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特許7334740塩化ビニル樹脂積層シート、塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法、及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂積層シート、塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20230822BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B32B27/30 101
B32B27/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020549168
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037128
(87)【国際公開番号】W WO2020066950
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018179313
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】中村 峻之
(72)【発明者】
【氏名】西村 翔太
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105536(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105535(WO,A1)
【文献】特開平05-096671(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131630(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170220(WO,A1)
【文献】特開昭62-053831(JP,A)
【文献】特開平09-216498(JP,A)
【文献】特公昭47-028740(JP,B1)
【文献】特開昭49-045184(JP,A)
【文献】奥村城次郎, 外2名, メタクリル酸メチルグラフト改質ブロック共重合体を用いた接着剤, 日本ゴム協会誌. 1981, 第54巻, 第3号, p.54-61(特に、3.3 固形分濃度の影響, 3.4 エージング時間の影響)
【文献】中谷隆,接着剤はどうしてくっつくのか-接着の機構,化学と教育,1998年,46巻,5号,p.304-308
【文献】福村勉郎,II. 接着の基礎 第1章 接着の理論,電気学会雑誌,1981年,101巻,11号,p.1022-1027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートと、
樹脂Aおよびウレタン系バインダーを含む樹脂層Lと、を有し、
前記樹脂層Lが前記塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置されてなる塩化ビニル樹脂積層シートであって、
前記樹脂AのSP値が14(cal/cm1/2以上16.4(cal/cm 1/2 以下であり、
JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される前記樹脂Aの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が5であり、
前記クロスカット法により評価される前記ウレタン系バインダーの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が0~4のいずれかであり、
前記樹脂層L中における前記樹脂Aの含有量に対する前記ウレタン系バインダーの含有量の質量比(ウレタン系バインダー/樹脂A)が、乾燥質量比にて、1/40以上1/4以下であり、
前記樹脂層Lが樹脂層L用可塑剤を更に含み、
前記樹脂層L用可塑剤が、炭素数1~4のジオール化合物、および、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドの少なくとも一方を含有し、
前記樹脂層L中における前記樹脂Aの含有量に対する前記樹脂層L用可塑剤の含有量の質量比(樹脂層L用可塑剤/樹脂A)が、1/40以上1/5以下である、塩化ビニル樹脂積層シート。
【請求項2】
自動車インスツルメントパネル表皮用である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂積層シート。
【請求項3】
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に樹脂Aおよびウレタン系バインダーを含む樹脂層Lを形成する工程を含み、
前記樹脂のSP値が、14(cal/cm1/2以上16.4(cal/cm 1/2 以下であり、
JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される前記樹脂Aの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が5であり、
前記クロスカット法により評価される前記ウレタン系バインダーの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が0~4のいずれかであり、
前記樹脂層L中における前記樹脂Aの含有量に対する前記ウレタン系バインダーの含有量の質量比(ウレタン系バインダー/樹脂A)が、乾燥質量比にて、1/40以上1/4以下であり、
前記樹脂層Lが樹脂層L用可塑剤を更に含み、
前記樹脂層L用可塑剤が、炭素数1~4のジオール化合物、および、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドの少なくとも一方を含有し、
前記樹脂層L中における前記樹脂Aの含有量に対する前記樹脂層L用可塑剤の含有量の質量比(樹脂層L用可塑剤/樹脂A)が、1/40以上1/5以下である、塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法。
【請求項4】
発泡ポリウレタン成形体と、
請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂積層シートと、
を有する積層体であり、
前記発泡ポリウレタン成形体と前記塩化ビニル樹脂成形シートとの間に前記樹脂層Lが配置される、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂積層シート、塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、従来、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂組成物をシート状に成形した塩化ビニル樹脂成形体(以下、「塩化ビニル樹脂成形シート」と称することがある。)からなる表皮や当該塩化ビニル樹脂成形シートからなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、塩化ビニル樹脂成形シートの材料としては、塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物が使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-173974号公報
【文献】特開2012-7026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、塩化ビニル樹脂成形シートからなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体を自動車内装材として使用した場合、塩化ビニル樹脂成形シートに含まれる可塑剤が発泡体へ移行し、塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の量が減少することで、塩化ビニル樹脂成形シート(即ち、表皮)の柔軟性の低下等の劣化が生じ得る。そのため、上述した自動車内装材として使用される積層体においては、塩化ビニル樹脂成形シートから発泡体への可塑剤の移行を良好に抑制することが求められる。
【0006】
そこで、本発明者は、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂を主成分として有する樹脂層を配置してなる塩化ビニル樹脂積層シートを使用すれば、このような問題を解決し得ることを見出した。具体的には、本発明者らは、上記塩化ビニル樹脂積層シートにおける樹脂層が配置されている側の面に発泡ポリウレタン成形体を裏打ちして(即ち、樹脂層を介して塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体とが接着するように)、積層体を作製した場合、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できることを見出した。
【0007】
しかしながら、本発明者が更に検討したところ、上述した塩化ビニル樹脂積層シートを用いて積層体を作製した場合、上述したSP値が所定の範囲にある樹脂を主成分として有する樹脂層は、塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性が低いため、積層体における塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度に改善の余地があることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度に優れる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂と、バインダーとを含み、且つ、当該樹脂およびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性がそれぞれ所定の分類に評価される樹脂層を配置してなる塩化ビニル樹脂積層シートであれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートと、樹脂Aおよびバインダーを含む樹脂層Lと、を有し、前記樹脂層Lが前記塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置されてなる塩化ビニル樹脂積層シートであって、前記樹脂AのSP値が14(cal/cm31/2以上であり、JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される前記樹脂Aの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が5であり、前記クロスカット法により評価される前記バインダーの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が0~4のいずれかであることを特徴とする。このように、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂およびバインダーを含み、且つ、当該樹脂およびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性がそれぞれ所定の分類に評価される樹脂層Lを配置してなる塩化ビニル樹脂積層シートであれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性にも優れている。
【0011】
ここで、SP値とは、溶解度パラメーターのことを意味する。
そして、SP値は、Hansen Solubility Parameters A User’s Handbook,2ndEd(CRCPress)で紹介される方法を用いて算出することができる。
また、有機化合物のSP値は、その有機化合物の分子構造から推算することも可能である。具体的には、SMILEの式からSP値を計算できるシミュレーションソフトウェア(例えば「HSPiP」(http=//www.hansen-solubility.com))を用いて計算しうる。このシミュレーションソフトウェアでは、Hansen SOLUBILITY PARAMETERS A User’s Handbook SecondEdition、Charles M.Hansenに記載の理論に基づき、SP値が求められている。
