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特許7334620トリコデルマ・リーセイ変異株およびタンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】トリコデルマ・リーセイ変異株およびタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/15 20060101AFI20230822BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20230822BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
C12N1/15 ZNA
C12P21/00 C
C12N9/42
C12P19/14 A
C12N15/31
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019521840
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012505
(87)【国際公開番号】W WO2019188980
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018057616
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 悠香
(72)【発明者】
【氏名】平松 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-019622(JP,A)
【文献】特開2017-029013(JP,A)
【文献】特表2014-508534(JP,A)
【文献】国際公開第2015/140455(WO,A1)
【文献】Accession No. EGR50654, predicted protein [Trichoderma reesei QM6a],Database GenBank, [online],2016年07月25日,[retrieved on 2022.03.15], <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/EGR50654>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現を低下させた、トリコデルマ・リーセイの変異株。
【請求項2】
配列番号2で表されるアミノ酸配列における347番目と348番目の2アミノ酸残基が欠失している、請求項1に記載のトリコデルマ・リーセイの変異株。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトリコデルマ・リーセイの変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のトリコデルマ・リーセイの変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
【請求項5】
セルロース含有バイオマスから糖を製造する方法であって、以下の工程:
工程a:配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現を低下させたトリコデルマ・リーセイの変異株を培養し、セルラーゼを製造する工程
工程b:工程aで得られたセルラーゼ培養液を用いて、前記バイオマスを糖化する工程
を含む、糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質製造能が向上したトリコデルマ・リーセイの変異株および当該変異株を用いたタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリコデルマ・リーセイは、高いタンパク質製造能を有していることが知られており、これまで同糸状菌を用いたタンパク質の製造の検討が行われてきた。トリコデルマ・リーセイは、タンパク質の中でも特に糖化酵素に分類されるセルラーゼを製造する能力に優れており、例えばセルラーゼ製造量をさらに向上させるため、セルラーゼ製造を制御する因子の過剰発現や欠損が行われている。非特許文献1では、トリコデルマ・リーセイのセルラーゼの製造を制御する因子の中でも、セルラーゼの製造を抑制する転写因子であるCre1の機能を低下させることにより高いセルラーゼ製造能を有するトリコデルマ・リーセイの変異株が取得されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Juliano P,Single nucleotide polymorphism analysis of a Trichoderma reesei hyper-cellulolytic mutant developed in Japan,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 77, 2013, Issue 3, P534-543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、トリコデルマ・リーセイのタンパク質製造を制御する因子の一つである転写因子が解明されているが、これは、制御機構の一部にすぎないと考える。そこで本発明では、トリコデルマ・リーセイのタンパク質製造を制御する新規因子を探索し、タンパク質製造能が強化されたトリコデルマ・リーセイの変異株の取得および当該トリコデルマ・リーセイの変異株を用いたタンパク質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、これまで知られていなかったタンパク質製造の制御因子を解明できれば、トリコデルマ・リーセイのタンパク質の製造量をさらに向上させることができると考え、鋭意検討した結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を低下させたトリコデルマ・リーセイの変異株を培養することにより、タンパク質製造性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の(1)~(5)で構成される。
