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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】発電装置および発電方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/36 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
H01M6/36 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020183395
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073424
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】川原 博
(72)【発明者】
【氏名】岩田 靖
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-110026(JP,A)
【文献】特開2021-110025(JP,A)
【文献】特開昭55-039124(JP,A)
【文献】特開昭53-053739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基溶湯と該アルミニウム基溶湯に液絡する溶融塩とを収容する容体と、
該アルミニウム基溶湯に少なくとも一部が接触している負極と、
該溶融塩に少なくとも一部が接触している正極と
該アルミニウム基溶湯と該溶融塩の間のイオン伝導を許容しつつ該アルミニウム基溶湯と該溶融塩を仕切るセパレータとを備え、
該負極または該正極は、該溶融塩または該アルミニウム基溶湯に対して電気的に絶縁されており、
該溶融塩は、Alより貴な金属元素を含み、
該アルミニウム基溶湯側のアノード反応と該溶融塩側のカソード反応とにより、該負極と該正極の間から直流電力が得られる発電装置。
【請求項2】
前記正極は、前記カソード反応を生じる原料を該正極の周囲へ供給する供給手段を備える請求項に記載の発電装置。
【請求項3】
前記アノード反応および/または前記カソード反応による反応物量を、前記負極と前記正極の間の通電量に基づいて把握するモニタリング手段を備える請求項1または2に記載の発電装置。
【請求項4】
前記アルミニウム基溶湯に含まれる元素の除去または濃度調整を行う溶湯処理装置を兼ねる請求項1~のいずれかに記載の発電装置。
【請求項5】
前記貴な金属元素は、Cu、ZnまたはMnの一種以上である請求項1に記載の発電装置
【請求項6】
前記溶融塩は、ハロゲン化物からなる請求項1~5のいずれかに記載の発電装置
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の発電装置を用いて、前記アルミニウム基溶湯側のアノード反応と前記溶融塩側のカソード反応により直流電力を得る発電方法。
【請求項8】
前記貴な金属元素は、酸化物またはハロゲン化物として前記溶融塩へ供給される請求項に記載の発電方法。
【請求項9】
前記アルミニウム基溶湯の原料は、少なくとも一部がスクラップである請求項7または8に記載の発電方法。
【請求項10】
前記アルミニウム基溶湯から不純物を除去する精製方法を兼ねる請求項7~のいずれかに記載の発電方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応を利用して発電を行う装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
産業活動や日常生活等に不可欠な電力を生じる発電には、様々な原理や方式がある。例えば、電磁誘導を利用した発電機(電動機)の他、光起電力効果やゼーベック効果等を利用した物理電池、電気化学反応を利用した化学電池などにより発電がなされる。
【0003】
