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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】磁性体粒子の操作方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20230822BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230822BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
B01J19/08 J
B01J19/08 D
C12M1/00 A
C12N15/10 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020557094
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043106
(87)【国際公開番号】W WO2020105159
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-02-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勢矢
(72)【発明者】
【氏名】叶井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】軸屋 博之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 鉄雄
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】南元 彩花
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117032(JP,A)
【文献】特開2014-221061(JP,A)
【文献】特開昭63-108265(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086243(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/113047(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/079779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/08
B03C 1/00
B03C 1/005
B03C 1/28
C12M 1/00
C12M 1/28
C12M 1/34
C12M 1/42
C12Q 1/68
C12N 13/00
C12N 15/10
G01N 1/40
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粒子に捕捉された目的物質を処理する方法であって、
管状容器内に前記管状容器の長手方向の上方にあるゲル層と下方の処理液層とが重層されている磁性体粒子操作デバイスを準備するステップと、
前記磁性体粒子操作デバイス内の磁性体粒子を前記磁性体粒子操作デバイスの外側から磁力源により操作し、前記ゲル層から前記処理液層へ移動させるステップと、
前記移動させるステップの後、前記磁力源を前記管状容器の前記長手方向に沿って前記処理液層の範囲でのみ自動的に往復動させることにより、前記処理液層内において前記磁性体粒子に運動させるステップと、を含み、
前記運動させるステップでは、前記磁力源の上死点を、前記処理液層の上端から、前記磁性体粒子が前記ゲル層を通過する際に前記ゲル層のゲルが前記処理液層内へ侵入し得る距離以上の一定距離だけ離れた位置とする、方法。
【請求項2】
前記運動させるステップにおいて、前記処理液層内における前記磁力源の動作範囲のうち前記ゲル層に最も近い一定範囲における前記磁力源の動作速度を前記動作範囲のうちの前記一定範囲以外の範囲における前記磁力源の動作速度よりも遅くする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一定距離は予め実験により求められた距離である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記処理液層内へ侵入したゲルの端部を光学的に検出することにより、前記一定距離を取得する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記磁性体粒子操作デバイスは、前記処理液層と前記ゲル層とが前記管状容器内において交互に重層されているものである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