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下している、トリコデルマ・リーセイの変異株。
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列における347番目と348番目の2アミノ酸残基が欠失している、(1)に記載のトリコデルマ・リーセイの変異株。
(3)(1)または(2)に記載のトリコデルマ・リーセイの変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
(4)(1)または(2)に記載のトリコデルマ・リーセイの変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
(5)セルロース含有バイオマスから糖を製造する方法であって、以下の工程:
工程a:配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下しているトリコデルマ・リーセイの変異株を培養し、セルラーゼを製造する工程
工程b:工程aで得られたセルラーゼを用いて、前記バイオマスを糖化する工程
を含む、糖の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下したトリコデルマ・リーセイは、当該ポリペプチドの機能が低下していないトリコデルマ・リーセイと比較してタンパク質の製造能が向上する。また、本発明のトリコデルマ・リーセイを用いることにより、タンパク質を高生産することが可能となる。さらに、製造されるタンパク質がセルラーゼの場合には、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、もともとタンパク質の製造能に優れる微生物であるトリコデルマ・リーセイの親株に変異を導入することによって、さらにタンパク質製造能を高めることを特徴としている。従って、本発明で用いるトリコデルマ・リーセイの親株は野生株には制限されず、タンパク質製造能が高まるように改良されたトリコデルマ・リーセイの変異株も親株として好ましく用いることができ、例えば、トリコデルマ・リーセイの変異株には、変異剤や紫外線照射などで変異処理を施し、タンパク質の製造性が向上した変異株を上記親株として利用することができる。上記親株として用いる変異株の具体例は、トリコデルマ・リーセイに由来する公知の変異株であるQM6a株(NBRC31326)、QM9414株(NBRC31329)、PC-3-7株(ATCC66589)、QM9123株(NBRC31327)、RutC-30株(ATCC56765)、CL-847株(Enzyme.Microbiol.Technol.10,341-346(1988))、MCG77株(Biotechnol.Bioeng.Symp.8, 89(1978))、MCG80株(Biotechnol.Bioeng.12,451-459(1982))及びこれらの派生株などが挙げられる。なお、QM6a株、QM9414株、QM9123株はNBRC(NITE Biological Resource Center)より、PC-3-7株、RutC-30株はATCC(American Type Culture Collection)より入手することができる。
【0009】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Infomationでは、Trichoderma reesei QM6a株が持つpredicted protein(EGR50654)としても登録されている。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InfomationのCenserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から95番目~277番目のアミノ酸残基は「Middle domain of eukaryotic initiation factor 4Gドメイン(本明細書中ではMIF4Gドメインと記載する場合もある。)、N末端側から380番目~485番目のアミノ酸残基はMA-3ドメインを有すると開示されている。MIF4GおよびMA-3の両ドメインは、DNAまたはRNAに結合する機能を有することが知られている(Biochem.44,12265-12272(2005)、Mol.Cell.Biol.1,147-156(2007))。これらの記載により配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、少なくともDNAおよび/またはRNAに結合する機能を有すると推定される。
【0010】
本発明において、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能の低下は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列が変異して、当該ポリペプチオドの機能が低下したり、機能が欠失したりする状態を表す。また、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列以外の塩基配列が変異して、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下または発現の消失が引き起こされる場合も、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能の低下に含まれる。塩基配列の変異は、塩基の置換、欠失、挿入、重複等によって起こる。
【0011】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。
【0012】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を低下させる具体的な方法としては、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの全欠損、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの一部欠損、MIF4GドメインとMA-3ドメインとの立体配置関係の変化、または配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを全欠損させるような変異を導入する方法が挙げられる。
