(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ジオポリマー用減粘剤及びジオポリマー硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 22/16 20060101AFI20230822BHJP
C04B 28/26 20060101ALI20230822BHJP
C07F 9/09 20060101ALI20230822BHJP
C07F 9/11 20060101ALI20230822BHJP
C07F 9/12 20060101ALI20230822BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C04B22/16 Z
C04B28/26
C07F9/09 K
C07F9/11
C07F9/12
C09K3/00 103P
(21)【出願番号】P 2020012770
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019035012
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 柱国
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋久
(72)【発明者】
【氏名】北里 槙悟
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 進
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177595(JP,A)
【文献】特表2015-518462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
C09K3/00
C07F9/08-9/206
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物を含有するジオポリマー用減粘剤。
【化1】
(式中、R
1は炭素原子数1~24のアルキル基、炭素原子数2~24のアルケニル基又は置換基を有してもよいアリール基であり、A
1Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基であり、nは0~30の整数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
【請求項2】
前記ジオポリマー用減粘剤が、少なくとも一種のアルミノシリケート源、並びに、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源を含む混合物より形成されるジオポリマーの添加剤である、請求項1に記載のジオポリマー用減粘剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のジオポリマー用減粘剤、並びに、
減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、AE剤、流動化剤、硬化促進剤、消泡剤、急結剤、収縮低減剤、硬化遅延剤及び防錆剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する、ジオポリマー用混和剤。
【請求項4】
請求項1若しくは請求項2に記載のジオポリマー用減粘剤又は請求項3に記載のジオポリマー用混和剤、
少なくとも一種のアルミノシリケート源、
アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び
骨材を含む、ジオポリマー形成組成物。
【請求項5】
請求項1若しくは請求項2に記載のジオポリマー用減粘剤又は請求項3に記載のジオポリマー用混和剤、
少なくとも一種のアルミノシリケート源、
アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び
骨材を含む組成物の硬化体からなる、ジオポリマー硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジオポリマー用の減粘剤、並びに該減粘剤を使用したジオポリマー硬化体に関する。更に詳しくは、ジオポリマー硬化後の圧縮強度を損なうことなく、硬化前の粘性を低減したジオポリマー組成物を調製することができるジオポリマー用減粘剤及びジオポリマー用減粘剤を用いたジオポリマー硬化体を提供するところにある。
【背景技術】
【0002】
フランスのDavidovitsによって1978年に提唱されたジオポリマー(以下、GPとも称する)は、メタカオリン等の活性フィラー(アルミノシリケート源)がアルカリ溶液(アルカリ源:アルカリ金属ケイ酸塩、NaOH等)で刺激されることによって硬化し、セメントクリンカーを使用せずに硬化体を作製できる無機材料である。セメントの製造におけるCO2排出量は、コンクリート製造時のCO2排出量全体の6割以上を占める。そのため、セメントクリンカーを使用せずに硬化体を製造できるGPは、通常のポルトランドセメントに比べ、CO2排出量を80~90%程度低減することができ(非特許文献1)、環境負荷軽減を図れる材料として注目されている。
【0003】
GPを構成する上記活性フィラーは、GPの硬化に必要な陽イオンの供給源となるため、構成元素としてSiとAlを多く含むものであることが望ましい。初期のGPは、活性フィラーとして、天然資源のカオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)を750℃前後で加熱脱水したメタカオリンと呼ばれる非晶質の粉末を用いていた。しかし、カオリン資源が殆どない日本では、その代替物として、鉄鋼製造時の副産物である水砕高炉スラグ(以下、BFSとも称する)が使用されている。また活性フィラーとしてフライアッシュ(以下、FAとも称する)、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、下水汚泥溶融スラグ微粉末といった廃棄物や副産物も使用することができるため、GPは、廃棄物のリサイクルの観点からも、重要な技術と位置づけられる。
また、GPを用いたコンクリートは、ポルトランドセメントを用いた従来のコンクリートと比較して、強度発現性、耐火性、アルカリ骨材反応抵抗性、耐硫酸塩抵抗性に優れ、重金属を固定できる等の特徴を有する。