磁性体粒子に捕捉された目的物質を処理する装置であって、
管状容器内に前記管状容器の長手方向の上方にあるゲル層と下方の処理液層とが重層されており、前記目的物質を捕捉した前記磁性体粒子が前記管状容器内に収容されている磁性体粒子操作デバイスと、
前記磁性体粒子操作デバイス内の前記磁性体粒子に対して作用させる磁力を発する磁力源と、
前記磁力源を前記磁性体粒子操作デバイスの前記管状容器の前記長手方向に沿って移動させる移動機構と、
前記移動機構の動作を制御する制御部であって、前記磁性体粒子に前記ゲル層を通過させた後、そのゲル層の下方の前記処理液層内において前記磁性体粒子に運動させる際に、前記処理液層の上端よりも下方の位置を上死点として前記磁力源を前記処理液層の範囲でのみ往復動させるように構成された制御部と、を備え
前記磁力源の前記上死点は、前記処理液層の上端から、前記磁性体粒子が前記ゲル層を通過する際に前記ゲル層のゲルが前記処理液層内へ侵入し得る距離以上の一定距離だけ離れた位置である、装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記処理液層内における前記磁力源の動作範囲のうち前記ゲル層に最も近い一定範囲における前記磁力源の動作速度を前記動作範囲のうちの前記一定範囲以外の範囲における前記磁力源の動作速度よりも遅くするように構成されている、請求項に記載の装置
【請求項8】
前記一定距離は予め設定されたものである。請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記処理液層内へ侵入したゲルの端部を光学的に検出する検知部をさらに備え、
前記制御部は、前記検知部により検知された前記ゲルの端部の位置に基づいて前記一定距離を取得するように構成されている、請求項に記載の装置。
【請求項10】
前記磁性体粒子操作デバイスは、前記処理液層と前記ゲル層とが前記管状容器内において交互に重層されているものである、請求項からのいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体粒子を用いて核酸等の抽出といった処理を行なうための磁性体粒子操作方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核酸等の目的成分を吸着させた磁性体粒子をデバイス内に収容し、デバイスの外部から磁性体粒子に対して磁場を作用させて磁性体粒子をデバイス内で移動させることで、目的成分の抽出といった処理を行なうことが提案され、実施もなされている。
【0003】
上記の処理を行なうための磁性体粒子操作デバイス(以下、単にデバイスともいう)は、チューブ状の容器内に洗浄液等からなる処理液層とゲル層とが容器の長手方向に交互に配置されたものである(特許文献1、特許文献2を参照。)。
【0004】
磁性体粒子操作デバイスにおいて、目的成分を吸着させた磁性体粒子を含む試料層はデバイスの一方の端部に配置される。デバイスの試料層の外部に磁力源を配置して試料中の磁性体粒子を磁場によって収集する。これにより、目的成分が吸着した磁性体粒子は、磁力源の動作に追随してデバイス内を移動するようになる。
【0005】
目的成分が吸着した磁性体粒子は、磁力源をデバイスの他端側へゆっくりと移動させることによってゲル層を通過させることができる。処理液層が洗浄液からなるものである場合、処理液層において磁力源をデバイスの長手方向へ素早く往復運動させると、磁性体粒子が磁力源の動作に追随することができずに洗浄液中に分散する。この動作により、目的成分に付着していた夾雑成分が処理液層において洗い落とされる。
【0006】
上記の処理が終了した後、磁性体粒子をデバイスの他方の端部に配置された溶出液層まで移動させ、溶出液層にて目的成分を磁性体粒子から遊離させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2012/086243A1
