(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20230822BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230822BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20230822BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20230822BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20230822BHJP
H01G 11/80 20130101ALI20230822BHJP
H01M 10/0585 20100101ALN20230822BHJP
H01M 50/103 20210101ALN20230822BHJP
H01M 50/107 20210101ALN20230822BHJP
H01M 50/121 20210101ALN20230822BHJP
H01G 11/78 20130101ALN20230822BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M4/66 A
H01M50/184 A
H01M50/184 D
H01M50/193
H01G11/68
H01G11/80
H01M10/0585
H01M50/103
H01M50/107
H01M50/121
H01G11/78
(21)【出願番号】P 2020135307
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】衣川 達哉
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】山路 智也
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-230477(JP,A)
【文献】特開平3-163756(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094591(WO,A1)
【文献】特開2012-22821(JP,A)
【文献】特開2002-260602(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230219(WO,A1)
【文献】特開2016-42459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M50/10-50/198
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の第1面に正極活物質層が設けられた正極と、
負極集電体の第1面に負極活物質層が設けられてなり、前記負極活物質層が前記正極の前記正極活物質層と対向するように配置された負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータと、
前記正極と前記負極との間において、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記正極集電体及び前記負極集電体の各第1面に接着されることにより、前記正極と前記負極との間に液体電解質を収容する密閉空間を形成するシール部とを備える蓄電装置であって、
前記正極集電体及び前記負極集電体の一方は、厚さ1μm以上50μm以下のアルミニウム箔であり、
前記正極集電体及び前記負極集電体の他方は、厚さ1μm以上50μm以下のアルミニウム箔又は厚さ1μm以上25μm以下の銅箔であり、
前記シール部は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成され、
前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、接着強度が最大となる溶着温度であるピークトップ温度が135℃以下であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記正極集電体及び前記負極集電体の他方は、厚さ1~25μmの銅箔である請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、線膨張率が25×10
-5/℃以下である請求項1又は請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記正極と、前記負極と、前記セパレータと、が繰り返し積層された構造を有し、前記正極集電体における前記第1面の反対側の第2面と、前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面とが接触している請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、個々に作製された複数の蓄電セルを直列に積層することにより構成される扁平型の蓄電装置が開示されている。上記蓄電セルは、樹脂により構成される正極集電体の片面の中央部に正極活物質層が形成されてなる正極と、樹脂により構成される負極集電体の片面の中央部に負極活物質層が形成されてなり、負極活物質層が正極の正極活物質層と対向するように配置された負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを備えている。
【0003】
