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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20230822BHJP
   B41J 19/18 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B41J2/01 303
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J19/18 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018161895
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020032639
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】桑山 剛
(72)【発明者】
【氏名】荒金 覚
(72)【発明者】
【氏名】川元 健司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥爾
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶子
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-001445(JP,A)
【文献】特開2010-131798(JP,A)
【文献】特開2011-041375(JP,A)
【文献】特開2010-284924(JP,A)
【文献】特開2010-184443(JP,A)
【文献】特開2016-137674(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0028660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するためのノズルを有するヘッドと、
前記ヘッドが搭載されたキャリッジと、
前記キャリッジを所定の走査方向に往復移動させるキャリッジモータと、
所定方向に沿って等間隔に指標が形成されたスケール、及び、前記スケールに形成された前記指標を検出するための検出部を有し、前記キャリッジの前記走査方向の移動に伴い、前記検出部が前記スケールに対して前記所定方向に沿って相対移動するエンコーダと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記キャリッジが前記走査方向に目標速度で移動するように、前記検出部の前記指標の検出結果により取得した前記キャリッジの速度に関する速度情報に基づいて前記キャリッジモータをフィードバック制御しつつ、当該キャリッジの移動中に、前記ヘッドの前記ノズルから被記録媒体に液体を吐出させる、記録処理を実行して、被記録媒体に画像を記録し、
前記記録処理の実行中において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が、前記目標速度よりも値が大きく且つ前記スケール上の異常に起因するオーバーシュート値よりも大きいオーバーシュート閾値を超えたときには前記記録処理の実行を中断し、
前記スケール上の異常領域に関する異常領域情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、
前記記録処理の実行中において、
前記検出部の前記スケール上の検出位置が、前記記憶部に記憶された前記異常領域情報の前記異常領域外にある期間において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が、前記目標速度よりも遅い下限閾値を下回ったときには前記記録処理の実行を中断し、
前記検出部の前記スケール上の検出位置が、前記記憶部に記憶された前記異常領域情報の前記異常領域内にある期間において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が前記下限閾値を下回ったときには、その後に、前記検出部の前記スケール上の検出位置が、当該異常領域を含む特定領域内にある期間において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が前記オーバーシュート閾値を超えた場合に、前記記録処理の実行を中断することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記キャリッジが前記走査方向に前記目標速度で移動するように、前記検出部の前記指標の検出結果により取得した前記速度情報に基づいて前記キャリッジモータをフィードバック制御し、且つ、当該キャリッジの移動中に、前記ヘッドの前記ノズルから液体を吐出しない測定処理を実行し、
前記測定処理の実行中に取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの最高速度に基づいて、前記オーバーシュート閾値を設定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、
一つの被記録媒体に対して画像を記録する際には、前記記録処理を複数回実行するものであり、且つ、
一つの被記録媒体に対して画像を記録する際の最初の所定回数の前記記録処理の実行中に取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの最高速度に基づいて、この後の前記記録処理の実行中に使用する前記オーバーシュート閾値を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記特定領域は、前記異常領域、及び、前記異常領域に対して、前記走査方向の一方の向きであって、前記記録処理において前記キャリッジが移動する向きの下流側において隣接する所定幅の領域、を含む領域であることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記キャリッジが前記走査方向に前記目標速度で移動するように、前記検出部の前記指標の検出結果により取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度に基づいて前記キャリッジモータをフィードバック制御し、且つ、当該キャリッジの移動中に、前記ヘッドの前記ノズルから液体を吐出しない測定処理を実行し、
前記測定処理の実行中に前記検出部により検出した前記指標の検出結果に基づいて、前記異常領域情報を生成して前記記憶部に記憶することを特徴とする請求項1又は4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記記録処理を実行する際の前記キャリッジの前記目標速度として、複数種類設定可能であり、
複数種類の前記目標速度毎に、前記オーバーシュート閾値を設定することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記スケールは、前記走査方向に沿って等間隔に前記指標が形成されており、
前記検出部は、前記キャリッジに搭載されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項8】
液体を吐出するためのノズルを有するヘッドと、
前記ヘッドが搭載されたキャリッジと、
前記キャリッジを所定の走査方向に往復移動させるキャリッジモータと、
所定方向に沿って等間隔に指標が形成されたスケール、及び、前記スケールに形成された前記指標を検出するための検出部を有し、前記キャリッジの前記走査方向の移動に伴い、前記検出部が前記スケールに対して前記所定方向に沿って相対移動するエンコーダと、
前記キャリッジモータに印加される電流値を検出する電流センサと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記キャリッジが前記走査方向に目標速度で移動するように、前記検出部の前記指標の検出結果により取得した速度情報が示す前記キャリッジの速度に応じた電流が前記キャリッジモータに印加されるようにフィードバック制御により前記キャリッジモータを駆動し、且つ、当該キャリッジの移動中に、前記ヘッドの前記ノズルから被記録媒体に液体を吐出させる記録処理を実行して、被記録媒体に画像を記録し、
前記記録処理の実行中において、前記電流センサが検出した電流値が、前記キャリッジが前記目標速度で移動中において当該電流センサにより検出される電流値よりも低く且つ前記スケール上の異常に起因するアンダーシュート値よりも低いアンダーシュート閾値を下回ったときに、前記記録処理の実行を中断し、
前記スケール上の異常領域に関する異常領域情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、
前記記録処理の実行中において、
前記検出部の前記スケール上の検出位置が、前記記憶部に記憶された前記異常領域情報の前記異常領域外にある期間において、前記電流センサが検出した電流値が、前記キャリッジが前記目標速度で移動中において当該電流センサにより検出される電流値よりも高い上限閾値を上回ったときには前記記録処理の実行を中断し、
前記検出部の前記スケール上の検出位置が、前記記憶部に記憶された前記異常領域情報の前記異常領域内にある期間において、前記電流センサが検出した電流値が前記上限閾値を上回ったときには、その後に、前記検出部の前記スケール上の検出位置が、当該異常領域を含む特定領域内にある期間において、前記電流センサが検出した電流値が前記アンダーシュート閾値を下回ったときに、前記記録処理の実行を中断することを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、記録装置の一例として、ヘッドを搭載したキャリッジを走査方向に移動させながら、ヘッドから用紙にインクを吐出させるシリアル式のインクジェットプリンタが開示されている。この特許文献1のインクジェットプリンタでは、リニアエンコーダにより検出されるキャリッジの速度と、キャリッジの目標速度との偏差に応じた電流値がキャリッジの駆動モータに印加されるように、フィードバック制御を伴って当該駆動モータを制御している。
