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  • 特許-電力ケーブルおよび電気絶縁組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】電力ケーブルおよび電気絶縁組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 9/00 20060101AFI20230822BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20230822BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20230822BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20230822BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230822BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H01B9/00 A
H01B3/44 F
H01B3/44 K
H01B3/44 P
C08L23/04
C08L25/04
C08K5/20
C08K5/01
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021511117
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2020000707
(87)【国際公開番号】W WO2020202689
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019071786
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝則
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-031353(JP,A)
【文献】特開2002-265747(JP,A)
【文献】特開平11-236470(JP,A)
【文献】特表2008-545017(JP,A)
【文献】特表2015-535864(JP,A)
【文献】特表2013-528690(JP,A)
【文献】特開2002-248671(JP,A)
【文献】特開平11-181165(JP,A)
【文献】特開2006-249409(JP,A)
【文献】特開2001-031903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00- 25/18
C08K 3/00- 13/08
H01B 3/00- 3/56
H01B 9/00- 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、を有する電気絶縁組成物により構成され、
前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.15質量部以上11質量部以下である
電力ケーブル。
【請求項2】
前記脂肪酸アミドの含有量に対する、前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量の比率は、1.5以上110以下である
請求項1に記載の電力ケーブル。
【請求項3】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、を有する電気絶縁組成物により構成され、
前記脂肪酸アミドは、ラウリル酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、およびN,N’-ジオレイルセバシン酸アミドのうち少なくともいずれか1つであり、
前記脂肪酸アミドの含有量に対する、前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量の比率は、1.5以上110以下である
電力ケーブル。
【請求項4】
記スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率は、45質量%未満である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
前記電気絶縁組成物を、常温の1規定NaCl水溶液中に直接的に浸漬した状態で、前記電気絶縁組成物に対して商用周波数4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、
前記電気絶縁組成物中に発生する水トリーの最大長さは、200μm未満である
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項6】
前記電気絶縁組成物を、常温の1規定NaCl水溶液中に直接的に浸漬した状態で、前記電気絶縁組成物に対して商用周波数4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、
前記電気絶縁組成物中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度は、200個/cm未満である
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を0.1質量部以上10質量部以下さらに有する
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記脂肪酸アミドは、脂肪酸モノアミドである
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項9】
前記脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸アミドである
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項10】
前記ベース樹脂は、架橋されている
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項11】
前記ポリエチレンは、低密度ポリエチレンおよび直鎖状低密度ポリエチレンのうち少なくともいずれかからなる
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項12】
電力ケーブルの絶縁層を構成する電気絶縁組成物であって、
ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、
脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、
を有し、
前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.15質量部以上11質量部以下である
電気絶縁組成物。
【請求項13】
電力ケーブルの絶縁層を構成する電気絶縁組成物であって、
ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、
脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、
を有し、
前記脂肪酸アミドは、ラウリル酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、およびN,N’-ジオレイルセバシン酸アミドのうち少なくともいずれか1つであり、
前記脂肪酸アミドの含有量に対する、前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量の比率は、1.5以上110以下である
電気絶縁組成物。
【請求項14】
記スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率は、45質量%未満である
請求項12または請求項13に記載の電気絶縁組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気絶縁組成物および電力ケーブルに関する。
本出願は、2019年4月4日出願の日本国出願「特願2019-071786」に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する電気絶縁組成物のベース樹脂として広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-69611号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様によれば、
ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、
脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、
を有する
電気絶縁組成物が提供される。
【0005】
本開示の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、を有する電気絶縁組成物により構成される
電力ケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
電力ケーブルが湿潤環境下または浸水環境下において課電されると、絶縁層中に水トリーが発生する可能性がある。このため、絶縁層の水トリー耐性を向上させることが求められる。
【0008】
本開示の目的は、ケーブル諸特性を確保しつつ、水トリー耐性を向上させることができる技術を提供することである。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、ケーブル諸特性を確保しつつ、水トリー耐性を向上させることができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0011】
電力ケーブルは、例えば、湿潤環境下または浸水環境下に布設されることがある。このような環境下では、電力ケーブルの絶縁層に所定の電界が印加されると、絶縁層中に水トリーが発生する可能性がある。絶縁層中に水トリーが発生すると、電力ケーブルの絶縁性が低下するおそれがある。
【0012】
水トリーは、例えば、以下のようなメカニズムにより発生する。すなわち、湿潤環境下または浸水環境下では、電力ケーブルの絶縁層内に水が浸入しうる。電力ケーブルの課電中において絶縁層内に水が浸入すると、絶縁層中の局所的な電界集中が生じた部分において、水が凝集する。局所的な電界集中部としては、例えば、絶縁層中のボイド、異物、および、絶縁層と半導電層との界面不整部などが挙げられる。このような局所的な電界集中部に水が凝集すると、凝集した水の圧力上昇に起因して、当該水凝集部分の周辺に力学的な歪みが生じる。その結果、樹木状または蝶ネクタイ状の水トリーが絶縁層中に発生する。
【0013】
従来では、電力ケーブルの絶縁層中における水トリーの発生を抑制するため、例えば、上述の特許文献1などのように様々な技術が検討されてきた。
【0014】
