(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】熱分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/00 20060101AFI20230822BHJP
G01N 25/20 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G01N25/00 M
G01N25/20 C
(21)【出願番号】P 2019154072
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永棹 航太
(72)【発明者】
【氏名】高島 徹
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-061051(JP,U)
【文献】特公昭46-013318(JP,B1)
【文献】実開平04-122357(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00
G01N 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である試料がその内部に収容される加熱炉と、前記加熱炉を包囲する遮蔽部と、前記加熱炉を冷却するために該加熱炉と前記遮蔽部との間に空気を送給するファンと、を具備する熱分析装置であって、
前記ファンによって、前記加熱炉と前記遮蔽部との間の空間に導入された空気が該空間から排出される排出口の手前に、所定の間隔を隔てて複数の板状部を配置した構造であり、該板状部にはそれぞれ空気が通過する開口部が形成され、該複数の板状部のうちの隣接する任意の2枚の板状部の開口部が平面上に投影したときに同じ位置にならないように該複数の板状部が配置されてなる輻射熱漏洩阻止部、を備える熱分析装置。
【請求項2】
前記加熱炉は周面が略円筒状であり、前記加熱炉と前記遮蔽部との間の空間への空気の導入口は前記加熱炉の軸方向の一方の端部側に、前記排出口は該加熱炉の軸方向の他方の端部側に設けられ、前記輻射熱漏洩阻止部における前記複数の板状部は、前記加熱炉の軸方向に対し直交又は斜交するように配置されている、請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記加熱炉はその軸が鉛直方向になるように配置され、前記輻射熱漏洩阻止部は前記加熱
炉の上部に配置されている、請求項2に記載の熱分析装置。
【請求項4】
前記排
出口は当該装置の上方に向いて開口している、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱分析装置。
【請求項5】
前記遮蔽部は前記加熱炉を多重に包囲するものであり、該遮蔽部にあって最内周に位置する遮蔽部は、前記加熱炉と前記ファンとの間を隔てるように設けられ、且つ、該最内周に位置する遮蔽部は、前記加熱炉の軸を中心とする軸対称の位置に、外周側から内周側へと前記ファンによる空気流が通過する複数の通気口を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱分析装置。
【請求項6】
測定対象である試料がその内部に収容され、周面が略円筒状である加熱炉と、
前記加熱炉を多重に包囲する遮蔽部と、
前記加熱炉を冷却するために該加熱炉と前記遮蔽部との間に送給する空気流を生起するファンと、を備え、
前記遮蔽部にあって最内周に位置する遮蔽部は前記加熱炉と前記ファンとの間を隔てるように設けられ、且つ、該最内周に位置する遮蔽部は
、前記加熱炉の軸を中心とする軸対称の位置に
