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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】自律移動体
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230822BHJP
   B60P 1/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G05D1/02 Y
B60P1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020175822
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067224
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】竹上 功起
(72)【発明者】
【氏名】村井 誠
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-125350(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046600(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/058720(WO,A1)
【文献】特開2019-215588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
B60P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体本体と、
前記移動体本体に設けられる複数の駆動輪と、
前記駆動輪を駆動する走行駆動装置と、
追従対象を検知する追従対象検知体と、
前記追従対象検知体により検知された前記追従対象を追従するように前記走行駆動装置を制御する制御装置と、を備え、
全方向への走行および旋回を可能とする自律移動体において、
前記走行駆動装置は、前記駆動輪のそれぞれに設けられた駆動モータを備え、
前記移動体本体に設けられる荷台と、
前記駆動モータのトルクを検出するトルク検出部と、を備え、
前記制御装置は、前記トルク検出部により検出される前記駆動モータのトルクに基づいて前記荷台における荷の偏りより生じるトルクの差異を求め、
前記トルクの差異が予め設定された閾値以上のとき、前記移動体本体の旋回によりトルクの小さい前記駆動モータの前記駆動輪が前記追従対象側に向かうように前記走行駆動装置を制御することを特徴とする自律移動体。
【請求項2】
前記制御装置は、前記移動体本体の移動および前記移動体本体の移動停止後の旋回の少なくとも一方により前記トルクの差異を求めることを特徴とする請求項1記載の自律移動体。
【請求項3】
トルクの小さい前記駆動モータの駆動輪が前記追従対象側に向かうように前記移動体本体が旋回するとき、前記移動体本体の旋回を周囲に報知する報知器を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の自律移動体。
【請求項4】
前記移動体本体の移動停止後の旋回は、前記駆動モータのトルクが検出可能な限定的旋回とすることを特徴とする請求項2記載の自律移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自律移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
自律移動体に関する従来技術として、例えば、特許文献1に開示された追従移動装置が知られている。特許文献1に開示された追従移動装置は、先行移動体を検出する先行移動体検出部と、先行移動体検出部により検出された先行移動体との追従距離を可変に制御する追従距離制御部と、を備えている。そして、追従移動装置は、追従距離制御部により制御された追従距離に基づき先行移動体を追従する。
【0003】
ところで、この種の追従移動装置を荷搬送のための自律移動体とし、先行移動体を荷の取り出しを行う作業者とし、自律移動体が作業者を追従して荷を搬送する場合がある。この場合、自律移動体には荷を載置させるための荷台が設けられており、作業者は、例えば、荷棚から取り出した荷を自律移動体の荷台に置き、荷の取り出しが終わると次の作業場へ移動する。自律移動体は荷の取り出しの際には作業者の近傍で待機し、作業者が移動すると作業者に追従して移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-134221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業者が棚等から荷を取り出して自律移動体の荷台に荷を載置するとき、作業者は荷台において自分と近い位置に荷を載置しがちであり、この場合、荷台において作業者から遠い位置に空スペースができる。