(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】新規大動脈瘤マーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230822BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230822BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230822BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230822BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
G01N33/53 V
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C07K16/18
(21)【出願番号】P 2020511082
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019013959
(87)【国際公開番号】W WO2019189744
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/013571
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南野 直人
(72)【発明者】
【氏名】八木 寛陽
(72)【発明者】
【氏名】錦織 充広
(72)【発明者】
【氏名】植田 初江
(72)【発明者】
【氏名】松田 均
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕輔
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-534852(JP,A)
【文献】国際公開第2006/016687(WO,A1)
【文献】特開2006-098414(JP,A)
【文献】BURILLO, E. et al.,Quantitative HDL Proteomics Identifies Peroxiredoxin-6 as a Biomarker of Human Abdominal Aortic Aneu,SCIENTIFIC REPORTS,nature.com,2016年12月09日,Vol.6/No.38477,pp.1-11
【文献】八木寛陽,他,多層的オミックス解析による動脈硬化性大動脈瘤の発症・進行機序の解明,日本内分泌学会雑誌,日本,2014年09月20日,Vol.90/No.2,pp.747,O1-2
【文献】八木寛陽,他,多層的オミックス解析による動脈硬化性大動脈瘤における炎症促進因子の解析,日本分泌学会雑誌,日本,2013年09月20日,Vol.89/No.2,pp.750,P26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から得られた試料において、以下の1)及び/又は2)を測定する工程を含
み、前記試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、大動脈瘤
を検出
するための方法。
1)NPC2(Niemann-Pick disease type C2)タンパク質、
2)IGFBP7(Insulin-like growth factor-binding protein 7)タンパク質。
【請求項2】
さらに3)TSP1(Thrombospondin 1)タンパク質及び/又は4)PROF1(Profilin 1)タンパク質を測定する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記NPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記NPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質と前記TSP1タンパク質及び/又はPROF1タンパク質とを指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
対象から得られた試料において、以下の1)及び/又は2)を測定する工程を含
み、前記試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングするための方法。
1)NPC2(Niemann-Pick disease type C2)タンパク質、
2)IGFBP7(Insulin-like growth factor-binding protein 7)タンパク質。
【請求項6】
さらに3)TSP1(Thrombospondin 1)タンパク質及び/又は4)PROF1(Profilin 1)タンパク質を測定する工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記対象がヒトである、請求項1~
7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
測定方法が免疫測定法又は質量分析法である、請求項1~
8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
大動脈瘤の検出マーカーであって、以下の1)及び/又は2)を含
み、大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、検出マーカー。
1)NPC2タンパク質、
2)IGFBP7タンパク質。
【請求項11】
さらに3)TSP1タンパク質及び/又は4)PROF1タンパク質を含む、請求項
10記載の検出マーカー。
【請求項12】
前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、請求項
10又は
11記載の検出マーカー。
【請求項13】
請求項
10~
12のいずれか1項記載の検出マーカーを測定するための抗体又はアプタマーを含む大動脈瘤の検出剤。
【請求項14】
前記抗体がモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体である、請求項
13記載の検出剤。
【請求項15】
請求項
13又は
14記載の検出剤を含む、大動脈瘤の検出キット。
【請求項16】
大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングのための、請求項
10~
12のいずれか1項記載の検出マーカーの使用。
【請求項17】
大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象をin vitroで検出又はスクリーニングするための、請求項
10~
12のいずれか1項記載の検出マーカーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈瘤の診断を補助する臨床検査薬の技術分野に関する。詳細には、大動脈瘤のバイオマーカー、それを用いる大動脈瘤の検出剤、大動脈瘤検出キット、及び大動脈瘤の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤は、大動脈の一部の壁が全周性又は局所性に(径)拡大又は突出した状態であり、瘤の発生部位により胸部大動脈では胸部大動脈瘤、胸部と腹部に連続する胸腹部大動脈瘤、腹部では腹部大動脈瘤と称される(非特許文献1)。大動脈瘤発症のピーク年齢は70~80代であり、人口の高齢化により近年増加しているが、検査しない限り大動脈瘤が発見されることはなく、ほぼ無症状で進行し、破裂に至ると生命の危機につながる重篤な病態となる。しかし、適切な治療を行うことにより破裂を回避することが可能であるため、大動脈瘤を早期に検出することは非常に重要である。
【0003】
胸部大動脈瘤は、健康診断などで胸部レントゲン写真を撮った時に偶然発見されることがほとんどであり、腹部大動脈瘤の場合は、胃潰瘍や胆石症などの消化器疾患を診断するために腹部を触診した際に、拍動するしこりとして発見されたり、消化管や腎臓、前立腺などの腹部エコー(超音波)の検査中あるいは胸部腹部のMRI検査中に偶然に発見されたりすることが多い。
【0004】
一方、大動脈瘤のマーカーとしては、Dダイマー、CRP、WBC、血漿ホモシステインなどが知られている(非特許文献2及び3)。しかし、いずれも、感度、特異度や疾患特異性の面から十分なものとは言えない。そのため、大動脈瘤を高感度に検出可能なバイオマーカーの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告)大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン,2011年改訂版