このうち化学電池は、化学反応(酸化還元反応等)に伴って生じる物質の化学的エネルギー変化を直流電力へ変換して、効率的な発電を行う。化学電池には、一定量の活(性)物質が収容された一次電池や二次電池の他、活物質を補充(供給)が可能な燃料電池等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第4097270号
【文献】特開2007-154268号
【文献】特開2008-50637号
【文献】特開2011-168830号
【非特許文献】
【0005】
【文献】軽金属33(1983)243-248
【文献】軽金属54(2004)75-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように様々な方式の化学電池が実用化されているが、現状、アルミニウム基溶湯を利用した発電に関する具体的な提案は見当たらない。本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、アルミニウム基溶湯を利用した新たな発電装置等を提供することを目的とする。
【0007】
なお、環境意識等の高揚に伴い、軽量なアルミニウム系部材の利用促進と共に、そのスクラップの再利用の促進も重要となっている。アルミニウム系スクラップのリサイクルに関して多くの提案がなされており、例えば、上記の文献に関連した記載がある。当然ながら、アルミニウム(合金)のリサイクルや精錬等に併行して発電を行うような記載は、いずれの文献にも一切ない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究した結果、アルミニウム基溶湯と溶融塩を液絡させて、それぞれで生じる化学反応(アノード・カソード反応/酸化還元反応)を利用して発電することに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《発電装置》
(1)本発明は、アルミニウム基溶湯と該アルミニウム基溶湯に液絡する溶融塩とを収容する容体と、該アルミニウム基溶湯に少なくとも一部が接触している負極と、該溶融塩に少なくとも一部が接触している正極とを備え、該アルミニウム基溶湯側のアノード反応と該溶融塩側のカソード反応とにより、該負極と該正極の間から直流電力が得られる発電装置である。
【0010】
(2)本発明の発電装置によれば、アルミニウム基溶湯側に設けた負極と溶融塩側に設けた正極との間で出力される直流電力を得ることができる。この理由は次のように考えられる。
【0011】
アルミニウム基溶湯(単に「Al基溶湯」ともいう。)と溶融塩をイオン伝導が可能なように液絡させると、Al基溶湯に含まれる負極活物質(例えばMg、Na、Li、Al等の単体、合金、化合物)のアノード反応と共に、溶融塩に含まれる正極活物質(例えばCu、Zn、Mn等の単体、合金、化合物)のカソード反応が生じ得る。
【0012】
Al基溶湯側と溶融塩側に電極を個別に設けると、Al基溶湯側の電極(負極)と、溶融塩側の電極(正極)から、各反応に伴い生じる化学エネルギーが電気エネルギー(電力)として取り出される。
【0013】
ちなみに、Al基溶湯と溶融塩が液絡している状態(イオン伝導が可能な状態)にあり、活物質が存在する限り、各反応が継続(持続)され得る。つまり、通電後も所定の起電力が出力され、安定した発電され得る。また、活物質の補充・補給等により、長期にわたる発電も可能である。また、活物質を含む原料として、安価なスクラップや酸化物等を利用すれば、発電コストの低減も図れる。
【0014】
ところで、発電により、Al基溶湯中の負極活物質元素(Alを含む。)が消費され、その濃度変化(除去を含む。)が生じ得る。このため本発明の発電装置は、Al基溶湯に含まれる元素の除去または濃度調整を行う溶湯処理装置として観ることもできる。また、除去または濃度低減される元素が不純物なら、その溶湯処理装置を精製装置として観てもよい。
【0015】
勿論、溶融塩中の正極活物質についても同様に考えられる。すなわち、発電により、溶融塩中の正極活物質元素も消費され、その元素の濃度変化(析出を含む。)が生じ得る。このため本発明の発電装置は、溶融塩に含まれる元素の濃度調整、析出、回収等を行う処理装置として観ることもできる。例えば、正極活物質原料として、安価な化合物(酸化物、ハロゲン化物等)を用いる場合、正極活物質である貴な金属を析出(単離)させて回収することも可能となる。
