成分を減少させることができ、信号精度をさらに改善することができる。また、電圧値を多段階に変化させたい場合に、電圧波形をきれいな正弦波や余弦波に近づけることができ、信号生成部6から出力される励磁信号の信号精度を改善することができる。
【0049】
[3.変形例]
上記の実施例(第一実施例および第二実施例)はあくまでも例示に過ぎず、上記の実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。上記の実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、上記の実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、公知技術に含まれる各種構成と適宜組み合わせることができる。
【0050】
上記の実施例では二種類の抵抗器を用いて励磁信号の電圧を段階的に変化させる分圧回路50,50′,60を例示したが、三種類以上の抵抗器を用いて電圧の変化段数を増加させてもよい。
図8は、変形例としての分圧回路70の構造を示す回路図である。この分圧回路70が適用される回転検出器のコントローラ5′には、同一の励磁信号を出力する第一ポート81と第二ポート82と第三ポート83とが設けられる。また、分圧回路70には、第一ポート81から延出する第一導線74と、第二ポート82から延出して第一導線74と合流する第二導線75と、第三ポート83から延出する第三導線76とが設けられる。
【0051】
第一導線74には第一抵抗器71が介装され、第二導線75には第二抵抗器72が介装され、第三導線76には第三抵抗器73が介装される。また、第一導線74および第二導線75の合流箇所と第三導線76の第三抵抗器73よりも下流側とを接続する第四導線77が設けられる。さらに、第三導線76および第四導線77の合流箇所と図示しない信号生成部とを連結する第五導線78が設けられる。
【0052】
第一抵抗器71,第二抵抗器72,第三抵抗器73の抵抗値は、励磁信号の出力状態を切り換えることによって電圧が段階的に変化するように設定される。3つのポート81~83を利用した場合の電圧の変化段数は、最大で8段階(23段階)となる。このように、複数の励磁信号の所定電圧を抵抗器71~73で降圧させることで、電圧値が多段階に変化する励磁信号を容易に生成することができ、上記の実施例と同様の作用効果を獲得することができる。
【0053】
また、上記の実施例では軸倍角が1Xのレゾルバ1,91の制御装置4について詳述したが、軸倍角がnXのレゾルバ1,91に同様の制御装置4を適用してもよいし、単相励磁二相出力型のレゾルバに同様の制御装置4を適用してもよい。少なくとも、交流信号を励磁コイルに入力するとともに、検出コイルで得られる信号に基づいて回転角を検出する回転検出器であれば、上記の実施例と同様の制御装置4を適用することで、上記の実施例と同様の作用効果を獲得することができる。
【符号の説明】
【0054】
1,91 レゾルバ(回転検出器)
2,92 ロータ
3,93 ステータ
4,94 制御装置
5 コントローラ
6 信号生成部
7 計測部
31 第一ポート
32 第二ポート
33 第三ポート
34 第四ポート
50,50′,60 分圧回路
51,61 第一抵抗器
52,62 第二抵抗器
53,63 第一導線
54,64 第二導線
55,65 第三導線