しかしながら、近年では、湿潤環境下または浸水環境下に布設される電力ケーブルに対して求められる仕様が厳しくなっている。または、湿潤環境下または浸水環境下に布設される電力ケーブルの構成を簡略化し、電力ケーブルのコストを削減することが求められている。これらのため、水トリー耐性を従来よりもさらに向上させた電力ケーブルが望まれている。
【0015】
そこで、本発明者等は、電力ケーブルの絶縁層を構成する電気絶縁組成物中に添加する材料について検討を行った。具体的には、電気絶縁組成物中に添加する様々な材料の中から、スチレン含有樹脂と、脂肪酸アミドと、を検討した。検討の結果、スチレン含有樹脂、または脂肪酸アミドのうちいずれかを添加することにより、絶縁層中の水トリーの発生個数密度を低減させることができることが分かった。
【0016】
本発明者等のさらなる鋭意検討の結果、スチレン含有樹脂と、脂肪酸アミドと、の両方を添加することにより、水トリー耐性を顕著に向上させることができることを見出した。具体的には、絶縁層中に発生する水トリーの最大長さを短くさせることができるとともに、絶縁層中の水トリーの発生個数密度を顕著に低減させることができることを見出した。
【0017】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
【0018】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0019】
[1]本開示の一態様に係る電気絶縁組成物は、
ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、
脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、
を有する。
この構成によれば、ケーブル諸特性を確保しつつ、水トリー耐性を顕著に向上させることができる。
【0020】
[2]上記[1]に記載の電気絶縁組成物において、
前記ベース樹脂および前記脂肪酸アミドを有する電気絶縁組成物を、常温の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、前記電気絶縁組成物に対して商用周波数4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、
前記電気絶縁組成物中に発生する水トリーの最大長さは、200μm未満である。
この構成によれば、水トリーに起因した絶縁層の絶縁破壊を安定的に抑制することができる。
【0021】
[3]上記[1]又は[2]に記載の電気絶縁組成物において、
前記ベース樹脂および前記脂肪酸アミドを有する電気絶縁組成物を、常温の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、前記電気絶縁組成物に対して商用周波数4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、
前記電気絶縁組成物中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度は、200個/cm未満である。
この構成によれば、水トリーに起因した絶縁層の絶縁破壊を安定的に抑制することができる。
【0022】
[4]上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
前記スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率は、45質量%未満である。
この構成によれば、水トリーの最大長さを充分に短くすることができる。また、誘電正接を充分に小さくすることができる。また、機械特性(引張強度および引張伸び)を充分に向上させることができる。
【0023】
[5]上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.15質量部以上11質量部以下である。
この構成によれば、スチレン総含有量が0.15質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。スチレン総含有量を11質量部以下とすることで、誘電正接を充分に小さくすることができ、機械特性(引張強度および引張伸び)を充分に向上させることができる。
【0024】
[6]上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
前記脂肪酸アミドの含有量に対する、前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量の比率は、1.5以上110以下である。
この構成によれば、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性を充分に得ることができる。また、誘電正接の上昇と、機械特性の低下(引張強度の低下および引張伸びの短縮)と、を安定的に抑制することができる。
【0025】
[7]上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を0.1質量部以上10質量部以下さらに有する。
この構成によれば、スチレン含有樹脂と脂肪酸アミドとの両方による水トリー抑制効果に加えて、絶縁層中における水トリーの発生をより安定的に抑制することができる。
【0026】
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
前記脂肪酸アミドは、脂肪酸モノアミドからなる。
この構成によれば、極性基による水の局所集中抑制効果を向上させることができる。
【0027】
[9]上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
前記脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸アミドからなる。
この構成によれば、分散された不飽和結合部(二重結合)に電子をトラップさせることができ、局所的な電界集中を抑制することができる。
【0028】
[10]上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
有機過酸化物を含む架橋剤を有する。
この構成によれば、架橋剤によりベース樹脂を架橋させることができる。これにより、電気絶縁組成物の機械特性および電気特性を向上させることができる。
【0029】
[11]上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物において、
前記ベース樹脂は、架橋されている。
この構成によれば、電気絶縁組成物の機械特性および電気特性を向上させることができる。
【0030】
[12]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、を有する電気絶縁組成物により構成される。
この構成によれば、ケーブル諸特性を確保しつつ、水トリー耐性を顕著に向上させることができる。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
<本開示の一実施形態>
(1)電気絶縁組成物
本実施形態の電気絶縁組成物は、後述する電力ケーブル10の絶縁層130を構成する材料であり、例えば、ベース樹脂と、脂肪酸アミドと、その他の添加剤と、を有している。
【0033】
なお、本実施形態でいう「電気絶縁組成物」とは、例えば、後述の架橋剤を含まず未架橋の状態の組成物、後述の架橋剤を含み未架橋の状態の組成物、および架橋された状態の組成物を含んでいる。
【0034】
(ベース樹脂)
ベース樹脂(ベースポリマ)とは、電気絶縁組成物の主成分を構成する樹脂成分のことをいう。本実施形態のベース樹脂は、例えば、ポリエチレンと、スチレン含有樹脂と、を含んでいる。
【0035】
ベース樹脂を構成するポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE:密度0.91g/cm以上0.93g/cm未満)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE:密度0.945g/cm以下)、中密度ポリエチレン(MDPE:密度0.93g/cm以上0.942g/cm未満)、高密度ポリエチレン(HDPE:密度0.942g/cm以上)などが挙げられる。これらの中でも、LDPEおよびLLDPEのうち少なくともいずれかが好ましい。これにより、電力ケーブルの絶縁性を向上させつつ機械特性を向上させることができる。
【0036】
ベース樹脂を構成する「スチレン含有樹脂」とは、少なくとも一部にスチレンを含むポリマのことを意味し、スチレン系熱可塑性エラストマと言い換えることもできる。
【0037】
ベース樹脂がスチレン含有樹脂を含むことにより、スチレンが有する芳香環に電子をトラップさせ、安定的な共鳴構造を形成することができる。また、スチレン含有樹脂をエラストマとして作用させ、機械的なストレスクラックの発生を抑制することができる。これらにより、後述の絶縁層130中の水トリーの発生を抑制することができる。
【0038】
具体的には、スチレン含有樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレンブタジエンラバー、水添スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
なお、ここでいう「水添」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体と言い換えることができる。
【0040】
ベース樹脂の合計の含有量を100質量部としたときに、ベース樹脂中におけるポリエチレンの含有量は、例えば、65質量部以上98質量部以下であり、ベース樹脂中におけるスチレン含有樹脂の含有量は、例えば、2質量部以上35質量部以下である。
【0041】
スチレン含有樹脂の含有量が2質量部未満であると、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、スチレン含有樹脂の含有量を2質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、スチレン含有樹脂の含有量が35質量部超であると、スチレンの芳香環に電子が過剰にトラップされ、交流電界に対する損失が大きくなる可能性がある。このため、誘電正接が大きくなる可能性がある。また、スチレン含有樹脂の含有量が35質量部超であると、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックが、ソフトセグメントとしてのポリオレフィンブロックに対して相対的に過剰に増加する。このため、機械特性が低下する(引張強度の低下および引張伸びの短縮のうち少なくともいずれかが生じる)可能性がある。これに対し、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、スチレンの芳香環に電子が過剰にトラップされることを抑制し、交流電界に対する損失の増大を抑制することができる。これにより、誘電正接を小さくすることができる。また、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的な過剰増加を抑制することができる。これにより、機械特性の低下(引張強度の低下および引張伸びの短縮)を抑制することができる。