【文献】Balmforth Damian,et al.,General Thoracic and Cardiovascular Surgery,2017 Oct 28. doi: 10.1007/s11748-017-0855-0
【文献】Wanhainen Anders,et al.,Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology,36(2),236-44,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、大動脈瘤を高感度に検出できる新規なバイオマーカーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、感度や特異性に優れた大動脈瘤マーカーの提供を目的として鋭意検討し、胸部大動脈瘤組織を用いたプロテオーム解析を実施した。健常者大動脈組織と胸部大動脈瘤患者組織のプロテオームデータの比較から得られた疾患組織で顕著に変動する因子から、血液中において大動脈瘤を高感度、特異的に検出可能な新たなマーカーを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のような構成から成るものである。
(1)対象から得られた試料において、以下の1)及び/又は2)を測定する工程を含む、大動脈瘤の検出方法。
1)NPC2(Niemann-Pick disease type C2)タンパク質、
2)IGFBP7(Insulin-like growth factor-binding protein 7)タンパク質。
(2)さらに3)TSP1(Thrombospondin 1)タンパク質及び/又は4)PROF1(Profilin 1)タンパク質を測定する工程を含む、(1)記載の方法。
(3)前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記NPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、(1)記載の方法。
(4)前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記NPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質と前記TSP1タンパク質及び/又はPROF1タンパク質とを指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、(2)記載の方法。
(5)対象から得られた試料において、以下の1)及び/又は2)を測定する工程を含む、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングするための方法。
1)NPC2(Niemann-Pick disease type C2)タンパク質、
2)IGFBP7(Insulin-like growth factor-binding protein 7)タンパク質。
(6)さらに3)TSP1(Thrombospondin 1)タンパク質及び/又は4)PROF1(Profilin 1)タンパク質を測定する工程を含む、(5)記載の方法。
(7)前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。
(8)試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、(1)~(7)のいずれか1記載の方法。
(9)前記対象がヒトである、(1)~(8)のいずれか1記載の方法。
(10)測定方法が免疫測定法又は質量分析法である、(1)~(9)のいずれか1記載の方法。
(11)以下の1)及び/又は2)を含む大動脈瘤の検出マーカー。
1)NPC2タンパク質、
2)IGFBP7タンパク質。
(12)さらに3)TSP1タンパク質及び/又は4)PROF1タンパク質を含む、(11)記載の検出マーカー。
(13)前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、(11)又は(12)記載の検出マーカー。
(14)(11)~(13)のいずれか1記載の検出マーカーを測定するための抗体又はアプタマーを含む大動脈瘤の検出剤。
(15)前記抗体がモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体である(14)記載の検出剤。
(16)(14)又は(15)記載の検出剤を含む、大動脈瘤の検出キット。
(17)大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿及び血液から成る群より選択される、(11)~(16)のいずれか1記載の検出マーカー、検出剤又は検出キット。
(18)大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングのための、(11)~(13)のいずれか1記載の検出マーカーの使用。
(19)大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象をin vitroで検出又はスクリーニングするための、(11)~(13)のいずれか1記載の検出マーカーの使用。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる国際出願番号PCT/JP2018/013571の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により見出したNPC2又はIGFBP7を大動脈瘤のマーカーとして用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。さらに、NPC2及びIGFBP7を組み合わせて用いることにより大動脈瘤をより正確に高感度で検出可能である。また、NPC2及び/又はIGFBP7にTSP1及び/又はPROF1を組み合わせることにより、大動脈瘤を高精度、高感度に検出しうる。
【0011】
また、本発明による大動脈瘤の検出剤及び検出キットは胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤ともに、その発症の早期診断の補助に使用することが可能であり、当該疾患の早期検出により疾患の重症化の回避に貢献可能である。さらに大動脈瘤の予防薬や治療薬の開発、評価にも使用することが可能と考えられ、大動脈瘤の予防や治療にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における胸部大動脈瘤患者の血清検体におけるNPC2及びIGFBP7の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1における胸部大動脈瘤の診断におけるNPC2、IGFBP7及びこれらの組合せのROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示すグラフである。
【
図3】実施例2における胸部大動脈瘤患者の血漿検体におけるTSP1の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例2における胸部大動脈瘤の診断におけるTSP1、TSP1とNPC2との組合せ、TSP1とIGFBP7との組合せ、及びTSP1とNPC2とIGFBP7との組合せのROC曲線を示すグラフである。
【
図5】実施例3における胸部大動脈瘤患者の血清検体におけるPROF1の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例3における胸部大動脈瘤の診断におけるPROF1、PROF1とNPC2との組合せ、PROF1とIGFBP7との組合せ、及びPROF1とNPC2とIGFBP7との組合せのROC曲線を示すグラフである。
【
図7】実施例4における腹部大動脈瘤患者の血清検体におけるNPC2及びIGFBP7の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図8】実施例4における腹部大動脈瘤の診断におけるNPC2、IGFBP7及びこれらの組合せのROC曲線を示すグラフである。
【