これまでGPの活性フィラーとして、FAとBFSを採用した例が多く報告されている。活性フィラーのなかでも、酸化カルシウム(CaO)の含有量が比較的少ないFAを単独で使用したGPは、凝結・硬化時間が長く(例えば常温(気中)養生の場合、1日以上)、十分な可使時間は確保されるものの強度発現性に乏しい(例えば非特許文献2及び非特許文献3)。一方、酸化カルシウムの含有量が比較的多いBFSを活性フィラーとしたGPは、強度発現性に非常に優れるものの、常温下の凝結時間は10~40分ほどで極めて短く、その作業性は悪い。このため、GPの強度発現性を高める目的で、FAを用いたGPに、BFSを混合使用する検討例がいくつか報告されている(例えば、非特許文献3及び非特許文献4)。
【0004】
また、GPを構成するアルカリ源(アルカリ溶液)としては、一般に、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムの単独溶液、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの単独溶液、またはこれらの混合物の溶液が使用される。これら化合物のアルカリ溶液は水より粘性が高いため、これらを用いたGPが硬化する前の状態における粘性も高いものとなる。したがって、GPを用いたコンクリートの場合には、スランプ値は大きくても、流動能力と流動速度は通常コンクリートよりかなり低いものとなる。このように、GPコンクリートは高粘性であるため、締固めされるときに内部の気泡が排出されにくく、硬化コンクリートに欠陥が生じやすい(非特許文献5)。一方、単位あたりのアルカリ溶液の量を増やせばコンクリートの流動性は増大するものの、コスト増加につながり、GPの実用性が損なわれる。
【0005】
ポルトランドセメントを用いた従来のコンクリートの場合、単位あたりの水量を減少させる、あるいは流動性を増加させるために、セメント質量のおよそ0.5~1.0%の減水剤が用いられる。減水剤の減水機構は減水剤の成分によって二つあると考えられ、正電化をもつセメント粒子に減水剤が吸着し、その周りに電気二重層が形成され、静電反発力によってセメント粒子を分散させるとする説、あるいは、セメント粒子に高分子の減水剤を吸着させ、高分子の鎖でセメント粒子の凝集を阻止するとする説がある。
GPやGPコンクリートにあっても、ポルトランドセメンにおける減水剤と同様に、流動性を確保しながら、単位アルカリ溶液量を減少できる混和剤(ここに、減液剤と呼ぶ)への要求は高いとみられるものの、日本国内ではジオポリマー用減液剤の利用に関する報告はまだ見当たらない。
【0006】
これまでにも市販のポルトランドセメント・コンクリート用の各種減水剤をGPに適用した報告はあるものの、弊害なしに流動性を改善できているとは言い難い。
ポルトランドセメント・コンクリート用の減水剤をGPコンクリートに適用している事例として、例えば非特許文献6-8では、ナフタレン系減水剤をGPに用いた事例が報告されている。しかし、従来のポルトランドセメントの場合と比べ、減水剤の添加率は粉体質量の1.5%以上とかなり多く、それにもかかわらず減水剤の添加効果は不明であり、尚且つ添加率が高いほど、GPの養生温度にかかわらず圧縮強度が低下したとの報告がある(非特許文献7の
図5と非特許文献8の
図3を参照)。
一方、非特許文献9は、リグニン酸系の減水剤とポリカルボン酸系の減水剤をGPに使用した事例を報告している。同文献には、水酸化ナトリウムのモル濃度が4.0モル以下である場合に流動性が増加する効果がみられたが、4.0モル以上になると、逆に、減水剤の添加で流動性は低下したことが開示されている(非特許文献9の
図2を参照)。
非特許文献10は、3種類のポリカルボン酸系、2種類のナフタレン系および1種類のメラミン系の減水剤を、粉体質量の1%の割合で使用した事例が報告されている。ポリカルボン酸系を添加した場合には流動性は4割ほどで増加したが、ナフタレン系の場合には6~8%しか増加せず、メラミン系減水剤の場合には流動性は低下したとされ、一方GPの強度に与える減水剤添加の影響は記述されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GP研究の歴史はまだ浅く、例えばGPのフレッシュ時における活性フィラー粒子の分散・凝集挙動、硬化反応、上述の活性フィラー由来の陽イオンとアルカリシリカ溶液由来のケイ酸化合物による重縮合反応による強度発現機構など、未だ不明な点が多い。ポルトランドセメントに替わる新たな無機材料として実用化を図るという観点から、GP研究は圧縮強度(強度発現性)だけではなく、凝結特性及び施工性(作業性)に関しても注意を払う必要がある。
こうした中、本発明者らの検討において、上述の強度発現性と凝結時間の観点に加え、GPの練り混ぜ直後の粘性が従来のセメントコンクリートのそれとは大きく異なり、同水粉体比のセメントコンクリートに比べ、練り混ぜ直後のGP混練物の粘性が非常に大きくなることに着目した。GPの流動性を改善するために減水剤の添加効果に関する検証例や検討例がいくつか報告されているが、前述のように、従来の減水剤を添加することによる流動性の改善効果は例外なく明確に確認されているとは言えず、GPの強度発現性に悪影響を及ぼす可能性が十分にあり、また粘性に着目したものはまだ見当たらない。
こうした種々の課題を踏まえ、本発明では、活性フィラー粒子を分散させることで流動性を改善する減液剤には着目せず、比較的高いpH値で粘性低減効果を発揮し、硬化後の強度発現性を確保しながら、フレッシュ時の流動性を改善するGP組成物を調製することができるGP用減粘剤及び該GP用減粘剤を用いたGP硬化体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討した結果、1種以上の特定構造を有するリン酸エステル系化合物をジオポリマー混練物に対して添加することで、その混練物の粘性を低減し、強度発現性を損なうことなく作業性を確保し、さらには、硬化体表面の黒ずみや白華の発生を抑制し、表面美観効果をも得られることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、
[1]下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物を含有する、ジオポリマー用減粘剤。
【化1】
(式中、R
1は炭素原子数1~24のアルキル基、炭素原子数2~24のアルケニル基又は置換基を有してもよいアリール基であり、A
1Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基であり、nは0~30の整数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)[2]前記ジオポリマー用減粘剤が、少なくとも一種のアルミノシリケート源、並びに、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源を含む混合物より形成されるジオポリマーの添加剤である、[1]記載のジオポリマー用減粘剤。
[3][1]又は[2]に記載のジオポリマー用減粘剤、並びに、