荷台において作業者から遠い位置の空スペースに荷を載置することは、荷台の高さや広さによっては作業者が手を伸ばすことが必要となるやり難い作業となり、作業性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、荷台に対する作業性を向上することができる自律移動体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、移動体本体と、前記移動体本体に設けられる複数の駆動輪と、前記駆動輪を駆動する走行駆動装置と、追従対象を検知する追従対象検知体と、 前記追従対象検知体により検知された前記追従対象を追従するように前記走行駆動装置を制御する制御装置と、を備え、全方向への走行および旋回を可能とする自律移動体において、前記走行駆動装置は、前記駆動輪に設けた駆動モータを備え、前記移動体本体に設けられる荷台と、前記駆動モータのトルクを検出するトルク検出部と、を備え、前記制御装置は、前記トルク検出部により検出される前記駆動モータのトルクに基づいて前記荷台における荷の偏りより生じるトルクの差異を求め、前記トルクの差異が予め設定された閾値以上のとき、前記移動体本体の旋回によりトルクの小さい前記駆動モータの駆動輪が前記追従対象側に向かうように前記走行駆動装置を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明では、制御装置は、トルク検出部により検出される駆動モータのトルクに基づいて荷台における荷の偏りより生じるトルクの差異を求め、トルクの差異が予め設定された閾値以上のとき、移動体本体の旋回によりトルクの小さい駆動モータの駆動輪が追従対象側に向かうように走行駆動装置を制御する。このため、荷台において追従対象に近い位置に荷が載置され、追従対象から遠い位置に空スペースが存在するという荷の偏りが生じていても、荷台における空きスペースが移動体本体の旋回によって追従対象と近くすることができる。したがって、追従対象が、例えば、作業者であれば荷台に対する作業性が向上する。また、荷台の偏り有無を駆動モータのトルクによって判別することができるので、荷の偏りの有無を判別するための手段を別に設ける必要がなく、製作コストを抑制できる。
【0009】
また、上記の自律移動体において、前記制御装置は、前記移動体本体の移動および前記移動体本体の移動停止後の旋回の少なくとも一方により前記トルクの差異を求める構成としてもよい。
この場合、移動体本体の移動や移動体本体の移動停止後の旋回によってトルクの差異を求めるので、移動体本体の移動中や移動体本体の移動停止後の旋回中に荷台における荷の偏りの有無を判別することができる。
【0010】
また、上記の自律移動体において、トルクの小さい前記駆動モータの駆動輪が前記追従対象側に向かうように前記移動体本体が旋回するとき、前記移動体本体の旋回を周囲に報知する報知器を備える構成としてもよい。
この場合、トルクの小さい前記駆動モータの駆動輪が追従対象側に向かうように移動体本体が旋回するとき、報知器が移動体本体の旋回を周囲に報知することで、自律移動体の周囲では移動体本体の旋回を把握できる。
【0011】
また、上記の自律移動体において、前記移動体本体の移動停止後の旋回は、前記駆動モータのトルクが検出可能な限定的旋回とする構成としてもよい。
この場合、移動体本体の移動停止後の旋回は、駆動モータのトルクを検出可能な限定的旋回とすることから、移動体本体の限定的旋回によって駆動モータのトルクを検出することができる。したがって、荷台における荷の偏りを判別するために必要な消費エネルギーを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷台に対する作業性を向上することができる自律移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る自律移動体の概略側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る自律移動体の概略平面図である。
図3】本発明の実施形態に係る自律移動体の概略構成を示す構成図である。
図4】自律移動体の荷台における荷の偏りに基づく移動体本体の旋回の制御を示すフロー図である。
図5】(a)は荷台の空きスペースが作業者から遠い状態を示す平面図であり、(b)は旋回により荷台の空きスペースが作業者に近くなった状態を示す平面図である。
