(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】位置推定装置および位置推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/10 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
G01S5/10 Z
(21)【出願番号】P 2019153569
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【氏名又は名称】大山 夏子
(74)【代理人】
【識別番号】100190942
【氏名又は名称】風間 竜司
(72)【発明者】
【氏名】菊池 典恭
(72)【発明者】
【氏名】中林 昭一
(72)【発明者】
【氏名】畑本 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】矢野 貴大
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-008780(JP,A)
【文献】特開2010-216811(JP,A)
【文献】特開2008-128726(JP,A)
【文献】特開昭52-154395(JP,A)
【文献】特開2007-256004(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178381(WO,A1)
【文献】実開昭49-082673(JP,U)
【文献】特開2000-221256(JP,A)
【文献】特開2018-087789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の固定局の各々において計算される時刻のカウンタ値を用いて端末の位置を推定する位置推定装置であって、
各固定局に端末から送信された第1の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第1のカウンタ値、および、各固定局に端末から送信された第2の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第2のカウンタ値を取得するカウンタ値取得部と、
2つの固定局の間での前記第1のカウンタ値の差分である第1の差分、および前記2つの固定局の間での前記第2のカウンタ値の差分である第2の差分を算出するカウンタ差分算出部と、
前記第1の差分から前記第2の差分への変化量である差分変化量を算出する差分変化量算出部と、
前記3以上の固定局のうちで2つの固定局の複数の組み合わせの各々について算出された複数の前記差分変化量、および前記3以上の固定局の位置に基づいて、前記端末の位置を推定する位置推定部と、
を備え、
前記位置推定部は、前記複数の差分変化量、前記3以上の固定局の位置に加えて、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末の位置である第1の位置に基づき、前記端末が前記第2の電波を送信した時点における前記端末の位置である第2の位置を推定し、
前記位置推定部は、
前記第1の位置として複数の仮位置を設定し、
前記複数の仮位置の各々に基づく推定により得られた複数の第2の位置の各々の尤度を評価し、
各第2の位置の推定に用いられた仮位置に、各第2の位置の尤度に応じた重み付けを行い、
重み付けされた前記複数の仮位置に基づき、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末のより確からしい位置を推定する、位置推定装置。
【請求項2】
前記位置推定部は、
前記2つの固定局の複数の組み合わせの各々について、2つの固定局の各々から前記第1の位置までの距離の差分である第1の距離差分と、当該2つの固定局の組み合わせについて算出された差分変化量に電波の伝搬速度を乗じて得られる距離との和を算出し、当該和が当該2つの固定局の各々から前記第2の位置までの距離の差分である第2の距離差分に等しいとする方程式を得て、
前記複数の組み合わせの各々について得られた複数の前記方程式を解くことで前記第2の位置を推定する、
請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
3以上の固定局の各々において計算される時刻のカウンタ値を用いて端末の位置を推定する位置推定装置において実行される位置推定方法であって、
各固定局に端末から送信された第1の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第1のカウンタ値、および、各固定局に端末から送信された第2の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第2のカウンタ値を取得することと、
2つの固定局の間での前記第1のカウンタ値の差分である第1の差分、および前記2つの固定局の間での前記第2のカウンタ値の差分である第2の差分を算出することと、
前記第1の差分から前記第2の差分への変化量である差分変化量を算出することと、
前記3以上の固定局のうちで2つの固定局の複数の組み合わせの各々について算出された複数の前記差分変化量、および前記3以上の固定局の位置に基づいて、前記端末の位置を推定することと、
を含み、
前記端末の位置を推定することは、前記複数の差分変化量、前記3以上の固定局の位置に加えて、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末の位置である第1の位置に基づき、前記端末が前記第2の電波を送信した時点における前記端末の位置である第2の位置を推定することを含み、
前記端末の位置を推定することは、
前記第1の位置として複数の仮位置を設定し、
前記複数の仮位置の各々に基づく推定により得られた複数の第2の位置の各々の尤度を評価し、
各第2の位置の推定に用いられた仮位置に、各第2の位置の尤度に応じた重み付けを行い、