【0042】
本実施形態では、スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率(以下、単に「スチレン含有率」ともいう)は、例えば、45質量%未満であることが好ましい。なお、「スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率」とは、スチレン含有樹脂1分子中に含まれるスチレンの質量比率のことを意味する。
【0043】
スチレン含有率が45質量%以上であると、ポリエチレンとスチレン含有樹脂との相溶性が低下する。相溶性が低下すると、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックが相対的に密な部分が生じてしまう可能性がある。このため、水トリーが発生した場合に、ポリスチレンブロックが相対的に密な部分において、ストレスクラックが充分に抑制されず、水トリー伝播抑制効果が充分に得られない可能性がある。その結果、水トリーの最大長さを充分に短くできない可能性がある。また、スチレン含有率が45質量%以上であると、スチレンの芳香環への電子トラップが局所的に偏り、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができない可能性がある。このため、誘電正接を充分に小さくできない可能性がある。また、スチレン含有率が45質量%以上であると、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックが相対的に増加する。このため、機械特性(引張強度および引張伸びのうち少なくともいずれか)を充分に向上させることができない可能性がある。
【0044】
これに対し、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、ポリエチレンとスチレン含有樹脂との相溶性の低下を抑制することができる。相溶性の低下を抑制することで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックが相対的に密な部分の発生を抑制することができる。これにより、電気絶縁組成物中のストレスクラックを均一に抑制し、水トリーの伝播を抑制することができる。その結果、水トリーの最大長さを充分に短くすることができる。また、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、スチレンの芳香環への電子トラップの局所的な偏りを抑制することができ、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができる。これにより、誘電正接を充分に小さくすることができる。また、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的増加を抑制することができる。これにより、機械特性(引張強度および引張伸び)を充分に向上させることができる。
【0045】
なお、スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率の下限値については、特に限定されるものではない。しかしながら、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を効率よく発現させる観点では、スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率は、例えば、5質量%以上であることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態では、ベース樹脂中のスチレンの総含有量(以下、単に「スチレン総含有量」ともいう)は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.15質量部以上11質量部以下であることが好ましい。
【0047】
スチレン総含有量が0.15質量部未満であると、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、スチレン総含有量が0.15質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、スチレン総含有量が11質量部超であると、スチレンの芳香環への電子トラップの増加に起因して、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができない可能性がある。このため、誘電正接を充分に小さくできない可能性がある。また、スチレン総含有量が11質量部超であると、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックが、ソフトセグメントとしてのポリオレフィンブロックに対して相対的に増加する。このため、機械特性(引張強度および引張伸びのうち少なくともいずれか)を充分に向上させることができない可能性がある。これに対し、スチレン総含有量を11質量部以下とすることで、スチレンの芳香環への電子トラップに起因した、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができる。これにより、誘電正接を充分に小さくすることができる。また、スチレン総含有量を11質量部以下とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的増加を抑制することができる。これにより、機械特性(引張強度および引張伸び)を充分に向上させることができる。
【0048】
(脂肪酸アミド)
電気絶縁組成物中に脂肪酸アミドを添加することにより、脂肪酸アミドを滑剤として作用させ、絶縁層130の押出工程における電気絶縁組成物の流動性を向上させることができる。また、脂肪酸アミドを分散させることで、分散された極性基(親水基)によって電気絶縁組成物中の局所的な水の集中を抑制することができる。これにより、絶縁層130中の水トリーの発生を抑制することができる。
【0049】
脂肪酸アミドとしては、例えば、飽和脂肪酸モノアミド、不飽和脂肪酸モノアミド、飽和脂肪酸ビスアミドおよび不飽和脂肪酸ビスアミドが挙げられる。
【0050】
具体的には、飽和脂肪酸モノアミドとしては、例えば、ラウリル酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0051】
不飽和脂肪酸モノアミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。
【0052】
飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミドなどが挙げられる。
【0053】
不飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。
【0054】
なお、これらの脂肪酸アミドのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本実施形態では、電気絶縁組成物中に添加される脂肪酸アミドは、例えば、脂肪酸モノアミドであることが好ましい。すなわち、脂肪酸アミドは、例えば、1つのアミド基を有することが好ましい。これにより、脂肪酸アミドの極性を向上させることができる。その結果、極性基による水の局所集中抑制効果を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、電気絶縁組成物中に添加される脂肪酸アミドは、例えば、不飽和脂肪酸アミドであることが好ましい。すなわち、脂肪酸アミドは、例えば、不飽和結合部(不飽和基、二重結合)を有することが好ましい。これにより、分散された不飽和結合部に電子をトラップさせることができ、局所的な電界集中を抑制することができる。
【0057】
本実施形態では、電気絶縁組成物中における脂肪酸アミドの含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.05質量部以上1.0質量部以下である。
【0058】
脂肪酸アミドの含有量が0.05質量部未満であると、脂肪酸アミドによる水トリー抑制効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、脂肪酸アミドの含有量を0.05質量部以上とすることで、脂肪酸アミドによる水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、脂肪酸アミドの含有量が1.0質量部超であると、ベース樹脂と脂肪酸アミドとの相溶性の違いに起因して、絶縁層130の表面に脂肪酸アミドが析出してしまう可能性がある。なお、この現象を「ブルーム」という。これに対し、脂肪酸アミドの含有量を1.0質量部以下とすることで、ベース樹脂と脂肪酸アミドとの相溶性の違いに起因したブルームの発生を抑制することができる。
【0059】
本実施形態では、脂肪酸アミドと、上述したスチレン含有樹脂と、の両方を添加することで、これらの相乗的作用によって、水トリー耐性を顕著に向上させることができる。
【0060】
本実施形態では、脂肪酸アミドの含有量Aに対する、ベース樹脂中のスチレンの総含有量Bの比率B/A(以下、含有量比率B/Aともいう)は、例えば、1.5以上110以下であることが好ましく、2.4以上105以下であることがより好ましい。
【0061】
含有量比率B/Aが1.5未満であると、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性が充分に得られない可能性がある。これに対し、含有量比率B/Aを1.5以上とすることで、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性を充分に得ることができる。さらに含有量比率B/Aを2.4以上とすることで、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性を安定的に得ることができる。
【0062】
一方で、含有量比率B/Aが110超であると、脂肪酸アミドによる流動性向上効果が充分に得られない可能性がある。このため、ポリスチレンブロックを均一に分散させることが困難となる可能性がある。また、含有量比率B/Aが110超であると、脂肪酸アミドの極性基による水の局所集中抑制効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、含有量比率B/Aを110以下とすることで、脂肪酸アミドによる流動性向上効果を充分に得ることができる。これにより、ポリスチレンブロックを均一に分散させることができる。その結果、誘電正接の上昇と、機械特性の低下(引張強度の低下および引張伸びの短縮)と、を安定的に抑制することができる。また、含有量比率B/Aを110以下とすることで、脂肪酸アミドの極性基による水の局所集中抑制効果を充分に得ることができる。これにより、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性を充分に得ることができる。さらに含有量比率B/Aを105以下とすることで、誘電正接の上昇と、機械特性の低下(引張強度の低下および引張伸びの短縮)と、を確実に抑制することができる。また、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性をより充分に得ることができる。
