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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20230822BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20230822BHJP
   A61K 9/44 20060101ALN20230822BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20230822BHJP
   A61K 47/38 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/326
A61K9/44
A61K47/02
A61K47/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018227103
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020090573
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591064508
【氏名又は名称】御国色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121898
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英雄
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061848(WO,A1)
【文献】特表2017-502097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30-11/40
B41J 2/01-2/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化チタン及び/又は三二酸化鉄を含有し、かつ重量平均分子量が20000以下のカルボキシメチルセルロース中和塩を含有し、かつ酸化チタン及び/又は三二酸化鉄の平均分散粒子径は50nm~1μmであることを特徴とするインクジェット用インク
【請求項2】
pHが5.0~12.0である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
錠剤用インクジェット用インクである請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に錠剤やカプセル剤、食品等の経口製品の表面にマーキングを施すために、インクジェット方式での印刷に好適なインクに関する。
【背景技術】
【0002】
誤飲防止、偽造防止、薬剤の識別等のため、錠剤や硬質カプセル剤、軟質カプセル剤などの固形製剤の表面に記号や文字、数字及び/
又は模様を印刷することが一般的に行われている。
【0003】
従来より、これら固形製剤表面の印刷は、オフセット印刷やグラビア印刷などの有版の方法で行われている。たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3には、ラバーロール表面を錠剤等の印刷物に押し当てることによって、スタンプ式にインクを被印刷物に転写する方法が記載されている。
しかし、これら有版の方法では、印刷表面がある程度の固さを有していること、また表面が平らで凹凸がないことが前提となっているため、必ずしもこれらの特性を備えない素錠、糖衣錠、OD錠(口腔内崩壊錠)等の多種多様の錠剤に、満足できるマーキングをすることは容易ではなかった。
【0004】
そこで、インクジェット方式、UVレーザー方式等の非有版の印刷方法の採用が考えられる。特にインクジェット方式によれば、UVレーザー方式より被印刷表面の制限が少なく、より広範な対象物に印刷可能である。
【0005】
インクジェット方式は、コンティニュアス型とオンデマンド型に大別され、いずれの方式においても細いノズルからインクが安定的に吐出される必要がある。コンティニュアス型では、連続的に噴射されるインク粒子を必要に応じて帯電させ、偏向電極によって帯電量に応じて偏向させることにより進路を曲げて印字面に付着させる。この際、帯電させなかったインク粒子は回収されて再びインクタンクに戻る。一方、オンデマンド型は、必要時のみにインクを吐出する方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-42089号公報