重み付けされた前記複数の仮位置に基づき、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末のより確からしい位置を推定すること、を含む、位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定装置および位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様な測位方式が盛んに研究されている。測位方式の1つとして、端末が送信した電波が固定局に到来した時刻である到来時刻を利用するTOA(Time Of Arrival)が知られている。TOAでは、端末と固定局の双方が高精度なタイマー(クロック源)を有する場合に、高精度な測位が可能である。しかし、端末がスマートフォンのような汎用機であると想定すると、端末に高精度なタイマーを設けることは難しい。
【0003】
このため、他の測位方式として、各固定局への電波の到来時刻の差を利用するTDOA(Time Difference Of Arrival)も検討されている。TDOAでは、端末は電波を送信できればよく、端末が測位のための受信機能を有さなくてもよいので、端末に高精度なタイマーを設ける必要が無く、端末の製造が容易である。
【0004】
このような測位に関する技術は、例えば特許文献1~特許文献4にも開示されている。具体的には、特許文献1には、複数のセンサを有する装置が開示されており、装置は、移動局から送信された信号について各センサへの到来時間差を算出し、複数の信号での到来時間差を用いて移動局の測位を行う。特許文献2および特許文献3には、複数の固定局、基準局および移動局を有するシステムであって、各固定局が移動局からの信号と基準局からの信号を受信し、基準局からの信号によって時刻を同期した上で移動局の位置を確定するシステムが開示されている。特許文献4には、無線LANの信号を複数の固定局で受信し、各固定局が「ずれ観測値」をサーバに送信して、サーバがデータベースを構築する技術が開示されている。固定局は、移動局から信号を受信すると、データベースおよび各固定局の信号の到着時間の差に基づいて移動局の位置を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-198742号公報
【文献】国際公開第2016/178381号
【文献】国際公開第2017/204087号
【文献】特表2013-513786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、既存の測位方式には課題があった。例えば、TDOAを実現するためには、各固定局が高精度に時刻同期することが望ましいが、システム構成が大掛かりになってしまう。具体的には、クロック精度が高いルビジウムの発振器を用意し、発振器から全ての固定局に同期信号を供給すれば高精度な時刻同期を実現し得る。しかし、自動走行や交通のためにTDOAを利用する場面では、各固定局は数10m以上隔てて設置されることが一般的であり、全ての固定局をケーブルで接続して全ての固定局にケーブルを介して同期信号を供給することは現実的に難しい。以上を要すると、TDOAは、時刻同期の実現性に関して、技術的に不十分な側面があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、汎用的な発振器が用いられた場合にも十分な精度で位置を推定することが可能な、新規かつ改良された位置推定装置および位置推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、3以上の固定局の各々において計算される時刻のカウンタ値を用いて端末の位置を推定する位置推定装置であって、各固定局に端末から送信された第1の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第1のカウンタ値、および、各固定局に端末から送信された第2の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第2のカウンタ値を取得するカウンタ値取得部と、2つの固定局の間での前記第1のカウンタ値の差分である第1の差分、および前記2つの固定局の間での前記第2のカウンタ値の差分である第2の差分を算出するカウンタ差分算出部と、前記第1の差分から前記第2の差分への変化量である差分変化量を算出する差分変化量算出部と、前記3以上の固定局のうちで2つの固定局の複数の組み合わせの各々について算出された複数の前記差分変化量、および前記3以上の固定局の位置に基づいて、前記端末の位置を推定する位置推定部と、を備え、前記位置推定部は、前記複数の差分変化量、前記3以上の固定局の位置に加えて、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末の位置である第1の位置に基づき、前記端末が前記第2の電波を送信した時点における前記端末の位置である第2の位置を推定し、前記位置推定部は、前記第1の位置として複数の仮位置を設定し、前記複数の仮位置の各々に基づく推定により得られた複数の第2の位置の各々の尤度を評価し、各第2の位置の推定に用いられた仮位置に、各第2の位置の尤度に応じた重み付けを行い、重み付けされた前記複数の仮位置に基づき、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末のより確からしい位置を推定する、位置推定装置が提供される。
【0010】
前記位置推定部は、前記2つの固定局の複数の組み合わせの各々について、2つの固定局の各々から前記第1の位置までの距離の差分である第1の距離差分と、当該2つの固定局の組み合わせについて算出された差分変化量に電波の伝搬速度を乗じて得られる距離との和を算出し、当該和が当該2つの固定局の各々から前記第2の位置までの距離の差分である第2の距離差分に等しいとする方程式を得て、前記複数の組み合わせの各々について得られた複数の前記方程式を解くことで前記第2の位置を推定してもよい。
【0012】
