(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-18
(45)【発行日】2023-08-28
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20230821BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20230821BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20230821BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20230821BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20230821BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230821BHJP
【FI】
C22C21/00 M
B21B3/00 J
B22D11/06 310
C22C1/02 503J
C22F1/04 A
C22F1/00 604
C22F1/00 622
C22F1/00 630K
C22F1/00 661Z
C22F1/00 673
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2023503675
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2022005350
(87)【国際公開番号】W WO2022185876
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2021035495
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】捫垣 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/137394(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/168606(WO,A1)
【文献】特開2016-41835(JP,A)
【文献】特開2021-66927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00- 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下、Si:0.10質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物である組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、
圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であり、
平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上であることを特徴とするアルミニウム合金箔。
【請求項2】
前記圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも25%以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
前記平均結晶粒径が8μm以上20μm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項4】
前記Cu方位密度が15以上25未満、Cube方位密度が10以上20未満、R方位密度が10以上15未満であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項5】
タンディシュに設けたノズルから、アルミニウム合金の溶湯を搬送冷却装置に注湯し、冷却して鋳造板を連続鋳造する工程と、
前記鋳造板を560℃~620℃にて2時間以上加熱する均質化処理工程と、
前記鋳造板を冷間圧延し、アルミニウム合金箔を製造する工程と、
前記アルミニウム合金箔を220℃~350℃にて30分以上加熱する最終焼鈍工程と、を有し、
前記アルミニウム合金は、Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下、Si:0.10質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物である組成を有し、
前記連続鋳造の工程では、前記溶湯の冷却速度を50~500℃/秒に設定し、
前記工程により、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上であるアルミニウム合金箔を得ることを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金箔およびその製造方法に関する。
本願は、2021年3月5日に、日本に出願された特願2021-035495号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
食品やリチウムイオン電池等の包材に用いられるアルミニウム合金箔は、プレス成型等によって大きな変形が加えられて成形されるため、高い伸びを有していることが求められる。高い伸びと良好な成形性を有するアルミニウム合金箔は、結晶粒が微細でありかつ均一であること、及び集合組織のランダム性が重要と考えられる。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、成形性に優れたアルミニウム合金箔として、Fe、Mgを含有し、Si含有量を0.10%以下に規制したアルミニウム合金箔が開示されている。
また、以下の特許文献2では、Fe、Siを含有し、Cu、Mnの含有量を0.2%を上限に規制し、結晶粒の大きさを規制したアルミニウム合金箔が開示されている。