【0013】
MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの欠損とは、そのドメインが全てなくなる、一部が無くなる、全てが異なるアミノ酸に変わる、一部が異なるアミノ酸に変わる、またはそれらの組み合わせのことを指す。さらに具体的には配列番号2で表されるアミノ酸配列において、上記に示したMIF4GドメインまたはMA-3ドメインのアミノ酸配列と配列同一性が80%以下になることを指し、好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、最も好ましくは0%である。
【0014】
MIF4GドメインとMA-3ドメインとの立体配置関係の変化とは、MIF4GドメインとMA-3ドメインとの間に位置するアミノ酸配列において、アミノ酸の欠失、置換または付加が起こる変異によって行われる。MIF4GドメインやMA-3ドメインは、タンパク質ドメインと呼ばれるが、タンパク質ドメインは、タンパク質の配列構造の一部を構成し、機能を持った存在である。ドメインが複数ある場合には、複数のドメインからなる立体構造がタンパク質の立体構造の一部を構成するため、ドメイン同士の立体配置が変化すると、タンパク質の立体構造が変化し、タンパク質の機能が低下する。例えば、ストレプトコッカス属が有するストレプトキナーゼは、αドメイン、βドメイン、γドメインの計3種のドメインを有しており、αドメインとβドメインは12アミノ酸残基により連結され、βドメインとγドメインは15アミノ酸残基によりそれぞれ連結されているが、Biochem.Biophys.Acta.9,1730-1737(2010)には、αドメインとβドメイン、βドメインとγドメインの間に位置するアミノ酸配列に対してアミノ酸残基の置換、付加、欠失などの変異が起きることにより、ストレプトキナーゼの活性が低下したり消失したりすることが示されている。ドメイン間のアミノ酸配列の置換については、同文献のTable.1とTable.2に、ドメイン間のアミノ酸配列の欠失や付加についてはTable.5とTable.6にそれぞれ記載されている。
【0015】
以上のように、ドメインを構成するアミノ酸配列自体にアミノ酸の欠失、置換、または付加などの変異が起こらない場合でも、2つのドメインの間に位置するアミノ酸配列にアミノ酸の欠失、置換、または付加などの変異が起こることによって、タンパク質の機能が低下することが知られている。本発明において、MIF4GドメインとMA-3ドメインの間に位置するアミノ配列とは、配列番号2のアミノ酸配列において、N末端側から278番目~379番目のアミノ酸残基間での領域を指す。また、本発明において、MIF4GドメインとMA-3ドメインの間に位置するアミノ配列をコードする塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列において、832番目~1137番目の塩基配列の領域を指す。
【0016】
本発明において、MIF4GドメインとMA-3ドメインの間に位置するアミノ酸配列に欠失、置換、または付加などの変異がおこることによって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下する具体例としては、配列番号1で表される塩基配列において、1039番目から1044番目のいずれかの塩基が欠失する変異が挙げられる。当該塩基欠失は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのMIF4GドメインとMA-3ドメインの間に位置するアミノ酸配列において、347番目と348番目の2アミノ酸残基の欠失である。当該変異により、MIF4GドメインとMA-3ドメイン連結するアミノ酸配列が短くなり、MIF4GドメインとMA-3ドメインの立体的な配置関係が変化すると推測される。
【0017】
従って、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下したトリコデルマ・リーセイの好ましい態様としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列における347番目と348番目の2アミノ酸残基が欠失しているトリコデルマ・リーセイの変異株が挙げられる。なお、本明細書において「347番目と348番目の2アミノ酸残基が欠失している」とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において少なくとも当該2アミノ酸残基が欠失していることを意味するが、好ましい態様としては、347番目と348番目の2アミノ酸の欠失した態様、当該2アミノ酸の欠失に加えて、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの全欠損、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの一部欠損した態様である。
【0018】
配列番号2で表されるアミノ酸配列における347番目と348番目の2アミノ酸残基の欠失、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの全欠損、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの一部欠損、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全欠損は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子配列に対して、塩基の欠失、挿入、置換などによるフレームシフトやストップコドン変異により行われる。
【0019】
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下または発現の消失は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子のプロモーターやターミネーター領域の変異により行われる。一般的に、プロモーターとターミネーター領域は、転写に関与する遺伝子の前後数百塩基の領域に相当し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの転写に関与するプロモーターとターミネーターを含む塩基配列の具体例としては、配列番号7で表される塩基配列が挙げられる。