減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、AE剤、流動化剤、硬化促進剤、消泡剤、急結剤、収縮低減剤、硬化遅延剤及び防錆剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する、ジオポリマー用混和剤。
[4][1]若しくは[2]に記載のジオポリマー用減粘剤又は[3]に記載のジオポリマー用混和剤、
少なくとも一種のアルミノシリケート源、
アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び
骨材を含む、ジオポリマー形成組成物。
[5][1]若しくは[2]に記載のジオポリマー用減粘剤又は[3]に記載のジオポリマー用混和剤、
少なくとも一種のアルミノシリケート源、
アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び
骨材を含む組成物の硬化体からなる、ジオポリマー硬化体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のGP用減粘剤は、1種以上の特定構造を有するリン酸エステル系化合物をGP混練物に対して添加することで、その混練物の粘性を低減し、強度発現性を損なうことなく作業性を確保し、さらには、硬化体表面の黒ずみや白華の発生を抑制し、表面美観効果をも得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
GP(ジオポリマー)は強アルカリ性を呈し、系内に正電荷が大量に存在するため、前述した従来のポルトランドセメントのように減水剤分子がGPの粉体粒子に吸着するかは
疑問視されている。仮に吸着したとしても、粉体粒子の周りに電気二重層を形成できるかどうか、また、粘性が高い液相において、高分子の減水剤の鎖で粉体粒子を分散できるかどうかなど、不明点は多い。
また減水剤は通常、液状であるため、その添加量が多い場合には水量の補正は必要となるが、上述の非特許文献に挙げられた報告において、流動性の増加効果だけでなく強度の減少効果を生じているのは、一つの要因として水量の補正を行わなかったためと考えられる。
本発明者らは、特定構造を有するリン酸エステル系化合物をジオポリマー混練物に配合することにより、該リン酸エステル化合物が減粘剤としての働きを有すること、すなわちGP混練物の粘性を低減できること、そして強度発現性を損なうことなく混練物における作業性を確保できることを見出した。以下、本発明について詳述する。
【0012】
本発明のGP用減粘剤は、下記一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物のうち一種以上を含む。本発明におけるリン酸エステル化合物とは、リン酸モノエステル及びその塩、リン酸ジエステル及びその塩、並びにリン酸トリエステルを包含するものであり、これらは一種単独であっても二種以上の混合物であってもよい。
【化2】
(式中、R
1は炭素原子数1~24のアルキル基、炭素原子数2~24のアルケニル基又は置換基を有してもよいアリール基であり、A
1Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基であり、nは0~30の整数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
【0013】
炭素原子数1~24のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、1-アダマンチル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミルスチル基)、ヘキサデシル基(パルミチル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、イコシル基、ドコシル基(ベヘニル基)、テトラコシル基等が挙げられ、これらは例示にあるように分岐構造、環状構造を有していてもよい。
炭素原子数2~24のアルケニル基としては、具体的には、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられ、これらは分岐構造、環状構造を有していてもよい。
置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、ナフチル基等の無置換のアリール基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基等の置換基を有する前記アリール基が挙げられる。
【0014】
前記一般式(1)中、A1Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基であり、具体的にはエチレンオキシ基、1,2-または1,3-プロピレンオキシ基、1,2-、1,3-または1,4-ブチレンオキシ基が挙げられる。これらの内、好ましいのはエチレンオキシ基と1,2-プロピレンオキシ基であり、特に好ましいのはエチレンオキシ基である。
nはアルキレンオキシ基の付加モル数であり、0~30の整数であるが、粘性低減効果
の観点で好ましくは1~10の整数である。nが2以上の場合、n個のAOは同一でも異なっていてもよく、異なる場合は-(A1O)n-はランダム付加、ブロック付加または交互付加のいずれの付加形式でもよい。
mは1~3の整数であり、好ましくは1または2である。
【0015】
前記一般式(1)中、Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が挙げられ、第2族金属原子としては、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。有機アンモニウム基とは、有機アミン由来のアンモニウム基であり、前記有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0016】
GP組成物における上記リン酸エステル化合物の配合量は、GP混練物100質量部に対し、好ましくは0.1~5.0質量部であり、更に好ましくは0.2~2質量部である。
【0017】
また、本発明は、前記GP用減粘剤と、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、AE剤、流動化剤、硬化促進剤、消泡剤、急結剤、収縮低減剤、硬化遅延剤及び防錆剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する、ジオポリマー用混和剤も対象とする。