さらに、上記蓄電セルは、正極と負極との間かつ正極活物質層及び負極活物質層よりも外周側に配置された熱可塑性樹脂からなるシール部を備えている。シール部は、正極集電体と負極集電体との間隔を保持して集電体間の短絡を防止するとともに、正極集電体と負極集電体との間を液密に封止して、正極集電体と負極集電体との間に液体電解質を収容する密閉空間を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の正極と負極とをセパレータを介して積層した積層型の蓄電セルのエネルギー密度を大きくする方法の一つとして、金属箔などの薄い箔状の集電体を用いることにより、積層方向における活物質層の相対的な割合を増加させる方法が考えられる。しかしながら、上記構成の蓄電装置に箔状の集電体を適用した場合には、集電体の耐力が低下することにより、熱可塑性樹脂からなるシール部の熱溶着時の体積変化によって集電体に皺が生じやすくなる。集電体の皺は、シール部のシール不足による液体電解質の液漏れ、及び集電体間の短絡を生じさせる原因になる。
【0006】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、積層方向に隣り合う箔状の集電体と、それら集電体の間に配置されたシール部とによって液体電解質を収容する密閉空間が形成されている蓄電装置に関して、集電体に生じる皺を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する蓄電装置は、正極集電体の第1面に正極活物質層が設けられた正極と、負極集電体の第1面に負極活物質層が設けられてなり、前記負極活物質層が前記正極の前記正極活物質層と対向するように配置された負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータと、前記正極と前記負極との間において、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記正極集電体及び前記負極集電体の各第1面に接着されることにより、前記正極と前記負極との間に液体電解質を収容する密閉空間を形成するシール部とを備える蓄電装置であって、前記正極集電体及び前記負極集電体の一方は、厚さ1μm以上50μm以下のアルミニウム箔であり、前記正極集電体及び前記負極集電体の他方は、厚さ1μm以上50μm以下のアルミニウム箔又は厚さ1μm以上25μm以下の銅箔であり、前記シール部は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成され、前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、接着強度が最大となる溶着温度であるピークトップ温度が135℃以下である。
【0008】
上記蓄電装置において、前記正極集電体及び前記負極集電体の他方は、厚さ1~25μmの銅箔であることが好ましい。
上記蓄電装置において、前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、線膨張率が25×10-5/℃以下であることが好ましい。
【0009】
上記蓄電装置において、前記正極と、前記負極と、前記セパレータと、が繰り返し積層された構造を有し、前記正極集電体における前記第1面の反対側の第2面と、前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面とが接触していることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、積層方向に隣り合う箔状の集電体と、それら集電体の間に配置されたシール部とによって液体電解質を収容する密閉空間が形成されている蓄電装置に関して、集電体に生じる皺を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示す蓄電装置10は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。蓄電装置10は、例えば、ニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池等の二次電池である。蓄電装置10は、電気二重層キャパシタであってもよい。本実施形態では、蓄電装置10がリチウムイオン二次電池である場合を例示する。
【0013】
図1に示すように、蓄電装置10は、複数の蓄電セル20が積層方向にスタック(積層)されたセルスタック30(積層体)を含んで構成されている。以下では、複数の蓄電セル20の積層方向を単に積層方向という。各蓄電セル20は、正極21と、負極22と、セパレータ23と、シール部24とを備える。
【0014】
正極21は、正極集電体21aと、正極集電体21aの第1面21a1に設けられた正極活物質層21bとを備える。積層方向から見た平面視(以下、単に平面視という。)において、正極活物質層21bは、正極集電体21aの第1面21a1の中央部に形成されている。平面視における正極集電体21aの第1面21a1の周縁部は、正極活物質層21bが設けられていない正極未塗工部21cとなっている。正極未塗工部21cは、平面視において正極活物質層21bの周囲を囲むように配置されている。
【0015】
負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22aの第1面22a1に設けられた負極活物質層22bとを備える。平面視において、負極活物質層22bは、負極集電体22aの第1面22a1の中央部に形成されている。平面視における負極集電体22aの第1面22a1の周縁部は、負極活物質層22bが設けられていない負極未塗工部22cとなっている。負極未塗工部22cは、平面視において正極活物質層21bの周囲を囲むように配置されている。
【0016】
正極21及び負極22は、正極活物質層21b及び負極活物質層22bが積層方向において互いに対向するように配置されている。つまり、正極21及び負極22の対向する方向は積層方向と一致している。負極活物質層22bは、正極活物質層21bよりも一回り大きく形成されており、積層方向からみた平面視において、正極活物質層21bの形成領域の全体が負極活物質層22bの形成領域内に位置している。