前記位置推定部は、前記第1の位置として複数の仮位置を設定し、前記複数の仮位置の各々に基づく推定により得られた複数の第2の位置の各々の尤度を評価し、各第2の位置の推定に用いられた仮位置に、各第2の位置の尤度に応じた重み付けを行い、重み付けされた前記複数の仮位置に基づき、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末のより確からしい位置を推定してもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、3以上の固定局の各々において計算される時刻のカウンタ値を用いて端末の位置を推定する位置推定装置において実行される位置推定方法であって、各固定局に端末から送信された第1の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第1のカウンタ値、および、各固定局に端末から送信された第2の電波が到来した時点を示す各固定局において計算された第2のカウンタ値を取得することと、2つの固定局の間での前記第1のカウンタ値の差分である第1の差分、および前記2つの固定局の間での前記第2のカウンタ値の差分である第2の差分を算出することと、前記第1の差分から前記第2の差分への変化量である差分変化量を算出することと、前記3以上の固定局のうちで2つの固定局の複数の組み合わせの各々について算出された複数の前記差分変化量、および前記3以上の固定局の位置に基づいて、前記端末の位置を推定することと、を含み、前記端末の位置を推定することは、前記複数の差分変化量、前記3以上の固定局の位置に加えて、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末の位置である第1の位置に基づき、前記端末が前記第2の電波を送信した時点における前記端末の位置である第2の位置を推定することを含み、前記端末の位置を推定することは、前記第1の位置として複数の仮位置を設定し、前記複数の仮位置の各々に基づく推定により得られた複数の第2の位置の各々の尤度を評価し、各第2の位置の推定に用いられた仮位置に、各第2の位置の尤度に応じた重み付けを行い、重み付けされた前記複数の仮位置に基づき、前記端末が前記第1の電波を送信した時点における前記端末のより確からしい位置を推定すること、を含む、位置推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明した本発明によれば、汎用的な発振器が用いられた場合にも十分な精度で位置を推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態による位置推定システムの構成を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態による移動端末20の構成を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態による固定局10の構成を示す説明図である。
【
図4】固定局10および移動端末20の時刻tにおける配置例を示す説明図である。
【
図5】移動端末20からの第1の電波の送信を示す説明図である。
【
図6】移動端末20からの第2の電波の送信を示す説明図である。
【
図7】固定局10が処理例Aを実行する場合の動作を示すフローチャートである。
【
図10】固定局10が処理例Bを実行する場合の動作を示すフローチャートである。
【
図12】固定局10が処理例Cを実行する場合の動作を示すフローチャートである。
【
図13】固定局10のハードウェア構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、複数の構成要素の各々に同一符号のみを付する。
【0020】
<1.位置推定システムの概要>
本発明の一実施形態は、TDOAにおける「到来時刻の差」のさらに差を利用するDTDOA(Difference of TDOA)により移動端末の位置を推定するための位置推定システムに関する。まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態による位置推定システムの概要を説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態による位置推定システムの構成を示す説明図である。
図1に示したように、本発明の一実施形態による位置推定システムは、3以上の固定局10#1~10#3、および移動端末20を有する。
【0022】
固定局10は、固定の位置に設置された通信装置である。固定局10は、移動端末20から送信された電波を受信する。固定局10の各々では時刻のカウンタ値が計算されており、各固定局10は、移動端末20から電波が受信された時点を示すカウンタ値を特定する。また、固定局10は、他の固定局10と通信することも可能である。なお、本発明の一実施形態では、固定局10の各々で計算されるカウンタ値は同期されていなくてもよい。
【0023】
本発明の一実施形態による固定局10は、移動端末20の位置を推定する位置推定装置としての機能も包含する。ただし、固定局10とは別に位置推定装置が設けられてもよい。この場合、位置推定装置は、各固定局10とローカルで、またはネットワークを介して接続され、各固定局10からカウンタ値を収集し、当該カウンタ値を用いて後述する処理により移動端末20の位置を推定してもよい。
【0024】
移動端末20は、ユーザに携帯される端末の一例である。移動端末20は、無線通信機能を有し、各固定局10と通信する。移動端末20が有する無線通信機能は、無線LAN(Local Area Network)の通信機能であってもよいし、Bluetooth(登録商標)の通信機能であってもよい。
【0025】
このような位置推定システムにおいて、移動端末20が電波を周期的に送信し、移動端末20が送信した電波を各固定局10が受信する。固定局10は、移動端末20から送信された第1の電波が各固定局10に到来した時点を示す各固定局10において計算された第1のカウンタ値、および、移動端末20から送信された第2の電波が各固定局10に到来した時点を示す各固定局10において計算された第2のカウンタ値に基づき、移動端末20の位置を推定する。3以上の固定局10のうち、代表の固定局10のみが移動端末20の位置を推定してもよいし、複数の固定局10が移動端末20の位置を推定してもよい。一部の固定局10のみが移動端末20の位置を推定した場合には、位置を推定した固定局10が、位置の推定結果を他の固定局10に送信してもよい。
【0026】
当該位置推定システムは、例えば、交差点における車両の自動走行制御に用いられる。具体的には、歩行者が移動端末20を有し、信号機が固定局10として機能して移動端末20の位置を推定し、信号機が移動端末20の位置の推定結果を車両に送信し、車両が移動端末20の位置に基づいて自動走行を制御してもよい。以下、移動端末20および固定局10の構成をより具体的に説明する。