図9】実施例5における腹部大動脈瘤患者の血漿検体におけるTSP1の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例5における腹部大動脈瘤の診断におけるTSP1、TSP1とNPC2との組合せ、TSP1とIGFBP7との組合せ、及びTSP1とNPC2とIGFBP7との組合せのROC曲線を示すグラフである。
【
図11】実施例6における腹部大動脈瘤患者の血清検体におけるPROF1の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図12】実施例6における腹部大動脈瘤の診断におけるPROF1、PROF1とNPC2との組合せ、PROF1とIGFBP7との組合せ、及びPROF1とNPC2とIGFBP7との組合せのROC曲線を示すグラフである。
【
図13】比較例1における胸部大動脈瘤患者の血清検体におけるCRPの測定(ラテックス凝集法)の結果及びROC曲線を示すグラフである。
【
図14】比較例2における腹部大動脈瘤患者の血清検体におけるCRPの測定(ラテックス凝集法)の結果及びROC曲線を示すグラフである。
【
図15】実施例7における他疾患の患者(大腸癌、胃癌、非小細胞肺癌、肝細胞癌)及び胸部大動脈瘤患者の血清検体におけるIGFBP7の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【
図16】実施例8における他疾患の患者(大腸癌、胃癌、非小細胞肺癌、肝細胞癌)及び腹部大動脈瘤患者の血清検体におけるIGFBP7の測定(ELISA法)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者等は、大動脈瘤マーカーの同定を目的として、健常者大動脈組織14例、胸部大動脈瘤患者組織29例から採取した大動脈中膜平滑筋層組織を用いてプロテオーム解析を以下のように行った。
・組織の破砕とトリプシン消化
採取後、凍結した組織はビーズ破砕機を用いて破砕し、Lys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加して37℃で一晩インキュベーションにより消化した。得られた消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。
・解析
解析サンプルはナノLC(日立Nano Frontier、日立ハイテクノロジーズ社)で分離した後、連結されたTripleTOF 5600(SCIEX社)でMS/MS解析を行った。測定データからMascot database search(Matrix science社)でタンパク質を同定し、LC-MSデータを集積して用いる比較定量プロテオーム解析ソフトである2DICAL (2 Dimensional Image Converted Analysis of Liquid chromatography mass spectrometry、三井情報株式会社)を用いて定量を行い、正常大動脈群と胸部大動脈瘤群間で差のあるタンパク質の探索を行った。その結果、正常大動脈群に対し胸部大動脈瘤群で顕著な増加を示すタンパク質としてNPC2、IGFBP7、TSP1及びPROF1を同定し、本発明を完成するに至った。
【0014】
以上の通り、NPC2、IGFBP7、TSP1及びPROF1はいずれも、胸部大動脈瘤患者由来の大動脈中膜組織において、健常者の大動脈中膜組織と比較して顕著に発現が亢進していることが確認されている。NPC2、IGFBP7をそれぞれ単独でマーカーとして使用することにより、大動脈瘤の検出が可能であるが、後に実施例で示す様に、NPC2及びIGFBP7を組み合わせてマーカーとして使用することにより、より優れた検出効果を発揮する。また、TSP1及び/又はPROF1を組み合わせることにより、検出効果はさらに向上しうる。後に実施例で示すように、胸部大動脈瘤のマーカーとしての評価において、NPC2、IGFBP7単独はいずれもAUC値が0.9を超えており、非常に有用なマーカーであるが、NPC2とIGFBP7との組み合わせ、NPC2とTSP1との組み合わせ、NPC2とPROF1との組み合わせ、IGFBP7とPROF1との組み合わせ、NPC2、IGFBP7及びTSP1の組み合わせ、並びにNPC2、IGFBP7及びPROF1の組み合わせはさらに高いAUC値を示しており、胸部大動脈瘤のマーカーとしてさらに有用である。なお、実施例1~3のデータを基にROC曲線を作成して求めたNPC2、TSP1及びPROF1の組み合わせのAUC値は0.953であり、NPC2、IGFBP7、TSP1及びPROF1の組み合わせのAUC値は0.948であった(これらのマーカーの組み合わせのROC曲線は図示していない)。これらの組み合わせはいずれも胸部大動脈瘤のマーカーとして非常に有用である。
【0015】
また、腹部大動脈瘤のマーカーとしての評価においてNPC2はAUC値が0.827であり、有用なマーカーであるが、NPC2とTSP1との組み合わせ、並びにNPC2とPROF1との組み合わせはより高いAUC値を示す有用なマーカーである。さらに、IGFBP7単独、NPC2とIGFBP7との組み合わせ、IGFBP7とTSP1との組み合わせ、IGFBP7とPROF1との組み合わせ、NPC2、IGFBP7及びTSP1の組み合わせ、並びにNPC2、IGFBP7及びPROF1の組み合わせは、AUC値が0.9を超えており、腹部大動脈瘤のマーカーとして非常に有用である。なお、実施例4~6のデータを基にROC曲線を作成して求めたTSP1とPROF1との組み合わせのAUC値は0.837であり、NPC2、TSP1及びPROF1の組み合わせのAUC値は0.886であった(これらのマーカーの組み合わせのROC曲線は図示していない)。これらの組み合わせはいずれも腹部大動脈瘤のマーカーとして有用である。さらに、実施例4~6のデータを基にROC曲線を作成して求めたIGFBP7、TSP1及びPROF1の組み合わせのAUC値は0.952であり、NPC2、IGFBP7、TSP1及びPROF1の組み合わせのAUC値は0.952であった(これらのマーカーの組み合わせのROC曲線は図示していない)。これらの組み合わせはいずれも腹部大動脈瘤のマーカーとして非常に有用である。
【0016】
以上に説明するように、本発明は、NPC2及び/又はIGFBP7を大動脈瘤の検出マーカーとすることを特徴とする。
【0017】
本発明において、「マーカー」又は「バイオマーカー」は、対象から得られた試料の測定用の標的として使用される分子のことをいう。
【0018】
本発明に係る大動脈瘤の検出マーカーは、NPC2及び/又はIGFBP7を含む。ヒトNPC2(すなわち、Niemann-Pick disease type C2 protein)は、UniProtのアクセション番号がP61916で表される分泌性のタンパク質である(http://www.uniprot.org/uniprot/P61916)。ヒトNPC2のアミノ酸配列を配列番号1に示す。配列番号1に示すアミノ酸配列において、第1番目~第19番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第20番目~第151番目のアミノ酸配列は成熟型タンパク質である。NPC2は、ヒトでは132アミノ酸から成る糖タンパク質であり、精巣上体に豊富に存在するが、その他の多くの組織にも存在する。NPC2はコレステロール結合能を有しており、NPC1とともにリソソームからのコレステロール排出に関与すると考えられている。NPC2の機能欠損は、リソソームへのコレステロール異常蓄積を呈するニーマンピック病C型の原因となる(Marie T. Vanier, Gilles Millat. Structure and function of the NPC2 protein. Biochimica et Biophysica Acta 2004; 1685: 14-21)。
【0019】
本発明において、NPC2タンパク質には、配列番号1に示すアミノ酸配列における第20番目~第151番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つコレステロール結合活性及び/又はリソソームからのコレステロール排出活性を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該活性を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0020】