【0012】
ここで、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、前記樹脂層Lが樹脂層L用可塑剤を更に含むことが好ましい。前記樹脂層Lが樹脂層L用可塑剤を更に含めば、塩化ビニル樹脂積層シートは優れた柔軟性を発揮することができる。
【0013】
また、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、前記樹脂層L中における前記樹脂Aの含有量に対する前記バインダーの含有量の質量比(バインダー/樹脂A)が、乾燥質量比にて、1/40以上1/4以下であることが好ましい。前記樹脂層L中における前記樹脂Aの含有量に対する前記バインダーの含有量の質量比(バインダー/樹脂A)が、乾燥質量比にて、上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができると共に、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を更に高めることができる。
【0014】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、前記バインダーがウレタン系バインダーおよびアクリルエステル系バインダーの少なくとも一方を含むことが好ましい。前記バインダーがウレタン系バインダーおよびアクリルエステル系バインダーの少なくとも一方を含めば、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を更に高めることができる。
【0015】
また、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、自動車インスツルメントパネル表皮用であることが好ましい。本発明の塩化ビニル樹脂積層シートを自動車インスツルメントパネルの表皮として用いれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制して、当該表皮の劣化を防止することができる。
【0016】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に樹脂Aおよびバインダーを含む樹脂層Lを形成する工程を含み、前記樹脂のSP値が、14(cal/cm31/2以上であり、JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される前記樹脂の前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が5であり、前記クロスカット法により評価される前記バインダーの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が0~4のいずれかであることを特徴とする。このように、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂およびバインダーを含み、且つ、当該樹脂およびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性がそれぞれ所定の分類に評価される樹脂層Lを形成して製造される塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性にも優れている。
【0017】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂積層シートとを有する積層体であり、前記発泡ポリウレタン成形体と前記塩化ビニル樹脂成形シートとの間に前記樹脂層Lが配置されることを特徴とする。このように、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂積層シートとを有し、前記発泡ポリウレタン成形体と前記塩化ビニル樹脂成形シートとの間に前記樹脂層Lが配置される積層体であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると共に、塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度に優れている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートを提供することができる。
また、本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度に優れる積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、例えば、本発明の積層体の製造に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、例えば、自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品の表皮等の、自動車内装材として好適に用いることができる。さらに、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法により製造することができる。
【0020】
(塩化ビニル樹脂積層シート)
本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートと、SP値が所定の範囲にある樹脂Aおよびバインダーを含み、且つ、当該樹脂Aおよびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性がそれぞれ所定の分類に評価される樹脂層Lと、を有し、前記樹脂層Lが前記塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置されることを特徴とする。
【0021】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂Aおよびバインダーを含み、且つ、当該樹脂Aおよびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性がそれぞれ所定の分類に評価される樹脂層Lが配置されているため、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性に優れている。
【0022】
従って、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、自動車内装部材として、具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の表皮として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネルの表皮用に好適に用いられる。
【0023】
<塩化ビニル樹脂成形シート>
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートは、塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をシート状に成形することにより得られる。
【0024】
<<塩化ビニル樹脂組成物>>
塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤とを含み、任意に、各種の添加剤などを更に含有してもよい。
【0025】
[塩化ビニル樹脂]
ここで、塩化ビニル樹脂組成物が含む塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。そして、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能し、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましく、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
また、塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造され得る。
【0026】
-組成-
塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化アリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリル-3-クロロ-2-オキシプロピルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル類;アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその酸無水物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類;アリルアミン安息香酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのアリルアミンおよびその誘導体類;などが挙げられる。以上に例示される単量体は、共単量体の一部に過ぎず、共単量体としては、近畿化学協会ビニル部会編「ポリ塩化ビニル」日刊工業新聞社(1988年)第75~104頁に例示されている各種単量体が使用され得る。これらの共単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なお、上記塩化ビニル樹脂には、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニルまたは(2)塩化ビニルと前記共単量体とがグラフト重合された樹脂も含まれる。
ここで、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0027】
-SP値-
なお、塩化ビニル樹脂として用いられる重合体のSP値は8(cal/cm31/2以上であることが好ましく、9(cal/cm31/2以上であることがより好ましく、11(cal/cm31/2以下であることが好ましく、10(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂として用いられる重合体のSP値が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0028】
[可塑剤]
塩化ビニル樹脂組成物は可塑剤を更に含む。塩化ビニル樹脂組成物が可塑剤を含まなければ、塩化ビニル樹脂組成物を用いて塩化ビニル樹脂成形シートを良好に得ることができない。
【0029】
なお、塩化ビニル樹脂組成物に使用する「可塑剤」は、後述する樹脂層Lに用い得る「樹脂層L用可塑剤」とは異なる成分である。そして、本明細書中において、単に「可塑剤」と表記されるものは、樹脂層Lに用い得る「樹脂層L用可塑剤」を指すものではなく、塩化ビニル樹脂組成物に使用する「可塑剤」、即ち、塩化ビニル樹脂成形シートに含まれる「可塑剤」を指すものとする。
【0030】
-含有量-
ここで、可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、92質量部以上であることが更に好ましく、97質量部以上であることが一層好ましく、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが更に好ましい。可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物に優れた柔軟性を付与し、例えば塩化ビニル樹脂成形シートへと加工し易くできると共に、得られる塩化ビニル樹脂成形シートに低温下での良好な引張伸びを付与することができるからである。また、可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、得られた塩化ビニル樹脂成形シートの表面のべた付きをより抑制し、表面滑り性をより高めることができるからである。
【0031】
-種類-
ここで、可塑剤の具体例としては、以下の一次可塑剤及び二次可塑剤などが挙げられる。