【0027】
<2.移動端末の構成>
図2は、本発明の一実施形態による移動端末20の構成を示す説明図である。
図2に示したように、移動端末20は、変位計算部210、送信指示部220および無線部230を有する。
【0028】
(変位計算部)
変位計算部210は、2つの時刻の間で移動端末20が変位した量および方向である変位ベクトルを計算する。例えば、変位計算部210は、加速度センサまたはジャイロスコープなどの動きセンサを有し、動きセンサにより得られる値に所定の処理を施すことにより、変位ベクトルを計算する。
【0029】
(送信指示部)
送信指示部220は、無線部230に電波の送信を指示する。本発明の一実施形態においては、送信指示部220は、例えば一定間隔でビーコンのような所定の電波の送信を無線部230に指示する。
【0030】
(無線部)
無線部230は、電波を送信するための無線通信機能を有する。例えば、無線部230は、デジタル信号処理部、アナログ信号処理部およびアンテナなどを有し、送信指示部220から指示されたタイミングでアンテナから電波を送信する。また、無線部230は、電波を受信するための無線通信機能を有してもよく、この場合、無線部230は、固定局10から移動端末20の位置の推定結果を受信することができる。
【0031】
<3.固定局の構成>
図3は、本発明の一実施形態による固定局10の構成を示す説明図である。
図3に示したように、固定局10は、無線部110、サンプリング部120、発振器130、カウンタ値計算部140、カウンタ値通信部150、カウンタ差分算出部160、差分変化量算出部170および位置推定部180を有する。
【0032】
(無線部)
無線部110は、移動端末20から送信された電波を受信する受信部として機能する。無線部110は、例えば、アンテナおよびデジタル信号処理部を有してもよい。無線部110は、移動端末20から受信した電波を電気的な受信信号に変換し、受信信号をサンプリング部120に出力する。
【0033】
(サンプリング部)
サンプリング部120は、無線部110から入力される受信信号を、アナログ形式からデジタル形式に変換するAD変換器である。サンプリング部120は、変換により得られたデジタル形式の受信信号をカウンタ値計算部140に出力する。
【0034】
(発振器)
発振器130は、クロック信号を生成し、クロック信号をカウンタ値計算部140に供給する。本発明の一実施形態においては、後述する理由により、発振器130が汎用的な発振器であっても、高精度に移動端末20の位置を推定することが可能となる。
【0035】
(カウンタ値計算部)
カウンタ値計算部140は、発振器130から供給されるクロック信号に基づき、カウンタ値のインクリメントを繰り返す。そして、カウンタ値計算部140は、サンプリング部120からデジタル形式の受信信号が入力されると、その時点でのカウンタ値を特定する。例えば、カウンタ値計算部140は、移動端末20から送信される電波がパケットである場合、無線パケットの先頭位置が検出された時点でのカウンタ値を特定する。
【0036】
ここで、本発明の一実施形態による移動端末20は複数回に亘って電波の送信を繰り返すところ、カウンタ値計算部140は、第1の電波についてのカウンタ値である第1のカウンタ値、および第2の電波についてのカウンタ値である第2のカウンタ値を特定する。すなわち、カウンタ値計算部140は、第1のカウンタ値および第2のカウンタ値を取得するカウンタ値取得部としての機能を有する。カウンタ値計算部140は、特定した第1のカウンタ値および第2のカウンタ値を、カウンタ値通信部150およびカウンタ差分算出部160に出力する。
【0037】
(カウンタ値通信部)
カウンタ値通信部150は、他の固定局10から、他の固定局10において特定された第1のカウンタ値および第2のカウンタ値を受信するカウンタ値取得部としての機能、および、カウンタ値計算部140により特定された第1のカウンタ値および第2のカウンタ値を他の固定局10に送信する機能を有する。なお、カウンタ値通信部150は、有線または無線で他の固定局10と通信してもよい。また、無線部110がカウンタ値通信部150の機能を包含し、無線部110が他の固定局10と通信してもよい。
【0038】
(カウンタ差分算出部)
カウンタ差分算出部160は、2つの固定局10の間での第1のカウンタ値の差分である第1の差分、および2つの固定局10の間での第2のカウンタ値の差分である第2の差分を算出する。例えば、固定局10#1のカウンタ差分算出部160は、固定局10#1において特定された第1のカウンタ値と、固定局10#2において特定された第1のカウンタ値との差分である第1の差分、および、固定局10#1において特定された第2のカウンタ値と、固定局10#2において特定された第2のカウンタ値との差分である第2の差分を算出する。カウンタ差分算出部160は、2つ固定局10の複数の組み合わせの各々について、第1の差分および第2の差分を算出する。
【0039】
(差分変化量算出部)
差分変化量算出部170は、2つ固定局10の複数の組み合わせの各々について、第1の差分から第2の差分への変化量である差分変化量を算出する。例えば、固定局10#1の差分変化量算出部170は、固定局10#1および固定局10#2の組み合わせに関して算出された第2の差分から第1の差分を減算して、固定局10#1および固定局10#2の組み合わせについての差分変化量を得る。また、固定局10#1の差分変化量算出部170は、固定局10#1および固定局10#3の組み合わせに関して算出された第2の差分から第1の差分を減算して、固定局10#1および固定局10#3の組み合わせについての差分変化量を得る。
【0040】
(位置推定部)
位置推定部180は、差分変化量算出部170により算出された複数の差分変化量、および3以上の固定局の位置などに基づき、移動端末20の位置を推定する。位置推定部180は、複数の差分変化量を用いる多様な方法の処理により、移動端末20の位置を推定することが可能である。以下、幾つかの処理を具体的に説明する。
【0041】
<4.処理例A>
