(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/184 20060101AFI20230822BHJP
B62D 1/185 20060101ALI20230822BHJP
B62D 1/19 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B62D1/184
B62D1/185
B62D1/19
(21)【出願番号】P 2020023428
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】今垣 進
(72)【発明者】
【氏名】作田 雅芳
(72)【発明者】
【氏名】樋口 耕太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一喜
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 健二
(72)【発明者】
【氏名】足立 拓也
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171196(JP,A)
【文献】特開2016-185756(JP,A)
【文献】特開2015-085756(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057036(US,A1)
【文献】特開2008-239111(JP,A)
【文献】特開平08-099640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に接続されるコラムシャフトを回転可能に保持する筒状のインナーチューブと、
前記インナーチューブの軸方向において、前記インナーチューブを移動可能に保持するハウジングと、
前記ハウジングに対する前記インナーチューブの移動を複数箇所で規制可能なロック機構と、を備え、
前記ロック機構は、
前記インナーチューブの外周面に固定的に設けられ、前記インナーチューブの軸方向に複数の第一歯部が並んで配置される第一係合部材と、
前記軸方向において前記ハウジングに固定され、前記インナーチューブの径方向に沿って前記第一係合部材に対して離接し、前記第一歯部と噛み合う第二歯部を有する第二係合部材と、
前記径方向において前記第二係合部材を前記インナーチューブから外向きに付勢する第一付勢部材と、
前記第二係合部材、および前記第一付勢部材と同一直線上に配置され、前記第一付勢部材の付勢方向と対抗する方向に前記第二係合部材を付勢する第二付勢部材と、
前記第一付勢部材、および前記第二付勢部材の並び方向に沿った回転軸で回転することより前記第二付勢部材を従動子として前記並び方向に移動させ、前記第一付勢部材の付勢力と前記第二付勢部材の付勢力との大小関係を変更するカム部材と、
前記カム部材を動作させる操作レバーと、を備える
ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記第二付勢部材は、前記並び方向に伸縮するバネであり、
前記ハウジングに対して固定され、前記第二付勢部材の伸縮、および移動を前記並び方向に案内するガイド機構を備える
請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記ハウジングに固定され、二次衝突時おける前記ハウジングへの前記インナーチューブの没入に基づく変形により衝撃を吸収する衝撃吸収部材を備え、
前記第二係合部材は、
前記衝撃吸収部材を介して前記ハウジングに固定され、前記インナーチューブの径方向において前記衝撃吸収部材に対し移動可能である、
請求項1または2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記第一係合部材は、
前記第一係合部材に対し前記第二係合部材が離れた状態において、前記インナーチューブの移動に伴い前記第一付勢部材と摺動する摺動部を備え、
前記摺動部は、
前記操舵部材側の端部に前記第一付勢部材の一部が嵌まり込むことにより前記第一付勢部材の前記インナーチューブ側への移動を許容する陥凹部を備え、
前記第一付勢部材が前記陥凹部に嵌まり込んだ場合、前記第二付勢部材の付勢力が前記第一付勢部材の付勢力より強くなる
請求項1から3のいずれか一項に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵に関連するステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵部材が接続されるコラムシャフトを回転可能に保持するインナーチューブと、インナーチューブを軸方向に摺動可能に保持し、車両に固定されるハウジングとを備えたステアリングコラム装置が知られている。このようなステアリングコラム装置では、インナーチューブの外周面に軸方向に並べて配置される複数の歯部と、任意の位置の歯部と係合することによりハウジングに対するインナーチューブの位置を決定するロック部材とを備えている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のロック部材は、歯部の並びに直交する方向に延在する回転軸周りに回転することにより歯部との係合と解除とを実現するものであり、ロック部材がインナーチューブの径方向外側に大きく張り出していた。