いわゆる一次可塑剤としては、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリ-n-プロピル、トリメリット酸トリ-n-ブチル、トリメリット酸トリ-n-ペンチル、トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸ジ-n-オクチル-モノ-n-デシル、トリメリット酸モノ-n-オクチル-ジ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリ-n-トリデシル、トリメリット酸トリ-n-テトラデシル、トリメリット酸トリ-n-ペンタデシル、トリメリット酸トリ-n-ヘキサデシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプタデシル、トリメリット酸トリ-n-ステアリル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(ここで、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が直鎖状である直鎖状トリメリット酸エステル〔なお、これらのトリメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
トリメリット酸トリ-i-プロピル、トリメリット酸トリ-i-ブチル、トリメリット酸トリ-i-ペンチル、トリメリット酸トリ-i-ヘキシル、トリメリット酸トリ-i-ヘプチル、トリメリット酸トリ-i-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-i-ノニル、トリメリット酸トリ-i-デシル、トリメリット酸トリ-i-ウンデシル、トリメリット酸トリ-i-ドデシル、トリメリット酸トリ-i-トリデシル、トリメリット酸トリ-i-テトラデシル、トリメリット酸トリ-i-ペンタデシル、トリメリット酸トリ-i-ヘキサデシル、トリメリット酸トリ-i-ヘプタデシル、トリメリット酸トリ-i-オクタデシル、トリメリット酸トリアルキルエステル(ここで、トリメリット酸トリアルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が分岐状である分岐状トリメリット酸エステル〔なお、これらのトリメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
ピロメリット酸テトラメチル、ピロメリット酸テトラエチル、ピロメリット酸テトラ-n-プロピル、ピロメリット酸テトラ-n-ブチル、ピロメリット酸テトラ-n-ペンチル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘキシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘプチル、ピロメリット酸テトラ-n-オクチル、ピロメリット酸テトラ-n-ノニル、ピロメリット酸テトラ-n-デシル、ピロメリット酸テトラ-n-ウンデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ドデシル、ピロメリット酸テトラ-n-トリデシル、ピロメリット酸テトラ-n-テトラデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ペンタデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘキサデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘプタデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ステアリル、ピロメリット酸テトラ-n-アルキルエステル(ここで、ピロメリット酸テトラ-n-アルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が直鎖状である直鎖状ピロメリット酸エステル〔なお、これらのピロメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
ピロメリット酸テトラ-i-プロピル、ピロメリット酸テトラ-i-ブチル、ピロメリット酸テトラ-i-ペンチル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘキシル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘプチル、ピロメリット酸テトラ-i-オクチル、ピロメリット酸テトラ-(2-エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ-i-ノニル、ピロメリット酸テトラ-i-デシル、ピロメリット酸テトラ-i-ウンデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ドデシル、ピロメリット酸テトラ-i-トリデシル、ピロメリット酸テトラ-i-テトラデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ペンタデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘキサデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘプタデシル、ピロメリット酸テトラ-i-オクタデシル、ピロメリット酸テトラアルキルエステル(ここで、ピロメリット酸テトラアルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が分岐状である分岐状ピロメリット酸エステル〔なお、これらのピロメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;
ジメチルイソフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;
ジ-(2-エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ-n-オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体;
ジ-n-ブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;
ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ-n-ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;
ジ-n-ブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ-(2-ブチルオクチル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;
ジ-n-ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ-(2-エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;
ジ-n-ブチルフマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;
トリエチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ-(2-エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;
モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ-(2-エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;
ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;
メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;
n-ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体(但し、12-ヒドロキシステアリン酸およびそのエステルを除く);
ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;
トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;
ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ-(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;
グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;
エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ誘導体;
アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤;
などが挙げられる。
【0032】
また、いわゆる二次可塑剤としては、塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレートなどのグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチルなどが挙げられる。
【0033】
なお、これらの可塑剤は、1種のみを用いてもよく、例えば、一次可塑剤、二次可塑剤などの2種以上を併用してもよい。また、二次可塑剤を用いる場合は、当該二次可塑剤と等質量以上の一次可塑剤を併用することが好ましい。
【0034】
そして、上述した可塑剤の中でも、塩化ビニル樹脂組成物の成形性をより良好にする観点からは、トリメリット酸エステル及び/又はピロメリット酸エステルを用いることが好ましく、トリメリット酸エステルを用いることがより好ましく、直鎖状トリメリット酸エステルを用いることが更に好ましく、炭素数が異なるアルキル基を分子内に2つ以上有する直鎖状トリメリット酸エステルを用いることが一層好ましい。また、当該アルキル基の炭素数は8~10であることが好ましく、当該アルキル基がn-オクチル基、n-デシル基であることがより好ましい。そして、上記トリメリット酸エステルと共にエポキシ化大豆油を更に用いることが好ましい。
【0035】
-SP値-
なお、塩化ビニル樹脂組成物に用いられる可塑剤のSP値は7(cal/cm31/2以上であることが好ましく、8(cal/cm31/2以上であることがより好ましく、12(cal/cm31/2以下であることが好ましく、10(cal/cm31/2以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂として用いられる可塑剤のSP値が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0036】
[添加剤]
塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、シリコーンオイルなどの滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β-ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のダスティング剤;およびその他の添加剤;などが挙げられる。
【0037】
-シリコーンオイル-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るシリコーンオイルとしては、エーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、未変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0038】
ここで、シリコーンオイルの含有量は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.15質量部以上であることが更に好ましく、1.5質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることが更に好ましく、0.4質量部以下であることが一層好ましい。シリコーンオイルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂成形シートの表面のべた付きを十分に低減して表面滑り性を向上し得るからである。また、シリコーンオイルの含有量が上記上限以下であれば、例えば、塩化ビニル樹脂成形シートを連続成形した場合であっても、過度の量のシリコーンオイルに起因して成形用金型等の表面が汚染されてしまうことを抑制し得るからである。
【0039】
