(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】耐熱軽量高強度焼結体製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20230101AFI20230822BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20230822BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230822BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20230822BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20230822BHJP
C22C 29/16 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C22C1/05 E
B22F3/14 D
B22F3/24 F
C22C1/05 C
C22C14/00 Z
C22C21/00 N
C22C29/16 P
(21)【出願番号】P 2019051005
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391016554
【氏名又は名称】株式会社キグチテクニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】遠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 伸樹
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103846438(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1944338(CN,A)
【文献】特開昭49-104807(JP,A)
【文献】特開平08-225879(JP,A)
【文献】特開平02-200743(JP,A)
【文献】特開平11-172351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/05
B22F 3/14
B22F 3/24
C22C 14/00
C22C 21/00
C22C 29/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ粉末状のAl、TiN、Tiを重量比にてAl:TiN:Ti=1:0.01~1.5:x(ただし、xは0以上でありTiNの比率との和が0.3以上6.0以下となる値)として混合し、
真空または無酸素雰囲気下にてこの混合粉末を加圧しながら
1100℃~1350℃で加熱して得ることを特徴とする耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項2】
Al粉末の平均粒径を1μm以上1mm以下、および/または、TiN粉末の平均粒径を50μm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項3】
Cr、Nb、V、Zr、Bを特性調整用元素とし、
重量比でAl1に対し、
Cr粉末もしくはCrN粉末を0.5以下、
Nb粉末もしくはNbN粉末を1.0以下、
V粉末もしくはVN粉末を0.3以下、
Zr粉末もしくはZrN粉末を0.3以下、または、
B粉末もしくはBN粉末を0.1以下、
添加した混合粉末を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項4】
特性調整用元素として添加する粉末の平均粒径を100μm以下とすることを特徴とする請求項3記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項5】
加熱に際し、
加圧しながら660~1000℃の範囲にて加熱する第一工程を経た後、
1100~1350℃の範囲にて拡散熱処理を施す第二工程を経ることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項6】
第一工程と第二工程との間に、鍛造、切削その他の整形工程を含ませることを特徴とする請求項5に記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項7】
加熱温度を1100~1350℃として、圧延、鍛造、押出しその他の熱間加工工程を含ませることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【請求項8】
Alの融点を含み680℃までの反応温度領域における圧力より、前記反応温度を超えた温度領域における圧力を高めた加圧とすることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造が容易であって、耐熱性を有する高強度で軽量なTi-Al系合金を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ti-Al系金属間化合物は耐熱性がある軽量材料として知られ、比強度、クリープ強度も高いことから航空機エンジン部品などに使用されている。