【0017】
正極集電体21aは、第1面21a1とは反対側の面である第2面21a2を有する。正極21は、正極集電体21aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。負極集電体22aは、第1面22a1とは反対側の面である第2面22a2を有する。負極22は、負極集電体22aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。
【0018】
セパレータ23は、正極21と負極22との間に配置されて、正極21と負極22とを隔離することで両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオン等の電荷担体を通過させる部材である。
【0019】
セパレータ23は、例えば、液体電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ23を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ23は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0020】
シール部24は、正極21の正極集電体21aの第1面22a1と、負極22の負極集電体22aの第1面22a1との間、かつ正極集電体21a及び負極集電体22aよりも外周側に配置され、正極集電体21a及び負極集電体22aの両方に接着されている。シール部24は、正極集電体21aと負極集電体22aとの間を絶縁することによって、集電体間の短絡を防止する。
【0021】
シール部24は、平面視において、正極集電体21a及び負極集電体22aの周縁部に沿って延在するとともに、正極集電体21a及び負極集電体22aの周囲を取り囲む枠状に形成されている。シール部24は、正極集電体21aの第1面21a1の正極未塗工部21cと、負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cとの間に配置されている。
【0022】
蓄電セル20の内部には、枠状のシール部24、正極21及び負極22によって囲まれた密閉空間Sが形成されている。密閉空間Sには、セパレータ23及び液体電解質が収容されている。なお、セパレータ23の周縁部分は、シール部24に埋まった状態とされている。
【0023】
シール部24は、正極21及び負極22との間の密閉空間Sを封止することにより、密閉空間Sに収容された液体電解質の外部への透過を抑制し得る。また、シール部24は、蓄電装置10の外部から密閉空間S内への水分の侵入を抑制し得る。さらに、シール部24は、例えば、充放電反応等により正極21又は負極22から発生したガスが蓄電装置10の外部に漏れることを抑制し得る。
【0024】
セルスタック30は、複数の蓄電セル20が、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とが接触するように重ね合わされた構造を有する。これにより、セルスタック30を構成する複数の蓄電セル20が直列に接続されている。
【0025】
ここで、セルスタック30においては、積層方向に隣り合う二つの蓄電セル20により、互いに接する正極集電体21a及び負極集電体22aを一つの集電体とみなした疑似的なバイポーラ電極25が形成される。疑似的なバイポーラ電極25は、正極集電体21a及び負極集電体22aが重ね合わされた構造の集電体と、その集電体の一方側の面に形成された正極活物質層21bと、他方側の面に形成された負極活物質層22bとを含む。
【0026】
各蓄電セル20のシール部24は、正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも外側に延びる外周部分24aを有している。外周部分24aは、積層方向から見て正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも積層方向に直交する方向に突出している。積層方向に隣り合う蓄電セル20は、それぞれのシール部24の外周部分24a同士が接着されることにより一体化している。隣り合うシール部24同士を接着する方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。
【0027】
蓄電装置10は、セルスタック30の積層方向においてセルスタック30を挟むように配置された、正極通電板40及び負極通電板50からなる一対の通電体を備える。正極通電板40及び負極通電板50は、それぞれ、導電性に優れた材料で構成される。
【0028】
正極通電板40は、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に電気的に接続される。負極通電板50は、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に電気的に接続される。
【0029】
正極通電板40及び負極通電板50のそれぞれに設けられた端子を通じて蓄電装置10の充放電が行われる。正極通電板40を構成する材料としては、例えば、正極集電体21aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。正極通電板40は、セルスタック30に用いられた正極集電体21aよりも厚い金属板で構成してもよい。負極通電板50を構成する材料としては、例えば、負極集電体22aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。負極通電板50は、セルスタック30に用いられた負極集電体22aよりも厚い金属板で構成してもよい。