前記GP用減粘剤及びGP用混和剤は、少なくとも一種のアルミノシリケート源、並びに、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源を含む混合物より形成されるGPに適用される添加剤(減粘剤・混和剤)であることが好ましい。
【0018】
また本発明は、前記GP用減粘剤又はGP用混和剤と、少なくとも一種のアルミノシリケート源、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び骨材を含む、GP形成組成物に関する。
さらには、前記GP形成組成物の硬化体、すなわち前記GP用減粘剤又はGP用混和剤と、少なくとも一種のアルミノシリケート源、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び骨材を含む、GP硬化体に関する。
【0019】
GP用混和剤に配合される減水剤(分散剤)としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、AE剤、減水剤等の各種減水剤を使用できる。例えば、ポリカルボン酸系共重合体の塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、ノボラック型縮合物の塩、リグニンスルホン酸塩、凝結遅延剤、収縮低減剤、糖アルコールなどが挙げられる。
【0020】
中でも前記ポリカルボン酸系共重合体の塩として、ポリアルキレングリコール系不飽和単量体(a)に由来する構成単位と、不飽和カルボン酸系単量体(b)に由来する構成単位を有する共重合体が好ましく使用できる。
【0021】
ポリアルキレングリコール系不飽和単量体(a)に由来する構成単位としては、下記一般式(2)で表すことができる。
【化3】
(式中、R
2、R
3、R
4、R
5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1~22の炭化水素基を表し、Xは-COO-又は-(CH
2)
aO-を表し、aは1~20の整数を表す。A
2Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基を表す。pはアルキレンオキシ基の付加モル数で1乃至200の整数を表す。)
【0022】
上記式(2)において、R2、R3、R4、R5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1~22の炭化水素基を表し、好ましくは水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。
A2Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基を表し、具体的にはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基が挙げられる。二種以上のアルキレンオキシ基から構成される場合、これらアルキレンオキシ基はブロック付加又はランダム付加の何れでも良い。
pは上記アルキレンオキシ基の付加モル数であり、1~200の整数を表す。好ましくは5~120、より好ましくは10~100、更に好ましくは40~100である。
【0023】
ポリアルキレングリコール系不飽和単量体(a)としては、具体的には以下のものを例示することができる。
メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロポキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3-ブテン-1-オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3-メチル-3-ブテン-1-オール)アルキレンオキシド付加物、3-メチル-2-ブテン-1-オールアルキレンオキシド付加物、2-メチル-3-ブテン-2-オールアルキレンオキシド付加物、2-メチル-2-ブテン-1-オールアルキレンオキシド付加物、2-メチル-3-ブテン-1-オールアルキレンオキシド付加物等の不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物。なお本発明では、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートの両方をいい、(メタ)アリルアルコールとはアリルアルコールとメタリルアルコールの両方をいう。
【0024】
上記不飽和カルボン酸系単量体(b)としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及び不飽和脂肪酸並びにそれらの酸無水物、例えば無水マレイン酸が挙げられる。これらのうち、特にメタクリル酸が好ましい。
【0025】
ポリカルボン酸系減水剤において、上記単量体(a)、(b)以外で共重合可能な単量体(c)としては、以下の公知の単量体を挙げることができる;(1)(非)水系単量体
類:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、スチレンなど;(2)アニオン系単量体類:ビニルスルホン酸塩、スチレンスルホン酸塩、メタクリル酸リン酸エステルなど;(3)アミド系単量体類:アクリルアミド、アクリルアミドのアルキレンオキサイド付加物など、(4)ポリアミドポリアミン系単量体:ポリアミドポリアミンと(メタ)アクリル酸の縮合物に、必要に応じてアルキレンオキサイドを付加した化合物。
【0026】
前記単量体(a)~(c)の共重合比は質量基準で(a):(b):(c)=50~95:5~50:0~40((a)~(c)の合計は100)が好ましく、(a):(b):(c)=70~90:10~30:0~20(同上)がより好ましい。
【0027】
上記ポリカルボン酸系減水剤の製造方法としては、特に限定されず、例えば、重合開始剤を用いての溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法が使用できる。また分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法、ポリエチレングリコール換算)で5,000乃至100,000の範囲にあることが、良好な分散性発現の観点から好ましい。
また、上記ポリカルボン酸系減水剤は、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、アルキルアミン、有機アミン類などの中和剤によって、予め部分中和、或いは完全中和された形態として、本発明のジオポリマー用減粘剤に配合されることが好ましい。
【0028】