【0003】
ところで、ヘッドから吐出されたインクを吸収して用紙が波打つ所謂コックリングや、インクの吸収による用紙のカール等の用紙の変形によって、キャリッジの移動中において用紙とヘッドとが接触して擦れる場合がある。そして、このような用紙とヘッドとの間で擦れが生じた後もキャリッジの移動を継続すると、ヘッドと用紙とが接触する状態と、接触しない非接触状態とが交互に繰り返される。その際に、ヘッドが損傷する虞がある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載されたインクジェットプリンタでは、キャリッジの駆動モータのフィードバック制御において、擦れによりキャリッジの速度が目標速度よりも遅れると、駆動モータに印加される電流値が通常よりも大きくなる事象を利用して、電流値が所定の閾値を超えた場合には、擦れが生じているとして、キャリッジを停止させて、印刷を中断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-184443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、キャリッジの速度を検出するリニアエンコーダは、通常、走査方向に沿って等間隔に指標が形成されたスケールと、キャリッジに搭載され、スケールに形成された指標を検出するための検出部とを有している。そして、リニアエンコーダは、キャリッジの移動中に、検出部がスケール上の指標を読み取ることで、キャリッジの速度を検出する。このようなリニアエンコーダにおいて、スケール上に汚れや傷が付く等の異常が生じると、検出部がスケール上の指標を正確に読み取ることが難しくなる。その結果として、リニアエンコーダにより検出されるキャリッジの速度が、実際の速度よりも遅くなる場合がある。この場合、特許文献1に記載されたインクジェットプリンタでは、リニアエンコーダにより検出されるキャリッジの速度が、スケール上の汚れにより目標速度よりも遅くなると、実際には擦れが生じていないにも関わらず、擦れが生じているとして、不必要に印刷が中断される可能性がある。
【0007】
また、キャリッジの速度を検出するエンコーダとして、上記リニアエンコーダの代わりにロータリーエンコーダが採用される場合がある。このロータリーエンコーダは、通常、キャリッジの駆動モータのモータ軸等に連結され、周方向に等間隔に指標が形成された円板状のスケールと、スケールに形成された指標を検出するための検出部とを有している。そして、ロータリーエンコーダは、キャリッジの移動中に回転するスケールの指標を検出部が読み取ることで、キャリッジの速度を検出する。このようなロータリーエンコーダにおいても、上記リニアエンコーダと同様に、スケール上に汚れや傷が付く等の異常が生じると、検出部がスケール上の指標を正確に読み取ることが難しくなる。その結果として、実際には擦れが生じていないにも関わらず、擦れが生じているとして、不必要に印刷が中断される可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、ヘッドが損傷することを抑制しつつ、画像の記録が不必要に中断されることを抑制することが可能な記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の記録装置は、液体を吐出するためのノズルを有するヘッドと、前記ヘッドが搭載されたキャリッジと、前記キャリッジを所定の走査方向に往復移動させるキャリッジモータと、所定方向に沿って等間隔に指標が形成されたスケール、及び、前記スケールに形成された前記指標を検出するための検出部を有し、前記キャリッジの前記走査方向の移動に伴い、前記検出部が前記スケールに対して前記所定方向に沿って相対移動するエンコーダと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記キャリッジが前記走査方向に目標速度で移動するように、前記検出部の前記指標の検出結果により取得した前記キャリッジの速度に関する速度情報に基づいて前記キャリッジモータをフィードバック制御しつつ、当該キャリッジの移動中に、前記ヘッドの前記ノズルから被記録媒体に液体を吐出させる、記録処理を実行して、被記録媒体に画像を記録し、前記記録処理の実行中において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が、前記目標速度よりも値が大きく且つ前記スケール上の異常に起因するオーバーシュート値よりも大きいオーバーシュート閾値を超えたときには前記記録処理の実行を中断する。そして、前記スケール上の異常領域に関する異常領域情報を記憶する記憶部をさらに備え、前記制御部は、前記記録処理の実行中において、前記検出部の前記スケール上の検出位置が、前記記憶部に記憶された前記異常領域情報の前記異常領域外にある期間において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が、前記目標速度よりも遅い下限閾値を下回ったときには前記記録処理の実行を中断し、前記検出部の前記スケール上の検出位置が、前記記憶部に記憶された前記異常領域情報の前記異常領域内にある期間において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が前記下限閾値を下回ったときには、その後に、前記検出部の前記スケール上の検出位置が、当該異常領域を含む特定領域内にある期間において、取得した前記速度情報が示す前記キャリッジの速度が前記オーバーシュート閾値を超えた場合に、前記記録処理の実行を中断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
制御部は、検出部の指標の検出結果により取得した速度情報が示すキャリッジの速度が目標速度よりも遅くなると、キャリッジの速度を目標速度にすべく、キャリッジモータを制御してキャリッジを加速するように応答する。この応答時において、キャリッジの速度が、目標速度よりもオーバーシュートする。
従って、キャリッジの移動中において被記録媒体とヘッドとが接触して、キャリッジの速度が目標速度よりも遅くなった場合も、その後、被記録媒体とヘッドとの接触が一時的に解除されたときに、キャリッジの速度が加速して、目標速度よりもオーバーシュートする。
ここで、本願発明者は、被記録媒体とヘッドとが接触したことに起因してキャリッジの速度が目標速度よりも遅くなったときに、目標速度に対してオーバーシュートするオーバーシュート量が、スケール上の異常等に起因してキャリッジの速度が目標速度よりも遅くなったときに、目標速度に対してオーバーシュートするオーバーシュート量よりも、多いことに気が付いた。
そこで、本発明では、記録処理の実行中において、検出部の指標の検出結果により取得したキャリッジの速度が、オーバーシュート閾値を超えたときに、被記録媒体とヘッドとの間で接触が生じているとして、記録処理の実行を中断する。これにより、被記録媒体とヘッドとの接触によりヘッドが損傷することを抑制しつつ、画像の記録が不必要に中断されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インクジェットプリンタの概略鉛直断面図である。
図2】インクジェットプリンタの概略平面図である。
図3】(a)はエンコーダのスケールと検出センサの配置を示す図であり、(b)は検出センサが透過領域と対向している状態を示す図であり、(c)は検出センサが非透過領域と対向している状態を示す図である。
図4】(a)はスケールに汚れが付着していない場合のパルス信号を示す図であり、(b)及び(c)はスケールに汚れが付着している場合のパルス信号を示す図である。
図5】プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
図6】検出センサの検出位置が異常領域外にあり、且つ用紙擦れが生じている場合の説明図であり、(a)はヘッドと用紙との関係を示す図であり、(b)は検出センサの検出結果に基づいて取得されるキャリッジ速度の挙動を示す図であり、(c)はキャリッジモータに印加される電流値の挙動を示す図である。
図7】検出センサの検出位置が異常領域内にあり、且つ用紙擦れが生じていない場合の説明図であり、(a)はヘッドと用紙との関係を示す図であり、(b)は検出センサの検出結果に基づいて取得されるキャリッジ速度の挙動を示す図であり、(c)はキャリッジモータに印加される電流値の挙動を示す図である。
図8】検出センサの検出位置が異常領域内にあり、且つ用紙擦れが生じている場合の説明図であり、(a)はヘッドと用紙との関係を示す図であり、(b)は検出センサの検出結果に基づいて取得されるキャリッジ速度の挙動を示す図であり、(c)はキャリッジモータに印加される電流値の挙動を示す図である。
図9】インクジェットプリンタの動作を示すフローチャートである。
図10】第1変形例に係るインクジェットプリンタの動作を示すフローチャートである。
図11】(a)は第1変形例に係るインクジェットプリンタの動作を示すフローチャートであり、(b)は第2変形例に係るインクジェットプリンタの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、記録装置として、インクジェットプリンタ1を例にして説明する。また、以下では、図1及び図2に示すように、互いに直交する、前後方向、左右方向、及び上下方向を規定して説明する。図1に示すように、プリンタ1は、給送部2、プリンタ部3、制御装置100等を備えている。
【0013】
給送部2は、被記録媒体である用紙Pが載置される給紙トレイ51と、給紙トレイ51の上方に設けられたピックアップローラ52を有する。ピックアップローラ52は、制御装置100による制御の下、給紙モータ53(図5参照)が駆動されると、給紙トレイ51から用紙Pを1枚ずつ取り出す。ピックアップローラ52によって取り出された用紙Pは、ガイド54に沿って送り出され、プリンタ部3に供給される。
【0014】