図6】変形例に係る自律移動体の荷台における荷の偏りに基づく移動体本体の旋回の制御を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る自律移動体について図面を参照して説明する。本実施形態の自律移動体は、追従対象に追従して荷を無人で搬送する荷搬送用の追従型自律移動体である。また、本実施形態の追従対象は、荷を取り扱う作業者である。
【0015】
図1図2に示すように、自律移動体10は、複数の駆動輪12有する移動体本体11を備えている。移動体本体11の上部には荷台13が設けられている。駆動輪12は全方向移動車輪である。全方向移動車輪とは、車軸(図示せず)と一体回転するほか、車軸の軸線A方向への移動を可能とする車輪であり、例えば、オムニホイールである。本実施形態では、移動体本体11には4つの駆動輪12が設けられている。なお、4つの駆動輪12を区別する場合には、第1の駆動輪12A、第2の駆動輪12B、第3の駆動輪12C、第4の駆動輪12Dと表記する。第1の駆動輪12A、第2の駆動輪12Bは移動体本体11における正面側の駆動輪であり、第3の駆動輪12C、第4の駆動輪12Dは移動体本体11における後面側の駆動輪である。
【0016】
自律移動体10は、駆動輪12の回転数および回転方向が制御されることにより、移動体本体11の向きを維持した状態での全方向への移動が可能である。また、自律移動体10は、移動体本体11の向きを変更しながらの移動が可能であるほか、移動しない状態での移動体本体11の向きの変更が可能であり、例えば、全く移動のない旋回である超信地旋回が可能である。なお、ここでいう「全方向」とは、移動体本体11が走行する路面上や床面上での移動方向を示す。
【0017】
移動体本体11の上部に設けた荷台13は、略長方形の平坦面にて形成されている。荷台13の長手方向は各車軸の軸線Aと角度45°を成す。図1図2では、複数の荷Wを仮想線により示す。荷台13には、荷Wを荷台13に直接するようにしてもよいが、折り畳みコンテナボックスや段ボール箱といった荷Wを収容する収容箱を荷台13に載置して、荷Wを収容箱に収容するようにしてもよい。
【0018】
図3に示すように、自律移動体10は、駆動輪12を駆動させる走行駆動装置14を備える。走行駆動装置14は、駆動輪12を回転させるための駆動モータ15と、駆動モータ15を駆動するモータドライバ16と、を備えている。駆動モータ15およびモータドライバ16は、駆動輪12毎に設けられる。このため、駆動モータ15およびモータドライバ16の数は駆動輪12の数と同じである。モータドライバ16は、制御装置17からの指令に応じて駆動モータ15の回転数を制御する。制御装置17は、モータドライバ16を介して駆動モータ15の回転数を制御することで、移動体本体11の進行方向を制御可能である。また、モータドライバ16は、駆動モータ15に流れる電流値を検出することが可能であり、駆動モータ15のトルクは駆動モータ15に流れる電流値によって検知可能である。したがって、モータドライバ16は、駆動モータ15のトルクを検出するトルク検出部に相当する。駆動モータ15のトルクは軸線Aを回転中心とする回転におけるトルクである。因みに、モータドライバ16は、駆動モータ15の電流値を常に検出する。
【0019】
移動体本体11にはセンサ18および制御装置17が搭載されている。センサ18としては、制御装置17に障害物を検出させることが可能なものが用いられる。本実施形態のセンサ18は、レーザーレンジファインダ(LRF)である。レーザーレンジファインダは、レーザーを周辺に照射し、レーザーが当たった部分から反射された反射光を受信することで距離を測定する距離計である。本実施形態では、水平方向への照射角度を変更しながらレーザーを照射する二次元のレーザーレンジファインダが用いられている。
【0020】
本実施形態では、図1図2に示すように、センサ18が移動体本体11の正面および後面にそれぞれ設けられている。センサ18により検出された障害物のうち、特定の条件を満たす障害物を障害物とせずに追従すべき追従対象とする。したがって、センサ18は追従対象検知体に相当する。本実施形態の追従対象は、図1図2に示す自律移動体10に対して荷Wを取り扱う作業者Hである。
【0021】
図3に示すように、制御装置17は、CPU20と、RAMおよびROM等からなる記憶部21と、を備えている。制御装置17は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)を備えていてもよい。制御装置17は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。
【0022】
