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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20230822BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K9/19 A
H02K9/19 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020017802
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021125961
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 堅大
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆志
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0264897(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0194638(US,A1)
【文献】実開平01-061841(JP,U)
【文献】特開2019-161999(JP,A)
【文献】特開2016-129447(JP,A)
【文献】特開2015-015851(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102018117463(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102019112551(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014213159(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に冷却液を吐出する吐出口が形成されたロータと、
円環または円筒形のヨークと、前記ヨークの内周面に間隔を空けて周方向に配列されて間にスロットを規定するティースとを有し、前記ロータの外周を囲むように配置されたステータコアであって、各スロットを規定するステータコアの壁面には、当該スロットに対して開放し、前記吐出口から吐出された前記冷却液が流れる溝形状のスロット壁面流路が形成されている、ステータコアと、
前記ティースに巻装されたコイルと、
前記スロット内に配置され、前記ステータコアと前記コイルの間に介在する絶縁シートであって、前記コイルと前記スロット壁面流路を隔てるように配置され、かつ前記コイルと前記スロット壁面流路を隔てている部分に前記スロット壁面流路の一部を前記コイルに対して開放する切り欠きまたは開口が設けられた絶縁シートと、
を含む回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、前記絶縁シートは、当該絶縁シートが配置されるスロットの軸線方向の長さ全体にわたって配置される、回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記スロット壁面流路は、各スロットを規定する少なくとも一方のティースの側面に半径方向に延びて形成された側面流路を含み、
前記絶縁シートの前記切り欠きまたは前記開口は、前記側面流路と前記コイルを隔てている部分に設けられている、
回転電機。
【請求項4】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記スロット壁面流路は、各スロットを規定する少なくとも一方のティースの側面に半径方向に延びて形成された側面流路を含み、
さらに前記スロット壁面流路は、各スロットを規定する前記ヨークの内周面に形成され、前記側面流路に連なる底面流路を含み、
前記絶縁シートの前記切り欠きまたは前記開口は、前記底面流路と前記コイルを隔てている分に設けられている、
回転電機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記絶縁シートは、前記スロットの前記ロータに対して開放した部分に、当該スロット内のコイルを覆うように配置されたカバー部分を有し、当該カバー部分の一部に切欠きまたは開口が設けられている、
回転電機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の回転電機であって、前記吐出口と前記スロット壁面流路は軸線方向において同一の位置に配置されている、回転電機