これにより、従来のロック部材を備えたステアリングコラム装置は、取付位置、および取り付け姿勢が大きく制約されていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ロック機構による径方向の張りだしが少ないステアリングコラム装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリングコラム装置は、操舵部材に接続されるコラムシャフトを回転可能に保持する筒状のインナーチューブと、前記インナーチューブの軸方向において、前記インナーチューブを移動可能に保持するハウジングと、前記ハウジングに対する前記インナーチューブの移動を複数箇所で規制可能なロック機構と、を備え、前記ロック機構は、前記インナーチューブの外周面に固定的に設けられ、前記インナーチューブの軸方向に複数の第一歯部が並んで配置される第一係合部材と、前記軸方向において前記ハウジングに固定され、前記インナーチューブの径方向に沿って前記第一係合部材に対して離接し、前記第一歯部と噛み合う第二歯部を有する第二係合部材と、前記径方向において前記第二係合部材を前記インナーチューブから外向きに付勢する第一付勢部材と、前記第二係合部材、および前記第一付勢部材と同一直線上に配置され、前記第一付勢部材の付勢方向と対抗する方向に前記第二係合部材を付勢する第二付勢部材と、前記第一付勢部材、および前記第二付勢部材の並び方向に沿った回転軸で回転することより前記第二付勢部材を従動子として前記並び方向に移動させ、前記第一付勢部材の付勢力と前記第二付勢部材の付勢力との大小関係を変更するカム部材と、前記カム部材を動作させる操作レバーと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ロック部材として機能する第二係合部材をインナーチューブの径方向に直動させるため、径方向におけるロック機構の厚さを薄くすることができ、ロック機構の張出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係るステアリングコラム装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態に係るロック機構を分解して示す斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るロック状態のロック機構を示す断面図である。
【
図4】実施の形態に係る第一係合部材、および第一付勢部材を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態に係る解除状態のロック機構を示す断面図である。
【
図6】実施の形態に係るショート端規制状態のロック機構を示す断面図である。
【
図7】実施の形態に係る取付部材が取り付けられたステアリングコラム装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係るステアリングコラム装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0010】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係るステアリングコラム装置の構成を示す斜視図である。ステアリングコラム装置100は、操舵者が操舵するステアリングホイールなどの操舵部材(不図示)をコラムシャフト(不図示)を介して回転可能に保持し、操舵部材の位置を変更することができる装置であって、インナーチューブ120と、ハウジング130と、取付部材200(
図7参照)と、ロック機構150と、を備えている。本実施の形態の場合、ステアリングコラム装置100は、衝撃吸収部材170をさらに備えている。なお、ステアリングコラム装置100は、コラムシャフト、およびコラムシャフトに連結されるインターミディエイトシャフトなどのシャフト部材、ラックアンドピニオン機構などの転舵機構を備える場合があるが、これらの図示および説明は省略する。
【0012】
ステアリングコラム装置100は、衝突が発生していない通常の使用においては、操作レバー156(後述)を解除側に回転させ、ハウジング130に対しインナーチューブ120を軸方向(図中Y軸方向)にスライドさせることにより、操舵者の体格などに応じて操舵部材のポジションを変更することができる。また、操作レバー156を固定側に回転させる事により、ロック機構150によりインナーチューブ120のポジションを固定することができる。
【0013】
本実施の形態の場合、ステアリングコラム装置100は、操作レバー156を固定側に回転させる事により、ハウジング130を縮径しインナーチューブ120を締め付けることもできる。また、ステアリングコラム装置100は、例えば
図7に示される取付部材200により車体に吊り下げ状態で取り付けられ、車体に対するハウジング130の傾きを変更できるものとなっている。また、ハウジング130の傾きの固定と解除も操作レバー156により実行することができる機構を備えている。
【0014】