記憶部21は、処理をCPU20に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部21には、移動体本体11を制御するための種々のプログラムが記憶されているほか、移動体本体11の移動を行なう移動空間に関する環境地図が記憶されている。環境地図は、移動体本体11が移動空間を移動しながら作成する地図である。環境地図を使って移動体本体11の自己位置推定を行なう技術は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と称される。記憶部21、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆるものを含む。
【0023】
制御装置17には報知器22が接続されている。報知器22は自律移動体10が作業者Hの近傍で旋回するとき等、特定の条件を満たしたときに周囲に対して警報を出す機器である。報知器22が出す警報は音声あるいは発光による。
【0024】
ところで、荷台13において作業者Hに近い側に荷Wが集中し、作業者Hから遠い側に荷Wを載置できる空スペースが生じているといった荷Wの偏りが生じているとき、自律移動体10は一方へ向けて旋回して荷台13の空スペースを作業者Hに近くにする機能を備えている。制御装置17の記憶部21には、荷台13における荷Wの偏りに応じて自律移動体10を旋回させるためのプログラムが格納されている。荷台13における荷Wの偏りに応じて自律移動体10を旋回させるための手順は、図4のフロー図に示す。
【0025】
図4に示すように、まず、制御装置17は自律移動体10が停止したか否かを判別する(ステップS01)。自律移動体10が停止したと制御装置17が判別すると、制御装置17は、自律移動体10を一方へ向けて旋回させる(ステップS02)。ステップS01で自律移動体10が停止していないと判別されるとステップS01を繰り返す。次に、自律移動体10の旋回時の駆動モータ15の電流値を検出する(ステップS03)。ステップS03では各駆動モータ15に流れる電流値が各モータドライバ16によってそれぞれ検出される。次に、各電流値に基づいて各駆動モータ15のトルクを算出する(ステップS04)。電流値の検出のための旋回は、限定的旋回であり、各駆動モータ15のトルクを算出できる程度の範囲でよく、例えば、旋回角度は10°程度でよい。
【0026】
次に、制御装置17は、駆動モータ15のトルクの差異としてのトルクの比率Rが閾値Rth以上であるか(R≧Rth)否かを判別する(ステップS05)。自律移動体10において4個ある駆動輪12A~12Dの駆動モータ15のトルクの比率Rとしては、第1の駆動輪12Aの駆動モータ15のトルクT1と、第2の駆動輪12Bの駆動モータ15のトルクT2との比率R(T1/T2)と、第1の駆動輪12Aの駆動モータ15のトルクT1と、第3の駆動輪12Cの駆動モータ15のトルクT3との比率R(T1/T3)と、第1の駆動輪12Aの駆動モータ15のトルクT1と、第4の駆動輪12Dの駆動モータ15のトルクT4との比率R(T1/T4)と、第2の駆動輪12Bの駆動モータ15のトルクT2と、第3の駆動輪12Cの駆動モータ15のトルクT3との比率R(T2/T3)と、第2の駆動輪12Bの駆動モータ15のトルクT2と、第4の駆動輪12Dの駆動モータ15のトルクT4との比率R(T2/T4)と、第3の駆動輪12Cの駆動モータ15のトルクT3と、第4の駆動輪12Dの駆動モータ15のトルクT4との比率R(T3/T4)と、が考えられる。
【0027】
本実施形態における判別の対象となるトルクの比率Rは、第1の駆動輪12Aの駆動モータ15のトルクT1と、第4の駆動輪12Dの駆動モータ15のトルクT2との比率R(T1/T4)である。同様に、制御装置17は、第2の駆動輪12Bの駆動モータ15のトルクT2と第3の駆動輪12CのトルクT3との比率R(T2/T3)が閾値Rth以上であるかを判別する。つまり、判別の対象となるトルクの比率Rは、正面側の駆動輪12A(12B)の駆動モータ15と後面側の駆動輪12C(12D)の駆動モータ15とのトルクの比率である。なお、トルクの比率R(T1/T4)およびトルクの比率R(T2/T3)の両方を算出してもよく、いずれか一方のトルクの比率Rを算出するようにしてもよい。荷台13に偏りがある場合、荷台13において荷Wが集中している側の駆動輪12の駆動モータ15では旋回時のトルクTが大きくなり、荷台13における空スペース側の駆動輪12の駆動モータ15では旋回時のトルクTが小さくなる。なお、閾値Rthは予め設定される値であり記憶部21に記憶されている。
【0028】