【0020】
上記の遺伝子の変異導入は、当業者にとって公知の変異剤または紫外線照射などによる変異処理、選択マーカーを用いた相同組換えなどの遺伝子組換え、あるいはトランスポゾンによる変異など、既存の遺伝子変異方法を用いることができる。
【0021】
本発明のトリコデルマ・リーセイの変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下していないトリコデルマ・リーセイと比較してタンパク質の製造能が向上する。本発明のトリコデルマ・リーセイの変異株を培養すると、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下していないトリコデルマ・リーセイの培養液と比較して、タンパク質濃度が増加する。また、タンパク質が酵素の場合には、酵素の比活性が増加する。ここで、タンパク質濃度の増加率や酵素の比活性の増加率は、増加していれば特に限定はされないが、20%以上であることが好ましい。
【0022】
また、本発明は前記配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下しているトリコデルマ・リーセイを培養する工程を含むタンパク質の製造方法に関する。
【0023】
培養工程の培地組成は、トリコデルマ・リーセイがタンパク質を製造できるような培地組成となっていれば特に制限はなく、トリコデルマ属糸状菌の周知の培地組成を採用することができる。窒素源としては、例えば、ポリペプトン、肉汁、CSL、大豆かすなどを用いることができる。また、培地には、タンパク質を製造させるための誘導物質を添加してもよい。
【0024】
培養方法は特に限定されず、例えば遠沈管、フラスコ、ジャーファーメンター、タンクなどを用いた液体培養や、プレートなどを用いた固体培養などで培養することができる。トリコデルマ・リーセイは、好気的条件で培養することが好ましく、これらの培養方法の中でも、特にジャーファーメンターや、タンク内に通気や撹拌を行いながら培養する深部培養が好ましい。通気量は、0.1vvm~2.0vvm程度が好ましく、0.3vvm~1.5vvmがより好ましく0.5vvm~1.0vvmが特に好ましい。培養温度は、25℃~35℃程度が好ましく、25℃~31℃がより好ましい。培養におけるpHの条件は、pH3.0~7.0が好ましく、pH4.0~6.0がより好ましい。培養時間は、タンパク質が生産される条件で、回収可能な量のタンパク質が蓄積されるまで行う。通常、24時間~240時間程度であり、36時間~192時間がより好ましい。
【0025】
本発明で製造するタンパク質は特に制限はないが、菌体外に分泌されるタンパク質を効率的に製造することができ、中でも好ましくは酵素であり、より好ましくはセルラーゼ、アミラーゼ、インベルターゼ、キチナーゼ、ペクチナーゼ等の糖化酵素であり、さらに好ましくはセルラーゼである。
【0026】
本発明で製造されるセルラーゼには、様々な加水分解酵素が含まれており、キシラン、セルロース、ヘミセルロースに対する分解活性を持つ酵素などが含まれている。具体例としては、セルロース鎖の加水分解によりセロビオースを製造するセロビオハイドラーゼ(EC 3.2.1.91)、セルロース鎖の中央部分から加水分解するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)、セロオリゴ糖およびセロビオースを加水分解するβ-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)、ヘミセルロースや特にキシランに作用することを特徴とするキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)、キシロオリゴ糖を加水分解するβ-キシロシダーゼ(EC 3.2.1.37)などが挙げられる。前述の通り、本発明のトリコデルマ・リーセイ変異株のタンパク質製造能の向上を確認するためのセルラーゼの比活性の向上の確認は、これらの加水分解酵素の比活性のいずれかが向上していることにより確認する。
【0027】
β-グルコシダーゼ比活性は、以下の方法で測定する。まず、1mMp-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加して30℃で10分間反応させる。次に2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとし、これをタンパク質の量で割ることで比活性を算出する。
【0028】
β-キシロシダーゼ比活性は以下の方法で測定する。まず、1mMp-ニトロフェニル-β-キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させる。次に、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとし、これをタンパク質の量で割ることで比活性を算出する。
【0029】
セロビオハイドロラーゼ比活性は、以下の方法で測定する。まず、1mMp-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で60分間反応させる。次にその後、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に、1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとし、これをタンパク質の量で割ることで比活性を算出する。
【0030】
本発明によりセルラーゼを製造する場合には、培地にセルロースおよび/またはキシランを誘導物質として添加することができる。また、セルロースやキシランを含むバイオマスを誘導物質として添加してもよい。セルロールやキシランを含有するバイオマスの具体例としては、種子植物、シダ植物、コケ植物、藻類、水草などの植物の他、廃建材なども用いることができる。種子植物は、裸子植物と被子植物に分類されるが、どちらも好ましく用いることができる。被子植物はさらに単子葉植物と双子葉植物に分類されるが、単子葉植物の具体例としては、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、コーンコブ、稲わら、麦わらなどが挙げられ、双子葉植物の具体例としては、ビートパルプ、ユーカリ、ナラ、シラカバなどが好ましく用いられる。