-過塩素酸処理ハイドロタルサイト-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、過塩素酸処理ハイドロタルサイトは、例えば、ハイドロタルサイトを過塩素酸の希薄水溶液中に加えて攪拌し、その後必要に応じて、ろ過、脱水または乾燥することによって、ハイドロタルサイト中の炭酸アニオン(CO3 2-)の少なくとも一部を過塩素酸アニオン(ClO4 -)で置換(炭酸アニオン1モルにつき過塩素酸アニオン2モルが置換)することにより、過塩素酸導入型ハイドロタルサイトとして容易に製造することができる。上記ハイドロタルサイトと上記過塩素酸とのモル比は任意に設定できるが、一般には、ハイドロタルサイト1モルに対し、過塩素酸0.1モル以上2モル以下が好ましい。
【0040】
ここで、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは85モル%以上である。また、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは95モル%以下である。未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率が上記の範囲内にあることにより、塩化ビニル樹脂成形シートをより容易に製造することができるからである。
【0041】
なお、ハイドロタルサイトは、一般式:[Mg1-xAlx(OH)2]x+[(CO3)x/2・mH2O]x-で表される不定比化合物で、プラスに荷電した基本層[Mg1-xAlx(OH)2]x+と、マイナスに荷電した中間層[(CO3)x/2・mH2O]x-とからなる層状の結晶構造を有する無機物質である。ここで、上記一般式中、xは0より大きく0.33以下の範囲の数である。天然のハイドロタルサイトは、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oである。合成されたハイドロタルサイトとしては、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2Oが市販されている。合成ハイドロタルサイトの合成方法は、例えば特開昭61-174270号公報に記載されている。
【0042】
ここで、過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量は、特に制限されることなく、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、7質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートに、低温下での引張伸びをより良好に維持することができるからである。
【0043】
-ゼオライト-
塩化ビニル樹脂組成物は、ゼオライトを安定剤として含有し得る。ゼオライトは、一般式:Mx/n・[(AlO2x・(SiO2y]・zH2O(一般式中、Mは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表される化合物である。当該一般式中のMの種類としては、Na、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。
【0044】
ここで、ゼオライトの含有量は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0045】
-β-ジケトン-
β-ジケトンは、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートの初期色調の変動をより効果的に抑えるために用いられる。β-ジケトンの具体例としては、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどが挙げられる。これらのβ-ジケトンは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
なお、β-ジケトンの含有量は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0047】
-脂肪酸金属塩-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る脂肪酸金属塩は、特に制限されることなく、任意の脂肪酸金属塩とすることができる。中でも、一価脂肪酸金属塩が好ましく、炭素数12~24の一価脂肪酸金属塩がより好ましく、炭素数15~21の一価脂肪酸金属塩が更に好ましい。脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸バリウム、2-エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等である。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、多価陽イオンを生成しうる金属が好ましく、2価陽イオンを生成しうる金属がより好ましく、周期表第3周期~第6周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が更に好ましく、周期表第4周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が特に好ましい。最も好ましい脂肪酸金属塩はステアリン酸亜鉛である。
【0048】
ここで、脂肪酸金属塩の含有量は、特に制限されることなく、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。脂肪酸金属塩の含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートの色差の値を小さくできるからである。
【0049】
-離型剤-
離型剤としては、特に制限されることなく、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸エステルおよび12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマーなどの12-ヒドロキシステアリン酸系潤滑剤が挙げられる。ここで、離型剤の含有量は、特に制限されることなく、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下とすることができる。
【0050】
-その他のダスティング剤-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、上記塩化ビニル樹脂微粒子以外の、その他のダスティング剤としては、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;ポリアクリロニトリル樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、ポリプロピレン樹脂微粒子、ポリエステル樹脂微粒子、ポリアミド樹脂微粒子などの有機微粒子;が挙げられる。中でも、平均粒径が10nm以上100nm以下の無機微粒子が好ましい。
【0051】
ここで、その他のダスティング剤の含有量は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂100質量部に対して30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。その他のダスティング剤は、1種類を単独で、又は2種類以上を併用してもよく、また、上述した塩化ビニル樹脂微粒子と併用してもよい。
【0052】
-その他の添加剤-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るその他の添加剤としては、特に制限されることなく、例えば、着色剤(顔料)、耐衝撃性改良剤、過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等の、エポキシ化植物油系熱安定剤;酸化防止剤、防カビ剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、光安定剤、発泡剤等が挙げられる。
【0053】
着色剤(顔料)の具体例は、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ポリアゾ縮合顔料、イソインドリノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、チタンホワイト、カーボンブラックである。1種又は2種以上の顔料が使用される。
キナクリドン系顔料は、p-フェニレンジアントラニル酸類が濃硫酸で処理されて得られ、黄みの赤から赤みの紫の色相を示す。キナクリドン系顔料の具体例は、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレットである。
ペリレン系顔料は、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物と芳香族第一級アミンとの縮合反応により得られ、赤から赤紫、茶色の色相を示す。ペリレン系顔料の具体例は、ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドーである。
ポリアゾ縮合顔料は、アゾ色素が溶剤中で縮合されて高分子量化されて得られ、黄、赤系顔料の色相を示す。ポリアゾ縮合顔料の具体例は、ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレットである。
イソインドリノン系顔料は、4,5,6,7-テトラクロロイソインドリノンと芳香族第一級ジアミンとの縮合反応により得られ、緑みの黄色から、赤、褐色の色相を示す。イソインドリノン系顔料の具体例は、イソインドリノンイエローである。
銅フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン類に銅を配位した顔料で、黄みの緑から鮮やかな青の色相を示す。銅フタロシアニン系顔料の具体例は、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーである。
チタンホワイトは、二酸化チタンからなる白色顔料で、隠蔽力が大きく、アナタース型とルチル型がある。
カーボンブラックは、炭素を主成分とし、酸素、水素、窒素を含む黒色顔料である。カーボンブラックの具体例は、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、ボーンブラックである。
【0054】
耐衝撃性改良剤の具体例は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンなどである。塩化ビニル樹脂組成物では、1種又は2種以上の耐衝撃性改良剤が使用できる。なお、耐衝撃性改良剤は、塩化ビニル樹脂組成物中で微細な弾性粒子の不均一相となって分散する。塩化ビニル樹脂組成物では、当該弾性粒子にグラフト重合した鎖及び極性基が塩化ビニル樹脂と相溶し、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートの耐衝撃性が向上する。
【0055】
酸化防止剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸塩などのリン系酸化防止剤などである。
【0056】
防カビ剤の具体例は、脂肪族エステル系防カビ剤、炭化水素系防カビ剤、有機窒素系防カビ剤、有機窒素硫黄系防カビ剤などである。
【0057】
難燃剤の具体例は、ハロゲン系難燃剤;リン酸エステル等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;などである。
【0058】
帯電防止剤の具体例は、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、スルホン酸塩類等のアニオン系帯電防止剤;脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類等のノニオン系帯電防止剤;などである。
【0059】
充填剤の具体例は、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、クレーなどである。
【0060】
光安定剤の具体例は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ニッケルキレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などである。
【0061】