また、GP用混和剤に配合される前述のその他の添加剤(薬剤)としては特に限定されず、一例として、硬化促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類;チオ硫酸塩;ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸及びその塩類などが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、脂肪族アルコールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、アルキレンオキシドジ脂肪酸エステル、多価アルコールアルキレンオキシド付加物、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物等の非イオン界面活性剤系消泡剤;シリコーンオイルをエマルション化したシリコーン系消泡剤;高級アルコールをエマルション化した高級アルコール類、鉱物系消泡剤、これらを主成分とした混合物などが挙げられる。
収縮低減剤としては、例えば、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸若しくはそれらの塩;糖及び糖アルコール;グリセリン糖の多価アルコールなどが挙げられる。
防錆剤としては、例えば、亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0029】
[GP形成組成物・GP]
本発明の上記GP減粘剤、GP混和剤を適用するGPは、前述したように、活性フィラー等のアルミノシリケート源、アルカリシリカ溶液等のアルカリ源、及び骨材などを含む混合物より構成される。
なお、本発明は、前記GP用減粘剤又は前記GP用混和剤と、GPを構成する前記活性フィラー等のアルミノシリケート源及びアルカリシリカ溶液等のアルカリ源、並びに後述する骨材を含むジオポリマー形成組成物、並びに該GP形成組成物の硬化体からなるGP硬化体も対象とする。
【0030】
本発明のGP用混和剤が適用されるGPは、アルミノシリケート源として後述する各種の活性フィラーの少なくとも一種類を必須として含有するものであり、またアルカリ源として後述する所謂水ガラスなどを含有する。
本発明の減粘剤及び混和剤が対象とするGPは、例えばアミノシリケート源として、フライアッシュを0乃至100質量%及び高炉スラグ微粉末を100乃至0質量%の割合(
合計で100質量%)にて含むものを対象とすることができる。好ましくはCaO含有量が1~60質量%である少なくとも一種のアルミノシリケート源と、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源を含みて構成されるものを対象とすることができる。
【0031】
<アルミノシリケート源:活性フィラー>
上記アルミノシリケート源とは、アルミノシリケート(xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O、Mはアルカリ金属)を成分として含有する成分を指し、高アルカリ性溶液(アルカリシリカ溶液)との接触により、アルミニウムやケイ素等の陽イオンを溶出し、それらの供給源となる作用を有する。
アルミノシリケート源の好適な例として、1)フライアッシュ、クリンカアッシュ、流動床石炭灰、高炉スラグ微粉末、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、赤泥、および下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末などの産業廃棄物・副産物、2)メタカオリンなどの天然アルミノシリケート鉱物および粘土とその焼物、3)火山灰などを挙げることが出来る。
これらのうち、上記1)の産業廃棄物は、他のアルミノシリケート源と比較して、産地制限がなく、かつ産業廃棄物資源の有効利用にもつながり、特に好適である。
本発明では、上記アルミノシリケート源として、CaO含有量が1~60質量%であるものを少なくとも一種用いることが好ましい。例えばCaO含有量が1~10質量%程度のアルミノシリケート源としてはフライアッシュやクリンカアッシュが挙げられる。またCaO含有量が10~60質量%と比較的高いアルミノシリケート源としては、例えば、高炉スラグ微粉末、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰スラグ微粉末、CaOに富む流動床石炭灰等が挙げられる。本発明の好ましい態様の一つとして、上記CaO含有量の比較的高いアルミノシリケート源の少なくとも一種とフライアッシュを混合使用すること、特に高炉スラグ微粉末とフライアッシュを混合使用する態様が挙げられる。
【0032】
高炉スラグ微粉末は、高炉で鉄を精製する際の副産物で、酸化カルシウム(CaO)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)を主成分とし、JIS A 6206に規格が規定されている。本発明において、特に使用する高炉スラグ微粉末は、CaOの含有率が30~60質量%の範囲にあるものが好ましい。
また都市ごみ焼却灰溶融スラグは、都市ごみを焼却処理する際に生じた灰を高温で溶融・冷却して得られるものであり、高炉スラグ同様、ケイ素、アルミニウムおよびカルシウムなどの酸化物が主成分である。本発明においては、CaOの含有率が15~45質量%の範囲にあるものが好ましく用いられる。
流動床石炭灰は、加圧流動床石炭ボイラーから発生した灰である。炉内で脱硫する目的で石灰石微粉末を混和して石炭を燃焼させるため、後述するフライアッシュとクリンカアッシュに比べCaOを多く含有することが特徴である。流動床石炭灰は現在のコンクリート混和材用フライアッシュのJIS規格(JIS A 6201)を満足するものではないが、アルカリシリケート源として用いることが可能である。CaOの含有率は、灰の発生場所によって異なるが、20~55質量%である。
なお、下水汚泥焼却灰溶融スラグは、下水の処理によって発生する汚泥を濃縮・脱水した後、800℃程度で焼却した灰をさらに高温で溶融・冷却して得られるものである。脱水時に添加する凝集剤の種類によって下水汚泥焼却灰は分類され、すなわち、消石灰、塩化第二鉄を添加した石灰系焼却灰と、高分子凝集剤を添加した高分子系焼却灰に分類される。石灰系焼却灰のCaOの含有率は、脱水時の消石灰の添加率により異なるが、一般的に30~50質量%程度である。一方、高分子系焼却灰のCaOの含有率は10質量%程度以下である。従って、本発明に使用するアルミノシリケート源としては、石灰系焼却灰によるスラグを用いることが好ましい。
【0033】
フライアッシュは、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)を主成分とし、JIS A 6201において、粒度やフロー値に基づきI~IV種(JIS A6201)