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機、特にコイルとステータコアを絶縁する絶縁シートを備えた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギを回転の運動エネルギに変換する電動機、回転の運動エネルギを電気エネルギに変換する発電機、さらに電動機と発電機どちらにも機能する電気機器が知られている。以下において、これらの電気機器を総称して回転電機と記す。典型的な回転電機は、ロータと、ロータの外側を囲むように配置されたステータを有し、ステータは固定され、ロータは回転する。ロータおよびステータは、それぞれ磁路を形成するロータコアおよびステータコアを含む。
【0003】
ロータコア内に冷却用の流体を流してロータコアを内部から冷却する回転電機が知られている。下記特許文献1には、中空のロータシャフト(16)の内部空間(17)から、ロータコア(21)内部を半径方向に延びる冷却油通路(51)に冷却油を送り、ロータコア(21)を内部から冷却するロータ(20)が示されている。冷却油通路(51)は、ロータコア(21)の外周面に開口しており、冷却油通路(51)を通った冷却油は、この開口からステータ(10)に向けて吐出される。
【0004】
ステータは、典型的には、周方向に間隔を空けて配置されたティースと、ティースに導線が巻回されて形成されたコイルとを含む。ティースとコイルの間には、絶縁のための絶縁シートが配置される場合がある。なお、上記の( )内の符号は、下記特許文献1で用いられている符号であり、本願の実施形態の説明で用いられる符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-010166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コイルの一部は、隣接するティース間の空間であるスロット内に配置されるため、露出部分が少なく冷却が十分に行えない場合がある。冷却性の改善のために、ステータコアに冷却液通路を設けてスロット内のコイルに冷却液を接触させる場合、絶縁シートが配置されていると絶縁シートによって冷却液とコイルの接触が阻害される場合がある。
【0007】
本発明は、スロット内のコイルと冷却液の接触を確保することができる絶縁シートを備えた回転電機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機は、外周面に冷却液を吐出する吐出口が形成されたロータと、円環または円筒形のヨークおよびヨークの内周面に間隔を空けて周方向に配列されたティースとを有し、ロータの外周を囲むように配置されたステータコアと、ティースに巻装されたコイルと、を含む。周方向において隣接するティースは、間にスロットを規定し、各スロットを規定するステータコアの壁面には、当該スロットに対して開放した溝形状のスロット壁面流路が形成されている。このスロット壁面流路には吐出口から吐出された冷却液が流れる。さらに、当該回転電機は、スロット内に配置された絶縁シートを含み、絶縁シートは、ステータコアとコイルの間に介在して両者を絶縁する。絶縁シートは、コイルとスロット壁面流路を隔てるように配置され、かつコイルとスロット壁面流路を隔てている部分にスロット壁面流路の一部をコイルに対して開放する切り欠きまたは開口が設けられている。
【0009】
ロータから吐出された冷却液が、スロット壁面流路を流れ、スロット壁面流路の絶縁シートに覆われずに開放した部分においてスロット内のコイルに接触し、コイルを冷やすことができる。
【0010】
絶縁シートは、当該絶縁シートが配置されるスロットの軸線方向の長さ全体にわたって配置されるものとすることができる。これにより、絶縁シートの1箇所を固定すれば絶縁シート全体を止めるため、絶縁シートの固定箇所を複数設けずともスロット内の位置ずれを抑制することができる。
【0011】
スロット壁面流路は、各スロットを規定する少なくとも一方のティースの側面に半径方向に延びて形成された側面流路を含むものとすることができる。そして、絶縁シートには、側面流路に対向する部分の少なくとも一部に切り欠きまたは開口を設けるようにする。側面流路に対向して設けられた開口を介して、スロット内に配置されたコイルと冷却液を接触させることができる。
【0012】
スロット壁面流路は、各スロットを規定するヨークの内周面に、側面流路に連なる底面流路を含むものとすることができる。そして、絶縁シートには、底面流路に対向する部分の少なくとも一部に開口を設けるようにする。底面流路に対向して設けられた開口を介して、スロットの底に配置されたコイルと冷却液を接触させることができる。