【0030】
次に、正極集電体21a、負極集電体22a、正極活物質層21b、負極活物質層22b、液体電解質、及びシール部24の詳細について説明する。
<正極集電体及び負極集電体>
正極集電体21a及び負極集電体22aは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層21b及び負極活物質層22bに電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。
【0031】
正極集電体21a及び負極集電体22aの一方は、アルミニウム箔であり、正極集電体21a及び負極集電体22aの他方は、アルミニウム箔又は銅箔である。正極集電体21a及び負極集電体22aの好ましい一例としては、正極集電体21aをアルミニウム箔により構成するとともに、負極集電体22aを銅箔により構成した場合が挙げられる。
【0032】
上記アルミニウム箔の厚さは、1μm以上50μm以下であり、1μm以上20μm以下であることが好ましい。薄いアルミニウム箔を用いることにより、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくできる。また、蓄電装置10の積層方向の高さを低くできる。
【0033】
上記アルミニウム箔は、ヤング率と箔の厚さの積として算出される耐力が、例えば、70MPa・mm以上であることが好ましく、1050MPa・mm以下であることが好ましい。
【0034】
上記銅箔の厚さは、1μm以上25μm以下μmであり、1μm以上15μm以下であることが好ましい。薄い銅箔を用いることにより、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくできる。また、蓄電装置10の積層方向の高さを低くできる。
【0035】
上記銅箔は、ヤング率と箔の厚さの積として算出される耐力が、例えば、120MPa・mm以上であることが好ましく、1800MPa・mm以下であることが好ましい。
上記アルミニウム箔及び上記銅箔の表面は、公知の保護層により被覆されてもよいし、メッキ処理等の公知の方法により処理されていてもよい。
【0036】
なお、以下では、正極集電体21a及び負極集電体22aを特定しない場合に、単に集電体と記載することがある。
<正極活物質層及び負極活物質層>
正極活物質層21bは、リチウムイオンなどの電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む。正極活物質としては、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、ポリアニオン系化合物など、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、2種以上の正極活物質を併用してもよい。本実施形態において、正極活物質層21bはポリアニオン系化合物としてのオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を含む。
【0037】
負極活物質層22bは、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としてLi、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては天然黒鉛、人造黒鉛、あるいはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)又はソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。本実施形態において、負極活物質層22bは炭素系材料としての黒鉛を含む。
【0038】
正極活物質層21b及び負極活物質層22b(以下、単に活物質層ともいう。)はそれぞれ、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等をさらに含み得る。活物質層に含まれる成分又は当該成分の配合比及び活物質層の厚さは特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。活物質層の厚さは、例えば2~150μmである。
【0039】
導電助剤は、正極21又は負極22の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等である。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0040】
正極集電体21a及び負極集電体22aの表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法等の従来から公知の方法を用いてもよい。
正極21又は負極22の熱安定性を向上させるために、活物質層の表面に上記の耐熱層を設けてもよい。
【0041】
<シール部>
シール部24の厚さは、例えば、50μm以上1000μm以下であることが好ましく、100μm以上800μm以下であることがより好ましい。
【0042】
シール部24は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成される。熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の種類としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、変性ポリエチレン(変性PE)、変性ポリプロピレン(変性PP)、イソプレン、変性イソプレン、ポリブテン、変性ポリブテン、ポリブタジエンが挙げられる。変性ポリエチレンとしては、例えば、酸変性ポリエチレン、エポキシ変性ポリエチレンが挙げられる。変性ポリプロピレンとしては、例えば、酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリプロピレンが挙げられる。なお、上記のポリオレフィン系樹脂を二種以上組合せて用いてもよい。