【0003】
しかしながら、Ti-Al系合金は製造コストが高く、用途が限定されるという問題点があった。高コストの要因として、Ti自体が高価であるほか、融点が1700℃程度と高くほとんど全てのるつぼ材と反応してしまい、水冷銅るつぼを用いるスカル溶解といった特殊な溶解鋳造法をとらざるを得ない点があげられる。加えて、素材由来の難切削性や低靭性が影響し、加工費増を招来してしまう。
【0004】
一方、従来のTi-Al系合金は、900℃超にて著しい強度低下が見られ、使用温度範囲がせいぜい1000℃未満に限定されるという問題点があった。
【0005】
なお、本願発明と同様にNを含むTi-Al系合金も知られているが、Alの溶融温度以下の低温焼結素材に過ぎない(非特許文献1,2)。
また、特許文献1では、Alは焼結助剤として用いられているに過ぎず本願発明と異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】香山滉一郎ら「反応焼結によるAl-Ti-N系合金作成」粉体および粉体冶金,(1992),823
【文献】A.K.Rayら、’Fabrication of TiN Reinforced Aluminum MMC’,Mager.Sci.Eng.,2002,A338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、製造が容易であって(換言すれば製造コストが安く)、耐熱性を有する高強度で軽量なTi-Al系合金を得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、それぞれ粉末状のAl、TiN、Tiを重量比にてAl:TiN:Ti=1:0.01~1.5:x(ただし、xは0以上でありTiNの比率との和が0.3以上6.0以下となる値)として混合し、真空または無酸素雰囲気下にてこの混合粉末を加圧しながら
1100℃~1350℃で加熱して得ることを特徴とする耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
この範囲は、
図5に示すTi-Al-N系三元状態図の網掛け部となる。
なお、Oを不可避的不純物元素として、上限を3wt%として可能な限り低くするように制御ないし調整することが好ましい。
同様に、P,S,Si,Mn,Sn,Zn,Fe,Ni,Co,Cu,Mo,W,または,Hfは含有元素として許容されるが、これらも上限を各3wt%、合計10wt%として制御ないし調整することが好ましい。
【0010】
混合するとは均一な状態に混ぜ合わせることをいう。
加熱とは、所定の昇温工程が含まれていてもよいものとする。加熱して焼結体をえる手段は特に限定されないが、ホットプレス、放電プラズマ焼結、HIP(熱間等方加圧)を挙げることができる。
焼結体は合金と言い換えることもできる。
Al1に対し、TiNが0.01を下回ると所期の添加効果がえられず、1.5を超えると窒化物量が増えすぎて靭性が低下し実用材料として適当でなくなる。同様に、Tiとしての合計添加量が0.3に満たないと低融点層が生じて高温における機械的特性が不足し、6.0を超えると目的とするTi-Al系化合物に対してTi(α)量が増加し所期の特性が得られにくくなる。
【0011】
請求項2に係る発明は、Al粉末の平均粒径を1μm以上1mm以下、および/または、TiN粉末の平均粒径を50μm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0012】
Alの平均粒径が1μmを下回ると粉末表面積の増加により不純物元素である酸素量が過多となる。一方1mmを超えると焼結時にAlと内部まで反応せずTiAl3等の化合物の殻を生じて不均一組織となり、後の高温拡散時に空隙等の欠陥要因となる。また、TiNの平均粒径が50μmを超えると粗大なTiNが未反応のまま残留しやすくなり、靭性等の機械的特性の低下を招く。
【0013】
請求項3に係る発明は、Cr、Nb、V、Zr、Bを特性調整用元素とし、重量比でAl1に対し、Cr粉末もしくはCrN粉末を0.5以下、Nb粉末もしくはNbN粉末を1.0以下、V粉末もしくはVN粉末を0.3以下、Zr粉末もしくはZrN粉末を0.3以下、または、B粉末もしくはBN粉末を0.1以下、添加した混合粉末を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0014】
なお、窒化物すなわち、CrN(本願ではCrNと表記する際にはCr2Nを含むものとする)、NbN、VN、ZrNまたはBNを添加する場合には、請求項1に関しては、Al:TiN+CrN+NbN+VN+ZrN+BN=1:0.001~1.0となるように、TiNの添加量を調整する。
【0015】
請求項4に係る発明は、特性調整用元素として添加する粉末の平均粒径を100μm以下とすることを特徴とする請求項3記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0016】