【0013】
さらに、絶縁シートは、スロットのロータに対して開放した部分に、当該スロット内のコイルを覆うように配置されたカバー部分を有するものとすることができる。このカバー部分の一部に切り欠きまたは開口を設けるようにすることができる。カバー部分を設けてスロット内のコイルを覆っても、カバー部分に設けられた開口を介してスロット内のコイルと冷却液を接触させることができる。
【0014】
スロット壁面流路は、ロータ外周面の冷却液の吐出口に対応する位置に、より具体的には、回転電機の軸線方向において吐出口と同一の位置に配置するようにすることができる。
【0015】
さらにまた、絶縁シートは、スロット壁面流路の位置で隙間を空けて分割されたものとすることができる。分割された部分の隙間を介してスロット内のコイルと冷却液を接触させることができる。
【発明の効果】
【0016】
スロット壁面流路に、絶縁シートによって覆われず、スロットに対して開放した部分を設けることで、冷却液をスロット内のコイルに接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の回転電機の回転軸線に直交する断面を模式的に示す図である。
図2】本実施形態の回転電機の回転軸線を含む断面を模式的に示す図である。
図3図1,2に示す回転電機の2つのティースを含む部分を示す斜視図である。
図4】ロータコアを構成するコアプレート、特に、冷却液の流路が設けられていない部分のコアプレートを示す図である。
図5】ロータコアを構成するコアプレート、特に、ロータコア内に冷却液の流路を形成するためのコアプレートを示す図である。
図6】ロータコアを構成するコアプレート、特に、ロータコア内に冷却液の流路を形成するためのコアプレートを示す図である。
図7】ステータコアを構成するコアプレート、特に、冷却液の流路が設けられていない部分のコアプレートを示す図である。
図8】ステータコアを構成するコアプレート、特に、ステータコアに冷却液の流路を形成するためのコアプレートを示す図である。
図9】ステータコアを構成するコアプレート、特に、ステータコアに冷却液の流路を形成するためのコアプレートを示す図である。
図10】ステータコアを構成するコアプレート、特に、ステータコアに冷却液の流路を形成するためのコアプレートを示す図である。
図11】絶縁シートの一例を示す図であり、断面形状がコの字形であり、側面に切り欠き、底面に開口が形成された絶縁シートを示す図である。
図12】絶縁シートの一例を示す図であり、断面形状がコの字形であり、側面および底面に開口が形成された絶縁シートを示す図である。
図13】断面ロの字形の絶縁シートの一例を示す図である。
図14】他の実施形態の回転電機の回転軸線を含む断面を模式的に示す図である。
図15図14に示す回転電機の2つのティースを含む部分を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。図1および図2は、本実施形態の回転電機10の断面を模式的に示す図である。図1は回転電機10の軸線に直交する断面、特に図2に示すI-I線における断面を示す図であり、図2は軸線を含む断面、特に図1に示すII-II線における断面を示す図である。
【0019】
回転電機10は、ロータ12と、ロータ12を取り囲むように同軸配置されたステータ14を備える。ロータ12は、略円筒形状のロータコア16と、ロータコア16の中心を貫通しているロータシャフト18を含む。ロータシャフト18の中心線が、ロータ12の回転軸線Aである。この回転軸線Aに沿う方向を軸線方向、直交する方向を半径方向、回転軸線Aを中心とした円に沿う方向を周方向と記す。ロータコア16は、電磁鋼板を所定の形状に加工したロータコアプレート20を、回転軸線Aの方向に積層して形成されている。ロータコア16の外周面近傍には、永久磁石22が配置されている。この回転電機10では、半径方向外側に向けて開いたV字を形成する2個の永久磁石22で1つの磁極が形成されている。図示するように、ロータ12の磁極の数は8つである。ステータ14は、ステータコア24とステータコア24に巻装されたコイル26を含む。ステータコア24は、電磁鋼板を所定の形状に加工したステータコアプレート28を積層して形成されている。ステータコア24は、略円環または略円筒形状のヨーク30と、ヨーク30の内周面に、周方向に沿って間隔を空けて配列されたティース32を有する。この回転電機10においては、ティース32の数は12である。隣接するティース32の間の空間はスロット34と呼ばれている。スロット34は、隣接するティース32の互いに対向する側面と、ヨーク30の内周面とによって規定され、半径方向内側と軸線方向の端は開放している。スロット34を規定するティースの側面をティース側面32a、ヨーク30の内周面をヨーク内周面30aと記す(図3参照)。ヨーク内周面30aと、互いに対向するティース側面32aとは、スロット34を規定するスロット壁面35を構成する(図3参照)。