まず、本発明の一実施形態による位置推定の処理例Aを説明する。処理例Aは、ある時刻tにおいて移動端末20の位置が得られる場合に適用可能な処理例である。時刻tにおける移動端末20の位置(第1の位置)は、例えば、ランドマークを利用した測位、または、一部の狭い範囲に対応するレーザレンジファインダを利用した測位により得られる。
【0042】
なお、説明の便宜上、固定局10の台数が3台であり、移動端末20の2次元位置を推定する例を説明するが、固定局10の台数は4台以上であってもよく、その場合、移動端末20の3次元位置を推定可能である。また、各固定局10の位置は既知であるものとする。以下では、上記の通り時刻tにおける移動端末20の位置も既知であり、それ以降の時刻(時刻t+k)における移動端末20の位置を推定する例を説明する。
【0043】
(理論)
図4は、固定局10および移動端末20の時刻tにおける配置例を示す説明図である。
図4および以降の図面においては、図面の明瞭性の観点から、固定局10#1を四角印(1)で示し、固定局10#2を四角印(2)で示し、固定局10#3を四角印(3)で示し、移動端末20を丸印で示している。時刻tにおける固定局10および移動端末20の位置は、
図4に示したようにX座標値およびY座標値で表現される。
【0044】
図5は、移動端末20からの第1の電波の送信を示す説明図である。ここでは、移動端末20が第1の電波を絶対時刻tで送信すると考える。絶対時刻tにおける固定局10#1のカウンタ値をc1
t、絶対時刻tにおける固定局10#2のカウンタ値をc2
tとする。ただし、各固定局10は、絶対時刻tにおいてはカウンタ値c1
tおよびc2
tを直接的に認識することはできない。第1の電波は、絶対時刻tから到来時間が経過した後に各固定局10に到来するからである。具体的には、
図5に示したように、第1の電波は、到来時間f1
tが経過した後に固定局10#1に到来し、到来時間f2
tが経過した後に固定局10#2に到来する。従って、固定局10#1および固定局10#2に第1の電波が到来した時点で固定局10#1および固定局10#2において取得されるカウンタ値をcf1
tおよびcf2
tとすれば、cf1
tおよびcf2
tは以下の式(1)および(2)のように表現される。なお、cf1
tおよびcf2
tは、上述した第1のカウンタ値に相当する。
【0045】
【0046】
ここで、到来時間であるf1tおよびf2tは、幾何学的に以下の式(3)および(4)のように表現される。なお、パラメータcは光速である。
【0047】
【0048】
処理例Aの前提として、絶対時刻tにおける移動端末20の位置(xt,yt)が既知であるため、式(3)および(4)に(xt,yt)および各固定局10の位置を代入することにより、f1tおよびf2tを算出することができる。
【0049】
次に、時間kが経過し、移動端末20が絶対時刻t+kに第2の電波を送信すると考える。
図6は、移動端末20からの第2の電波の送信を示す説明図である。絶対時刻t+kにおける固定局10#1のカウンタ値をc1
t+k、絶対時刻t+kにおける固定局10#2のカウンタ値をc2
t+kとすれば、カウンタ値c1
t+kおよびc2
t+kは、式(5)および(6)のように表現される。ただし、各固定局10は、カウンタ値c1
tおよびc2
tと同様に、絶対時刻t+kにおいてはカウンタ値c1
t+kおよびc2
t+kを直接的に認識することはできない。
【0050】
【0051】
第2の電波は、到来時間が経過した後に各固定局10に到来する。具体的には、
図6に示したように、第2の電波は、到来時間f1
t+kが経過した後に固定局10#1に到来し、到来時間f2
t+kが経過した後に固定局10#2に到来する。このため、固定局10#1および固定局10#2に第2の電波が到来した時点で固定局10#1および固定局10#2において取得されるカウンタ値をcf1
t+kおよびcf2
t+kとすれば、cf1
t+kおよびcf2
t+kは、式(5)および(6)を利用して、以下の式(7)および(8)のように表現される。なお、cf1
t+kおよびcf2
t+kは、上述した第2のカウンタ値に相当する。
【0052】
【0053】
到来時間であるf1t+kおよびf2t+kは、幾何学的に以下の式(9)および(10)のように表現される。
【0054】
【0055】
ここで、cf1tおよびcf2tの差分は上述した第1の差分に相当し、cf1t+kおよびcf2t+kの差分は第2の差分に相当する。そして、第1の差分から第2の差分への変化量である差分変化量は、以下の式(11)の左辺のように表現され、式(11)の左辺に式(1)、(2)、(7)および(8)を代入することにより、式(11)の右辺が得られる。
【0056】
【0057】
差分変化量、すなわち式(11)の左辺を構成する項は、全てカウンタ値計算部140またはカウンタ値通信部150により取得されるカウンタ値である。このため、差分変化量は具体的に特定可能な値であり、式(12)に示すように差分変化量をαとおき、式(11)を整理すれば、式(13)が得られる。
【0058】
【0059】
さらに、式(3)、(4)、(9)および(10)を用いて式(13)を書き換えると、式(14)が得られる。なお、式(14)におけるα’は、差分変化量αと電波の伝搬速度cとの乗算式と、固定局10#1および固定局10#2の各々から絶対時刻tにおける移動端末20の位置までの距離の差分である第1の距離差分との和である。当該α’は、各固定局10の既知の位置などを用いて具体的に特定可能な値である。一方、式(14)の左辺は、固定局10#1および固定局10#2の各々から絶対時刻t+kにおける移動端末20の位置までの距離の差分である第2の距離差分に相当する。
【0060】
【0061】
同様に、固定局10#1および固定局10#3との組み合わせに関して計算を行うと、式(15)が得られる。
【0062】
【0063】
式(14)および(15)の未知数は2つである。このため、位置推定部180は、式(14)および(15)からなる連立方程式を解くことで、移動端末20の絶対時刻t+kにおける位置(第2の位置)の推定結果を得ることができる。
【0064】