間欠的に設けられた、外周側から内周側へと前記ファンによる空気流が通過する複数の通気口を有する熱分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、示差熱分析装置(DTA)、熱重量測定装置(TGA)、熱機械的分析装置(TMA)、示差走査熱量分析装置(DSC)、などの熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析には、示差熱分析、熱重量測定、熱機械的分析、示差走査熱量分析など、様々な手法がある。例えば示差熱分析は、試料及び基準物質の温度を一定のプログラムに従って変化させながら、該試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する方法であり、例えば、転移、融解、反応等の吸発熱を伴う現象が測定の対象である。また、熱重量測定は、試料を一定のレートで加熱若しくは冷却したときの、又は一定温度に保持したときの該試料の重量の変化を測定する方法であり、例えば、蒸発、分解、酸化、還元、吸着等の温度に対する重量変化を伴う化学的又は物理的な変化が測定の対象である。例えば非特許文献1には、示差熱分析と熱重量測定との両方の機能を有し、両測定を同時に実行することが可能である装置が開示されている。
【0003】
いずれの手法にしても、こうした熱分析装置では、試料を加熱炉の内部に収容して所定温度(例えば1500℃程度)まで加熱したり、逆に高温の状態から冷却を行ったりして、該試料に生じる熱変化を分析する。所定の昇温プログラムに従って熱分析を行う場合、加熱炉を最終的に例えば1500℃以上もの温度にまで上げた状態で分析を終了するので、次の試料の分析を行うには加熱炉の温度を室温付近まで一旦下げる必要がある。このように高温の状態にある加熱炉の温度を下げるために、従来の熱分析装置は冷却用のファンを備えており、ファンにより生起した風を加熱炉に当てることで加熱炉の冷却を促進している。
【0004】
図5は、特許文献1に記載の熱分析装置(示差熱分析装置)における加熱炉部の概略縦断面図である。
測定対象である試料Sと基準物質Rとは加熱炉1の内部に収容されている。加熱炉1にはヒータ線1aが埋設されており、このヒータ線1aに加熱電流が供給されることで加熱炉1は高温になり、試料S及び基準物質Rは加熱される。加熱炉1を包囲する輻射シールド2は、加熱時に加熱炉1から放出される輻射熱を反射することでエネルギー損失を抑えるものであり、輻射シールド2を包囲する断熱カバー3は輻射シールド2から外部への放熱を抑えるとともに作業者が高温の輻射シールド2に触れないように保護する機能を有する。
【0005】
加熱炉1を冷却する際には、ファンユニット5に内装されているファンが駆動され、ファンユニット5から送り出された冷却用の空気流は送風管6を通り、加熱炉1の外周面と輻射シールド2との間の空間に導入される。この冷たい空気流は加熱炉1の下部に当たったあと、加熱炉1の外周面と輻射シールド2との間の空間を上昇する。そして、輻射シールド2の側周面の上部に形成されている排気口2aを経て断熱カバー3の方へ向かって吹き出す。この吹き出した空気流は、輻射シールド2の側周面外側と断熱カバー3の側面面内側との間の空間を下方向に向かい、断熱カバー3の下部に形成されている排気口3aを経て外部へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「DTG-60/60Hシリーズ TG/DTA同時測定装置」、[online]、株式会社島津製作所、[2019年8月6日検索]、インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/ta/dtg60.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱分析装置においては、近年、スループットの向上が強く要望されている。熱分析のスループットを向上させるには加熱炉の冷却効率を改善し、温度が高温状態から室温付近にまで下がるのに要する時間を短くする必要がある。しかしながら、上記従来の熱分析装置では、次のような理由により冷却効率を改善することが困難であった。
【0009】