【0031】
また、セルロースおよび/またはキシランを含む誘導物質は、前処理されたものを用いてもよい。前処理方法は特に限定されないが、例えば、酸処理、硫酸処理、希硫酸処理、アルカリ処理、水熱処理、亜臨界処理、微粉砕処理、蒸煮処理、など公知の手法を用いることができる。このような前処理をされたセルロールおよび/またはキシランを含むバイオマスとして、パルプを用いてもよい。
【0032】
トリコデルマ・リーセイの変異体を培養した培養液に含まれるタンパク質を回収する方法は特に限定されないが、トリコデルマ・リーセイの菌体を培養液から除去し、タンパク質を回収することができる。菌体の除去方法としては、遠心分離法、膜分離法、フィルタープレス法などが例として挙げられる。
【0033】
また、トリコデルマ・リーセイの変異体を培養した培養液から菌体を除去せずに、タンパク質の溶解液として利用する場合には、培養液中でトリコデルマ・リーセイの菌体が生育できないように処理することが好ましい。菌体が生育できないように処理する方法としては、熱処理、薬剤処理、酸・アルカリ処理、UV処理などが挙げられる。
【0034】
タンパク質が酵素の場合には、上記のように菌体を除去又は生育していないように処理した培養液を、そのまま酵素液として利用することができる。
【0035】
また、タンパク質がセルラーゼの場合には、当該セルラーゼを用いて、セルロース含有バイオマスを糖化して、糖を製造することができる。
【0036】
本発明で用いるセルロース含有バイオマスには、上記の誘導剤として記載したセルロースを含むバイオマスと同様のバイオマスや、前処理されたバイオマスを用いることができる。
【0037】
本発明のトリコデルマ・リーセイの変異株を培養して得られるセルラーゼは、本発明の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下しているトリコデルマ・リーセイの変異株を培養して得られたセルラーゼは、当該ポリペプチドの機能が低下していないトリコデルマ・リーセイを培養して得られるセルラーゼと比べて、特にβ-グルコシダーゼ等の比活性が高いため、効率的にセルロース含有バイオマスを分解して、グルコース濃度の高い糖化液を得ることができ、より多くの糖を得ることができる。
【0038】
糖化反応の条件は、特に限定されないが、糖化反応の温度は、25~60℃の範囲であることが好ましく、特に30~55℃の範囲であることがより好ましい。糖化反応の時間は、2時間~200時間の範囲であることが好ましい。糖化反応のpHは、pH3.0~7.0の範囲が好ましく、pH4.0~6.0の範囲であることがさらに好ましい。トリコデルマ属由来セルラーゼの場合、その反応最適pHは5.0である。さらに、加水分解の過程でpHの変化が起きるため、反応液に緩衝液を添加する、あるいは酸やアルカリを用いて一定pHを保持しながら実施することが好ましい。
【0039】
糖化液から酵素を分離回収する場合には、糖化液を限外ろ過膜などでろ過し、非透過側に回収することができる、必要に応じてろ過の前工程として、糖化液から固形分を取り除いておいてもよい。回収した酵素は、再び糖化反応に用いることができる。
【実施例
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0041】
<参考例1>タンパク質濃度測定方法
タンパク質濃度測定試薬(Quick Start Bradfordプロテインアッセイ、Bio-Rad製)を使用した。室温に戻したタンパク質濃度測定試薬250μLに希釈した糸状菌の培養液を5μL添加し、室温で5分間静置後の595nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。標準品としてBSAを使用し、検量線に照らし合わせてタンパク質濃度を算出した。
【0042】
<参考例2>セルラーゼの比活性の測定方法
(β-グルコシダーゼ比活性測定方法)
1mMp-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加して30℃で10分間反応させた。その後2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義し、これをタンパク質の量で割ることで比活性を算出した。
【0043】
(β-キシロシダーゼ比活性測定方法)
1mMp-ニトロフェニル-β-キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させた。その後、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義し、これをタンパク質の量で割ることで比活性を算出した。
【0044】
(セロビオハイドロラーゼ比活性測定方法)
1mMp-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で60分間反応させた。その後、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義し、これをタンパク質の量で割ることで比活性を算出した。
【0045】
<参考例3>セルロース含有バイオマスの糖化試験
セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標)B800(レッテンマイヤー社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスを用いた。酵素液としては、トリコデルマ・リーセイまたはトリコデルマ・リーセイの変異株の培養液を1ml採取して遠心分離し、菌体を除去した上清を回収し、さらに0.22μmのフィルターでろ過したろ液を用いた。
【0046】
(糖化反応)