【0043】
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、ピークトップ温度が135℃以下である。熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂を用いた熱溶着によりアルミニウム箔同士又はアルミニウム箔と銅箔とを接着した積層体の接着強度と、熱溶着時の温度である熱溶着温度との関係において、接着強度が最大となるときの熱溶着温度を意味する。接着強度は、180°ピール試験により得られる剥離強度を接着幅で除した値である。
【0044】
なお、シール部24により接着された正極集電体21aと負極集電体22aとの間の接着強度は、例えば、0.8N/mm以上であることが好ましく、1.0N/mm以上であることがより好ましい。
【0045】
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の融点は、例えば、70℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の線膨張率は、例えば、25×10-5/℃以下であることが好ましく、15×10-5/℃以下であることがより好ましい。上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の線膨張率が15×10-5/℃以下である場合には、集電体に生じる皺を抑制する効果が向上する。
【0046】
<液体電解質>
液体電解質としては、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質が挙げられる。電解質塩として、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒を使用できる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0047】
次に、本実施形態の蓄電装置10の製造方法について説明する。
蓄電装置10は、電極形成工程と、蓄電セル形成工程と、セルスタック形成工程と順に経ることにより製造される。
【0048】
<電極形成工程>
電極形成工程は、正極21を形成する正極形成工程と、負極22を形成する負極形成工程とを有する。
【0049】
正極形成工程は特に限定されるものではなく、正極集電体21a及び正極活物質層21bを備える正極21の形成に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、正極集電体21aとしてのアルミニウム箔の第1面21a1に対して、固化することにより正極活物質層21bとなる正極合材を所定厚みとなるように付着させた後、正極合材に応じた固化処理を行うことにより正極21を形成することができる。
【0050】
負極形成工程は特に限定されるものではなく、負極集電体22a及び負極活物質層22bを備える負極22の形成に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、負極集電体22aとしての銅箔の第1面22a1に対して、固化することにより負極活物質層22bとなる負極合材を所定厚みとなるように付着させた後、負極合材に応じた固化処理を行うことにより負極22を形成することができる。
【0051】
<蓄電セル形成工程>
蓄電セル形成工程では、まず、セパレータ23を間に挟んで正極活物質層21b及び負極活物質層22bが互いに積層方向に対向するように正極21及び負極22を配置するとともに、正極21と負極22の間、かつ正極集電体21a及び負極集電体22aよりも外周側にシール部24となるシール材を配置する。シール材としては、例えば、50μm以上1000μm以下の上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂シートを、シール部24の平面視形状と同形状に切り出したものを用いる。
【0052】
その後、シール材を135℃以下の温度、好ましくは、シール材を構成する上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度となるように加熱して、正極21、負極22、及びセパレータ23とシール材とを熱溶着により接着する。これにより、正極21、負極22、セパレータ23、及びシール部24が一体化された組立体が形成される。
【0053】
次に、シール部24の一部に設けられた注入口を通じて組立体の内部の密閉空間Sに液体電解質を注入した後、注入口を封止する。これにより、蓄電セル20が形成される。
<セルスタック形成工程>
セルスタック形成工程では、まず、複数の蓄電セル20を、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを向い合せるように重ねて積層する。その後、積層方向に隣り合う蓄電セル20におけるシール部24の外周部分24a同士を接着することにより複数の蓄電セル20を一体化する。
【0054】
次に、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に対して、正極通電板40を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。同様に、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に対して、負極通電板50を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。