【0063】
(α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体)
本実施形態では、電気絶縁組成物は、例えば、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体をさらに有していてもよい。
【0064】
電気絶縁組成物中にα-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を添加することにより、電気絶縁組成物の押出工程において局所的なスコーチ(やけ)の発生を抑制することができる。また、スチレン含有樹脂と同様の原理により、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体が有する芳香環に電子をトラップさせ、安定的な共鳴構造を形成することができる。これらにより、絶縁層130中の水トリーの発生を安定的に抑制することができる。なお、以下において、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を「不飽和二量体」と略すことがある。
【0065】
α-芳香族置換α-メチルアルケンの単量体は、例えば、以下の式(1)で表される。
【0066】
【化1】
【0067】
ただし、Rは、アリール基、アルカリール基、ハロゲン置換アリール基、またはハロゲン置換アルカリール基のうちいずれかである。なお、ここでいう「アルカリール基」とは、1または複数のアルキル基に結合した1または複数のアリール基の組み合わせをいう。
【0068】
具体的には、α-芳香族置換α-メチルアルケンの単量体としては、例えば、α-メチルスチレン、パラ-メチル-α-メチルスチレン、パラ-イソプロピル-α-メチルスチレン、メタ-メチル-α-メチルスチレン、メタ-エチル-α-メチルスチレン、ar-ジメチル-α-メチルスチレン、ar-クロル-α-メチルスチレン、ar-クロル-ar-メチル-α-メチルスチレン、ar-ジエチル-α-メチルスチレン、ar-メチル-ar-イソプロピル-α-メチルスチレン等が挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体としては、例えば、α-メチルスチレンの不飽和二量体(2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン)が挙げられる。なお、α-メチルスチレンの不飽和二量体と、それ以外の不飽和二量体とのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
本実施形態では、電気絶縁組成物中におけるα-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下である。
【0071】
不飽和二量体の含有量が0.1質量部未満であると、不飽和二量体による水トリー抑制効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、不飽和二量体の含有量を0.1質量部以上とすることで、不飽和二量体による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、不飽和二量体の含有量が10質量部超であると、ベース樹脂が架橋し難くなり、電気絶縁組成物のゲル分率が低下する。このため、所定の交流電界を印加したときの誘電正接が上昇したり、絶縁層130の引張特性が低下したりする可能性がある。これに対し、不飽和二量体の含有量を10質量部以下とすることで、所定量のベース樹脂を架橋させ、電気絶縁組成物のゲル分率の低下を抑制することができる。これにより、所定の交流電界を印加したときの誘電正接の上昇を抑制することができ、絶縁層130の引張特性の低下を抑制することができる。
【0072】
(架橋剤)
本実施形態では、電気絶縁組成物のベース樹脂は、例えば、架橋剤により架橋されることが好ましい。これにより、電気絶縁組成物の機械特性(引張特性など)および電気特性を向上させることができる。
【0073】
電気絶縁組成物中に添加される架橋剤としては、例えば、有機過酸化物が用いられる。具体的には、有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、1-(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)-1-イソプロピルベンゼン、1-(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)-3-イソプロピルベンゼン、1,3-ビス-(tert-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2.5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-(tert-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3等が挙げられる。なお、これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(その他の添加剤)
電気絶縁組成物は、例えば、酸化防止剤をさらに含んでいてもよい。
【0075】
酸化防止剤としては、例えば、4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス-[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ビス[2-メチル-4-{3-n-アルキル(C12あるいはC14)チオプロピオニルオキシ}-5-t-ブチルフェニル]スルフィド等が挙げられる。なお、これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
なお、電気絶縁組成物は、滑剤として、上述の脂肪酸アミド以外の滑剤を含んでいてもよい。また、電気絶縁組成物は、例えば、着色剤をさらに含んでいてもよい。
【0077】
(2)電力ケーブル
次に、図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0078】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
【0079】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0080】
本実施形態の電力ケーブル10は、上述の顕著な水トリー抑制効果を有していることで、例えば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層を有していない。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されている。
【0081】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0082】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0083】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した電気絶縁組成物により構成されている。絶縁層130は、例えば、上述のように、電気絶縁組成物が押出成形された後に加熱されることにより架橋されている。
【0084】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0085】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0086】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0087】
(水トリー耐性)
本実施形態では、上述のように、スチレン含有樹脂と脂肪酸アミドとの両方が絶縁層130中に添加されていることで、絶縁層130の水トリー耐性が顕著に向上している。
【0088】
具体的には、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物を、常温(27℃)の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、電気絶縁組成物に対して商用周波数(例えば60Hz)4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、電気絶縁組成物中に発生する水トリーの最大長さは、例えば、200μm未満、好ましくは120μm未満、より好ましくは100μm以下である。これにより、水トリーに起因した絶縁層130の絶縁破壊を安定的に抑制することができる。
【0089】
なお、電気絶縁組成物中に発生する水トリーの最大長さは、小さければ小さいほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態では、水トリーが発現しないことがあることから、電気絶縁組成物中に発生する水トリーの最大長さは、例えば、0μm以上となる。
【0090】
また、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物を、常温(27℃)の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、電気絶縁組成物に対して商用周波数(例えば60Hz)4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、電気絶縁組成物中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度は、例えば、200個/cm未満、好ましくは100個/cm以下、より好ましくは60個/cm以下である。これにより、水トリーに起因した絶縁層130の絶縁破壊を安定的に抑制することができる。
【0091】
なお、水トリーの発生個数濃度は、低ければ低いほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態では、水トリーが発現しないことがあることから、水トリーの発生個数濃度は、例えば、0個/cm以上となる。
【0092】
(ゲル分率(架橋度))
本実施形態では、上述のように、絶縁層130は、例えば、架橋されている。また、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物中において、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を含まないか、或いは、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体の含有量を10質量部以下とすることで、電気絶縁組成物のゲル分率の低下が抑制されている。
【0093】
具体的には、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物のゲル分率は、例えば、68%超、好ましくは70%以上、より好ましくは74%以上である。