一方、ヒトIGFBP7(すなわち、Insulin-like growth factor-binding protein 7)は、Uniprotのアクセション番号がQ16270で表される分泌性のタンパク質である(http://www.uniprot.org/uniprot/Q16270)。ヒトIGFBP7のアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2に示すアミノ酸配列において、第1番目~第26番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第27番目~第282番目のアミノ酸配列は成熟型タンパク質である。IGFBP7は、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸など多くの組織で発現している。他のIGFBPタンパク質と異なり、インスリン様成長因子(IGF)との結合性が弱く、インスリンと強く結合することが知られている。IGFBP7は、細胞増殖の制御や、アポトーシス、細胞老化や血管新生に関わることが報告されている(Shuzhen Zhu, Fangying Xu, Jing Zhang , Wenjing Ruan, Maode Lai. Insulin-like growth factor binding protein-related protein 1 and cancer. Clinica Chimica Acta 2014; 431: 23-32)。
【0021】
本発明において、IGFBP7タンパク質には、配列番号2に示すアミノ酸配列における第27番目~第282番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つインスリン結合活性を有するか、あるいは当該活性を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0022】
本発明においては、NPC2及び/又はIGFBP7と組み合わせるマーカーとしてTSP1を含むことができる。ヒトTSP1(すなわち、Thrombospondin 1)は、UniProtのアクセション番号がP07996で表される分泌性のタンパク質である(http://www.uniprot.org/uniprot/P07996)。ヒトTSP1のアミノ酸配列を配列番号3に示す。配列番号3に示すアミノ酸配列において、第1番目~第18番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第19番目~第1170番目のアミノ酸配列は成熟型タンパク質である。TSP1は、450kDaのホモ3量体を形成する糖タンパク質であり、血小板、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞などで発現している。TSP1は、血管構造や恒常性の維持に関わることが知られており、また多くの受容体やプロテアーゼ、成長因子などと結合することが報告されている(Smriti Murali Krishna , Jonathan Golledge. The role of thrombospondin-1 in cardiovascular health and pathology. International Journal of Cardiology 2013; 168: 692-706)。
【0023】
本発明において、TSP1タンパク質には、配列番号3に示すアミノ酸配列における第19番目~第1170番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0024】
本発明においては、NPC2及び/又はIGFBP7と組み合わせるマーカーとしてPROF1を含むことができる。ヒトPROF1(すなわち、Profilin 1)は、UniProtのアクセション番号がP07737で表されるタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/P07737)。ヒトPROF1のアミノ酸配列を配列番号4に示す。PROF1は、ユビキタスに発現し、高度に保存された140アミノ酸残基で構成される15kDaのアクチン結合タンパク質の一つであり、濃度依存的にアクチンの重合化を触媒する機能を持つ(Duah Alkam, Ezra Z. Feldman, Awantika Singh, and Mahmoud Kiaei. Profilin1 Biology and its Mutation, Actin(g) in Disease. Cell Mol Life Sci. 2017; 74(6): 967-981)。
【0025】
本発明において、PROF1タンパク質には、配列番号4に示すアミノ酸配列における第1番目~第140番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つアクチン結合活性を有するタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0026】
なお、本発明に係るマーカーをC反応性蛋白(CRP)、Dダイマー、白血球数(WBC)、血漿ホモシステイン、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)などの既知の大動脈瘤マーカーと組み合わせて使用することも可能である。
【0027】
本発明に係るマーカーにより検出可能な大動脈瘤の発症部位は特に限定されない。大動脈基部、上行大動脈、大動脈弓部、下行大動脈のいずれかに発症した胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤のいずれも検出可能である。
【0028】
本発明において、大動脈瘤を検出する方法は、NPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質を測定する工程を含む。試料中のNPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質を測定するに際しては、糖タンパク質としてのNPC2及び/又はIGFBP7を測定しても良く、また、前処理により糖鎖、リン酸等の翻訳後修飾を除去した後にNPC2及び/又はIGFBP7のアミノ酸配列部分を測定しても良い。
【0029】
また、本発明において、大動脈瘤を検出する方法は、NPC2タンパク質及び/又はIGFBP7タンパク質を測定する工程に加え、さらにTSP1及び/又はPROF1を測定する工程を含むことができる。試料中のTSP1タンパク質及び/又はPROF1タンパク質を測定するに際しては、糖タンパク質としてのTSP1及び/又はPROF1を測定しても良く、また、前処理により糖鎖、リン酸等の翻訳後修飾を除去した後にTSP1及び/又はPROF1のアミノ酸配列部分を測定しても良い。
【0030】
大動脈瘤を検出する方法は、対象から得られた試料において本発明に係るマーカーを測定することで、当該対象の大動脈瘤を検出することができる。従って、大動脈瘤を検出する方法は、大動脈瘤の診断、検査、評価又は判定方法、あるいは大動脈瘤を検出するためのin vitroにおけるデータ収集方法等ということができる。
【0031】
大動脈瘤を検出する方法の被験対象となり得る動物としては、例えばヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等の哺乳類が挙げられるが、好ましくはヒトである。
【0032】
また、大動脈瘤を検出する方法において使用する試料としては、例えば血清、血漿、血液等が挙げられる。
【0033】
本発明においては、例えば、大動脈瘤が疑われる患者から採取された試料において、in vitroでNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルを測定することにより、大動脈瘤の発症可能性を判断することができる。患者検体中のNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルを健常者のレベルと比較し、患者検体中のNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルが健常者のレベルに比べて高い場合、大動脈のいずれかの部位で将来、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断できる。
【0034】