発泡剤の具体例は、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p,p-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホニルヒドラジド化合物などの有機発泡剤;フロンガス、炭酸ガス、水、ペンタン等の揮発性炭化水素化合物、これらを内包したマイクロカプセルなどの、ガス系の発泡剤;などである。
【0062】
[塩化ビニル樹脂組成物の調製方法]
塩化ビニル樹脂組成物は、特に制限されることなく、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、必要に応じて更に使用される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、塩化ビニル樹脂微粒子を含むダスティング剤を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0063】
<<塩化ビニル樹脂成形シートの成形方法>>
そして、塩化ビニル樹脂成形シートは上述した塩化ビニル樹脂組成物をシート状に成形することにより得られる。塩化ビニル樹脂組成物を成形する方法としては、特に限定されることはなく、既知の成形方法を用いることができるが、粉体成形を用いることが好ましく、パウダースラッシュ成形を用いることがより好ましい。
ここで、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0064】
そして、塩化ビニル樹脂成形シートを製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型する。そして、脱型された塩化ビニル樹脂成形シートは、例えば、金型の形状をかたどったシート状の成形体として得られる。
【0065】
<樹脂層L>
本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、上述した塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置された所定の樹脂層Lを有する。なお、当該所定の樹脂層Lは、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の両側に配置されていてもよいし、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の一方側のみに配置されていてもよいが、通常、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の一方側のみに配置されている。
【0066】
また、塩化ビニル樹脂積層シートの厚み方向の一方側または両側の表面は、一部が所定の樹脂層Lで構成されていてもよいし、全部が所定の樹脂層Lで構成されていてもよい。
【0067】
ここで、所定の樹脂層Lは、通常、塩化ビニル樹脂成形シートに直接接着している。
【0068】
そして、当該所定の樹脂層Lは、SP値が所定の範囲にある樹脂Aと、バインダーとを含む。さらに、当該樹脂Aおよびバインダーの上述した塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性はそれぞれ所定の分類に評価される。なお、当該樹脂層Lは、本発明の所望の効果が得られる範囲内において、樹脂Aおよびバインダー以外のその他の成分を含んでいてもよい。
【0069】
ここで、一般に、塩化ビニル樹脂成形シートは、例えば、発泡ウレタン成形体などの他の樹脂部材等と直接接触した状態に置かれると、塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤が他の樹脂部材に移行することで、塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の量が減少し、塩化ビニル樹脂成形シートの劣化が発生すると考えられている。しかしながら、上述したSP値が所定の範囲にある樹脂Aを含む樹脂層Lを有する本発明の塩化ビニル樹脂積層シートであれば、塩化ビニル樹脂成形シートと他の樹脂部材等との間に当該樹脂層Lを介在させることで、可塑剤が塩化ビニル樹脂成形シートから樹脂層Lを通過して他の樹脂部材等に到達することが困難になり、結果として、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると推測される。また、通常、上記樹脂層Lに含まれる樹脂Aの接着性は低いが、樹脂層Lにバインダーを更に含ませることで、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を高めることができる。
【0070】
<<樹脂A>>
樹脂層Lに含まれる樹脂Aは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得る成分である。
ここで、樹脂層Lに含まれ得る樹脂AのSP値は14(cal/cm31/2以上であることが必要であり、15(cal/cm31/2以上であることが好ましく、16(cal/cm31/2以上であることがより好ましい。樹脂AのSP値が14(cal/cm31/2以上であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができる。また、樹脂AのSP値は30(cal/cm31/2以下であることが好ましく、25(cal/cm31/2以下であることがより好ましく、22(cal/cm31/2以下であることが更に好ましく、20(cal/cm31/2以下であることが特に好ましい。樹脂AのSP値が30(cal/cm31/2以下であれば、樹脂層Lの柔軟性を更に高めることができる。
【0071】
また、樹脂層Lに含まれ得る樹脂Aは、JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される上述した塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が5であることが必要である。
【0072】
上述した樹脂Aとしては、例えば、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルからの完全ケン化物またはポリ酢酸ビニル部分ケン化物ともいう。ポリ酢酸ビニルからのケン化度が60%以上でSP値が14(cal/cm31/2以上となる)、ポリアクリル酸(SP値=14.0(cal/cm31/2、以下本明細書中におけるSP値の単位はこれに同じ)、ポリメタクリル酸(SP値=14.0)、ポリアクリルアミド(SP値=19.2)、ポリメタクリルアミド(SP値=19.2)、ポリN-ビニルホルムアミド(SP値=17.2)、水溶性デンプン(SP値=23.5)、ヒドロキシエチルセルロース(SP値=19.3)、ヒドロキシプロピルセルロース(SP値=18.0)、メチルセルロース(SP値=17.4)、エチルセルロース(SP値=16.2)、キトサン(SP値=20.4)などを用いることができる。中でも、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制する観点から、樹脂Aとしては、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0073】
そして、ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度は、60%以上とすることができ、61%以上であることが好ましく、62%以上であることがより好ましく、63%以上であることが更に好ましく、65%以上であることが一層好ましく、100%とすることができ、100%未満であることが好ましく、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることが更に好ましい。ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度が、上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。一方、ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度が、上記上限以下であれば、樹脂層Lの柔軟性を高めることができる。
なお、ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度は、JIS K6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して測定することができる。
【0074】
樹脂Aとして使用し得るポリビニルアルコールの具体例としては、ポリ酢酸ビニルからの完全ケン化物(SP値=23.4)、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が90%のもの(SP値=19.1)、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が80%のもの(SP値=17.5)、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が65%のもの(SP値=16.4)などが挙げられる。中でも、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制すると共に、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を高める観点から、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が65%のものを用いることが好ましい。
【0075】
<<バインダー>>
樹脂層Lに含まれるバインダーは、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を高め得る成分である。そして、樹脂層Lに含まれ得るバインダーは、JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される上述した塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が0~4のいずれかであることが必要であり、0~3のいずれかであることが好ましく、0~2のいずれかであることがより好ましく、0または1であることが更に好ましい。バインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の評価が上記所定の分類のいずれかであれば、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を高めることができる。
【0076】
上述したバインダーとしては、ウレタン系バインダーおよびアクリルエステル系バインダーを用いることが好ましく、ウレタン系バインダーを用いることがより好ましい。バインダーとして、ウレタン系バインダーおよびアクリルエステル系バインダーの少なくとも一方を用いれば、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を更に高めることができる。
【0077】
ここで、ウレタン系バインダーは、イソシアネート類とポリオール類などとを反応させて得られるポリウレタンである。そして、ウレタン系バインダーとしては、ポリオール類としてポリエステルポリオールを用いて得られるポリエステル系ポリウレタン;ポリオール類としてポリカーボネートポリオールを用いて得られるポリカーボネート系ポリウレタン;ポリオール類としてポリエーテルポリオールを用いて得られるポリエーテル系ポリウレタン;ポリオール類としてポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオールの混合物を用いて得られるポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン;ポリオール類としてポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールの混合物を用いて得られるポリエステルポリエーテル系ポリウレタン;などのうち、塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の評価が上記所定の分類のいずれかであるポリウレタンを用いることができる。