【0004】
前述の背景に鑑み、本発明者はリチウムイオン電池用外装箔として好適なアルミニウム合金箔について、研究開発を行っている。
包材用アルミニウム合金箔について本発明者が検討した場合、伸びについては、アルミニウム合金箔を一方向に変形させるわけではなく、いわゆる張出成形が行われることが多い。このため、一般的な材料の伸び値として用いられる圧延方向に対して平行な方向だけでなく、45°や90°といった各方向の伸びも高いことが求められる。また、最近では電池包材分野を含む包材分野では、包材厚みの薄肉化が進んでいる。
【0005】
しかし、特許文献1に記載されているアルミニウム合金箔は、各方向での伸びの均一性が十分ではなく、張出成形などで均一な変形が難しくなる問題がある。
また、特許文献2に記載されているアルミニウム合金箔において、伸びについては十分な値が示されているが、結晶粒の微細化のため、CuとMnを0.2%を上限として添加している例が示されている。これらの元素は微量添加であっても圧延性の低下を招き、かつエッジクラック発生により圧延時破断のリスクが増加するため、生産性を低下させる懸念がある。
加えて、1.5%近いFeを含有するアルミニウム合金材では、微量であってもMnを添加することでAl-Fe-Mn系晶出物の粗大化が生じる為、箔厚みが薄い場合は圧延時の破断や成形時の穴発生の起点となるリスクが増大する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-191042号公報
【文献】特開2014-65956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、加工性が良好であり、かつ高い成形性を有するアルミニウム合金箔の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、包材用アルミニウム合金箔についてより詳細な構造解析を行い、その知見に基づき、合金の製造方法を根本的に見直すことで、目的のアルミニウム合金箔を提供できる技術を開発し、本願発明に到達した。
(1)本発明の一態様に係るアルミニウム合金箔は、Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下、Si:0.10質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上であることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明の一態様に係るアルミニウム合金箔において、前記圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも25%以上であることが好ましい。
(3)本発明の一態様に係るアルミニウム合金箔において、前記箔の平均結晶粒径が8μm以上12μm未満であることが好ましい。
【0010】
(4)本発明の一態様に係るアルミニウム合金箔において、前記Cu方位密度が15以上25未満、Cube方位密度が10以上20未満、R方位密度が10以上15未満であることが好ましい。
(5)本発明の一態様に係るアルミニウム合金箔の製造方法は、タンディシュに設けたノズルから、アルミニウム合金の溶湯を搬送冷却装置に注湯し、冷却して鋳造板を連続鋳造する工程と、前記鋳造板を560℃~620℃にて2時間以上加熱する均質化処理工程と、前記鋳造板を冷間圧延し、アルミニウム合金箔を製造する工程と、前記アルミニウム合金箔を220℃~350℃にて30分以上加熱する最終焼鈍工程と、を有し、前記アルミニウム合金は、Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下、Si:0.10質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物である組成を有し、前記連続鋳造の工程では、前記溶湯の冷却速度を50~500℃/秒に設定し、前記工程により、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上であるアルミニウム合金箔を得ることを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、加工性が良好であり、かつ高い成形性を有するアルミニウム合金箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るアルミニウム合金箔の第1実施形態を示す平面図である。
【
図2】本発明に係るアルミニウム合金箔の基となる鋳造板(スラブ)を製造する連続鋳造装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0014】
図1は、本発明に係るアルミニウム合金箔の一実施形態を示す平面図である。
図1に示すアルミニウム合金箔1は、後述する連続鋳造法により得られた鋳造板を冷間圧延して得られた箔であり、
図1のアルミニウム合金箔1は一定幅を有し長さ方向を左右に向けた帯状体として描かれている。
このアルミニウム合金箔1の圧延方向は
図1に示す左右方向(帯状の箔1の長さ方向)であり、便宜的に圧延方向に対し0°の方向は
図1の左右方向を意味し、圧延方向に対し45°方向とは
図1に示す45°と記載した矢印方向を意味し、圧延方向に対し90°方向とは
図1に示す90°と記載した矢印方向を意味する。アルミニウム合金箔1において圧延方向に対し90°方向とは、換言すると帯状のアルミニウム合金箔1の幅方向(
図1の紙面上下方向)を意味する。
【0015】
図1に示すアルミニウム合金箔1は、例えば、0.1μm~0.2mm程度の厚さに形成されている。アルミニウム合金箔1の厚さは箔として用いる一般的な厚さで差し支えない。
このアルミニウム合金箔1は、一例として、Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下、Si:0.10質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物である組成を有するアルミニウム合金からなる。