本発明では、NPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルの測定に加え、TSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルを測定することにより、大動脈瘤の発症可能性を判断することもできる。患者検体中のNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルに加え、TSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルを健常者のレベルと比較し、患者検体中のNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルが健常者のレベルに比べて高く、さらに患者検体中のTSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルが健常者のレベルに比べて低い場合、大動脈のいずれかの部位で将来、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断できる。
【0035】
具体的には、大動脈瘤を検出する方法に準じて、本発明は、対象から得られた試料において、本発明に係るマーカーを測定することで、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングする方法をさらに含む。
【0036】
また、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断するための各マーカーのカットオフ値としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。下記のカットオフ値は、実施例に示すデータから作成したROC曲線に基づき、各カットオフについての正診率を計算し、最も高い正診率を示すものをカットオフ値として算出したものである。
【0037】
(1)胸部大動脈瘤:血清中のカットオフ値:
(i)NPC2のカットオフ値:4.2 ng/mL(感度96.6%、特異度88.6%、正診率91.8%);
(ii)IGFBP7のカットオフ値(胸部大動脈瘤の場合、最も高い正診率(84.9%)となるカットオフ値が3つ得られた):
カットオフ値1:175.4 ng/mL(感度75.9%、特異度90.9%、正診率84.9%);
カットオフ値2:173.5 ng/mL(感度79.3%、特異度88.6%、正診率84.9%);
カットオフ値3:193.9-209.2 ng/mL(感度62.1%、特異度100%、正診率84.9%);
(iii)PROF1のカットオフ値:2.1 ng/mL(感度58.6%、特異度88.6%、正診率76.7%)。
【0038】
(2)胸部大動脈瘤:血漿中のカットオフ値:
TSP1のカットオフ値:874.0 ng/mL(感度62.1%、特異度37.9%、正診率78.1%)。
【0039】
(3)腹部大動脈瘤:血清中のカットオフ値:
(i)NPC2のカットオフ値:3.9 ng/mL(感度80.4%、特異度86.4%、正診率83.2%);
(ii)IGFBP7のカットオフ値(腹部大動脈瘤の場合、最も高い正診率(84.2%)となるカットオフ値が2つ得られた):
カットオフ値1:175.4 ng/mL(感度78.4%、特異度90.9%、正診率84.2%);
カットオフ値2:173.5 ng/mL(感度80.4%、特異度88.6%、正診率84.2%);
(iii) PROF1のカットオフ値(腹部大動脈瘤測定例数は41例であり他マーカーにおける腹部大動脈瘤測定例数と異なる、また最も高い正診率(64.2%)となるカットオフ値が2つ得られた):
カットオフ値1:2.9 ng/mL(感度75.6%、特異度68.2%、正診率64.2%);
カットオフ値2:3.1 ng/mL(感度82.9%、特異度61.4%、正診率64.2%)。
【0040】
(4)腹部大動脈瘤:血漿中のカットオフ値:
TSP1のカットオフ値:1128.0 ng/mL(感度74.5%、特異度75.0%、正診率74.7%)。
【0041】
これらカットオフ値に基づいて、患者検体中のNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルがカットオフ値に比べて高く、あるいはさらに患者検体中のTSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルがカットオフ値に比べて低い場合、胸部大動脈瘤又は腹部大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在胸部大動脈瘤又は腹部大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断できる。
【0042】
本発明に係るマーカーは、大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングや、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定のために使用することも可能である。例えば、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定を行う場合は、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする被験対象動物に大動脈瘤の予防薬又は治療薬を投与する前と投与した後、被験対象動物から試料を採取するか、又は当該予防薬又は治療薬を投与した後、被験対象動物から時系列で2以上の時点で試料を採取し、試料におけるNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルの経時変化を調べることにより行うことができる。大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変の形成、進展が抑制された場合には、被験対象動物から採取された試料におけるNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルの経時的な増加が抑制又は横ばい傾向を示す。一方、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変が改善された場合には、被験対象動物から採取された試料におけるNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルは経時的な減少傾向を示す。
【0043】
本発明において、被験対象動物に大動脈瘤の予防薬又は治療薬を投与する前と投与した後、被験対象動物から試料を採取するか、又は当該予防薬又は治療薬を投与した後、被験対象動物から時系列で2以上の時点で試料を採取し、試料におけるNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルの経時変化に加えて、TSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルの経時変化を調べることにより、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定を行うことも可能である。大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変の形成、進展が抑制された場合には、被験対象動物から採取された試料におけるNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルの経時的な増加が抑制又は横ばい傾向を示し、TSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルの経時的な減少が抑制又は横ばい傾向を示す。一方、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変が改善された場合には、被験対象動物から採取された試料におけるNPC2タンパク質レベル及び/又はIGFBP7タンパク質レベルは経時的な減少傾向を示し、TSP1タンパク質レベル及び/又はPROF1タンパク質レベルは経時的な増加傾向を示す。
【0044】
本発明に係るマーカータンパク質を測定する方法としては、例えば、免疫測定法、質量分析法など、NPC2タンパク質、IGFBP7タンパク質、TSP1タンパク質、PROF1タンパク質を特異的に測定できる方法であれば周知のいかなる方法を用いても良い。本発明に係るマーカータンパク質を測定する際に用いる検出剤としては、抗体やアプタマーなどを用いることができる。
【0045】
免疫測定法としては、特に限定されないが、各種のエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫染色法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ビオチン-アビジン法、免疫沈降法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法(LA)、免疫比濁法(TIA)などを挙げることができる。