【文献】特開2000-229847号公報
【文献】特開2001-31898号公報
【文献】特開2015-174869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
後者のオンデマンド型の場合、コンティニュアス型と比べてインク吐出機構の構造が簡単で小型化しやすいという利点があるものの、吐出されない間にインクが濃縮したり沈降したりしてノズルが詰まりやすいという問題点があるので、インクの色材として顔料を用いた場合には満足のいく吐出性、性能の安定性を達成するのは容易ではない。特に、錠剤等の可食体に印刷するためには、インクに含まれる全ての成分が体内に摂取しても問題ないものである必要があり、従来より知られているインクジェット用インクをそのまま用いることは難しい。ここで、可食体に使用できる顔料は限られており、レーキ顔料や無機顔料などがあげられる。しかし、これらの顔料を水媒体中に微粒子として安定的に分散させるのは難しく、経時で液中での分離や沈殿などが生じ、これがインクノズルの目詰まりを誘発するためインクに用いることは困難である。
特許文献4には、無機顔料とヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース樹脂で分散してなるインクジェット方式のインクが記載されている。しかし、酸化チタン又は三二酸化鉄は比重が重いことからインク中に均一に安定し保持させることは難しく、経時において顔料の沈降分離などが生じ、吐出不良などを引き起こす可能性があり改善の必要があることが本発明者の検討により判明した。
他方、色材として染料を用いた場合には、満足な耐光性及び耐水性が得られないという問題がある。
【0008】
本発明は、錠剤やカプセル剤、もしくは一部の食品等の可食体の表面へのマーキングに使用可能であり、インクジェット方式での印刷に好適なインクを提供することを目的とする。
特に、比重が重くインク中に均一に安定し保持させることが難しく顔料沈降を起こし易い酸化チタン又は三二酸化鉄を用いても、印字の際に吐出不良等のの不具合を起こすこともなく良好な品質を保つインクジェット用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、適宜特定の分散剤を添加しpHを調整することにより、体内摂取可能な成分のみで、インク中での顔料沈降を抑制し、インクジェット方式での印刷においても連続吐出を可能にしつつ定着性ならびに十分な着色性を発揮する、優れたインクを完成し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1) 少なくとも酸化チタン及び/又は三二酸化鉄を含有し、かつ重量平均分子量が20000以下のカルボキシメチルセルロース中和塩を含有することを特徴とするインクジェット用インク、
(2) 酸化チタン及び/又は三二酸化鉄の平均分散粒子径が50nm~1μmであることを特徴とする上記(1)に記載のインクジェット用インク、
(3) pH5.0~12.0である上記(1)又は(2)のいずれかに記載のインクジェット用インク、
(4) 錠剤用インクジェット用インクである上記(1)~(3)のいずれかに記載のインクジェット用インク、
である。
【0011】
本発明により、体内摂取可能な成分のみで、インク中での顔料沈降を抑制し、インクジェット方式での印刷においても連続吐出を可能にしつつ密着性ならび十分な着色性を備えた優れたインクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインクは、少なくとも、(i)酸化チタン及び/又は三二酸化鉄、並びに(ii)カルボキシメチルセルロース中和塩(以下CMC中和塩)を含有する。
【0013】
〔酸化チタン及び/又は三二酸化鉄〕
本発明においては色材(着色成分)として酸化チタン及び三二酸化鉄のいずれか一種以上を使用する。酸化チタン及び三二酸化鉄は日本、アメリカ、欧州において可食性顔料として認可されており、食することが可能な、あるいは錠剤への使用が認められているものである。これを用いた顔料分散液は化粧品や可食性インク等に多く使用されている。
【0014】
酸化チタン及び/又は三二酸化鉄としては一次粒子径が0.01~3.00μmのものが好ましく、0.03~2.00μmがより好ましく、0.05μm~1.50μmがさらに好ましい。顔料の一次粒子径が0.01μmより小さいと透明性が発現し印字濃度が低下する可能性がある。また3.00μmより大きいとこれ以下に分散することは不可であるため、印刷を止めた際に沈降が生じ吐出不良などの不具合を起こす可能性がある。