また、アルミニウム合金箔1は、一例として、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上である。
【0016】
以下、アルミニウム合金箔1を構成するアルミニウム合金の組成の限定理由と特性の限定理由、組織の限定理由について説明する。
・Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出し、それら化合物のサイズが適している場合は、焼鈍時に再結晶のサイトとなって再結晶粒を微細化する効果がある。Feの含有量を1.2質量%未満にすると、金属間化合物の分布密度が低くなり、結晶粒の微細化効果が低くなり、最終的な結晶粒分布も不均一となる。Feの含有量を2.5質量%超にすると、結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe金属間化合物のサイズが非常に大きくなり、合金箔の伸びや成形性、圧延性が低下する。特に好ましいFe含有量の範囲は、1.2質量%以上1.8質量%以下である。
・Si:0.10質量%以下
SiはFeと共に金属間化合物を形成するが、過剰に添加した場合には化合物のサイズの粗大化、及び分布密度の低下を招く。含有量が上限を超えると、粗大な晶出物による伸びや成形性の低下、さらには最終焼鈍後の再結晶粒サイズ分布の均一性が低下する懸念がある。これらの理由からSiの含有量を0.10質量%以下に定める。なお、同様の理由により、Si含有量の上限を0.04質量%とするのが望ましい。Siの含有量の下限値は特に限定されないが、0.01質量%以上が好ましい。
【0017】
・圧延方向に対して0°方向の伸び、45゜方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上
包材に用いられるアルミニウム合金箔1は、プレス成形によって3次元的な変形が加えられる。そのため、圧延方向の伸びのみではなく、種々の方向に対する良好な伸びを有することが求められる。上述の何れかの方向に対する伸びが20%未満である場合、その方向の伸びが律束となりアルミニウム合金箔1の成形性が低下する。
アルミニウム合金箔1の成形性を保つためには、圧延方向に対し全ての方向において伸びが20%以上であることを要する。本実施形態のアルミニウム合金箔1において、全ての方向の伸びが優れることの例示として、圧延方向に対し0°方向の伸び、45゜方向の伸び、90°方向の伸びが優れることを意図する。
アルミニウム合金箔1において圧延方向に対し0°方向の伸び、45゜方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも25%以上であることがより好ましい。
圧延方向に対し0°方向の伸び、45゜方向の伸び、90°方向の伸びの上限値は特に限定されないが、いずれも45%以下が好ましい。
【0018】
・箔の平均結晶粒径が20μm未満
アルミニウム合金箔1の平均結晶粒径は、20μm未満であり、好ましくは8μm以上20μm未満である。本実施形態のアルミニウム合金箔1にあっては、その結晶粒を微細化することで変形した際の箔表面の肌荒れを抑制することができる。このため、高い伸びとそれに伴う高い成形性を期待できる。アルミニウム合金箔1の平均結晶粒径が20μm以上では、結晶粒が粗大なため、成形時に箔表面に肌荒れを生じ易く、成形性の低下をもたらす。アルミニウム合金箔1の平均結晶粒径が8μm未満では、結晶粒が微細になりすぎて材料が硬くなり、またn値が低下することにより伸びが低下する懸念がある。
【0019】
・Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上
集合組織は、アルミニウム合金箔1の成形性に大きな影響を及ぼす。Cu方位密度が25以上、Cube方位密度が10未満、R方位密度が10未満であると、アルミニウム合金箔1の伸びに顕著な異方性が生じ易くなり、圧延方向に対し45°伸びが向上する反面、0°伸び、90°伸びがいずれも低下する。そのため、Cu方位密度を25未満、Cube方位密度を10以上、R方位密度を10以上とすることで、上述の3つの方向の伸びのバランスを保つことができ、成形性が低下しない。
前記Cu方位密度が15以上25未満、Cube方位密度が10以上20未満、R方位密度が10以上15未満であることがより好ましい。
【0020】
「アルミニウム合金箔の製造方法」
図1に示すアルミニウム合金箔1を製造するには、上述の組成を満足するアルミニウム合金溶湯Mを作製し、このアルミニウム合金溶湯Mを用いて連続鋳造法によりアルミニウム合金鋳造板10を得る。次に、アルミニウム合金鋳造板10を560℃~620℃にて2時間以上加熱する(均質化処理工程)。次に、このアルミニウム合金鋳造板10を冷間圧延により目的の厚さに加工することでアルミニウム合金箔を得る。次に、アルミニウム合金箔を220℃~350℃にて30分以上加熱する(最終焼鈍工程)。以上により、本実施形態のアルミニウム合金箔1を得ることができる。
【0021】
図2はアルミニウム合金箔1を製造する場合に用いられる好適な連続鋳造装置の一例を示す。
図2に示す連続鋳造装置Aは、目的組成の合金溶湯Mを貯留したタンディッシュ3と、タンディッシュ3の側壁3Aに横向きに設けられた耐火物製のノズル5と、ノズル5の先端側に配置された上ロール(搬送冷却装置)6と下ロール(搬送冷却装置)7を備えている。また、タンディッシュ3の上方には合金溶湯Mを補給するための樋8が設けられている。樋8の下部には供給管9が設けられ、供給管9を介し合金溶湯Mをタンディッシュ3に補給できるようになっている。
【0022】
図2において上ロール6と下ロール7は簡略的に記載されているが、これらのロールはロールコアとロールシェルを有する2重構造とされ、ロールコアとロールシェルとの間に図示略の冷却媒体の流路が形成され、各ロールを内部側から冷却できるように構成されている。