【0016】
《発電方法》
本発明は発電方法としても把握される。例えば、本発明は、アルミニウム基溶湯と溶融塩を液絡させると共に、該アルミニウム基溶湯と該溶融塩のそれぞれに接触する電極を個別に設けて、アルミニウム基溶湯側のアノード反応と該溶融塩側のカソード反応により直流電力を得る発電方法でもよい。
【0017】
《その他》
(1)本明細書では、適宜、アノード反応を「酸化(反応)」、カソード反応を「還元(反応)」、両者を併せて「酸化還元(反応)」ともいう。また、本明細書でいう「酸化」と「還元」は、電子の授受を伴う反応を意味し、必ずしもOの反応への関与を意味しない。
【0018】
本明細書でいう濃度や組成は、特に断らない限り、対象物(溶湯、溶融塩等)の全体に対する質量割合(質量%)で示す。適宜、質量%を単に「%」で示す。「X基」材は、Xを主成分(全体に対する含有量が50%超)とするX合金・化合物等の他、X単体も含む。Al基溶湯は、通常、溶湯全体に対してAlを60%以上さらには75%以上含む。
【0019】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】発電装置の一例を示す模式図である。
図2A】正極と環囲体の一例を示す写真である。
図2B】ポーラス容体の一部(A部)を拡大した説明図である。
図3】発電された電圧、電流、電気量および電力量の経時変化例を示すグラフである。
図4】溶湯分析に基づく反応物量と、電気量に基づく反応物量の関係を示す散布図である。
図5】発電装置の変形例を示す模式図である。
図6】金属酸化物と金属塩化物の660℃における標準生成自由エネルギー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。
【0022】
《Al基溶湯》
Al基溶湯は、具体的な成分組成、溶湯調製に用いる原料の種類等を問わない。Al基溶湯の原料にAl基部材のスクラップを利用して、その活用や再生を図ってもよい。
【0023】
Al基溶湯中にAlよりも卑な金属元素α(例えばMg、Na、Li等)が含まれる場合、それらはアノード反応(α→α2++2e-、α→α++e-等)の原料(負極活物質)となる。金属元素(α)は、イオン化して溶融塩へ移動し、発電量に応じてAl基溶湯中の濃度を低下させる。
【0024】
ちなみに、金属元素(α)の一種であるMgはアルミニウム合金(単に「Al合金」ともいう。)の代表的な合金元素であり、多くのAl合金(5000系、6000系、7000系等)に含まれる。Naは、アルミナからアルミニウムを製錬(ホール・エール法)する際に用いられる氷晶石(NaAlF)に含まれる。このため、本発明の発電装置(方法)は、発電と共に、Al合金の精錬、再生等の他、Alの製錬も併せてなし得る。なお、Al基溶湯中にAlよりも卑な金属元素αが含まれない場合、Alがアノード反応(Al→Al3++3e-) の原料(負極活物質)となる。
【0025】
Al基溶湯中には、Alよりも貴な金属元素β(例えばFe、Mn、Si、Cu、Zn等)が含まれてもよい。金属元素βは負極活物質とはならないが、発電と共にAl基溶湯中で濃化する。この結果、例えば、FeとMnは濃化により化合物を形成し易くなり、それらは沈降等してAl基溶湯から除去されたり、Al基溶湯中の濃度を低下させ得る。
【0026】
ちなみにAl基溶湯は、電子伝導を担う導電体としても把握され得る。またAl基溶湯は、Al以外の負極活物質を含む場合、集電体(電極)としも把握され得る。さらにAl自体を負極活物質と考えると、Al基溶湯はその供給源としても把握され得る。なお、Al基溶湯は固液共存状態(半溶融状態)でもよい。この点は溶融塩についても同様である。
【0027】