一次粒子径は酸化チタン又は三二酸化鉄の粒子をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察して求めた算術平均径である。
【0015】
酸化チタン及び/又は三二酸化鉄はインクジェット用インク全量を100重量部とする場合、0.5~30.0重量部で配合されていることが好ましく、1.0~20.0重量部がより好ましく、2.0~15.0重量部がさらに好ましい。配合量が0.5重量部より低くなると十分な印字濃度を得ることが難しい。また30.0重量部より高くなるとインク粘度が高くなりプリンタ適性値を超えるなどしてインク吐出時などに不具合を起こす可能性が極めて高い。
なお後述するように酸化チタン及び又は三二酸化鉄の性能を阻害しない範囲で他の色材を併用しても良いが、その場合以上の好ましい配合割合は、酸化チタン、三二酸化鉄及びその他の顔料成分を合わせた割合である。
【0016】
〔CMC中和塩〕
本発明に用いるCMC中和塩は、セルロースを主原料にしたアニオン性の水溶性高分子である。アニオン性を有するため酸化チタン又は三二酸化鉄との吸着性が高く、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)やヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの他のノニオン型セルロース系高分子と比較し優れた分散性と沈降抑制能力を持つことが本発明者の検討により明らかとなった。
CMC(カルボキシメチルセルロース)の部分はセルロース骨格にカルボキシメチル基(-CH2-COOH)が結合したものである。中和塩は、このカルボキシメチル基の少なくとも一部以上が塩基性物質で中和されて塩を形成したものである。
【0017】
塩の種類はナトリウム、カルシウム、アンモニウムなど水溶性であれば限定されないが、経口可能な塩としてはナトリウムまたはカルシウム塩等のアルカリ金属塩であり、ナトリウムが一般的である。なおCMC中和塩と近似構造のカルボキシメチルセルロースは、塩ではなく未中和であり酸化チタン又は三二酸化鉄の分散性、沈降抑制能力を十分に発現することが出来ず区別される。
【0018】
本発明で用いるCMC中和塩は、重量平均分子量が20000以下である。特に重量平均分子量7000~18000がより好ましく、9000~16000がさらに好ましい。重量平均分子量20000より大きいものは分散性およびインク粘度適性に問題が生じ、吐出不良などの問題を起こしやすい。
【0019】
CMC中和塩の重量平均分子量は次の方法で測定されたものである。
一般的なGPCカラムを用いた液体クロマトグラフィーで、分子量既知のポリマーと比較する方法によって測定することができる。前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの重量平均分子量は、GPC-MALLSを用いて測定した値であり、ポリマーの純分濃度が約1,000ppmの移動相で希釈した試料溶液をTSK-GELαカラム(東ソー株式会社製)を用い、0.5moL/Lの過塩素酸ナトリウム溶液を移動相として、約633nmの波長を多角度光散乱検出器により測定する。標準品としては分子量既知のポリエチレングリコールを用いる。
【0020】
CMC中和塩のエーテル化度については、0.60以上あることが好ましく、0.70以上がより好ましい。エーテル化度が0.60より低い場合は、水への溶解性が低くなり酸化チタン又は三二酸化鉄の分散性、沈降保持性が低下することがある。
【0021】
CMC中和塩のエーテル化度は次の方法で測定される。
試料0.5~0.7gをはかり、濾紙に包んで磁性ルツボで灰化する。冷却したのち、これを500mlビーカーに移し、水約250ml、さらにピペットで0.05モル/l硫酸35mlを加えて30分間煮沸する。これを冷却しフェノールフタレイン指示薬を加えて過剰の酸を0.1モル/l水酸化カリウムで逆滴定して下記式によって算出する。
エーテル化度 = (162×A)/(10.000-80×A)
A = [(af-bf1)/試料無水物(g)]-アルカリ度(または+酸度)
a:0.05モル/l硫酸の使用ml
f:0.05モル/l硫酸のカ価
b:0.1モル/l水酸化カリウムの滴定量
f1:0.1モル/l水酸化カリウムのカ価
【0022】
CMC中和塩はインクジェットインク全量を100重量部とする場合、0.1~5.0重量部含まれることが好ましく、0.3~2.0重量部で含まれることがより好ましい。CMC中和塩がこれより少ないと酸化チタン又は三二酸化鉄を安定して分散することが難しく、かつ顔料沈降安定性を確保出来ない。これより多い場合はインク粘度適性に問題が生じ、吐出不良などの問題を起こす恐れがある。