図2ではロールシェルの一部のみ破断線で描き、各ロールの詳細は略している。
【0023】
ノズル5の先端から合金溶湯Mを上ロール6と下ロール7の間に供給できるので、合金溶湯Mを供給しつつ上ロール6と下ロール7を回転駆動することで
図2に符号10で示すアルミニウム合金鋳造板を鋳造することができる。
桶8からタンディッシュ3に合金溶湯を供給してタンディッシュ3内の合金溶湯量を調整し、アルミニウム合金溶湯をタンディッシュ3からノズル5を介しロール6、7間に連続供給することで、アルミニウム合金鋳造板10を連続的に鋳造することができる。
【0024】
図2に示す連続鋳造装置Aにより50~500℃/秒程度の冷却速度でアルミニウム合金鋳造板10を製造することができる。この鋳造板10の板厚は4mm~10mm程度、例えば7mm程度とすることができる。
この範囲の冷却速度を採用することで後述するアルミニウム合金箔1における、集合組織のCu方位密度25未満、Cube方位密度10以上、R方位密度10以上を得やすくなる。
得られたアルミニウム合金鋳造板10に対し均質化処理を施す。均質化処理では、アルミニウム合金鋳造板10を560℃~620℃で2時間以上加熱する。加熱時間は、好ましくは6時間~10時間である。例えば595℃で8時間加熱する。
【0025】
アルミニウム合金鋳造板10を製造したならば、必要な加工率で冷間圧延を必要回数行うことで厚さ10μm~0.2mm程度、例えば厚さ40μmのアルミニウム合金箔を得ることができる。冷間圧延の最終パスでの加工率は、85~95%が好ましい。
複数回冷間圧延を行い、その冷間圧延の間に中間焼鈍を施すことが好ましい。中間焼鈍では、200℃~400℃に数十分~数時間程度加熱することが好ましい。例えば、360℃に3時間程度加熱し、次いで徐冷することが好ましい。
冷間圧延後に最終焼鈍を行う。最終焼鈍の条件としては、220℃~350℃にて30分以上加熱する。加熱時間は、好ましくは30分~10時間である。次いで徐冷することが望ましい。
【0026】
上述の冷却速度で鋳造板を製造する連続鋳造工程と、均質化処理工程と、冷間圧延工程と、最終焼鈍工程を上述の条件で行うことで、目的の方位密度のアルミニウム合金箔1を得ることができる。
得られたアルミニウム合金箔1において、Feを所定量含んでいるが、Feはアルミニウム合金の集合組織に影響して結晶粒径の微細化に寄与する。Feを1.2~2.5質量%の量で含有しているアルミニウム合金であるが、連続鋳造法により鋳造板とすることで上述の範囲のFe含有量としても、良好な伸びを有することとなる。
なお、ここで用いるアルミニウム合金には、Feに加えてSiを0.10質量%以下程度の量で含んでいても良い。本実施形態のアルミニウム合金箔1においてSiを上述の範囲含んでいても目的を達成できるアルミニウム合金箔が得られる。
【0027】
以上説明の製造方法により、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であり、平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上であるアルミニウム合金箔1を得ることができる。
以上説明のアルミニウム合金箔1であるならば、食品包装用、あるいは、リチウムイオン電池の成形包材用として好適であり、プレス成形によって大きな変形を施す用途、高い伸び、成形性が要求される用途に好適なアルミニウム合金箔を提供できる。
【0028】
なお、本実施形態に係るアルミニウム合金箔1を製造する場合に用いる連続鋳造装置は、
図2に示す双ロール型に限るものではない。アルミニウム合金の連続鋳造用の他の連続鋳造装置として、Hunter法、Lauener Caster I(Alusuisse Caster I)、Davey McKee Twin-roll sheet caster、Twin bele casterなどの方法や装置も知られているので、これらのいずれを用いても良い。
【実施例】
【0029】
表1に示すI~Xの合金組成となるようにアルミニウム合金溶湯を調整し、
図2に示す双ロール型の連続鋳造装置を用いて冷却速度50~500℃/秒の条件で厚さ7mmのアルミニウム合金鋳造板を製造した。得られたアルミニウム合金鋳造板をロール巻きして加熱炉に収容し、540~620℃にて8時間加熱する均質化処理を施した。
次に、冷間圧延処理を行い、また200~400℃で3時間加熱する中間焼鈍を施した。これにより目的の厚さ40μmのアルミニウム合金箔を得た。得られたアルミニウム合金箔に220~350℃にて8時間で最終焼鈍を行い、最終製品とした。
表2に、前述の範囲の均質化温度と時間、中間焼鈍温度と時間、最終焼鈍温度と時間の詳細について、製造工程A~Jとして示す。
【0030】
・引張強度、伸びの測定
いずれも引張試験にて測定した(箔厚40μm)。引張試験は、JIS Z2241に準拠し、圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片を各試料から採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS-X 10kN)で引張り速度2mm/minにて試験を行った。
伸び率の算出について以下の通りである。まず、試験前に短冊状試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を、標点間距離(50mm)で除して伸び率(%)を求めた。
伸び率については、得られたアルミニウム合金箔について、圧延方向に対し0°方向の伸びを測定するための短冊状試料片と、圧延方向に対し45°方向の伸びを測定するための短冊状試料片と、圧延方向に対し90°方向の伸びを測定するための短冊状試料片を採取し、測定した。
【0031】
・平均結晶粒径の測定