インナーチューブ120が保持するコラムシャフトは、操舵者が操舵する操舵部材が先端部(図中Y軸負側の先端部)に取り付けられる部材であり、インナーチューブ120を介してハウジング130の内方に挿通状態で回転可能に保持され、操舵部材の操舵角をラックアンドピニオンなどの転舵機構に伝達する部材である。本実施の形態の場合、コラムシャフトは、軸受(不図示)を介してインナーチューブ120に保持されており、インナーチューブ120に対し軸方向には固定され、周方向には回転可能となっている。コラムシャフトは、スプライン嵌合構造などを備え、ハウジング130に対するインナーチューブ120の出没に伴って伸縮し、かつ操舵角の伝達を維持できるように構成されている。
【0015】
インナーチューブ120は、コラムシャフトを回転可能に保持するコラムジャケット、アッパーチューブなどと称される部材であり、車体に取り付けられたハウジング130に保持されることによりコラムシャフトを介して操舵部材を回転可能に所定の位置に配置する部材である。インナーチューブ120の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、円筒形状(管状)であり、軸方向(図中Y軸方向)に貫通孔を備えたハウジング130に挿入状態で保持される。また、インナーチューブ120は、少なくとも1つの軸受を介して内方にコラムシャフトを保持しており、保持したコラムシャフトと共にハウジング130に対して軸方向(図中Y軸方向)に移動するものとなっている。
【0016】
ハウジング130は、車体に対しインナーチューブ120を軸方向(図中Y軸方向)に移動可能に保持する筒状の部分を有する部材である。またハウジング130は、操舵部材側の一端面から軸方向に延在し径方向(図中Z軸方向)に貫通する第一スリット131と、周方向において第一スリット131の両側からそれぞれ径方向に突出する被締付部133とを備えている。第一スリット131は、操舵部材側の一端部は開放されているが、反対側の他端部は閉ざされている。
【0017】
被締付部133には、第一スリット131の貫通方向(図中Z軸方向)、およびインナーチューブ120の軸方向にそれぞれ直交する貫通孔134を備えている。貫通孔134は、インナーチューブ120の外側に配置されている。貫通孔134には、後述する操作レバー156の回転軸となる軸体157が刺し通されている。2つの被締付部133は、軸体157の軸方向において軸体157の両端部にそれぞれ係合している。被締付部133の一方は、操作レバー156の回転により軸体157の軸方向に距離が変化するようなカムを有する拡縮機構144を介して軸体157の端部と係合している。以上の構造により、操作レバー156の回転により対向状に配置される2つの被締付部133の間隔を狭めることができる。被締付部133の間隔を狭めることで、ハウジング130は縮径し、刺し通されたインナーチューブ120は、周囲からハウジング130により締め付けられてハウジング130に固定的に保持される。
【0018】
またハウジング130は、ロック機構150の一部である第一係合部材151(後述)がインナーチューブ120と共に軸方向に移動することを許容し、外側からロック機構150の操作を可能とする第二スリット132を備えている。本実施の形態の場合、第二スリット132は、インナーチューブ120の径方向(図中X軸方向)に貫通している。第二スリット132の貫通方向は第一スリット131の貫通方向と交差(本実施の形態の場合直交)している。軸方向において第二スリット132の両端部は、解放されていない。
【0019】
操作レバー156は、インナーチューブ120の外側において運転者などにより操作され、ロック機構150のロックと解除とを転換するための部材である。ロック機構150の詳細は後述する。本実施の形態の場合、操作レバー156は、ロック機構150のロックと解除に加え、ハウジング130の2つの被締付部133を締め付けてインナーチューブ120の位置決めとその解除をすることができるものとなっている。操作レバー156は、ハウジング130の第一スリット131の両側に一体に延設される貫通孔134に刺し通された状態で配置される軸体157を備え、軸体157の軸周りに回転する。軸体157の一方には、フランジ部158が備えられ、他方にはスラストベアリング、ナット(不図示)を備えている。
【0020】
また、一方のフランジ部158と被締付部133との間に、拡縮機構144を備えている。拡縮機構144は、相対的に回転する2つの部分からなり、一方の部分は操作レバー156と共に回転し、他方の部分は軸体157に沿って移動可能であり、軸周りの回転移動は取付部材200の貫通孔210よって規制されている。以上のように操作レバー156を軸体157周りに回転させることにより、ロック機構150のロックに加え、一対の被締付部133の間隔を狭めてインナーチューブ120をハウジング130に対し固定することができる。
【0021】
図2は、ロック機構を分解して示す斜視図である。
図3は、ロック機構を示す断面図である。ロック機構150は、ハウジング130に対するインナーチューブ120の移動を複数箇所で規制可能な直動機構であり、第一係合部材151と、第二係合部材152と、第一付勢部材153と、第二付勢部材154と、カム部材155と、操作レバー156と、を備えている。
【0022】
第一係合部材151は、インナーチューブ120の外周面に固定的に設けられ、インナーチューブ120の軸方向に複数の第一歯部161が並んで配置される部材である。
【0023】