【0023】
〔pH値〕
本発明のインクのpH値は5.0から12.0である。特に8.0から11.0がより好ましい。この範囲に調整することによりCMC中和塩及の性能を最も発揮できていると考えられる。5.0より低い場合は酸化チタン又は三二酸化鉄の分散を十分に行うことが出来ず、12.0より高い場合はインクジェット装置の耐久性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0024】
本発明のインクでは、以上説明したCMC中和塩を配合しpHを適性域に調整することで、酸化チタン又は三二酸化鉄を安定的かつ微細に分散させることができ、インクジェット印刷に好適に用いることができることが見いだされた。しかも、このCMC中和塩を配合することにより、酸化チタン又は三二酸化鉄の沈降が抑制され、印刷時の吐出不良が極めて起こり難くなる。このような優れた効果が得られる機構は完全には明らかではないが、アニオン基により顔料とCMC中和塩が強く結合し、その結果、酸化チタン又は三二酸化鉄がセルロース構造の中に強く保持されることで発現しているものと推察される。
【0025】
〔分散媒〕
本発明の分散媒としては、CMC中和塩の溶解を阻害しない液体であれば特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、水を主体とすることにより安全性の面、操作性の面で優れたインクとすることができる。また本発明のインクにより、分散媒として水を主体とした場合でも、安定な分散性とインクジェット方式の印刷における連続吐出を維持できる。錠剤等の医薬用可食体の印刷に用いる場合には、蒸留水や注射用水などが好適である。なおここで水を主体とするとは、インクを構成する液体のうちの50.0重量部以上、さらに好ましくは60.0重量部以上を水とすることをいう。特に好ましくは以下に説明する特定の水溶性有機溶剤以外の液体成分としては実質的に水である組成とする。
【0026】
〔水溶性有機溶剤〕
本発明では、水以外の液体成分として特定の水溶性有機溶剤を含有させるのが望ましい。これらの水溶性有機溶剤の添加により、インクジェット方式での印刷に用いる場合に、ヘッド部分の目詰まり防止やインクの乾燥性を調整することができる。
このような水溶性有機溶剤の具体例としては、たとえば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、t-ブタノール、トリメチロールプロパン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオ-ル、チオグルコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオ-ル、モノエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンの中から選ばれ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。特に好ましくは、食品添加物として、エタノール、イソプロパノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが好適である。
【0027】
水溶性有機溶剤の添加量は、インク液中に5.0重量部から30.0重量部、好ましくは6.0重量部から25.0重量部が望ましく、それ以上の添加ではインクが高粘度となり、インクの安定性やノズルからの吐出性が低下することがある。5重量部未満の添加では、ノズルの吐出に問題を生じ、かすれの発生や、連続吐出が出来なくなることがある。
【0028】
〔表面張力調整剤〕
本発明では、必要に応じて表面張力調整剤を用いることができる。表面張力調整剤は、ノズルからの吐出向上と表面張力を調整する働きを有する成分である。
表面張力調整剤の具体例としては、ノニオン、アニオンなどの界面活性剤などが好ましく、具体的には、たとえばアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸塩、高級アルキルジカルボン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルなどのアニオン系界面活性剤;たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル,ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン付加アセチレングリコールなどのノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などがあげられる。