【0020】
ティース32にコイル導線36が巻回されてコイル26が形成されている。コイル導線36は、例えば断面が長方形である平角導線であり、スロット34内において、軸線方向に延びている。この回転電機10において、コイル26は、コイル導線36を1つのティース32に連続的に巻回して形成されるいわゆる集中巻きコイルである。スロット34内において、ステータコア24とコイル26の間には、両者の間を電気的に絶縁する絶縁シート38が配置されている。絶縁シート38は、紙製であってよく、また樹脂製であってもよい。また、異種材料を積層したシートであってもよい。図2においては、絶縁シート38を明示するために、コイル導線36を背後が透けて見える状態で示している。
【0021】
ロータシャフト18は中空シャフトであって、この中空空間を冷却液が流れる。冷却液は、ロータ12を支持する軸受等を潤滑する潤滑油を用いることができる。ロータシャフト18には、中空空間と外周面とをつなぐように半径方向に沿って延びるシャフト内流路40が形成され、シャフト内流路40はロータシャフト18の外周面に開口している。シャフト内流路40を通して冷却液がロータシャフト18の外周面に送られる。ロータコア16には、ロータコア内流路42が形成されている。ロータコア内流路42の半径方向において内側の端は、ロータシャフト18の外周面に形成された、シャフト内流路40の開口に対向する。また、ロータコア内流路42の径方向において外側の端は、ロータコア16の外周面に開口している。この開口を吐出口42aと記す。冷却液は、シャフト内流路40とロータコア内流路42を通ってロータコア16の外周に送られ、ロータコア内流路42の吐出口42aから吐出される。
【0022】
図3は、ステータコア24の一部、特に2つのティース32を含む部分を模式的に示す斜視図であり、ステータコアの形状をより明確にするために、ティース32の一部を背後が透けて見える状態で示している。また、図3は、絶縁シート38をステータコア24から取り外した状態を示している。図1,2および図3に従ってティース32の形状について説明する。ティース32は、ティース32の概略形状を定めている2つの主部分44,46と、これら主部分44,46に、軸線方向において挟まれる小形部分48を有している。小形部分48は、主部分44,46よりも幅が狭く、先端が主部分44,46の先端に達していない。これにより、ティース32の表面に沿ってティース表面溝50が形成される。ティース表面溝50は、ティース側面32aにおいて、半径方向に延びてスロット34に対して開放した流路を形成する。この流路を側面流路52と記す。小形部分48は、軸線方向(図3では上下方向)において、ロータコア内流路の吐出口42aと同位置に配置されている。これにより、側面流路52は、吐出口42aから吐出された冷却液を受け、冷却液は更に側面流路52を半径方向外側に向けて流れる。
【0023】
スロット34の底を規定するヨーク内周面30aには、周方向に延びる溝が形成されている。この溝は、ティース表面溝50、特に側面流路52に連なっており、またスロット34に対して開放している。この溝は、側面流路52から送られた冷却液が流れる流路となる。この流路を底面流路54と記す。側面流路52および底面流路54は、それぞれ単独で、あるいは合わせてスロット壁面35に形成されたスロット壁面流路である。スロット壁面流路は、回転軸線Aに直交する平面内に配置されてよい。
【0024】
ヨーク30には、底面流路54の底に一端が開口し、他端がヨーク30の外周面に開口したヨーク内流路56が形成されている。側面流路52および底面流路54を流れた冷却液は、ヨーク内流路56を通ってヨーク30の外周面から排出される。
【0025】
図4から図6は、ロータコアプレート20の形状を示す図である。ロータコアプレート20は、ロータコア内流路42を形成するために複数種類のプレートを含む。最も数の多いプレートは、図4に示す、ロータコア内流路42を形成するためのスリットを有していないプレートであり、これを第1ロータコアプレート20Aと記す。ロータコア内流路を形成するためのスリットを有するプレートは2種類あり、一方を第2ロータコアプレート20B(図5参照)、他方を第3ロータコアプレート20Cと記す(図6参照)。
【0026】