【0046】
免疫測定法において使用する検出剤として、既に市販されている抗NPC2抗体、抗IGFBP7抗体、抗TSP1抗体、抗PROF1抗体を使用しても良いが、公知のNPC2のアミノ酸配列(配列番号1)、IGFBP7のアミノ酸配列(配列番号2)、TSP1のアミノ酸配列(配列番号3)、PROF1のアミノ酸配列(配列番号4)に基づいて定法により抗体を調製しても良い。NPC2、IGFBP7、TSP1、PROF1それぞれのアミノ酸配列の構造を特異的に認識する抗体で良いが、それぞれの糖鎖やジスルフィド結合、リン酸化等の翻訳後修飾を含む全体構造を特異的に認識するものでも良い。
【0047】
NPC2タンパク質、IGFBP7タンパク質、TSP1タンパク質、PROF1タンパク質を検出可能な抗体であれば由来する動物種やクローンは特に限定されない。ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ニワトリ等に由来する抗体が挙げられ、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でも構わない。また、NPC2タンパク質、IGFBP7タンパク質、TSP1タンパク質、PROF1タンパク質への特異的な結合に適する全てのサブクラスの抗体を用いることができる。組換え抗体、Fab、Fab'又はF(ab')2断片のような断片を用いることももちろん可能である。
【0048】
本発明に係る大動脈瘤の検出剤として、NPC2タンパク質、IGFBP7タンパク質、TSP1タンパク質、PROF1タンパク質と結合性を有するアプタマーを利用することもできる。アプタマーの製造には、公知のNPC2のアミノ酸配列(配列番号1)やIGFBP7のアミノ酸配列(配列番号2)、TSP1タンパク質(配列番号3)、PROF1タンパク質(配列番号4)から、結合し得るDNA若しくはRNA又はそれらの誘導体である核酸アプタマーやアミノ酸で構成されるペプチドアプタマーを周知の方法により合成して用いれば良い。測定の際には、アプタマーの結合を発光法や蛍光法、表面プラズモン共鳴法により検出することができる。
【0049】
質量分析法としては、特に限定されないが、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、表面増強レーザー脱離イオン化法(SELDI)などを用いたイオン源と、飛行時間型分析計(TOF)、イオントラップ型分析計(IT)、フーリエ変換型分析計(FT)などを組み合わせた質量分析計が利用できる。質量分析計を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やキャピラリー電気泳動(CE)などの分離装置と連結したLC-MSやCE-MSなどを用いることが出来る。また、質量分析データの取得方法として、データ非依存性解析(DIA)、データ依存性解析(DDA)、多重反応モニタリング法(MRM)などが挙げられる。質量分析では、試料をiTRAQ試薬(SCIEX社)などによる安定同位体標識を行う場合も含まれる。
【0050】
本発明の大動脈瘤検出を行う際に必要な各種の試薬類は、予めパッケージングしてキット化することができる。例えば、(i)捕捉抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(ii)検出抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的な酵素標識化モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(iii)基質溶液等の必要な試薬がキットとして提供される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
胸部大動脈瘤患者の血清検体からのNPC2、IGFBP7の測定(ELISA法)
NPC2、IGFBP7の血清濃度について、ELISA測定を行った。NPC2、IGFBP7はそれぞれ、NPC2 ELISA Kit (Aviva Systems Biology社)、ELISA Kit for Insulin Like Growth Factor Binding Protein 7 (cloud-clone社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0053】
詳細には、抗NPC2抗体若しくは抗IGFBP7抗体の固相化されたプレートに、希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、NPC2測定の場合はビオチン標識された抗NPC2抗体、IGFBP7測定の場合は検出試薬A液を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、NPC2測定の場合はHRP(Horseradish peroxidase)標識されたアビジン、IGFBP7測定の場合は検出試薬B液を添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、NPC2、IGFBP7濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0054】
・結果1
NPC2及びIGFBP7の結果を
図1に示す。
図1に示す結果から、NPC2は健常者(44例)及び胸部大動脈瘤患者(29例)でそれぞれ、2.941±2.001ng/mL、9.021±4.313 ng/mLと、有意に胸部大動脈瘤患者で血清NPC2値が増加していた。従って、NPC2が胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0055】
対して、IGFBP7は、健常者(44例)及び胸部大動脈瘤患者(29例)でそれぞれ、139.216±28.481ng/mL、243.941±89.474 ng/mLと、有意に胸部大動脈瘤患者で血清IGFBP7値が増加していた。従って、IGFBP7も胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0056】
・結果2(ROC曲線によるNPC2、IGFBP7の胸部大動脈瘤マーカーとしての評価)
胸部大動脈瘤の診断におけるNPC2、IGFBP7のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を
図2に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、NPC2が0.947、IGFBP7が0.930であった。さらに、NPC2とIGFBP7を組み合わせた際のAUCは、0.966であった。従って、NPC2、IGFBP7ともに胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであり、組み合わせることでさらに有用性を増すことが示された。
【0057】
〔実施例2〕
胸部大動脈瘤患者の血漿検体からのTSP1の測定(ELISA法)と、ROC曲線による胸部大動脈瘤マーカーとしての評価(NPC2、IGFBP7とTSP1との組み合わせ)
TSP1の血漿濃度について、ELISA測定を行った。TSP1は、Human Thrombospondin-1 Quantikine ELISA Kit (R&D Systems社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0058】
詳細には、抗TSP1抗体の固相化されたプレートに、希釈した血漿検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ペルオキシダーゼが結合した抗TSP1抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、TSP1濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0059】
・結果1
TSP1の結果を
図3に示す。
図3に示す結果から、TSP1は健常者(44例)及び胸部大動脈瘤患者(29例)でそれぞれ、1666.55±968.196ng/mL、950.152±611.083ng/mLと、有意に胸部大動脈瘤患者で血漿TSP1値が低下していた。従って、TSP1が胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0060】
・結果2(ROC曲線によるTSP1の胸部大動脈瘤マーカーとしての評価)
胸部大動脈瘤の診断におけるTSP1のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を