本実施の形態の場合、第一係合部材151は、帯状の板金部材であり、第一係合部材151の一面に第一歯部161がインナーチューブ120の軸方向に並んで設けられている。第一歯部161の形状は、後述の第二歯部162と係合するものであれば特に限定されるものではなく、例えば所定の間隔で設けられた溝、窪みなどでもよい、本実施の形態の場合、第一歯部161の断面がのこぎり刃形状であり、第一歯部161の並び方向(図中Y軸方向)と直交する方向(第一係合部材151の幅方向)に延在する突条となっている。
【0024】
本実施の形態の場合、第一係合部材151の幅方向(図中Z軸方向)の両端縁にはインナーチューブ120から外側に向かう方向に起立する壁部163がそれぞれ設けられている。第一係合部材151の幅方向において、第一歯部161の両端とそれぞれの壁部163との間には、第一付勢部材153が当接し、インナーチューブ120が軸方向に移動する際に第一付勢部材153と摺動する帯状の摺動部164が軸方向に延在して設けられている。
【0025】
第二係合部材152は、二次衝突が発生する前の通常使用時においては、インナーチューブ120の軸方向においてハウジング130に固定され、インナーチューブ120の径方向(図中X軸方向)に沿って第一係合部材151に対して離接し、第一歯部161と噛み合う第二歯部162を有する部材である。本実施の形態の場合、第二係合部材152は、衝撃吸収部材170を介してハウジング130に固定され、インナーチューブ120の径方向においては、衝撃吸収部材170に対し移動可能となっている。具体的には、第二係合部材152は、第一係合部材151に対向する面から第一係合部材151から遠ざかる方向に窪み第一係合部材151の幅方向に延在する係合溝部166を備えている。ハウジング130に固定される衝撃吸収部材170が係合溝部166に嵌まり込むことにより、インナーチューブ120の軸方向における第二係合部材152の移動が固定的に規制され、径方向の移動が許容されている。
【0026】
第二歯部162の形状は、第一歯部161と係合するものであれば特に限定されるものではない。本実施の形態の場合、第二歯部162の断面形状は、第一歯部161の断面形状に対応するのこぎり刃形状であり、第一係合部材151の幅方向に延在する突条となっている。
【0027】
第二係合部材152は、軸方向の中間部において、第一係合部材151に対向する面から第一係合部材151から遠ざかる方向に窪み第一係合部材151の幅方向に延在する保持溝167を備えている。保持溝167は、第一付勢部材153を保持する部分である。本実施の形態の場合、第二歯部162は保持溝167の両側にそれぞれ一対設けられている。
【0028】
図4は、第一付勢部材を示す斜視図である。第一付勢部材153は、インナーチューブ120の径方向において第二係合部材152をインナーチューブ120から外向きに付勢する部材である。第一付勢部材153の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一付勢部材153は、インナーチューブ120の軸方向に延在する一対の弾性部168と、一対の弾性部168の中央部分を架橋状に接続する保持部169を備え、平面視H字形状を成している。弾性部168は、インナーチューブ120の径方向外向き(図中X軸方向負の向き)に張り出すように湾曲しており、第一付勢部材153を構成する材料の弾性と当該湾曲により付勢力を発揮する板バネの機能を備えている。一対の弾性部168は、第一歯部161を跨ぐように配置されており、第一係合部材151の摺動部164に当接する。保持部169は、第二係合部材152の保持溝167に嵌め込まれる。第一付勢部材153は、一対の弾性部168の付勢力のバランスにより、インナーチューブ120の径方向の外向きに第二係合部材152を付勢している。
【0029】
第二付勢部材154は、第一付勢部材153の付勢方向と対抗する方向に第二係合部材152を付勢する。第二付勢部材154は、第二係合部材152、および第一付勢部材153と同一直線上に配置されている。本実施の形態の場合、第一付勢部材153の付勢方向を示す付勢軸と第二付勢部材154の付勢軸とが一直線上に配置されている。これにより、第一付勢部材153と第二付勢部材154との間に挟まれた第二係合部材152は、第一付勢部材153の付勢力と第二付勢部材154の付勢力との関係に基づき第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向において移動することができる。
【0030】
第二付勢部材154の形状は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第一付勢部材153、第二係合部材152、および第二付勢部材154の並び方向に伸縮するバネである。具体的に第二付勢部材154は、コイルバネである。
【0031】
また本実施の形態の場合、第二付勢部材154は、ハウジング130に対して固定され、第二付勢部材154の伸縮、および移動を第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内するガイド機構107に案内されている。ガイド機構107の構造は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ガイド機構107は、保持体172と、保持体172を第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内する案内部材171とを備えている。
【0032】