請求項5に係る発明は、加熱に際し、加圧しながら660~1000℃の範囲にて加熱する第一工程を経た後、1100~1350℃の範囲にて拡散熱処理を施す第二工程を経ることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0017】
請求項6に係る発明は、第一工程と第二工程との間に、鍛造、切削その他の整形工程を含ませることを特徴とする請求項5に記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0018】
請求項7に係る発明は、加熱温度を1100~1350℃として、圧延、鍛造、押出しその他の熱間加工工程を含ませることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0019】
請求項8に係る発明は、Alの融点を含み680℃までの反応温度領域における圧力より、前記反応温度を超えた温度領域における圧力を高めた加圧とすることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の耐熱軽量高強度焼結体製造方法である。
【0020】
反応温度領域とは、Alの融点である660℃を下回り、Al粉とTi粉との接触界面にてAl-Ti合金が形成されはじめる温度(条件にも依存するが600℃程度以上)から680℃までをいう。
圧力の目安は、反応温度領域では5MPa~20MPa、反応温度を超えてからは30MPa~100MPaの例を挙げることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐熱性を有する高強度で軽量なTi-Al-N系合金を、容易に製造ないし安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】各種耐熱合金における温度と比強度との関係を示した相図である。
【
図5】Al-Ti-Nの三元状態図上に請求項1の範囲を図示したものである。
【
図6】Thermo-Calcによる計算例である。
【
図7】Thermo-Calcによる計算例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
Al-Tiの二元合金を製造する際には、Alが融解すると、型の隙間から流れ出てしまい、Al融点を超えた温度での焼結は積極的に検討されてこなかった経緯がある。
加えて、融点を若干下回る温度にて、Al粉とTi粉との接触界面でAl-Ti合金が形成され、これが強固な殻となりその後の効率的な反応が進みにくいという側面がある。場合により、殻の中に空隙が残存してしまうこともある。いずれにせよ、Al融点付近以上の焼結ないし合金形成に関しては、ミクロな組成の不均一性が解消されにくく、機械的特性が期待されるほど発揮されない。
【0024】
本願発明者らは鋭意検討の結果、従来TiN粉末はこれまで比較的安定な化合物としてしか認識されていなかったところ、これにAlに対する反応焼結原料としての有用性を発見し本発明をなしたものでる。
具体的には、本願発明者らは、TiN粉末を混和して加熱すると、Alの溶融とほぼ同時にTiNが反応して融点上昇を導き、型からの漏れ出しが事実上生じず、また、Al融点以上の高温域における安定した加圧焼結および拡散処理が可能となることを発見した。
また、AlとTiNとの混合原料に、Ti粉末が存在していても、TiN粉末の存在下では、同様の原理で反応が好適に進行することも確認した。
これらの知見をもとに、以下、本発明の実施例を説明する。
【0025】
≪実施例1≫
平均粒径約100μmのAl粉末1に対し、平均粒径約0.8μmのTiN粉末を0.67の重量割合で混合した後、黒鉛型を使用した放電プラズマ焼結(SPS)を行ない、組織観察、硬さ試験、抗折試験を行なって特性を確認した。
<SPSの条件>
・加圧条件:初期加圧10MPa,800℃到達時以降50MPa
・加熱条件:RT~600℃[30℃/分]→600℃~800℃[10℃/分]→800℃×30分保持→800℃~1050℃[10℃/分]→1050℃~1100℃[2.5℃/分]→1100℃×60分保持→その後冷却
【0026】
<組織観察>
光学顕微鏡写真を
図1に示した。写真から明らかなように、十分均質であるまではいえず、空隙も見られる。これは、原料粉末の粒子サイズの差が大きく、また、拡散処理温度が低めだったためと考えられた。また、Al自体の粒径が大きい影響とも考えられた。
なお、細かく観察したところ、AlをベースとするFCC(面心立方格子構造)相、Al
3Ti相、および、Al
2Ti相がマトリックスを構成し、Ti(Al)N複合窒化物が析出する形となっていた。
【0027】
<硬さ>
微小硬さ分布は757HV0.5~946HV0.5であり、平均値は836HV0.5であった。この値は実用鉄合金の最高硬さ(粉末ハイスの熱処理最高硬さ)に匹敵するレベルであり、高硬度素材であることが確認できた。
【0028】
<抗折試験>
次に、比抗折強度測定をおこなった。
まず、抗折試験をおこない、その結果を表1に示す。
【表1】
【0029】
本試験材(試験材1)の比重は3.7g/cm3であった(軽合金といえる)。