プリンタ部3は、図2に示すように、キャリッジ4、インクジェットヘッド5(以下、ヘッド5)、搬送機構6、リニアエンコーダ7(本発明の「エンコーダ」に相当)、キャップ8、フラッシング受け9等を備えている。キャリッジ4は、左右方向に延びた2本のガイドレール11,12に支持されている。2本のガイドレール11,12は、前後方向に互いに間隔をあけて配置されている。ガイドレール12の上面の、左右方向における両端部には、プーリ13,14が設けられている。プーリ13,14には、ゴム材料からなる無端状のベルト15が巻き掛けられている。キャリッジ4は、ベルト15のプーリ13とプーリ14との間に位置する部分に取り付けられている。また、右側のプーリ13には、キャリッジモータ16が接続されている。そして、キャリッジモータ16を正転及び逆転させると、プーリ13,14が回転することによってベルト15が走行し、キャリッジ4が左右方向を走査方向として往復移動する。このとき、左側のプーリ14は、ベルト15の走行に伴い回転する。
【0015】
ヘッド5は、キャリッジ4に搭載されており、キャリッジ4とともに走査方向に往復移動する。このヘッド5の下面は、インクを吐出するための複数のノズル10が形成されたノズル面10a(図1参照)である。また、ヘッド5は、複数のノズル10に連通するインク流路と、インク流路内のインクに圧力を付与して複数のノズル10からそれぞれインクを吐出させる複数の駆動素子を備えたアクチュエータとを備えている。アクチュエータは、特定の構成のものには限られないが、例えば、駆動素子として、圧電層の逆圧電効果による変形を利用してインクを加圧する圧電素子を有する、圧電アクチュエータを好適に採用できる。尚、駆動素子として、熱によってインク内に気泡を発生させるための発熱素子を採用してもよい。
【0016】
また、ヘッド5は、用紙Pに画像を印刷するために、一吐出周期内にノズル10から吐出可能なインクの吐出量(インク滴の体積)は4種類(大滴、中滴、小滴、非吐出)である。従って、用紙P上に形成されるドットによって表現可能なのは、インクの吐出量に応じた4段階の濃度である。このように、プリンタ1では、用紙P上に4階調の印刷を行うことできる。尚、吐出周期とは、走査方向解像度に対応する単位距離だけヘッド5が移動するのに要する時間である。
【0017】
搬送機構6は、プラテン41、及び、2つの搬送ローラ42,43を備えている。プラテン41は、キャリッジ4よりも下方、且つ、キャリッジ4と対向可能な位置に配置されている。プラテン41は、その左右方向の幅が、用紙Pの左右方向の幅よりも長く、印刷時に用紙Pを下側から支持する。
【0018】
2つの搬送ローラ42,43は、プラテン41を挟むように前後に配置されている。そして、2つの搬送ローラ42,43は、制御装置100による制御の下、搬送モータ37(図5参照)により同期して回転駆動され、給送部2から送られてきた用紙Pを、プラテン41の上方の、キャリッジ4と対向可能な領域A(図1参照:以下、対向領域A)に搬送する。尚、搬送ローラ42の回転軸には、搬送ローラ42の回転に応じたパルス信号を出力するロータリーエンコーダ40(図5参照)が設置されている。制御装置100は、このロータリーエンコーダ40からのパルス信号に基づいて、用紙Pの搬送を制御する。
【0019】
また、図1に示すように、搬送ローラ42,43よりも搬送方向上流側には、用紙センサ38が配置されている。この用紙センサ38は、用紙Pの搬送経路における、搬送ローラ42,43よりも搬送方向上流側位置を、検出位置として、当該検出位置に用紙Pが存在するか否かを検出する。制御装置100は、この用紙センサ38の検出結果、及び、搬送モータ37に対する制御内容に基づいて、用紙Pが対向領域Aに位置するか否かを判断する。具体的には、制御装置100は、用紙センサ38が用紙Pの先端を検知してからの、ロータリーエンコーダ40のパルス信号に基づいた搬送ローラ42,43による用紙Pの搬送量が、用紙センサ38の検出位置と対向領域Aとの間の距離と同じ量となった時点を、用紙Pの先端が対向領域Aに到達した第1時点とする。また、この第1時点からの、ロータリーエンコーダ40のパルス信号に基づいた搬送ローラ42,43による用紙Pの搬送量が、対向領域A(キャリッジ4)の搬送方向に関する長さ、及び、用紙Pの搬送方向に関する長さの合計量となった時点を、用紙Pの後端が対向領域Aから抜けた第2時点とする。そして、この第1時点から第2時点までの間、用紙Pが対向領域Aに位置していると判断する。
【0020】
また、搬送ローラ42,43よりも搬送方向下流側には、用紙センサ39が配置されている。この用紙センサ39は、用紙Pの搬送経路における、搬送ローラ42,43よりも搬送方向下流側位置を、検出位置として、当該検出位置に用紙Pが存在するか否かを検出する。また、制御装置100は、ロータリーエンコーダ40のパルス信号、及び用紙センサ38,39の検出結果に基づいて、用紙Pの詰り(ジャム)を判断する。具体的には、制御装置100は、用紙センサ38が用紙Pを検出した時点からカウントしたロータリーエンコーダ40のパルス信号のパルス数が、用紙センサ38,39間の搬送距離に相当する値に達したにもかかわらず、用紙センサ39が用紙Pを検出しなかった場合に、ジャムが生じたと判断する。
【0021】
リニアエンコーダ7は、透過型のリニアエンコーダであり、図2及び図3に示すように、スケール21と、検出センサ22(本発明の「検出部」に相当)とを有している。スケール21は、ガイドレール12の上面に配置され、キャリッジ4の移動可能範囲にわたって走査方向に延びている。また、スケール21には、図3(a)に示すように、透過領域21aと非透過領域21bとが走査方向に沿って交互に複数配置されている。透過領域21a各々の走査方向における領域幅は全て同じであり、非透過領域21b各々の走査方向における領域幅も全て同じである。つまり、スケール21上において、複数の透過領域21aは走査方向に沿って等間隔に形成されており、複数の非透過領域21bは走査方向に沿って等間隔に形成されている。また、透過領域21aは光を透過する領域である一方、非透過領域21bは光を透過しない領域である。
【0022】
検出センサ22は、キャリッジ4に搭載されており、発光素子26と受光素子27とを有している。発光素子26と受光素子27とは、前後方向において、スケール21を挟むように配置されている。発光素子26は、受光素子27に向けて光を照射する。受光素子27は、発光素子26から照射された光を受光する。そして、検出センサ22は、この発光素子26と受光素子27とで挟まれるスケール21上の位置を検出位置として、透過領域21a及び非透過領域21b(本発明の「指標」に相当)の検出を行う。
【0023】
具体的には、図3(b)に示すように、検出センサ22の検出位置が透過領域21aである場合には、発光素子26から照射された光は、透過領域21aを透過して受光素子27により受光される。一方で、図3(c)に示すように、検出センサ22の検出位置が非透過領域21bである場合には、発光素子26から照射された光は、非透過領域21bにより遮断されて、受光素子27には到達しない。このため、キャリッジ4が走査方向に移動することで、検出センサ22の検出位置が移動すると、受光素子27は、発光素子26からの光を受光する状態と、発光素子26からの光を受光しない状態とを交互に繰り返すことになる。
【0024】
図4(a)に示すように、検出センサ22は、受光素子27が発光素子26からの光を受光しないときに電位がV1となり、受光素子27が発光素子26からの光を受光するときに電位がV2(V2<V1)となるパルス信号を出力する。即ち、検出センサ22から出力されるパルス信号は、電位がV1のときは検出センサ22が非透過領域21bを検出していることを表し、電位がV2のときは検出センサ22が透過領域21aを検出していることを表している。詳細は後述するが、本実施形態では、制御装置100は、検出センサ22の検出結果に基づいて、キャリッジ4の速度(以下、キャリッジ速度Vcr:本発明の「速度情報」に相当)の取得等を行っている。
【0025】
図2に示すように、キャップ8は、プラテン41の右側に配置されており、これに対応して、プリンタ1では、キャリッジ4を、ノズル面10aがキャップ8と対向する待機位置まで移動可能となっている。キャップ8は、昇降機構(不図示)によって上下方向に移動させることが可能である。キャリッジ4が待機位置に位置づけられたときに、キャップ8を上方向に移動させてヘッド5に近づけると、キャップ8がノズル面10aに密着し、複数のノズル10がキャップ8で覆われる。尚、キャップ8がノズル面10aに密着することには限られず、例えば、ヘッド5が、ノズル面10aを取り囲むように配置されたフレームを有するものである場合に、キャップ8がこのフレームに密着することによってノズル10を覆ってもよい。尚、プリンタ1では、印刷を行われない場合には、キャリッジ4が待機位置に位置づけられて、複数のノズル10がキャップ8で覆われた状態にされる。これにより、ノズル10内のインクの乾燥が防止される。
【0026】
フラッシング受け9は、プラテン41の左側に配置されており、これに対応して、プリンタ1では、キャリッジ4を、ノズル面10aがフラッシング受け9と対向するフラッシング位置まで移動可能となっている。キャリッジ4がフラッシング位置に位置づけられたときに、各ノズル10からインクを吐出させることで、各ノズル10内で増粘したインクを排出する、フラッシングを行う。
【0027】
図5に示すように、制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、不揮発性メモリ104、発振回路105、ASIC(application specific integrated circuit)106等を含む。ROM102には、CPU101が実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAM103には、プログラム実行時に必要なデータ(画像データ等)が一時的に記憶される。不揮発性メモリ104(本発明の「記憶部」に相当)には、後述する異常領域情報等が記憶される。発振回路105は、予め定められた周波数のクロック信号を出力する。ASIC106には、ヘッド5、検出センサ22、キャリッジモータ16、搬送モータ37、用紙センサ38,39、タッチパネル99、通信インターフェース110等、プリンタ1の様々な装置あるいは駆動部と接続されている。