保持体172の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、コイルバネである第二付勢部材154を内側に収容状態で保持する円筒形状である。保持体172の一端は、第二付勢部材154と係合する内側に突出するフランジを有し、他端は非圧縮状態の第二付勢部材154が突出する開口となっている。保持体172の長さは非圧縮状態の第二付勢部材154よりも短く設定されている。
【0033】
案内部材171の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第二付勢部材154を収容する保持体172を第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内する案内孔173と案内孔173を所定の位置に保持する基体174と、基体174から軸体157の軸方向に延びるガイド部180と、を備えている。基体174は、操作レバー156の回転軸となる軸体157が刺し通され、ガイド部180が取付部材200の一対の側壁に設けられた貫通孔210と係合することにより車体側に固定される。また、軸体157が刺し通された基体174の周りには、拡縮機構144の一方である環状のカムが設けられている。つまり、基体174は、操作レバー156の回転により、軸体157に沿って移動可能となっている。
【0034】
カム部材155は、インナーチューブ120の外側(本実施の形態の場合ハウジング130の外側)配置され、第一係合部材151に対する第二付勢部材154の距離を変更し、第一付勢部材153の付勢力と第二付勢部材154の付勢力との大小関係を変更する部材である。本実施の形態の場合、カム部材155は、
図3に示すように、第一係合部材151に対向する面であって、第一係合部材151と近い距離にある近距離面175と、近距離面175よりも第一係合部材151に対して遠い距離にある遠距離面176とを備えている。近距離面175と遠距離面176とは滑らかな面で接続されている。近距離面175、または遠距離面176は、ガイド機構107の保持体172を介して第二付勢部材154と当接し、第二付勢部材154は従動子として機能する。
【0035】
本実施の形態の場合、カム部材155は、操作レバー156に一体に取り付けられており、操作レバー156の操作に伴ってカム部材155も動作する。具体的には、操作レバー156を回転させることにより、第一付勢部材153および第二付勢部材154の並び方向に沿った軸体157を中心としてカム部材155が回転し、操作レバー156の回転方向(トルク方向)と直交する方向(並び方向)に第二付勢部材154を移動させる。
【0036】
衝撃吸収部材170は、ハウジング130に固定される部材であり、インナーチューブ120の軸方向において、通常使用時には第二係合部材152を固定する部材である。また、二次衝突時おいてはハウジング130へのインナーチューブ120の没入に伴い第二係合部材152がハウジング130に対して移動することにより衝撃吸収部材170が変形し、二次衝突による衝撃を吸収する。本実施の形態の場合、衝撃吸収部材170は、M字形状に折り曲げられた棒状の部材であり、両端部がハウジング130に固定され、中央部が第二係合部材152の係合溝部166に嵌め込まれている。
【0037】
次にステアリングコラム装置100の動作について説明する。
図3は、ロック機構150がインナーチューブ120のハウジング130に対する移動をロックした状態である。カム部材155の近距離面175、第二付勢部材154、第二係合部材152、および第一付勢部材153が一直線上に並んだ状態では、カム部材155の近距離面175が第二付勢部材154を第一付勢部材153に向かって押しつける状態となる。これにより、第二付勢部材154の付勢力が第一付勢部材153の付勢力より強くなり、第一係合部材151の第一歯部161と第二係合部材152の第二歯部162とが噛み合いロック状態となる。第二付勢部材154の移動は、ガイド機構107によって第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に案内されており、コイルバネである第二付勢部材154の付勢軸は筒状の保持体172によって第一付勢部材153と第二付勢部材154との並び方向に一致する様に規制されている。また、保持体172は、第二係合部材152には接触していない。
【0038】
次に、運転者などが操作レバー156を軸体157周りに回転させ、操作レバー156と共に回転するカム部材155の遠距離面176が第二付勢部材154、第二係合部材152、および第一付勢部材153と一直線上に並んだ状態にする。この状態においても、カム部材155の遠距離面176は、第二付勢部材154を第一付勢部材153に向かって押しつけているが、第二付勢部材154の位置は第一係合部材151から離れる方向に移動し、比較的伸長した状態となる。これにより、第二付勢部材154の付勢力が第一付勢部材153の付勢力より弱くなる。第二係合部材152は、第一付勢部材153の付勢力により持ち上げられ、第一係合部材151の第一歯部161と第二係合部材152の第二歯部162との噛み合いが解除される。
【0039】
操作レバー156を軸体157周りに回転させ、カム部材155の近距離面175と遠距離面176の位置を転換することにより、カム部材155の回転面と直交する方向に第二付勢部材154を介して第二係合部材152を往復動させることができる。これにより、第二係合部材152の往復動により第一歯部161と第二歯部162との噛み合うロック状態と噛み合わない解除状態とを任意に転換することができる。