そして、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を一層高める観点から、ウレタン系バインダーとしては、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、およびポリカーボネートポリエステル系ポリウレタンを用いることが好ましく、ポリエステル系ポリウレタンおよびポリカーボネート系ポリウレタンを用いることがより好ましく、ポリエステル系ポリウレタンを用いることが更に好ましい。
【0078】
なお、ウレタン系バインダーとして用い得るポリウレタンは、イソシアネート類として芳香族系ポリイソシアネートを用いて得られる黄変型ポリウレタン、および、イソシアネート類として脂肪族ポリイソシアネートを用いて得られる無黄変型ポリウレタンのいずれであってもよいが、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を一層高める観点から、イソシアネート類として芳香族系ポリイソシアネートを用いて得られる黄変型ポリウレタンがより好ましい。
【0079】
ウレタン系バインダーとしては、市販品を用いることもできる。市販品のウレタン系バインダーとしては、トウペ社製「トアタンS」(ポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン)、第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)460」(無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン)、第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)740」(黄変型ポリエステル系ポリウレタン)などを好適に用いることができる。
【0080】
また、アクリルエステル系バインダーとしては、バインダーとして機能し得る既知のアクリルエステル系重合体のうち、塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の評価が上記所定の分類のいずれかであるものを用いることができる。ここで、アクリルエステル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位を含む重合体である。そしてアクリルエステル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、任意に、酸性基含有単量体、α,β-不飽和ニトリル単量体、その他の単量体を含む単量体組成物を重合して得られる。なお、上記各単量体としては、既知の単量体を用いることができる。
【0081】
樹脂層L中における樹脂Aの含有量に対するバインダーの含有量の質量比(バインダー/樹脂A:乾燥質量比)は、1/40以上であることが好ましく、1/30以上であることがより好ましく、1/25以上であることが更に好ましく、1/20以上であることが特に好ましく、1/4以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましく、3/20以下であることが更に好ましく、1/10以下であることが特に好ましく、3/40以下であることが最も好ましい。樹脂層L中における樹脂Aの含有量に対するバインダーの含有量の質量比(バインダー/樹脂A:乾燥質量比)が上記下限以上であれば、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を更に高めることができる。一方、樹脂層L中における樹脂Aの含有量に対するバインダーの含有量の質量比(バインダー/樹脂A:乾燥質量比)が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0082】
<<その他の成分>>
その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、樹脂層L用可塑剤および分散剤などの添加剤などが挙げられる。
【0083】
[樹脂層L用可塑剤]
樹脂層Lは樹脂層L用可塑剤を更に含むことが好ましい。樹脂層Lは樹脂層L用可塑剤を更に含むことにより、優れた柔軟性を発揮することができる。したがって、当該樹脂層Lを備える塩化ビニル樹脂積層シートの柔軟性を高めることができる。ここで、樹脂層L用可塑剤は、樹脂Aとしてポリビニルアルコールを使用した場合に、特に優れた柔軟性を樹脂層Lに付与し得る。
【0084】
樹脂層L用可塑剤としては、メチレングリコール、エチレングリコール、n-プロピレングリコール、n-ブチレングリコールなどの、炭素数1~4のジオール化合物;メチルポリグリコール、エチルポリグリコールなどの、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシド;を用いることが好ましく、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドを用いることがより好ましい。上述した化合物を樹脂用可塑剤として使用すれば、樹脂層Lの柔軟性を更に高めることができる。
【0085】
ここで、樹脂層Lの柔軟性を一層高める観点から、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドにおける末端アルキル基は炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基および/またはエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。なお、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドは、両末端アルキル変性および片末端アルキル変性のいずれであってもよいが、片末端アルキル変性であることが好ましい。
【0086】
また、樹脂層Lの柔軟性を一層高める観点から、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドの調製に用いるポリアルキレンオキシドは、ポリエチレンオキシドおよび/またはポリプロピレンオキシドであることが好ましく、ポリエチレンオキシドであることがより好ましい。なお、当該ポリアルキレンオキシドの数平均重合度は、2以上であることが好ましく、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0087】
したがって、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドとしては、片末端メチル変性ポリエチレンオキシドであるメチルポリグリコール(「ポリエチレングリコールモノメチルエーテル」とも称する)を用いることが特に好ましい。
【0088】
樹脂層L中における樹脂Aの含有量に対する樹脂層L用可塑剤の含有量の質量比(樹脂層L用可塑剤/樹脂A)は、1/40以上であることが好ましく、3/100以上であることがより好ましく、7/200以上であることが更に好ましく、1/25以上であることが一層好ましく、1/20以上であることが特に好ましく、1/5以下であることが好ましく、3/20以下であることがより好ましく、1/10以下であることが更に好ましく、2/25以下であることが一層好ましく、7/100以下であることがより一層好ましい。樹脂層L中における樹脂Aの含有量に対する樹脂層L用可塑剤の含有量の質量比(樹脂層L用可塑剤/樹脂A)が上記下限以上であれば、樹脂層Lの柔軟性を更に高めることができる。一方、樹脂層L中における樹脂Aの含有量に対する樹脂層L用可塑剤の含有量の質量比(樹脂層L用可塑剤/樹脂A)が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0089】
[分散剤]
分散剤は、後述する樹脂層Lの形成方法で使用する樹脂層L形成用液に添加することで、樹脂層Lに含まれ得る成分である。そして、樹脂層L形成用液に分散剤を添加することにより、樹脂層L形成用液中にバインダーを良好に分散させることができる。したがって、樹脂層L形成用液の安定性及び保存性が良好になると共に、形成される樹脂層Lは塩化ビニル樹脂成形シートに対して更に優れた接着性を発揮することができる。
【0090】
分散剤としては、特に限定されることはなく、既知の分散剤を使用することができるが、特に界面活性剤を分散剤として好適に用いることができる。界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ドデシルアンモニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤;等が挙げられる。中でも、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。なお、樹脂層L中の分散剤の含有量は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で任意に調整することができる。
【0091】
<<厚み>>
そして、樹脂層Lの厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましく、10μm以上であることが特に好ましく、20μm以上であることが最も好ましく、1000μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。樹脂層Lの厚みが0.1μm以上であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。一方、樹脂層Lの厚みが1000μm以下であれば、樹脂層L全体の重量を少なくすることができる。
【0092】
<<樹脂層Lの形成方法>>
樹脂層Lは、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に形成される。
ここで、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に樹脂層Lを形成する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
1)樹脂Aおよびバインダーを含む樹脂層L形成用液を塩化ビニル樹脂成形シートの表面に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)樹脂Aおよびバインダーを含む樹脂層L形成用液に塩化ビニル樹脂成形シートを浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)樹脂Aおよびバインダーを含む樹脂層L形成用液を離型基材上に塗布し、乾燥して樹脂層Lを作製し、得られた樹脂層Lを塩化ビニル樹脂成形シートの表面に転写し積層する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、樹脂層Lの層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、樹脂層L形成用液を塩化ビニル樹脂成形シート上に塗布する工程(塗布工程)と、塩化ビニル樹脂成形シート上に塗布された樹脂層L形成用液を乾燥させて樹脂層Lを形成する工程(樹脂層L形成工程)を含む。
【0093】
ここで、樹脂層L形成用液は、樹脂Aおよびバインダーを任意の溶媒に溶解または分散させたものである。そして、溶媒としては、樹脂Aおよびバインダーの特性に応じて、水、ギ酸、酢酸、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等の既知の溶媒または分散媒を使用することができる。
【0094】
樹脂層L形成用液中の樹脂Aの濃度は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で任意に調整することができる。また、樹脂層L形成用液中の樹脂Aの含有量に対するバインダーの含有量の質量比は、「バインダー」の項で上述した樹脂層L中における両者の質量比の範囲内で任意に調整することができる。
【0095】
また、樹脂層L形成用液は、「その他の成分」の項で上述した樹脂層L用可塑剤および分散剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0096】
<塗布工程>
そして、塗布工程において、樹脂層L形成用液を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、バーコート法、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法、スプレーコート法などの方法が挙げられる。中でも、塩化ビニル樹脂成形シートが曲面形状などの複雑な構造である際に対応しやすいことから、スプレーコート法を用いることが好ましい。