図4に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.760であった。さらに、実施例1に記載の方法で測定したNPC2、IGFBP7との組み合わせについてROC曲線からAUCを求めたところ、TSP1及びNPC2を組み合わせた際のAUCは0.960、TSP1及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは0.927、TSP1、NPC2及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは、0.972であった。従って、TSP1は胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであり、NPC2及び/又はIGFBP7と組み合わせることでさらに有用性を増すことが示された。
【0061】
〔実施例3〕
胸部大動脈瘤患者の血清検体からのPROF1の測定(ELISA法)と、ROC曲線による胸部大動脈瘤マーカーとしての評価(NPC2、IGFBP7とPROF1との組み合わせ)
PROF1の血清濃度について、ELISA測定を行った。PROF1は、Human Profilin 1 ELISA Kit (CUSABIO technology社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0062】
詳細には、抗PROF1抗体の固相化されたプレートに、希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ビオチン標識された抗PROF1抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、HRP(Horseradish peroxidase)標識されたアビジンを添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、PROF1濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0063】
・結果1
PROF1の結果を
図5に示す。
図5に示す結果から、PROF1は健常者(44例)及び胸部大動脈瘤患者(29例)でそれぞれ、3.588±1.508ng/mL、2.456±1.943ng/mLと、有意に胸部大動脈瘤患者で血清PROF1値が低下していた。従って、PROF1が胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0064】
・結果2(ROC曲線によるPROF1の胸部大動脈瘤マーカーとしての評価)
胸部大動脈瘤の診断におけるPROF1のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を
図6に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.765であった。さらに、実施例1に記載の方法で測定したNPC2、IGFBP7との組み合わせについてROC曲線からAUCを求めたところ、PROF1及びNPC2を組み合わせた際のAUCは0.958、PROF1及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは0.937、PROF1、NPC2及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは、0.972であった。従って、PROF1は胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであり、NPC2及び/又はIGFBP7と組み合わせることでさらに有用性を増すことが示された。
【0065】
〔実施例4〕
腹部大動脈瘤患者の血清検体からのNPC2、IGFBP7の測定(ELISA法)
NPC2、IGFBP7の血清濃度について、ELISA測定を行った。NPC2、IGFBP7はそれぞれ、NPC2 ELISA Kit (Aviva Systems Biology社)、ELISA Kit for Insulin Like Growth Factor Binding Protein 7 (cloud-clone社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0066】
詳細には、抗NPC2抗体若しくは抗IGFBP7抗体の固相化されたプレートに、希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、NPC2測定の場合はビオチン標識された抗NPC2抗体、IGFBP7測定の場合は検出試薬A液を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、NPC2測定の場合はHRP(Horseradish peroxidase)標識されたアビジン、IGFBP7測定の場合は検出試薬B液を添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、NPC2、IGFBP7濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0067】
・結果1
NPC2及びIGFBP7の結果を
図7に示す。
図7に示す結果から、NPC2は健常者(44例)及び腹部大動脈瘤患者(51例)でそれぞれ、2.941±2.001ng/mL、8.125±7.088ng/mLと、有意に腹部大動脈瘤患者で血清NPC2値が増加していた。従って、NPC2が腹部大動脈瘤マーカーとしても有用なマーカーであることが示された。
【0068】
対して、IGFBP7は、健常者(44例)及び腹部大動脈瘤患者(51例)でそれぞれ、139.216±28.481ng/mL、236.588±82.702ng/mLと、有意に腹部大動脈瘤患者で血清IGFBP7値が増加していた。従って、IGFBP7についても、腹部大動脈瘤マーカーとしても有用なマーカーであることが示された。
【0069】
・結果2(ROC曲線によるNPC2、IGFBP7の腹部大動脈瘤マーカーとしての評価)
腹部大動脈瘤の診断におけるNPC2、IGFBP7のROC曲線を
図8に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、NPC2が0.827、IGFBP7が0.901であった。さらに、NPC2とIGFBP7を組み合わせた際のAUCは、0.910であった。従って、NPC2、IGFBP7ともに腹部大動脈瘤マーカーとしても有用なマーカーであり、組み合わせることでさらに有用性を増すことが示された。
【0070】
〔実施例5〕
腹部大動脈瘤患者の血漿検体からのTSP1の測定(ELISA法)と、ROC曲線による腹部大動脈瘤マーカーとしての評価(NPC2、IGFBP7とTSP1との組み合わせ)
TSP1の血漿濃度について、ELISA測定を行った。TSP1は、Human Thrombospondin-1 Quantikine ELISA Kit (R&D Systems社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0071】
詳細には、抗TSP1抗体の固相化されたプレートに、希釈した血漿検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ペルオキシダーゼが結合した抗TSP1抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、TSP1濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0072】
・結果1
TSP1の結果を
図9に示す。
図9に示す結果から、TSP1は健常者(44例)及び腹部大動脈瘤患者(51例)でそれぞれ、1666.55±968.196ng/mL、1086.48±1041.75ng/mLと、有意に腹部大動脈瘤患者で血漿TSP1値が低下していた。従って、TSP1が腹部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0073】
・結果2(ROC曲線によるTSP1の腹部大動脈瘤マーカーとしての評価)
腹部大動脈瘤の診断におけるTSP1のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を