本明細書でいう金属元素の「貴・卑」は、Al基溶湯と接触する溶融塩における標準生成自由エネルギ(図6参照)に基づいて定める。標準生成自由エネルギが負に大きい金属元素ほど卑である。図6では代表的な金属(単体)について、塩化物溶融塩中で卑な順に左から並ベてある。図6中に記載がない標準生成自由エネルギは、データ集や電位測定で求めればよい。
【0028】
《溶融塩》
溶融塩は電解質として機能する。溶融塩(融解塩)も具体的な成分組成やその調製に用いる原料の種類等を問わない。溶融塩として、例えば、ハロゲン化物塩、炭酸塩等を用いることができる。ハロゲン化物(特に塩化物、臭化物)を用いると、安定な溶融塩を安価に調製できる。
【0029】
より具体的にいうと、例えば、後述する標準生成自由エネルギー(図6参照)がMgハロゲン化物よりも小さい金属元素(Ca、Na、Li、Sr、K、Cs、Ba等の一種以上)のハロゲン化物を、溶融塩の基材とするとよい。特に、Naおよび/またはKのハロゲン化物は安価で安定しているため、溶融塩の基材として好適である。なお、溶融塩は、単種の塩でも複数種の塩(混合塩)でもよい。複数のハロゲン化物塩を組み合わせることにより、例えば、溶融塩の融点を低下させ得る。
【0030】
溶融塩中にAlよりも貴な金属元素(β)が含まれる場合、それはカソード反応(β2++2e-→β、β++e-→β等)の原料(正極活物質)となる。金属元素(β)は、例えば、発電量に応じて、正極(付近)に析出し得る。
【0031】
金属元素(β)は、例えば、Cu、Sn、Fe、Zn、Mn等である。金属元素(β)は、例えば、単体、化合物等として溶融塩へ供給される。金属元素(β)の化合物を用いると、発電に要する原料コストの低減を図れる。化合物には、酸化物、ハロゲン化物(特に塩化物)等がある。通常、ハロゲン化物よりも酸化物を用いると、原料コストをより低減できる。また金属元素(β)の酸化物を用いると、Al基溶湯中に含まれていた元素(Mg等)を酸化物(MgO等)として除去し易くなる。
【0032】
さらに金属元素(β)は、Cu、ZnまたはMnの一種以上(特にCu)である特定金属元素(M)であるとよい。特定金属元素の酸化物の標準生成自由エネルギーは、そのハロゲン化物(特に塩化物)の標準生成自由エネルギーよりも大きいか、略同程度である(図6参照)。このため特定金属元素(M)の酸化物(CuO、ZnO、MnO等)は、ハロゲン化物からなる溶融塩中において分解され易い。その結果、例えば、特定金属元素(M)は正極上に析出し、OはAl基溶湯から移動してきたイオン(Mg2+等)を酸化物として除去し得る。その反応例を示すと、反応式1:MO+MgX→MX+MgO(X:ハロゲン元素、特にCl、Br)となる。
【0033】
ちなみに、溶融塩中のMXは、例えば、反応式2:MX+Mg→M+MgXのように反応して、Mg除去材ともなる。いずれの反応式でも、自由エネルギー差が負(ΔG<0)となる安定な方向、すなわち、左辺から右辺に進行し易いことが図6からわかる。また、溶融塩への酸化物(MO)の供給(添加)量に応じてAl基溶湯から除去されるMg量は変化するが、溶融塩中におけるMgX量(溶融塩中のMg2+濃度)はほぼ一定となる。
【0034】
なお、図6に示した標準生成自由エネルギー(単に「自由エネルギー」ともいう。)は、Knacke O., Kubaschwski O., Hesselmann K.,“Thermochemical Properties of Inorganic Substances"(1991),SPRlNGER-VERLAGに依る。図6は660℃における各自由エネルギーであるが、その傾向は少なくとも660~800℃における各自由エネルギーでも同様である。
【0035】
《電極》
(1)集電体
本発明の発電装置もガルバニ電池の一種と考えられる。このため、Al基溶湯側の負極活物質と溶融塩側の正極活物質が酸化還元反応する際に放出する化学エネルギーを、電気エネルギーとして取り出すために、Al基溶湯側と溶融塩側にそれぞれ独立した電極を設けるとよい。つまり、Al基溶湯側の負極(アノード)と溶融塩側の正極(カソード)とを独立して設けるとよい。
【0036】