第1から第3ロータコアプレート20A,20B,20Cは、円環形状を有し、それぞれ外周近傍に磁石保持孔58A,58B,58Cが形成されている。磁石保持孔58A,58B,58Cは、軸線方向に沿って整列されて、ロータコア16内に一体の磁石保持孔58が形成される(図1参照)。磁石保持孔58内に永久磁石22が保持される。
【0027】
第2ロータコアプレート20Bには、半径方向に沿って延びるスリットが形成されている。スリットは途中で途切れており、半径方向において内側の部分をロータ内側スリット42b、外側の部分をロータ外側スリット42cと記す。ロータ内側スリット42bとロータ外側スリット42cは、それぞれ8つ形成され、それぞれ磁極の間に配置される。ロータ内側スリット42bおよびロータ外側スリット42cの数は、8つ以外であってもよく、例えば4つ、2つなどとすることもできる。ロータ内側スリット42bは、第2ロータコアプレート20Bの内周縁に達し、半径方向内方に向けて開放している。ロータ外側スリット42cは、第2ロータコアプレート20Bの外周縁に達し、径方向外方に向けて開放している。
【0028】
第3ロータコアプレート20Cには、半径方向に沿って延びるロータ中央スリット42dが形成されている。ロータ中央スリット42dは、半径方向において内側、外側の両方の端部とも、第3ロータコアプレート20Cの内周縁、外周縁に達していない。ロータ中央スリット42dは、半径方向において内側の端部が第2ロータコアプレート20Bのロータ内側スリット42bの外側の端部と重なり、外側の端部がロータ外側スリット42cの内側の端部と重なる。
【0029】
第2ロータコアプレート20Bと第3ロータコアプレート20Cを隣接して配置することで、ロータ内側スリット42bとロータ中央スリット42dとロータ外側スリット42cがつながり、ロータコア16の内周面と外周面をつなぐロータコア内流路42が形成される。この回転電機10においては、所定枚数の第2ロータコアプレート20Bの両側それぞれに所定枚数の第3ロータコアプレート20Cが配置されている。第2および第3ロータコアプレート20B,20Cは、軸線方向においてロータコア16の中央部に配置され、これによりロータコア内流路42がロータコア16の中央部に形成される。
【0030】
図7から図10は、ステータコアプレート28の形状を示す図である。図7から図10において各プレート28は上側半分が示されており、下側半分は上側半分と対称である。ステータコアプレート28は、側面流路52、底面流路54およびヨーク内流路56を形成するために複数種類のプレートを含む。最も数の多いプレートは、図7に示す、ティース32の主部分44,46となる主部分突起部60を有するプレートである。このプレートを第1ステータコアプレート28Aと記す。第1ステータコアプレート28Aは、円環形状の幅広円環部62を有し、主部分突起部60は幅広円環部62の内周縁に沿って間隔を空けて配列されている。主部分突起部60が積層されることで、ティースの主部分44,46が形成される。
【0031】
図8に示すプレートは、ティース32の小形部分48となる小形部分突起部64を有する。このプレートを第2ステータコアプレート28Bと記す。第2ステータコアプレート28Bは、外径は第1ステータコアプレート28Aと等しい。図8には、第2ステータコアプレート28Bにそろえて重ねた状態の第1ステータコアプレート28Aの外形が一点鎖線で示されている。第2ステータコアプレート28Bは、第1ステータコアプレート28Aの幅広円環部62より半径方向の寸法が短い幅狭円環部66を有する。小形部分突起部64は幅狭円環部66の内周縁に沿って間隔を空けて主部分突起部60と同じピッチで配列されている。小形部分突起部64は、主部分突起部60に対して、幅(周方向の寸法)が小さく、半径方向において内側の端が主部分突起部60の端に達しておらず、全体として一回り小さく形成されている。
【0032】
図9に示すプレートは、ティース32の小形部分48となる小形部分突起部68を有し、さらに、半径方向に沿って延びるスリット56aが形成されている。このプレートを第3ステータコアプレート28Cと記す。第3ステータコアプレート28Cは、外径は第1および第2ステータコアプレート28A,28Bと等しい。図9には、第3ステータコアプレート28Cにそろえて重ねた状態の第1ステータコアプレート28Aの外形が一点鎖線で示されている。第3ステータコアプレート28Cは、第2ステータコアプレート28Bの幅狭円環部66と半径方向の寸法が同じ幅狭円環部70を有する。また、小形部分突起部68は、第2ステータコアプレート28Bの小形部分突起部64と同一形状であり、幅狭円環部70の内周縁に沿って間隔を空けて主部分突起部60と同じピッチで配列されている。スリット56aは、半径方向において内側に設けられ、幅狭円環部70の内周縁に達して、半径方向内方に向けて開放している。このスリット56aをヨーク内側スリット56aと記す。