ステップS05では、制御装置17がトルクの比率Rが閾値Rth以上である(R≧Rth)と判別すると、荷台13の向きを変更するようにトルクの小さい駆動モータ15の駆動輪12が作業者H側に向かう一方へ反転(旋回)をさせる(ステップS06)。具体的には、荷台13における空スペースを作業者Hに近くするとともに荷Wが集中している側を作業者Hから遠くなるように自律移動体10を180°反転して旋回させる。なお、このとき、報知器22は旋回とともに警報を出す。自律移動体10の旋回が終了するとステップS01へ戻る。なお、ステップS05で制御装置17が、駆動モータ15のトルクの比率Rが閾値Rth以上でない(R<Rth)と判別すると、電流値の検出のための旋回とは逆方向である他方へ向けて旋回させ、自律移動体10を限定的旋回前の原位置に復帰させる(ステップS07)。
【0029】
次に、本実施形態の自律移動体10の動作について説明する。自律移動体10は、作業者Hを追従対象として認識し、作業者Hが移動すると、作業者Hに追従して走行する。制御装置17は、自律移動体10と障害物とが接触しないように、自律移動体10と障害物との距離を所定値以上に保つ障害物回避処理を行う。
【0030】
作業者Hが作業場で留まって荷Wを取り扱うとき、自律移動体10は作業者Hの近傍で待機する。図5(a)に示すように、作業者Hは荷Wを荷台13に載置するが、例えば、荷台13において作業者Hに近い側に荷Wが集中して載置され、荷台13において作業者Hに遠い側に空スペースEが存在することがある。この場合、平面視における重心の位置が自律移動体10の中心から作業者Hに近い側に移動する。このため、各駆動輪12が受ける荷重は重心の位置に応じて異なる。荷Wが偏った状態で一旦、自律移動体10が移動(荷を取り扱うときの微小な移動も含む)して停止すると、駆動モータ15の電流値を検知するために旋回する。このとき、荷台13において作業者Hに近い側に荷Wが集中して載置され、荷台13において作業者Hに遠い側に空スペースEが存在しているので、作業者Hに近い側の駆動モータ15と作業者Hと遠い側の駆動モータ15とはトルクの差が生じる。
【0031】
駆動モータ15のトルクの比率Rが閾値Rth以上である場合には、自律移動体10は180°反転して旋回される。図5(b)に示すように、旋回後の自律移動体10では、荷台13における空スペースEを作業者Hと近くするとともに荷Wが集中している側を作業者Hから遠くなる。このとき、移動体本体11の後面が作業者Hと対向するが、後面のセンサ18によって作業者Hが検出され、移動体本体11の後面が作業者Hと対向するように作業者Hに追従して移動する。駆動モータ15のトルクの比率Rが閾値Rth以上ではない場合には、電流値の検出のための旋回方向とは逆方向へ旋回し、自律移動体10は原位置へ復帰する。荷台13への荷Wの載置作業が終了し、作業者Hが移動を開始すると、自律移動体10は作業者Hに追従して走行を開始する。
【0032】
本実施形態の自律移動体10は以下の効果を奏する。
(1)制御装置17は、トルク検出部としてのモータドライバ16により検出される駆動モータ15のトルクに基づいて荷台13における荷Wの偏りより生じるトルクの差異としてのトルクの比率Rを求める。求められたトルクの比率Rが予め設定された閾値Rth以上のとき、制御装置17は、移動体本体11の旋回によりトルクの小さい駆動モータ15の駆動輪12が作業者Hに向かうように走行駆動装置14を制御する。このため、荷台13において作業者Hに近い位置に荷Wが載置され、作業者Hから遠い位置に空スペースEが存在するという荷Wの偏りが生じていても、荷台13における空きスペースを移動体本体11の旋回によって作業者Hと近くすることができる。したがって、作業者Hの荷台13に対する作業性が向上する。また、荷台13の偏り有無を駆動モータ15のトルクによって判別することができるので、荷Wの偏りの有無を判別するための手段を別に設ける必要がなく、自律移動体10の製作コストを抑制できる。また、作業者Hの疲労軽減も期待できる。
【0033】
(2)制御装置17が移動体本体11の移動停止後の旋回によりトルクの比率Rを求めるので、移動体本体11の停止後の旋回中に荷台13における荷Wの偏りの有無を判別することができる。
【0034】
(3)トルクの小さい駆動モータ15の駆動輪12が作業者H側に向かうように移動体本体11が旋回するとき、移動体本体11の旋回を周囲に報知することで、自律移動体10の周囲では移動体本体11の旋回を把握できる。
【0035】
(4)移動体本体11の移動停止後の旋回は、駆動モータ15のトルクを検出可能な旋回範囲とすることから、移動体本体11の限定的旋回によって駆動モータ15のトルクを検出することができる。したがって、荷台13における荷Wの偏りを判別するために必要な消費エネルギーを抑制することができる。
【0036】
(変形例)