従来の熱分析装置では、加熱時のエネルギー損失を抑えるために、輻射シールド2及び断熱カバー3で加熱炉を包囲するとともに、その輻射シールド2及び断熱カバー3の密閉性をできるだけ高くするような構造が採られている。冷却用の空気流の経路が、上述したように、加熱炉1と輻射シールド2との間の空間を上昇し、排気口2aを経て略U字状に折り返し輻射シールド2と断熱カバー3の間の空間を下降するように形成されているのも、輻射シールド2及び断熱カバー3の密閉性をできるだけ損なわないようにするためである。しかしながら、このような略U字状の折り返しが経路中にあるために、流路抵抗(換言すれば圧力損失)が大きく、冷却用空気の風量を高めることが難しい。その結果として、冷却効率が低く、加熱炉1を冷却する所要時間が長くなる。
【0010】
また、冷却効率を上げるための一つの有効な方法が、ファンの回転速度を上げて冷却用空気の風量を増加させることである。しかしながら、セラミック製である加熱炉は耐熱性を有する反面、熱応力破壊を生じ易いという欠点があり、高温状態であるときに急激に冷却されると割れが発生する場合がある。上記従来の熱分析装置では、こうした冷却時における熱応力破壊による加熱炉1の破壊や損傷への対策が必ずしも十分ではなく、風量の増加による冷却効率の改善も難しい。
【0011】
また上記従来の熱分析装置では、加熱炉1からの熱放射が送風管6を通ってファンユニット5に達する。そのため、加熱時にファンユニット5が高温になって寿命も短くなるし、加熱のためのエネルギー損失が増加する分だけ消費電力が大きくなるという問題もある。
【0012】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、冷却効率を改善し加熱炉を冷却するのに要する時間を短縮することができる熱分析装置を提供することである。
また本発明の他の目的は、加熱時のエネルギー損失を抑えて断熱性を確保しつつ、冷却効率を改善することができる熱分析装置を提供することである。
【0013】
また本発明の他の目的は、熱応力破壊による加熱炉の破損や損傷を回避しつつ、冷却効率を改善することができる熱分析装置を提供することである。
さらに本発明の他の目的は、加熱炉とファンとの間の断熱性を上げて加熱時におけるファンの加熱を回避することができる熱分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題の少なくとも一部を解決するためになされた本発明の第1の態様による熱分析装置は、測定対象である試料がその内部に収容される加熱炉と、前記加熱炉を包囲する遮蔽部と、前記加熱炉を冷却するために該加熱炉と前記遮蔽部との間に空気を送給するファンと、を具備する熱分析装置であって、
前記ファンによって、前記加熱炉と前記遮蔽部との間の空間に導入された空気が該空間から排出される排出口の手前に、所定の間隔を隔てて複数の板状部を配置した構造であり、該板状部にはそれぞれ空気が通過する開口部が形成され、該複数の板状部のうちの隣接する任意の2枚の板状部の開口部が平面上に投影したときに同じ位置にならないように該複数の板状部が配置されてなる輻射熱漏洩阻止部、を備えるものである。
【0015】
また上記課題の少なくとも一部を解決するためになされた本発明の第2の態様による熱分析装置は、
測定対象である試料がその内部に収容され、周面が略円筒状である加熱炉と、
前記加熱炉を多重に包囲する遮蔽部と、
前記加熱炉を冷却するために該加熱炉と前記遮蔽部との間に送給する空気流を生起するファンと、を備え、
前記遮蔽部にあって最内周に位置する遮蔽部は前記加熱炉と前記ファンとの間を隔てるように設けられ、且つ、該最内周に位置する遮蔽部は、前記加熱炉の軸を中心とする軸対称の位置に間欠的に設けられた、外周側から内周側へと前記ファンによる空気流が通過する複数の通気口、を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の態様の熱分析装置では、加熱炉と遮蔽部との間の空間から空気を排出する排出口の手前に輻射熱漏洩阻止部が設けられている。輻射熱漏洩阻止部を構成する複数の板状部にはそれぞれ開口部が形成されているが、隣接する任意の2枚の板状部の開口部が平面上に投影したときに同じ位置にならないように開口部がずれている。即ち、例えば排出口側から加熱炉を見たときに、或る一つの板状部の開口部は他の板状部で遮られており、加熱炉を見通せない構造となっている。そのため、各板状部は開口部を有するものの、加熱時に加熱炉から放出される輻射熱は輻射熱漏洩阻止部で遮蔽される。その結果、エネルギー損失を抑え、高い断熱性を確保することができる。