図10に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.742であった。さらに、実施例4に記載の方法で測定したNPC2、IGFBP7との組み合わせについてROC曲線からAUCを求めたところ、TSP1及びNPC2を組み合わせた際のAUCは0.831、TSP1及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは0.909、TSP1、NPC2及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは、0.915であった。従って、TSP1は腹部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであり、NPC2及び/又はIGFBP7と組み合わせることでさらに有用性を増すことが示された。
【0074】
〔実施例6〕
腹部大動脈瘤患者の血清検体からのPROF1の測定(ELISA法)と、ROC曲線による腹部大動脈瘤マーカーとしての評価(NPC2、IGFBP7とPROF1との組み合わせ)
PROF1の血清濃度について、ELISA測定を行った。PROF1は、Human Profilin 1 ELISA Kit (CUSABIO technology社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールに従って実施した。
【0075】
詳細には、抗PROF1抗体の固相化されたプレートに、希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ビオチン標識された抗PROF1抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、HRP(Horseradish peroxidase)標識されたアビジンを添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2e、Molecular Devices社)を用いて主波長450nm、副波長540nmで測定を行った。そのデータを、同時に測定した各標準液の測定データから作成した検量線から濃度を算出し、PROF1濃度を測定した。統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0076】
・結果1
PROF1の結果を
図11に示す。
図11に示す結果から、PROF1は健常者(44例)及び腹部大動脈瘤患者(41例)でそれぞれ、3.588±1.508ng/mL、2.193±0.910ng/mLと、有意に腹部大動脈瘤患者で血清PROF1値が低下していた。従って、PROF1が腹部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0077】
・結果2(ROC曲線によるPROF1の腹部大動脈瘤マーカーとしての評価)
腹部大動脈瘤の診断におけるPROF1のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を
図12に示した。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.796であった。さらに、実施例4に記載の方法で測定したNPC2、IGFBP7との組み合わせについてROC曲線からAUCを求めたところ、PROF1及びNPC2を組み合わせた際のAUCは0.871、PROF1及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは0.953、PROF1、NPC2及びIGFBP7を組み合わせた際のAUCは、0.953であった。従って、PROF1は腹部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであり、NPC2及び/又はIGFBP7と組み合わせることでさらに有用性を増すことが示された。
【0078】
〔比較例1〕
従来のマーカー(CRP)との比較1
実施例1で用いた血清検体のCRP値を測定した。測定試薬にはC反応性蛋白キットCRP-ラテックスX2「生研」NX(デンカ生研社)を用い、測定装置には、LABOSPECT 008日立自動分析装置及び7180形日立自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ社)を用いた。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。
【0079】
結果を
図13に示す。
ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.805であった。従って、実施例1に示したNPC2(AUC=0.947)、IGFBP7(AUC=0.930)ともに胸部大動脈瘤マーカーとしてCRPより有用なマーカーであることが示された。
【0080】
〔比較例2〕
従来のマーカー(CRP)との比較2
実施例4で用いた血清検体のCRP値を測定した。測定試薬にはC反応性蛋白キットCRP-ラテックスX2「生研」NX(デンカ生研社)を用い、測定装置には、LABOSPECT 008日立自動分析装置及び7180形日立自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ社)を用いた。ROC曲線は統計解析ソフトStatFlex ver6.0(アーテック社)で作成した。
【0081】
結果を
図14に示す。
ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.898であった。従って、NPC2とIGFBP7の組み合わせ(実施例4:AUC=0.910)、IGFBP7とTSP1の組み合わせ(実施例5:AUC=0.909)、NPC2、IGFBP7及びTSP1の組み合わせ(実施例5:AUC=0.915)、IGFBP7とPROF1の組み合わせ(実施例6:AUC=0.953)、NPC2、IGFBP7及びPROF1の組み合わせ(実施例6:AUC=0.953)はいずれも、腹部大動脈瘤マーカーとしてCRPより有用なマーカーであることが示された。
【0082】
〔実施例7〕
他疾患との比較1(ELISA法による血清検体のIGFBP7の測定)
他疾患の患者(大腸癌5例、胃癌5例、非小細胞肺癌5例、肝細胞癌4例)及び胸部大動脈瘤患者29例におけるIGFBP7の血清濃度について、ELISA測定を行った。IGFBP7の血清濃度は、実施例1に記載の方法に準じて測定した。他疾患患者群と胸部大動脈瘤患者群の比較のための統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0083】
・結果
結果を
図15に示す。
図15に示す結果から、IGFBP7は他疾患患者(合計19例)及び胸部大動脈瘤患者(29例)でそれぞれ、180.632±97.397ng/mL、243.881±96.857 ng/mLと、有意に胸部大動脈瘤患者で血清IGFBP7値が増加していた。従って、IGFBP7が心血管系以外の他疾患と区別し得る胸部大動脈瘤の診断マーカーとなる可能性が示された。
【0084】
〔実施例8〕
他疾患との比較2(ELISA法による血清検体のIGFBP7の測定)
他疾患の患者(大腸癌5例、胃癌5例、非小細胞肺癌5例、肝細胞癌4例)及び腹部大動脈瘤患者51例におけるIGFBP7の血清濃度について、ELISA測定を行った。IGFBP7の血清濃度は、実施例1に記載の方法に準じて測定した。他疾患患者群と腹部大動脈瘤患者群の比較のための統計処理には、StatFlex ver6.0(アーテック社)を使用し、有意差検定にはMann-Whitney U検定を用いた。
【0085】
・結果
結果を
図16に示す。
図16に示す結果から、IGFBP7は他疾患患者(合計19例)及び腹部大動脈瘤患者(51例)でそれぞれ、180.632±97.397ng/mL、236.588±82.702 ng/mLと、有意に腹部大動脈瘤患者で血清IGFBP7値が増加していた。従って、IGFBP7が心血管系以外の他疾患と区別し得る腹部大動脈瘤の診断マーカーとなる可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る大動脈瘤の新規マーカーであるNPC2及び/又はIGFBP7を用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。そのため、本発明に係る大動脈瘤の検出剤及び検出キットは、大動脈瘤のスクリーニングや早期診断の補助、予防薬や治療薬の開発、評価等に使用することができ、また、本発明は、当該検出剤及び検出キットを製造する産業において利用することができる。
【0087】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】