【0094】
なお、電気絶縁組成物のゲル分率は、高ければ高いほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態では、電気絶縁組成物のゲル分率は、例えば、95%以下となる。
【0095】
(誘電正接)
ここで、電気絶縁組成物に交流電界を印加すると、損失が生じうる。交流電界を印加したときの損失は、例えば、漏れ電流による損失、誘電分極にもとづく損失、及び部分放電にもとづく損失などである。このような損失に起因して、電流位相は、理想的な電気絶縁組成物に流れる無損失電流よりも遅れる。この場合の遅れ角δを誘電損角といい、正接を誘電正接(tanδ)という。
【0096】
本実施形態では、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、誘電正接の上昇が抑制されている。
【0097】
具体的には、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物に対して、90℃、商用周波数(例えば60Hz)、9kV/mmの条件下で交流電界を印加したときの誘電正接は、例えば、0.05%以下、好ましくは0.04%以下である。
【0098】
なお、誘電正接は、小さければ小さいほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態の電気絶縁組成物では、誘電損失は、例えば、0.001%以上となる。
【0099】
(交流破壊電界)
本実施形態では、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、所定の交流破壊電界が確保されている。
【0100】
具体的には、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物の、常温(27℃)および商用周波数(例えば60Hz)の条件下において測定した交流破壊電界は、例えば、55kV/mm以上、好ましくは58kV/mm以上である。
【0101】
なお、交流破壊電界は、大きければ大きいほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態の電気絶縁組成物では、交流破壊電界は、例えば、100kV/mm以下となる。
【0102】
(引張特性(機械特性))
本実施形態では、エラストマとしてのスチレン含有樹脂を含むことで、電気絶縁組成物の引張強度を向上させることができる。
【0103】
具体的には、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物の引張強度は、例えば、12.5MPa以上、好ましくは14MPa以上、より好ましくは17MPa以上である。
【0104】
なお、電気絶縁組成物の引張強度は、高ければ高いほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態の電気絶縁組成物では、引張強度は、例えば、50MPa以下となる。
【0105】
また、本実施形態では、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、電気絶縁組成物の引張伸びが確保されている。
【0106】
具体的には、本実施形態では、絶縁層130を構成する電気絶縁組成物の引張伸びは、例えば、350%以上、好ましくは430%以上である。
【0107】
なお、電気絶縁組成物の引張伸びは、大きければ大きいほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態の電気絶縁組成物では、引張伸びは、例えば、1000%以下となる。
【0108】
このように、本実施形態では、所定の引張特性を確保することができる。これにより、電力ケーブル10が伸縮したり屈曲したりする環境下であっても、電力ケーブル10を好適に布設することができる。具体的には、本実施形態の電力ケーブル10を、例えば、水中で浮体式の水上設備に対して屈曲可能に接続されるアレイケーブル(ダイナミックケーブル、ライザーケーブル)に適用することが可能となる。
【0109】
(ブルーム)
本実施形態では、上述のように、脂肪酸アミドの含有量を1.0質量部以下とすることで、絶縁層130の表面において、ベース樹脂と脂肪酸アミドとの相溶性の違いに起因したブルームが検出されない。
【0110】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは1mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0111】
(3)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0112】
(S100:電気絶縁組成物準備工程)
まず、電気絶縁組成物を準備する。
【0113】
本実施形態では、ポリエチレンおよびスチレン含有樹脂を含むベース樹脂と、脂肪酸アミドと、その他の添加剤(架橋剤、酸化防止剤等)と、をバンバリミキサやニーダなどの混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。このとき、ベース樹脂の合計の含有量を100質量部としたときに、ベース樹脂中におけるポリエチレンの含有量を例えば65質量部以上98質量部以下とし、ベース樹脂中におけるスチレン含有樹脂の含有量を例えば2質量部以上35質量部以下とする。また、脂肪酸アミドの含有量を、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.05質量部以上1.0質量部以下とする。
【0114】
なお、このとき、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体をさらに添加してもよい。この場合、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体の含有量を、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上10質量部以下とする。
【0115】
混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の電気絶縁組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0116】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0117】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程))
電気絶縁組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体と、導電性のカーボンブラックとが予め混合された内部半導電層用組成物を投入する。
【0118】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の電気絶縁組成物を投入する。
【0119】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用電気絶縁組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0120】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。
【0121】
押出後、窒素ガスなどにより加圧された架橋管内において、赤外線ヒータによる輻射により加熱したり、高温の窒素ガスまたはシリコーン油等の熱媒体を通じて熱伝達させたりすることにより、少なくとも絶縁層130を架橋させる。その後、架橋後のケーブルコアを、例えば、水により冷却する。
【0122】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0123】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0124】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0125】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0126】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0127】
(a)本実施形態では、電気絶縁組成物中にベース樹脂としてスチレン含有樹脂を添加することで、スチレンが有する芳香環に電子をトラップさせ、安定的な共鳴構造を形成することができる。これにより、電子の局所的な偏りを抑制することができ、すなわち、局所的な電界集中部の形成を抑制することができる。局所的な電界集中部の形成を抑制することで、電界集中部における水の凝集を抑制することができる。これにより、水凝集部に起因した力学的な歪みの発生を抑制することができる。その結果、絶縁層130中における水トリーの発生を抑制することができる。
【0128】
また、本実施形態では、電気絶縁組成物中にベース樹脂としてスチレン含有樹脂を添加することで、スチレン含有樹脂をエラストマとして作用させることができる。スチレン含有樹脂をエラストマとして作用させることで、電気絶縁組成物中において上述の水凝集部が生じたとしても、水凝集部に起因した力学的な歪みを緩和することができる。これにより、電気絶縁組成物中において、機械的なストレスクラックの発生を抑制することができる。その結果、水トリーの伝播および進行を抑制することができる。
【0129】
(b)本実施形態では、電気絶縁組成物中に脂肪酸アミドを添加することで、脂肪酸アミドを滑剤として作用させ、絶縁層130の押出工程における電気絶縁組成物の流動性を向上させることができる。これにより、電気絶縁組成物中の各材料を均一に分散させることができる。電気絶縁組成物中において脂肪酸アミドを均一に分散させることで、脂肪酸アミドが有する極性基(親水基)を分散させることができる。これにより、電気絶縁組成物中に侵入した水を極性基によって分散させ、電気絶縁組成物中における局所的な水の集中を抑制することができる。局所的な水の集中を抑制することで、水集中部(水凝集部)に起因した力学的な歪みの発生を抑制することができる。その結果、絶縁層130中の水トリーの発生を抑制することができる。
【0130】
(c)本実施形態によれば、上述の(a)および(b)の相乗的な効果により、水トリー耐性を顕著に向上させることができる。
【0131】
ここで、スチレン含有樹脂、または脂肪酸アミドのうちいずれか一方のみを電気絶縁組成物中に添加した場合では、絶縁層130中の水トリーの発生個数密度がある程度低減するが、絶縁層130中に発生する水トリーの最大長さは短くならない可能性がある。
【0132】
これに対し、本実施形態では、スチレン含有樹脂と脂肪酸アミドとの両方を電気絶縁組成物中に添加することで、上述の(a)および(b)の相乗的な効果を得ることができる。すなわち、脂肪酸アミドの添加により、電気絶縁組成物の流動性を向上させ、電気絶縁組成物中において、スチレン含有樹脂が有するポリスチレンブロックを均一に分散させることができる。