【文献】WO2012/176598A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁性体粒子にゲル層を通過させる際、ゲル層内のゲルの一部が磁性体粒子とともに処理液層内へ侵入し、処理液層の内側壁面に付着することが多い。その場合、処理液層内で分散させた磁性体粒子が内側壁面に付着したゲルと接触するとゲルに磁性体粒子が捕捉され、結果的に目的成分の回収率が低下するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、処理液層の内側壁面に付着したゲルに起因した目的成分の回収率の低下を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る方法として第1の方法と第2の方法がある。いずれの方法も、管状容器内に前記管状容器の長手方向に処理液層とゲル層とが重層されている磁性体粒子操作デバイス内の磁性体粒子を前記磁性体粒子操作デバイスの外側から磁力源により操作する方法である。
【0011】
本発明に係る第1の方法は、前記磁性体粒子に前記ゲル層を通過させた後、そのゲル層に隣接する前記処理液層内において前記磁性体粒子に運動させるために前記磁力源を前記管状容器の長手方向に沿って自動的に動作させる際に、前記磁性体粒子が通過した前記ゲル層から一定距離の範囲内における前記磁力源の動作速度を前記ゲル層から前記一定距離よりも大きく離れた範囲内における前記磁力源の動作速度よりも遅くするというものである。ゲル層から一定距離の範囲内における磁力源の動作速度を前記ゲル層から前記一定距離よりも大きく離れた範囲内における前記磁力源の動作速度よりも遅くすることで、ゲル層からの一定距離の範囲内に存在し得るゲルに磁性体粒子が捕捉されにくくなる。これにより、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減できる。
【0012】
上記第1の方法において、前記一定距離の範囲内における前記磁力源の動作速度を、前記一定距離の範囲内に存在するゲルに前記磁性体粒子を捕捉させない速度にすることが好ましい。そうすれば、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子をさらに低減できる。
【0013】
本発明に係る第2の方法は、前記磁性体粒子に前記ゲル層を通過させた後、そのゲル層に隣接する前記処理液層内において前記磁性体粒子に運動させる際に、前記磁性体粒子が通過した前記ゲル層から一定距離よりも大きく離れた範囲内において前記磁力源を前記管状容器の長手方向に沿って自動的に動作させるというものである。処理液層内において磁性体粒子を運動させる際に、磁力源をゲル層から一定距離よりも大きく離れた範囲内において動作させるので、ゲル層から一定距離の範囲内に存在し得るゲルに磁性体粒子が捕捉されることを防止できる。これにより、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減することができる。
【0014】
上記第2の方法において、前記処理液層内における前記磁力源の動作範囲のうち前記ゲル層に最も近い一定範囲における前記磁力源の動作速度を前記動作範囲のうちの前記一定範囲以外の範囲における前記磁力源の動作速度よりも遅くするようにしてもよい。そうすれば、ゲル層から一定距離以上に離れた位置までゲルが処理液層内へ侵入している場合でも、そのようなゲルに捕捉される磁性体粒子を低減することができる。
【0015】
本発明に係る装置として第1の装置と第2の装置が存在する。いずれの装置も、管状容器内に前記管状容器の長手方向に処理液層とゲル層とが重層されている磁性体粒子操作デバイス内の磁性体粒子を前記磁性体粒子操作デバイスの外側から操作するための装置であって、前記磁性体粒子操作デバイス内の前記磁性体粒子に対して作用させる磁力を発する磁力源と、前記磁力源を前記磁性体粒子操作デバイスの前記管状容器の長手方向に沿って移動させる移動機構と、前記移動機構の動作を制御する制御部と、を備えている。
【0016】
本発明に係る第1の装置では、前記制御部が、前記磁性体粒子に前記ゲル層を通過させた後、そのゲル層に隣接する前記処理液層内において前記磁性体粒子に運動させるために前記磁力源を前記管状デバイスの長手方向に動作させ、かつ、前記磁性体粒子が通過した前記ゲル層から一定距離の範囲内における前記磁力源の動作速度を前記ゲル層から前記一定距離よりも大きく離れた範囲内における前記磁力源の動作速度よりも遅くするように構成されている。ゲル層から一定距離の範囲内における磁力源の動作速度が前記ゲル層から前記一定距離よりも大きく離れた範囲内における動作速度よりも遅く制御されるので、ゲル層からの一定距離の範囲内に存在し得るゲルに磁性体粒子が捕捉されにくくなる。これにより、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減できる。
【0017】