各電極は、アルミニウム基溶湯または溶融塩に、少なくとも一部が接触している集電体からなるとよい。集電体は、酸化還元反応に悪影響を及ぼさない材質からなるとよい。例えば、耐熱性や耐食性に優れる共に比較的安価な黒鉛電極(黒鉛棒、黒鉛板等)を集電体(電極)とできる。
【0037】
負極の一部が溶融塩中を通るとき、負極の外周側に被覆部材または被覆層を設けて、負極と溶融塩を電気的に絶縁するとよい。両者が導通(短絡)状態にあると、負極の一部でカソード反応(正極活物質(Cu等)の析出)が生じて、発電効率が低下し得る。被覆部材または被覆層は、負極と溶融塩が絶縁される限り、その材質を問わない。その材質として、例えば、セラミックス等の絶縁材を用いるとよい。正極がAl基溶湯中を通るときも同様に、両者が電気的に絶縁されるとよい。
【0038】
(2)端子
電極(集電体)をそのまま外部回路に接続する出力端子とすることもできる。但し、電極とは別に出力端子を設けると、外部回路との接続性が向上するのみならず、消耗する電極だけの交換も容易となる。従って、負極に連なり外部回路に接続され得る負極端子と、正極に連なり外部回路に接続され得る正極端子とをさらに設けてもよい。両端子は、同材質(金属)からなるとよい。
【0039】
(3)供給手段
カソード反応を生じる原料(正極活物質の原料)を、正極の周囲へ供給する供給手段を備えるとよい。供給手段は、例えば、正極周りに設けた液通可能な囲い等である。これにより正極の周囲で正極活物質を濃化でき、発電効率を高めることができる。供給手段は、正極と一体でも別体でもよい。
【0040】
《セパレータ》
Al基溶湯と溶融塩は、通常、自ずと二層(二相)状態となる(上層・下層は各密度により定まる)。このため本発明の発電装置は、二種の水溶液を電解液とする電池とは異なり、必ずしもセパレータがなくても成立し得る。但し、Al基溶湯と溶融塩が直接接触すると、両者の接触界面付近で酸化還元反応による正極活物質の析出が生じ得る。そこで、Al基溶湯と溶融塩の間に、イオン伝導を許容しつつAl基溶湯と溶融塩を仕切るセパレータを備えるとよい。これにより安定した発電が効率的になされ得る。
【0041】
セパレータは、縦方向(垂直方向)に延在する隔壁(単に「縦壁」という。)でも、横方向(水平方向)に延在する隔壁(単に「横壁」という。)でもよい。縦壁のセパレータなら、Al基溶湯と溶融塩の各上面から、原料の供給や補充等を行える。
【0042】
セパレータは、Al基溶湯または溶融塩を収容する容体を兼ねてもよい。この場合、容体の少なくとも一部の壁面がイオン伝導可能であればよい。
【0043】
セパレータは、耐熱性を有する多孔質体からなるとよい。例えば、ポーラス坩堝のような素焼き容体をセパレータとして用いることができる。このようなセパレータは、図2Bに示すように、イオン(溶融塩を含む)を通過させるが、溶湯を通過させない。
【0044】
《容体》
Al基溶湯と溶融塩は、一つの容体に収容されてもよいし、分割または独立した容体にそれぞれ収容されてもよい。容体はセラミックス製でも、金属製でもよい。イオン伝導(通過)が可能な多孔質状(ポーラス状)の容体にAl基溶湯を収容して、上述したセパレータを省略してもよい。
【0045】
《モニタリング手段》
本発明の発電装置は、酸化還元反応(電極における電子の授受)を利用しているため、電極間の通電量(電気量)と各電極における反応物量とは略比例し得る(ファラデー(電気分解)の法則)。このため、通電量に基づいて、Al基溶湯側または溶融塩側における反応物量を把握(監視)することも可能となる。そこで本発明の発電装置は、アノード反応および/またはカソード反応による反応物量を、負極と正極の間の通電量に基づいて把握するモニタリング手段を備えてもよい。モニタリング手段は、例えば、反応物量の算出手段と、算出された反応物量の表示手段とからなってもよい。なお、モニタリングする生成物は、Al基溶湯側から除去・低減される金属元素量(Mg等)でもよいし、溶融塩側で析出する金属元素量(Cu等)でもよい。
【0046】