【0097】
<樹脂層L形成工程>
また、樹脂層L形成工程において、塩化ビニル樹脂成形シート上に塗布された樹脂層L形成用液を乾燥させる方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは10℃以上150℃以下である。また、乾燥時間は本発明の所望の効果が得られる範囲内で任意に調整することができる。
【0098】
(塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法)
本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に樹脂およびバインダーを含む樹脂層Lを形成する工程を含み、前記樹脂のSP値が、14(cal/cm31/2以上であり、JIS K5600-5-6に準拠するクロスカット法により評価される前記樹脂の前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が5であり、前記クロスカット法により評価される前記バインダーの前記塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類が0~4のいずれかであることを特徴とする。本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートを製造することができる。
【0099】
ここで、塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法に用いる塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂およびバインダーとしては、「塩化ビニル樹脂積層シート」の項で上述した塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂A、およびバインダーをそれぞれ用いることができる。そして、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、上記樹脂Aおよびバインダーを含む樹脂層Lを形成する方法としては、「塩化ビニル樹脂積層シート」の項で上述した樹脂層Lの形成方法を用いることができる。
【0100】
なお、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法は、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に上述した樹脂層Lを形成する限り、特に限定されることはなく、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の両側に樹脂層Lを形成してもよいし、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の一方側のみに樹脂層Lを形成してもよい。
【0101】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂積層シートとを有する。そして、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形シートとの間に上述した所定の樹脂層Lが介在した構造を有する。なお、通常、発泡ポリウレタン成形体は、塩化ビニル樹脂積層シートの一方側に樹脂層Lを介在させて裏打ちされており、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂積層シートとは積層方向に隣接して(即ち、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形シートとは樹脂層Lを介して積層方向に積層されて)いる。
【0102】
そして、本発明の積層体は、発泡ウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形シートとの間に樹脂層Lが介在しているため、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると共に、塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度に優れている。従って、本発明の積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等といった自動車内装部品の自動車内装材として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネル用に好適に用いられる。
【0103】
ここで、積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、塩化ビニル樹脂積層シートの樹脂層Lが設けられている側の表面上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂積層シート上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する。
なお、発泡ポリウレタン成形体を構成するポリウレタン樹脂のSP値は、通常8(cal/cm31/2以上であり、好ましくは9(cal/cm31/2以上であり、通常12(cal/cm31/2以下であり、好ましくは11(cal/cm31/2以下である。
【実施例
【0104】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、樹脂Aおよびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性;樹脂層Lの厚みおよび柔軟性;加熱後の塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率;塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度;は、下記の方法で測定または評価した。
【0105】
<樹脂Aおよびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性>
各実施例および比較例において、使用した樹脂Aの20%水溶液を調製し、作製した塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面とは反対の面にバーコーターで塗布し、1昼夜放置して乾燥し、約20μmの膜を作製した。その後、JIS K5600-5-6準拠するクロスカット法によって、樹脂Aの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性を0~5のいずれかの分類に評価した。
また、樹脂Aの20%水溶液に代えて、各実施例で使用したバインダーをそのまま、塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面とは反対の面にバーコーターで塗布したこと以外は、上述した操作と同様にして、バインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性を0~5のいずれかの分類に評価した。
【0106】
<樹脂層Lの厚み>
各実施例および比較例で得られた積層体が有する樹脂層Lの断面をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製「VHX-900」)で観察することにより、樹脂層Lの厚みを測定した。断面の観察および厚みの測定は、積層体の両長辺付近で各1点ずつ、および積層体の面上中央付近の1点の合計3点で実施し、最も小さい数値を測定結果とした。
【0107】
<樹脂層Lの柔軟性>
各実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂積層シートを、シボ付き面が下(即ち、樹脂層Lが形成された面が上)になるように両手で下から持ち、長手方向の略中央部分を谷折りし、目視観察して、樹脂層Lの剥がれ具合を下記の基準により評価した。
A:剥がれが確認されない。
B:僅かに剥がれが確認される。
C:一部に剥がれが確認される。
D:ほぼ完全な剥がれが確認される。
【0108】
<加熱前後での塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率>
各実施例および比較例で得られた積層体から塩化ビニル樹脂成形シートのみを剥離し、当該塩化ビニル樹脂成形シートから50±0.2mgを採取し、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。更にメタノールで50mLにメスアップした後に、上澄み溶液を下記の条件のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析することで、加熱前の塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の含有割合A(%)を測定した。
【0109】
高速液体クロマトグラフ分析装置:Agilent社製「LC1260-II」
カラム:Agilent社製「ZORBAX Eclipse XDB-C8」
カラム温度:40℃
移動相A:アセトニトリル
移動相B:イオン交換水
グラジエント条件:0min(20体積%移動相B)、2.5min(0体積%移動相B)、8.0min(0体積%移動相B)
流速:1.0mL/min
検出器:ダイオードアレイ検出器(DAD)
シグナル:254nm
Ref:360nm
注入量:1μm
【0110】
また、各実施例および比較例で得られた積層体をオーブンに入れ、温度130℃の環境下で100時間、加熱を行なったこと以外は、上述した操作と同様にして、加熱後の塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の含有割合B(%)を測定した。
【0111】
以上より、可塑剤以外のその他の成分(塩化ビニル樹脂等)の含有量がW(g)である塩化ビニル樹脂成形シートを上述した条件で加熱した場合、加熱前後の塩化ビニル樹脂成形シートにおける可塑剤およびその他の成分それぞれの含有量(g)と含有割合(%)とが、上記A、BおよびWを用いて表1のように示される。そこで、下記の算出式(I)により、可塑剤の減少率X(%)を算出した。なお、加熱前後において、塩化ビニル樹脂成形シートにおけるその他の成分の含有量W(g)は変化しないものとする。
【0112】
【表1】
【0113】
可塑剤の減少率X(%)
=100×{(加熱前の可塑剤の含有量)-(加熱後の可塑剤の含有量)}/(加熱前の可塑剤の含有量)
=100×{W×A/(100-A)-W×B/(100-B)}/[W×A/(100-A)]
=100×[1-{B×(100-A)}/{A×(100-B)}]・・・(I)
【0114】
<塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度>
各実施例および比較例で得られた積層体を切断し、150mm×25mm×1.2mmのサイズの試験片を取得した。得られた試験片について、オートグラフ(島津製作所社製「AG-20kN IS」)を使用して、試験片の長手方向に沿って発泡ポリウレタン成形体部分から塩化ビニル樹脂成形シート部分を剥離させる180°剥離試験を行い、剥離強度(N/25mm)を測定した。この際の測定条件は、剥離速度200mm/分、温度23℃であった。得られる剥離強度の値が大きいほど、積層体における塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度が優れていることを示す。したがって、得られる剥離強度の値が大きいほど、塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との間に介在する樹脂層Lが塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性に優れていることを示す。
【0115】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表2に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル)と、安定剤であるエポキシ化大豆油と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤と安定剤としてのエポキシ化大豆油とを全て添加し、更に昇温することにより、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度100℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