次に、変形例について説明する。変形例に係る自律移動体10は、停止後の旋回だけでなく移動時における移動体本体11の旋回によって、駆動モータ15の電流値を求めて、駆動モータ15のトルクを求める。移動時における旋回としては、自律移動体10が進路変更のために移動時に旋回する経路を走行する場合が相当する。この場合、図6に示すフロー図により荷台13における荷Wの偏りに応じて自律移動体10を旋回させる。
【0037】
図6に示すフロー図では、制御装置17が、自律移動体10が移動中に旋回する経路(以下「特定旋回経路」)を走行しているか否かを判別する(ステップS101)。制御装置17は、自律移動体10が移動中に旋回していることを検知できるので、特定旋回経路を走行しているか否かは判別することができる。そして、特定旋回経路では、進行方向を変更するための旋回が行われるので駆動モータ15の荷Wの偏りを示すトルクを求めることができる。次に、特定旋回経路における駆動モータ15の電流値を検出する(ステップS102)。因みに、モータドライバ16は駆動モータ15の電流値を常に検出する。ステップS101で自律移動体10が特定旋回経路を走行していないと判別されるとステップS101を繰り返す。
【0038】
制御装置17が、自律移動体10が特定旋回経路を走行しているか否かを判別すると、検出された電流値に基づきトルクを算出する(ステップS103)。次に、駆動モータ15のトルクの比率Rが閾値Rth以上であるか(R≧Rth)否かを判別する(ステップS104)。制御装置17が、トルクの比率Rが閾値Rth以上である(R≧Rth)と判別すると、自律移動体10が停止したときに荷台13の向きを変更するようにトルクの小さい駆動モータ15の駆動輪12が作業者H側に向かう一方へ向かう反転(旋回)をさせる(ステップS105)。ステップS105で制御装置17が、駆動モータ15のトルクの比率Rが閾値Rth以上でない(R<Rth)と判別すると、ステップS101へ戻る。
【0039】
本変形例では、停止後の旋回により荷台13における荷Wの偏りの有無を判別できるほか、移動中の特定旋回経路において荷台13における荷Wの偏りの有無を判別できる。移そして、トルクの比率Rが閾値Rth以上である(R≧Rth)であって、移動後に停止したとき、トルクの小さい駆動モータ15の駆動輪12が作業者H側に向かう一方へ向かう反転(旋回)をさせることができる。
【0040】
本発明は、上記の実施形態(変形例を含む)に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0041】
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、4個の駆動輪を備えた自律移動体について例示したが、駆動輪は4輪に限定されない。駆動輪は3輪以上であればよい。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、トルクの差異としてトルクの比率を用いたが、これに限らない。トルクの差異は、例えば、トルク差(量)であってもよい。この場合、トルク差に対する閾値を設定する。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、荷の偏りの有無を判別するために停止後に旋回するとしたが、これに限らない。例えば、移動中の特定旋回経路においてのみ偏りの有無を判別するようにしてもよい。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、自律移動体が報知器を備える構成としたがその限りではない。報知器は必須の構成ではなく、例えば、報知器を備えない自律移動体としてもよい。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、荷の偏りの有無を判別するために停止後に旋回の方向を一方としたが、これに限定されない。停止後の旋回は他方の方向であってもよい。また、荷台の位置を変更するための旋回方向についても一方、他方のいずれであってもよい。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、荷台の形状を略長方形としたが、これに限らない。荷台の形状は、略長方形以外の形状、例えば、円形でもよく自由である。
【符号の説明】
【0042】
10 自律移動体
11 移動体本体
12(12A、12B、12C、12D) 駆動輪
13 荷台
14 走行駆動装置
15 駆動モータ
16 モータドライバ(トルク検出部)
17 制御装置
18 センサ(追従対象検知器)
20 CPU
21 記憶部
22 報知器
A 軸心(車軸)
E 空スペース
H 作業者
R 比率
Rth 閾値
T1、T2、T3、T4 トルク
W 荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6