【0029】
本発明のインクにおいては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル,ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン付加アセチレングリコールなどのノニオン系界面活性剤が好適であり、中でもショ糖モノステアリン酸エステルやショ糖オリゴエステルなどのショ糖脂肪酸エステルや、トリアセチンなどのグリセリン脂肪酸エステルが最も好ましい液性を達成できる。
表面張力調整剤の添加量は、必要とされる表面張力に応じて適宜選択すればよいが、好ましくはインク中に0.05~20.0重量部、特に好ましくは0.1~10.0重量部である。
【0030】
〔糖類その他の添加物〕
吐出性や密着性を向上させる目的で、糖類を添加することができる。糖は、単糖類、二糖類、多糖類があげられ、具体例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、グロース、タロース、アロース、アルトロース、イドース、フラクトース、ソルボース、タガトース、プシコース、シュクロース、マルトース、ラクトース、マルトトリオース、イソマルトース、マルトテトラオース、イソマルトトリオース、イソマルトテトラオース、パノース、ニゲロース、コウジビオース、ラクチェロース、パラチノース、ケストース、ニストース、フラクトシルニストース、イヌロビオース、イヌロトリオース、イヌロテトラオース、イソマルチェロース、マルトシルシュクロース、マルトトリオシルシュクロース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースなどがあげられる。また、これらの糖の誘導体としては、上記の糖を還元または酸化した糖が好ましく、具体例としては、マルチトール、ソルビットなどがあげられる。
添加量はインク液中に1重量部から20重量部含有するのが好ましく、被記録体に印字した場合のかすれを改善し、吐出を安定化させる働きがある。
【0031】
さらに、本発明のインクには、所望の物性を有するようにするために、防カビ剤として、オルトフェニルフェノール、オルトフェニルフェノールナトリウム、ジフェニル、チアベンダゾール、イマザリルが好ましく、殺菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、エタノールが好ましい。また消泡剤、防錆剤、PH調整剤などの添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
また、本発明のインクは、色材として酸化チタン又は三二酸化鉄を含有することを特徴とするものであるが、本発明の性能を妨げない範囲で、他の色材を含有させることも差し支えない。
【0033】
また、インクの粘度調整その他の目的のために、本発明の性能を妨げない範囲で、適宜他の水溶性高分子を添加してもよい。例えば、グアガム、ローカストビーンガム、カンテン、メチルデンプンなどのデンプン系、ゼラチン、プルラン、キサンタンガム、トラガントガム、デキストリンなどが挙げられる。また、本発明の性能を妨げない範囲で、適宜他の従来より知られた分散剤を添加してもよい。
【0034】
CMC中和塩水溶液に顔料を分散させるための分散機としては分散メディアを用いたビーズミルや、メディアレスの「スターバースト」(登録商標、株式会社スギノマシン製)、超音波分散機、等を用いることが出来る。ビーズを用いた分散機を使用する場合、ビーズの直径は0.1mm~2.0mmが好ましい。
ビーズの材質としてガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズなど任意選定し用いる事が出来る。
【0035】
分散時に混入する可能性のあるビーズ構成成分やその他異物を取り除くため濾過、遠心分離、分離膜、水洗、精製などを併用しても良い。
【0036】
〔インクの物性〕
本発明のインクは酸化チタン又は三二酸化鉄、CMC中和塩を含有するインクであるが、インク中の酸化チタン又は三二酸化鉄の平均分散粒子径は50nm~1μmであることが好ましい。
より好ましくは50~800nm、さらに好ましくは50~700nm、最も好ましくは50~600nmである。この範囲で、着色力、分散安定性、ノズル吐出性、被印刷物への定着性が最も優れているが、特に平均分散粒子径が50~600nmの範囲で、インクジェット装置やノズルを問わず上記の各物性が極めて優れている。