【0028】
尚、制御装置100は、CPU101のみが各種処理を行うものであってもよいし、ASIC106のみが各種処理を行うものであってもよいし、CPU101とASIC106とが協働して各種処理を行うものであってもよい。また、制御装置100は、1つのCPU101が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のCPU101が処理を分担して行うものであってもよい。また、制御装置100は、1つのASIC106が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のASIC106が処理を分担して行うものであってもよい。
【0029】
制御装置100は、ROM102に格納されたプログラムに従い、CPU101及びASIC106により各種処理を実行する。例えば、制御装置100は、通信インターフェース110を介して、PC等の外部装置200から印刷指示を受信したときに、ヘッド5、キャリッジモータ16、搬送モータ37等を制御して、RAM103に記憶された画像データに係る画像を用紙Pに印刷する印刷処理を実行する。
【0030】
具体的には、制御装置100は、印刷指示を受信すると、まず、RAM103に記憶された画像データに対して公知の誤差拡散処理(量子化処理)等の画像処理を行うことで、吐出データを生成する。この吐出データは、一吐出周期内にノズル10から吐出可能なインクの4種類の吐出量に対応した4階調のデータである。また、制御装置100は、ピックアップローラ52や搬送モータ37を制御して、給紙トレイ51から対向領域Aに向けて用紙Pを搬送する。その後、制御装置100は、用紙センサ38の検知結果等に基づいて用紙Pが対向領域Aに位置しているか否かを判断する。そして、用紙Pが対向領域Aに位置していると判断したときに、制御装置100は、生成した吐出データに係る印刷処理を開始する。この印刷処理では、制御装置100は、キャリッジ4の走査方向への1回の移動(パスともいう)の間に、吐出データに基づいてノズル10からインクを吐出させる記録処理と、搬送機構6により用紙Pを前方に所定量だけ搬送させる搬送処理とを交互に行う。
【0031】
尚、1回のパスを記録する記録処理において、制御装置100は、キャリッジ4が目標速度で定速移動するよう、キャリッジモータ16を駆動制御する。具体的には、制御装置100は、検出センサ22の検出結果に基づいて取得した現在のキャリッジ速度Vcrと、当該目標速度との偏差に基づくフィードバック制御により、キャリッジモータ16を駆動制御する。本実施形態では、制御装置100は、取得した現在のキャリッジ速度Vcrと、当該目標速度との偏差を打ち消すようにPID制御により、キャリッジモータ16を駆動制御する。
【0032】
従って、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅くなると、キャリッジ速度Vcrを目標速度にすべく、キャリッジモータ16を制御してキャリッジ4を加速するように応答する。このとき、キャリッジモータ16に印加される電流の電流値は、キャリッジ速度Vcrが目標速度のときの電流値(以下、通常電流値)よりも大きくなる。尚、この応答時において、キャリッジ速度Vcrは目標速度に収束することになるが、フィードバック制御の特性上、その過程において、キャリッジ速度Vcrが目標速度を超えるオーバーシュート(行き過ぎ)が発生する。
【0033】
一方で、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも速くなると、キャリッジ速度Vcrが目標速度まで低下するように応答する。このとき、キャリッジモータ16に印加される電流の電流値は、通常電流値よりも小さくなる。尚、キャリッジモータ16に印加される電流の電流値は、電流センサ55(図5参照)により測定されて、制御装置100に出力される。
【0034】
また、プリンタ1では、キャリッジ4の目標速度として、複数段の速度を設定可能にされている。制御装置100は、印刷指示(印刷指示に含まれる、用紙Pに印刷する画像の走査方向の解像度に関する指示等)に応じて、この複数段の速度のうちの何れか1つの速度を目標速度として設定して、記録処理中は、当該目標速度でキャリッジ4が定速移動するようキャリッジモータ16を制御する。
【0035】
ところで、用紙Pは、インクを吸収すると、コックリングやカール等の用紙変形が生じる。このような用紙変形が生じると、以後の記録処理の実行中に、図6(a)に示すように、用紙Pとヘッド5のノズル面10aとの間で擦れ(以下、用紙擦れ)が生じることがある。この用紙擦れが生じた状態で、キャリッジ4の移動を継続すると、ノズル面10aの損傷に起因したインクの吐出不良や、ジャム等の要因となる。
【0036】
そこで、制御装置100は、キャリッジ4を移動させる際に、キャリッジ4の現在の速度であるキャリッジ速度Vcrを取得し、このキャリッジ速度Vcrに基づいて用紙擦れが生じたか否かを判断する。そして、制御装置100は、用紙擦れが生じたと判断した場合には、キャリッジ4の移動を停止して記録処理の実行を中断する。以下、詳細に説明する。
【0037】
記録処理においては、先に触れたように、制御装置100が、キャリッジ4を目標速度で移動するように、キャリッジモータ16を制御する。この制御中においては、キャリッジ4は、モータ変動の影響は多少受けるものの、大よそ目標速度で移動する。しかしながら、上記用紙擦れが生じると、ノズル面10aと用紙Pとの間の摩擦力により、キャリッジ速度Vcrは目標速度よりも大きく低下する。従って、キャリッジモータ16の制御中に取得したキャリッジ速度Vcrが所定の閾値(以下、下限閾値)を下回ったときに、用紙擦れが生じたと判断することができる。尚、この下限閾値は、目標速度よりも遅い速度に対応する値であり、目標速度と下限閾値との差は、上記モータ変動による速度低下分よりも大きい。例えば、キャリッジ速度Vcrが、目標速度に対してモータ変動により5%前後は変動する場合には、下限閾値を、目標速度の90%の値に設定する。
【0038】
上記キャリッジ速度Vcrについては、下記の式1により算出することができる。尚、式1中において、Wは1つの非透過領域21bの走査方向の領域幅であり、Fは発振回路105から出力されるクロック信号の周波数である。また、CKは、検出センサ22が1つの非透過領域21bを検出している間に、発振回路105から出力されるクロック信号のクロック数である。
Vcr=W/(CK/F)・・・・(式1)
【0039】
上記式1において、領域幅W及び周波数Fは、予め定められている固定値であるため、クロック数CKを取得することでキャリッジ速度Vcrを算出することができる。そして、このクロック数CKについては、検出センサ22から出力されるパルス信号の電位が、V2からV1に立ち上がる時点から、V1からV2に立ち下がる時点までの期間、つまり、パルス信号の電位がV1に保持される期間(以下、V1保持期間ともいう)に、発振回路105から出力されるクロック信号のクロックをカウントすることで取得することができる。以上のようにして、キャリッジ4の移動中に、検出センサ22の検出結果に基づいてキャリッジ速度Vcrを取得することで、用紙擦れを判断することが可能となる。尚、キャリッジ速度Vcrの取得は、検出センサ22から出力されるパルス信号の電位がV1からV2に立ち下がる毎に実行される。
【0040】
ところで、スケール21は、その一部にインク汚れ等を要因とした異常が生じることがある。例えば、ジャムが生じた場合、ユーザにより詰まった用紙を除去する除去作業が行われるが、この除去作業の過程で、インクがスケール21上に付着して汚れることがある。このように、スケール21上に汚れ等が付着して異常が生じると、検出センサ22から出力されるパルス信号が、本来出力されるべきパルス信号と異なることで、この検出センサ22に基づいて取得するキャリッジ速度Vcrが、実際の速度よりも遅くなる場合がある。以下、具体的に説明する。
【0041】
汚れが付着した部分が非透過領域21bである場合には、非透過領域21bは、元々、光を遮断する領域であるため、非透過領域21b上の汚れにより、検出センサ22から出力されるパルス信号が、本来出力されるべきパルス信号と異なることはない。
【0042】
一方で、汚れが付着した部分が透過領域21aである場合、発光素子26から照射された光は、透過領域21aの汚れにより遮断されて、受光素子27に到達しない。その結果、この透過領域21aの汚れにより、検出センサ22から出力されるパルス信号が、本来出力されるべきパルス信号と異なることになる。
【0043】
例えば、図4(b)に示すように、透過領域21aにおいて、両隣の非透過領域21bのうちの何れか一方にのみつながる汚れが付着すると、検出センサ22の検出位置が、1つの非透過領域21bにある期間に加えて、検出位置が汚れ部分にある期間の間、電位がV1に保持されることになる。
【0044】
また、図4(c)に示すように、透過領域21aの全体に汚れが付着すると、検出センサ22の検出位置が、1つの非透過領域21bにある期間に加えて、1つの非透過領域、及び、汚れが付着した1つの透過領域21aにある期間の間、電位がV1に保持されることになる。
【0045】
以上のように、スケール21の透過領域21aに汚れが付着すると、電位がV1に保持されるV1保持期間が、検出センサ22の検出位置が1つの非透過領域21bにある期間よりも長くなる。その結果として、V1保持期間中に取得するクロック数CKは、検出センサ22の検出位置が1つの非透過領域21bにある期間にカウントされるクロック数よりも多くなる。つまり、上記式1におけるクロック数CKは、実際の値よりも大きくなる。一方で、上記式1において、非透過領域21bについての領域幅Wは固定値とされている。このため、クロック数CKが実際の値よりも多くなることで、式1を用いて算出されるキャリッジ速度Vcrが、実際の速度よりも遅くなる。その結果として、図7に示すように、用紙擦れが生じていないにも関わらず、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回ると、制御装置100は、用紙擦れが生じたと誤って判断することになる。これにより、記録処理が不要に中断されるため、プリンタ1の使い勝手が悪くなる。