に規格が規定されている。その粒度が細かく反応性に富むJIS I種、II種がジオポリマー原料として特に適している。フライアッシュ中のCaOの含有率は~10.1質量%程度とされる。
またクリンカアッシュは石炭燃焼ボイラー底部で回収される溶結状の石炭灰を粉砕処理したものである。クリンカアッシュ中のCaOの含有率は2~9質量%程度とされる。
フライアッシュ、クリンカアッシュともに、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)成分が全質量中の70~90%を占めているため、アルカリシリケート源として有用である。
【0034】
前述したように本発明のジオポリマー用減粘剤、ジオポリマー用混和剤が適用されるジオポリマー(ジオポリマー形成組成物・ジオポリマー硬化体)は、少なくとも一種のアルミノシリケート源を含み、具体的には、高炉スラグ微粉末、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末および(CaOに富む)流動床石炭灰等の比較的CaO含有量が高いアルミノシリケート源や、CaO含有量の低いフライアッシュやクリンカアッシュ等のアルミノシリケート源の少なくとも一種を、アルミノシリケート源(活性フィラー)として含む。
当該活性フィラー中における上記のCaO含有量の高いアルミノシリケート源の配合割合は、活性フィラーの全質量に対して1質量%から100質量%であり、好ましくは10質量%から100質量%であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
2種以上の活性フィラーを用いる場合、活性フィラー全体のうち、CaOが占める割合は、例えば1~60質量%であり、好ましくは10質量%~60質量%である。上記のCaO含有量が高い微粉末や灰の割合を変更することによってCaOの含有量を調整することができる。
【0035】
<アルカリ源:アルカリシリカ溶液>
本発明において、アルカリ源とは、高アルカリ性を示す化合物の水溶液を指し、前記アルミノシリケート源と接触することにより、それらを活性化させ、アルミニウム及びケイ素等の陽イオンを溶出させる作用を有する。
アルカリ源に使用する化合物としては、1)水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ水酸化物、2)炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸アルカリ塩、3)ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどのアルカリケイ酸塩のほか、これら1)~3)の組み合わせを好適に用いることが出来る。
【0036】
上記のうち、ナトリウム化合物は価格面においてより好適である。
また3)アルカリケイ酸塩を用いる場合には、それ自身がジオポリマー形成に預かるケイ酸モノマー(Si(OH)4)の供給源となるため、一層好適である。
これらの観点から、アルカリ供給源の化合物の好ましい例としては、ケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの併用を挙げることができる。また、工業実施上の経済性(コスト)を損なわない範囲で上記ナトリウム化合物の一部を対応するカリウム化合物にて置き換えることも可能である。
以上を踏まえると、上記アルカリ源としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムの水溶液が好適に用いられ、特に好ましくはケイ酸ナトリウム水溶液が用いられる。
上記ケイ酸ナトリウム水溶液は、通称“水ガラス”と呼ばれるものであり、市販品が使用できる。化学組成として、SiO2=20~40%、Na2O=5~20%を含むものが好ましい。
なお、本発明において、アルカリ源として水ガラスを使用する場合、好ましい態様においてSiO2とNa2Oのモル比:SiO2/Na2Oが2.1以上である場合には、廃棄物の大量利用の観点から、前記活性フィラーにおける高炉スラグ微粉末の割合(質量)を50%未満とすることが好ましい。
【0037】
アルカリ源を構成する、アルカリ量/水量のモル比(以下、モル比)は0.1以上であることが望ましい。モル比が合理的な範囲では高いほど、得られるジオポリマー硬化体の強度発現性が良いため、練り混ぜ時に添加するアルカリの量を増やし、水を減らす必要があるが、反面、水を減らすほど流動性が低下し、型枠への充填が困難となる。そのため、モル比は0.15以上であることがより好ましい。
使用するアルカリ水溶液の濃度は、好ましくは20~50質量%の範囲である。
【0038】
<ジオポリマー形成組成物・ジオポリマー硬化体>
ジオポリマー形成組成物の製造において、前記活性フィラーとして複数のものを使用する場合には、これらを混合し、アルミノシリケート源を用意する。別途用意したアルカリ源を、アルミノシリケート源に添加して混合し、さらに骨材を添加して混合し、また後述するように本発明のGP用減粘剤・GP用混和剤を加えて、ジオポリマー形成組成物を製造する。
なお本発明は、上記ジオポリマー用減粘剤又はジオポリマー用混和剤、少なくとも一種のアルミノシリケート源、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属ケイ酸塩からなる群から選択される少なくとも一種のアルカリ源、及び骨材を含む組成物の硬化体からなる、ジオポリマー硬化体も対象とする。
【0039】
前記骨材としては、一般的なコンクリートやモルタルに一般に使用されているもの(細骨材、粗骨材等)を好適に用いることができる。
【0040】
本発明のジオポリマー用減粘剤又はジオポリマー用混和剤は、アルカリ源を用意する際に一緒に添加してもよく、また、アルカリ源、アルミノシリケート源及び骨材を練り混ぜた後に添加し、均一に混合してもよい。またジオポリマー用混和剤を水溶液として使用することも、固体として使用することも可能である。アルミノシリケート源と、ジオポリマー用減粘剤又はジオポリマー用混和剤および/または該減粘剤又は該混和剤の水溶液を予め混合したものを用いてジオポリマー形成組成物を製造することも可能である。
このようにジオポリマー用減粘剤又はジオポリマー用混和剤は、アルミノシリケート源とアルカリ源のいずれかと混合して、さらに残りのジオポリマーの使用材料と混合してもよいし、予め混合したアルミノシリケート源とアルカリ源の混合物に添加してもよいが、後者(混合物への添加)のほうが好ましい。また、添加方法として、所要の添加量を一括でして添加してもよいし、所要の添加量を分割して加えることもできる。