【0037】
平均分散粒子径が50nm未満である場合は、粒子間同士のファンデルワールス力によって凝集が発生しやすく経時安定性が低下する傾向にある。平均分散粒子径が1μmを超える場合は、液中に色材が分離しやすく沈殿が起きやすくなることがある。
また、平均粒子径のコントロールだけでなく、粗大な粒子の量を抑制することが好ましい。液中の顔料全粒子の90%以上がlμm以下、より好ましくは600nm以下の分散粒子径となるように調整すると、一層優れた物性のインクを得ることができる。全粒子の大きさがこの範囲となるまで分散処理を行うことも考えられるが、微細すぎる粒子が大量に発生して再凝集することを防ぐため、平均粒子径が上記の範囲となるまで分散処理を行った後に、遠心分離やフィルター濾過等の公知の方法により、粗大粒子を除去する方法も好適である。
【0038】
なおここでの平均分散粒子径、全粒子の分散粒子径の測定は、以下のとおりである。
コンディショニング:定められた測定濃度領域に入るように原液をイオン交換水で希釈する。
測定機器:動的光散乱式粒度分布測定器(「NIKKISO : Microlracwave-EX150」)
測定時間:120秒
【0039】
なお前述したようにCMC中和塩を含有し特定のpHとすることにより、本発明のインクは平均分散粒子径を小さくすることができ、一層優れた物性のインクとすることができる。
【0040】
以上説明した本発明のインクの粘度は、1.0~20.0mPa・sとすることが好ましい。さらに好ましくは、1.0~15.0mPa・sであり、特に好ましくは、2.0~12.0mPa・sである。粘度が1.0mPa・s未満である場合は、サテライト現象が発生したりノズルから液滴にならないことがある。逆に粘度が20.0mPa・sを超える場合にも同様にサテライト現象が発生したりインク滴にならなくなったり、印字を停止した後に再開した場合、吐出不良を起こしたりする。なお、サテライト現象とは、ヘッドノズルから、射出されたインク滴の主滴から分離して出るチリのような小液滴のことを指す。
【0041】
粘度の測定方法は、以下のとおりである。
コンディショニング:原液
測定機器:円錐平板型回転粘度計(東機産業(株)製「TVE-20L型」(品番))
測定条件:50rpm
測定温度:25℃
【0042】
表面張力は27~40mN/mが好ましいが、より好ましくは28~38mN/mであり、特に好ましくは28~35mN/mである。
さらに表面張力が27mN/m未満である場合は、ノズルから十分な液滴にならずに吐出してしまう現象が生じ、表面張力が40mN/mを超える場合も、同様である。
【0043】
表面張力の測定方法は、以下のとおりである。
コンディショニング:原液
測定機器:自動表面張力計(プレート法) (協和界面科学(株)製「CBVP-Z」)
測定温度:25℃
【0044】
〔インクの作製〕
本発明のインクの作製は、前述した各成分を混合してインクとすればよい。混合方法は特に制限されないが、例えば、酸化チタン又は三二酸化鉄とCMC中和塩と水を混合撹拌したのち、分散機、たとえば、ペイントシェイカー、ロールミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミルなどで分散させる。
【0045】
こうしてまず酸化チタン及び/又は三二酸化鉄の分散液を作製する。分散液中の酸化チタン及び/又は三二酸化鉄の配合量は、5~50重量部が好ましく、10~40重量部がより好ましい。5重量部より低い場合、インクで添加する種々溶剤、添加剤の量が制限されることがある。50重量部以上となると分散液の保存安定性が悪化する可能性が高い。
【0046】
その後、水溶性有機溶剤や表面張力調整剤を添加しインク化する方法が分散状態の確保には好適である。
調製したインクを公知の技術によりフィルター処理等を施したり、不純物イオンを除去して品質をより一層向上させることも可能である。
【0047】
〔印刷方法と用途〕
以上説明した本発明のインクを用いて、各種の対象物に印刷できる。本発明のインクは、体内に安全に摂取できる成分のみで作製できるので、例えば、錠剤、カプセル等の医薬品への印刷、あるいは各種の食品への印刷にも好適に使用できる。印刷方法も制限されず、従来より可食体の印刷に使用されているオフセット印刷やグラビア印刷等の方法に用いてもよいが、インクジェット印刷に用いた場合でも、安定した吐出性を保ち、優れた性能を発揮することができる。すなわち、インクジェット印刷装置を用いた印刷に、インクジェット用インクとして用いることができ、また可食体の表面のマーキングインク用途とすることができ、本発明のインクを、インクジェット印刷装置を用いて被印刷面に印刷して可食体を製造することができる。