【0017】
一方、上記第1の態様の熱分析装置では、高温になった加熱炉の温度を下げる際に、ファンが駆動されて空気流が生起される。この空気流は加熱炉と遮蔽部との間の空間へと導入され、高温になった加熱炉を冷却しつつ排出口に向かって進み輻射熱漏洩阻止部に到達する。上述したように、輻射熱漏洩阻止部を構成する複数の板状部のうちの隣接する2枚の板状部に形成されている開口部の位置はずれているため、空気流は直進せずジグザグ状に進む。このような空気流の経路では、上記従来の装置に設けられている大きくU字状に折り返す空気流の経路に比べて流路抵抗(圧力損失)をかなり下げることができる。そのために、従来の装置に比べて冷却用空気の風量を増加させることができ、加熱炉の冷却効率を高めることができる。
【0018】
即ち、上記第1の態様の熱分析装置によれば、加熱時のエネルギー損失を抑えて高い断熱性を確保しながら、冷却効率を改善して加熱炉の冷却に要する時間を短縮することができる。換言すれば、加熱時の断熱性の向上と冷却時の冷却時間の短縮というトレードオフの問題を解決することができる。
【0019】
上記第2の態様の熱分析装置では、第1の態様の熱分析装置と同様に、高温になった加熱炉の温度を下げる際に、ファンが駆動されて空気流が生起される。この空気流は多重構造の遮蔽部に導入されるが、最内周に位置する遮蔽部は加熱炉とファンとの間を隔てるように設けられているため、導入された空気は、一旦、最内周に位置する遮蔽部に当たる。つまり、ファンから送給された冷たい空気が直接的に加熱炉に当たることが回避される。また、最内周に位置する遮蔽部は加熱炉の軸を中心とする軸対称の位置に複数の通気口を有するため、その複数の通気口を経てそれぞれ冷却用の空気が加熱炉と最内周に位置する遮蔽部との間の空間に導入される。これにより、加熱炉の側周面に対しその周方向に或る程度均等に冷却用空気が当たり、その一部が局所的に冷却されることを回避できる。
【0020】
このように上記第2の態様の熱分析装置によれば、加熱炉の局所的な急激な冷却が起こりにくいため、熱応力破壊による破損や損傷を防止することができる。また、上記第2の態様の熱分析装置によれば、加熱炉とファンとが遮蔽部で隔てられるので、加熱時に加熱炉からの輻射熱でファンが加熱されることを防止することができる。それによって、ファンが極端に高温になることを防止し、ファンの寿命を延ばすことができる。また、加熱時のエネルギー損失を低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態である示差熱分析装置における加熱炉部の概略縦断面図。
【
図2】本実施形態の示差熱分析装置における加熱炉部の概略縦断面斜視図。
【
図3】本実施形態の示差熱分析装置における輻射熱漏洩阻止部の遮蔽板の平面図。
【
図5】従来の熱分析装置の加熱炉部の概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態である示差熱分析装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の示差熱分析装置における加熱炉部の概略縦断面図である。
図2は、本実施形態の示差熱分析装置における加熱炉部の概略縦断面斜視図である。
【0023】
図1において、内部に測定対象の試料(図示せず)を収容する加熱炉1はその周面が略円筒形状であり、その中心軸が鉛直方向に向くように配置されている。加熱炉1は、その周囲にヒータ線1aが巻回された炉心管1bを有し、さらにその上部に、炉内のガスを外部へ排出するためのダクト11を有する。加熱炉1は耐熱性を有する材料、典型的にはセラミックから成る。この加熱炉1を包囲するように輻射シールド2が設けられ、さらに輻射シールド2を包囲するように断熱カバー3が設けられ、さらにその外側を外装カバー4が被覆している。輻射シールド2は、主として加熱時に加熱炉1からの輻射熱を反射する機能を有する。断熱カバー3は、外部への熱の放散を軽減する機能を有する。外装カバー4は、ユーザが高温の輻射シールド2や断熱カバー3に直接触れることを防止するものである。