ただし、実際には誤差の影響により、式(14)および(15)からは移動端末20の位置が一意に定まらない場合もある。このため、位置推定部180は、2つの固定局10の他の組み合わせでも同様に方程式を作成し、全ての方程式に最もフィットする位置、すなわち、最も尤度が高い位置を移動端末20の絶対時刻t+kにおける位置として推定してもよい。
【0065】
(動作)
以上、処理例Aの理論を説明した。続いて、
図7を参照し、固定局10が処理例Aを実行する場合の動作を整理する。
【0066】
図7は、固定局10が処理例Aを実行する場合の動作を示すフローチャートである。
図7に示したように、まず、固定局10の無線部110が移動端末20から電波を受信すると(S304)、カウンタ値計算部140が第1のカウンタ値cf1
tを算出する(S308)。さらに無線部110が移動端末20から電波を受信すると(S312)、カウンタ値計算部140が第2のカウンタ値cf1
t+kを算出する(S316)。そして、カウンタ値通信部150が、他の固定局10から第1のカウンタ値および第2のカウンタ値を収集する(S320)。
【0067】
その後、固定局10は、2つの固定局10の複数の組み合わせについて、S324~S332の演算を実行する。すなわち、固定局10のカウンタ差分算出部160が、2つの固定局10の第1のカウンタ値の差分である第1の差分(例えば、cf1t-cf2t)、および2つの固定局10の第2のカウンタ値の差分である第2の差分(例えば、cf1t+k-cf2t+k)を算出する(S324、S328)。当該演算は、式(12)の左辺の各項内の演算に相当する。そして、差分変化量算出部170が、第1の差分から第2の差分への変化量である差分変化量αを算出する(S332)。当該演算は、式(12)の左辺全体の演算に相当する。
【0068】
2つの固定局10の複数の組み合わせについてS324~S332の演算が実行され、2つの固定局10の複数の組み合わせの各々について差分変化量が算出されると、位置推定部180は、複数の差分変化量および各固定局10の位置に基づいて、固定局10の絶対時刻t+kにおける位置を推定する(S336)。具体的には、位置推定部180は、式(14)および式(15)を含む連列方程式を解くことで、絶対時刻t+kにおける移動端末20の位置の推定結果を得る。
【0069】
(作用効果)
各固定局10で得られるカウンタ値は通常では連続で動作するので、カウンタ値には累積的に誤差が蓄積する。このため、カウンタ値そのものを用いて移動端末20の位置を推定しようとすると、カウンタ値に累積した誤差により精度が劣化する。これに対し、上述した処理例Aでは、各固定局10で得られたカウンタ値そのものでなく、式(12)で示される差分変化量αを用いて移動端末20の位置が推定される。差分変化量αも、絶対時刻tから絶対時刻t+kの間にカウンタ値に累積する誤差の影響を受けるが、時間kが十分に小さい条件であれば、絶対時刻tから絶対時刻t+kの間にカウンタ値に累積する誤差は微小である。従って、処理例Aでは、カウンタ値がずれ難い高精度な発振器でなく、汎用的な発振器を用いても、移動端末20の位置を高精度に推定することが可能である。
【0070】
<5.処理例B>
次に、位置推定の処理例Bを説明する。処理例Bは、統計的な手法を利用することにより、ある時刻tにおける移動端末20の位置が未知である場合にも適用可能な処理例である。ここでは、統計的な手法としてパーティクルフィルタを用いる手法を説明する。
【0071】
(理論)
図8は、パーティクルの配置例を示す説明図である。
図8には、3台の固定局10、および移動端末20の仮位置である5個のパーティクルが示されている。パーティクルの数が多いほど位置の推定精度は向上するが、説明の便宜上、パーティクルの数を5個としている。
【0072】
各パーティクルは、x座標、y座標および重みwをパラメータとして有する。位置推定部180は、各パーティクルのx座標およびy座標の初期値をランダムに設定し、重みwの初期値を、1を全パーティクル数で除算して得られる値(ここでは、1/5)に設定する。また、位置推定部180は、各時刻で、全パーティクルの重みの合計が1になるように、各パーティクルの重みを正規化する。
【0073】
移動端末20が第1の電波を送信した絶対時刻tにおける移動端末20の端末の座標は、各パーティクルの座標を利用して、式(16)および(17)のように示される。
【0074】
【0075】
パーティクル1に関して、処理例Aと同じように固定局10#1と固定局10#2に着目すると、式(18)が得られる。
【0076】
【0077】
また、固定局10#1と固定局10#3に着目すると、式(19)が得られる。
【0078】
【0079】
さらに、固定局10#2と固定局10#3に着目すると、式(20)が得られる。
【0080】
【0081】
式(18)、(19)および(20)に基づき、式(18)、(19)および(20)を満たす(x1t+k, y1t+k)を求めることを考える。未知数は2つであり、式は3つであるので、誤差が無ければ3つの式を満たす(x1t+k, y1t+k)が一意に定まる。しかし、実際には誤差があるので、位置推定部180は、3つの式に最もフィットする(x1t+k, y1t+k)を第2の位置として計算し、計算された(x1t+k, y1t+k)の尤度を評価し、尤度を示す評価値をパーティクルの重みに反映させる。
【0082】
例えば、位置推定部180は、式(18)および(19)の2つの式からなる連立方程式を解き、(x1’t+k, y1’t+k)を求める。ここで、式(21)に示すように、式(20)の左辺をmとおく。
【0083】
【0084】
誤差eが生じることを考慮すれば、式(20)は、式(21)を用いて式(22)のように表現される。
【0085】
【0086】
なお、式(22)におけるmは、(x1’
t+k, y1’
t+k)を式(21)に代入することで求められる。γ’は、処理例Aで説明したαおよびα’と同様に、具体的な値として特定される。ここで、誤差eが正規分布に従う誤差であると仮定すると、
図9に示す関係でm、γ’およびeを表すことができる。
【0087】
図9は、誤差eの分布例を示す説明図である。
図9の縦軸は、パーティクルの尤度を示す評価値である。誤差eが0の場合、すなわち、mおよびγ’が一致している場合には、注目しているパーティクル1の信頼度が高く、評価値は1となる。誤差eがある場合、評価値は