【0033】
図10に示すプレートは、ティース32の小形部分48となる小形部分突起部72を有し、さらに、半径方向に沿って延びるスリット56bが形成されている。このプレートを第4ステータコアプレート28Dと記す。第4ステータコアプレート28Dは、外径は第1から第3ステータコアプレート28A,28B,28Cと等しい。図10には、第4ステータコアプレート28Dにそろえて重ねた状態の第1ステータコアプレート28Aの外形が一点鎖線で示されている。第4ステータコアプレート28Dは、第2および第3ステータコアプレート28B,28Cの幅狭円環部66,70と半径方向の寸法が同じ幅狭円環部74を有する。また、小形部分突起部72は、第2および第3ステータコアプレート28B,28Cの小形部分突起部64,68と同一形状であり、幅狭円環部74の内周縁に沿って間隔を空けて主部分突起部60と同じピッチで配列されている。スリット56bは、半径方向において外側に設けられ、幅狭円環部74の外周縁に達して、半径方向外方に向けて開放している。このスリット56bをヨーク外側スリット56bと記す。
【0034】
第1から第4ステータコアプレート28A,28B,28C,28Dは、軸線方向において中央に所定枚数の第3ステータコアプレート28Cが配置され、これに隣接して所定枚数の第4ステータコアプレート28Dが配置され、その外側に所定枚数の第2ステータコアプレート28Bが、さらに外側に所定枚数の第1ステータコアプレート28Aが配置される。
【0035】
第2から第4ステータコアプレート28B,28C,28Dを積層し、これを積層された第1ステータコアプレート28Aで挟むことで、側面流路52、底面流路54およびヨーク内流路56が形成される。第2から第4ステータコアプレート28B,28C,28Dの小形部分突起部64,68,72が周囲より窪んだティース表面溝50、そして側面流路52を形成する。また、第2から第4ステータコアプレート28B,28C,28Dの円環部が周囲より窪んだ底面流路54を形成する。さらに、第3ステータコアプレート28Cと第4ステータコアプレート28Dを隣接して配置することにより、ヨーク内側スリット56aの半径方向外側の端部と、ヨーク外側スリット56bの径方向内側の端部は重なり、ヨーク30の内周面と外周面をつなぐヨーク内流路56が形成される。なお、第2ステータコアプレート28Bを省略して、第4ステータコアプレート28Dに隣接して第1ステータコアプレート28Aを配置してもよい。
【0036】
図1~3に戻って絶縁シート38について説明する。絶縁シート38は、スロット34内に配置されたとき、回転軸線Aに直交する断面において、コの字形または角張ったU字形の形状を有し、スロット34の軸線方向の長さ全体にわたって延びている。絶縁シート38の長さは、スロット34の軸線方向の長さに等しいか、やや長い。絶縁シート38は、ティース側面32aに対向する絶縁シート側面80と、ヨーク内周面30aに対向する絶縁シート底面82を有する。絶縁シート側面80は、ティース側面32aとスロット34内のコイル導線36の間に介在し、これらを絶縁している。絶縁シート底面82は、ヨーク内周面30aとスロット34内のコイル導線36の間に介在し、これらを絶縁している。絶縁シート側面80がコの字の横画に対応し、絶縁シート底面82がコの字の縦画に対応する。
【0037】
絶縁シート側面80には、半径方向内側から半径方向に沿って切り込まれた切り欠き84が形成されている。切り欠き84は、側面流路52の少なくとも一部に対応している。この絶縁シート38においては切り欠き84は、絶縁シート底面82までは達しておらず、絶縁シート側面80は、切り欠き84によって完全には分断されず、一部でつながっている。切り欠き84は、底面に達するように設けてもよい。絶縁シート底面82は、スロット34の軸線方向の全体にわたって延び、底面流路54に対応する位置に、切り欠きおよび開口は設けられていない。
【0038】
絶縁シート38をスロット34の長さ全体にわたって延びるものとすることで、絶縁シート38のスロット34内での位置を安定させることができる。例えば、コイル導線36をスロット34内に軸線方向に沿って挿入するとき、コイル導線36は、すでにスロット34内に配置されている絶縁シート38を挿入方向の奥に向けて押し出そうとする。このとき、ステータコア24の奥側の端面に治具を置き、これに絶縁シート38の一端を当接させることで、絶縁シート38の動きを抑えることができる。