【0024】
ファン51を内装するファンユニット5と輻射シールド2とは送風管6で接続されている。高温になった加熱炉1を冷却する際には、ファンを駆動して送風管6を通して輻射シールド2の内部に冷却用の空気を送り込む。外装カバー4の上面には排気口41が開口し、断熱カバー3の上面には排気口31が開口し、輻射シールド2の上部には上方に向けて開放する排気口23が形成されている。輻射シールド2の内部に送り込まれた冷却用の空気は最終的に、輻射シールド2の排気口23、断熱カバー3の排気口31、及び、外装カバー4の排気口41を経て装置の上方へと排出される。
【0025】
輻射シールド2の構造を詳しく述べる。
輻射シールド2は、側周面が略円筒形状で、上面に排気口23を有する蓋部が取り付けられた第1遮蔽筒部20と、その内側にあって側周面が略円筒形状である第2遮蔽筒部21との2重構造である。送風管6は第1遮蔽筒部20に接続されている。一方、第2遮蔽筒部21は加熱炉1の側周面全体を包囲しているため、第1遮蔽筒部20において送風管6が接続されている開口部20aと加熱炉1の側周面との間にも第2遮蔽筒部21が設けられている。そのため、加熱炉1が加熱された際に加熱炉1から放出される輻射熱は第2遮蔽筒部21で反射され、ファンユニット5には直接到達しない。これによって、ファンユニット5が輻射熱により高温になることを回避することができる。
【0026】
また、冷却時に送風管6を通して送り込まれた冷却用の空気は一旦、第2遮蔽筒部21に当たる。そのため、加熱炉1の側周面に冷却用の空気が直接当たって、その部分が他の部分(冷却用の空気が直接当たらない部分)に比べて急激に冷却されることを回避できる。これにより、加熱炉1の熱応力破壊による破損や損傷を軽減することができる。
【0027】
第2遮蔽筒部21の下部には、その中心軸に対し軸対称に複数の通風口22が等角度間隔で形成されている。この例では6個の通風口22が60°の角度間隔で設けられている。
図4は、
図1中のA-A’視矢線概略断面図である。
【0028】
第1遮蔽筒部20と第2遮蔽筒部21との間の空間と、第2遮蔽筒部21と加熱炉1との間の空間とを連通するのは、基本的にこの通風口22のみである。そのため、上述したように、冷却時に送風管6を通して輻射シールド2内に送り込まれた空気は一旦、第2遮蔽筒部21に当たったあと、第1遮蔽筒部20と第2遮蔽筒部21との間の空間に拡がり、6個の通風口22を通して内周側に、つまりは第2遮蔽筒部21と加熱炉1との間の空間に流れ込む。これにより、加熱炉1の側周面に対して、その周方向に比較的均等に冷却用の空気が当たり、加熱炉1が局所的に冷却されることを回避することができる。したがって、上述したように、第2遮蔽筒部21により加熱炉1の側周面に冷却用の空気が直接当たることを回避したことと相まって、加熱炉1の熱応力破壊による破損や損傷をより一層軽減することができる。
【0029】
第2遮蔽筒部21と加熱炉1との間の空間に導入された空気は概ね、
図1及び
図2中に矢印で示すように、加熱炉1の側周面を冷却しつつ上方へ進行する。第2遮蔽筒部21の上部には、略円形状である3枚の遮蔽板71~73から成る輻射熱漏洩阻止部7が設けられている。
図3は、遮蔽板71~73の概略平面図である。なお、
図2中に示しているように、厳密にいえば3枚の遮蔽板71~73の外形(サイズなど)は互いに若干異なるものの、ここではその差異はあまり重要ではない。
図3(a)に示すように、3枚の遮蔽板71~73にはそれぞれ、等角度間隔の位置に複数の開口部7aが穿設されている。この例では、6個の開口部7aが60°の角度間隔で設けられている。
【0030】