反応物量の算出は、例えば、次のようにしてなされる。外部回路の電流量:I(A)、通電時間:t(sec)とすると、電気量:Q=It(C)となる。次に、ファラデー定数:F=96485(C/mol)、モル質量:B(g)、反応物量のイオン価数:zとすると、反応物量:m=BQ/zF(g)=BIt/zF(g)として求まる。
【0047】
なお、電極間(端子間)の電圧:E(V)とすると、発電量:P=EIt(J)となり、反応物量:m=BP/EzF(g)とも表される。
【実施例
【0048】
Al基溶湯と溶融塩を用いて発電できる発電装置を製作し、発電の可否と発電により生じる反応物量を評価した。このような具体例に基づいて本発明をより詳しく説明する。
【0049】
《発電装置》
製作した発電装置Gの概要を図1に模式的に示した。発電装置Gは、負極11と、負極端子12と、正極21と、正極端子22と、環囲体23(囲い/供給手段)と、ポーラス容体6(セパレータ)と、ヒータ7と、保持炉8と、液槽9(容体)とを備える。発電装置Gは、外部回路に接続されており、外部回路には電流計A、電圧計V、スイッチSWが設けられている。
【0050】
負極11と正極21は共に、黒鉛製の集電体(黒鉛電極)からなる。負極11の上端部に取り付けた負極端子12と正極21の上端部に取り付けた正極端子22は銅からなる。環囲体23は、正極21の下方側を覆う有底円筒状である。環囲体23の円筒側面には、複数の液通可能な貫通孔(「液孔」という)が設けられている。環囲体23の底部と正極21の下端部は一体化されており、両者は電気的に導通している。このような正極21と環囲体23の一例を図2Aに示した。なお、本実施例では、負極11と正極21として、外径:φ5mmの黒鉛電極を用いた。
【0051】
ポーラス容体6は、有底筒状であり、Al基溶湯m1(単に「溶湯m1」という。)を収容する。ポーラス容体6は、全体が多孔質セラミックス(素焼き陶磁器)からなる。ポーラス容体6は、図2Bに示すように、溶湯m1自体を通過させないが、溶湯m1中のイオン(例えばMg2+)や溶融塩m2のイオンは通過させる。本実施例では、ポーラス容体6として、株式会社ニッカトー製ポーラス坩堝(MgO製特殊耐火るつぼ/40×30×100mm)を用いた。
【0052】
ヒータ7は電熱式であり、断熱材からなる保持炉8の内側に設けられる。液槽9は、溶湯m1が入ったポーラス容体6と、それを浸漬する溶融塩m2とを収容する。液槽9内の溶融塩m2の温度は、ヒータ7と保持炉8により一定に保持した。なお、本実施例では、液槽9として、株式会社ニッカトー製緻密質坩堝(アルミナ製/SSA-H・B5)を用いた。
【0053】
《実験》
図1に示した発電装置Gを用いて、発電と併行して、溶湯m1に含まれる金属元素(負極活物質)の除去(Al基溶湯の精製または濃度調整)と、溶融塩m2に添加した金属元素(正極活物質)の析出とを次のように行った。
【0054】
1.原料
(1)Al基溶湯
市販の純Alと純Mgを用いて、Al-Mg溶湯(溶湯m1)を調製した。この際、リサイクルするスクラップを溶解した原溶湯からMg(不純物)を除去してAl基溶湯を精製する場合を想定した。
【0055】
Mg(負極活物質)の溶湯全体に対する初期濃度は0.85%または1.31%とした。なお、本実施例では、特に断らない限り、濃度は質量割合(質量%)で示す。調製した溶湯量は、約80gまたは約100gとした。
【0056】
(2)溶融塩
市販の塩化物(試薬)を用いて、KCl-43%NaCl-1.4%MgClである溶融塩m2を調製した。
【0057】
(3)正極活物質
正極活物質(正極側の発電原料)として、CuO、CuClおよびCuClを用意した。ちなみに、CuOとCuClはCuのイオン価数が2であり、CuClはCuのイオン価数が1である。各モル質量は、CuO:79.545、CuCl:134.45、CuCl:98.999である。このため、例えば、CuO:1g、CuCl:1.7g、CuCl:2.5gなら、いずれの電気化学当量もほぼ等しくなる。
【0058】
2.発電
スイッチSWをOFFにしたまま、ヒータ7を稼働させて、上述した溶湯m1と溶融塩m2を730℃に保持した。溶湯m1にはAl-0.85%Mg溶湯を用いた。
【0059】