【0133】
ポリスチレンブロックを均一に分散させることで、スチレンが有する芳香環による電子トラップ効果を均一に発現させることができ、局所的な電界集中部の形成を安定的に抑制することができる。さらに、電気絶縁組成物中に侵入した水を、脂肪酸アミドが有する極性基によって分散させることで、局所的な電界集中部に水が集中する確率を低減させることができる。これにより、絶縁層130中における水トリーの発生を安定的に抑制することができる。
【0134】
また、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックと、ソフトセグメントとしてのポリオレフィンブロックと、を均一に分散させることで、機械的なストレスクラックの発生を、電気組成物中で均一に抑制することができる。これにより、水トリーの伝播および進行を安定的に抑制することができる。
【0135】
これらの結果、本実施形態では、絶縁層130中に発生する水トリーの最大長さを短くさせることができるとともに、絶縁層130中の水トリーの発生個数密度を顕著に低減させることができる。
【0136】
このように水トリー耐性を顕著に向上させることで、常時水にさらされる水中ケーブルまたは水底ケーブルに好適に適用することができる。また、水トリー耐性を顕著に向上させることで、電力ケーブル10の遮水層の構成を簡略化することができる。例えば、遮水層をなくしたり、遮蔽層を簡易的に構成したりすることができる。その結果、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0137】
(d)スチレン含有樹脂の含有量を2質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、スチレンの芳香環に電子が過剰にトラップされることを抑制し、交流電界に対する損失の増大を抑制することができる。これにより、誘電正接を小さくすることができる。また、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的な過剰増加を抑制することができる。これにより、機械特性の低下(引張強度の低下および引張伸びの短縮)を抑制することができる。
【0138】
(e)脂肪酸アミドの含有量を0.05質量部以上とすることで、脂肪酸アミドによる水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、脂肪酸アミドの含有量を1.0質量部以下とすることで、ベース樹脂と脂肪酸アミドとの相溶性の違いに起因したブルームの発生を抑制することができる。
【0139】
本実施形態によれば、上述の(a)~(e)のように、ケーブル諸特性(電気特性、引張特性、ブルーム抑制特性)を確保しつつ、水トリー耐性を向上させることが可能となる。
【0140】
(f)本実施形態では、スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率が45質量%未満であることが好ましい。スチレン含有率を45質量%未満とすることで、ポリエチレンとスチレン含有樹脂との相溶性の低下を抑制することができる。相溶性の低下を抑制することで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックが相対的に密な部分の発生を抑制することができる。これにより、電気絶縁組成物中のストレスクラックを均一に抑制し、水トリーの伝播を抑制することができる。その結果、水トリーの最大長さを充分に短くすることができる。また、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、スチレンの芳香環への電子トラップの局所的な偏りを抑制することができ、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができる。これにより、誘電正接を充分に小さくすることができる。また、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的増加を抑制することができる。これにより、機械特性(引張強度および引張伸び)を充分に向上させることができる。
【0141】
(g)本実施形態では、ベース樹脂中のスチレンの総含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、例えば、0.15質量部以上11質量部以下であることが好ましい。スチレン総含有量が0.15質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、スチレン総含有量を11質量部以下とすることで、スチレンの芳香環への電子トラップに起因した、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができる。これにより、誘電正接を充分に小さくすることができる。また、スチレン総含有量を11質量部以下とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的増加を抑制することができる。これにより、機械特性(引張強度および引張伸び)を充分に向上させることができる。
【0142】
(h)本実施形態では、電気絶縁組成物中にα-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を添加することで、電気絶縁組成物の押出工程において局所的なスコーチ(やけ)の発生を抑制することができる。これにより、スコーチに起因した局所的な電界集中部の形成を抑制することができる。また、電気絶縁組成物中にα-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を添加することで、スチレン含有樹脂と同様の原理により、α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体が有する芳香環に電子をトラップさせ、局所的な電界集中部の形成を抑制することができる。局所的な電界集中部の形成を抑制することで、電界集中部における水の凝集を抑制することができる。これにより、水凝集部に起因した力学的な歪みの発生を抑制することができる。その結果、スチレン含有樹脂と脂肪酸アミドとの両方による水トリー抑制効果に加えて、絶縁層130中における水トリーの発生をより安定的に抑制することができる。
【0143】
(i)α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体の含有量を0.1質量部以上とすることで、不飽和二量体による水トリー抑制効果を充分に得ることができる。一方で、不飽和二量体の含有量を10質量部以下とすることで、所定量のベース樹脂を架橋させ、電気絶縁組成物のゲル分率の低下を抑制することができる。これにより、所定の交流電界を印加したときの誘電正接の上昇を抑制することができ、絶縁層130の引張特性の低下を抑制することができる。
【0144】
(j)電気絶縁組成物中に添加される脂肪酸アミドは、脂肪酸モノアミドであることが好ましい。これにより、脂肪酸アミドの極性を向上させることができる。脂肪酸アミドの極性を向上させることで、極性基による水の局所集中抑制効果を向上させることができる。その結果、絶縁層130中の水トリーの発生を安定的に抑制することができる。
【0145】
(k)電気絶縁組成物中に添加される脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸アミドであることが好ましい。これにより、分散された不飽和結合部(二重結合)に電子をトラップさせることができ、局所的な電界集中を抑制することができる。局所的な電界集中部の形成を抑制することで、電界集中部における水の凝集を抑制することができる。その結果、絶縁層130中の水トリーの発生を安定的に抑制することができる。
【0146】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0147】
上述の実施形態では、ベース樹脂がポリエチレンを含む場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、ベース樹脂は、エチレン共重合体を含んでいてもよい。エチレン共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ベース樹脂がエチレン共重合体を含むことで、電気絶縁組成物の混合時に、スチレン含有樹脂、脂肪酸アミドおよびα-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体の分散性を向上させることができる。
【0148】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していない場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、上述の顕著な水トリー抑制効果を有していることで、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0149】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【実施例
【0150】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0151】
(1)電気絶縁組成物の準備
以下の試料A1~A14、B1~B11のそれぞれの材料をオープンロールによって120℃において混合し、電気絶縁組成物を得た。
【0152】
[試料A1~A14]
(ベース樹脂)合計100質量部
低密度ポリエチレン(LDPE)(密度d=0.92g/cm、MFR=1.0g/10min):65質量部以上98質量部以下
スチレン含有樹脂:2質量部以上35質量部以下
・スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)(密度d=0.95g/cm、MFR=2.6g/10min、スチレン含有率40質量%)
・水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SEBS:スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)(密度d=0.91g/cm、MFR=5g/10min、スチレン含有率30質量%)
・水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SEBS)(密度d=0.89g/cm、MFR=4.5g/10min、スチレン含有率12質量%)
・水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SEBS)(密度d=0.93g/cm、MFR=3.0g/10min、スチレン含有率43質量%)
(脂肪酸アミド)
ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド:0.1質量部
(不飽和二量体)
α-メチルスチレンの不飽和二量体(2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン):0.3質量部(試料A9のみ)
(架橋剤)