【0039】
側面流路52を流れる冷却液は、絶縁シート38の切り欠き84を介してコイル導線36に直接接触してコイル導線36を冷却する。冷却液は、側面流路52から底面流路54、さらにはヨーク内流路56を通ってステータコア24の外周面から排出される。冷却液をステータコア24の外周面から排出することで、常に新しい冷却液を側面流路52に供給することができる。つまり、ヨーク内流路56は、ここでは冷却液の流れを良くし、コイル26の冷却性を改善するために設けられている。また、側面流路52を流れる冷却液の一部は、切り欠き84を通ってスロット34内に流入し、コイル導線36の隙間を通ってスロット34の端から流出する。
【0040】
図11は、絶縁シートの他の態様を示す図である。図11に示す絶縁シート90は、前述の絶縁シート38の絶縁シート底面82に開口92を設けたものである。図11において、矢印Yの向きが回転電機10の半径方向において内側を示している。(つまり、半径方向内側は、図3とは反対向きである。)絶縁シート90の絶縁シート側面94には、側面流路52の少なくとも一部に対向する切り欠き96が形成されている。また、絶縁シート底面98には、底面流路54の少なくとも一部に対向する底面開口92が設けられている。この底面開口92を介して底面流路54を流れる冷却液がスロット34内のコイル導線36と直接接触してコイル導線36を冷却する。また、一部の冷却液は、底面開口92を通ってスロット34内に流れ、コイル導線36を冷却する。底面開口92以外の部分からスロット34内に流入する冷却液が多い場合、底面開口92からスロット34内の冷却液が排出される。
【0041】
図12は、絶縁シートの更に他の態様を示す図である。図12に示す絶縁シート100は、前述の絶縁シート90の切り欠き96を開口102に替えたものである。図12において、矢印Yの向きが回転電機10の半径方向において内側を示している。絶縁シート100の絶縁シート側面104には、側面流路52の一部に対向する側面開口102が形成されている。この側面開口102を介して側面流路52を流れる冷却液がスロット34内のコイル導線36と直接接触してコイル導線36を冷却する。また、一部の冷却液は、側面開口102を通ってスロット34内に流れ、コイル導線36を冷却する。また、絶縁シート底面106には、底面流路54の少なくとも一部に対向する底面開口108が設けられている。この底面開口108を介して底面流路54を流れる冷却液がスロット34内のコイル導線36と直接接触してコイル導線36を冷却する。また、一部の冷却液は、底面開口108を通ってスロット34内に流れ、コイル導線36を冷却する。
【0042】
絶縁シートは、絶縁シート側面に切り欠きや開口を設けずに、絶縁シート底面のみに開口を設けたものであってよい。
【0043】
図13は、絶縁シートの更に他の態様を示す図である。図13に示す絶縁シート110は、前述の絶縁シート38,90,100と異なり、回転電機10の回転軸線Aに直交する断面の形状がロの字形または四角形の枠形である。図13において、矢印Yの向きが回転電機10の半径方向において内側を示している。(つまり、半径方向内側は、図12とは反対向きである。)絶縁シート110は、図12に示す絶縁シート100のコの字の開放した部分に、カバー部分112を追加したものである。絶縁シート110の絶縁シート側面114には、側面流路52の一部に対向する側面開口116が形成されている。この側面開口116を介して側面流路52を流れる冷却液がスロット34内のコイル導線36と直接接触してコイル導線36を冷却する。また、一部の冷却液は、側面開口116を通ってスロット34内に流れ、コイル導線36を冷却する。絶縁シート底面118には、底面流路54の少なくとも一部に対向する底面開口120が設けられている。この底面開口120を介して底面流路54を流れる冷却液がスロット34内のコイル導線36と直接接触してコイル導線36を冷却する。また、一部の冷却液は、底面開口120を通ってスロット34内に流れ、コイル導線36を冷却する。絶縁シート110がスロット内に配置されているとき、カバー部分112は、スロット34のロータに対して開放した部分に位置し、スロット34内のコイル導線36を覆うように配置される。カバー部分112には、ロータコア内流路42の吐出口42aに対向する部分の少なくとも一部にカバー部分開口122が設けられている。つまり、カバー部分開口122は、軸線方向において吐出口42aと同じ位置にあり、ロータ12の回転に伴って吐出口42aがカバー部分開口122に対向する位置に来たとき、吐出口42aから吐出された冷却液を受け入れる。これにより、スロット34内に冷却液が供給され、コイル導線36が冷却される。特に、カバー部分開口122から、スロット34内のロータ12に近い部分に配置されたコイル導線36に冷却液が供給される。