【0040】
以上の構造のロック機構150をステアリングコラム装置100が備えることにより、ステアリングコラム装置100全体を小型化(インナーチューブ120の径方向の薄型化)させることができ、車体内におけるステアリングコラム装置100の取付位置、および姿勢の自由度を向上させることが可能となる。
【0041】
第一係合部材151は、摺動部164の操舵部材側(図中Y軸負側)の端部に配置され、第一付勢部材153の一部が嵌まり込むことにより第一付勢部材153のインナーチューブ120側(図中X軸正側)への移動を許容する陥凹部108を備えている。
図6に示すように、ロック機構150のロックが解除されている状態において、第一付勢部材153が陥凹部108に嵌まり込んだ場合、第二係合部材152を第一係合部材151に近づける第二付勢部材154の付勢力が第一付勢部材153の付勢力より強くなり、第一歯部161と第二歯部162とを噛み合わせることができる。これにより、ハウジング130に対するインナーチューブ120の移動を規制することができる。
【0042】
陥凹部108は、第一付勢部材153の形状に対応して二つの摺動部164のそれぞれに設けられている。また陥凹部108は、インナーチューブ120の軸方向(図中Y軸方向)に並んで配置される第一陥凹部181、および第二陥凹部182と、を備えている。第一陥凹部181のインナーチューブ120の軸方向に直交する方向の幅、つまり第一係合部材151の幅方向における幅は、第一陥凹部181よりも操舵部材側に配置される第二陥凹部182の幅よりも細くなるように設定されている。第一付勢部材153は、実施の形態1と同様に平面視H字形状を成しており、軸方向に並んで配置され摺動部164に当接する第一当接部183と、第二当接部184と、を備え、第一当接部183よりも操舵部材側に配置される第二当接部184の幅は、第一陥凹部181の幅よりも広く、かつ第二陥凹部182の幅よりも狭く設定されている。また、第一当接部183の幅は、第一陥凹部181の幅よりも狭く設定されている。以上により、第二当接部184は第一陥凹部181に落ち込むことなく第一陥凹部181の上を通過することができ、第一当接部183と第二当接部184とが同時に第一陥凹部181、および第二陥凹部182にそれぞれ同時に落ち込むことができる。これにより、第一係合部材151に対し第一付勢部材153が平行に移動することができ第二係合部材152が傾くことなく第一係合部材151に近づけることができる。
【0043】
上記実施の形態にかかるステアリングコラム装置100の場合、第一係合部材151に陥凹部108を設けることにより、ロック機構150が備える部品でインナーチューブ120のショート端の規制を図る事ができ、ステアリングコラム装置100全体の部品点数を減少させることが可能となる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0045】
例えば、第一係合部材151は、インナーチューブ120とは別部材であり、溶接などにより第一係合部材151に固定的に取り付けられ場合を実施の形態として説明したが、第一係合部材151は、インナーチューブ120と一体に形成されてもかまわない。
【0046】
また、第一付勢部材153、第二付勢部材154、第一係合部材151、第二係合部材152などは、金属など任意の材料で形成されてもよい。
【0047】
また、操作レバー156の回転によるロック機構150のロック、および解除と共に、ハウジング130の被締付部133を間隔を狭めてインナーチューブ120の締め付け、および解除できる場合を説明したが、これに限定されるものではない。
【0048】
また、案内部材171に拡縮機構144の一方が一体に設けられる場合を説明したが、ガイド機構107と拡縮機構144とが別機構であってもかまわない。
【0049】
また、インナーチューブ120の軸方向において、衝撃吸収部材170が第二係合部材152を保持する場合を説明したが、ロック機構150と衝撃吸収部材170を備えた衝撃吸収機構が別機構であってもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、車両の操舵に関する装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
100…ステアリングコラム装置、107…ガイド機構、108…陥凹部、120…インナーチューブ、130…ハウジング、131…第一スリット、132…第二スリット、133…被締付部、134…貫通孔、144…拡縮機構、150…ロック機構、151…第一係合部材、152…第二係合部材、153…第一付勢部材、154…第二付勢部材、155…カム部材、156…操作レバー、157…軸体、158…フランジ部、161…第一歯部、162…第二歯部、163…壁部、164…摺動部、166…係合溝部、167…保持溝、168…弾性部、169…保持部、170…衝撃吸収部材、171…案内部材、172…保持体、173…案内孔、174…基体、175…近距離面、176…遠距離面、180…ガイド部、181…第一陥凹部、182…第二陥凹部、183…第一当接部、184…第二当接部、200…取付部材、210…貫通孔