【0046】
尚、詳細は後述するが、本実施形態では、スケール21上の異常により、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅い所定の閾値以下となるスケール21上の領域を、異常領域として設定する。制御装置100は、検出センサ22の検出位置が、スケール21上の当該異常領域外にあるときに、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合には、その要因が用紙擦れであると判断することができる。一方で、検出センサ22の検出位置がスケール21上の当該異常領域内にあるときに、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合には、用紙擦れが生じているか否かを判断することができない。
【0047】
ところで、キャリッジ4の移動中に用紙擦れが生じた後もキャリッジ4の移動を継続した場合、ヘッド5と用紙Pとが接触した状態が続くわけではなく、ヘッド5と用紙Pとが接触する状態と、接触しない非接触状態とが交互に繰り返される。従って、図6(b)及び図8(b)に示すように、用紙擦れが生じた後において、ヘッド5と用紙Pとの接触が一時的に解除されたときに、上記フィードバック制御により、キャリッジ速度Vcrを目標速度にすべくキャリッジモータ16が駆動されて、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりもオーバーシュートすることになる。
【0048】
同様に、スケール21上の異常に起因して、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回ったときにも、図7(b)に示すように、上記フィードバック制御により、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりもオーバーシュートすることになる。
【0049】
ここで、本願発明者は、用紙擦れに起因してキャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅くなったときに、目標速度に対してオーバーシュートするオーバーシュート量が、スケール21上の異常に起因してキャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅くなったときに、目標速度に対してオーバーシュートするオーバーシュート量よりも、多くなることに気が付いた。これは、スケール21上の異常が要因のときと、用紙擦れが要因のときとで、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも低下した際の挙動(キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも低い期間の長さや、その期間中のキャリッジ速度Vcrの値など)が異なることに由来するものと考えられる。
【0050】
従って、図7(b)及び図8(b)に示すように、検出センサ22の検出位置が異常領域内にあるときに、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合において、用紙擦れが生じているときには、用紙擦れが生じていないときと比べて、キャリッジ速度Vcrのオーバーシュート量は多くなる。つまり、オーバーシュート量の大きさによって、用紙擦れが生じているか否かを判断することが可能となる。尚、図8(b)に示すように、キャリッジ速度Vcrのオーバーシュートは、検出センサ22の検出位置が異常領域内にある期間、及び、当該異常領域に対して、記録処理におけるキャリッジ4の移動向きの下流側にある所定幅の隣接領域内にある期間に起こり得る。
【0051】
そこで、本実施形態では、上記の点に鑑みて、目標速度よりも大きい所定の閾値(以下、オーバーシュート閾値)を設定する。そして、制御装置100は、検出センサ22の検出位置が異常領域内にある期間において、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合、その時点では、記録処理の実行を中断しない。そして、制御装置100は、スケール21上における、当該異常領域、及び当該異常領域に対して、キャリッジ4の移動向きの下流側にある所定幅の隣接領域を含む領域を特定領域に設定する。例えば、現在実行中の記録処理におけるキャリッジ4の移動向きが右向きの場合、スケール21上における、当該異常領域と、当該異常領域に対して右側で隣接する所定幅分の隣接領域を含む領域を特定領域に設定する。そして、制御装置100は、検出センサ22の検出位置が特定領域内にあるときに、キャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を超えた場合には用紙擦れが生じているとして、記録処理の実行を中断する。
【0052】
また、スケール21上の上記隣接領域は、異常領域ではないため、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合には、用紙擦れが生じていると判断することができる。従って、検出センサ22の検出位置が隣接領域内にあるときにおいては、キャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値と下限閾値との間の範囲(以下、正常範囲)から外れた場合に、用紙擦れが生じているとして、記録処理の実行を中断する。
【0053】
ここで、上記用紙擦れが生じているか否かを精度良く判断する上では、上記スケール21上の異常領域、及び、オーバーシュート閾値を適切に設定することが求められる。そこで、本実施形態では、制御装置100は、外部装置200から印刷指示を受信した後、印刷処理を実行する前において、下記の測定処理を実行する。そして、この測定処理の実行中に取得した検出センサ22の検出結果に基づいて、スケール21上の異常領域に関する異常領域情報の生成、及び、オーバーシュート閾値の設定を行う。以下、具体的に説明する。
【0054】
制御装置100は、用紙Pが対向領域Aに位置していないと判断した場合に、測定処理を実行する。測定処理では、制御装置100は、印刷処理におけるキャリッジ4の目標速度と同じ速度を目標速度に設定して、キャリッジ4が走査方向に目標速度で定速移動するようにキャリッジモータ16をフィードバック制御する。このときのキャリッジ4の移動範囲は、待機位置からフラッシング位置までの範囲である。そして、このキャリッジ4の移動中における検出センサ22の検出結果に基づいて、スケール21上の異常領域に関する異常領域情報を生成する。以下、具体的に説明する。
【0055】
測定処理中においては、用紙Pは対向領域Aに位置していないため、キャリッジ速度Vcrが用紙擦れにより遅くなることはなく、キャリッジ4は設定された目標速度と略同じ速度で定速に移動することになる。従って、スケール21上に汚れが付着していない場合には、図4(a)に示すように、V1保持期間それぞれの長さは全て同じであり、且つ、検出センサ22が1つの非透過領域21bを検出している期間と同じとなる。このため、V1保持期間それぞれにおいて取得されるクロック数CKを上記式1に変数として代入して算出されるキャリッジ速度Vcrは、設定した目標速度と略同じとなる。
【0056】
一方で、図4(b)及び(c)に示すように、スケール21上の何れかの透過領域21aに非透過領域21bにつながる汚れが付着していた場合、スケール21上の、この透過領域21aの汚れ部分及び非透過領域21bの領域は異常領域となる。そして、検出センサ22の検出位置がこの異常領域内にあるときには、検出位置が異常領域外にあるときと比べて、V1保持期間は長くなり、このV1保持期間において取得されるクロック数CKも多くなる。このため、このクロック数CKを上記式1に変数として代入して算出されるキャリッジ速度Vcrは、設定した目標速度よりも遅くなる。そこで、制御装置100は、算出したキャリッジ速度Vcrが、所定の閾値よりも遅い領域を、異常領域に設定する。尚、上記閾値は、上記モータ変動等の外乱による誤差を考慮した分だけ、上記目標速度よりも遅い速度である。
【0057】
検出センサの現在の検出位置については、キャリッジ4の待機位置から検出センサ22により検出される非透過領域21bの数をカウントすることで取得する。不揮発性メモリ104には、キャリッジ4の待機位置からの、検出センサ22により検出される非透過領域21bの検出数を示すカウント値が記憶される。そして、制御装置100は、キャリッジ4が走査方向に沿って左方に移動する際に、検出センサ22により非透過領域21bが検出される(電位がV2からV1に立ち上がる)毎に、不揮発性メモリ104に記憶されたカウント値を1だけカウントアップする。一方で、制御装置100は、キャリッジ4が走査方向に沿って左方に移動する際に、検出センサ22により非透過領域21bが検出される毎に、不揮発性メモリ104に記憶されたカウント値を1だけカウントダウンする。これにより、検出センサ22の現在の検出位置を取得することができるため、異常領域のスケール21上の位置を把握することができる。以上のようにして、制御装置100は、スケール21上の異常領域及びその位置に関する異常領域情報を生成して不揮発性メモリ104に記憶する。
【0058】
尚、キャリッジ4が加減速して移動する際には、モータ変動が大きい等の理由によりキャリッジ速度Vcrが大きく変動するため、検出センサ22の検出結果に基づいて異常領域情報を生成した場合、その精度が低い場合がある。一方で、キャリッジ4が定速で移動するように制御している際には、キャリッジ速度Vcrの変動が小さい。このため、本実施形態のように、キャリッジ4が定速で移動するように制御して、検出センサ22の検出結果に基づいて異常領域情報を生成することで、その精度を向上させることができる。
【0059】