【0044】
図14および図15は、絶縁シートの更に他の態様を示す図である。図14,15において、絶縁シート以外の構成は、図2,3に示された構成と同様であり、同一の符号を付して、その説明を省略する。図14,15に示される絶縁シート124は、側面流路52および底面流路54、すなわちスロット壁面流路の位置で、軸線方向において2つに分割されている。分割された一方の絶縁シートセグメント124Aは、ティース32の一方の主部分44に対応して配置され、他方の絶縁シートセグメント124Bは、他方の主部分46に対応して配置される。絶縁シートセグメント124A,124Bは、それぞれ回転軸線Aに直交する断面の形状がコの字形である。絶縁シートセグメント124Aと絶縁シートセグメント124Bの間には、隙間が形成されており、この隙間は、側面流路52および底面流路54に対応している。この隙間を介して側面流路52および底面流路54を流れる冷却液がスロット34内のコイルに直接接触してコイル導線36を冷却する。また、一部の冷却液は、隙間を通ってスロット34内に流れ、コイル導線36を冷却する。絶縁シートセグメント124A,124Bの断面形状は、コの字形に替えて、ロの字形としてもよい。
【0045】
ロータコア16の外周面に設けられた吐出口42aならびにステータコア24に設けられた側面流路52、底面流路54およびヨーク内流路56は、軸線方向において、中央以外の位置に設けられてもよく、また複数の位置に設けられてもよい。この場合、絶縁シート38,90,100,110に設けられた切り欠きおよび開口は、複数の吐出口42aおよび各流路52,54,56のそれぞれに対応して設けられてよい。また、軸線方向において絶縁シートを分割する場合は、各吐出口および各流路の位置で分割されてよい。また、ステータコア24に設けられる流路の内、ヨーク内流路56を省いてもよく、底面流路54およびヨーク内流路56を省いてもよい。また、スロット34を規定する2つのティース側面32aの内、一方のティース側面32aにのみに側面流路52を設けるようにしてもよい。また、ティースの小形部分48の先端は、ティースの主部分44,46の先端とそろえてもよく、この場合、ティースの側面32aに底のある溝がティース32の高さ全体にわたって形成される。
【0046】
回転電機10は、集中巻きのコイル26を備えるが、分布巻きのコイルを備える回転電機にも、上述した冷却液の流路および絶縁シートを適用することができる。
【0047】
本発明に係る回転電機の他の態様を以下に記す。
外周面に冷却液を吐出する吐出口が形成されたロータと、
円環または円筒形のヨークと、前記ヨークの内周面に間隔を空けて周方向に配列されて間にスロットを規定するティースとを有し、前記ロータの外周を囲むように配置されたステータコアであって、各スロットを規定する少なくとも一方のティースの側面には、前記吐出口に対応する位置に、半径方向に延びて当該スロットに対して開放した前記冷却液が流れる側面流路が形成されている、ステータコアと、
前記ティースに巻装されたコイルと、
前記スロット内に、当該スロットの軸線方向の長さ全体にわたって配置され、前記ステータコアと前記コイルの間に介在する絶縁シートであって、前記側面流路に対向する部分の少なくとも一部に開口または切り欠きが設けられている絶縁シートと、
を含む回転電機。
【符号の説明】
【0048】
10 回転電機、12 ロータ、14 ステータ、16 ロータコア、18 ロータシャフト、24 ステータコア、26 コイル、28 ステータコアプレート、30 ヨーク、30a ヨーク内周面、32 ティース、32a ティース側面、34 スロット、35 スロット壁面、36 コイル導線、38,90,100,110,124 絶縁シート、42a ロータコア内流路の吐出口、44,46 ティースの主部分、48 ティースの小形部分、52 側面流路(スロット壁面流路)、54 底面流路(スロット壁面流路)、56 ヨーク内流路、60 主部分突起部、62 幅広円環部、64,68,72 小形部分突起部、66,70,74 幅狭円環部、80,94,104,114 絶縁シート側面、82,98,106,118 絶縁シート底面、84,96 切り欠き、92,108,120 底面開口、102,116 側面開口、112 カバー部分、122 カバー部分開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15