【0055】
本実施形態によれば、以下に記載する効果を得ることができる。
(1)蓄電装置10は、正極集電体21a及び正極活物質層21bを有する正極21と、負極集電体22a及び負極活物質層22bを有する負極22と、正極活物質層21bと負極活物質層22bとの間に配置されたセパレータ23と、正極21と負極22との間に液体電解質を収容する密閉空間Sを形成するシール部24とを備える。
【0056】
正極集電体21a及び負極集電体22aの一方は、厚さ1μm以上50μm以下のアルミニウム箔である。正極集電体21a及び負極集電体22aの他方は、厚さ1μm以上50μm以下のアルミニウム箔又は厚さ1μm以上25μm以下の銅箔である。シール部24は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成される。熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、接着強度が最大となる溶着温度であるピークトップ温度が135℃以下である。
【0057】
上記構成では、集電体の構成材料と、シール部24の構成材料の組み合わせとして、アルミニウム箔と、ピークトップ温度が135℃以下である熱可塑性ポリオレフィン系樹脂とを用いている。これにより、耐力の小さい箔状の集電体を採用した場合に、シール部24の体積変化に起因して集電体に生じる皺を抑制できる。集電体に生じる皺を抑制することにより、集電体同士の短絡、及びシール部24により封止されている密閉空間Sからの液体電解質の液漏れを抑制する効果が得られる。
【0058】
(2)シール部24を構成する熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、線膨張率が25×10-5/℃以下である。
上記構成によれば、正極集電体21a及び負極集電体22aに生じる皺を抑制する効果が向上する。
【0059】
(3)正極21と、負極22と、セパレータ23と、が繰り返し積層された構造を有し、正極集電体21aにおける第1面21a1の反対側の第2面21a2と、負極集電体22aにおける第1面22a1の反対側の第2面22a2とが接触している。
【0060】
上記構成の蓄電装置10の場合、正極集電体21a及び負極集電体22aに生じた皺は、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2との接触部分における密着性の低下、及び密着性の低下に伴う接触抵抗の増大を生じさせる原因になる。したがって、正極集電体21a及び負極集電体22aに生じる皺を抑制することにより、集電体間の短絡及び液体電解質の液漏れを抑制する効果に加えて、電池性能の低下を抑制する効果も得られる。
【0061】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
〇正極集電体21a及び正極活物質層21bの平面視形状は特に限定されるものではない。矩形状等の多角形状であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。負極集電体22a及び負極活物質層22bについても同様である。
【0062】
〇シール部24の平面視形状は特に限定されるものではなく、矩形状等の多角形状であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。
○正極通電板40と正極集電体21aとの間に、両部材間の導電接触を良好にするために、正極集電体21aに密着する導電層を配置してもよい。導電層としては、例えば、アセチレンブラック又はグラファイト等のカーボンを含む層、Au等を含むメッキ層などの正極集電体21aよりも低い硬度を有する層が挙げられる。また、負極通電板50と負極集電体22aとの間に同様の導電層を配置してもよい。
【0063】
〇蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は特に限定されない。蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は、1であってもよい。
〇正極集電体21aの第2面21a2に、正極活物質層21b又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。また、負極集電体22aの第2面22a2に、正極活物質層21b又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。
【0064】
次に、上記実施形態及び変更から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記蓄電装置の製造方法であって、前記セパレータを間に挟んで前記正極活物質層及び前記負極活物質層が互いに積層方向に対向するように前記正極及び前記負極を配置するとともに、前記正極と前記負極の間、かつ前記正極集電体及び前記負極集電体よりも外周側に、前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成されるシール材を配置し、135℃以下の温度で前記シール材を熱溶着させることにより前記シール部を形成する前記蓄電装置の製造方法。
【実施例】
【0065】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度の測定)
縦150mm×横90mmの長方形状に切り出した厚さ15μmのアルミニウム箔、及び同形状の厚さ10μmの銅箔を用意した。アルミニウム箔の上に、縦150mm×横15mm×厚さ100μmの長方形状のシール材をアルミニウム箔の端部に揃えるように配置した後、更にその上に、アルミニウム箔の端部に揃えるように銅箔を配置することにより積層体を得た。シール材としては、下記の酸変性ポリエチレン樹脂(PE-A,PE-B)及び酸変性ポリプロピレン樹脂(PP-A,PP-B)のいずれかからなる樹脂シートを用いた。