図9に示したzとなる。位置推定部180は、このように特定される評価値zを用いて、式(23)に示すように、パーティクル1の重みwを更新する。
【0088】
【0089】
位置推定部180は、上述した手順で、他のパーティクル2~5についても重みwを更新する。全てのパーティクルの重みwが更新された後、位置推定部180は、全てのパーティクルの重みwの合計が1になるように各パーティクルの重みを正規化する。例えば、位置推定部180は、パーティクル1の重みwを式(24)に示すように正規化する。
【0090】
【0091】
そして、位置推定部180は、各パーティクルの重みwの正規化が終わった後に、式(16)および(17)を計算することで、絶対時刻tにおける移動端末20のより確からしい位置を推定することが可能である。
【0092】
なお、位置推定部180は、一般的なパーティクルフィルタの計算手順に倣い、重みwが十分に小さくなってしまったパーティクルにはリサンプルを実施してもよい。すなわち、位置推定部180は、該当のパーティクルを削除し、(xt、yt)に対して、正規分布などに従った外乱を加えた新たな座標に、パーティクルを再配置してもよい。
【0093】
(動作)
以上、処理例Bの理論を説明した。続いて、
図10を参照し、固定局10が処理例Bを実行する場合の動作を整理する。
【0094】
図10は、固定局10が処理例Bを実行する場合の動作を示すフローチャートである。
図10に示したように、固定局10は、まず、
図7を参照して説明したS304~S332の処理を行い、複数の差分変化量を算出する(S300)。そして、位置推定部180は、
図8を参照して説明したように複数のパーティクルを配置する(S404)。
【0095】
その後、位置推定部180は、各パーティクルについてS408~S416に示す処理を実行する。すなわち、位置推定部180は、2つの固定局10の2つの組み合わせで算出された差分変化量に関する方程式(式(18)および(19))に最もフィットする位置を移動端末20の第2の位置として算出する(S408)。そして、位置推定部180は、算出された位置の尤度を例えば
図9を参照して説明した方法で評価し(S412)、得られた評価値を用いてパーティクルの重みを更新する(S416)。
【0096】
全てのパーティクルの重みが更新された後、位置推定部180は、全てのパーティクルの重みの合計が1になるように各パーティクルの重みを正規化する(S420)。その後、位置推定部180は、各パーティクルの位置および重みに基づいて、例えば式(16)および(17)を計算することで、絶対時刻tにおける移動端末20のより確からしい位置を推定する(S424)。位置推定部180は、さらにその後に、絶対時刻tにおける移動端末20のより確からしい位置を用いて処理例Aを実行することで、絶対時刻t+kにおける移動端末20の位置を推定することも可能である。
【0097】
(作用効果)
以上説明した処理例Bでも、処理例Aと同様に、各固定局10で得られたカウンタ値そのものでなく、差分変化量に基づいて移動端末20の位置が推定される。従って、処理例Bによれば、移動端末20の既知の位置が無くても、汎用的な発振器を用いて移動端末20の位置を高精度に推定することが可能である。なお、上記では、差分変化量および統計的な手法の一例としてパーティクルフィルタを用いる手法を説明したが、差分変化量および他の統計的な手法を用いて移動端末20の位置を推定することも可能である。
【0098】
<6.処理例C>
次に、位置推定の処理例Cを説明する。処理例Cは、固定局10において、移動端末20で計算される変位ベクトルを用いることにより、ある時刻tにおける移動端末20の位置が未知である場合にも適用可能な処理例である。
【0099】
(理論)
移動端末20が絶対時刻tに第1の電波を送信し、絶対時刻tのk時間後である絶対時刻t+kに第2の電波を送信する。このとき、絶対時刻t+kにおける移動端末20のx座標およびy座標は、絶対時刻tにおける移動端末20のx座標およびy座標、および絶対時刻tから絶対時刻t+kまでの移動端末20の変位ベクトル(vx
t、vy
t)を用いて、
図11に示すように以下の式(25)および(26)のように表現される。
【0100】
【0101】
固定局10#1および固定局10#2の組み合わせに注目して、式(25)および(26)を式(9)に代入すると式(27)が得られ、式(25)および(26)を式(10)に代入すると式(28)が得られる。
【0102】
【0103】
式(9)、(10)、(27)および(28)を式(13)に代入することで、式(29)が得られる。
【0104】
【0105】
次に、固定局10#1および固定局10#3の組み合わせに注目して同様の計算をすることで、式(30)が得られる。
【0106】
【0107】
式(29)および(30)において、未知数は絶対時刻tにおける移動端末20のx座標およびy座標の2つであるので、式(29)および(30)からなる連立方程式を解くことで、絶対時刻tにおける移動端末20のx座標およびy座標を推定することが可能である。
【0108】
(動作)
以上、処理例Cの理論を説明した。続いて、
図12を参照し、固定局10が処理例Cを実行する場合の動作を整理する。
【0109】
図12は、固定局10が処理例Cを実行する場合の動作を示すフローチャートである。
図12に示したように、固定局10は、まず、
図7を参照して説明したS304~S332の処理を行い、複数の差分変化量を算出する(S300)。
【0110】
その後、位置推定部180は、各固定局10の位置、複数の差分変化量、および移動端末20の変位ベクトルを用いて、例えば式(29)および(30)からなる連立方程式を解き、絶対時刻tにおける移動端末20の位置(x座標およびy座標)を推定する(S500)。変位ベクトルは、移動端末20から送信される第2の電波に含まれてもよく、この場合、固定局10の無線部110が変位ベクトルを含む第2の電波を受信する。位置推定部180は、さらにその後に、絶対時刻tにおける移動端末20の位置に変位ベクトルを加算することで、絶対時刻t+kにおける移動端末20の位置を推定することも可能である。
【0111】
(作用効果)