ジクミルパーオキサイド:2質量部、または
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン:1.3質量部
(酸化防止剤)
4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール):0.2質量部
【0153】
[試料B1]
ベース樹脂においてスチレン含有樹脂を含まずにポリエチレンの含有量を100質量部とした点、かつ、脂肪酸アミドを含まない点を除いて、試料A3と同様に作製した。
[試料B2]
脂肪酸アミドを含まない点を除いて、試料A3と同様に作製した。
[試料B3]
ベース樹脂においてスチレン含有樹脂を含まずにポリエチレンの含有量を100質量部とした点を除いて、試料A3と同様に作製した。
[試料B4]
スチレン含有樹脂の含有量が1.5質量部である点を除いて、試料A3と同様に作製した。
[試料B5]
スチレン含有樹脂の含有量が38質量部である点を除いて、試料A3と同様に作製した。
[試料B6]
以下のスチレン含有樹脂を用いた点を除いて、試料A3と同様に作製した。
・水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SEBS)(密度d=0.97g/cm、MFR=2.0g/10min、スチレン含有率67質量%):20質量部
[試料B7]
ベース樹脂中のスチレンの総含有量を0.12質量部とした点を除いて、試料A7と同様に作製した。
[試料B8]
ベース樹脂中のスチレンの総含有量を12.9質量部とした点を除いて、試料A8と同様に作製した。
[試料B9]
スチレン含有率が67質量%であるSEBSの含有量を10質量部とした点を除いて、試料B6と同様に作製した。
[試料B10]
脂肪酸アミドの含有量が0.02質量部である点を除いて、試料A3と同様に作製した。
[試料B11]
脂肪酸アミドの含有量が1.5質量部である点を除いて、試料A3と同様に作製した。
【0154】
(2)評価
上述の電気絶縁組成物を用い、各評価に応じて絶縁シートを作製し、各評価を行った。
【0155】
(評価1:水トリー耐性)
上述の電気絶縁組成物を形成した後、プレス成型により120℃において10分、電気絶縁組成物をプレスすることで、1mmの厚さを有する絶縁シートを2枚作製した。絶縁シートを作製したら、所定の半導電シートを2枚の絶縁シートで挟み、積層シートを形成した。積層シートを形成したら、プレス成型により180℃において30分、積層シートをプレスすることで、絶縁シートのベース樹脂を架橋させた。絶縁シートを架橋させたら、半導電シートに対して配線を形成した。
【0156】
次に、積層シートを常温(27℃)の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、半導電シートと水溶液との間の絶縁シートに対して60Hz4kV/mmの交流電界を1000時間印加した。
【0157】
所定の交流電界の印加後、積層シートを乾燥させ、メチレンブルー水溶液で積層シートを煮沸しながら染色した。積層シートを染色したら、積層シートを積層方向(すなわち積層シートの主面直交方向)に沿って30μmの厚さでスライスし、観察用スライス片を形成した。その後、観察用スライス片を光学顕微鏡により観察することで、観察用スライス片の絶縁シートにおいて、半導電シートの沿面方向または半導電シートの主面直交方向に発生した水トリーを観察した。このとき、絶縁シート中に発生した水トリーの最大長さを計測した。また、絶縁シート中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度を計測した。なお、後述の表1および表2では、「水トリーの最大長さ」は、無作為に抽出した10個の観察用スライス片において最も長かった水トリーの長さを四捨五入して求め、また、「水トリーの発生個数濃度」は、無作為に抽出した10個の観察用スライス片における水トリーの発生個数濃度の平均値を四捨五入して求めた。
【0158】
なお、参考までに、従来の水トリー耐性の評価では、所定の電気絶縁組成物からなる絶縁層を有する電力ケーブルを作製し、電力ケーブルを水に浸漬させて、水トリーの評価を行っていた。このとき、電力ケーブルの絶縁層の外側には遮蔽層およびシースを設けていた。このため、絶縁層は直接水に接することがなかった。これに対し、本実施例では、上述のように、積層シートを所定の水溶液に直接浸漬させて、水トリーの評価を行った。このため、絶縁シートを水溶液に直接接触させた。したがって、本実施例における水トリー耐性の評価は、従来の電力ケーブルを用いた評価と比べて、厳しい条件で行ったことになる。
【0159】
(評価2:誘電正接)
上述の電気絶縁組成物を形成した後、プレス成型により180℃において30分、電気絶縁組成物をプレスすることで、0.2mmの厚さを有する絶縁シートを作製した。このとき、180℃において30分、絶縁シートをプレスすることで、絶縁シートのベース樹脂を架橋させた。
【0160】
次に、シェーリングブリッジを用い、絶縁シートに対して90℃、商用周波数(例えば60Hz)、9kV/mmの条件下で交流電界を印加し、誘電正接を測定した。
【0161】
(評価3:交流破壊電界)
上述の評価2と同様の絶縁シートを作製した。次に、常温(27℃)および商用周波数(例えば60Hz)の条件下において、絶縁シートに対して5kVの交流電圧を1分課電した。その後、絶縁シートに対する交流電圧を1kVずつ昇圧し、絶縁シートに対して交流電圧を1分課電するサイクルを繰り返した。そして、絶縁シートにおいて絶縁破壊が生じたときの電界を測定した。
【0162】
(評価4:ゲル分率(架橋度))
上述の電気絶縁組成物を形成した後、プレス成型により180℃において30分、電気絶縁組成物をプレスすることで、1mmの厚さを有する絶縁シートを作製した。このとき、180℃において30分、絶縁シートをプレスすることで、絶縁シートのベース樹脂を架橋させた。
【0163】
絶縁シートを作製したら、JIS C3005に準拠してゲル分率を測定した。具体的には、まず、絶縁シートの質量を測定した。次に、絶縁シートを所定の溶剤(例えば熱キシレン)へ浸漬し、絶縁シートを溶解させた。このとき、絶縁シートのうちベース樹脂が架橋された部分は、ゲルとして溶解せずに残存した。絶縁シートを溶解させたら、溶解せずに残存したゲルの質量を測定した。その結果、溶解前の絶縁シートの質量に対する、残存したゲルの質量の比率(%)を算出することで、「ゲル分率」を求めた。
【0164】
(評価5:引張特性)
上述の評価4と同様の絶縁シートを作製した。次に、JIS C3005に準拠して、絶縁シートの引張強度および引張伸びを測定した。具体的には、JIS-3号ダンベルを用い、200mm/minの引張速度において絶縁シートを引っ張ることで、絶縁シートの引張強度および引張伸びを測定した。
【0165】
(評価6:ブルーム)
電気絶縁組成物のペレットを80℃の恒温槽内に10日間に保持した後、その表面を目視により観察した。ペレットの観察により、ペレット表面に析出したブルームの有無を評価した。ブルームの発生が無かった場合を「A」とし、ブルームの発生があった場合を「B」とした。
【0166】
(3)結果
以下の表1および表2を用い、各試料の評価を行った結果を説明する。なお、以下の表1および2において、各配合剤の含有量の単位は、「質量部」である。また、表1および2において、スチレン含有樹脂における括弧書き内の「St」とは、スチレン含有率のことである。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
表2に示すように、スチレン含有樹脂および脂肪酸アミドの両方を添加しなかった試料B1では、水トリーの発生個数濃度が高く、かつ、水トリーの最大長さも長かった。また、スチレン含有樹脂のみを添加した試料B2では、水トリーの発生個数濃度は試料B1よりも低く、水トリーの最大長さは試料B1よりも若干短くなっていたが、水トリーの最大長さは長かった。また、脂肪酸アミドのみを添加した試料B3では、水トリーの発生個数濃度は試料B1よりも低くなっていたが、水トリーの最大長さは試料B1と同様に長かった。
【0170】
これに対し、表1に示すように、スチレン含有樹脂および脂肪酸アミドの両方を添加した試料A1~A14では、水トリーの発生個数濃度が、試料B1~B3よりも顕著に低くなっており、60個/cm以下であった。また、試料A1~A14では、水トリーの最大長さが、試料B1~B3よりも短くなっており、100μm以下であった。
【0171】
これらの結果によれば、スチレン含有樹脂および脂肪酸アミドの両方を添加することで、これらの相乗的な効果により、絶縁層中に発生する水トリーの最大長さを短くさせることができたとともに、絶縁層中の水トリーの発生個数密度を顕著に低減させることができたことを確認した。
【0172】
また、表2に示すように、スチレン含有樹脂の含有量を2質量部未満とした試料B4(およびB7)では、水トリーの発生個数濃度が、試料B1よりも低くなっていたが、200個/cm以上であった。また、試料B4では、水トリーの最大長さが、試料B1~B3のそれぞれよりも短くなっていたが、120μm以上であった。
【0173】
これに対し、表1に示すように、スチレン含有樹脂の含有量を2質量部以上とした試料A1~A14では、水トリーの発生個数濃度が、試料B4よりも顕著に低くなっていた。また、試料A1~A14では、水トリーの最大長さが、試料B4よりもさらに短くなっていた。
【0174】
これらの結果によれば、スチレン含有樹脂の含有量を2質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができたことを確認した。
【0175】
また、表2に示すように、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部超とした試料B5では、誘電正接が大きく、引張伸びが短かった。
【0176】
これに対し、表1に示すように、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とした試料A1~A14では、誘電正接が試料B5よりも小さく、0.05%以下であった。また、試料A1~A14では、引張伸びが試料B5よりも長く、430%以上であった。
【0177】
これらの結果によれば、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、スチレンの芳香環に電子が過剰にトラップされることを抑制し、交流電界に対する損失の増大を抑制することができた。これにより、誘電正接を小さくすることができたことを確認した。また、スチレン含有樹脂の含有量を35質量部以下とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的な過剰増加を抑制することができた。これにより、引張伸びの短縮を抑制することができたことを確認した。
【0178】
また、表2に示すように、スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率を45質量%以上とした試料B6およびB9では、水トリーの最大長さが上述の規定範囲内(200μm未満)であったが、その上限に近かった。また、試料B6およびB9では、誘電正接が上述の規定範囲内(0.05%以下)であったが、その上限であった。また、試料B6およびB9では、引張伸びが上述の規定範囲内(350%以上)であったが、その下限か、或いはその下限に近かった。