上記第1の装置においては、前記一定距離の範囲内における前記磁力源の動作速度を、前記一定距離の範囲内に存在するゲルに前記磁性体粒子を捕捉させない速度にすることが好ましい。そうすれば、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子をさらに低減できる。
【0018】
本発明に係る第2の装置では、前記制御部が、前記磁性体粒子に前記ゲル層を通過させた後、そのゲル層に隣接する前記処理液層内において前記磁性体粒子に運動させる際に、前記磁性体粒子が通過した前記ゲル層から一定距離の範囲内に前記磁性体粒子が入らないように、前記磁力源を動作させるように構成されている。処理液層内において磁性体粒子を運動させる際に、磁力源がゲル層から一定距離よりも大きく離れた範囲内において動作するように制御されるので、ゲル層から一定距離の範囲内に存在し得るゲルに磁性体粒子が捕捉されることを防止できる。これにより、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減することができる。
【0019】
上記第2の装置において、前記制御部は、前記処理液層内における前記磁力源の動作範囲のうち前記ゲル層に最も近い一定範囲における前記磁力源の動作速度を前記動作範囲のうちの前記一定範囲以外の範囲における前記磁力源の動作速度よりも遅くするように構成されていてもよい。そうすれば、ゲル層から一定距離以上に離れた位置までゲルが処理液層内へ侵入している場合でも、そのようなゲルに捕捉される磁性体粒子を低減することができる。
【0020】
本発明の方法及び装置における前記一定距離とは、前記磁性体粒子が前記ゲル層を通過する際に前記ゲル層のゲルが前記処理液層内へ侵入した距離以上の距離であってよい。磁性体粒子がゲル層を通過する際にゲルが処理液層内へ侵入する距離は、例えば、予め実験によって求めておくことができる。このように、ゲル層から処理液層へゲルが侵入した距離の範囲内に磁性体粒子が入らないように磁性体粒子を運動させる、すなわち、処理液層においてゲルの存在しない範囲内で磁力源を移動させることで、処理液層内で分散した磁性体粒子が処理液層の内側壁面に付着したゲルに捕捉されることを抑制でき、目的成分の回収率の低下を防止できる。
【0021】
また、前記処理液層内へ侵入したゲルの端部は、処理液とゲルとの反射率又は透過率の違いから光学的に検出することができ、それに基づいて前記一定距離を取得することもできる。そうすれば、処理液層へのゲルの侵入距離を正確に把握でき、処理液層へ侵入したゲルに磁性体粒子が捕捉されることをより確実に防止できる。
【0022】
本発明の方法及び装置において用いられる前記磁性体粒子操作デバイスは、前記処理液層と前記ゲル層とが前記管状容器内において交互に重層されているものであってよい。なお、本発明はそのような磁性体粒子操作デバイスに限定されず、処理液層とゲル層をそれぞれ1層ずつ備えているものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る第1の方法では、処理液層内において磁性体粒子を運動させる際に、ゲル層から一定距離の範囲内における磁力源の動作速度を前記ゲル層から前記一定距離よりも大きく離れた範囲内における前記磁力源の動作速度よりも遅くするので、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減でき、目的成分の回収率の低下を抑制することができる。
【0024】
本発明に係る第2の方法では、処理液層内において磁性体粒子を運動させる際に、磁力源をゲル層から一定距離よりも大きく離れた範囲内において動作させるので、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減でき、目的成分の回収率の低下を抑制することができる。
【0025】
本発明に係る第1の装置では、処理液層内において磁性体粒子を運動させる際に、ゲル層から一定距離の範囲内における磁力源の動作速度が前記ゲル層から前記一定距離よりも大きく離れた範囲内における動作速度よりも遅く制御されるので、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減でき、目的成分の回収率の低下を抑制することができる。
【0026】
本発明に係る第2の装置では、処理液層内において磁性体粒子を運動させる際に、磁力源がゲル層から一定距離よりも大きく離れた範囲内において動作するように制御されるので、処理液層内へ侵入したゲルに捕捉される磁性体粒子を低減でき、目的成分の回収率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】磁性体粒子操作デバイス内で磁性体粒子を操作するための装置の一実施例を示す概略断面構成図である。