ジオポリマーの配合設計に関して、アルカリ溶液(アルカリ源:例えば水ガラス+水酸化ナトウリム+水)の総質量とアルミノシリケート源(活性フィラー粉体(B))の総質量の比([アルカリ溶液/B]×100(%))は、構造体や製品に必要とされる強度によって適宜設定可能であるが、作業性を考慮すると、好ましくは40~65質量%である。
また、アルカリ溶液の構成成分の割合、例えば[水ガラス(WG)]/[水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)]で表される体積比は、ジオポリマー(硬化体)の目標凝結時間および強度によって適宜設定可能であるが、好ましくは1.0~4.0の範囲である。この比率は、水ガラスと水酸化ナトリウム水溶液の質量比で設定することも可能である。
なおジオポリマー用減粘剤、そしてジオポリマー用混和剤の配合割合は、ジオポリマー形成組成物(ジオポリマーの使用材料)の構成(例えばアルミノシリケート源の構成など)によって、また混和剤の場合には混和剤の構成によって、種々変化し得るが、一例としてアルミノシリケート源の質量に対して0.1乃至10質量%、例えば0.5乃至5質量%にて配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下実施例により本発明を説明する。ただし本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0042】
〔ジオポリマー用減粘剤の調製〕
[合成例1:アルコールアルキレンオキサイド付加物の調製]
温度計、撹拌機、圧力計、窒素導入管を備えたステンレス製高圧反応器にメタノールを77g、96%水酸化カリウム1.2gを仕込み、反応器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で120℃まで加熱した。そして、安全圧下で120℃を保持したままプロピレンオキサイド708gを10時間かけて反応器内に導入し、その後2時間その温度を保持した。その後、150℃まで加熱し、安全圧下で150℃を保持したままエチレンオキサイド216gを5時間かけて反応器内に導入し、その後1時間その温度を保持してアルキレンオキサイド付加反応を完結させ、メタノールアルキレンオキサイド付加物(POの付加モル数:5モル、EOの付加モル数:2モル)を得た。
【0043】
[製造例1:リン酸エステル化合物の調製]
温度計、撹拌機、窒素導入管、コンデンサーおよび検水管を備えた反応容器に、合成例1で得たメタノールアルキレンオキサイド付加物を1,002g仕込み、40℃に昇温した。次に89%リン酸88.5g(ラサ工業(株)製)を4時間かけて滴下し、滴下終了後、同温で2時間熟成した。その後、95℃に加温し、下部から窒素を5m3/hrで導入しながら、4時間熟成させ、理論量に対し90%以上の反応水が検水管へ留出したことを確認し、反応を終了し、リン酸エステル化合物(X1)を得た。
【0044】
[製造例2~9:リン酸エステル化合物(X2)~(X9)の調製]
表1に示す通り、アルコールアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドの付加モル数並びにアルコールの種類、あるいはアルキレンオキサイド非付加としたアルコールの種類を変化させた以外には、製造例1と同様の手順にて、本発明のリン酸エステル化合物(X2)~(X9)を製造した。
なお表1中のR1、(A1O)n、Mは、いずれも前記式(1)で表されるリン酸エステル化合物における符号に対応する。
【0045】
【0046】
なお比較例において減粘剤として用いたY3及びY4は以下の通りである。
Y3:特開2018-188319号公報の実施例1に開示された合成法に基づき作製した分散剤ポリマー(ビニル共重合体(p-1))。
Y4:特表2015-518506号公報の実施例1に開示された合成法に基づき作製した分散剤ポリマー。
【0047】
また実施例及び比較例で使用した、その他薬剤(A)~(C)は以下の通りである。
(A)ポリカルボン酸系減水剤ポリマー:(a1)ポリエチレングリコール(50モル)モノメチルエーテルのメタクリル酸エステルと(b1)メタクリル酸の共重合物((a1):(b1)=85:15、Mw:39,000))
(B)ポリカルボン酸系減水剤ポリマー:(a2)3-メチル-3-ブテン-1-オール50EO2PO付加物と(b2)フマル酸の共重合物((a2):(b2)=8:2、重量平均分子量:30,000)
(C)ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(東邦化学工業(株)製、ルノックス1500A)
【0048】
[試験に供したアルカリ溶液の調製]
48質量%水酸化ナトリウム水溶液((株)カネカ製、製品名「苛性ソーダ」、35℃での比重:1.504、純分:48%、モル濃度:18.1mol/L)100質量部に対し、イオン交換水60質量部を加えて混合し、30質量%水酸化ナトリウム水溶液(比重:1.33、モル濃度10.0mol/L)を調製した。
【0049】
前記手順にて調製した30質量%水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)と、ケイ酸ナトリウム(WG)(富士化学(株)製、製品名「珪酸ソーダ 1号」、密度:1.534、SiO2/Na2Oモル比=2.1、SiO2:30%、Na2O:15%)と、イオン交換水(W)を、表2及び表6(モルタル)の単位量(g)に従い混合して混合し、No.M1~M4に示すアルカリ溶液(GP溶液)を調製した。
なお、上記アルカリ溶液には、ジオポリマー用減粘剤は含まれない。
【0050】
[試験に供したジオポリマーモルタルの調製]
減粘剤(表1に示すリン酸エステル化合物X1~X9、並びにY3及びY4)、その他薬剤((A)~(C))を、表2及び表6(モルタル)に示す活性フィラーBの質量(g)または都市ゴミ焼却灰溶融スラグ微粉末WSの質量(g)に対して、それぞれ各表に示す添加量(質量%、固形分換算)にて添加した。
なお表2及び表6(モルタル)に示すアルカリ溶液/B(フライアッシュ+高炉スラグ微粉末)またはアルカリ溶液/WS(都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末)(いずれも質量比、%)は各成分の使用量より算出した値である。
【0051】
[ジオポリマーモルタル評価試験]
<流動性(モルタルフロー値)及び粘性の測定>
ジオポリマーモルタルの練り混ぜにはハイパワーミキサー((株)丸東製作所製:CB-34)を用いた。表2又は表6のNo.M1~M4に示す配合において、使用した活性フィラーは、JIS II種のフライアッシュ(FA)と高炉スラグ微粉末4000(BFS)、あるいは都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末(WS)であった。前記の手順で調製及び準備したアルカリ溶液、ジオポリマー用減粘剤(X1~X9、Y3及びY9)、その他薬剤((A)~(C))を、それぞれ所定の活性フィラーに対する割合で計量して、混合した後、活性フィラーに加え、低速(公転62rpm、自転141rpm)で120秒間撹拌した。