その後、スイッチSWをONにして、一例として、CuCl:1.7gを環囲体23へ添加した。添加後に生じた電圧E(V)と電流I(A)の時間変化を継続的に測定した。また、CuClの添加時から時間t(s)が経過したときの電気量Q=It(C)と、発電量P=EIt(J)とを算出した。こうして得られた結果を図3にまとめて示した。
【0060】
図3から明らかなように、発電装置Gによれば、安定した出力(電圧E・電流I)で直流発電できることが確認された。なお、正極21の表面を観察したところ、Cuが析出していた。
【0061】
3.反応物量
発電装置Gを用いて、表1に示す条件下で同様に発電を行った。このとき、溶湯m1にはAl-1.31%Mg溶湯(初期濃度)を用いた。正極活物質として、CuCl:2.5g、CuCl:1.7gまたはCuO:2gのいずれかを溶融塩m2中の環囲体23へ添加した。なお、電気化学当量比は、CuCl:CuCl:CuO=1:1:2となる。
【0062】
表1に示す処理時間経過後の各Al基溶湯を取り出して、円筒状の金型(ステンレス製分析型)へ注入した。それを大気中で自然冷却して、円盤状の鋳物を得た。その化学成分(Mg濃度)を蛍光X線分光法(XRF:X-Ray Fluorescence)により定量分析した。
【0063】
この溶湯分析から求まったMgの濃度低下分と初期の溶湯量とから、発電に伴うMgの反応量(分析値)を算出した。その結果を表1に併せて示した。また、正極活物質の添加量から化学量論的に求まるMgの最大反応量(理論値)と、電流測定して求めた電気量からファラデーの法則に基づいて計算されるMgの反応量(計算値)とを表1に併せて示した。さらに、表1に示す結果に基づいて、溶湯分析に基づくMgの反応量と、電気量に基づくMgの反応量との関係を図4に示した。
【0064】
図4から明らかなように、溶湯分析に基づくMgの反応量と、電気量に基づくMgの反応量とは、ほぼ比例関係となり、ファラデーの法則に沿うことが確認された。従って、本実施例でも、電気量(通電量、発電量)に基づいて、反応物量(Mgの除去量等)をモニタリングできることがわかった(モニタリング手段)。
【0065】
ちなみに、表1に示した添加量に基づく理論値(最大値)よりも、電気量または溶湯分析に基づく反応量が多くなっている理由は、Al溶湯中のMgの一部が大気と反応して酸化消耗したためである。
【0066】
以上のことから、本発明の発電装置(発電方法)によれば、負極活物質を含むAl基溶湯と正極活物質を含む溶融塩とを用いて安定した発電を行えることが確認された。また、その発電と併行して、Al基溶湯の精製(含有金属元素の濃度調整を含む)も行えることも確認できた。さらに、その際に生じる反応物量は、発電に伴う電気量に基づいてモニタリングできることも確認できた。
【0067】
《変形例》
発電装置Gの一部を変更した発電装置G1を図5に示した。なお、既述した部材等については同符号を付して、適宜、それらの説明を省略する。
【0068】
発電装置G1は、ポーラス容体6に替えて、ポーラス板61(セパレータ)を備える。ポーラス板61により、溶湯m1と溶融塩m2は上下二層に仕切られる。なお、ポーラス板61もポーラス容体6と同様に、多孔質なセラミックスからなる(図2B参照)。
【0069】
溶湯m1と溶融塩m2の上下関係は、それらの密度による。このため、溶湯m1が上層となる場合もある。図5に示すように、溶湯m1が下層となる場合、負極11が溶融塩m2と接触しないように、負極11の外周面側に絶縁筒62を設けるとよい。これにより溶融塩m2に含まれる正極活物質(Cu2+等)が負極11の表面に直接析出することが回避され、発電効率の向上が図られる。なお、ポーラス板61と絶縁筒62の一方または両方がなくても、発電自体は可能である。
【0070】
【表1】
【符号の説明】
【0071】
G 発電装置
m1 Al基溶湯
m2 溶融塩
11 負極
21 正極
6 ポーラス容体(セパレータ)
9 液槽(容体)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6