図2】同実施例において磁性体粒子をゲル層から処理液層へ移動させる工程を順に示す図である。
図3】処理液層内における磁性体粒子の操作の一例を示す図である。
図4】処理液層内における磁性体粒子の操作の他の例を示す図である。
図5】処理液層内に侵入したゲルの端部を光学的に検知する実施例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、磁性体粒子操作デバイス内で磁性体粒子を操作するための装置及び方法の実施例について説明する。
【0029】
図1は、磁性体粒子操作デバイス100内で磁性体粒子を操作するための装置の構成を概略的に示している。この装置は、磁性体粒子操作デバイス100を嵌め込むための窪み4を有する前面パネル2を備えているとともに、前面パネル2の背後に、磁力源8、保持ブロック10、ボールネジ12及びステッピングモータ14を備えている。
【0030】
この実施例で使用される磁性体粒子操作デバイス100は、管状容器の内部において一端側から長手方向に、試料層102、ゲル層108、処理液層104、ゲル層108、処理液層104、ゲル層108、溶出液層106が重層されたものである。なお、このように処理液層104とゲル層108とが交互に重層されたものは磁性体粒子操作デバイスの一例であり、処理液層104とゲル層108とをそれぞれ1層ずつ備えた磁性体粒子操作デバイスも本発明の対象となる。
【0031】
試料層102を構成する試料には核酸などの目的物質を捕捉した磁性体粒子が含まれている。処理液層104は、磁性体粒子に捕捉された目的物質の処理を行なうための処理液からなる。処理液としては、磁性体粒子に捕捉された目的物質から夾雑成分を取り除くための洗浄液が挙げられる。溶出液層106を構成する溶出液は、処理液層104を経て分離・精製等の処理がなされた目的物質を溶解させるためのものであり、例えば純水を用いることができる。
【0032】
磁力源8は、磁性体粒子操作デバイス100内の磁性体粒子に磁力を作用させて外部から操作するためのものであり、例えば永久磁石によって実現される。ボールネジ12は、前面パネル2の窪み4に嵌め込まれる磁性体粒子操作デバイス100の長手方向と平行に設けられており、ステッピングモータ14によって回転させられる。保持ブロック10はボールネジ12と螺合しており、ボールネジ12が回転することによってボールネジ12の軸方向へ移動するようになっている。保持ブロック10、ボールネジ12及びステッピングモータ14は磁力源8を磁性体粒子操作デバイス100の長手方向へ移動させるための移動機構を構成する。
【0033】
前面パネル2の窪み4の底面に、窪み4に嵌め込まれた磁性体粒子操作デバイス100に対して磁力源8を露出させるための開口が設けられている。磁力源8は、保持ブロック10によって窪みに嵌め込まれる磁性体粒子操作デバイス100の近傍で保持されており、保持ブロック10がボールネジ12の軸方向への移動に伴って磁性体粒子操作デバイス100の長手方向へ移動する。磁性体粒子操作デバイス100内の磁性体粒子は、磁力源8からの磁力の作用によって磁力源8の動作に追随し、磁性体粒子操作デバイス100内を長手方向へ移動する。
【0034】
前面パネル2を覆う開閉式のカバー16が設けられている。カバー16の内側には、カバー16が閉じられたときに窪み4に嵌め込まれた磁性体粒子操作デバイス100を磁力源8側へ押圧するための押圧板18が弾性部材20を介して取り付けられている。カバー16が閉じられると、押圧板18は、磁性体粒子操作デバイス100と当接するとともに弾性部材20によって磁性体粒子操作デバイス100側へ付勢され、これによって磁性体粒子操作デバイス100の反りが矯正される。
【0035】
ステッピングモータ14の動作は制御部26によって制御される。制御部26は、演算素子や記憶媒体を備えた電子回路によって実現することができる。制御部26は、磁力源8に磁性体粒子を追随させながら各処理液層104へ移行させ、各処理液層104にて磁性体粒子操作デバイス100の長手方向へ往復動させることにより、処理液層104内において磁性体粒子に運動させ、磁性体粒子に捕捉された目的成分に対する所定の処理、例えば夾雑成分を荒い流す洗浄処理、を実施するように構成されている。
【0036】