従って、比抗折強度は次のとおりである。
常温:97MPa/(Mg/m3)、
1000℃:86MPa/(Mg/m3)
この値は、実用特性として、軽量でありながら鉄合金の最高硬さに匹敵し、耐熱強度も備えているといえる。従って、軽量耐熱耐摩耗材として広い用途に有望な素材であることが確認できた。
【0030】
≪実施例2≫
平均粒径約75μmのAl粉末1に対し、平均粒径約0.8μm粒径のTiN粉末を0.65、平均粒径約40μmのTi粉末を1.8の重量割合として混合し、更に、平均粒径約5μmのCrN粉末を0.03加えてよく混合した後、黒鉛型を使用した放電プラズマ焼結(SPS)を行ない、組織観察、硬さ試験、抗折試験を行って特性を確認した。
<SPSの条件>
・加圧条件:初期加圧10MPa,800℃到達時以降50MPa
・加熱条件:RT~600℃[30℃/分]→600℃~800℃[10℃/分]→800℃×30分保持→800℃~1150℃[10℃/分]→1150~1200℃[2.5℃/分]→1200℃×60分保持→その後冷却
【0031】
<組織観察>
光学顕微鏡写真を
図2に示した。写真から明らかなように、50μm径程度以下の未固溶TiN粒子が若干確認されるものの、大部分はTiAl(微量のCrを含む)とTi
3Alを主体とするマトリックスであり、これに、個々には識別できない微細(1μmオーダー)なTi
2AlNが析出した状態となっていた。全体として橙色を帯びた比較的均質な組織が形成されているといえる。
【0032】
<硬さ>
微少硬さ分布は420HV0.5~540HV0.5であり、平均値は466HV0.5であった。この値は、焼入れ焼戻しを施した鉄鋼の硬さに相当する。
【0033】
<抗折試験>
次に、比抗折強度測定をおこなった。
まず、抗折試験をおこない、その結果を表2に示す。
【表2】
【0034】
本試験材(試験材2)の比重は4.03g/cm
3であった(軽合金といえる)。
従って、比抗折強度は次のとおりである。
常温:146MPa/(Mg/m
3)、
1000℃:118MPa/(Mg/m
3)
図3に、各種耐熱合金における温度と比強度との関係を示した。1000℃における試験材2の比抗折強度は、図示した従来得られているTiAl二元合金の最高値と同等以上であるといえる。
【0035】
≪比較例≫
次に、比較例として、Ti-48at%Al合金(二元合金)を説明する。
平均粒径約75μm粒径のAl粉末1に対し、平均粒径約40μmのTi粉末を0.5の重量割合で混合した後、黒鉛型を使用した放電プラズマ焼結(SPS)を行ない、組織観察、硬さ試験をおこなった。
を確認した。焼結条件は実施例2と同じとした。
【0036】
<組織観察>
光学顕微鏡写真を
図4に示した。一見うまく焼結されているように見えるが詳細に観察したところ、原料のAl粒がほぼそのままとなっており(Al富化部として残存し)、外殻の化合物領域に覆われた、均質化の不十分なミクロ組織が形成されていることを確認した。
【0037】
<硬さ>
ビッカース硬さ試験を実施した結果、234HV0.5~480HV0.5であり、平均値は285HV0.5であった。実施例1,2と比較すると硬さは低く、局所的な硬化層が存在してばらつきも大きい。すなわち、本発明(実施例)の方が、均質であり、高硬度であるといえる。
【0038】
以上の実施例および比較例から、本発明の方法は、従来のTiAl合金における特殊な溶解鋳造法によることなく、低コストな製造方法であるといえる。また、得られる合金は、取扱性に優れ均質であって、従来品より高硬度かつ1000℃程度の高温域において同等以上の比強度を有するものである。
【0039】
なお、本発明の温度域等について補足する。
図5は、Al-Ti-Nの三元状態図である。本発明の製造方法における原料の組成範囲は、図中の(1)~(5)で示した黒丸印(5箇所)を頂点とする五角形内である。なお、図では実施例と比較例の組成点も記している。
【0040】
焼結体を製造する際の焼結温度ないし熱拡散温度は、660℃~1350℃である。660℃はAlの融点であり、1350℃はTi-Al-N三元状態図上で液相を生じうる温度である(後述)。
【0041】
反応焼結原料としてTiの全部または一部をTiNで代替することにより、焼結性向上が認められるが、CrNを添加使用した場合にもその効果が認められ、このほか、Cr単体、もしくは、Nb、V、Zr、Bまたはこれらの窒化物でも同等の効果がみとめられる。この現象は、概略的に言えば、TiとAlとの化合物のみからなる粉末の外殻構造を生成する反応に対し、窒素の存在によりAlNなどの微細な窒化物生成反応が加わることによって焼結温度が高温化し、Al融点付近での焼結反応を生ずるため、最終製品の均一性が得られやすくなると解釈される。
【0042】
また、このような窒化物を原料に使用すると、製品の強度も向上する。先に示した様に、従来のTiAl(代表組成として48at%Al-52at%Ti)合金では、約250HV程度のところ、Tiの重量分率で約1/3をTiNで置換えると、焼結まま製品で約450HV-500HVとなり、圧縮強度に換算すると2倍強のレベルとなる。
【0043】