また、制御装置100は、測定処理の実行中において取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて、オーバーシュート閾値を設定する。上述したように、測定処理の実行中においては、用紙擦れは生じ得ない。このため、測定処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度は、用紙擦れが生じていないときの最高速度である。本実施形態では、ノイズ等を考慮して、取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度よりも数%高い値をオーバーシュート閾値に設定する。このようにオーバーシュート閾値を設定することで、記録処理中にキャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を超えた場合には、その要因が用紙擦れであると精度良く判断することができる。従って、用紙擦れが生じていないにも関わらず、記録処理の実行が不必要に中断されることを抑制することができる。変形例として、測定処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度をオーバーシュート閾値に設定してもよい。
【0060】
尚、オーバーシュート閾値は、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回っていない場合には、キャリッジ速度Vcrがオーバーシュートしたとしても当該オーバーシュート閾値を超えないような値である。つまり、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回ったときのみ、その後においてキャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を超える可能性がある。
【0061】
以下、プリンタ1の、一連の動作について、図9を参照しつつ説明する。尚、図9の動作フロー開始時において、キャリッジ4は待機位置に位置づけられており、且つ、対向領域Aを含む搬送経路上には用紙Pが存在しないものとする。
【0062】
図9に示すように、制御装置100は、外部装置200から印刷指示を受信したか否かを判断する(S1)。そして、印刷指示を受信していないと判断した場合(S1:NO)には、印刷指示を受信したと判断するまでS1の処理を繰り返す。一方で、印刷指示を受信したと判断した場合(S1:YES)には、制御装置100は、測定処理を実行する(S2)。具体的には、制御装置100は、印刷処理におけるキャリッジ4の目標速度と同じ速度を目標速度として、キャリッジ4を待機位置からフラッシング位置までキャリッジ4が定速で移動するようにキャリッジモータ16をフィードバック制御し、且つ、ヘッド5のノズル10からはインクを吐出させない。
【0063】
次に、制御装置100は、S2の測定処理の実行中における検出センサ22の検出結果に基づいて異常領域情報を生成して、不揮発性メモリ104に記憶する(S3)。続いて、制御装置100は、S2の測定処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて、オーバーシュート閾値を設定する(S4)。
【0064】
次に、制御装置100は、ヘッド5にフラッシングを行わせるフラッシング処理、及び、RAM103に記憶されている画像データから吐出データを生成する吐出データ生成処理を行う(S5)。そして、制御装置100は、ピックアップローラ52、搬送モータ37等を制御して、給紙トレイ51の用紙Pを対向領域Aまで搬送する(S6)。このS6の処理により用紙Pが対向領域Aに搬送されるため、制御装置100は、用紙Pが対向領域Aに位置したと判断する。
【0065】
続いて、制御装置100は、1パス分の印刷に係る記録処理を開始する(S7)。即ち、制御装置100は、キャリッジモータ16を制御してキャリッジ4の走査方向への移動を開始させ、且つ、ヘッド5を制御して吐出データに基づくノズル10からのインクの吐出を開始する。このキャリッジモータ16の制御中においては、検出センサ22による検出結果に基づいて、検出センサ22の検出位置、及び、キャリッジ速度Vcrの取得が逐次行われる。
【0066】
次に、制御装置100は、取得したキャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回ったか否かを判断する(S8)。そして、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回っていないと判断した場合(S8:NO)には、用紙擦れが生じていないとして、S18の処理に移る。一方で、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回ったと判断した場合(S8:YES)には、制御装置100は、不揮発性メモリ104の異常領域情報を参照して、キャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った時点における、検出センサ22の検出位置が異常領域内であるか否かを判断する(S9)。検出センサ22の検出位置が異常領域外であると判断した場合(S9:NO)には、制御装置100は、用紙擦れが生じているとして、S15の処理に移る。一方で、検出センサ22の検出位置が異常領域内であると判断した場合(S9:YES)には、制御装置100は、この時点では、記録処理の実行を中断せずに継続する。また、このとき、制御装置100は、当該異常領域、及び、当該異常領域に対してキャリッジ4の移動向きの下流側において隣接する隣接領域を含む領域を特定領域に設定する(S10)。
【0067】
この後、制御装置100は、検出センサ22の検出位置が、設定した特定領域の異常領域内にあるか否かを判断する(S11)。検出位置が異常領域内にあると判断した場合(S11:YES)には、制御装置100は、取得した現在のキャリッジ速度Vcrが設定したオーバーシュート閾値を超えたか否かを判断する(S12)。現在のキャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を超えていないと判断した場合(S12:NO)には、S11の処理に戻る。一方で、現在のキャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を超えたと判断した場合(S12:YES)には、制御装置100は、用紙擦れが生じているとして、S15の処理に移る。
【0068】
S11の処理で、検出センサ22の検出位置が、異常領域外にあると判断した場合(S11:NO)には、制御装置100は、検出センサ22の検出位置が、設定した特定領域の隣接領域内にあるか否かを判断する(S13)。検出位置が隣接領域外にあると判断した場合(S13:NO)には、制御装置100は、用紙擦れが生じていないとして、S18の処理に移る。一方で、検出位置が隣接領域内にあると判断した場合(S13:YES)には、制御装置100は、取得した現在のキャリッジ速度Vcrが、オーバーシュート閾値と下限閾値と間の正常範囲内にあるか否かを判断する(S14)。取得した現在のキャリッジ速度Vcrが正常範囲内にあると判断した場合(S14:YES)には、S13の処理に戻る。一方で、取得した現在のキャリッジ速度Vcrが正常範囲外にあると判断した場合(S14:NO)には、制御装置100は、用紙擦れが生じているとして、S15の処理に移る。
【0069】
S15の処理では、制御装置100は、キャリッジモータ16を制御して、キャリッジ4の移動を停止させて記録処理の実行を中断する。そして、制御装置100は、所定時間待機した後に、搬送モータ37を制御して、印刷した用紙Pを対向領域A内から排出する(S16)。ここで、用紙Pの変形理由が、用紙Pがインクを吸収したことに由来する場合、その状態でしばらく待機させておくと、用紙Pの浮き上がりがおさまり、結果として、用紙Pがヘッド5から離れる。従って、上記のように、用紙Pを対向領域Aから排出させる前に、所定時間だけ待機することで、用紙Pの排出時に、用紙Pとヘッド5との間で用紙擦れが生じることを抑制することができる。
【0070】
次に、制御装置100は、用紙Pの1枚当たりに吐出されるインクの吐出量が、先ほどの印刷処理で使用した吐出データよりも少なくなるように、同じ画像データから、吐出データを再度生成する(S17)。例えば、量子化処理における閾値を変更する等して、中滴や大滴のインクが吐出される比率を低くする一方で、小滴のインクが吐出される比率を多くする。この後、生成した吐出データに基づく印刷を新たな用紙Pで実行すべく、S6の処理に移る。このように、用紙Pの1枚当たりに吐出されるインクの吐出量が少ない吐出データに変更することで、再印刷中において、ノズル10から吐出されたインクにより用紙Pが変形する度合を抑えることができる。その結果として、再印刷中において、用紙擦れが生じることを抑制することができる。
【0071】
S18の処理では、制御装置100は、用紙擦れが生じていないとして、記録処理の実行を継続する。そして、制御装置100は、記録処理(1パス分の印刷)が終了したか否かを判断する(S19)。記録処理が終了していないと判断した場合(S19:NO)には、記録処理を継続すべく、S8の処理に戻る。一方で、記録処理が終了したと判断した場合(S19:YES)には、一枚の用紙Pへの印刷が終了したか否かを判断する(S20)。一枚の用紙Pへの印刷が終了していないと判断した場合(S20:NO)には、制御装置100は、搬送モータ37を制御して用紙Pを所定量だけ前方へ搬送し(S21)、次のパスの記録処理を実行すべく、S7の処理に移る。一方で、一枚の用紙Pへの印刷が終了したと判断した場合(S20:YES)には、制御装置100は、搬送モータ37を制御して、印刷した用紙Pを前方に搬送して対向領域A内から排出し(S22)、この後、受信した印刷指示に係る印刷が全て終了したか否かを判断する(S23)。印刷が全て終了したと判断した場合(S23:YES)には、制御装置100は、キャリッジモータ16を制御して、キャリッジ4を待機位置に移動させた後に、S1の処理に戻る。一方で、印刷が未だ終了していないと判断した場合(S23:NO)には、次の用紙Pの印刷を実行すべく、S6の処理に移る。
【0072】