糖化反応の緩衝液として1M 酢酸ナトリウムバッファー100μL、雑菌の繁殖防止として50g/L エリスロマイシン溶液2μL、糖化対象物として、Arbocel(登録商標)B800(レッテンマイヤー株式会社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスをそれぞれ0.1g添加し、セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標)B800を用いた際には、酵素液を450μL、セルロース含有バイオマスとして、バガスを用いた際には、400μLそれぞれ添加し、計1mLになるよう滅菌水でメスアップしたものを2mLチューブに入れた。50℃の温度条件で30時間糖化反応を行い、糖化物を遠心分離した上清を糖化液として回収し、回収した糖化液の10分の1量の1N NaOH溶液を添加して、酵素反応を停止させた。反応停止後の糖化液中のグルコース濃度を下記に示すUPLCで測定した。
【0047】
(グルコース濃度の測定)
グルコースは、ACQUITY UPLC システム(Waters)を用いて、以下の条件で定量分析した。グルコースの標品で作製した検量線をもとに、定量分析した。
カラム:AQUITY UPLC BEH Amide1.7μm 2.1×100mm Column
分離法:HILIC
移動相:移動相A:80%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液、移動相B:30%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液とし、下記グラジエントに従った。グラジエントは下記の時間に対応する混合比に到達する直線的なグラジエントとした。
開始条件:(A99.90%、B0.10%)、開始2分後:(A96.70%、B3.30%)、開始3.5分後:(A95.00%、B5.00%)、開始3.55分後:(A99.90%、B0.10%)、開始6分後:(A99.90%、B0.10%)。
検出方法:ELSD(蒸発光散乱検出器)
流速:0.3mL/min
温度:55℃。
【0048】
<実施例1>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下したトリコデルマ・リーセイQM9414変異株Iの作製
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下したトリコデルマ・リーセイの変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下した配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子を含むDNA断片として、配列番号3で表される遺伝子配列からなるDNA断片を作製し、当該DNA断片をトリコデルマ・リーセイQM9414株に形質転換することで作製した。この方法により、配列番号1において、1039番目から1044番目の塩基が欠失し、配列番号2において、347番目と348番目の2アミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなるポリペプチドを有するトリコデルマ・リーセイの変異株が得られる。DNA断片導入のための選択マーカーとしてアセトアミドおよびアセトアミドを分解することができるアセトアミダーゼ(AmdS)遺伝子(amdS)を使用した。amdSを含むDNA配列の上流および下流に、上記の配列番号3で表される塩基配列からなるDNA断片を導入するために、トリコデルマ・リーセイQM9414株の遺伝子配列と相同的な部分を付加するように変異導入用プラスミドを作製した。
【0049】
具体的には、配列番号4で示す合成したDNA断片を制限酵素AflIIとKpnIで処理したDNA断片を上流DNA断片とした。また、トリコデルマ・リーセイ QM9414株から定法に従って抽出したゲノムDNAと配列番号5および6で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素MluIとSpeIで処理したDNA断片を下流DNA断片とし、上流及び下流DNA断片をAflIIとKpnI、MluIとSpeIの制限酵素をそれぞれ用いてamdSが挿入されたプラスミドへ導入し、変異導入用プラスミドを構築した。そして、変異導入用プラスミドを制限酵素PacIとSphIで処理し、配列番号3で示す得られたDNA断片でトリコデルマ・リーセイ QM9414株(NBRC#31329)を形質転換した。分子生物学的手法は、Molecular cloning,laboratory manual,1st,2nd,3rd(1989)の記載通りに行った。また、形質転換は、標準的な手法であるプロトプラスト-PEG法を用い、具体的にはGene,61,165-176(1987)の記載通りに行った。得られたトリコデルマ・リーセイ変異株をQM9414変異株Iとして以下の実験に用いた。
【0050】
<実施例2>QM9414変異株Iを用いたタンパク質の製造試験
(フラスコ培養)
実施例1で作製したQM9414変異株Iの胞子を1.0×10/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液0.1mLを表1に示した50mLバッフル付フラスコへ入れた10mLのフラスコ培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて120時間培養を行った。
【0051】
【表1】
【0052】
(培養液の採取)
培養開始120時間後に1mL培養液を採取した。培養液を15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得た。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液をセルラーゼ溶液として、以下の実験に用いた。
【0053】
(タンパク質濃度とセルラーゼの各種比活性の測定)
参考例1で記載した手法を用い、培養開始120時間目の培養液におけるタンパク質濃度を測定し、続いて参考例2に記載の方法でセルラーゼの比活性を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
<実施例3>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下したトリコデルマ・リーセイQM9414変異株IIの作製