【0066】
PE-A:融点95℃、線膨張率22×10-5/℃の酸変性ポリエチレン樹脂
PE-B:融点85℃、線膨張率13×10-5/℃の酸変性ポリエチレン樹脂
PP-A:融点160℃、線膨張率10×10-5/℃の酸変性ポリプロピレン樹脂
PP-B:融点120℃、線膨張率12×10-5/℃の酸変性ポリプロピレン樹脂
次に、インパルス式シーラーを用いてシール材を加熱することにより、アルミニウム箔と銅箔とをシール材により接着した。インパルス式シーラーによる加熱は、表1及び表2に示す溶着温度となるように電流を設定し、9.9秒間、0.5Mpaの圧力で行った。
【0067】
接着された積層体を、接着された端部から直交する方向に15mmの幅で切断して得られた断片を測定サンプルとした。測定サンプルのアルミニウム箔と銅箔とを引き剥がす形式にて、180°ピール試験を室温で行うことにより、剥離強度を測定した。そして、下記式(1)に基づいて接着強度を算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0068】
接着強度(N/mm)=剥離強度(N)÷15mm …(1)
次に、算出した接着強度と溶着温度とをプロットしたグラフ(図示略)から、各熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度Tpを算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0069】
【0070】
【表2】
(皺及び短絡の評価)
縦600mm×横60mmの長方形状に切り出した厚さ15μmのアルミニウム箔、及び同形状の厚さ10μmの銅箔を用意した。アルミニウム箔の上に、縦600mm×横18mm×厚さ100μmの長方形状のシール材をアルミニウム箔の端部に揃えるように配置した後、更にその上に、アルミニウム箔の端部に揃えるように銅箔を配置することにより積層体を得た。用いたシール材の種類は、表3に示すとおりである。
【0071】
次に、インパルス式シーラーを用いて、シール材を構成する熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度となるようにシール材を加熱することにより、アルミニウム箔と銅箔とをシール材により接着した。接着された積層体から縦100mm×横60mmの範囲を切り出して得られた断片を測定サンプルとした。
【0072】
測定サンプルのアルミニウム箔及び銅箔の各表面を目視にて観察し、各表面に生じた皺の数を計測した。また、測定サンプルのアルミニウム箔及び銅箔に端子を接続して端子間の電圧を測定することにより、電極抵抗を求めた。それらの結果を表3に示す。なお、表3の電気抵抗欄における「R.O.」は、定格出力であることを示す。
【0073】
(液漏れ試験)
縦150mm×横150mmの正方形状に切り出した厚さ10μm又は15μmのアルミニウム箔(Al箔)、及び同形状の厚さ10μm又は30μmの銅箔を用意した。アルミニウム箔の上に、縦150mm×横150mm×幅10mmの正方形枠状のシール材、及び銅箔を順に積層することにより積層体を得た。用いたシール材の種類は、表3に示すとおりである。
【0074】
次に、積層体の3辺における幅10mmの範囲を、インパルス式シーラーを用いて、シール材を構成する熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度となるようにシール材を加熱することにより接着した。未接着の一辺側から積層体内に液体電解質3mlを加えた後、未接着の一辺を真空封止することにより測定サンプルを作製した。液体電解質としては、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートを体積比30:30:40で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度となるように溶解させた液体電解質を用いた。
【0075】
測定サンプルを60℃にて7日間、放置した。放置の前後において測定サンプルの質量を測定して、放置の前後における測定サンプルの質量差を算出し、この値を液体電解質の液漏れ量とした。その結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
表3に示すように、シール部を構成する樹脂として、ピークトップ温度Tpが135℃を超える樹脂を用いた試験例3及び試験例4では、アルミニウム箔及び銅箔に多くの皺が確認されるとともに、液体電解質の液漏れが確認された。また、試験例3では、アルミニウム箔と銅箔との間に短絡が生じていた。
【0077】
一方、ピークトップ温度Tpが135℃以下の樹脂を用いた試験例1及び試験例2では、試験例3及び試験例4と比較して、アルミニウム箔及び銅箔に生じる皺が大きく低減した。特に、線膨張率が15×10-5/℃以下の樹脂を用いた試験例2では、皺が発生しなかった。また、試験例1及び試験例2では、短絡及び液体電解質の液漏れは確認されなかった。また、詳細な結果は省略するが、ピークトップ温度Tpが130℃であるPP-Bを用いて同様の試験を行った場合にも、アルミニウム箔及び銅箔に生じる皺が大きく低減されるとともに、短絡及び液体電解質の液漏れは確認されなかった。
【符号の説明】
【0078】
S…密閉空間、10…蓄電装置、20…蓄電セル、21…正極、21a…正極集電体、21b…正極活物質層、22…負極、22a…負極集電体、22b…負極活物質層、23…セパレータ、24…シール部、30…セルスタック、40…正極通電板、50…負極通電板。