アルミニウム合金箔の表面を電解研磨した。次いでSEM(Scanning Electron Microscope)-EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の結晶粒界をHAGBs(大傾角粒界)と規定し、HAGBsで囲まれた結晶粒の大きさを測定した。1000倍の倍率で視野サイズ45×90μmを3視野測定し、平均結晶粒径を算出した。一つ一つの結晶粒径は円相当径にて算出し、平均結晶粒径の算出にはEBSDのArea法(Average by Area Fraction Method)を用いた。尚、解析にはTSL Solutions社のOIM Analysisを使用した。
【0032】
・結晶方位の測定
Cu方位は{112}<111>、R方位は{123}<634>を代表方位とした。Cube方位は{001}<100>を代表方位とした。
それぞれの方位密度はX線回折法において、{111}、{200}、{220}の不完全極点図を測定し、その結果を用いて3次元方位分布関数(ODF;Orientation Distribution Function)を計算し、評価を行った。
【0033】
・限界成型高さ
成型高さは角筒成型試験にて評価した。試験は万能薄板成型試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmで
図1に示す形状を有するアルミニウム箔を角型ポンチ(一辺の長さL=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)を用いて成型することで行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成型速度)の目盛は1とし、そしてアルミニウム箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。アルミニウム箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、アルミニウム箔が成型されるが、3回連続成型した際に割れやピンホールがなく成型できた最大のポンチの上昇高さをその材料の限界成型高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.5mm間隔で変化させた。ここでは張出高さ(限界成型高さ)が7.0mm以上の場合を成型性が良好(good)と判定し、“B”と記載した。張出高さ(限界成型高さ)が9.5mm以上の場合を成型性が特に良好(excellent)と判定し、“A”と記載した。張出高さ(限界成型高さ)が7.0mm未満の場合を成型性が乏しい(poor)と判定し、“C”と記載した。
【0034】
表1に示す合金組成と表2に示す製造工程のいずれかを採用し、表3,4に示すNo.1~27の実施例を作製した。実施例はいずれも前述した望ましい組成あるいは製造条件を満たす例である。
表1に示す合金組成と表2に示す製造工程のいずれかを採用し、表5に示すNo.28~37の比較例を作製した。比較例はいずれも前述した望ましい組成あるいは製造条件のいずれかを満たしていない例である。
No.1~27の実施例とNo.28~37の比較例について、平均結晶粒径、0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸び、Cu方位密度、Cube方位密度、R方位密度、限界成型高さを測定し、それらの結果を以下の表3~5に記載する。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
表3,4に示す結果が示すように、Fe:1.2質量%以上2.5質量%以下、Si:0.10質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物である組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、平均結晶粒径が20μm未満、Cu方位密度が25未満、Cube方位密度が10以上、R方位密度が10以上であるアルミニウム合金箔は、圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも20%以上であった。
具体的に表3,4に示すNo.1~27の実施例では、平均結晶粒径8.5~19.3μmの範囲であり、0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びが21~35%の優れた値を示し、限界成型高さもいずれも7.0mm以上であった。特に圧延方向に対し0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも25%以上の実施例は限界成型高さが9.5mm以上であった。
【0041】
これら実施例に対し、No.28、29の比較例では、鋳造冷却速度が5℃/秒以下であり、Cu方位密度が大きくなり、Cube方位密度とR方位密度が小さくなり、0°方向の伸びが低くなった。また、No.30、31の比較例では、本実施形態の合金組成に係る要件を満たしているが、均質化温度が低いため、結晶粒が20μm以上と大きくなり、伸びが低くなった。No.32、33の比較例は、1.0質量%のFeを含み、平均結晶粒が20μmを超え、伸びが低くなった。
No.34~36の比較例は、2.8質量%のFeを含み、Cu方位密度が大きくなり、0°方向の伸び、45°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも少なくなった。
No.37の比較例は、0.10質量%超のSiを含み、平均結晶粒径が20μm以上となり、0°方向の伸びが少なくなった。これらの比較例はいずれも限界成型高さが7.0mm未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本実施形態のアルミニウム合金箔は、食品やリチウムイオン電池の包材として好適に適用される。
【符号の説明】
【0043】
1…アルミニウム合金箔、A…連続鋳造装置、3…タンディッシュ、5…ノズル、6…上ロール(搬送冷却手段)、7…下ロール(搬送冷却手段)、8…樋、10…アルミニウム合金鋳造板。