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株は、配列番号8で表される遺伝子配列からなるDNA断片を作製し、当該DNA断片をトリコデルマ・リーセイQM9414株に形質転換することで作製した。この方法により、配列番号1において、1206番目と1207番目の間にamdSが挿入され、配列番号2の機能が低下したトリコデルマ・リーセイの変異株が得られる。amdSを含むDNA配列の上流および下流に、上記の配列番号8で表される塩基配列からなるDNA断片を導入するために、トリコデルマ・リーセイQM9414株の遺伝子配列と相同的な部分を付加するように変異導入用プラスミドを作製した。
【0055】
具体的には、トリコデルマ・リーセイ QM9414株から定法に従って抽出したゲノムDNAと配列番号9および10で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素AflIIとKpnIで処理したDNA断片を上流断片とした。また、ゲノムDNAと配列番号11と12で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素MluIとSpeIで処理したDNA断片を下流DNA断片とし、上流及び下流DNA断片をAflIIとKpnI、MluIとSpeIの制限酵素をそれぞれ用いてamdSが挿入されたプラスミドへ導入し、変異導入用プラスミドを構築した。そして、変異導入用プラスミドを制限酵素AflIIとSpeIで処理し、配列番号8で示す得られたDNAでトリコデルマ・リーセイQM9414株を実施例1の記載通りに形質転換を行った。得られたトリコデルマ・リーセイ変異株をQM9414変異株IIとして以下の実験に用いた。
【0056】
<実施例4>QM9414変異株IIを用いたタンパク質の製造試験
実施例1で作製したQM9414変異株Iの代わりにQM9414変異株IIを用いた以外は、実施例2と同様の操作・条件で培養を行い、培養液中に含まれるタンパク質濃度と、セルラーゼの各種比活性を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
<比較例1>トリコデルマ・リーセイQM9414株を用いたタンパク質の製造試験
実施例1で作製したQM9414変異株Iの代わりにトリコデルマ・リーセイQM9414株を用いた以外は、実施例2と同様の条件・操作で培養を行い、培養液中に含まれるタンパク質濃度とセルラーゼの各種比活性を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例2、実施例4および比較例1の結果から、トリコデルマ・リーセイQM9414株を培養した培養液に含まれるタンパク質濃度を1とした場合、QM9414変異株Iの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.5、トリコデルマ・リーセイの変異株IIの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.4であった。これらの結果から、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を低下させたトリコデルマ・リーセイを培養すると、当該ポリペプチドの機能を低下させない場合と比べてタンパク質の製造量を向上できることがわかった。
【0060】
セルラーゼの各種比活性については、トリコデルマ・リーセイQM9414株を培養した培養液のセルラーゼの各種比活性を1とした場合、β-グルコシダーゼ比活性は、QM9414変異株I:1.3、QM9414変異株II:1.4であり、β-キシロシダーゼ比活性は、トリコデルマ・リーセイ変異株I:1.5、QM9414変異株II:1.5、セロビオハイドロラーゼ比活性は、QM9414変異株I:1.4、QM9414変異株II:1.3であった。これらの結果から、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を低下させたトリコデルマ・リーセイ変異株を培養して得られたセルラーゼは、当該ポリペプチドの機能を低下させない場合と比べて、生産されるタンパク質の量が向上するだけでなく、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果が得られることがわかった。
【0061】
<実施例5>QM9414変異株IIのセルラーゼを用いた糖化反応試験
実施例4で得られたQM9414変異株IIの培養開始から120時間目の培養液を用いて、参考例3に記載の方法に従って、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標)B800または粉末バガスを用いた。結果を表3に示す。
【0062】
<比較例2>トリコデルマ・リーセイQM9414株のセルラーゼを用いた糖化反応試験
比較例1で得られたトリコデルマ・リーセイQM9414株の培養開始から120時間目の培養液を用いた以外は、実施例5と同様の操作・条件でセルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例5と比較例2の結果から、Arbocel(登録商標)B800の糖化反応において、トリコデルマ・リーセイQM9414株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、QM9414変異株IIのセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は1.8であった。また、バガスの糖化反応においては、トリコデルマ・リーセイQM9414株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、QM9414変異株IIのセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は1.4であった。これらの結果から、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を低下させたトリコデルマ・リーセイのセルラーゼを用いてセルロース含有バイオマスの糖化反応を行うと、当該ポリペプチドの機能が低下していないトリコデルマ・リーセイのセルラーゼを用いた場合に比べて、糖化液中のグルコース濃度が向上し、より多くの糖を製造できることがわかった。
【配列表】
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