制御部26は、磁性体粒子にゲル層108を通過させる際に、磁力源8をゆっくりと下方へ移動させる。このとき、図2(A)及び(B)に示されているように、ゲル層108のゲルが磁性体粒子とともに処理液層104へ侵入し、処理液層104内の内側壁面に付着することが多い。処理液層104内の内側壁面にゲルが付着している範囲内で磁力源8を素早く動作させると、磁性体粒子が処理液層104内に侵入したゲルに捕捉される虞がある。そこで、制御部26は、処理液層104内において目的成分に対する所定の処理を実施する際、処理液層104内において磁性体粒子をゲルに捕捉されにくくする動作を磁力源8が行なうように、ステッピングモータ14の動作を制御する。
【0037】
処理液層104内において磁性体粒子をゲルに捕捉されにくくする磁力源8の動作の一例として、図2(A)及び(B)の動作の続きとして示されている図3(C)のように、ゲル層108から一定距離Lの範囲内での磁力源8の動作速度を、ゲル層108から一定距離Lよりも大きく離れた範囲内におけるものよりも遅くすることが挙げられる。ゲル層108から一定距離Lの範囲内での磁力源8の動作速度は、一定距離L内に存在するゲルに磁性体粒子を捕捉させないような速度であることが好ましく、例えば、ゲル層108から一定距離Lよりも大きく離れた範囲内における動作速度の半分以下の速度である。
【0038】
この場合、ゲル層108からの一定距離Lは、磁性体粒子にゲル層108を通過させる際に処理液層104へゲルが侵入し得る距離以上の距離であってよい。そうすれば、処理液層104にて磁性体粒子に運動させる際に、磁性体粒子が処理液層104内に侵入したゲルに捕捉されることを低減でき、目的成分の回収率の低下を防止できる。
【0039】
また、処理液層104内において磁性体粒子をゲルに捕捉されにくくする磁力源8の動作の他の例として、図2(A)及び(B)の動作の続きとして示されている図4(C)’のように、ゲル層108から一定距離Lよりも大きく離れた範囲内においてのみ磁力源8を動作させることが挙げられる。すなわち、磁力源8の往復動の上死点は、ゲル層108から一定距離Lよりも大きく離れた位置である。
【0040】
この場合も、ゲル層108からの一定距離Lは、磁性体粒子にゲル層108を通過させる際に処理液層104へゲルが侵入し得る距離以上の距離であってよい。そうすれば、処理液層104にて磁性体粒子に運動させる際に、磁性体粒子が処理液層104内に侵入したゲルに捕捉されることを低減でき、目的成分の回収率の低下を防止できる。
【0041】
なお、ゲル層108から一定距離Lよりも大きく離れた範囲内においてのみ磁力源8を動作させる場合に、ゲル層108に近い領域での磁力源8の動作速度を他の領域での動作速度よりも遅くしてもよい。そうすれば、万が一、磁力源8の動作範囲内にゲルが存在する場合でも、磁性体粒子がゲルに捕捉されることを抑制できる。
【0042】
制御部26は、処理液層104内において目的成分に対する所定の処理を実施する際、磁力源8が図3(C)又は図4(C)’に示されているような動作を行なうように、ステッピングモータ14の動作を制御する。
【0043】
ここで、磁性体粒子操作デバイス100の各処理液層104とゲル層108との境界の位置は規格化されており、制御部26は各処理液層104とゲル層108との境界位置がどこにあるかを予め把握している。
【0044】
磁性体粒子にゲル層108を通過させる際に処理液層104へゲルが侵入し得る距離は、実験によりある程度把握することができる。したがって、予め実験的により把握された侵入距離を考慮した距離Lを制御部26に記憶させておくことで、目的成分の回収率を低下させずに所定の処理を実施することができる。
【0045】
また、図5に示されているように、光の反射率や透過率の変化により処理液層104内に侵入したゲルの端部を光学的に検知する検知部30を設けてもよい。この場合、制御部26は、磁性体粒子にゲル層108を通過させた後、検知部30によって処理液層104内に侵入したゲルの端部の位置を検知し、その位置に基づいてゲル層108からの一定距離Lを割り出すように構成されることが好ましい。その場合、制御部26は、検知部30を用いて割り出した一定距離Lを用いて、処理液層104内において磁性体粒子に運動させる際に、図3(C)又は図4(C)’に示されているような動作を磁力源8に行なわせるように構成することができる。そうすれば、処理液層104内に侵入したゲルに磁性体粒子が捕捉されることを確実に低減することができ、目的成分の回収率の低下を防止できる。
【符号の説明】
【0046】
2 前面パネル
4 窪み
6 開口
8 磁力源
10 保持ブロック
12 ボールネジ
14 ステッピングモータ
16 カバー
18 押圧板
20 弾性部材
22 マイクロセンサ
24 ピン
26 制御部
100 磁性体粒子操作デバイス
102 試料層
104 処理液層
106 溶出液層
108 ゲル層
図1
図2
図3
図4
図5