【0116】
<塩化ビニル樹脂成形シートの形成>
上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、8秒~20秒程度の任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、200mm×300mm×1.2mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
【0117】
<樹脂層L形成用液の調製>
容器中に、分散媒としての水32部、およびイソプロピルアルコール(関東化学社製)48部;樹脂層L用可塑剤としてのエチレングリコール(関東化学社製)2部;並びに分散剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル(花王社製「エマルゲンLS-114」)2部を投入し、室温(約23℃)下で攪拌を開始した。そこに、樹脂Aとしてのポリビニルアルコール(PVA、日本酢ビ・ポバール(株)社製「JMR-10M」、ポリ酢酸ビニルからのケン化度:65%、SP値:16.4(cal/cm31/2)20部を投入し、攪拌しながら加温を開始した。約45℃まで加温し、PVAが溶解したところで加温をやめ、攪拌しながら室温付近まで放冷した。その後、攪拌しながら、バインダーとしてのポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン(トウペ社製「トアタンS」)を乾燥質量換算で2部を投入し、混合して、樹脂層L形成用液を調製した。
なお、樹脂Aおよびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性をそれぞれ評価したところ、樹脂Aとしてのポリビニルアルコールの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類は5であり、バインダーとしてのポリカーボネートポリエステル系ポリウレタンの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類は0であった。
【0118】
<塩化ビニル樹脂積層シートの作製(樹脂層Lの形成)>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面とは反対の面に、上記方法により得られた樹脂層L形成用液をスプレーにより塗布した。その後、20℃の温風により1日間乾燥させることにより、塩化ビニル樹脂成形シートの片面に樹脂層Lが形成された塩化ビニル樹脂積層シートを作製した。また、得られた塩化ビニル樹脂積層シートを用いて、樹脂層Lの柔軟性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0119】
<積層体の形成>
作製された塩化ビニル樹脂積層シートを、温度100℃に設定したオーブンに2時間静置し、その後200mm×300mm×10mmの金型の中に、シボ付き面を下にして敷いた。
別途、プロピレングリコールのPO(プロピレンオキサイド)・EO(エチレンオキサイド)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)を50部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)を50部、水を2.5部、トリエチレンジアミンのエチレングリコ-ル溶液(東ソー社製、商品名「TEDA-L33」)を0.2部、トリエタノールアミンを1.2部、トリエチルアミンを0.5部、および整泡剤(信越化学工業製、商品名「F-122」)を0.5部混合して、ポリオール混合物を得た。また、得られたポリオール混合物とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とを、イソシアネートインデックスが98になる比率で混合した混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型中に敷かれた塩化ビニル樹脂積層シートの上に注いだ。その後、348mm×255mm×10mmのアルミニウム板で上記金型に蓋をして、金型を密閉した。金型を密閉してから5分間放置することにより、表皮としての塩化ビニル樹脂積層シート(厚み:1.22mm)に隣接して、発泡ポリウレタン成形体(厚み:8.78mm、密度:0.18g/cm3、SP値:10.0(cal/cm31/2)が裏打ち(積層)された積層体が、金型内で形成された。
そして、形成された積層体を金型から取り出して、上述の方法に従って、加熱前後での塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率、および塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度を測定および評価した。結果を表3に示す。なお、積層体を用いて、樹脂層Lの厚みを測定したところ、20μmであった。
【0120】
(実施例2)
樹脂層L形成用液の調製において、樹脂層L用可塑剤として、エチレングリコール2部に代えて、メチルポリグリコール(数平均重合度:4)1部を使用し、バインダーとして、ポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン2部(乾燥質量換算)に代えて、無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン(第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)460」)1部(乾燥質量換算)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定を行った。結果を表3に示す。
なお、バインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性を評価したところ、バインダーとしての無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタンの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類は1であった。また、樹脂層Lの厚みを測定したところ、20μmであった。
【0121】
(実施例3)
樹脂層L形成用液の調製において、バインダーとして、無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン1部(乾燥質量換算)に代えて、黄変型ポリエステル系ポリウレタン(第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)740」)1部(乾燥質量換算)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定を行った。結果を表3に示す。
なお、バインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性を評価したところ、バインダーとしての黄変型ポリエステル系ポリウレタンの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性の分類は0であった。また、樹脂層Lの厚みを測定したところ、20μmであった。
【0122】
(実施例4)
樹脂層L形成用液の調製において、バインダーとしての黄変型ポリエステル系ポリウレタンの使用量を1部(乾燥質量換算)から2部(乾燥質量換算)に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定を行った。結果を表3に示す。
なお、乾燥後の樹脂層Lの厚みを測定したところ、20μmであった。
【0123】
(比較例1)
塩化ビニル樹脂積層シートの作製において、塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面とは反対の面に樹脂層Lを形成せず(即ち、塩化ビニル樹脂積層シートを作製せず)、塩化ビニル樹脂積層シートに代えて、樹脂層Lを備えていない塩化ビニル樹脂成形シートをそのまま使用して積層体を製造したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、得られた積層体について、加熱前後での塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
(比較例2)
樹脂層L形成用液の調製において、バインダーとしてのポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン2部を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定を行った。結果を表3に示す。
なお、樹脂層Lの厚みを測定したところ、20μmであった。
【0125】
【表2】
【0126】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)1700ZI」(懸濁重合法、SP値:9.6(cal/cm31/2)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法、SP値:9.6(cal/cm31/2)
3)東ソー社製、製品名「リューロンペースト(登録商標)860」(乳化重合法、SP値:9.6(cal/cm31/2)
4)花王社製、製品名「トリメックスN-08」(SP値:9.0(cal/cm31/2
5)信越化学工業社製、製品名「X-50-1039A」
6)ADEKA社製、製品名「アデカサイザーO-130S」
7)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
8)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
9)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
10)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
11)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
12)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
【0127】
【表3】
【0128】
表3より、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂と、バインダーとを含み、且つ、当該樹脂およびバインダーの塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性がそれぞれ所定の分類に評価される樹脂層Lを配置してなる実施例1~4の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できると共に、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性にも優れていることがわかる。
一方、比較例1から、上記所定の樹脂層Lを備えない塩化ビニル樹脂成形シート単体は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができないことがわかる。
さらに、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にあり、且つ、塩化ビニル樹脂成形シートに対する付着性が所定の分類に評価される樹脂を含むものの、上記所定のバインダーを含まない樹脂層を配置してなる比較例2の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できるものの、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性には劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートを提供することができる。
また、本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体との接着強度に優れる積層体を提供することができる。