また3枚の遮蔽板71~73における開口部7aの大きさや径方向の位置、角度間隔は同じであるが、最も下に配置される遮蔽板71とその上の(中央にある)遮蔽板72とでは開口部7aの位置が周方向に30°ずれるように、また中央にある遮蔽板72と最も上に配置される遮蔽板73とでも同様に、開口部7aの位置が周方向に30°ずれるように、各遮蔽板71~73の配置が定められている。このため、3枚の遮蔽板71~73を下方向から見たとき、
図3(b)に示すように、開口部7aの位置が互い違いにずれている。
【0031】
3枚の遮蔽板71~73の開口部7aが一直線上に並んでいるとすると、加熱時に加熱炉1からの輻射熱が開口部7aを通して外部へと逃げ易い。これに対し、本実施形態の装置では、開口部7aの位置が互い違いにずれていて遮蔽板71~73で輻射熱を反射するので、加熱時のエネルギー損失を抑えることができる。
【0032】
一方、冷却時において、上述したように、第2遮蔽筒部21と加熱炉1との間の空間を概ね上に向かって進行し、加熱炉1の上部の輻射熱漏洩阻止部7に達した空気流は、遮蔽板71~73の各開口部7aを通過する際に直進できずジグザグに(蛇行しながら)進行する。そして、輻射シールド2の排気口23、断熱カバー3の排気口31、及び、外装カバー4の排気口41を経て装置の上方へと排出される。この空気流の経路では主として輻射熱漏洩阻止部7が流路抵抗となるが、従来の装置のようにU字状に大きく折り返す経路に比べて流路抵抗は小さい。そのため、従来よりも風量を増加させることができ、それによって冷却能力を向上させ、加熱炉1を冷却するのに要する時間を短縮することができる。
【0033】
即ち、輻射熱漏洩阻止部7を設けることで、加熱時に加熱炉1から放出される輻射熱を遮蔽しながら、冷却時における冷却用空気流に対する流路抵抗を下げ、冷却効率を高めることができる。
また、本実施形態の示差熱分析装置では、高温になった冷却風が装置の上面から上方に向けて排出されるので、作業者が装置近傍にいる場合でも作業者に高温の風が直接当たることを避けることができる。また、外装カバー4の温度上昇も防止することができる。
【0034】
なお、上記実施形態は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0035】
例えば輻射熱漏洩阻止部7における遮蔽板71~73の枚数や各遮蔽板71~73に設けられる開口部7aの数や形状、さらに遮蔽板71~73の配置などは適宜に変更することができる。
【0036】
また上記実施形態の装置では、周面略円筒状の加熱炉1をその中心軸が鉛直方向になるように、つまり縦置きに配置していたが、中心軸が水平方向になるように、つまり加熱炉1を横置きの配置としてもよい。
【0037】
また上記実施形態は示差熱分析装置であるが、それ以外の熱重量測定装置、熱機械的分析装置、示差走査熱量分析装置などの他の熱分析装置にも本発明を適用可能であることは明らかである。
【0038】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0039】
(第1項)本発明の第1項に記載の熱分析装置は、測定対象である試料がその内部に収容される加熱炉と、前記加熱炉を包囲する遮蔽部と、前記加熱炉を冷却するために該加熱炉と前記遮蔽部との間に空気を送給するファンと、を具備する熱分析装置であって、
前記ファンによって、前記加熱炉と前記遮蔽部との間の空間に導入された空気が該空間から排出される排出口の手前に、所定の間隔を隔てて複数の板状部を配置した構造であり、該板状部にはそれぞれ空気が通過する開口部が形成され、該複数の板状部のうちの隣接する任意の2枚の板状部の開口部の位置が該板状部に直交する線上で異なる位置になるように該複数の板状部が配置されてなる輻射熱漏洩阻止部、を備えるものである。
【0040】
第1項に記載の熱分析装置では、加熱時に加熱炉から放出される輻射熱は輻射熱漏洩阻止部で遮蔽される。一方で、加熱炉を冷却するための空気流の経路における流路抵抗(圧力損失)は上記従来の装置に比べて低下するので、冷却用空気の風量を増加させることができ、加熱炉の冷却効率を高めることができる。即ち、第1項に記載の熱分析装置によれば、加熱時のエネルギー損失を抑えて高い断熱性を確保しながら、冷却効率を改善して加熱炉の冷却に要する時間を短縮することができる。