以上説明した処理例Cでも、処理例Aと同様に、各固定局10で得られたカウンタ値そのものでなく、差分変化量に基づいて移動端末20の位置が推定される。従って、処理例Cによれば、移動端末20の既知の位置が無くても、汎用的な発振器を用いて移動端末20の位置を高精度に推定することが可能である。
【0112】
<7.ハードウェア構成>
以上、本発明の実施形態を説明した。上述した差分変化量の算出および位置推定などの情報処理は、ソフトウェアと、以下に説明する固定局10のハードウェアとの協働により実現される。
【0113】
図13は、固定局10のハードウェア構成を示したブロック図である。固定局10は、CPU(Central Processing Unit)301と、ROM(Read Only Memory)302と、RAM(Random Access Memory)303と、ホストバス304と、を備える。また、固定局10は、ブリッジ305と、外部バス306と、インタフェース307と、入力装置308と、表示装置309と、音声出力装置310と、ストレージ装置(HDD)311と、ドライブ312と、ネットワークインタフェース315とを備える。
【0114】
CPU301は、演算処理装置および制御装置として機能し、各種プログラムに従って固定局10内の動作全般を制御する。また、CPU301は、マイクロプロセッサであってもよい。ROM302は、CPU301が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM303は、CPU301の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する。これらはCPUバスなどから構成されるホストバス304により相互に接続されている。これらCPU301、ROM302およびRAM303とソフトウェアとの協働により、上述したカウンタ差分算出部160、差分変化量算出部170および位置推定部180などの機能を実現し得る。
【0115】
ホストバス304は、ブリッジ305を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バス306に接続されている。なお、必ずしもホストバス304、ブリッジ305および外部バス306を分離構成する必要はなく、1つのバスにこれらの機能を実装してもよい。
【0116】
入力装置308は、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、マイクロフォン、センサ、スイッチおよびレバーなどユーザが情報を入力するための入力手段と、ユーザによる入力に基づいて入力信号を生成し、CPU301に出力する入力制御回路などから構成されている。固定局10のユーザは、該入力装置308を操作することにより、固定局10に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0117】
表示装置309は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ(LCD)装置、プロジェクター装置、OLED(Organic Light Emitting Diode)装置およびランプなどの表示装置を含む。また、音声出力装置310は、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置を含む。
【0118】
ストレージ装置311は、本実施形態にかかる固定局10の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置311は、記憶媒体、記憶媒体にデータを記録する記録装置、記憶媒体からデータを読み出す読出し装置および記憶媒体に記録されたデータを削除する削除装置などを含んでもよい。ストレージ装置311は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid Strage Drive)、あるいは同等の機能を有するメモリ等で構成される。このストレージ装置311は、ストレージを駆動し、CPU301が実行するプログラムや各種データを格納する。
【0119】
ドライブ312は、記憶媒体用リーダライタであり、固定局10に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ312は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体24に記録されている情報を読み出して、RAM303またはストレージ装置311に出力する。また、ドライブ312は、リムーバブル記憶媒体24に情報を書き込むこともできる。
【0120】
ネットワークインタフェース315は、例えば、に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。また、ネットワークインタフェース315は、無線LAN(Local Area Network)対応通信装置であっても、有線による通信を行うワイヤー通信装置であってもよい。
【0121】
なお、上述した移動端末20のハードウェア構成は固定局10にも適用可能であるので、固定局10のハードウェア構成の詳細な説明を省略する。
【0122】
<8.補足>
なお、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0123】
例えば、本明細書の固定局10の処理における各ステップは、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はない。例えば、固定局10の処理における各ステップは、フローチャートとして記載した順序と異なる順序で処理されても、並列的に処理されてもよい。
【0124】
また、固定局10に内蔵されるCPU、ROMおよびRAMなどのハードウェアに、上述した固定局10の各構成と同等の機能を発揮させるためのコンピュータプログラムも作成可能である。また、該コンピュータプログラムを記憶させた記憶媒体も提供される。
【符号の説明】
【0125】
10 固定局
110 無線部
120 サンプリング部
130 発振器
140 カウンタ値計算部
150 カウンタ値通信部
160 カウンタ差分算出部
170 差分変化量算出部
180 位置推定部
20 移動端末
210 変位計算部
220 送信指示部
230 無線部