こうして得られる印刷物は着色性、定着性に優れているので、偽造防止、トレサビリティの確保、誤飲防止、識別性の向上、アミューズメント性の付与等様々な目的で、本発明のインクを用いて、医薬品、食品等への印刷を行うことができる。
【実施例
【0048】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。実施例において「部」はすべて重量部を示す。
なお、CMC-Naは市販品(純分100%の粉末)を用いた。部重量平均分子量及びエーテル化度はいずれもカタログ値である。
【0049】
[実施例1]
以下に示す成分を配合し、プロペラ攪拌機にて室温で1時間攪拌した。
成 分 量
(重量部(以下、部という))
酸化チタン 10.00
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.00
(以下 CMC-Naという)
(重量平均分子量;11000~15000 エーテル化度0.7~0.8)
水 88.00
【0050】
ついで、えられた混合物に対し、0.5mm径ジルコニアビーズ370gをペイントシェイカー用ポットに入れ、4時間振とうした。
これを「分散液1」とし、以下の方法でインク化をおこなった。
【0051】
成 分 量(部)
分散液1 70.00
プロピレングリコール 20.00
脂肪酸グリセリンエステル 0.20
水 9.80

上記配合にて30分間撹拌し、インクを作製した。
得られたインクは、平均分散粒子径が406nm、粘度が7.0mPa・s、pH6.6であった。また、得られたインクは、外観上均一な白色を示しており、インクについて沈降安定性試験を行った。
【0052】
沈降安定性試験の評価方法は以下の通りである。
100mlポリビンにインクを100g充填し、25℃条件下で3日間静置後する。その後ポリビンを逆さにして底部に溜まった沈降物の状態を目視にて観察する。
判定基準としては
沈降物無し 評価 〇
沈降物はあるが10秒以内で底部から落ちる 評価 △
沈降物は10秒以上経っても底部に存在する 評価 ×
とする。
【0053】
[実施例2]
以下に示す成分を配合し、プロペラ攪拌機にて室温で1時間攪拌した。
成 分 量(部)
酸化チタン 10.00
CMC-Na 1.00
(重量平均分子量;11000~15000 エーテル化度0.7~0.8)
水 89.00
ついで、えられた混合物に対し、0.5mm径ジルコニアビーズ370gをペイントシェイカー用ポットに入れ、4時間振とうし「分散液2」を作製した。「分散液1」を「分散液2」に置き換えた以外は同様にインクを作製した。得られたインクは、平均分散粒子径が295nm、粘度が4.2mPa・s、pH6.6であった。また、得られたインクは、外観上均一な白色を示していた。
【0054】
[実施例3]
以下に示す成分を配合し、プロペラ攪拌機にて室温で1時間攪拌した。
成 分 量(部)
酸化チタン 10.00
CMC-Na 2.00
(重量平均分子量;11000~15000 エーテル化度0.7~0.8)
炭酸ナトリウム 1.00
水 87.00

ついで、えられた混合物に対し、0.5mm径ジルコニアビーズ370gをペイントシェイカー用ポットに入れ、4時間振とうし「分散液3」を作製した。「分散液1」を「分散液3」に置き換えた以外は同様にインクを作製した。得られたインクは、平均分散粒子径が348nm、粘度が6.2mPa・s、pH10.3であった。また、得られたインクは、外観上均一な白色を示していた。
【0055】
[実施例4]
以下に示す成分を配合し、プロペラ攪拌機にて室温で1時間攪拌した。
成 分 量(部)
三二酸化鉄 10.00
CMC-Na 2.00
(重量平均分子量;11000~15000 エーテル化度0.7~0.8)
水 88.00
【0056】
ついで、えられた混合物に対し、0.5mm径ジルコニアビーズ370gをペイントシェイカー用ポットに入れ、4時間振とうし「分散液4」を作製した。「分散液1」を「分散液4」に置き換えた以外は同様にインクを作製した。
得られたインクは、平均分散粒子径が328nm、粘度が6.8mPa・s、pH7.7であった。また、得られたインクは、外観上均一な茶色を示していた。
【0057】
[実施例5]
以下に示す成分を配合し、プロペラ攪拌機にて室温で1時間攪拌した。
成 分 量(部)
三二酸化鉄 10.00
CMC-Na 2.00
(重量平均分子量;11000~15000 エーテル化度0.7~0.8)