【0041】
(第2項)第1項に記載の熱分析装置において、前記加熱炉は周面が略円筒状であり、前記加熱炉と前記遮蔽部との間の空間への空気の導入口は前記加熱炉の軸方向の一方の端部側に、前記排出口は該加熱炉の軸方向の他方の端部側に設けられ、前記輻射熱漏洩阻止部における前記複数の板状部は、前記加熱炉の軸方向に対し直交又は斜交するように配置されているものとすることができる。
【0042】
第2項に記載の熱分析装置によれば、加熱炉を冷却する空気の流れが概ね一方向になるので、流路抵抗を下げて風量を増加させるのに有効である。
【0043】
(第3項)第2項に記載の熱分析装置において、前記加熱炉はその軸が鉛直方向になるように配置され、前記輻射熱漏洩阻止部は前記加熱炉の上部に配置されているものとすることができる。
【0044】
第3項に記載の熱分析装置によれば、加熱炉を冷却する空気の流れが下から上方向に向かい、それに伴い加熱炉の熱によって空気の温度は上昇する。高温の空気は低温の空気に比べて比重が軽いので上昇し易く、それによって流路抵抗が一層低下し、風量を増加させるのに有利である。
【0045】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の熱分析装置において、前記排出口は当該装置の上方に向いて開口しているものとすることができる。
【0046】
第4項に記載の熱分析装置によれば、高温になった冷却用空気が装置の上方に向かって排出されるので、装置の周囲に置かれている物や周囲にいる作業者に高温の空気が直接吹き付けることを防止することができる。また、装置の外装カバーの温度上昇も抑えることができる。
【0047】
(第6項)また本発明の第6項に記載の熱分析装置は、
測定対象である試料がその内部に収容され、周面が略円筒状である加熱炉と、
前記加熱炉を多重に包囲する遮蔽部と、
前記加熱炉を冷却するために該加熱炉と前記遮蔽部との間に送給する空気流を生起するファンと、を備え、
前記遮蔽部にあって最内周に位置する遮蔽部は前記加熱炉と前記ファンとの間を隔てるように設けられ、且つ、該最内周に位置する遮蔽部は前記加熱炉の軸を中心とする軸対称の位置に、外周側から内周側へと前記ファンによる空気流が通過する複数の通気口を有するものである。
【0048】
第6項に記載の熱分析装置では、ファンから送られた冷たい空気が直接、加熱炉に当たるのを避けることができるとともに、加熱炉の側周面に対し周方向に略均等に冷却用空気が当たる。したがって、第6項に記載の熱分析装置によれば、加熱炉の局所的な急激な冷却が起こりにくいため、熱応力破壊による破損や損傷を防止することができる。また、加熱炉とファンとが遮蔽部で隔てられるので、加熱時に加熱炉からの輻射熱でファンが加熱されることを防止することができる。それによって、ファンが極端に高温になることを防止し、ファンの寿命を延ばすことができる。また、加熱時のエネルギー損失を低減することもできる。
【0049】
なお、第1項~第4項に記載の熱分析装置でも、上記第6項に記載の熱分析装置における構成を採用することができ、同じ効果を得ることができる。
【0050】
(第5項)即ち、第1項~第4項のいずれか1項に記載の熱分析装置において、前記遮蔽部は前記加熱炉を多重に包囲するものであり、該遮蔽部にあって最内周に位置する遮蔽部は、前記加熱炉と前記ファンとの間を隔てるように設けられ、且つ、該最内周に位置する遮蔽部は、前記加熱炉の軸を中心とする軸対称の位置に、外周側から内周側へと前記ファンによる空気流が通過する複数の通気口を有するものとすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…加熱炉
1a…ヒータ線
1b…炉心管
11…ダクト
2…輻射シールド
20…第1遮蔽筒部
20a…開口部
21…第2遮蔽筒部
22…通風口
23…排気口
3…断熱カバー
31…排気口
4…外装カバー
41…排気口
5…ファンユニット
51…ファン
6…送風管
7…輻射熱漏洩阻止部
71、72、73…遮蔽板
7a…開口部
R…基準物質
S…試料