更に、窒化物を原料に使用すると、耐熱性、即ち熱間強度と耐酸化性が向上する。マトリックスを形成するTi-Al系化合物相のみならず窒化チタン及び合金窒化物の添加で生じる窒素化合物(AlN、Ti2AlNや準安定相として存在しうるTiNなど)は、従来の熱力学データからいずれも1350℃以上まで極めて安定な層であると考えられる。マトリックスのγTiAl相などへ侵入窒素による固溶強化と微細窒化物の析出強化の効果をもたらし、同時に耐酸化性も向上させることが確認される。
【0044】
なお、
図6および
図7に、Thrmo-Calc(サーモカルクソフトウェア社によるソフトウェア)による計算例を示した。本発明により得られる合金は周辺の領域において、TiAl、Ti
3Al、TiAl
3、AlN、Ti
2AlN及び平衡しうるマトリックスのAlベースのFCC相、Ti(α)ベースのHCP相、更に準安定相として若干量残留しうると考えられるTiNまで含め、主要な構成相が全て約1350℃まで安定と考えられる。但し、現実の製品はアルミニウム粉末の表面に形成される酸化相による5mass%以下の酸素混入があるなどの要因で、一定の誤差を生じうる。
【0045】
次に、二段階の焼結工程について説明する。第一段階の焼結工程は660℃~1000℃の所定温度における所定時間の保持であり、第二段階の焼結工程は1000℃(場合によっては1100℃)~1350℃の所定温度における所定時間の保持である。
1000℃以下の短時間加圧焼結では原料粒子サイズに起因する不均一性が残存し、合金化と硬化が十分でない部分が存在しうるため、この段階での焼結体は、目標となる耐熱強度を有するに至っていない。しかしながら、中間体として切削加工や塑性加工を行なうには有利な場合もある。従って、中間体を加工してから拡散処理を行なうのが製品の成形に有利な場合がある。もっとも、第一段階(低温側)の焼結後、そのまま冷却せずに第二段階(高温側)の焼結すなわち、拡散加圧焼結に移行してもよい。
【0046】
拡散処理、或いは高温側での加圧焼結の目的は、Ti-Al-N系耐熱化合物、即ちTiAl、Ti3Al,Ti2AlN,AlN等の耐熱平衡相の析出による耐熱性の付与と高強度化及び均質化の実現である。Ti-Al-N系では1000℃程度を境にして平衡する高温相と低温相の種類が若干変わる傾向があるので、約1000℃以上で保持することが有効である。但し、1350℃を超えると液相が生じる危険性があり、拡散処理は1000~1350℃の範囲とする。
【0047】
仕様の態様によっては、1100℃以上の高温領域で熱間鍛造や熱間圧延といった塑性加工が行われうる。この場合も材温が1350℃を超えると液相が生じまた組織が粗大化するため、熱間鍛造や熱間圧延は1100~1350℃の温度範囲で行なうことが望ましい。
【0048】
次に、特性調整用元素について説明する。Cr、Nb、V、Zr、Bは、Ti-Al合金に添加すると、酸化性と高温での組織安定性を向上させることが可能であり、これら、または、これらの窒化物を本発明の方法によるAl-Ti-N系合金の製造に際し添加すれば、同様の効果が得られるほか、焼結初期にTiN粉末と同様のAlとの反応性を利用できる(焼結性の調整が可能となる)。
【0049】
Crの場合は、上述の成形性向上効果が顕著であり、耐酸化性向上効果もあるが、多すぎると低融点化合物を生成しやすくなるため、Alの重量1に対してCr又はCrNを0.5以下とする。
Nbは耐酸化性効果が大きいが、多すぎると比重を大きくし、粗大窒化物を作り好ましくないのでAlの重量1に対してNb又はNbNを1.0以下とする。
Zr,Vについては耐酸化性及び熱間強度向上の効果が認められるが、多すぎると比重を大きくし、また粗大窒化物を作り好ましくないのでAlの重量1に対してZr又はZrN、V又はVNとも0.3以下とする。
Bについては微量で組織の安定化効果、熱間強度向上効果が認められるが、多すぎると粗大窒化物を作り好ましくないのでAlの重量1に対してB又はBN0.1以下とする。
【0050】
なお、これら、特性調整用元素粉末(窒化物を含む)の平均粒径は、100μm以下とするのが好ましい。100μmを超えると、その元素の拡散に時間がかかり、製品のミクロ組織が不均質となって、所期の各種特性が得られにくくなるからである
【0051】
O(酸素)は微細粉末を使用するのである程度の混入は不可避であるが、多くなりすぎると材料の脆化が顕著となるので最終製品(合金)の組成において3wt%以下で且つ極力低減する必要がある。
【0052】
また、P,S,Si,Mn,Sn,Zn,Fe,Ni,Co,Cu,Ag,Mo,W,Hfは、本発明に見られる合金の基本的な作用機序を成立させる範囲で許容されうる。上記の各元素について、0.5wt%のレベルで顕著な有害性は確認されない。個別の上限として3wt%、合計で10wt%を超える場合には本発明合金の基本特性が維持されにくい。従って、最終製品の組成として、個別に3wt%以下、合計で10wt%以下の範囲で混入または添加する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、従来の航空機エンジン部品のほか、高温環境下で強度が要求されるおよび/または軽量であることが要求される構造材を安価に提供できる。