炭酸ナトリウム 1.00
水 87.00

ついで、えられた混合物に対し、0.5mm径ジルコニアビーズ370gをペイントシェイカー用ポットに入れ、4時間振とうし「分散液5」を作製した。「分散液1」を「分散液5」に置き換えた以外は同様にインクを作製した。得られたインクは、平均分散粒子径が219nm、粘度が6.1mPa・s、pH10.9であった。また、得られたインクは、外観上均一な茶色を示していた。
【0058】
[比較例1]
実施例1においてCMC-Naを重量平均分子量27000~33000、エーテル化度0.7~0.8のものに置き換えた「分散液6」を使用した以外は同様にインクを作製した。
[比較例2]
実施例1においてCMC-Naを重量平均分子量45000~53000(エーテル化度0.45~0.55)に置き換えた「分散液7」を使用した以外は同様にインクを作製した。
[比較例3]
実施例1においてCMC-Naをヒドロキシプロピルセルロースに置き換えた「分散液8」を使用した以外は同様にインクを作製した。
【0059】
[比較例4]
実施例4においてCMC-Naを重量平均分子量27000~33000、エーテル化度0.7~0.8のものに置き換えた「分散液9」を使用した以外は同様にインクを作製した。
[比較例5]
実施例1においてCMC-Naを重量平均分子量45000~53000(エーテル化度0.45~0.55)に置き換えた「分散液10」を使用した以外は同様にインクを作製した。
[比較例6]
実施例1においてCMC-Naをヒドロキシプロピルセルロースに置き換えた「分散液11」を使用した以外は同様にインクを作製した。
【0060】
【表-1】
【表-2】
(実施例、比較例についての結果と考察)
【0061】
以上の実験結果において、実施例1は酸化チタンを7.0重量部含有し、本発明で特徴とする特定のCMC中和塩を含有するインクであり、粒径、粘度がインクジェットプリンタの適性な値を得ることができており、かつ沈降安定性において液分離を生じず良好な印字品質が得られることがわかる。
【0062】
実施例2は、実施例1に対してCMC中和塩の量を減らしたものであり、インク粘度を下げることができている。したがって、CMC中和塩の量を変化させることにより、インクジェットプリンタに応じて、より最適な粘度値に調整することが可能であることがわかる。
【0063】
実施例3は、実施例1に対してpHを高くしたものであり、酸化チタンの分散粒径を小さくすることができる。したがって、分散粒径が小さいほど顔料沈降がより起き難くインクジェットプリンタに応じて、より長期期間保管しても不具合無く印刷することが可能となる。
【0064】
実施例4は三二酸化鉄を7.0重量部含有し、本発明で特徴とする特定のCMC中和塩を含有するインクであり、粒径、粘度がインクジェットプリンタの適性な値を得ることができており、かつ沈降安定性において液分離を生じず良好な印字品質が得られることがわかる。
【0065】
実施例5は、実施例4に対してpHを高くしたものであり、三二酸化鉄の分散粒径を小さくすることができる。したがって、分散粒径が小さいほど顔料沈降がより起き難くインクジェットプリンタに応じて、より長期に不具合無く印刷することが可能となる。
【0066】
比較例1または比較例4はCMC中和塩の重量平均分子量が20000を超えるものである。酸化チタンまたは三二酸化鉄の分散性が悪く分散粒径が大きく、かつインク粘度が高くなる。また沈降安定性も劣り、このため印字した際の吐出不良や粗大粒子によりインクジェットヘッドの目詰まりを引き起こす可能性が高いことがわかる。
【0067】
比較例2または比較例5はCMC中和塩の重量平均分子量が20000より大きい。エーテル化度も6.0より低い。酸化チタン又は三二酸化鉄の分散性がさらに悪くなり、分散粒径が大きく、かつインク粘度もさらに高い。また沈降安定性も劣り、印字した際の吐出不良や粗大粒子によりインクジェットヘッドの目詰まりを引き起こす可能性が高いことがわかる。
【0068】
比較例3または比較例6はCMC中和塩を用いず、ヒドロキシプロピルセルロースを使用しており、分散は可能であるが沈降安定性が悪い。このため印字した際の吐出不良や経時沈降による目詰まりを引き起こす可能性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明により、比重が重くインク中に均一に安定し保持させることが難しく顔料沈降を起こし易い酸化チタン又は三二酸化鉄を用いても、印字の際に吐出不良等のの不具合を起こすこともなく良好な品質を保つインクジェット用インクを提供することができることがわかる。