低速撹拌終了後、上記ミキサーの運転を停止し、停止してから30秒の間に、ミキサーに細骨材(S)として表2又は表6のNo.M1~M4に示す配合(単位量)にてセメント強さ試験用標準砂を加え、再度低速で30秒間撹拌し、次いで速やかに60秒間高速(公転125rpm、自転284rpm)で撹拌した。高速撹拌終了後、作製したジオポリマーモルタルをJISフローコーンに充填し、JIS R 5201-1997に準拠し
、下記手順にてモルタルのモルタルフローを測定した。
乾燥した布でよく拭ったフローテーブルの上の中央の位置に置いたフローコーンに、作製したジオポリマーモルタルを2回に分けて入れた。まずフローコーンの1/2の高さまでジオポリマーモルタルを入れ、突き棒で全面を15回突いた後、フローコーンの上部までモルタルを入れ、突き棒で全面を15回突き、不足分があれば補い、表面をならした。その後、フローコーンを真上に取り去り、広がったモルタルの直径を測定し、モルタルフローとした。
モルタルフロー測定後、採取したモルタルを、1000mLステンレスビーカーに入れ、長さ(ビーカー直径方向の長さ)10cm、高さ(ビーカー高さ方向の長さ)5cmの撹拌羽を備えたスターラー(東京理化器械(株)製、マゼラZ-2310)で、当該モルタルを1分間50rpmで撹拌したときの、スターラーにかかる負荷電力(W)を求め、ジオポリマーモルタル粘性の尺度とした。負荷電力の値が小さいほどモルタルの粘性が低いことを示す。
【0052】
<空気量測定>
空気量の測定は、混練終了後、JIS A 1174-1978の方法に従い測定を行った。
【0053】
<凝結時間測定>
凝結時間の測定は、以下の手順で測定した。
上述の手順にて作製したジオポリマーモルタルを、試料容器(上端外径φ90mm、上端内径φ75±3mm、下端外径φ100mm、下端内径φ85±3mm、高さ40.0±0.5mmの円錐台形状)に充填して、凝結時間の測定に供した。始発時間は、ビガー針装置に設置した始発用標準針が底板の上面からおよそ1mmのところに止まるときとした。一方終結時間は、ビガー針装置に終結用標準針を設置し、ジオポリマーモルタルの表面に針の跡を止めるが、附属小片環による跡を残さないようになったときとした。始発および終結時間は、活性フィラーとアルカリ溶液の混合を開始した時刻を起点とした。
【0054】
<硬化体の圧縮強度測定及び表面外観の評価>
表4又は表12のNo.M1~M6に示す配合で調製したジオポリマーモルタルを、サイズ:φ5cm、高さ10cmのプラスチック製モールドに充填して供試体とし、上面を食品用ラップフィルム(旭化成ホームプロダクツ(株)製)で覆い、供試体を封緘した。供試体封緘後、20℃にて1日間養生した後、供試体を脱型した。なお脱型時の材齢を1日とした。その後供試体を温度20℃、湿度60%にて28日間、気中養生を実施した(材齢28日)。
材齢28日の各供試体について、JIS A 1108の手順に従って圧縮強度を測定した。各実施例または比較例に対し、材齢28日にて各3本の供試体の平均値を圧縮強度(N/mm2)とした。
また、上記手順にて得られたジオポリマーモルタル硬化体(材齢28日)について、以下の基準にて外観(黒ずみ・白華)を評価した。なお、気中養生終了後(材齢28日)の外観は、いずれの試供体においても材齢1日と比較して変化は確認されなかった。
・外観(黒ずみ・白華) 評価基準
×:供試体表面に黒ずみが目立って観察され、且つ、白華も目立って観察される
△:供試体表面に黒ずみが目立って観察されるが、白華は確認されない
○:供試体表面に黒ずみがわずかに観察されるが、白華は確認されない
◎:供試体表面に黒ずみ・白華が全く観察されない
【0055】
活性フィラーとしてフライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を用いて作製したGPモルタルについて実施した、GPモルタルのモルタルフローおよび負荷電力値(W)、凝結時間、圧縮強度、硬化体の表面外観の評価、並びに空気量の試験結果を表3~表5に示す。
また、活性フィラーとして都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末を用いて作製したGPモルタルについて実施した、GPモルタルのモルタルフローおよび負荷電力値(W)、凝結時間、圧縮強度、硬化体の表面外観の評価、並びに空気量の試験結果を表7に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表3~表5及び表7に示すジオポリマーモルタルの試験結果(実施例1~実施例28)より、本発明のジオポリマー用減粘剤の使用により、減粘剤を一切使用しない比較例(比較例1~比較例3、比較例6~比較例8、比較例11~比較例13、比較例16~比較例17)と比べ、モルタルのフロー値はほとんど変わらないが、撹拌の負荷電力値がおよそ1.0~3.0W低減されるという結果が得られ、ジオポリマーモルタルの粘性が低下できることが確認された。
また本発明の減粘剤の代わりに分散剤Y3~Y4を使用した比較例(比較例4~比較例5、比較例9~比較例10、比較例14~比較例15)と比べても、本発明の減粘剤を用いたモルタルはおよそ負荷電力値が1.0~3.0W低減されるという結果が得られ、ジ
オポリマーモルタル粘性が低下できることが確認された。
【0063】
また上記結果に示すように、本発明のジオポリマー用減粘剤は、それを配合したジオポリマー形成組成物(ジオポリマーモルタル)において、当該減粘剤を使用しない比較例のモルタルと比べてその凝結時間に影響を及ぼさず、また硬化体の強度発現性を損なうことがなく、表面の美観に優れる、ジオポリマー(硬化体)を得ることができることが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【文献】特開2014-28726号公報
【文献】特開2012-240852号公報
【文献】特開2018-188319号公報
【文献】特表2015-518506号公報
【非特許文献】
【0065】
【文献】J.Davidovits, Properties of geopolymer cements, Proceedings of 1st International Conference on Alaline Cements and Concrete, KIEV, Ukraine, pp.131-149, 1994
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