以上、本実施形態によると、記録処理の実行中において、キャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を超えたときに、用紙擦れが生じているとして、記録処理の実行を中断する。これにより、用紙擦れによりヘッド5が損傷することを抑制しつつ、画像の記録が不必要に中断されることを抑制することができる。
【0073】
また、検出センサ22のスケール21上の検出位置が異常領域外にある期間において、取得したキャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合、その要因は、スケール21上の異常ではなく、用紙擦れであると判断することができる。従って、検出センサ22のスケール21上の検出位置が異常領域外にある期間において、取得したキャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回った場合には、記録処理の実行を中断する。これにより、キャリッジ速度Vcrが、その後、オーバーシュート閾値を超えたときに記録処理の実行を中断する場合と比べて、早期に、記録処理の実行を中断することができる。その結果として、ヘッド5が損傷することをより抑制することができる。
【0074】
また、印刷処理前に行うフラッシング処理のためのキャリッジ4の待機位置からフラッシング位置への移動が、測定処理におけるキャリッジの移動を兼ねているため、測定処理のためだけにキャリッジ4を新たに移動させる必要がない。
【0075】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。以下、上述の実施形態の変形例について説明する。
【0076】
まず、図10及び図11(a)を参照して、第1変形例について説明する。上述の実施形態では、印刷指示を受けてから印刷処理を開始するまでの印刷準備期間中に測定処理を実行していたが、本変形例では、当該印刷準備期間中以外のときにおいて、制御装置100が、所定の実行条件が成立したと判断したときに測定処理を実行する。具体的には、制御装置100は、ロータリーエンコーダ40のパルス信号、及び用紙センサ38,39の検出結果に基づいて、用紙Pのジャムが生じたと判断した場合に、実行条件が成立したとして、次の印刷処理を行う前に測定処理を実行する。また、制御装置100は、測定処理の前回実行時点から所定時間経過したと判断した場合に、実行条件が成立したとして、測定処理を実行する。
【0077】
また、本変形例では、測定処理は、キャリッジ4の目標速度を変えて複数回行われる。即ち、測定処理は、プリンタ1において設定可能な複数段の目標速度に対応して複数回行われる。これにより、プリンタ1において設定可能な複数段の目標速度毎に対応するオーバーシュート閾値を設定することが可能となる。このように測定処理を実行することで取得されたオーバーシュート閾値各々は、当該測定処理におけるキャリッジ4の目標速度と対応付けて不揮発性メモリ104に記憶される。
【0078】
また、一枚の用紙Pに画像を記録する際において、最初の所定回数の記録処理の実行中は、用紙Pに対して着弾したインクの量が少ないため、用紙Pが変形し難く、用紙擦れが生じる可能性は極めて低い。従って、最初の所定回数の記録処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度は、用紙擦れが生じていないときのキャリッジ速度Vcrの最高速度である可能性が高い。このため、最初の所定回数の記録処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて、これ以降の記録処理で使用するオーバーシュート閾値を設定することも可能である。加えて、測定処理から印刷処理を開始するまでの間に、何らかの要因によりスケール21上に異常が発生する可能性がある。このため、測定処理の実行中に取得した最高速度に基づいて設定したオーバーシュート閾値よりも、最初の所定回数の記録処理の実行中に取得した最高速度に基づいて設定したオーバーシュート閾値の方がより適切である可能性が高い。
【0079】
そこで、本変形例では、一枚の用紙Pに画像を記録する際の、最初の所定回数の記録処理(本変形例では3回の記録処理)については、上記測定処理によって設定されたオーバーシュート閾値を使用する。一方で、3回目以降の記録処理については、上記最初の3回の記録処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて設定したオーバーシュート閾値を使用する。
【0080】
以下、本変形例のプリンタ1の、一連の動作について説明する。まず、図10に示すように、制御装置100は、外部装置200から印刷指示を受信したか否かを判断する(A1)。そして、印刷指示を受信したと判断した場合(A1:YES)には、制御装置100は、上述のS5の処理と同様なA2の処理を実行する。この後、制御装置100は、不揮発性メモリ104から、今回の印刷処理におけるキャリッジ4の目標速度に対応するオーバーシュート閾値を抽出して、記録処理で使用するオーバーシュート閾値として設定する(A3)。そして、制御装置100は、上述のS6及びS7の処理と同様なA4及びA5の処理を実行する。
【0081】
この後、制御装置100は、取得したキャリッジ速度Vcrが下限閾値を下回ったか否かを判断する(A6)。下限閾値を下回ったと判断した場合(A6:YES)には、制御装置100は、上述のS9~S17の処理と同様なA7~A15の処理を実行する。一方で、下限閾値を下回っていないと判断した場合(A6:NO)には、制御装置100は、上述のS18~S20の処理と同様なA16~A18の処理を実行する。そして、A18の処理において、一枚の用紙Pへの印刷が終了したと判断した場合(S18:YES)には、上述のS22及びS23と同様なA22及びA23の処理を実行する。
【0082】
一方で、A18の処理において、一枚の用紙Pへの印刷が終了していないと判断した場合(A18:NO)には、制御装置100は、搬送モータ37を制御して用紙Pを所定量だけ前方へ搬送する(A19)。この後、制御装置100は、今回終了した記録処理が、1枚の用紙Pに対して行った3回目の記録処理であるか否かを判断する(A20)。3回目の記録処理ではないと判断した場合(A20:NO)には、制御装置100は、次の記録処理を行うべくA5の処理に戻る。一方で、3回目の記録処理であると判断した場合(A20:YES)には、制御装置100は、最初の3回の記録処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて、これ以降の記録処理で使用するオーバーシュート閾値を設定する(A21)。また、このとき設定したオーバーシュート閾値を、今回の印刷処理のキャリッジ速度Vcrの目標速度に対応するオーバーシュート閾値として、不揮発性メモリ104に記憶する。この後、制御装置100は、次の記録処理を行うべくA5の処理に戻る。
【0083】
A1の処理で、印刷処理を受信していないと判断した場合(A1:NO)には、図11(a)に示すように、制御装置100は、測定処理の実行条件が成立しているか否かを判断する(A24)。測定処理の実行条件が成立していないと判断した場合(A24:NO)には、A1の処理に戻る。一方で、測定処理の実行条件が成立したと判断した場合(A24:YES)には、制御装置100は、測定処理を、設定可能な目標速度毎に実行する(A25)。即ち、制御装置100は、キャリッジモータ16を制御して、設定可能な複数段の目標速度のうちのいずれか1つを目標速度として、キャリッジ4を定速で移動させ、且つ、ヘッド5のノズル10からはインクを吐出させない測定処理を、キャリッジ4の目標速度を変えて複数回行う。この後、制御装置100は、A25の測定処理の実行中における検出センサ22の検出結果に基づいて異常領域情報を生成して、不揮発性メモリ104に記憶する(A26)。次に、制御装置100は、A25の測定処理の実行中に取得した各目標速度に対応する最高速度に基づいて、目標速度毎にオーバーシュート閾値を設定して、不揮発性メモリ104に記憶し(A26)、A1の処理に戻る。
【0084】
以上、本変形例においては、印刷指示を受信してから印刷処理を開始するまでの印刷準備期間中に測定処理を実行する必要がないため、当該印刷準備期間が、測定処理を実行することで長くなることを抑制することができる。また、キャリッジ4の目標速度が異なれば、キャリッジ速度Vcrの挙動も異なることになるが、本変形例では、オーバーシュート閾値は目標速度毎に設定されるため、用紙擦れが生じていないにもかかわらず、記録処理が不要に中断される可能性を低減することができる。
【0085】
尚、本変形例において、一枚の用紙Pに画像を記録する際の全ての記録処理において、上記測定処理によって設定されたオーバーシュート閾値を使用するように構成してもよい。また、上述したように、最初の所定回数の記録処理の実行中は用紙擦れが生じる可能性は極めて低いため、記録処理の実行中に用紙擦れについての判断を行わなくてもよい。この場合、最初の所定回数の記録処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて、これ以降の記録処理で使用するオーバーシュート閾値を設定すればよいため、上記測定処理の実行中に取得したキャリッジ速度Vcrの最高速度に基づいて、オーバーシュート閾値を設定する必要はない。
【0086】
次に、図11(b)を参照して、第2変形例について説明する。先に少し触れたように、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも速くなると、図6(c)、図7(c)及び図8(c)に示すように、キャリッジモータ16に印加される電流の電流値は、通常電流値よりも小さくなる。そして、キャリッジ速度Vcrと目標速度との偏差が大きいほど、キャリッジモータ16に印加される電流の電流値と、通常電流値との差は大きくなる。
【0087】