【0179】
これに対し、表1に示すように、スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率を45質量%未満とした試料A1~A14では、水トリーの最大長さが試料B6およびB9のそれぞれよりもさらに短く、100μm以下であった。また、試料A1~A14では、誘電正接が試料B6およびB9のそれぞれよりも小さく、0.04%以下であった。また、試料A1~A14では、引張伸びが試料B6およびB9のそれぞれよりも長く、430%以上であった。
【0180】
これらの結果によれば、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、電気絶縁組成物中のストレスクラックを均一に抑制し、水トリーの伝播を抑制することができた。その結果、水トリーの最大長さを充分に短くすることができたことを確認した。また、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、スチレンの芳香環への電子トラップの局所的な偏りを抑制することができ、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができた。これにより、誘電正接を充分に小さくすることができたことを確認した。また、スチレン含有率を45質量%未満とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的増加を抑制することができた。これにより、引張伸びを充分に長くすることができたことを確認した。
【0181】
また、表2に示すように、ベース樹脂中のスチレンの総含有量を0.15質量部未満とした試料B7では、水トリーの発生個数濃度が、試料B1~B3のそれぞれよりも低くなっていたが、200個/cm以上であった。また、試料B7では、水トリーの最大長さが、試料B1~B3のそれぞれよりも短くなっていたが、200μm以上であった。なお、試料B7において、水トリー耐性が低かったのは、スチレン含有樹脂の含有量が2質量部未満であったことも一因であると考えられる。
【0182】
これに対し、表1に示すように、ベース樹脂中のスチレンの総含有量を0.15質量部以上とした試料A1~A14では、水トリーの発生個数濃度が、試料B7よりも顕著に低くなっていた。また、試料A1~A14では、水トリーの最大長さが、試料B7よりもさらに短くなっていた。
【0183】
これらの結果によれば、ベース樹脂中のスチレンの総含有量を0.15質量部以上とすることで、スチレン含有樹脂による水トリー抑制効果を充分に得ることができたことを確認した。
【0184】
また、表2に示すように、ベース樹脂中のスチレンの総含有量を11質量部超とした試料B8では、誘電正接が上述の規定範囲内(0.05%以下)であったが、その上限であった。また、試料B8では、引張伸びが上述の規定範囲内(350%以上)であったが、その下限であった。
【0185】
これに対し、表1に示すように、ベース樹脂中のスチレンの総含有量を11質量部以下とした試料A1~A14では、誘電正接が試料B8よりも小さく、0.04%以下であった。また、試料A1~A14では、引張伸びが試料B8よりも長く、430%以上であった。
【0186】
これらの結果によれば、ベース樹脂中のスチレンの総含有量を11質量部以下とすることで、スチレンの芳香環への電子トラップに起因した、交流電界に対する損失を充分に小さくすることができた。これにより、誘電正接を充分に小さくすることができたことを確認した。また、スチレン総含有量を11質量部以下とすることで、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックの相対的増加を抑制することができた。これにより、引張伸びを充分に長くすることができたことを確認した。
【0187】
また、表2に示すように、脂肪酸アミドの含有量を0.05質量部未満とした試料B10では、水トリーの発生個数濃度が、試料B1よりも低くなっていたが、200個/cm以上であった。また、試料B10では、水トリーの最大長さが、試料B1~B3のそれぞれよりも若干短くなっていたが、200μm超であった。
【0188】
これに対し、表1に示すように、脂肪酸アミドの含有量を0.05質量部以上とした試料A1~A14では、水トリーの発生個数濃度が、試料B10よりも顕著に低くなっていた。また、試料A1~A14では、水トリーの最大長さが、試料B10よりも短くなっていた。
【0189】
これらの結果によれば、脂肪酸アミドの含有量を0.05質量部以上とすることで、脂肪酸アミドによる水トリー抑制効果を充分に得ることができたことを確認した。
【0190】
また、表2に示すように、脂肪酸アミドの含有量を1.0質量部超とした試料B11では、ブルームが発生していた。
【0191】
これに対し、表1に示すように、脂肪酸アミドの含有量を1.0質量部以下とした試料A1~A14では、ブルームが発生していなかった。
【0192】
これらの結果によれば、脂肪酸アミドの含有量を1.0質量部以下とすることで、ベース樹脂と脂肪酸アミドとの相溶性の違いに起因したブルームの発生を抑制することができたことを確認した。
【0193】
また、表1に示すように、試料A1~A14では、脂肪酸アミドの含有量Aに対する、ベース樹脂中のスチレンの総含有量Bの比率B/Aが、1.5以上110以下であった。含有量比率B/Aを1.5以上とすることで、上述のように、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性を安定的に得ることができたことを確認した。また、含有量比率B/Aを110以下とすることで、ポリスチレンブロックを均一に分散させることができた。その結果、誘電正接の上昇と、引張伸びの短縮と、を安定的に抑制することができたことを確認した。また、含有量比率B/Aを110以下とすることで、脂肪酸アミドの極性基による水の局所集中抑制効果によって、脂肪酸アミドとスチレン含有樹脂との両方による水トリー抑制効果の顕著性を充分に得ることができたことを確認した。
【0194】
以上のように、試料A1~A14によれば、絶縁シートを水溶液に直接接触させた厳しい条件下において、顕著な水トリー抑制効果を確認することができた。したがって、試料A1~A14のそれぞれの電気絶縁組成物により構成される絶縁層を有する電力ケーブルを製造することで、絶縁層中における水トリーの発生を安定的に抑制することができることを確認した。
【0195】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0196】
(付記1)
ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、
脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、
を有する
電気絶縁組成物。
【0197】
(付記2)
前記ベース樹脂および前記脂肪酸アミドを有する電気絶縁組成物を、常温の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、前記電気絶縁組成物に対して商用周波数4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、
前記電気絶縁組成物中に発生する水トリーの最大長さは、200μm未満である
付記1に記載の電気絶縁組成物。
【0198】
(付記3)
前記ベース樹脂および前記脂肪酸アミドを有する電気絶縁組成物を、常温の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、前記電気絶縁組成物に対して商用周波数4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、
前記電気絶縁組成物中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度は、200個/cm未満である
付記1又は付記2に記載の電気絶縁組成物。
【0199】
(付記4)
前記スチレン含有樹脂中のスチレンの含有率は、45質量%未満である
付記1から付記3のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0200】
(付記5)
前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量は、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.15質量部以上11質量部以下である
付記1から付記4のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0201】
(付記6)
前記脂肪酸アミドの含有量に対する、前記ベース樹脂中のスチレンの総含有量の比率は、1.5以上110以下である
付記1から付記5のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0202】
(付記7)
α-芳香族置換α-メチルアルケンの不飽和二量体を0.1質量部以上10質量部以下さらに有する
付記1から付記6のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0203】
(付記8)
前記脂肪酸アミドは、脂肪酸モノアミドである
付記1から付記7のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0204】
(付記9)
前記脂肪酸アミドは、不飽和脂肪酸アミドである
付記1から付記8のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0205】
(付記10)
有機過酸化物を含む架橋剤を有する
付記1から付記9のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0206】
(付記11)
前記ベース樹脂は、架橋されている
付記1から付記9のいずれか1つに記載の電気絶縁組成物。
【0207】
(付記12)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、を有する電気絶縁組成物により構成される
電力ケーブル。
【0208】
(付記13)
電気絶縁組成物を準備する工程と、
前記電気絶縁組成物を用い、導体の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記電気絶縁組成物を準備する工程では、
ポリエチレンを65質量部以上98質量部以下と、スチレン含有樹脂を2質量部以上35質量部以下と、を合計で100質量部含むベース樹脂と、脂肪酸アミドを0.05質量部以上1.0質量部以下と、を混合し、前記電気絶縁組成物を形成する
電力ケーブルの製造方法。
【符号の説明】
【0209】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
図1