また、上述したように用紙擦れに起因してキャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅くなったときに、目標速度に対してオーバーシュートするオーバーシュート量が、スケール21上の異常に起因してキャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅くなったときに、目標速度に対してオーバーシュートするオーバーシュート量よりも多くなる。このため、記録処理の実行中において、キャリッジモータ16に印加される電流量は、キャリッジ速度Vcrが用紙擦れに起因して目標速度に対してオーバーシュートしたときに、最も低下することになる。
【0088】
そこで、本変形例では、上記の点に鑑みて、通常電流値よりも小さい所定の閾値(以下、アンダーシュート閾値)を設定する。そして、制御装置100は、電流センサ55により検出される電流値がアンダーシュート閾値を下回った場合に、用紙擦れが生じたと判断して記録処理の実行を中断する。
【0089】
以下、本変形例のプリンタ1の、一連の動作について説明する。まず、図11(b)に示すように、制御装置100は、外部装置200から印刷指示を受信したか否かを判断する(B1)。そして、印刷指示を受信していないと判断した場合(B1:NO)には、印刷指示を受信したと判断するまでB1の処理を繰り返す。一方で、印刷指示を受信したと判断した場合(B1:YES)には、制御装置100は、上述のS2と同様なB2の処理を実行する。この後、制御装置100は、S2の測定処理の実行中に電流センサ55が検出した電流値の最低電流値に基づいて、アンダーシュート閾値を設定する(B3)。本変形例では、ノイズ等を考慮して、最低電流値よりも数%低い値をアンダーシュート閾値に設定する。続いて、制御装置100は、上述のS5~S7と同様なB4~B6の処理を実行する。
【0090】
そして、制御装置100は、電流センサ55が検出した電流値がアンダーシュート閾値を下回ったか否かを判断する(B7)。電流値がアンダーシュート閾値を下回ったと判断した場合(B7:YES)は、制御装置100は、用紙擦れが生じたとして、上述のS15~S17の処理と同様なB8~B10の処理を実行して、B5の処理に戻る。一方で、電流値がアンダーシュート閾値を下回っていないと判断した場合(B7:NO)には、制御装置100は、用紙擦れが生じていないとして、上述のS18~S23の処理と同様な、B11~B16の処理を実行する。
【0091】
以上、本変形例においては、記録処理の実行中において、電流センサ55が検出した電流値がアンダーシュート閾値を下回ったときに、用紙擦れが生じていたとして、記録処理の実行を中断する。これにより、用紙Pとヘッド5との接触によりヘッド5が損傷することを抑制しつつ、画像の記録が不必要に中断されることを抑制することができる。
【0092】
尚、先に触れたように、キャリッジ速度Vcrが目標速度よりも遅くなると、キャリッジモータ16に印加される電流の電流値は、通常電流値よりも大きくなる。従って、検出センサ22の検出位置が異常領域外にある期間において、キャリッジモータ16の制御中に電流センサ55が検出した電流値が所定の閾値(以下、上限閾値)を上回ったときに、用紙擦れが生じたと判断することができる。従って、制御装置100は、検出センサ22の検出位置が異常領域外にある期間において、電流センサ55が検出した電流値が上限閾値を上回ったときに、用紙擦れが生じたとして記録処理の実行を中断する。一方で、制御装置100は、検出センサ22の検出位置が異常領域内にある期間において、電流センサ55が検出した電流値が上限閾値を上回ったときには、その時点では、用紙擦れが生じているか否かを判断することができないため、記録処理の実行を中断しない。そして、検出センサ22の検出位置が上述の特定領域内にある期間において、電流センサ55が検出した電流値がアンダーシュート閾値を下回ったときに、用紙擦れが生じたとして記録処理の実行を中断してもよい。
【0093】
以下、その他の変形例について説明する。
【0094】
上述の実施形態では、制御装置100は、記録処理の実行を中断する際には、キャリッジ4の移動を停止させていたが、これに限定されるものではない。例えば、記録処理の実行を中断する際には、キャリッジモータ16を制御して、当該記録処理におけるキャリッジ4の移動向きとは逆向きにキャリッジ4を移動させてもよい。尚、用紙擦れが生じるまでは、ヘッド5と用紙Pとは接触していないため、記録処理におけるキャリッジ4の移動向きとは逆向きにキャリッジ4を移動させたとしても、ヘッド5と用紙Pとの間で用紙擦れが生じる可能性は低い。従って、このようにキャリッジ4を制御したとしても、ヘッド5が損傷等する可能性は低い。
【0095】
また、上述の実施形態では、不揮発性メモリ104に記憶された異常領域情報は、測定処理の実行中の検出センサ22の検出結果に基づいて生成されたものであったが、特にこれに限定されるものではない。例えば、スケール21上の異常を視認したユーザが、タッチパネル99を介して入力された情報であってもよい。また、スケール21上において経年により異常が発生しやすい箇所が予め決まっているのであれば、プリンタ1の使用期間毎の異常領域情報を予め不揮発性メモリ104に記憶する。そして、制御装置100は、記録処理を実行する際には、現在のプリンタ1の使用期間に応じた異常領域情報を不揮発性メモリ104から抽出してもよい。
【0096】
また、制御装置100は、検出センサ22の検出位置に関わらず、記録処理の実行中において、キャリッジ速度Vcrがオーバーシュート閾値を上回った場合にのみ、記録処理の実行を中断するように構成されていてもよい。また、オーバーシュート閾値は、固定値であってもよい。
【0097】
上述の実施形態では、検出センサ22は、リニアエンコーダ7の非透過領域21bを指標として検出するように構成されていたが、透過領域21aを指標として検出するように構成されていてもよい。また、リニアエンコーダ7がいわゆる透過型のリニアエンコーダであったが、特にこれには限られるものではなく、反射型のリニアエンコーダであってもよい。この場合、上述の非透過領域21bを、光を反射しない非反射領域に変え、透過領域21aを、光を反射する反射領域に変える。そして、検出センサ22の発光素子26及び受光素子27を共にスケール21の前方側又は後方側に配置することで、検出センサ22から上述の実施形態と同様な、パルス信号を出力することは可能である。さらに、エンコーダは、光学式以外のエンコーダであってもよく、例えば、磁気エンコーダを用いてもよい。この場合、上述の非透過領域21bを磁気を帯びた領域、透過領域21aを磁気を帯びていない領域にすればよい。
【0098】
また、キャリッジ速度Vcrを取得するためのエンコーダは、リニアエンコーダ7であったが、特にこれに限定されるものではなく、キャリッジ速度Vcrの走査方向の移動に伴い、検出部がスケールに対して相対移動するエンコーダであればよい。例えば、キャリッジモータ16の回転軸にロータリーエンコーダを設置し、このロータリーエンコーダの検出結果に基づいて、キャリッジ速度Vcrを取得してもよい。このロータリーエンコーダは、キャリッジモータ16の回転軸に連結され、周方向に等間隔に指標が形成された円板状のスケールと、スケールに形成された指標を検出するための検出部とを有している。そして、検出部は、キャリッジの移動中に回転するスケールの指標を検出して、その検出結果を制御装置に出力することで、制御装置は、キャリッジの速度を取得することができる。このようなロータリーエンコーダにおいても、上記リニアエンコーダと同様に、スケール上に汚れや傷が付く等の異常が生じる可能性はある。
【0099】
また、上述の実施形態では、検出センサ22の検出結果に基づいてキャリッジ速度Vcrを取得していたが、キャリッジ速度Vcr自体ではなく、キャリッジ速度Vcrに関する速度パラメータ値であってもよい。例えば、キャリッジ速度Vcrを算出するのではなく、V1保持期間中に取得したクロック数CKを速度パラメータ値として取得してもよい。この場合、速度パラメータ値は、キャリッジ4の速度が遅いほど大きくなる。
【0100】
また、上述の実施形態では、用紙擦れが生じたと判断した場合には、吐出データを変更することで、再印刷の際の、用紙P一枚当たりに吐出されるインクの吐出量を少なくしていたが、特にこれに限定されるものではない。例えば、ヘッド5のアクチュエータが備える駆動素子に対する駆動電圧を調整することで、インクの吐出量を少なくしてもよい。
【0101】
また、測定処理は、対向領域Aに用紙Pが存在しないと判断したときに行われるように構成されていたが、対向領域Aに用紙Pが存在すると判断しているときにおいても行われるように構成されていてもよい。対向領域Aに用紙Pが存在する場合でも、測定処理の実行は、ノズル10からインクが吐出されないため、対向領域Aに存在する用紙Pとヘッド5とが接触する可能性は極めて低い。従って、対向領域Aに用紙Pが存在する場合でも、異常領域情報及びオーバーシュート閾値を精度良く設定することができる。
【0102】
また、ノズルからインクを吐出して用紙に画像を記録するプリンタに本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。用紙P以外の被記録媒体に対して液体を吐出して画像を記録する記録装置に適用することも可能である。例えば、特開2017-144726号公報に記載されているように、被記録媒体が載置されたステージを搬送方向に移動可能となっており、キャリッジとともにヘッドを走査方向に移動させつつノズルからインクを吐出させる動作と、ステージの移動とを交互に繰り返すことによって被記録媒体に記録を行うプリンタに本発明を適用することも可能である。このようなプリンタにおける被記録媒体としては、例えば、Tシャツ、屋外用広告用のシート等が挙げられる。また、配線基板に対して、配線パターンの材料等のインク以外の液体を吐出して画像の記録を行う記録装置に適用することも可能である。また、スマートフォン等の携帯端末のケース、段ボール、樹脂等に対してインクを吐出して画像を記録する記録装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 プリンタ
4 キャリッジ
5 インクジェットヘッド
7 エンコーダ
21 スケール
21b 非透過領域
22 検出センサ
100 制御装置
101 CPU
104 不揮発性メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11